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特開2024-179925二次電池の負極、および当該負極を用いた二次電池
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  • 特開-二次電池の負極、および当該負極を用いた二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179925
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】二次電池の負極、および当該負極を用いた二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20241219BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20241219BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20241219BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20241219BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/133
H01M4/587
H01M4/38 Z
H01M4/36 E
H01M4/36 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099262
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】姜 受林
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA09
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA29
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB29
5H050DA03
5H050FA02
5H050HA01
5H050HA04
(57)【要約】
【課題】ドープされたSi系負極活物質を用いた負極であって、二次電池の抵抗を低減しつつ二次電池の自己放電を抑制可能な負極を提供する。
【解決手段】ここに開示される負極は、負極集電体と負極活物質層とを備える。前記負極活物質層は、前記負極集電体側に位置する第1層と、表層側に位置する第2層とを含む。前記第1層は、第1黒鉛粒子と第1Si-C複合粒子とを含有する。前記第2層は、第2黒鉛粒子と第2Si-C複合粒子とを含有する。前記第1Si-C複合粒子のSiにおける前記第15族元素および前記第16族元素の合計含有量は、0.1原子%未満である。前記第2Si-C複合粒子のSiにおける前記第15族元素および前記第16族元素の合計含有量は、0.1原子%~5原子%である。前記第1層の厚みは、前記負極活物質層の厚みの60%~90%であり、前記第2層の厚みは、前記負極活物質層の厚みの10%~40%である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電体と、
前記負極集電体に支持された負極活物質層と、
を備える負極であって、
前記負極活物質層は、前記負極集電体側に位置する第1層と、表層側に位置する第2層と、を含み、
前記第1層は、第1黒鉛粒子と、第1Si-C複合粒子と、を含有し、
前記第2層は、第2黒鉛粒子と、第2Si-C複合粒子と、を含有し、
前記第1Si-C複合粒子のSiは、第15族元素および第16族元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素でドープされていてもよく、
前記第2Si-C複合粒子のSiは、第15族元素および第16族元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素でドープされており、
前記第1Si-C複合粒子のSiにおける前記第15族元素および前記第16族元素の合計含有量が、0.1原子%未満であり、
前記第2Si-C複合粒子のSiにおける前記第15族元素および前記第16族元素の合計含有量が、0.1原子%~5原子%であり、
前記第1層の厚みは、前記負極活物質層の厚みの60%~90%であり、前記第2層の厚みは、前記負極活物質層の厚みの10%~40%である、負極。
【請求項2】
前記第1層における、前記第1黒鉛粒子と前記第1Si-C複合粒子との合計に対する前記第1Si-C複合粒子の質量割合が、10質量%~60質量%であり、前記第2層における、前記第2黒鉛粒子と前記第2Si-C複合粒子との合計に対する前記第2Si-C複合粒子の質量割合が、10質量%~60質量%である、請求項1に記載の負極。
【請求項3】
前記第1層の厚みが、前記負極活物質層の厚みの65%~85%であり、かつ前記第2層の厚みが、前記負極活物質層の厚みの15%~35%である、請求項1に記載の負極。
【請求項4】
前記第2Si-C複合粒子のSiが、N、P、およびSからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素によりドープされている、請求項1に記載の負極。
【請求項5】
正極と、負極と、電解質と、
を備える二次電池であって、
前記負極が、請求項1に記載の負極である、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の負極に関する。本発明はまた、当該負極を用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(BEV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の車両駆動用電源などに好適に用いられている。
【0003】
車両駆動用電源用途、特にBEVの駆動用電源用途においては、車両の航続距離延長の観点から、二次電池は、さらなる高容量化が望まれている。二次電池の高容量化の方法の一つは、電極に高容量の活物質を用いることであり、容量が高い負極活物質として、Siを含有する負極活物質(以下、「Si系負極活物質」ともいう)が知られている(例えば、特許文献1~3参照)。特許文献1には、黒鉛粒子とSi系負極活物質とを併用する技術が開示されている。特許文献2には、Siに硫黄を0.1原子%~5原子%ドープすることにより、電子伝導度およびイオン伝導度を向上できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-38862号公報
【特許文献2】特開2022-507948号公報
【特許文献3】特表2015-537347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者が鋭意検討した結果、ドープされたSi系負極活物質を二次電池に用いた場合には、二次電池の抵抗を低減できるものの、自己放電によって容量が低下するという問題があることを新たに見出した。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、ドープされたSi系負極活物質を用いた負極であって、二次電池の抵抗を低減しつつ二次電池の自己放電を抑制可能な負極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示される負極は、負極集電体と、前記負極集電体に支持された負極活物質層と、を備える。前記負極活物質層は、前記負極集電体側に位置する第1層と、表層側に位置する第2層と、を含む。前記第1層は、第1黒鉛粒子と、第1Si-C複合粒子と、を含有する。前記第2層は、第2黒鉛粒子と、第2Si-C複合粒子と、を含有する。前記第1Si-C複合粒子のSiは、第15族元素および第16族元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素でドープされていてもよく、前記第2Si-C複合粒子のSiは、第15族元素および第16族元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素でドープされている。前記第1Si-C複合粒子のSiにおける前記第15族元素および前記第16族元素の合計含有量は、0.1原子%未満である。前記第2Si-C複合粒子のSiにおける前記第15族元素および前記第16族元素の合計含有量は、0.1原子%~5原子%である。前記第1層の厚みは、前記負極活物質層の厚みの60%~90%であり、前記第2層の厚みは、前記負極活物質層の厚みの10%~40%である。
【0008】
このような構成によれば、ドープされたSi系負極活物質を用いた負極であって、二次電池の抵抗を低減しつつ二次電池の自己放電を抑制可能な負極を提供することができる。
【0009】
別の側面から、ここに開示される二次電池は、正極と、負極と、電解質と、を備える。前記負極が、上記の負極である。
【0010】
このような構成によれば、抵抗が低減されており、かつ自己放電が抑制された二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る二次電池の負極の構成を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る次電池の負極を用いて構築されるリチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す断面図である。
図3図2のリチウムイオン二次電池の捲回電極体の構成を示す模式分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明に係る実施の形態を説明する。なお、本明細書において言及していない事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。なお、本明細書において「A~B」として表現される数値範囲には、AおよびBが含まれる。
【0013】
なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な蓄電デバイスを指す。また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池を指す。
【0014】
ここに開示される負極は、二次電池に用いられ、好適にはリチウムイオン二次電池に用いられる。ここに開示される負極の一実施形態を、図1を参照しながら具体的に説明する。図1は、本実施形態に係る負極60の一例を模式的に示す断面図であり、厚み方向および幅方向に沿った断面図である。図1に示されている本実施形態に係る負極60は、リチウムイオン二次電池の負極である。
【0015】
図示されるように、負極60は、負極集電体62と、負極集電体62に支持された負極活物質層64と、を備える。言い換えると、負極60は、負極集電体62と、負極集電体62上に設けられた負極活物質層64とを備える。負極活物質層64は、負極集電体62の片面上のみに設けられていてもよいし、図示例のように負極集電体62の両面上に設けられていてもよい。負極活物質層64は、負極集電体62の両面上に設けられていることが好ましい。
【0016】
図示例のように、負極60の幅方向の一方の端部に、負極活物質層64が設けられていない負極活物質層非形成部分62aが設けられていてもよい。負極活物質層非形成部分62aでは、負極集電体62が露出しており、負極活物質層非形成部分62aは集電部として機能することができる。しかしながら、負極60から集電するための構成はこれに限られない。
【0017】
負極集電体62の形状は、図示例では、箔状(またはシート状)であるが、これに限定されない。負極集電体62は、棒状、板状、メッシュ状等の種々の形態であってよい。負極集電体62の材質としては、従来のリチウムイオン二次電池と同様に、導電性の良好な金属(例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)を用いることができ、なかでも、銅が好ましい。負極集電体62としては、銅箔が特に好ましい。
【0018】
負極集電体62の寸法は特に限定されず、電池設計に応じて適宜決定すればよい。負極集電体62として銅箔を用いる場合には、その厚みは、特に限定されないが、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは6μm以上20μm以下である。
【0019】
図1に示すように、負極活物質層64は、複層構造を有しており、負極集電体62側に位置する第1層64aと、負極活物質層64の表層側に位置する第2層64bと、を有している。図1に示す例では、第1層64aは、負極活物質層64のいわゆる下層を形成し、第2層64bは、負極活物質層64のいわゆる上層を形成している。なお、負極活物質層64は、本発明の効果を顕著に阻害しない範囲内で第1層64aおよび第2層64b以外の層をさらに有していてもよい。例えば、負極活物質層64は、第1層64aと第2層64bとの間に、これらの層の成分が混ざり合った中間層を有していてもよい。
【0020】
負極活物質層64は、負極活物質を含有する。負極活物質に関し、第1層64aは、第1黒鉛粒子および第1Si-C複合粒子を含有する。第2層64bは、第2黒鉛粒子および第2Si-C複合粒子を含有する。よって、第1層64aにおいては、負極活物質として、第1黒鉛粒子および第1Si-C複合粒子が少なくとも用いられ、第2層64bにおいては、負極活物質として、第2黒鉛粒子および第2Si-C複合粒子が少なくとも用いられる。Si-C複合粒子は、充放電に伴う膨張/収縮による体積変化が大きいが、黒鉛粒子と併用することで、Si-C複合粒子の体積変化に起因する導電パス切れを抑制することができる。
【0021】
第1黒鉛粒子および第2黒鉛粒子を構成する黒鉛は、天然黒鉛であっても人造黒鉛であってもよく、黒鉛が非晶質な炭素材料で被覆された形態の非晶質炭素被覆黒鉛であってもよい。
【0022】
第1黒鉛粒子および第2黒鉛粒子の形状は、特に限定されず、鱗片状、球状等であってよい。
【0023】
第1黒鉛粒子および第2黒鉛粒子の平均粒子径(D50)は、特に限定されない。黒鉛粒子12の平均粒子径(D50)は、例えば1μm~35μmであり、好ましくは5μm~30μmであり、より好ましくは10μm~25μmであり、さらに好ましくは12μm~23μmである。
【0024】
なお、本明細書において「平均粒子径(D50)」とは、メジアン径(D50)を指し、レーザ回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、粒径が小さい微粒子側からの累積頻度50体積%に相当する粒径のことをいう。平均粒子径(D50)は、市販のレーザ回折・散乱式の粒度分布測定装置等を用いて求めることができる。
【0025】
第1黒鉛粒子および第2黒鉛粒子として、同じ黒鉛粒子を用いてもよく、異なる黒鉛粒子を用いてもよい。第1黒鉛粒子および第2黒鉛粒子として、同じ黒鉛粒子を用いることが好ましい。
【0026】
第1Si-C複合粒子および第2Si-C複合粒子は、Si-C複合材料によって構成される。当該Si-C複合材料は、典型的には、炭素ドメインおよびSi含有ドメインを含む。
【0027】
炭素ドメインは、例えば、炭素前駆体(例、石油ピッチ、石炭ピッチ、フェノール樹脂など)の炭素化物;黒鉛などである。炭素ドメインは、好適には炭素マトリックスを構成する。よってSi-C複合材料は、好適には、炭素マトリックス中に複数のSi含有ドメインが分散した材料である。この場合、炭素マトリックスが、Si含有ドメインの膨張/収縮による体積変化を緩和できるため、有利である。
【0028】
Si含有ドメインは、Siを含む。Si含有粒子は、例えば、Siのナノ粒子である。Si含有ドメインの平均粒子径は、例えば、50nm以下であり、5nm~50nmであってよい。なお、「Si含有ドメインの平均粒子径」は、以下のようにして求めることができる。まず、負極活物質層64を、FIB(集束イオンビーム)加工して、走査透過型電子顕微鏡(STEM)観察用の試料を作製する。そして、当該試料をEDX元素マッピングにより元素分析した後、BF像(明視野像)およびHAADF像(高角散乱環状暗視野像)を取得する。BF像およびHAADF像により得られるコントラストおよび形状から、Si含有ドメインの直径を求めることができる。任意に選ばれる10個以上のSi含有ドメインの直径を求め、その平均値をここでの「Si含有ドメインの平均粒子径」とする。
【0029】
Si-C複合材料は、例えば、炭素材料の内部にSiナノ粒子が分散しているもの;多孔質炭素材料(例、造粒された多孔質黒鉛)の空孔内でSiナノ粒子が分散しているもの;などである。Si-C複合材料は、炭素粒子の表面にSi微粒子が付着したもの;Si粒子の表面に炭素微粒子が付着したもの等であってもよい。Siの体積変化の抑制の観点からは、炭素材料の内部にSiナノ粒子が分散しているもの、および多孔質炭素材料の空孔内でSiナノ粒子が分散しているものが好ましく、多孔質炭素材料の空孔内でSiナノ粒子が分散しているものがより好ましい。
【0030】
Si-C複合材料中のSi含有量は特に限定されない。二次電池のより高い容量の観点から、Si-C複合材料中のSi含有量は、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上であり、さらに好ましくは40質量%以上である。Si-C複合材料の過度の体積変化の抑制の観点から、Si-C複合材料中のSi含有量は、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下である。
【0031】
本実施形態においては、第2Si-C複合粒子のSiは、第15族および第16族元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素でドープされている。一方で、第1Si-C複合粒子のSiは、第15族および第16族元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素でドープされていてもよい。第1Si-C複合粒子のSiは、上記の元素でドープされていないか、またはドープされていても少量である。
【0032】
よって、第1Si-C複合粒子のSiにおける第15族および第16族元素の合計含有量と、第2Si-C複合粒子のSiにおける第15族および第16族元素の合計含有量とが異なっており、前者の方が少ない。
【0033】
具体的には、第1Si-C複合粒子のSiにおける第15族および第16族元素の合計含有量が、0.1原子%未満(0原子%を含む)である。当該含有量が、0.1原子%未満であることにより、第1Si-C複合粒子は、自己放電抑制効果を発揮することができる。第1Si-C複合粒子のSiにおける第15族および第16族元素の合計含有量は、好ましくは0原子%~0.05原子%であり、より好ましくは0原子%~0.01原子%であり、さらに好ましくは0原子%である(すなわち、第1Si-C複合粒子のSiが第15族および第16族元素によってドープされていない)。
【0034】
一方で、第2Si-C複合粒子のSiにおける第15族および第16族元素の合計含有量が、0.1原子%~5原子%である。当該含有量が0.1原子%以上であることにより、ドーピングによる導電性向上効果が特に高くなり、これにより二次電池の抵抗を低減することができる。一方で、当該含有量が5原子%未満であることにより、ドーピング元素とSiの化合物生成を抑制することができ、特に高い導電性向上効果が得られる。第2Si-C複合粒子のSiにおける第15族および第16族元素の合計含有量は、好ましくは0.2原子%~3原子%であり、より好ましくは1原子%~3原子%である。
【0035】
第15族元素の例としては、N、P、As、Sb、Bi、Mcが挙げられ、なかでも、NおよびPが好ましく、Pがより好ましい。第16族元素の例としては、O、S、Se、Te、Po、Lvが挙げられ、なかでもSが好ましい。
【0036】
なお、Si-C複合粒子のSiにおけるドーピング元素の種類とその量は、公知方法に従い求めることができ、具体的には、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OEC)により求めることができる。
【0037】
第1Si-C複合粒子および第2Si-C複合粒子の平均粒子径(D50)は、特に限定されない。第1Si-C複合粒子および第2Si-C複合粒子の平均粒子径(D50)はそれぞれ、例えば、1μm~15μmであり、好ましくは2μm~10μmであり、より好ましくは4μm~10μmである。
【0038】
第1Si-C複合粒子および第2Si-C複合粒子は、公知方法に従い作製することができる。例えば、Si-C複合材料の粒子の種々の製造方法が、公知である(例えば、特開2015-38862号公報、国際公開第2014/046144号や、当該国際公開公報で挙げられた先行技術文献等参照)。よって、この公知方法に準じて第1Si-C複合粒子を作製することができる。また、Siに第15族および第16族元素をドープする方法は公知であり、これらの公知方法を組み合わせて第2Si-C複合粒子を作製することができる。Siへのドープは、Si-C複合粒子を作製前に行ってもよいし、作製後に行ってもよい。
【0039】
本実施形態においては、第1層64aの厚みは、負極活物質層64の厚みの60%~90%であり、かつ第2層64bの厚みは、負極活物質層64の厚みの10%~40%である。
【0040】
Si-C複合粒子のSiにドーピングを施すことにより、導電性を高めることができ、これにより二次電池の抵抗を低減することができる。しかしながら、本発明者の検討によれば、ドープされたSi-C複合粒子を二次電池の負極活物質に用いた場合、二次電池が自己放電を起こし易いという問題があることを見出した。さらに、ドープされたSi-C複合粒子は、負極集電体に近いほど、自己放電を起こし易いことを見出した。
【0041】
そこで、本実施形態では、ドープされた第2Si-C複合粒子を、負極活物質層64の表層側の第2層64bに配置し、実質的にドープされていない第1Si-C複合粒子を、負極集電体62側に位置する第1層64aに配置する。そして、第1層64aの厚みを、負極活物質層64の厚みの60%以上とする(したがって、第2層64bの厚みは、負極活物質層64の厚みの40%以下である)。このような構成によれば、第1層64aの実質的にドープされていない第1Si-C複合粒子は、自己放電を起こしにくいため、第1層64aは、第2層64bの第2Si-C複合粒子による自己放電を抑制するバリア層として機能する。
【0042】
一方で、ドープされた第2Si-C複合粒子による電池抵抗低減効果を、有利に得るために、第2層64bの厚みは、負極活物質層64の厚みの10%以上である。よって、第1層64aの厚みは、負極活物質層64の厚みの90%以下である。
【0043】
第1層64aの厚みが、負極活物質層64の厚みの65%~85%であり、かつ第2層64bの厚みが、負極活物質層64の厚みの15%~35%であることが好ましい。第1層64aの厚みが、負極活物質層64の厚みの70%~80%であり、かつ第2層64bの厚みが、負極活物質層64の厚みの20%~30%であることがより好ましい。より高い自己放電抑制効果の観点から、第1層64aの厚みが、負極活物質層64の厚みの75%~80%であり、かつ第2層64bの厚みが、負極活物質層64の厚みの20%~25%であることがさらに好ましい。一方、より高い電池抵抗低減効果の観点から、第1層64aの厚みが、負極活物質層64の厚みの70%~75%であり、かつ第2層64bの厚みが、負極活物質層64の厚みの25%~30%であることがより好ましい。
【0044】
第1層64aにおいて、第1黒鉛粒子および第1Si-C複合粒子の合計に対する第1Si-C複合粒子の質量割合は、好ましくは10質量%~60質量%であり、より好ましくは15質量%~50質量%であり、さらに好ましくは20質量%~40質量%である。
【0045】
第2層64bにおいて、第2黒鉛粒子および第2Si-C複合粒子の合計に対する第2Si-C複合粒子の質量割合は、好ましくは10質量%~60質量%であり、より好ましくは15質量%~50質量%であり、さらに好ましくは20質量%~40質量%である。なお、第1層64aにおける第1Si-C複合粒子の当該質量割合と、第2層64bにおける第2Si-C複合粒子の当該質量割合は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0046】
第1層64aは、本発明の効果を阻害しない範囲内で(例えば、負極活物質の総量の10質量%以下)で、第1黒鉛粒子および第1Si-C複合粒子以外の負極活物質をさらに含有していてもよい。
【0047】
第2層64bは、本発明の効果を阻害しない範囲内で(例えば、負極活物質の総量の10質量%以下)で、第2黒鉛粒子および第2Si-C複合粒子以外の負極活物質をさらに含有していてもよい。
【0048】
第1層64aおよび第2層64bはそれぞれ、負極活物質以外の成分(以下、「任意成分」ともいう)を含有していてもよい。任意成分の例としては、バインダ、導電材等が挙げられる。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。CMCは、増粘剤としても機能する。導電材の例としては、カーボンナノチューブ(CNT)等が挙げられる。導電材としてCNTを用いる場合には、負極活物質層64は、CNTの分散剤を含有していてもよい。
【0049】
第1層64a中の(すなわち、第1層64aの全質量に対する)負極活物質の含有量は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。第1層64a中のバインダの含有量は、0.1質量%以上8質量%以下が好ましく、0.5質量%以上5質量%以下がより好ましい。第1層64a中の導電材の含有量は、0.01質量%以上3質量%以下が好ましく、0.05質量%以上1質量%以下がより好ましい。
【0050】
同様に、第2層64b中の(すなわち、第2層64bの全質量に対する)負極活物質の含有量は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。第2層64b中のバインダの含有量は、0.1質量%以上8質量%以下が好ましく、0.5質量%以上5質量%以下がより好ましい。第2層64b中の導電材の含有量は、0.01質量%以上3質量%以下が好ましく、0.05質量%以上1質量%以下がより好ましい。
【0051】
負極活物質層64の厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm以上400μm以下であり、好ましくは20μm以上300μm以下である。
【0052】
負極活物質層64の密度は、特に限定されないが、例えば、0.9g/cm以上であり、好ましくは1.1g/cm以上であり、より好ましくは1.2g/cm以上である。一方、負極活物質層64の密度は、例えば、2.3g/cm以下であり、2.0g/cm以下であってよい。
【0053】
負極60は、負極集電体62および負極活物質層64以外の部材を備えていてもよい。例えば、負極活物質層非形成部分62a上に、負極活物質層64と隣接する絶縁層(図示せず)が設けられていてもよい。当該絶縁層は、例えば、絶縁性の無機フィラー等を含有する。
【0054】
負極60は、公知方法に従って、作製することができる。具体的には、例えば、第1層64aの構成成分を含有するスラリーを調製する。このスラリーを、負極集電体62上に塗布し、乾燥することで負極集電体62上に第1層aを形成する。第2層64bの構成成分を含有するスラリーを調製する。このスラリーを、第1層64a上に塗布し、乾燥することで第1層64a上に第2層64bを形成する。このようにして負極集電体62上に負極活物質層64を形成することができる。必要に応じ、負極活物質層64にプレス処理を施してもよい。
【0055】
本実施形態に係る負極60によれば、ドープされたSi系負極活物質を使用しているため、二次電池の抵抗を低減することができる。また、本実施形態に係る負極60によれば、ドープされたSi系負極活物質を使用しているのにもかかわらず、二次電池の自己放電を抑制することができる。さらに、本実施形態に係る負極60は、Si系負極活物質を使用しているため、二次電池を高容量化することができる。
【0056】
そこで、別の側面から、ここに開示される二次電池は、正極と、負極と、電解質と、を備える。当該負極が、上述の実施形態に係る負極60である。以下、リチウムイオン二次電池を例に挙げて、ここに開示される二次電池の一実施形態を、図2および図3を参照しながら説明する。以下の構成例は、扁平形状の捲回電極体と扁平形状の電池ケースとを有する扁平角型のリチウムイオン二次電池である。
【0057】
図2に示すリチウムイオン二次電池100は、扁平形状の捲回電極体20と非水電解液(図示せず)とが扁平な角形の電池ケース(即ち外装容器)30に収容されることにより構築される密閉型のリチウムイオン二次電池100である。電池ケース30には外部接続用の正極端子42および負極端子44と、電池ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁36が設けられている。また、電池ケース30には、非水電解液を注入するための注入口(図示せず)が設けられている。正極端子42は、正極集電板42aと電気的に接続されている。負極端子44は、負極集電板44aと電気的に接続されている。電池ケース30の材質としては、例えば、アルミニウム等の軽量で熱伝導性の良い金属材料が用いられる。
【0058】
捲回電極体20は、図2および図3に示すように、正極シート50と、負極シート60とが、2枚の長尺状のセパレータシート70を介して重ね合わされて長手方向に捲回された形態を有する。正極シート50は、長尺状の正極集電体52の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って正極活物質層54が形成された構成を有する。負極シート60は、長尺状の負極集電体62の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って負極活物質層64が形成されている構成を有する。正極活物質層非形成部分52a(すなわち、正極活物質層54が形成されずに正極集電体52が露出した部分)および負極活物質層非形成部分62a(すなわち、負極活物質層64が形成されずに負極集電体62が露出した部分)は、捲回電極体20の捲回軸方向(すなわち、上記長手方向に直交するシート幅方向)の両端から外方にはみ出すように形成されている。正極活物質層非形成部分52aおよび負極活物質層非形成部分62aには、それぞれ正極集電板42aおよび負極集電板44aが接合されている。
【0059】
正極シート50を構成する正極集電体52としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の正極集電体を用いてよく、その例としては、導電性の良好な金属(例えば、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)製のシートまたは箔が挙げられる。正極集電体52としては、アルミニウム箔が好ましい。
【0060】
正極集電体52の寸法は特に限定されず、電池設計に応じて適宜決定すればよい。正極集電体52としてアルミニウム箔を用いる場合には、その厚みは、特に限定されないが、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは7μm以上20μm以下である。
【0061】
正極活物質層54は、正極活物質を含有する。正極活物質としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の組成の正極活物質を用いてよい。具体的に例えば、正極活物質として、リチウム複合酸化物、リチウム遷移金属リン酸化合物等を用いることができる。正極活物質の結晶構造は、特に限定されず、層状構造、スピネル構造、オリビン構造等であってよい。
【0062】
リチウム複合酸化物としては、遷移金属元素として、Ni、Co、Mnのうちの少なくとも1種を含むリチウム遷移金属複合酸化物が好ましく、その具体例としては、リチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物、リチウム鉄ニッケルマンガン系複合酸化物等が挙げられる。
【0063】
なお、本明細書において「リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物」とは、Li、Ni、Co、Mn、Oを構成元素とする酸化物の他に、それら以外の1種または2種以上の添加的な元素を含んだ酸化物をも包含する用語である。かかる添加的な元素の例としては、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Na、Fe、Zn、Sn等の遷移金属元素や典型金属元素等が挙げられる。また、添加的な元素は、B、C、Si、P等の半金属元素や、S、F、Cl、Br、I等の非金属元素であってもよい。このことは、上記したリチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物、リチウム鉄ニッケルマンガン系複合酸化物等についても同様である。
【0064】
リチウム遷移金属リン酸化合物としては、例えば、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO)、リン酸マンガン鉄リチウム等が挙げられる。
【0065】
これらの正極活物質は、1種単独で用いてよく、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。正極活物質としては、初期抵抗特性等の諸特性に優れることから、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物が特に好ましい。
【0066】
正極活物質の平均粒子径(D50)は、特に限定されないが、例えば、0.05μm以上25μm以下であり、好ましくは1μm以上20μm以下であり、より好ましくは3μm以上15μm以下である。
【0067】
正極活物質層54は、正極活物質以外の成分、例えば、リン酸三リチウム、導電材、バインダ等を含んでいてもよい。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラック;気相法炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)等の炭素繊維;その他(例、グラファイトなど)の炭素材料を好適に使用し得る。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)等を使用し得る。
【0068】
正極活物質層54中の正極活物質の含有量(すなわち、正極活物質層54の全質量に対する正極活物質の含有量)は、特に限定されないが、70質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは85質量%以上99質量%以下である。正極活物質層54中のリン酸三リチウムの含有量は、特に制限はないが、0.1質量%以上15質量%以下が好ましく、0.2質量%以上10質量%以下がより好ましい。正極活物質層54中の導電材の含有量は、特に制限はないが、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、0.3質量%以上15質量%以下がより好ましい。正極活物質層54中のバインダの含有量は、特に制限はないが、0.4質量%以上15質量%以下が好ましく、0.5質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0069】
正極活物質層54の片面当たりの厚みは、特に限定されないが、通常10μm以上であり、好ましくは20μm以上である。一方、当該厚みは、通常400μm以下であり、好ましくは300μm以下である。
【0070】
負極シート60としては、上述の負極60が用いられている。
【0071】
セパレータ70としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂から構成される多孔性シート(フィルム)が挙げられる。かかる多孔性シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータ70の表面には、耐熱層(HRL)が設けられていてもよい。
【0072】
セパレータ70の厚みは特に限定されないが、例えば5μm以上50μm以下であり、好ましくは10μm以上30μm以下である。セパレータ70のガーレー試験法によって得られる透気度は特に限定されないが、好ましくは350秒/100cc以下である。
【0073】
非水電解液は、典型的には、非水溶媒と支持塩(電解質塩)とを含有する。非水溶媒としては、一般的なリチウムイオン二次電池の電解液に用いられる、カーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶媒を、特に限定なく用いることができる。なかでも、カーボネート類が好ましく、その具体例として、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、モノフルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)等が例示される。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。一例として、非水溶媒は、カーボネート類のみからなる。別の例として、非水溶媒は、カーボネート類、および酢酸メチル等のエステル類を含有する。
【0074】
支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等のリチウム塩(好ましくはLiPF)を好適に用いることができる。支持塩の濃度は、0.7mol/L以上1.3mol/L以下が好ましい。
【0075】
なお、上記非水電解液は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した成分以外の成分、例えば、ビニレンカーボネート(VC)、オキサラト錯体等の被膜形成剤;ビフェニル(BP)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)等のガス発生剤;増粘剤;等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0076】
リチウムイオン二次電池100は、電池抵抗が小さく、よって入出力特性に優れる。また、リチウムイオン二次電池100は、自己放電が抑制されており、よって保存特性に優れる。加えて、リチウムイオン二次電池100は、高容量である。リチウムイオン二次電池100は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、電気自動車(BEV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。また、リチウムイオン二次電池100は、小型電力貯蔵装置等の蓄電池として使用することができる。リチウムイオン二次電池100は、典型的には複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態でも使用され得る。
【0077】
以上、一例として扁平形状の捲回電極体20を備える角形のリチウムイオン二次電池100について説明した。しかしながら、リチウムイオン二次電池は、積層型電極体(すなわち、複数の正極と、複数の負極とが交互に積層された電極体)を備えるリチウムイオン二次電池として構成することもできる。また、リチウムイオン二次電池は、円筒形リチウムイオン二次電池、ラミネートケース型リチウムイオン二次電池等として構成することもできる。
【0078】
また、公知方法に従い、リチウムイオン二次電池100は、非水電解質の代わりに固体電解質を用いた全固体リチウムイオン二次電池として構成することもできる。
【0079】
また本実施形態に係る負極60は、リチウムイオン二次電池の負極に適しているが、その他の二次電池の負極として構築して使用することができ、その他の二次電池は、公知方法に従って構成することができる。
【0080】
以下、本発明に関する実施例を詳細に説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0081】
<負極の作製>
〔実施例1〕
負極活物質として、以下を用意した。なお、第1Si-C複合粒子および第2Si-C複合粒子のSi含有割合、および第2Si-C複合粒子のSiに対するドープ量は、市販のICP-OEC装置を用いて測定した。黒鉛粒子の平均粒子径(D50)は、市販のレーザ回折・散乱式の粒度分布測定装置を用いて測定した。
第1Si-C複合粒子:Si-C複合材料、Si含有割合=50質量%、元素ドープなし
第2Si-C複合粒子:Si-C複合材料、Si含有割合=50質量%、硫黄(S)3原子%ドープ
黒鉛粒子:平均粒子径(D50)=15μm
【0082】
導電材として、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を用意した。SWCNTは、固形分濃度2%の水系分散液の形態で用意した。バインダとして、カルボキシメチルセルロース(CMC)と、ポリアクリル酸(PAA)と、スチレンブタジエンラバー(SBR)とを用意した。
【0083】
黒鉛粒子と、第1Si-C複合粒子と、SWCNTと、CMCと、PAAと、SBRとを、70:30:0.1:1:1:1.5の質量比で含有する第1層形成用ペーストを、次の手順で調製した。
【0084】
まず、第1Si-C複合粒子と、SWCNT分散液と、分散媒(水)とを、ディスパーを用いて回転数3000rpmで混合し、予備混合ペーストを作製した。一方で、黒鉛粒子と、CMCと、PAAとを、プラネタリーミキサーを用いてドライブレンドした。得られたドライ混合物に、予備混合ペーストと、分散媒(水)を添加して、プラネタリーミキサーで混錬した。このときの固形分濃度は65質量%とした。さらに、SBRと分散媒(水)をプラネタリーミキサーに投入して、希釈混合することで、第1層形成用ペーストを得た。
【0085】
作製した第1層形成用ペーストを、厚み10μmの銅箔の表面に塗布し、乾燥することにより、負極活物質層の下層部分である第1層を形成した。
【0086】
次に、第1Si-C複合粒子に代えて第2Si-C複合粒子を用いた以外は、上記と同じ方法で、黒鉛粒子と、第2Si-C複合粒子と、SWCNTと、CMCと、PAAと、SBRとを、70:30:0.1:1:1:1.5の質量比で含有する第2層形成用ペーストを作製した。
【0087】
作製した第2層形成用ペーストを、形成した第1層の表面に塗布し、乾燥することにより、負極活物質層の上層部分である第2層を形成した。このときの第2層形成用ペーストの塗布量を調整して、負極活物質層の厚み(第1層および第2層の合計厚み)に対する第第2層の厚みの比を25%とした。得られたシートを、ロールプレス後、所定の寸法に加工して、負極シートを得た。プレス後においても、上記の厚みの比が維持されていることを確認した。
【0088】
〔実施例2〕
負極活物質層の厚み(第1層および第2層の合計厚み)における第2層の厚みの比を20%に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の負極シートを得た。
【0089】
〔実施例3〕
負極活物質層の厚み(第1層および第2層の合計厚み)における第2層の厚みの比を30%に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3の負極シートを得た。
【0090】
〔比較例1~5〕
黒鉛粒子と、Si含有粒子と、SWCNTと、CMCと、PAAと、SBRとを、70:30:0.1:1:1:1.5の質量比で含有する負極活物質層形成用ペーストを上記と同様の手順にて作製した。比較例1では、Si-C複合粒子として、第1Si-C複合粒子を用いた。比較例2では、Si-C複合粒子として、第2Si-C複合粒子を用いた。比較例3では、Si-C複合粒子として、第1Si-C複合粒子と第2Si-C複合粒子の質量比30:70の混合物を用いた。比較例4では、Si-C複合粒子として、第1Si-C複合粒子と第2Si-C複合粒子の質量比50:50の混合物を用いた。比較例5では、Si含有粒子として、第1Si-C複合粒子と第2Si-C複合粒子の質量比70:30の混合物を用いた。
【0091】
負極活物質層形成用ペーストを、厚み10μmの銅箔の表面に塗布し、乾燥することにより、負極活物質層を形成した。このときの負極活物質層の厚みを、実施例1の第1層および第2層の合計厚みと同じになるようにした。得られたシートを、ロールプレス後、所定の寸法に加工して、比較例1~5の負極シートを得た。
【0092】
〔比較例6〕
負極活物質層の厚み(第1層および第2層の合計厚み)における第2層の厚みの比を5%に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、比較例6の負極シートを得た。
【0093】
〔比較例7〕
負極活物質層の厚み(第1層および第2層の合計厚み)における第2層の厚みの比を45%に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、比較例7の負極シートを得た。
【0094】
〔比較例8〕
第1層形成用ペーストと第2層形成用ペーストの使用順序を変更して、第2層形成用ペーストによって負極活物質層の下層部分を形成し、第1層形成用ペーストによって負極活物質層の上層部分を形成した以外は、比較例6と同様の方法で、比較例8の負極シートを得た。
【0095】
〔比較例9〕
第1層形成用ペーストと第2層形成用ペーストの使用順序を変更して、第2層形成用ペーストによって負極活物質層の下層部分を形成し、第1層形成用ペーストによって負極活物質層の上層部分を形成した以外は、実施例6と同様の方法で、比較例9の負極シートを得た。
【0096】
〔比較例10〕
第1層形成用ペーストと第2層形成用ペーストの使用順序を変更して、第2層形成用ペーストによって負極活物質層の下層部分を形成し、第1層形成用ペーストによって負極活物質層の上層部分を形成した以外は、比較例7と同様の方法で、比較例10の負極シートを得た。
【0097】
<評価用リチウムイオン二次電池の作製>
正極活物質粉末としてのLiNi1/3Co1/3Mn1/3(NCM)と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、NCM:AB:PVdF=100:1:1の質量比でN-メチルピロリドン(NMP)と混合し、正極ペーストを調製した。このペーストを、厚み15μmのアルミニウム箔の表面に塗布し、乾燥することにより、正極活物質層を形成した。正極活物質層をロールプレス後、得られたシートを所定の寸法に加工して、正極シートを得た。
【0098】
多孔質ポリオレフィン製のセパレータを用意した。上記作製した負極シートと正極シートのそれぞれにリードを取り付け、セパレータを介して積層して、電極体を作製した。これを非水電解液と共に、アルミラミネートフィルム製のケースに収容した。非水電解液には、エチレンカーボネート(EC)とフルオロエチレンカーボネート(FEC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)とを15:5:40:40の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを1.0mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。その後、ケースを封止して、評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0099】
<自己放電評価>
上記作製した各評価リチウムイオン二次電池を25℃の環境下に置いた。各評価用リチウムイオン二次電池に活性化処理を行った。活性化した各評価用リチウムイオン二次電池に対して0.4Cの電流値で4.2Vまで定電流充電を行った後、電流値が0.1Cになるまで定電圧充電を行った。次いで、各評価用リチウムイオン二次電池を0.4Cの電流値で2.5Vまで定電流放電した。そして、このときの放電容量を測定して初期容量を求めた。
【0100】
このときの初期容量をSOC100%とし、各評価用リチウムイオン二次電池をSOC95%に調整した。このときの充電容量を求めた。次いで、60℃の温度環境下で4週間保管した。その後、各評価リチウムイオン二次電池を25℃の環境下に置き、0.4Cの電流値で2.5Vまで定電流放電し、このときの放電容量を測定した。(保管後の放電容量/保管前の充電容量)×100より、容量維持率を求めた。結果を表1および2に示す。なお、この容量維持率が高いほど、自己放電が少ないことを意味する。
【0101】
<電池抵抗評価>
上記の初期容量をSOC100%として、各評価用リチウムイオン二次電池をSOC50%に調整した。次いで、25℃の温度環境下にて、0.1C、0.2C、0.5C、1Cおよび2Cの電流値で10秒間放電を行い、各電流値で放電した後の電池電圧を測定した。各電流値と各電池電圧とをプロットして放電時におけるI-V特性を求め、得られた直線の傾きから放電時におけるIV抵抗(Ω)を電池抵抗として求めた。結果を表1および2に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
比較例1~5では、負極活物質層は、単層構造を有している。比較例1および2の比較より、Si-C複合粒子にSドープした場合に、抵抗低減効果が得られるが、一方で、自己放電が大きくなることがわかる。比較例3~5の結果より、単純にSドープされたSi-C複合粒子および非ドープのSi-C複合粒子を併用したのでは、電池抵抗低減と自己放電の抑制を両立できないことがわかる。
【0105】
実施例1~3および比較例6~10では、負極活物質層は二層構造とし、一方の層に、SドープされたSi-C複合粒子を含有させ、他方の層に非ドープのSi-C複合粒子を含有させた。比較例8~10では、負極集電体側の第1層に、SドープされたSi-C複合粒子を配置した。この場合、自己放電が大きかった。よって、自己放電は、SドープされたSi-C複合粒子が負極集電体に近いほど起こり易いことがわかる。
【0106】
一方で、実施例1~3、比較例6,7では、表層側に、SドープされたSi-C複合粒子を配置した。これらの比較より、第1層の厚みが大きすぎると(第2層の厚みが小さ過ぎると)、電池抵抗が高くなり、第1層の厚みが小さすぎると(第2層の厚みが多過ぎると)、自己放電が大きくなることがわかる。よって、第1層と第2層の厚みが所定の範囲内にある場合に、電池抵抗低減と自己放電の抑制を両立できることがわかる。よって、以上のことから、ここに開示される負極によれば、ドープされたSi系負極活物質を用いながらも、二次電池の抵抗を低減しつつ二次電池の自己放電を抑制可能であることがわかる。
【0107】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0108】
すなわち、ここに開示される二次電池の負極、および二次電池は、以下の項[1]~[5]である。
[1]負極集電体と、
前記負極集電体に支持された負極活物質層と、
を備える負極であって、
前記負極活物質層は、前記負極集電体側に位置する第1層と、表層側に位置する第2層と、を含み、
前記第1層は、第1黒鉛粒子と、第1Si-C複合粒子と、を含有し、
前記第2層は、第2黒鉛粒子と、第2Si-C複合粒子と、を含有し、
前記第1Si-C複合粒子のSiは、第15族元素および第16族元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素でドープされていてもよく、
前記第2Si-C複合粒子のSiは、第15族元素および第16族元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素でドープされており、
前記第1Si-C複合粒子のSiにおける前記第15族元素および前記第16族元素の合計含有量が、0.1原子%未満であり、
前記第2Si-C複合粒子のSiにおける前記第15族元素および前記第16族元素の合計含有量が、0.1原子%~5原子%であり、
前記第1層の厚みは、前記負極活物質層の厚みの60%~90%であり、前記第2層の厚みは、前記負極活物質層の厚みの10%~40%である、負極。
[2]前記第1層における、前記第1黒鉛粒子と前記第1Si-C複合粒子との合計に対する前記第1Si-C複合粒子の質量割合が、10質量%~60質量%であり、前記第2層における、前記第2黒鉛粒子と前記第2Si-C複合粒子との合計に対する前記第2Si-C複合粒子の質量割合が、10質量%~60質量%である、項[1]に記載の負極。
[3]前記第1層の厚みが、前記負極活物質層の厚みの65%~85%であり、かつ前記第2層の厚みが、前記負極活物質層の厚みの15%~35%である、項[1]または[2]に記載の負極。
[4]前記第2Si-C複合粒子のSiが、N、P、およびSからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素によりドープされている、項[1]~[3]のいずれか1項に記載の負極。
[5]正極と、負極と、電解質と、
を備える二次電池であって、
前記負極が、項[1]~[4]のいずれか1項に記載の負極である、二次電池。
【符号の説明】
【0109】
20 捲回電極体
30 電池ケース
36 安全弁
42 正極端子
42a 正極集電板
44 負極端子
44a 負極集電板
50 正極シート(正極)
52 正極集電体
52a 正極活物質層非形成部分
54 正極活物質層
60 負極シート(負極)
62 負極集電体
62a 負極活物質層非形成部分
64 負極活物質層
70 セパレータシート(セパレータ)
100 リチウムイオン二次電池
図1
図2
図3