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特開2024-179929発泡体、発泡用樹脂組成物及び発泡体の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179929
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】発泡体、発泡用樹脂組成物及び発泡体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/04 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
C08J9/04 103
C08J9/04 CER
C08J9/04 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099268
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】山本 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】太田 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】濱田 孝則
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA44
4F074AB01
4F074AC02
4F074AC16
4F074AD09
4F074AD11
4F074AG02
4F074AG06
4F074AG11
4F074AG20
4F074BA13
4F074BA29
4F074CA21
4F074CC04Y
4F074DA02
4F074DA13
4F074DA59
(57)【要約】
【課題】性能が低下することなく高生産効率で得られ、かつ合わせガラス用中間膜のリサイクル品としても有用な発泡体、及び、その製造方法を提供する。また、このような発泡体を得るための発泡用樹脂組成物も提供する。
【解決手段】多数の気泡を有する発泡体であって、熱可塑性樹脂、可塑剤、インジウム及びスズを含有する、発泡体;該発泡体を製造する方法であって、熱可塑性樹脂、可塑剤、発泡剤、インジウム及びスズを含有する樹脂組成物を加熱する工程を含む、発泡体の製造方法;熱可塑性樹脂、可塑剤、発泡剤、インジウム及びスズを含有する、発泡用樹脂組成物。
【選択図】図1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の気泡を有する発泡体であって、
熱可塑性樹脂、可塑剤、インジウム及びスズを含有することを特徴とする発泡体。
【請求項2】
前記インジウム及びスズの合計含有量は、100ppm以上10000ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の発泡体。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂は、ポリビニルアセタールを含むことを特徴とする請求項1に記載の発泡体。
【請求項4】
連続気泡率が20%以上であることを特徴とする請求項1に記載の発泡体。
【請求項5】
前記インジウム及びスズは、酸化インジウムスズとして前記発泡体に含まれることを特徴とする請求項1に記載の発泡体。
【請求項6】
前記可塑剤の含有量は、前記熱可塑性樹脂100重量部に対し、20重量部以上60重量部以下であることを特徴とする請求項1に記載の発泡体。
【請求項7】
前記可塑剤は、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエートを含むことを特徴とする請求項1に記載の発泡体。
【請求項8】
熱可塑性樹脂、可塑剤、発泡剤、インジウム及びスズを含有することを特徴とする発泡用樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~7のいずれかに記載の発泡体を製造する方法であって、
熱可塑性樹脂、可塑剤、発泡剤、インジウム及びスズを含有する樹脂組成物を加熱する工程を含むことを特徴とする発泡体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡体、発泡用樹脂組成物及び発泡体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂を含む発泡体は、軽量で柔軟であり、かつ衝撃吸収性や制振性等にも優れるため、自動車、航空機、船舶等の車両用部材、建築部材、電子部品、床材等の住宅用建材、家庭用、業務用の電気製品等のあらゆる用途に用いられている。
【0003】
従来の発泡体に関し、例えば特許文献1には、アスファルトフオーム再生溶液、ウレタンフオーム再生溶液及び重油の混合液を発泡体シートに含浸させることで、発泡体シートを基材とする複合材シートを製造する方法が開示されている。また特許文献2には、結晶性ポリアミド樹脂、カーボンブラック及び無機強化材を所定割合で含有する発泡成形体用ポリアミド樹脂組成物が開示されている。
【0004】
ところで近年では、自動車、航空機等の車両用ガラスや建築物の窓ガラス等として、一対のガラス板に熱可塑性樹脂と可塑剤とを含む合わせガラス用中間膜を挟み、互いに密着させて得られる合わせガラスが広く使用されている。例えば特許文献3には、可視光性透過率が高く、かつ遮熱性等の各種性能に優れる合わせガラスが開示されている。だが、一般に、合わせガラスの製造時には、合わせガラス用中間膜をガラスと貼り合わせた際に、端部に余った合わせガラス用中間膜が切断され、大量の合わせガラス用中間膜が廃棄されている。また、品質基準に適合しなかった合わせガラスや使用済みの合わせガラスを解体した際にも、大量の合わせガラス用中間膜が廃棄されている。
【0005】
そこで、環境負荷やコストの低減等の観点から、合わせガラス用中間膜の廃棄物を再利用(リサイクル)する技術が求められている。例えば特許文献4では、ポリビニルアセタールと可塑剤とを含有し、多数の気泡を有するポリビニルアセタール多孔質体が開発されている。この多孔質体は、合わせガラス用中間膜の廃棄物をそのまま原料として用いることができるため、合わせガラス用中間膜のリサイクル品として有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61-272250号公報
【特許文献2】国際公開第2014/185371号
【特許文献3】特開2016-193830号公報
【特許文献4】国際公開第2018/016536号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の複合材シートの製造方法や、特許文献2に記載の樹脂組成物を用いる手法では、生産効率が充分ではなく、得られる発泡体の性能面でも課題を有していた。また特許文献4に記載の多孔質体は、合わせガラス用中間膜の廃棄物のリサイクル技術に寄与できる上、制振性等も優れ、各種用途に好適である。だが、このような多孔質体を工業的に更に有用なものとするために、性能が低下することなく高生産効率で製造できるようにするための工夫の余地があった。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、性能が低下することなく高生産効率で得られ、かつ合わせガラス用中間膜のリサイクル品としても有用な発泡体、及び、その製造方法を提供することを目的とする。また、このような発泡体を得るための発泡用樹脂組成物を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、熱可塑性樹脂及び可塑剤を含む発泡体を高効率で製造可能な手法について鋭意検討するうち、発泡体の原料として熱可塑性樹脂及び可塑剤に加えてインジウムとスズを含有する樹脂組成物を用いて、発泡剤の存在下で発泡操作を行うと、該原料がインジウムとスズとを含むことに起因して、発泡速度が著しく向上することを見出した。同時に、発泡速度が著しく向上したにも関わらず、得られた発泡体に性能低下が生じないことも見出した。原料として合わせガラス用中間膜の廃棄物を用いた場合も、インジウムとスズを含有するものとすれば、同様の効果が得られることも見出した。この効果は、インジウム及びスズを含まない場合には得られない(例えば後述の試験例1、11~14を参照)。このようにして得られる発泡体は、多数の気泡を有し、かつ熱可塑性樹脂、可塑剤、インジウム及びスズを含有するが、これは合わせガラス用中間膜のリサイクル品としても有効で、環境負荷の軽減やコスト低減を実現できることも見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
なお、上述した特許文献1には、ウレタンフオーム再生溶液の調製時に錫系触媒を使用することが記載されているが、インジウムに関する記載は一切ない。また特許文献2には、無機強化材の一例として酸化インジウム及び酸化錫が例示されているが、これらの併用系に限定する記載もなければ、これらの併用による効果等も一切検討されていない。特許文献3には発泡に関する記載がなく、特許文献4には、インジウム及びスズに関する記載が一切ない。
【0011】
本開示1は、多数の気泡を有する発泡体であって、熱可塑性樹脂、可塑剤、インジウム及びスズを含有する、発泡体である。
本開示2は、上記インジウム及びスズの合計含有量が、100ppm以上10000ppm以下である、本開示1の発泡体である。
本開示3は、上記熱可塑性樹脂が、ポリビニルアセタールを含む、本開示1又は本開示2の発泡体である。
本開示4は、連続気泡率が20%以上である、本開示1~3のいずれかの発泡体である。
本開示5は、上記インジウム及びスズは、酸化インジウムスズとして上記発泡体に含まれる、本開示1~4のいずれかの発泡体である。
本開示6は、上記可塑剤の含有量は、上記熱可塑性樹脂100重量部に対し、20重量部以上60重量部以下である、本開示1~5のいずれかの発泡体である。
本開示7は、上記可塑剤は、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエートを含む、本開示1~6のいずれかの発泡体である。
本開示8は、熱可塑性樹脂、可塑剤、発泡剤、インジウム及びスズを含有する、発泡用樹脂組成物である。
本開示9は、本開示1~7のいずれかの発泡体を製造する方法であって、熱可塑性樹脂、可塑剤、発泡剤、インジウム及びスズを含有する樹脂組成物を加熱する工程を含む、発泡体の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0012】
(発泡体)
本発明の発泡体は、熱可塑性樹脂、可塑剤、インジウム及びスズを含む。必要に応じてその他の成分を更に含んでもよい。各含有成分はそれぞれ1種又は2種以上用いることができる。
【0013】
上記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-六フッ化プロピレン共重合体、ポリ三フッ化エチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアセタール、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。中でも、ポリビニルアセタール、又は、エチレン-酢酸ビニル共重合体が好ましく、ポリビニルアセタールがより好ましい。即ち上記熱可塑性樹脂がポリビニルアセタールを含む形態は、本発明の好ましい形態の一つである。耐候性向上等の観点から、ポリビニルアセタールの中でも、ポリビニルブチラールが好適である。
【0014】
上記ポリビニルアセタールは、ポリビニルアルコールをアルデヒドでアセタール化して得られるポリビニルアセタールであることが好ましい。
【0015】
上記ポリビニルアルコールは、通常、ポリ酢酸ビニルをけん化することにより得られる。けん化度は一般に、70~99.8モル%であり、80~99.8モル%であることが好ましい。
【0016】
上記ポリビニルアルコールの平均重合度は、好ましくは200以上、より好ましくは500以上、更に好ましくは1700以上、特に好ましくは2000以上であり、また、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、より一層好ましくは3000以下、更に好ましくは3000未満、特に好ましくは2800以下である。上記ポリビニルアセタールは、このような重合度のポリビニルアルコールをアセタール化して得られるものであることが好ましい。
なお、ポリビニルアルコールの平均重合度は、JIS K6726(1994)「ポリビニルアルコール試験方法」に準拠した方法により求められる。
【0017】
上記アルデヒドとして、一般には、炭素数が1~10のアルデヒドが好適に用いられる。炭素数が1~10のアルデヒドとしては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n-バレルアルデヒド、2-エチルブチルアルデヒド、n-ヘキシルアルデヒド、n-オクチルアルデヒド、n-ノニルアルデヒド、n-デシルアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。中でも、n-ブチルアルデヒド、n-ヘキシルアルデヒド又はn-バレルアルデヒドが好ましく、n-ブチルアルデヒドがより好ましい。
【0018】
上記可塑剤は特に限定されず、例えば、一塩基性有機酸エステル、多塩基性有機酸エステル等の有機エステル可塑剤、有機リン酸可塑剤、有機亜リン酸可塑剤等のリン酸可塑剤等が挙げられる。可塑剤はまた、液状可塑剤であることが好ましい。
【0019】
上記一塩基性有機酸エステルは特に限定されないが、例えば、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコールと、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2-エチル酪酸、ヘプチル酸、n-オクチル酸、2-エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸(n-ノニル酸)、デシル酸等の一塩基性有機酸との反応によって得られたグリコールエステル等が挙げられる。中でも、トリエチレングリコールジカプロン酸エステル、トリエチレングリコールジ-2-エチル酪酸エステル、トリエチレングリコールジ-n-オクチル酸エステル、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキシル酸エステル等が好適である。
【0020】
上記多塩基性有機酸エステルは特に限定されないが、例えば、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の多塩基性有機酸と、炭素数4~8の直鎖又は分岐構造を有するアルコールとのエステル化合物が挙げられる。中でも、ジブチルセバシン酸エステル、ジオクチルアゼライン酸エステル、ジブチルカルビトールアジピン酸エステル等が好適である。
【0021】
上記有機エステル可塑剤は特に限定されず、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジカプリレート、トリエチレングリコールジ-n-オクタノエート、トリエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート、テトラエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート、テトラエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、ジブチルセバケート、ジオクチルアゼレート、ジブチルカルビトールアジペート、エチレングリコールジ-2-エチルブチレート、1,3-プロピレングリコールジ-2-エチルブチレート、1,4-ブチレングリコールジ-2-エチルブチレート、ジエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、ジエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、ジプロピレングリコールジ-2-エチルブチレート、トリエチレングリコールジ-2-エチルペンタノエート、テトラエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、ジエチレングリコールジカプリエート、アジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ヘキシルシクロヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ヘプチルノニル、セバシン酸ジブチル、油変性セバシン酸アルキド、リン酸エステルとアジピン酸エステルとの混合物、アジピン酸エステル、炭素数4~9のアルキルアルコール及び炭素数4~9の環状アルコールから作製された混合型アジピン酸エステル、アジピン酸ヘキシル等の炭素数6~8のアジピン酸エステル等が挙げられる。
【0022】
上記有機リン酸可塑剤は特に限定されず、例えば、トリブトキシエチルホスフェート、イソデシルフェニルホスフェート、トリイソプロピルホスフェート等が挙げられる。
【0023】
上記可塑剤としては、加水分解を起こしにくい観点から、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(3GOとも称す)、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート(3GH)、テトラエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(4GOとも称す)、及び/又は、ジヘキシルアジペート(DHAとも称す)を用いることが好ましい。より好ましくは、4GO及び/又は3GOであり、更に好ましくは、3GOである。即ち上記可塑剤がトリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエートを含む形態は、本発明の好ましい形態の一つである。特に本発明では、上記熱可塑性樹脂がポリビニルアセタールを含み、かつ上記可塑剤がトリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエートを含むことが特に好適である。
【0024】
上記可塑剤の含有量は、例えば、熱可塑性樹脂100重量部(但し、熱可塑性樹脂を2種類以上用いる場合はその総量を100重量部とする。以下同様。)に対して、10重量部以上、80重量部以下であることが好ましい。可塑剤の含有量がこの範囲内であると、衝撃吸収性等の各種性能を高めることができる上、発泡体からの可塑剤のブリードアウトも充分に抑制できる。より好ましくは20重量部以上、更に好ましくは30重量部以上であり、また上限は、より好ましくは60重量部以下、更に好ましくは50重量部以下である。可塑剤の好ましい範囲は、10重量部以上80重量部以下であり、より好ましい範囲は20重量部以上60重量部以下であり、更に好ましい範囲は30重量部以上50重量部以下である。
【0025】
本発明の発泡体は、インジウム及びスズを含む。発泡体がインジウム及びスズを含むことは、例えば、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法やICP質量分析法等により元素分析すれば、容易に判断することができる。インジウム及びスズは、発泡体中で、例えば酸化インジウムスズ等の複合体として存在していてもよいし、それぞれ別の化合物(例えば酸化物等)として存在していてもよいし、金属単体として存在していてもよい。中でも、酸化インジウムスズとして発泡体中に含まれることが好ましい。
【0026】
インジウム及びスズの含有量は、その合計含有量が、100ppm以上であることが好ましい。これにより、発泡速度向上効果がより高まる。より好ましくは300ppm以上、更に好ましくは500ppm以上、特に好ましくは1000ppm以上である。合計含有量の上限値は特に限定されないが、例えば、15000ppm以下であることが好ましい。なお、10000ppmを超えると発泡速度の向上効果は頭打ちになるため、原料コスト低減の観点から10000ppm以下であることがより好ましい。インジウム及びスズの合計含有量の好ましい範囲は、100ppm以上10000ppm以下であり、より好ましい範囲は、300ppm以上10000ppm以下であり、更に好ましい範囲は、500ppm以上10000ppm以下であり、特に好ましい範囲は、1000ppm以上10000ppm以下である。
【0027】
インジウムとスズとの含有比率は、Sn/(Sn+In)のモル比で0.01以上0.15以下が好ましく、0.04以上0.12以下が更に好ましい。また、In:Snの重量比が87:13~96:4であることが好ましい。
【0028】
本明細書中、発泡体中のインジウム及びスズの含有量は、下記条件下でICP発光分光分析装置(島津製作所社製の「ICPE-9000」、2012年製)を用いて測定することができる。
(測定条件)
点灯モード:標準(水)
付属装置:ミニトーチ
高周波パワー:1.20kW
プラズマガス:10.00L/min
補助ガス:0.60L/min
キャリアガス:0.70L/min
露光時間:30sec
感度:ワイドレンジ
観測方向:軸方向
【0029】
本発明の発泡体はまた、熱可塑性樹脂、可塑剤、インジウム及びスズの他に、例えば、増粘剤(タッキファイヤーとも称す)、離型剤、フィラー(充填材とも称す)、接着力調整剤、熱線吸収剤、紫外線遮蔽剤、酸化防止剤、光安定剤、帯電防止剤、熱可塑性エラストマー、液晶ポリマー等の添加剤の1種又は2種以上を含有してもよい。また、得られる発泡体の外観を調整するために、着色剤として、カーボンブラック等の顔料又は染料等を1種又は2種以上含有してもよい。
【0030】
上記発泡体100質量%中に占める、熱可塑性樹脂、可塑剤、インジウム及びスズの含有割合は、50質量%以上100質量%以下であることが好ましい。より好ましくは60質量%以上100質量%以下、更に好ましくは70質量%以上100質量%以下、特に好ましくは80質量%以上100質量%以下である。
【0031】
本発明の発泡体は、平均気泡径が100μm以上、1000μm以下であることが好ましい。これにより、より高い衝撃吸収性を発揮することができる。平均気泡径の下限は、より好ましくは120μm以上、更に好ましくは200μm以上であり、また上限は、より好ましくは500μm以下である。
本明細書中、平均気泡径は、気泡の断面観察写真より気泡壁部と空隙部とを観察して、空隙部のサイズを測定する方法により測定することができる。気泡径は気泡の長径を意味する。
【0032】
上記発泡体は、連続気泡率が10%以上であることが好ましい。これにより、より高い衝撃吸収性を発揮することができる。より好ましくは20%以上、更に好ましくは30%以上、特に好ましくは50%以上である。連続気泡率の上限は特に限定されないが、98%程度が実質的な上限である。
本明細書中、「連続気泡」とは、発泡体を形成する気泡がお互いにつながっているものを意味する。また、「連続気泡率」は、寸法測定によって得られる発泡体の見掛け体積に対する、発泡体の外部にまで連結している気泡の容積割合で定義され、JIS K7138(2006年)記載のピクノメータ法等により測定することができる。
【0033】
上記発泡体は、見かけ密度が100kg/m以上であることが好ましい。これにより、より優れた衝撃吸収性及び制振性を発揮することができる。より好ましくは200kg/m以上、更に好ましくは300kg/m以上、特に好ましくは400kg/m以上である。見かけ密度の上限は、軽量化の観点から、700kg/m以下が好ましく、600kg/m以下がより好ましく、500kg/m以下であることが更に好ましい。
本明細書中、見かけ密度は、JIS K7222(2005年)に準拠して測定することができる。
【0034】
上記発泡体は、発泡前後の発泡倍率が1.5倍以上であることが好適である。より好ましくは2倍以上、更に好ましくは3倍以上であり、また上限は特に限定されず、例えば40倍以下であることが好ましく、より好ましくは15倍以下、更に好ましくは9倍以下である。
本明細書中、発泡前後の発泡倍率は、発泡前の前駆体(樹脂シート等)の密度を、発泡後の発泡体の密度(見かけ密度)で除することで、算出される。
【0035】
上記発泡体は、JIS K7391(2008年)に従い、中央加振法による機械インピーダンス測定(MIM)により測定される反共振周波数の損失係数が、20℃、800Hz以下において0.1以上であることが好適である。具体的には、後述する制振性評価試験により損失係数及び共振周波数を測定したときに、20℃、800Hz以下において、損失係数が0.1以上であることが好ましい。より好ましくは0.15以上である。
【0036】
上記発泡体は、厚みが10mm以下であることが好ましい。これにより、得られる発泡体がせん断破断しにくくなる。より好ましくは8mm以下である。厚みの下限は50μm以上であることが好ましい。これにより、得られる発泡体の性能(例えば遮音性等)がより向上する。より好ましくは100μm以上である。ここでの厚みは、発泡体の最大厚みを意味する。
【0037】
(発泡体の製造方法)
本発明の発泡体を製造する方法としては、熱可塑性樹脂、可塑剤、発泡剤、インジウム及びスズを含有する樹脂組成物(発泡用樹脂組成物とも称す)を加熱する工程を含む方法が好ましい。この発泡用樹脂組成物を加熱工程(即ち発泡工程)に供することで、該発泡用樹脂組成物がインジウムとスズとを含むことに起因して、発泡速度が著しく向上する。これにより、高生産効率で発泡体を得ることができる。熱可塑性樹脂、可塑剤、発泡剤、インジウム及びスズを含有する発泡用樹脂組成物もまた、本発明の一つであり、上記製造方法により得られる発泡体は、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0038】
生産効率をより高める観点から、発泡体の製造方法として下記製造方法(I)がより好ましく、中でも下記製造方法(II)が更に好ましい。このように下記製造方法(I)又は(II)(より好ましくは下記製造方法(II))により得られる発泡体は、本発明の特に好適な実施形態の一つである。
(I)熱可塑性樹脂、可塑剤、インジウム、スズを含む樹脂組成物に、発泡剤を配合することで、発泡用樹脂組成物を調製する工程(調製工程とも称す)と、当該発泡用樹脂組成物を加熱する工程(加熱工程とも称す)と、を含む製造方法。
(II)熱可塑性樹脂、可塑剤、インジウム、スズを含む樹脂組成物に、発泡剤を配合することで、発泡用樹脂組成物を調製する工程(調製工程とも称す)と、当該発泡用樹脂組成物をシート状の原反に賦形する工程(樹脂シートの作製工程とも称す)と、当該工程で得た樹脂シートの少なくとも一方の主面に不織布を積層する工程(積層工程とも称す)と、当該工程で得た積層体を加熱する工程(加熱工程とも称す)と、を含む製造方法。
【0039】
上記発泡用樹脂組成物及び樹脂シートは、熱可塑性樹脂、可塑剤、発泡剤、インジウム及びスズを含有する。必要に応じて、上述した各種添加剤や着色剤を更に含んでもよい。各含有成分はそれぞれ1種又は2種以上用いることができる。
【0040】
上記発泡用樹脂組成物又は樹脂シートにおいて、可塑剤の含有量は、例えば、熱可塑性樹脂100重量部に対して、10重量部以上、80重量部以下 であることが好ましい。可塑剤の含有量がこの範囲内であると、得られる発泡体において衝撃吸収性等の各種性能を高めることができる上、発泡体からの可塑剤のブリードアウトも充分に抑制できる。より好ましくは20重量部以上、更に好ましくは30重量部以上であり、また上限は、より好ましくは60重量部以下、更に好ましくは50重量部以下である。可塑剤の好ましい範囲は、10重量部以上80重量部以下であり、より好ましい範囲は20重量部以上60重量部以下であり、更に好ましい範囲は30重量部以上50重量部以下である。
【0041】
上記発泡用樹脂組成物又は樹脂シート中、インジウム及びスズの含有量は、その合計含有量が、95ppm以上であることが好ましい。これにより、発泡速度向上効果がより高まる。より好ましくは475ppm以上、更に好ましくは950ppm以上である。合計含有量の上限値は特に限定されないが、例えば、14250ppmであることが好ましい。なお、9500ppmを超えると発泡速度の向上効果は頭打ちになるため、原料コスト低減の観点から9500ppm以下であることがより好ましい。インジウム及びスズの合計含有量の好ましい範囲は、95ppm以上9500ppm以下であり、より好ましい範囲は、475ppm以上9500ppm以下であり、更に好ましくは950ppm以上9500ppm以下である。なお、上記発泡用樹脂組成物又は樹脂シート中のインジウム及びスズの合計含有量をこれらの範囲に設定することで、得られる発泡体中のインジウム及びスズの合計含有量を上述した好ましい範囲に調整することが容易になる。
【0042】
インジウム及びスズは、上記発泡用樹脂組成物又は樹脂シート中で、例えば酸化インジウムスズ等の複合体として存在していてもよいし、それぞれ別の化合物(例えば酸化物等)として存在していてもよいし、金属単体として存在していてもよい。中でも、発泡速度向上の観点から、インジウム及びスズが、酸化インジウムスズとして発泡用樹脂組成物又は樹脂シートに含まれることが好適である。
【0043】
上記発泡用樹脂組成物100質量%中に占める、熱可塑性樹脂、可塑剤、発泡剤、インジウム及びスズの含有割合は、50質量%以上100質量%以下であることが好ましい。より好ましくは60質量%以上100質量%以下、更に好ましくは70質量%以上100質量%以下、特に好ましくは80質量%以上100質量%以下である。上記樹脂シート100質量%中に占める、熱可塑性樹脂、可塑剤、発泡剤、インジウム及びスズの含有割合もまた、50質量%以上100質量%以下であることが好ましい。より好ましくは60質量%以上100質量%以下、更に好ましくは70質量%以上100質量%以下、特に好ましくは80質量%以上100質量%以下である。
【0044】
ここで、合わせガラス用中間膜の廃棄物を発泡体の原料として用いる場合、当該廃棄物が既に熱可塑性樹脂、可塑剤、インジウム及びスズを含む場合は、当該廃棄物に発泡剤を配合させたものを、上記発泡用樹脂組成物として用いればよい。当該廃棄物が熱可塑性樹脂、可塑剤、インジウム及びスズのうちいずれか1以上を含まない場合や、含有成分の含有量が上述した好ましい範囲に満たない場合には、発泡剤とともにその成分を当該廃棄物に配合させたものを、上記発泡用樹脂組成物として用いればよい。なお、多くの合わせガラス用中間膜では、ポリビニルアセタール100重量部に対する可塑剤の含有量が20~55重量部程度である。それゆえ、合わせガラス用中間膜の廃棄物を発泡体の原料として好適に再利用することができる。
【0045】
上記発泡剤は、熱分解型発泡剤であることが好ましい。熱分解型発泡剤としては、分解温度が120~240℃程度であるものが好ましく、分解温度がこの範囲にある従来公知のものを用いることができる。なお、連続気泡率をより高める観点から、発泡前の原料である樹脂組成物の成形温度に対して、分解温度が20℃以上高い熱分解型発泡剤を用いることが好ましく、50℃以上高い熱分解型発泡剤を用いることがより好ましい。
【0046】
上記熱分解型発泡剤として具体的には、例えば、アゾジカルボンアミド、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン、4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、尿素、炭酸水素ナトリウム、及び、これらの混合物等が挙げられる。市販のものとしては、例えば、セルマイクシリーズ(三協化成社製)やビニホールシリーズ、セルラーシリーズ、ネオセルボンシリーズ(以上、永和化成工業社製)等が挙げられる。中でも、発泡速度向上の観点から、窒素を含む化合物が好ましく、アゾ系化合物がより好ましく、更に好ましくはアゾジカルボンアミドである。特に上記熱可塑性樹脂がポリビニルアセタールを含み、かつ上記可塑剤がトリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエートを含む場合に、上記発泡剤としてアゾジカルボンアミド等の窒素を含む化合物を少なくとも用いると、インジウムとスズとの存在下で極めて優れた発泡促進効果が得られるため、好適である。
【0047】
上記発泡剤の配合量は、例えば、熱可塑性樹脂100重量部に対し、1重量部以上、20重量部以下であることが好ましい。発泡剤の配合量がこの範囲内であると、所望の連続気泡率が容易に得られる。発泡剤の配合量の下限は、より好ましくは1.5重量部以上、更に好ましくは2重量部以上であり、また上限は、より好ましくは15重量部以下である。発泡剤の好ましい範囲は、1重量部以上20重量部以下であり、より好ましい範囲は1.5重量部以上20重量部以下であり、更に好ましい範囲は2重量部以上15重量部以下である。
【0048】
上記発泡用樹脂組成物を得た後、混錬機等を用いて、例えば120℃以上、かつ発泡剤の分解温度未満で、混合することが好適である。この混合工程を行う場合は、混合工程の後に、上記加熱工程や上記樹脂シートの作製工程を行うことが好ましい。
【0049】
上記製造方法(II)では、上記調製工程(好ましくは上記混合工程)を行った後に、発泡用樹脂組成物をシート状の原反に賦形する工程(即ち樹脂シートの作製工程)を行う。具体的には、例えば、発泡用樹脂組成物を押出機により押出すことで、樹脂シートを作製することが好適である。その後、得られた樹脂シートの少なくとも一方の主面に不織布を積層する工程(即ち積層工程)を行う。このようにして得られる、熱可塑性樹脂、可塑剤、発泡剤、インジウム及びスズを含有する樹脂シートの少なくとも一方の主面に不織布が積層された積層体は、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0050】
上記不織布は、微小な空隙を有するものであれば特に限定されない。
上記不織布の目付けは、6g/m以上であることが好ましい。これにより、より良好な透湿性、通気性が得られる他、発泡が良好に行われる。より好ましくは8g/m以上、更に好ましくは10g/m以上、特に好ましくは12g/m以上、最も好ましくは15g/m以上である。また、制振性向上の観点から、目付の上限は100g/m以下であることが好ましい。これにより、制振性だけでなく通気性もより良好になり、発泡形状もより安定する。また、発泡ガスが樹脂シートと不織布との間に残存することがより充分に抑制されて、樹脂シートと不織布との剥離が充分に抑制される。より好ましくは80g/m以下、更に好ましくは60g/m以下である。
【0051】
上記不織布の材料(材質)は特に限定されないが、例えば、セルロース、絹、麻、パルプ等の天然繊維;ポリエステル、ナイロン、レーヨン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート等の合成繊維;これらの混紡;等が挙げられる。合成繊維の中でも、熱可塑性樹脂から得られる合成繊維が好適である。これらの中でも、不織布の材料としては、発泡温度で変化(例えば溶融、収縮等)しないものが好ましい。より好ましくは、パルプ、及び/又は、ポリエステルである。なお、必要に応じてバインダーを用いてもよく、また必要に応じて着色してもよい。
【0052】
上記不織布の厚みは特に限定されないが、例えば、不織布の最大厚みが0.1mm以上、1mm以下であることが好ましい。この範囲であれば取り扱い性がより向上する。下限は、より好ましくは0.12mm以上であり、また上限は、より好ましくは0.2mm以下である。
【0053】
上記不織布は、樹脂シートの少なくとも一方の主面に積層すればよいが、樹脂シートの両面の主面に積層することが好適である。「主面に積層する」とは、積層する面の総面積を100%とすると、その50%以上を覆うように積層することを意味する。総面積100%に対し、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上を覆うように積層することである。上限は100%以下であればよい。
なお、不織布は、適当な大きさに切断して(即ちスライスして)積層してもよい。その場合にも、積層面の総面積100%に対して上述した割合を覆うように、不織布を積層することが好適である。
【0054】
上記製造方法(I)では発泡用樹脂組成物を得た後(好ましくは上記混合工程を行った後)、又は、上記製造方法(II)では樹脂シートを得た後、冷却せずに、次の加熱工程を行うことが好適である。これにより、発泡がより良好に行われる。加熱工程では、加熱により発泡剤が分解されて発泡が行われるため、加熱工程を発泡工程とも称す。
【0055】
発泡温度(即ち加熱温度)は、180℃以上であることが好ましい。特に熱可塑性樹脂としてポリビニルアセタールを含む場合、180℃以上の温度では、発泡時に樹脂組成物が充分に軟化して気泡同士が連通しやすくなるため、連続気泡が発生し易くなる。特に熱可塑性樹脂としてポリビニルアセタールを含む場合に、この作用が顕著に見られる。より好ましくは190℃以上、より好ましくは230℃以上である。上限は特に限定されないが、例えば、300℃以下が現実的である。
【0056】
発泡時間(即ち加熱時間)は特に限定されないが、例えば、0.1分~1時間とすることが好ましい。これにより、より良好な発泡を実現できる。発泡時間の下限は、より好ましくは1分以上、更に好ましくは2分以上であり、また上限は、より好ましくは30分以下、更に好ましくは10分以下である。
【0057】
上記製造方法(II)では、不織布が積層されている状態で発泡体が得られる。すなわち上記製造方法(II)によって、上記発泡体の少なくとも一方の主面(好ましくは両面の主面)に不織布が積層されている積層発泡体を好適に得ることができる。このような積層発泡体は本発明の好適な実施形態の一つであるが、必要に応じて不織布を取り除く工程を行ってもよい。
【0058】
(発泡体の用途等)
本発明の発泡体は、高生産性で得られる上、軽量でありながらも優れた物性(例えば制振性等)を発揮することができるため、各種用途に好適に利用できる。即ち本発明の発泡体は、例えば、自動車、航空機、船舶等の車両用部材;建築部材;電子部品;床材等の住宅用建材;家庭用、業務用の電気製品;等のあらゆる用途に有用である。また、本発明の発泡体をシート状に成形した発泡体シートは、取り扱い性に優れるため好ましい。このような本発明の発泡体からなる発泡体シートは、本発明の好適な実施形態の一つである。更に、本発明の発泡体を含む遮音材、衝撃吸収材又は振動吸収材もまた、本発明の好適な実施形態に含まれる。振動吸収材には、制振材及び耐震材が含まれる。
【0059】
本発明の発泡体はまた、上述したように合わせガラス用中間膜の廃棄物を原料として用いることが可能である。従って、合わせガラス用中間膜のリサイクルの確立に極めて有用である。よって、環境負荷の軽減やコスト低減に充分に寄与することができる。
【発明の効果】
【0060】
本発明によれば、性能が低下することなく高生産効率で得られ、かつ合わせガラス用中間膜のリサイクル品としても有用な発泡体、及び、その製造方法を提供することができる。また、このような発泡体を得るための発泡用樹脂組成物を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1】試験例1~10において、発泡開始から3分後の各発泡体の断面写真である。
図2】試験例1~10における発泡開始から3分後の各発泡体の発泡倍率に基づき、インジウム及びスズの濃度が発泡倍率に与える影響を評価したグラフである。
図3A】試験例1において、発泡開始から3分後、4分後、5分後、6分後、7分後及び9分後のそれぞれの時間経過後の各発泡体の断面写真である。
図3B】試験例9において、発泡開始から3分後、4分後、5分後、6分後、7分後及び9分後のそれぞれの時間経過後の各発泡体の断面写真である。
図4A】試験例1、9及び10における発泡開始から3分後、4分後、5分後、6分後、7分後及び9分後のそれぞれの時間経過後の各発泡体の発泡倍率に基づいて、インジウム及びスズの濃度が発泡倍率及び発泡時間に与える影響を評価したグラフである。
図4B】試験例1、9及び10における発泡開始から3分後、4分後、5分後、6分後、7分後及び9分後の各発泡体の発泡前後の重量を測定し、インジウム及びスズの濃度が重量減少率及び発泡時間に与える影響を評価したグラフである。
図5】制振性評価試験に用いた積層サンプルの断面模式図である。
図6A】試験例1及び9の制振性評価試験の結果を示すグラフである。
図6B】試験例1及び9の制振性評価試験の結果を示すグラフである。
図7A】試験例1及び9の制振性評価試験の結果を示すグラフである。
図7B】試験例1及び9の制振性評価試験の結果を示すグラフである。
図8A】試験例1、11及び12の発泡開始から3分後の各発泡体の断面写真である。
図8B】試験例1、11及び12における発泡開始から3分後の各発泡体の発泡倍率に基づき、セシウム及びタングステンの濃度が発泡倍率に与える影響を評価したグラフである。
図9A】試験例1、13及び14の発泡開始から3分後の各発泡体の断面写真である。
図9B】試験例1、13及び14における発泡開始から3分後の各発泡体の発泡倍率に基づき、フタロシアニンの濃度が発泡倍率に与える影響を評価したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。なお、wt%は、重量%を意味し、1wt%=10000ppmである。
【0063】
以下の例では、樹脂組成物の配合成分等として以下の化合物を使用した。
(1)熱可塑性樹脂:ポリビニルブチラール、水酸基の含有率31モル%、アセチル化度0.7モル%、ブチラール化度68.3モル%、平均重合度1800
(2)可塑剤:トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)
(3)発泡剤:セルマイクCE、三協化成社製
(4)増粘剤:アルコンM-135、荒川化学工業社製(軟化点135℃)
(5)離型剤:粉末ステアリン酸 さくら、日油社製
(6)着色剤:カーボンブラック、東海カーボン社製、シーストSP
【0064】
以下の例において、発泡体の発泡倍率は以下のように算出した。
まずJIS K7222(2005年)に準拠して、見掛け密度を測定した。そして、発泡前の樹脂シートの密度を、発泡後の発泡体の密度(見掛け密度)で除することで、発泡倍率を算出した。
【0065】
(試験例1)
ポリビニルブチラール100重量部に対して可塑剤(3GO)を40重量部加えて、中間体を作製した。この中間体100重量部に対し、表1に示す各成分を加えて発泡用樹脂組成物を得た。得られた発泡用樹脂組成物を120℃にてミキシングロールで充分に混練した後、押出機により押出して、シート状体を得た。このシート状体を、樹脂シートとも称す。
得られた樹脂シートの両面を不織布(ユニチカ社製、種類:ポリエステル、目付:15g/m)で挟み込み、プレス機を用いて120℃で熱圧着させることで、積層体を得た。積層体の平面サイズは、6cm角とした。次いで、得られた積層体を、冷却せずにオーブンに投入し、オーブン中、210℃の発泡温度にて、所定の時間、熱分解型発泡剤を分解させることにより、シート状の発泡体を得た。
【0066】
(試験例2、3、4、5、6、7、8、9、10)
発泡用樹脂組成物を得る際に、酸化インジウムスズ(三菱マテリアル電子化成社製)を表1に示す量で更に添加したこと以外は、試験例1と同様にして、シート状の発泡体を作製した。表1に、得られた各発泡体中に含まれるインジウム及びスズの合計含有量(インジウム及びスズの濃度とも称す)を示す。この含有量は、上述した方法にて測定した。
【0067】
【表1】
【0068】
試験例1~10において、発泡開始から3分後にオーブンから発泡体を取り出し、一辺の中心線で切断して、断面部を観察した。この断面部の写真を図1に示す。また、試験例1~10において発泡開始から3分後に取り出した各発泡体について、冷却した後、発泡倍率(発泡温度:210℃)を算出した。結果を表2及び図2に示す。表2には、対比しやすくするために、各発泡体中のインジウムとスズの合計含有量も併記した。
なお、「発泡開始」とは、オーブン内の温度が発泡剤の分解温度に到達した時点を意味する。予めオーブン内が当該分解温度以上に設定されている場合は、当該オーブンに投入した時点を意味する。以下同様である。
【0069】
【表2】
【0070】
試験例1、9及び10において、発泡開始から3分後、4分後、5分後、6分後、7分後及び9分後のそれぞれの時間経過後にオーブンから発泡体を取り出した。このうち試験例1及び9で得た各発泡体については、一辺の中心線で切断して、断面部を比較観察した。断面部の観察写真を図3A及び図3Bに示す。また、試験例1、9及び10においてオーブンから取り出した各発泡体について、冷却した後、発泡倍率(発泡温度:210℃)及び重量変化率を算出した。結果を表3、表4、図4A及び図4Bに示す。
【0071】
【表3】
【0072】
【表4】
【0073】
図1は、試験例1~10において、発泡開始から3分後の各発泡体の断面写真である。参考までに、各発泡体の下に、未発泡の積層体を配置した。その上に、対比しやすくするために、試験例1、5、6、7、8、9、10で得た各発泡体を、この順に下から重ねている。例えば、「未発泡」の積層体のすぐ上に位置する「0wt%」の発泡体は、試験例1で得た発泡体であり、一番上に位置する「1.0wt%」の発泡体は、試験例10で得た発泡体である。図2は、試験例1~10における発泡開始から3分後の各発泡体の発泡倍率(表2参照)に基づき、インジウム(In)及びスズ(Sn)の濃度が発泡倍率に与える影響を評価したグラフである。図1及び図2より、発泡体中のインジウム及びスズの濃度に比例して、発泡速度が増加すること、即ち同じ時間では、インジウム及びスズの濃度が大きいほど発泡倍率が大きいことが分かる。従って、試験例2~10のようにインジウム及びスズを含む場合、発泡時間短縮による発泡体の生産性向上効果が期待できる。
【0074】
図3Aは、試験例1において、発泡開始から3分後、4分後、5分後、6分後、7分後及び9分後のそれぞれの時間経過後の各発泡体の断面写真である。試験例1の各発泡体では、インジウム及びスズの濃度は0wt%である。図3Bは、試験例9において、発泡開始から3分後、4分後、5分後、6分後、7分後及び9分後のそれぞれの時間経過後の各発泡体の断面写真である。試験例9の各発泡体では、インジウム及びスズの濃度は0.5wt%である。図3A(試験例1)と図3B(試験例9)とを対比すると、試験例9では、試験例1に比べて早い時間で発泡し、早くしぼむことが分かる。また、試験例9の3分後の発泡体(図3B中、一番下の発泡体)と同程度の厚みを有するのは、試験例1の4分後の発泡体(図3A中、下から二番目の発泡体)である。試験例9の4分後の発泡体(図3B中、下から二番目の発泡体)と同程度の厚みを有するのは、試験例1の5分後の発泡体(図3A中、下から三番目の発泡体)である。従って、同程度の厚みを得るための発泡時間は、試験例9では、試験例1よりも著しく短縮されたことが明らかである。
【0075】
図4Aは、試験例1、9及び10における発泡開始から3分後、4分後、5分後、6分後、7分後及び9分後のそれぞれの時間経過後の各発泡体の発泡倍率(表3参照)に基づいて、インジウム及びスズの濃度が発泡倍率及び発泡時間に与える影響を評価したグラフである。図4Bは、試験例1、9及び10における発泡開始から3分後、4分後、5分後、6分後、7分後及び9分後のそれぞれの時間経過後の各発泡体の発泡倍率(表4参照)に基づいて、インジウム及びスズの濃度が重量減少率及び発泡時間に与える影響を評価したグラフである。図4A及び図4Bにおいて、「0wt%」のグラフは試験例1の発泡体であり、「0.5wt%」のグラフは試験例9の発泡体であり、「1.0wt%」のグラフは試験例10の発泡体である。折れ線も併記した。図4Aより、試験例9では、試験例1よりも速い時間で発泡倍率が上昇し、試験例10では更に、試験例9よりも速い時間で発泡倍率が上昇することが分かる。また図4Bより、試験例9では、試験例1よりも速い時間で重量減少率が上昇し(即ち、より短い時間で重量が減少し)、試験例10では更に、試験例9よりも速い時間で重量減少率が上昇する(即ち、より短い時間で重量が減少する)ことが分かる。
【0076】
次に、試験例1及び9で得た発泡体の制振性を以下の試験方法に従って評価した。結果を、表5、表6、図6A図6B及び図7A図7Bに示す。
(制振性評価試験)
図5に示す多層構造の積層サンプル1を準備した。フローリング板10として、幅25mm、長さ305mm、厚み6mmのフローリング板(大建工業株式会社製、商品名「ZQT2410」)を用い、発泡体30の幅及び長さをこれと同じサイズにした。発泡体30の両面に、フローリング板10を、両面テープ20(積水化学工業社製、「ダブルタックテープNo.570E」)を介して貼り合わせた。得られた各積層サンプル1について、JIS K7391(2008年)に従い、中央加振法による機械インピーダンス測定(MIM)により、10℃、20℃及び30℃の各測定温度における1次共振周波数及び1次損失係数を測定した。図5は、制振性評価試験に用いた積層サンプルの断面模式図である。
【0077】
【表5】
【0078】
【表6】
【0079】
図6A図6B及び図7A図7Bはいずれも、試験例1及び9の制振性評価試験の結果を示すグラフであるが、このうち図6A及び図6Bは、同じ厚みの発泡体について制振性を評価した結果である(表5参照)。即ち具体的には、試験例1では発泡開始から4分後にオーブンから取り出した発泡体を用い、試験例9では発泡開始から3分後にオーブンから取り出した発泡体を用いることで、発泡倍率を揃えて対比した。なお、発泡体を冷却した後に試験に供した。その結果を、表5、図6A及び図6Bに示している。
【0080】
一方、図7A図7Bは、同じ発泡時間としたときの発泡体について制振性を評価した結果である(表6参照)。即ち具体的には、試験例1及び9において、いずれも発泡開始から3分後にオーブンから取り出した発泡体を用いることで、発泡時間を揃えて対比した。なお、発泡体を冷却した後に試験に供した。その結果を、表6、図7A及び図7Bに示している。
【0081】
図6A及び図6Bより、発泡時間が短縮されても、発泡体の制振性は低下せず、同等の性能が得られることが分かる。同じ発泡時間で得た発泡体を比較すると、図7A及び図7Bより、試験例9で得た発泡体を用いた場合は、試験例1で得た発泡体を用いた場合よりも制振性が高いことが分かる。
【0082】
なお、上記試験例ではフィラーを用いていないが、反応機構を考慮すれば、発泡用樹脂組成物がフィラーを更に含む場合も、上記と同様の傾向が得られることが期待できる。
【0083】
上記試験例1~10より、発泡体(及び発泡用樹脂組成物)がインジウム及びスズを含む場合には、発泡速度が著しく向上すること、及び、発泡速度が著しく向上したにも関わらず、得られた発泡体に性能低下が生じないこと、が分かった。
【0084】
ところで、合わせガラスの遮熱性を高めるために、合わせガラス用中間膜に、錫ドープ酸化インジウム粒子(ITO粒子)、セシウムドープ酸化タングステン粒子等の金属酸化物粒子や、フタロシアニンを含有させる技術が知られている(例えば特許文献3参照)。そこで、酸化インジウムスズに代えて、フタロシアニンやセシウムドープ酸化タングステンを用いた場合にも、上記と同様の傾向が見られるのか検討した(後述の試験例11~14参照)。
【0085】
(試験例11、12)
発泡用樹脂組成物を得る際に、セシウムドープ酸化タングステン(住友金属鉱山社製)を表7に示す量で更に添加したこと以外は、試験例1と同様にして、シート状の発泡体を作製した。表7に、得られた各発泡体中に含まれるセシウム及びタングステンの合計含有量(濃度)を示す。この含有量は、上述したインジウム及びスズの含有量の測定方法と同じ方法で測定した。
【0086】
(試験例13、14)
発泡用樹脂組成物を得る際に、フタロシアニン(山田化学工業社製)を表7に示す量で更に添加したこと以外は、試験例1と同様にして、シート状の発泡体を作製した。表7に、得られた各発泡体中に含まれるフタロシアニンの含有量を示す。この含有量は、上述したインジウム及びスズの含有量の測定方法と同じ方法で測定した。
【0087】
【表7】
【0088】
試験例1、11及び12において、発泡開始から3分後にオーブンから発泡体を取り出し、一辺の中心線で切断して、断面部を観察した。この断面部の写真を図8Aに示す。また、試験例1、11及び12において発泡開始から3分後に取り出した各発泡体について、冷却した後、発泡倍率(発泡温度:210℃)を算出した。結果を表8及び図8Bに示す。表8には、各発泡体中のセシウムとタングステンの合計含有量も併記した。
【0089】
【表8】
【0090】
図8Aは、試験例1、11及び12において、発泡開始から3分後の各発泡体の断面写真である。試験例1、11、12で得た各発泡体を、この順に下から重ねている。即ち、一番下に位置する「0wt%」の発泡体は、試験例1で得た発泡体であり、中央に位置する「0.02wt%」の発泡体は、試験例11で得た発泡体であり、一番上に位置する「0.50wt%」の発泡体は、試験例12で得た発泡体である。図8Bは、試験例1、11及び12における発泡開始から3分後の各発泡体の発泡倍率(表8参照)に基づき、セシウム(Cs)及びタングステン(W)の濃度が発泡倍率に与える影響を評価したグラフである。図8A及び図8Bより、発泡は、発泡体中のセシウム及びタングステンの濃度に影響されないこと、むしろその濃度が高いと発泡が阻害されること、が分かる。
【0091】
試験例1、13及び14において、発泡開始から3分後にオーブンから発泡体を取り出し、一辺の中心線で切断して、断面部を観察した。この断面部の写真を図9Aに示す。また、試験例1、13及び14において発泡開始から3分後に取り出した各発泡体について、冷却した後、発泡倍率(発泡温度:210℃)を算出した。結果を表9及び図9Bに示す。表9には、各発泡体中のフタロシアニンの含有量も併記した。
【0092】
【表9】
【0093】
図9Aは、試験例1、13及び14において、発泡開始から3分後の各発泡体の断面写真である。試験例1、13、14で得た各発泡体を、この順に下から重ねている。即ち、一番下に位置する「0wt%」の発泡体は、試験例1で得た発泡体であり、中央に位置する「0.02wt%」の発泡体は、試験例13で得た発泡体であり、一番上に位置する「0.50wt%」の発泡体は、試験例14で得た発泡体である。図9Bは、試験例1、13、14における発泡開始から3分後の各発泡体の発泡倍率(表9参照)に基づき、フタロシアニンの濃度が発泡倍率に与える影響を評価したグラフである。図9A及び図9Bより、発泡は、発泡体中のフタロシアニンの濃度に影響されないことが分かる。
【0094】
以上より、酸化インジウムスズに代えて、フタロシアニン又はセシウムドープ酸化タングステンを用いた場合には、発泡の程度は、これらをいずれも含まない場合(試験例1参照)とほぼ同等であり、これらの成分は発泡に影響を与えないことが分かった。従って、上記試験例1~10で実証された、発泡速度が著しく向上するという効果は、発泡体(及び発泡用樹脂組成物)がインジウムとスズとを含む場合に特有の効果であることが分かった。このことは、これまで全く知られておらず、本発明者らが初めて見出した事項である。それゆえ、例えば合わせガラスの遮熱剤として、フタロシアニンやセシウムドープ酸化タングステンと同列に、酸化インジウムスズが知られていたとしても、酸化インジウムスズを選択した場合に発揮される上記効果は、当業者にとって予測すらできない異質な効果と言える。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明によれば、性能が低下することなく高生産効率で得られ、かつ合わせガラス用中間膜のリサイクル品としても有用な発泡体、及び、その製造方法を提供することができる。また、このような発泡体を得るための発泡用樹脂組成物を提供することもできる。
【符号の説明】
【0096】
1:積層サンプル
10:フローリング板
20:両面テープ
30:発泡体
40:不織布
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B