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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179943
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20241219BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
G01N17/00
G01N21/27 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099290
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三谷 一房
【テーマコード(参考)】
2G050
2G059
【Fターム(参考)】
2G050AA02
2G050CA01
2G050EB07
2G050EB10
2G059AA05
2G059BB08
2G059BB10
2G059CC20
2G059EE02
2G059EE13
2G059FF03
2G059GG01
2G059MM09
2G059MM10
(57)【要約】
【課題】表面変状を適切に評価する。
【解決手段】木質リファレンス材の表面の暴露試験前後の色差に対する木質材の表面の暴露試験前後の色差の比である色差比と、前記木質リファレンス材の表面の暴露試験後の面粗さに対する前記木質材の表面の暴露試験後の面粗さの比である面粗さ比と、に基づき、前記木質材の表面変状を評価することを特徴とする評価方法。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質リファレンス材の表面の暴露試験前後の色差に対する木質材の表面の暴露試験前後の色差の比である色差比と、
前記木質リファレンス材の表面の暴露試験後の面粗さに対する前記木質材の表面の暴露試験後の面粗さの比である面粗さ比と、
に基づき、前記木質材の表面変状を評価する、
ことを特徴とする評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の評価方法であって、
前記色差比と前記面粗さ比の相関を指標として、前記木質材の表面変状を評価する、
ことを特徴とする評価方法。
【請求項3】
請求項1に記載の評価方法であって、
前記色差比と前記面粗さ比の積を指標として、前記木質材の表面変状を評価する、
ことを特徴とする評価方法。
【請求項4】
請求項3に記載の評価方法であって、
前記色差比と前記面粗さ比の積と、前記木質リファレンス材のコストに対する前記木質材のコストの比であるコスト比との相関を指標として、前記木質材の表面変状を評価する、
ことを特徴とする評価方法。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか1項に記載の評価方法であって、
前記木質材の表面には、塗装が施されており、
前記木質リファレンス材の表面には、前記塗装が施されていない、
ことを特徴とする評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質材の表面変状の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
屋外環境における木質材の表面は太陽光、乾燥・湿潤、腐朽菌・カビ等の影響により、比較的短期間で変色・変質してしまう。このような木質材の表面の劣化状況(表面変状)を評価する方法として、例えば、特許文献1には、木質材に光を照射し、照射前と照射後の色の差(色差)を求めることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61-8663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、色差による評価では、表面形状の劣化(割れや凹凸の発生など)は捉えられない。また、後述するように、元(光の照射前)の色によって、見かけ上の色差が大きくなる場合もある。このように、色差のみでは、木質材表面の表面変状を適切に評価できないおそれがあった。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、木質材の表面変状を適切に評価することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための主たる発明は、木質リファレンス材の表面の暴露試験前後の色差に対する木質材の表面の暴露試験前後の色差の比である色差比と、前記木質リファレンス材の表面の暴露試験後の面粗さに対する前記木質材の表面の暴露試験後の面粗さの比である面粗さ比と、に基づき、前記木質材の表面変状を評価することを特徴とする評価方法である。
【0007】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、表面変状を適切に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】条件の異なる処理を施した木質材の暴露試験前後の様子を示す図である。
図2図1の暴露試験における暴露時間と、各仕様の暴露試験前後の色差ΔEの関係を示す図である。
図3】第1実施形態の木質材表面の評価方法を示すフロー図である。
図4】第1実施形態の評価結果を示す図である。
図5】第2実施形態の木質材表面の評価方法を示すフロー図である。
図6】第2実施形態の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0011】
(態様1)
木質リファレンス材の表面の暴露試験前後の色差に対する木質材の表面の暴露試験前後の色差の比である色差比と、前記木質リファレンス材の表面の暴露試験後の面粗さに対する前記木質材の表面の暴露試験後の面粗さの比である面粗さ比と、に基づき、前記木質材の表面変状を評価することを特徴とする評価方法。
【0012】
態様1の評価方法によれば、色差のみでなく、面粗さ(3次元形状)についても評価するので、表面変状を適切に評価することができる。
【0013】
(態様2)
態様1に記載の評価方法であって、前記色差比と前記面粗さ比の相関を指標として、前記木質材の表面変状を評価することが望ましい。
【0014】
態様2の評価方法によれば、色と形状の変状を一元的(総合的)に評価することができる。
【0015】
(態様3)
態様1に記載の評価方法であって、前記色差比と前記面粗さ比の積を指標として、前記木質材の表面変状を評価することが望ましい。
【0016】
態様3の評価方法によれば、色差比と面粗さ比の積に基づいて性能を評価することができる。
【0017】
(態様4)
態様3に記載の評価方法であって、前記色差比と前記面粗さ比の積と、前記木質リファレンス材のコストに対する前記木質材のコストの比であるコスト比との相関を指標として、前記木質材の表面変状を評価することが望ましい。
【0018】
態様4の評価方法によれば、性能とコストの関係を評価することができる。
【0019】
(態様5)
態様1~態様4の何れか1項に記載の評価方法であって、前記木質材の表面には、塗装が施されており、前記木質リファレンス材の表面には、前記塗装が施されていないことが望ましい。
【0020】
態様5の評価方法によれば、塗装による効果を評価することができる。
【0021】
===第1実施形態===
<一般的な木質材表面の評価について>
地球温暖化対策の一環として、二炭化炭素の固定源となる木材を構造材として使用する大規模な木質構造に関する技術開発が行われており、近年は、建物内装のみならず、外装においても木質材が活用されている。
【0022】
なお、本願において「木質材」とは、原木から切り出された木材(無垢材)には限られず、木材原料で製造される材料全般(例えば、合板、集成材、単層積層材など)を含むものとする。
【0023】
屋外環境において、木質材の表面は、例えば、太陽光、乾燥・湿潤、腐朽菌・カビ等の影響により、比較的短期間で変色・変質していく。そこで木質材の当初の外観を維持するために、例えば、保存処理・改質処理した木材を使用したり、表面に塗装を施したりすることが多い。
【0024】
一般的に、木質材の表面の劣化状況(変色や変質などの表面変状)を評価する場合、暴露試験を行っている。暴露試験とは、材料が屋外や日光のあたる場所で使用された場合の耐候性を評価する試験である。
【0025】
図1は、条件の異なる処理を施した木質材の暴露試験前後の様子を示す図である。図の上段は処理仕様Xを施した木質材(以下、単に仕様Xと称する)、下段は処理仕様Yを施した木質材(以下、単に仕様Yと称する)である。また、図の左側は、暴露試験前の状態示す写真であり、右側は、暴露試験後の状態を示す写真である。
【0026】
なお、暴露試験には、材料を実際に屋外にさらす屋外暴露試験と、自然環境の劣化作用要因(例えば光の強さ)を人工的に増幅させた機械を用いる促進暴露試験があるが、ここでは、試料に紫外線を照射する促進耐候性試験機を用いた促進暴露試験を行なっている(後述の実施形態についても同様)。
【0027】
図1の写真から、暴露試験後では、仕様Xおよび仕様Yともに、紫外線の照射された部分が変色している(具体的には白色化を呈している)ことがわかる。
【0028】
このような暴露試験による木質材表面の変状(表面変状)を評価する際には、木質材の色の変化を数値化して、色の差(色差)を求めることが行なわれている。
【0029】
なお、色差とは、2つの色の違いのことであり、一般的には、色を数値化して表現する表色系、例えば、L表色系、マンセル表色系、Lh表色系、ハンターLab表色系、XYZ(Yxy)表色系などの各種表色系により、数値として求めることができる。
【0030】
ここでは、色差をL表色系により求めることとし、L表色系における2つの色の差を色差ΔEa(以下、単に色差ΔEともいう)とする。この色差ΔEは、L色空間におけるユークリッド距離であり、次の式(1)から求めることができる。
ΔE=[(ΔL+(Δa+(Δb1/2 ・・・・・・(1)
【0031】
ここで、「ΔL」は、2つの色の明度(L)の差を示している。また、「Δa」および「Δb」は、2つの色の色相と彩度の差を示している。より具体的には、「Δa」は、赤緑方向(a)の差を示している。また、「Δb」は、黄青方向(b)の差を示している。
【0032】
色差ΔEが小さいほど、色の変化が小さく(すなわち、人の視覚が感じる色の差が小さく)、また色差ΔEが大きいほど、色の変化が大きい(すなわち、人の視覚が感じる色の差が大きい)ことになる。
【0033】
図2は、図1の暴露試験における暴露時間と、各仕様の暴露試験前後の色差ΔEの関係を示す図である。図2の横軸は暴露時間(h)であり、縦軸は色差(ΔE)である。
【0034】
図2より、同じ暴露時間で比較すると、仕様Xの色差よりも仕様Yの色差の方が小さい。よって、色差による評価では、仕様Yの方が仕様Xよりも耐久性に優れているという評価結果となる。
【0035】
しかしながら、図1の暴露試験前の状態において、仕様Xの色は、仕様Yの色よりも濃い(暗い)色である。このように試験前の状態において色が濃い(暗い)場合は、淡い(明るい)色の場合と比べて、見かけ上の色差が大きくなる。
【0036】
また、図1の暴露後の写真において、仕様Yの暴露箇所(白色化している箇所)の表面に割れや凹凸が生じていることがわかる。色差(局所的な点での色の評価)ではこのような3次元的形状の劣化(割れや凹凸の発生)までは捉えられない。
【0037】
よって、「色差」だけの評価では、適切な評価であるとは言えない。
【0038】
そこで、以下の本実施形態では、色差だけでなく、他のパラメータ(後述する面粗さ)についても評価している。
【0039】
<本実施形態の評価方法について>
図3は、第1実施形態の木質材表面の評価方法を示すフロー図である。
【0040】
まず、評価を行う供試体を作製する(S01)。本実施形態では、表面に異なる表面処理(塗装)を施した5つの供試体(仕様A~Eの木質材)と、基準となる無処理(標準仕様)の供試体(リファレンス材:木質リファレンス材に相当)を用意した。なお、各供試体に用いられる木材の種類は全て同じである。
【0041】
次に、各供試体の色測定を行なう(S02)。色の測定方法としては、赤・緑・青の3刺激に応答するセンサー(色彩計)を用いる「刺激値直読方法」と、対象物(供試体)から反射された光を、回折格子などで分光して測定する「分光測色方法」がある。この「刺激値直読方法」と「分光測色方法」の何れかにより、L表色系における「L」,「a」,「b」の各値を求める。本実施形態では、各仕様につき、表面の局所的な3点を測定(3点の「L」,「a」,「b」をそれぞれ求め)、その平均を算出した。
【0042】
次に、各供試体について暴露試験(促進暴露試験)を所定時間行ない(S03)、その後、暴露試験前の色測定(ステップS02)と同様に色測定を行なう(S04)。
【0043】
そして、リファレンス材、及び、仕様A~Eの供試体について、それぞれ、式(1)により暴露試験前後(暴露試験前と暴露試験後)の色差ΔEを求め、リファレンス材の色差に対する各仕様の色差の比である色差比(ΔE比)を算出する(S05)。
【0044】
本実施形態における色差ΔEと色差比(ΔE比)の算出結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
例えば、仕様Aの暴露試験前後の色差ΔEは7.8であり、リファレンス材の暴露試験前後の色差ΔEは39.3なので、仕様Aの色差比(ΔE比)は、7.8/39.3=0.20となる。他の仕様についても同様に色差比(ΔE比)を算出した。
【0047】
次に、リファレンス材及び仕様A~Eの各供試体について、暴露試験後の面粗さを測定し(S06)、リファレンス材の面粗さに対する各仕様の面粗さの比である面粗さ比を算出する(S07)。
【0048】
ここで、面粗さは、表面の平均面に対して、複数個所の高さの差の絶対値の平均を表すパラメータ(算術平均高さSa)であり、ISO 25178に準拠して測定する。具体的には、非接触式のデジタルマイクロスコープ(例えば、ハイロックス社製 製品名HRX-01、又はその同等品)を用いて、供試体の表面をスキャニングし、解析ソフトで分析することにより、面粗さ(算術平均高さSa)を求めることができる。本実施形態では、供試体の5cm角の面を対象として面粗さ(算術平均高さSa)を測定した。なお、面粗さの測定は、上述したデジタルマイクロスコープには限られず、例えばレーザー顕微鏡を用いて3次元形状を測定してもよい。
【0049】
本実施形態における面粗さ(算術平均高さSa)の測定結果と、面粗さ比(Sa比)の算出結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
例えば、仕様Aの場合、リファレンス材の面粗さSaは291で、仕様Aの面粗さSaは115なので、仕様Aの面粗さ比(Sa比)は、115/291=0.40となる。他の仕様についても同様に面粗さ比(Sa比)を算出した。
【0052】
次に、色差比と面粗さ比と指標として、表面変状を評価する(S08)。
【0053】
図4は、第1実施形態の評価結果を示す図である。図4の横軸は色差比であり、縦軸は面粗さ比である。表1の色差比と表2の面粗さ比に基づいて、グラフ上にプロットすることにより、図4のような結果となった。
【0054】
図4において、左下にプロットされた仕様ほど、性能が優れていることになる。図4のようなグラフを作成することにより、色差比と面粗さ比を指標とした評価(色差比と面粗さ比の相関)を視覚的に示すことができ、各仕様の性能がわかりやすくなる。
【0055】
このように、本実施形態では、色差と面粗さを指標として評価を行っている。面粗さの指標は、「面方向(2次元)」且つ「高さ方向(3次元)」の両方を評価するので、木材劣化の特有の表面形状の変化を捉えるのに適している。これにより、色差のみの評価と比べて、表面変状をより適切に評価することができる。
【0056】
また、色差と面粗さを個別に評価するのではなく、図4のようにグラフ化することで、色差と面粗さの相関を指標として評価することができ、色と形状の変状を一元的(総合的)に評価することができる。
【0057】
===第2実施形態===
第2実施形態では、新たな指標(第1実施形態とは異なる指標)を用いている。
図5は、第2実施形態の木質材表面の評価方法を示すフロー図である。
【0058】
図5のステップS11~ステップS17は、それぞれ、第1実施形態のステップS01~ステップS07と対応している(同じである)ので、説明を省略する。
【0059】
第2実施形態では、面粗さ比を算出した後(ステップS17の後)、色の変化と表面形状の変化を一元的(総合的)に評価する指標として、「色差比×面粗さ比」を算出する(S18)。
【0060】
本実施形態における色差比×面粗さ比の算出結果を表3に示す。なお、各供試体(仕様A~E、リファレンス材)の条件、及び、色差比(ΔE比),面粗さ比(Sa比)の値については、第1実施形態と同じである。
【0061】
【表3】

【0062】
例えば、仕様Aの場合、第1実施形態より色差比が0.20、面粗さ比が0.40なので、色差比×面粗さ比は、0.08(=0.20×0.40)となる。他の仕様についても同様に計算している。
【0063】
次に、「色差比×面粗さ比」とコスト比との相関を指標として、表面変状を評価する(S19)。
【0064】
図6は、第2実施形態の評価結果を示す図である。図6の横軸は色差比×面粗さ比であり、縦軸はコスト比(リファレンスのコストに対する各仕様のコストの比)である。
【0065】
表3の値(色差比×面粗さ比)と、各仕様のコスト比に基づいてグラフ上にプロットを行うことで図6のような結果となった。
【0066】
図6において、グラフの左下にプロットされた仕様ほど、性能が優れコスト競争力があることが、一元的・視覚的に示される。また、コスト比が同等の場合は、左側(色差比×面粗さ比の小さい側)の方が、性能が優れていることになる(例えば、仕様Aと仕様Dでは仕様Dの方が優れている)。また、色差比×面粗さ比が同等場合は、コスト比の小さい方がコストに関して有利である(例えば、仕様Cと仕様Eは、性能は同等であるが、仕様Cの方がコスト安い)。
【0067】
よって、このような評価方法を用いることで、設計者は、性能とコストの関係を視覚的に評価しやすくなる。これにより、仕様選定の目安を得ることが容易となる。
【0068】
===その他の実施形態について===
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6