(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017996
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】試料中の検査対象物質の定量用試薬キットおよび定量方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/28 20060101AFI20240201BHJP
G01N 33/493 20060101ALI20240201BHJP
C12N 9/08 20060101ALN20240201BHJP
【FI】
C12Q1/28
G01N33/493 A
C12N9/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121015
(22)【出願日】2022-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100196117
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 利恵
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】樋口(秋山) 翔子
(72)【発明者】
【氏名】巽 謙太
【テーマコード(参考)】
2G045
4B050
4B063
【Fターム(参考)】
2G045BB45
2G045CB03
2G045DA05
2G045FB01
2G045FB11
2G045GC10
4B050CC08
4B050KK06
4B050KK11
4B050LL03
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4B063QQ03
4B063QQ61
4B063QR02
4B063QR03
4B063QR57
4B063QR58
4B063QS28
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】検査対象の試料中にアスコルビン酸が含まれている場合でも、従来よりも手軽な手段で、試料中の検査対象物質を高い精度で定量することができる試薬キットおよび測定方法を提供する。
【解決手段】試料に含まれる検査対象物質を基質とし、pH6以下で基質との反応により過酸化水素を生成させる酸化酵素と、アスコルビン酸オキシダーゼと、を含み、液性が中性である第1試薬液と、水素供与体と、系中に存在する過酸化水素の量に応じて水素供与体と反応して色素化合物を生成する色素前駆体と、ペルオキシダーゼと、酸性であるバッファーと、を含み、試料を、第1試薬液、色素前駆体、水素供与体、ペルオキシダーゼ、およびバッファーと混合して最終溶液を得て、検査対象物質の定量に供する試薬キットを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の検査対象物質の定量用試薬キットであって、
試料に含まれる検査対象物質を基質としてpH6以下で前記基質との反応により過酸化水素を生成させる酸化酵素と、アスコルビン酸オキシダーゼと、を含み、液性が中性である試薬液と、
水素供与体と、
系中に存在する過酸化水素の量に対応する量の前記水素供与体と反応して色素化合物を生成する色素前駆体と、
ペルオキシダーゼと、
酸性であるバッファーと、
を含む、
試料中の検査対象物質の定量用試薬キット。
【請求項2】
検査対象物質の定量に供されるのが、試料を添加した前記試薬液を、前記色素前駆体、前記水素供与体、前記ペルオキシダーゼ、および前記バッファーと混合して得られた最終溶液である、請求項1に記載の定量用試薬キット。
【請求項3】
前記試薬液のpHが6.2から7.8であり、前記酸性バッファーのpHが5未満であり、
前記最終溶液のpH値が、前記酸化酵素の至適pHの範囲内である、請求項2に記載の定量用試薬キット。
【請求項4】
前記検査対象物質がシュウ酸であり、
前記酸化酵素がシュウ酸オキシダーゼであり、
前記水素供与体がフェノール系化合物またはアニリン系化合物であり、
前記色素前駆体が4-アミノアンチピリン(4-AA)である、請求項1に記載の定量用試薬キット。
【請求項5】
前記水素供与体が、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン(ADOS)またはN-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メチルアニリン(TOOS)である、請求項1に記載の定量用試薬キット。
【請求項6】
前記試薬液のpHが6.5から7.4であり、前記酸性バッファーのpHが3.5から4.4であり、
前記最終溶液のpHが3.9から4.8である、請求項3に記載の定量用試薬キット。
【請求項7】
前記色素前駆体と、前記ペルオキシダーゼとが、予め前記酸性バッファー中で混合された液が、第2の試薬液として含まれる、請求項1に記載の定量用試薬キット。
【請求項8】
前記試料が尿である、請求項1に記載の定量用試薬キット。
【請求項9】
試料に含まれる検査対象物質を基質とし、pH6以下で前記基質との反応により過酸化水素を生成させる酸化酵素と、アスコルビン酸オキシダーゼと、を含み、液性が中性である試薬液に、試料を添加して混合し、混合液を得る混合工程と、
ペルオキシダーゼと、水素供与体と、水素供与体と反応して系中に存在する過酸化水素の量に応じた量の色素化合物を生成する色素前駆体と、酸性であるバッファーとを、前記混合液と混合して反応液を得る工程と、
前記反応液中に生じた色素化合物の濃度を測定する工程と、
を含む、試料中の検査対象物質の定量方法。
【請求項10】
前記試薬液のpHが6.2から7.8であり、前記酸性バッファーのpHが5未満であり、
前記反応液のpH値が前記酸化酵素の至適pHの範囲内となるように、前記試薬液のpHと前記酸性バッファーのpHを設定する工程をさらに含む、請求項9に記載の定量方法。
【請求項11】
前記検査対象物質がシュウ酸であり、
前記酸化酵素がシュウ酸オキシダーゼであり、
前記水素供与体がフェノール系化合物またはアニリン系化合物であり、
前記色素前駆体が4-アミノアンチピリン(4-AA)である、請求項9に記載の定量方法。
【請求項12】
前記水素供与体が、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン(ADOS)またはN-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メチルアニリン(TOOS)である、請求項9に記載の定量方法。
【請求項13】
前記試薬液のpHが6.5から7.4であり、前記酸性バッファーのpHが3.5から4.4であり、
前記反応液のpHが3.9から4.8である、請求項11に記載の定量方法。
【請求項14】
前記試料が尿である、請求項9に記載の定量方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の検査対象物質を定量するための試薬キット、および、試料中の検査対象物質の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料や食品中に含まれる物質を測定する分析方法の一つとして、酸化酵素を利用する反応が広く知られている。例えば、尿中の検査対象物質の量を測定する検査では、(1)検査系中で、尿中の検査対象物質を基質とする酸化酵素と反応させて過酸化水素を生じさせ、(2)生じた過酸化水素を発色試薬と反応させ、(3)当該反応で生じた色素の強度を測定する、といった手法が採用されている。一例として、特許文献1には、酵素組成物および色素組成物を担体マトリックスに固定化した、試料中のシュウ酸を検出するための装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
日常的に摂取する食品、飲料などの多くには、ビタミンCであるアスコルビン酸が含まれている。そのような食品や飲料を摂取した後では、アスコルビン酸が体内から排出されて尿中に存在し得る。アスコルビン酸は強い還元作用を有することが知られており、アスコルビン酸が含まれる尿を試料として検査する例の場合、検査の系中で生成した過酸化水素の一部がアスコルビン酸により還元される。これにより、採取した尿を含む試料中で、過酸化水素が消費されることで、検査薬中に含まれている発色試薬の酸化反応(上述した検査方法の工程(2))で発生した過酸化水素の量に対して定量的に進行せず、呈色反応が阻害される。その結果、工程(3)における検査対象物質の測定値が理論値よりも小さくなり、定量測定の精度が下がる、という問題がある。検査精度を上げるためには、検査試料を精製するなど追加の工程が必要となるため、そのような追加の工程を必要としない、より簡便な測定方法が望まれている。また、体外に排出されて尿中に含まれることとなるアスコルビン酸の量は不明である。このため、試料中の含有量が不明であるアスコルビン酸に過酸化水素が消費されてしまうことは、検査の再現性の観点からも問題がある。
【0005】
健康状態を測る検査として検尿が広く行われており、検尿の結果を通して見つかる疾患の一つに尿路結石がある。尿路結石の年間罹患率は40年で3倍に増えており、再発率は50%以上と高い。このため、尿路結石の再発を効果的に防ぐことができるよう、より日常的に行うことができる検査方法が求められている。
【0006】
尿路結石の原因物質の一つとして尿中のシュウ酸が挙げられる。尿中シュウ酸はカルシウムと反応してシュウ酸カルシウムを形成して結晶化し、尿路結石となる。尿中のシュウ酸を定量する方法の一つであるキャピラリー電気泳動法を用いる方法は、近年、保険適用を受けられるようになった。しかしながら、尿試料のキャピラリー電気泳動を行うためには、専用の電気泳動装置を所有していることが必要であり、電気泳動のための時間も要する。このため、日常的に尿中のシュウ酸量を定量できる体制にするためには、より手軽に検査を行うことができる方法や試薬の開発が望まれている。しかしながら、現在までに、日本国内で保険適用が受けられる尿中シュウ酸の体外診断用医薬品はない。
【0007】
本発明は、検査対象の試料中にアスコルビン酸が含まれている場合でも、従来よりも手軽な手段でアスコルビン酸による影響を抑制し、試料中の検査対象物質をより高い精度で定量することができる試薬キットおよび測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、試料中の検査対象物質の定量用試薬キットであって、試料に含まれる検査対象物質を基質とし、pH6以下で基質との反応により過酸化水素を生成させる酸化酵素と、アスコルビン酸オキシダーゼと、を含み、液性が中性である試薬液と、水素供与体と、系中に存在する過酸化水素の量に応じて水素供与体と反応して色素化合物を生成する色素前駆体と、ペルオキシダーゼと、酸性であるバッファーと、を含む定量用試薬キットを提供する。
【0009】
上記第1の態様においては、試料を添加した試薬液を、色素前駆体、水素供与体、ペルオキシダーゼ、およびバッファーと混合して得られた最終溶液が、検査対象物質の定量に供され得る。
【0010】
上記第1の態様においては、試薬液のpHが6.2から7.8であり、酸性バッファーのpHが5未満であり、最終溶液のpH値が、基質との反応により過酸化水素を生成させる酸化酵素の至適pHの範囲内であってもよい。
【0011】
上記第1の態様においては、検査対象物質がシュウ酸であり、酸化酵素がシュウ酸オキシダーゼであり、水素供与体がフェノール系化合物またはアニリン系化合物であり、色素前駆体が4-アミノアンチピリン(4-AA)であってもよい。
【0012】
上記第1の態様においては、水素供与体がN-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン(ADOS)またはN-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メチルアニリン(TOOS)であってもよい。
【0013】
上記第1の態様においては、試薬液のpHが6.5から7.4であり、酸性バッファーのpHが3.5から4.4であり、上記最終溶液のpHが3.9から4.8であってもよい。
【0014】
上記第1の態様においては、第2の試薬液として、色素前駆体と、ペルオキシダーゼとが、予め酸性バッファー中で混合された液を含むこととしてもよい。
【0015】
上記第1の態様においては、試料が尿であってもよい。
【0016】
本発明の第2の態様は、試料に含まれる検査対象物質を基質とし、pH6以下で基質との反応により過酸化水素を生成させる酸化酵素と、アスコルビン酸オキシダーゼと、水素供与体と、を含み、液性が中性である試薬液に、試料を添加して混合し、混合液を得る混合工程と、ペルオキシダーゼと、系中に存在する過酸化水素の量に応じた量の色素化合物を生成する色素前駆体と、酸性であるバッファーとを、上記混合液と混合して反応液を得る工程と、上記反応液中に生じた色素化合物の濃度を測定する工程と、を含む、試料中の検査対象物質の定量方法を提供する。
【0017】
上記第2の態様においては、試薬液のpHが6.2から7.8であり、酸性バッファーのpHが5未満であり、反応液のpH値を、検査対象物質との反応により過酸化水素を生成させる酸化酵素の至適pHの範囲内としてもよい。
【0018】
上記第2の態様においては、検査対象物質がシュウ酸であり、検査対象物質との反応により過酸化水素を生成させる酸化酵素がシュウ酸オキシダーゼであり、水素供与体がフェノール系化合物またはアニリン系化合物であり、色素前駆体が4-アミノアンチピリン(4-AA)であってもよい。
【0019】
上記第2の態様においては、水素供与体がN-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン(ADOS)またはN-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メチルアニリン(TOOS)であってもよい。
【0020】
上記第2の態様においては、第1試薬のpHが6.5ら7.4であり、酸性バッファーのpHが3.5から4.4であり、上記最終溶液のpHが3.9から4.8であってもよい。
【0021】
上記第2の態様においては、試料が尿であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の試薬キットおよび測定方法によれば、検査対象の試料中にアスコルビン酸が含まれている場合でも、従来よりも手軽な手段でアスコルビン酸による影響を抑制できることで、試料中の検査対象物質の定量測定をより高い精度で行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本実施形態に係る試料中の検査対象物質の定量用試薬キットおよび試料中の検査対象物質の定量方法の実施形態について説明する。
【0024】
本実施形態に係る検査対象物質の定量方法の原理を説明する。例えば、検査対象物質がシュウ酸である場合には、以下の反応式に示すように、1段階目の反応でシュウ酸がシュウ酸オキシダーゼ(式中の「OxOD」)と反応し、二酸化炭素と過酸化水素を生成する。続く2段階目の反応で、1段階目の反応で生成した過酸化水素と、水素供与体と、色素前駆体とが、ペルオキシダーゼ存在下で反応し、水素供与体と色素前駆体との酸化的縮合反応生成物である色素化合物と、水とが生成する。以下の式では、水素供与体の一例としてN-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン(ADOS)を、色素前駆体の一例として4-アミノアンチピリン(4-AA)を用いた反応系を示している。
【0025】
【0026】
2段階目の反応では、系中に存在する過酸化水素の量に対応した量の色素化合物が生成する。このため、2段階目で生成した色素化合物の定量を行うことで、系中に存在した過酸化水素の量を算出することができ、算出された過酸化水素の量に基づいて、検査に供された試料中に含まれていたシュウ酸の量を間接的に定量することができる。例えば、上記反応式の例では、シュウ酸1分子から過酸化水素が1分子得られる。その得られた過酸化水素を2分子用いて、ペルオキシダーゼ存在下、水素供与体と色素前駆体とが反応し、2分子の水と色素化合物1分子とが得られる。よって、化学量論的には、色素化合物の測定濃度から算出された色素化合物量(モル数)の2倍量(モル数)のシュウ酸が、検査に供した試料中に含まれていたことになる。
【0027】
しかしながら、検査に供された試料中にアスコルビン酸が含まれていると、アスコルビン酸が有する強い還元作用により、系中で生成した過酸化水素の一部が還元される。これにより、検査試薬中に含まれている発色試薬の酸化反応が、生成した過酸化水素の量に対応して進行することができなくなる。その結果、色素化合物が上述した理論値通りの量で生成されず、検査対象物質の測定値が理論値よりも小さくなり、定量測定の精度が下がってしまうという問題がある。
【0028】
上記問題に対して、アスコルビン酸を代謝するアスコルビン酸オキシダーゼを検査試薬中に含有させることで、試料中に含まれるアスコルビン酸が上記反応の系中に与える影響をなくすことができる、という点に着目し、試料中の検査対象物質の定量用試薬キットおよび定量方法を得るに至った。
【0029】
本実施形態に係る作用効果を、試料中の検査対象物質がシュウ酸である上記反応式の例に沿って説明する。シュウ酸オキシダーゼは、その至適pHが5以下であり、酸性条件下では安定ではない。アスコルビン酸オキシダーゼは、pH7.0付近の中性条件下での保存が好適である一方、アスコルビン酸を基質とした酵素反応について中性条件下で高い活性を有する。本明細書において酵素の「至適pH」とは、当該酵素が最も高い活性で酵素反応を進行させることができるpHをいう。
【0030】
上述の通り、シュウ酸オキシダーゼの至適pHは、アスコルビン酸オキシダーゼの至適pHと異なる。そこで、上記反応式の検査系に用いる本実施形態に係る定量用試薬キットは、試薬キットに含まれている全ての試薬を加えた後に得られる最終溶液のpHが、シュウ酸オキシダーゼの至適pHとなるように構成されている。
【0031】
上記反応式の例についての試薬キットにおいては、中性条件下で保存される試薬液中に、アスコルビン酸オキシダーゼおよびシュウ酸オキシダーゼをともに含有させておく。
【0032】
試料の検査を行う際には、まず、検査対象物質を含有する試料を、アスコルビン酸オキシダーゼを含む中性条件の試薬液に対して添加し、試料と試薬液との混合液を得る。試料中にアスコルビン酸が含まれている場合には、中性条件下にある混合液の段階で、アスコルビン酸オキシダーゼによりアスコルビン酸が酸化物へと変化する。
【0033】
続いて、試薬キットに含まれている、ペルオキシダーゼと、水素供与体と、色素前駆体と、酸性であるバッファーとを、試薬液と試料との混合液に添加して、最終溶液を得る。
【0034】
検査対象物質がシュウ酸である例においては、添加した酸性バッファーの影響によって最終溶液がpH5以下の酸性となる。pH5以下は、シュウ酸オキシダーゼの至適pHである。そのため、試料中の検査対象物質であるシュウ酸がシュウ酸オキシダーゼと反応し、過酸化水素の生成が開始される。その生成した過酸化水素と、水素供与体と、色素前駆体とが、ペルオキシダーゼ存在下で反応する。当該反応では、水素供与体と色素前駆体との酸化的縮合反応が進行し、色素化合物が生成する。色素化合物の吸光度の測定を介して、生成した色素化合物の量を定量することで、シュウ酸から生じた過酸化水素の量を算出する。その算出された過酸化水素の量に基づいて、試料中に含まれていたシュウ酸の量を定量することができる。
【0035】
すなわち、本実施形態に係る定量用試薬キットでは、キットに含まれるすべての試薬が混合された最終溶液の液性を、鍵となる酸化酵素(上述の例ではシュウ酸オキシダーゼ)の至適pHへと変化させることで、鍵反応となる過酸化水素生成反応が開始される点がポイントである。本実施形態に係る定量用試薬キットでは、検査対象物質を酸化酵素含有溶液と混合するだけでは、鍵反応である過酸化水素生成反応が開始されない。
【0036】
本実施形態に係る定量用試薬キットにおいては、中性条件下、pH6以下で検査対象物質との反応により過酸化水素を生成させる酸化酵素と、アスコルビン酸オキシダーゼとをともに試薬液に含有させておく。このようにすることで、アスコルビン酸オキシダーゼおよびpH6以下で反応する酸化酵素の保存安定性を確保することができる。試薬キットの保存中に酸化酵素の反応活性を変化させることなく維持できることにより、本検査系の鍵となる酸化酵素の活性が高い状態で検査対象物質と反応させることができる。なお、本検査系の鍵である、検査対象物質と反応する酸化酵素は、pH6以下では検査対象物質と反応する一方で、中性条件下では反応し難い。
【0037】
本実施形態に係る定量用試薬キット中には、アスコルビン酸オキシダーゼを含有させておく。試料中にアスコルビン酸が含まれている場合、試料と試薬液とを混合した際に、系中でアスコルビン酸がアスコルビン酸オキシダーゼにより酸化物へと変化する。一方、この段階では、試料と試薬液との混合液は中性であるため、pH6以下を至適条件とする酸化酵素による過酸化水素生成反応は進行しない。これより、試料中の検査対象物質を測定する際に、検査対象物質から生じた過酸化水素の一部がアスコルビン酸によって消費されるのを防ぐことができる。したがって、検査対象物質から生じる過酸化水素の量に対応して生成する色素化合物による呈色反応を適切に進行させることができる。よって、検査対象の試料中にアスコルビン酸が含まれている場合でも、検査対象物質の定量測定をより高い精度で行うことができる。
【0038】
本実施形態に係る定量用試薬キットにおいては、上記試薬液以外にも、色素前駆体と、ペルオキシダーゼとは、予め酸性バッファー中で混合された状態の第2の試薬液としてキットに同梱されてもよい。
【0039】
本実施形態に係る定量用試薬キットにおいては、上述の試薬液にさらに水素供与体を含有させた溶液と、上述した第2の試薬液とを同梱したキットとすることができる。このようなキットとすることで、水素供与体を含有する試薬液と、第2の試薬液と、検査対象物質を含む試料とを混合して反応を進行させた最終溶液を測定装置にセットするだけで、試料中に含まれる検査対象物質を定量することができる。
【0040】
本実施形態に係る試薬キットを用いて検査対象物質の定量を行う場合には、試薬液中に、基質である検査対象物質との反応により過酸化水素を生成させる酸化酵素の濃度を0.3U/mLから10U/mL程度で、アスコルビン酸オキシダーゼの濃度を1.0U/mLから30U/mL程度で、中性バッファーの濃度を10mMから100mMで、それぞれ含有させることができる。より好ましくは、検査対象物質と反応する酸化酵素の濃度を1.0U/mLから4.0U/mL程度で、アスコルビン酸オキシダーゼの濃度を3.0U/mLから15U/mL程度で、中性バッファーの濃度を20mMから50mMで、それぞれ含有することができる。中性バッファーとしては、2-モルホリノエタンスルホン酸一水和物(MES)バッファーを用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0041】
本実施形態に係る試薬キットを用いて検査対象物質の定量を行う場合には、第2の試薬液中に、色素前駆体の濃度を0.02mMから20mM程度で、ペルオキシダーゼの濃度を0.2U/mLから30U/mL程度で、酸性バッファーの濃度を50mMから500mM程度で、それぞれ含有させることができる。より好ましくは、色素前駆体の濃度を0.1mMから1.0mM程度で、ペルオキシダーゼの濃度を1.0U/mLから15U/mL程度で、酸性バッファーの濃度を100mMから300mM程度で、それぞれ含有することができる。酸性バッファーとしては、コハク酸バッファーを用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0042】
上記濃度の試薬液や第2の試薬液を含む試薬キットとすることで、試薬液を数十μLから200μL程度、第2の試薬液を10μLから100μL程度、検査に供する試料を0.2μLから10μL程度、それぞれ用いるだけで、高い再現性で検査対象物質の定量を行うことができる。
【0043】
本実施形態に係る定量用試薬キット中には、水素供与体と色素前駆体が、試料およびすべての試薬、バッファー類を添加した最終溶液中に、例えば1:1のモル比で存在するように含まれているが、含有比率はこれに限られず、それぞれ十分量含まれていればよい。本実施形態に係る試薬キットにおいては、例として試薬液中に水素供与体を予め添加しておく場合には、水素供与体を0.05mMから1mM程度で含有することができる。また別の例として、第2の試薬液中に予め色素前駆体を添加しておく場合には、色素前駆体を0.2mMから1.5mM程度で第2の試薬液中に含有させることができる。さらに別の例では、水素供与体と色素前駆体は、最終溶液調製時に系中に添加されてもよい。
【0044】
本実施形態に係る定量試験系では、色素前駆体は、系中に存在する過酸化水素の量に対応する量の水素供与体と反応して、色素化合物を生成する。例えば、検査対象物質がシュウ酸である上記反応式の例で、シュウ酸1分子から過酸化水素が1分子得られる。その得られた過酸化水素を2分子用いて、ペルオキシダーゼ存在下、水素供与体と色素前駆体とが反応し、2分子の水と色素化合物1分子とが得られる。本明細書における「系中に存在する過酸化水素の量に対応する量」とは、系中に存在する過酸化水素の当量に比例する量のことをいい、上記例では、系中に存在する過酸化水素2当量に対して、水素供与体が1当量、色素前駆体が1当量、それぞれ反応する関係にある量をいう。「過酸化水素の当量に比例する」とは、過酸化水素との比が1:1には限られず、上記の例のように比が2:1の場合も含まれる。
【0045】
本実施形態の試薬キットを用いた定量測定系においては、従来用いられているキャピラリー電気泳動法を用いる方法で必要となるキャピラリー電気泳動装置を所有していなくともよい。本実施形態の試薬キットを用いた定量測定系においては、分光光度計を含むより汎用な装置によって、生成した色素化合物の濃度を測定することができる。また、本実施形態の試薬キットを用いることで、試料中に含まれ得るアスコルビン酸を、検査に先立ち試料から除去するための精製作業が不要となる。これにより、従来法よりもより手軽かつ簡便に検査対象物質の定量測定を行うことができる。
【0046】
本実施形態の試薬キットによる検査対象物質としては、酸化酵素を作用させることによって過酸化水素が生じる物質を適用することができる。そのような対象物質としては、対応する酸化酵素が知られているシュウ酸やピルビン酸が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
本実施形態の試薬キットを用いた検査において、系中で検査対象物質から生じた過酸化水素をトリガーとして、最終溶液中に色素化合物が生成する。この色素化合物の量は、得られた最終溶液を分光光度計に供し、色素化合物の吸光度を所定の波長にて測定することで、最終溶液中の色素化合物の濃度を測定することができる。測定された色素化合物の濃度から、系中で生じて色素化合物の生成に用いられた過酸化水素の全量が、検査対象物質とその酸化酵素との反応から生じたものであるとして、検査用試料に含有されていた検査対象物質の量を求めることができる。
【0048】
本明細書における「水素供与体」とは、過酸化水素およびペルオキシダーゼ存在下で水素を供与するとともに別の化合物と反応して酸化縮合化合物を生成することができる化合物である。生成する酸化縮合化合物が色素化合物である場合に用いられる水素供与体は、酸化発色試薬ともよばれる。本実施形態における水素供与体の例としては、フェノール系化合物またはアニリン系化合物が挙げられるが、これに限定されるものではない。好ましくは、水素供与体は、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン(ADOS)またはN-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メチルアニリン(TOOS)であってよい。
【0049】
本明細書における「色素前駆体」とは、過酸化水素およびペルオキシダーゼ存在下で上述の水素供与体と反応し、酸化縮合化合物を生成するものをいう。本実施形態においては、酸化縮合化合物は色素化合物である。本実施形態における色素前駆体の例としては、アミノアンチピリン系化合物、3-メチル-2-ベンゾチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)が挙げられる。好ましくは、色素前駆体は4-アミノアンチピリン(4-AA)であってよい。
【0050】
本実施形態における一例としては、水素供与体としてN-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン(ADOS)を、色素前駆体として4-アミノアンチピリン(4-AA)を、それぞれ用いた場合に得られる色素化合物は、吸収極大波長542nmにてその吸光度が測定される。
【0051】
本実施形態の試薬キットが含有する、試料に含まれる検査対象物質を基質とし、pH6以下で前記基質との反応により過酸化水素を生成させる酸化酵素の、酵素反応に適したpH、すなわち至適pHは、酸化酵素の種類に依存する。例えば、シュウ酸を基質とするシュウ酸オキシダーゼの至適pHはpH5以下であり、シュウ酸存在下で液性がその至適pH付近に達すると、シュウ酸オキシダーゼによる酸化反応が開始される。
【0052】
本実施形態の試薬キットが含有する試薬液のpHは6.5から7.4であり、同梱される酸性バッファーのpHが3.5から4.4であると好適である。このようなpH範囲の試薬液と酸性バッファーとを所定量混合することで、最終溶液のpHを3.9から4.8の範囲とすることができる。より好ましくは、本実施形態の試薬キットが含有する試薬液のpHが6.7から7.2であり、酸性バッファーのpHが3.8から4.2である。本実施形態の試薬キットが含有する試薬液のpHは6.7,6.8,6.9,7.0.7.1,7.2、またはこれらの値の間の範囲のいずれかであってよく、酸性バッファーのpHが3.8,3.9,4.0,4.1,4.2、またはこれらの値の間の範囲のいずれかであってもよい。このような値のpHを示す試薬液および酸性バッファーとすることで、最終溶液のpHを3.9,4.0,4.1,4.2,4.3,4.4,4.5,4.6,4.7,4.8のいずれかとすることができる。
【0053】
本明細書における「中性」とは、pH6.0から8.0の範囲であってよい。好ましくは、pH6.0から7.5の範囲であってよい。キットに含有させる酵素によっては、pH7.0から7.5の範囲やpH6.5から7.0の範囲であってもよい。
【0054】
本明細書における「酸性」とは、pH3.0から6.0の範囲であってよい。好ましくは、pH3.0から5.0であってよい。キットに含有させる酵素によっては、pH3.5から4.5であってよい。
【0055】
本実施形態の定量用試薬キットは、必要に応じて試料に添加する塩酸を分注したボトルや、塩酸のバルクボトルとその分注用具を同梱した測定キットとして提供することもできる。また、吸光度測定時に使用するキャリブレータやコントロール物質を同梱した測定キットとすることもできる。
【0056】
本実施形態の定量用試薬キットを用いて検査対象物質の定量を行う対象となる試料は、上述の例で挙げた尿があるが、これに限られない。他にも、アスコルビン酸を含有し得る食品や飲料を試料として、その試料中の検査対象物質の定量を行うことができる。
【0057】
本実施形態の定量方法においては、(1)試料に含まれる検査対象物質を基質とし、pH6以下で前記基質との反応により過酸化水素を生成させる酸化酵素と、アスコルビン酸オキシダーゼと、を含み、液性が中性である試薬液に、試料を添加して混合し、混合液を得る混合工程と、(2)ペルオキシダーゼと、水素供与体と、水素供与体と反応して系中に存在する過酸化水素の量に応じた量の色素化合物を生成する色素前駆体と、酸性であるバッファーとを、前記混合液と混合して反応液を得る工程と、(3)上記反応液中に生じた色素化合物の濃度を測定する工程と、が含まれる。
【0058】
本実施形態の定量方法は、上記工程(1)を行う。これにより、アスコルビン酸オキシダーゼと、酸化酵素と、その基質とが、中性条件下で混合された状態となる。酸化酵素としてシュウ酸オキシダーゼを用いる定量用試薬キットの例では、シュウ酸オキシダーゼの至適pH条件はpH5以下であるため、工程(1)を行っても、中性である混合液中で過酸化水素は発生しない。
【0059】
工程(2)においては、工程(1)で得られる中性の混合液に、ペルオキシダーゼと、水素供与体と、色素前駆体と、に加え、酸性バッファーを添加することで、得られる最終溶液は酸性となる。これにより、本検査系中における鍵反応である酸化酵素による酵素反応が、当該酵素反応の至適pHであるpH6以下の酸性へと変化されることで開始される。例えば酸化酵素としてシュウ酸オキシダーゼを用いる場合には、工程(2)で得られる最終溶液のpHが5.0以下となることで、シュウ酸オキシダーゼによるシュウ酸に対する酵素反応が開始される。
【0060】
このようにすることで、例えば酸化酵素としてシュウ酸オキシダーゼを用いる場合には、アスコルビン酸オキシダーゼと酸性条件下で不安定なシュウ酸オキシダーゼとをそれぞれ安定に保存することができるともに、シュウ酸オキシダーゼの反応活性を長期間にわたって変化させることなく維持できる。これにより、アスコルビン酸オキシダーゼとシュウ酸オキシダーゼの安定条件下での保管性と、シュウ酸オキシダーゼの高い反応性の両方を確保することができる。よって、試料中に含まれていたシュウ酸の定量を、より高い精度で再現性良く行うことができる。
【0061】
本実施形態の定量方法は、上述した定量用試薬キットを用いて行うこともできる。本実施形態に係る定量用試薬キットには、例えば試料中のシュウ酸の量を定量するために必要となるシュウ酸オキシダーゼに加えて、試料中に含有され得、含有されていた場合には過酸化水素の一部を消費するアスコルビン酸を酸化するアスコルビン酸オキシダーゼが含まれている。これにより、新たに別の試薬を準備することなく簡便かつ高い精度で試料中のシュウ酸の定量を行うことができる。
【0062】
上述した本実施形態に係る試薬キットを用いて本実施形態の定量方法を実施する場合にも、まずは中性条件下にある試薬液に試料を添加して混合し、混合液を得る。得られた混合液は中性となる。この中性の混合液に対し、ペルオキシダーゼと、水素供与体と、色素前駆体と、酸性であるバッファーとを、先の混合液と混合して、最終溶液を調製する。添加した酸性バッファーの液性により、得られた最終溶液はpH6以下の酸性となる。このようにして調製した最終溶液中の色素化合物の濃度を測定し、算出された色素化合物の量から、試料中の検査対象物質を定量することができる。
【0063】
本実施形態に係る定量用試薬キットは、一例として、以下の成分を含む構成とすることができる。以下の成分の他に、防腐剤、抗生物質等を含有させることも可能である。
(a) 以下を含有する試薬液
・検査対象物質を基質とする酸化酵素
・アスコルビン酸オキシダーゼ
・中性のバッファー
(b) 水素供与体
(c) 色素前駆体
(d) ペルオキシダーゼ
(e) 酸性バッファー
【0064】
本実施形態に係る定量用試薬キットの別の例として、以下の成分を含む構成とすることができる。以下の成分の他に、防腐剤、抗生物質等を含有させることも可能である。
(a) 以下を含有する試薬液
・検査対象物質を基質とする酸化酵素
・アスコルビン酸オキシダーゼ
・水素供与体
・中性のバッファー
(b) 色素前駆体
(c) ペルオキシダーゼ
(d) 酸性バッファー
【0065】
本実施形態に係る定量用試薬キットのさらに別の例として、以下の成分を含む構成とすることができる。以下の成分の他に、防腐剤、抗生物質等を含有させることも可能である。
(a) 以下を含有する試薬液
・検査対象物質を基質とする酸化酵素
・アスコルビン酸オキシダーゼ
・水素供与体
・中性のバッファー
(b) 以下を含有する第2の試薬液
・色素前駆体
・ペルオキシダーゼ
・酸性バッファー
【0066】
本実施形態に係る定量用試薬キットのさらに別の例として、以下の成分を含む構成とすることができる。以下の成分の他に、防腐剤、抗生物質等を含有させることも可能である。
(a) 以下を含有する試薬液
・検査対象物質を基質とする酸化酵素
・アスコルビン酸オキシダーゼ
・中性のバッファー
(b) 以下を含有する第2の試薬液
・色素前駆体
・水素供与体
・ペルオキシダーゼ
・酸性バッファー
【0067】
本実施形態に係る定量用試薬キットのさらに別の例として、以下の成分を含む構成とすることができる。以下の成分の他に、防腐剤、抗生物質等を含有させることも可能である。
(a) 以下を含有する試薬液
・検査対象物質を基質とする酸化酵素
・アスコルビン酸オキシダーゼ
・ペルオキシダーゼ
・中性のバッファー
(b) 以下を含有する第2の試薬液
・色素前駆体
・水素供与体
・酸性バッファー
【0068】
本実施形態に係る試薬キットを用いた実施例を以下で説明する。これらは一例であって限定されるものではない。
【実施例0069】
本実施例に用いた試薬キット1および試薬キット2の成分構成を以下に示す。試薬キット2は、試薬キット1の試薬液A中のN-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン(ADOS)を、試薬液CではN-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メチルアニリン(TOOS)に置き換えた点のみが異なり、後は同じである。
<試薬キット1>
(試薬液A) 以下の成分を含有する、pH7.0の溶液
・シュウ酸オキシダーゼ(Roche) 1.5U/mL
・アスコルビン酸オキシダーゼ(東洋紡) 5.0U/mL
・N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン(ADOS)(同仁化学) 1.0mM
・2-モルホリノエタンスルホン酸一水和物(MES) 25mM
(試薬液B) 以下の成分を含有する、pH4.0の溶液
・4-アミノアンチピリン(4-AA)(和光純薬) 2.0mM
・ペルオキシダーゼ(東洋紡) 5.0U/mL
・コハク酸 200mM
【0070】
<試薬キット2>
(試薬液C) 以下の成分を含有する、pH7.0の溶液
・シュウ酸オキシダーゼ(Roche) 1.5U/mL
・アスコルビン酸オキシダーゼ(東洋紡) 5.0U/mL
・N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メチルアニリン(TOOS)(同仁化学) 1.0mM
・2-モルホリノエタンスルホン酸一水和物(MES) 25mM
(試薬液D) 以下の成分を含有する、pH4.0の溶液
・4-アミノアンチピリン(4-AA)(和光純薬) 2.0mM
・ペルオキシダーゼ(東洋紡) 5.0U/mL
・コハク酸 200mM
【0071】
本実施例に用いた、対照試験用試薬セット1および対照試験用試薬セット2の成分構成を以下に示す。対照試験用試薬セット2は、対照試験用試薬セット1の試薬液F中のADOSを試薬液HではTOOSに置き換えた点のみが異なり、後は同じである。
<対照試験用試薬セット1>
(試薬液E) 以下の成分を含有する、pH4.0の溶液
・ペルオキシダーゼ(東洋紡) 5.0U/mL
・アスコルビン酸オキシダーゼ(東洋紡) 5.0U/mL
・4-AA 1.0mM
・コハク酸 150mM
(試薬液F) 以下の成分を含有する、pH6.5の溶液
・シュウ酸オキシダーゼ(Roche) 1.5U/mL
・ADOS 2.0mM
・2-モルホリノエタンスルホン酸一水和物(MES) 50mM
【0072】
<対照試験用試薬セット2>
(試薬液G) 以下の成分を含有する、pH4.0の溶液
・ペルオキシダーゼ(東洋紡) 5.0U/mL
・アスコルビン酸オキシダーゼ(東洋紡) 5.0U/mL
・4-AA 1.0mM
・コハク酸 150mM
(試薬液H) 以下の成分を含有する、pH6.5の溶液
・シュウ酸オキシダーゼ(Roche) 1.5U/mL
・TOOS 2.0mM
・2-モルホリノエタンスルホン酸一水和物(MES) 50mM
【0073】
実施例1:試料中のアスコルビン酸による検査系への影響評価
ボランティアから採取した尿を試料とし、尿中に含まれるアスコルビン酸が尿中のシュウ酸濃度検出に与える影響を確認する試験を行った。本実施例では、上述した構成を有する「試薬キット1」および「試薬キット2」を用いて試験を行った。対照試験として、含有する成分の組み合わせ方が異なる試薬セットを「対照試験用試薬セット1」および「対照試験用試薬セット2」として用い、尿中のシュウ酸濃度検出にあたってアスコルビン酸から受ける影響に違いが出るか検証した。
【0074】
ボランティアから採取した尿(約10mL)を、1.5v/v%の6N塩酸(150μL)に対して分注し、転倒混和した。得られた塩酸酸性尿液に対し、4v/v%の10mMシュウ酸生理食塩水溶液を添加し、よく撹拌し、ベースサンプルを得た。得られたベースサンプルを、生理食塩水溶液または5g/dLアスコルビン酸生理食塩水溶液に対し、体積比で9:1の割合で加えて撹拌し、「ベースサンプル+生理食塩水」(0/5)、「ベースサンプル+アスコルビン酸生理食塩水溶液」(5/5)の検体母液を得た。尿を含み、アスコルビン酸を含まない「0/5」母液と、尿およびアスコルビン酸を含む「5/5」母液とを、体積比1:4から4:1で混合し、6段階で希釈された検体を調製した。
【0075】
6段階に希釈した検体について、生化学自動分析装置(日本電子株式会社、JCA-BM6050)を用い、主波長545nm、副波長805nmにて、2ポイントエンド法により比色分析を行った。はじめに、検体と、試薬キット1中の試薬液Aまたは試薬キット2中の試薬液Cとを混合し、5分後に試薬キット1中の試薬液Bまたは試薬キット2中の試薬液Dを加えて反応液を得た。検体、試薬液Aまたは試薬液C、試薬液Bまたは試薬液Dとは、体積比1:60:30となるように混合した。対照試験用サンプルも同様に、はじめに検体と、試薬セット1中の試薬液Eまたは試薬セット2中の試薬液Gとを混合し、5分後に試薬セット1中の試薬液Fまたは試薬セット2中の試薬液Hを加えて反応液を得た。検体、試薬液Eまたは試薬液G、試薬液Fまたは試薬液Hとは、体積比1:60:30となるように混合した。各検体について、試薬液A、試薬液C、試薬液E、または試薬液Gと検体との混合直後を0分とし、5分後に試薬液B、試薬液D、試薬液F、または試薬液Hを加え、混合直後(0分)から10分間について吸光度を経時測定した。
【0076】
得られた分析結果から算出された、検体中に含まれていたシュウ酸の濃度を表1に示す。アスコルビン酸を添加していない検体のシュウ酸の濃度に対して、検体にアスコルビン酸を添加した場合にシュウ酸の濃度検出にどの程度の影響があるのかを評価した。
【表1】
【0077】
表1中の「アスコルビン酸」は、検体中に含まれるアスコルビン酸の濃度を示している。なお、尿には体外に排出されたシュウ酸(尿中の濃度は不明)が含有されていることから、尿含有アスコルビン酸無添加の検体(表1中の「ブランク」)から算出されたシュウ酸の濃度は、試薬キットまたは試薬セットから添加したシュウ酸由来の濃度よりも高い値となる。また、尿中には体外に排出されたアスコルビン酸も含まれ得るが、その含有量については求めていない。
【0078】
本実施形態に係る試薬キット1または試薬キット2を用いた試験検体から算出されたシュウ酸の濃度は、アスコルビン酸無添加の検体から算出されたシュウ酸の濃度(46.2mg/L、46.3mg/L)と比較して、いずれも5%以内の誤差で濃度が得られた。これは、本実施形態に係る試薬キット1、試薬キット2は、ともに、尿中のアスコルビン酸がシュウ酸の定量試験に与える影響を排除できたことを示している。これに対し、同様に、対照試験用試薬セットを用いた試験検体からもシュウ酸濃度の算出を試みたが、いずれの検体からも、アスコルビン酸無添加の検体から算出されたシュウ酸の濃度と比較して、有効な濃度の値を得ることができなかった。これは、対照試験用試験セットを用いた場合には、尿検体中のシュウ酸から生じた過酸化水素が、系中に存在するアスコルビン酸によって還元されてしまい、色素化合物の生成に至らなかったためと考えられる。
【0079】
上記結果から、本実施形態に係る試薬キットを用いて尿中に含まれるシュウ酸の定量を行うと、仮に、体外に排出されたアスコルビン酸が尿中に含まれている場合にも、そのアスコルビン酸の影響を受けることなく尿中に含まれるシュウ酸を定量することができることが示された。
【0080】
実施例2:シュウ酸の添加回収試験
ボランティアから採取した尿を試料とし、該試料に対して所定量のシュウ酸を添加した混合液と、試薬キットまたは対照用試薬セットの試薬とを混合した液から、シュウ酸をどの程度回収できるかについて試験を行った。本実施例においても、実施例1と同じ、本実施形態に係る試薬キット1および試薬キット2、対照試験用試薬セット1および試薬セット2を用いて試験を行った。
【0081】
ボランティアから採取した尿(約10mL)を、1.5v/v%の6N塩酸(150μL)に対して分注し、転倒混和した。得られた尿検体の塩酸酸性液を、0,2,5,10mMシュウ酸生理食塩水溶液に対し、体積比で9:1の割合で加えて撹拌し、尿に所定量のシュウ酸を含む試料を計4種類得た。同様に、生理食塩水を、0,2,5,10mMシュウ酸生理食塩水溶液に対し、体積比で9:1の割合で加えて撹拌し、尿を含まず所定量のシュウ酸を含む試料を計4種類得た。4種類のシュウ酸濃度の尿あり検体のそれぞれと、4種類のシュウ酸濃度の尿なし検体のそれぞれとについて、生化学自動分析装置(日本電子株式会社、JCA-BM6050)を用い、主波長545nm、副波長805nmにて、2ポイントエンド法により比色分析を行った。はじめに、検体と、試薬キット1中の試薬液Aまたは試薬キット2中の試薬液Cとを混合し、5分後に試薬キット1中の試薬液Bまたは試薬キット2中の試薬液Dを加えて反応液を得た。検体、試薬液Aまたは試薬液C、試薬液Bまたは試薬液Dとは、体積比1:60:30となるように混合した。対照試験用サンプルも同様に、はじめに検体と、試薬セット1中の試薬液Eまたは試薬セット2中の試薬液Gとを混合し、5分後に試薬セット1中の試薬液Fまたは試薬セット2中の試薬液Hを加えて反応液を得た。検体、試薬液Eまたは試薬液G、試薬液Fまたは試薬液Hとは、体積比1:60:30となるように混合した。以下、尿を含む検体を「尿あり検体」、尿を含まない検体を「尿なし検体」ということがある。各検体について、試薬液A、試薬液C、試薬液E、または試薬液Gと検体との混合直後を0分とし、5分後に試薬液B、試薬液D、試薬液F、または試薬液Hを加えることで反応を開始させ、混合直後(0分)から10分間について吸光度を経時測定した。
【0082】
得られた分析結果から算出された、シュウ酸の回収量および回収率を表2に示す。本実施形態に係る試薬キット1または試薬キット2を用いた場合と、対照試験用試薬セット1または試薬セット2を用いた場合とで、シュウ酸の回収量、回収率に違いがあるのか、あるとすればどの程度の違いであるかについて評価した。
【表2】
【0083】
表2中の「回収量」は、測定検体について、[尿あり検体または尿なし検体にシュウ酸を添加したサンプルから算出されたシュウ酸の量]から、[尿あり検体または尿なし検体に生理食塩水を添加したサンプルから算出されたシュウ酸の量]を引いた値を示している。得られた値(量)は、理論的には、尿あり検体または尿なし検体に添加したシュウ酸の量に相当することとなる。また表2中の「回収率」は、測定検体について、[本試験系においてシュウ酸を添加した尿あり検体のシュウ酸の測定値から、生理食塩水を添加した尿あり検体のシュウ酸の測定値を引いた値]を、[本試験系においてシュウ酸を添加した尿なし検体のシュウ酸の測定値から、生理食塩水を添加した尿なし検体のシュウ酸の測定値を引いた値]で除した値を示している。すなわち、得られた値(率)は、本試験系が、尿あり検体中のシュウ酸の量を測定するにあたり、尿中に含有されているものの特定できない成分の影響を受けているのかどうかを確認する値となる。仮に100%回収できたと算出されれば、尿中の不明成分の影響を受けることなく、尿中に含まれているシュウ酸を定量することができたといえる。
【0084】
表2に示した結果から、本実施形態に係る試薬キット1または試薬キット2を用いた試験検体からのシュウ酸の回収率は、2mM、5mM、10mMシュウ酸を添加した試料においては、99%~109%と良い回収率を示した。同様に、対照試験用試薬セットを用いた試験検体からのシュウ酸回収率も、97~105%であった。上記結果からは、本実施形態に係る試薬キットを用いたシュウ酸の回収率は、対照試験用試薬セットを用いた場合と遜色ない結果を示すことが分かった。
【0085】
以上から、本実施形態に係る試薬キット1、試薬キット2は、いずれも、ヒト尿を試料としたシュウ酸の定量測定に用いることができることを確認できた。
【0086】
本実施形態の定量用試薬キットおよび定量方法によれば、試薬キット中にアスコルビン酸オキシダーゼを含有させたことで、試料中の検査対象物質の定量測定を行う前の段階で、試料中に存在する不要なアスコルビン酸が酸化される。その結果、検査対象物質から生じた過酸化水素の一部がアスコルビン酸によって還元されてしまうのを防ぐことができる。これにより、系中で検査対象物質から生じた過酸化水素の全量を色素化合物への変換反応に用いることができる。よって、色素化合物の定量を介して、試料中の検査対象物質を精度良く定量することができる。