(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179966
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】分布監視システム、分布監視方法、および分布監視プログラム
(51)【国際特許分類】
E03B 3/08 20060101AFI20241219BHJP
G01V 9/02 20060101ALN20241219BHJP
【FI】
E03B3/08
E03B3/08 Z
G01V9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099338
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】前田 洋佑
【テーマコード(参考)】
2G105
【Fターム(参考)】
2G105AA02
2G105EE02
2G105FF03
2G105LL01
(57)【要約】
【課題】所定の物理量が大きい地点から小さい地点に進む方向を把握できるようにした分布監視システムを提供する。
【解決手段】計測点I,P,Q,Rのそれぞれにおける水位hwから、2つのポテンシャル面が定義される。すなわち、領域IPQのポテンシャル面と、領域IQRのポテンシャル面である。PUは、各ポテンシャル面の法線ベクトルを算出する。PUは、領域IPQ,IQRのそれぞれの法線ベクトルの水平成分によって、領域IPQ,IQRのそれぞれにおいて水が流れる方向を把握する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる4個以上の計測点のそれぞれに設けられたセンサを備え、
取得処理、および勾配変数算出処理を実行するように構成され、
前記取得処理は、互いに異なる前記計測点のそれぞれにおけるセンサの検出値を取得する処理であり、
前記勾配変数算出処理は、複数の前記計測点に関する前記検出値を入力として、複数の領域のそれぞれにおける所定の物理量の勾配変数の値を算出する処理であり、
前記勾配変数は、位置毎の前記所定の物理量の大きさによって定まる面の勾配を示す変数である分布監視システム。
【請求項2】
前記勾配変数算出処理は、互いに隣接する3つの計測点のそれぞれにおける検出値から定まる平面の法線ベクトルを算出する処理を含む請求項1記載の分布監視システム。
【請求項3】
前記所定の物理量は、水位を示す物理量である請求項1記載の分布監視システム。
【請求項4】
前記所定の物理量は、エネルギを示す物理量であり、
前記勾配変数は、前記エネルギの流動方向を示す変数である請求項1記載の分布監視システム。
【請求項5】
互いに異なる前記計測点のうちの少なくとも1つには、前記センサの検出対象となる量を調整するための調整装置が配置されており、
目標値設定処理、および調整処理を実行するように構成され、
前記目標値設定処理は、複数の前記領域のそれぞれにおける変数目標値を設定する処理であり、
前記変数目標値は、前記勾配の目標値を定めるための変数であり、
前記調整処理は、前記調整装置を操作することによって、複数の前記領域のそれぞれにおける前記勾配を前記勾配の目標値に近づくように制御する処理である請求項1記載の分布監視システム。
【請求項6】
前記センサは、地下水の水位を検出するように構成され、
前記調整処理は、前記地下水の水位の勾配を制御する処理である請求項5記載の分布監視システム。
【請求項7】
複数の前記計測点のそれぞれに配置される、前記センサ、調整装置および制御部を備え、
前記調整装置は、前記センサの検出対象となる量を調整するように構成され、
前記制御部は、前記検出値を取得して且つ、前記調整装置を操作するように構成されている請求項1記載の分布監視システム。
【請求項8】
複数の前記計測点に配置された前記制御部は、互いに通信可能に構成されている請求項7記載の分布監視システム。
【請求項9】
請求項1に記載の分布監視システムにおける各処理を実行する工程を有する分布監視方法。
【請求項10】
請求項1に記載の分布監視システムにおける各処理をコンピュータに実行させる分布監視プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分布監視システム、分布監視方法、および分布監視プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば下記特許文献1には、同一の帯水層の複数の井戸のそれぞれに、水位を計測するセンサを備える井戸監視システムが記載されている。このシステムは、複数の井戸のそれぞれのセンサの検出値をサーバに集約する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記システムの場合、各井戸の水位を一括して管理することはできるものの、地下水の流れを把握することはできない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
1.互いに異なる4個以上の計測点のそれぞれに設けられたセンサを備え、取得処理、および勾配変数算出処理を実行するように構成され、前記取得処理は、互いに異なる前記計測点のそれぞれにおけるセンサの検出値を取得する処理であり、前記勾配変数算出処理は、複数の前記計測点に関する前記検出値を入力として、複数の領域のそれぞれにおける所定の物理量の勾配変数の値を算出する処理であり、前記勾配変数は、位置毎の前記所定の物理量の大きさによって定まる面の勾配を示す変数である分布監視システム。
【0006】
上記構成では、複数の計測点に関する検出値に基づき、所定の物理量の勾配変数の値を算出する。これにより、所定の物理量が大きい地点から小さい地点へと進む方向を把握することができる。特に、上記構成では、複数の領域のそれぞれにおける勾配変数の値を算出することから、単一の勾配変数の値を算出する場合と比較して、様々な地点についての所定の物理量が大きい地点から小さい地点へと進む方向をより詳細に把握できる。
【0007】
2.前記勾配変数算出処理は、互いに隣接する3つの計測点のそれぞれにおける検出値から定まる平面の法線ベクトルを算出する処理を含む上記1記載の分布監視システム。
上記構成では、互いに隣接する3つの計測点のそれぞれにおける検出値によって、位置に応じた所定の物理量を示す平面を定義できる。その平面の法線ベクトルは、勾配と相関を有する。そのため、上記構成では、互いに隣接する3つの計測点を1つの領域として、その領域における勾配変数の値を算出できる。
【0008】
3.前記所定の物理量は、水位を示す物理量である上記1記載の分布監視システム。
上記構成では、複数の領域のそれぞれにおける水位の勾配を把握できる。
4.前記所定の物理量は、エネルギを示す物理量であり、前記勾配変数は、前記エネルギの流動方向を示す変数である上記1~3のいずれか1つに記載の分布監視システム。
【0009】
上記構成では、複数の領域のそれぞれにおける勾配変数の値によって、それら各領域のエネルギの流動方向を把握できる。
5.互いに異なる前記計測点のうちの少なくとも1つには、前記センサの検出対象となる量を調整するための調整装置が配置されており、目標値設定処理、および調整処理を実行するように構成され、前記目標値設定処理は、複数の前記領域のそれぞれにおける変数目標値を設定する処理であり、前記変数目標値は、前記勾配の目標値を定めるための変数であり、前記調整処理は、前記調整装置を操作することによって、複数の前記領域のそれぞれにおける前記勾配を前記勾配の目標値に近づくように制御する処理である上記1~4のいずれか1つに記載の分布監視システム。
【0010】
上記構成では、調整処理によって複数の領域のそれぞれにおける勾配を目標値に近づくように制御できる。そのため、複数の領域のそれぞれにおける所定の物理量が大きい位置から小さい位置へと進む方向を所望の方向に変更できる。
【0011】
6.前記センサは、地下水の水位を検出するように構成され、前記調整処理は、前記地下水の水位の勾配を制御する処理である上記5記載の分布監視システム。
上記構成では、調整処理によって、地下水の流動方向を制御できる。
【0012】
7.複数の前記計測点のそれぞれに配置される、前記センサ、調整装置および制御部を備え、前記調整装置は、前記センサの検出対象となる量を調整するように構成され、前記制御部は、前記検出値を取得して且つ、前記調整装置を操作するように構成されている上記1~6のいずれか1つに記載の分布監視システム。
【0013】
上記構成では、複数の計測点のそれぞれにおいて調整装置によって所定の物理量を制御できる。そのため、複数の計測点の一部に限って調整装置を備える場合と比較して、領域の勾配を制御する自由度が大きい。
【0014】
8.複数の前記計測点に配置された前記制御部は、互いに通信可能に構成されている上記7記載の分布監視システム。
上記構成では、複数の計測点に配置された制御部が互いに通信しつつ、勾配を制御できる。
【0015】
9.上記1~8のいずれか1つに記載の分布監視システムにおける各処理を実行する工程を有する分布監視方法。
10.上記1~8のいずれか1つに記載の分布監視システムにおける各処理をコンピュータに実行させる分布監視プログラム。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施形態にかかる分布監視システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】同実施形態にかかる制御部が実行する処理の手順を示す流れ図である。
【
図3】同実施形態にかかる制御部が実行する処理の手順を示す流れ図である。
【
図4】同実施形態にかかるポテンシャル面を示す図である。
【
図5】同実施形態にかかる法線ベクトルおよび水流ベクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
「システム構成」
図1に、本実施形態にかかる分布監視システムを示す。本実施形態では、一例として、同一の帯水層における地下水の流れを制御するシステムを例示する。
【0018】
図1に示す、制御部10(1),10(2),10(3),10(4),…は、同一の帯水層の互いに異なる地点に配置されている。それらの地点は、水位の計測点に対応する。なお、制御部10の後のカッコ内の数には、地点を識別する変数である。以下では、制御部10(1),10(2),10(3),10(4),…を総括する場合、制御部10と記載する。
【0019】
制御部10(1),10(2),10(3),10(4),…の近傍には、アクチュエータ20(1),20(2),…およびセンサ22(1),22(2),…が配置されている。アクチュエータ20の後のカッコ内の数字は、地点を識別する変数である。以下では、アクチュエータ20(1),20(2),…を総括する場合、アクチュエータ20と記載する。また、センサ22の後のカッコ内の数字も、地点を識別する変数である。以下では、センサ22(1),22(2),…を総括する場合、センサ22と記載する。
【0020】
センサ22は、制御部10が配置されている地点の井戸の水位を計測するように構成されている。アクチュエータ20は、同井戸の水位を調整する調整装置である。アクチュエータ20は、一例としてポンプを備える。すなわち、ポンプにより井戸から水がくみ上げられると、井戸の水位が低下する。また、アクチュエータ20は、一例として貯水タンクから井戸への水の流れを制御するバルブを備える。バルブが開弁すると、貯水タンクから井戸に水が供給されることによって、井戸の水位が上昇する。
【0021】
制御部10は、PU12、メモリ14、および通信機16を備える。PU12は、CPU、GPU、およびTPU等のソフトウェア処理装置である。メモリ14には、水流制御プログラム14aが記憶されている。通信機16は、サーバ30を介して他の計測点における制御部10との通信を可能とする。
【0022】
複数の制御部10は、協調制御によって、帯水層を複数の領域に分割したそれぞれにおける地下水の流動方向を制御する。協調制御において、複数の計測点のそれぞれに配置された制御部10は、井戸の水位が制御量であるフィードバック制御の操作量に応じてアクチュエータ20を操作する。
【0023】
なお、本実施形態では、水流を制御するための指令値を人が入力可能な遠隔指令部32を備えている。遠隔指令部32は、サーバ30を介して制御部10と通信可能となっている。遠隔指令部32による指令がなされる場合には、制御部10は、同指令を優先してもよい。
【0024】
「水流制御」
図2および
図3に、遠隔指令部32によらない、制御部10による水流の制御の手順を示す。
図2および
図3に示す処理は、各計測点におけるPU12が、水流制御プログラム14aを実行することにより実現される。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって、各処理のステップ番号を表現する。また、以下では、変数iを1,2,3,…のいずれかとして、特定の計測点の制御部10(i)における処理を例にとって説明する。
【0025】
図2に示す一連の処理において、PU12(i)は、まずセンサ22(i)による検出値dw(i)を取得する(S10)。次に、PU12(i)は、センサ22(i)の配置されている位置における標高と検出値dwとに基づき、井戸の水位hw(i)を算出する。なお、標高の情報は、一例として、予めメモリ14に記憶されているとすればよい。そして、PU12(i)は、通信機16を操作することによって、水位hw(i)を他の計測点の制御部10に送信する(S14)。
【0026】
PU12(i)は、隣接する計測点における水位hw(p),hw(q),hw(r),…を受信する(S16)。ここで、「p」、「q」、「r」、…は、互いに異なる自然数である。水位hw(p),hw(q),hw(r),…は、それぞれ、PU12(p),PU12(q),PU12(r),…が実行するS14の処理によって送信されたデータである。
【0027】
PU12(i)は、計測点の座標と水位hwとからなるデータである、位置毎の水位データを生成する(S18)。すなわち、たとえば、水位hw(i)と、計測点の座標x(i),y(i)とによって、1組のデータを生成する。また、たとえば、水位hw(p)と、計測点の座標x(p),y(p)とによって、1組のデータを生成する。なお、計測点の座標x、yは、予めメモリ14に記憶されているとしてもよい。
【0028】
PU12(i)は、ポンテンシャル面の法線ベクトルNを算出する(S20)。ポテンシャル面は、位置毎に定義される地下水の位置エネルギの大きさによって定義される面である。ポテンシャル面は、位置毎の水位によって定義される面でもある。
【0029】
図4に、PU12(i)が法線ベクトルNを算出する対象となるポテンシャル面を例示する。
図4には、PU12(i)に対応する計測点Iと、隣接する計測点P,Qとのそれぞれにおける水位データから定まる三角形状のポテンシャル面が記載されている。また、
図4には、PU12(i)に対応する計測点Iと、隣接する計測点Q,Rとのそれぞれにおける水位データから定まる三角形状のポテンシャル面が記載されている。すなわち、本実施形態では、計測点以外の地点における水位は、線形補間によって定められている。なお、
図4においては、計測点Iに隣接する計測点は、計測点P,Q,Rの3個であるが、これは例である。計測点Iに隣接する計測点の数は2個でもよく、また4個以上であってもよい。計測点Iに隣接する計測点の数が4個の場合、ポテンシャル面が3個定義される。
図2および
図3の処理は、
図4の例に整合するように記載している。
【0030】
図5に、計測点I,P,Qによって区画される領域IPQにおける法線ベクトルN(ipq)を例示する。PU(i)は、法線ベクトルN(ipq)を、計測点Iから計測点Pに進むベクトルvipと、計測点Iから計測点Qに進むベクトルviqとの外積によって求める。すなわち、「N(ipq)=vip×viq」である。PU12(i)は、同様にして法線ベクトルN(iqr)を算出する。
【0031】
図2に戻り、PU(i)は、法線ベクトルN(ipq)の水平方向成分として、水流ベクトルNv(ipq),Nv(iqr)を算出する(S22)。
図5に、水流ベクトルNv(ipq)を例示する。水流ベクトルNv(ipq)は、水平方向における地下水の流れる方向を示す。地下水は、位置エネルギが大きい地点から小さい地点に流れる。そのため、水流ベクトルNvによって地下水の流れる方向を定量化すべく、法線ベクトルNは、その垂直成分が正となるものが選択される。これは、外積演算において用いる2つのベクトルがなす角度が反時計回りに180°以下となるように選択することによって実現できる。
【0032】
図2に戻り、PU12(i)は、水流ベクトルNvに基づき、地下水の流れが望ましくないか否かを判定する(S24)。この処理は、PU12(i)が、地下水の流れとして許容される方向と水流ベクトルNvとを比較する処理である。この処理のために、メモリ14に、上記許容される方向を規定するデータを予め記憶しておく。
【0033】
PU12(i)は、地下水の流れる方向が許容できないと判定する場合(S24:YES)、担当する計測点Iおよび隣接する計測点P,Q,Rの目標水位を仮設定する(S26)。
【0034】
ここで、PU12(i)は、領域毎に、次の処理を実行する。PU12(i)は、まず、S22の処理で算出した水流ベクトルNvを水平面で極力小さい回転角だけ回転させることによって、地下水の流れとして許容される範囲に入るようにする。次にPU12(i)は、回転させた水流ベクトルNvを得るための法線ベクトルNを算出する。具体的には、PU12(i)は、ポテンシャル面を定める3つの計測点のそれぞれにおける水位を単位量変化させた際のポテンシャル面を新たに算出する。次に、PU12(i)は、そのポテンシャル面の法線ベクトルNおよび水流ベクトルNvを求める。PU12(i)は、新たにポテンシャル面の法線ベクトルNおよび水流ベクトルNvを算出する都度、上記回転させた水流ベクトルNvとの一致の有無を判定する。PU12(i)は、新たに算出したポテンシャル面の水流ベクトルが上記回転させた水流ベクトルNvと一致する場合、そのときの各計測点の水位を目標水位hw*に仮設定する。
【0035】
PU(i)は、担当する計測点Iおよび隣接する計測点P,Q,Rによって定まる領域の全てについて目標水位hw*を算出する。具体的には、たとえば、PU12(i)は、まず1つの領域IPQについて、目標水位hw*(i),hw*(p),hw*(q)を算出する。そして、次にPU12(i)は、他の領域について目標水位hw*を算出する。ここで、PU(i)は、すでに目標水位hw*が算出されている計測点については、これを保存する。すなわちPU(i)は、領域IQRにおける目標水位hw*を算出するときには、目標水位hw*(i),hw*(q)は変えずに、目標水位hw*(r)を変える。ただし、PU12(i)は、目標水位hw*(r)を変えることによっては、領域IQRにおける地下水の流れを許容される範囲にできない場合、目標水位hw*(i),hw*(p),hw*(q)を再探索する。
【0036】
PU12(i)は、S26の処理を完了する場合、通信機16を操作することによって、仮設定した目標水位hw*を他の計測点の制御部10に送信する(S28)。
PU12(i)は、S28の処理を完了する場合と、S24の処理において否定判定する場合とには、他の計測点によって仮設定された目標水位hw*を受信する(S30)。ここで、受信する目標水位hw*は、PU(i)の位置する計測点に隣接する計測点における値とする。
【0037】
そして、PU12(i)は、目標水位hw*を評価する(
図3:S32)。ここで、PU12(i)は、S26の処理における目標水位hw*の設定対象となる計測点について、他の計測点によって設定された値が実現可能であるかを評価する。すなわち、たとえば、
図4において、計測点Qに隣接する計測点によって仮設定される目標水位hw*(q)は、PU12(i)が考慮していない計測点における水位hwとの関係で、PU12(i)が定めたものとは大きく異なるおそれがある。PU12(i)は、他の計測点において算出された目標水位hw*(q)に変更しても、領域IPQ,IQRにおける地下水の流れ方向を許容される範囲とすることができる場合、他の計測点の要求を満たすことができると評価する。一方、PU12(i)は、領域IPQ,IQRにおける地下水の流れ方向を許容される範囲とすることができない場合、他の計測点の要求を満たすことができないと評価する。
【0038】
PU12(i)は、通信機16を操作することによって、評価結果を他の計測点の制御部10に送信する(S34)。また、PU12(i)は、他の計測点の制御部10から評価結果を受信する(S36)。次にPU12(i)は、受信した評価結果および送信した評価結果の少なくとも1つに、他の計測点の要求を満たすことができない旨の評価があるか否かを判定する(S38)。
【0039】
PU12(i)は、要求を満たすことができない旨の評価がある場合(S38:YES)、他の計測点との調停処理を実行する(S40)。ここで、PU12(i)は、担当する計測点Iに隣接する計測点P,Q,Rのいずれかにおいて、他の計測点の要求を満たさせない場合、隣接する計測点P,Q,Rにおいて水位hwの許容範囲を他の計測点の制御部10に送信する。これにより、他の計測点のPU12は、許容範囲内の水位で地下水の流れ方向を許容される範囲とする目標水位hw*を探索する。そして、PU12は、探索結果のうちの、計測点P,Q,Rにおける目標水位hw*(p),hw*(q),hw*(r)を、制御部10(i)に送信する。
【0040】
また、PU12(i)は、担当する計測点Iに隣接する計測点P,Q,Rのいずれにおいても他の計測点の要求を満たす場合には、他の計測点において目標水位hw*の探索処理がなされる間、待機する。PU12(i)は、この探索処理の結果、計測点P,Q,Rにおける目標水位hw*に変更が生じる場合、その旨の通知を受信する。
【0041】
PU12(i)は、S40の処理を完了する場合と、S38の処理において否定判定する場合と、には、目標水位hw*(i)を確定させる(S42)。この処理によって確定された目標水位hw*(i)は、領域IPQ,IQRにおける地下水の流れ方向が許容範囲となって且つ、他の領域から生じた計測点P,Q,Rの水位の要求を満たす値である。
【0042】
PU12(i)は、計測点Iの水位hwを目標水位hw*(i)に近づけるべく、アクチュエータ20(i)を操作する(S44)。
なお、PU12(i)は、S44の処理を完了する場合、
図3および
図4に示す一連の処理を一旦終了する。
【0043】
「本実施形態の作用および効果」
システムを構成するPU12によって、帯水層が複数に分割された各領域における法線ベクトルNおよび水流ベクトルNvが算出される。そのため、単一の水流ベクトルが算出される場合と比較して、地下水の流れる方向についてのより詳細な情報を入手できる。
【0044】
以上説明した本実施形態によれば、さらに以下に記載する作用および効果が得られる。
(1)PU12は、互いに隣接する3つの計測点における法線ベクトルNおよび水流ベクトルNvを算出した。これにより、線形補間によって定まる水面の位置エネルギを示すポテンシャル面についての法線ベクトルN等を算出できる。
【0045】
(2)PU12は、3点によって定まる2つのベクトルの外積によって法線ベクトルNを算出した。これにより、法線ベクトルNを簡易に算出できる。
(3)PU12は、水流ベクトルNvが、地下水の流れる方向として許容できる方向から外れる場合、井戸の水位を制御した。これにより、許容されない方向に地下水が流れることを抑制できる。
【0046】
<対応関係>
上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。以下では、「課題を解決するための手段」の欄に記載した解決手段の番号毎に、対応関係を示している。[1,3,6,7,9,10]取得処理は、S10の処理に対応する。勾配変数算出処理は、S12~S22の処理に対応する。所定の物理量は、水位hwまたは水面の位置エネルギに対応する。勾配変数は、法線ベクトルNまたは水流ベクトルNvに対応する。[2]S20の処理に対応する。[4]エネルギの流動方向を示す変数は、法線ベクトルNまたは水流ベクトルNvに対応する。[5]調整装置は、アクチュエータ20に対応する。目標値設定処理は、S42の処理に対応する。調整処理は、S44の処理に対応する。制御部は、制御部10に対応する。変数目標値は、目標水位hw*に対応する。[8]
図1において、制御部10(1),10(2),…がサーバ30を介して互いに通信可能とされていることに対応する。
【0047】
<その他の実施形態>
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0048】
「複数の領域について」
・複数の領域のそれぞれが3つの計測点によって定まる領域であることは必須ではない。たとえば、
図4に示す例において、計測点Iおよび計測点Pの中点、計測点Pおよび計測点Qの中点、および計測点Qおよび計測点Iの中点を定義することによって、計測点I,P,Qおよび3つの中点によって、領域IPQを細分化してもよい。ここで、各中点における水位を、曲線補間するなら、領域IPQを細分化した4個の領域のそれぞれにおけるポテンシャル面は、必ずしも平行とならない。すなわち、互いに異なるポテンシャル面となることがある。
【0049】
「勾配変数算出処理について」
・ポテンシャル面の法線ベクトルNを求める手法としては、外積を用いる手法に限らない。たとえば、計測点の数が非常に多い場合等、領域の面積が非常に小さい場合には、近似的にポテンシャル面のグラジエントを算出するようにしてもよい。その場合、PU12は、ポテンシャル面を適宜、複数の領域に分割して且つ、それぞれの領域についてグラジエントを算出すればよい。
【0050】
「所定の物理量について」
・所定の物理量は、水位hwまたは水面の位置エネルギに限らない。たとえば、所定の物理量は、位置毎の温度であってもよい。その場合、勾配変数は、温度勾配を示す。またたとえば、所定の物理量は、位置毎の湿度であってもよい。またたとえば、所定の物理量は、位置毎の圧力であってもよい。またたとえば、所定の物理量は、マトリックポテンシャルであってもよい。またたとえば、所定の物理量は、水ポテンシャルであってもよい。ここで、水ポテンシャルは、浸透ポテンシャル、圧力ポテンシャル、重力ポテンシャル、湿度によるポテンシャル、およびマトリックポテンシャル等の合算で構成されていてもよい。所定の物理量としてのスカラーポテンシャルは、他にも例えば、電場によるポテンシャル等であってもよい。なお、所定の物理量としてのポテンシャルがスカラーポテンシャルであることは必須ではなく、ベクトルポテンシャルであってもよい。
【0051】
「調整装置について」
・調整装置は、水の供給または吸引のためのアクチュエータ20に限らない。たとえば、「所定の物理量について」の欄に記載したように所定の物理量が温度の場合、調整装置をヒータとしてもよい。
【0052】
・全ての計測点において、アクチュエータ20等の調整装置を備えることは必須ではない。
「変数目標値について」
・位置エネルギのポテンシャル面の勾配の目標値を定めるための変数として目標水位hw*を採用することは必須ではない。たとえば、位置エネルギのポテンシャル面の勾配の目標値を定めるための変数として法線ベクトルNの目標値を採用してもよい。その場合、たとえば、領域IPQにおけるポテンシャル面の法線ベクトルNの目標値が定められる場合、計測点I,P,QのそれぞれのPU12は、アクチュエータ20を操作しつつ検出値dwを入力として法線ベクトルNを更新する処理を繰り返せばよい。ここで、PU12は、更新される法線ベクトルNを、法線ベクトルNの目標値に近づけるようにアクチュエータ20を操作する。
【0053】
「変数目標値の設定について」
・S26~S40の処理は必須ではない。たとえば、全ての計測点の水位hwを1つの制御部10が取得することによって、全ての計測点の目標水位hw*を1つの制御部10が設定してもよい。またたとえば、サーバ30が、全ての計測点の水位hwを取得することによって、全ての計測点の目標水位hw*を設定してもよい。
【0054】
「制御部同士の通信について」
・制御部10同士がサーバ30を介して通信可能とされることは必須ではない。たとえば、制御部10同士が直接通信可能であってもよい。
【0055】
「制御部について」
・制御部としては、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態において実行される処理の少なくとも一部を実行するたとえばASIC等の専用のハードウェア回路を備えてもよい。すなわち、制御部は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成を備える処理回路を含んでいればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶する記憶装置等のプログラム格納装置とを備える処理回路。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える処理回路。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える処理回路。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置は、複数であってもよい。また、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【符号の説明】
【0056】
10…制御部
14…メモリ
14a…水流制御プログラム
16…通信機
20…アクチュエータ
22…センサ
30…サーバ
32…遠隔指令部