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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017997
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】摩擦材
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20240201BHJP
   F16D 13/62 20060101ALI20240201BHJP
   F16D 69/02 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C09K3/14 520C
C09K3/14 520M
C09K3/14 530G
F16D13/62 A
F16D69/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121017
(22)【出願日】2022-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000107619
【氏名又は名称】スターライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】下川路 朋紘
(72)【発明者】
【氏名】菊谷 慎哉
(72)【発明者】
【氏名】堀内 秀紀
【テーマコード(参考)】
3J056
3J058
【Fターム(参考)】
3J056AA31
3J056EA12
3J058AA78
3J058AA79
3J058AA88
3J058BA41
3J058BA76
3J058CA41
3J058EA02
3J058EA12
3J058FA42
3J058GA04
3J058GA24
3J058GA31
3J058GA55
3J058GA59
3J058GA75
3J058GA92
(57)【要約】
【課題】射出成形による量産が可能であり、常温でも120℃程度より高温の領域においても安定した良好な摩擦特性を有し、かつ、120℃程度より高温の領域において良好な耐摩耗性を有する摩擦材及び当該摩擦材を用いた制動装置を備えるサーボモーターを提供すること。
【解決手段】射出成形物からなる摩擦材であって、フェノール樹脂40~55体積%、モース硬度5以上の無機繊維、モース硬度5未満の無機充填剤を含み、前記無機充填剤がテトラポッド型結晶体を含む、摩擦材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形物からなる摩擦材であって、
フェノール樹脂40~55体積%、
モース硬度5以上の無機繊維、
モース硬度5未満の無機充填剤を含み、
前記無機充填剤がテトラポッド型結晶体を含む、摩擦材。
【請求項2】
前記無機繊維を20~40体積%、前記無機充填剤を5~40体積%含み、
前記テトラポッド型結晶体が、前記無機充填剤全体に対して5体積%以上含まれる、請求項1記載の摩擦材。
【請求項3】
前記テトラポッド型結晶体が酸化亜鉛ウィスカーの結晶体である請求項1又は2に記載の摩擦材。
【請求項4】
前記無機繊維が、ガラス繊維及び/又はロックウールである請求項1又は2に記載の摩擦材。
【請求項5】
前記無機充填剤が、前記テトラポッド型結晶体以外に、層状ケイ酸塩、無機ウィスカー及び硫酸塩から選択される少なくとも1種を含む請求項1又は2に記載の摩擦材。
【請求項6】
ゴム成分を5~15体積%含む請求項1又は2に記載の摩擦材。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の摩擦材を用いた制動装置を備えるサーボモーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦材に関し、特に、フェノール樹脂を含む射出成形物からなる摩擦材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂をベースとした摩擦材は、自動車等のブレーキや、大型の産業用ロボットのサーボモーターのブレーキ等に使用されている。このような用途に用いられる摩擦材では、高い安全性が求められるため、一般に、モース硬度の高い充填材や繊維等を高充填し、バインダー成分として必要最低限量のフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることで、安定的に高い摩擦係数を得るように構成される。その結果、摩擦材の原料となる樹脂組成物は溶融流動性が乏しく、圧縮成形物を用いて摩擦材を作製することが一般的であった。
【0003】
一方、近年、産業用ロボットの分野では、各種の製造工程で人間と同じ作業スペースにおいて安全柵などで囲うことなく稼働し、人間と直接的に協働することが可能で小型の所謂協働ロボットへの需要が高まっている。このような協働ロボットでは、多くの関節等をサーボモーターで駆動させ、停止の際はサーボモーターの無励磁作動ブレーキにより停止、または姿勢保持し、各種の作業を行わせる。このような協働ロボットは、大型の産業用ロボットより小型であるため、大型の産業用ロボットに備えられる摩擦材に要求されるような高い摩擦係数は要求されないが、緊急制動用として機能することが求められる。緊急制動用として機能するには、熱可塑性樹脂をバインダー成分として用いると溶融する可能性があることから、バインダー成分としては熱硬化性樹脂の使用が求められる。また、協働ロボットの多くの関節等に設けられるサーボモーターに無励磁作動ブレーキを設ける必要上、安価に提供可能なことも求められる。
【0004】
このような、産業用ロボットの分野、特に協働ロボットに適用される摩擦材に対する市場の要求に対して、本出願人は、常温でも120℃程度より高温の領域においても安定した良好な摩擦特性を有し、量産が可能な摩擦材を提案している(特許文献1)。特許文献1に記載の摩擦材は、例えば、モース硬度5以上の無機繊維を30~50体積%、モース硬度5未満の無機充填剤を少なくとも3種をそれぞれ5体積%以上、合計15~45体積%、フェノール樹脂を30~40体積%含有する熱硬化性樹脂組成物の射出成形物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-107468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の発明によると、射出成形が可能であることで安価に摩擦材を提供可能であり、例えば150℃においても常温(25℃)の場合と遜色ない摩擦特性を奏することができる。しかし、本発明者の検討の結果、一定程度の期間使用を継続すると、摩擦材が摩耗する場合があることが判明した。またその結果、摩擦粉がブレーキ内部に堆積し、ブレーキの性能に影響する場合があることが判明した。
【0007】
そこで、本発明の目的は、射出成形による量産が可能であり、常温でも120℃程度より高温の領域においても安定した良好な摩擦特性を有し、かつ、120℃程度より高温の領域において良好な耐摩耗性を有する摩擦材を提供することにある。また、当該摩擦材を用いた制動装置を備えるサーボモーターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前述の課題解決のために、鋭意検討を行った。その結果、フェノール樹脂を所定範囲の容積比率となるように含有させ、モース硬度5以上の無機繊維とともに、テトラポッド型結晶体を含むモース硬度5未満の無機充填剤を含むように摩擦材を構成することで前述の課題が解決可能であることを見出した。本発明の要旨は以下のとおりである。
【0009】
本発明の第一は、射出成形物からなる摩擦材であって、フェノール樹脂40~55体積%、モース硬度5以上の無機繊維、モース硬度5未満の無機充填剤を含み、前記無機充填剤がテトラポッド型結晶体を含む、摩擦材に関する。
【0010】
本発明の実施形態では、前記無機繊維を20~40体積%、前記無機充填剤を5~40体積%含み、前記テトラポッド型結晶体が、前記無機充填剤全体に対して5体積%以上含まれてもよい。
【0011】
本発明の実施形態では、前記テトラポッド型結晶体が酸化亜鉛ウィスカーの結晶体であってもよい。
【0012】
本発明の実施形態では、前記無機繊維が、ガラス繊維及び/又はロックウールであってもよい。
【0013】
本発明の実施形態では、前記無機充填剤が、前記テトラポッド型結晶体以外に、層状ケイ酸塩、無機ウィスカー及び硫酸塩から選択される少なくとも1種を含むものであってもよい。
【0014】
本発明の実施形態では、ゴム成分を5~15体積%含んでもよい。
【0015】
前述の本発明の各実施形態は、任意に組み合わせることができる。
【0016】
本発明の第二は、前述の摩擦材を用いた制動装置を備えるサーボモーターに関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、射出成形による量産が可能であり、常温でも120℃程度より高温の領域においても安定した良好な摩擦特性を有し、かつ、120℃程度より高温の領域において良好な耐摩耗性を有する摩擦材を提供することができる。また、当該摩擦材を用いた制動装置を備えるサーボモーターを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】比摩耗量を算出する際に使用する摩耗進行曲線を模式的に示した説明図である。
図2】実施例3及び比較例4の150℃条件における摩耗進行曲線を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態に係る摩擦材は、射出成形物からなる。また、摩擦材は、フェノール樹脂40~55体積%、モース硬度5以上の無機繊維、モース硬度5未満の無機充填剤を含む。さらに、前記無機充填剤はテトラポッド型結晶体を含む。
【0020】
このように、フェノール樹脂を所定範囲の容積比率で含むとともに、特定の無機繊維と特定の無機充填剤を含み、特に、無機充填剤としてテトラポッド型結晶体を含むことで、このテトラポッド型結晶体がフェノール樹脂成分と密着し易く、フェノール樹脂の含有率が40~55体積%であっても摩擦材を摩耗し難くすることができ、従来よりも、特に120℃程度を超える高温領域における耐摩耗性を向上させることができる。
【0021】
前記フェノール樹脂は、摩擦材として使用可能な従来公知のものを採用することができ、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、アリールアルキレン型フェノール樹脂等が挙げられる。ノボラック型フェノール樹脂としては、例えば、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂が挙げられる。レゾール型フェノール樹脂としては、例えば、メチロール型レゾール樹脂、ジメチレンエーテル型レゾール樹脂等が挙げられる。アリールアルキレン型フェノール樹脂としては、例えば、フェノール・アラルキル樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらのうち、ノボラック型フェノール樹脂、アリールアルキレン型フェノール樹脂が好ましい。
【0022】
射出成形時のフェノール樹脂には、必要に応じて硬化剤が含まれていてもよい。例えば、ノボラック型フェノール樹脂やアリールアルキレン型フェノール樹脂の場合は、通常はヘキサメチレンテトラミンを好適に使用することができる。尚、条件等によっては射出成形物に硬化剤が残存する場合があるが、フェノール樹脂を構成する成分として扱うものとする。
【0023】
また、フェノール樹脂は、耐熱性の観点からは、硬化後のガラス転移温度(Tg)が120℃より高いものが好ましい。
【0024】
フェノール樹脂の含有量は、射出成形物即ち摩擦材中に40~55体積%である。一般の圧縮成形に用いられる場合は20体積%程度であり、これよりも配合比は大きい。そのため、射出成形時の流動性を確保可能であり、モース硬度5以上の無機繊維による射出成形機への攻撃も抑制可能である。
【0025】
また、従来の圧縮成形により得られる摩擦材は樹脂成分が少なく脆く、曲げ弾性率や曲げ強度等の機械的特性が低いため、強度を確保する観点から金属板等に固定して用いられるのが一般的である。しかし、前述のようなフェノール樹脂の含有量とし、所定の無機繊維及び無機充填剤を含有することで、曲げ強度や曲げ弾性率等の機械的特性を圧縮成形の場合よりも向上させることが可能である。そのため、圧縮成形品である摩擦材のように金属板のような補強部材を用いなくともそれ自体で摩擦材として機能させることが可能になる。
【0026】
前記無機繊維は、モース硬度5以上のものである。良好な射出成形性を確保する観点から、モース硬度は5以上7未満がより好ましい。モース硬度5以上の無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、ロックウール、アルミナ繊維、バサルト繊維、ジルコニア繊維等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。このうち、モース硬度5以上の無機繊維としては、ガラス繊維及び/又はロックウールが好ましく、ガラス繊維及びロックウールがより好ましい。モース硬度は、10種類の硬さの異なる標準鉱物でこすった場合に、標準鉱物への傷つきの有無で判定できる。モース硬度の測定には、市販のモース硬度計を用いることができる。
【0027】
モース硬度5以上の無機繊維の含有量は、射出成形物即ち摩擦材中20~40体積%が好ましく、25~40体積%がより好ましい。これにより、良好な摩擦特性を付与できる。無機繊維が複数種含まれる場合は合計量である。
【0028】
前記無機充填剤は、モース硬度5未満のものであり、かつ、テトラポッド型結晶体を含む。
【0029】
テトラポッド型結晶体を構成し得る無機充填剤としては、例えば、酸化亜鉛ウィスカーの結晶体等が挙げられ、酸化亜鉛ウィスカーの結晶体が特に好ましい。酸化亜鉛ウィスカーのテトラポッド型結晶体は、例えば、特開平1-252600号公報に記載の方法により製造することができる。また、市販のものを用いてもよい。酸化亜鉛ウィスカーには、細く短い針状結晶体、不定形の結晶体等が存在し得るが、テトラポッド型結晶体を用いることで、摩擦材の120℃より高温領域での良好な耐摩耗性を付与することを可能としている。
【0030】
テトラポッド型結晶体は、例えば、中心の基部とこの基部から4軸方向に延びる針状結晶部とからなるものが挙げられる。基部の大きさは、例えば、0.7~14μm、針状結晶部の基部から先端までの長さは、例えば、3~200μmとすることができる。市販の酸化亜鉛のテトラポッド型結晶体は、針状結晶部の長さが、約10μm又は20μmのものを入手可能である。
【0031】
前記無機充填剤は、テトラポッド型結晶体以外に、他の無機充填剤を用いることができる。このような他の無機充填剤としては、例えば、層状ケイ酸塩、無機ウィスカー、硫酸塩、炭酸塩、非層状ケイ酸塩(無機ウィスカーを除く)、ケイ酸塩以外の鉱物(無機ウィスカーを除く)、フッ化カルシウム(鉱物を除く)等が挙げられる。これらを用いる場合は、単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。射出成形性、高温時の摩擦特性の低下の抑制、摩擦材の強度の観点から、前記テトラポッド型結晶体と併せて3種以上の無機充填剤を含むのが好ましい。テトラポッド型結晶体以外の他の無機充填剤としては、層状ケイ酸塩、無機ウィスカー及び硫酸塩から選択される1種又は2種以上が好ましく、層状ケイ酸塩及び硫酸塩から選択される1種又は2種以上がより好ましい。
【0032】
層状ケイ酸塩としては、例えば、カオリン、蛇紋石、タルク、黒雲母、金雲母、白雲母、バーミキュライト等の粘土鉱物等が挙げられる。
【0033】
無機ウィスカーとしては、例えば、チタン酸カリウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー(但し、テトラポッド型結晶体を除く)、硫酸マグネシウムウィスカー、ウォラスナイト、セピオライト等が挙げられる。
【0034】
硫酸塩としては、例えば、硫酸バリウム、硫酸カルシウム水和物等が挙げられる。
【0035】
炭酸塩としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸リチウム、炭酸バリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
【0036】
非層状ケイ酸塩(無機ウィスカーを除く)としては、例えば、ゼオライト(沸石)、ケイ酸カルシウム(鉱物を除く)等が挙げられる。
【0037】
ケイ酸塩以外の鉱物(無機ウィスカーを除く)としては、例えば、ドロマイト、フルオライト、カルサイト、苦灰石等が挙げられる。
【0038】
モース硬度5未満の無機充填剤の含有量は、射出成形物即ち摩擦材中5~40体積%が好ましい。また、モース硬度5未満の無機充填剤全体中のテトラポッド型結晶体の含量は、100体積%以下とすることができる。テトラポッド型結晶体と他の無機充填剤とを含む場合、テトラポッド型結晶体は、無機充填剤全体に対して5体積%以上含まれるのが好ましく、10~50体積%含まれるのがより好ましく、10~39体積%含まれるのがさらに好ましい。他の無機充填剤を1種又は2種以上含む場合は、他の無機充填剤はそれぞれ、無機充填剤全体中5体積%以上含むのが好ましく、他の無機充填剤合計で50~90体積%含まれるのがより好ましく、61~90体積%含まれるのがさらに好ましい。
【0039】
前述の無機繊維及び無機充填剤は、必要に応じて、例えばアミノシラン等により表面処理を行って、フェノール樹脂との結合力を向上させたものを用いてもよい。
【0040】
摩擦材には、前述の成分以外に、無機充填剤とフェノール樹脂との密着性をより向上させる観点、摩擦材と相手材との接触面積をより増加させる観点から、ゴム成分を含んでもよい。このようなゴム成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、ニトリルゴム(NBR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ポリイソプレンゴム(IR)、アクリルゴムA(CM)、ハイスチレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)、シリコーンゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴム等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらのうち、ニトリルゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴムから選択される少なくとも1種が好ましく、ニトリルゴムがより好ましい。ニトリルゴムは、粉末ニトリルゴムが特に好ましい。
【0041】
ゴム成分の形態は、特に限定はなく、フェノール樹脂中に分散して存在させることができるものあればよく、例えば、粉体状、粉末状等が挙げられる。ゴム成分の粒子の大きさは、例えば、平均粒子径が1mm以下のものを用いることができる。平均粒子径は、例えば、レーザ回折・散乱法(JIS Z 8825)等により測定することができる。
【0042】
ゴム成分を用いる場合、摩擦材中の含有量は、無機充填剤とフェノール樹脂の密着性をより向上させる観点から、5~15体積%が好ましい。
【0043】
摩擦材には、前述の各成分以外に、他の成分が含まれていてもよい。このような成分としては、当該技術分野において一般に用いられているものが挙げられ、例えば、難燃剤、離型剤、可塑剤、着色剤、耐候剤、酸化防止剤等が挙げられる。添加する場合は、合計で摩擦材中5体積%以下が好ましい。
【0044】
以上のような摩擦材は、例えば、射出成形物として25℃での曲げ強度が100MPa以上の機械的特性を有することができる。そのため、射出成形物を金属板に固定しなくても、それ自体で、摩擦材として機能させることが可能である。そのため、軽量化が可能であり、また、金属板への接合処理を省略することも可能である。また、以上のような摩擦材は、無機繊維や無機充填剤の配合比を圧縮成形の場合より低くすることが可能であるため、つまり、従来の圧縮成形物より小さくすることが可能である。この点からも、従来の圧縮成形物の場合より軽量化が可能である。
【0045】
摩擦材の形状は、用途等に応じて適宜決定可能である。例えば、板状、リング状等が挙げられる。
【0046】
摩擦材は、一般的な熱硬化性樹脂組成物の射出成形方法により得ることができる。例えば、以下のようにして作製することができる。先ず、前述のフェノール樹脂(必要に応じて用いられる硬化剤を含む)、所定の無機繊維、所定の無機充填剤、他の任意成分を、射出成形物即ち摩擦材において所望の含有量になるような配合比で混合する。尚、この際の配合比は、後述する硬化後の摩擦材においても維持される。硬化後の摩擦材において含有量を測定する場合は、例えば、SEM(走査電子顕微鏡)、EDX(エネルギー分散型X線分光装置)及びFIB(集束イオンビーム装置)を組合わせた測定装置を用いて得られた画像から測定、算出し得る。或いは、無機繊維及び無機充填剤について示差熱-熱重量同時測定装置(TG-DTA)を用いて、所定条件で加熱した後の重量残量割合等により測定し、算出(密度換算を含む)し得る。混合後、ロールや混練押出機等を用いて定法に従って混練し、所望の形状の混練物を熱硬化性樹脂組成物として得る。得られた熱硬化性樹脂組成物の形状は、射出成形用として一般的な形状であればよい。例えば、ペレット状、フレーク状等が挙げられる。
【0047】
次いで、射出成形機を用いて、所望の摩擦材の形状のキャビティを有する金型に、得られた熱硬化性樹脂組成物中のフェノール樹脂を溶融させながら充填し、射出成形を行う。射出成形の条件は、配合比等に応じて適宜設定することができる。その後、フェノール樹脂の硬化条件を満たす温度条件下で、フェノール樹脂を硬化させることで射出成形物である摩擦材を得ることができる。射出成形後にフェノール樹脂を硬化させる、即ち、フェノール樹脂の架橋反応を進めることで、所望の特性の摩擦材が得られる。この条件は、フェノール樹脂の種類等に応じて、温度、時間等を適宜変更することで調整することができる。
【0048】
以上のような摩擦材は、常温でも120℃程度より高温の領域においても安定した良好な摩擦特性を有するとともに良好な耐摩耗性をも有し、射出成形による量産が可能なため、制動装置に好適である。制動装置に設けられる摩擦材としては、金属基板に固定された形態でもよいが、所望の形状に成形した射出成形物をそのまま用いるのが好ましい。前述の摩擦材を適用可能な制動装置は、特に限定なく、例えば、無励磁作動ブレーキ等が挙げられる。
【0049】
前述の摩擦材を備える制動装置は、例えば、サーボモーターに用いるのが好適である。このような制動装置を備えるサーボモーターは、各種の駆動制御が必要な装置に適用可能であるが、例えば、多くのサーボモーターの使用を要求される協働ロボット等に好適である。前述のサーボモーターを備える協働ロボットは、前述の摩擦材を有する制動装置を備えるサーボモーターが使用されているため、多くのサーボモーターが用いられているにもかかわらず、軽量化が可能である。また、協働ロボットの可動部分には、前述のサーボモーターが設けられているため、協働ロボットの可動部分の駆動による高温環境においても安定した良好な制動特性を有し得る。
【実施例0050】
以下、実施例に基づき本発明に係る摩擦材の実施形態を説明する。
【0051】
(実施例1~7)
表1に示す配合比(体積%)で各成分を混合した後、ロール混練機を用いて110℃で混練して、シート状の混練物を得た。得られたシート状の混練物を粉砕してフレーク状の熱硬化性樹脂組成物を作製した。射出成形機を用いて、ISO178に準拠した試験片(4×10×80mm)を成形可能な金型に、得られた熱硬化性樹脂組成物を充填し、射出成形した。その後180℃で3時間加熱処理を行って、射出成形物である試験片を得た。成形条件は、シリンダー温度90℃、金型温度190℃、硬化時間80秒とした。
【0052】
(比較例1~5)
表1に示す配合比となるようにした以外は、実施例1と同様にして射出成形により試験片を作製した。
【0053】
(比較例6)
表1に示す配合比となるようにした以外は、実施例1と同様にしてロール混練機によりシート状の混練物を作製し、フレーク状の熱硬化性樹脂組成物を作製して、射出成形により試験片の作製を試みたが、評価に使用可能な試験片を得ることはできなかった。
【0054】
表1に示す実施例及び比較例で用いた各成分は、以下のとおりである。
フェノール樹脂:群栄化学株式会社製、ミレックスXL-325M、フェノール・アラルキル樹脂、
ガラス繊維:セントラルグラスファイバー株式会社製、チョップドストランド ECS03-615、モース硬度6.5、
ロックウール:ラピナス社製、RB220、アミノシランによる表面処理済み、モース硬度6、
カオリン:竹原化学工業株式会社製、サテントンW、焼成カオリン、モース硬度1、
硫酸バリウム:堺化学工業株式会社製、BA、簸性グレード、モース硬度3、
テトラポッド型結晶体:株式会社アムテック社製、パナテトラ、酸化亜鉛ウィスカーの結晶体(単結晶)、針状結晶部の長さ20μm、モース硬度4、
チタン酸カリウム:大塚化学株式会社製、ティスモD、モース硬度4、チタン酸カリウムウィスカー
ゴム成分:日本ゼオン株式会社社製、Nipol 1411C、粉末ニトリルゴム
【0055】
(評価)
<摩擦特性>
実施例及び比較例で完全充填されて射出成形物として得られた試験片から、機械加工にてφ5mm×10mmの円柱状の試料を作製した。得られた円柱状試料を用い、ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機(スターライト工業株式会社製、オートピンディスクAPD-101)にて、後述するようにして各試料の静摩擦係数を測定し、比摩耗量を算出した。試験条件は、以下のとおりとした。
面圧(試料に対する荷重):0.1MPa、
速度(設定値):0.05m/秒(静摩擦係数)、1.0m/秒(比摩耗量)、
雰囲気:大気中、室温及び150℃、
潤滑:無潤滑、
相手材:表面粗さRaが0.8~1.6μmのSPHC鋼。
【0056】
<<静摩擦係数>>
円柱状試料の底面を相手材と接触させて設置し、前述のピンオンディスク型摩擦摩耗試験機を始動させ、スタート時の摩擦係数のピーク値を静摩擦係数として採用した。この時の速度(設定値)は0.05m/秒とした。これを、室温(25℃)及び150℃の条件で行った。150℃での測定は、相手材が150℃となるように加熱しながら行った。測定結果を表1に示す。
【0057】
<<比摩耗量>>
室温(25℃)及び150℃での静摩擦係数を測定した後直ちに、速度を1.0m/秒に変更し摩耗量の経時変化を測定した。得られた摩耗量(高さ)の経時変化を示す摩耗進行曲線(例えば、図1の模式図を参照。)から、下記式(1)に基づき比摩耗量を算出した。算出結果を表1に示す。また、実施例3及び比較例4の150℃における摩耗進行曲線を図2に示す。尚、本実験系では、下記T’は試験開始後20時間、Tは試験開始後10時間とした。
K=(H’-H)/{P・V・(T’-T)} (1)
K:比摩耗量[mm/N・m]
H’:試験時間T’における摩耗量(高さ)[mm]
H:試験時間Tにおける摩耗量(高さ)[mm]
P:面圧[N/mm
V:速度[m/s]
T’:定常状態における試験時間[s]
T:定常状態における試験時間[s]
定常状態:試験開始後、摩耗進行速度が安定化した状態(図1の模式図中の「定常状態」で示した部分を参照のこと。当該部分は直線状となっている。)
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示すように、実施例では、射出成形により摩擦材の成形が可能であり、常温でも150℃の高温でも安定して良好な摩擦特性を有していることが分かる。また、150℃の高温において、実施例では、比較例より大幅に比摩耗量が低下していることが分かる。例えば、実施例3と比較例4の対比から、所定の無機充填剤としてテトラポッド型結晶体を含むことで、比摩耗量が実施例3では比較例4の1/3程度に低下しており、単純計算で寿命が約3倍になっていることになる。また、実施例3と実施例4、5及び7の比較からゴム成分を含有させることで、150℃における比摩耗量がさらに低下していることが分かる。
図1
図2