(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179972
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】沈殿池構造
(51)【国際特許分類】
B01D 21/18 20060101AFI20241219BHJP
B01D 21/02 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
B01D21/18 F
B01D21/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099350
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】390014074
【氏名又は名称】前澤工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129067
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 能章
(74)【代理人】
【識別番号】100139516
【弁理士】
【氏名又は名称】藤浪 一郎
(72)【発明者】
【氏名】田名部 直勝
(57)【要約】
【課題】コストを増大させることがなく、掻寄効率を向上させることが可能な沈殿池構造を提供すること。
【解決手段】沈殿池14は、往復動掻寄機50の掻き寄せ方向に沿って該沈殿池14を複数に分割する分割壁46a、46bを有し、往復動掻寄機50は、駆動装置66の駆動作用によって変位する単一の掻き寄せ駆動軸62と、この掻き寄せ駆動軸62に連結されて該掻き寄せ駆動軸62と一体的に変位すると共に、該掻き寄せ駆動軸62と直交する方向に延在する複数のスクレーパー58とを有し、分割壁46a、46bには、掻き寄せ駆動軸62の変位方向に沿って該掻き寄せ駆動軸62を貫通させる貫通孔68が設けられている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の掻寄部材を往復動させることによって池底に沈殿した汚泥を沈殿池の一側に掻き寄せる往復動掻寄機を有する沈殿池構造であって、
前記沈殿池は、前記往復動掻寄機の掻き寄せ方向に沿って該沈殿池を複数に分割する分割壁を有し、
前記往復動掻寄機は、単一の駆動源と、前記駆動源の駆動作用によって変位する単一の駆動軸と、前記駆動軸に連結されて該駆動軸と一体的に変位すると共に、該駆動軸と直交する方向に延在する前記複数の掻寄部材とを有し、
前記分割壁には、前記駆動軸の変位方向に沿って該駆動軸を貫通させる貫通孔が設けられていることを特徴とする沈殿池構造。
【請求項2】
請求項1記載の沈殿池構造において、
前記分割壁は、前記沈殿池内に設置された傾斜板沈降装置の上流側端部の下方に位置していることを特徴とする沈殿池構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、往復動式の掻寄機を備えた沈殿池構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、沈殿池の排泥構造が開示されている。
【0003】
この特許文献1に開示された排泥構造では、往復動式掻寄機の掻き寄せ方向先端部の池底を多孔板により区画して排泥室を構成している。この排泥室内には、汚泥抜き取り用の排泥口を設けている。また、往復動式掻寄機は、掻寄部材を往復動させて、池底の汚泥を少しずつ排泥室まで移動させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、沈殿池の長手方向(水が流れる方向)の寸法が長い場合、汚泥の排泥室まで移動させる距離が長くなり、移動中のフロックの舞い上がりによって移動効率が悪くなる。また、沈殿池を複数分割して沈殿池の長手方向(水が流れる方向)の寸法を短くすると、複数分割された各沈殿池に掻寄機が必要となり、コストが増大する。
【0006】
本発明は、前記の点に鑑みてなされたものであり、コストを増大させることがなく、掻寄効率を向上させることが可能な沈殿池構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために、本発明は、複数の掻寄部材を往復動させることによって池底に沈殿した汚泥を沈殿池の一側に掻き寄せる往復動掻寄機を有する沈殿池構造であって、前記沈殿池は、前記往復動掻寄機の掻き寄せ方向に沿って該沈殿池を複数に分割する分割壁を有し、前記往復動掻寄機は、単一の駆動源と、前記駆動源の駆動作用によって変位する単一の駆動軸と、前記駆動軸に連結されて該駆動軸と一体的に変位すると共に、該駆動軸と直交する方向に延在する前記複数の掻寄部材とを有し、前記分割壁には、前記駆動軸の変位方向に沿って該駆動軸を貫通させる貫通孔が設けられていることを特徴とする。また、前記分割壁は、沈殿池に設置された傾斜板沈降装置の上流側端部の下方に位置させることが好ましい。
【0008】
本発明によれば、沈殿池を掻き寄せ方向に沿って複数に分割する分割壁を配置した場合であっても、単一の駆動源の駆動作用下に、分割壁の貫通孔を介して単一の駆動軸を往復動させることができる。従って、単一の駆動軸に連結された複数の掻寄部材を該駆動軸と同時に且つ一体的に往復動させることができる。この結果、本発明では、コストを増大させることがなく、掻寄効率を向上させることが可能な沈殿池構造を得ることができる。また、分割壁を、沈殿池に設置された傾斜板沈降装置の上流側端部の下方に位置させることにより、傾斜板沈降装置の下方を流れ、傾斜板沈降装置に流入しない短絡流を防止することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、分割壁に設けられた貫通孔を介して、往復動掻寄機の駆動軸を掻寄部材と一体的に変位させ、沈殿池の池底に沈殿した汚泥を排泥ピット側に効率よく掻き寄せることができる。また、傾斜板沈降装置の上流側端部の下方に位置させた分割壁により、短絡流を防止することができ、沈殿効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る沈殿池構造が適用された浄水処理施設の平面構造図である。
【
図4】(a)~(c)は、往復動掻寄機のスクレーパーが前進することによって汚泥を排泥ピット側に掻き寄せる状態を示す動作説明図、(d)は、前記とは反対にスクレーパーが後退することによって汚泥の下をくぐり抜ける状態を示す動作説明図である。
【
図5】傾斜板沈降装置を設置した場合の
図1のII-II線に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
図1に示されるように、本発明の実施形態に係る沈殿池構造が適用された浄水処理施設10は、図示しない沈砂池と、着水井(設備によっては、原水槽とも言う)と、急速混和槽(混和槽)と、フロック形成池12、沈殿池14及びろ過地等を含んで構成されている。沈殿池14は、フロック形成池12の下流側に配置されている。フロック形成池12は、急速混和池で作られた小さなフロックをフロキュレータ30a、30b、30cでゆっくり撹拌し、沈殿しやすい大きなフロックにする設備である。
【0013】
図1に示されるように、沈殿池14は、上流側のフロック形成池12と下流側の沈殿池14とを区画する隔壁19を含み、平面視して横長の矩形状を呈する池側壁40を有している。また、この隔壁19の下流側近傍には、この池側壁40の一側で沈殿池14に流入した水の流れを整えるため複数の流出孔22を有する整流壁20が設けられている。水の流れ方向に沿った一対の池側壁40a、40bの間には、後記する往復動掻寄機50の掻き寄せ方向に沿って沈殿池14を複数に分割する分割壁が設けられている。この分割壁は、水の流れ方向と直交する方向(池底幅方向)に延在するように設けられている。
【0014】
この複数の分割壁は、整流壁20に近接する側から、順に、第1分割壁46aと、第2分割壁46bとによって構成されている。互いに対向する池側壁40a、40bと、整流壁20と、第1分割壁46aとの間で第1室48aが構成されている。また、互いに対向する池側壁40a、40bと、第1分割壁46aと、第2分割壁46bとの間で第2室48bが構成されている。さらに、互いに対向する池側壁40a、40bと、第2分割壁46bと下流側池側壁40cとの間で第3室48cが構成されている。
【0015】
沈殿池14は、長さ方向(水が流れる方向)において、2:3:5の寸法比率で分割構成されている(
図1参照)。これは、フロック形成池12で形成されたフロックが沈殿池14の上流側から沈殿するため、その沈殿量が偏らないようにするための比率である。なお、本実施形態では、第1分割壁46a及び第2分割壁46bからなる2つの分割壁で構成されているが、これに限定されるものではない。
【0016】
また、
図2に示されるように、沈殿池14の池底には、第1室48a、第2室48b、及び、第3室48cの略全面にわたって往復動掻寄機50が設置されている。また、第1室48a、第2室48b、及び、第3室48cの掻き寄せ方向側(各室の上流側)の池底には、所定の深さを有する排泥ピット(排泥室)54がそれぞれ設けられている。排泥ピット54は、多孔板52(
図3参照)で区画されている。排泥ピット54の下部には、この排泥ピット54内に掻き寄せられた汚泥を図示しない排泥池に送給する排泥装置56が設けられている。
【0017】
往復動掻寄機50は、水の流れ方向と直交する方向(池底幅方向)に並行に設けられた複数本のくさび形のスクレーパー(掻寄部材)58(
図4(a)~
図4(d)参照)と、各スクレーパー58と略直交する方向に延在し各スクレーパー58を所定距離だけ離間して各スクレーパー58同士を連結する複数の連結板60(
図1参照)と、複数のスクレーパー58の軸方向の中央に連結されて複数のスクレーパー58を一体的に往復動させる単一の掻き寄せ駆動軸62(
図1、
図2参照)と、この掻き寄せ駆動軸62を、リンク機構64を介して往復動させる単一の駆動装置(駆動源)66(
図2参照)と、を備えて構成されている。
【0018】
なお、
図1に示されように、本実施形態では、第1室48a及び第2室48bに、それぞれ、水の流れ方向と直交する方向(池底幅方向)に沿って7本のスクレーパー58を並設して配置し、また、第3室48cに、水の流れ方向と直交する方向(池底幅方向)に沿って14本のスクレーパー58を並設して配置しているが、これに限定されるものではない。
【0019】
図2及び
図3に示されるように、第1分割壁46a及び第2分割壁46bには、掻き寄せ駆動軸62の変位方向に沿って該掻き寄せ駆動軸62を貫通させる貫通孔68がそれぞれ設けられている。この貫通孔68は、水の流れ方向と直交する第1分割壁46a及び第2分割壁46bのそれぞれ幅方向の中央に位置し(
図1参照)、池底から上方に向かって所定距離だけ離間した位置に配置されている(
図2参照)。掻き寄せ駆動軸62は、第1分割壁46a及び第2分割壁46bの貫通孔68をそれぞれ貫通し、沈殿池14の水の流れ方向の一側(整流壁20側)から他側(下流側池側壁40c)まで延在している。
【0020】
図3に示されるように、掻き寄せ駆動軸62は、整流壁20及び分割壁46a、46bにそれぞれ一端が固定される内筒70と、この内筒70によって支持されると共に、内筒70の外面に沿って摺動変位する外筒72とから構成されている。なお、内筒70の他端は、外筒72に被覆された自由端となっている。また、外筒72は、長尺な直線状駆動軸74と、各分割壁46a、46bの貫通孔68に挿通されて一方の直線状駆動軸74と他方の直線状駆動軸74とを連結する連結軸76とが一体的に構成されている。この連結軸76は、分割壁46a、46bの貫通孔68を挿通する直線状の挿通部78と、挿通部78の一端部に連結され、この一端部から上流側に向かって立ち下がるように屈曲する上流側屈曲部80と、挿通部78の他端部に連結され、この他端部から下流側に向かって立ち下がるように屈曲する下流側屈曲部82とを有する。
【0021】
なお、本実施形態では、上流側屈曲部80、挿通部78、及び、下流側屈曲部82がそれぞれ一体的に構成されているが、これに限定されるものではない。例えば、上流側屈曲部80、挿通部78、及び、下流側屈曲部82をそれぞれ別体で製造し、一体的に結合するようにしてもよい。
【0022】
図3に示されるように、リンク機構64は、側面視してV字状を呈して整流壁20にそれぞれ固定され、水の流れ方向と直交する方向に所定間隔離間して並設された一対の脚部84、84(但し、
図3では、一方の脚部84のみ図示し、他方の脚部84の図示を省略している)と、駆動装置66に連結されて上下方向に沿って変位する駆動シャフト88と、この駆動シャフト88の下端と脚部84の連結点(連結ピン)P1とを繋ぐ第1連結シャフト90aと、駆動シャフト88の下端と脚部84の連結点(連結ピン)P1とを結び第1連結シャフト90aを含んで直角三角形を構成する第2連結シャフト90b及び第3連結シャフト90cと、第2連結シャフト90b及び第3連結シャフト90cの連結点P2と掻き寄せ駆動軸62の外筒72とを連結して掻き寄せ駆動軸62を変位方向に沿って往復動作させる変位シャフト92とを含んで構成されている。
【0023】
リンク機構64は、単一の駆動装置66の駆動作用下に駆動シャフト88が上下方向に沿って往復動作する。駆動シャフト88の上下往復運動は、脚部84の連結点(連結ピン)P1を支点として、直角三角形を構成する第1~第3連結シャフト90a~90cを介して変位シャフト92に伝達され、変位シャフト92が上流側及び下流側に往復動作する。
【0024】
この往復動掻寄機50は、駆動装置66の駆動作用下に、単一の掻き寄せ駆動軸62及び複数のスクレーパー58が排泥ピット方向に一体的に前進するときにはある程度の低速で変位し、スクレーパー58の前面の立ち上がり面94で汚泥を押圧して前進させる(
図4(a)~
図4(c)参照)。一方、スクレーパー58が後退するときには、高速で変位し、汚泥がスクレーパー58の後部側の傾斜面96を乗り越えてスクレーパー58の前面側に流出する(
図4(d)参照)。このようにスクレーパー58の往復動によって沈殿池14の池底に沈殿した汚泥が順次排泥ピット54方向に掻き寄せられる
【0025】
各排泥ピット54に臨む掻き寄せ駆動軸62には、多孔板52に向かって垂下する複数の撹拌棒98がそれぞれ設けられている(
図3参照)。この複数の撹拌棒98は、水の流れ方向と直交する方向に沿って所定間隔離間してそれぞれ配置されている。複数の撹拌棒98は、掻き寄せ駆動軸62と共に一体的に往復動することで、排泥ピット54の上部(多孔板52よりも上側)に貯留された汚泥を撹拌させる機能を有する。
【0026】
本実施形態に係る沈殿池構造が適用された浄水処理施設10は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその作用効果について説明する。
【0027】
本実施形態において、沈殿池14は、往復動掻寄機50の掻き寄せ方向に沿って該沈殿池14を複数に分割する第1分割壁46a及び第2分割壁46bを有している。往復動掻寄機50は、単一の駆動装置(駆動源)66と、この駆動装置66の駆動作用によって変位する単一の掻き寄せ駆動軸62と、この掻き寄せ駆動軸62に連結されて該掻き寄せ駆動軸62と一体的に変位すると共に、該掻き寄せ駆動軸62と直交する方向に延在する複数のスクレーパー(掻寄部材)58とを有している。第1分割壁46a及び第2分割壁46bには、掻き寄せ駆動軸62の変位方向に沿って該掻き寄せ駆動軸62を貫通させる貫通孔68がそれぞれ設けられている。
【0028】
このように、本実施形態では、沈殿池14を長さ方向に沿って第1分割壁46a及び第2分割壁46bによって第1室48a~第3室48cに分割構成した場合であっても、単一の駆動装置66の駆動作用下に、貫通孔68を介して単一の掻き寄せ駆動軸62を往復動させることができる。従って、第1室48aに配置された複数のスクレーパー58、第2室48bに配置された複数のスクレーパー58、及び、第3室48cに配置された複数のスクレーパー58を、掻き寄せ駆動軸62と同時に且つ一体的に往復動させることができる。この結果、本実施形態では、沈殿池14の池底に沈殿した汚泥を、順次、第1室48aの排泥ピット54方向、第2室48bの排泥ピット54方向、及び、第3室48cの排泥ピット54方向にそれぞれ効率よく掻き寄せることができる。
【0029】
つまり、本実施形態では、沈殿池14の長さ方向が水の流れ方向に長い場合であっても、汚泥を室毎に分割された各排泥ピット54まで移動させる距離を短くして汚泥の移動効率を向上させることができる。また、沈殿池14の長さ方向(水が流れる方向)において、所定の寸法比率(本実施形態では2:3:5)で分割構成することで、フロックの沈殿量が第1室48a~第3室48cで偏らないようにすることができる。これにより、より効率良く汚泥を処理することができる。さらに、本実施形態では、分割された沈殿池毎に往復動掻寄機を配置することが不要となり、製造コストを低減することができる。
【0030】
次に、沈殿池14の上流側と下流側とにそれぞれ傾斜板沈降装置100、100を設置した他の実施形態に係る沈殿池構造が適用された浄水処理施設10aについて説明する。
【0031】
図5に示されるように、沈殿池14内に傾斜板沈降装置100、100を設置した場合、分割壁46a、46bは、各傾斜板沈降装置100の上流側端部の下方にそれぞれ位置している。これにより、他の実施形態では、傾斜板沈降装置100、100の下方を流れ、傾斜板沈降装置100、100に流入しない短絡流を防止でき、沈殿効率を向上させることができる。なお、「傾斜板沈降装置100」とは、沈殿池14内に設置された多数の傾斜板によって構成され、これらの傾斜板を利用して固形物の重力沈降を促進させ、固液分離を行うものをいう。
【符号の説明】
【0032】
10、10a 浄水処理施設
14 沈殿池
50 往復動掻寄機
46a 第1分割壁(分割壁)
46b 第2分割壁(分割壁)
58 スクレーパー(掻寄部材)
62 掻き寄せ駆動軸(駆動軸)
66 駆動装置(駆動源)
68 貫通孔
100 傾斜板沈降装置