(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179975
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】ガス発生器およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B60R 21/26 20110101AFI20241219BHJP
【FI】
B60R21/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099356
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川島 知哉
【テーマコード(参考)】
3D054
【Fターム(参考)】
3D054DD13
3D054FF17
(57)【要約】
【課題】粒状のガス発生剤の破砕を防止しつつガス発生剤収容室にこれを高密度に充填することができるガス発生器を提供する。
【解決手段】ガス発生器1Aは、金属製のハウジング10と、複数の粒状のガス発生剤60とを備える。ハウジング10は、ガス発生剤収容室S1を規定する部分を含む筒状の周壁部11を有し、ガス発生剤60は、ガス発生剤収容室S1に収容される。ガス発生剤収容室S1を規定する部分の周壁部11の内周面とガス発生剤60との間には、ガス発生剤60と周壁部11との間の摩擦を低減する潤滑材が位置し、当該潤滑材が、周壁部11の内周面を覆う乾性被膜91にて構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス発生剤収容室を規定する部分を含む筒状の周壁部を有する金属製のハウジングと、
前記ガス発生剤収容室に収容された複数の粒状のガス発生剤と、
前記ガス発生剤を燃焼させるための点火器とを備え、
前記ガス発生剤と前記周壁部との間の摩擦を低減する潤滑材が、前記ガス発生剤収容室を規定する部分の前記周壁部の内周面と前記ガス発生剤との間に位置し、
前記潤滑材が、前記周壁部の内周面を覆う乾性被膜からなる、ガス発生器。
【請求項2】
前記乾性被膜が、フッ素系樹脂、二硫化モリブデンおよびボロンナイトライドのうちの少なくとも一種を成分として含んでいる、請求項1に記載のガス発生器。
【請求項3】
ガス発生剤収容室を規定する部分を含む筒状の周壁部を有する金属製のハウジングと、
前記ガス発生剤収容室に収容された複数の粒状のガス発生剤と、
前記ガス発生剤を燃焼させるための点火器とを備え、
前記ガス発生剤と前記周壁部との間の摩擦を低減する潤滑材が、前記ガス発生剤収容室を規定する部分の前記周壁部の内周面と前記ガス発生剤との間に位置し、
前記潤滑材が、前記周壁部の内周面に付着させられた微粉末からなる、ガス発生器。
【請求項4】
前記微粉末が、タルク、ステアリン酸マグネシウムおよびゼオライトのうちの少なくとも一種を成分として含んでいる、請求項3に記載のガス発生器。
【請求項5】
前記点火器が、点火薬が装填された点火部を含み、
前記点火部が前記ガス発生剤に面することとなるように、前記点火器が、前記ハウジングのうちの前記ガス発生剤収容室から見た場合における前記周壁部の軸方向の一端部側の位置に組付けられている、請求項1または3に記載のガス発生器。
【請求項6】
前記周壁部が、フィルタが収容されたフィルタ室を規定する部分をさらに含み、
前記ハウジングが、前記ガス発生剤収容室から見た場合における前記周壁部の軸方向の他端部側に位置するとともに、前記ハウジングの内部の空間を前記ガス発生剤収容室と前記フィルタ室とに区画する隔壁部を含み、
前記隔壁部と前記ガス発生剤との間に介装されることにより、前記ガス発生剤を前記隔壁部から離間させつつ前記ガス発生剤を前記点火器側に向けて付勢することで前記ガス発生剤を前記ガス発生剤収容室の内部において固定するコイルバネをさらに備えてなる、請求項5に記載のガス発生器。
【請求項7】
予め定められた量の複数の粒状のガス発生剤が収容されるガス発生剤収容室を規定する部分を含む筒状の周壁部を有するとともに、前記周壁部の軸方向の一端部が開放されてなる金属製のハウジングを準備する工程と、
前記ガス発生剤収容室を規定する部分の前記周壁部の内周面に、前記ガス発生剤と前記周壁部との間の摩擦を低減するための潤滑材を設ける工程と、
前記ガス発生剤収容室に、前記潤滑材が内周面に設けられた前記周壁部の軸方向の前記一端部を介して前記ガス発生剤を充填する工程とを備え、
前記潤滑材を設ける工程が、前記潤滑材としての乾性被膜によって前記周壁部の内周面を覆う工程を含んでいる、ガス発生器の製造方法。
【請求項8】
予め定められた量の複数の粒状のガス発生剤が収容されるガス発生剤収容室を規定する部分を含む筒状の周壁部を有するとともに、前記周壁部の軸方向の一端部が開放されてなる金属製のハウジングを準備する工程と、
前記ガス発生剤収容室を規定する部分の前記周壁部の内周面に、前記ガス発生剤と前記周壁部との間の摩擦を低減するための潤滑材を設ける工程と、
前記ガス発生剤収容室に、前記潤滑材が内周面に設けられた前記周壁部の軸方向の前記一端部を介して前記ガス発生剤を充填する工程とを備え、
前記潤滑材を設ける工程が、前記潤滑材としての微粉末を前記周壁部の内周面に付着させる工程を含んでいる、ガス発生器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に装備される乗員保護装置としてのエアバッグ装置に組み込まれるガス発生器およびその製造方法に関し、特に、サイドエアバッグ装置等に好適に組み込まれる外形が長尺円柱状のいわゆるシリンダ型ガス発生器およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の乗員の保護の観点から、乗員保護装置であるエアバッグ装置が普及している。エアバッグ装置は、車両等衝突時に生じる衝撃から乗員を保護する目的で装備されるものであり、車両等衝突時に瞬時にエアバッグを膨張および展開させることにより、エアバッグがクッションとなって乗員の体を受け止めるものである。
【0003】
ガス発生器は、このエアバッグ装置に組み込まれ、車両等衝突時にコントロールユニットからの通電によって点火器を着火し、点火器において生じる火炎によりガス発生剤を燃焼させて多量のガスを瞬時に発生させ、これによりエアバッグを膨張および展開させる機器である。
【0004】
ガス発生器には、車両等に対する設置位置やガス出力等の仕様に基づき、種々の構成のものが存在している。その一つに、シリンダ型ガス発生器と称されるものがある。シリンダ型ガス発生器は、その外形が長尺円柱状であり、サイドエアバッグ装置やカーテンエアバッグ装置、ニーエアバッグ装置、シートクッションエアバッグ装置等に好適に組み込まれる。
【0005】
通常、シリンダ型ガス発生器においては、ハウジングの軸方向の一端部に点火器が組付けられるとともに当該一端部側に複数の粒状のガス発生剤が収容されたガス発生剤収容室が設けられ、ハウジングの軸方向の他端部側にフィルタが収容されたフィルタ室が設けられ、当該フィルタ室を規定する部分のハウジングの周壁部にガス噴出口が設けられる。
【0006】
このように構成されたシリンダ型ガス発生器においては、点火器が作動することでガス発生剤がガス発生剤収容室において燃焼し、ガス発生剤収容室にて発生したガスがハウジングの軸方向に沿ってフィルタ室に流入することでフィルタの内部を通過し、フィルタを通過した後のガスがガス噴出口を介してシリンダ型ガス発生器の外部に噴出される。
【0007】
なお、上記構成のシリンダ型ガス発生器が開示された文献としては、たとえば特開2007-314102号公報(特許文献1)が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年においては、設置の自由度を高めるといった観点等に基づき、シリンダ型ガス発生器として、従来に比してより細長い外形のものが求められるに至っている。このようなシリンダ型ガス発生器にあっては、ハウジングが相当程度に小径でありしかも長尺であることから、必要量の粒状のガス発生剤を当該ハウジングの内部に設けられるガス発生剤収容室に高密度で充填することが困難になっている。
【0010】
ここで、ガス発生剤収容室に所定量の粒状のガス発生剤を高密度で充填するために、粒状のガス発生剤に対する押し込み荷重を増加させた場合には、ガス発生剤に破砕が生じてしまうおそれがあり、仮に必要量がガス発生剤収容室に収容することができたとしても、ガス発生剤全体としての表面積が変化することにより、意図したガス出力が得られないことになってしまう。
【0011】
したがって、本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、粒状のガス発生剤の破砕を防止しつつガス発生剤収容室にこれを高密度に充填することができるガス発生器の製造方法ならびにガス発生器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の局面に基づくガス発生器は、金属製のハウジングと、複数の粒状のガス発生剤と、当該ガス発生剤を燃焼させるための点火器とを備えている。上記ハウジングは、ガス発生剤収容室を規定する部分を含む筒状の周壁部を有しており、上記ガス発生剤は、上記ガス発生剤収容室に収容されている。上記本発明の第1の局面に基づくガス発生器においては、上記ガス発生剤と上記周壁部との間の摩擦を低減する潤滑材が、上記ガス発生剤収容室を規定する部分の上記周壁部の内周面と上記ガス発生剤との間に位置しており、上記潤滑材が、上記周壁部の内周面を覆う乾性被膜からなる。
【0013】
本発明の第2の局面に基づくガス発生器は、金属製のハウジングと、複数の粒状のガス発生剤と、当該ガス発生剤を燃焼させるための点火器とを備えている。上記ハウジングは、ガス発生剤収容室を規定する部分を含む筒状の周壁部を有しており、上記ガス発生剤は、上記ガス発生剤収容室に収容されている。上記本発明の第2の局面に基づくガス発生器においては、上記ガス発生剤と上記周壁部との間の摩擦を低減する潤滑材が、上記ガス発生剤収容室を規定する部分の上記周壁部の内周面と上記ガス発生剤との間に位置しており、上記潤滑材が、上記周壁部の内周面に付着させられた微粉末からなる。
【0014】
本発明の第1の局面に基づくガス発生器の製造方法は、予め定められた量の複数の粒状のガス発生剤が収容されるガス発生剤収容室を規定する部分を含む筒状の周壁部を有するとともに、上記周壁部の軸方向の一端部が開放されてなる金属製のハウジングを準備する工程と、上記ガス発生剤収容室を規定する部分の上記周壁部の内周面に、上記ガス発生剤と上記周壁部との間の摩擦を低減するための潤滑材を設ける工程と、上記ガス発生剤収容室に、上記潤滑材が内周面に設けられた上記周壁部の軸方向の上記一端部を介して上記ガス発生剤を充填する工程とを備えている。上記本発明の第1の局面に基づくガス発生器の製造方法にあっては、上記潤滑材を設ける工程が、上記潤滑材としての乾性被膜によって上記周壁部の内周面を覆う工程を含んでいる。
【0015】
本発明の第2の局面に基づくガス発生器の製造方法は、予め定められた量の複数の粒状のガス発生剤が収容されるガス発生剤収容室を規定する部分を含む筒状の周壁部を有するとともに、上記周壁部の軸方向の一端部が開放されてなる金属製のハウジングを準備する工程と、上記ガス発生剤収容室を規定する部分の上記周壁部の内周面に、上記ガス発生剤と上記周壁部との間の摩擦を低減するための潤滑材を設ける工程と、上記ガス発生剤収容室に、上記潤滑材が内周面に設けられた上記周壁部の軸方向の上記一端部を介して上記ガス発生剤を充填する工程とを備えている。上記本発明の第2の局面に基づくガス発生器の製造方法にあっては、上記潤滑材を設ける工程が、上記潤滑材としての微粉末を上記周壁部の内周面に付着させる工程を含んでいる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、粒状のガス発生剤の破砕を防止しつつガス発生剤収容室にこれを高密度に充填することができるガス発生器の製造方法ならびにガス発生器とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施の形態1に係るシリンダ型ガス発生器の概略図である。
【
図5】実施の形態1に係るガス発生器の製造方法を説明するための模式図である。
【
図6】実施の形態1に係るガス発生器の製造方法を説明するための模式図である。
【
図7】実施の形態1に係るガス発生器の製造方法を説明するための模式図である。
【
図8】実施の形態2に係るシリンダ型ガス発生器の概略図である。
【
図9】実施の形態2に係るガス発生器の製造方法を説明するための模式図である。
【
図10】実施の形態3に係るシリンダ型ガス発生器の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。以下に示す実施の形態は、サイドエアバッグ装置に組み込まれるシリンダ型ガス発生器に本発明を適用した場合を例示するものである。なお、以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0019】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係るシリンダ型ガス発生器の概略図である。また、
図2ないし
図4は、それぞれ
図1中に示す領域II、III、IVの拡大図である。まず、これら
図1ないし
図4を参照して、本実施の形態に係るシリンダ型ガス発生器1Aの構成について説明する。
【0020】
図1ないし
図4に示すように、シリンダ型ガス発生器1Aは、長尺円柱状の外形を有しており、軸方向に位置する一端および他端が閉塞された長尺略円筒状のハウジングを有している。ハウジングは、ハウジング本体10と、ホルダ20と、閉塞部材30と、仕切り部材50とを含んでおり、このうちのハウジング本体10、ホルダ20および閉塞部材30がハウジングの外殻を規定している。
【0021】
ハウジングの外殻を規定するハウジング本体10、ホルダ20および閉塞部材30の内部には、内部構成部品としての点火器40、複数の粒状のガス発生剤60(以下、単に「粒状のガス発生剤60」や「ガス発生剤60」とも称する)、オートイグニッション剤61、コイルバネ70およびフィルタ80等が収容されており、これらに加えて内部構成部品でもある上述した仕切り部材50が配置されている。また、ハウジングの内部には、上述した内部構成部品のうちのガス発生剤60、オートイグニッション剤61およびコイルバネ70が収容されたガス発生剤収容室S1と、フィルタ80が収容されたフィルタ室S2とが位置している。
【0022】
ハウジング本体10は、ハウジングの周壁部11を構成しており、長尺円筒状の部材からなる。ハウジング本体10は、軸方向の両端に開放端を有しており、このうちの一方端が、周壁部11の軸方向の一端部11aを構成しており、このうちの他方端が、周壁部11の軸方向の他端部11bを構成している。
【0023】
ホルダ20は、ハウジング本体10の軸方向と平行な方向に沿って延びる貫通部21を有する略筒状の部材からなり、上述した周壁部11の一端部11aに組付けられている。閉塞部材30は、略円盤状の部材からなり、上述した周壁部11の他端部11bに組付けられている。
【0024】
ハウジング本体10は、ステンレス鋼や鉄鋼、アルミニウム合金、ステンレス合金等の金属製の部材にて構成されていてもよいし、SPCEに代表される圧延鋼板をプレス加工することで円筒状に成形したプレス成形品にて構成されていてもよい。また、ハウジング本体10は、STKMに代表される電縫管にて構成されていてもよい。
【0025】
特に、ハウジング本体10を圧延鋼板のプレス成形品や電縫管にて構成した場合には、ステンレス鋼や鉄鋼等の金属製の部材を用いた場合に比べて安価にかつ容易にハウジング本体10を形成することができるとともに、大幅な軽量化が可能になる。
【0026】
一方、ホルダ20および閉塞部材30は、ステンレス鋼や鉄鋼、アルミニウム合金、ステンレス合金等の金属製の部材にて構成されている。
【0027】
図1および
図2に示すように、ホルダ20は、周壁部11の一端部11aを構成するハウジング本体10の上述した一方の開放端を閉塞するようにハウジング本体10に組付けられている。具体的には、ホルダ20は、ハウジング本体10の上記開放端にその一部が内挿された状態で当該ホルダ20とハウジング本体10との接触部またはその近傍においてこれらがたとえば溶接等によって接合されることにより、ハウジング本体10に固定されている。
【0028】
これにより、周壁部11の一端部11a側に位置するハウジングの軸方向端部には、当該ハウジングの周方向に沿って延在する溶接部101が設けられることになり、この溶接部101によってハウジング本体10とホルダ20との間の隙間が埋め込まれることになる。そのため、当該隙間が溶接部101によって封止されることになり、当該部分における気密性の確保が可能になる。なお、ハウジング本体10とホルダ20との溶接には、電子ビーム溶接やレーザ溶接、抵抗溶接等が好適に利用できる。
【0029】
なお、ハウジング本体10に対するホルダ20の組付構造は、上述した組付構造に限定されるものではなく、他の組付構造を採用することとしてもよい。また、その場合におけるハウジング本体10とホルダ20との間の気密性の確保は、Oリング等を適宜の位置に設けること等でこれを実現することができる。
【0030】
図1および
図3に示すように、閉塞部材30は、周壁部11の他端部11bを構成するハウジング本体10の上述した他方の開放端を閉塞するようにハウジング本体10に組付けられている。具体的には、閉塞部材30は、ハウジング本体10の上記開放端にその一部が内挿された状態で当該閉塞部材30とハウジング本体10との接触部またはその近傍においてこれらがたとえば溶接等によって接合されることにより、ハウジング本体10に固定されている。
【0031】
これにより、周壁部11の他端部11b側に位置するハウジングの軸方向端部には、当該ハウジングの周方向に沿って延在する溶接部102が設けられることになり、この溶接部102によってハウジング本体10と閉塞部材30との間の隙間が埋め込まれることになる。そのため、当該隙間が溶接部102によって封止されることになり、当該部分における気密性の確保が可能になる。なお、ハウジング本体10と閉塞部材30との溶接には、電子ビーム溶接やレーザ溶接、抵抗溶接等が好適に利用できる。
【0032】
なお、ハウジング本体10に対する閉塞部材30の組付構造は、上述した組付構造に限定されるものではなく、他の組付構造を採用することとしてもよい。また、その場合におけるハウジング本体10と閉塞部材30との間の気密性の確保は、Oリング等を適宜の位置に設けること等でこれを実現することができる。さらには、ハウジング本体10と閉塞部材30とを別体とはせずに、有底筒状の形状を有する一つの部材にてこれを構成することとしてもよい。
【0033】
図1および
図2に示すように、点火器40は、ホルダ20によって支持されることでハウジングに組付けられている。これにより、点火器40は、ガス発生剤収容室S1から見た場合におけるハウジングの周壁部11の軸方向の一端部11a側に位置している。点火器40は、ガス発生剤60を燃焼させるためのものであり、ハウジングの内部の空間に面するように配置されている。
【0034】
点火器40は、点火部41と、一対の端子ピン42とを有している。点火部41は、スクイブカップを含んでおり、このスクイブカップの内部には、一対の端子ピン42に接続するように抵抗体(ブリッジワイヤ)が取付けられている。また、スクイブカップの内部には、抵抗体を取り囲むようにまたは抵抗体に接するように点火薬が充填されている。また、スクイブカップの内部には、必要に応じて伝火薬が装填されていてもよい。
【0035】
ここで、抵抗体としては、一般にニクロム線やプラチナおよびタングステンを含む合金製の抵抗線等が用いられ、点火薬としては、一般にZPP(ジルコニウム・過塩素酸カリウム)、ZWPP(ジルコニウム・タングステン・過塩素酸カリウム)、鉛トリシネート等が用いられる。また、伝火薬としては、B/KNO3、B/NaNO3、Sr(NO3)2等に代表される金属粉/酸化剤からなる組成物や、水素化チタン/過塩素酸カリウムからなる組成物、B/5-アミノテトラゾール/硝酸カリウム/三酸化モリブデンからなる組成物等が用いられる。
【0036】
衝突を検知した際には、端子ピン42を介して抵抗体に所定量の電流が流れる。抵抗体に所定量の電流が流れることにより、抵抗体においてジュール熱が発生し、点火薬が燃焼を開始する。燃焼により生じた高温の熱粒子は、点火薬を収納しているスクイブカップを開裂させる。抵抗体に電流が流れてから点火器40が作動するまでの時間は、抵抗体にニクロム線を利用した場合には一般に2ミリ秒以下である。
【0037】
ここで、点火器40は、ホルダ20に設けられたかしめ部22によってホルダ20に固定されている。より詳細には、ホルダ20は、点火器40をかしめ固定するためのかしめ部22をハウジングの内部の空間に面する方の軸方向端部に有しており、点火器40が貫通部21に内挿されてホルダ20の貫通部21を規定する部分の壁部に当て留めされた状態で上述したかしめ部22がかしめられることにより、点火器40がホルダ20に挟持されて固定される。
【0038】
これにより、点火器40は、その点火部41がハウジングの内部に向けて突出して位置するようにホルダ20に組付けられることになる。そのため、点火器40の作動時においては、点火薬が着火されることによってスクイブカップに開裂が生じ、当該開裂に伴ってスクイブカップが開くことになる。
【0039】
なお、ホルダ20と点火器40との間には、Oリング等からなるシール部材43が介装されており、これによってホルダ20と点火器40との間の隙間がシール部材43によって埋め込まれることで当該隙間が封止されている。したがって、このように構成することにより、当該部分における気密性の確保が可能になる。なお、点火器40の組付構造は、上述したかしめ部22を用いた組付構造に限定されるものではなく、他の組付構造を採用することとしてもよい。
【0040】
ホルダ20の外部に露出する方の軸方向端部には、上述した貫通部21に連続して凹部23が設けられている。凹部23は、点火器40とコントロールユニット(不図示)とを結線するためのハーネスの雄型コネクタ(図示せず)を受け入れる雌型コネクタ部を形成しており、当該凹部23内には、点火器40の端子ピン42が露出して位置している。当該雌型コネクタ部としての凹部23には、雄型コネクタが挿し込まれ、これによりハーネスの芯線と端子ピン42との電気的導通が実現される。
【0041】
図1および
図4に示すように、ハウジングの内部の空間の所定位置には、上述したようにハウジングの一部を構成する仕切り部材50が配置されている。仕切り部材50は、ハウジングの内部の空間を軸方向においてガス発生剤収容室S1とフィルタ室S2とに仕切るための部材である。これにより、仕切り部材50は、ガス発生剤収容室S1から見た場合におけるハウジングの周壁部11の軸方向の他端部11b側に位置している。
【0042】
仕切り部材50は、有底円筒状の形状を有しており、たとえばステンレス鋼や鉄鋼、アルミニウム合金、ステンレス合金等の金属製の部材にて構成されている。仕切り部材50は、ハウジング本体10の軸方向に直交するように配置された平板状の隔壁部51と、当該隔壁部51の周縁からガス発生剤収容室S1側に向けて立設された筒板状の環状壁部52とを有している。仕切り部材50は、その隔壁部51の外側の主面がフィルタ80に当接するように配置されており、環状壁部52の外周面は、ハウジング本体10の内周面に当接している。
【0043】
隔壁部51のフィルタ80に当接する主面には、スコア51aが設けられている。スコア51aは、ガス発生剤60の燃焼によるガス発生剤収容室S1の内圧上昇に伴って隔壁部51が破断して開口部が形成されるようにするためのものであり、たとえば放射状に互いに交差するように設けられた複数の溝にて構成される。スコア51aは、フィルタ80のうちの中空部81に対向する部分に設けられている。
【0044】
仕切り部材50は、ハウジング本体10に内挿された状態で当該ハウジング本体10に接合されることで組付けられている。より詳細には、仕切り部材50は、ハウジング本体10の内部に圧入されるとともに、仕切り部材50の環状壁部52とハウジング本体10との接触部またはその近傍においてこれらが溶接等によって接合されることにより、ハウジング本体10に固定されている。
【0045】
これにより、仕切り部材50が内挿された部分に対応するハウジングには、当該ハウジングの周方向に沿って延在する溶接部103が設けられることになり、この溶接部103によってハウジング本体10と仕切り部材50との間の隙間が埋め込まれることになる。そのため、当該隙間が溶接部103によって封止されることになり、当該部分における気密性の確保が可能になる。なお、ハウジング本体10と仕切り部材50との溶接には、電子ビーム溶接やレーザ溶接、抵抗溶接等が好適に利用できる。
【0046】
なお、ハウジング本体10に対する仕切り部材50の組付構造は、上述した圧入および溶接を利用した組付構造に限られず、他の組付構造を採用することとしてもよい。また、その場合におけるハウジング本体10と仕切り部材50との間の気密性の確保は、Oリング等を適宜の位置に設けること等でこれを実現することができる。
【0047】
図1、
図2および
図4に示すように、ハウジングの内部の空間のうち、ホルダ20と仕切り部材50とによって挟まれた空間(すなわちガス発生剤収容室S1)には、複数の粒状のガス発生剤60と、オートイグニッション剤61と、コイルバネ70とが配置されている。
【0048】
このうち、コイルバネ70は、ガス発生剤収容室S1のうちの仕切り部材50が位置する側に配置されており、複数の粒状のガス発生剤60は、ホルダ20およびコイルバネ70の間に配置されている。また、オートイグニッション剤61は、仕切り部材50に当接するように、当該仕切り部材50およびコイルバネ70の間に配置されている。
【0049】
ガス発生剤60は、点火器40が作動することによって生じた熱粒子によって着火されて燃焼することでガスを発生させる薬剤である。ガス発生剤60としては、非アジド系ガス発生剤を用いることが好ましく、ガス発生剤60は、一般に燃料と酸化剤と添加剤とを含む成形体として構成される。
【0050】
燃料としては、たとえばトリアゾール誘導体、テトラゾール誘導体、グアニジン誘導体、アゾジカルボンアミド誘導体、ヒドラジン誘導体等またはこれらの組み合わせが利用される。具体的には、たとえばニトログアニジンや硝酸グアニジン、シアノグアニジン、5-アミノテトラゾール等が好適に利用される。
【0051】
酸化剤としては、たとえば塩基性硝酸銅、塩基性炭酸銅等の塩基性金属塩、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸カリウム等の過塩素酸塩、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、アンモニアから選ばれたカチオンを含む硝酸塩等が利用される。硝酸塩としては、たとえば硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等が好適に利用される。
【0052】
添加剤としては、バインダやスラグ形成剤、燃焼調整剤等が挙げられる。バインダとしては、たとえばカルボキシメチルセルロースの金属塩、ステアリン酸塩等の有機バインダや、合成ヒドロタルサイト、酸性白土等の無機バインダが好適に利用可能である。スラグ形成剤としては、窒化珪素、シリカ、酸性白土等が好適に利用可能である。燃焼調整剤としては、金属酸化物、フェロシリコン、活性炭、グラファイト等が好適に利用可能である。
【0053】
ガス発生剤60の成形体の形状には、顆粒状、ペレット状、円柱状等の粒状のもの、ディスク状のものなど様々な形状のものがある。また、円柱状のものでは、成形体内部に貫通孔を有する有孔状(たとえば単孔筒形状や多孔筒形状等)の成形体も利用される。これらの形状は、シリンダ型ガス発生器1Aが組み込まれるエアバッグ装置の仕様に応じて適宜選択されることが好ましく、たとえばガス発生剤60の燃焼時においてガスの生成速度が時間的に変化する形状を選択するなど、仕様に応じた最適な形状を選択することが好ましい。また、ガス発生剤60の形状の他にもガス発生剤60の線燃焼速度、圧力指数などを考慮に入れて成形体のサイズや充填量を適宜選択することが好ましい。
【0054】
コイルバネ70は、成形体からなるガス発生剤60が振動等によって粉砕されてしまうことを防止する目的で設けられるものであり、金属線材を曲げ加工することによって形成されたバネ部71およびその両端に位置する一対の押圧部72を有している。
【0055】
バネ部71は、金属線材が螺旋状に巻き回された略筒状の部位からなる。一方、一対の押圧部72は、その一方がバネ部71の一端に設けられており、他方がバネ部71の他端に設けられている。一対の押圧部72は、たとえば金属線材が所定の間隔をもって略平行に配置されるか、あるいは、金属線材が所定の間隔をもって渦巻き状に配置されることにより、全体として略円板状の形状を有するように構成されている。この一対の押圧部72の一方は、ガス発生剤60に接触しており、他方は、オートイグニッション剤61に接触している。
【0056】
ここで、コイルバネ70は、オートイグニッション剤61とガス発生剤60とによって挟み込まれることにより、圧縮された状態とされている。そのため、ガス発生剤60は、コイルバネ70によってホルダ20側に向けて弾性付勢されることになり、これによってガス発生剤60がガス発生剤収容室S1の内部において移動してしまうことが防止されている。そのため、このように構成することにより、成形体からなるガス発生剤60が振動等によって粉砕されてしまうことが未然に防止できることになる。
【0057】
また、コイルバネ70の組付け時において、当該コイルバネ70がオートイグニッション剤61とガス発生剤60とによって挟み込まれて圧縮することにより、ハウジングの内部に収容される各種の構成部品の寸法ばらつきが当該コイルバネ70によって吸収できることにもなる。
【0058】
オートイグニッション剤61は、偏平略円柱状に成形されたペレットからなる。オートイグニッション剤61は、コイルバネ70から見てガス発生剤60が位置する側とは反対側(すなわちフィルタ80側)に配置されており、仕切り部材50の隔壁部51とコイルバネ70とによって挟み込まれて保持されている。これにより、オートイグニッション剤61は、コイルバネ70によってガス発生剤60と隔てられている。
【0059】
オートイグニッション剤61は、点火器40の作動に依らずに自動発火する薬剤である。より詳細には、オートイグニッション剤61は、ガス発生剤60よりも低い温度で自然発火するものであり、シリンダ型ガス発生器1Aが組み込まれたエアバッグ装置が装備された車両等において万が一火災等が発生した場合に、シリンダ型ガス発生器1Aが外部から加熱されることによって異常動作が誘発されないようにするためのものである。
【0060】
ここで、本実施の形態に係るシリンダ型ガス発生器1Aにあっては、ハウジング本体10が従来に比して細長い形状を有しており、これに伴ってハウジング本体10が相当程度に小径でありしかも長尺である。そのため、ガス発生剤収容室S1も細長い略円柱状の空間にて構成されることから、シリンダ型ガス発生器1Aの製造時において、必要量の粒状のガス発生剤60を当該ガス発生剤収容室S1に高密度で充填することが非常に困難になる。
【0061】
この点、本実施の形態に係るシリンダ型ガス発生器1Aにあっては、
図1ないし
図4に示すように、ガス発生剤収容室S1を規定する部分の周壁部11の内周面に潤滑材(固体潤滑剤)としての乾性被膜91が設けられており、この乾性被膜91の機能により、必要量の粒状のガス発生剤60をガス発生剤収容室S1に高密度にて充填することが可能とされている。
【0062】
より詳細には、潤滑材としての乾性被膜91は、フッ素系樹脂、二硫化モリブデンおよびボロンナイトライドのうちの少なくとも一種を成分として含むものであり、複数の粒状のガス発生剤60と周壁部11との間の摩擦を低減する機能を有している。この乾性被膜91は、たとえば揮発性の有機溶剤に上記成分を含む微粉末が分散された塗布液を準備し、これをハウジング本体10の内周面に塗布し、乾燥させることで成膜されるものである。乾性被膜91の膜厚は、特にこれが制限されるものではないが、好ましくは1μm以上50μm以下とされる。
【0063】
ここで、本実施の形態に係るシリンダ型ガス発生器1Aにあっては、その製造上の理由から、乾性被膜91は、周壁部11の内周面のみならず、ガス発生剤収容室S1を規定する部分の仕切り部材50の表面にも連続して設けられている。
【0064】
この乾性被膜91がガス発生剤収容室S1を規定する部分の周壁部11の内周面に設けられていることにより、シリンダ型ガス発生器1Aの製造時において必要量の粒状のガス発生剤60をガス発生剤収容室S1に高密度で充填することができる仕組みについては、後において詳述することとする。
【0065】
なお、上述した如くの問題が生じ得るガス発生剤収容室S1としては、
図1を参照して、その軸方向長さをLとし(より厳密には、当該軸方向長さLは、図示するように粒状のガス発生剤60が実際に充填される空間の軸方向長さと定義される)、ハウジング本体10の外径をDとした場合に、これら軸方向長さLおよび外径Dが、L/D≧5の条件が満たすようなサイズである場合が想定される。
【0066】
図1、
図3および
図4に示すように、ハウジングの内部の空間のうち、閉塞部材30と仕切り部材50とによって挟まれた空間(すなわちフィルタ室S2)には、フィルタ80が配置されている。フィルタ80は、ハウジング本体10の軸方向と平行な方向に沿って延びる中空部81を有する円筒状の部材からなり、その軸方向の一方の端面が閉塞部材30に当接しており、その軸方向の他方の端面が仕切り部材50の隔壁部51に当接している。
【0067】
フィルタ80は、ガス発生剤60が燃焼することによって発生したガスがこのフィルタ80中を通過する際に、ガスが有する高温の熱を奪い取ることによってガスを冷却する冷却手段として機能するとともに、ガス中に含まれるスラグ(残渣)等を除去する除去手段としても機能する。上述したように円筒状の部材からなるフィルタ80を利用することにより、作動時においてフィルタ室S2を流動するガスに対する流動抵抗が低く抑えられることになり、効率的なガスの流動が実現可能となる。
【0068】
フィルタ80としては、好適にはステンレス鋼や鉄鋼等からなる金属線材または金属網材の集合体にて構成されたものが利用できる。具体的には、メリヤス編みの金網や平織りの金網、クリンプ織りの金属線材の集合体、またはこれらをプレスにより押し固めたもの等が利用できる。
【0069】
また、フィルタ80として、孔あき金属板を巻き回したもの等を利用することもできる。この場合、孔あき金属板としては、たとえば、金属板に千鳥状に切れ目を入れるとともにこれを押し広げて孔を形成して網目状に加工したエキスパンドメタルや、金属板に孔を穿つとともにその際に孔の周縁に生じるバリを潰すことでこれを平坦化したフックメタル等が利用できる。
【0070】
フィルタ室S2を規定する部分のハウジング本体10には、ガス噴出口12が周方向および軸方向に沿って複数個設けられている。これら複数個のガス噴出口12は、フィルタ80を通過した後のガスをハウジングの外部に導出するためのものである。
【0071】
次に、
図1を参照して、本実施の形態に係るシリンダ型ガス発生器1Aの作動時における動作について説明する。
【0072】
図1を参照して、本実施の形態に係るシリンダ型ガス発生器1Aが搭載された車両が衝突した場合には、車両に別途設けられた衝突検知手段によって衝突が検知され、これに基づいて車両に別途設けられたコントロールユニットからの通電によって点火器40が作動する。
【0073】
点火器40が作動すると、点火薬またはこれに加えて伝火薬が燃焼することによって点火部41内の圧力が上昇し、これによって点火部41のスクイブカップが開裂し、点火薬またはこれに加えて伝火薬が燃焼することで発生した熱粒子が点火部41の外部へと流出する。ガス発生剤60に達した熱粒子は、ガス発生剤60を燃焼させ、これによりガス発生剤収容室S1内において多量のガスが発生する。
【0074】
これに伴い、ガス発生剤収容室S1の圧力が上昇し、当該ガス発生剤収容室S1の内圧が所定の圧力にまで達することにより、仕切り部材50のうちのスコア51aが設けられた部分に破断が生じる。これにより、フィルタ80の中空部81に対向する部分において仕切り部材50に開口部が形成されることになり、ガス発生剤収容室S1とフィルタ室S2とが当該開口部を介して連通した状態となる。
【0075】
これに伴い、ガス発生剤収容室S1において発生したガスが、仕切り部材50に形成された開口部を介してフィルタ室S2へと流入する。フィルタ室S2に流れ込んだガスは、フィルタ80の中空部81を軸方向に沿って流動した後に径方向に向けて向きを変え、フィルタ80の内部を通流する。その際に、フィルタ80によって熱が奪われてガスが冷却されるとともに、ガス中に含まれるスラグがフィルタ80によって除去される。
【0076】
そして、フィルタ80を通流した後のガスは、ハウジング本体10に設けられたガス噴出口12を介してハウジングの外部へと噴出される。噴出されたガスは、シリンダ型ガス発生器1Aに隣接して設けられたエアバッグの内部に導入され、エアバッグを膨張および展開する。なお、オートイグニッション剤61は、ガス発生剤60の燃焼時において共に燃焼することになる。
【0077】
図5ないし
図7は、上述した本実施の形態に係るシリンダ型ガス発生器の製造方法を説明するための模式図である。次に、これら
図5ないし
図7を参照して、本実施の形態に係るシリンダ型ガス発生器1Aの製造方法について説明する。なお、本実施の形態に係るシリンダ型ガス発生器1Aの製造方法においては、
図5(A)、
図5(B)、
図6(A)、
図6(B)、
図7(A)、
図7(B)に示す順でその製造フローが進むことになる。
【0078】
まず、
図5(A)に示すように、シリンダ型ガス発生器1Aを製造するに際しては、まず、未だ乾性被膜91がその内周面に設けられていないハウジング本体10が準備され、当該ハウジング本体10の上述した他方の開放端(すなわち、周壁部11の他端部11b)に閉塞部材30が溶接により固定され、その後、ハウジング本体10の内部にフィルタ80および仕切り部材50がこの順で上述した一方の開放端(すなわち、周壁部11の一端部11a)側からそれぞれ挿入および圧入され、圧入された仕切り部材50がハウジング本体10に溶接により固定される。
【0079】
以上により、予め定められた量の複数の粒状のガス発生剤60が収容されるガス発生剤収容室S1を規定する部分を含む筒状の周壁部11を有するとともに、当該周壁部11の軸方向の一端部11aが開放されてなる金属製のハウジングが準備されることになる。
【0080】
次に、
図5(B)に示すように、周壁部11の一端部11a側からハウジング本体10の内部にスプレーヘッド200が挿し込まれ、当該スプレーヘッド200から、後において潤滑材としての乾性被膜91となる予め調製された塗布液91’が、ガス発生剤収容室S1を規定する部分の周壁部11の内周面および仕切り部材50の表面に向けて噴き付けられる。その際、スプレーヘッド200は、図中に示す矢印DR1方向に向けて回転させられながら図中に示す矢印DR2方向に徐々に向けて移動させられる。
【0081】
これにより、
図6(A)に示すように、ガス発生剤収容室S1を規定する部分の周壁部11の内周面ならびに仕切り部材50の表面が、層状に付着した塗布液91’によって覆われることになる。なお、その際、ハウジング本体10のうちのホルダ20が配置される部分に対応した部分の内周面(すなわち、
図6(B)において符号Aで示す領域のハウジング本体10の内周面)には、塗布液91’を塗布しないことが好ましい。これは、当該部分に乾性被膜91が形成された場合には、ハウジング本体10に対するホルダ20の組付けの際に、溶接不良が発生するおそれがあるためである。
【0082】
次に、周壁部11の内周面に塗布液91’が層状に付着した状態のまま所定時間これが放置されることにより、付着した塗布液91’の乾燥処理が行なわれる。これにより、周壁部11の内周面に乾性被膜91が設けられる。その際、必要に応じて加熱処理を施してもよい。
【0083】
以上により、ガス発生剤収容室S1を規定する部分の周壁部11の内周面に、ガス発生剤60と周壁部11との間の摩擦を低減するための潤滑材としての乾性被膜91が設けられることになる。
【0084】
次に、
図6(B)に示すように、オートイグニッション剤61およびコイルバネ70が、周壁部11の一端部11a側からハウジング本体10の内部にこの順でそれぞれ挿入される。このとき、コイルバネ70は、未だ圧縮された状態にないため、当該コイルバネ70は、ハウジング本体10の内部においてその自然長を維持した状態となる。
【0085】
次に、
図7(A)に示すように、予め定められた量の複数の粒状のガス発生剤60が、周壁部11の一端部11a側からハウジング本体10の内部に装填される。このとき、好ましくはハウジング本体10に外部から振動が付与される。これにより、ある程度高い密度をもってガス発生剤60がハウジング本体10の内部に装填されることになるが、装填されたガス発生剤60は、十分に高密度な状態でハウジング本体10の内部に収容されることはないため、その一部は、ガス発生剤収容室S1を規定する部分の周壁部11よりも上記一端部11a側に食み出した状態となる。
【0086】
その後、予め点火器40が固定されてなるホルダ20が、周壁部11の一端部11aに組付けられる。このとき、図中に示す矢印DR3方向に向けてホルダ20がハウジング本体10に挿入されることにより、ハウジング本体10の内部に装填されたガス発生剤60が点火器40の点火部41に当接することで押し込まれ、さらには押し込まれたガス発生剤60によってコイルバネ70が図中に示す矢印DR4方向に向けて押し込まれて圧縮される。
【0087】
その際、ガス発生剤収容室S1を規定する部分の周壁部11の内周面に潤滑材としての乾性被膜91が設けられていることにより、ガス発生剤60が周壁部11の内周面に直接接触する場合に比べ、ガス発生剤60が乾性被膜91に接触することでその摩擦が低減され、結果としてガス発生剤60がより小さい押し込み荷重で移動できることになる。そのため、ハウジング本体10に装填された複数の粒状のガス発生剤60の各々が、より小さい押し込み荷重によってその姿勢を変えることになり、これら複数の粒状のガス発生剤60の間に存する空隙が減少することになり、複数の粒状のガス発生剤60の全体としての嵩が低減することになる。
【0088】
これにより、ホルダ20を周壁部11の一端部11aに挿入することができることになるとともに、複数の粒状のガス発生剤60が高密度にガス発生剤収容室S1に充填できることになる。その際、上述したように小さい押し込み荷重によってガス発生剤60を高密度にガス発生剤収容室S1に充填できるため、複数の粒状のガス発生剤60が破砕してしまうことを効果的に抑制できることになる。
【0089】
ここで、特に、本実施の形態に係るシリンダ型ガス発生器1Aにおいては、ガス発生剤収容室S1にコイルバネ70が収容された構成であるため、当該コイルバネ70が有する弾性復元力により、相当程度に大きい押し込み荷重をガス発生剤60に加えることが必要になるところ、上述した如くの潤滑材としての乾性被膜91を設けることによる摩擦低減効果により、ガス発生剤60に加えることが必要となる押し込み荷重が低減できることは、複数の粒状のガス発生剤60が破砕してしまうことを防止する観点から非常にその意義が大きいものとなる。
【0090】
以上により、ガス発生剤収容室S1に、周壁部11の軸方向の一端部11aを介して複数の粒状のガス発生剤60が充填されることになる。その後、周壁部11の上述した一端部11aに挿入されたホルダ20がハウジング本体10に溶接によって固定されることにより、シリンダ型ガス発生器1Aの製造が完了することになる。
【0091】
このように、本実施の形態に係るシリンダ型ガス発生器1Aならびにその製造方法においては、ガス発生剤収容室S1を規定する部分の周壁部11の内周面に潤滑材としての乾性被膜91が設けられることにより、粒状のガス発生剤60の破砕を防止しつつこれをガス発生剤収容室S1に高密度に充填できることになる。したがって、ガス発生剤60が破砕することでガス発生剤60全体としての表面積が変化することが効果的に防止できることになるため、作動時において所望のガス出力を確実に得ることのできる高性能でかつ小型のシリンダ型ガス発生器とすることができる。
【0092】
ここで、潤滑材としての乾性被膜91は、上述したように、フッ素系樹脂、二硫化モリブデンおよびボロンナイトライドのうちの少なくとも一種を成分として含むものであることが好ましい。これは、これら成分が、複数の粒状のガス発生剤60と周壁部11との間の摩擦を低減する機能を有するばかりでなく、必要量の乾性被膜91をガス発生剤収容室S1を規定する部分の周壁部11の内周面に設けた場合にも、シリンダ型ガス発生器1Aの作動時においてこれが高温高圧環境下に晒された場合にも、有毒なガスの発生が効果的に抑制できることが実験的に確認できたためである。特に、フッ素系樹脂のみからなる乾性被膜を30mg~50mg程度の総量となるように薄く周壁部11の内周面に設けた場合には、十分な摩擦低減効果が得られるばかりでなく、有毒なガスの発生が効果的に抑制できることが実験的に確認されている。
【0093】
なお、潤滑材としての乾性被膜としては、上述した成分を含むものに限られず、複数の粒状のガス発生剤と周壁部との間の摩擦を低減する機能を有するとともに、シリンダ型ガス発生器の作動時において有毒なガスが基準値を超えて発生しないことを条件に、種々のものが適用できる。また、潤滑材としての乾性被膜に、ガス発生剤に添加すべき成分を含ませる等、さらに他の機能を有する成分を含ませることとしもよい。
【0094】
また、本実施の形態においては、乾性被膜となる予め調製された塗布液をスプレーヘッドを用いてガス発生剤収容室を規定する部分の周壁部の内周面に塗布する場合を例示して説明を行なったが、その塗布方法は特に制限されるものではなく、たとえばスポンジにこれを含ませて塗布するといった方法等、各種の塗布方法を適用することができる。
【0095】
(実施の形態2)
図8は、実施の形態2に係るシリンダ型ガス発生器の概略図である。また、
図9は、本実施の形態に係るガス発生器の製造方法を説明するための模式図である。以下、これら
図8および
図9を参照して、本実施の形態に係るシリンダ型ガス発生器1Bについて説明する。なお、本実施の形態に係るシリンダ型ガス発生器1Bの製造方法においては、
図5(A)、
図5(B)、
図6(A)、
図6(B)、
図9(A)、
図9(B)に示す順でその製造フローが進むことになる。
【0096】
図8に示すように、本実施の形態に係るシリンダ型ガス発生器1Bは、上述した実施の形態1に係るシリンダ型ガス発生器1Aと比較した場合に、ガス発生剤収容室S1に、ガス発生剤60、オートイグニッション剤61およびコイルバネ70に加え、筒状部材110が収容されている点においてのみ、その構成が相違している。
【0097】
筒状部材110は、ガス発生剤収容室S1のうちのホルダ20が位置する側に配置されている。より詳細には、筒状部材110は、ガス発生剤収容室S1を規定する部分の周壁部11のうち、ホルダ20に隣接する部分の内周面を覆うように当該周壁部11に圧入されており、これによりその外周面は、周壁部11に当接している。筒状部材110は、たとえば金属製の部材からなり、たとえばステンレス鋼や鉄鋼、アルミニウム合金、ステンレス合金等の金属製の部材にて構成されることが好ましい。
【0098】
この筒状部材110は、シリンダ型ガス発生器1Aの製造時において、必要量の粒状のガス発生剤60を当該ガス発生剤収容室S1に高密度で充填するために必要に応じて用いられるものであり、そのままハウジングの内部に封入されたものである。
【0099】
具体的には、シリンダ型ガス発生器1Bを製造するに際しては、上述した実施の形態1の場合と同様に、
図5(A)、
図5(B)、
図6(A)、
図6(B)の順でその製造フローが進んだ後、
図9(A)に示すように、ハウジングの周壁部11の一端部11a側に、筒状部材110の一部が圧入される。これにより、周壁部11の一端部11a側には、当該周壁部11に圧入されていない部分の筒状部材110がハウジングから食み出して位置することになる。
【0100】
このハウジングから食み出した部分の筒状部材110は、必要量の複数の粒状のガス発生剤60をハウジング本体10の内部に装填する際に、当該ガス発生剤60をハウジング本体10の内部に向けて押し込む前の状態において、ハウジング本体10から食み出した部分の複数の粒状のガス発生剤60を受け入れるスペースとなる。したがって、必要量の複数の粒状のガス発生剤60をハウジング本体10の内部に装填するために必要となるスペースに対して、ハウジング本体10の軸方向長さが十分でない場合に、この筒状部材110を用いることにより、一度の作業にて必要量の複数の粒状のガス発生剤60をガス発生剤収容室S1に装填することが可能になる。
【0101】
図9(B)に示すように、筒状部材110は、予め点火器40が固定されてなるホルダ20が周壁部11の一端部11aに組付けられる際に、ホルダ20によってハウジング本体10の内部に押し込まれることにより、複数の粒状のガス発生剤60と共にガス発生剤収容室S1へと収容される。そのため、上述したように、シリンダ型ガス発生器1Bの完成後においてハウジングの内部に封入されることになる。なお、複数の粒状のガス発生剤60および筒状部材110がハウジング本体10の内部に押し込まれた後には、周壁部11の上述した一端部11aに挿入されたホルダ20がハウジング本体10に溶接によって固定されることにより、シリンダ型ガス発生器1Bの製造が完了することになる。
【0102】
このように、本実施の形態に係るシリンダ型ガス発生器1Bならびにその製造方法とすることにより、上述した実施の形態1の場合と同様に、粒状のガス発生剤60の破砕を防止しつつこれをガス発生剤収容室S1に高密度に充填できることになる。したがって、作動時において所望のガス出力を確実に得ることのできる高性能でかつ小型のシリンダ型ガス発生器とすることができる。
【0103】
なお、本実施の形態に係るシリンダ型ガス発生器1Bにおいては、乾性被膜91となる予め調製された塗布液91’をハウジング本体10の内周面に塗布する際に、ハウジング本体10のうちのホルダ20が配置される部分に対応した部分の内周面(すなわち、
図9(A)において符号Aで示す領域のハウジング本体10の内周面)ならびにハウジング本体10のうちの筒状部材110が配置される部分に対応した部分の内周面(すなわち、
図9(A)において符号Bで示す領域のハウジング本体10の内周面)に、これを塗布しないことが好ましい。これは、当該部分に乾性被膜91が形成された場合には、ハウジング本体10に対するホルダ20の組付けの際に溶接不良が発生したり、筒状部材110の圧入の際に乾性被膜91が捲れてしまったりするおそれがあるためである。
【0104】
(実施の形態3)
図10は、実施の形態3に係るシリンダ型ガス発生器の概略図である。また、
図11は、
図10中に示す領域XIの拡大図である。以下、これら
図10および
図11を参照して、本実施の形態に係るシリンダ型ガス発生器1Cについて説明する。
【0105】
図10および
図11に示すように、本実施の形態に係るシリンダ型ガス発生器1Cは、上述した実施の形態1に係るシリンダ型ガス発生器1Aと比較した場合に、ガス発生剤収容室S1を規定する部分の周壁部11の内周面に乾性被膜91(
図1等参照)が設けられることに代えて、潤滑材としての微粉末92が付着させられている点においてのみ、その構成が相違している。
【0106】
具体的には、潤滑材としての微粉末92は、タルク、ステアリン酸マグネシウムおよびゼオライトのうちの少なくとも一種を成分として含むものであり、複数の粒状のガス発生剤60と周壁部11との間の摩擦を低減する機能を有している。この微粉末92は、たとえば上述した実施の形態1において説明したスプレーヘッドの如くの噴き付け手段を用いてガス発生剤収容室S1を規定する部分の周壁部11の内周面に噴き付けることで当該内周面に付着させることができる。
【0107】
なお、本実施の形態に係るシリンダ型ガス発生器1Cにあっては、その製造上の理由から、微粉末92は、周壁部11の内周面のみならず、ガス発生剤収容室S1を規定する部分の仕切り部材50の表面にも連続して付着している。
【0108】
微粉末92の粒径としては、特にこれが制限されるものではないが、好ましくは1μm以上10μm以下とされる。また、微粉末92の付着層の厚みは、特にこれが制限されるものではないが、好ましくは1μm以上50μm以下とされる。
【0109】
本実施の形態に係るシリンダ型ガス発生器1Cを製造するに際しては、上述した実施の形態1において説明した製造フローと近似の製造フローが採用され、異なる点は、ガス発生剤収容室S1を規定する部分の周壁部11の内周面に乾性被膜91を形成する工程が、ガス発生剤収容室S1を規定する部分の周壁部11の内周面に微粉末92を付着させる工程に代わるのみである。この微粉末を付着させる工程は、上述したように、たとえば噴き付け手段を用いて行なわれる。
【0110】
すなわち、要約すれば、予め定められた量の複数の粒状のガス発生剤60が収容されるガス発生剤収容室S1を規定する部分を含む筒状の周壁部11を有するとともに、当該周壁部11の軸方向の一端部11aが開放されてなる金属製のハウジングが準備され、ガス発生剤収容室S1を規定する部分の周壁部11の内周面に、ガス発生剤60と周壁部11との間の摩擦を低減するための潤滑材としての微粉末92が付着させられ、その後、ガス発生剤収容室S1に、周壁部11の軸方向の一端部11aを介して複数の粒状のガス発生剤60が充填されることにより、上述したシリンダ型ガス発生器1Cが製造される。
【0111】
その際、ガス発生剤収容室S1を規定する部分の周壁部11の内周面に潤滑材としての微粉末92が付着させられていることにより、ガス発生剤60が周壁部11の内周面に直接接触する場合に比べ、ガス発生剤60が微粉末92に接触することでその摩擦が低減されるばかりでなく、ガス発生剤60に接触した微粉末92が移動することにより、結果としてガス発生剤60がより小さい押し込み荷重で移動できることになる。そのため、ハウジング本体10に装填された複数の粒状のガス発生剤60の各々が、より小さい押し込み荷重によってその姿勢を変えることになり、これら複数の粒状のガス発生剤60の間に存する空隙が減少することになり、複数の粒状のガス発生剤60の全体としての嵩が低減することになる。
【0112】
これにより、ホルダ20を周壁部11の一端部11aに挿入することができることになるとともに、複数の粒状のガス発生剤60が高密度にガス発生剤収容室S1に充填できることになる。その際、上述したように小さい押し込み荷重によってガス発生剤60を高密度にガス発生剤収容室S1に充填できるため、複数の粒状のガス発生剤60が破砕してしまうことを効果的に抑制できることになる。
【0113】
ここで、特に、本実施の形態に係るシリンダ型ガス発生器1Cにおいては、ガス発生剤収容室S1にコイルバネ70が収容された構成であるため、当該コイルバネ70が有する弾性復元力により、相当程度に大きい押し込み荷重をガス発生剤60に加えることが必要になるところ、上述した如くの潤滑材としての微粉末92を用いることによる摩擦低減効果により、ガス発生剤60に加えることが必要となる押し込み荷重が低減できることは、複数の粒状のガス発生剤60が破砕してしまうことを防止する観点から非常にその意義が大きいものとなる。
【0114】
なお、微粉末92をハウジング本体10の内周面に付着させる際には、上述した実施の形態1の場合と同様に、ハウジング本体10のうちのホルダ20が配置される部分に対応した部分の内周面に、これを付着させないことが好ましい。これは、当該部分に微粉末92が付着させた場合には、ハウジング本体10に対するホルダ20の組付けの際に、溶接不良が発生するおそれがあるためである。
【0115】
このように、本実施の形態に係るシリンダ型ガス発生器1Cならびにその製造方法においては、ガス発生剤収容室S1を規定する部分の周壁部11の内周面に潤滑材としての微粉末が付着させられることにより、粒状のガス発生剤60の破砕を防止しつつこれをガス発生剤収容室S1に高密度に充填できることになる。したがって、ガス発生剤60が破砕することでガス発生剤60全体としての表面積が変化することが効果的に防止できることになるため、作動時において所望のガス出力を確実に得ることのできる高性能でかつ小型のシリンダ型ガス発生器とすることができる。
【0116】
ここで、潤滑材としての微粉末92は、上述したように、タルク、ステアリン酸マグネシウムおよびゼオライトのうちの少なくとも一種を成分として含むものであることが好ましい。これは、これら成分が、複数の粒状のガス発生剤60と周壁部11との間の摩擦を低減する機能を有するばかりでなく、必要量の微粉末92をガス発生剤収容室S1を規定する部分の周壁部11の内周面に設けた場合にも、シリンダ型ガス発生器1Cの作動時においてこれが高温高圧環境下に晒された場合にも、有毒なガスの発生が効果的に抑制できることが実験的に確認できたためである。
【0117】
また、このうちのステアリン酸マグネシウムは、ガス発生剤60に含まれる成分である場合もあり、ゼオライトは、乾燥剤としての機能も発揮するものであることから、これら成分を微粉末92に含ませることは、特に好適であると言える。
【0118】
なお、潤滑材としての微粉末としては、上述した成分を含むものに限られず、複数の粒状のガス発生剤と周壁部との間の摩擦を低減する機能を有するとともに、シリンダ型ガス発生器の作動時において有毒なガスが基準値を超えて発生しないことを条件に、種々のものが適用できる。また、潤滑材としての微粉末に、さらに他の機能を有する成分を含ませることとしもよい。
【0119】
(実施の形態1ないし3の要約)
上述した実施の形態1ないし3において開示したガス発生器の特徴的な構成を要約すると、以下のとおりとなる。
【0120】
[付記1]
ガス発生剤収容室を規定する部分を含む筒状の周壁部を有する金属製のハウジングと、
上記ガス発生剤収容室に収容された複数の粒状のガス発生剤と、
上記ガス発生剤を燃焼させるための点火器とを備え、
上記ガス発生剤と上記周壁部との間の摩擦を低減する潤滑材が、上記ガス発生剤収容室を規定する部分の上記周壁部の内周面と上記ガス発生剤との間に位置し、
上記潤滑材が、上記周壁部の内周面を覆う乾性被膜からなる、ガス発生器。
【0121】
[付記2]
上記乾性被膜が、フッ素系樹脂、二硫化モリブデンおよびボロンナイトライドのうちの少なくとも一種を成分として含んでいる、付記1に記載のガス発生器。
【0122】
[付記3]
ガス発生剤収容室を規定する部分を含む筒状の周壁部を有する金属製のハウジングと、
上記ガス発生剤収容室に収容された複数の粒状のガス発生剤と、
上記ガス発生剤を燃焼させるための点火器とを備え、
上記ガス発生剤と上記周壁部との間の摩擦を低減する潤滑材が、上記ガス発生剤収容室を規定する部分の上記周壁部の内周面と上記ガス発生剤との間に位置し、
上記潤滑材が、上記周壁部の内周面に付着させられた微粉末からなる、ガス発生器。
【0123】
[付記4]
上記微粉末が、タルク、ステアリン酸マグネシウムおよびゼオライトのうちの少なくとも一種を成分として含んでいる、付記3に記載のガス発生器。
【0124】
[付記5]
上記点火器が、点火薬が装填された点火部を含み、
上記点火部が上記ガス発生剤に面することとなるように、上記点火器が、上記ハウジングのうちの上記ガス発生剤収容室から見た場合における上記周壁部の軸方向の一端部側の位置に組付けられている、付記1から3のいずれかに記載のガス発生器。
【0125】
[付記6]
上記周壁部が、フィルタが収容されたフィルタ室を規定する部分をさらに含み、
上記ハウジングが、上記ガス発生剤収容室から見た場合における上記周壁部の軸方向の他端部側に位置するとともに、上記ハウジングの内部の空間を上記ガス発生剤収容室と上記フィルタ室とに区画する隔壁部を含み、
上記隔壁部と上記ガス発生剤との間に介装されることにより、上記ガス発生剤を上記隔壁部から離間させつつ上記ガス発生剤を上記点火器側に向けて付勢することで上記ガス発生剤を上記ガス発生剤収容室の内部において固定するコイルバネをさらに備えてなる、付記5に記載のガス発生器。
【0126】
[付記7]
予め定められた量の複数の粒状のガス発生剤が収容されるガス発生剤収容室を規定する部分を含む筒状の周壁部を有するとともに、上記周壁部の軸方向の一端部が開放されてなる金属製のハウジングを準備する工程と、
上記ガス発生剤収容室を規定する部分の上記周壁部の内周面に、上記ガス発生剤と上記周壁部との間の摩擦を低減するための潤滑材を設ける工程と、
上記ガス発生剤収容室に、上記潤滑材が内周面に設けられた上記周壁部の軸方向の上記一端部を介して上記ガス発生剤を充填する工程とを備え、
上記潤滑材を設ける工程が、上記潤滑材としての乾性被膜によって上記周壁部の内周面を覆う工程を含んでいる、ガス発生器の製造方法。
【0127】
[付記8]
予め定められた量の複数の粒状のガス発生剤が収容されるガス発生剤収容室を規定する部分を含む筒状の周壁部を有するとともに、上記周壁部の軸方向の一端部が開放されてなる金属製のハウジングを準備する工程と、
上記ガス発生剤収容室を規定する部分の上記周壁部の内周面に、上記ガス発生剤と上記周壁部との間の摩擦を低減するための潤滑材を設ける工程と、
上記ガス発生剤収容室に、上記潤滑材が内周面に設けられた上記周壁部の軸方向の上記一端部を介して上記ガス発生剤を充填する工程とを備え、
上記潤滑材を設ける工程が、上記潤滑材としての微粉末を上記周壁部の内周面に付着させる工程を含んでいる、ガス発生器の製造方法。
【0128】
(関連形態)
上述した実施の形態1ないし3においては、ガス発生剤収容室を規定する部分の周壁部の内周面に、潤滑材としての乾性被膜あるいは微粉末の層を設けることにより、ガス発生剤をハウジングの内部に装填する作業の際に、その押し込み荷重の低減が図られるように構成した場合を例示して説明を行なったが、これに代えて、ガス発生剤収容室を規定する部分の周壁部の内周面を覆うように設けられ、かつ、当該周壁部に対してその軸方向に沿って摺動可能に構成されたフィルム状部材を用いることとしてもよい。当該フィルム状部材は、切れ目のない筒形状を有していてもよいし、切れ目のあるものを巻き回して筒状形状に構成したものであってもよい。
【0129】
このようなフィルム状部材を潤滑材として用いる場合には、周壁部の軸方向の一端部を介して複数の粒状のガス発生剤をガス発生剤収容室に充填するに際し、当該フィルム状部材の一部または全部が予めハウジングの周壁部の内周面を覆うように配置される。この状態においてフィルム状部材の内部に複数の粒状のガス発生剤が装填され、その後、予め点火器が固定されたホルダによる押し込みが行なわれる。
【0130】
このとき、フィルム状部材として、ガス発生剤よりもハウジング本体に対する摩擦抵抗が小さいものを用いれば、押し込み荷重を受けてフィルム状部材がハウジング本体の内周面を滑るように摺動し、結果として比較的小さい押し込み荷重にてガス発生剤を押し込むことが可能になる。なお、フィルム状部材としては、金属製のものであってもよいし、樹脂製のものであってもよい。
【0131】
このような方法にてガス発生剤を充填した場合にも、粒状のガス発生剤の破砕を防止しつつこれをガス発生剤収容室に高密度に充填することが可能になり、結果として、作動時において所望のガス出力を確実に得ることのできる高性能でかつ小型のシリンダ型ガス発生器を容易に製造することが可能になる。
【0132】
(その他の形態等)
上述した本発明の実施の形態1ないし3および関連形態において示した特徴的な構成は、本発明の趣旨に照らして逸脱しない範囲において、当然にこれを相互組み合わせることができる。すなわち、上述した乾性被膜および微粉末を組み合わせてガス発生器に適用したり、上述したフィルム状部材と乾性被膜または微粉末とを組み合わせてガス発生器に適用したりすることも可能である。
【0133】
また、上述した本発明の実施の形態1ないし3においては、本発明をサイドエアバッグ装置に組み込まれるシリンダ型ガス発生器に適用した場合を例示して説明を行なったが、本発明の適用対象はこれに限られるものではなく、カーテンエアバッグ装置やニーエアバッグ装置、シートクッションエアバッグ装置等に組み込まれるシリンダ型ガス発生器や、シリンダ型ガス発生器と同様に長尺状の外形を有するいわゆるT字型ガス発生器にもその適用が可能である。
【0134】
このように、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0135】
1A~1C シリンダ型ガス発生器、10 ハウジング本体、11 周壁部、11a 一端部、11b 他端部、12 ガス噴出口、20 ホルダ、21 貫通部、22 かしめ部、23 凹部、30 閉塞部材、40 点火器、41 点火部、42 端子ピン、43 シール部材、50 仕切り部材、51 隔壁部、51a スコア、52 環状壁部、60 ガス発生剤、61 オートイグニッション剤、70 コイルバネ、71 バネ部、72 押圧部、80 フィルタ、81 中空部、91 乾燥被膜、91’ 塗布液、92 微粉末、101~103 溶接部、110 筒状部材、200 スプレーノズル、S1 ガス発生剤収容室、S2 フィルタ室。