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特開2024-179984洗濯物乾燥機の運転方法及び業務用洗濯物乾燥機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179984
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】洗濯物乾燥機の運転方法及び業務用洗濯物乾燥機
(51)【国際特許分類】
   D06F 58/36 20200101AFI20241219BHJP
   D06F 58/46 20200101ALI20241219BHJP
   D06F 58/48 20200101ALI20241219BHJP
【FI】
D06F58/36
D06F58/46
D06F58/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099370
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】517260700
【氏名又は名称】アイナックス稲本株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078673
【弁理士】
【氏名又は名称】西 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】稲森 件吾
(72)【発明者】
【氏名】大杉 洋之
【テーマコード(参考)】
3B167
【Fターム(参考)】
3B167AA24
3B167AB24
3B167AB29
3B167AB30
3B167AD02
3B167AE04
3B167AE07
3B167AE12
3B167BA43
3B167BA82
3B167KA09
3B167KA32
3B167LA05
3B167LA10
3B167LC10
3B167LC14
3B167LD03
(57)【要約】
【課題】洗濯設備のなかでもエネルギー消費の大きな乾燥機において、自動で適切なタイミングで排気循環の変更が行われるようにすること、及び、更なる消費エネルギーの低減を可能にした洗濯物乾燥機を提供することを課題とする。
【解決手段】定率乾燥期間から減率乾燥期間に移行する時点を検出ないし推定し、当該検出ないし推定した時点で排気循環率を上げる制御を行う。また、減率乾燥期間の終期では洗濯物繊維の表面と内部とに温度差が生じていることに着目し、この温度差を解消する温度差解消運転を行って当該運転を行った後で乾燥運転を終了することにより、乾燥終期における消費エネルギーの低減を図る。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラム内に投入した洗濯物を当該ドラムを回転ないし揺動させかつ加熱手段で加熱した乾燥用空気を当該ドラムに通過させて乾燥し、乾燥工程の途中で前記ドラムを通過した乾燥用空気の一部を空気流入路に設けられた前記加熱手段の空気入口側又は空気出口側に還流する排気循環を行う洗濯物の乾燥機において、
定率乾燥時の排気温度を記憶し、排気温度が記憶した温度に予め制御器に設定した温度差を加えた温度を超えた時点で定率乾燥期間から減率乾燥期間に移行したとして排気循環の循環率を上げることを特徴とする、洗濯物乾燥機の運転方法。
【請求項2】
ドラム内に投入した洗濯物を当該ドラムを回転ないし揺動させかつ加熱手段で加熱した乾燥用空気を当該ドラムに通過させて乾燥し、乾燥工程の途中で前記ドラムを通過した乾燥用空気の一部を空気流入路に設けられた前記加熱手段の空気入口側又は空気出口側に還流する排気循環を行う洗濯物の乾燥機において、
定率乾燥時の品物温度を記憶し、品物温度が記憶した温度に予め制御器に設定した温度差を加えた温度を超えた時点で定率乾燥期間から減率乾燥期間に移行したとして排気循環の循環率を上げることを特徴とする、洗濯物乾燥機の運転方法。
【請求項3】
品物温度が前記記憶した温度に予め制御器に設定した第2温度差を加えた温度を超えた時点で、乾燥用空気の循環と洗濯物を投入したドラムの回転を保持した状態で前記加熱手段の加熱を停止ないし低減した温度差解消運転を行い、当該運転後に乾燥運転を終了する、請求項1又は2記載の洗濯物乾燥機の運転方法。
【請求項4】
前記温度差が乾燥工程開始初期の予熱期間における排気温度または品物温度の立上り速度の関数として設定されている、請求項1又は2記載の洗濯物乾燥機の運転方法。
【請求項5】
前記減率乾燥期間に移行したあと、洗濯物の表面温度ないしその変化率を計測することにより洗濯物の表面が乾燥状態になったことを検出ないし推定し、当該検出ないし推定した時点ないし当該時点後の制御器に設定した待機時間後の時点P2で、乾燥用空気の循環と洗濯物を投入したドラムの回転を保持した状態で前記加熱手段の加熱を停止ないし低減した温度差解消運転を行い、当該運転後に乾燥運転を終了する、請求項1又は2記載の洗濯物乾燥機の運転方法。
【請求項6】
前記減率乾燥期間に移行したあと、乾燥用空気の排気温度と洗濯物の表面温度との温度差を計測することにより洗濯物の表面が乾燥状態になったことを検出ないし推定し、当該検出ないし推定した時点ないし当該時点後の制御器に設定した待機時間後の時点P2で、乾燥用空気の循環と洗濯物を投入したドラムの回転を保持した状態で前記加熱手段に供給するエネルギーを停止ないし低減した温度差解消運転を行い、当該運転後に乾燥運転を終了する、請求項1又は2記載の洗濯物乾燥機の運転方法。
【請求項7】
減率乾燥期間の終期に、排気循環率を高くしかつ前記加熱手段による乾燥用空気の加熱を停止して前記ドラムの回転ないし揺動を継続する温度差解消運転を行って、洗濯物繊維表面の温度と洗濯物繊維内部の温度との温度差を解消ないし低減する温度差解消運転を行った後、乾燥運転を終了する、請求項1又は2記載の洗濯物乾燥機の運転方法。
【請求項8】
乾燥する洗濯物を投入する回転ドラムと、当該回転ドラムを通過する乾燥用空気の加熱手段および通風手段と、乾燥中の洗濯物表面の温度を測る品物温度センサと、洗濯物を通過した後の乾燥用空気の温度を測る排気温度センサと制御器とを備えた洗濯物乾燥機において、
前記制御器は、品物温度センサの検出値が排気温度センサの検出値より高くなった時点から予め前記制御器に設定された時間が経過したときに、前記加熱手段に供給するエネルギーを低減ないし停止すると共に前記通風手段の運転を継続して乾燥終了時の品物温度を均一化する、業務用洗濯物乾燥機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、タオルや布団などの洗濯物の乾燥機、特に洗い済の同一種類の洗濯物をまとめて洗濯する業務用の洗濯物乾燥機の制御ないし運転方法及び当該方法を用いる業務用洗濯物乾燥機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
洗濯と乾燥を連続して行う洗濯乾燥機や乾燥専用の洗濯物乾燥機(この出願では両者を含めて「洗濯物乾燥機」又は単に「乾燥機」と言う。)は、蒸気ヒータやバーナーの排気で加熱した乾燥用空気を用いて回転ドラム内に投入された洗濯物を乾燥している。脱水済の洗濯物は、ドラムの回転によってほぐされながらドラムを通過する加熱空気によって乾燥される。乾燥工程は、予熱期間、定率乾燥期間、減率乾燥期間を経て乾燥終了に至ることが知られている。
【0003】
水分を含んだ洗濯物は、予熱期間において定率乾燥温度まで引き上げられる。定率乾燥期間では含水率が一定の割合で減少してゆき、洗濯物の温度や乾燥速度がほぼ一定である。従って排気温度もほほ一定である。減率乾燥期間では、洗濯物の表面の水分がなくなり、乾燥速度は内部水分の表面への移動速度により制限され、乾燥の進行に伴って乾燥速度が逐次減少し、洗濯物の温度及び排気温度が逐次上昇する。
【0004】
減率乾燥期間における洗濯物の温度(以下「品物温度」と言う。)や排気温度の上昇は、洗濯物が乾燥した時点、すなわち乾燥運転を終了する時点を検出するのに用いられている。たとえば品物温度ないし排気温度が設定された温度に達したときに、乾燥運転を直ちに又は所定時間を待って終了する(例えば特許文献1~2、5)。
【0005】
また、消費エネルギーの効率的な利用を図るために、減率乾燥時の温度上昇した排気の一部又は全部を吸入側に循環する排気循環と呼ばれる手法が採用されている。すなわち、排気通路と吸気通路を区画する隔壁に開口と当該開口を開閉するダンパを設け、このダンパの開度により排気循環の程度を調整している。
【0006】
例えば特許文献2には、供給空気温度、排気温度、品物温度を検知して、排気循環量を連続的に制御することが記載されており、特許文献3には、排気温度の変化によって、恒率(定率)乾燥期間に移行したことを判断し、ヒーターの発熱量を小さくすることが記載されている。また特許文献8には、湿度センサの計測湿度に応じた排気風の循環率との関係をあらかじめ求めて、計測された湿度に応じて排気循環率を無段階で調整制御することが提案されている。
【0007】
更に特許文献4には、乾燥初期の余熱(予熱)期間の排気温度の変化から洗濯物の品種、量、脱水率などを判断して乾燥時間を制御することが、特許文献6には、品物温度の上昇勾配が、排気温度の上昇勾配よりも大きくなった時に発熱量を低下させることが記載されている。また、特許文献7には、モーターのトルクの変動幅の変化に基づいて乾燥終了を判断する方法の記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1279760号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第2657395号明細書
【特許文献3】特開昭59-14893号公報
【特許文献4】特開昭62-243595号公報
【特許文献5】特開平10-96588号公報
【特許文献6】特開2005-168640号公報
【特許文献7】特開平6-285299号公報
【特許文献8】特開2019-5071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述したように、洗濯物乾燥機では、加熱した乾燥用空気で洗濯物を乾燥しており、空気を加熱するためのエネルギーを使用している。そして従来から、この消費エネルギーを低減するために、乾燥の進行に応じて蒸気ヒータの蒸気量を調整するとか、排気循環を行うとかの省エネ対策が採られていた。
【0010】
洗濯物乾燥機では、洗濯物をドラムに投入して当該ドラムを回転ないし揺動し、加熱手段で加熱されて当該ドラムを通過する乾燥用空気で洗濯物を乾燥する。排気循環は、ドラムを通過したあとの乾燥用空気(排気)の一部をドラムの空気吸入側に戻すことにより乾燥に必要な消費エネルギーの低減を図るために行われる。排気循環率、すなわち戻す排気の割合は、乾燥工程の進行に応じて適切なタイミングで変更する必要がある。
【0011】
排気循環は、洗濯物乾燥機の消費エネルギーを節約する手段として極めて有効であるが、循環率を変更する(主に循環率を高くする)タイミングを設定するためには経験と勘が必要であり、循環率を高くするタイミングが早いと余分な水分まで戻してしまうため、乾燥に掛かる時間が延び、循環率を高くするタイミングが遅いと再利用できる排熱を捨ててしまうため、蒸気消費量が増えて、かえってエネルギー効率を低下させる問題がある。
【0012】
また、近年の天災の頻発が地球温暖化に起因するとの見解が示され、更なる消費エネルギーの低減が要求されている。
【0013】
この発明は、洗濯設備のなかでも特にエネルギー消費の大きな乾燥機において、自動で適切なタイミングで排気循環の変更が行われるようにすることを第1の課題としており、更なる消費エネルギーの低減を可能にした洗濯物乾燥機を提供することを第2の課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明では、定率乾燥期間(以下及び添付図面において「定率期間」と言う。)F2から減率乾燥期間(以下及び添付図面において「減率期間」と言う。)F3に移行する時点P1を検出ないし推定し、当該検出ないし推定した時点で排気循環率を上げる制御を行うことにより、上記第1の課題を解決している。
【0015】
定率期間F2から減率期間F3に移行する時点P1は、定率期間F2における品物温度Tw又は排気温度Taの温度勾配(ほぼ0となる)が上昇し始めたことを検出することによって検出するか、制御器に減率判定品物温度差ΔT1又は減率判定排気温度差ΔTa1を設定すると共に、定率期間F2における品物温度Tw又は排気温度Taを基準排気温度として、品物温度を基準としたときは検出した品物温度Twが基準品物温度T0に減率判定品物温度差ΔT1を加えた温度に達したとき、排気温度を基準としたときは検出した排気温度Taが基準温度Ta0に減率判定排気温度差ΔTa1を加えた温度に達したときを定率期間F2から減率期間F3に移行した時点P1とする。
【0016】
この場合、基準温度T0を設定する定率期間F2であることの判定は、品物温度や排気温度の変化率(ほぼ0)や、運転開始時点又は予熱期間から定率期間に移行した時点からの経過時間として制御器に設定した減率判定待機時間Δt1が経過した時点を定率期間F2とするなどで判定する。
【0017】
上記のような方法によって定率期間F2から減率期間F3に移行したと判定した時点P1でダンパ11を例えば開度1/4から1/2に変更して、排気循環率を上げる。
【0018】
この発明はまた、減率期間の終期F4では洗濯物繊維の表面と内部とに温度差が生じていることに着目し、減率期間の終期(以下及び図面において「減率終期」と言う。)F4にこの温度差を解消する温度差解消運転F5を行って当該運転を行った後で乾燥運転を終了することにより、乾燥終期における消費エネルギーの低減を図っている。
【0019】
温度差の解消は、繊維表面に蓄積された熱を利用して繊維内部を乾燥させることにより行う。具体的には、加熱手段3による乾燥用空気Aの加熱を止め、乾燥用空気Aの排気循環とドラム1の回転を継続することにより行う。
【0020】
減率終期F4においては、洗濯物繊維の表面への繊維内部の水の移動速度が繊維表面からの蒸発速度に追い付かなくなることから、品物温度センサ13で検出される繊維表面と内部との温度差が徐々に増大してくると考えられる。従来はこのような温度差が残った状態で乾燥運転を終了していたが、この発明では、この温度差を解消してから乾燥運転を終了することにより、第2の課題を解決している。
【0021】
温度差解消運転に移行する時点P2の判定は、特に限定されないが、例えば、上記の基準温度T0に制御器に終期判定温度差ΔT2を設定して、検出された品物温度Twが基準品物温度T0に終期判定温度差ΔT2を加えた温度に達した時点を温度差解消開始点P2とみなして、例えばダンパ11を排気循環率が最大設定となる位置まで開き、温調弁4とバイパス弁5の両方を全閉とする、又は温調弁4を閉じてバイパス弁5のみを開ける制御をして、繊維内部の水分を繊維表面の熱によって蒸発させる温度差解消運転F5を行った後、乾燥運転を停止する。
【0022】
減率終期F4ないし温度差解消開始点P2を判定する他の方法として、例えば、制御器に終期判定待機時間Δt2を設定して、定率期間F2から減率期間F3に移行した時点P1からの経過時間が終期判定待機時間Δt2に達したとき、あるいは、基準温度T0に終期判定温度差ΔT2を加えた温度に達したときとするか、その両者を併用する。
【0023】
すなわち、乾燥工程が定率期間F2から減率期間F3に移行した後の、洗濯物表面に蓄積された熱で未乾燥の洗濯物内部を乾燥すると推定される時点P2で排気循環とドラム1の回転ないし揺動を継続したまま乾燥用空気Aの加熱手段3に与えるエネルギーを停止ないし低減し、その後、洗濯物の表面と内部との温度差が解消されるのに必要と推定される待ち時間を待って乾燥運転を終了する。
【発明の効果】
【0024】
適切なタイミングで循環率を高くすることで排気の熱を再利用する割合が増えるため省エネにつながり、自動で循環率を変更させることで、誰でも簡単に省エネ乾燥運転を行うことができるため、ユーザーのランニングコスト削減に貢献できる。
【0025】
また、従来は洗濯物の繊維表面と内部との温度差がある状態で乾燥運転を終了していたが、この発明では洗濯物繊維表面に蓄積された熱で内部を乾燥させるので、更なる省エネが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】洗濯物乾燥機の内部構造の一例を模式的に示す正面図
図2】同側面図
図3】洗濯工程の経過と品物温度の変化を示す線図
図4】第1実施例の制御手順を示すフローチャート
図5】第2実施例の制御手順を示すフローチャート
図6】第3実施例の制御手順を示すフローチャート
図7図3の線図上における第3実施例の符号の位置を示す図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、実施例を示す図面を参照して、この発明の実施形態を説明する。
【0028】
図1、2は業務用洗濯物乾燥機の一例を示す図である。洗濯物Wは、水平軸回りに回転駆動されるドラム1に投入され、吸気口2から吸入されて蒸気ヒータ3で加熱された乾燥用空気Aは、ドラム1を横切って流れ、ドラム1の回転Rでかき上げられたあと落下する洗濯物Wを乾燥する。蒸気ヒータ3は、蒸気量を調整する温調弁4と少量の蒸気を流すときに用いるバイパス弁5とを備えている。温調弁4とバイパス弁5は、図示しない制御器からの指令により開度が調整されている。
【0029】
ドラム1を通過した乾燥用空気Aは、排気ブロワ6で排気口7から排出されるが、排気路8と吸気路9の間の隔壁に設けた開口10を塞ぐダンパ11を開くことにより、排気の一部が吸気路9に還流されて乾燥用空気として再利用される。
【0030】
ドラム1を収納している乾燥室12に設けられた品物温度センサ(赤外線センサ)13は、かき上げられる洗濯物Wの表面温度(品物温度)を計測しており、排気路8に設けた排気温度センサ14は排気温度を計測している。なお、乾燥室12に流入する乾燥用空気Aの温度は入口温度センサ15で検出されている。
【0031】
前述したように、乾燥は予熱期間、定率期間、減率期間を経て乾燥終了となる。なお、乾燥が終了した洗濯物繊維中の水分は0では無く、若干の水分が残った状態で乾燥終了となる。
【0032】
図3は、乾燥工程の開始から終了に至るまでの品物温度センサ13の計測値Twと排気温度センサ14の計測値Taの変化の一例を示した線図で、F1は予熱期間、F2は定率期間であり、F3は減率期間を示している。品物温度センサ13で検出された品物温度Twは、予熱期間F1で急上昇し、定率期間F2でほぼ一定で、減率期間F3では徐々に上昇している。排気温度センサ14で検出された排気温度Taは、予熱期間を除き、品物温度とほぼ同様な傾向で変化している。
【0033】
品物温度Twが細かい変動をしているのは、洗濯物の乾き具合にむらがあるためと考えられ、最も乾いている部分を計測したときにピークとなり、それより湿った部分を計測したときに谷になる。ドラム内の洗濯物全体の品物温度(厳密には品物表面の温度)は、連続して計測した値の平均値を取るか、多数のセンサを配置してそれらの計測値の平均値を取ることで平滑化できる。
【0034】
定率期間F2では、排気温度もほぼ一定で、品物温度より変動が少ないので、排気温度の変化から定率期間であると判定することもできる。減率期間F3に入ると、品物温度勾配や排気温度勾配が再び立ち上がってくるので、この温度勾配の変化から減率期間F3に入ったと判定することができる。
【0035】
減率期間F3では、洗濯物繊維に含まれる水分が徐々に低下し、従って繊維内部から繊維表面に移動する水分も徐々に低下するので、品物温度の温度勾配は直線的ではなく、二次曲線的、すなわち時間経過と共に温度勾配が急になるように変化すると考えられる。
【0036】
実際、乾燥工程の開始以降、排気温度Taが品物温度Twを上回っているが、減率期間F3の後期に品物温度Tw、特にそのピーク値が排気温度Taを超えてくることが認められる。
【0037】
減率乾燥では、洗濯物繊維の表面と内部とに温度差が生じ、繊維の乾燥に伴って熱伝導率が低下することから、乾燥が進行するに従って表面と内部の温度差が増大すると考えられる。この発明では、この温度差を利用して繊維内部の水分を蒸発させることにより、減率乾燥終期の消費エネルギーの軽減を図っている。そのためには、未乾燥の繊維内部の水分を蒸発させて適正な乾燥状態にするのに必要な熱量と繊維表面が適正な乾燥状態に戻るときに放出される熱量とが略等しくなる時点P2を検出ないし推定する必要がある。
【0038】
繊維の表面部分に蓄積された熱量を検出するのは実用上きわめて困難であるが、温度差解消開始点P2は、品物温度センサ13で検出された品物温度の例えばピーク値が適正な乾燥状態のときの品物温度を超えた時点、品物温度センサ13で検出される洗濯物表面の温度と排気温度との関係、例えば検出された品物温度センサ13の検出温度が排気温度を超えた時点などにより検出することができると考えられる。
【0039】
排気循環率は、予熱期間で高くして予熱時間の短縮を図り、定率期間では低く又は中程度とし、減率期間では再び高くして加熱器3の上記消費量を低減することで消費エネルギーの低減を図ることができる。すなわち、この発明では、定率期間から減率期間への移行を検出ないし推定した時点で排気循環率を上げ、更に温度差解消開始点P2を検出ないし推定したときに排気循環率を最大にした状態でヒータ3の加熱を止め、その状態で運転を続けた後で乾燥運転を終了することにより省エネを図っている。
【0040】
第1実施例では、経時的に品物温度勾配を検出して品物温度勾配の変化から減率期間F3への移行時点P1を検出ないし推定して排気循環率を最大にし、当該移行時点P1から制御器に設定された終期判定待機時間Δt2が経過した時点を温度差解消開始点P2と判断して温調弁4とバイパス弁5の両方を全閉とする、又は温調弁4を閉じてバイパス弁5のみを開ける制御を行う。
【0041】
図4は、第1実施例のフローチャートを示した図である。第1実施例では、図3に示す品物温度Twの上がり勾配を経時的に計測することで予熱期間F1、定率期間F2、減率期間F3を判断し、それぞれの期間に応じて経験的ないし実機試験により求めた排気循環率に自動変更することにより、エネルギー効率の良い乾燥運転を行う。
【0042】
例えば、乾燥運転のスタートから品物温度の温度勾配が大きい期間を予熱期間F1とする。温度勾配の検知手段として、一定の間隔(例えば10~60秒)で品物温度Twを測定して今回と前回の検出温度に温度差(例えば2~10℃)があれば予熱期間F1と判断して排風循環率を高くして品物温度の速やかな昇温を図る(ステップs13~ステップs15)。
【0043】
そして、乾燥運転のスタートから品物温度の上昇勾配が0近くまで低下したことを検知することで定率期間F2と判断する。定率期間では、排気と湿度と温度とを考慮して経験的ないし実機試験による排気循環率に移行する(ステップs16)。定率期間における排気循環率は、予熱期間のそれよりも低くする。
【0044】
定率期間から減率期間への移行は、品物温度の温度上昇勾配が小さい状態から温度上昇勾配が再び大きくなること(例えば2~10℃)で検知することができる。減率期間では排気循環率を高くして蒸気消費量の削減を図る(ステップs17)。
【0045】
検出ないし推定した減率移行時点P1から制御器に設定した減率終期待機時間Δt2が経過したときに温度差解消開始点P2に達したとして、ヒータ3に供給する蒸気を停止ないし低減し運転を継続する(ステップs18)。温度差解消運転F5は、洗濯物繊維の表面に蓄えられた熱で未乾燥の繊維内部の水分を蒸発させ、繊維内の温度差を解消したあと乾燥運転を停止することにより、洗濯物の乾燥が均一に行われるようにすると共に、消費エネルギーの低減を図っている。
【0046】
図5に示す第2実施例では、運転開始から制御器に設定された定率判定待機時間Δt1が経過したとき(ステップs23)の品物温度Twを基準温度T0として(ステップs24)、品物温度Twが当該基準温度T0に制御器に設定した減率移行温度差ΔT1(通常5℃~30℃)を加えた温度に達したときに(ステップs25)定率期間F2から減率期間F3に移行したとするものである。
【0047】
すなわち、乾燥工程開始から定率乾燥が安定する迄に要する定率判定待機時間Δt1を設定し、ステップs24で検出した定率乾燥時の品物温度を基準温度T0として記憶する。そして、品物温度Twが基準温度T0に減率移行温度差ΔT1(例えば5℃)を加えた温度を超えたときを定率期間F2の終了時点と判断して、排気循環率を最大にし、それに対応して温調弁4を絞り、減率乾燥による乾燥を継続する。
【0048】
上記の実施例では、乾燥開始から任意の時間経過後(例えば30~300秒)を定率期間とみなし、その時点の品物温度を基準温度としているが、予熱期間から定率期間に移行した時点の品物温度を基準温度とする、あるいは定率期間から減率期間に移行した時点の品物温度を基準温度とする、などの方法も可能である。
【0049】
そして品物温度Twが基準温度T0に制御器に設定した終期判定温度差ΔT2(通常は15℃~30℃)を加えた温度に達したときに(ステップs27)温度差解消開始点P2に達したとして温調弁の閉動作を行う(ステップs28)。
【0050】
第3実施例は、定率期間では排気温度Taがほぼ一定温度で推移することを利用して、運転開始後排気温度が変化しなくなったときの排気温度Taを基準排気温度Ta0とし、当該基準排気温度Ta0に制御器に設定した減率移行温度差ΔTa1を加えた温度に達したときに減率期間F3に移行したとして排気循環率を上げる。
【0051】
その後、品物温度が排気温度を超えたことを検出したとき、ないしは品物温度と排気温度の温度差が設定された減率終期温度差ΔT3に達したときに減率終期F4に移行したと判断し、そのあと設定待機時間Δt3経過後に温度差解消開始点P2に達したとして、排気循環率を更に上げ、温調弁4を(要すればバイパス弁5も)閉じて運転を継続し、運転終了信号を受けて乾燥運転を終了する。
【0052】
図6は、第3実施例における制御フローチャートで、ステップs31からステップs35のYESまでが(制御上の)定率期間であり、この期間の間に定率乾燥から減率乾燥になる時点P1(第3実施例の符号は図7参照)を検出する基準排気温度Ta0を自動設定している。
【0053】
第3実施例では、乾燥運転を開始したのち(ステップs32)、排気温度が安定するまで待機し(ステップs33)、その時点の排気温度Taを基準排気温度Ta0として記憶する(ステップs34)。
【0054】
排気温度Taは、定率期間F2中は一定であるが、減率期間F3に遷移すると上昇するため、排気温度Taが基準排気温度Ta0と減率移行温度差ΔTa1を加えた温度に達したとき(ステップs35)に減率期間F3への移行時点P1に達したとして、排気循環率を上げ(ステップs36)、減率期間F3に移行する。
【0055】
第3実施例では、減率期間F3において品物温度Twと排気温度Taとの関係で減率終期F4を検出し(ステップs37)、その時点を基準として温度差解消運転を開始する時点P2を推定している(ステップs38)。
【0056】
減率終期温度差ΔT3は、洗濯物の種類や個々の乾燥機により異なり、実際には判別マージンとして例えば+-10℃を加えた温度差で判定することも必要である。
【0057】
減率終期F4は、品物温度Twが洗濯物の適正乾燥時の繊維温度になったことで判定することもできる。設定待機時間Δt3は、未乾燥の繊維内部の水分を乾燥させるだけの熱量が繊維表面に蓄積される迄の時間で、温度差解消運転F5の運転時間は、繊維表面と繊維内部の乾燥状態の差を解消するのに必要な時間である。
【0058】
なお、設定待機時間Δt3や前述した温度差ΔT1、ΔTa1、ΔT2などは、投入された洗濯物の量により影響を受ける可能性があるので、そのような場合には、予熱期間の温度上昇を検知して調整することが可能である。この調整は、予熱期間F1の長さや予熱期間における品物温度Twの勾配を検出して自動調整する。すなわち、設定待機時間Δt3を予熱時間が短いほど、また品物温度が早く上昇するほど、待機時間Δt3や温度差ΔT1、ΔTa1、ΔTを小さくする関数として設定する。
【0059】
排気温度Taや品物温度Twは乾燥室12に流入する入口温度によっても変動するから、排気温度や品物温度を指標とする場合は、入口温度にも注意する必要がある。入口温度は、運転直後に最高温度に達するので、その温度から若干低い温度(例えば2~5℃を引いた温度)に保持されるように制御することも有効である。
【0060】
具体的には、運転開始後、一定時間経過までの間に検出された最高温度を基準とし、その基準温度または、基準温度から若干低い温度(例えば0~10℃を引いた温度、より好ましくは2~5℃を引いた温度。)を入口温度の設定値とし、設定値を維持するように温調弁4を制御する。
【0061】
そのようにすれば、運転開始前に入口温度の設定を行わなくても、設備側の蒸気圧力に応じた最適な入口温度設定で運転を行うことができ、乾燥速度の向上に寄与しない過分な入口温度の上昇を抑制することができるため、生産性を低下させることなく蒸気消費量を削減でき、省エネ効果を得ることができる。
【0062】
また、入口温度が安定することで、排気温度や品物温度の安定性を確保することができるため、定率乾燥期間や減率乾燥期間、減率終期への移行をより正確に行うことができる。
【0063】
更に、温度差解消運転F5に移行するタイミングは、排気温度の立上り勾配の変化、定率期間に計測した品物温度や排気温度からの上昇温度差などを基にして温度差解消運転F5への移行点を推定することも可能と考えられる。要は、減率期間に生ずる洗濯物繊維の表面と内部との温度差を解消した後で乾燥工程を終了することにより洗濯物の乾燥に使用する消費エネルギーを低減すれば良い。
【符号の説明】
【0064】
1 ドラム
3 蒸気ヒータ
4 温調弁
11 ダンパ
13 品物温度センサ
A 乾燥用空気
F2 定率期間
F3 減率期間
F4 減率期間の終期
F5 温度差解消運転
Ta0 基準温度
T0 基準温度
Ta 排気温度
Tw 品物温度
ΔT1 減率判定品物温度差
ΔTa1 減率判定排気温度差
Δt1 減率判定待機時間
ΔT2 終期判定温度差
Δt2 終期判定待機時間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7