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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180012
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】摺動材及び流体機械
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/00 20060101AFI20241219BHJP
   F04C 18/02 20060101ALI20241219BHJP
   F04B 53/14 20060101ALI20241219BHJP
   F16C 33/20 20060101ALI20241219BHJP
   F16J 15/18 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
F04B39/00 A
F04C18/02 311T
F04B53/14 B
F16C33/20 A
F16J15/18 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099413
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 颯
(72)【発明者】
【氏名】石井 聡之
(72)【発明者】
【氏名】小林 義雄
(72)【発明者】
【氏名】成澤 伸之
【テーマコード(参考)】
3H003
3H039
3H071
3J011
3J043
【Fターム(参考)】
3H003AA01
3H003AC02
3H003AD03
3H003CB08
3H039AA12
3H039BB04
3H039CC02
3H039CC03
3H039CC05
3H039CC35
3H071AA06
3H071BB01
3H071BB02
3H071CC26
3H071EE08
3J011AA20
3J011DA01
3J011JA01
3J011KA03
3J011KA07
3J011LA04
3J011MA02
3J011PA10
3J011QA03
3J011RA02
3J011RA03
3J011SA05
3J011SC05
3J011SC20
3J011SD01
3J011SE02
3J011SE06
3J043AA15
3J043CB06
3J043CB14
3J043CB20
3J043DA02
(57)【要約】
【課題】摺動時に繊維材の脱落を抑制可能な摺動材を提供する。
【解決手段】摺動材12は、母材である樹脂材12aと、樹脂材12aの内部に配置される繊維材12b1とを含む複合材12cにより構成され、複合材12cの表面に摺動面12dを備え、摺動面12dに垂直な方向に延在する軸L1に対して±45°以内の方向に配向する繊維材12bの数が、複合材12cに含まれる繊維材12bの全体数に対して50%以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材である樹脂材と、前記樹脂材の内部に配置される繊維材とを含む複合材により構成され、前記複合材の表面に摺動面を備え、
前記摺動面に垂直な方向に延在する軸に対して±45°以内の方向に配向する繊維材の数が、前記複合材に含まれる前記繊維材の全体数に対して50%以上である
ことを特徴とする摺動材。
【請求項2】
前記繊維材は、直径よりも長い繊維長を有する中実の棒形状を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の摺動材。
【請求項3】
前記繊維長は、1μm以上1000μm以下である
ことを特徴とする請求項2に記載の摺動材。
【請求項4】
前記繊維材は、炭素繊維を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の摺動材。
【請求項5】
前記樹脂材は、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、又はポリエーテルエーテルケトンのうちの少なくとも1種を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の摺動材。
【請求項6】
前記複合材は、前記樹脂材中に配置された固体潤滑剤を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の摺動材。
【請求項7】
前記固体潤滑剤は、ポリテトラフルオロエチレン、二硫化モリブデン、又はグラファイトのうちの少なくとも1種を含む
ことを特徴とする請求項6に記載の摺動材。
【請求項8】
前記複合材は、前記樹脂材中に配置された金属材を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の摺動材。
【請求項9】
前記金属材は、銅又は銅合金のうちの少なくとも1種を含む
ことを特徴とする請求項8に記載の摺動材。
【請求項10】
前記複合材に対する前記繊維材の含有量は、5質量%以上30質量%以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の摺動材。
【請求項11】
気体に対し、圧縮又は膨張の少なくとも一方を行う室と、
前記室を区画する摺動面を摺動する摺動材を備える摺動部と、を備え、
前記摺動材は、
母材である樹脂材と、前記樹脂材の内部に配置される繊維材とを含む複合材により構成され、前記複合材の表面に摺動面を備え、
前記摺動面に垂直な方向に延在する軸に対して±45°以内の方向に配向する繊維材の数が、前記複合材に含まれる前記繊維材の全体数に対して50%以上である
ことを特徴とする流体機械。
【請求項12】
前記摺動面は、
アルミニウムを含むアルミニウム部材の表面に形成されるとともに、
アルマイト層の表面である
ことを特徴とする請求項11に記載の流体機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動材及び流体機械に関する。
【背景技術】
【0002】
空気等の気体を圧縮する気体圧縮機としては、一般に、レシプロ式の気体圧縮機、スクロール式の気体圧縮機等が用いられる。例えばレシプロ式の気体圧縮機では、金属製のシリンダ内を往復動するピストンに、シリンダの内面と摺動する摺動材として、ピストンリングが取り付けられる。また、例えばスクロール式の気体圧縮機では、金属製の固定スクロール、及び、固定スクロールに対して旋回運動しながら接触して摺動する旋回スクロールの各端部には、上記摺動材として、チップシールが取り付けられる。
【0003】
特許文献1の要約書には「回転シリンダ部材2とピストン保持部材5とを、ケーシング及びケース上蓋にそれぞれ回転自在に支持すると共に、ピストン保持部材5の回転中心位置から偏心した自転中心位置には、その位置を中心として回動可能にピストン3,4が保持され、回転シリンダ部材2とピストン保持部材5との相対回動によりピストン3,4自体が自転中心位置を中心として回動しながらかつ回転中心位置を中心として回転することによってシリンダ室23a~23dに出入りすると共に、ケーシングに、シリンダ室23a~23dに連なる吸込口及び吐出口を備えたロータリ式シリンダ装置であって、ピストン3,4を、カーボンナノファイバを含有した樹脂材料で形成するようにしている。」ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-270506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のピストン3,4では、カーボンナノファイバの配向が制御されていない。このため、ピストン3,4の摺動時、カーボンナノファイバがピストン3,4から脱落し易くなることがある。
本開示が解決しようとする課題は、摺動時に繊維材の脱落を抑制可能な摺動材及び気体圧縮機の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の摺動材は、母材である樹脂材と、前記樹脂材の内部に配置される繊維材とを含む複合材により構成され、前記複合材の表面に摺動面を備え、前記摺動面に垂直な方向に延在する軸に対して±45°以内の方向に配向する繊維材の数が、前記複合材に含まれる前記繊維材の全体数に対して50%以上である。その他の解決手段は発明を実施するための形態において後記する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、摺動時に繊維材の脱落を抑制可能な摺動材及び気体圧縮機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態の流体機械における摺動部を示す断面図である。
図2】理想的な繊維材の配向を示す図である。
図3A】金型内を溶融した複合材が流動する様子を示す図である。
図3B図3Aにおいて細い実線矢印の部分で切断することで得られた複合材の断面図である。
図4】流体機械の一例として、スクロール式の気体圧縮機の構成を示す断面図である。
図5図4に示す気体圧縮機の固定スクロール及び旋回スクロールの一部を拡大した図である。
図6】流体機械に関する別の実施形態として、レシプロ式の気体圧縮機を構成する気体圧縮部を示す図である。
図7】摩擦試験の方法を説明する図である。
図8】摩擦試験で得た摩耗量の結果を示す図である。
図9】摩擦試験で得た摩擦係数の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本開示を実施するための形態(実施形態と称する)を説明する。以下の一の実施形態の説明の中で、適宜、一の実施形態に適用可能な別の実施形態の説明も行う。本開示は以下の一の実施形態に限られず、異なる実施形態同士を組み合わせたり、本開示の効果を著しく損なわない範囲で任意に変形したりできる。また、同じ部材については同じ符号を付すものとし、重複する説明は省略する。更に、同じ機能を有するものは同じ名称を付すものとする。図示の内容は、あくまで模式的なものであり、図示の都合上、本開示の効果を著しく損なわない範囲で実際の構成から変更したり、図面間で一部の部材の図示を省略したり変形したりすることがある。また、同じ実施形態で、必ずしも全ての構成を備える必要はない。
【0010】
図1は、一実施形態の流体機械100における摺動部10を示す断面図である。流体機械100は、例えば気体に対し圧縮を行う気体圧縮機である。気体圧縮機は、例えばスクロール方式でもよく、レシプロ方式式でもよい。気体圧縮機の具体的な構造は図4等を参照しながら後記する。
【0011】
摺動部10は、例えば金属シリンダ等の金属製の部材11と、例えばピストンリング等の摺動材12と、を備える。摺動材12は、例えばピストンの外周に嵌装される。摺動部10では、摺動材12が摺動面11cにおいて部材11と接触して摺動する。摺動面11cは部材11の表面に形成される。摺動材12と部材11との摺動形態は往復動でもよいし、円運動でもよいし、厳密には円運動ではないが円運動に似た略円運動でもよい。
【0012】
摺動材12は、複合材12cにより構成される。複合材12cは、母材である樹脂材12aと、樹脂材12aの内部に配置される繊維材12bとを含む。繊維材12bは、例えば樹脂材12aの内部に分散し、好ましくは一様に分散する。摺動材12は、複合材12cの表面に摺動面12dを備える。摺動面12dは摺動面11cと対向し、摺動面12dは摺動面11cに対して摺動する。
【0013】
樹脂材12aは、任意の樹脂により構成できる。例えば、樹脂材12aとしてはフッ素樹脂が挙げられ、フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTEF)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)のうちの少なくとも1種を使用できる。例えば、PTFEと、それ以外のフッ素樹脂と、の2種以上を併用してもよい。また、樹脂材12aとしてはフッ素樹脂以外の樹脂も挙げられ、例えば、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等のほか、これらの変性体が挙げられる。樹脂材12aは、2種以上の樹脂を併用してもよく、例えば、PTFEと、PTFE以外のフッ素樹脂とを混合して併用してもよい。また、樹脂材12aは、フッ素樹脂でなくてもよく、他の任意の樹脂でもよい。
【0014】
中でも、樹脂材12aは、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、又はポリエーテルエーテルケトンのうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。これらを含むことで、摺動材12の耐久性を特に向上できる。中でも、PTFEは、結晶性が高く、せん断強度が小さい。このため、PTFEは、せん断を受けるとミクロレベルで容易に表層剥離し、シリンダ内面等の相手面(摺動面)に移着するため、摺動性を向上できる。
【0015】
繊維材12bは、繊維状を有する構造体であれば、任意の材料で構成できる。繊維材12bとしては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、セラミクス繊維等が挙げられる。炭素繊維としては、例えば、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維等を使用できる。繊維材12bは、1種のみでもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0016】
中でも、繊維材12bは、炭素繊維を含むことが好ましい。炭素繊維はある程度柔らかいため、摺動面11cへの攻撃性が低く、摺動時の摺動面11cへのダメージが小さい。このため、摺動面11cの耐久性を向上できる。また、摺動により炭素繊維が摩耗すると、摺動面11cに炭素皮膜が形成される。これにより、摺動面11cでの潤滑性を向上できる。従って、炭素繊維を含むことで、摩耗耐久性について優れた効果を得ることができる。また、炭素繊維と樹脂材12aとの高い親和性によって、摺動時に炭素繊維が脱落し難くできる。
【0017】
繊維材12bの種類を確認するためには、摺動材12の表面、摺動材12の破砕物等の試料について、走査型電子顕微鏡、エネルギ分散型X線分析、赤外分光分析、X線回折等の形態観察及び化学分析を行うことにより、容易に確認できる。
【0018】
繊維材12bは、直径よりも長い繊維長を有する中実の棒形状を有することが好ましい。このような形状を有することで、摺動材12の摺動時、樹脂材12aに埋没した繊維材12bが摺動面11cから受ける荷重を支持できる。
【0019】
繊維材12bの直径(繊維径)は、例えば、好ましくは2μm以上30μm以下、より好ましくは5μm以上20μm以下である。詳細は後記するが、本開示では繊維材12bは、摩耗方向に沿って樹脂材12aの内部に配置される。このため、繊維径をこの範囲にすることで、摺動面12dから受ける荷重を、比較的広い面積の面を通じて繊維材12bが受けることができる。これにより、繊維材12bにかかる荷重を支持易くでき、樹脂材12aからの繊維材12bの脱落を抑制できる。この効果は、特に高圧、高温等の過酷環境において顕著である。
【0020】
また、繊維材12bの長さ(繊維長)は、例えば、好ましくは1μm以上1000μm以下、より好ましくは50μm以上1000μm以下、より更に好ましくは100μm以上250μm以下である。繊維長をこの範囲にすることで、摺動により摺動材12が摩耗しても繊維材12bの長さが十分に維持されるため、繊維材12bが樹脂材12aから脱落し難くできる。
【0021】
繊維材12bの直径及び長さは、例えば画像解析に基づいて測定できる。具体的には、繊維材12bの直径及び長さは、例えば断面顕微鏡写真における任意の繊維材12bを複数(例えば5本)選び、選んだ各繊維材12bにおける直径及び長さの各平均値を採用することが好ましい。なお、断面顕微鏡写真は通常は2次元画像であるため、繊維材12bの径と、繊維材12bの長さとを、同一の繊維材12bにおいて測定できない可能性がある。このため、直径及び長さは、同一の繊維材12bについて測定される必要は無く、異なる繊維材12bについて測定されてもよい。
【0022】
本開示の摺動材12では、摺動面12dに垂直な方向に延在する軸L1に対して±45°以内の方向に配向する繊維材12bの数(以下、本開示の数という。)が、複合材12cに含まれる繊維材12bの全体数に対して50%以上である。即ち、繊維材12bの延在方向に延びる軸を軸L2とすると、軸L1と軸L2とのなす角度θが45°以内になる繊維材12bの数(本開示の数)が、複合材12cに含まれる繊維材12bの全体数を基準として50%以上である。以下、複合材12cに含まれる繊維材12bの全体数(全体量。全本数)に対する、軸L1に対して±45°以内の方向に配向する繊維材12bの数(量。本数)の割合を、適宜「繊維材12bの配向性、本開示の配向性」等という。従って、本開示において、繊維材12bの配向性は50%以上である。
【0023】
摺動面12dに垂直な方向は、摺動材12の厚み方向であり、摺動材12の摩耗方向でもある。また、繊維材12bの配向方向は、繊維材12bの長手方向でもある。
【0024】
繊維材12bをこのように配向制御することで、繊維材12bを、複合材12c(摺動材12)の摩耗方向(軸L1の延在方向)に沿って配置できる。これにより、摺動時に繊維材12bの側面への荷重の影響を小さくできる。即ち、摺動時に繊維材12bの端面(例えば円形の上面)で主に荷重を受けることができ、繊維材12bの脱落を抑制できる。この結果、摺動材12の摩耗耐久性を向上できるとともに、摺動時の摩擦(例えば、後記の摩擦係数)を低減できる。
【0025】
摺動材12における、繊維材12bの配向性を確認するためには、摺動材12の厚み方向の断面を走査型電子顕微鏡等の形態観察し、観察した断面における各繊維材12bの方向性を画像解析で算出することで実行できる。このとき、摺動材12における全断面について繊維材12bの配向性を確認してもよいが、簡略化のため、一部のみ(例えば任意の1枚)の断面顕微鏡写真に基づいて繊維材12bの配向性を確認し、その結果を、摺動材12における全断面での繊維材12bの配向性を考えてもよい。
【0026】
また、角度θは以下のようにして決定できる。例えば、走査型電子顕微鏡を用いた断面写真において、繊維材12bの延在方向を示す軸L2を適宜近似等の手法により決定し、軸L1とのなす角度として測定できる。
【0027】
図2は、理想的な繊維材12bの配向を示す図である。理想的には、全ての繊維材12bが軸L1と同方向を向くことが好ましい。即ち、軸L1と軸L2とが平行であり、角度θ(図1)は0°であることが好ましい。このようにすることで、摺動材12の摩耗時に、摺動面11cから受ける荷重を、繊維材12bの端面(摺動面12d側の面)で受けることができ、特に脱落し難くできる。
【0028】
しかし、現実には、このような配向制御は困難な場合が多い(ただし、本開示は、図2のような形態を排除するものではない)。そこで、配向制御の手間、容易性等を考慮し、軸L1に対して好ましくは±30°以内、より好ましくは±15°以内の方向に配向する繊維材12bの数が、複合材12cに含まれる繊維材12bの全体数に対して50%以上である。即ち、角度θが好ましくは30°以内、より好ましくは15°以内となる軸L2を有する繊維材12bの数が、複合材12cに含まれる繊維材12bの全体数に対して50%以上であることが好ましい。
【0029】
図1に戻って、上記の本開示の数が、複合材12cに含まれる繊維材12bの全体数に対して(複合材12cに含まれる繊維材12bの全体数を基準として)、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より更に好ましくは80%以上である。このようにすることで、できるだけ多くの繊維材12bを軸L1に沿って配置でき、繊維材12bをより脱落し難くできる。
【0030】
繊維材12bの配向性を制御する理由を説明する。本発明者らは、多数の摩擦試験を行い、複合樹脂である摺動材12の摩耗と、繊維材12bの配向性とに、相関があることを見出した。具体的には、上記の本開示の数が、複合材12cに含まれる繊維材12bの全体数に対して50%未満の場合、摺動材12のせん断強度が著しく低下することを特定した。更に、この場合に、繊維材12bが摺動材12から脱落し、繊維材12bによるせん断応力を支持する効果が失われることを確認した。この結果、脱落した繊維材12bのアブレシブ作用によって、摩耗が増加することを明らかにした。また、アブレシブ作用は、摺動材12の表面の平滑性を損なうため、摩擦を増加させる傾向があることも確認した。
【0031】
一方で、上記の本開示の数が、複合材12cに含まれる繊維材12bの全体数に対して50%以上の場合、摺動材12のせん断強度の低下が抑制されるため、複合材12c自身が有する耐久性が維持される。また、せん断応力に対して、繊維材12bが摺動材12に埋まる(理想的には、例えば図2示すような、摺動面12dに対して垂直な方向)ような配向となる。このため、摺動面12dにおいて、繊維材12bと摺動材12との接触面積が増加する。これにより、繊維材12bの脱落が抑制される。この結果、繊維材12bによるせん断応力を支持する効果を維持し、且つアブレシブ作用も低減するため、摩耗及び摩擦擦が低減することを明らかにした。
【0032】
以上より、摺動材12の中の繊維材12bの配向性を適切に制御することで、複合材12cが有するせん断強度を維持し、しかも、脱落した繊維材12bによるアブレシブ作用を低減できる。これにより、摺動材12の摩耗耐久性向上及び摩擦低減に寄与できる。
【0033】
例えば上記特許文献1に記載の「ピストン3,4」は、各種樹脂を母材とし、カーボンナノチューブ(以下CNTという)を含有し得る。CNTは、例えば炭素繊維等の繊維材と比較して、直径が小さい。そのため、高圧、高温等の過酷環境では、せん断応力を効果的に支持できない。また、CNTは、直径が小さく、長さも短いため、母材との接触面積が小さい。そのため、特に過酷環境においては、母材から脱落し易く、アブレシブ作用によって摩耗し易い。
【0034】
以上のように、摺動材12の中の繊維材12bの配向性の制御により、過酷環境にて摺動材の摩耗耐久性向上と摩擦低減を両立できる。
【0035】
繊維材12bの配向制御は、例えば以下のようにして実行できるが、配向制御の方法は以下の例に限定されない。
【0036】
図3Aは、金型70内を溶融した複合材12cが流動する様子を示す図である。図3Bは、図3Aにおいて細い実線矢印の部分で切断することで得られた複合材12cの断面図である。図3Aにおいて、白抜き矢印は溶融した複合材12cの流動方向を示す。
【0037】
樹脂材12a及び繊維材12bを含む複合材12cを例えば金型70内で射出成型する場合、白抜き矢印で示すように、複合材12cは、金型70内を、複合材12cの射出口(注入口)から遠ざかる方向に、一方向から他方向に向かって流れる。流動により、複合材12c中の繊維材12bは、複合材12cの流れる方向に沿って概ね配置される(即ち繊維材12bの長手方向が流れる方向に向く)。このため、固化した複合材12cにおいて、繊維材12bの配向方向は概ね同方向である。そこで、このようにして成形された複合材12cについて、断面顕微鏡写真によって繊維材12bの配向が確認される。そして、繊維材12bの配向が所望の方向になるように、例えば複合材12cを細い実線矢印の部分で切断することで、摺動材12における繊維材12bの配向を制御できる。
【0038】
図1に戻って、複合材12cに対する繊維材12bの含有量(複合材12cにおける繊維材12bの含有量)は、好ましくは5質量%以上50質量%以下、より好ましくは5質量%以上30質量%以下である。繊維材12bの含有量をこの範囲にすることで、複合材12cbの内部での繊維材12bの凝集を抑制でき、繊維材12bに対して分散して荷重を与え易くできる。また、上記射出成型時に溶融した複合材12cの剛性が過度に高くなることを抑制でき、容易に射出成型できるため、繊維材12bの配向制御を容易に実行できる。繊維材12bの含有量は、例えば、熱質量-示唆熱同時測定装置を用いた熱分析、質量変化評価等に基づいて測定できる。
【0039】
複合材12cは、樹脂材12a及び繊維材12b以外にも、任意の添加剤を含んでもよい。例えば、複合材12cは、樹脂材12a中に配置された固体潤滑剤(不図示)を含むことができる。固体潤滑剤は、好ましくは粒子形状で、樹脂材12a中に配置、好ましくは分散する。
【0040】
固体潤滑剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、二硫化モリブデン、グラファイト、窒化ホウ素等の少なくとも1種が挙げられる。固体潤滑剤を含むことで、摺動性を向上できる。なお、固体潤滑剤としてのPTFEは、樹脂材12aがPTFE以外の樹脂材である場合に含まれることが好ましい。また、樹脂材12aがPTFEの場合においても、樹脂材12aを構成するPTFEと、固体潤滑剤を構成するPTFEとは、例えば数平均分子量、重合度等の異なる物性を有することが好ましい。
【0041】
中でも、固体潤滑剤は、ポリテトラフルオロエチレン、二硫化モリブデン、又はグラファイトのうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。これらを含むことで、摺動材12の潤滑性を特に向上できる。
【0042】
固体潤滑剤は、例えば、レーザ回折式粒度分布測定装置に基づく平均粒径が10μm以上500μ以下の粒子形状を有することができる。
【0043】
複合材12cは、樹脂材12a中に配置された金属材(不図示。例えばフィラー)を含むことができる。金属材は、好ましくは粒子形状で、樹脂材12a中に配置、好ましくは分散する。金属材としては、例えば、銅、銅合金、アルミ二ウム、アルミニウム合金等の少なくとも1種が挙げられる。中でも、金属材は、銅又は銅合金のうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。これらを含むことで、摺動材12の耐摩耗性を特に向上できる。
【0044】
金属材は、例えば、レーザ回折式粒度分布測定装置に基づく平均粒径が10μm以上500μ以下の粒子形状を有することができる。
【0045】
複合材12cは、セラミクス、カーボン等のうちの少なくとも1種を含むことができる。これらを含むことで、金属材と同様の効果を得ることができる。これらの材料は、例えば、レーザ回折式粒度分布測定装置に基づく平均粒径が10μm以上500μ以下の粒子形状を有することができる。
【0046】
摺動面(摺動界面)11c,12dには、例えば潤滑油、グリース等の潤滑剤が存在してもよい。ただし、流体機械100は、十分な潤滑油等を存在させず、オイルレスの状態で使用したとき、又は、潤滑油等を全く存在させず、オイルフリーの状態で使用したときに、特に効果を示す流体機械であることが好ましい。
【0047】
部材11は、基材としての金属材11aの表面に表面処理層11bを備えることが好ましい。即ち、表面処理層11bの更に表面である摺動面11cと摺動面12dとが接触し、摺動材12が摺動する。ただし、部材11は必ずしも表面処理層11bを備える必要はなく、表面処理層11bを備えずに、金属材11aが露出してもよい。従って、部材11の表面である摺動面11cは、金属材11aを構成する金属で形成されてもよく、表面処理層11bにより形成されてもよい。
【0048】
金属材11aとしては、例えば、アルミニウム、マグネシウム、ケイ素等の軽金属、鉄、クロム、ニッケル、モリブデン、チタン、銅等の遷移金属のうちの少なくとも1種が挙げられる。金属材11aとしては、具体的には例えば、
アルミニウム、アルミニウム合金等のアルミニウム系材料、
鉄、鉄-ニッケル合金等の鉄系材料、
チタン、チタン合金等のチタン系材料、
銅、銅合金等の銅系材料、
のうちの少なくとも1種を使用できる。中でも、アルミニウム系材料を用いた場合に、摩耗耐久性について優れた効果が得られる。アルミニウム系材料には、例えば少量のマグネシウム、ケイ素等が含まれてもよい。また、鉄系材料には、例えばクロム、ニッケル、モリブデン等が含まれてもよい。
【0049】
表面処理層11bは、例えば、金属材11aに自然に生成した自然酸化膜、人工的に施した表面コーティング等である。即ち、表面処理層11bは、自然環境にとって自然に処理されることで生成した層でもよく、任意の表面処理(例えば硫酸アルマイト処理)によって人工的に処理された層でもよい。自然酸化膜の場合、例えば金属材11aがアルミニウムの場合には、表面処理層11bは酸化アルミニウムにより構成され、鉄の場合には酸化鉄により構成され、銅の場合には酸化銅により構成される。
【0050】
表面処理層11bが表面コーティング層である場合、一例として、表面コーティング層は、例えばメッキ処理、物理蒸着(PVD)法、化学蒸着(CVD)法、浸炭処理等により形成できる。また、表面コーティング層は、例えばアルミニウム、リン、クロム、鉄、ニッケル、亜鉛のうち少なくとも1つを含む材料で構成される。このような元素を含む表面コーティングの一例として、アルマイト処理、アルミニウムめっき、ニッケルめっき、クロムめっき、鉄めっき、亜鉛めっき等が挙げられる。
【0051】
図4は、流体機械100の一例として、スクロール式の気体圧縮機20の構成を示す断面図である。気体圧縮機20は、気体圧縮機20の外殻をなすケーシング23と、ケーシング23に回転可能に設けられた駆動軸24と、ケーシング23に取り付けられた固定スクロール21と、駆動軸24のクランク軸24Aに旋回可能に設けられた旋回スクロール22と、を備える。
【0052】
固定スクロール21は、固定鏡板21aと、固定鏡板21aの一主面側に渦巻状に形成された固定スクロールラップ21bと、を備える。旋回スクロール22は、旋回鏡板22aと、旋回鏡板22aの一主面側に渦巻状に形成された旋回スクロールラップ22bと、を備える。旋回スクロール22には、旋回鏡板22aの背面側中央にボス部22fが突設される。
【0053】
旋回スクロール22は、旋回スクロールラップ22bが、固定スクロールラップ21bと互いに噛み合うように、互いに対向して配置される。これにより、固定スクロールラップ21bと旋回スクロールラップ22bとの間に、気体を圧縮又は膨張する作動空間としての圧縮膨張室25が形成される。
【0054】
圧縮膨張室25は、気体圧縮機20(流体機械100の一例)に備えられ、圧縮又は膨張の少なくとも一方を行う室の一例である。ただし、圧縮膨張室25は、圧縮及び膨張の双方を行う室でもよい。また、摺動部30は、気体圧縮機20に備えられ、圧縮膨張室25を区画する摺動面12dを摺動する摺動材12を備える。摺動材12は、後記のチップシール291,292である。摺動面12dは、後記のラップ底面21e,22e(図5)である。
【0055】
固定鏡板21aの外周側には、吸入口26が穿設される。吸入口26は、最外周側の圧縮膨張室25に連通する。また、固定鏡板21aの中心部には、吐出口27が穿設される。吐出口27は、最内周側の圧縮膨張室25に開口する。
【0056】
駆動軸24は、玉軸受28を介してケーシング23に回転可能に支持される。駆動軸24の一端は、ケーシング23外で電動モータ(不図示)等に連結され、駆動軸24の他端側は、ケーシング23内に伸張してクランク軸24Aとなる。クランク軸24Aの軸線は、駆動軸24の軸線に対して、所定寸法だけ偏心する。
【0057】
旋回スクロール22側の内周には、円環状のスラスト受部31が設けられる。スラスト受部31と旋回鏡板22aとの間には、スラストプレート32が設けられる。スラストプレート32は、例えば鉄等の金属材料により円環状の板体として形成される。旋回スクロール22が旋回運動したときに、旋回鏡板22aに対して旋回スクロール22の表面が摺動する。このとき、スラストプレート32は、主に圧縮運転時に旋回スクロール22に作用するスラスト方向(旋回スクロール22を固定スクロール21から離間させる方向)の荷重を、スラスト受部31と共に受けとめる。これにより、ケーシング23と旋回鏡板22aとのかじり、異常摩耗等が抑制される。
【0058】
スラスト受部31と旋回鏡板22aとの間には、スラストプレート32より中心寄りの位置に、オルダムリング33が設けられる。オルダムリング33は、駆動軸24によって旋回スクロール22が回転駆動されたときに、旋回スクロール22の自転を抑制し、クランク軸24Aによる所定寸法の旋回半径を持った円運動を与える。
【0059】
不図示の電動モータ等により駆動軸24を回転駆動させると、旋回スクロール22が所定寸法の旋回半径で旋回運動する。これにより、吸入口26から吸い込まれた外部の空気が、固定スクロールラップ21bと旋回スクロールラップ22bとの間に画成された圧縮膨張室25で順次圧縮される。生成した圧縮空気は、固定スクロール21の吐出口27から、外部の空気タンク(不図示)等に吐出される。
【0060】
図5は、図4に示す気体圧縮機20の固定スクロール21及び旋回スクロール22の一部を拡大した図である。固定スクロールラップ21bの、旋回鏡板22aとの対向側の端面21cには溝21dが形成され、溝21dにはチップシール291(摺動材)が嵌め込まれる。旋回スクロールラップ22bの、固定鏡板21aとの対向側の端面22cにも、溝22dが形成され、溝22dにもチップシール292(摺動材)が嵌め込まれる。
【0061】
旋回スクロール22の旋回運動に伴い、チップシール291が旋回鏡板22aのラップ底面21e(摺動面)と摺動し、チップシール292が固定鏡板21aのラップ底面22e(摺動面)と摺動する。これにより、固定スクロールラップ21bとラップ底面21eとの接触、及び、旋回スクロールラップ22bとラップ底面22eとの接触を抑制でき、スムーズな摺動状態を得ることができる。
【0062】
図5において、固定スクロール21及び旋回スクロール22は、図1における部材11に該当する。固定スクロール21及び旋回スクロール22(特にラップ底面21e,22e)は、例えばアルミニウム、アルミニウム合金等のアルミニウム系材料により構成される。ラップ底面21e,22eは、固定スクロールラップ21b及び旋回スクロールラップ22bとともに、圧縮膨張室25を区画する。固定スクロール21及び旋回スクロール22のそれぞれの表面には、表面処理層11b(図1)の一例として、アルマイト層(不図示)が形成される。従って、気体圧縮機20において、摺動面11cは、アルミニウムを含むアルミニウム部材の表面に形成されるとともに、アルマイト層の表面である。
【0063】
スラストプレート32と旋回鏡板22aとの摺動部30において、これらの摺動面を形成するスラストプレート32表面又は旋回鏡板22aの表面に、上記した、複合樹脂材をコーティングしてもよい。また、上記した説明では、スラストプレート32を、鉄等の金属材料により形成した例を示したが、スラストプレート32自体を、摺動材12(複合樹脂材)により形成してもよい。
【0064】
なお、上記の説明では、気体圧縮機20は、スラストプレート32と、スラストプレート32より中心寄りの位置に設けられたオルダムリング33により、旋回スクロール22の自転を抑制する機構(自転抑制機構)を備える。ただし、気体圧縮機20は、上記の説明に限定されず、例えば補助クランク、オルダム継手(不図示)等の自転防止機構を備えるスクロール式の気体圧縮機でもよい。
【0065】
図6は、流体機械100に関する別の実施形態として、レシプロ式の気体圧縮機400を構成する気体圧縮部40を示す図である。気体圧縮機400には、2種の方式が存在する。1種目の方式は、コンロッドの圧縮膨張室側端部に軸受があり、その軸受により首振り可能に支持されたピストンを有する通常ピストン方式である。通常ピストン方式の気体圧縮機は、軸受により首振り可能に支持されたピストンが往復動することにより気体を圧縮する。2種目の方式は、コンロッドの圧縮膨張室側に軸受がなく、コンロッドと一体になったピストンを有する揺動ピストン方式である。図6は、一例として、2種目の方式である揺動ピストン方式の気体圧縮部40を示す。
【0066】
気体圧縮部40は、シリンダ41と、シリンダ41内部を揺動しながら往復動するピストン42と、を備える。シリンダ41(部材11の一例)は、例えばアルミニウム、アルミニウム合金等のアルミニウム系材料により構成される。シリンダ41の内表面48には、表面処理層11b(図1)の一例として、アルマイト層(不図示)が形成される。ただし、アルマイト層等の表面処理層11bは形成されなくてもよい。アルマイト層は、自然参加により形成されてもよく、アルマイト処理により形成されてもよい。内表面48は摺動面11cの一例であり、内表面48は、アルミニウムを含むアルミニウム部材の表面に形成されるとともに、アルマイト層の表面である。また、内表面48は、仕切り板45、ピストン42とともに、圧縮膨張室44を区画する。
【0067】
ピストン42には、ピストンリング43(摺動材12の一例)が環装される。シリンダ41内の、ピストン42の上部の空間には、気体を圧縮又は膨張させる作動空間の圧縮膨張室44が形成される。圧縮膨張室44は、気体圧縮機400(流体機械100の一例)に備えられ、圧縮又は膨張の少なくとも一方を行う室の一例である。ただし、圧縮膨張室44は、圧縮及び膨張の双方を行う室でもよい。
【0068】
シリンダ41の上端は、仕切り板45により閉鎖され、仕切り板45には、吸入口45aと吐出口45bとが設けられる。吸入口45a及び吐出口45bには、吸入弁45c及び吐出弁45dが設けられる。吸入口45a及び吐出口45bには、それぞれ配管(不図示)に接続される。
【0069】
気体圧縮の作動原理が以下で説明される。ピストン42はコンロッド46と一体で構成される。クランクシャフト47の回転に伴い、ピストン42が上下動する。これにより、吸入口45aから圧縮膨張室44内に気体が吸入され、圧縮膨張室44内で気体が圧縮される。圧縮された気体(圧縮気体)は、吐出口45bを通って外部に排出され、配管(不図示)により回収される。
【0070】
気体圧縮機400における摺動部50が以下で説明される。摺動部50は、気体圧縮機400(流体機械100の一例)に備えられ、圧縮膨張室44を区画する内表面48を摺動するピストンリング43(摺動材12の一例)を備える。ピストンリング43は、上記のようにピストン42の外周に嵌装される。ピストン42は、ピストン42を支持するコンロッド46とは別部品である。コンロッド46は、金属製でもよいし、樹脂製でもよい。ピストン42の上下の往復動に伴い、ピストン42及びピストンリング43がシリンダ41の内周面を摺動する。
【0071】
上記の説明では、レシプロ式の気体圧縮機400は揺動ピストン方式であるが、これに限定されず、例えば上記通常ピストン方式でもよい。通常ピストン方式では、例えば、摺動材であるピストンリング、ライダーリング等(何れも不図示)に摺動材12を適用できる。
【0072】
気体圧縮機20,400により供給される気体は、空気に限定されず、大気でもよく、水蒸気が極端に少ない乾燥ガスでもよい。乾燥ガスの例としては、露点が-30℃以下のガスが挙げられる。例えば、合成空気、高純度窒素ガス、酸素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、水素ガス等が挙げられる。
【0073】
摺動材12は、圧縮する気体の種類に拠らずに、十分な摩耗耐久性及び低摩擦効果を発現できる。このため、摺動材12を適用した気体圧縮機を、例えば乾燥ガスの圧縮に供することもできる。
【実施例0074】
以下、実施例を挙げて、本開示が更に具体的に説明される。
【0075】
摩擦試験法を用いた実験により、摺動材12の摩耗耐久性向上及び摩擦低減の効果を確認した。
【0076】
<使用材料>
実施例1~3、比較例1及び2の検討において、樹脂材12a(図1)としてポリフェニレンサルファイド(PPS)、繊維材12b(図1)として炭素繊維を用いた。複合材12c(図1)に対する繊維材12bの含有量は10質量%とした。炭素繊維の長さ及び直径は、上記測定方法に基づく平均長さ及び平均直径として、長さ130μm、直径12μmであった。
【0077】
実施例1~3では、繊維材12bの配向性(本開示の配向性)が50%以上とした。具体的には、実施例1では75%、実施例2では60%、実施例3では50%であった。一方で、比較例1及び2では、繊維材12bの配向性(本開示の配向性)が50%未満とした。具体的には、比較例1では35%、比較例2では20%であった。使用した材料、及び、繊維材12bの配向性を以下の表1に纏めた。
【0078】
【表1】
【0079】
<摩擦試験の方法>
図7は、摩擦試験の方法を説明する図である。実施例1~3、比較例1及び2の各複合材12cを、ブロック状の試験片61に成型した。試験片61は、上記摺動材12(図1)を模したものである。試験片61は、幅6mm、長さ20mm、高さ5mmの直方体において、上面のうちの長手方向の対向する2辺においてC面取りを行うことで作製した。C面取りは、0.5mmずつとした。
【0080】
摩擦試験で使用した試験片62を以下の方法で作製した。試験片62は、例えば上記部材11(図1)を模したものである。アルミニウム合金を、外径13mm及び内径9mmのリング状(円環状、円筒状)に成型することで、試験片62を作製した。試験片62の表面(特に下面)には、硫酸アルマイト処理によりアルマイト層を形成した。
【0081】
摩擦試験は、試験片61の上面に、リング状の試験片62の下面を接触及び回転(即ち摺動)させることで行った。試験条件として、接触圧は0.9MPa、回転速度は1.9m/s、温度は90℃に制御し、15時間回転させた。
【0082】
図8は、摩擦試験で得た摩耗量の結果を示す図である。摩耗量は、摩耗試験前後での試験片61の質量差とした。図8及び後記図9の何れにおいても、比較例2を1としたときの相対値で表した。実施例1~3では、何れも比較例2と比べて、摩耗量が0.3(30%)程度に迄低減された。一方で、比較例1では、比較例2と比べて摩耗量が0.9(90%)程度であり、比較例1と比較例2とでは摩耗量に大きな差が無いことがわかった。
【0083】
図9は、摩擦試験で得た摩擦係数の結果を示す図である。摩擦係数は、摩擦試験前後での質量減少量(摩耗量)を試験片61の密度で除することで求めた。摩擦係数が小さいほど摩耗し難く、耐摩耗性等の耐久性が高いといえる。実施例1~3では、何れも比較例2と比べて、摩擦係数が0.6(60%)程度に迄小さくなった。一方で、比較例1は、比較例2とほぼ同じであり、摩擦係数に大きな差が無いことがわかった。
【0084】
これらの結果から、繊維材12bの配向性(本開示の配向性)を50%以上に制御することで、摩耗量を低減し、及び摩擦係数を小さくできることが分かった。特に図9に示すように、50%を境界に、実施例1~3と、比較例1~2とで全く異なる結果が得られており、繊維材12bの配向性を50%以上にすることの優位性が図9から確認できる。このような結果は、繊維材12bの大部分が摺動材12の摩耗方向に沿って配向しているため、摺動時に繊維材12bが樹脂材12aから抜け難くなった結果と考えられる。そして、抜け難いため、繊維材12bは長期に亘って摺動面12dからの荷重を支持でき、アブレシブ作用を抑制できたと考えられる。従って、繊維材12bの配向性を50%以上にすることにより、摺動材12の摩耗耐久性の向上及び摩擦係数の低減を両立できることを確認できた。
【0085】
従って、摺動材12を、例えばスクロール式気体圧縮機のチップシール、レシプロ式気体圧縮機のピストン等に適用することで、チップシール、ピストン等の摩耗耐久性を向上できるため、これらの交換寿命を長期化できる。また、摩擦による損失を低減できる。このため、例えばスクロール式気体圧縮機、レシプロ式気体圧縮機等の流体機械のメンテナンスサイクル及び寿命の延長と、効率の向上とを図ることができる。
【0086】
一方で、比較例1は、比較例2とほぼ同じであり、摩耗量及び摩擦係数に大きな差が無いことがわかった。この結果は、複合材12cのせん断強度が低下し、且つ摺動面12dにおける樹脂材12aとの接触面積が減るために繊維材12bの脱落が増加したためと考えられる。この結果、アブレシブ作用により、摩耗量が増加し、摩擦係数が高くなったと考えられる。
【符号の説明】
【0087】
10 摺動部
100 流体機械
11 部材
11a 金属材
11b 表面処理層
11c 摺動面
12 摺動材
12a 樹脂材
12b 繊維材
12c 複合材
12c 複合材
12d 摺動面
20 気体圧縮機
21 固定スクロール
21a 固定鏡板
21b 固定スクロールラップ
21c 端面
21d 溝
21e ラップ底面(摺動面)
22 旋回スクロール
22a 旋回鏡板
22b 旋回スクロールラップ
22c 端面
22e ラップ底面(摺動面)
25 圧縮膨張室(室)
291 チップシール(摺動材)
292 チップシール(摺動材)
30 摺動部
40 気体圧縮部
400 気体圧縮機
41 シリンダ
42 ピストン
43 ピストンリング(摺動材)
44 圧縮膨張室(室)
45 仕切り板
48 内表面(摺動面)
50 摺動部
61,62 試験片
L1,L2 軸
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9