(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180029
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】ポリプロピレン系樹脂発泡粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/16 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
C08J9/16 CES
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099444
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂村 拓映
(72)【発明者】
【氏名】太田 肇
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA24A
4F074AB03
4F074AB05
4F074AC02
4F074AG06
4F074BA32
4F074CA30
4F074CA34
4F074CA39
4F074CA49
4F074DA02
4F074DA03
4F074DA08
4F074DA33
(57)【要約】
【課題】筋状模様が少なく、良好な外観を有する発泡粒子成形体を形成可能なポリプロピレン系樹脂発泡粒子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリプロピレン系樹脂発泡粒子1は、内部を軸方向に貫通する貫通孔11を備えた筒形状を有している。発泡粒子1における貫通孔11の平均孔径dが1mm未満であり、発泡粒子1の平均外径Dに対する貫通孔11の平均孔径dの比d/Dが0.4以下である。発泡粒子1は、ポリプロピレン系樹脂から構成される発泡芯層2と、ポリオレフィン系樹脂から構成され、発泡芯層2の側周面を被覆する被覆層3とを有している。発泡芯層2及び被覆層3が着色顔料を含む。被覆層3を構成するポリオレフィン系樹脂の、JIS K7210-1:2014に基づき温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定されるメルトマスフローレイトMFR
Sが15g/10分よりも高い。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を軸方向に貫通する貫通孔を有する筒形状のポリプロピレン系樹脂発泡粒子であって、
前記発泡粒子における前記貫通孔の平均孔径dが1mm未満であり、
前記発泡粒子の平均外径Dに対する前記貫通孔の平均孔径dの比d/Dが0.4以下であり、
前記発泡粒子は、ポリプロピレン系樹脂から構成される発泡芯層と、
ポリオレフィン系樹脂から構成され、前記発泡芯層の側周面を被覆する被覆層と、を有し、
前記発泡芯層及び前記被覆層が着色顔料を含み、
前記被覆層を構成する前記ポリオレフィン系樹脂の、JIS K7210-1:2014に基づき温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定されるメルトマスフローレイトMFRSが15g/10分よりも高い、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項2】
前記発泡粒子をその断面積が最大となる位置において軸方向に垂直な面で切断した切断面における、前記発泡粒子の外周縁の平均円形度Cbが0.95以上である、請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項3】
前記発泡芯層中の前記着色顔料の含有量が0.1質量%以上5質量%以下であり、前記被覆層中の前記着色顔料の含有量が0.1質量%以上5質量%以下である、請求項1または2に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項4】
前記発泡芯層に含まれる着色顔料がカーボンブラックであり、前記被覆層に含まれる着色顔料がカーボンブラックである、請求項1または2に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項5】
前記発泡芯層を構成する前記ポリプロピレン系樹脂の、JIS K7210-1:2014に基づき温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定されるメルトマスフローレイトMFRCが5g/分以上12g/分以下である、請求項1または2に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項6】
前記発泡芯層を構成する前記ポリプロピレン系樹脂の、JIS K7210-1:2014に基づき温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定されるメルトマスフローレイトMFRCに対する前記被覆層を構成する前記ポリオレフィン系樹脂のメルトマスフローレイトMFRSの比MFRS/MFRCが2以上5以下である、請求項1または2に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項7】
前記発泡粒子の平均肉厚tが1.2mm以上2mm以下である、請求項1または2に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項8】
前記発泡粒子の見掛け密度が10kg/m3以上100kg/m3以下である、請求項1または2に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項9】
前記発泡粒子をその断面積が最大となる位置において軸方向に垂直な面で切断した切断面における、前記貫通孔の平均円形度Cpが0.90以上である、請求項1または2に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項10】
前記発泡粒子をその断面積が最大となる位置において軸方向に垂直な面で切断した切断面における、前記発泡粒子の前記貫通孔の平均円形度Cpに対する前記発泡粒子の外周縁の平均円形度Cbの比Cb/Cpが0.96以上1.05以下である、請求項1または2に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項11】
内部を軸方向に貫通する貫通孔を有する筒形状のポリプロピレン系樹脂発泡粒子を製造するポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法であって、
ポリプロピレン系樹脂から構成されており、内部を軸方向に貫通する貫通孔を有する筒形状の芯層と、ポリオレフィン系樹脂から構成されており前記芯層の側周面を被覆する被覆層とを備えた多層樹脂粒子を作製する造粒工程と、
前記造粒工程の後、前記多層樹脂粒子を発泡させて前記発泡粒子を得る発泡工程と、を有し、
前記多層樹脂粒子における前記貫通孔の平均孔径drが0.25mm未満であり、
前記多層樹脂粒子の平均外径Drに対する前記貫通孔の平均孔径drの比dr/Drが0.4以下であり、
前記芯層及び前記被覆層が着色顔料を含み、
前記被覆層を構成する前記ポリオレフィン系樹脂の、JIS K7210-1:2014に基づき温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定されるメルトマスフローレイトMFRSが15g/10分よりも高い、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体は、軽量で、緩衝性、剛性等に優れるため種々の用途に用いられている。ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体は、例えば、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を成形型内に充填した後、成形型内にスチームを供給して加熱する、型内成形法と呼ばれる方法により製造される。型内成形法においては、成形型内にスチームを供給すると発泡粒子が二次発泡すると共にその表面が溶融する。これにより、成形型内の発泡粒子が相互に融着し、成形型のキャビティの形状に対応する形状を備えた成形体を得ることができる。成形直後の成形体は、二次発泡により膨らみやすいため、成形型内で水や空気等で冷却された後に成形型から離型される。
【0003】
近年、発泡粒子成形体の用途が拡大しており、着色顔料を含有し、着色された外観を有する発泡粒子成形体が求められることがある。このような発泡粒子成形体を形成可能なポリプロピレン系樹脂発泡粒子として、例えば特許文献1には、着色剤としてのカーボンブラックを含み、貫通孔を有する筒形状のポリプロピレン系樹脂粒子を2段階で発泡させることにより得られるポリプロピレン系樹脂発泡粒子が記載されている。特許文献1の方法により得られるポリプロピレン系樹脂発泡粒子を用いて成形された発泡粒子成形体は、黒色度が高く、色むらも抑制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の方法により得られるポリプロピレン系樹脂発泡粒子を用いて成形された発泡粒子成形体をより注意深く観察すると、成形体の表面に筋状の模様が形成されることがあった。このような筋状模様は成形体の機械的な物性には及ぼさないものの、成形体の外観をより改善する観点から、成形体の用途によっては筋状模様の発生を抑制することが望まれていた。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、筋状模様が少なく、良好な外観を有する発泡粒子成形体を形成可能なポリプロピレン系樹脂発泡粒子及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、以下の〔1〕~〔10〕に係るポリプロピレン系樹脂発泡粒子にある。
【0008】
〔1〕内部を軸方向に貫通する貫通孔を有する筒形状のポリプロピレン系樹脂発泡粒子であって、
前記発泡粒子における前記貫通孔の平均孔径dが1mm未満であり、
前記発泡粒子の平均外径Dに対する前記貫通孔の平均孔径dの比d/Dが0.4以下であり、
前記発泡粒子は、ポリプロピレン系樹脂から構成される発泡芯層と、
ポリオレフィン系樹脂から構成され、前記発泡芯層の側周面を被覆する被覆層と、を有し、
前記発泡芯層及び前記被覆層が着色顔料を含み、
前記被覆層を構成する前記ポリオレフィン系樹脂の、JIS K7210-1:2014に基づき温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定されるメルトマスフローレイトMFRSが15g/10分よりも高い、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【0009】
〔2〕前記発泡粒子をその断面積が最大となる位置において軸方向に垂直な面で切断した切断面における、前記発泡粒子の外周縁の平均円形度Cbが0.95以上である、〔1〕に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
〔3〕前記発泡芯層中の前記着色顔料の含有量が0.1質量%以上5質量%以下であり、前記被覆層中の前記着色顔料の含有量が0.1質量%以上5質量%以下である、〔1〕または〔2〕に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
〔4〕前記発泡芯層に含まれる着色顔料がカーボンブラックであり、前記被覆層に含まれる着色顔料がカーボンブラックである、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【0010】
〔5〕前記発泡芯層を構成する前記ポリプロピレン系樹脂の、JIS K7210-1:2014に基づき温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定されるメルトマスフローレイトMFRCが5g/分以上12g/分以下である、〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
〔6〕前記発泡芯層を構成する前記ポリプロピレン系樹脂の、JIS K7210-1:2014に基づき温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定されるメルトマスフローレイトMFRCに対する前記被覆層を構成する前記ポリオレフィン系樹脂のメルトマスフローレイトMFRSの比MFRS/MFRCが2以上5以下である、〔1〕~〔5〕のいずれか1つに記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【0011】
〔7〕前記発泡粒子の平均肉厚tが1.2mm以上2mm以下である、〔1〕~〔6〕のいずれか1つに記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
〔8〕前記発泡粒子の見掛け密度が10kg/m3以上100kg/m3以下である、〔1〕~〔7〕のいずれか1つに記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
〔9〕前記発泡粒子をその断面積が最大となる位置において軸方向に垂直な面で切断した切断面における、前記貫通孔の平均円形度Cpが0.90以上である、〔1〕~〔8〕のいずれか1つに記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【0012】
〔10〕前記発泡粒子をその断面積が最大となる位置において軸方向に垂直な面で切断した切断面における、前記発泡粒子の前記貫通孔の平均円形度Cpに対する前記発泡粒子の外周縁の平均円形度Cbの比Cb/Cpが0.96以上1.05以下である、〔1〕~〔9〕のいずれか1つに記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【0013】
本発明の他の態様は、以下の〔11〕に係るポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法にある。
【0014】
〔10〕内部を軸方向に貫通する貫通孔を有する筒形状のポリプロピレン系樹脂発泡粒子を製造するポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法であって、
ポリプロピレン系樹脂から構成されており、内部を軸方向に貫通する貫通孔を有する筒形状の芯層と、ポリオレフィン系樹脂から構成されており前記芯層の側周面を被覆する被覆層とを備えた多層樹脂粒子を作製する造粒工程と、
前記造粒工程の後、前記多層樹脂粒子を発泡させて前記発泡粒子を得る発泡工程と、を有し、
前記多層樹脂粒子における前記貫通孔の平均孔径drが0.25mm未満であり、
前記多層樹脂粒子の平均外径Drに対する前記貫通孔の平均孔径drの比dr/Drが0.4以下であり、
前記芯層及び前記被覆層が着色顔料を含み、
前記被覆層を構成する前記ポリオレフィン系樹脂の、JIS K7210-1:2014に基づき温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定されるメルトマスフローレイトMFRSが15g/10分よりも高い、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
前記の態様によれば、筋状模様が少なく、良好な外観を有する発泡粒子成形体を形成可能なポリプロピレン系樹脂発泡粒子及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】
図2は、発泡粒子の中心軸を通る断面における、
図1の発泡粒子の断面図である。
【
図4】
図4は、側周面に溝を有する発泡粒子の一例を示す斜視図である。
【
図6】
図6は、高温ピークの面積の算出方法を示す説明図である。
【
図7】
図7は、成形体の表面を模式的に示した平面図である。
【
図8】
図8は、実施例1の発泡粒子成形体の外観を示す写真である。
【
図9】
図9は、比較例3の発泡粒子成形体の外観を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(ポリプロピレン系樹脂発泡粒子)
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子1(以下、「発泡粒子」という。)は、
図1に示すように、その内部を軸方向に貫通する貫通孔11を備えた筒形状を有している。より具体的には、発泡粒子1は、底面12と、底面12の上方に配置され、底面12と概ね同一の形状を備えた頂面13と、底面12の端縁と頂面13の端縁とを接続する側周面14とを有している。また、
図2に示すように、貫通孔11は発泡粒子1の内部を軸方向に貫通しており、底面12及び頂面13に開口している。前述した筒状の形状には、例えば、
図1に示すような円筒や角筒などが含まれる。また、貫通孔11の数は1つ以上であればよい。
【0018】
図2及び
図3に示すように、発泡粒子1は、ポリプロピレン系樹脂から構成された発泡芯層2と、ポリオレフィン系樹脂から構成され、発泡芯層2の側周面を被覆する被覆層3とを有している。被覆層3は、発泡粒子の外表面に設けられている。発泡芯層2及び被覆層3には着色顔料が含まれている。また、被覆層を構成する前記ポリオレフィン系樹脂のメルトマスフローレイトMFR
Sは15g/10分よりも高い。このように、発泡粒子における発泡芯層の側周面をメルトマスフローレイトMFR
Sの高いポリオレフィン系樹脂からなる被覆層で被覆することにより、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体(以下、「成形体」という。)の表面における筋状模様の形成を抑制することができる。また、このように、被覆層に高いメルトマスフローレイトMFR
Sを有するポリオレフィン系樹脂を用いることにより、発泡芯層の剛性を損ねることなく成形体の表面における筋状模様の形成を抑制することができる。そのため、前記発泡粒子を用いることにより、成形体の剛性を維持しつつ、筋状模様の形成を抑制することができる。発泡芯層2及び被覆層3のより詳細な構成については後述する。
【0019】
〔貫通孔の平均孔径d〕
発泡粒子における貫通孔の平均孔径dは1mm未満である。貫通孔の平均孔径dを1mm未満とすることにより、発泡粒子の成形性を高めるとともに、表面性及び剛性に優れた成形体ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を得ることができる。また、貫通孔の平均孔径dを1mm未満とすることにより、養生工程を省略しても、色むらが目立ちにくく、所望の形状を有する、表面性及び剛性に優れた成形体を得ることができる。かかる効果をより確実に得る観点からは、貫通孔の平均孔径dは0.95mm以下であることがより好ましく、0.92mm以下であることがさらに好ましく、0.90mm以下であることが特に好ましく、0.85mm以下であることが最も好ましい。なお、前述した「養生工程」とは、成形体の製造過程において、成形型から離型した成形体を60℃から80℃程度の温度に調整された高温雰囲気下で所定時間静置させる工程をいう。
【0020】
貫通孔の平均孔径dが大きすぎる場合には、成形体の乾燥に過度に長い時間を要するおそれがある。また、成形体の表面に発泡粒子間の隙間や貫通孔に由来する凹凸等が形成されやすくなるおそれがあるとともに、成形体の剛性が低下するおそれがある。
【0021】
貫通孔の平均孔径dは0.1mm以上であることが好ましい。この場合には、型内成形時に発泡粒子の貫通孔が潰れて閉塞することを抑制し、貫通孔の効果をより確実に発揮させることができる。同様の観点からは、貫通孔の平均孔径dは、0.2mm以上であることがより好ましく、0.3mm以上であることがさらに好ましく、0.4mm以上であることが特に好ましく、0.5mm以上であることが最も好ましい。
【0022】
貫通孔の平均孔径dの好ましい範囲を構成するに当たっては、前述した貫通孔の平均孔径dの上限と下限とを任意に組み合わせることができる。貫通孔の平均孔径dの好ましい範囲は、例えば、0.1mm以上1mm未満であってもよく、0.2mm以上0.95mm以下であってもよく、0.3mm以上0.92mm以下であってもよく、0.4mm以上0.90mm以下であってもよく、0.5mm以上0.85mm以下であってもよい。
【0023】
貫通孔の平均孔径dを前記特定の範囲内とすることにより前述した効果が得られる理由は、例えば以下の通りであると考えられる。前記発泡粒子を型内成形すると、成形体に開放気泡からなる開放気泡構造、つまり、成形体の外部と連通した微小な空間部分が形成される。開放気泡構造は、具体的には複数の発泡粒子の貫通孔が相互に連通して形成される空隙、発泡粒子の貫通孔が発泡粒子間の隙間と連通して形成される空隙、発泡粒子間の隙間が連通して形成される空隙、成形体を構成する発泡粒子の連続気泡部分などが、複雑につながって形成される。
【0024】
開放気泡構造は成形体の外部と連通しているため、適度な開放気泡率を有する成形体を成形型から離型すると、外気が開放気泡構造を通じて成形体内部の気泡まで速やかに流入すると考えられる。そして、成形体内部の気泡に外気が流入することにより、成形体全体の内圧が成形体外部の雰囲気の圧力と速やかに均衡しやすくなる。以上の結果、成形体の寸法が早期に安定化しやすくなり、養生工程を行わない場合においても成形体の著しい収縮や変形を抑制することができると考えられる。
【0025】
また、前記発泡粒子は貫通孔を有しているため、成形型内にスチームが供給された際に、スチームが貫通孔を通過することができると考えられる。これにより、成形型の内部までスチームが到達しやすくなり、成形型内の発泡粒子全体を容易に加熱することができると考えられる。そのため、型内成形時の成形温度が低い条件であっても融着性に優れ、良好な外観を有する成形体を得ることができる。その結果、型内成形時にスチームにより発泡粒子が受ける熱量を低く抑えることができる。また、離型後の成形体の内部温度が過度に高くなることが抑制される。これらの結果、型内成形後の成形体の寸法が早期に安定化しやすくなると考えられる。
【0026】
発泡粒子が貫通孔を有しない場合には、成形温度が高くなりやすいとともに、得られる成形体に開放気泡構造が十分に形成されにくくなるおそれがある。そのため、この場合には、養生工程を省略した際に成形体の著しい収縮、変形等を抑制することが難しい。また、この場合には、発泡粒子の二次発泡性が過度に高くなり、成形型内での冷却時間が長くなるおそれがある。
【0027】
発泡粒子の貫通孔の平均孔径dは、以下のように求められる。まず、発泡粒子を、その断面積が最大となる位置において軸方向に垂直な面で切断し、
図3に示すよう切断面を露出させる。次に、切断面の写真を撮影し、切断面における貫通孔11の断面積(具体的には、開口面積)を算出する。そして、貫通孔11の断面積と同じ面積を有する仮想真円の直径を算出し、この値を各発泡粒子の貫通孔の孔径とする。なお、本明細書において、発泡粒子の断面積が最大となる位置は、例えば発泡粒子の外形形状を3Dスキャンすることにより特定することができる。
【0028】
50個以上の発泡粒子1について上記の操作を行い、これらの発泡粒子1における貫通孔11の孔径の算術平均値を、貫通孔の平均孔径dとする。なお、各発泡粒子1の貫通孔11の断面積が軸方向において一様でない場合であっても、発泡粒子の貫通孔の平均孔径dは、上記のように発泡粒子1の断面積が最大となる切断面における貫通孔11の孔径を用いて定められる。
【0029】
貫通孔の平均孔径dは、後述する多層樹脂粒子における貫通孔の平均孔径drの大きさや発泡粒子の嵩密度等を調整することにより前記特定の範囲に調整することができる。また、発泡粒子を二段発泡により製造される二段発泡粒子とすることにより、平均孔径dをより容易に小さな値に調整することができる。
【0030】
〔貫通孔の平均円形度Cp〕
前記発泡粒子をその断面積が最大となる位置において軸方向に垂直な面で切断した切断面における、前記貫通孔の平均円形度Cpは0.90以上であることが好ましく、0.92以上であることがより好ましく、0.95以上であることがさらに好ましい。この場合には、前述した発泡粒子の成形性を改善する効果や、成形時の冷却時間を短縮する効果をより容易に得ることができる。また、貫通孔の平均円形度Cpを高めることにより、貫通孔が外力に対して潰れにくくなる。そのため、例えば型内成形の際に、成形型内において発泡粒子が圧縮された場合においても貫通孔が閉塞しにくくなり、型内成形における成形性を向上させることができる。さらに、前記発泡粒子を用いて型内成形を行うことにより、優れた剛性を有する成形体をより容易に得ることができる。
【0031】
発泡粒子の貫通孔の平均円形度Cpは、以下のようにして求められる。まず、発泡粒子1を、その断面積が最大となる位置において軸方向に垂直な面で切断し、
図3に示すような切断面を露出させる。次に、発泡粒子1の切断面の写真を撮影し、貫通孔11の断面積S
p(つまり、切断面における貫通孔11の開口面積)及び貫通孔11の周囲長L
p(つまり、切断面における貫通孔11の周縁の長さ)を測定する。そして、下記式(1)に基づき、個々の発泡粒子1における貫通孔11の円形度を算出する。なお、下記式(1)におけるπは円周率である。
貫通孔の円形度=4πS
p/(L
p×L
p)・・・(1)
【0032】
以上の操作を無作為に選択した50個以上の発泡粒子1について行い、これらの発泡粒子1における貫通孔11の円形度の算術平均値を、貫通孔の平均円形度Cpとする。なお、各発泡粒子1の貫通孔11の断面形状が軸方向において一様ではない場合であっても、貫通孔の平均円形度Cpは、上記のように発泡粒子1の切断面の面積が最大となる位置での貫通孔の断面形状に基づいて定められる。
【0033】
貫通孔の平均円形度Cpは、たとえば後述する多層樹脂粒子の造粒工程において、貫通孔を形成するためのダイの形状を変更したり、通常25℃程度の水温で行われていたストランドを冷却する際の水温をより低い水温(例えば15℃以下)に調整したりすることにより、上記範囲に調節することができる。貫通孔の平均円形度の上限は、1である。
【0034】
〔発泡粒子の平均外径Dに対する貫通孔の平均孔径dの比d/D〕
発泡粒子の平均外径Dに対する貫通孔の平均孔径dの比d/Dは0.4以下である。前記比d/Dを0.4以下とすることにより、型内成形時の発泡粒子の二次発泡性を適度に向上させ、低圧から高圧までのより広い範囲の成形圧力において表面性および剛性に優れた成形体を得ることができる。かかる効果をより確実に得る観点からは、発泡粒子の平均外径Dに対する貫通孔の平均孔径dの比d/Dは0.35以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましく、0.25以下であることがさらに好ましい。前記比d/Dが高すぎる場合には、型内成形時の発泡粒子の二次発泡性が低下し、成形体の表面性や剛性の低下を招くおそれがある。
【0035】
発泡粒子の平均外径Dに対する貫通孔の平均孔径dの比d/Dは0.1以上であることが好ましい。この場合には、外力が加わった場合においても発泡粒子の貫通孔がより潰れにくくなるため、貫通孔の効果をより確実に発揮させることができる。
【0036】
発泡粒子の肉厚が増加して発泡粒子の二次発泡性や成形体の剛性が向上するという観点、養生工程を省略した際に成形体の変形や収縮をより確実に抑制することができる観点から、発泡粒子の平均外径Dは2mm以上であることが好ましく、2.5mm以上であることがより好ましく、3mm以上であることがさらに好ましい。一方、成形型内への発泡粒子の充填性をより向上させるという観点から、発泡粒子の平均外径Dは8mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましく、4.5mm以下であることがさらに好ましい。
【0037】
発泡粒子の平均外径Dの好ましい範囲を構成するに当たっては、前述した発泡粒子の平均外径Dの上限と下限とを任意に組み合わせることができる。発泡粒子の平均外径Dの好ましい範囲は、例えば、2mm以上8mm以下であってもよく、2.5mm以上5mm以下であってもよく、3mm以上4.5mm以下であってもよい。
【0038】
前述した発泡粒子の平均外径Dの算出方法は以下の通りである。まず、発泡粒子1を、その断面積が最大となる位置において軸方向に垂直な面で切断し、
図3に示すような発泡粒子1の切断面を露出させる。この切断面における、貫通孔11を含めた発泡粒子1の断面積(つまり、切断面における発泡粒子1の外周縁に囲まれた領域の面積)を算出する。そして、発泡粒子1の断面積の値と面積の等しい仮想真円の直径を個々の発泡粒子1の外径とする。
【0039】
このようにして50個以上の発泡粒子1について外径を算出し、これらの発泡粒子1の外径の算術平均値を発泡粒子の平均外径Dとする。なお、各発泡粒子1の断面積が軸方向において一様ではない場合であっても、発泡粒子の平均外径Dは、上記のように発泡粒子1の断面積が最大となる切断面における発泡粒子1の断面積に基づいて定められる。
【0040】
〔発泡粒子の外周縁の平均円形度Cb〕
前記発泡粒子をその断面積が最大となる位置において軸方向に垂直な面で切断した切断面における、前記発泡粒子の外周縁の平均円形度Cbは0.95以上であることが好ましく、0.96以上であることがより好ましい。このような発泡粒子を用いて型内成形を行うことにより、成形体の表面における筋状模様の形成をより効果的に抑制し、良好な外観を有する成形体をより容易に得ることができる。
【0041】
発泡粒子の外周縁の平均円形度Cbは、以下のようにして求められる。まず、発泡粒子を、その断面積が最大となる位置において軸方向に垂直な面で切断し、
図3に示すような切断面を露出させる。次に、発泡粒子1の切断面の写真を撮影し、貫通孔11を含めた発泡粒子1の断面積S
b(つまり、切断面における、発泡粒子1の外周縁によって囲まれた領域の面積)及び発泡粒子1の外周縁の周囲長L
b(つまり、切断面における発泡粒子1の外周縁の長さ)を測定する。そして、下記式(2)に基づき、個々の発泡粒子1の外周縁の円形度を算出する。なお、下記式(2)におけるπは円周率である。
発泡粒子の外周縁の円形度=4πS
b/(L
b×L
b)・・・(2)
【0042】
以上の操作を無作為に選択した50個以上の発泡粒子1について行い、これらの発泡粒子1における円形度の算術平均値を、発泡粒子の外周縁の平均円形度Cbとする。なお、各発泡粒子1の断面の形状が軸方向において一様ではない場合であっても、発泡粒子の外周縁の平均円形度Cbは、上記のように発泡粒子1の断面積が最大となる切断面における発泡粒子1の断面形状に基づいて定められる。
【0043】
発泡粒子の貫通孔の平均円形度Cpに対する発泡粒子の外周縁の平均円形度Cbの比Cb/Cpは、0.96以上1.05以下であることが好ましく、0.98以上1.02以下であることがより好ましい。この場合には、上記貫通孔による成形性改善効果をより確実に発揮しつつ、剛性に優れる成形体を得ることができるとともに、成形体の表面における筋状模様の形成をより効果的に抑制することができる。
【0044】
発泡粒子の外周縁の平均円形度Cbは、例えば、被覆層を前記特定の範囲内のメルトマスフローレイトMFRSを有するポリオレフィン系樹脂から構成することにより、前記特定の範囲内に調整することができる。
【0045】
〔発泡粒子の溝〕
発泡粒子の外周縁の平均円形度をより高める観点、及び成形体の表面における筋状模様の形成をより効果的に抑制する観点からは、発泡粒子を、その断面積が最大となる位置において軸方向に垂直な面で切断した切断面における、貫通孔を除いた発泡粒子の断面積に対する溝の合計断面積の比率が3%以下であることが好ましく、1.5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましく、0.5%以下であることが特に好ましく、0%、つまり前記発泡粒子がその側周面に溝を有しないことが最も好ましい。
【0046】
前述した「溝」とは、発泡粒子の側周面に形成され、発泡粒子の軸方向に沿って延在する凹部をいう。例えば、
図4に示す発泡粒子102は、底面12と、頂面13と、側周面14とによって囲まれた円筒形状を有するとともに、その内部を軸方向に貫く貫通孔11を有している。発泡粒子102の側周面14には、発泡粒子102の周方向において概ね等間隔に位置した3本の溝15が形成されている。発泡粒子102の溝15は、
図5に示すように発泡粒子102をその軸方向に垂直な面で切断した場合に、切断面における発泡粒子102の輪郭が内方に陥没している部分として観察される。
【0047】
発泡粒子における溝の合計断面積の面積比率の算出方法は以下の通りである。まず、発泡粒子102を、その断面積が最大となる位置において軸方向に垂直な面で切断し、
図5に示すような切断面を露出させる。次に、発泡粒子102の切断面の写真を撮影し、貫通孔11を除いた発泡粒子102の断面積(つまり、切断面における、発泡粒子102の外周縁と内周縁とによって囲まれた領域の面積)を測定する。
【0048】
次に、発泡粒子102の切断面の写真における個々の溝15の外方に、発泡粒子102の輪郭と2つの点P1、P2で接し、発泡粒子102の内部を通らない接線L1を引く。そして、発泡粒子102の輪郭と接線L1とによって囲まれた領域の面積を算出し、この面積を個々の溝15の断面積とする。すなわち、個々の溝15の断面積は、
図5において斜線で示した領域151の面積である。上記の操作を全ての溝15について行い、これらを合計することにより個々の発泡粒子102における溝15の断面積の合計を算出する。
【0049】
このようにして得られた溝15の断面積の合計を、貫通孔11を除いた発泡粒子102の断面積で除することにより、個々の発泡粒子102における、発泡粒子102の断面積に対する溝15の断面積の合計の比率を算出する。以上の操作を100個以上の発泡粒子102について行い、これらの発泡粒子102における前記比率の算術平均値を、発泡粒子における溝の合計断面積の面積比率とする。
【0050】
被覆層を前記特定の範囲内のメルトマスフローレイトMFRSを有するポリオレフィン系樹脂から構成することにより、発泡粒子の側周面に溝が形成されることを抑制し、前記発泡粒子における溝の合計断面積の面積比率を上記範囲内に容易に調整することができる。この理由は必ずしも明らかではないが、後述する造粒工程において得られる樹脂粒子に残る残留応力が緩和されて発泡粒子に皺が形成されにくくなることや、得られる発泡粒子の側周面において被覆層がより均一に形成されやすくなること等が考えられる。
【0051】
〔発泡粒子の平均肉厚t〕
前記発泡粒子の平均肉厚tは1.2mm以上2mm以下であることが好ましい。この場合には、型内成形時における発泡粒子の二次発泡性をより向上させることができる。また、平均肉厚tが前記特定の範囲内である発泡粒子は、外力に対してより潰れにくいため、前記発泡粒子を型内成形してなる成形体の剛性をより向上させることができる。これらの効果をより確実に得る観点からは、前記発泡粒子の平均肉厚tは1.3mm以上2mm以下であることがより好ましく、1.5mm以上2mm以下であることがさらに好ましい。
【0052】
発泡粒子の平均肉厚tは、発泡粒子の側周面から貫通孔の外縁までの距離の平均値である。発泡粒子の平均肉厚tは、より具体的には、貫通孔の平均孔径d(単位:mm)及び発泡粒子の平均外径D(単位:mm)を用い、下記式(3)に基づいて算出される。
t=(D-d)/2 ・・・(3)
【0053】
〔発泡粒子の見掛け密度〕
前記発泡粒子の見掛け密度は10kg/m3以上100kg/m3以下であることが好ましく、20kg/m3以上80kg/m3以下であることがより好ましく、25kg/m3以上60kg/m3以下であることがさらに好ましく、30kg/m3以上50kg/m3以下であることが特に好ましい。見掛け密度が上記範囲内である発泡粒子を用いて型内成形を行うことにより、軽量で剛性に優れる成形体を容易に得ることができる。また、従来、特に密度の小さい成形体を製造する場合には、成形体が離型後に著しく変形しやすく、養生工程を省略することは困難であった。これに対し、前記発泡粒子は、見掛け密度が小さい場合であっても養生工程を省略することが可能であるため、無養生でも所望の形状を有する軽量な成形体を製造することができる。
【0054】
発泡粒子の見掛け密度の算出方法は以下の通りである。まず、相対湿度50%、温度23℃、気圧1atmの環境下で発泡粒子群を1日間静置し、発泡粒子の状態を調節する。この発泡粒子群の質量(単位:g)を測定した後、23℃のアルコール(例えばエタノール)を入れたメスシリンダー内に金網などを使用して沈め、液面の上昇分から発泡粒子群の体積(単位:L)を求める。その後、発泡粒子群の質量を発泡粒子群の体積で除した値を単位換算することにより、発泡粒子の見掛け密度(単位:kg/m3)を算出することができる。
【0055】
〔発泡芯層〕
前記発泡粒子の発泡芯層は、ポリプロピレン系樹脂から構成されている。本明細書において、ポリプロピレン系樹脂とは、プロピレン単量体の単独重合体及びプロピレンに由来する構成単位を50質量%以上含むプロピレン系共重合体をいう。発泡芯層中には、1種類のポリプロピレン系樹脂が含まれていてもよく、2種類以上のポリプロピレン系樹脂が含まれていてもよい。
【0056】
発泡芯層は、プロピレンと他のモノマーとが共重合したプロピレン系共重合体から構成されていることがより好ましい。プロピレン系共重合体としては、エチレン-プロピレン共重合体、ブテン-プロピレン共重合体、ヘキセン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体等のプロピレンと炭素数4~10のα-オレフィンとの共重合体が好ましく例示される。これらの共重合体は、例えば、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体等であってもよいが、ランダム共重合体であることが好ましい。
【0057】
発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の融点Tmcは、155℃以下であることが好ましい。この場合には、より低い成形温度(つまり、低い成形圧)で外観や剛性に優れる成形体を成形することができる。この効果が向上するという観点から、発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の融点Tmcは152℃以下であることが好ましく、148℃以下であることがより好ましい。一方、成形体の耐熱性や機械的強度等がより向上するという観点からは、発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の融点Tmcは、135℃以上であることが好ましく、138℃以上であることがより好ましく、140℃以上であることがさらに好ましい。
【0058】
発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の融点Tmcは、JIS K7121-1987に基づいて示差走査熱量測定(つまり、DSC)を行い、取得したDSC曲線に基づいて決定することができる。具体的には、ポリプロピレン系樹脂からなる試験片を準備し、「(2)一定の熱処理を行なった後、融解温度を測定する場合」に従って試験片の状態調節を行う。状態調節における加熱速度及び冷却速度は10℃/分とし、温度範囲は30℃から200℃までとする。このようにして状態調節された試験片を10℃/分の加熱速度で30℃から200℃まで昇温することによりDSC曲線を取得する。そして、DSC曲線に現れた融解ピークの頂点温度をポリプロピレン系樹脂の融点Tmcとする。なお、DSC曲線に複数の融解ピークが表れる場合は、最も面積の大きな融解ピークの頂点温度を融点Tmcとする。
【0059】
発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂のメルトマスフローレイトMFRCは5g/10分以上であることが好ましく、6g/10分以上であることがより好ましく、7g/10分以上であることがさらに好ましい。この場合には、発泡性や成形性をより高めることができる。一方、成形体の剛性をより高めるという観点から、発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂のメルトマスフローレイトMFRCは12g/10分以下であることが好ましく、10g/10分以下であることがより好ましい。
【0060】
発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂のメルトマスフローレイトMFRCの好ましい範囲を構成するに当たっては、前述したメルトマスフローレイトMFRCの上限と下限とを任意に組み合わせることができる。例えば、発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂のメルトマスフローレイトMFRCの好ましい範囲は、5g/10分以上12g/10分以下であってもよく、6g/10分以上12g/10分以下であってもよく、7g/10分以上10g/10分以下であってもよい。なお、発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂のMFRCは、JIS K7210-1:2014に基づき、試験温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定される値である。
【0061】
前記発泡粒子は、発泡芯層の側周面をメルトマスフローレイトMFRSの高いポリオレフィン系樹脂からなる被覆層で被覆することにより、成形体の表面における筋状模様の形成を抑制することができる。この場合、被覆層を構成する樹脂として高いメルトマスフローレイトMFRSを有するポリオレフィン系樹脂を用いる一方で、発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂のメルトマスフローレイトMFRCを例えば上記範囲とすることができる。これにより、発泡粒子の発泡性や剛性を維持しつつ、筋状模様の形成を抑制する効果をより容易に得ることができる。
【0062】
発泡芯層には、前述した作用効果を損なわない範囲で、ポリプロピレン系樹脂以外の重合体が含まれていてもよい。このような重合体としては、例えば、ポリエチレン系樹脂やポリスチレン系樹脂などのポリプロピレン系樹脂以外の熱可塑性樹脂や、熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。発泡芯層中のポリプロピレン系樹脂以外の重合体の含有量は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、0、つまり、発泡芯層は、重合体として実質的にポリプロピレン系樹脂のみを含むことが特に好ましい。
【0063】
また、発泡芯層中には、前述した作用効果を損なわない範囲で、気泡調整剤、結晶核剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、光安定剤、導電性フィラー、抗菌剤等の添加剤が含まれていてもよい。発泡芯層中の添加剤の含有量は、例えば、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して0.01質量部以上10質量部以下であることが好ましい。
【0064】
〔被覆層〕
発泡粒子における発泡芯層の側周面は、ポリオレフィン系樹脂から構成された被覆層により覆われている。発泡粒子の被覆層は発泡状態であってもよく、非発泡状態であってもよいが、実質的に非発泡状態であることが好ましい。なお、前述した「非発泡状態」とは、被覆層が発泡せず、気泡が含まれない状態と、発泡後に気泡が消失した状態とを含み、被覆層内にほとんど気泡構造がないことを意味する。
【0065】
発泡粒子における発泡芯層と被覆層の質量比率は、発泡芯層:被覆層=99.5:0.5~85:15であることが好ましく、99:1~92:8であることがより好ましく、97:3~90:10であることがさらに好ましい。この場合には、発泡粒子の発泡性や剛性等の特性を維持しつつ、筋状模様の形成を抑制する効果をより容易に得ることができる。
【0066】
被覆層を構成するポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリブテン系樹脂等を使用することができる。発泡芯層との接着性の観点からは、被覆層を構成するポリオレフィン系樹脂は、ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂であることが好ましく、ポリプロピレン系樹脂であることがより好ましい。被覆層を構成するポリプロピレン系樹脂としては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体、ブテン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体、プロピレン単独重合体等を使用することができる。これらの中でも、被覆層を構成するポリプロピレン系樹脂はエチレン-プロピレン共重合体又はエチレン-プロピレン-ブテン共重合体であることが好ましい。
【0067】
被覆層を構成するポリオレフィン系樹脂のメルトマスフローレイトMFRSは15g/10分以上よりも高い。前記発泡粒子は、被覆層を構成するポリオレフィン系樹脂のメルトマスフローレイトMFRSを前記特定の範囲内とすることにより、成形体の表面への筋状模様の形成を抑制し、良好な外観を有する成形体を容易に得ることができる。また、このように、被覆層に高いメルトマスフローレイトMFRSを有するポリオレフィン系樹脂を用いることにより、発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂として、比較的低いメルトマスフローレイトMFRCを有するポリプロピレン系樹脂を採用することが可能となる。その結果、発泡粒子に十分な剛性を付与することができる。
【0068】
前記発泡粒子においてこのような効果が得られる理由としては、前記発泡芯層の側周面を前記被覆層で被覆することにより、発泡粒子の外周縁の平均円形度Cbが高くなることなどが考えられる。
【0069】
前述した効果をより確実に得る観点からは、被覆層を構成するポリオレフィン系樹脂のメルトマスフローレイトMFRSと発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂のメルトマスフローレイトMFRCとの差MFRS-MFRCは10g/10分以上であることが好ましく、12g/10分以上であることが好ましい。同様の観点から、前記発泡芯層を構成する前記ポリプロピレン系樹脂のメルトマスフローレイトMFRCに対する前記被覆層を構成する前記ポリオレフィン系樹脂のメルトマスフローレイトMFRSの比MFRS/MFRCが2以上であることが好ましく、2.5以上であることがより好ましい。
【0070】
一方、成形体の外観を改善しつつ被覆層と発泡芯層との剥離をより抑制する観点からは、被覆層を構成するポリオレフィン系樹脂のメルトマスフローレイトMFRSと発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂のメルトマスフローレイトMFRCとの差MFRS-MFRCは30g/10分以下であることが好ましい。同様の観点から、前記発泡芯層を構成する前記ポリプロピレン系樹脂のメルトマスフローレイトMFRCに対する前記被覆層を構成する前記ポリオレフィン系樹脂のメルトマスフローレイトMFRSの比MFRS/MFRCは5以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましい。
【0071】
前記発泡芯層を構成する前記ポリプロピレン系樹脂のメルトマスフローレイトMFRCに対する前記被覆層を構成する前記ポリオレフィン系樹脂のメルトマスフローレイトMFRSの比MFRS/MFRCの好ましい範囲を構成するに当たっては、前述した比MFRS/MFRCの上限と下限とを任意に組み合わせることができる。例えば、比MFRS/MFRCの好ましい範囲は、2以上5以下であってもよく、2.5以上4.0以下であってもよい。
【0072】
なお、被覆層を構成するポリオレフィン系樹脂のMFRSは、JIS K7210-1:2014に基づき、試験温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定される値である。なお、被覆層がポリエチレン系樹脂から構成されている場合であっても、MFRSは、試験温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定される。
【0073】
被覆層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点Tmsは、前記発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の融点Tmcよりも低いことが好ましい。このようなポリオレフィン系樹脂からなる被覆層で発泡芯層を被覆することにより、型内成形においてより低い成形温度(つまり、低い成形圧)で発泡粒子を融着させることができる。その結果、養生工程を省略した場合における成形体の変形や収縮をより確実に抑制することができる。かかる作用効果をより確実に得る観点からは、発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の融点Tmcと被覆層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点Tmsとの差Tmc-Tmsが0℃を超え40℃以下であることが好ましく、3℃以上35℃以下であることがより好ましく、5℃以上30℃以下であることがさらに好ましい。
【0074】
被覆層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点Tmsの測定方法は、ポリプロピレン系樹脂に替えてポリオレフィン系樹脂を用いる以外は、前述した発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の融点Tmcの測定方法と同様である。
【0075】
被覆層中には、前述した作用効果を損なわない範囲で、結晶核剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、光安定剤、導電性フィラー、抗菌剤等の添加剤が含まれていてもよい。被覆層中の添加剤の含有量は、例えば、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して0.01質量部以上10質量部以下であることが好ましい。
【0076】
〔着色顔料〕
発泡芯層及び被覆層には、着色顔料が含まれている。着色顔料は、白色以外の色を有していればよく、例えば、黒色顔料、赤色顔料、青色顔料、黄色顔料、緑色顔料などの種々の色調を有する顔料を使用することができる。また、着色顔料は、無機系顔料であってもよく、有機系顔料であってもよい。
【0077】
無機系の顔料としては、例えば、カーボンブラック等の炭素粒子;黄鉛、亜鉛黄及びバリウム黄等のクロム酸塩;紺青等のフェロシアン化物;カドミウムイエロー及びカドミウムレッド等の硫化物;べんがら等の酸化物;群青等のケイ酸塩を挙げることができる。また、有機系の顔料としては、例えば、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、アゾレーキ、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料;フタロシアニン系、アントラキノン系、ペリレン系、ペリノン系、チオインジゴ系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系等の多環式顔料等を挙げることができる。
【0078】
発泡芯層中には、1種類の着色顔料が含まれていてもよく、2種類以上の着色顔料が含まれていてもよい。同様に、被覆層中には、1種類の着色顔料が含まれていてもよく、2種類以上の着色顔料が含まれていてもよい。発泡芯層中の着色顔料の色調と被覆層中の着色顔料の色調とは、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。成形体に高級感を付与する観点からは、発泡芯層及び被覆層中の着色顔料は黒色顔料であることが好ましく、炭素粒子であることがより好ましく、カーボンブラックであることがさらに好ましい。
【0079】
発泡芯層中の着色顔料の含有量は0.1質量%以上5質量%以下であり、被覆層中の着色顔料の含有量は0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。この場合には、型内成形時における発泡粒子の二次発泡性及び融着性を十分に確保しつつ、発泡粒子に所望の色調を付与することができる。これにより、所望の色調を有し、外観の良好な成形体をより容易に得ることができる。
【0080】
前記成形体の表面に形成される筋状の模様は、例えば、前述した発泡粒子の側周面に形成された溝が成形体の表面に露出することにより生じることが考えられる。このような成形体表面の筋状の模様は、着色顔料を含む発泡粒子を成形してなる成形体において特に目立ちやすい。これは、前記筋状の模様は周囲よりも色が薄く見えることが多く、着色顔料を含まない白色の成形体では目立ちにくいことや、従来、着色顔料を含む発泡粒子において特に発泡粒子の外周縁の平均円形度が低くなりやすかったこと等が理由であると考えられる。前記発泡粒子によれば、着色顔料を含む発泡粒子から得られた着色された成形体であっても筋状模様による外観の悪化が抑制される。
【0081】
〔独立気泡率〕
発泡粒子の独立気泡率は、発泡粒子の成形性を高める観点、成形体の剛性をより高める観点から、90%以上であることが好ましく、92%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。
【0082】
発泡粒子の独立気泡率は、ASTM-D2856-70手順Cに基づき空気比較式比重計を用いて測定することができる。具体的には、次のようにして測定される。まず、発泡粒子を相対湿度50%、温度23℃、気圧1atmの環境下で24時間以上静置し、発泡粒子の状態を調節する。状態調節後の発泡粒子からメスシリンダー内に自然に堆積させたときの標線の値が約20cm3となるように測定用サンプルを採取する。この測定用サンプルを温度23℃のエタノールが入ったメスシリンダーに沈め、液面の上昇量に基づいて測定用サンプルの見掛け体積を測定する。
【0083】
見掛け体積を測定した測定用サンプルを十分に乾燥させた後、ASTM-D2856-70に記載されている手順Cに準じ、島津製作所社製アキュピックII1340により測定される測定用サンプルの真の体積の値を測定する。そして、これらの体積の値を用い、下記の式(4)に基づいて測定用サンプルの独立気泡率(単位:%)を計算する。
独立気泡率=(Vx-W/ρ)×100/(Va-W/ρ)・・・(4)
【0084】
ただし、上記式(4)におけるVx(単位:cm3)は発泡粒子の真の体積(つまり、発泡粒子を構成する樹脂の容積と、発泡粒子内の独立気泡部分の気泡全容積との和)であり、Va(単位:cm3)は発泡粒子の見掛け体積(つまり、発泡粒子をエタノールの入ったメスシリンダーに沈めた際の液面の上昇分から測定される体積)であり、W(単位:g)は測定用サンプルの質量であり、ρ(単位:g/cm3)は発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の密度である。
【0085】
以上の操作を異なる測定用サンプルを用いて5回行い、これら5回の測定により得られる独立気泡率の算術平均値を発泡粒子の独立気泡率とする。
【0086】
〔高温ピーク〕
前記発泡粒子は、加熱速度10℃/分で23℃から200℃まで加熱した際に得られるDSC曲線に、発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂固有の融解による吸熱ピークと、この吸熱ピークよりも高温側に位置する1以上の融解ピークとが現れる結晶構造を有することが好ましい。このような結晶構造を備えた発泡粒子は、機械的強度に優れるとともに成形性にも優れている。なお、以下において、前記DSC曲線に現れるポリプロピレン系樹脂固有の融解による吸熱ピークを「樹脂固有ピーク」といい、樹脂固有ピークよりも高温側に現れる融解ピークを「高温ピーク」という。樹脂固有ピークは、発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂が本来有する結晶が融解する際の吸熱によって生じる。一方、高温ピークは、発泡粒子の製造過程で発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂中に形成された二次結晶の融解によって生じると推定される。すなわち、DSC曲線に高温ピークが現れた場合、ポリプロピレン系樹脂中に二次結晶が形成されていると推定される。
【0087】
発泡粒子が前述した結晶構造を有するか否かは、JIS K7121:1987に準拠し、前述した条件により示差走査熱量測定(DSC)を行うことにより得られるDSC曲線に基づいて判断すればよい。また、DSCを行うにあたっては、発泡粒子1~3mgを試料として用いればよい。
【0088】
具体的には、上記のように10℃/分の加熱速度で23℃から200℃までの加熱(つまり、第1回目の加熱)を行ったときに得られるDSC曲線には、高温ピークと、発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の樹脂固有ピークとの両方が現れる。これに対し、第1回目の加熱を行った後、10℃/分の冷却速度で200℃から23℃まで冷却し、その後再び10℃/分の加熱速度で23℃から200℃までの加熱(つまり、第2回目の加熱)を行ったときに得られるDSC曲線には、発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の樹脂固有ピークのみが現れる。従って、第1回目の加熱時に得られるDSC曲線と第2回目の加熱時に得られるDSC曲線とを比較することにより、樹脂固有ピークと高温ピークとを見分けることができる。この樹脂固有ピークの頂点の温度は、第1回目の加熱と第2回目の加熱とで多少異なる場合があるが、通常、その差は5℃以内である。
【0089】
発泡粒子の高温ピークの融解熱量は、発泡粒子の成形性をより向上させるという観点、及び剛性により優れる成形体を得るという観点から、5J/g以上40J/g以下であることが好ましく、7J/g以上30J/g以下であることがより好ましく、10J/g以上20J/g以下であることがさらに好ましい。
【0090】
前述した高温ピークの融解熱量は、次のようにして求められる値である。まず、発泡粒子を相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて24時間静置して発泡粒子の状態を調節する。状態調節を行った後の発泡粒子1~3mgを試料として用い、加熱速度10℃/分で23℃から200℃まで加熱するという条件で示差走査熱量測定を行うことによりDSC曲線を得る。
図6にDSC曲線の一例を示す。発泡粒子が高温ピークを有する場合、DSC曲線には、
図6に示すように、樹脂固有ピークΔH1と、樹脂固有ピークΔH1の頂点よりも高温側に頂点を有する高温ピークΔH2とが現れる。
【0091】
次に、DSC曲線上における80℃に相当する点αと、発泡粒子の融解終了温度Tに相当する点βとを結ぶ直線L2を引く。なお、融解終了温度Tは、高温ピークΔH2における高温側の端点、つまり、DSC曲線における、高温ピークΔH2と、高温ピークΔH2よりも高温側のベースラインとの交点である。
【0092】
直線L2を引いた後、樹脂固有ピークΔH1と高温ピークΔH2との間に存在する極大点γを通り、グラフの縦軸に平行な直線L3を引く。この直線L3により樹脂固有ピークΔH1と高温ピークΔH2とが分割される。高温ピークΔH2の吸熱量は、DSC曲線における高温ピークΔH2を構成する部分と、直線L2と、直線L3とによって囲まれた部分の面積に基づいて算出することができる。
【0093】
(発泡粒子の製造方法)
前記発泡粒子の製造方法は、ポリプロピレン系樹脂から構成されており貫通孔を有する筒形状の芯層と、ポリオレフィン系樹脂から構成されており前記芯層の側周面を被覆する被覆層とを備えた多層樹脂粒子を作製する造粒工程と、前記多層樹脂粒子を発泡させる発泡工程とを有している。以下、各工程をより詳細に説明する。
【0094】
〔造粒工程〕
造粒工程において多層樹脂粒子を作製する方法は特に限定されることはないが、例えばストランドカット法により多層樹脂粒子を作製することができる。ストランドカット法では、芯層形成用押出機と、被覆層形成用押出機と、これら2台の押出機に接続された共押出ダイとを備えた共押出装置を用いて多層樹脂粒子を作製する。具体的には、まず、発泡粒子における発泡芯層となるポリプロピレン系樹脂と、着色顔料と、必要に応じて添加される添加剤等とを芯層形成用押出機に供給し、芯層形成用押出機内でこれらを溶融混練することにより芯層形成用樹脂溶融混練物を作製する。また、発泡粒子の被覆層となるポリオレフィン系樹脂と、着色顔料と、必要に応じて添加される添加剤等とを被覆層形成用押出機に供給し、被覆層形成用押出機内でこれらを溶融混練することにより被覆層形成用樹脂溶融混練物を作製する。
【0095】
その後、各押出機から溶融混練物を吐出し、共押出ダイ内で合流させることにより、非発泡状態の芯層と、芯層の側周面を被覆する非発泡状態の被覆層とからなる多層構造の複合体を形成する。そして、複合体を芯層に貫通孔を形成可能な機構を備えたダイの小孔から押し出して、芯層に貫通孔を有するストランド状の押出物を形成する。この押出物を引き取りつつ冷却した後、所望の長さに切断することにより、芯層に貫通孔を有する多層樹脂粒子を得ることができる。なお、多層樹脂粒子の製造方法は前述した方法に限定されることはなく、ホットカット法や、水中カット法等を採用してもよい。
【0096】
多層樹脂粒子を作製するに当たっては、ストランド状の押出物を水中で冷却した後に切断する、ストランドカット方式を採用することが好ましい。この場合には、多層樹脂粒子の形状の精度をより高め、最終的に得られる発泡粒子における複数の貫通孔の形状をより容易に所望の形状とすることができる。
【0097】
なお、押出物の切断にストランドカット方式、つまり、ダイから押し出されたストランド状の押出物を引き取りながら水中で冷却した後、適当な長さに切断する方法を採用する場合には、樹脂溶融混練物の押出の際に、押出速度、引き取り速度、カッタースピードなどを適宜変えて切断することにより多層樹脂粒子の粒子径、長さ/外径比及び1個当たりの質量を調整することができる。
【0098】
多層樹脂粒子の平均外径Drは、0.1mm以上3.0mm以下であることが好ましく、0.3mm以上1.5mm以下であることがより好ましい。
【0099】
また、多層樹脂粒子1個当たりの質量は、0.1mg以上20mg以下であることが好ましく、0.2mg以上10mg以下であることがより好ましく、0.3mg以上5mg以下であることがさらに好ましく、0.4mg以上2mg以下であることが特に好ましい。なお、多層樹脂粒子1個当たりの質量は、無作為に選んだ200個の多層樹脂粒子の質量を多層樹脂粒子の個数で除した値である。また、前述した方法により得られる多層樹脂粒子1個当たりの質量を、「多層樹脂粒子の平均質量」ということがある。
【0100】
前記製造方法において、多層樹脂粒子における芯層の貫通孔の平均孔径drを0.25mm未満とし、かつ、多層樹脂粒子の平均外径Drに対する貫通孔の平均孔径drの比dr/Drを0.4以下とすることにより、前記特定の形状を備えた発泡粒子を容易に得ることができる。多層樹脂粒子の芯層の貫通孔の平均孔径dr及び前記比dr/Drは、たとえば貫通孔を形成するためのダイの小孔の孔径(つまり、ダイスの内径)により調整することができる。
【0101】
多層樹脂粒子の平均外径Dr及び貫通孔の平均孔径drの算出方法は、発泡粒子に替えて多層樹脂粒子を用いる以外は、前述した発泡粒子の平均外径D及び貫通孔の平均孔径dの算出方法と同様である。
【0102】
〔発泡工程〕
発泡工程においては、前記多層樹脂粒子を発泡させる。多層樹脂粒子を発泡させる方法は特に限定されることはないが、例えば、容器内において水性媒体中に分散させた、発泡剤を含む多層樹脂粒子を分散媒とともに容器内の圧力よりも低い圧力の雰囲気下に放出する「ダイレクト発泡法」と呼ばれる方法を採用することが好ましい。
【0103】
ダイレクト発泡法により多層樹脂粒子を発泡させるに当たっては、まず、多層樹脂粒子を圧力容器等の容器内に入れ、分散媒中に分散させる。この際、必要に応じて、容器内の分散媒に多層樹脂粒子を分散させるための分散剤や分散助剤、界面活性剤等を添加してもよい。
【0104】
分散媒としては、水を主成分とする水性分散媒が用いられる。水性分散媒中には、水の他に、エチレングリコール、グリセリン、メタノール、エタノール等の親水性の有機溶媒が含まれていてもよい。水性分散媒における水の割合は、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
【0105】
分散媒中には分散剤を添加することが好ましい。分散媒中に分散剤を添加することにより、発泡工程において、容器内で加熱された多層樹脂粒子同士の融着を抑制することができる。分散剤の添加量は、多層樹脂粒子100質量部当たり0.001質量部以上5質量部以下であることが好ましい。分散剤としては、有機分散剤や無機分散剤を使用することができるが、取り扱いの容易さから微粒状無機物を分散剤として使用することが好ましい。より具体的には、分散剤としては、例えば、アムスナイト、カオリン、マイカ、クレー等の粘土鉱物や、酸化アルミニウム、酸化チタン、塩基性炭酸マグネシウム、塩基性炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、酸化鉄等を使用することができる。これらの分散剤は、単独で使用されてもよく、2種以上の分散剤が併用されてもよい。これらの中でも分散剤としては粘土鉱物を用いることが好ましい。粘土鉱物は、天然のものであっても、合成されたものであってもよい。
【0106】
なお、分散剤を使用する場合、分散助剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤を併用することが好ましい。分散助剤の添加量は、多層樹脂粒子100質量部当たり0.001質量部以上1質量部以下であることが好ましい。
【0107】
多層樹脂粒子を分散媒中に分散させた後、容器内において多層樹脂粒子に発泡剤を含浸させる。多層樹脂粒子に含浸させる発泡剤は物理発泡剤であることが好ましい。物理発泡剤としては、二酸化炭素、空気、窒素、ヘリウム、アルゴン等の無機物理発泡剤や、プロパン、ブタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン等の環式脂肪族炭化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、クロロフルオロメタン、トリフルオロメタン、1,1-ジフルオロメタン、1-クロロ-1,1-ジクロロエタン、1,2,2,2-テトラフルオロエタン、メチルクロライド、エチルクロライド、メチレンクロライド等のハロゲン化炭化水素等の有機物理発泡剤が挙げられる。これらの物理発泡剤は単独で使用されていてもよく、二種以上の物理発泡剤が併用されていてもよい。また、無機物理発泡剤と有機物理発泡剤とを混合して用いることもできる。環境に対する負荷や取扱い性の観点から、物理発泡剤としては、好ましくは無機物理発泡剤、より好ましくは二酸化炭素が用いられる。
【0108】
多層樹脂粒子100質量部に対する発泡剤の添加量は、好ましくは0.1質量部以上30質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上15質量部以下であることがより好ましい。
【0109】
多層樹脂粒子に発泡剤を含浸させる方法としては、例えば、容器内に発泡剤を供給し、分散媒中の多層樹脂粒子に発泡剤を含浸させる方法を採用することができる。この際、多層樹脂粒子を分散媒とともに加熱することにより、多層樹脂粒子への発泡剤の含浸をより促進することができる。
【0110】
発泡時の容器内の圧力はゲージ圧において0.5MPa(G)以上であることが好ましい。一方、容器内の圧力はゲージ圧において4.0MPa(G)以下であることが好ましい。上記範囲内であれば、容器の破損や爆発等のおそれがなく安全に発泡粒子を製造することができる。
【0111】
また、分散媒を加熱する場合には、分散媒の昇温を、1~5℃/分で行うことで、発泡時の温度も適切な範囲とすることができる。
【0112】
多層樹脂粒子への発泡剤の含浸が完了した後に、容器の内容物を容器よりも低圧の環境へ放出する。これにより、多層樹脂粒子の芯層が発泡して気泡構造が形成されるとともに、外気によって冷却されて気泡構造が安定化し、発泡粒子が得られる。
【0113】
芯層がポリプロピレン系樹脂から構成されている場合、発泡剤を含浸させる際に以下の態様で加熱及び発泡を行うことが好ましい。すなわち、まず、(ポリプロピレン系樹脂の融点-20℃)以上、(ポリプロピレン系樹脂の融解終了温度)未満の温度で十分な時間、好ましくは10~60分程度保持する一段保持工程を行い、その後、(ポリプロピレン系樹脂の融点-15℃)から(ポリプロピレン系樹脂の融解終了温度+10℃)未満の温度に調節する。そして、必要により、その温度でさらに十分な時間、好ましくは10~60分程度保持する二段保持工程を行う。その後、容器内の温度を(ポリプロピレン系樹脂の融点-10℃)以上とした状態で容器の内容物を外部へ放出させ、多層樹脂粒子を発泡させることが好ましい。発泡時における容器内の温度は、(ポリプロピレン系樹脂の融点)以上(ポリプロピレン系樹脂の融点+20℃)以下であることがより好ましい。このようにして多層樹脂粒子を加熱して発泡させることにより、発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂中に二次結晶を形成し、機械的強度に優れるとともに成形性にも優れた発泡粒子を容易に得ることができる。
【0114】
発泡工程においては、前述したダイレクト発泡法により一段階で多層樹脂粒子を発泡させてもよく、ダイレクト発泡法により得られた発泡粒子をさらに発泡させてもよい。なお、多層樹脂粒子の発泡を二段階で行う場合、一段階目の発泡工程を一段発泡工程といい、一段発泡工程により得られる発泡粒子を一段発泡粒子という。また、二段階目の発泡工程を二段発泡工程という。二段発泡工程により得られる発泡粒子は、二段発泡粒子と呼ばれることもある。
【0115】
多層樹脂粒子を二段階で発泡させる場合の具体的な方法は、例えば以下の通りである。まず、一段発泡工程として、例えば前述したダイレクト発泡法により多層樹脂粒子を発泡させ、一段発泡粒子を得る。その後、一段発泡粒子に内圧を付与する。より具体的には、一段発泡粒子を耐圧容器内に入れた後、耐圧容器内を空気や二酸化炭素等の無機ガスで加圧して一段発泡粒子に無機ガスを含浸させる。これにより、一段発泡粒子の気泡内の圧力を大気圧以上とする。その後、耐圧容器から取り出した一段発泡粒子を、その気泡内の圧力よりも低圧の環境下でスチームや加熱空気などの加熱媒体を用いて加熱することにより一段発泡粒子を二段発泡させる。
【0116】
(発泡粒子成形体)
前記発泡粒子を型内成形することにより、発泡粒子成形体を得ることができる。成形体は、開放気泡構造を有する。開放気泡構造は、成形体の外部と連通した微小な空間部分である。開放気泡構造は、複数の発泡粒子の貫通孔が相互に連通して形成される空隙、発泡粒子の貫通孔が発泡粒子間に形成される空隙と連通して形成される空隙、発泡粒子間の隙間が連通して形成される空隙、成形体を構成する発泡粒子の連続気泡部分などが、複雑につながって形成される。
【0117】
成形体は、例えば、自動車などの車両分野、建築分野等の種々の分野における吸音材、衝撃吸収材、緩衝材等にも用いられる。
【0118】
前記発泡粒子成形体を作製するに当たっては、例えば、前記発泡粒子を成形型内に充填した後、成形型内に加熱媒体としてのスチームを供給して型内成形を行えばよい。具体的には、まず、所望する成形体の形状に対応したキャビティを有する成形型内に、発泡粒子を充填する。発泡粒子の充填が完了した後、成形型内にスチームを供給して発泡粒子を加熱する。成形型内の発泡粒子は、スチームによって加熱され、二次発泡しつつ相互に融着する。これにより、成形型内の発泡粒子を一体化させ、成形体を形成することができる。
【0119】
発泡粒子の加熱が完了した後、成形型内の成形体を冷却して形状を安定させる。その後、成形型から成形体を取り出すことにより、型内成形が完了する。前記製造方法においては、必要に応じて、離型後の成形体を例えば60℃から80℃程度の温度に調整された高温雰囲気下で所定時間静置させる養生工程を行ってもよいが、離型後の成形体に高温雰囲気下での養生工程を行わない場合にも成形体の収縮や変形を抑制することができる。養生工程を省略する場合には、例えば、離型後の成形体をたとえば23℃の環境中で12時間静置することにより、成形体の形状を安定させることができる。
【実施例0120】
前記発泡粒子、発泡粒子成形体及びその製造方法の実施例を説明する。
【0121】
(樹脂)
表1に、発泡粒子の製造に使用した樹脂の性状等を示す。
【0122】
【0123】
〔融点〕
樹脂の融点は、JIS K7121:1987に基づき求めた。具体的には、まず、JIS K7121:1987に記載の「(2)一定の熱処理を行なった後、融解温度を測定する場合」に基づいて樹脂からなる試験片の状態を調節した。なお、状態調節における加熱温度及び冷却温度は10℃/分とし、温度範囲は30℃から200℃とした。状態調節後の試験片を10℃/分の加熱速度で30℃から200℃まで昇温することによりDSC曲線を取得した。そして、DSC曲線に現れた融解ピークの頂点温度を融点とした。測定装置としては、熱流束示差走査熱量測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)社製、型番:DSC7020)を用いた。
【0124】
〔樹脂のメルトマスフローレイト〕
ポリプロピレン系樹脂及びポリエチレン系樹脂のメルトマスフローレイトの測定は、JIS K7210-1:2014に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgの条件で行った。
【0125】
次に、本例において用いた発泡粒子の構成及び製造方法を説明する。
【0126】
(実施例1)
実施例1の発泡粒子1は、
図1~
図3に示すように、円筒状の形状を有するとともに、その内部を軸方向に貫通する貫通孔11を有している。また、実施例1の発泡粒子1は、PP1からなる発泡芯層2と、PP3からなり、発泡芯層2を被覆する非発泡状態の被覆層3とを備えた多層構造を有している。
【0127】
本例の発泡粒子の作製方法は以下の通りである。
【0128】
〔造粒工程〕
本例の造粒工程では、ストランドカット法により多層樹脂粒子を作製した。具体的には、まず、芯層形成用押出機と、被覆層形成用押出機と、これら2台の押出機に接続された共押出ダイとを備えた共押出装置を用い、共押出装置から押し出された押出物を適当な長さに切断して多層樹脂粒子を作製した。具体的には、芯層形成用押出機において、PP1と、着色顔料としてのカーボンブラックと、気泡調整剤としてのホウ酸亜鉛とを溶融混練し、芯層形成用樹脂溶融混練物を得た。なお、ホウ酸亜鉛の配合量はPP1の質量に対して500質量ppmとし、芯層形成用樹脂溶融物へのカーボンブラックの配合量は、芯層形成用樹脂溶融物中において2.7質量%とした。また、これと並行して、被覆層形成用押出機において、PP3と着色顔料としてのカーボンブラックとを溶融混練して被覆層形成用樹脂溶融混練物を得た。被覆層形成用樹脂溶融混練物へのカーボンブラックの配合量は、被覆層形成用樹脂溶融混練物中において2.7質量%とした。
【0129】
これらの樹脂溶融混練物を共押出ダイ内で合流させることにより、非発泡状態の芯層と、芯層の側周面を被覆する非発泡状態の被覆層とからなる複合体を形成した。この複合体を共押出ダイの小孔から押出した後、押出物を引き取りながら水温を10℃に調整した水中で冷却し、ペレタイザーを用いて適当な長さに切断することにより、芯層と該芯層の側周面を被覆する被覆層とからなり、芯層に貫通孔が形成された多層樹脂粒子を得た。多層樹脂粒子における、芯層と被覆層との質量比は、芯層:被覆層=95:5(つまり、被覆層の質量比が5%)とした。また、多層樹脂粒子1個当たりの質量は約1.5mgとした。
【0130】
〔発泡工程〕
本例の発泡工程では、多層樹脂粒子を二段階で発泡させることにより発泡粒子を作製した。一段発泡工程では、ダイレクト発泡法により多層樹脂粒子を発泡させて一段発泡粒子を作製した。具体的には、まず、多層樹脂粒子1kgを、分散媒としての3Lの水とともに5Lの容器内に投入した。次いで、容器内に、多層樹脂粒子100質量部に対して0.3質量部の分散剤と、0.004質量部の分散助剤とを添加し、多層樹脂粒子を分散媒中に分散させた。分散剤としてはカオリンを使用した。また、分散助剤としては界面活性剤(具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)を使用した。
【0131】
その後、容器を密閉した後、容器内に発泡剤としての二酸化炭素を容器内に添加した。そして、容器内を攪拌しながら表2の「発泡温度」欄に記載の温度まで加熱した。このときの容器内圧力(含浸圧力または二酸化炭素圧力ともいう)は表2の「容器内圧力」欄に示す値であった。前述した発泡温度を15分保持した後、容器を開放して内容物を大気圧下に放出することにより、芯層が発泡してなる発泡芯層と、発泡芯層を被覆する非発泡状態の被覆層とを備えた一段発泡粒子を得た。
【0132】
次に、二段発泡工程を行うことにより、一段発泡粒子をさらに発泡させて発泡粒子を得た。具体的には、一段発泡粒子を耐圧容器(具体的には、金属製のドラム)内に入れ、耐圧容器内に空気を供給することにより、容器内の圧力を高め、空気を気泡内に含浸させた。耐圧容器から取り出した一段発泡粒子の気泡の内圧は表2に示す通りであった。その後、一段発泡粒子を金属製のドラムに入れ、ドラム圧力が表2に示す値となるようスチームを供給して一段発泡粒子を加熱することにより、表2に示す見掛け密度を有する発泡粒子を得た。
【0133】
(実施例2)
本例の発泡粒子は、見掛け密度が異なる以外は概ね実施例1の発泡粒子と同様の構成を有している。本例の発泡粒子の作製方法は、二段発泡工程におけるドラム圧力を表2に示すように変更した以外は、実施例1の発泡粒子の製造方法と同様である。
【0134】
(実施例3)
本例の発泡粒子は、発泡芯層を構成する樹脂がPP1からPP2に変更されている以外は概ね実施例1の発泡粒子と同様の構成を有している。本例の発泡粒子の作製方法は、造粒工程において芯層形成用押出機に投入する樹脂をPP1からPP2に変更したこと及び発泡工程の条件を表2に示すよう変更したこと以外は、概ね実施例1の発泡粒子の製造方法と同様である。
【0135】
(実施例4)
本例の発泡粒子は、被覆層を構成する樹脂がPP3からPE1に変更されている以外は概ね実施例1の発泡粒子と同様の構成を有している。本例の発泡粒子の作製方法は、造粒工程において被覆層形成用押出機に投入する樹脂をPP3からPE1に変更した以外は、概ね実施例1の発泡粒子の製造方法と同様である。
【0136】
(実施例5)
本例の発泡粒子は、芯層形成用樹脂溶融混練物及び被覆層形成用樹脂溶融混練物へのカーボンブラックの配合量を、それぞれの混練物中において1.0質量%とした以外は概ね実施例1の発泡粒子と同様の構成を有している。本例の発泡粒子の作製方法は、造粒工程において芯層形成用押出機及び被覆層形成用押出機に投入するカーボンブラックの添加量を各溶融混練物中において1.0質量%となるよう変更した以外は、概ね実施例1の発泡粒子の製造方法と同様である。
【0137】
(比較例1)
本例の発泡粒子は、貫通孔を備えた発泡芯層のみからなる単層構造を有している。本例の発泡粒子の製造方法は、造粒工程において芯層の側周面に被覆層を形成しない以外は概ね実施例1の発泡粒子の製造方法と概ね同様である。
【0138】
(比較例2~4)
比較例2~4の発泡粒子は、被覆層を構成する樹脂がPP3から表3に示す樹脂に変更されている以外は概ね実施例1の発泡粒子1と同様の構成を有している。これらの比較例の発泡粒子の作製方法は、造粒工程において被覆層形成用押出機に投入する樹脂をPP3から表3に示す樹脂に変更した以外は、概ね実施例1の発泡粒子の製造方法と同様である。
【0139】
(参考例1)
本例の発泡粒子は、貫通孔の平均孔径dが表4に示す値に変更されている以外は概ね比較例3の発泡粒子と同様の構成を有している。本例の発泡粒子の作製方法は、造粒工程において用いたダイを、より大きな貫通孔の孔径を有する芯層を形成可能な形状を備えたダイに変更した以外は、概ね比較例3の発泡粒子の製造方法と同様である。
【0140】
(参考例2)
本例の発泡粒子は、貫通孔を有しない点以外は概ね比較例3の発泡粒子と同様の構成を有している。本例の発泡粒子の製造方法は、共押出ダイを、貫通孔が形成されない形状を備えたダイに変更した以外は比較例3の発泡粒子の製造方法と概ね同様である。
【0141】
(参考例3)
本例の発泡粒子は、着色顔料を配合しない点以外は概ね比較例3の発泡粒子と同様の構成を有している。本例の発泡粒子の作製方法は、造粒工程において着色顔料を添加しない点以外は、概ね比較例3の発泡粒子の製造方法と同様である。
【0142】
実施例、比較例及び参考例の発泡粒子の諸特性を表2~表4に示す。表2~表4に示す諸特性の評価方法は以下の通りである。
【0143】
(発泡粒子の評価)
発泡粒子の物性測定及び評価には、相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて24時間静置して状態調節した後の発泡粒子を使用した。
【0144】
〔嵩密度〕
状態調節後の発泡粒子をメスシリンダー内に自然に堆積するようにして充填し、メスシリンダーの目盛から発泡粒子群の嵩体積(単位:L)を読み取った。その後、メスシリンダー内の発泡粒子群の質量(単位:g)を前述した嵩体積で除し、さらに単位換算することにより、発泡粒子の嵩密度(単位:kg/m3)を算出した。
【0145】
〔見掛け密度〕
状態調節後の発泡粒子群の質量を測定した後、温度23℃のエタノールが入ったメスシリンダー内に金網を使用して沈めた。そして、金網の体積を考慮し、水位上昇分より読みとられる発泡粒子群の容積を測定した。このようにして得られた発泡粒子群の質量(単位:g)を容積(単位:L)で除した後、単位を換算することにより、発泡粒子の見掛け密度(単位:kg/m3)を算出した。また、表2~表4の「見掛け密度/嵩密度」欄には、発泡粒子の見掛け密度を嵩密度で除した値を記載した。
【0146】
〔独立気泡率〕
発泡粒子の独立気泡率の測定方法は、前述した通りである。
【0147】
〔貫通孔の平均孔径d〕
状態調節後の発泡粒子群から無作為に100個の発泡粒子を選択し、これらの発泡粒子を、その断面積が最大となる位置において軸方向に垂直な面で切断して発泡粒子の切断面を露出させた。次に、発泡粒子の切断面の写真を撮影し、画像解析を行うことにより、切断面における貫通孔の断面積(つまり、開口面積)を計測した。そして、貫通孔の断面積と同じ面積を有する仮想真円の直径を算出し、この値を個々の発泡粒子における貫通孔の孔径とした。以上の操作を100個の発泡粒子について行い、得られた貫通孔の孔径の算術平均値を、発泡粒子の貫通孔の平均孔径dとした。
【0148】
〔発泡粒子の平均外径D〕
状態調節後の発泡粒子群から無作為に100個の発泡粒子を選択し、これらの発泡粒子を、その断面積が最大となる位置において軸方向に垂直な面で切断して発泡粒子の切断面を露出させた。次に、発泡粒子の切断面の写真を撮影し、画像解析を行うことにより、貫通孔を含めた発泡粒子の断面積(つまり、切断面における発泡粒子の外周端縁により囲まれた領域の面積)を計測した。そして、発泡粒子の断面積と同じ面積を有する仮想真円の直径を算出し、この値を個々の発泡粒子の外径とした。以上の操作を100個の発泡粒子について行い、得られた発泡粒子の外径の算術平均値を、発泡粒子の平均外径Dとした。また、表2~表4の「d/D」欄には、貫通孔の平均孔径dを発泡粒子の平均外径Dで除した値を記載した。
【0149】
〔発泡粒子の平均肉厚t〕
上記の方法により得られた貫通孔の平均孔径d及び発泡粒子の平均外径Dを用い、下記式(3)に基づいて発泡粒子の平均肉厚tを算出した。
t=(D-d)/2 ・・・(3)
【0150】
〔発泡粒子のアスペクト比L/D〕
無作為に選択した100個の発泡粒子について、発泡粒子の軸方向の長さをノギスで測定し、算術平均することにより発泡粒子の軸方向の平均長さLを求めた。得られた発泡粒子の軸方向の平均長さLを前記発泡粒子の平均外径Dで除すことにより、発泡粒子のアスペクト比L/Dを求めた。
【0151】
〔溝の有無及び面積比率〕
まず、以下の方法により、発泡粒子の側周面において、軸方向に延在して形成される溝の有無を判断した。具体的には、発泡粒子を、その断面積が最大となる位置において軸方向に垂直な面で切断して発泡粒子の切断面を露出させた。次に、発泡粒子の切断面の写真を撮影し、得られた断面写真を観察した。そして、観察写真における発泡粒子の輪郭に、周囲よりも内方に陥没している部分がある場合には溝があると判断し、陥没している部分がない場合には溝がないと判断した。また、側周面に溝がある発泡粒子について、以下の方法により溝の面積比率を算出した。
【0152】
まず、状態調節後の発泡粒子群から無作為に100個の発泡粒子を選択し、これらの発泡粒子を、その断面積が最大となる位置において軸方向に垂直な面で切断して発泡粒子の切断面を露出させた。次に、発泡粒子の切断面の写真を撮影し、画像解析を行うことにより貫通孔を除いた発泡粒子の断面積と、溝の断面積の合計とを測定した。そして、これらの値を用い、個々の発泡粒子について、貫通孔を除いた発泡粒子の断面積に対する溝の断面積の合計の比率(単位:%)を算出した。なお、溝の断面積の合計の算出方法は前述した通りである。
【0153】
以上の操作を100個の発泡粒子について行い、得られた溝の断面積の合計の比率の算術平均値を溝の面積比率とした。
【0154】
〔貫通孔の平均円形度Cp〕
状態調節後の発泡粒子群から無作為に100個の発泡粒子を選択し、これらの発泡粒子を、その断面積が最大となる位置において軸方向に垂直な面で切断して発泡粒子の切断面を露出させた。次に、発泡粒子の切断面の写真を撮影し、画像解析を行うことにより個々の発泡粒子の貫通孔の断面積Sp及び貫通孔の周囲長Lpを計測した。そして、これらの値を用い、下記式(1)に基づいて個々の発泡粒子における貫通孔の円形度を算出した。
貫通孔の円形度=4πSp/(Lp×Lp)・・・(1)
【0155】
このようにして得られた100個の発泡粒子における貫通孔の円形度の算術平均値を、貫通孔の平均円形度Cpとした。
【0156】
〔発泡粒子の外周縁の平均円形度Cb〕
状態調節後の発泡粒子群から無作為に100個の発泡粒子を選択し、これらの発泡粒子を、その断面積が最大となる位置において軸方向に垂直な面で切断して発泡粒子の切断面を露出させた。次に、発泡粒子の切断面の写真を撮影し、画像解析を行うことにより、貫通孔を含めた発泡粒子の断面積Sb及び発泡粒子の外周縁の周囲長Lbを計測した。そして、これらの値を用い、下記式(2)に基づいて個々の発泡粒子における外周縁の円形度を算出した。
発泡粒子の外周縁の円形度=4πSb/(Lb×Lb)・・・(2)
【0157】
このようにして得られた100個の発泡粒子における外周縁の円形度の算術平均値を、発泡粒子の外周縁の平均円形度Cbとした。なお、表2~表4の「円形度の比 Cb/Cp」欄には発泡粒子の外周縁の平均円形度Cbを貫通孔の平均円形度Cpで除した値を記載し、「円形度の差の絶対値 |Cp-Cb|」欄には発泡粒子の外周縁の平均円形度Cbと貫通孔の平均円形度Cpとの差の絶対値を記載した。
【0158】
(成形体の評価)
実施例、比較例及び参考例の発泡粒子を用い、以下の方法により成形体を作製した。まず、発泡粒子を23℃で24時間乾燥させた後、空気を含浸させて発泡粒子に表2~4に示す内圧を付与した。次に、クラッキング充填法により縦300mm×横250mm×厚さ60mmの平板成形型に発泡粒子を充填した。充填時のクラッキング量(具体的には、厚さ方向の内寸法に対する成形型の型開き量の比率)は10%とし、充填が完了した後、成形型を厚み方向に型締めして発泡粒子を機械的に圧縮した。
【0159】
次に、成形型内にスチームを供給して型内成形を行った。型内成形においては、まず、成形型のドレン弁を開放した状態で成形型内にスチームを5秒間供給して予備加熱を行った。次いで、ドレン弁を閉鎖し、本加熱時の成形圧より0.08MPa(G)低い圧力に達するまで、成形型の一方の面側からスチームを供給して第1の一方加熱を行った。次に、本加熱時の成形圧より0.04MPa(G)低い圧力に達するまで成形型の他方の面側よりスチームを供給して第2の一方加熱を行った。その後、成形型の両面から表2~表4に示す本加熱時の成形圧に達するまで成形型の両面からスチームを供給して本加熱を行った。本加熱が完了した後、成形型内の圧力を解放し、成形体の発泡力による表面圧力が0.04MPa(G)になるまで成形型内において成形体を水により冷却した。成形型内における冷却に要した時間は表2~表4の「冷却時間」欄に示す通りであった。なお、本加熱時の成形圧は、実施例2を除いては成形体の密度が概ね30kg/m3となるように設定した。
【0160】
その後、成形型から取り出した発泡粒子成形体を80℃のオーブン中で12時間静置する養生工程を行った。養生工程後、発泡粒子成形体を相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて24時間静置した後、所得性の評価を行った。
【0161】
〔成形体の密度〕
成形体の質量(単位:g)を成形体の外形寸法から求められる体積(単位:L)で除した後、単位換算することにより成形体の密度(単位:kg/m3)を算出した。
【0162】
〔50%圧縮応力σ50〕
成形体の中心部から、縦50mm×横50mm×厚み25mmの四角柱形状を有し、スキン面、つまり、型内成形時に成形型の内表面と接触していた面を含まない試験片を切り出した。JIS K6767:1999に基づき、圧縮速度10mm/分にて圧縮試験を行うことにより成形体の50%圧縮応力σ50(単位:kPa)を求めた。
【0163】
〔外観〕
(表面性)
成形体の表面を観察し、表面性を下記基準に基づいて評価した。
A:成形体の表面に粒子間隙が少なく、かつ貫通孔等に起因する凹凸が目立たない良好な表面状態を示す。
B:成形体の表面に粒子間隙および/または貫通孔等に起因する凹凸がやや認められる。
C:成形体の表面に粒子間隙および/または貫通孔等に起因する凹凸が著しく認められる。
【0164】
(筋状模様の数及びその評価)
成形体の表面のうち、縦300mm×横250mmの面の中央に、一辺5cmの正方形状の観察領域を設定した。この観察領域内に存在する発泡粒子を目視観察し、発泡粒子に形成された筋状模様の数を数えた。
図7に、観察領域の一例を模式的に示す。また、
図8に、実施例1の発泡粒子を用いて得られた成形体E1の表面の写真を示し、
図9に、比較例3の発泡粒子を用いて得られた成形体C3の表面の写真を示す。
図7~
図9に示すように、筋状模様16を有しない発泡粒子1aの表面は概ね平滑である。一方、
図7及び
図9に示すように、筋状模様16は、発泡粒子1bの表面を通り、周囲よりも色の薄い直線状の模様として観察される。なお、観察領域内の発泡粒子1の表面には、貫通孔11が現れていることがある。
【0165】
観察領域内に現れた筋状模様の数(単位:個/25cm2)は表2~表4の「筋状模様の数」欄に示す通りであった。また、計測された筋状模様の数をもとに以下の基準により評価した。
A:筋状模様の数が10個/25cm2未満
B:筋状模様の数が10個/25cm2以上60個/25cm2未満
C:筋状の数が60個/25cm2以上
【0166】
【0167】
【0168】
【0169】
表2に示したように、実施例1~5の発泡粒子は、貫通孔を備えた筒状の形状を有しており、貫通孔の平均孔径d及び貫通孔の平均孔径dと発泡粒子の平均外径Dとの比d/Dがそれぞれ前記特定の範囲内である。また、これらの実施例の発泡粒子は、発泡芯層と、発泡芯層を被覆する被覆層とを有しており、被覆層を構成するポリオレフィン系樹脂のメルトマスフローレイトMFRSが前記特定の範囲内である。そのため、これらの実施例の発泡粒子を用いて型内成形を行うことにより、成形体の表面における筋状模様の形成を抑制し、良好な外観を有する成形体を得ることができた。
【0170】
一方、表3に示したように、比較例1の発泡粒子は被覆層を有しないため、成形体の表面に筋状模様が形成されやすかった。
【0171】
比較例2~4の発泡粒子における被覆層は、メルトマスフローレイトMFRSが前記特定の範囲よりも低いポリオレフィン系樹脂から構成されている。そのため、成形体の表面に筋状模様が形成されやすかった。
【0172】
表4に示すように、参考例1の発泡粒子における貫通孔の平均孔径dは前記特定の範囲よりも大きい。また、参考例2の発泡粒子は、貫通孔を有していない。表4に示すように、これらの参考例の発泡粒子は、被覆層を構成するポリオレフィン系樹脂のメルトフローレイトが前記特定の範囲よりも低いにもかかわらず、その発泡粒子からなる成形体の表面に筋状模様はほとんど形成されていない。従って、実施例1~5及び比較例1~4と参考例1~2との比較から、成形体の表面への筋状模様の形成は、貫通孔を有するとともに、貫通孔の平均孔径dが前記特定の範囲内である発泡粒子に特有の問題であることが理解できる。なお、参考例1の発泡粒子は貫通孔の平均孔径が過度に大きく成形体の表面性が劣っていた。また、参考例2の発泡粒子は貫通孔を有しておらず、成形圧が高くなっていた。
【0173】
また、参考例3の発泡粒子は、着色顔料を含有していない。表4に示すように、これらの参考例の発泡粒子は、被覆層を構成するポリオレフィン系樹脂のメルトフローレイトが前記特定の範囲よりも低いにもかかわらず、その発泡粒子からなる成形体の表面に筋状模様は観察されなかった。これは、発泡粒子における溝の面積比率が比較的小さいことや、白色であるため筋模様が観察されなかったこと等が理由であると考えられる。従って、実施例1~5及び比較例1~4と参考例3との比較から、成形体の表面への筋状模様の形成は、着色剤としてのカーボンブラックが含有されている場合により生じやすい問題であることが理解できる。
【0174】
以上、実施例に基づいて本発明に係るポリプロピレン系樹脂発泡粒子及びその製造方法の具体的な態様を説明したが、本発明に係るポリプロピレン系樹脂発泡粒子及びその製造方法の具体的な態様は実施例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。