(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180031
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】風速測定装置
(51)【国際特許分類】
G01P 5/10 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
G01P5/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099448
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】星野 祐太
(57)【要約】
【課題】恒温槽付発振器を風速感知部として用いた風速測定装置を提供する。
【解決手段】風速測定装置は、外壁面を風速感知部としていて風速により周波数が変化し気密封止構造を有した恒温槽付発振器と、前記風速及び前記周波数の関係を予め格納している記憶部と、前記周波数を測定する測定部と、前記測定した周波数を前記記憶部に入力し前記入力した周波数に対応する風速を抽出する制御部と、を備える。そして、前記恒温槽付発振器は、恒温槽付水晶発振器である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外壁面を風速感知部としていて風速により周波数が変化し気密封止構造を有した恒温槽付発振器と、前記風速及び前記周波数の関係を予め格納している記憶部と、前記周波数を測定する測定部と、前記測定した周波数を前記記憶部に入力し前記入力した周波数に相当する風速を抽出する制御部と、を備えたことを特徴とする風速測定装置。
【請求項2】
前記恒温槽付発振器は、恒温槽付水晶発振器であることを特徴とする請求項1に記載の風速測定装置。
【請求項3】
前記外壁面は、金属製の容器で構成された外壁面の一部であることを特徴とする請求項1に記載の風速測定装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記測定部から定期的に前記周波数を取り込み、前記取り込んだ周波数に基づく情報を閾値と比較し、前記閾値を超えた場合に前記情報を前記記憶部に入力するものであることを特徴とする請求項1に記載の風速測定装置。
【請求項5】
前記抽出された風速を表示する表示部をさらに備えたことをとする請求項1に記載の風速測定装置。
【請求項6】
前記恒温槽付発振器は、恒温槽付水晶発振器であり、
前記恒温槽付水晶発振器は、外側容器として金属製容器を有し、
前記風速感知部を、前記金属製容器の外壁の一部で構成してあり、
前記制御部は、前記測定部から定期的に前記周波数を取り込み、前記取り込んだ周波数を閾値と比較し、前記閾値を超えた場合に前記取り込んだ周波数を前記記憶部に入力するものであり、
前記抽出された風速を表示する表示部をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の風速測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、恒温槽付発振器を使用した風速測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築物内の快適性を保つために換気ダクト内やエアコンの風速の測定や、クリーンルーム内環境の管理項目の1つである風速値を管理するツールとして、熱式風速計がある。熱式風速計は、センサ部に発熱体を用いており、この部分の温度は周囲温度より高くなっている。ここに風が当たることでセンサ部の温度が降下し、この降下の程度を抵抗値の変化として捉えることにより、風速を検出している。センサ部には、白金やサーミスタが使用されることが多い。
特許文献1に記載の熱式風速計は、センサ部の熱線を支持する支柱の断面形状を、熱線の張られている方向に対して流線形にすることにより、風の吹く方向に左右されず、風速を検知することができるといったものである(特許文献1の2頁3行目~3頁2行目)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の熱式風速計のセンサ部は、剥き出しになっており、湿度の多い環境下の使用では、水分がセンサ部に付着し温度降下が生じるため、センサ部の温度が本来の温度ではなくなり、測定誤差が発生する可能性がある。また、この出願に係る発明者が市販の熱式風速計を調べたところ、熱式風速計は、-20~70℃の間で動作保証されているものが多いことが分かった。現行の熱式風速計は動作温度が狭いため、使用環境が制限されてしまう恐れがある。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、従ってこの出願の目的は、恒温槽付発振器を風速感知部として用いた風速測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的の達成を図るため、この発明の風速測定装置によれば、外壁面を風速感知部としていて風速により周波数が変化し気密封止構造を有した恒温槽付発振器と、前記風速及び前記周波数の関係を予め格納している記憶部と、前記周波数を測定する測定部と、前記測定した周波数を前記記憶部に入力し前記入力した周波数に相当する風速を抽出する制御部と、を備えたことを特徴とする。なお、風速と風量とは所定の関係があり、また、風速と風圧とは所定の関係あるので、この発明に係る風速測定装置は、所定の換算式を用いることで、風量や風圧も測定し得るものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明の風速測定装置によれば、風速感知部として気密封止構造を有した恒温槽付発振器を使用している。気密封止構造を有しているため、湿度の多い環境下で使用した際に、水分が恒温槽付発振器の内部に侵入しないので、水分の影響による測定誤差が発生する恐れが少ない。また、一般に恒温槽付発振器は、広い動作温度保証、例えば―40~85℃の間で動作温度保証しているため、従来に比べより低温やより高温の環境下でも使用でき、使用環境の幅が広がる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の風速測定装置の実施形態のブロック図である。
【
図2】(A)図は、恒温槽付発振器10の斜視図、(B)図は、恒温槽付発振器10の断面図である。
【
図4】本発明の風速測定装置のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照してこの発明の風速測定装置100の実施形態についてそれぞれ説明する。
なお、説明に用いる各図はこの発明を理解できる程度に概略的に示してあるにすぎない。また、説明に用いる各図において、同様な構成成分については同一の番号を付して示し、その説明を省略する場合もある。また、以下の説明で述べる形状、材質等はこの発明の範囲内の好適例に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0010】
図1は、本発明の風速測定装置100の実施形態のブロック図である。風速測定装置100は、恒温槽付発振器10と、記憶部20と、測定部30と、制御部40と、表示部50と、を備えている。この実施形態では、恒温槽付発振器10として恒温槽付水晶発振器の例を説明する。
【0011】
図2(A)は、恒温槽付水晶発振器10の斜視図、
図2(B)は、図(A)のa-a’線に沿って切った断面図である。恒温槽付水晶発振器10は、
図2に示したように、金属製の容器11と、温度センサ12と、基板13と、温度センサ出力に応じて容器温度を一定に制御するヒータ回路14と、発振素子15と、発振回路等16と、を備えている。
詳細には、金属製の容器11は、直方体であり内側に凹部形状となっているキャップ型の金属製の蓋11aと、外部接続ピン11bを有した金属製のベース11cと、を気密封止した構造をしており、その内部に平面視矩形状のガラスエポキシ製の基板13があり、基板13の表裏に、温度センサ12、ヒータ回路14、発振素子15及び発振回路等16が搭載され電気的に接続されている。また、基板13は、外部接続ピン11bと半田を介して接続している。温度センサ12、ヒータ回路14、発振素子15及び発振回路等16は、基板13の表裏一方の面に搭載しても良いし、熱伝導を考慮して表裏に搭載しても良い。
ヒータ回路14は、温度センサ12と協働して金属製の容器11内の温度を制御する。従って、金属製の容器11内の温度を一定に保つことができるため、恒温槽付水晶発振器10の出力周波数の変化を小さく抑えることができる。従って、風速測定装置100のスタンバイ状態の周波数を一定状態に保つことができるので、風速変化が生じた際の当該変化に応じた周波数変動を検出し易くできる。
風速測定装置100において、上記した恒温槽付水晶発振器10は風速感知部として用いられており、上記した金属製の容器11の外壁面に風が当たることにより、ヒータ回路14で一定に保たれていた恒温槽付水晶発振器10の内部温度が下がり、その温度降下分に相当した周波数がずれる。この周波数ずれは恒温槽付水晶発振器10の機能によって所定時間内に復帰するが、このずれが生じている間の情報を利用して本発明では風速を測定する。実施形態において、外壁面は5面あるが、風が当たる面の面積が広い方が風が当たった際の温度降下が大きくなるため、天面に風を当てるのが好ましい。
本発明において発振素子15は、任意のもので良く、水晶を用いたものや、セラミックを用いたものや、MEMS、例えばシリコンMEMSを用いたものでも良いが、風速検知のために高い周波数精度が必要なので、ATカットやいわゆる2回回転の水晶振動子、例えばSCカットの水晶振動子が良い。特に実績のある2回回転の水晶振動子を用いたものであることが好ましい。
【0012】
記憶部20は、予め測定しておいた恒温槽付水晶発振器10の例えば周波数偏差Δf/fと風速との関係を格納しているものである。記憶部20の情報は、詳細は後述するが、以下のように利用される。すなわち、測定部30で測定した周波数に基づき制御部40が算出した情報(ここでは上記のΔf/f)を制御部40は記憶部20に入力し、かつ、記憶部20からこの周波数変化情報に応じた風速を抽出して利用する。
記憶部20に格納してある情報は、具体的には、実際に風速測定装置100に使用する恒温槽付水晶発振器10の金属製の容器11の外壁面に1[m/s]、2[m/s]・・・と風速を変化させて風を当て、その時の周波数を測定することで求めたものである。
図3に周波数偏差Δf/fと風速との関係の一例を示したグラフを示す。なお、
図2の検量線は一例であり、金属製の容器11の外壁の風が当たる面の面積を変更や、表面形状を工夫すること等を行うと、検量線の傾きを変えることによって、風に対する感度、すなわち風速測定の分解能を向上させることができる。
【0013】
測定部30は、恒温槽付水晶発振器10から出力された周波数を測定するものである。測定部30は、例えば周波数カウンタで構成できる。恒温槽付水晶発振器10は高精度なため、周波数精度はppbオーダーであり、その周波数を精度よく測定するため、測定部30で使用する周波数カウンタは、数十psの分解能があるものが良い。
【0014】
制御部40は、測定部30で測定した周波数を時間tnでモニタリングし取り込む監視部41と、監視部41が取り込んだ周波数の変化を計算する計算部42と、計算部42が計算した値が風速判断するべきものかを判断する判断部43と、を備えている。計算部42は、例えば時間tnごとに、すなわち時刻t1と時刻t2との周波数差を基準周波数で正規化した周波数偏差Δf/fを計算する構成とできる。判断部43は、前記Δf/fが閾値fth以上になっているか否かによって、当該判断をする構成とできる。なお、計算部42は、周波数偏差Δf/fではなく周波数差Δfを算出し、判断部43は、周波数差Δfを用いて当該判断をするものでも良い。制御部40の詳しい機能については後述する。
【0015】
表示部50は、制御部40が記憶部20から抽出した風速を表示する。表示部50は、デジタル表示をするものでも良いし、例えば針と数字板のようなアナログ表示するものでも良いし、モニターでも良い。
【0016】
図4に風速測定装置100における制御部40以降の機能を表したフローチャートを示す。
測定部30は、常時動作しており恒温槽付水晶発振器10の周波数を測定している。
【0017】
まず、ステップS1において、常時動作の測定部30の周波数を時間tnの間隔で定期的に取得する。これにより、時間t1、t2、t3・・・の時の周波数f1、f2、f3・・・が取得できる。ステップ2では、隣り合う時間における周波数の差分を計算する。具体的には、定期的に取得した時間t1の時の周波数f1と、時間t2の時の周波数f2と、の差である周波数偏差Δf/f(f2-f1)を算出する。
【0018】
次いでステップ3では、ステップ2で算出した周波数偏差Δf/fを、予め設定しておいた閾値fthと比較し、周波数偏差Δf/fが閾値fth以上であるか判断する。ステップ3において、周波数偏差Δf/fが閾値fth以上であると判断されると、ステップ4において周波数偏差Δf/fを記憶部2に入力する。そして、ステップ5において、入力された周波数偏差Δf/fに相当する風速を記憶部2に格納してあるデータから読み出し抽出する。そして、ステップ6において、抽出した風速を制御部4に入力し、ステップ7では、制御部4から表示部5へ風速を入力し、例えばモニターで風速を表示する。ここで、閾値fthは、風速に起因した周波数変動を風速測定に用いるようにするために予め定めた任意の値であり、微小ノイズ等を排除するものである。
【0019】
一方、ステップ3において、周波数偏差Δf/fが閾値fth未満であると判断された場合は、ステップ1~ステップ3を繰り返す。
【0020】
本発明の風速測定装置100は、気密封止構造の恒温槽付水晶発振器10を風速感知部として用いたものであるため、内部に水分が侵入しないのでそれに起因する不具合を排除できるから、周囲環境に左右されることなく風速を感知することができる。また、恒温槽付水晶発振器10は、一般に広い動作温度保証をしており、例えば動作温度範囲が―40~85℃と広いため、従来の熱式風速計を使用できなかった高温または低温環境でも使用することができ、風速測定装置100を使用する環境の選択肢が広がる。
【0021】
実施形態では、外壁面を有した金属製の容器11で構成された恒温槽付発振器10について説明した。金属製であると、風に対する応答性が金属製でない場合に比べ高まるので、恒温槽付発振器10の風速起因の温度変化が生じ易いためである。例えば金属製の容器11は、熱伝導率を考慮すると銅やアルミニウムで構成することが好ましい。なお、金属製の一枚板の蓋部材と凹部形状のセラミックパッケージとで構成された恒温槽付発振器10を、風速測定装置100に使用することができる。この場合は、外壁面がセラミックのため、金属製の蓋部材の面に風を当てることで、同様の効果が得られる。また、恒温槽付発振器10において、風が当たる面の面積を広くすることにより、風が当たった際の温度降下が大きくなるため、風速測定の分解能が上がると見込まれる。
【符号の説明】
【0022】
10:恒温槽付発振器(恒温槽付水晶発振器)
11:金属製の容器 11a:金属製の蓋
11b:外部接続ピン 11c:金属製のベース
12:温度センサ 13:基板
14:ヒータ回路 15:発振素子
16:発振回路等 20:記憶部
30:測定部 40:制御部
41:監視部 42:計算部
43:判断部 50:表示部
100:風速測定装置