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特開2024-180041検査方法、検査システム、検査装置、レーダ装置及び検査プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180041
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】検査方法、検査システム、検査装置、レーダ装置及び検査プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 22/00 20060101AFI20241219BHJP
   G01N 22/04 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
G01N22/00 S
G01N22/00 X
G01N22/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099463
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一聡
(72)【発明者】
【氏名】馬場 祐
(57)【要約】
【課題】壁体の内部状態の検査に際し、使用性を向上させることが可能な検査方法、検査システム、検査装置、レーダ装置及び検査プログラムを提供する。
【解決手段】検査システムは、建築物の壁体に対して電磁波を放射し、放射した電磁波に起因する受信波を受信するレーダ装置1と、反射波を受信して得られた受信波情報に基づいて壁体内部の状態を検査する検査装置とを備える。検査の対象となる対象壁体に対して得られた受信波情報は、放射の深度方向を含む座標上に、受信した反射波の振幅の大きさに基づく測定値をマッピングしてある。検査システムは、対象壁体に係る測定値と比較するマッピングされた比較値を取得する取得手段と、受信波情報に係る測定値を、取得した比較値と座標毎に比較する比較手段と、比較結果に基づいて、対象壁体内部の状態を判定する判定手段とを備える。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の壁体に対して電磁波を放射し、放射した電磁波に起因する受信波を受信するレーダ装置を用い、受信波を受信して得られた受信波情報に基づいて壁体内部の状態を検査する検査方法であって、
検査の対象となる対象壁体に放射して得られた前記受信波情報は、
放射の深度方向を含む座標上に、受信した反射波の振幅の大きさに基づく測定値をマッピングしてあり、
対象壁体において予測される経年に伴う変動を含むマッピングされた比較値を取得するステップと、
受信波情報に係る測定値を、取得した比較値と比較するステップと、
比較結果に基づいて、対象壁体内部の状態を判定するステップと
を実行することを特徴とする検査方法。
【請求項2】
建築物の壁体に対して電磁波を放射し、放射した電磁波に起因する受信波を受信するレーダ装置を備え、受信波を受信して得られた受信波情報に基づいて壁体内部の状態を検査する検査システムであって、
検査の対象となる対象壁体に放射して得られた前記受信波情報は、
放射の深度方向を含む座標上に、受信した反射波の振幅の大きさに基づく測定値をマッピングしてあり、
対象壁体において予測される経年に伴う変動を含むマッピングされた比較値を取得する取得手段と、
受信波情報に係る測定値を、取得した比較値と比較する比較手段と、
比較結果に基づいて、対象壁体内部の状態を判定する判定手段と
を備えることを特徴とする検査システム。
【請求項3】
請求項2に記載の検査システムであって、
建築物の構造を示す物件情報を記憶している物件情報データベースから、対象壁体を含む建築物の物件情報を抽出する構造抽出手段と、
抽出した構造を含む物件情報に基づいて、比較値を設定する比較値設定手段と
を備え、
前記取得手段は、前記比較値設定手段が設定した比較値を取得する
ことを特徴とする検査システム。
【請求項4】
請求項2に記載の検査システムであって、
建築物の過去の検査結果を記憶している履歴データベースから、対象壁体の過去の検査結果を示す実績情報を抽出する実績抽出手段と、
抽出した実績情報に基づいて、比較値を設定する比較値設定手段と
を備え、
前記取得手段は、比較値設定手段が設定した比較値を取得する
ことを特徴とする検査システム。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の検査システムであって、
前記比較値設定手段は、抽出した複数の情報を合成してマッピングした結果に基づいて比較値を設定する
ことを特徴とする検査システム。
【請求項6】
請求項3又は請求項4に記載の検査システムであって、
検査時期又は検査時期の外部環境を示す環境因子情報を取得する環境取得手段と、
前記比較値設定手段が設定した比較値を、取得した環境因子情報に基づいて補正する補正手段と
を備え、
前記取得手段は、前記補正手段が補正した比較値を設定する
ことを特徴とする検査システム。
【請求項7】
建築物の壁体に対して放射された電磁波に起因する受信波を受信して得られた受信波情報に基づいて壁体内部の状態を検査する検査装置であって、
検査の対象となる対象壁体に放射して得られた受信波情報は、
放射の深度方向を含む座標上に、受信した反射波の振幅の大きさに基づく測定値をマッピングしてあり、
対象壁体において予測される経年に伴う変動を含むマッピングされた比較値を取得する手段と、
受信波情報に係る測定値を、取得した比較値と比較する手段と、
比較結果に基づいて、対象壁体内部の状態を判定する手段と
を備えることを特徴とする検査装置。
【請求項8】
建築物の壁体に対して電磁波を放射し、放射した電磁波に起因する受信波を受信する機能を備え、受信波を受信して得られた受信波情報に基づいて壁体内部の状態を検査するレーダ装置であって、
検査の対象となる対象壁体に放射して得られた受信波情報は、
放射の深度方向を含む座標上に、受信した反射波の振幅の大きさに基づく測定値をマッピングしてあり、
対象壁体において予測される経年に伴う変動を含むマッピングされた比較値を取得する手段と、
受信波情報に係る測定値を、取得した比較値と比較する手段と、
比較結果に基づいて、対象壁体内部の状態を判定する手段と
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項9】
コンピュータに、建築物の壁体に対して放射された電磁波に起因する受信波を受信して得られた受信波情報に基づいて壁体内部の状態を検査する処理を実行させる検査プログラムであって、
検査の対象となる対象壁体に放射して得られた受信波情報は、
放射の深度方向を含む座標上に、受信した反射波の振幅の大きさに基づく測定値をマッピングしてあり、
対象壁体において予測される経年に伴う変動を含むマッピングされた比較値を取得するステップと、
受信波情報に係る測定値を、取得した比較値と比較するステップと、
比較結果に基づいて、対象壁体内部の状態を判定するステップと
を実行させることを特徴とする検査プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、レーダ装置を用いて建築物内部の状態を検査する検査方法及び検査システム、そのような検査方法に用いられる検査装置及びレーダ装置、並びにそのような検査装置を実現するための検査プログラムを開示する。
【背景技術】
【0002】
構造物の内部状態を、電磁波レーダを利用して非破壊で診断する技術が普及している。また、建築、土木等の分野では、コンクリート構造物の内部の鉄筋の位置確認の他、空洞、クラック等の異常の有無の検査に電磁波レーダを利用した非破壊検査が用いられている。電磁波レーダを利用した非破壊検査では、主に、マイクロ波、ミリ波、センチ波、テラヘルツ波(サブミリ波)等の周波数帯の電磁波が利用される。
【0003】
また、例えば、特許文献1として、本願出願人は、レーダ装置を用い、木造建築物の壁体について、木材の腐朽が生じているおそれのある部位を合理的に発見することができる劣化診断方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-183919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1として提案された劣化診断方法は、実用性が高く、様々な技術レベルの技術者が簡便に判断できるように、様々な改良が求められている。
【0006】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされてものであり、使用性を向上させる検査方法及び検査システムの提供を主たる目的とする。
【0007】
また、本発明は、本発明に係る検査方法にて用いられる検査装置及びレーダ装置の提供を他の目的とする。
【0008】
また、本発明は、本発明に係る検査装置を実現する検査プログラムの提供を更に他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本願開示の検査方法は、建築物の壁体に対して電磁波を放射し、放射した電磁波に起因する受信波を受信するレーダ装置を用い、受信波を受信して得られた受信波情報に基づいて壁体内部の状態を検査する検査方法であって、検査の対象となる対象壁体に放射して得られた前記受信波情報は、放射の深度方向を含む座標上に、受信した反射波の振幅の大きさに基づく測定値をマッピングしてあり、対象壁体において予測される経年に伴う変動を含むマッピングされた比較値を取得するステップと、受信波情報に係る測定値を、取得した比較値と比較するステップと、比較結果に基づいて、対象壁体内部の状態を判定するステップとを実行することを特徴とする。
【0010】
更に、本願開示の検査システムは、建築物の壁体に対して電磁波を放射し、放射した電磁波に起因する受信波を受信するレーダ装置を備え、受信波を受信して得られた受信波情報に基づいて壁体内部の状態を検査する検査システムであって、検査の対象となる対象壁体に放射して得られた前記受信波情報は、放射の深度方向を含む座標上に、受信した反射波の振幅の大きさに基づく測定値をマッピングしてあり、対象壁体において予測される経年に伴う変動を含むマッピングされた比較値を取得する取得手段と、受信波情報に係る測定値を、取得した比較値と比較する比較手段と、比較結果に基づいて、対象壁体内部の状態を判定する判定手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
また、本願開示の検査システムにおいて、建築物の構造を示す物件情報を記憶している物件情報データベースから、対象壁体を含む建築物の物件情報を抽出する構造抽出手段と、抽出した構造を含む物件情報に基づいて、比較値を設定する比較値設定手段とを備え、前記取得手段は、前記比較値設定手段が設定した比較値を取得することを特徴とする。
【0012】
また、本願開示の検査システムにおいて、建築物の過去の検査結果を記憶している履歴データベースから、対象壁体の過去の検査結果を示す実績情報を抽出する実績抽出手段と、抽出した実績情報に基づいて、比較値を設定する比較値設定手段とを備え、前記取得手段は、比較値設定手段が設定した比較値を取得することを特徴とする。
【0013】
また、本願開示の検査システムにおいて、前記比較値設定手段は、抽出した複数の情報を合成してマッピングした結果に基づいて比較値を設定することを特徴とする。
【0014】
また、本願開示の検査システムにおいて、検査時期又は検査時期の外部環境を示す環境因子情報を取得する環境取得手段と、前記比較値設定手段が設定した比較値を、取得した環境因子情報に基づいて補正する補正手段とを備え、前記取得手段は、前記補正手段が補正した比較値を設定することを特徴とする。
【0015】
更に、本願開示の検査装置は、建築物の壁体に対して放射された電磁波に起因する受信波を受信して得られた受信波情報に基づいて壁体内部の状態を検査する検査装置であって、検査の対象となる対象壁体に放射して得られた受信波情報は、放射の深度方向を含む座標上に、受信した反射波の振幅の大きさに基づく測定値をマッピングしてあり、対象壁体において予測される経年に伴う変動を含むマッピングされた比較値を取得する手段と、受信波情報に係る測定値を、取得した比較値と比較する手段と、比較結果に基づいて、対象壁体内部の状態を判定する手段とを備えることを特徴とする。
【0016】
更に、本願開示のレーダ装置は、建築物の壁体に対して電磁波を放射し、放射した電磁波に起因する受信波を受信する機能を備え、受信波を受信して得られた受信波情報に基づいて壁体内部の状態を検査するレーダ装置であって、検査の対象となる対象壁体に放射して得られた受信波情報は、放射の深度方向を含む座標上に、受信した反射波の振幅の大きさに基づく測定値をマッピングしてあり、対象壁体において予測される経年に伴う変動を含むマッピングされた比較値を取得する手段と、受信波情報に係る測定値を、取得した比較値と比較する手段と、比較結果に基づいて、対象壁体内部の状態を判定する手段とを備えることを特徴とする。
【0017】
更に、本願開示の検査プログラムは、コンピュータに、建築物の壁体に対して放射された電磁波に起因する受信波を受信して得られた受信波情報に基づいて壁体内部の状態を検査する処理を実行させる検査プログラムであって、検査の対象となる対象壁体に放射して得られた受信波情報は、放射の深度方向を含む座標上に、受信した反射波の振幅の大きさに基づく測定値をマッピングしてあり、対象壁体において予測される経年に伴う変動を含むマッピングされた比較値を取得するステップと、受信波情報に係る測定値を、取得した比較値と比較するステップと、比較結果に基づいて、対象壁体内部の状態を判定するステップとを実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本願開示の検査方法等は、レーダ装置から建築物に電磁波を放射して得られた受信波情報に基づいて、受信波情報にマッピングされた測定値を比較値と比較することにより、建築物内部の状態を判定する。これにより、本願開示の検査方法等は、使用性を向上させることが可能である等、優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本願開示の検査システムの実施例を概念的に示す説明図である。
図2】本願開示の検査システムの実施例を概念的に示す説明図である。
図3】本願開示の検査システムにて用いられるレーダ装置に係る受信波情報の一例を概念的に示す説明図である。
図4】本願開示の検査方法に係る受信波情報における含水率及び輝度の関係の一例を示すグラフである。
図5】本願開示の検査システムにて用いられるレーダ装置及び検査装置の内部回路の概要の一例を示すブロック図である。
図6】本願記載の検査システムにて用いられる比較値データベースの記憶内容の一例を概念的に示す説明図である。
図7】本願開示の検査システムにて用いられる検査装置の検査準備処理の一例を示すフローチャートである。
図8】本願開示の検査システムにて用いられる検査装置の検査準備処理の一例を概念的に示す説明図である。
図9】本願開示の検査システムにて用いられるレーダ装置が実行する計測処理の一例を示すフローチャートである。
図10】本願開示の検査システムにて用いられる検査装置が実行する判定処理の一例を示すフローチャートである。
図11】本願開示の検査システムにて用いられる検査装置の判定処理の一例を概念的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳述する。なお、以下の実施形態は、本発明を具現化した一例であって、本発明の技術範囲を限定する性格のものではない。
【0021】
<適用例>
本願開示の検査方法は、建築物の壁体を検査の対象とし、特に、木造柱等の木造部分を含む壁体を対象壁体とする内部の状態の検査に用いられる。内部状態の検査は、対象壁体の外部から内部へ向けて、電磁波を放射し、その結果得られる受信波情報に基づいて、主として含有水分に起因する劣化状態を判定することにより行う。以下では、図面を参照しながら、図面に記載された電磁波を放射するレーダ装置1及び受信波情報に基づいて劣化状態を判定する検査装置2を用いて、建築物の対象壁体3を検査する検査システムとして実装する形態を例示して説明する。
【0022】
<概要>
図1及び図2は、本願開示の検査システムの実施例を概念的に示す説明図である。図1及び図2は、本願開示の検査方法を、木造柱を含む建築物の検査に用いた形態を例示している。図1及び図2において、検査の対象となる壁体を、対象壁体3として説明する。図1は、建築物の外側からの視点で示す斜視図であり、図2は、上方からの視点で対象壁体3及びレーダ装置1の配置を概念的に示す上面図である。図1及び図2において、X軸は、対象壁体3の外面に平行な水平方向を示し、Y軸は、電磁波を放射する外部から内部への深度方向を示している。図1及び図2に例示する形態において、レーダ装置1は、対象壁体3に対し、外部から内部に向けて電磁波を放射する。レーダ装置1から放射された電磁波は、対象壁体3内部の水分等の反射物にて反射され、レーダ装置1は、反射された反射波を受信する。レーダ装置1には、検査装置2が通信可能に接続されており、レーダ装置1は、受信した反射波にて得られた受信波情報を検査装置2へ送信する。検査装置2は、受信波情報に基づく対象壁体3の内部の状態の検査として異常の有無を判定する。
【0023】
図3は、本願開示の検査システムにて用いられるレーダ装置1に係る受信波情報の一例を概念的に示す説明図である。図3は、上段に対象壁体3の内部の構造の模式図を示し、中段及び下段に対象壁体3に電磁波を放射して得られる受信波情報の例を示している。中段の受信波情報は、対象壁体3が正常な場合の受信波情報の例である。下段の受信波情報は、右端の柱の左右の断熱材が濡れた状態の受信波情報の例である。受信波情報は、放射の深度方向を含む座標上に、受信した反射波の振幅の大きさに基づく数値(測定値)をマッピングした情報として示すことができる。図3に例示した受信波情報は、図中の横方向を建築物の対象壁体3に平行な走査方向(X軸方向)とし、縦方向を外部から内部へ向かう深度方向(Y軸方向)として、反射波の振幅の大きさに基づく数値を、反射した位置に対応付けてマッピングした二次元画像である。なお、図3に示した受信波情報は、反射波の振幅の大きさに基づく数値を輝度の高さに変換したものであり、振幅の大きさに応じた輝度にて示されるモノトーンの点の集合を用いて構成された画像として示されている。図3に例示する受信波情報は、輝度が高い部分ほど、反射波の振幅が大きいことを示しており、反射波の振幅を視認し易いように表現している。即ち、受信波情報は、位置に対応付けられた数値の集合である数値群として処理することが可能であり、受信波情報に基づく数値群から、振幅の大きさを輝度として示した点を位置に対応付けてマッピングした画像データを作成することができる。振幅の大きさは、反射物の比誘電率に起因しており、比誘電率が高い水が存在すると振幅が大きくなる。即ち、建築物中に水分を多く含む滞水箇所では、放射された電磁波が水に反射されることにより振幅が大きい反射波となるため、受信波情報としてマッピングされた部分の輝度が高くなる。
【0024】
図3に例示した受信波情報に基づく二次元画像から明らかなように、対象壁体3内の比誘電率にて示される含水率は一様ではない。対象壁体3の含水率は、特定の領域が高含水率となりやすく、腐朽が進みやすい等、構造に基づく傾向がある。正常な状態を示す中段と比較すると、下段の受信波情報は、断熱材が濡れている図中破線で示す領域に、中段と比べて輝度が高く差異が確認できる。中段及び下段に示すように、本願開示の検査システムは、対象壁体3の外側からでも、中段に示す基準状態と比較した差異の状態を判別することが可能である。
【0025】
図4は、本願開示の検査方法に係る受信波情報における含水率及び輝度の関係の一例を示すグラフである。図4は、横軸に含水率(%)をとり、縦軸に反射波の振幅の大きさに基づく輝度の最大値をとって、その関係を示している。図4では、含水率と輝度の最大値との関係を樹種毎に示している。図4に例示するグラフは、スギについての含水率と輝度の最大値とが決定係数(R^2)=0.7の一次回帰式で関連付けられることを示している。また、スプルースについての含水率と輝度の最大値とは、決定係数=0.8の一次回帰式で関連付けられることを示している。図4に例示するように、含水率と輝度の最大値とは、樹種毎に、高い相関を有している。
【0026】
<構成例>
次に、本願開示の検査システムにて用いられるレーダ装置1及び検査装置2の構成例について説明する。図5は、本願開示の検査システムにて用いられるレーダ装置1及び検査装置2の内部構成の概要の一例を示すブロック図である。レーダ装置1は、制御部10、放射部11、受信部12、変換部13、入力部14、表示部15、通信部16等の各種構成を備えている。
【0027】
制御部10は、装置全体を制御する処理を実行するCPU(Central Processing Unit )等のプロセッサであり、情報処理回路、計時回路、レジスタ回路等の各種回路を備えている。
【0028】
放射部11は、発振器、増幅器、アンテナ等の回路を備え、電磁波を放射するデバイスである。放射部11から放射する電磁波には、例えば、2.7GHz等の周波数のマイクロ波が用いられる。なお、放射する電磁波は、マイクロ波に限らず、センチ波、ミリ波、サブミリ波、テラヘルツ波等の様々な周波数帯の電磁波の使用が可能である。
【0029】
受信部12は、アンテナ、増幅器等の回路を備え、反射波を受信するデバイスである。変換部13は、A/D変換部、マッピング部等の回路を備え、受信部12が受信したアナログ信号の反射波をデジタルデータに変換し、マッピング処理等の各種処理を行うモジュールである。
【0030】
変換部13によるマッピング処理は、電磁波を放射してから反射波を受信するまでの反射時間を反射物までの深度に換算して反射物の位置を特定し、特定した位置に対応付けて反射波の振幅の大きさを示す数値を対応付けた受信波情報を生成する処理である。
【0031】
入力部14は、使用者からの入力操作を受け付ける押しボタン、タッチパネル等のデバイスである。表示部15は、受信波情報に基づく二次元画像等の各種情報を表示する液晶パネル等のデバイスである。通信部16は、受信波情報を検査装置2へ有線通信又は無線通信により送信するデバイスである。
【0032】
検査装置2は、例えば、ノート型コンピュータ等のコンピュータを用いて構成されており、制御部20、記憶部21、入力部22、表示部23、通信部24等の構成を備えている。
【0033】
制御部20は、装置全体を制御する処理を実行するCPU等のプロセッサであり、情報処理回路、計時回路、レジスタ回路等の各種回路を備えている。
【0034】
記憶部21は、ハードディスク、SSD(Solid State Drive )、RAID(Redundant Arrays of Inexpensive Disks )、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリ、及び各種RAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリを用いて構成される記憶用ユニットである。記憶部21には、基本プログラム(OS:Operating System)、基本プログラム上で動作する応用プログラム(アプリケーションプログラム)等のプログラムが記録されている。応用プログラムの一つとして、記憶部21には、コンピュータを、検査装置2として機能させるための検査プログラム210が記憶されている。
【0035】
入力部22は、使用者の操作を受け付けるキーボード、マウス、タッチパネル等のデバイスである。表示部23は、受信波情報に基づく二次元画像等の各種情報を表示する液晶パネル等のデバイスである。通信部24は、LANポート、アンテナ等の通信用ユニットであり、有線通信又は無線通信にてレーダ装置1と通信することが可能である。
【0036】
また、記憶部21の記憶領域の一部は、建築物に関する情報を記憶している物件情報データベース211、履歴データベース212、比較値データベース213、基準値データベース214等の各種データベースとして用いられている。
【0037】
物件情報データベース211は、建築物を特定する建築物IDに対応付けて、建築物に関する住所、内部の構造及び配置、過去の検査結果等の各種物件情報を記憶しているデータベースである。物件情報データベース211に記憶されている建築物内部の構造及び配置は、階毎に、平面図、配置図等の図面として記憶されている。更に、平面図、配置図等の図面に記載された構造に対して、木造、鉄骨等の構造種別、柱種類、木造の構造に係る樹種、外壁仕様等の項目毎の情報が記憶されている。
【0038】
履歴データベース212は、建築物ID及び壁体を特定する壁体IDに対応付けて、過去の検査結果等の履歴を示す実績情報を記憶しているデータベースである。実績情報は、測定年月日及び時刻、外部環境、測定状況等の項目に対応付けた測定結果として記憶されている。外部環境とは、天候、温度、湿度等の情報である。測定状況とは、工事中の測定であれば、その状況、完成後の測定であれば、定期測定、異常確認、リフォーム等の状況を示す情報である。
【0039】
比較値データベース213は、受信波情報として得られる測定値(数値)と比較する比較値(数値)の基礎となる基礎比較値を記憶しているデータベースである。図6は、本願記載の検査システムにて用いられる比較値データベース213の記憶内容の一例を概念的に示す説明図である。比較値データベース213は、例えば、テーブル形式で、識別情報及び壁体の特徴を示す各種特徴情報に対応付けて、基礎比較値を記憶している。図6では、壁体の木造部分での特徴情報を例示しており、特徴情報が、柱種類、樹種、含水率、柱位置、外壁仕様等の項目毎に示されている。各特徴情報に対応付けられる基礎比較値は、座標に対応付けて数値をマッピングして記憶されている。図6は、マッピングされた基礎比較値を、画像として示しており、数値を輝度として示している。各種特徴情報と基礎比較値との関係は、実測データ、実験データ、理論値等の各種情報に基づいて、多変量解析、強化学習等の方法により求められ、適宜、更新される。
【0040】
特徴情報の柱種類は、例えば、基礎比較値の数値の極大値の分布に影響する。基礎比較値の数値の極大値の分布は、数値を輝度に変換した画像にした場合、輝線の曲線形状として表される。図6では、輝線の概形を基礎比較値の分布として例示している。特徴情報の樹種及び含水率は、基礎比較値の数値の大きさに影響する。基礎比較値の大きさは、数値を輝度に変換した画像にした場合、輝線の濃淡として表される。特徴情報の柱位置は、X座標に変換される。特徴情報の外壁仕様は、使用される外壁の素材、その厚さ等が考慮され、Y座標に変換される。
【0041】
基準値データベース214は、建築物内部の状態判定に用いられる樹種毎の基準値等の各種情報を記憶しているデータベースである。
【0042】
物件情報データベース211、履歴データベース212、比較値データベース213、基準値データベース214等の各種データベースは、検査装置2の記憶部21に記憶していてもよいが、通信部24を介して通信可能な社内のサーバコンピュータに記憶していてもよい。社内のサーバコンピュータに各種データベースが記憶されている場合、検査装置2は、必要に応じて各種データベースにアクセスするようにしてもよく、予め必要な情報を記憶部21にダウンロードするようにしてもよい。
【0043】
<処理例>
以上のように構成されたレーダ装置1及び検査装置2を用いた検査方法の処理の例について説明する。図7は、本願開示の検査システムにて用いられる検査装置2の検査準備処理の一例を示すフローチャートである。検査準備処理として、検査装置2を操作する使用者は、検査対象とする建築物及び検査の対象となる対象壁体3を指定する情報を入力する。検査装置2は、記憶部21に記憶された検査プログラム210を実行する制御部20の制御により、以下に例示する検査準備処理を実行する。
【0044】
検査装置2の制御部20は、指定された建築物及び対象壁体3に関する物件情報を、記憶部21の物件情報データベース211から取得し(S101)、更に、履歴データベース212を参照して、対象壁体3の過去の検査実績の有無を判定する(S102)。ステップS102において、制御部20は、履歴データベース212に過去の検査結果が記憶されていれば、検査実績ありと判定し、記憶されていなければ、検査実績なしと判定する。
【0045】
ステップS102において、過去の検査実績があると判定した場合(S102:YES)、制御部20は、履歴データベース212から過去の検査結果を示す実績情報を取得し(S103)、更に、環境因子情報を取得する(S104)。ステップS104で取得する環境因子情報とは、今回の検査に関する検査時期、当該検査時期の外部環境等の時期及び/又は外部環境を示す情報である。環境因子情報は、レーダ装置1又は検査装置2にて処理されている情報の読み取り、レーダ装置1又は検査装置2が備えるセンサでの取得、使用者の入力、通信部24を介した通信網からの取得等の様々な手段により取得される。
【0046】
制御部20は、ステップS103にて取得した実績情報を、ステップS104にて取得した環境因子情報で補正し(S105)、補正した結果を比較値として取得し(S106)、取得した比較値を座標に対応付けて設定する(S107)。ステップS105の補正により、制御部20は、過去の実績を、経年、時期、温度、湿度、工事の進捗状況、更には、木造部分の樹種等の環境因子で補正するので、現状の対象壁体3の状況の予測精度を向上させることができる。ステップS107の設定は、記憶部21に記憶される。ステップS103~S107の処理により、制御部20は、対象壁体3において予測される経年に伴う変動を含むマッピングされた比較値を設定する。なお、対象壁体3の経年に伴う変動は、一様に生じるのではなく、周囲の環境によって異なるものとなる。具体的には、対象壁体3は、壁面の方向、隣地の遮蔽物による日照及び雨滴の条件等の環境因子の差異により、部分に応じて異なる経年変動が生じ得る。従って、制御部20は、ステップS103~S105の処理を、対象壁体3を区分した部分毎に実行し、合成してマッピングした結果をステップS106により、比較値として取得する。これにより、本願開示の検査システムは、予測精度を向上させることができる。
【0047】
ステップS102において、過去の検査実績がないと判定した場合(S102:NO)、制御部20は、比較値データベース213から、物件情報に対応する基礎比較値を取得し(S108)、更に環境因子情報を取得する(S109)。ステップS108において、制御部20は、物件情報に示された対象壁体3の特徴に対応する特徴情報に対応付けられた一又は複数の基礎比較値を取得する。
【0048】
制御部20は、取得した基礎比較値を合成してマッピングされた原比較値を取得し(S110)、取得した原比較値を、ステップS109で取得した環境因子情報で補正し(S111)、ステップS106へ進む。制御部20は、ステップS111にて環境因子情報で補正された原比較値を比較値として取得し(S106)、以降の処理を実行する。ステップS108~S111及びS106~S107の処理により、制御部20は、対象壁体3において予測される経年に伴う変動を含むマッピングされた比較値を設定する。
【0049】
図8は、本願開示の検査システムにて用いられる検査装置2の検査準備処理の一例を概念的に示す説明図である。例えば、対象壁体3が、図6に例示した識別情報a,b,cで示される構造が連続した壁体である場合、ステップS108において、制御部20は、画像として示した図8(a)、(b)及び(c)の基礎比較値を取得する。そして、制御部20は、ステップS110の合成処理により、図8(d)として示す原比較値を取得する。なお、ステップS108にて取得された基礎比較値が一である場合、ステップS110の合成は行われず、基礎比較値が原比較値となる。制御部20は、原比較値を、環境因子で補正することにより、予測精度を向上させることが可能となる。
【0050】
以上のようにして、比較値を設定する検査準備処理が実行される。なお、環境因子による補正は、必ずしも必要ではなく、実績情報又は原比較値をそのまま比較値として設定してもよい。
【0051】
使用者は、検査準備処理で指定した対象壁体3に対し、レーダ装置1を用いて、外壁面を走査して計測する操作を行う。図9は、本願開示の検査システムにて用いられるレーダ装置1が実行する計測処理の一例を示すフローチャートである。レーダ装置1は、制御部10の制御により、放射部11から電磁波を放射し(S201)、受信部12にて反射波を受信し(S202)、受信した反射波に基づいて受信波情報を生成する(S203)。更に、レーダ装置1は、制御部10の制御により、生成した受信波情報に基づく画像を表示部15に表示し(S204)、かつ受信波情報を通信部16から検査装置2へ送信する(S205)。ステップS204において、レーダ装置1は、受信波情報の測定値に係る数値を輝度として示した画像情報を表示部15に表示する。
【0052】
以上のようにして、計測処理が実行される。
【0053】
図10は、本願開示の検査システムにて用いられる検査装置2が実行する判定処理の一例を示すフローチャートである。検査装置2は、記憶部21に記憶された制御プログラムを実行する制御部20の制御により、以下に例示する判定処理を実行する。
【0054】
検査装置2の制御部20は、レーダ装置1から送信された受信波情報を通信部24にて受信し(S301)、受信した受信波情報に示された対象壁体3内部の位置に応じてマッピングされた測定値を取得する(S302)。
【0055】
制御部20は、対象壁体3に係る測定値と比較するマッピングされた比較値を取得する(S303)。ステップS303における比較値の取得処理は、検査準備処理にて設定された比較値を記憶部21から読み取る処理である。ステップS303において、対象壁体3に過去の検査実績がある場合、制御部20は、ステップS104~S107にて示したように、実績情報を環境因子情報で補正してマッピングされた比較値を取得する。また、対象壁体3に過去の検査実績がない場合、制御部20は、ステップS108~S111及びS106~S107にて示したように、基礎比較値を環境因子情報で補正してマッピングされた比較値を取得する。
【0056】
制御部20は、ステップS302にて取得した受信波情報に係る測定値を、ステップS303にて取得した比較値と座標毎に比較する(S304)。ステップS304の比較は、座標毎に、測定値に係る数値と比較値との差分を求めることにより行われる。なお、差分は、数値同士の差を比較する減算処理、双方の数値の対数を求めた上での減算処理、除算処理等の様々な計算方法を適用することが可能である。また、ステップS304の比較は、一点毎の座標同士を比較するようにしてもよく、8×8、16×16等の一定の大きさの領域毎に、平均値、最大値等の代表値をとり、比較するようにしてもよい。
【0057】
制御部20は、ステップS304の比較の結果、測定値と比較値とに差があるか否かを判定する(S305)。ステップS305の判定処理は、測定値と比較値との差分が、予め設定されている閾値以上か否かを判定する処理である。閾値の大きさは、全領域で一定であってもよく、対象壁体3内の構造及び種類毎に設定していてもよい。
【0058】
図11は、本願開示の検査システムにて用いられる検査装置2の判定処理の一例を概念的に示す説明図である。図11(a)は、マッピングされた測定値の概形を示しており、図11(b)は、マッピングされた比較値の概形を示している。そして、図11(c)は、測定値と比較値との差分を示している。図11(a)~(c)に示すように測定値と比較値とに差がある場合、図11(c)に示す差分が生じる。なお、測定値の値(反射波の振幅を示す数値)が比較値より大きい場合、差分ありとして判定するが、測定値が比較値以下の場合、差分なしと判定される。図11(c)に示す例は、差分の出現状況には偏りがあり、図中右側の特定の領域に大きな差が生じている状況を示している。
【0059】
図10のフローチャートに戻り、ステップS305において、測定値と比較値とに差があると判定した場合(S305:YES)、制御部20は、差分の大きさに偏りがあるか否かを判定する(S306)。ステップS306において、制御部20は、差分の大きさを示す数値をマッピングし、特定の領域に偏在化しているか否かを判定する。
【0060】
ステップS306において、差分に偏りがあると判定した場合(S306:YES)、制御部20は、差分が大きいと判定された領域が、木造柱が配置されている領域か否かを判定する(S307)。ステップS307において、制御部20は、記憶部21の物件情報データベース211にアクセスして、該当領域が、木造柱が配置されている領域か否かを判定する。なお、比較値は、検査準備処理にて樹種を加味した補正処理が行われていることが好ましいが、樹種を加味されていな場合、ステップS307において、制御部20は、樹種を加味した上で木造柱が配置されている領域の差分が大きいか否かの判定を行う。
【0061】
ステップS307において、木造柱が配置されている領域であると判定した場合(S307:YES)、制御部20は、異常が発生している可能性ありと判断する(S308)。ステップS307の判定に際し、制御部20は、柱位置が比較値とずれていないかの検証を行う。柱近傍は、位置ずれに起因する差分の異常値が発生し易いからである。ステップS308で可能性のある異常は、漏水等による木造柱の含水率の上昇である。
【0062】
ステップS307において、木造柱が配置されている領域ではないと判定した場合(S307:NO)、制御部20は、ステップS307の処理を実行せずに、次の処理へと進む。
【0063】
ステップS307において、木造柱が配置されている領域ではないと判定した場合、又はステップS308の処理後、制御部20は、差分が大きいと判定された領域が連続しているか否かを判定する(S309)。
【0064】
ステップS309において、差分が大きい領域が連続していると判定した場合(S309:YES)、制御部20は、異常が発生している可能性ありと判断する(S310)。ステップS309で可能性のある異常は、漏水等によって柱間の断熱材の含水率の上昇、液水の存在等である。
【0065】
ステップS309において、連続した領域ではないと判定した場合、又はステップS310の処理後、制御部20は、差分が大きいと判定された領域が、金属部材が配置されている領域か否かを判定する(S311)。ステップS311において、制御部20は、記憶部21の物件情報データベース211にアクセスして、該当領域が、設備配管、金物等の金属部材が配置された領域か否かを判定する。金属部材は、電磁波に対する反射率が高いため、受信波に大きなピークが生じる可能性があり、他方、金属部材は、水分を含みにくいという特性がある。
【0066】
ステップS311において、金属部材が配置されている領域ではないと判定した場合(S311:NO)、制御部20は、異常が発生している可能性ありと判断する(S312)。ステップS312では、異常の内容は特定できないが、受信波の振幅が大きい領域があり、何らかの異常が発生している可能性があると判断する。
【0067】
ステップS305において、測定値と比較値とに差がないと判定した場合(S305:NO)、又はステップS306において、差分に偏りがないと判定した場合(S306:NO)、制御部20は、異常は発見できなかったと判断する。また、ステップS308、S310及びS312のいずれでも異常が発生している可能性ありと判断されなかった場合も、制御部20は、異常は発見できなかったと判断する。なお、ステップS308又はステップS310において、異常が発生している可能性ありと判断した場合、制御部20は、他の異常の有無を判定することなく、ステップS313へ進み、判定結果を表示するようにしてもよい。
【0068】
そして、制御部20は、異常の有無についての判断結果を表示部23に表示する(S313)。なお、異常ありと判断した場合、制御部20は、ステップS313において、異常の内容も併せて表示する。また、検査装置2は、判断までの各種情報を履歴データベース212に記憶させる。
【0069】
以上のように、本願開示の検査システムは、レーダ装置1から電磁波を放射して得られた受信波情報に基づく測定値を、予め対象壁体3の構造等の条件に基づいて予測した比較値と比較し、比較結果に基づいて、異常の有無を判断する。従って、本願開示の検査システムは、専門スキルが要求される電磁波画像の診断に関して、個人のスキルに頼ることなく、経験の浅い使用者でも、正確な診断を行えるので、使用性の向上が可能である等、優れた効果を奏する。
【0070】
本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、他のいろいろな形態で実施することが可能である。そのため、かかる実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。更に、請求の範囲の均等範囲に属する変形及び変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【0071】
例えば、前記実施形態では、レーダ装置1及び検査装置2を通信可能に接続する検査システムを示したが、本願開示の検査システムは、適宜システムを設計することが可能である。例えば、本願開示の検査システムは、レーダ装置1に検査装置2の機能を組み込んで一体化することも可能である。更には、本願開示の検査システムは、半導体メモリ等の記憶媒体を介してレーダ装置1にて得られた受信波情報を検査装置2に取得させる等、様々な形態に展開することが可能である。
【0072】
上述した実施形態にて説明した技術内容について、更に、以下の付記を開示する。
【0073】
(付記1)
建築物の壁体に対して電磁波を放射し、放射した電磁波に起因する受信波を受信するレーダ装置を用い、受信波を受信して得られた受信波情報に基づいて壁体内部の状態を検査する検査方法であって、
検査の対象となる対象壁体に放射して得られた前記受信波情報は、
放射の深度方向を含む座標上に、受信した反射波の振幅の大きさに基づく測定値をマッピングしてあり、
対象壁体において予測される経年に伴う変動を含むマッピングされた比較値を取得するステップと、
受信波情報に係る測定値を、取得した比較値と比較するステップと、
比較結果に基づいて、対象壁体内部の状態を判定するステップと
を実行することを特徴とする検査方法。
【0074】
(付記2)
建築物の壁体に対して電磁波を放射し、放射した電磁波に起因する受信波を受信するレーダ装置を備え、受信波を受信して得られた受信波情報に基づいて壁体内部の状態を検査する検査システムであって、
検査の対象となる対象壁体に放射して得られた前記受信波情報は、
放射の深度方向を含む座標上に、受信した反射波の振幅の大きさに基づく測定値をマッピングしてあり、
対象壁体において予測される経年に伴う変動を含むマッピングされた比較値を取得する取得手段と、
受信波情報に係る測定値を、取得した比較値と比較する比較手段と、
比較結果に基づいて、対象壁体内部の状態を判定する判定手段と
を備えることを特徴とする検査システム。
【0075】
(付記3)
付記2に記載の検査システムであって、
建築物の構造を示す物件情報を記憶している物件情報データベースから、対象壁体を含む建築物の物件情報を抽出する構造抽出手段と、
抽出した構造を含む物件情報に基づいて、比較値を設定する比較値設定手段と
を備え、
前記取得手段は、前記比較値設定手段が設定した比較値を取得する
ことを特徴とする検査システム。
【0076】
(付記4)
付記2又は付記3に記載の検査システムであって、
建築物の過去の検査結果を記憶している履歴データベースから、対象壁体の過去の検査結果を示す実績情報を抽出する実績抽出手段と、
抽出した実績情報に基づいて、比較値を設定する比較値設定手段と
を備え、
前記取得手段は、比較値設定手段が設定した比較値を取得する
ことを特徴とする検査システム。
【0077】
(付記5)
付記3又は付記4に記載の検査システムであって、
前記比較値設定手段は、抽出した複数の情報を合成してマッピングした結果に基づいて比較値を設定する
ことを特徴とする検査システム。
【0078】
(付記6)
付記3乃至付記5のいずれか一つに記載の検査システムであって、
検査時期又は検査時期の外部環境を示す環境因子情報を取得する環境取得手段と、
前記比較値設定手段が設定した比較値を、取得した環境因子情報に基づいて補正する補正手段と
を備え、
前記取得手段は、前記補正手段が補正した比較値を設定する
ことを特徴とする検査システム。
【0079】
(付記7)
建築物の壁体に対して放射された電磁波に起因する受信波を受信して得られた受信波情報に基づいて壁体内部の状態を検査する検査装置であって、
検査の対象となる対象壁体に放射して得られた受信波情報は、
放射の深度方向を含む座標上に、受信した反射波の振幅の大きさに基づく測定値をマッピングしてあり、
対象壁体において予測される経年に伴う変動を含むマッピングされた比較値を取得する手段と、
受信波情報に係る測定値を、取得した比較値と比較する手段と、
比較結果に基づいて、対象壁体内部の状態を判定する手段と
を備えることを特徴とする検査装置。
【0080】
(付記8)
建築物の壁体に対して電磁波を放射し、放射した電磁波に起因する受信波を受信する機能を備え、受信波を受信して得られた受信波情報に基づいて壁体内部の状態を検査するレーダ装置であって、
検査の対象となる対象壁体に放射して得られた受信波情報は、
放射の深度方向を含む座標上に、受信した反射波の振幅の大きさに基づく測定値をマッピングしてあり、
対象壁体において予測される経年に伴う変動を含むマッピングされた比較値を取得する手段と、
受信波情報に係る測定値を、取得した比較値と比較する手段と、
比較結果に基づいて、対象壁体内部の状態を判定する手段と
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【0081】
(付記9)
コンピュータに、建築物の壁体に対して放射された電磁波に起因する受信波を受信して得られた受信波情報に基づいて壁体内部の状態を検査する処理を実行させる検査プログラムであって、
検査の対象となる対象壁体に放射して得られた受信波情報は、
放射の深度方向を含む座標上に、受信した反射波の振幅の大きさに基づく測定値をマッピングしてあり、
対象壁体において予測される経年に伴う変動を含むマッピングされた比較値を取得するステップと、
受信波情報に係る測定値を、取得した比較値と比較するステップと、
比較結果に基づいて、対象壁体内部の状態を判定するステップと
を実行させることを特徴とする検査プログラム。
【符号の説明】
【0082】
1 レーダ装置
10 制御部
11 放射部
12 受信部
13 変換部
14 入力部
15 表示部
16 通信部
2 検査装置
20 制御部
21 記憶部
210 検査プログラム
211 物件情報データベース
212 履歴データベース
213 比較値データベース
214 基準値データベース
22 入力部
23 表示部
24 通信部
3 対象壁体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11