(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180042
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20241219BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099464
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 政宏
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA21
5H770DA32
5H770JA10X
5H770JA19X
5H770PA15
5H770PA41
5H770PA42
5H770QA01
5H770QA05
5H770QA06
5H770QA08
5H770QA22
5H770QA28
(57)【要約】
【課題】発熱に対して適切な対策を行うことができる電力変換装置を提供する。
【解決手段】4層以上のプリント基板144と、プリント基板144に実装され、半導体素子により電力変換を行う主回路と、を備え、プリント基板144は、外部に露出する層である表層(第1層144a、第4層144d)の配線が内部に存在する層である中間層(第2層144b、第3層144c)の配線よりも薄く、表層には主回路の中性点配線102が形成され、中間層には前記主回路の他の配線(正極配線101、負極配線103、中間配線106,107)が形成されている。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
4層以上のプリント基板と、
前記プリント基板に実装され、半導体素子により電力変換を行う主回路と、を備え、
前記プリント基板は、外部に露出する層である表層の配線が内部に存在する層である中間層の配線よりも薄く、
前記表層には前記主回路の中性点配線が形成され、前記中間層には前記主回路の他の配線が形成されていること、を特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記中性点配線と前記他の配線とは流れる電流の方向が逆であること、を特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記プリント基板は、4層であり、
前記中間層の第2層又は第3層には、前記他の配線のうちの2種の中間配線が互いに絶縁されて形成され、
前記中間層の第3層又は第2層には、前記他の配線のうち正極配線と負極配線とが互いに絶縁されて形成されていること、を特徴とする請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記プリント基板は、6層であり、
前記中間層のうちの第2層及び第5層には、それぞれ前記他の配線のうちの2種の中間配線が互いに絶縁されて形成され、
前記中間層のうち第3層及び第4層には、それぞれ前記他の配線のうち正極配線と負極配線とが互いに絶縁されて形成されていること、を特徴とする請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記半導体素子を有するパワーモジュール及び前記プリント基板に隣接して当該パワーモジュール及び当該プリント基板を冷却する冷却媒体が流通する流路が設けられていること、を特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記表層の配線はファインピッチの配線であり、
前記プリント基板には、前記ファインピッチの配線で配線され、前記主回路を制御する制御ICが実装されていること、を特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記主回路を構成する複数個のパワーモジュールが前記プリント基板に実装され、各前記パワーモジュールは各々単一の前記半導体素子を備えていること、を特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記プリント基板には、板厚方向に貫通する孔が形成されていて、
前記パワーモジュールは、前記孔内に挿通するように実装され、当該孔の両側から前記プリント基板の外に露出していること、を特徴とする請求項7に記載の電力変換装置。
【請求項9】
各前記パワーモジュールは、複数個ずつ並列接続されていること、を特徴とする請求項7に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記半導体素子は、MOSFETであり、
前記制御ICは、前記MOSFETのゲート電圧を制御するゲートドライバであること、を特徴とする請求項6に記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記プリント基板に実装され、前記MOSFETに流れる電流の平滑化を行う平滑キャパシタを備えていること、を特徴とする請求項10に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、特開2016-207940号公報(特許文献1)がある。この公報には、「本発明の電子部品内蔵配線板では、積層コア基板が、複数の第1絶縁樹脂層と複数の第1導電層とが交互に積層されてなる。そして、小キャビティは、第1絶縁樹脂層を3層貫通して形成されているのに対し、大キャビティは、第1絶縁樹脂層を5層貫通して形成されている。また、小キャビティと大キャビティとに共通して、キャビティの厚さ方向の中央に、中央絶縁樹脂層が位置している。」と記載されている(要約参照)。
【0003】
別の背景技術として、特開2012-235036号公報(特許文献2)がある。この公報には、「多層配線プリント基板に放熱用厚銅箔層を積層し、発熱部品及びヒートシンクを搭載するランドを他のデバイス用ランドや回路と分離して形成し、該ランドに形成したスルーホール内壁にめっき層を形成してスルーホール内壁面に露出した放熱用厚銅箔層に接続し、該スルーホール内に銅熱伝導性ペーストを充填してこれらの表面にめっきしてランド上に発熱部品及びヒートシンクへの熱伝導層を形成する。」と記載されている(要約参照)。
【0004】
別の背景技術として、特開2008-181979号公報(特許文献3)がある。この公報には、「金属コアを含む導体層が少なくとも5層構造をなす金属コア多層プリント配線板で、配線板の厚さ方向を貫き任意の導体層との接続を取るべく任意の導体層間を銅めっきにより電気的に接続した貫通導通穴が形成され、貫通導通穴の銅めっきは金属コアと接続され、金属コアの貫通導通穴周辺部分は、貫通導通穴周辺部分をその周囲の金属コア本体と画成するために形成されかつ内側絶縁層の絶縁材が充填された切欠き穴と、内層導体及び内側絶縁層並びに金属コアを貫きかつ外側絶縁層の絶縁材で充填された非導通穴により金属コアの貫通導通穴周辺部分をそれ以外の金属コアと分離され電気的に別回路を形成している。」と記載されている(要約参照)。
【0005】
別の背景技術として、特開2007-311723号公報(特許文献4)がある。この公報には、「多層回路基板では、第1の内部導体層及び第2の内部導体層の周縁部に、それぞれ第1の内層回路パターン及び第2の内層回路パターンに接触しない第1のダミーパターン及び第2のダミーパターンが形成されているので、製造時に連結配線板における隣接する多層回路基板との間の間隔は短くなり、これによって、積層プレス工程時に隣接する多層回路基板間の第2の絶縁層及び第3の絶縁層を構成する樹脂材を埋めるために必要な空間が小さくなり、気泡等の発生を防止できる。」と記載されている(要約参照)。
【0006】
別の背景技術として、国際公開2013/005451公報(特許文献5)がある。この公報には、「多層配線板は、絶縁性基材と、内層用銅板と、外層用銅箔と、を備えている。内層用銅板は、絶縁性基材の内部に配置され、パターニングされている。外層用銅箔は、絶縁性基材の表面にパターニングされた状態で配置され、内層用銅板よりも厚さが薄く、かつ、電流経路の断面積が内層用銅板における電流経路の断面積よりも小さい。それにより、基板の投影面積の増加を抑制しつつ大きな電流とそれより小さな電流とを流すことができる多層配線板および多層配線板の製造方法を提供する。」と記載されている(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-207940号公報
【特許文献2】特開2012-235036号公報
【特許文献3】特開2008-181979号公報
【特許文献4】特開2007-311723号公報
【特許文献5】国際公開2013/005451公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1~5に開示の技術は、装置の発熱に対して適切な対策を行うという観点からは改善の余地があった。
そこで、本発明は、発熱に対して適切な対策を行うことができる電力変換装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明は、4層以上のプリント基板と、前記プリント基板に実装され、半導体素子により電力変換を行う主回路と、を備え、前記プリント基板は、外部に露出する層である表層の配線が内部に存在する層である中間層の配線よりも薄く、前記表層には前記主回路の中性点配線が形成され、前記中間層には前記主回路の他の配線が形成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、発熱に対して適切な対策を行うことができる電力変換装置を提供することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例1に適用する導体部分とパワー半導体とで構成されたパワーモジュールの斜視図である。
【
図2】本発明の実施例1に適用する導体部分とパワー半導体とで構成されたパワーモジュールの分解斜視図である。
【
図3】本発明の実施例1に適用する導体部分とパワー半導体とで構成されたパワーモジュールにモールドを施したものの斜視図である。
【
図4】本発明の実施例1に係る電力変換装置の基本的な主回路構成を示す回路図である。
【
図5】本発明の実施例1に係る電力変換装置のパワーモジュールとそれを制御する制御ICとの接続を示す回路図である。
【
図6】本発明の実施例1に係る電力変換装置に用いられるプリント基板の縦断面図である。
【
図7】本発明の実施例1に係る電力変換装置に用いられるプリント基板の第1層(表層)の平面図である。
【
図8】本発明の実施例1に係る電力変換装置に用いられるプリント基板の第2層(中間層)の平面図である。
【
図9】本発明の実施例1に係る電力変換装置に用いられるプリント基板の第3層(中間層)の平面図である。
【
図10】本発明の実施例1に係る電力変換装置に用いられるプリント基板の第4層(表層)の平面図である。
【
図11】本発明の実施例1に係る電力変換装置の斜視図である。
【
図12】本発明の実施例1に係る電力変換装置の断面図である。
【
図13】本発明の本実施例2に係る電力変換装置のプリント基板の縦断面図である。
【
図14】
図4の回路の電流の流れを説明する回路図である。
【
図15】
図4の回路の電流の流れを説明する回路図である。
【
図16】実施例1に対する比較例となるプリント基板の縦断面図である。
【
図17】実施例1に対する比較例となる第1層(表層)の平面図である。
【
図18】実施例2に対する比較例となるプリント基板の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例(実施形態)について図面を用いて説明する。
【実施例0013】
本実施例1は、電力変換を行う電力変換装置に関する。ここで電力変換装置とは、より具体的には、直流を所定周波数の交流に変換するインバータ等である。以下では、インバータの例を念頭に置いて説明する。なお、下記に説明する図面中には適宜に上下方向を示す矢印を示しているが、これは便宜的なものであり、本発明を限定するものではない。
【0014】
図1は、本実施例1に適用する導体部分とパワー半導体とで構成されたパワーモジュールの斜視図である。
図2は、同分解斜視図である。
図3は、前記のパワーモジュールにモールドを施したものの斜視図である。
【0015】
図1、
図2に示すように、このパワーモジュール15は、金属製の下部リードフレーム16と金属製の上部リードフレーム2とに、それぞれはんだ3を挟んで、縦型の半導体素子であるMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)4のドレイン導体面とソース導体面とがそれぞれ接続している。MOSFET4は、第1の回路要素となり、一般的には、SiC-MOSFET等が使用される。本例では、MOSFET4の下面がドレイン導体面、上面がソース導体面となっている。
【0016】
また、パワーモジュール15は、ワイヤボンディング5により、MOSFET4のゲート9と下部リードフレーム16と同じ高さにあるゲート端子6とが接続し、MOSFET4のソース10と下部リードフレーム16のソースセンス端子7とが接続している。また、パワーモジュール15は、上部リードフレーム2が下部リードフレーム16のソース端子8とはんだ3によって接続されている。ドレイン端子11は、下部リードフレーム16の側部から延びている。MOSFET4が「縦型」というのは、MOSFET4において、その上下の厚み方向に電流の導通、遮断が行われることを意味している。
【0017】
図3に示すように、パワーモジュール15の外周部には、樹脂モールド13により覆われている。上部リードフレーム2の上面12及び図示しない下部リードフレーム16の底面の一部は樹脂モールド13から露出することで、放熱用のフィン等を取り付けるなどによりMOSFET4からのリードフレームを介した放熱性を高くすることができる。
このように、単一のパワーモジュール15は、単一のMOSFET4のみを備え、1台のパワーモジュール15中に複数個のMOSFETが並列接続されていたりはしていない。
【0018】
図4は、本実施例1の電力変換装置の基本的な主回路構成を示す回路図である。電力変換装置51の主回路51aにおいては、正極配線101と中性点配線102と負極配線103とを備えている。また、このそれぞれの入力端子101a,102a,103aも備えている。中性点配線102と、正極配線101及び負極配線103との間には、それぞれ電流を平滑化する平滑キャパシタ104,105が接続されている。
【0019】
電力変換装置51は、パワーモジュール108,109,110,112,113,114を備えている。この各パワーモジュールは、いずれも前記のパワーモジュール15である。正極配線101にはパワーモジュール108のドレイン端子11(
図1、
図2)が接続している。中性点配線102にはパワーモジュール110のソース端子8(
図1、
図2)が接続している。パワーモジュール108のソース端子8(
図1、
図2)、パワーモジュール110のドレイン端子11(
図1、
図2)、そしてパワーモジュール109のドレイン端子11(
図1、
図2)は、中間配線106に接続している。また、負極配線103にはパワーモジュール114のソース端子8(
図1、
図2)が接続している。中性点配線102にはパワーモジュール113のドレイン端子11(
図1、
図2)が接続している。パワーモジュール114のドレイン端子11(
図1、
図2)、パワーモジュール113のソース端子8(
図1、
図2)、パワーモジュール112のソース端子8(
図1、
図2)は、中間配線107に接続している。AC出力配線111には、パワーモジュール109のソース端子8(
図1、
図2)と、パワーモジュール112のドレイン端子11(
図1、
図2)とが接続している。このように主回路51aは6つのアームで構成される。なお、言うまでもなく、各パワーモジュール108,109,110,112,113,114のMOSFET4(
図1、
図2)には、寄生ダイオードが接続されている。電力変換装置51は、パワーモジュール108,109,110,112,113,114によって、直流電流を交流電流に電力変換する。
【0020】
図14、
図15を参照して
図4の主回路の動作の概要について説明する。入力端子101a,102a,103aを介して、正極配線101、負極配線103、中性点配線102に直流電流が入力される。すなわち、正極配線101は入力のプラス側、負極配線103は入力のマイナス側と接続される。そして、各パワーモジュール108,109,110,112,113,114のゲート電圧の適切な制御により、AC出力配線111に所定の周波数の交流電流が出力される。この、交流電流の出力の為のゲート電圧制御により、電力変換装置51の電流の出力時の動作は主に、正極配線101からAC出力配線111へ流れる電流の経路、負極配線103からAC出力配線111へ流れる電流の経路、そして中性点配線102からAC出力配線111へ流れる経路の3つがあり、3つの経路の切り替えにより入力電圧を変更し、所定の周波数の交流電流を出力する。
【0021】
図14において、パワーモジュール109とパワーモジュール108がオンしているとき、電流160aが正極配線101からAC出力配線111へ流れる。ここでパワーモジュール108をオフすると電流160bが中性点配線102から中間配線106を経由してAC出力配線111へ流れるようになる。このとき、正極配線101及びパワーモジュール108を流れる電流160aは急速に減少し、一方で中性点配線102とパワーモジュール111と中間配線106に流れる電流160bは急速に増加する。この平滑キャパシタ104の負極側から正極側への電流の変動は急峻な電流161aと表すことができる。なおこのとき、パワーモジュール109とAC出力配線111の電流は急峻に変動することがない。
また、
図15において、パワーモジュール113がオンしているときは電流160cの様に中性点配線102から中間配線107を経由してAC出力配線111へ流れる。ここでパワーモジュール113をオフすると電流160dが負極配線103からAC出力配線111へ流れるようになる。このとき、負極配線101及びパワーモジュール108を流れる電流160dは急速に増加し、一方で中性点配線102とパワーモジュール113と中間配線107に流れる電流160cは急速に減少する。この平滑キャパシタ105の負極側から正極側への電流の変動は急峻な電流161bと表すことができる。なおこのとき、パワーモジュール112とAC出力配線111の電流は急峻に変動することが無い。
【0022】
正極配線101と負極配線103それぞれの急峻な電流161a,161bに対して配線を低インダクタンス化するには、それぞれの電流のループの物理的な長さの低減と電流が流れることによって発生する磁界を打ち消すように配線を配置することが求められる。これについては後記する。
【0023】
図5は、パワーモジュールとそれを制御する制御ICとの接続を示す回路図である。ここでは、パワーモジュール108,109,110,112,113,114を代表して、パワーモジュール108と制御IC(Integrated Circuit)121との接続例を図示している。パワーモジュール109,110,112,113,114においても、
図5と同様の回路構成でそれぞれ制御IC121と接続されている。
【0024】
図4においては、電力変換装置51の基本的な主回路構成のみを図示している。実際には、
図4とは異なり、パワーモジュール108は2つのパワーモジュール15が並列接続されて構成されており、このそれぞれのパワーモジュールを
図5ではパワーモジュール108a,108bと表記している。すなわち、前記のパワーモジュール108,109,110,112,113,114は、いずれも実際には同種のパワーモジュール15(
図1~
図3)が並列接続されて構成されている。
図6以下の図面では、この2台のパワーモジュール108をそれぞれパワーモジュール108a、パワーモジュール108bとする表記の仕方をしており、これはパワーモジュール109,110,112,113,114についても同様の表記をしている。以下ではこの並列接続されているパワーモジュールの個々を指し示すときには、パワーモジュール108a、パワーモジュール108bのように表記し、並列接続されているパワーモジュールを包括的に示すときにはパワーモジュール108のように表記する。
【0025】
図5は、各パワーモジュールと併せて後記するプリント基板144(
図6)に実装するファインピッチの配線に接続される制御IC121と並列に接続する2つのパワーモジュール108a,108bの信号端子及び主回路配線の接続の例である。
制御IC121は、ファインピッチの配線により配線されていて、パワーモジュール108(パワーモジュール109,110,112,113,114についても同様)の動作に関わる動作を行う。より具体的には、制御IC121は、パワーモジュール108(のMOSFET4)の制御を行う回路であり、さらに具体的には、MOSFET4のゲート電圧を制御するゲートドライバである。
【0026】
制御IC121は、絶縁部120を内部に有し、一次側の入力として電源(図示せず)の入力端子の配線124,125や、ゲート電圧(制御信号)をパワーモジュール108a,108bに印加する制御信号端子126を有する。制御IC121は二次側を駆動するための入力端子122,123の配線を有し、一次側の制御信号端子126からの制御信号によりゲート配線128とソース配線129の電圧を変動し、MOSFET4のゲートへの電流の流入を調整するゲート抵抗127を介して、並列接続するパワーモジュール108a,108bのゲート、ソース間の電圧を変動させて主回路51aの電流の通過と遮断を制御する。
【0027】
ここで、パワーモジュール108aの配線インダクタンス131,132及びそれに接続する後記するプリント基板144上の配線インダクタンス131,132の直列回路の端子間電圧をV1とする。また、パワーモジュール108bの配線インダクタンス135、136及びそれに接続するプリント基板144上の配線インダクタンス134,137の直列回路の端子間電圧をV2とする。ここで配線インダクタンスとは、配線に流れる電流値の変動により生じるインダクタンスである。ここで、前記の両直列回路は並列接続しているため、“V1=V2”である。この同電圧をVとする。そして、パワーモジュール108a,108bにおける電流の通過と遮断の切り替え時に、パワーモジュール108a,108b内のMOSFET4の電流の変動速度di/dtと、インダクタンスLとで示される“V=-L×(di/dt)”という関係から、パワーモジュール108a側とパワーモジュール108b側とでインダクタンスLの不均衡が生じて、もって電流の変動速度di/dtに差が生じ、パワーモジュール108a側とパワーモジュール108b側とで電流のアンバランスが起こる。その為、回路上、インダクタンスを調整する必要がある。その詳細については後記する。
【0028】
図6は、本実施例1の電力変換装置51(
図11)に用いられるプリント基板144の縦断面図である。このプリント基板144は4層以上で、
図6の例では4層である。すなわち、プリント基板144は、第1層(表層)144a、第2層(中間層)144b、第3層(中間層)144c、第4層(表層)144dを備えている。プリント基板144には、
図4の主回路51aと、制御IC121等が実装されている。プリント基板144を比較的低層の4層構造とすることで、電力変換装置51(
図11)の小型化を図ることができる。
【0029】
第1層(表層)144a、第4層(表層)144dの配線(中性点配線102等)はファインピッチの配線であり、第2層(中間層)144b、第3層(中間層)144cの配線(正極配線101、負極配線103、中間配線106,107)より薄くなっている。これは、第1層(表層)144aに制御IC121等を配線するためである。
図4の主回路51aの配線は、第1層144a~第4層144dの全てに配線されている。
ここで、比較例として
図16、
図17に示すように、第1層(表層)144a、第4層(表層)144dに正極配線101、負極配線103を配線し、中性点配線102、中間配線106,107を第2層(中間層)144b、第3層(中間層)144cに配線する例を考えてみる。
【0030】
この場合、
図16、
図17に示すように、正極配線101と負極配線103とが短絡しないように、これらの間に絶縁部分300を設けて、この両者を絶縁しておく必要がある。しかし、これだと、正極配線101と負極配線103の部分411,412(
図17)の幅が狭くなる。前記のとおり、第1層(表層)144a、第4層(表層)144dの配線はファインピッチの配線であり、薄いため、部分411,412の幅が狭いと、その断面積が狭くなり、電流が流れると大きな発熱が生じるため、適切ではない。
【0031】
この対策として、第1層(表層)144a、第4層(表層)144dに正極配線101(又は負極配線103)と中性点配線102とを配置し、負極配線103(又は正極配線101)を中間層に配置することも考えられるかもしれない。
しかし、これだと、正極配線101と負極配線103とで配線の断面積が異なることとなる。正極配線101と負極配線103とは同じ電流が流れるので、互いに断面積が異なることは好ましくない。
【0032】
そこで、
図6に示すように、第1層(表層)144a、第4層(表層)144dの主回路51aの配線としては、中性点配線102のみとする。そして、第1層(表層)144a、第4層(表層)144dの配線が薄いことに鑑みて、第1層(表層)144a、第4層(表層)144dにおいて、可能な限り配線幅312を幅広として、発熱の問題を抑制している。
第2層(中間層)144bには、中間配線106と、中間配線107とを互いに絶縁体152(
図6)で絶縁して、ほぼ同じ配線幅で配線する。また、第3層(中間層)144cには、正極配線101と、負極配線103とを互いに絶縁体152(
図6)で絶縁して、ほぼ同じ配線幅で配線する。この場合、中間配線106と、中間配線107とを互いに絶縁体152で絶縁し、正極配線101と、負極配線103とを互いに絶縁体152で絶縁しても、中間層は配線が厚いので、配線幅に狭い部分が生じても、発熱の問題は抑制できる。なお、第2層144bと第3層144cの配線を入れ替えてもよい。
【0033】
また、
図6中に記号313,314で示すように、第2層(中間層)144bの中間配線106と、第3層(中間層)の正極配線101とは、第1層(表層)144a、第4層(表層)144dの中性点配線102と流れる電流の向きが互いに逆になるように設計している。これは、第2層(中間層)144bの中間配線107と、第3層(中間層)の負極配線103についても同様である。
これにより、近い位置にある第1層(表層)144aの中性点配線102と第2層(中間層)144bの中間配線106,107とで磁束を効果的に打ち消し合い、回路のインダクタンスを低減することができる。
【0034】
次に、プリント基板144の各層の具体的な回路構成例を説明する。
図7は、第1層(表層)の平面図である。パワーモジュール108a等の各パワーモジュールはプリント基板144を貫通する孔321に挿入されることでパワーモジュール108,109,110,112,113,114冷却用の上下の表面が露出するようになっている。
中性点配線102は、平滑キャパシタ104の負極側のピン142及び平滑キャパシタ105の正極側のピン143と、パワーモジュール110a,110bの負極側及びパワーモジュール113a,113bの正極側と接続する。パワーモジュール108a,108bの負極側は中間配線106と、パワーモジュール114a,114bの正極側は中間配線107にそれぞれ接続する。また、それぞれのVia150により内層の中間配線106,107に接続する。パワーモジュール110a,110b,109a,109bの正極側は中間配線106に接続し、それぞれのVia150により内層の中間配線106に接続する。パワーモジュール113a,113b,112a,112bの負極側は中間配線107に接続し、それぞれのVia150により内層の中間配線107に接続する。パワーモジュール109a,109bの負極側とパワーモジュール112a,112bの正極側はAC出力配線111に接続する。このように
図7のプリント基板144の
図7における上側181aの中央部と下側181bには、主回路51aの配線が設けられている。
【0035】
加えて
図7のプリント基板144の
図7における上側181aの左右両側にはそれぞれ2並列のパワーモジュール108,109,110,112,113,114で構成する6アームをそれぞれ制御する制御IC121が6つ配置され、それぞれゲート抵抗127も設けられている。それぞれの制御IC121と外部の制御回路とを接続する制御信号の配線126a,126c,126d,126fと入力端子の配線124,125を備える。また、それぞれの制御IC21の二次電源と接続する入力端子の配線122a,122b,123a,123bを備える。
【0036】
また、中性点配線102にスリット201を入れることで平滑キャパシタ104,105に対するパワーモジュール110aの負極側のインダクタンスを増加し、パワーモジュール110aの負極側のインダクタンスとのアンバランスを調整している。また、中性点配線102にスリット202を入れることでパワーモジュール113aの正極側のインダクタンスを増加し、パワーモジュール113bの正極側のインダクタンスとのアンバランスを調整している。
【0037】
図8は、第2層(中間層)の平面図である。Via150を介して、パワーモジュール108bの負極側と接続する中間配線106にスリット203を入れる。これによりパワーモジュール108bの配線の長さが増加する為にインダクタンスが増加することで生じる、パワーモジュール108aとのインダクタンスのアンバランスを低減し、電流のばらつきを抑制する。また、同様に中間配線106にスリット203を入れることで、パワーモジュール110aの正極側のインダクタンスを調整し、パワーモジュール110bとの間の電流のばらつきを抑制する。さらに、中間配線106にスリット204を入れることで、パワーモジュール109aの正極側のインダクタンスを調整し、パワーモジュール109bとの電流ばらつきを抑制する。同様に中間配線107にスリット205を入れることで、パワーモジュール114bの正極側のインダクタンスを調整し、パワーモジュール114aとの電流ばらつきを抑制する。また、中間配線107にスリット205を入れることで、パワーモジュール113aの負極側のインダクタンスを調整し、パワーモジュール113bとの電流ばらつきを抑制する。同様に中間配線107にスリット206を入れることで、パワーモジュール112aの負極側のインダクタンスを調整し、パワーモジュール112bとの間の電流のばらつきを抑制する。
【0038】
図9は、第3層(中間層)の平面図である。正極配線101にスリット207を入れることで、パワーモジュール108aの正極側のインダクタンスを増加し、パワーモジュール108bとの間のインダクタンスの差を調整する。また、負極配線103にスリット208を入れることで、パワーモジュール114aの負極側のインダクタンスを増加し、パワーモジュール114bとの間のインダクタンスの差を調整し、電流のばらつきを抑制する。
【0039】
図10は、第4層(表層)の平面図である。1層目と同様に第4層(表層)144dには中性点配線102が形成されている。中性点配線102は、平滑キャパシタ104の負極側のピン142と、平滑キャパシタ105の正極側のピン143と接続し、Via150により第1層(表層)144aの中性点配線102と接続し、パワーモジュール110a,110b及びパワーモジュール113a,113bと接続する。
図7に示す中性点配線102と同様にスリット201,202によりインダクタンスを調整し、電流のばらつきを抑制する。
【0040】
図11は、電力変換装置の斜視図である。電力変換装置51では、制御IC121の一次側の電源や制御信号を外部から入力するためコネクタ301a,301bを取り付ける。また,制御IC121の二次側の電源を外部から入力するためコネクタ302a,302b,302c,302d,302e,302fをそれぞれ備えている。これらの制御信号用のコネクタに加え、主回路51aの入力端子101a,102a,103aにDC入力ケーブルを、出力端子111aにAC出力ケーブルを取り付けることで、DC入力をAC出力に変換して出力できる。
【0041】
図12は、本実施形態1の電力変換装置の断面図である。パワーモジュール15(前記の各パワーモジュールを代表してパワーモジュール15と表記)の表面に絶縁体400を挟み、流路451をパワーモジュール15に隣接させて密着させる。更にプリント基板144との間に絶縁体400を挟んで流路452をプリント基板144に隣接させて密着させる。流路451,452には、エチレングリコール、油等の冷却媒体405,406が流通する。流路451,452にはフィン407がパワーモジュール15の上面及び下面に位置する場所に配置されている。これにより、冷却媒体405,406により、パワーモジュール15及びプリント基板144の両方が冷却され、電力変換装置51の全体的な冷却を十分に行うことができる。
【0042】
以上説明した本実施例の電力変換装置51によれば、前記した通り、第1層(表層)144a、第4層(表層)144dにおける主回路51a配線を基本的に中性点配線102のみとすることで、適切に電力変換装置51の発熱を抑制することができる。
また、第1層(表層)144a、第4層(表層)144dに中性点配線102を配し、第2層(中間層)144b、第3層(中間層)144cに正極配線101、負極配線103、中間配線106,107を配することで、前記のとおり、主回路51aにおける配線のインダクタンスを抑制することができる。
【0043】
さらに、前記のとおり、流路451,452によってパワーモジュール15及びプリント基板144の両方を冷却して、電力変換装置51を好適に冷却することができる。
第1層(表層)144aの配線はファインピッチの配線であり、この配線によって制御IC121が第1層(表層)144aに実装されているので、同じプリント基板144に主回路51aと制御系の回路とを実装することができる。
また、主回路51aの配線は、第1層(表層)144a~第4層(表層)144dの全ての層に存在しているため、主回路51aの配線を表層のみに配線する場合と比べて、特定の層の配線の面積を拡大しないので、プリント基板144を大型化させないことにより電力変換装置51のサイズが不必要に拡大するのを抑制し、その電力出力密度を増大させることができる。
【0044】
各パワーモジュール108~110,112~114は各々単一のMOSFET4のみを備えているので、いずれかの当該パワーモジュールに不備があっても複数個のMOSFET4が使用不能とはならないため、MOSFET4の歩留まりを高めることができる。
中性点配線102は、表面の層(第1層144a)と裏面の層(第4層144d)とに配置されているので、第1層(表層)144aの主回路51aの配線が薄いことを補うことができる。
【0045】
パワーモジュール108~110,112~114は、プリント基板144を板厚方向に貫通する孔321に挿通するように実装され、当該孔321の両側からプリント基板144の外に露出している。よって、パワーモジュール108~110,112~114を外気で冷却するのに好適である。
電力変換装置51は、各パワーモジュール108~110,112~114が、複数個(前記の例でパワーモジュール108a,108bのように2個)ずつ並列接続されているので、出力を大きくすることができる。
次に、本発明の実施例2について説明する。以下の実施例2の説明では、実施例1と共通の構成については実施例1と同様の符号を用いて詳細な説明を省略し、実施例1と異なる点を中心に説明する。
実施例1と同様、第1層(表層)401a、第6層(表層)401fの主回路51aの配線は中性点配線102としている。中間層のうちの第2層401b及び第5層401eには、それぞれ中間配線106,107が互いに絶縁体152で絶縁されて形成されている。この中間配線106と107とは、極力同じ幅の配線とする。また、中間層のうち第3層401c及び第4層401dには、それぞれ正極配線101と負極配線103とが互いに絶縁体152で絶縁されて形成されている。正極配線101と負極配線103とは、極力同じ幅の配線とする。ここで、例えば、第3層(中間層)401c及び第4層(中間層)401dを、中性点配線102と負極配線103とし、第1層(表層)401a、第6層(表層)401fを正極配線101とすると、実施例1の場合と同様の不具合が生じる。よって、第1層(表層)401a、第6層(表層)401fの主回路51aの配線は中性点配線102とすることが望ましい。
しかしながら、この構成では、第6層(表層)401fを流れる電流は、それと流れる方向が反対の電流が流れる第2層(中間層)401bや第3層(中間層)401cから離れた配置となってしまい、互いの配線間で磁束を打ち消し合う効果が薄れてしまう。つまり、第2層(中間層)401bや第3層(中間層)401cの正極配線101、負極配線103は、第1層(表層)401aの中性点配線102との間では互いに効果的に磁束を打ち消し合うことができるかもしれない。しかし、第2層(中間層)401bや第3層(中間層)401cの正極配線101、負極配線103は、第6層(表層)401fの中性点配線102との間では互いに効果的に磁束を打ち消し合うことができない。
また、実施例1と同様、主回路51aの配線は、第1層(表層)401a~第6層(表層)401fの全ての層に存在している。そのため、主回路51aの配線を表層のみに配線する場合と比べて、特定の層の配線の面積を拡大しないので、プリント基板401を大型化させないことにより電力変換装置51のサイズが不必要に拡大するのを抑制し、その電力出力密度を増大させることができる。
実施例1と同様、各パワーモジュール108~110,112~114は各々単一のMOSFET4のみを備えているので、いずれかの当該パワーモジュールに不備があっても複数個のMOSFET4が使用不能とはならないため、MOSFET4の歩留まりを高めることができる。
実施例1と同様、中性点配線102は、表面の層(第1層401a)と裏面の層(第6層401f)とに配置されているので、第1層(表層)401aの主回路51aの配線が薄いことを補うことができる。
実施例1と同様、パワーモジュール108~110,112~114は、プリント基板144を板厚方向に貫通する孔321に挿通するように実装され、当該孔321の両側からプリント基板144の外に露出している。よって、パワーモジュール108~110,112~114を外気で冷却するのに好適である。
実施例1と同様、電力変換装置51は、各パワーモジュール108~110,112~114が、複数個(前記の例でパワーモジュール108a,108bのように2個)ずつ並列接続されているので、出力を大きくすることができる。
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。