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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180050
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】車両用ガラスモジュール
(51)【国際特許分類】
   B60J 1/00 20060101AFI20241219BHJP
   B29C 33/14 20060101ALI20241219BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20241219BHJP
   B29C 45/27 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
B60J1/00 M
B29C33/14
B29C45/14
B29C45/27
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099474
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】酒井 庸鑑
(72)【発明者】
【氏名】中川 樹代美
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
4F202AD03
4F202AD04
4F202AD35
4F202AH18
4F202AM32
4F202AR12
4F202CA11
4F202CB12
4F202CK06
4F202CK12
4F202CQ01
4F202CQ05
4F206AD03
4F206AD04
4F206AD35
4F206AG03
4F206AH18
4F206AM32
4F206AR12
4F206JB12
4F206JF05
4F206JL02
4F206JM04
4F206JN11
4F206JQ81
(57)【要約】
【課題】インサート成形時に装飾部材が金型内で動かない車両用ガラスモジュールを提供する。
【解決手段】複数の装飾部材31,32がインサート成形により形成された樹脂部20を介してガラス板10に固定された車両用ガラスモジュールAにおいて、ガラス板10は、外面側の第1面10a及び内面側の第2面10bを有しており、樹脂部20はガラス板10の角に対応する角部24を有しており、複数の装飾部材31,32のうち少なくとも1つは、第2面10bの側にある内面を押圧した形跡からなる押圧領域31fを有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の装飾部材がインサート成形により形成された樹脂部を介してガラス板に固定された車両用ガラスモジュールであって、
前記ガラス板は、外面側の第1面及び内面側の第2面を有しており、
前記樹脂部は前記ガラス板の角に対応する角部を有しており、
複数の前記装飾部材のうち少なくとも1つは、前記第2面の側にある内面を押圧した形跡からなる押圧領域を有する車両用ガラスモジュール。
【請求項2】
複数の前記装飾部材は、それぞれ前記ガラス板の外縁に沿って延出した姿勢で前記ガラス板に固定されており、
前記押圧領域は、前記装飾部材の延出方向の少なくとも一方の端部に形成されている請求項1に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項3】
前記樹脂部は、前記第2面の側であって前記ガラス板の板面に対する垂直方向視で複数の前記装飾部材のそれぞれと重複する位置に、前記樹脂部を形成するために供給した樹脂のゲート跡を有しており、
前記押圧領域は、前記ゲート跡から当該ゲート跡と前記垂直方向視で重複している前記装飾部材の前記端部までの距離が最も遠い前記装飾部材の前記端部に形成されている請求項2に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項4】
前記押圧領域が形成された前記装飾部材の前記端部の壁面は、隣り合う前記装飾部材の前記端部の壁面に近接している請求項3に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項5】
装飾部材がインサート成形により形成された樹脂部を介してガラス板に固定された車両用ガラスモジュールであって、
前記ガラス板は、車外側の第1面及び車内側の第2面を有しており、
前記樹脂部は前記ガラス板の角に対応する角部を有しており、
前記装飾部材は、前記樹脂部の外縁に沿って延出した姿勢で、少なくとも前記角部を含むように前記樹脂部を介して前記ガラス板に固定されており、
前記装飾部材は、前記角部の近傍において、前記第2面の側にある内面を押圧した形跡からなる押圧領域を有する車両用ガラスモジュール。
【請求項6】
前記角部における前記樹脂部の外縁のなす角度は鋭角である請求項1から5のいずれか一項に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項7】
前記押圧領域において、前記内面の一部は前記樹脂部から露出している請求項1から5のいずれか一項に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項8】
前記樹脂部は、前記押圧領域の近傍において、凹部を有している請求項1から5のいずれか一項に記載の車両用ガラスモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ガラスモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用ガラスモジュールにおいて、意匠性向上のため、ガラス板の板面のうち車両の外側(車外側)に位置する外面側に装飾部材が取り付けられる場合がある。ガラス板に装飾部材を取り付けるには、例えば、ガラス板と装飾部材とを金型内に載置し、金型に溶融した樹脂を供給してインサート成形を行う方法がある。これにより、装飾部材は、硬化した樹脂である樹脂部を介してガラス板に固定される。車両用ガラスモジュールにおいては、複数の装飾部材が1枚のガラス板に取り付けられる場合もある。
【0003】
特許文献1には、ガラス板の周縁に形成された樹脂部(特許文献1においては枠体)を介して複数の装飾部材が取り付けられた枠体付き車両窓用ガラス板が開示されている。樹脂部は、ガラス板にインサート成形を行うことにより形成される。複数の装飾部材は、両面接着テープ、熱かしめ部材等の固着部材、及び嵌合構造のうち少なくとも一つを利用して樹脂部に取り付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-091362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インサート成形により装飾部材を樹脂部に取り付けて車両用ガラスモジュールを製造する方法は、特許文献1に記載された両面接着テープ、固着部材、及び嵌合構造により装飾部材を樹脂部に取り付けて車両用ガラスモジュールを製造する方法と比較して、工数が削減される点で有効である。一般に、装飾部材をインサート成形により樹脂部に取り付けるときには、車両用ガラスモジュールにおけるガラス板の外面側からゲート跡が視認できないように、装飾部材の裏面側(車内側)に金型のゲート位置が設定される。複数の装飾部材を樹脂部に取り付ける場合には、それぞれの装飾部材の裏面側にゲート位置が設定されることが多い。そして、各ゲートから溶融樹脂が金型内に供給されると、溶融樹脂は装飾部材の裏面側から端部近傍を流通して表面側に向かう。このとき、一の装飾部材の端部近傍を流通する溶融樹脂の圧力が、他の装飾部材に作用する場合がある。溶融樹脂の圧力により他の装飾樹脂が金型内で動いてしまった場合には、製造された車両用ガラスモジュールが不良品となってしまうおそれがあり、改良の余地があった。
【0006】
そこで、インサート成形時に装飾部材が金型内で動かない車両用ガラスモジュールが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両用ガラスモジュールの一つの実施形態は、複数の装飾部材がインサート成形により形成された樹脂部を介してガラス板に固定された車両用ガラスモジュールであって、前記ガラス板は、外面側の第1面及び内面側の第2面を有しており、前記樹脂部は前記ガラス板の角に対応する角部を有しており、複数の前記装飾部材のうち少なくとも1つは、前記第2面の側にある内面を押圧した形跡からなる押圧領域を有する。
【0008】
本実施形態によると、押圧領域を設けることにより、例えば、インサート成形により車両用ガラスモジュールを製造する際に、装飾部材が樹脂部を形成する溶融樹脂の圧力によって金型内で移動することを防止して、良品の車両用ガラスモジュールを製造することができる。
【0009】
本発明に係る車両用ガラスモジュールの他の一つの実施形態において、複数の前記装飾部材は、それぞれ前記ガラス板の外縁に沿って延出した姿勢で前記ガラス板に固定されており、前記押圧領域は、前記装飾部材の延出方向の少なくとも一方の端部に形成されている。
【0010】
溶融樹脂の圧力は、装飾部材の中央部よりも端部に作用する方がモーメントが大きくなり動く可能性が高い。しかし、本実施形態によると、装飾部材の端部に押圧領域を設けることにより、装飾部材にモーメントが作用して金型内で装飾部材が動くのを効果的に防止することができる。
【0011】
本発明に係る車両用ガラスモジュールの他の一つの実施形態において、前記樹脂部は、前記第2面の側であって前記ガラス板の板面に対する垂直方向視で複数の前記装飾部材のそれぞれと重複する位置に、前記樹脂部を形成するために供給した樹脂のゲート跡を有しており、前記押圧領域は、前記ゲート跡から当該ゲート跡と前記垂直方向視で重複している前記装飾部材の前記端部までの距離が最も遠い前記装飾部材の前記端部に形成されている。
【0012】
インサート成形時に、溶融樹脂が複数の装飾部材のそれぞれに形成されたゲートから供給された場合、装飾部材の端部までの距離が近いゲートから供給された溶融樹脂が当該装飾部材の端部に早く到達し、ゲートから端部までの距離が遠い他の装飾部材の端部に圧力を作用させる。しかし、本実施形態であれば、そのような他の装飾部材の端部に押圧領域を形成するので、装飾部材が金型内で動くことはない。
【0013】
本発明に係る車両用ガラスモジュールの他の一つの実施形態において、前記押圧領域が形成された前記装飾部材の前記端部の壁面は、隣り合う前記装飾部材の前記端部の壁面に近接している。
【0014】
本実施形態によると、一の装飾部材の端部の壁面と、他の装飾部材の端部の壁面が近接していた場合でも、他の装飾部材の端部に押圧領域を形成されていれば、装飾部材の端部までの距離が近いゲートから供給された溶融樹脂が当該装飾部材の端部に早く到達して他の装飾部材の端部に圧力を作用させたとしても、装飾部材が金型内で動くことはない。
【0015】
本発明に係る車両用ガラスモジュールの一つの実施形態は、装飾部材がインサート成形により形成された樹脂部を介してガラス板に固定された車両用ガラスモジュールであって、前記ガラス板は、車外側の第1面及び車内側の第2面を有しており、前記樹脂部は前記ガラス板の角に対応する角部を有しており、前記装飾部材は、前記樹脂部の外縁に沿って延出した姿勢で、少なくとも前記角部を含むように前記樹脂部を介して前記ガラス板に固定されており、前記装飾部材は、前記角部の近傍において、前記第2面の側にある内面を押圧した形跡からなる押圧領域を有する。
【0016】
角部では、溶融樹脂の流動方向が急激に変わり、また、溶融樹脂は粘性を有しているので、溶融樹脂の圧力が高くなりやすい。溶融樹脂の圧力が高まると、当該圧力が装飾部材に作用したときに、金型内で装飾部材が動きやすい。しかし、本実施形態によると、角部の近傍に押圧領域を設けることにより、装飾部材が溶融樹脂の圧力により金型内で移動することを防止して、良品の車両用ガラスモジュールを製造することができる。
【0017】
本発明に係る車両用ガラスモジュールの他の一つの実施形態において、前記角部における前記樹脂部の前記外縁のなす角度は鋭角である。
【0018】
本実施形態によると、角部における樹脂部の外縁のなす角度が鋭角であっても、角部の近傍に押圧領域を設けることにより、装飾部材が溶融樹脂の圧力により金型内で移動することを防止することができる。
【0019】
本発明に係る車両用ガラスモジュールの他の一つの実施形態は、前記押圧領域において、前記内面の一部は前記樹脂部から露出している。
【0020】
本実施形態によると、例えば、インサート成形の金型に、装飾部材の内面を押圧する箇所を設けると、内面の当該箇所はインサート成形後に樹脂で覆われないので、押圧領域において、内面が樹脂部から露出する。
【0021】
本発明に係る車両用ガラスモジュールの他の一つの実施形態において、前記樹脂部は、前記押圧領域の近傍において、凹部を有している。
【0022】
装飾部材が金型内で動かないようにするためには、押圧領域を設ける以外に、装飾部材に作用する溶融樹脂の圧力を低下させることが考えられる。そこで、押圧領域の近傍における金型内に、溶融樹脂の流動を妨げる妨害部を突設すると、溶融樹脂は妨害部で圧力が低下させられて装飾部材に到達する。突設された妨害部は、金型に形成されているので、車両用ガラスモジュールにおいては、インサート成形時に妨害部であったところが凹部になって残る。このように、本実施形態によると、車両用ガラスモジュールにおいて凹部となるような妨害部を金型に設けることにより、装飾部材に向かう溶融樹脂の圧力を低下させることができるので、装飾部材が溶融樹脂の圧力により金型内で移動することを効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】車体に車両用ガラスモジュールが取り付けられた状態を表す正面図である。
図2】第1実施形態に係る車両用ガラスモジュールを外面側から見たときの正面図である。
図3】車両用ガラスモジュールを外面側から見たときの分解斜視図である。
図4】車両用ガラスモジュールを内面側から見たときの斜視図である。
図5図4のV-V線矢視断面図である。
図6】インサート成形により車両用ガラスモジュールを製造する様子を表す斜視図である。
図7】インサート成形により第2実施形態に係る車両用ガラスモジュールを製造する様子を表す斜視図である。
図8】車両用ガラスモジュールを内面側から見たときの斜視図である。
図9図8のIX-IX線矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る車両用ガラスモジュールの実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に記載される実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこれらの実施形態にのみ限定するものではない。したがって、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施することができる。
【0025】
〔第1実施形態〕
第1実施形態に係る車両用ガラスモジュールAは、車体1に取り付けられる窓に使用される。本実施形態においては、図1に示されるように、車両用ガラスモジュールAを車体1のリヤクウォータガラスに用いているが、開閉せずに車体1の側面に嵌め込まれる窓であれば任意の箇所に適用することができる。
【0026】
車両用ガラスモジュールAは、図2から図5に示されるように、ガラス板10、樹脂部20、及び装飾部材30により構成されている。
【0027】
ガラス板10は、車両用ガラスモジュールAが車体1に取り付けられた状態で、車外側に相当する外面側に位置する第1面10aと、第1面10aに平行で車内側に相当する内面側に位置する第2面10bとを有する。第2面10bには、中央部を除き、濃色のセラミックス層10cが形成されている。セラミックス層10cは、ガラス板10の第2面10bにセラミックス粉末含有塗料を塗布して焼き付けることにより形成される。本実施形態のガラス板10は、図3に示されるように、板面に垂直な方向視(垂直方向視の一例。以下、単に垂直方向視という。)で略三角形状を有している。最も長い第1辺10d(外縁の一例)は一部が外側に膨らむように若干湾曲している。他の二辺である第2辺10e(外縁の一例)と第3辺10fは直線状である。第1辺10dの端と第2辺10eの端とは円弧状の弧状角部10g(角の一例)により繋がれており、弧状角部10gを挟む第1辺10dと第2辺10eのなす角度は鋭角である。
【0028】
樹脂部20は、インサート成形の射出成形によりガラス板10の第1辺10d、第2辺10e及び第3辺10fからなる外縁の全周を覆うように第1面10aから第2面10bに亘って形成されている。樹脂部20は、図6に示される金型50に供給された溶融樹脂が硬化することによりガラス板10と一体化される。以下、金型50に供給されて流動している硬化前の樹脂を溶融樹脂、溶融樹脂が硬化したものを単に樹脂という。
【0029】
樹脂部20のうち、ガラス板10の第1辺10dに沿う部分を第1部分21、第2辺10eに沿う部分を第2部分22、第3辺10fに沿う部分を第3部分23と称する。最も長い第1部分21は、ガラス板10の第1辺10dと同様に、一部が外側に膨らむように若干湾曲している。また、第2部分22、第3部分23は、第2辺10e、第3辺10fと同様に直線状である。
【0030】
第1部分21、第2部分22、及び第3部分23は、それぞれの端同士が繋がっており、樹脂部20は、図3に示されるように、垂直方向視で略三角形状の枠体である。以下、第1部分21と第2部分22とが交差する部分を第1角部24a(角部の一例)といい、第1角部24aより内側(ガラス板10に近い側)で第1部分21と第2部分22とを繋ぐ部分を第2角部24b(角部の一例)という。第1角部24aと第2角部24bとを総称して角部24という。角部24は、ガラス板10の弧状角部10gに対応している。第1角部24aにおいて、第1部分21と第2部分22の外縁のなす角度は垂直方向視で鋭角である。また、第2角部24bのうちガラス板10に近い部分は、垂直方向視でガラス板10の弧状角部10gの形状に沿う円弧形状となっており、ガラス板10の第1面10aと第2面10bとを挟んでいる。第2角部24bの残りの部分は、垂直方向視でガラス板10と重複していない。樹脂部20は、例えばポリ塩化ビニル(PVC)やポリウレタン(PU)からなる。樹脂部20は、インサート成形により、装飾部材30とガラス板10とを固定して一体化する。以下、樹脂部20の第1部分21のうち、車両用ガラスモジュールAが車体1に取り付けられた状態で、車外側(ガラス板10の第1面10aの側)に相当する外面側を外面部分21a、車内側(ガラス板10の第2面10bの側)に相当する内面側を内面部分21bと称する。同様に、第2部分22のうち、車外側に相当する外面側を外面部分22a、車内側に相当する内面側を内面部分22bと称する。
【0031】
装飾部材30は、SUSなどの金属からなる棒状の部材であり、棒の延出方向(長手方向)に垂直な断面が略台形状を有している。装飾部材30は、車両用ガラスモジュールAが車体1に取付けられた状態で車外側に位置する外面、車内側に位置する内面、外面と内面との間に配置された2つの側面、及び2つの端面からなる。
【0032】
装飾部材30がインサート成形により樹脂部20と一体化された状態では、図2図5に示されるように、外面の全部、並びに2つの側面及び2つの端面の一部(外面に近い側)が樹脂に覆われずに露出している。一方、内面の全部、並びに2つの側面及び2つの端面の残部(内面に近い側)は、樹脂部20の樹脂に覆われている。すなわち、装飾部材30は、内面に近い側の部分が樹脂に覆われる(埋め込まれる)ことにより、樹脂部20と一体化される。装飾部材30は延出方向に垂直な断面が略台形状を有しているので、側面の一部が樹脂で覆われることにより、装飾部材30は樹脂部20に固定され、樹脂部20と装飾部材30とは一体化される。したがって、装飾部材30がインサート成形後に樹脂部20から脱落することはない。
【0033】
本実施形態において、装飾部材30は複数(本実施形態においては2つ)の部材からなる。以下、装飾部材30に含まれる2つの装飾部材30を区別するときは、第1装飾部材31及び第2装飾部材32と称する。そして、第1装飾部材31における外面を外面31a(壁面の一例)、内面を内面31b(壁面の一例)、2つの側面を側面31c(壁面の一例)、及び2つの端面を端面31d(壁面の一例)と称する。また、それぞれの端面31d及び端面31dの近傍の外面31a、内面31b、及び2つの側面31cからなる部分を端部31eという。端部31eとは、車両用ガラスモジュールAにおいて、第1装飾部材31のうち、端面31dから延出方向に沿って、少なくとも第2角部24bと対向している部位である。
【0034】
同様に、第2装飾部材32における外面を外面32a(壁面の一例)、内面を内面32b(壁面の一例)、2つの側面を側面32c(壁面の一例)、及び2つの端面を端面32d(壁面の一例)と称する。また、それぞれの端面32d及び端面32dの近傍の外面32a、内面32b、及び2つの側面32cからなる部分を端部32eという。端部32eとは、車両用ガラスモジュールAにおいて、第2装飾部材32のうち、端面32dから延出方向に沿って、少なくとも第2角部24bと対向している部位である。
【0035】
図5に示されるように、第1装飾部材31は、樹脂部20の第1部分21に沿って、内面31bに近い側が第1部分21の外面部分21aよりも内側に埋め込まれ、外面31aに近い側が外面部分21aから露出した状態で配置されている。第2装飾部材32は、樹脂部20の第2部分22に沿って、内面32bに近い側が第2部分22の外面部分22aよりも内側に埋め込まれ、外面32aに近い側が外面部分22aから露出した状態で配置されている。図2に示されるように、第1装飾部材31の端部31eのうち樹脂部20の角部24に近い側と、第2装飾部材32の端部32eのうち樹脂部20の角部24に近い側とは、互いに近接している。角部24に近い第1装飾部材31の端面31dと、角部24に近い第2装飾部材32の側面32cとが最も近接している。
【0036】
次に、第1実施形態に係る車両用ガラスモジュールAの製造方法について説明する。上述したように、車両用ガラスモジュールAは、インサート成形により形成される。具体的には、図6に示されるように、固定型である上型52と可動型である下型54からなる金型50において、下型54にガラス板10、第1装飾部材31、及び第2装飾部材32を載置する。次に、下型54を上型52に当接させて型締めした後、上型52に形成された第1ゲート52a及び第2ゲート52bから金型50内に溶融樹脂を供給する。第1ゲート52aから供給された溶融樹脂は、ガラス板10の第1辺10dに沿って第1ゲート52aの両方向に流動する。同様に、第2ゲート52bから供給された溶融樹脂は、ガラス板10の第2辺10eに沿って第2ゲート52bの両方向に流動する。
【0037】
金型50内に供給された溶融樹脂は、ガラス板10の第1辺10d、第2辺10e、第3辺10fに沿って流動し、ガラス板10の外縁の全周を覆う。その後、溶融樹脂は温度が低下して硬化して樹脂になる。これにより、樹脂部20が形成され、樹脂部20を介して装飾部材30がガラス板10に固定される。すなわち、インサート成形により、ガラス板10、樹脂部20、及び装飾部材30が一体化されて車両用ガラスモジュールAになる。インサート成形終了後に、下型54を移動させて型開きを行い、上型52から車両用ガラスモジュールAを取り出す。
【0038】
図2図4に示されるように、車両用ガラスモジュールAの樹脂部20の第1部分21の内面部分21bは、垂直方向視で第1装飾部材31と重複する位置において、上型52の第1ゲート52aの跡である第1ゲート跡25a(ゲート跡の一例)を有している。また、樹脂部20の第2部分22の内面部分22bは、垂直方向視で第2装飾部材32と重複する位置において、上型52の第2ゲート52bの跡である第2ゲート跡25b(ゲート跡の一例)を有している。第1ゲート跡25a、第2ゲート跡25bが、それぞれ第1装飾部材31、第2装飾部材32と垂直方向視で重複する位置にあることにより、車両用ガラスモジュールAの外面側から第1ゲート跡25a、第2ゲート跡25bが視認されず、車両用ガラスモジュールAの美観を損ねることがない。
【0039】
以下、金型50内において溶融樹脂が硬化した後で樹脂部20の角部24、第1角部24a、第2角部24bになる箇所を、それぞれ角部53、第1角部53a、第2角部53bという(図6参照)。図4に示されるように、第2ゲート跡25bは、第1ゲート跡25aに比べて、角部24に近い位置にある。すなわち、金型50において、第2ゲート52bは、第1ゲート52aと比較して、角部53に近い位置にある(図6参照)。そのため、第2ゲート52bから金型50内に供給されてガラス板10の第2辺10eに沿って流動する溶融樹脂は、第1ゲート52aから金型50内に供給されてガラス板10の第1辺10dに沿って流動する溶融樹脂よりも早く角部53に到達する。
【0040】
第2ゲート52bから金型50内に供給されてガラス板10の第2辺10eに沿って流動した溶融樹脂は、最初に第2角部53bに到達し、次に第1角部53aに到達する。第2角部53bに到達した溶融樹脂の一部は、そこで流動方向を変えて、第1辺10dに向かって流動し、残りは第1角部53aに向かって流動する。また、第1角部53aに到達した溶融樹脂は、そこで流動方向を変えて、第1辺10dの方向に沿って流動する。また、上述したように、第1角部24aにおいて、第1部分21と第2部分22のなす角度は鋭角であるから、溶融樹脂は、第1角部53aにおいて、流動方向が第2部分22に沿う方向から第1部分21に沿う方向に鋭角的に変わる。さらに、溶融樹脂は粘性を有している。これらの理由により、角部53においては、他の箇所に比べて溶融樹脂の圧力が大きくなる。
【0041】
溶融樹脂が第2角部53bで流動方向を変えて第1辺10dに向かって流動する際、溶融樹脂は第1装飾部材31の端部31e、特に側面31cに当たる。このとき、側面31c当たった溶融樹脂の圧力が大きい場合、当該圧力の作用により、金型50内に載置した第1装飾部材31が初期位置(正規の位置)から動いてしまう場合がある。第1装飾部材31が金型50内で初期位置から動いた位置のままで溶融樹脂が硬化してしまうと、車両用ガラスモジュールAは不良品となってしまう。
【0042】
そこで、本実施形態に係る車両用ガラスモジュールAにおいては、上型52に押圧部52dと、妨害部52fとを設けている。押圧部52dと妨害部52fは、いずれも上型52の第2角部53bに配置されており、下型54に向けて突出している。押圧部52dは、第2角部53bまでの距離が第2ゲート52bよりも遠い第1ゲート52aから射出された溶融樹脂が第1辺10dに沿って流動する途中に形成されている。押圧部52dは略直方体形状を有しており、妨害部52fは略台形柱状を有している。なお、本実施形態において、押圧部52dの突出高さは、妨害部52fの突出高さと同等である。
【0043】
押圧部52dは、垂直方向視で第1装飾部材31の少なくとも端部31eの一部と重複する位置に、押圧部52dの長方形状の下面52eの長辺が第1装飾部材31の延出方向(長手方向)に沿うような姿勢で配置されている。押圧部52dは、下型54を上型52に当接させて型締めしたときに、下面52eが第1装飾部材31の端部31eにおける内面31bに当接し、第1装飾部材31を下型54の方向に押圧するように構成されている。型締めされた状態では、第1装飾部材31の外面31aには下型54が当接しているので、押圧部52dが第1装飾部材31の端部31eの内面31bを下型54の方向に押圧しても、第1装飾部材31は動かない。すなわち、上型52と下型54とを型締めした状態では、第1装飾部材31の端部31eは、下型54と押圧部52dとにより挟持された状態になる。
【0044】
妨害部52fは、上型52の第2角部53bに配置されている。妨害部52fは、垂直方向視で第1装飾部材31と重複していない。妨害部52fは、下型54を上型52に当接させて型締めしたときに、妨害部52fの下面52gと下型54との間に隙間ができるような突出高さに設定されている。
【0045】
このような構成を有する金型50を用いて、樹脂部20を形成するために第2ゲート52bから溶融樹脂を供給すると、第2角部53bで流動方向を変えて第1部分21に向かって流動する溶融樹脂は、妨害部52fの側面に衝突して流動速度が低下する。そして、衝突した溶融樹脂は、流動速度が低下したまま、妨害部52fの側面に沿って回り込んだり、下面52gと下型54との間に流れ込んだりして、第1辺10dに向かって流動する。その後、溶融樹脂は、第1装飾部材31の端部31eにおける側面31cに当たって圧力を作用させる。しかし、妨害部52fにより溶融樹脂の流動速度は低下しているので、側面31cに作用する圧力は、妨害部52fが無いときと比較して小さくなっている。また、上述したように、第1装飾部材31の端部31eは下型54と押圧部52dとにより押圧されて挟持されている。その結果、第1装飾部材31に溶融樹脂の小さい圧力が作用しても、第1装飾部材31は初期位置のまま保持されて動くことはない。そのため、第1装飾部材31は、金型50内の初期位置で固定されたままインサート成形が終了し、良品の車両用ガラスモジュールAが製造される。
【0046】
インサート成形中に、押圧部52dで第1装飾部材31の端部31eを押圧すると下面52eと第1装飾部材31の内面31bとの間には隙間ができないので、溶融樹脂が第1装飾部材31に当たっても、下面52eと内面31bとの間に入り込むことはない。そのため、インサート成形が終了した車両用ガラスモジュールAにおける第1装飾部材31の内面31bのうち押圧部52dの下面52eが押圧していた箇所は、樹脂で覆われておらず、第1装飾部材31の内面31bが露出して視認可能な状態となっている。以下、車両用ガラスモジュールAにおいて、第1装飾部材31の内面31bを押圧した形跡を押圧領域31fという(図4図5参照)。本実施形態において、押圧領域31fは、押圧部52dの下面52eに押圧されることにより露出した内面31b、及び押圧部52dにより形成された樹脂部20の貫通孔26を含む領域である。すなわち、押圧領域31fは、第2ゲート跡25bから第2装飾部材32の端部32eまでの距離と第1ゲート跡25aから第1装飾部材31の端部31eまでの距離とを比較したときに、距離が遠い方の端部(距離が最も遠い端部)である第1装飾部材31の端部31eに形成されている。押圧領域31fは、垂直方向視で押圧部52dの下面52eと同じ長方形状であり、長辺が第1装飾部材31の延出方向(長手方向)に沿っている。一方、第2角部24bには、上型52に配置された妨害部52fにより、凹部27が形成されている。
【0047】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態に係る車両用ガラスモジュールAについて説明する。本実施形態においては、押圧領域31fの構成が第1実施形態と異なる。それ以外は第1実施形態と同様の構成を有している。そのため、本実施形態の説明においては、第1実施形態と同様の構成の箇所については同じ符号を付し、同様の構成に関する詳細な説明を省略する。
【0048】
本実施形態において、図7に示されるように、金型50の上型52は、妨害部52fだけを有しており、押圧部52dを有していない。インサート成形で車両用ガラスモジュールAを製造する際には、金型50の上型52の押圧部52dが形成されていた場所に、押圧部52dに代わり、押圧部52dと同じ大きさの押圧部品33を載置する。
【0049】
押圧部品33を上型52に載置してインサート成形を行うと、上型52と下型54とを型締めした状態で、第1装飾部材31の端部31eは、上型52により押圧される押圧部品33と下型54とに挟持される。その状態で溶融樹脂が供給されても、第1実施形態と同様、妨害部52fと押圧部品33とにより、第1装飾部材31は初期位置のまま保持されて動くことはない。そのまま溶融樹脂が硬化すると、押圧部品33の側面は樹脂に囲まれた状態になる。そして、下型54を移動させて型開きを行って車両用ガラスモジュールAを取り出すと、図8図9に示されるように、押圧部品33は、上型52には残らず、樹脂部20に埋め込まれた状態で車両用ガラスモジュールAの方に残る。すなわち、本実施形態の車両用ガラスモジュールAにおける押圧領域31fは、樹脂部20に埋め込まれた押圧部品33を含んでいる。
【0050】
〔その他の実施形態〕
(1)第1実施形態においては、インサート成形時に第1装飾部材31を初期位置から動かないようにするために、金型50の上型52に押圧部52dと妨害部52fとを設けたが、第1装飾部材31が初期位置から動かないのであれば、押圧部52dと妨害部52fのいずれか一方だけを設けるように構成してもよい。同様に、第2実施形態において、第1装飾部材31が初期位置から動かないのであれば、押圧部品33と上型52の妨害部52fのいずれか一方だけを設けるように構成してもよい。
【0051】
(2)上記各実施形態において、押圧領域31fを第1装飾部材31の端部31eに設けたが、第1装飾部材31が初期位置から動かないのであれば、押圧領域31fを端部31e以外の箇所に設けてもよい。また、押圧領域31fを端部31eから端部31e以外の箇所に亘って設けてもよい。これらの場合、押圧領域31fを設けた箇所を端部とし、端部に含まれる箇所を端部31eから拡張する。
【0052】
(3)上記各実施形態において、垂直方向視で押圧領域31fは長方形状であったが、他の形状であってもよい。また、押圧領域31fが端部31e又は拡張された端部の複数の箇所に分散して形成されていてもよい。
【0053】
(4)上記各実施形態において、押圧領域31fは第1装飾部材31だけに形成されていたが、第1装飾部材31に加えて第2装飾部材32に形成されていてもよい。
【0054】
(5)上記各実施形態においては、第2ゲート跡25bから第2装飾部材32の端部32eまでの距離と第1ゲート跡25aから第1装飾部材31の端部31eまでの距離とを比較したときに、距離が遠い方の端部(距離が最も遠い端部)である第1装飾部材31の端部31eだけに押圧領域31fを形成したが、これに限られるものではない。端部31eに加えて、第1装飾部材31の端部31eとは反対側の端部に押圧領域31fが形成されてもよい。これに加えて、若しくはこれに代えて、第2装飾部材32の端部32eとは反対側の端部に押圧領域31fが形成されてもよい。
【0055】
(6)上記各実施形態において、押圧領域31fの近傍にある角部24の第1角部24aは鋭角であったが、インサート成形時に第1装飾部材31が溶融樹脂の圧力で動くおそれがあるならば、第1角部24aが直角、若しくは鈍角を有する車両用ガラスモジュールAの場合であっても、押圧領域31fを形成してもよい。
【0056】
(7)上記各実施形態において、金型50には、第1装飾部材31に対して第1ゲート52aを設け、第2装飾部材32に対して第2ゲート52bを設けたが、複数の装飾部材に対して溶融樹脂が供給されるゲートが1つであってもよい。その場合は、複数の装飾部材のうちいずれか1つの装飾部材だけが垂直方向視でゲートと重複することになり、他の装飾部材は垂直方向視でゲートと重複しない。このときは、垂直方向視でゲートと重複しない装飾部材における溶融樹脂の圧力が作用する端部に押圧領域31fが形成されるように、金型50に押圧部52dを配置する。
【0057】
(8)上記各実施形態において、第1ゲート52a及び第2ゲート52bは、それぞれ垂直方向視で第1装飾部材31及び第2装飾部材32に重複する位置に設けたがこれに限られるものではない。例えば、セラミックス層10cが濃色でゲート跡が視認しづらいために車両用ガラスモジュールAの美観を損ねることがないのであれば、金型50のゲートを垂直方向視で第1装飾部材31及び/又は第2装飾部材32に重複しない位置に設けてもよい。例えば、凹部27の近傍や第1装飾部材31の側面31cに小さな切欠きをいれてゲートにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、車両用ガラスモジュールに利用可能である。
【符号の説明】
【0059】
A :車両用ガラスモジュール
1 :車体
10 :ガラス板
10a :第1面
10b :第2面
10d :第1辺(外縁)
10e :第2辺(外縁)
10g :弧状角部(角)
20 :樹脂部
24 :角部
24a :第1角部(角部)
24b :第2角部(角部)
25a :第1ゲート跡(ゲート跡)
25b :第2ゲート跡(ゲート跡)
26 :貫通孔(押圧領域)
27 :凹部
30 :装飾部材
31 :第1装飾部材(装飾部材)
31a :外面(壁面)
31b :内面(壁面、押圧領域)
31c :側面(壁面)
31d :端面(壁面)
31e :端部
31f :押圧領域
32 :第2装飾部材(装飾部材)
32a :外面(壁面)
32b :内面(壁面)
32c :側面(壁面)
32d :端面(壁面)
32e :端部
33 :押圧部品(押圧領域)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9