(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018006
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】無線センサ端末、測定周波数設定方法
(51)【国際特許分類】
G01H 3/00 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
G01H3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121035
(22)【出願日】2022-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】301078191
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤森 司
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB13
2G064BA07
2G064BA08
2G064CC06
2G064DD08
2G064DD14
(57)【要約】
【課題】メモリ量が限られている場合でも、既存のセンサを有効活用し、精度よく物体の状態を把握する。
【解決手段】センサを介して測定対象物からの音圧信号を収集して測定する無線センサ端末であって、音圧信号を通過させる周波数帯を可変可能なバンドパスフィルタを有した第1の回路と、無線センサ端末の外部から設定された周波数帯の音圧信号の波形から音圧レベルを検出する回路であって、変化させたそれぞれの周波数帯について、音圧信号を所定の収集時間の間、所定のサンプリング間隔で収集する第2の回路と、収集されたそれぞれの周波数帯について、音圧信号の統計値を計算し、計算により得られたそれぞれの周波数帯の統計値のうち、統計値の許容範囲の中心からの距離が所定の条件を満たす統計値の計算に用いた音圧信号の周波数帯を、測定対象物の測定に用いる周波数帯として設定するプロセッサと、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサを介して測定対象物からの音圧信号を収集して測定する無線センサ端末であって、
前記音圧信号を通過させる周波数帯を可変可能なバンドパスフィルタを有した第1の回路と、
前記無線センサ端末の外部から設定された前記周波数帯の前記音圧信号の波形から音圧レベルを検出する回路であって、変化させたそれぞれの前記周波数帯について、前記音圧信号を所定の収集時間の間、所定のサンプリング間隔で収集する第2の回路と、
収集されたそれぞれの前記周波数帯について、前記音圧信号の統計値を計算し、当該計算により得られたそれぞれの前記周波数帯の前記統計値のうち、前記統計値の許容範囲の中心からの距離が所定の条件を満たす前記統計値の計算に用いた前記音圧信号の前記周波数帯を、前記測定対象物の測定に用いる周波数帯として設定するプロセッサと、
を有することを特徴とする無線センサ端末。
【請求項2】
前記プロセッサは、前記無線センサ端末に無線接続されたユーザ端末から、前記周波数帯の設定を受け付ける、
ことを特徴とする請求項1に記載の無線センサ端末。
【請求項3】
前記プロセッサは、前記設定した前記測定対象物の測定に用いる周波数帯と、当該周波数帯の前記収集された音圧信号とを、前記ユーザ端末に出力する、
ことを特徴とする請求項2に記載の無線センサ端末。
【請求項4】
前記プロセッサは、前記所定の条件として、前記距離が最大である前記統計値の計算に用いた前記音圧信号の前記周波数帯を、前記測定対象物の測定に用いる周波数帯として設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の無線センサ端末。
【請求項5】
前記プロセッサは、前記所定の条件を満たす前記統計値の計算に用いた前記音圧信号の前記周波数帯と、当該周波数帯の前記収集された音圧信号とを、前記ユーザ端末に出力し、前記ユーザ端末から選択された前記周波数帯を、前記測定対象物の測定に用いる周波数帯として設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の無線センサ端末。
【請求項6】
センサを介して測定対象物からの音圧信号を収集して測定する無線センサ端末で行われる測定周波数設定方法であって、
前記音圧信号を通過させる周波数帯を可変可能に設定し、
前記無線センサ端末の外部から設定された前記周波数帯の前記音圧信号の波形から音圧レベルを検出する場合において、変化させたそれぞれの前記周波数帯について、前記音圧信号を所定の収集時間の間、所定のサンプリング間隔で収集し、
収集されたそれぞれの前記周波数帯について、前記音圧信号の統計値を計算し、当該計算により得られたそれぞれの前記周波数帯の前記統計値のうち、前記統計値の許容範囲の中心からの距離が所定の条件を満たす前記統計値の計算に用いた前記音圧信号の前記周波数帯を、前記測定対象物の測定に用いる周波数帯として設定する、
を有することを特徴とする測定周波数設定方法。
【請求項7】
前記無線センサ端末に無線接続されたユーザ端末から、前記周波数帯の設定を受け付ける、
ことを特徴とする請求項6に記載の測定周波数設定方法。
【請求項8】
前記設定した前記測定対象物の測定に用いる周波数帯と、当該周波数帯の前記収集された音圧信号とを、前記ユーザ端末に出力する、
ことを特徴とする請求項7に記載の測定周波数設定方法。
【請求項9】
前記所定の条件として、前記距離が最大である前記統計値の計算に用いた前記音圧信号の前記周波数帯を、前記測定対象物の測定に用いる周波数帯として設定する、
ことを特徴とする請求項6に記載の測定周波数設定方法。
【請求項10】
前記所定の条件を満たす前記統計値の計算に用いた前記音圧信号の前記周波数帯と、当該周波数帯の前記収集された音圧信号とを、前記ユーザ端末に出力し、前記ユーザ端末から選択された前記周波数帯を、前記測定対象物の測定に用いる周波数帯として設定する、
ことを特徴とする請求項6に記載の測定周波数設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線センサ端末、測定周波数帯設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、センサから得られるセンサ情報を収集し、設備や構造物等の物体の状態を検知することが行われている。このような技術として、例えば、特許文献1がある。特許文献1には、無線通信装置10は、少なくとも加速度センサ107を備える無線通信装置10であって、加速度センサ107が測定した一定時間の加速度データに対して、フーリエ変換を含む所定の演算を行い、周波数スペクトルを取得するデータ演算手段106と、周波数スペクトルを送信する送信手段101とを備える、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、振動センサを周期的に一定期間動作させてデータを収集している。しかし、限られたメモリ量で超音波域まで含むデータを取得しようとすると、データの収集時間を短時間にせざるを得ない。その結果、収集したデータの測定時間が、装置の状態変化時間よりも短くなり、必ずしも精度よく装置の状態を把握することができない。
【0005】
また、特定周波数域の音量を収集する場合、収集対象となる物体ごとに特徴的な周波数域が異なるため、すべての物体について特徴的な周波数域の音量を取得しようとすると、事前学習や回路調整により、特定用途に特化したセンサを構築する必要が生じてしまう。
【0006】
本発明は、メモリ量が限られている場合でも、既存のセンサを有効活用し、精度よく物体の状態を把握することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる無線センサ端末は、センサを介して測定対象物からの音圧信号を収集して測定する無線センサ端末であって、前記音圧信号を通過させる周波数帯を可変可能なバンドパスフィルタを有した第1の回路と、前記無線センサ端末の外部から設定された前記周波数帯の前記音圧信号の波形から音圧レベルを検出する回路であって、変化させたそれぞれの前記周波数帯について、前記音圧信号を所定の収集時間の間、所定のサンプリング間隔で収集する第2の回路と、収集されたそれぞれの前記周波数帯について、前記音圧信号の統計値を計算し、当該計算により得られたそれぞれの前記周波数帯の前記統計値のうち、前記統計値の許容範囲の中心からの距離が所定の条件を満たす前記統計値の計算に用いた前記音圧信号の前記周波数帯を、前記測定対象物の測定に用いる周波数帯として設定するプロセッサと、を有することを特徴とする無線センサ端末として構成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、メモリ量が限られている場合でも、既存のセンサを有効活用し、精度よく物体の状態を把握することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の発明を実施するための形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施例における無線センサ端末の構成の一例を示す図である。
【
図2】無線センサ端末で行われる処理(音圧測定処理)の手順を示すフローチャートである。
【
図3】S203~S206までの処理の概念について説明するための図である。
【
図4】S207の処理の概念について説明するための図である。
【
図5】実データを用いて、
図2に示した音圧測定処理の動作をシミュレーションしたときの結果の一例を示す図である。
【
図6】音圧センサS1が検出した実際の測定対象物の音圧の時間的な推移を示すデータ(生データ)と、
図2に示した音圧測定処理によりシミュレーションした結果との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の記載および図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施する事が可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
【0011】
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0012】
以下の説明では、「データベース」、「テーブル」、「リスト」等の表現にて各種情報を説明することがあるが、各種情報は、これら以外のデータ構造で表現されていてもよい。データ構造に依存しないことを示すために「XXテーブル」、「XXリスト」等を「XX情報」と呼ぶことがある。識別情報について説明する際に、「識別情報」、「識別子」、「名」、「ID」、「番号」等の表現を用いた場合、これらについてはお互いに置換が可能である。
【0013】
同一あるいは同様な機能を有する構成要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。ただし、これらの複数の構成要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【0014】
また、以下の説明では、プログラムを実行して行う処理を説明する場合があるが、プログラムは、プロセッサ(例えばCPU、GPU(Graphics Processing Unit))によって実行されることで、定められた処理を、適宜に記憶資源(例えばメモリ)および/またはインターフェースデバイス(例えば通信ポート)等を用いながら行うため、処理の主体がプロセッサとされてもよい。同様に、プログラムを実行して行う処理の主体が、プロセッサを有するコントローラ、装置、システム、計算機、ノードであってもよい。プログラムを実行して行う処理の主体は、演算部であれば良く、特定の処理を行う専用回路(例えばFPGA(Field-Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit))を含んでいてもよい。
【0015】
プログラムは、プログラムソースから計算機のような装置にインストールされてもよい。プログラムソースは、例えば、プログラム配布サーバまたは計算機が読み取り可能な記憶メディアであってもよい。プログラムソースがプログラム配布サーバの場合、プログラム配布サーバはプロセッサと配布対象のプログラムを記憶する記憶資源を含み、プログラム配布サーバのプロセッサが配布対象のプログラムを他の計算機に配布してもよい。また、以下の説明において、2以上のプログラムが1つのプログラムとして実現されてもよいし、1つのプログラムが2以上のプログラムとして実現されてもよい。
【実施例0016】
以下、本実施例にかかる無線センサ端末、測定周波数設定方法の一実施例について説明する。
【0017】
図1は、本実施例における無線センサ端末の構成の一例を示す図である。本実施例にかかる無線センサ端末1000は、測定対象物の状態を検知するための音波センサS1に接続された周波数可変BPF(Band-pass filter)回路101と、周波数可変BPF回路101から出力された周波数帯域の音圧信号を検出する音圧検出回路102と、音圧検出回路102が検出した音圧信号をデジタル変換するADコンバータ103と、ADコンバータ103によりデジタル変換された音圧信号を入力し、入力した音圧信号の統計処理や測定処理など、無線センサ端末1000で行われる処理の実行を司るMCU(Micro Controller Unit)104と、ユーザ端末T1から無線センサ端末1000に対する各種設定を受け取るための無線インタフェース(I/F)105とを有して構成される。MCU104は、以下に示す制御や処理を行うためのマイクロプロセッサ1041や、各種データを記憶するメモリ1042を有している。以下では、音波センサS1が検知する対象物として、水素製造装置や質量分析器などの装置や機器である場合を例示するが、構造物など音波センサS1が音圧や音量を検知可能な物体であれば適用可能である。また、以下では音波センサS1を用いる場合を例示するが、五感のうち、触覚を検知する振動センサや、聴覚を検知するマイクセンサを用いてもよい。
【0018】
周波数可変BPF回路101は、通過周波数帯を可変可能なバンドパスフィルタを有した回路であり、音波センサS1により検出された音圧信号のうち、所定波長の音圧信号を透過させたり、透過させた音圧信号のノイズを除去するフィルタ回路である。この例では、5kHz~80kHzの音圧信号を透過させているが、使用環境に応じて任意の周波数を透過させて良い。
【0019】
音圧検出回路102は、音圧波形から音圧レベルを検出する回路であり、周波数可変BPF回路101によりフィルタリングされ、ノイズが除去された音圧信号を、所定の収集時間の間、所定のサンプリング間隔で収集する。
【0020】
ADコンバータ103は、音圧検出回路102により所定のサンプリング間隔で収集された音圧信号を、デジタル信号に変換する。
【0021】
MCU104は、ADコンバータ103によりデジタル変換された上記収集された音圧信号の平均値や分散などの統計処理や、音圧の測定処理を実行する。MCU104が行う具体的な処理については後述する。
【0022】
無線I/F105は、外部から無線センサ端末1000に対する設定や指示を受け付け、MCU104に出力する。例えば、無線I/F105は、ユーザが操作する外部の無線通信可能な他の端末であるユーザ端末T1の入出力I/F111から指定された測定モードや設定されたパラメータを、ユーザ端末T1の無線I/F112を介して受け取る。ユーザ端末T1の入出力I/F111は、例えば、測定モードとして、収集された音圧信号の統計処理を行う解析モード、解析モードにより測定された音圧信号の監視を行う監視モードのいずれのモードでの処理を実行するかについての指示を受け付ける。また、無線I/F105は、ユーザ端末T1の入出力I/F111から入力された、(1)周波数可変BPF回路101を通過させる周波数帯の帯域幅、周波数の範囲、(2)解析のための収集時間(例えば、数秒~数分)、(3)収集対象の選択条件(平均値(RMS)の最大値や最小値、分散の最大値や最小値、および、それぞれの許容範囲)、(4)監視時の収集時間(例えば、0~10秒)、測定間隔(例えば、1日に2回)、といったパラメータを、ユーザ端末T1の無線I/F112を介して受け取る。ユーザ端末T1としては、例えば、スマートフォンやタブレット端末を用いることができる。
【0023】
具体的には後述するが、MCU104は、音波センサS1が設置された直後における上記解析モードの際には、無線I/F105を介した無線通信により、上記外部のユーザ端末T1から指定されたパラメータを用いて、通過周波数帯を掃引しながら音圧の平均値と分散を計算する。また、MCU104は、収集した各帯域の音圧レベルの音圧信号から、平均値が最大または最小であって、かつ、分散が最大または最小の帯域の音圧レベルの音圧信号を測定対象として設定する。そして、定常的に測定する上記監視モードの際は、解析モード時に設定された測定対象となる帯域の音圧信号を測定する。収集時間と測定間隔は、無線I/F105を介した無線通信により、上記外部のユーザ端末T1から指定されたパラメータを用いる。
【0024】
図2は、無線センサ端末1000で行われる処理(音圧測定処理)の手順を示すフローチャートである。
図2に示すように、無線センサ端末1000は、まず、無線I/F105において、ユーザが操作するユーザ端末T1から、測定モードとして指定された解析モードを受け取り、測定モードを「解析モード」に設定する(S201)。ここでは、当該解析モードの指定とともに、測定を開始する開始周波数fa(Hz)、測定を終了する終了周波数fb(Hz)、測定する周波数の帯域幅Δf(Hz)、測定する音圧の収集時間Ta(sec)の入力を受け付ける。
【0025】
MCU104は、周波数可変BPF回路101を通過させる音圧信号の周波数を、開始周波数fa(Hz)から終了周波数fb(Hz)までの間で、周波数fa+帯域幅Δf(Hz)、周波数fa+(2×帯域幅Δf(Hz))・・・、周波数fb-(2×帯域幅Δf(Hz))、周波数fb-(帯域幅Δf(Hz))というように、音圧信号を通過させる周波数をΔfステップで変化させる(S202)。
【0026】
MCU104は、S202で変化させた周波数の音圧信号を、収集時間Ta(sec)のあいだ、所定のサンプリング間隔で収集する(S203)。MCU104は、S203で収集した周波数の音圧信号の平均値と分散とを算出し(S204)、S202で設定した現在の周波数の音圧信号に対応付けて、メモリ1042に保持する(S205)。
【0027】
MCU104は、変化させている周波数が終了周波数fb(Hz)になったか否かを判定し(S206)、変化させている周波数が終了周波数fb(Hz)になっていないと判定した場合(S206;No)、S203に戻り、次の帯域幅Δf(Hz)を加算した周波数に変化させる。
【0028】
一方、MCU104は、変化させている周波数が終了周波数fb(Hz)になったと判定した場合(S206;Yes)、S203~S206でメモリ1042に保持したそれぞれの周波数についての音圧信号の平均値と分散の許容範囲中心からの距離に基づいて、測定周波数帯を決定する(S207)。
【0029】
以下、S203~S206までの処理の概念について説明する。
図3では、測定対象物(例えば、水素製造装置や質量分析器)が、動作301a、301b、301c…の順に行い、各動作の間には、アイドル動作302a、302b、302c、302d…が行われる。測定対象物がこのような動作を行う場合、解析モードでは、少なくとも、各動作301a、301b、301cの時間変化よりも長い間、開始周波数fa(Hz)から終了周波数fb(Hz)までの各帯域を測定し、各帯域における音圧の平均値と分散とを計算する(S203~S207)。
【0030】
MCU104は、S206において、
図4に示すような平均値を縦軸、分散を横軸とした平面上に、計算した値をプロットする。例えば、MCU104は、
図4に示すように、上記外部のユーザ端末T1から入力された、平面上における平均値と分散の許容範囲中心Oを受け取り、当該許容範囲中心Oを中心点として、平面を4つの象限401A、401B、401C、401Dに区分し、各象限において、平均値の許容範囲、分散の許容範囲を設定する。その後、MCU104は、設定された各象限における平均値の許容範囲、分散の許容範囲を、測定周波数帯を決定するための対象範囲402(
図4の一点鎖線の範囲)として設定する。
図4の例では、各象限において上記許容範囲中心Oから同じ範囲が設定されている場合を例示するが、測定対象物の状態に応じて、各象限の設定範囲を異ならせてもよい。
【0031】
MCU104は、上記4つの象限内であって、かつ対象範囲402内にある上記計算した値をプロットした点403Xのうち、許容範囲中心Oからのベクトルが最も大きい値となる点を、測定対象の帯域として選択する。この例では、各帯域において計算された音圧の平均値と分散を示す17個の点がプロットされている。MCU104は、上記4つの象限401A、401B、401C、401Dの中で、許容範囲中心Oから最も大きい値となる対象候補点403A、403B、403C、403Dを、それぞれの象限の中から選択している。
【0032】
MCU104は、上記対象候補点403A、403B、403C、403Dのうち、1つの象限および対象候補点を選択し、その結果を上記外部のユーザ端末T1に送信し、ユーザ端末T1の入出力I/F111が、当該端末の画面上に表示する。このとき、MCU104は、上記1つの象限および対象候補点(例えば、象限401B、対象候補点403B、象限401Bにある他の点403Xを含む領域)に対応付けてメモリ1042に記憶されているデータ(例えば、対象候補点403Bを計算したときの音圧)についてもユーザ端末T1に送信する。ユーザ端末T1の入出力I/F111は、ユーザから、表示した結果に含まれる対象候補点のタッチ操作等の選択操作を受け付けると、当該対象候補点に対応する上記データを画面上に表示する。これにより、対象候補点に対応する音圧信号の時間的な推移を確認することができる。上記データの様子については
図5、6を用いて後述する。
【0033】
なお、象限および対象候補点の選択は、音波センサS1の種類や測定対象物の種類に応じて行ってもよい。また、この例では、MCU104が4つの象限および対象候補点の中から、音圧センサS1の種類に応じて1つの象限および対象候補点を選択する場合について説明したが、4つの象限および対象候補点を上記外部のユーザ端末T1の入出力I/F111に出力し、ユーザによりそのうちの1つを選択させてもよい。
【0034】
図4に示した象限401Aでは、許容範囲中心Oを基準として、音圧の変化および平均がいずれも大きい帯域であり、ノーマリオンの機器動作に起因する音であると判断できるため、当該帯域での音圧を検出することで、測定対象物の動作の異常を検知することができる。また、
図4に示した象限401Bでは、許容範囲中心Oを基準として、音圧の変化が大きく、平均が小さい場合であり、ノーマリオフの機器動作に起因する音であると判断できるため、上記象限401Aの場合と同様、当該帯域での音圧を検出することで、測定対象物の動作の異常を検知することができる。さらに、
図4に示した象限401Cでは、許容範囲中心Oを基準として、音圧の変化および平均がいずれも小さい場合であり、通常動作時に無音(あるいは一定以下の微かな音量)である場合には、当該無音あるいは当該微かな音量に対して一定程度の音圧の変化が生じたことにより、何らかの異常を検知したと判断できる。また、
図4に示した象限401Dでは、許容範囲中心Oを基準として、音圧の変化が小さく、平均が大きい場合であり、定常的に生じている音圧が一定程度の割合で変化していることにより、何らかの異常の予兆があると判断できる。これらの判断は、プロットされた各点に対応付けてメモリ1042に記憶される各周波数の音圧信号の時間的な推移を確認することで可能となる。
【0035】
図2に戻り、MCU104は、S207において、測定周波数帯を決定すると、測定モードとして「監視モード」に移行し、その旨を、ユーザが操作する上記外部のユーザ端末T1に通知する(S208)。このとき、MCU104は、上記外部のユーザ端末T1から、音圧の収集時間Tb(sec)および測定間隔Tc(sec)の入力を受け付ける。
【0036】
MCU104は、入力された測定間隔Tc(sec)待機した後(S209)、入力された収集時間Tb(sec)、S207で決定した測定周波数帯で音圧を測定し(S210)、音圧の測定結果を、無線I/F105を介して上記外部のユーザ端末T1に送信する(S211)。
【0037】
図5は、実データを用いて、
図2に示した音圧測定処理の動作をシミュレーションしたときの結果の一例を示す図である。
図5では、測定対象の周波数帯を定めるための対象範囲については図示を省略している。
【0038】
図4の場合と同様、MCU104は、4つの象限501A、501B、501C、501Dのそれぞれにおいて、許容範囲中心Oからのベクトルが最も大きい値となる点503A、503B、503C、503Dを、測定対象の帯域として選択する。さらに、MCU104は、上記点503A、503B、503C、503Dのうち、上記ベクトルが最も大きい値となる点(この例では、点503B)を選択する。つまり、
図5に示した測定対象物は、点503に示す値の分散、平均をもつ音圧が検出されているため、ノーマリオフの機器動作に起因する異常が発生していると判断できる。
図5に示すグラフ504A、504B、504C、504Dは、上記点503A、503B、503C、503Dを計算したときの帯域で収集された音圧の時間的な推移を示すグラフである。これらのグラフは、S203で収集された音圧から作成することができる。
図4において説明したように、ユーザは、このようなグラフがユーザ端末T1の入出力I/F111に表示されることにより、測定対象物がどのような状態でどのような異常が生じているのかを一見して把握することができる。
【0039】
図6は、音圧センサS1が検出した実際の測定対象物の音圧の時間的な推移を示すデータ(生データ)と、
図2に示した音圧測定処理によりシミュレーションした結果との関係を説明するための図である。
図6の上段は上記生データを示しており、
図2に示した音圧測定処理を実行することで、
図6の下段に示すように、生データの中から所定の帯域の音圧を所定のサンプリング間隔で抽出することができる。その結果、選択された帯域の音量を所定のサンプル数で検出できるため、上記生データを用いた場合に比べ、96000分の1のデータ量で、測定対象物の特徴を検出することができる。この例では、192Kbyte/secであった生データが2byte/secに大幅に圧縮されているが、測定対象物の動作音を示す特徴的な帯域601、602、603においては、生データの場合と変わらず検出可能であることがわかる。
【0040】
このように、本実施例では、
図1、2等において説明したように、センサ(音波センサS1)を介して測定対象物(例えば、水素製造装置や質量分析器)からの音圧信号を収集して測定する無線センサ端末1000において、上記音圧信号を通過させる周波数帯を可変可能なバンドパスフィルタを有した第1の回路(周波数可変BPF回路101)と、上記無線センサ端末の外部から設定された上記周波数帯の上記音圧信号の波形から音圧レベルを検出する回路であって、変化させたそれぞれの上記周波数帯について、上記音圧信号を所定の収集時間(Ta(sec))の間、所定のサンプリング間隔で収集する第2の回路(音圧検出回路102)と、収集されたそれぞれの上記周波数帯について、上記音圧信号の統計値(音圧信号の平均値や分散)を計算し、当該計算により得られたそれぞれの上記周波数帯の上記統計値のうち、上記統計値の許容範囲の中心(許容範囲中心O)からの距離が所定の条件(例えば、距離が最大であるという条件)を満たす上記統計値の計算に用いた上記音圧信号の上記周波数帯を、上記測定対象物の測定に用いる周波数帯として設定するプロセッサ(MCU104)と、を有する。これにより、メモリ量が限られている場合でも、既存のセンサを有効活用し、精度よく物体の状態を把握することができる。例えば、水素製造装置のガス漏れなど、可視化困難な情報を数値化することで、高精度な設備状態の監視を行うことができる。また、外部から無線通信を介して周波数帯を設定するので、既存のユーザインタフェースを用いた公衆無線網を介して測定対象物の遠隔監視が可能となる。さらには、無線センサ端末自体にこのようなユーザインタフェースを設けないことで、例えば、電池による長期間の動作が可能となる。
【0041】
また、
図1、2等を用いて説明したように、上記プロセッサは、上記無線センサ端末に無線接続されたユーザ端末T1から、上記周波数帯の設定を受け付ける。これにより、ユーザが使い慣れた端末から上記周波数帯の設定が可能となる。
【0042】
また、
図1、2等を用いて説明したように、上記プロセッサは、上記設定した上記測定対象物の測定に用いる周波数帯と、当該周波数帯の上記収集された音圧信号とを、上記ユーザ端末に出力する。これにより、ユーザは、各周波数帯における測定対象物の状態を詳細に確認することができる。
【0043】
また、
図4、5等を用いて説明したように、上記プロセッサは、上記所定の条件として、上記距離が最大である上記統計値の計算に用いた上記音圧信号の上記周波数帯を、上記測定対象物の測定に用いる周波数帯として設定する。これにより、測定対象物の最も特徴的な事象を生じさせている周波数帯を、上記測定対象物の測定に用いる周波数帯として設定することができる。
【0044】
また、
図1、4、5等を用いて説明したように、上記プロセッサは、上記所定の条件を満たす上記統計値の計算に用いた上記音圧信号の上記周波数帯と、当該周波数帯の上記収集された音圧信号とを、例えば、
図5の点503A、503B、503C、503Dおよびグラフ504A、504B、504C、504Dのように、上記ユーザ端末に出力し、上記ユーザ端末から選択された上記周波数帯を、上記測定対象物の測定に用いる周波数帯として設定する。これにより、ユーザは、各周波数帯における測定対象物の状態を詳細に確認しながら、所望の周波数帯を、上記測定対象物の測定に用いる周波数帯として設定することができる。
【0045】
本発明は、上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化したり、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせて実施することができる。