(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180068
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】異種金属接合継手
(51)【国際特許分類】
B23K 9/23 20060101AFI20241219BHJP
B23K 9/02 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
B23K9/23 H
B23K9/02 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099501
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸田 要
【テーマコード(参考)】
4E001
4E081
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB01
4E001BB07
4E001BB08
4E001BB09
4E001BB11
4E001CA01
4E001CB01
4E001CB05
4E001CC02
4E001DB03
4E001DD02
4E081BA02
4E081BA08
4E081BA16
4E081BB15
4E081CA01
4E081CA08
4E081CA09
4E081CA11
4E081CA14
4E081CA19
4E081DA13
(57)【要約】
【課題】鋼板からなる第1部材と、アルミニウム系材料又はマグネシウム系材料からなる第2部材と、を接合する異材接合継手において、高強度の異種金属接合継手を提供する。
【解決手段】鋼板からなる第1部材と、アルミニウム系材料又はマグネシウム系材料からなる第2部材と、前記第1部材と前記第2部材とを接合する接合部と、を備え、第1部材は、第2部材との重ね合わせ面に臨む板厚方向の貫通孔を有し、接合部は、貫通孔に充填されて第2部材と溶接した溶接金属であって、少なくとも前記第1部材の表面に表余盛を形成し、貫通孔の直径を、3.0mm以上、15.0mm以下とし、表余盛の直径を、貫通孔の直径をdとした場合、d以上、5.0d以下とし、表余盛の高さを、第2部材の板厚をt
2とした場合、0.1t
2以上、5.0t
2以下とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ又は複数の鋼板からなる第1部材と、
1つ又は複数のアルミニウム系材料又はマグネシウム系材料からなる板状の第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材とを接合する接合部と、
を備え、
前記第1部材は、前記第2部材との重ね合わせ面に臨む板厚方向の貫通孔を有し、
前記接合部は、前記貫通孔に充填されて前記第2部材と溶接した溶接金属であって、前記第1部材の表面に配置される表余盛を有し、
前記貫通孔の直径dと、前記表余盛の幅W1と、前記表余盛の高さH1と、前記第2部材の板厚t2との関係が、以下の式を満たすことを特徴とする、
異材接合継手。
3.0mm≦d≦15.0mm
d<W1≦5.0d
0.1t2≦H1≦5.0t2
【請求項2】
前記第2部材の裏面に裏余盛を有し、
前記貫通孔の直径dと、前記裏余盛の幅W2と、前記裏余盛の高さH2と、前記第2部材の板厚t2との関係が、以下の式を満たすことを特徴とする、
請求項1に記載の異材接合継手。
W2≦3.0d
H2≦5.0t2
【請求項3】
請求項1又は2に記載の異材接合継手の製造方法であって、
前記第1部材に前記貫通孔を空ける孔空け工程と、
前記第1部材と前記第2部材とを重ね合わせる重ね合わせ工程と、
溶接材料を溶融させた溶接金属を前記貫通孔に充填し、前記溶接金属と前記第2部材とを溶接する溶接工程と、
を備え、
アーク、プラズマ、レーザーから選択される少なくとも1つの熱源により、前記溶接材料を溶融させる、
異材接合継手の製造方法。
【請求項4】
前記溶接工程の前に、前記第2部材に当接する裏当て部材を当接する当接工程を有する、
請求項3に記載の異材接合継手の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種金属接合継手に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車を代表とする輸送機器には、(a)有限資源である石油燃料消費、(b)燃焼に伴って発生する地球温暖化ガスであるCO2、(c)走行コストといった各種の抑制を目的として、走行燃費の向上が常に求められている。その手段としては、電気駆動の利用など動力系技術の改善の他に、車体重量の軽量化も改善策の一つである。軽量化には現在の主要材料となっている鋼を、軽量素材であるアルミニウム合金、マグネシウム合金、炭素繊維等に置換する手段がある。しかし、全てをこれらの軽量素材に置換するには、高コスト化や強度不足になるといった問題点がある。このため、解決策として、鋼と軽量素材を適材適所に組み合わせた、いわゆるマルチマテリアルと呼ばれる設計手法が注目を浴びている。
【0003】
従来の鋼とアルミニウム又はマグネシウムの異材接合技術としては、アルミニウム製の下板と、該下板との重ね合わせ面に臨む穴が設けられた鋼製の上板と、中空部を有し上板の穴に挿入されるアルミニウム製の接合補助部材とを備え、接合補助部材の中空部にアーク溶接によって溶接金属を充填して、アルミニウム同士の拘束力により下板と上板とを接合する、特許文献1に記載の異材接合技術が知られている。同様に、鋼製の下板と、アルミニウム製の上板とを、鉄製のワイヤを用いて接合する異材接合技術として、例えば、特許文献2が知られている。
【0004】
また、特許文献3には、あらかじめ貫通穴を溶接線に沿って設けた鋼材とアルミニウム材とを互いに重ねて合わせ、溶接トーチに後退角を設けて溶接線に沿って走らせながら、アルミニウム溶接ワイヤによって、鋼材側に設けた貫通孔にアルミニウム溶接材料を溶融充填させつつ、ビードを形成してアーク溶接する、いわゆるスクラムリベット法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-171765号公報
【特許文献2】WO2018/030272号公報
【特許文献3】特許第4944923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術は、上板である鋼材に形成した貫通穴に、板厚方向に貫通する中空部が形成されたアルミニウム系材料又はマグネシウム系材料性からなる接合補助部材を設けるものであって、溶接時間を短くすることを目的としている。この場合、貫通穴に嵌合する接合補助部材を製造するコストと、製造した接合補助部材を貫通孔に挿入する手間が掛かるという課題がある。また、特許文献2の技術は、鋼板を下板に、アルミニウム合金又はマグネシウム合金製の上板を接合する技術であって、アルミニウム合金製の下板に、鋼製の上板を接合する技術とは異なる。また、特許文献3の技術によれば、線溶接で連続的に複数の予備穴を埋めていくのが特徴であるため、鋼を溶かしすぎて溶接金属に割れが生じやすく、継手強度が低くなり易いという課題がある。
【0007】
本発明は、上記状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、鋼板からなる第1部材と、アルミニウム系材料又はマグネシウム系材料からなる第2部材と、を接合する異材接合継手において、高強度の異種金属接合継手を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
[1] 1つ又は複数の鋼板からなる第1部材と、
1つ又は複数のアルミニウム系材料又はマグネシウム系材料からなる板状の第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材とを接合する接合部と、
を備え、
前記第1部材は、前記第2部材との重ね合わせ面に臨む板厚方向の貫通孔を有し、
前記接合部は、前記貫通孔に充填されて前記第2部材と溶接した溶接金属であって、前記第1部材の表面に配置される表余盛を有し、
前記貫通孔の直径dと、前記表余盛の幅W1と、前記表余盛の高さH1と、前記第2部材の板厚t2との関係が、以下の式を満たすことを特徴とする、
異材接合継手。
3.0mm≦d≦15.0mm
d<W1≦5.0d
0.1t2≦H1≦5.0t2
[2] 前記第2部材の裏面に裏余盛を有し、
前記貫通孔の直径dと、前記裏余盛の幅W2と、前記裏余盛の高さH2と、前記第2部材の板厚t2との関係が、以下の式を満たすことを特徴とする、
[1]に記載の異材接合継手。
W2≦3.0d
H2≦5.0t2
[3] [1]又は[2]に記載の異材接合継手の製造方法であって、
前記第1部材に前記貫通孔を空ける孔空け工程と、
前記第1部材と前記第2部材とを重ね合わせる重ね合わせ工程と、
溶接材料を溶融させた溶接金属を前記貫通孔に充填し、前記溶接金属と前記第2部材とを溶接する溶接工程と、
を備え、
アーク、プラズマ、レーザーから選択される少なくとも1つの熱源により、前記溶接材料を溶融させる、
異材接合継手の製造方法。
[4] 前記溶接工程の前に、前記第2部材に当接する裏当て部材を当接する当接工程を有する、
[3]に記載の異材接合継手の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、鋼板からなる第1部材と、アルミニウム系材料又はマグネシウム系材料からなる第2部材と、第1部材と第2部材とを接合する接合部と、を備えた異材接合継手において、接合部が有する表余盛を所定のサイズに収めることにより、高強度の異材接合継手を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1(A)は、本実施形態の異材接合継手の製造方法の孔空け工程を示す図であり、
図1(B)は、本実施形態の異材接合継手の製造方法の溶接工程を示す図である。
【
図2】
図2は、接合部の形状を示したモデル図である。
【
図3】
図3(A)は、上板として複数の板状部材を設けた例を示した図であり、
図3(B)は、貫通孔に下板に向かって幅広になるテーパーを設けた図であり、
図3(C)は、貫通孔に下板に向かって幅狭になるテーパーを設けた図である。
【
図4】
図4(A)は、本実施形態の異材接合継手の製造方法の第1裏当て部材を用いた当接工程を示した図であり、
図4(B)は、本実施形態の異材接合継手の製造方法の第2裏当て部材を用いた当接工程を示した図であり、
図4(C)は、本実施形態の異材接合継手の製造方法の第3裏当て部材を用いた当接工程を示した図である。
【
図5】
図5(A)は、表1のNo1に相当する溶接部断面写真であり、
図5(B)は、表1のNo.7に相当する溶接部断面写真であり、
図5(C)は、表1のNo.9に相当する溶接部の断面写真であり、
図5(D)は、表1のNo.22に相当する溶接部の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る異材接合継手、及び、異材接合継手の製造方法を図面に基づいて説明する。
図1(A)は、本実施形態の異材接合継手の製造方法の孔空け工程を示す図であり、
図1(B)は、本実施形態の異材接合継手の製造方法の溶接工程を示す図である。
図2は、異材接合継手の形状を示したモデル図である。
【0012】
本実施形態の異材接合継手は、上板10(第1部材)と、下板20(第2部材)と、接合部30と、を有する。
上板10は、貫通孔11が形成される鋼製の板状部材である。下板20は、上板10の下面に重なるように配置されるアルミニウム合金又はマグネシウム合金製の板状部材である。接合部30は、アークスポット溶接法によって溶融したアルミニウム合金又はマグネシウム合金製の溶接金属を貫通孔11に充填することで形成される。この構成は、
図2を参照するとよい。
【0013】
<異材接合継手の製造方法>
まず、上板10に対し、板厚方向に貫通して下板20の重ね合わせ面に臨む貫通孔11を空ける孔空け工程を行う。この構成は、
図1(A)を参照するとよい。孔空け工程では、電動ドリルやボール盤といった回転工具を用いた切削、ポンチを用いた打抜き、又は、金型を用いたプレス型抜きによって上板10に貫通孔11を形成する。
【0014】
次に、上板10と下板20を重ね合わせる重ね合わせ工程を行う。
続いて、以下で説明する、(a)溶極式ガスシールドアーク溶接法、(b)ノンガスアーク溶接法、(c)ガスタングステンアーク溶接法、(d)プラズマアーク溶接法、(e)被覆アーク溶接法のいずれかのアーク溶接法によって、溶接材料を溶融した溶融金属を貫通孔に充填し、溶接金属と下板20とを溶接する溶接工程を行う。このとき、アーク溶接では、上板10を略溶融させない溶接条件で溶接材料を溶融する。これにより、上板10と下板20とを接合する接合部30を形成する。この構成は、
図1(B)を参照するとよい。
【0015】
すなわち、上記したいずれかのアーク溶接法によって溶接材料を溶融し、生成された溶接金属を、上板10の貫通孔11に充填して、上板10の表面にフランジ状の表余盛31を形成する。表余盛31は余盛とも称する。さらに、溶接金属を下板20に裏余盛32が出る状態まで溶け込ませて、上板10と下板20とを接合する。なお、裏余盛は裏波とも称する。
言い換えると、貫通孔11に充填された溶接金属によって、表余盛31及び裏余盛32を備えた接合部30が形成される。
なお、溶接材料は、上述のアーク溶接法により下板20と溶接可能なものであればよく、溶接ワイヤ、溶接棒、フィラー、消耗材等、その他の溶接に一般的に用いるものを含む。
以下、各アーク溶接法について説明する。
【0016】
(a)溶極式ガスシールドアーク溶接法は、一般的にMAG(マグ)やMIG(ミグ)と呼ばれる溶接法であり、ソリッドワイヤ又はフラックス入りワイヤをフィラー兼アーク発生溶極として用い、CO2、ArやHeといったシールドガスで溶接部を大気から遮断して健全な溶接部を形成する手法である。
【0017】
(b)ノンガスアーク溶接法は、セルフシールドアーク溶接法とも呼ばれ、特殊なフラックス入りワイヤをフィラー兼アーク発生溶極として用い、一方、シールドガスを不要として、健全な溶接部を形成する手段である。
【0018】
(c)ガスタングステンアーク溶接法は、ガスシールドアーク溶接法の一種であるが非溶極式であり、一般的にTIG(ティグ)とも呼ばれる。シールドガスは、Ar又はHeの不活性ガスが用いられる。タングステン電極と母材との間にはアークが発生し、フィラーワイヤはアークに横から送給される。一般的に、フィラーワイヤは通電されないが、通電させて溶融速度を高めるホットワイヤ方式TIGもある。この場合、フィラーワイヤにはアークは発生しない。
【0019】
(d)プラズマアーク溶接法は、TIGと原理は同じであるが、ガスの2重系統化と高速化によってアークを緊縮させ、アーク力を高めた溶接法である。
【0020】
(e)被覆アーク溶接法は、金属の芯線にフラックスを塗布した被覆アーク溶接棒をフィラーとして用いるアーク溶接法であり、シールドガスは不要である。
【0021】
なお、溶接金属を生成する溶接法は、上記のアーク溶接法には限られず、アーク、プラズマ、レーザーから選択される少なくとも一つの熱源によって溶接金属を溶融させるものであってもよい。例えば、レーザー・アークのハイブリッドした場合、溶接時間を短縮できる。なお、溶接法は、アーク溶接(MIG又はTIG)が好ましく、MIGがさらに好ましい。
溶接法として、MIGやTIGを用いる場合、貫通孔11の中心を狙って溶接トーチを動かさずに溶接してもよく、時間とともに溶接トーチを引き上げてもよく、貫通孔11の内側や縁を揺動してもよく、これらを組み合わせてもよい。
また、上板10及び下板20に対して、溶接トーチを垂直にアプローチしなくてもよく、溶接トーチを斜めに傾けて溶接してもよい。また、溶接トーチは、下向き姿勢だけでなく、横向き姿勢や上向き姿勢で溶接してもよい。
【0022】
次に、
図2及び
図3(A)~
図3(C)に基づいて、異材接合継手の具体的な形状について説明する。
図3(A)は、上板として複数の板状部材を設けた例を示した図であり、
図3(B)は、貫通孔に下板に向かって幅広になるテーパーを設けた図であり、
図3(C)は、貫通孔に下板に向かって幅狭になるテーパーを設けた図である。
【0023】
<異材接合継手の形状>
まず、異材接合継手を構成する上板10、下板20、接合部30について、上板10の板厚をt
1、下板20板厚をt
2、貫通孔11の直径をd、表余盛31の幅をW
1、表余盛31の高さをH
1、裏余盛32の幅をW
2、裏余盛の高さをH
2と称する。また、上板10と表余盛31との間の接触角をθ1、下板20と裏余盛32との間の接触角をθ2と、称する。この構成は、
図2を参照するとよい。
なお、表余盛31の幅W
1は、表余盛31の平面方向の幅の中で一番短い部分の幅を意味する。同様に、裏余盛32の幅W
2は、裏余盛32の平面方向の幅中で一番短い部分の幅を意味する。
【0024】
上板10の板厚t
1は、一般的には0.5mm~3.0mmが好ましいが、より好ましくは1.0mm~2.0mmである。しかし、上板10の板厚t
1は、上記範囲を外れていてもよい。
また、上板10は、1枚のみに限られず、複数枚を重ねた第1の板組としてもよい。この場合、それぞれの貫通孔11A、11Bの直径は異なっていてもよい。複数の貫通孔11A、11Bの直径が異なる場合は、最も径の小さい貫通孔11A、11Bの直径を、貫通孔11の直径dとする。この構成は、
図3(A)を参照するとよい。
なお、上板10は、鋼板の種類や、表面処理の有無について制限がなく、どのような強度クラスの鋼であっても貫通孔11が形成できれば適用できる。すなわち、上板10は、ステンレス鋼であっても、ニッケル基合金あってもよい。また、上板10は、合金化溶融亜鉛めっき(GA)、溶融亜鉛めっき(GI)、アルミめっき等が施されていてもよい。
【0025】
下板20の板厚t2は、特に制限はないが0.5mm~8.0mmが好ましい。また、下板20は、1枚のみに限られず、複数板を重ねた不図示の第2の板組としてもよく、厚さt2が上記範囲を外れていてもよい。
下板20の板厚t2の上限については、7.0mm以下がより好ましく、5.0mm以下がより好ましく、3.0mm以下がより好ましい。
下板20の板厚t2の下限については、0.65mm以上がより好ましく、0.8mm以上がより好ましい。
なお、下板20は、アルミニウム合金又はマグネシウム合金の種類は問わない。下板20として用いられるアルミニウム合金としては、例えば、5000系、6000系、7000系合金等があるが、いずれでも適用できる。また、下板20は、板状部材には限られず、押出材、ダイキャスト等いずれのアルミ材に対しても適用できる。
【0026】
上板10と下板20の板厚比であるt1/t2は、溶接作業のし易さの観点から0.5~2.0の範囲が好ましい。なお、溶接部の形状が好ましい範囲となるように溶接条件が設定されていれば、板厚比が上記範囲を外れていてもよい。
【0027】
貫通孔11の直径dは、3.0mm~15.0mmが好ましい。
貫通孔11の直径dが小さすぎると、アーク溶接による溶接材料の充填が難しく、接合部30の継手強度も低くなる。このため、貫通孔11の直径dの下限は、3.0mm以上が好ましく、4.0mm以上がより好ましく、5.0mm以上がより好ましい。
その一方で、貫通孔11の直径dが大きすぎると、貫通孔11に溶接金属を充填するのが難しくなり、溶接時間が長くなる。また、溶接材料の消費量が増加し、アルミニウムへの入熱過多による下板20や溶接金属の割れが懸念される。このため、貫通孔11の直径dは、15.0mm以下が好ましく、13.0mm以下がより好ましく、11.0mm以下がより好ましい。
【0028】
貫通孔11の形状は、楕円形や多角形であってもよいが、接合部30及び上板10への応力集中の観点からは円や楕円等の角のない形状の方が好ましい。また、貫通孔11は、面取りしてもよいが、バリの有無は問わない。
また、貫通孔11は、板厚方向が垂直な孔ではなく、テーパー付きでもよい。貫通孔11に形成されるテーパーは、板厚表面方向に狭まるテーパー11aであっても、板厚裏面(界面)方向に狭まるテーパー11bであってもよい。この場合、最も径の小さい部分の直径を、前記貫通孔11の直径dとする。この構成は、
図3(B)及び
図3(C)を参照するとよい。
【0029】
表余盛31の幅W1は、貫通孔11の直径をdとした場合に、貫通孔の直径dより大きく、5.0d以下(d<W≦5.0d)であることが好ましい。
表余盛31の幅W1は、基本的には大きいほど継手強度には良い影響を与える。しかし表余盛31の幅W1が大きすぎると、溶接時間の長時間化、消耗材の消費量の増加、鋼が過剰に溶融して溶接金属に多量に混入することによる脆化、熱変形等の影響が起きることが考えられる。このため、表余盛31の幅W1の上限は、5.0d以下が好ましく、4.5d以下がより好ましく、4.0d以下がより好ましい。
その一方で、表余盛31の幅W1の下限は、所望のアンカー効果を得るために、貫通孔11の直径dよりも大きいことが好ましく、1.2d以上がより好ましい。
【0030】
表余盛31の高さH1は、下板20の板厚をt2とした場合に、0.1t2以上、5.0t2以下が好ましい。
表余盛31の高さH1は、基本的には高いほど継手強度には良い影響を与える。しかし、表余盛31の高さH1が高すぎても、継手強度の向上効果を相応には得られない一方で、他の部品と干渉し易くなったり、溶接時間の長時間化したり、消耗材の消費量が増加したりする。このため、表余盛31の高さH1の上限は、5.0t2以下が好ましく、4.5t2以下がより好ましく、4.0t2以下がより好ましい。
その一方で、表余盛31の高さH1の下限は、低すぎると接合部30が剥離方向に外力に対して破断し易くなるため、0.1t2以上が好ましく、0.2t2以上がより好ましく、0.3t2以上がより好ましく、0.4t2以上がより好ましい。
【0031】
裏余盛32の幅W2は、貫通孔11の直径をdとした場合に、0≦W2≦3.0dが好ましい。
裏余盛32の高さH2は、下板20の板厚をt2とした場合に、0≦H2≦5.0t2が好ましい。
すなわち、裏余盛32は存在しなくても十分な継手強度を得ることができ、接合部30の軽量化になる。裏余盛32を作る場合は、大きいほど継手強度には良い影響を与える。しかし、裏余盛32の幅W2や高さH2が大きすぎる場合には、裏余盛32が他の部品に干渉したり、消耗材の消費量が増加したり、重量が必要以上に増加したりすることが考えられる。このため、裏余盛32の幅W2は3.0d以下が好ましく、2.5d以下がより好ましく、裏余盛32の高さH2は5.0t2以下が好ましく、4.0t2以下がより好ましい。
なお、接合部30を補強するために裏余盛32を別途に作ってもよい。
【0032】
接触角θ1は、表余盛31の幅W1と高さH1の条件が満たされていれば、0~180°の何れであってもよい。しかし、接触角θ1は、120°を超える場合には、入り熱が不足して上板10と接合部30との間の接合が弱くなっている可能性があるため、120°未満が好ましい。
【0033】
接触角θ2は、一般的には、同種の金属同士の接触となるため、0~90°が好ましい。ただし、後述する当て部材やその他部品等が干渉している場合や、合金元素が著しく異なる場合、下板20に表面処理が施されている場合等は、この限りではない。
【0034】
上述の接合部30は、表余盛31の幅W1及び高さH1と、裏余盛32の幅W2及び高さH2が、規定の範囲を外れた場合には、接合部30を研削したり再溶接したりすることで、規定範囲内に収まるように補修してもよい。
【0035】
また、上述の条件が満たされている場合、上記の上板10及び下板20の間には、ある程度のギャップがあってもよい。具体的には、上板10及び下板20の間に、2mm程度の隙間があっても接合部30による接合強度を十分得ることができる。
また、上板10及び下板20の間に、板間の開口の防止、剛性の向上、防水等を目的として、接着剤やシール剤を塗布した状態で、溶接してもよい。ただし、接着剤やシール剤は、熱による影響が出ない範囲での塗布が望ましい。
【0036】
また、上板10と下板20の接合は、鋼とアルミの接合であるため、異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)が懸念される。これを防止するため、腐食原因となる水分が接合部30を含む異材接触部への侵入しないように、接合部30を作成後、シール剤やフィルム、電着塗装等によって接合部30を含む異材接触部を被覆することが好ましい。
【0037】
次に、接合部30を構成する溶接金属について具体的に説明する。
【0038】
<溶接金属>
溶接金属となる溶接材料は、アルミニウム合金又はマグネシウム合金となるものであれば、一般的に用いられる溶接ワイヤが適用可能であり、接合部30や溶接条件に応じて適宜選択される。例えば、5000系、4000系、1000系の溶接ワイヤが流通しているが、このいずれを使用してもよい。さらに具体的には、例えば、A5356、A5183、A5554、A4043、A4047、A1100、A1070等がある。
【0039】
接合部30を構成する溶接金属は、上板10の鉄の一部を溶かして溶接金属中に混入させてもよい。一般的には混入した鉄は溶接金属を脆化させるものであるが、少量であれば溶接金属の強度を向上させる効果があり、接合部30の強度向上に有効に作用することを見出した。接合部30を構成する溶接金属中の平均Fe濃度は10%以下であることが好ましい。
上板10の貫通孔11に中空部を有する不図示の接合補助部材を設けると、上板10がほとんど溶けないため、接合部30にほとんど上板10を構成する鉄が混入しなくなる。このため、本実施形態では、溶接時に上板10の一部を若干溶かして混入させるために、接合補助部材は用いず、溶接金属を貫通孔11に直接流す必要がある。
【0040】
次に、
図4に基づいて、異材接合継手の製造方法の他実施例について説明する。
図4(A)は、本実施形態の異材接合継手の製造方法の第1裏当て部材を用いた当接工程を示した図であり、
図4(B)は、本実施形態の異材接合継手の製造方法の第2裏当て部材を用いた当接工程を示した図であり、
図4(C)は、本実施形態の異材接合継手の製造方法の第3裏当て部材を用いた当接工程を示した図である。
【0041】
<裏当て部材を用いた異材接合継手の製造方法>
本実施形態の異材接合継手の製造方法は、溶接工程の前に、下板20の裏面であって、板厚方向に貫通孔11が配置される部分に、裏当て部材40A、40B、40Cを当接する、当接工程を設けてもよい。言い換えると、裏当て部材40A、40B、40Cを用いて、上述のアーク溶接を行うことで、裏余盛32をなくしたり、裏余盛32の大きさを制限したり、裏余盛32の形状を矯正したりすることができる。裏当て部材40A、40B、40Cの材質としては、溶接金属よりも融点の高い銅、銅合金等の金属材料や、セラミックス等からなる耐熱性のある非金属材料を使用する。
【0042】
裏当て部材40A、40B、40Cについて具体的に説明する。
第1裏当て部材40Aは、下板20の裏余盛32が形成される箇所全体に面接触する板状部材とする。これにより、下板20から裏余盛32が突出形成されることを規制できる。この構成は、
図4(A)を参照するとよい。
第2裏当て部材40Bは、下板20の裏余盛32が形成される箇所に所定深さの第1凹部41が形成された板状部材とする。これにより、下板20に形成される裏余盛32の高さH
2及び幅W
2が所定以上大きくなることを規制できる。この構成は、
図4(B)を参照するとよい。
第3裏当て部材40Cは、下板20の裏余盛32が形成される箇所に所定のドーム状の第2凹部42が形成された板状部材とする。これにより、下板20に形成される裏余盛32の形状を滑らかなドーム状に形成し、裏余盛32の高さH
2及び幅W
2も所望の値にすることができる。この構成は、
図4(C)を参照するとよい。
【実施例0043】
以下、本実施形態に係る異材接合継手と、異材接合継手の製造方法の実施例について、具体的に説明する。本発明はこれに限定されるものではない。
【0044】
図1(A)及び
図1(B)に示すように、貫通孔11が形成された鋼板である上板10の下に、アルミニウム合金製の下板20を重ねて配置した。次に、溶接ワイヤWと下板20とに電源を接続し、溶接ワイヤWを貫通孔11の中で下板20に接触させて、MIGアーク溶接を実施した。なお、MIGアーク溶接では、シールドガスとして100%Arガスを用いた。これにより、貫通孔11に溶融した溶接金属を充填して接合部30を形成し、上板10と下板20とを接合する異材接合継手を形成した。
【0045】
本実施例においては、上板10の種類(S1~S4)と、下板20の種類(A1~A4)と、溶接ワイヤWの種類(W1、W2)と、上板10の板厚t1と、下板20の板厚t2と、貫通孔11の直径dと、接合部30(表余盛31及び裏余盛32)の形状とサイズと、を適宜変更して異材接合継手を製造した。使用した上板10、下板20及び溶接ワイヤWの種類について、以下に示す。
【0046】
(上板の種類)
S1:270MPa級冷延鋼材
S2:270MPa級冷延鋼材GAめっき鋼板
S3:270MPa級冷延鋼材GIめっき鋼板
S4:1500MPa級冷延鋼材
(下板の種類)
A1:6000系アルミニウム合金板(引張強度240MPa)
A2:5000系アルミニウム合金板(引張強度270MPa)
A3:7000系合金押出材(引張強度365MPa)
A4:アルミニウムダイキャスト材(引張強度310MPa)
A5:5000系アルミニウム合金板(引張強度230MPa)
(溶接ワイヤの種類)
W1:JIS Z3232 A5356-WY φ1.2mm
W2:JIS Z3232 A4043-WY φ1.2mm
【0047】
<異材接合継手の評価>
次に、得られた各異材接合継手について、異材継手の形状の影響が大きい剥離方向の継手強度を測定することにより、継手強度を評価した。
【0048】
(剥離方向の継手強度)
各異材接合継手の継手強度として、JIS Z3137に記載の十字引張試験による剥離方向の継手強度(CTS:Cross tention strength)を測定し、測定された継手強度を、基準強度と比較(比基準強度を算出)して評価した。
剥離方向の継手強度(CTS)の基準強度は、せん断方向の継手強度(TSS)の基準強度の50%とした。せん断方向の継手強度(TSS)の基準強度は、WES7302 スポット溶接作業標準(アルミニウム及びアルミニウム合金)の引張せん断荷重B、BF級最小値を参考にした。
具体例を示すと、板厚2.0mmの、引張強度240MPaの6000系アルミニウム系合金板(A1)の場合、基準強度は、以下のように算出した。
240×1/98×1.000×0.5=1.2kN
【0049】
表1には、各異材接合継手の製造に用いた材料の種類及び寸法と、接合部30の寸法と、を継手強度とともに示す。なお、接合部30のサイズは、レーザー変位計にて溶接部形状をスキャンして計算した。
【0050】
【0051】
表1に示すように、異材接合継手の貫通孔11の直径dが3.0mm以上、15.0mm以下、d≦表余盛の幅W1≦5.0d、0.1t2≦表余盛の高さH1≦5.0t2の条件を満たす場合には、異材接合継手の継手強度が基準強度よりも大きくなることが確認できた。
なお、No.20は、上板10を2枚重ねしたものであり、板厚t1は合計で2.8mmである。No.22は、基準強度を下回った比較例である。
【0052】
なお、
図5(A)は、表1のNo1に相当する溶接部断面写真であり、
図5(B)は、表1のNo.7に相当する溶接部断面写真であり、
図5(C)は、表1のNo.9に相当する溶接部の断面写真であり、
図5(D)は、表1のNo.22に相当する溶接部の断面写真である。
図5(A)~
図5(D)に示すように、本実施形態の溶接方法では、裏余盛32が表れていなくとも、接合部30が下板20に接合されていれば、実用上、十分な接合強度が得られる。その一方で、溶接金属が深く溶け込みすぎて、接合部30と下板20が溶け落ちてしまわないように、溶接条件を制御する必要がある。
なお、
図5(D)に示す例は、基準強度を下回った比較例を示している。
【0053】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0054】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 1つ又は複数の鋼板からなる第1部材と、
1つ又は複数のアルミニウム系材料又はマグネシウム系材料からなる板状の第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材とを接合する接合部と、
を備え、
前記第1部材は、前記第2部材との重ね合わせ面に臨む板厚方向の貫通孔を有し、
前記接合部は、前記貫通孔に充填されて前記第2部材と溶接した溶接金属であって、前記第1部材の表面に配置される表余盛を有し、
前記貫通孔の直径dと、前記表余盛の幅W1と、前記表余盛の高さH1と、前記第2部材の板厚t2との関係が、以下の式を満たすことを特徴とする、
異材接合継手。
3.0mm≦d≦15.0mm
d<W1≦5.0d
0.1t2≦H1≦5.0t2
本構成によれば、溶接金属によって成形される前記接合部の前記表余盛を所定のサイズに収めることにより、高強度の異材接合継手を得ることができる。
【0055】
(2) 前記第2部材の裏面に裏余盛を有し、
前記貫通孔の直径dと、前記裏余盛の幅W2と、前記裏余盛の高さH2と、前記第2部材の板厚t2との関係が、以下の式を満たすことを特徴とする、
(1)に記載の異材接合継手。
W2≦3.0d
H2≦5.0t2
本構成によれば、溶接金属によって成形される前記裏余盛を所定のサイズに収めることにより、高強度の異材接合継手を得ることができる。
【0056】
(3) (1)又は(2)に記載の異材接合継手の製造方法であって、
前記第1部材に前記貫通孔を空ける孔空け工程と、
前記第1部材と前記第2部材とを重ね合わせる重ね合わせ工程と、
溶接材料を溶融させた溶接金属を前記貫通孔に充填し、前記溶接金属と前記第2部材とを溶接する溶接工程と、
を備え、
アーク、プラズマ、レーザーから選択される少なくとも1つの熱源により、前記溶接材料を溶融させる、
本構成によれば、溶接材料から前記接合部を構成する溶融金属をスムーズに生成できるため、より安定して異材接合継手を製造できる。
【0057】
(4) 前記溶接工程の前に、前記第2部材に当接する裏当て部材を当接する当接工程を有する、
(3)に記載の異材接合継手の製造方法。
本構成によれば、第2部材に形成される裏余盛のサイズや形状を任意に調整できる。