(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180094
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】液体吐出装置、制御方法、記憶媒体及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20241219BHJP
B41J 2/165 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
B41J2/01 207
B41J2/165 211
B41J2/165 101
B41J2/01 303
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099542
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】根岸 将史
(72)【発明者】
【氏名】清川 佑輔
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EB08
2C056EB38
2C056EB40
2C056EC11
2C056EC26
2C056EC31
2C056EC42
2C056FA10
2C056HA19
2C056HA37
(57)【要約】
【課題】ノズルの吐出性能の変動を、より適切に判定すること。
【解決手段】吐出ヘッドのノズルから吐出された液体を検知する検知手段と、前記ノズルの吐出性能が低下しているか否かを判定する判定手段と、を備えた液体吐出装置であって、前記ノズルには、液体を吐出するためのエネルギを発生するエネルギ発生素子が設けられており、前記判定手段は、前記エネルギ発生素子を第一の駆動条件で駆動した場合の前記検知手段の検知結果を、基準値と比較することで前記ノズルの吐出性能が低下しているか否かを判定し、前記基準値は、前記エネルギ発生素子を前記第一の駆動条件よりも前記エネルギが低くなる第二の駆動条件で駆動した場合の前記検知手段の検知結果に基づいて設定されている。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出ヘッドのノズルから吐出された液体を検知する検知手段と、
前記ノズルの吐出性能が低下しているか否かを判定する判定手段と、
を備えた液体吐出装置であって、
前記ノズルには、液体を吐出するためのエネルギを発生するエネルギ発生素子が設けられており、
前記判定手段は、
前記エネルギ発生素子を第一の駆動条件で駆動した場合の前記検知手段の検知結果を、基準値と比較することで前記ノズルの吐出性能が低下しているか否かを判定し、
前記基準値は、
前記エネルギ発生素子を前記第一の駆動条件よりも前記エネルギが低くなる第二の駆動条件で駆動した場合の前記検知手段の検知結果に基づいて設定されている、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出装置であって、
第一の条件が成立した場合に、前記第二の駆動条件で駆動した場合の前記検知手段の検知結果に基づき前記基準値を設定して記憶手段に記憶する設定手段を備え、
前記判定手段は、
前記第一の条件とは異なる第二の条件が成立した場合に、第一の駆動条件で駆動を実施した場合の前記検知手段の検知結果と前記記憶手段から読み出した前記基準値を比較して前記ノズルの吐出性能が低下しているか否かを判定する、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の液体吐出装置であって、
前記第二の条件とは、前記ノズルからの液体の吐出回数に基づく条件である、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項4】
請求項2に記載の液体吐出装置であって、
前記第二の条件とは、時間の経過に基づく条件である、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項5】
請求項2に記載の液体吐出装置であって、
前記第一の条件とは、前記液体吐出装置の使用開始、前記吐出ヘッドの交換、前記液体の吐出による記録画像のレジストレーション調整、または、前記液体の吐出による記録画像の濃度調整に基づく条件である、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項6】
請求項1に記載の液体吐出装置であって、
前記検知手段は、
発光素子と、該発光素子が発光した光を受光する受光素子と、を備え、かつ、
前記発光素子と前記受光素子との間の検知位置を通過する前記液体を検知する、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項7】
請求項6に記載の液体吐出装置であって、
前記判定手段は、
前記検知結果に基づく前記液体の吐出速度及び吐出量と、前記基準値として吐出速度の基準値及び吐出量の基準値とを比較する、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項8】
請求項1に記載の液体吐出装置であって、
前記吐出ヘッドは、
第一の種類の液体を吐出する複数の第一のノズルと、
第二の種類の液体を吐出する複数の第二のノズルと、を含み、
前記基準値は、
前記複数の第一のノズルに対応した第一の基準値と、
前記複数の第二のノズルに対応した第二の基準値と、を含む、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項9】
請求項1に記載の液体吐出装置であって、
前記エネルギ発生素子は、電力の供給により前記エネルギを発生し、
前記第一の駆動条件と前記第二の駆動条件とは、前記エネルギ発生素子に対する電力の供給時間が異なる、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項10】
請求項1に記載の液体吐出装置であって、
前記判定手段が前記ノズルの吐出性能が低下していると判定した場合に、前記ノズルの吐出性能の低下をユーザに報知する報知手段を備える、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項11】
請求項1に記載の液体吐出装置であって、
前記判定手段が前記ノズルの吐出性能が低下していると判定した場合に、前記吐出ヘッドの制御パラメータが補正される、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項12】
請求項1に記載の液体吐出装置であって、
前記ノズルの吐出性能を回復する回復手段を備え、
前記判定手段が前記ノズルの吐出性能が低下していると判定した場合に、前記回復手段によって前記ノズルの吐出性能を回復する、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項13】
請求項1に記載の液体吐出装置であって、
前記吐出ヘッドを搭載して移動するキャリッジを備え、
前記検知手段は、前記キャリッジが移動中に前記ノズルから吐出された前記液体を検知する、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項14】
請求項13に記載の液体吐出装置であって、
前記検知手段は、前記キャリッジが定速度で移動中に前記ノズルから吐出された前記液体を検知する、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項15】
請求項1に記載の液体吐出装置であって、
前記液体吐出装置は、前記液体としてインクを記録媒体に吐出して画像を記録する記録装置である、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項16】
請求項15に記載の液体吐出装置であって、
前記第一の駆動条件は、前記記録媒体に画像を記録する場合の前記エネルギ発生素子の駆動条件である、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項17】
液体を吐出する吐出ヘッドと、前記吐出ヘッドのノズルから吐出された液体を検知する検知手段と、を備え、前記ノズルには、液体を吐出するためのエネルギを発生するエネルギ発生素子が設けられた液体吐出装置の制御方法であって、
前記エネルギ発生素子を第一の駆動条件で駆動した場合の前記検知手段の検知結果を、基準値と比較することで前記ノズルの吐出性能が低下しているか否かを判定する判定工程を備え、
前記基準値は、
前記エネルギ発生素子を前記第一の駆動条件よりも前記エネルギが低くなる第二の駆動条件で駆動した場合の前記検知手段の検知結果に基づいて設定されている、
ことを特徴とする制御方法。
【請求項18】
液体を吐出する吐出ヘッドと、前記吐出ヘッドのノズルから吐出された液体を検知する検知手段と、を備え、前記ノズルには、液体を吐出するためのエネルギを発生するエネルギ発生素子が設けられた液体吐出装置の制御方法をコンピュータに実行させるプログラムを記憶した記憶媒体であって、
前記制御方法は、
前記エネルギ発生素子を第一の駆動条件で駆動した場合の前記検知手段の検知結果を、基準値と比較することで前記ノズルの吐出性能が低下しているか否かを判定する判定工程を備え、
前記基準値は、
前記エネルギ発生素子を前記第一の駆動条件よりも前記エネルギが低くなる第二の駆動条件で駆動した場合の前記検知手段の検知結果に基づいて設定されている、
ことを特徴とする記憶媒体。
【請求項19】
液体を吐出する吐出ヘッドと、前記吐出ヘッドのノズルから吐出された液体を検知する検知手段と、を備え、前記ノズルには、液体を吐出するためのエネルギを発生するエネルギ発生素子が設けられた液体吐出装置の制御方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記制御方法は、
前記エネルギ発生素子を第一の駆動条件で駆動した場合の前記検知手段の検知結果を、基準値と比較することで前記ノズルの吐出性能が低下しているか否かを判定する判定工程を備え、
前記基準値は、
前記エネルギ発生素子を前記第一の駆動条件よりも前記エネルギが低くなる第二の駆動条件で駆動した場合の前記検知手段の検知結果に基づいて設定されている、
ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置の一例として、インクジェット記録装置が知られている。近年では、高画質化や高速化およびインクの多様化に適応することが求められている。また、各ノズルから吐出するインク滴の微小液滴化も進んでいる。記録画像の品位を一定に維持するためには、ノズルの吐出性能の変動を把握することが重要となる。特許文献1には、吐出されるインクの液滴の吐出状態を光学的に検知し、ノズルの吐出性能の変動を判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液滴の吐出状態の検知結果は、装置、ノズル、センサ等の個体差の影響を受ける。判定用の閾値を一律に定めて全ての装置に適用すると、こうした個体差の影響によって、ノズルの吐出性能の変動を適切に判定できない場合がある。
【0005】
本発明は、ノズルの吐出性能の変動を、より適切に判定する技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
吐出ヘッドのノズルから吐出された液体を検知する検知手段と、
前記ノズルの吐出性能が低下しているか否かを判定する判定手段と、
を備えた液体吐出装置であって、
前記ノズルには、液体を吐出するためのエネルギを発生するエネルギ発生素子が設けられており、
前記判定手段は、
前記エネルギ発生素子を第一の駆動条件で駆動した場合の前記検知手段の検知結果を、基準値と比較することで前記ノズルの吐出性能が低下しているか否かを判定し、
前記基準値は、
前記エネルギ発生素子を前記第一の駆動条件よりも前記エネルギが低くなる第二の駆動条件で駆動した場合の前記検知手段の検知結果に基づいて設定されている、
ことを特徴とする液体吐出装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ノズルの吐出性能の変動を、より適切に判定する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る液体吐出装置の外観図。
【
図2】
図1の液体吐出装置の内部機構を示す説明図。
【
図3】(A)は吐出面の説明図、(B)は検知ユニットの説明図。
【
図4】
図1の記録装置の制御ユニットのブロック図。
【
図5】(A)及び(B)は検知ユニットの検知信号の例を示す図。
【
図6】検知ユニットによる液体の検知態様の例を示す図。
【
図7】(A)及び(B)は液体が検知位置を通過する態様の例を示す図。
【
図8】(A)及び(B)は検知ユニットの検知結果の例を示す図。
【
図9】(A)及び(B)は検知結果から演算される吐出状態値の例を示す図。
【
図10】(A)~(C)は基準値の設定方法の例を示す図。
【
図11】
図4の制御ユニットの処理例を示すフローチャート。
【
図12】
図4の制御ユニットの処理例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
<液体吐出装置の概要>
図1は、本発明の一実施形態に係る液体吐出装置1の外観図である。各図において、矢印X、Y、Zは互いに交差する方向を示しており、本実施形態の場合、矢印X及びYは互いに直交する水平方向であって、液体吐出装置1の幅方向と奥行き方向とを示し、矢印Zは上下方向(高さ方向)を示す。
【0011】
本実施形態の液体吐出装置1は、液体としてインクを記録媒体に吐出して記録媒体上に画像を記録するインクジェット記録装置である。本実施形態では、シリアル型のインクジェット記録装置に本発明を適用した場合について説明するが、本発明は他の形式の記録装置にも適用可能である。
【0012】
また、「記録」には、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、又は媒体の加工を行う場合も含まれ、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わない。また、本実施形態では「記録媒体」としてシート状の紙を想定するが、布、プラスチック・フィルム等であってもよい。液体吐出装置1は、幅が異なる複数種類の記録媒体に記録が可能であり、例えば最大で60インチのサイズの記録媒体に記録が可能である。記録媒体としては、ロール紙やカット紙を使用することができる。
【0013】
液体吐出装置1は、装置本体10と、記録済みの記録媒体が積載されるガイド11、種々の記録情報や設定結果などを表示するための表示パネル13、及び、記録モードや記録媒体の種類などの設定をするための操作ボタン12などを備える。また、液体吐出装置1は、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローなどの色のインクを貯留する複数のインクタンクを収容するタンクユニット14を備える。
【0014】
図2は、液体吐出装置1の装置本体10の内部構成を示す斜視図である。装置本体10には、プラテン6上で記録媒体200をY方向に搬送する搬送ユニット5が設けられている。搬送ユニット5は搬送ローラと搬送ローラに圧接するニップローラとを含む。記録媒体200はこれらのローラで挟持され、かつ、搬送ローラの回転によって搬送される。
【0015】
装置本体10には、キャリッジ2とキャリッジ2をX方向に往復する移動機構4とが設けられている。移動機構4は、本実施形態の場合、ベルト伝動機構である。具体的には、移動機構4はX方向に離間して配置されたプーリ42及び43と、プーリ42及び43に巻き回された無端ベルト44と、プーリ42を回転するキャリッジモータ41と、X方向に延設され、キャリッジ3の移動を案内するレール48とを含む。キャリッジ3は無端ベルト44に固定された固定部45を有している。キャリッジモータ41の駆動によって無端ベルト44が走行し、キャリッジ3をレール48に沿って移動することができる。
【0016】
装置本体10には、また、X方向に配設されたリニアスケール47が設けられている。キャリッジ3に設けたエンコーダセンサ46でリニアスケール47を読み取ることでキャリッジ3のX方向の位置が検知される。
【0017】
キャリッジ3には複数の吐出ヘッド3が搭載されている。各吐出ヘッド3は液体を吐出する。本実施形態の場合、各吐出ヘッド3はタンクユニット14から供給されるインクを記録媒体200に吐出して画像を記録する記録ヘッドである。また、本実施形態の場合、各吐出ヘッド3はキャリッジ3に脱着可能に設けられており、その交換が可能である。本実施形態では3つの吐出ヘッド3がキャリッジ3に搭載されているが、吐出ヘッド3は一つでもよい。各吐出ヘッド3はプラテン6と対向するように配置されており、吐出ヘッド3の下面には吐出面30が形成されている。吐出面30からプラテン6に支持された記録媒体200にインクが吐出される。
【0018】
図3(A)は吐出ヘッド3の下面図であり、吐出面30を示している。吐出面30には、インクを吐出する複数のノズル31が設けられている。各ノズル31は吐出面30に開口した吐出口32と、吐出口32に設けられたエネルギ発生素子33とを含む。エネルギ発生素子33は、電気-熱変換素子(ヒータ)であり、電力の供給によって吐出口32からインクを吐出するエネルギを発生する。エネルギ発生素子33は圧電素子であってもよい。
【0019】
吐出ヘッド3には、インクの種類毎の共通液室34が設けられている。吐出口32には、流路35を介して共通液室34からインクが供給され、エネルギ発生素子33の駆動により吐出口32からインクが吐出される。
【0020】
ノズル31は例えば2048個設けられる。吐出口32は一列の配置ではなく、千鳥状に配置されている。各ノズルを区別するために、ノズル列の一端側から順番に番号を付与する場合、奇数番号のノズル列30aと偶数番号のノズル列30bとの2つの列に分かれる。これらノズル列を、奇数ノズル列(Odd列)、偶数ノズル列(Even列)と呼ぶ場合がある。奇数ノズル列と偶数ノズル列は、例えば、それぞれ1024個のノズルで構成され、両者の間隔は約0.6mmである。また、各ノズル列での奇数ノズル列、偶数ノズル列の両ノズル列を組み合わせて1200dpi(ドット/インチ)の記録解像度が実現される。各ノズル列でのノズル間隔は、600dpiである。また、吐出口32から吐出されるインク滴の液滴量は、例えば4plから6pl程度である。
【0021】
図2を参照する。キャリッジ3には、プラテン6上の記録媒体200と吐出面30との距離を検出するための距離検知ユニット21が設けられている。距離検知ユニット21は例えば光学センサである。レール48には、その高さを段階的に可変するためのリフトカム(不図示)およびそのリフトカムを駆動するリフトモータ49が設けられている。距離検知ユニット21の検知結果に基づきレール48の高さを変更することで、キャリッジ3の昇降、つまり、吐出ヘッド3の昇降が可能である。これにより、吐出ヘッド3と記録媒体200との距離を調整できる。
【0022】
キャリッジ3の移動範囲内には、液滴検知ユニット7と回復ユニット8とが設けられている。回復ユニット8は吐出ヘッド3の吐出性能の維持・回復を行うユニットである。回復ユニット8は、例えば、吐出面30を覆うキャップや、キャップを介して吐出面30からインクを吸引する吸引装置(ポンプ)を含む。キャップを介して吐出面30からインクを吸引することで、吐出口32やその周囲の異物が除去され、吐出ヘッド3の吐出性能を回復することができる。
【0023】
液滴検知ユニット7は、キャリッジ3の移動範囲のうち、記録媒体200に対する画像の記録領域と、回復ユニット8との間の位置に配置されている。本実施形態の液滴検知ユニット7は、飛翔する液滴を光学的に検知する光学センサである。
図3(B)は液滴検知ユニット7の構造を示す断面図である。
【0024】
液滴検知ユニット7は、Y方向に離間した発光素子71と、受光素子72とを含む光学センサである。液滴検知ユニット7は、上方に開口した溝70aを形成する筐体70を備え、発光素子71と、受光素子72は溝70aを挟むようにして筐体70に支持されている。
【0025】
発光素子71は光束74を発し、受光素子72は発光素子71が発光した光束74を受光する。受光素子72が受光した受光量をセンサ回路73が検出する。光束74は、液滴の検知位置を画定し、光束74を液滴が通過すると、受光素子72が受光する受光量が変化する。これにより液滴を検知する。
【0026】
センサ回路73には、受光素子72が受光した光量により流れる電流を電圧信号に変換して出力する電流・電圧変換回路や、インク滴の検知信号のレベルの増幅回路が設けられている。さらに、外乱影響によりインク滴の吐出の検知信号のレベルが変動することで出力の飽和やS/Nが低下する影響を除去するためのクランプ回路を備えている。クランプ回路は、吐出を観測する直前まで、増幅回路から出力される信号のレベルを所定の値(クランプ電圧)に保持する。
【0027】
これらの回路により、インク滴の通過のような微小な受光量変化を検知するため、検知信号のレベルを確保することができる。液滴検知ユニット7の光束74をインク滴が通過したとき、受光素子72が受ける光の受光量が変化し、その検知結果として出力された検知信号のレベルと所定の値との比較を内部のコンパレータで実施する。その比較結果により、検知対象となるノズル31の吐出状態、特に、吐出されたインク滴の飛翔状態の判定を行うことができる。
【0028】
液滴検知ユニット7は、光束74の光軸がプラテン6の支持面(記録媒体200の支持面)とZ方向に同じ位置になるように配設されている。吐出状態の検査を、記録媒体200に対する画像の記録時と同じ条件で行うことができる。発光素子71および受光素子72の近傍にはそれぞれスリットが設けられている。受光素子72に入射する光束74を絞り込んでS/N比を向上させることができる。光束74の断面積は、例えば、2mm×2mm程度とする。インク滴が光束74を通過した場合のインク滴の平行光射影面積は、例えば、2^-3(mm^2)程度とする。本実施形態の場合、ノズル列30a、30bと、光束74は互いに平行となる関係に配置され、ノズル列30a、30bと光束74とのの高さ方向(Z方向)における沿面距離は例えば2~10mmである。
【0029】
<制御系の構成>
図4は液体吐出装置1の制御ユニット9のブロック図である。制御ユニット9は液体吐出装置1の全体を制御する制御回路である。制御ユニット9は、装置全体を制御するプロセッサであるCPU91、半導体メモリ等の記憶デバイス92、各センサや各モータを制御するセンサ・モーター制御回路93を含む。CPU91、センサ・モーター制御回路93、記憶デバイス92は、互いに通信可能に接続される。
【0030】
記憶デバイス92は、CPU91が実行するプログラムや各種の情報を記憶する。各種の情報は、例えば、吐出状態に関連する検知データや基準値、記録媒体200の厚さなどの情報が含まれる。センサ・モーター制御回路93は、距離検知ユニット21、液滴検知ユニット7、シート検知ユニット96、キャリッジモータ41、搬送モータ95、リフトモータ49の制御や検知結果の処理等を行う。搬送モータ95は搬送ユニット5の駆動源であり、搬送ローラを回転させる。シート検知ユニット96は、記録媒体200の位置を検知するセンサである。また、センサ・モーター制御回路93は、エンコーダセンサ46で検出したキャリッジ2の位置情報に基づき、ヘッド制御回路94を介して、吐出ヘッド3のインクの吐出制御を行う。
【0031】
ホスト装置100から送信された画像データは、CPU91にて吐出信号に変換され、吐出信号にしたがって吐出ヘッド3からインクが吐出されて記録媒体200への画像の記録動作が行われる。記録動作は、記録媒体200の間欠搬送動作と、記録スキャン動作とを交互に繰り返すことにより行う。間欠搬送動作とは、記録媒体200を所定量搬送して停止する動作であり、搬送ユニット5によって行われる。記録スキャン動作とは、記録媒体200の搬送が停止している状態で、キャリッジ2の移動により吐出ヘッド3を記録媒体200の幅方向に移動させながらインクを吐出する動作である。こうした記録動作により記録媒体200に対する画像の記録が進行する。
【0032】
CPU91は、その機能ブロックとして、例えば、ドライバ部、シーケンス制御部、画像処理部、タイミング制御部、およびヘッド制御部を含む。シーケンス制御部は、記録制御全般を制御し、具体的には、画像処理部、タイミング制御部及びヘッド制御部の起動および停止、記録媒体の搬送制御、キャリッジ2の移動制御等を行なう。各機能ブロックの制御は、シーケンス制御部が各種プログラムを記憶デバイス92から読み出して実行することにより実行される。ドライバ部は、シーケンス制御部からの指令に基づき、センサ・モーター制御回路93、記憶デバイス92、ヘッド制御回路95等への制御信号を生成し、また各ブロックからの入力信号をシーケンス制御部へ伝達する。
【0033】
画像処理部は、ホスト装置100からの入力画像データを色分解・変換し、吐出ヘッド3で記録可能な記録データに変換する画像処理を行なう。タイミング制御部は、キャリッジ2の位置と連動して、画像処理部で変換・生成された記録データをヘッド制御部に転送する。また、タイミング制御部は、液滴の吐出状態を判定するための各ノズルからの吐出に同期する信号の制御も行う。ヘッド制御部は、タイミング制御部から入力された記録データを吐出信号に変換して出力する。また、シーケンス制御部の指令に基づいて、補正が必要な場合、補正するための調整用制御信号を出力し、ヘッド制御回路94に伝達する。ヘッド制御回路94は、ヘッド制御部から入力された吐出信号に従って駆動パルスを生成し、吐出ヘッド3に印加する。
【0034】
<液体の吐出とその検知>
ノズル31の吐出状態の検査例について
図5(A)及び
図5(B)を参照して説明する。
図5(A)は、吐出ヘッド3から正常にインクが吐出された場合を示しており、
図5(B)は、吐出ヘッド3から正常にインクが吐出されなかった場合(不吐状態)を示している。いずれの図においても、検査対象ノズルをN番ノズルとした場合を想定している。
【0035】
これら各図には、吐出ヘッド3(エネルギ発生素子33)を駆動する駆動パルスである吐出信号と、液滴検知ユニット7によるインク滴の検知結果である検知信号とのタイミングチャートも示されている。インク滴の吐出に同期して前述したクランプ回路を動作させ、インク滴の吐出を観測する直前、出力される検知信号の信号レベルを所定のクランプ電圧値に保持する。
【0036】
インク滴の吐出が開始され、光束74に向かって吐出されたインク滴が、光束74を通過する直前にクランプ回路による動作を解除する。受光素子72の受光量を示す検知信号が、基準電圧を下回った場合、正常な吐出状態と判定する。基準電圧値は、インク滴が光束74を通過したときの受電素子72の受光量を予め実験などで確認することにより設定される。
【0037】
図5(A)の例では、検査対象となるN番ノズルは正常な吐出状態であると判定される。なお、図示の例では、検査の信頼性を向上するため、N番ノズルからの吐出を複数回実施し、これらの結果から判定を行う例を示している。
【0038】
N番ノズルからインク滴が吐出されない場合、インク滴が光束74を遮ることはなく、受光素子72の受光量の低下がない。
図5(B)の例では、検知信号の電圧低下が確認されない。そのため、ここでは検査対象となるN番ノズルは正常に吐出されず、不吐状態と判定される。
【0039】
次に、上述したとおり、本実施形態では、記録スキャン動作においてキャリッジ2の移動により吐出ヘッド3を記録媒体200の幅方向に移動させながらインクを吐出する。
図6はこうした状態において吐出されるインク滴と、液滴検知ユニット7との関係を模式的に示している。
【0040】
吐出ヘッド3から吐出されるインク滴は、主滴と主滴以外の小液滴(以降サテライトと称する)に分かれて吐出される場合と、主滴とサテライトが分離せずそのままくっついた状態で吐出される場合がある。これはノズル口径の違いや、インクの種類(特性)の違い、奇数ノズル列30a、偶数ノズル列30bの違いなどに起因する。
【0041】
主滴とサテライトが分かれて吐出される場合において、吐出された瞬間には主滴とサテライトは同じ位置から吐出されるが、両者の吐出速度の違いから記録媒体200上の着弾位置が異なることがある。そのため、着弾位置およびドット形状の変化を検出するために、ノズル31の検査の際には、画像記録時と同じ制御条件での吐出状態を検知することが望ましい。そこで、本実施形態では、液滴検知ユニット7を用いたノズル31の吐出状態の検知の際、画像記録時と同じ条件でキャリッジ2や吐出ヘッド3を駆動する。尤も、ノズル31の吐出状態の検知の際、画像記録時と同じ条件でキャリッジ2や吐出ヘッド3を駆動することは必須ではない。
【0042】
図7(A)及び
図7(B)は、キャリッジ2を移動しながら吐出ヘッド3から吐出されたインク滴を液滴検知ユニット7で検知する例を示している。
図7(A)はインク滴が主滴MDとサテライトSDとに分かれた例を、
図7(B)は主滴MDとサテライトSDとがくっついた例を、それぞれ示している。
【0043】
また、
図8(A)は
図7(A)の例における吐出信号SG、比較判定結果CR、検知信号DD、及び、基準電圧REFVのタイミングチャートである。
図8(B)は
図7(B)の例における吐出信号SG、比較判定結果CR、検知信号DD、及び、基準電圧REFVのタイミングチャートである。比較判定結果CRは、センサ回路73に備えられるコンパレータの出力信号である。比較判定結果CRは、検知信号DDが基準電圧REFV以上である場合にLowレベル(Lレベル)に維持され、検知信号DDが基準電圧REFVを下回った場合にHighレベル(Hレベル)に変化する。
【0044】
図7(A)のように主滴MDとサテライトSDとが分離する場合は、それぞれの吐出サイズおよび吐出速度が異なる。そのため、
図8(A)のように、検知信号DDには主滴MDとサテライトSDにそれぞれ相当する2つのピークがあり、比較判定結果CRは、2回、Hレベルに変化する。
【0045】
図7(B)のように主滴MDとサテライトSDとが一体化している場合は、
図8(B)のように、検知信号DDにはピークが1つだけ現れ、比較判定結果CRも、1回、Hレベルに変化する。
【0046】
図9(A)及び
図9(B)は、検知信号DDと比較判定結果CRとから演算される吐出状態値の例を示している。
図9(A)はインク滴が主滴MDとサテライトSDとに分かれた例を、
図9(B)は主滴MDとサテライトSDとがくっついた例を、それぞれ示している。吐出状態値は、振幅ΔX、変化時間ΔY及びピーク検知時間ΔZを含む。
【0047】
振幅ΔXは、検知信号DDの最大振幅である。変化時間ΔYは比較判定結果CRがHレベルの時間である。主滴MDとサテライトSDとが分離する場合は、
図9(A)に示すように、比較判定結果CRが2回、Hレベルになるため、最初のHレベルの立ち上がりから2回目のHレベルの立下りまでの時間を変化時間ΔYとする。ピーク検知時間ΔZは、吐出開始から、インク滴による光束74の遮光度合いが最大になるまでの時間であり、本実施形態の場合、吐出信号SGの立下りから検知信号DDのピーク値までの時間としている。
【0048】
振幅ΔXと変化時間ΔYから、一回のインク滴の吐出の吐出量を算出することができる。吐出量が多いとインク滴のサイズが大きくなるので、振幅ΔXや変化時間ΔYが大きくなる。ピーク検知時間ΔZからインク滴の吐出速度を算出することができる。吐出面30と液滴検出センサ7の検知位置(光束74)との距離は、設計上、既知のため、吐出速度が速ければピーク検知時間ΔZが短くなる。
【0049】
CPU91には、検知信号DD及び比較判定結果CRのデータが提供され、CPU91は、提供されたデータを記憶デバイス92に保存する。そして、検査対象となるノズル31の吐出速度および吐出量の算出は、こうした液滴検知ユニット7の検知結果を記憶デバイス92から読み出してCPU91が実行する。
【0050】
<吐出性能の変化とその検査>
ノズル31の吐出性能の変化は記録品質に影響する。例えば、吐出速度が変化すると、記録媒体200上の着弾位置がずれる。その場合、例えば、一本の縦線を記録する際に、線が太くなり、いずれ一本の線が二本の線になる場合があり、記録品質が低下する。同様に、吐出量が変化して液滴サイズが変わると、記録媒体200上に記録される画像濃度が影響を受ける。例えば、マゼンタとシアンを重ねて、画像を記録する場合、濃度バランスが変わり記録品質が低下する。
【0051】
そこで、ノズル31の吐出性能の変化を検査し吐出性能に変化があれば、これを是正するか、或いは、吐出ヘッド3を交換する等して対応する必要がある。一般にノズル31の吐出性能は、経時的に、或いは、使用度合いによって低下する。
図10(A)は吐出性能の低下を、吐出信号SGのパルス幅(電力の供給時間))を短くすることによって表現した理論上の例を示している。破線は、吐出信号SGのパルス幅を通常のパルス幅(画像記録時のパルス幅)とした場合の検知信号DDを示し、実線は吐出信号SGのパルス幅を通常のパルス幅よりも短くした場合の検知信号DDを示している。
【0052】
吐出信号SGのパルス幅を短くすることで、エネルギ発生素子33のON時間が短くなり、すなわち、発生するエネルギが小さくなる。これは吐出性能の低下と等価である。吐出信号SGのパルス幅を短くすると、エネルギ発生素子33が発生するエネルギが小さくなることから吐出速度は遅くなり、吐出量は小さくなる。このようにノズル31の吐出性能を意図的或いは仮想的に低下させて得た振幅Δα、変化時間Δβ及びピーク検知時間Δγはノズル31の吐出性能の低下を判定する基準値(判定値)となり得る。つまり、吐出信号SGのパルス幅を通常のパルス幅として実測した振幅ΔX、変化時間ΔY及びピーク検知時間ΔZと、振幅Δα、変化時間Δβ及びピーク検知時間Δγとを比較し、その差が小さければノズル31の性能低下が生じていると判定することができる。
【0053】
しかし、基準値を理論的に演算して設定すると、個体差によるノズル31の吐出性能の変化に対応できない場合がある。すなわち、液滴検知ユニット7の感度にはばらつきがある。また、吐出口31の口径には公差もある。こうした誤差は、装置間で基準値を共通にできない要因の例である。
【0054】
例えば、全く同じ条件で液体吐出装置1を使用した場合であっても、
図10(B)の例のように性能低下が大きい場合(検知信号DDの変化が大きい場合)や、
図10(C)の例のように性能低下が小さい場合(検知信号DDの変化が小さい場合)があり得る。そのため、理論的に求めた統一的な基準値では、ノズル31の吐出性能の低下を的確に判定できない場合がある。
【0055】
そこで、本実施形態では、ノズル31の性能低下が生じる前に、振幅Δα、変化時間Δβ及びピーク検知時間Δγを予め実測して基準値とする。具体的には、エネルギ発生素子33が発生するエネルギが画像記録時よりも小さくなるようにエネルギ発生素子33の駆動条件(例えばパルス幅)を設定した上で、キャリッジ2の移動により記録ヘッド3を移動させながらノズル31からインクを吐出させる。そのインク滴を液滴検知ユニット7で実際に検知し、振幅Δα、変化時間Δβ及びピーク検知時間Δγを演算する。実測したこれらの値を基準値として記憶デバイス92に保存する。
【0056】
記録ヘッド3を移動させながらノズル31からインクを吐出させた場合、
図6~
図9を参照して説明したように、インク滴が主滴MDとサテライトSDとに分離する場合と、一体の場合とがある。これらはノズル31単位で区別することができ、例えば、奇数ノズル列30a、偶数ノズル列30bで区別することができる。こうした場合、インク滴が主滴MDとサテライトSDとに分離する場合の基準値(分離用)と、分離せずに一体となる場合の基準値(一体用)とをそれぞれ用意して記憶デバイス92に保存しておいてもよい。そして、検査の際には、検査対象のノズル31に対応して、基準値(分離用)と基準値(一体用)との一方を選択的に利用してもよい。或いは、基準値(分離用)のみを用意して記憶デバイス92に保存しておき、基準値(一体用)は、基準値(分離用)を補正して算出するようにしてもよい。
【0057】
なお、基準値を得るにあたり、エネルギ発生素子33が発生するエネルギが画像記録時よりも小さくなるようにエネルギ発生素子33の駆動条件を設定する例としては、吐出信号SGのパルス幅以外であってもよい。エネルギを小さくすることができればどうような駆動条件でもよい。
【0058】
また、基準値は、振幅Δα、変化時間Δβ及びピーク検知時間Δγをそのまま用いるのではなく、理論値との変化の比率を用いて算出した値であってもよい。また、一つの吐出条件ではなく、複数の吐出条件の結果を用いて算出してもよい。
【0059】
<処理例>
ノズル31の性能低下の判定に関連して制御ユニット9のCPU91が実行する処理例について説明する。
図11は基準値の設定に関する処理例を示すフローチャートである。
【0060】
ステップS1では、開始条件が成立したか否かが判定される。開始条件は、例えば、液体吐出装置1を初めて動作させる初期動作時(初期電源投入時)、吐出ヘッド3の交換時、記録画像のレジストレーション調整時、記録画像の濃度調整時を挙げることができる。このように吐出ヘッド3や記録制御が初期化された場合に、基準値を設定することができる。
【0061】
開始条件が成立したと判定された場合はステップS2へ処理が進む。ステップS2では、基準値を設定する対象ノズル31を選択する。基準値は全ノズル31に個別に設定してもよいし、奇数ノズル列30aと、偶数ノズル列30bとに区別して設定してもよい。後者の場合、奇数ノズル列30aと偶数ノズル列30bとから、一つずつ対象ノズル31を選択してもよい。
【0062】
ステップS3では吐出条件が設定される。この設定は、ステップS2で選択したノズル31に対応するエネルギ発生素子33の駆動条件の設定を含む。発生するエネルギが画像記録時よりも小さくなるようにエネルギ発生素子33の駆動条件(例えば吐出信号のパルス幅)が設定される。キャリッジ2の高さ及び移動速度や、インクの吐出タイミング(液滴検知ユニット7でインク滴が検知される吐出位置)といった他の条件は、画像記録時の条件と同様である。なお、キャリッジ2の移動においては、加速領域と、等速領域(定速度領域)とが存在するが、画像記録のためのインク吐出の大半は等速領域でのインク吐出であるため、液滴検知ユニット7に対するインクの吐出も等速領域で行う。
【0063】
ステップS4ではステップS3で設定した吐出条件にてインクの吐出が行われる。ここでは画像記録時と同様に、吐出ヘッド3が液滴検知ユニット7上を通過するようにキャリッジ3が移動され、移動中に吐出ヘッド3からインクが吐出される。ステップS5では吐出ヘッド3から吐出されたインク滴を液滴検知ユニット7で検知する処理が行われる。液滴検知ユニット7の検知結果が選択ノズル31と関連付けて記憶デバイス92に保存される。
【0064】
ステップS6では、基準値の設定対象である全ノズル31についてデータの取得が完了したか否かが判定され、完了していない場合はステップS2に戻って別のノズル31を選択して同様の処理が行われる。
【0065】
ステップS7では、ステップS5で記憶デバイス92に保存されたデータから、基準値が算出される。基準値は例えば上述した振幅Δα、変化時間Δβ及びピーク検知時間Δγであり、対象ノズル31毎に算出される。ステップS8ではステップS7で算出した基準値が対象ノズル31と関連付けられて記憶デバイス92に保存される。
【0066】
図12はノズル31の検査に関する処理であり、ノズル31の吐出性能が低下しているか否かを判定する処理の例を示すフローチャートである。ステップS11では開始条件が成立したか否かが判定される。ノズル31の吐出性能は、インク滴を吐出すると変化する可能がある。一方で、数液滴の吐出で変化することはほとんどない。そこで、開始条件は、例えば、数枚(又は数ページ)の記録媒体200の画像記録を行った場合である。或いは、ノズル31の吐出回数の総数(ドットカウント値)が規定値に達した場合でもよい。或いは、液体吐出装置1の使用開始から所定の時間が経過した場合であってもよい。開始条件が成立したと判定された場合、処理はステップS12へ進む。
【0067】
ステップS12では、検査対象である複数のノズル31の中から一のノズル31が選択される。ステップS13では、吐出条件が設定される。ここでの吐出条件の設定は、画像記録時と同じ条件が設定される。ここでの設定は、
図10のステップS3での吐出条件の設定と、エネルギ発生素子33の駆動条件を除き、同じ設定である。
【0068】
ステップS14ではステップS13で設定した吐出条件にてインクの吐出が行われる。ここでは吐出ヘッド3が液滴検知ユニット7上を通過するようにキャリッジ3が移動され、移動中に吐出ヘッド3からインクが吐出される。ステップS15では吐出ヘッド3から吐出されたインク滴を液滴検知ユニット7で検知する処理が行われる。液滴検知ユニット7の検知結果が選択ノズル31と関連付けて記憶デバイス92に保存される。ステップS14及びS15の処理は、記録動作間(例えば頁間)に行ってもよく、或いは、一回の記録スキャン動作におけるキャリッジ2の移動中に行ってもよい。
【0069】
ステップS16では、検査対象である複数のノズル31の全ノズル31についてデータの取得が完了したか否かが判定され、完了していない場合はステップS12に戻って別のノズル31を選択して同様の処理が行われる。完了している場合、処理はステップS17へ進む。
【0070】
ステップS17では、検査対象である複数のノズル31の中から一のノズル31が選択される。ステップS18では、選択ノズル31についてステップS15で保存された検知結果から、吐出状態値が算出される。本実施形態では、
図9(A)又は
図9(B)を参照して説明した振幅ΔX、変化時間ΔY及びピーク検知時間ΔZが算出される。ステップS19では、記憶デバイス92から、選択ノズル31に対応する基準値Δα、Δβ、Δγが読み出される。ステップS20では、ステップS18で算出したΔX、ΔY及びΔZと、ステップS19で読み出された基準値Δα、Δβ、Δγとを比較する処理が行われる。ステップS21では、ステップS18の比較結果に基づき、対象ノズル31の吐出性能が低下しているか否か(NGか否か)が判定される。ΔXとΔαとの差、ΔYとΔβとの差、ΔZとΔβとの差の、少なくともいずれか一つが閾値未満であれば、NGと判定される。NGでないと判定された場合、処理はステップS22へ進み、NGと判定された場合、処理はS23へ進む。
【0071】
なお、ステップS18では、液滴の吐出速度と、液滴の吐出量とを比較してもよい。液滴の吐出速度はΔZから(基準値ではΔγから)算出できる。液滴の吐出量は、ΔX及びΔYから(基準値ではΔα及びΔβから)算出できる。
【0072】
ステップS22では、検査対象である複数のノズル31の全ノズル31について性能低下の判定処理(ステップS18~S19)が完了したか否かが判定され、完了していない場合はステップS17に戻って別のノズル31を選択して同様の処理が行われる。
【0073】
ステップS23では、ノズル31の性能低下に対応処理が実行される。対応処理としては、例えば、ユーザに対してノズル31の性能低下が生じていることを報知する処理が挙げられる。報知は例えば、表示パネル13での表示によって行うことができる。また、報知はネットワークを介してユーザに通知する(ホスト装置100に通知する)形式であってもよい。こうした報知によって、ユーザに対して、吐出ヘッド3の制御パラメータを補正するためのレジストレーション調整や濃度調整の実施、或いは、吐出ヘッド3の交換を促すことができる。
【0074】
対応処理としては、また、自動的にレジストレーション調整や濃度調整を行うものであってもよい。対応処理としては、また、自動的に、キャリッジ2の移動によって吐出ヘッド3を回復ユニット8へ移動し、回復ユニット8によって吐出性能を回復する処理であってもよい。
【0075】
レジストレーション調整は、記録媒体に所定のテストパターンを記録し、このテストパターンから着弾位置調整を行うものであってもよい。着弾位置調整は例えばノズル31の吐出タイミング(吐出信号の出力タイミング)や吐出時間(吐出信号のON時間)といった吐出ヘッド3の制御パラメータを補正するものであってもよい。或いは、リフトモータ49による吐出ヘッド3の高さ調整であってもよい。
【0076】
以上のように本実施形態では、個体差の影響を受けずに、ノズル31の吐出性能の変動を、より適切に判定することができる。
【0077】
<他の実施形態>
上記実施形態では、液滴検知ユニット7を記録媒体200に対する画像の記録領域外に配置したが、記録領域内に配置してもよい。この場合、液滴検知ユニット7は、プラテン6に設けた予備吐出口に配置してもよい。予備吐出口とは、吐出性能の維持のために吐出ヘッド7から予備吐出されるインク滴を受ける開口部である。この開口部内に液滴検知ユニット7に相当するセンサを配置することで、ノズル13の検査の際のキャリッジ2の移動距離を短くすることができる。例えば、記録動作中に
図12の処理を実行する場合、記録領域内でキャリッジ2を移動すればよくなるので、スループットの低下を防止できる。
【0078】
また、上記実施形態では、キャリッジ2の移動により吐出ヘッド3が移動しながらインクを吐出するシリアル式の記録装置を例示したが、吐出ヘッド3が記録媒体200の幅相当の長さを有するフルライン式の記録装置にも本発明は適用可能である。
【0079】
また、本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
<実施形態のまとめ>
上記実施形態は、以下の各項目の発明を少なくとも開示している。
【0080】
項目1.
吐出ヘッドのノズルから吐出された液体を検知する検知手段と、
前記ノズルの吐出性能が低下しているか否かを判定する判定手段と、
を備えた液体吐出装置であって、
前記ノズルには、液体を吐出するためのエネルギを発生するエネルギ発生素子が設けられており、
前記判定手段は、
前記エネルギ発生素子を第一の駆動条件で駆動した場合の前記検知手段の検知結果を、基準値と比較することで前記ノズルの吐出性能が低下しているか否かを判定し、
前記基準値は、
前記エネルギ発生素子を前記第一の駆動条件よりも前記エネルギが低くなる第二の駆動条件で駆動した場合の前記検知手段の検知結果に基づいて設定されている、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【0081】
項目2.
項目1に記載の液体吐出装置であって、
第一の条件が成立した場合に、前記第二の駆動条件で駆動した場合の前記検知手段の検知結果に基づき前記基準値を設定して記憶手段に記憶する設定手段を備え、
前記判定手段は、
前記第一の条件とは異なる第二の条件が成立した場合に、第一の駆動条件で駆動を実施した場合の前記検知手段の検知結果と前記記憶手段から読み出した前記基準値を比較して前記ノズルの吐出性能が低下しているか否かを判定する、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【0082】
項目3.
項目2に記載の液体吐出装置であって、
前記第二の条件とは、前記ノズルからの液体の吐出回数に基づく条件である、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【0083】
項目4.
項目2に記載の液体吐出装置であって、
前記第二の条件とは、時間の経過に基づく条件である、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【0084】
項目5.
項目2に記載の液体吐出装置であって、
前記第一の条件とは、前記液体吐出装置の使用開始、前記吐出ヘッドの交換、前記液体の吐出による記録画像のレジストレーション調整、または、前記液体の吐出による記録画像の濃度調整に基づく条件である、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【0085】
項目6.
項目1乃至項目6のいずれか一項に記載の液体吐出装置であって、
前記検知手段は、
発光素子と、該発光素子が発光した光を受光する受光素子と、を備え、かつ、
前記発光素子と前記受光素子との間の検知位置を通過する前記液体を検知する、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【0086】
項目7.
項目6に記載の液体吐出装置であって、
前記判定手段は、
前記検知結果に基づく前記液体の吐出速度及び吐出量と、前記基準値として吐出速度の基準値及び吐出量の基準値とを比較する、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【0087】
項目8.
項目1乃至項目7のいずれか一項に記載の液体吐出装置であって、
前記吐出ヘッドは、
第一の種類の液体を吐出する複数の第一のノズルと、
第二の種類の液体を吐出する複数の第二のノズルと、を含み、
前記基準値は、
前記複数の第一のノズルに対応した第一の基準値と、
前記複数の第二のノズルに対応した第二の基準値と、を含む、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【0088】
項目9.
項目1乃至項目8のいずれか一項に記載の液体吐出装置であって、
前記エネルギ発生素子は、電力の供給により前記エネルギを発生し、
前記第一の駆動条件と前記第二の駆動条件とは、前記エネルギ発生素子に対する電力の供給時間が異なる、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【0089】
項目10.
項目1乃至項目8のいずれか一項に記載の液体吐出装置であって、
前記判定手段が前記ノズルの吐出性能が低下していると判定した場合に、前記ノズルの吐出性能の低下をユーザに報知する報知手段を備える、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【0090】
項目11.
項目1乃至項目8のいずれか一項に記載の液体吐出装置であって、
前記判定手段が前記ノズルの吐出性能が低下していると判定した場合に、前記吐出ヘッドの制御パラメータが補正される、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【0091】
項目12.
項目1乃至項目8のいずれか一項に記載の液体吐出装置であって、
前記ノズルの吐出性能を回復する回復手段を備え、
前記判定手段が前記ノズルの吐出性能が低下していると判定した場合に、前記回復手段によって前記ノズルの吐出性能を回復する、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【0092】
項目13.
項目1乃至項目12のいずれか一項に記載の液体吐出装置であって、
前記吐出ヘッドを搭載して移動するキャリッジを備え、
前記検知手段は、前記キャリッジが移動中に前記ノズルから吐出された前記液体を検知する、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【0093】
項目14.
項目13に記載の液体吐出装置であって、
前記検知手段は、前記キャリッジが定速度で移動中に前記ノズルから吐出された前記液体を検知する、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【0094】
項目15.
項目1乃至項目14のいずれか一項に記載の液体吐出装置であって、
前記液体吐出装置は、前記液体としてインクを記録媒体に吐出して画像を記録する記録装置である、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【0095】
項目16.
項目15に記載の液体吐出装置であって、
前記第一の駆動条件は、前記記録媒体に画像を記録する場合の前記エネルギ発生素子の駆動条件である、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【0096】
項目17.
液体を吐出する吐出ヘッドと、前記吐出ヘッドのノズルから吐出された液体を検知する検知手段と、を備え、前記ノズルには、液体を吐出するためのエネルギを発生するエネルギ発生素子が設けられた液体吐出装置の制御方法であって、
前記エネルギ発生素子を第一の駆動条件で駆動した場合の前記検知手段の検知結果を、基準値と比較することで前記ノズルの吐出性能が低下しているか否かを判定する判定工程を備え、
前記基準値は、
前記エネルギ発生素子を前記第一の駆動条件よりも前記エネルギが低くなる第二の駆動条件で駆動した場合の前記検知手段の検知結果に基づいて設定されている、
ことを特徴とする制御方法。
【0097】
項目18.
液体を吐出する吐出ヘッドと、前記吐出ヘッドのノズルから吐出された液体を検知する検知手段と、を備え、前記ノズルには、液体を吐出するためのエネルギを発生するエネルギ発生素子が設けられた液体吐出装置の制御方法をコンピュータに実行させるプログラムを記憶した記憶媒体であって、
前記制御方法は、
前記エネルギ発生素子を第一の駆動条件で駆動した場合の前記検知手段の検知結果を、基準値と比較することで前記ノズルの吐出性能が低下しているか否かを判定する判定工程を備え、
前記基準値は、
前記エネルギ発生素子を前記第一の駆動条件よりも前記エネルギが低くなる第二の駆動条件で駆動した場合の前記検知手段の検知結果に基づいて設定されている、
ことを特徴とする記憶媒体。
【0098】
項目19.
液体を吐出する吐出ヘッドと、前記吐出ヘッドのノズルから吐出された液体を検知する検知手段と、を備え、前記ノズルには、液体を吐出するためのエネルギを発生するエネルギ発生素子が設けられた液体吐出装置の制御方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記制御方法は、
前記エネルギ発生素子を第一の駆動条件で駆動した場合の前記検知手段の検知結果を、基準値と比較することで前記ノズルの吐出性能が低下しているか否かを判定する判定工程を備え、
前記基準値は、
前記エネルギ発生素子を前記第一の駆動条件よりも前記エネルギが低くなる第二の駆動条件で駆動した場合の前記検知手段の検知結果に基づいて設定されている、
ことを特徴とするプログラム。
【0099】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。したがって、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0100】
1 液体吐出装置、3 吐出ヘッド、7 液滴検知ユニット、31 ノズル、33 エネルギ発生素子