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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180123
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】分析方法および機器診断方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 175/00 20060101AFI20241219BHJP
   G01N 33/30 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C10M175/00
G01N33/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099587
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000200334
【氏名又は名称】JFEプラントエンジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】矢羽田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】清水 一孝
(72)【発明者】
【氏名】岡田 晃太郎
(72)【発明者】
【氏名】賀集 研二
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104JA03
(57)【要約】
【課題】 高い精度で磁性体粉の分析を実施できる分析方法の提供。
【解決手段】 容器Aと、容器B1と、容器B2とを準備する工程S1と、磁性体粉を含む潤滑剤と第1溶媒との混合物を、サンプル液Aとして容器Aに収容する工程S2と、容器Aに磁石を配置した状態でサンプル液Aを撹拌し、攪拌後のサンプル液Aを排出してサンプル液B2として容器B2に収容する工程S3と、容器Aに対して磁石を配置しない状態で、容器Aの残留物を第2溶媒と混合し、サンプル液B1として容器B1に収容する工程S4と、容器B1に磁石を配置した状態で静置し、サンプル液B1を排出し、容器B1の残留物である磁性体粉を分析する工程S5と、容器B2を、容器B2に磁石を配置した状態で静置し、サンプル液B2を排出して、別の容器B2に別のサンプル液B2として収容する工程S6と、容器B2の残留物である磁性体粉を分析する工程S7とを備える、分析方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル液Aを収容するための容器Aと、サンプル液B1を収容するための容器B1と、サンプル液B2を収容するための容器B2とを準備する工程S1と、
磁性体粉を含む潤滑剤と第1溶媒との混合物を、前記サンプル液Aとして前記容器Aに収容する工程S2と、
前記容器Aの外側側面と対面する位置に磁石を配置した状態で、前記容器Aに収容された前記サンプル液Aを撹拌し、攪拌後の前記サンプル液Aを前記容器Aから排出して前記サンプル液B2として容器B2に収容する工程S3と、
前記容器Aに対して磁石を配置しない状態で、前記サンプル液Aを排出した後の前記容器Aの残留物を第2溶媒と混合し、得られた混合物を前記容器Aから排出して前記サンプル液B1として前記容器B1に収容する工程S4と、
前記容器B1を、前記容器B1の外側底面と対面する位置に磁石を配置した状態で静置し、その後、前記容器B1に収容された前記サンプル液B1を前記容器B1から排出し、前記サンプル液B1を排出した後の前記容器B1の残留物である前記磁性体粉を分析する工程S5と、
前記容器B2を、前記容器B2の外側底面と対面する位置に磁石を配置した状態で静置し、その後、前記容器B2に収容された前記サンプル液B2を排出して、別の前記容器B2に別の前記サンプル液B2として収容する工程S6と、
前記サンプル液B2を排出した後の前記容器B2の残留物である前記磁性体粉を分析する工程S7と、を備える、分析方法。
【請求項2】
前記工程S6および前記工程S7を繰り返して実施する、請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記分析において、前記磁性体粉を観察し、少なくとも前記磁性体粉の形状、粒径、および、表面状態によって前記磁性体粉を分類する、請求項1または2に記載の分析方法。
【請求項4】
分類された前記磁性体粉について、さらに、観察された前記磁性体粉中における、分類された前記磁性体粉の含有量をそれぞれ分析する、請求項3に記載の分析方法。
【請求項5】
請求項4に記載の分析方法によって得られる分析結果に基づいて、機器において前記潤滑剤が使用される部分の摩耗状態の診断を行う、機器診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析方法に関する。より具体的には、潤滑剤等に含まれる磁性体粉の分析方法に関する。
また、本発明は、機器診断方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油およびグリス等の潤滑剤は、機器の摺動部に広く用いられている。
上記潤滑剤は、例えば、油圧制御装置、ポンプ、エンジン、ピストン、軸受、ギヤ、および、弁等に用いられる。
【0003】
上記機器の摺動部においては、上記機器を構成する部材同士の接触があるため、接触部分において摩耗が発生し、上記部材に由来する摩耗粉が発生する。発生した摩耗粉は潤滑剤中に存在するため、摩耗粉の分析により、摺動部の摩耗状態を推定することができる。
【0004】
上記部材としては、磁性体である鉄を含む部材が用いられることも多い。鉄を含む部材から発生する摩耗粉(磁性体粉)の分析方法としては、従来、磁性体粉を含むサンプル液を調製し、重力および磁力によって磁性体粉を分離しながら捕集し分析を行う、フェログラフィー法が知られている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-117427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
機器の運転コストの低減の点から、より高い精度で潤滑剤中の摩耗粉(磁性体粉)を分析する方法が求められている。
本発明者らは、従来のフェログラフィー法について検討したところ、十分な精度で分析できない場合があることを知見した。
【0007】
そこで、本発明は、高い精度で磁性体粉の分析を実施できる分析方法の提供を課題とする。
また、本発明は、機器診断方法の提供も課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成させるに至った。すなわち、以下の構成により上記課題が解決されることを見出した。
【0009】
〔1〕 サンプル液Aを収容するための容器Aと、サンプル液B1を収容するための容器B1と、サンプル液B2を収容するための容器B2とを準備する工程S1と、
磁性体粉を含む潤滑剤と第1溶媒との混合物を、上記サンプル液Aとして上記容器Aに収容する工程S2と、
上記容器Aの外側側面と対面する位置に磁石を配置した状態で、上記容器Aに収容された上記サンプル液Aを撹拌し、攪拌後の上記サンプル液Aを上記容器Aから排出して上記サンプル液B2として容器B2に収容する工程S3と、
上記容器Aに対して磁石を配置しない状態で、上記サンプル液Aを排出した後の上記容器Aの残留物を第2溶媒と混合し、得られた混合物を上記容器Aから排出して上記サンプル液B1として上記容器B1に収容する工程S4と、
上記容器B1を、上記容器B1の外側底面と対面する位置に磁石を配置した状態で静置し、その後、上記容器B1に収容された上記サンプル液B1を上記容器B1から排出し、上記サンプル液B1を排出した後の上記容器B1の残留物である上記磁性体粉を分析する工程S5と、
上記容器B2を、上記容器B2の外側底面と対面する位置に磁石を配置した状態で静置し、その後、上記容器B2に収容された上記サンプル液B2を排出して、別の上記容器B2に別の上記サンプル液B2として収容する工程S6と、
上記サンプル液B2を排出した後の上記容器B2の残留物である上記磁性体粉を分析する工程S7と、を備える、分析方法。
〔2〕 上記工程S6および上記工程S7を繰り返して実施する、〔2〕に記載の分析方法。
〔3〕 上記分析において、上記磁性体粉を観察し、少なくとも上記磁性体粉の形状、粒径、および、表面状態によって上記磁性体粉を分類する、〔1〕または〔2〕に記載の分析方法。
〔4〕 分類された上記磁性体粉について、さらに、観察された上記磁性体粉中における、分類された上記磁性体粉の含有量をそれぞれ分析する、〔3〕に記載の分析方法。
〔5〕 〔4〕に記載の分析方法によって得られる分析結果に基づいて、機器において上記潤滑剤が使用される部分の摩耗状態の診断を行う、機器診断方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い精度で磁性体粉の分析を実施できる分析方法を提供できる。
また、本発明によれば機器診断方法も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】容器ホルダーに対して容器Aを装入した状態を概略的に示す断面図である。
図2】容器B1の外側底面と対面する位置に磁石を配置した状態を概略的に示す断面図である。
図3】(a)は、容器台を概略的に示す平面図であり、(b)は、(a)のA-A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされる場合があるが、本発明はそのような実施態様に制限されない。
【0013】
以下、本明細書における各記載の意味を表す。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、以下に記載する実施形態は一例であり、本発明は、以下に記載する実施形態に限定されない。
なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
<分析方法>
本発明の分析方法は、下記工程を備える。
工程S1:サンプル液Aを収容するための容器Aと、サンプル液B1を収容するための容器B1と、サンプル液B2を収容するための容器B2とを準備する工程。
工程S2:磁性体粉を含む潤滑剤と第1溶媒との混合物を、サンプル液Aとして容器Aに収容する工程。
工程S3:容器Aの外側側面と対面する位置に磁石を配置した状態で、容器Aに収容されたサンプル液Aを撹拌し、攪拌後のサンプル液Aを容器Aから排出してサンプル液B2として容器B2に収容する工程。
工程S4:容器Aに対して磁石を配置しない状態で、サンプル液Aを排出した後の容器Aの残留物を第2溶媒と混合し、得られた混合物を容器Aから排出してサンプル液B1として容器B1に収容する工程。
工程S5:容器B1を、容器B1の外側底面と対面する位置に磁石を配置した状態で静置し、その後、容器B1に収容されたサンプル液B1を容器B1から排出し、サンプル液B1を排出した後の容器B1の残留物である磁性体粉を分析する工程。
工程S6:容器B2を、容器B2の外側底面と対面する位置に磁石を配置した状態で静置し、その後、容器B2に収容されたサンプル液B2を排出して、別の容器B2に別のサンプル液B2として収容する工程。
工程S7:サンプル液B2を排出した後の容器B2の残留物である磁性体粉を分析する工程。
また、本発明の分析方法は、後段で説明する工程を含むことが好ましい。
【0015】
本発明の分析方法においては、上記工程S3において、容器Aに配置した磁石に引き寄せられやすい比較的粒径の大きな磁性体粉と、磁石に引き寄せられにくい比較的粒径の小さな磁性体粉とに分離できる。そうすると、上記工程S5において、容器Aに残った比較的粒径の大きな磁性体粉のみを対象として観察を実施できる。比較的粒径の大きな磁性体粉は、その形状、および、その表面の性状を観察しやすく、詳細な分析を行い得る。したがって、従来のフェログラフィー法では困難であった、比較的粒径の大きな磁性体粉についても分析が実施でき、高い精度で磁性体粉の分析を実施できる。また、工程S7では、工程S3で得られたサンプル液B2に含まれる比較的粒径の小さな磁性体粉のみを分析し、比較的粒径の小さな磁性体粉のみの分析も実施できるため、高い精度で磁性体粉の分析を実施できる。
以下、本発明の分析方法について詳細に説明する。
【0016】
[工程S1]
工程S1では、サンプル液Aを収容するための容器Aと、サンプル液B1を収容するための容器B1と、サンプル液B2を収容するための容器B2とを準備する。
【0017】
容器Aは特に制限されず、公知の容器を選択できる。容器Aの材質は、後段で説明する第1溶媒に対して溶出しない材料を選択することが好ましい。容器Aの材質としては、例えば、無機ガラス、ならびに、ポリエチレンテレフタラートおよびポリカーボネート等の樹脂が挙げられる。容器Aは、後段の工程において、サンプル液Aにおける磁性体粉の分散状態を確認しやすい点から、透明であることも好ましい。
容器Aの形状は特に制限されないが、例えば、円筒状の容器が挙げられる。
容器Aの容積は特に制限されないが、例えば、1~100mLが好ましく、8~30mLがより好ましい。
容器Aとしては、具体的には、例えばガラス製または樹脂製の試験管(後述する図1に示す「樹脂製試験管30」を参照)を適用できる。
【0018】
容器B1は特に制限されず、公知の容器を選択できる。容器B1の材質は、後段で説明する第1溶媒に対して溶出しない材料を選択することが好ましい。容器B1の材質としては、例えば、ガラス、樹脂コート紙、ならびに、ポリエチレンテレフタラートおよびポリカーボネート等の樹脂が挙げられる。容器B1は、後段の工程において、観察が実施しやすい点から、白色不透明であることも好ましい。また、観察がしやすい点から、容器の底面のみを分離できることも好ましい。
容器B1の形状は特に制限されないが、例えば、円筒状の容器が挙げられる。容器B1は、平面状の底面を有することが好ましい。
容器B1の容積は特に制限されないが、例えば、30~500mLが好ましく、30~355mLがより好ましい。
容器B1としては、具体的には、例えば紙コップ(後述する図2に示す「紙コップ50」を参照)を適用できる。
【0019】
容器B2は特に制限されず、公知の容器を選択できる。容器B2は、容器B1と同様のものを用いることができる。
【0020】
[工程S2]
工程S2では、磁性体粉を含む潤滑剤と第1溶媒との混合物を、サンプル液Aとして容器Aに収容する。
【0021】
工程S2では、磁性体粉を含む潤滑剤と第1溶媒との混合物をサンプル液として調製する。
磁性体粉は、特に制限されないが、鉄(Fe)を含むことが好ましい。なお、磁性体粉には、例えば、銅合金粉または油劣化物等の非磁性体粉と、鉄等の磁性体とが含まれる複合粒子であって、複合粒子全体として磁性を帯びるものも含まれる。複合粒子において、鉄等の磁性体は、複合粒子の全体に均一に分布していてもよく、複合粒子の表面に多く分布していてもよい。
磁性体粉を含む潤滑剤としては、例えば、稼働している機械の摺動部における潤滑剤が挙げられ、具体的には、油圧制御装置、ポンプ、エンジン、ピストン、軸受、ギヤ、および、弁等における潤滑剤が挙げられる。特に制限されないが、本発明の分析方法に供する磁性体粉を含む潤滑剤としては、軸受、または、ギヤの潤滑剤が好ましい。潤滑剤は、潤滑油であっても、潤滑グリスであってもよい。
潤滑剤は、上記摺動部から採取すればよい。採取量は、適宜調整できるが、例えば、3~100mLが好ましい。
【0022】
上記サンプル液は、磁性体粉を含む潤滑剤と、第1溶媒とを混合して調製する。
第1溶媒は、特に制限されないが、磁性体粉を含む潤滑剤に含まれる磁性体粉以外の成分と混和する成分が好ましい。
第1溶媒としては、例えば、炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、および、ケトン系溶媒等が挙げられ、適宜選択できる。
【0023】
炭化水素系溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、ヘプタン、トルエン、オクタン、キシレン、ノナン、デカン、および、ウンデカン等が挙げられる。
アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ヘプタノール、ヘキサノール、および、オクタノール等が挙げられる。
エーテル系溶媒としては、例えば、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、および、フラン等が挙げられる。
エステル系溶媒としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、γ-ブチロラクトン、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酪酸エチル、および、酢酸ペンチルが挙げられる。
ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、および、シクロヘキサノン等が挙げられる。
【0024】
第1溶媒は、2種以上の溶媒の混合溶媒であってもよい。
【0025】
サンプル液の調製は、磁性体粉を含む潤滑剤と、第1溶媒を含む混合物を撹拌すればよい。混合物の撹拌は、公知の方法で行えばよく、撹拌棒等で混合物を対流させてもよく、混合物を収容した容器を揺動させてもよく、回転羽根で混合物に剪断力を与えて行ってもよい。また、混合物に対して超音波を照射してもよい。
サンプル液の調製は、容器Aにおいて実施してもよいし、容器Aとは別の容器でサンプル液を調整し、調整したサンプル液を容器Aに収容してもよい。
サンプル液における磁性体粉を含む潤滑剤の含有量は、適宜調整し得るが、サンプル液の全質量に対する磁性体粉を含む潤滑剤の含有量が0.01~1.0質量%となるように調整することが好ましく、0.05~0.5質量%となるように調整することがより好ましく、0.1~0.2質量%となるように調整することがさらに好ましい。
【0026】
サンプル液の調製は、第1溶媒の質量に対する潤滑剤の質量が所定の比となるように希釈して行ってもよい。第1溶媒の質量に対する潤滑剤の質量の割合は、例えば、0.1~10質量%が好ましく、0.5~5質量%がより好ましく、1~2質量%がさらに好ましい。
【0027】
また、潤滑剤に含まれる磁性体粉の含有量を予め測定し、上記含有量となるように第1溶媒で希釈することも好ましい。
潤滑剤における磁性体粉の含有量は、公知の方法で測定でき、例えば、所定量の潤滑剤を測り取って、所定の濃度に希釈して測定液とし、測定液を用いて定量フェログラフィーを実施する方法が挙げられる。磁性体粉の含有量は、上記測定液に対してパーティクルカウンター等を用いて測定してもよい。
潤滑剤における磁性体粉の含有量は、より広い粒径範囲の磁性体粉の測定も行える点で、グリス鉄粉濃度測定器、または、オイル鉄粉濃度測定器等を用いて測定することも好ましい。
【0028】
[工程S3]
工程S3では、容器Aの側面(外側の側面)と対面する位置に磁石を配置した状態で、容器Aに収容されたサンプル液Aを撹拌し、攪拌後のサンプル液Aを容器Aから排出してサンプル液B2として容器B2に収容する。
【0029】
容器Aの側面と対面する位置に磁石を配置する方法は特に制限されないが、磁石を設置した容器ホルダーに対して、容器Aを装入する方法が好ましく挙げられる。
容器Aの側面と対面する位置に磁石を配置する方法の一例について、図1を用いて説明する。図1は、容器ホルダー20に対して容器Aを装入した状態を概略的に示す断面図である。
図1では、容器ホルダー20に対して、容器Aとしての樹脂製試験管30が装入されており、樹脂製試験管30には、サンプル液Aとしてのサンプル液32が収容されている。図1に示す容器ホルダー20は、筐体26に対して、磁石としての永久磁石22と、スペーサー24とが交互に積層して3個ずつ配置されており、永久磁石22およびスペーサー24は、筐体26に固定されている。図1に示す永久磁石22およびスペーサー24は、紙面上下方向からみた際には円環状である。また、それぞれの永久磁石22は、最も近い永久磁石22との間で、それぞれのN極およびS極が対向するように配置されている。
【0030】
容器Aの側面と対面する位置に磁石を配置した状態(例えば図1に示す状態)で、容器Aに収容されたサンプル液Aを撹拌する。撹拌は、例えば、撹拌棒でサンプル液Aを対流させればよい。
なお、容器Aに収容されたサンプル液Aの撹拌は、上記工程S2と同時に行われてもよい。すなわち、容器Aに対して、磁性体粉を含む潤滑剤、および、上記第1溶液を収容し、容器Aの側面と対面する位置に磁石を配置した状態で、容器Aの収容物を撹拌してサンプル液を調製しながら上記撹拌を行ってもよい。
上記撹拌の時間は適宜調整し得るが、例えば、5~300秒が好ましく、10~60秒がより好ましい。
【0031】
上記撹拌を行った後、撹拌後のサンプル液Aを容器Aから排出してサンプル液B2として容器B2に収容する。
撹拌後のサンプル液Aを容器Aから排出する際には、容器Aの側面と対面する位置に磁石を配置した状態(例えば図1に示す状態)のまま実施する。
撹拌後のサンプル液Aの排出方法は特に制限されず、容器Aを傾けて撹拌後のサンプル液Aを排出してもよいし、スポイト等の吸引器で容器Aから撹拌後のサンプル液Aを排出してもよい。
容器B2は、上述したものを用いることができる。
工程S3を実施すると、磁石に引き寄せられやすい比較的粒径の大きな磁性体粉が、容器Aの内壁面に付着した状態となり、排出された撹拌後のサンプル液A(サンプル液B2)には、磁石に引き寄せられにくい比較的粒径の小さな磁性体粉が含まれた状態となる。
【0032】
なお、図1では、磁石として永久磁石22を用いた態様を示したが、磁石は、電磁石を用いてもよい。また、図1において永久磁石22の数は3つであったが、1つ以上であればよく、2つ以上の永久磁石22の間において、N極とS極とが対向していてもよい。また、永久磁石22が発生させる磁力は、適宜調整できるが、後段で説明する工程S5で用いる磁石の磁力よりも強いことが好ましい。永久磁石22の大きさは、適宜調整できるが、例えば、厚さ2~10mm、外直径20~50mm、穴直径10~40mmが挙げられる。
また、図1に示す容器ホルダー20において、筐体26の形状および材質は特に制限されず、適宜変更できる。また、永久磁石22、および、スペーサー24の形状も、適宜変更できる。例えば、永久磁石22は、直方体状であってもよい。
図1に示す容器ホルダー20は、他の構成を有していてもよい。例えば、樹脂製試験管30(容器A)と接触する部分において、クッション材または滑り止め材を配置してもよい。
【0033】
[工程S4]
工程S4では、容器Aに対して磁石を配置しない状態で、サンプル液Aを排出した後の容器Aの残留物を第2溶媒と混合し、得られた混合物を容器Aから排出してサンプル液B1として容器B1に収容する。
【0034】
工程S4では、まず、容器Aに対して磁石を配置しない状態で、サンプル液Aを排出した後の容器Aの残留物を第2溶媒と混合する。
第2溶媒は、特に制限されず、上述した第1溶媒と同様のものを用いることができる。
第2溶媒の添加量は、サンプル液Aを排出した後の容器Aの残留物を、容器Aから排出可能なように適宜調整できる。
混合方法は特に制限されないが、上述した工程S3で説明した撹拌方法を適用できる。
【0035】
工程S4では、容器Aの残留物と第2溶媒との混合物を得た後、混合物を容器Aから排出して容器B1に収容する。
混合物を容器Aから排出する方法としては、工程S3で説明した方法を適用できる。
容器B1は、上述したものを用いることができる。
【0036】
[工程S5]
工程S5では、容器B1を、容器B1の外側底面と対面する位置に磁石を配置した状態で静置し、その後、容器B1に収容されたサンプル液B1を容器B1から排出し、サンプル液B1を排出した後の容器B1の残留物である磁性体粉を分析する。
【0037】
工程S5では、まず、容器B1の外側底面と対面する位置に磁石を配置する。
容器B1の外側底面と対面する位置に磁石を配置する方法の一例について、図2を用いて説明する。図2は、容器B1の外側底面と対面する位置に磁石を配置した状態を概略的に示す断面図である。
図2では、容器B1としての紙コップ50に、サンプル液B1としてのサンプル液52が収容されており、紙コップ50が、容器台40に設置されている。容器台40は、板状磁性体42が固定されている。
容器台40について、図3を用いて説明する。図3(a)は、容器台40を概略的に示す平面図であり、図3(b)は、図3(a)のA-A線断面図である。図3(a)および(b)に示すように、容器台40には、板状磁性体42の長手方向が容器台40の平面(図3(a)の紙面)と平行となるように固定されている。板状磁性体42は、永久磁石44を、2枚の鋼板46で挟持して構成される。このとき、永久磁石44のN極およびS極は、それぞれ、2枚の鋼板46と接する面である。なお、鋼板46は、それぞれ強磁性体である。したがって、板状磁性体42は、一方の鋼板46から、他方の鋼板46に向かって磁力線を発生させる。
【0038】
したがって、図2に示すように容器台40に対して紙コップ50を設置すると、サンプル液52(サンプル液B1)に含まれる磁性体粉が、紙コップ50の底面において、板状磁性体42が発生させる磁力線に沿って配列する。すなわち、板状磁性体42の長手方向と直交する方向に、磁性体粉が配列する。
【0039】
容器B1の外側底面と対面する位置に磁石を配置する前、または、配置した後でサンプル液B1を排出する前に、容器B1に収容されたサンプル液B1を撹拌することが好ましい。撹拌を行うと、上述した磁性体粉の配列が促進される。撹拌の方法は、上述した方法を採用できる。
【0040】
工程S5では、容器B1の外側底面と対面する位置に磁石を配置した後、その状態で静置する。静置することで、容器B1の底面において、磁力線に沿って磁性体粉を配列させる。
静置する時間は特に制限されず、サンプル液B1に含まれる磁性体粉の粒径等によって適宜調整できる。静置する時間としては、例えば、1~2秒、および、1秒~20分が挙げられる。工程S5においては、静置する時間は、1~2秒である場合が多い。
【0041】
工程S5では、容器B1を静置した後、容器B1に収容されたサンプル液B1を容器B1から排出する。
容器B1から容器B1に収容されたサンプル液B1を排出する方法は、工程S3で説明した方法を適用でき、スポイト等の吸引器でサンプル液B1を排出する方法が好ましい。サンプル液B1を容器B1から排出する際には、容器B1の外側底面と対面する位置に磁石を配置した状態(例えば図2に示す状態)のまま実施する。
工程S5において、上記手順を実施すると、磁性体粉が残留物として、上記磁力線に沿って配列した状態で、容器B1の底面に付着する。
【0042】
なお、サンプル液B1を排出した後、容器B1に残った溶媒成分(第2溶媒)を乾燥して揮発させてもよい。乾燥を行う際は、容器B1の外側底面と対面する位置に磁石を配置した状態(例えば図2に示す状態)のまま実施することが好ましい。
乾燥を行う際は、室温かつ大気圧で乾燥してもよく、加熱して乾燥してもよく、減圧下で乾燥してもよい。
【0043】
工程S5では、サンプル液B1を排出した後、容器B1の残留物である磁性体粉を分析する。
上述したように、容器B1の底面に残留する磁性体粉は、比較的粒径の大きな磁性体粉であり、5~500μm程度である場合が多い。
分析は、例えば光学顕微鏡で観察して実施する。観察倍率は適宜設定できるが、例えば、100~2000倍が挙げられる。
観察を行う際には、容器B1の底面のみを分離してもよい。例えば、容器B1として紙コップを用いた場合、底面のみを切り取って観察に供してもよい。
【0044】
分析においては、磁性体粉の形状、大きさ、表面性状、および、色等を観察する。磁性体粉の分析によって、潤滑剤を採取した部分の摺動の状況を推測できる。
例えば、観察された磁性体粉は、以下の粒子に分類される。
・疲労剥離摩耗粒子:大きさが5μm未満のものも存在するが、大きさが5μm以上のものは、表面が平滑、粒子全体の形状は、圧延状態で薄い。粒子の周縁部において伸び、および、引き裂かれ等を有する。
・シビア剥離摩耗粒子:大きさが5μm未満のものも存在するが、大きさが5μm以上のものは、表面に条痕、方向性のあるしわ、および、微粒子の付着等を伴い、テンパーカラーを有する場合もある。全体の形状は、塑性変形によって生じたような形状で、周縁部が切削されている。
・微粒摩耗粉粒子:粒径が1μm程度で、磁束に沿って砂模様状に整列する。微粒摩耗粉が5μm以上の集塊体を形成する場合もある。
・超微粒摩耗粉粒子:粒径が1μm未満で、磁束に沿って明瞭に整列しにくい。
・非鉄金属摩耗粉粒子:銅合金、および、錫合金等に由来し、鉄との接触摩耗で、鉄の粒子が付着または溶着し、弱い磁化状態となっている。
・球状粒子:スパッタによるものがほとんどで大きさは1μm以上である。球状の場合が多いが、球の一部が平面状に切り取られたような形状を有する場合もある。
・酸化鉄:スケール由来のものと、腐食酸化物由来のものとがある。スケール由来のものは、大きさ1μm以上で、周囲が直線的な特徴がある。スケール由来の酸化鉄は、主に高温環境下での酸化によって発生する。腐食酸化物は、大きさは1μm以下で、形状に丸みがあり、茶褐色の物が多い。腐食酸化物由来の酸化鉄は、主に水によって生じる腐食で発生する。
・非金属粒子:潤滑剤に含まれる劣化した油脂および添加剤等が、上記の粒子と会合し形成され、半透明の粒子中に上記の粒子が混入している。
【0045】
具体的には、例えば、疲労剥離摩耗粒子が発生している場合、繰り返し圧力荷重が、摩耗表面において数年から数十年にわたって作用し続け、摺動部(例えば軸受)の寿命が推測される。なお、後述するいわゆるマイルド摩耗粉は、摺動部の潤滑に問題がなくても発生し続けるが、損耗または損傷が進行すると、粒径が大きくなる傾向がある。ここで、疲労剥離摩耗粒子の表面は上述したように平滑で、粒子全体の形状は圧延状態で薄く、粒子の周縁部において伸び、および、引き裂かれ等を有する点で、いわゆるマイルド摩耗粉と区別できる。上記観点で、潤滑剤を採取した摺動部(例えば軸受)のコンディションが推測できる。
シビア剥離摩耗粒子が発生している場合、摩耗表面において大きな負荷が生じており、摺動部の潤滑に問題が生じていることが推測される。シビア剥離摩耗粒子の表面には、上述したような条痕、および、色(テンパーカラー)がみられる。条痕は、異常な滑り接触によって生じていることが推測され、色は、摩擦熱で摩耗表面が高温になっていることが示唆される。上記観点で、潤滑剤を採取した摺動部(例えば軸受)のコンディションが推測できる。
いわゆるマイルド摩耗粉(上記微粒摩耗粉粒子および超微粒摩耗粉粒子)が発生している場合、一般的には、潤滑状態が良好で、初期摩耗、または、定常摩耗の状態を示唆している。ただし、良好な潤滑状態でない場合、微粒摩耗粉粒子の発生量が著しく増大するため、定常摩耗を超えた摩耗の進行が推測できる。
非鉄金属摩耗粉粒子が発生している場合、鉄と接触した非鉄金属部材が摩耗していることが推測される。非鉄金属摩耗粉粒子の発生量および大きさを分析することで、摩耗状態のコンディションが推測できる。
球状粒子が発生している場合、スパッタの混入が推測される。例えば、潤滑剤を採取した摺動部が軸受の場合、スパッタの混入は、被雷によって軸受け道面が溶融し、発生する場合がある。
スケール由来の酸化鉄が発生している場合は、主に外部から混入したことが推測される。一方、腐食酸化物由来の酸化鉄が発生している場合には、潤滑剤に水分が混入し、腐食摩耗が発生していることが推測される。
非金属粒子が発生している場合は、潤滑剤に水分が混入して油脂類が劣化しているか、摩擦熱の発生によって潤滑剤が高温となり、油脂類が酸化していることが推測される。
【0046】
なお、図2および図3に示す態様において、板状磁性体42の長さは適宜調整できるが、例えば合計で10~100mmが好ましい。永久磁石44は、2個以上の永久磁石を配列して用いてもよく、また、電磁石に置き換えてもよい。永久磁石44の厚みは適宜調整できるが、例えば0.5~5mmが好ましい。永久磁石44が発生させる磁力は適宜調整できるが、上述したように、工程S3で用いる磁石の磁力よりも弱いことが好ましい。鋼板46の厚みは適宜調整できるが、例えば、0.2~2.0mmが好ましい。
また、図2および図3に示す態様において、容器台40は、容器B1(紙コップ50)の側面に沿って容器B1(紙コップ50)を保持するための保持具を備えていてもよい。
【0047】
[工程S6]
工程S6では、容器B2を、容器B2の外側底面と対面する位置に磁石を配置した状態で静置し、その後、容器B2に収容されたサンプル液B2を排出して、別の容器B2に別のサンプル液B2として収容する。
【0048】
工程S6では、まず、容器B2の外側底面と対面する位置に磁石を配置する。容器B2の外側底面と対面する位置に磁石を配置する方法は、上述した工程S5における容器B1の外側底面と対面する位置に磁石を配置する方法と同様であるため、説明を省略する。
容器B2の底面と対面する位置に磁石を配置する前、または、配置した後でサンプル液B1を排出する前に、容器B2に収容されたサンプル液B2を撹拌することが好ましい。撹拌を行うと、磁性体粉の配列が促進される。
撹拌の方法は、上述した方法を採用できるが、スポイト等によってサンプル液B2を吸引および排出して対流を発生させる方法が好ましい。
撹拌を行ったあと、サンプル液B2を排出する前に容器B2およびサンプル液B2を静置する。静置する時間は、サンプル液B2に含まれる磁性体粉の粒径等によって適宜調整できるが、例えば、1~20分が好ましく挙げられる。
上記手順により、サンプル液B2中に含まれる磁性体粉のうち、磁石により引き寄せられやすい磁性体粉(例えばより粒径の大きな磁性体粉)が容器B2の底面に付着し、磁石により引き寄せられにくい磁性体粉(例えばより粒径の小さい磁性体粉)はサンプル液B2に含まれたままとなる。
【0049】
次に、容器B2に収容されたサンプル液B2を排出して、別の容器B2に別のサンプル液B2として収容する。
サンプル液B2を排出する方法は、特に制限されないが、スポイト等の吸引器で容器B2からサンプル液B2を排出する方法が好ましい。サンプル液B2を容器B2から排出する際には、容器B2の外側底面と対面する位置に磁石を配置した状態(例えば図2に示す状態)のまま実施する。
排出したサンプル液B2は、サンプル液B2を排出した容器B2とは別の容器B2に収容する。上記別の容器B2は、上述した容器B2と同様の容器を用いることができる。
【0050】
[工程S7]
工程S7では、サンプル液B2を排出した後の容器B2の残留物である磁性体粉を分析する。
分析の方法は、上記工程S5の方法と同様であるため、説明を省略する。また、分析を実施する前に、上記工程S5と同様に、乾燥を実施してもよい。
【0051】
上述したように、容器B2の底面に付着した磁性体粉は、磁石により引き寄せられやすい磁性体粉(例えばより粒径の大きな磁性体粉)である。したがって、上記工程S5よりも比較的粒径の小さな磁性体粉が観察される。具体的には、容器B2の底面に付着した磁性体粉は、1~20μm程度である場合が多い。
観察される磁性体粉の分類は、上述した通りである。
【0052】
また、上記工程S6および工程S7は、繰り返し実施してもよい。繰り返し実施することにより、より粒径の小さな磁性体粉を捕捉して観察を行うことができるため、分析精度がより向上し得る。
繰り返し実施するとは、上記工程S6を行って得られる別の容器B2に収容された別のサンプル液B2を用いて、上記工程S6および工程S7を実施することを表す。すなわち、別の容器B2に収容された別のサンプル液B2に関して上記工程S6および工程S7を実施する場合、別の容器B2の底面に付着した磁性体粉を観察し、さらに別の容器B2に収容されたさらに別のサンプル液B2が得られる。
上記工程S6および工程S7を繰り返し実施する際、繰り返し数は特に制限されないが、1回以上が好ましく、2回以上がより好ましく、3回以上がさらに好ましい。なお、繰り返し数とは、工程S6および工程S7をそれぞれ1回実施した後に行う回数を意味し、繰り返し数が1回の場合、工程S5における観察も含めて3回観察を実施する。
繰り返し数の上限は特に制限されないが、通常、5回以下である。
【0053】
なお、上記工程S6および工程S7を繰り返し実施する際、工程S6において実施する静置は、上記別のサンプル液B2に含まれる磁性体粉に応じて静置する時間は適宜調整でき、繰り返し数が増加するにつれて静置の時間を長くすることが好ましい。
【0054】
[解析および機器診断方法]
上記工程S5および工程S7において、磁性体粉の分析(観察)を行うが、磁性体粉の観察によって得られる分析結果に基づいて、さらに解析を行ってもよい。解析を行うと、潤滑剤が使用されている摺動部の摩耗状態を推測でき、機械の保全管理および修理計画に役立てることができ、安定的な設備の操業が可能となる。
特に、本発明においては、比較的粒径の大きな磁性体粉と、比較的粒径の小さな磁性体粉とに分けて分析が実施できるため、粒子の形状および色等の情報が得られやすく、潤滑剤が使用されている摺動部の摩耗状態を推測しやすい。
【0055】
解析の方法は特に制限されないが、例えば、工程S5および工程S7で実施した各分析において観察された磁性体粉の形状、粒径、および、表面状態によって磁性体粉を分類する方法が挙げられる。さらに、観察された磁性体粉中において、分類された磁性体粉の含有量をそれぞれ分析することが好ましい。分類の方法については、工程S5において説明した通りである。
また、各分析において観察された粒子およびその量を表にまとめてもよい。表にまとめると、異なる粒径帯における粒子の形状等が判明するため、摩耗状態の把握が行いやすい。表は、例えば後段の実施例で示す表が挙げられるが、本発明は、後段の表の態様に制限されない。
以下、例えば、工程S5での観察を行い、工程S7での観察を合計4回行った場合の例について説明する。以下、工程S5の観察結果をO1、繰り返し実施した工程S7での観察結果を、観察順にO2、O3、O4およびO5とする。
【0056】
上述したように、O1、O2、O3、O4およびO5の順に、より磁石に引き寄せられやすい磁性体粉が観察される。具体的には、O1では10μm以上の磁性体粉が主に観察され、O2およびO3では1~10μm程度の磁性体粉が主で、10μm以上の磁性体粉も観察され、O4では0.5~1μm程度の磁性体粉、鉄酸化物、および、非鉄金属摩耗粉粒子等が主に観察され、O5では0.5μm未満の磁性体粉および非金属粒子が主に観察される場合が多い。
上記各観察結果において、各粒径および各種類の粒子が検出されやすいため、上述した分類の粒子の有無および量によって、摺動部の摩耗状態を推測できる。
例えば、O1で多くの粒子がみられる場合、摺動部に用いられている部材に損耗が生じ、部材の交換時期が近づいてきていることを示唆する。また、O1で見られる粒子は、比較的サイズが大きいため、その表面状態および色を観察することにより、負荷が大きすぎること、および、焼き付きが発生していること等を判定できる。
また、O2~O5では、上記の種類の粒子が検出されやすいため、それぞれの観察によって検出された粒子の種類および量から、摺動部の摩耗状態を推測できる。また、潤滑剤の劣化状態も推測できる。
それぞれの粒子が観察された場合の推測される摺動部のコンディションについては、上記工程S5で説明した通りである。
【0057】
上記観察結果から、摺動部の摩耗状態を推測するための表を作成してもよい。例えば、観察される粒子の種類およびその量を記載し、その結果から推測される摺動部の摩耗状態を記載した表を作成してもよい。
上記表は、例えば後段の実施例で示す表が挙げられるが、本発明は、後段の表の態様に制限されない。
【0058】
上記の分析(解析)を行うことにより得られる結果に基づいて、適宜、診断基準を参照して、機器において潤滑剤が使用される部分の摩耗状態の診断を行うことができる。診断の具体例は、下記[実施例]を参照されたい。
診断基準は、診断を行うよりも前に、あらかじめ作成する。例えば、上記の分析(解析)を実施して、磁性体粉の種類およびその量を把握し、実際に潤滑剤が使用される部分の摩耗状態を確認することを繰り返すことにより、作成できる。診断基準の具体例としては、下記[実施例]に記載する表1および表2などが挙げられる。
【0059】
通常、フェログラフィー法による摺動部の摩耗状態を推測するには、相当量の知識および経験が必要とされてきた。一方、本発明の分析方法および上記解析によれば、磁性体粒子の粒径毎に観察が行われ、かつ、その観察が容易で詳細に実施できるため、その技術を早期に取得でき、専門知識を有さない人でも、摺動部の摩耗状態を推測することが可能となり、機器の診断を適切に実施できる。
摺動部の摩耗状態の把握は、設備部品の適切なメンテナンス、および、設備部品の適切な交換に資する。
【実施例0060】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、および、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更できる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきではない。
【0061】
<分析手順>
まず、サンプル液Aを収容するための容器Aとして樹脂製の試験管(内径11mm、外径12.5mm、長さ100mm)を準備した。また、サンプル液B1を収容するための容器B1、および、サンプル液B2を収容するための容器B2として市販の紙コップ(容積180mL)を準備した。
【0062】
次に、分析用の潤滑グリスを装置から採取してスパチュラで上記試験管に入れ、さらに第1溶媒として市販の浸透探傷用脱脂洗浄液(ヘプタン)を5mL入れ、撹拌棒でよく撹拌した。上記撹拌は、潤滑グリスの塊が視認できなくなるまで行った。
上記試験管を、図1に示す構成の容器ホルダーに装入し、試験管の側面と対面する位置に磁石を配置した。この状態で、撹拌棒でさらに撹拌を行った。
撹拌後、試験管を容器ホルダーに装入したまま、試験管を傾けて容器B2(紙コップ)に内容物(サンプル液B2)を収容した。
磁石としては、厚さ5mm、内径15mm、外径30mmの円環形状のネオジム磁石を用いた。
なお、上記分析用の潤滑グリスは、転がり軸受のベアリングの潤滑グリスから採取した。
【0063】
内容物を出した試験管を上記容器ホルダーから取り出し、上記浸透探傷用脱脂洗浄液(第2溶媒)を5mL入れ、撹拌棒で内容物を撹拌した。試験管の内容物(サンプル液B1)は、試験管を傾けて容器B1(紙コップ)に収容した。
次に、容器B1を図3に示す容器台の上に設置し、容器B1の底面と対面する位置に磁石を配置した。この状態で、容器B1の内容物を室温で乾燥し、容器B1の底面に付着した磁性体粉を、後段に示す方法で観察した。なお、観察の際は、紙コップの底面のみを切り取って観察物1を得て、観察に供した。
磁石としては、厚さ2mm、縦10mm、横20mmのものを2枚用い、磁石の10mmの辺が接するように配置した状態で、磁石の両面に鋼板を配置して板状磁性体とした。鋼板は、厚さ0.5mm、縦10mm、横40mmのものを用いた。
【0064】
次に、サンプル液B2が収容された容器B2を、上記容器台の上に設置した。この状態で、スポイトを用いてサンプル液B2を吸引および排出を行い、サンプル液B2を撹拌した。
上記撹拌を行った後、1分間静置し、静置した後、スポイトで容器B2に収容されたサンプル液B2を排出して、別の容器B2(以下、「容器B3」ともいう。)に別のサンプル液B2(以下、「サンプル液B3」ともいう。)として収容した。
容器B2は、上記容器台の上に設置したまま、容器B2の内容物を室温で乾燥し、容器B2の底面に付着した磁性体粉を、後段に示す方法で観察した。なお、観察の際は、紙コップの底面のみを切り取って観察物2を得て、観察に供した。
【0065】
容器B3および容器B3に収容されたサンプル液B3に対して、上記容器B2および上記容器B2に収容されたサンプル液B2と同様にして、上記工程S6および工程S7を実施した。ただし、撹拌を行った後の静置時間は、2分間とした。また、容器B3とは別の容器は、容器B4とし、容器B4に収容されたサンプル液は、サンプル液B4とした。
なお、容器B3の底面に付着した磁性体粉は、後段に示す方法で観察し、観察の際は、紙コップの底面のみを切り取って観察物3を得て、観察に供した。
【0066】
さらに、上記工程で得られた容器B4および容器B4に収容されたサンプル液B4に対して、上記と同様にして、上記工程S6および工程S7を実施した。ただし、撹拌を行った後の静置時間は、2分間とした。また、容器B4とは別の容器は、容器B5とし、容器B5に収容されたサンプル液は、サンプル液B5とした。
なお、容器B4の底面に付着した磁性体粉は、後段に示す方法で観察し、観察の際は、紙コップの底面のみを切り取って観察物4を得て、観察に供した。
加えて、上記工程で得られた容器B5および容器B5に収容されたサンプル液B5に対して、上記と同様にして、上記工程S6および工程S7を実施した。ただし、撹拌を行った後の静置時間は、4分間とした。また、容器B5から排出したサンプル液B5は、廃棄した。
なお、容器B5の底面に付着した磁性体粉は、後段に示す方法で観察し、観察の際は、紙コップの底面のみを切り取って観察物5を得て、観察に供した。
【0067】
<分析結果および解析>
上述した方法で得た観察物1~5について、光学顕微鏡で観察を実施した。
光学顕微鏡としては、デジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、VHX-7000(レンズ:VHX-E500))を用い、観察倍率は300倍および1500倍とした。
観察時には、視野の上下方向が、上記板状磁性体の長手方向と直交する方向となるようにして、上記観察物1~5をデジタルマイクロスコープにセットした。
【0068】
観察結果について、下記の表にまとめた。
なお、下記表において、「疲労剥離摩耗粉」、「シビア剥離摩耗粉」、および、「マイルド摩耗粉」の表記は、上述した粒子の分類に従い、「疲労剥離摩耗粉」は、多数の上記疲労剥離摩耗粒子からなる粉を指し、「シビア剥離摩耗粉」は、多数の上記シビア剥離摩耗粒子からなる粉を指す。「腐食錆摩耗粉」は、上記酸化鉄に分類され、上記の腐食酸化物由来の酸化鉄に対応する。また、「銅合金摩耗粉」は、上記非鉄金属摩耗粒子の一種である。「油劣化物」は、上記非金属粒子の一種である。
下記表において、観察結果の欄における各記号は、次の意味を表し、上から順に、観察された磁性体粉の数多いことを表す。
・「●」:主として観察された。
・「○」:多く観察された。
・「□」:やや多く観察された。
・「◇」:量が少ないが観察された。
・「△」:量が非常に少ないが観察された。
・「-」:観察されなかった。
【0069】
【表1】
【0070】
上記観察結果から、転がり軸受のベアリングの摩耗状態を推測する表を作成した。その表を下記に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
表1および表2に示す結果から、転がり軸受のベアリングの摩耗状態、すなわち、機器診断結果としては、寿命末期の状態であると推測(診断)された。
また、上記結果から、以下の経過を辿って上記ベアリングの摩耗状態となったと推測される。
まず、ベアリングを長期間使用している最中において、ベアリング内に水分が混入してベアリングの外輪受圧面の潤滑性が低下し、水分の影響で微粒摩耗粉粒子(集塊体)を排出しながら著しい摩耗が進行したと考えられる。さらに、過度な摩耗で軌道面の凹凸が不均一化し、内部に微細クラックを発生して、ピーリング、および、ブレーキング(シビア剥離摩耗粒子の発生)に及んだと推測される。加えて、転動体の不転によって滑りながら転動体が公転し、ブレーキング面の滑り摩耗に及んだと考えられる。また、保持器の摩耗(銅合金摩耗粉の発生)は、受圧面の外輪部が著しく摩耗し、転動体に圧力がかかったためと考えられる。
【0073】
上記実施例では、軸受けベアリングの潤滑グリスについて、本発明の方法で磁性体粉の分析を行い、軸受けベアリングの摩耗状態について推測したが、上述した他の摺動部についても、同様にして磁性体粉の分析、および、摺動部の摩耗状態の解析を実施できる。
【符号の説明】
【0074】
20 容器ホルダー
22,44 永久磁石(磁石)
24 スペーサー
26 筐体
30 樹脂製試験管(容器A)
32 サンプル液(サンプル液A)
40 容器台
42 板状磁性体(磁石)
46 鋼板
50 紙コップ(容器B1)
52 サンプル液(サンプル液B1)
図1
図2
図3