(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180125
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】根固め部の水和熱制御方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/54 20060101AFI20241219BHJP
E02D 5/48 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
E02D5/54
E02D5/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099589
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(71)【出願人】
【識別番号】000176512
【氏名又は名称】三谷セキサン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷川 友浩
(72)【発明者】
【氏名】田屋 裕司
(72)【発明者】
【氏名】山中 龍
(72)【発明者】
【氏名】中村 嘉志
(72)【発明者】
【氏名】河合 栄作
(72)【発明者】
【氏名】横山 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 貴史
(72)【発明者】
【氏名】今井 明士
【テーマコード(参考)】
2D041
【Fターム(参考)】
2D041AA03
2D041BA13
2D041FA02
(57)【要約】
【課題】低発熱のセメントを用いずに、根固め部におけるセメントの最高温度を低減する方法を提供する。
【解決手段】根固め部の水和熱制御方法は、既製杭10の根固め部(根固め球根32)に注入するセメントミルクに添加剤を添加して、根固め部の中心部分と外周部分とのセメントの水和熱の発生に時間差を生じさせる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既製杭の根固め部に注入するセメントミルクに添加剤を添加して、前記根固め部の中心部分と外周部分とのセメントの水和熱の発生に時間差を生じさせる、根固め部の水和熱制御方法。
【請求項2】
前記外周部分における前記水和熱の発生が、前記中心部分における前記水和熱の発生より遅くなるように、前記添加剤として遅延剤を添加する、請求項1に記載の根固め部の水和熱制御方法。
【請求項3】
前記根固め部を削孔する掘削ロッドの先端から、前記根固め部へ前記遅延剤を含んだセメントミルクを注入する工程と、
前記掘削ロッドの先端を縮径させて、前記中心部分に前記遅延剤を含まないセメントミルクを注入する工程と、
を備えた請求項2に記載の根固め部の水和熱制御方法。
【請求項4】
前記中心部分における前記水和熱の発生が、前記外周部分における前記水和熱の発生より速くなるように、前記添加剤として硬化促進剤を添加する、請求項1に記載の根固め部の水和熱制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、根固め部の水和熱制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、根固め部の品質を高めるために、根固め部内に低熱セメントを使用したセメントミルクを充填し、根固め部の発熱を抑えて固化させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のように、低熱セメントを使用することで、体積が大きい根固め部におけるセメントの発熱を抑え、低熱セメントを使用しない場合と比較して最高温度を低減することができる。しかしながら、地域によっては低発熱セメントの調達が困難な場合もある。そのような場合においても、根固め部におけるセメントの最高温度を低減する方法が、従来求められている。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮し、低熱セメントなどの低発熱のセメントを用いずに、根固め部におけるセメントの最高温度を低減する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の根固め部の水和熱制御方法は、既製杭の根固め部に注入するセメントミルクに添加剤を添加して、前記根固め部の中心部分と外周部分とのセメントの水和熱の発生に時間差を生じさせる。
【0007】
請求項1の根固め部の水和熱制御方法では、添加剤によって、根固め部の中心部分と外周部分のセメントの水和熱の発生に時間差を生じさせる。このため、例えば根固め部の中心部分が温度上昇したあとに、外周部分が温度上昇する。または、根固め部の外周部分が温度上昇したあとに、中心部分が温度上昇する。
【0008】
これにより、根固め部の中心部分が温度上昇した際に、温度上昇している外周部分の熱が伝搬して中心部分に同時に作用することを抑制できる。このため、中心部分の温度上昇による熱と外周部分からの伝搬による熱とが同時に作用する場合と比較して、中心部分の最高温度が低減される。このように、本態様では、低発熱のセメントを用いずに、根固め部におけるセメントの最高温度を低減することができる。
【0009】
また、中心部分の最高温度が低減されることにより、根固め部の中心部分と外周部分の温度差が小さくなる。これにより、温度に基づく膨張率の違いに起因するひび割れの発生が抑制される。
【0010】
請求項2の根固め部の水和熱制御方法は、請求項1に記載の根固め部の水和熱制御方法において、前記外周部分における前記水和熱の発生が、前記中心部分における前記水和熱の発生より遅くなるように、前記添加剤として遅延剤を添加する。
【0011】
根固め部の中心部分には、根固め部の外周部分の熱も伝搬するため、熱が籠りやすい。一方、根固め部の外周部分にも根固め部の中心部分の熱が作用するが、地盤へ熱が逃げるので、熱が籠りにくい。このため、外周部分と比較して、中心部分のほうが最高温度は高くなり易い。
【0012】
そこで、請求項2の根固め部の水和熱制御方法では、外周部分における水和熱の発生が、中心部分における前記水和熱の発生より遅い。
【0013】
これにより、中心部分では、中心部分の水和熱の発生による温度上昇と、外周部分における水和熱の伝搬による温度上昇とが、時間差で生じる。このため、熱が籠りやすい中心部分の最高温度を低減し易い。
【0014】
一方、仮に、中心部分における水和熱の発生を、外周部分における前記水和熱の発生より遅くした場合、外周部分で発生した水和熱が伝搬して中心部に到達するタイミングで、中心部で水和熱が発生する場合もある。このような場合は、熱が相互に作用して、中心部の最高温度を低減することは難しい。
【0015】
請求項3の根固め部の水和熱制御方法は、請求項2に記載の根固め部の水和熱制御方法において、前記根固め部を削孔する掘削ロッドの先端から、前記根固め部へ前記遅延剤を含んだセメントミルクを注入する工程と、前記掘削ロッドの先端を縮径させて、前記中心部分に前記遅延剤を含まないセメントミルクを注入する工程と、を備える。
【0016】
請求項3の根固め部の水和熱制御方法では、根固め部に遅延剤を含んだセメントミルクを注入したあと、縮径させたオーガの先端から、遅延剤を含まないセメントミルクを注入する。このように、拡縮径可能な掘削ロッドを用いて、セメントミルクを容易に打ち分けられる。
【0017】
請求項4の根固め部の水和熱制御方法は、請求項1に記載の根固め部の水和熱制御方法において、前記中心部分における前記水和熱の発生が、前記外周部分における前記水和熱の発生より速くなるように、前記添加剤として硬化促進剤を添加する。
【0018】
請求項4の根固め部の水和熱制御方法では、請求項2の根固め部の水和熱制御方法と異なる添加剤を用いて同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、低発熱のセメントを用いずに、根固め部におけるセメントの最高温度を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】(A)は本発明の根固め部の水和熱制御方法が適用される既製杭を埋設する杭孔を形成している状態を示す立断面図であり、(B)は杭孔から掘削ロッドを引き上げている状態を示す立断面図であり、(C)は杭孔へ根固め液及び杭周固定液としてのセメントミルクを注入及び攪拌した状態を示す立断面図であり、(D)は杭孔へ既製杭を挿入した状態を示す立断面図である。
【
図2】遅延剤によるセメントの水和熱発生遅延効果を示すグラフである。
【
図3】本発明の根固め部の水和熱制御方法によってセメントの最高温度を低減する効果を示すグラフである。
【
図4】(A)は本発明の根固め部の水和熱制御方法において、杭孔へ遅延剤を添加したセメントミルクを注入した状態を示す立断面図であり、(B)は杭孔へ遅延剤を添加していないセメントミルクを注入している状態を示す立断面図であり、(C)は杭孔へ既製杭を挿入した状態を示す立断面図である。
【
図5】(A)は本発明の根固め部の水和熱制御方法において、杭孔へ遅延剤を添加したセメントミルクを注入した状態を示す立断面図であり、(B)は杭孔へ既製杭を挿入した状態を示す立断面図であり、(C)は既製杭の内部へ遅延剤を添加していないセメントミルクを注入している状態を示す立断面図であり、(D)は既製杭を既定の高さまで引き上げた状態を示す立断面図である。
【
図6】(A)は本発明の根固め部の水和熱制御方法において、杭孔へ遅延剤を添加したセメントミルクを注入した状態を示す立断面図であり、(B)は杭孔へ袋体を取付けた既製杭を挿入した状態を示す立断面図であり、(C)は袋体へ遅延剤を添加していないセメントミルクを注入した状態を示す立断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態に係る根固め部の水和熱制御方法について、図面を参照しながら説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。但し、明細書中に特段の断りが無い限り、各構成要素は一つに限定されず、複数存在してもよい。
【0022】
また、各図面において重複する構成及び符号については、説明を省略する場合がある。なお、本開示は以下の実施形態に限定されるものではなく、本開示の目的の範囲内において構成を省略する、異なる構成と入れ替える、一実施形態及び各種の変形例を組み合わせて用いる等、適宜変更を加えて実施することができる。
【0023】
<既製杭の施工方法>
本発明の実施形態に係る根固め部の水和熱制御方法の説明に先立ち、既製杭の施工方法の概略について説明する。
【0024】
図1(A)~(D)には、既製杭10を埋込み工法で地盤Gへ埋設する方法の一例が示されている。
図1(D)に示す既製杭10は、コンクリート杭または鋼管杭であり、工場などにおいて製造された後、施工現場へ搬入される。
【0025】
既製杭10を地盤Gへ埋設するためには、まず、
図1(A)に示すように、掘削ロッド20を用いて掘削液を注入しながら地盤Gを掘削し、杭孔30を形成する。本実施形態においては、既製杭10を先端支持杭とするために、杭孔30の先端を支持層GAに到達させる場合について説明する。
【0026】
このとき、杭孔30の先端には、杭孔30の直径が拡径された部分である根固め球根32を形成することが好適である。根固め球根32を形成する場合、掘削ロッド20における掘削ヘッドを、
図1(A)に示すように、拡径できる構造とする。そして当該掘削ヘッドを所定の深度にて拡径することで、根固め球根32が形成される。
【0027】
なお、本発明においては根固め球根32を必ずしも形成する必要はない。根固め球根32を形成するか否かに関わらず、杭孔30の先端部分の掘削に際しては、掘削ロッド20から杭孔30の先端(底)へ、セメントミルクを注入する。このセメントミルクを攪拌することで、セメントミルクを地盤G中の土と混合させ、根固め部を形成する根固め液であるソイルセメント12を構築する。
【0028】
セメントミルクは、杭孔30の先端を掘削しながら注入してもよいし、杭孔30の先端掘削後、掘削ロッド20を引き上げながら注入してもよい。詳しくは後述するが、本発明は、根固め部のソイルセメント12を形成するためのセメントミルクの注入方法に関する。
【0029】
次に
図1(B)、(C)に示すように、掘削ロッド20を引き抜きながら、ソイルセメント12の上方にセメントミルクを注入及び攪拌する。これにより杭周固定液としてのソイルセメント14を形成する。ソイルセメント14は、ソイルセメント12と比較して、単位体積当たりのセメント量が少ない貧調合のセメントミルクを用いて形成してもよい。
【0030】
次に
図1(D)に示すように、杭孔30へ既製杭10を挿入する。このとき、既製杭10の先端を、杭孔30の先端の根固め球根32へ陥入する。これにより、既製杭10が地盤Gへ埋設される。なお、各図に示される杭孔30の孔径と既製杭10の杭径との比率は模式的なものである。実際には、一例として、杭孔30の孔径は既製杭10の杭径より概ね30mm程度大きいものとすることができる。
【0031】
<根固め部の水和熱制御方法>
本発明の実施形態に係る根固め部の水和熱制御方法では、既製杭10の根固め部(本実施形態では根固め球根32)に注入するセメントミルクに添加剤を添加する。これにより、根固め球根32の中心部分と外周部分とのセメントの水和熱の発生に時間差を生じさせる。
【0032】
この方法では、一例として、根固め球根32の外周部分における水和熱の発生が、中心部分における前記水和熱の発生より遅くなるように、添加剤として遅延剤を添加する。
【0033】
図2には、セメント温度の経時変化が示されている。このうち、曲線K1は、遅延剤を添加していないセメントの温度変化を示し、曲線K2は、遅延剤を添加したセメントの温度変化を示す。
【0034】
この図に示すように、セメントに添加剤を添加すると、水和熱の発生を遅らせることができる。なお、遅延剤の添加量によって、水和熱の発生を遅らせる時間を調整することもできる。
【0035】
根固め球根32の外周部分における水和熱の発生を中心部分より遅らせると、根固め球根32の中心部分では、
図3の曲線L2にも示すように、以下のように温度が変化する。
【0036】
1.根固め球根32の中心部分で発生した水和熱によって温度上昇(温度T1)
2.根固め球根32の中心部分の水和熱の発生量が減って温度低下(温度T2)
3.根固め球根32の外周部分で発生した水和熱が伝搬して温度上昇(温度T3)
【0037】
このように、根固め球根32の外周部分における水和熱の発生を中心部分より遅らせると、根固め球根32の中心部分における水和熱の発生量が減って温度低下してから、当該中心部分に、外周部分で発生した水和熱が伝搬する。これにより、水和熱のピーク値が高くなることを抑制できる。
【0038】
これに対して、根固め球根32の外周部分における水和熱の発生を中心部分より遅らせない場合(比較例)、根固め球根32の中心部分では、
図3の曲線L1にも示すように、以下のように温度が変化する。
【0039】
1.根固め球根32の中心部分で発生した水和熱によって温度上昇(温度T4)
2.根固め球根32の外周部分で発生した水和熱が伝搬して温度上昇(温度T5)
【0040】
このように、比較例では、根固め球根32の中心部分における水和熱の発生量が減って温度低下する時間を待たずに、当該中心部分に、外周部分で発生した水和熱が伝搬する。このため、本発明の実施例と比較して、水和熱のピーク値が大きくなる(T5>T1またはT3)
【0041】
(遅延剤の添加方法)
根固め球根32の外周部分における水和熱の発生が中心部分における前記水和熱の発生より遅くなるように遅延剤を添加する方法としては、次の方法が挙げられる。本発明においてはこれらの方法のどれを採用してもよいが、以下の説明においては、外周部分のみ遅延剤を添加する方法について説明する。
【0042】
・外周部分のみ遅延剤を添加する方法
・外周部分の遅延剤添加量を、中心部分の遅延剤添加量より多くする方法
・外周部分と中心部分とで異なる種類の遅延剤を添加する方法
【0043】
根固め球根32の外周部分のみ遅延剤を添加する方法としては、例えば以下の各方法が挙げられる。なお、「外周部分のみ遅延剤を添加する」とは、外周部分のみに遅延剤が添加されることを目標として施工することである。本発明においては、セメントミルクの攪拌状態や流れに応じて、外周部分以外に遅延剤が添加されたセメントミルクが配置されてもよい。
【0044】
(方法1)
根固め球根32の外周部分のみ遅延剤を添加する方法の一例では、まず、
図4(A)に示すように、掘削ロッド20の先端から、根固め球根32へ、遅延剤を含んだセメントミルク12Aを注入する。
【0045】
そして、
図4(B)に示すように、掘削ロッド20の先端を縮径させて、根固め球根32の中心部分へ、遅延剤を含まないセメントミルク12Bを注入する。この際、掘削ロッド20の先端を杭底から引き上げながら、または上下に反復移動させながら、セメントミルク12Bを注入する。これにより、根固め球根32には、外周部分のみ遅延剤が添加されたソイルセメントが形成される。
【0046】
その後、
図4(C)に示すように、既製杭10を杭孔30へ挿入し、既製杭10の先端を、根固め球根32へ陥入させる。このように、方法1では、拡縮径可能な掘削ロッド20を用いて、セメントミルクを打ち分けられる。
【0047】
(方法2)
根固め球根32の外周部分のみ遅延剤を添加する方法の別の一例では、まず、
図5(A)に示すように、方法1と同様に、掘削ロッド20の先端から、根固め球根32へ、遅延剤を含んだセメントミルク12Aを注入する。
【0048】
そして、
図5(B)に示すように、既製杭10を杭孔30へ挿入し、既製杭10の先端を、根固め球根32の底部まで陥入させる。
【0049】
次に、
図5(C)に示すように、既製杭10の内部へ、遅延剤を含まないセメントミルク12Bを注入する。この際、注入管40等を用いて、セメントミルク12Bを既製杭10内へ高圧噴射して、既製杭10内のセメントミルク12Aをセメントミルク12Bで置換する。
【0050】
その後、
図5(D)に示すように、既製杭10の先端を規定の深度まで上昇させる。これに伴って、既製杭10の先端からセメントミルク12Bが根固め球根32へ流れ出す。これにより、根固め球根32には、外周部分のみ遅延剤が添加されたソイルセメントが形成される。
【0051】
なお、セメントミルク12Bを根固め球根32の上下方向に亘って拡散させるために、既製杭10の先端を規定の深度より高い位置まで引き上げて、既定の深度まで下げる工程を、1回以上実施してもよい。なお、方法2で用いる既製杭10は開端杭とする。
【0052】
(方法3)
根固め球根32の外周部分のみ遅延剤を添加する方法のさらに別の一例では、まず、
図6(A)に示すように、方法1及び2と同様に、掘削ロッド20の先端から、根固め球根32へ、遅延剤を含んだセメントミルク12Aを注入する。
【0053】
そして、
図6(B)に示すように、既製杭50を杭孔30へ挿入し、既製杭50の先端を、根固め球根32における規定の深度まで陥入させる。既製杭50の先端かつ外側には、袋体52を取付けておく。
【0054】
袋体52には図示しない管体が連結されており、当該管体を介して、
図6(C)に示すように、袋体52の内部へセメントミルク12Bを注入する。これにより、根固め球根32には、外周部分のみ遅延剤が添加されたソイルセメントが形成される。
【0055】
<作用及び効果>
本発明の実施形態に係る根固め部の水和熱制御方法では、添加剤によって、根固め球根32の中心部分と外周部分のセメントの水和熱の発生に時間差を生じさせる。このため、例えば根固め球根32の中心部分が温度上昇したあとに、外周部分が温度上昇する。
【0056】
これにより、根固め球根32の中心部分が温度上昇した際に、温度上昇している外周部分の熱が伝搬して中心部分に同時に作用することを抑制できる。例えば
図3に示した比較例に係る曲線L1のような温度変化を抑制できる。このため、曲線L2における温度T1、T3に示すように、比較例における温度T1と比較して、中心部分の最高温度が低減される。このように、本態様では、低発熱のセメント(低熱セメントや中庸熱セメントなど普通セメントより発熱量が低いもの)を用いずに、根固め部におけるセメントの最高温度を低減することができる。
【0057】
また、中心部分の最高温度が低減されることにより、根固め球根32の中心部分と外周部分の温度差が小さくなる。これにより、温度に基づく膨張率の違いに起因するひび割れの発生が抑制される。
【0058】
また、根固め球根32の中心部分には、根固め球根32の外周部分の熱も伝搬するため、熱が籠りやすい。一方、根固め球根32の外周部分にも根固め球根32の中心部分の熱が作用するが、地盤Gへ熱が逃げるので、熱が籠りにくい。このため、外周部分と比較して、中心部分のほうが最高温度は高くなり易い。
【0059】
そこで、本発明の実施形態に係る根固め部の水和熱制御方法では、外周部分における水和熱の発生を、中心部分における前記水和熱の発生より遅くしている。
【0060】
これにより、中心部分では、中心部分の水和熱の発生による温度上昇(温度T1)と、外周部分における水和熱の伝搬による温度上昇(温度T3)とが、時間差で生じる。このため、熱が籠りやすい中心部分の最高温度を低減し易い。
【0061】
<その他の実施形態>
上記実施形態においては、根固め球根32の外周部分における水和熱の発生を、中心部分より遅らせるために「遅延剤」を用いたが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば遅延剤に代えてまたは加えて「硬化促進剤」を用いてもよい。
【0062】
この場合、根固め球根32の中心部分に、硬化促進剤を添加したセメントミルクを用いればよい。この際、根固め球根32の外周部分に遅延剤を用いてもよい。このように硬化促進剤を用いる態様によっても、根固め球根32におけるセメントの最高温度を低減する効果を得ることができる。
【0063】
また、上記実施形態においては、根固め球根32の外周部分における水和熱の発生を、中心部分より遅らせているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば、根固め球根32の中心部分における水和熱の発生を、外周部分より遅らせてもよい。
【0064】
但し、この場合、外周部分で発生した水和熱が伝搬して中心部に到達するタイミングで、中心部で水和熱が発生することが無いようにすることが好ましい。すなわち、外周部分における水和熱の伝搬による温度変化の影響が十分に納まった段階で、中心部分を温度上昇させる。このため、根固め球根32の中心部分には、十分な量の遅延剤を添加することが好ましい。
【符号の説明】
【0065】
12A セメントミルク
12B セメントミルク
20 掘削ロッド
32 根固め球根(根固め部)