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特開2024-18013繊維複合材及びその製造方法と、飛行体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018013
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】繊維複合材及びその製造方法と、飛行体
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/28 20060101AFI20240201BHJP
   B32B 27/04 20060101ALI20240201BHJP
   D06M 11/83 20060101ALI20240201BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20240201BHJP
【FI】
B32B5/28
B32B27/04
D06M11/83
D06M101:40
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121043
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】岩楯 仁志
【テーマコード(参考)】
4F100
4L031
【Fターム(参考)】
4F100AA37
4F100AA37A
4F100AB01
4F100AB01C
4F100AB10
4F100AB10C
4F100AB17
4F100AB17C
4F100AK01
4F100AK01B
4F100AK01C
4F100AR00B
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA07
4F100DC15
4F100DC15C
4F100DG01A
4F100DG01B
4F100DH01
4F100DH01A
4F100DH02
4F100DH02A
4F100GB31
4F100JG01
4F100JG01C
4L031AA27
4L031AB34
4L031BA04
4L031DA15
(57)【要約】
【解決手段】繊維複合材(30)は、基材(36)と複合層(54)とを備える。複合層は、炭素繊維からなる繊維層(56)と、導電体からなる導電層(60)と、繊維層及び導電層に含浸したマトリックス樹脂(58)とを有する。マトリックス樹脂の第1樹脂部分(61a)は繊維層に含浸し、マトリックス樹脂の第2樹脂部分(61b)は導電層に含浸している。マトリックス樹脂は、第1樹脂部分と第2樹脂部分との間に界面が存在しない単一の樹脂層である。複合層は、マトリックス樹脂を介して基材に結着されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維強化樹脂からなる基材を備える繊維複合材であって、
前記基材に積層された複合層を備え、
前記複合層は、炭素繊維からなる繊維層と、導電体からなり前記繊維層に重ねられた導電層と、前記繊維層及び前記導電層に含浸したマトリックス樹脂とを有し、
前記マトリックス樹脂は、前記繊維層に含浸した第1樹脂部分と、前記導電層に含浸した第2樹脂部分とを有し、前記第1樹脂部分と前記第2樹脂部分との間に界面が存在しない単一の樹脂層であり、
前記繊維層が前記導電層と前記基材との間に位置し、
前記複合層が、前記マトリックス樹脂を介して前記基材に結着された繊維複合材。
【請求項2】
請求項1記載の繊維複合材において、前記基材は、炭素繊維クロスを含むクロス層と、炭素繊維が一方向に揃って配列した第1UD層と、炭素繊維が前記第1UD層における炭素繊維と異なる一方向に配列した第2UD層とを有する繊維複合材。
【請求項3】
請求項1又は2記載の繊維複合材において、前記マトリックス樹脂の量が、1m2当たりの前記複合層において275g以下である繊維複合材。
【請求項4】
請求項1又は2記載の繊維複合材において、前記導電体は金属メッシュであり、当該繊維複合材の厚みをT1、前記導電層の厚みをT2とするとき、T1:T2=10:1~80:1の範囲内である繊維複合材。
【請求項5】
請求項1又は2記載の繊維複合材において、前記導電体は表面に金属がコーティングされた不織布であり、当該繊維複合材の厚みをT1、前記導電層の厚みをT3とするとき、T1:T3=4.5:1~25:1の範囲内である繊維複合材。
【請求項6】
炭素繊維強化樹脂からなる基材を備える繊維複合材の製造方法であって、
炭素繊維からなる繊維層と、導電体からなり前記繊維層に重ねられた導電層と、前記繊維層及び前記導電層に含浸した単一の樹脂層からなるマトリックス樹脂とを有する複合層を得る工程と、
前記繊維層が前記導電層と前記基材との間に位置するように、前記基材に前記複合層を積層する工程と、
前記基材と前記複合層とを、前記マトリックス樹脂を介して結着する工程と、
を有する繊維複合材の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の製造方法において、前記複合層を得る工程は、
前記繊維層と前記導電層とを重ねて、層状の予備積層体を得る工程と、
前記予備積層体の両端面に結着用樹脂を重ねる工程と、
前記結着用樹脂を前記繊維層及び前記導電層に含浸する工程と、
を有する繊維複合材の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7記載の製造方法において、前記マトリックス樹脂を、1m2当たりの前記複合層において275g以下となるように形成する繊維複合材の製造方法。
【請求項9】
請求項6又は7記載の製造方法において、前記基材を、炭素繊維クロスを含む第1のプリプレグと、炭素繊維が一方向に揃って配列した第2のプリプレグと、炭素繊維が前記第2のプリプレグにおける炭素繊維と異なる一方向に配列した第3のプリプレグとを用いて得る繊維複合材の製造方法。
【請求項10】
請求項6又は7記載の製造方法において、前記導電体を金属メッシュで形成し、当該繊維複合材の厚みをT1、前記導電層の厚みをT2とするとき、T1:T2=10:1~80:1の範囲内とする繊維複合材の製造方法。
【請求項11】
請求項6又は7記載の製造方法において、前記導電体を、表面に金属がコーティングされた不織布で形成し、当該繊維複合材の厚みをT1、前記導電層の厚みをT3とするとき、T1:T3=4.5:1~25:1の範囲内とする繊維複合材の製造方法。
【請求項12】
請求項1に記載した基材及び繊維層を含む表面構造材と、請求項1に記載した導電層を含む耐雷構造とを備える飛行体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維複合材及びその製造方法に関する。また、本発明は、繊維複合材を耐雷構造として備える飛行体に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機及びドローン等の飛行体の軽量化を図るため、近時、飛行体の表面構造材を炭素繊維強化複合樹脂(CFRP)で構成することがある。ところで、飛行体は、飛行中に被雷することがあり得る。この対策のため、飛行体は耐雷構造を備える。耐雷構造は、例えば、表面構造材に設けられた導電体である。雷電流は導電体を伝って速やかにスタティックディスチャージャに導かれ、空中に放電される。
【0003】
導電体としては、例えば、特許文献1に記載されるように金属メッシュが用いられる。なお、金属メッシュを表面構造材に貼付することは困難である。そこで、特許文献1では、強化繊維が分散したマトリックス樹脂を金属メッシュ(導電体)に含浸した層状の一体型表面保護システムを設けている。一体型表面保護システムは、航空機又は宇宙用航空体等の表面構造材に付着される。
【0004】
表面構造材は、繊維強化樹脂からなる複合材基板である。すなわち、上記の付着により、複合材基板と、一体型表面保護システムとを備える複合材構造が形成される。複合材構造において、一体型表面保護システムは、複合材基板の該表面に積層されている。特許文献1の記載によれば、強化繊維はチョップド繊維であり、一体型表面保護システムに強度を付与する。また、強化繊維は、一体型表面保護システムにおける温度サイクルに対する環境耐性を向上させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-59841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術において、表面構造材と導電体との積層構造物は、例えば、以下のようにして接合される。先ず、複数個のプリプレグを積層することでプリプレグ積層体を得る。これとは別に、金属メッシュと樹脂フィルムとの複合体を作製する。具体的には、先ず、金属メッシュの一端面に樹脂フィルムを載置する。次に、金属メッシュの網目内に樹脂フィルムを重ね、網目に樹脂フィルムを進入(含浸)させる。これにより、複合体が得られる。余剰の樹脂フィルムは、金属メッシュの表面及び裏面を覆う。
【0007】
次に、プリプレグ積層体において、表面構造材の外表面となる端面に複合体を載置する。これにより、表面構造材と複合体との予備積層体が得られる。次に、予備積層体に対し、例えば、コキュアを施す。このときに付与される熱により、複数個のプリプレグにおけるマトリックス樹脂が硬化して互いに結着する。また、樹脂フィルムが同時に硬化することで、複合体が、該複合体の直下に位置するプリプレグに結着する。
【0008】
以上のようにして複数個のプリプレグがマトリックス樹脂を介して互いに結着することで、繊維強化樹脂からなる表面構造材が形成される。また、表面構造材と導電体とが、樹脂フィルムを介して結着する。すなわち、樹脂フィルムは結着用樹脂として作用する。表面構造材における最上の繊維層と導電体との間には、マトリックス樹脂及び樹脂フィルムが介在する。
【0009】
この場合、樹脂フィルムが高価であるので素材コストが高騰する。また、樹脂フィルムを比較的多量に使用する必要があるので、耐雷構造を薄肉化及び軽量化することが容易ではない。
【0010】
本発明は、上述した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、炭素繊維強化樹脂からなる基材を備える繊維複合材であって、前記基材に積層された複合層を備え、前記複合層は、炭素繊維からなる繊維層と、導電体からなり前記繊維層に重ねられた導電層と、前記繊維層及び前記導電層に含浸したマトリックス樹脂とを有し、前記マトリックス樹脂は、前記繊維層に含浸した第1樹脂部分と、前記導電層に含浸した第2樹脂部分とを有し、前記第1樹脂部分と前記第2樹脂部分との間に界面が存在しない単一の樹脂層であり、前記繊維層が前記導電層と前記基材との間に位置し、前記複合層が、前記マトリックス樹脂を介して前記基材に結着された繊維複合材が提供される。
【0012】
本発明の別の一実施形態によれば、炭素繊維強化樹脂からなる基材を備える繊維複合材の製造方法であって、炭素繊維からなる繊維層と、導電体からなり前記繊維層に重ねられた導電層と、前記繊維層及び前記導電層に含浸した単一の樹脂層からなるマトリックス樹脂とを有する複合層を得る工程と、前記繊維層が前記導電層と前記基材との間に位置するように、前記基材に前記複合層を積層する工程と、前記基材と前記複合層とを、前記マトリックス樹脂を介して結着する工程と、を有する繊維複合材の製造方法が提供される。
【0013】
導電層は繊維層に接触してもよい。ここで、「導電層が繊維層に接触する」とは、導電層の少なくとも一部が繊維層に接触していることを指す。すなわち、「導電層が繊維層に接触する」状態には、導電層の全部が繊維層に接触している状態が含まれる。また、「導電層が繊維層に接触する」状態には、導電層の一部が繊維層の一部に接触し、且つ繊維層の残りの部分と導電層の残りの部分との間にマトリックス樹脂が介在する状態が含まれる。
【0014】
本発明のまた別の一実施形態によれば、上記の基材及び繊維層を含む表面構造材と、上記の導電層を含む耐雷構造とを備える飛行体が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明における複合層では、繊維層及び導電層に、単一層を形成するマトリックス樹脂が含浸している。マトリックス樹脂は、複合層を基材層に接合する結着用樹脂として作用する。この場合、結着用樹脂の使用量を、樹脂フィルムで導電体を表面構造材に接合するときの樹脂フィルムの使用量よりも低量にすることができる。互いに接触した繊維層及び導電層にマトリックス樹脂(結着用樹脂)を含浸して複合層(複合プリプレグ)を得るので、樹脂フィルムと導電体とで複合体を得る必要がないからである。従って、繊維複合材の薄肉化及び軽量化を図ることが容易である。
【0016】
結着用樹脂としては、一般的なプリプレグにおけるマトリックス樹脂を選定することが可能である。このようなマトリックス樹脂は、比較的安価である。また、上記したように結着用樹脂の使用量が少ない。以上のような理由から、素材コストの低廉化を図ることができる。
【0017】
しかも、複合層のマトリックス樹脂が基材に結着しているので、基材と複合層との接合強度が大きい。従って、繊維複合材は強度及び耐久性に優れる。
【0018】
さらに、複合層が導電層を有するので、例えば、繊維複合材が被雷したとき、雷電流が導電層を伝って流れる。これにより、被雷に起因して繊維複合材が破損することが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の実施形態に係る飛行体としてのマルチコプタの概略斜視図である。
図2図2は、マルチコプタの最外部を構成する繊維複合材を厚み方向に沿って見たときの要部概略断面図である。
図3図3は、繊維複合材の要部分解斜視図である。
図4図4は、繊維複合材を構成する複合層を厚み方向に沿って見たときの模式的断面図である。
図5図5は、表面に金属がコーティングされた不織布を厚み方向に沿って見たときの模式的側面図である。
図6図6は、繊維複合材の製造方法の概略フローである。
図7図7は、繊維複合材を構成する基材を厚み方向に沿って見たときの模式的側面図である。
図8図8は、複合層を得る過程(第1工程)の一例の概略フローである。
図9図9は、複合層を得るための予備積層体を厚み方向に沿って見たときの模式的側面図である。
図10図10は、予備積層体の両端面に結着用樹脂を供給した後、1組のローラで押圧する状態を示した概略側面図である。
図11図11は、繊維複合材を得るための成形用素材を厚み方向に沿って見たときの模式的側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本実施形態に係る飛行体としてのマルチコプタ10の概略斜視図である。マルチコプタ10は、機体12を備える。機体12の左前側部及び右前側部からは、左主翼14L及び右主翼14Rがそれぞれ幅方向に向かって突出する。機体12の左後側部及び右後側部からは、左水平尾翼16L及び右水平尾翼16Rがそれぞれ幅方向に向かって突出する。左主翼14L及び左水平尾翼16Lには、左支持バー18Lが跨がる。右主翼14R及び右水平尾翼16Rには、右支持バー18Rが跨がる。
【0021】
右主翼14R、右支持バー18R及び右水平尾翼16Rには、プロップ20a、プロップ20b及びプロップ20cがそれぞれ設けられる。左主翼14L、左支持バー18L及び左水平尾翼16Lには、プロップ22a、プロップ22b及びプロップ22cがそれぞれ設けられる。これら6個のプロップ20a~20c、22a~22cは、揚力発生装置である。マルチコプタ10は、6個のプロップ20a~20c、22a~22cが回転することに伴い、離陸して空中を飛行する。
【0022】
例えば、左主翼14L及び右主翼14Rには、複数個のスタティックディスチャージャ24が設けられる。スタティックディスチャージャ24は公知であるので、詳細な説明を省略する。左主翼14L及び右主翼14R以外にスタティックディスチャージャ24を設けてもよい。
【0023】
図2は、マルチコプタ10の最外部を厚み方向に沿って見たときの要部概略断面図である。図3は、最外部の要部分解斜視図である。図2及び図3の下方がマルチコプタ10の内部に向かう方向であり、図2及び図3の上方がマルチコプタ10の外部に向かう方向である。図2及び図3に示すように、マルチコプタ10の最外部は、繊維複合材30によって形成される。なお、図2及び図3では、理解を容易にするために繊維複合材30の形状を簡素化しているが、実際の繊維複合材30は、マルチコプタ10の外形状に合う適切な形状に成形されている。また、図3においては、後述する第1マトリックス樹脂52及び第2マトリックス樹脂58(いずれも図2参照)を省略している。
【0024】
繊維複合材30は、表面構造材32及び耐雷構造34を備える。このうちの表面構造材32は、炭素繊維強化樹脂からなる基材36を有する。この場合、基材36は、クロス層38と、第1UD層40と、第2UD層42とを有する。図3に示すように、クロス層38は、縦糸となる第1の炭素繊維44と、横糸となる第2の炭素繊維46とを略90°の角度で交差させた層状の織物(炭素繊維クロス)であり、いわゆるファブリック材である。織り方は特に限定されず、平織であってもよいし、綾織又は朱子織であってもよい。
【0025】
第1UD層40では、炭素繊維48が一方向に揃って配列される。一方向は、例えば、マルチコプタ10の上下方向である。又は、一方向はマルチコプタ10の前後方向である。第1UD層40は、炭素繊維48の配列方向に沿って優れた強度を示す。
【0026】
第2UD層42では、炭素繊維50が、第1UD層40における炭素繊維48と異なる一方向に揃って配列される。第1UD層40における炭素繊維48がマルチコプタ10の上下方向に沿って配列されるとき、第2UD層42における炭素繊維50は、例えば、マルチコプタ10の前後方向に沿って配列される。第1UD層40における炭素繊維48がマルチコプタ10の前後方向に沿って配列されるとき、第2UD層42における炭素繊維50は、例えば、マルチコプタ10の上下方向に沿って配列される。いずれの場合も、第1UD層40における炭素繊維48の配列方向と、第2UD層42における炭素繊維50の配列方向との交差角度は略90°である。
【0027】
代替的に、第1UD層40における炭素繊維48の配列方向と、第2UD層42における炭素繊維50の配列方向との交差角度を略45°とすることも可能である。この場合、例えば、第1UD層40における炭素繊維48を、マルチコプタ10の前後方向又は上下方向に沿って配列させる。且つ第2UD層42における炭素繊維50の配列方向を、マルチコプタ10の前後方向及び上下方向に対して約45°傾斜させる。第1UD層40及び第2UD層42における炭素繊維48、50のそれぞれの配列方向を、上記と逆にしてもよい。以上のように、第1UD層40における炭素繊維48と、第2UD層42における炭素繊維50との配列方向又は角度が相違するようにして、第1UD層40と第2UD層42とを互いに積層することが好ましい。
【0028】
クロス層38における第1の炭素繊維44及び第2の炭素繊維46と、第1UD層40における炭素繊維48と、第2UD層42における炭素繊維50とには、図2に示す第1マトリックス樹脂52が含浸している。本実施形態では、第1マトリックス樹脂52は、クロス層38となる第1のプリプレグ38a(図7参照)における第1基マトリックス樹脂と、第1UD層40となる第2のプリプレグ40a(図7参照)における第2基マトリックス樹脂と、第2UD層42となる第3のプリプレグ42a(図7参照)における第3基マトリックス樹脂とが相溶化することで形成される。すなわち、単一の第1マトリックス樹脂52が3層の炭素繊維層に含浸されることで、基材36が形成される。第1基マトリックス樹脂~第3基マトリックス樹脂は、区別して示していない。
【0029】
基材36には、複合層54が積層される。表面構造材32は、複合層54中の繊維層56をさらに含む。この場合、繊維層56は、基材36を構成するクロス層38と同様に層状のファブリック材である。クロス層38と同様に織り方は特に限定されず、平織であってもよいし、綾織又は朱子織であってもよい。
【0030】
複合層54は、上記の繊維層56の他、耐雷構造34をさらに有する。耐雷構造34は、複合層54を構成する第2マトリックス樹脂58と、導電層60とを有する。導電層60は、層状の導電体からなる。複合層54が基材36に積層されたとき、繊維層56が導電層60と基材36との間に位置する。
【0031】
導電体の具体例としては、図3に示す金属メッシュ62が挙げられる。マルチコプタ10が被雷したとき、雷電流は、金属メッシュ62を伝って、スタティックディスチャージャ24(図1参照)に向かって流れる。金属メッシュ62は、好適には銅又はアルミニウムからなる。銅メッシュ又はアルミニウムメッシュは、良好な電気伝導体であり且つ優れた耐候性を有する。アルミニウムメッシュを用いる場合、アルミニウムメッシュに前処理を施すことが望ましい。この前処理は、アルミニウムと、繊維層56に含まれる炭素繊維との間で電食が起こることを防止するための前処理である。
【0032】
図4に示すように、複合層54では、導電層60が繊維層56に直接接触している場合がある。このように互いに接触した繊維層56及び導電層60に、第2マトリックス樹脂58が含浸している。換言すれば、第2マトリックス樹脂58は、繊維層56及び導電層60を内包するように被覆している。なお、導電層60における「含浸」とは、導電体の孔部に樹脂が進入した状態を指す。孔部は、例えば、図3及び図4に示す金属メッシュ62の網目である。又は、孔部は、図5に示す不織布64(後述)における細孔である。
【0033】
第2マトリックス樹脂58は、繊維層56に含浸した第1樹脂部分61aと、導電層60に含浸した第2樹脂部分61bとを有する。上記したように、第2マトリックス樹脂58が繊維層56及び導電層60を一括して被覆しているので、第1樹脂部分61aと第2樹脂部分61bとの間には界面が存在しない。すなわち、第2マトリックス樹脂58は、単一の樹脂層である。後述するように、第2マトリックス樹脂58は、基材36と複合層54とを接合する結着用樹脂としての役割を果たす。
【0034】
繊維層56と導電層60が互いに接触している場合、両層56、60の間に、第1樹脂部分61a又は第2樹脂部分61bが形成されない部分が生じる。すなわち、この場合、導電層60は、繊維層56に直接接触した部分を有する。なお、導電層60の全体が繊維層56に直接接触してもよい。また、導電層60の一部が繊維層56に接触し、且つ導電層60の残りの部分が第2マトリックス樹脂58からなる薄層を介して繊維層56に積層してもよい。この薄層は、繊維層56と導電層60との間に不可避的に進入した第2マトリックス樹脂58から形成される。典型的な薄層の厚みは数十nm~数μm程度であるが、20μm~30μmに達する場合もあり得る。
【0035】
繊維層56と導電層60との間に、全体にわたって第2マトリックス樹脂58からなる薄層が介在してもよい。この場合、導電層60は、繊維層56に接触しない。なお、薄層は、上記と同様に、繊維層56と導電層60との間に不可避的に進入した第2マトリックス樹脂58から形成される。典型的な薄層の厚みは、上記と同様に数十nm~数μm程度である。ただし、薄層の厚みが20μm~30μmに達する場合もあり得る。
【0036】
従来技術では、樹脂フィルムで導電体の全体を覆い、その後に該導電体を表面構造材に接合する。この場合、樹脂フィルムの大部分は結着に寄与しない。これに対し、本実施形態においては、上記したように、両層56、60の間に、第1樹脂部分61a又は第2樹脂部分61bが形成されない部分が生じる。しかも、後述するように、第2マトリックス樹脂58の大部分が、基材36に複合層54を結着する結着用樹脂として作用する。以上のような理由から、従来技術に比べて結着用樹脂の使用量を低減することができる。
【0037】
第1マトリックス樹脂52及び第2マトリックス樹脂58も相溶化して、単一のマトリックス樹脂をなしていることが一層好ましい。この場合、4層の炭素繊維層と、1層の導電層60とに、単一のマトリックス樹脂が含浸される。この場合、第1マトリックス樹脂52と第2マトリックス樹脂58との間に界面は形成されない。ただし、図2においては、第1マトリックス樹脂52と第2マトリックス樹脂58との区別を容易にするため、両樹脂52、58の間に便宜的に線を付している。
【0038】
第1マトリックス樹脂52(第1基マトリックス樹脂、第2基マトリックス樹脂及び第3基マトリックス樹脂)の好適な例としては、エポキシ系樹脂が挙げられる。第2マトリックス樹脂58(結着用樹脂)の好適な例としても同様に、エポキシ系樹脂が挙げられる。ただし、第1マトリックス樹脂52及び第2マトリックス樹脂58はエポキシ系樹脂に限定されない。第1基マトリックス樹脂、第2基マトリックス樹脂及び第3基マトリックス樹脂は、互いに相溶化する樹脂であることが好ましい。第1マトリックス樹脂52及び第2マトリックス樹脂58(結着用樹脂)は、互いに相溶化する樹脂であることが好ましい。
【0039】
一般的なプリプレグにおけるマトリックス樹脂の量は、1m2当たりのプリプレグに対して130g程度である。また、上記の従来技術において、導電体を十分に覆うために必要な樹脂フィルムの使用量は、1m2当たりの導電体に対して150g~170g程度である。すなわち、従来技術において、樹脂フィルムを介して導電体を表面構造材に接合したとき、最外に位置する繊維強化樹脂層におけるマトリックス樹脂と、該繊維層に重なる導電体を覆う樹脂フィルムとの合計量は、280g/m2~300g/m2である。
【0040】
これに対し、本実施形態では、1m2当たりの複合層54における第2マトリックス樹脂58の量を275g以下とすることができる。1m2当たりの複合層54における第2マトリックス樹脂58の量を、例えば、150g以下とすることも可能であり、120gとすることも可能である。このため、本実施形態によれば、耐雷構造34の薄肉化及び軽量化を図ることができる。これにより、マルチコプタ10全体の薄肉化及び軽量化を図ることもできる。
【0041】
導電体が銅メッシュ又はアルミニウムメッシュ等の金属メッシュ62である場合、繊維複合材30の厚みをT1(図2参照)、導電層60の厚みをT2とするとき、後述する理由から、T1とT2の比は10:1~80:1の範囲内であることが好ましい。すなわち、下記の式が成り立つと好適である。
T1:T2=10:1~80:1
T2は概ね0.05mm~0.08mmであるので、好ましいT1の範囲は、0.5mm~6.4mmである。
【0042】
T1がT2の10倍よりも小さいと、基材36等が薄肉となる。従って、繊維複合材30の強度が十分でなくなる懸念がある。その一方で、T1がT2の80倍よりも大きいと、基材36等が厚肉となる。その結果、繊維複合材30の重量が大きくなるので、マルチコプタ10が厚肉となり且つ重量が大きくなる。また、炭素繊維46、48、50を多量に使用することになるので、繊維複合材30及びマルチコプタ10を得るための材料コストが高騰する。
【0043】
導電体の別の具体例としては、図5に示すように、表面に金属がコーティングされた不織布64が挙げられる。以下、不織布64とコーティング金属66とを合わせてコーティング不織布68と呼ぶ。コーティング金属66としては、銀、銅、チタン又はアルミニウムが好ましい。銀、銅、チタン又はアルミニウムがコーティングされた不織布64は、金属メッシュ62と同様に良好な電気伝導体であり且つ優れた耐候性を有する。コーティング不織布68は金属メッシュ62よりも軽量であるので、この場合、繊維複合材30及びマルチコプタ10の一層の軽量化を図ることができる。
【0044】
導電体が上記のコーティング不織布68である場合、繊維複合材30の厚みをT1(図2参照)、導電層60の厚みをT3とするとき、T1とT3の比は4.5:1~25:1の範囲内であることが好ましい。すなわち、下記の式が成り立つと好適である。
T1:T3=4.5:1~25:1
T3は概ね0.15mm~0.20mmであるので、好ましいT1の範囲は0.675mm~5mm内である。
【0045】
T1がT3の4.5倍よりも小さいと、基材36等が薄肉となる。従って、繊維複合材30の強度が十分でなくなる懸念がある。その一方で、T1がT3の25倍よりも大きいと、基材36等が厚肉となる。その結果、繊維複合材30の重量が大きくなるので、マルチコプタ10が厚肉となり且つ重量が大きくなる。また、炭素繊維46、48、50を多量に使用することになるので、繊維複合材30及びマルチコプタ10を得るための材料コストが高騰する。
【0046】
以上の構成においてマルチコプタ10が被雷したとき、雷電流は、コーティング金属66を伝って、スタティックディスチャージャ24(図1参照)に向かって流れる。
【0047】
スタティックディスチャージャ24に流れた雷電流は、該スタティックディスチャージャ24を介して空中に放電される。これにより、マルチコプタ10の表面構造材32が被雷に起因して破損することが回避される。以上のように、本実施形態によれば、繊維複合材30及びマルチコプタ10の薄肉化及び軽量化を図りながら、被雷したときに表面構造材32が破損することを防止することが可能である。
【0048】
繊維複合材30を構成する基材36は、図2及び図3に示すように、クロス層38と、第1UD層40と、第2UD層42とを有する。第1UD層40では炭素繊維48が一方向に配列され、且つ第2UD層42では、炭素繊維50が第1UD層40における炭素繊維48と異なる一方向に配列されている。このため、第1UD層40と第2UD層42とを組み合わせることにより、基材36における二方向の強度が大きくなる。二方向のうちの一方向は、第1UD層40における炭素繊維48の配列方向である。二方向のうちの残る一方向は、第2UD層42における炭素繊維50の配列方向である。第1UD層40及び第2UD層42はクロス層38に比べて安価であるので、基材36の強度を低コストで向上させることができる。
【0049】
図3に示すように、好ましくは、クロス層38における第1の炭素繊維44及び第2の炭素繊維46は、炭素繊維48、50の配列方向に対して略45°の角度で交差するように配列される。従って、基材36では、上記の二方向に対して交差する方向の強度も大きくなる。その結果、基材36は、多方向からの衝撃に対して十分な耐性を有し、且つ十分な強度を示す。
【0050】
さらに、繊維層56によって表面構造材32の強度が向上する。以上のような理由から、表面構造材32は、多方向からの衝撃に対して十分な耐性を有し、且つ十分な強度を示す。繊維複合材30を飛行体に用いる場合、ファブリック材(クロス層)から繊維層56を形成することが好ましい。
【0051】
次に、繊維複合材30の製造方法につき、図6に示す概略フローを参照しつつ説明する。本実施形態に係る製造方法は、複合層54を得る第1工程S10と、複合層54を基材36に積層する第2工程S20と、基材36と複合層54とを結着する第3工程S30とを有する。
【0052】
なお、第1工程S10~第3工程S30とは別に、基材36を作製する。具体的には、図7に示すように、第1のプリプレグ38aと、第2のプリプレグ40aと、第3のプリプレグ42aとを下方からこの順序で積層し、プリプレグ積層体からなる基材36を得る。ここで、第1のプリプレグ38aは、第1の炭素繊維44及び第2の炭素繊維46(図3参照)を含むファブリック材に第1基マトリックス樹脂が含浸したプリプレグである。第2のプリプレグ40aは、炭素繊維48を含むUD材に第2基マトリックス樹脂が含浸したプリプレグである。第3のプリプレグ42aは、炭素繊維50を含むUD材に第3基マトリックス樹脂が含浸したプリプレグである。
【0053】
上記の工程とは別に、第1工程S10を行う。第1工程S10は、図8に概略フローとして示すように、予備積層工程S12と、樹脂重ね工程S14と、含浸工程S16とを有する。予備積層工程S12では、繊維層56となるシート状(層状)の炭素繊維と、導電層60となる導電体とを積層する。これにより、図9に示す層状の予備積層体70が得られる。この予備積層体70においては、繊維層56の一端面(上面)に対して導電層60の一端面(下面)が接触している。なお、導電体は、例えば、上記したような金属メッシュ62である。又は、導電体は、上記したようなコーティング不織布68である。
【0054】
次に、樹脂重ね工程S14において、図10に示すように、予備積層体70の両端面に結着用樹脂72a、72bをそれぞれ重ねる。ここで、予備積層体70の両端面に重ねた結着用樹脂72a、72bの合計量は、1m2当たりの予備積層体70に対し、例えば、120g~150g程度であることが好ましい。すなわち、予備積層体70に含浸する結着用樹脂72a、72bの合計量は、一般的なプリプレグにおけるマトリックス樹脂の使用量と略同程度で十分である。
【0055】
次に、含浸工程S16において、結着用樹脂72a、72bが重ねられた予備積層体70を、図10に示す1組のローラ74、76で挟む。予備積層体70が1組のローラ74、76の間を通過するとき、結着用樹脂72a、72bが1組のローラ74、76で圧潰及び延展される。これにより、結着用樹脂72a、72bが繊維層56及び導電層60に含浸される。その結果、図4に示すように、繊維層56及び導電層60が第2マトリックス樹脂58に内包された複合プリプレグ(複合層54)が得られる。なお、第2マトリックス樹脂58は、金属メッシュ62の網目に充填されてもよい。第2マトリックス樹脂58は、繊維層56における炭素繊維の間隙に充填されてもよい。
【0056】
上記したように、第2マトリックス樹脂58は、繊維層56に含浸した第1樹脂部分61aと、導電層60に含浸した第2樹脂部分61bとを有する。ただし、第2マトリックス樹脂58は単一の樹脂層であり、第1樹脂部分61aと第2樹脂部分61bとの間に界面は存在しない。第1樹脂部分61a又は第2樹脂部分61bの一部が、繊維層56と導電層60との間に進入してもよい。この場合、繊維層56と導電層60との間に、上記した薄層が形成される。
【0057】
複合層54は、繊維層56及び導電層60を含む複合プリプレグからなる。従って、複合層54の厚みT2及び重量は、一般的なプリプレグに対して導電層60の厚み及び重量が加わる程度である。このため、耐雷構造34を含む複合層54の薄肉化及び軽量化を図ることができる。
【0058】
次に、上記のようにして得られた基材36及び複合層54を用い、第2工程S20及び第3工程S30を行う。具体的には、第2工程S20において、基材36に複合層54を積層する。このとき、繊維層56が導電層60と基材36との間に位置するように、複合層54を基材36に積層する。これにより、図11に示す成形用素材80が得られる。
【0059】
次に、第3工程S30において、第2マトリックス樹脂58を介して基材36と複合層54とを結着する。具体的には、成形用素材80に対し、例えば、コキュアを施す。これに伴って、成形用素材80がマルチコプタ10の外形に適した形状に成形される。すなわち、基材36及び繊維層56がマルチコプタ10の外形に適した表面構造材32となり、且つ導電層60が表面構造材32の形状に倣った形状となる。また、好ましくは、基材36の第1マトリックス樹脂52(第1基マトリックス樹脂、第2基マトリックス樹脂及び第3基マトリックス樹脂)と、複合層54の第2マトリックス樹脂58(結着用樹脂72a、72b)とが相溶化する。
【0060】
コキュアを行うときには、成形用素材80に熱が付与される。この熱で第1マトリックス樹脂52が硬化することにより、互いに接合したクロス層38、第1UD層40及び第2UD層42が形成される。同時に、熱で第2マトリックス樹脂58が硬化することにより、該第2マトリックス樹脂58を介して複合層54が基材36に結着される。第1マトリックス樹脂52と第2マトリックス樹脂58とが相溶化している場合、4層の炭素繊維層及び1層の導電層60に、単一のマトリックス樹脂が含浸される。
【0061】
以上のようにして、繊維複合材30が得られる。結着用樹脂72a、72bの使用量を、1m2当たりの予備積層体70に対して120g~150g程度としたとき、繊維複合材30の厚みT1(図2参照)、金属メッシュ62からなる導電層60の厚みT2との間に、T1:T2=10:1~80:1の関係が成り立つ。
【0062】
上記したように、コーティング不織布68を導電層60とすることも可能である。この場合において、結着用樹脂72a、72bの使用量を、1m2当たりの予備積層体70に対して120g~150g程度としたとき、繊維複合材30の厚みT1(図2参照)、導電層60の厚みT3との間に、T1:T3=4.5:1~25:1の関係が成り立つ。
【0063】
得られた繊維複合材30は、マルチコプタ10において、表面構造材32及び耐雷構造34として活用される。上記したように複合層54の薄肉化及び軽量化を図ることができるので、マルチコプタ10の表面構造材32の薄肉化及び軽量化を図ることができる。
【0064】
以上説明したように、本実施形態は、炭素繊維強化樹脂からなる基材(36)を備える繊維複合材(30)であって、前記基材に積層された複合層(54)を備え、前記複合層は、炭素繊維からなる繊維層(56)と、導電体からなり前記繊維層に重ねられた導電層(60)と、前記繊維層及び前記導電層に含浸したマトリックス樹脂(58)とを有し、前記マトリックス樹脂は、前記繊維層に含浸した第1樹脂部分(61a)と、前記導電層に含浸した第2樹脂部分(61b)とを有し、前記第1樹脂部分と前記第2樹脂部分との間に界面が存在しない単一の樹脂層であり、前記繊維層が前記導電層と前記基材との間に位置し、前記複合層が、前記マトリックス樹脂を介して前記基材に結着された繊維複合材を開示する。
【0065】
また、本実施形態は、炭素繊維強化樹脂からなる基材(36)を備える繊維複合材(30)の製造方法であって、炭素繊維からなる繊維層(56)と、導電体からなり前記繊維層に重ねられた導電層(60)と、前記繊維層及び前記導電層に含浸した単一の樹脂層からなるマトリックス樹脂(58)とを有する複合層(54)を得る工程(S10)と、前記繊維層が前記導電層と前記基材との間に位置するように、前記基材に前記複合層を積層する工程(S20)と、前記基材と前記複合層とを、前記マトリックス樹脂を介して結着する工程(S30)と、を有する繊維複合材の製造方法を開示する。
【0066】
複合層においては、繊維層及び導電層に単一のマトリックス樹脂(上記の第2マトリックス樹脂58)が含浸している。マトリックス樹脂は、複合層を基材層に接合する結着用樹脂として作用する。従って、本発明では、従来技術において導電体を表面構造材に接合するための樹脂フィルムを使用する必要がない。
【0067】
本実施形態によれば、複合層のマトリックス樹脂の大部分が、上記したように複合層を基材層に接合する結着用樹脂として作用する。しかも、繊維層及び導電層が接触して両層の間に結着用樹脂が介在しない部分が生じる場合がある。以上のような理由から、結着用樹脂の使用量を、従来技術における樹脂フィルムの使用量よりも低量にすることができる。従って、繊維複合材の薄肉化及び軽量化を図ることが容易である。また、素材コストの低廉化を図ることもできる。
【0068】
結着用樹脂としては、一般的なプリプレグにおけるマトリックス樹脂を選定することが可能である。このようなマトリックス樹脂は、比較的安価である。また、上記したように結着用樹脂の使用量が少い。以上のような理由から、素材コストの一層の低廉化を図ることができる。
【0069】
しかも、複合層のマトリックス樹脂が基材に結着しているので、基材と複合層との接合強度が大きい。従って、繊維複合材は強度及び耐久性に優れる。
【0070】
さらに、複合層が導電層を有するので、例えば、繊維複合材が被雷したとき、雷電流が導電層を伝って流れる。これにより、被雷に起因して繊維複合材が破損することが防止される。
【0071】
本実施形態は、前記複合層を得る工程は、前記繊維層と前記導電層とを重ねて、層状の予備積層体(70)を得る工程(S12)と、前記予備積層体の両端面に結着用樹脂(72a、72b)を重ねる工程(S14)と、前記結着用樹脂を前記繊維層及び前記導電層に含浸する工程(S16)と、を有する繊維複合材の製造方法を開示する。
【0072】
このように、繊維層及び導電層に結着用樹脂(マトリックス樹脂)を含浸した複合層は、一般的なプリプレグを得るときと同様の過程を経ることで作製することができる。従って、複合層を低コストで得ることが可能である。しかも、繊維層と導電層との間に結着用樹脂が進入することが回避された場合、薄肉且つ軽量な複合層が得られる。複合層は、炭素繊維に由来する優れた強度を示す。
【0073】
本実施形態は、前記基材は、炭素繊維クロスを含むクロス層(38)と、炭素繊維(48)が一方向に揃って配列した第1UD層(40)と、炭素繊維(50)が前記第1UD層における炭素繊維と異なる一方向に配列した第2UD層(42)とを有する繊維複合材を開示する。
【0074】
本実施形態は、前記基材を、炭素繊維クロスを含む第1のプリプレグ(38a)と、炭素繊維(48)が一方向に揃って配列した第2のプリプレグ(40a)と、炭素繊維(50)が前記第2のプリプレグにおける炭素繊維と異なる一方向に配列した第3のプリプレグ(42a)とを用いて得る繊維複合材の製造方法を開示する。
【0075】
クロス層では、第1の炭素繊維と第2の炭素繊維とが互いに別方向に配列され、この状態で互いに交差している。従って、クロス層は、複数方向からの衝撃に耐性を示す。
【0076】
また、第1UD層では炭素繊維が一方向に配列され、且つ第2UD層では、炭素繊維が第1UD層における炭素繊維と異なる一方向に配列されている。このため、第1UD層と第2UD層とを組み合わせることにより、基材における二方向の強度が大きくなる。二方向のうちの一方向は、第1UD層における炭素繊維の配列方向である。二方向のうちの残る一方向は、第2UD層における炭素繊維の配列方向である。第1UD層及び第2UD層はクロス層に比べて安価であるので、基材の強度を低コストで向上させることができる。
【0077】
繊維複合材は、上記したクロス層、第1UD層及び第2UD層を含む基材を有する。このため、繊維複合材は、多方向からの衝撃に対して十分な耐性を有し、且つ十分な強度を示す。
【0078】
本実施形態は、前記マトリックス樹脂の量が、1m2当たりの前記複合層において275g以下である繊維複合材を開示する。
【0079】
本実施形態は、前記マトリックス樹脂を、1m2当たりの前記複合層において275g以下となるように形成する繊維複合材の製造方法を開示する。
【0080】
このように、本実施形態によれば、複合層におけるマトリックス樹脂の量を十分に少なくすることができる。従って、複合層の薄肉化及び軽量化を図ることが容易である。
【0081】
本実施形態は、前記導電体は金属メッシュ(62)であり、当該繊維複合材の厚みをT1、前記導電層の厚みをT2とするとき、T1:T2=10:1~80:1の範囲内である繊維複合材を開示する。
【0082】
本実施形態は、前記導電体を金属メッシュ(62)で形成し、当該繊維複合材の厚みをT1、前記導電層の厚みをT2とするとき、T1:T2=10:1~80:1の範囲内とする繊維複合材の製造方法を開示する。
【0083】
T1がT2の10倍よりも小さいと、基材(炭素繊維強化樹脂)等が薄肉となる。従って、繊維複合材の強度が十分でなくなる懸念がある。その一方で、T1がT2の80倍よりも大きいと、基材(炭素繊維強化樹脂)等が厚肉となる。その結果、繊維複合材の重量が大となる。また、炭素繊維を多量に使用することになるので、繊維複合材を得るための材料コストが高騰する。
【0084】
なお、金属メッシュとしては、銅メッシュ又はアルミニウムメッシュが好適である。銅メッシュ又はアルミニウムメッシュは、軽量であり且つ電気伝導度が大きく、しかも、優れた耐候性を有するからである。アルミニウムメッシュを用いる場合、上記したように、アルミニウムメッシュに電食防止用の前処理を施すことが望ましい。
【0085】
本実施形態は、前記導電体は表面に金属がコーティングされた不織布(64)であり、当該繊維複合材の厚みをT1、前記導電層の厚みをT3とするとき、T1:T3=4.5:1~25:1の範囲内である繊維複合材を開示する。
【0086】
本実施形態は、前記導電体を、表面に金属がコーティングされた不織布(64)で形成し、当該繊維複合材の厚みをT1、前記導電層の厚みをT3とするとき、T1:T3=4.5:1~25:1の範囲内とする繊維複合材の製造方法を開示する。
【0087】
表面に金属がコーティングされた不織布は、金属メッシュよりも軽量である。従って、この場合、複合層及び繊維複合材の一層の軽量化を図ることができる。
【0088】
この構成において、T1がT3の4.5倍よりも小さいと、基材(炭素繊維強化樹脂)等が薄肉となる。従って、繊維複合材の強度が十分でなくなる懸念がある。その一方で、T1がT3の25倍よりも大きいと、基材(炭素繊維強化樹脂)等が厚肉となる。その結果、繊維複合材の重量が大となり、繊維複合材を得るための材料コストが高騰する。
【0089】
コーティング金属としては、銀、銅、チタン又はアルミニウムが好適である。銀、銅、チタン又はアルミニウムは、軽量であり且つ電気伝導度が大きく、しかも、優れた耐候性を有するからである。
【0090】
本実施形態は、上記の基材及び繊維層を含む表面構造材(32)と、上記の導電層を含む耐雷構造(34)とを備える飛行体(10)を開示する。
【0091】
すなわち、この飛行体は、上記の繊維複合材を備える。上記したように、この繊維複合材の薄肉化及び軽量化を図ることができるので、飛行体の薄肉化及び軽量化を図ることもできる。飛行体が被雷したとき、雷電流は、耐雷構造を構成する導電層に沿って流れるので、被雷に起因して表面構造材が破損することが防止される。
【0092】
なお、本発明は、上述した開示に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得る。
【0093】
例えば、必要に応じ、基材36に対して1層以上の繊維強化樹脂層をさらに付加してもよい。
【符号の説明】
【0094】
10…マルチコプタ 12…機体
24…スタティックディスチャージャ 30…繊維複合材
32…表面構造材 34…耐雷構造
36…基材 38…クロス層
38a…第1のプリプレグ 40…第1UD層
40a…第2のプリプレグ 42…第2UD層
42a…第3のプリプレグ 44、46、48、50…炭素繊維
52…第1マトリックス樹脂 54…複合層
56…繊維層 58…第2マトリックス樹脂
60…導電層 61a…第1樹脂部分
61b…第2樹脂部分 62…金属メッシュ
64…不織布 66…コーティング金属
68…コーティング不織布 70…予備積層体
72a…結着用樹脂 72b…結着用樹脂
74、76…ローラ 80…成形用素材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11