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特開2024-180173配管パイプ型微生物燃料電池及び配管システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180173
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】配管パイプ型微生物燃料電池及び配管システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/16 20060101AFI20241219BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20241219BHJP
   H01M 8/04313 20160101ALI20241219BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20241219BHJP
【FI】
H01M8/16
H01M4/90 M
H01M8/04313
H01M8/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099656
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】田口 耕造
(72)【発明者】
【氏名】中本 トラン
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H018AA07
5H018CC03
5H018EE02
5H018EE05
5H018EE12
5H126AA02
5H126AA10
5H126BB10
5H126CC02
5H126EE02
5H126EE07
5H126FF06
5H127AA08
5H127AC04
5H127BA07
5H127EE25
5H127EE27
(57)【要約】
【課題】配管パイプで発電が行えるようにする。
【解決手段】開示の配管パイプ型微生物燃料電池は、内部を液体が流れるパイプ本体と、前記パイプ本体の内面に設けられた1又は複数のアノードと、前記パイプ本体の内面に設けられた1又は複数のカソードと、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管パイプ型微生物燃料電池であって、
内部を液体が流れるパイプ本体と、
前記パイプ本体の内面に設けられた1又は複数のアノードと、
前記パイプ本体の内面に設けられた1又は複数のカソードと、
を備える、
配管パイプ型微生物燃料電池。
【請求項2】
前記カソードは、酸化還元触媒作用及び抗菌作用を有する
請求項1に記載の配管パイプ型微生物燃料電池。
【請求項3】
前記カソードは、抗菌作用を有する酸化還元触媒を有する
請求項1に記載の配管パイプ型微生物燃料電池。
【請求項4】
前記カソードは、コバルト-マンガン系触媒を有する、
請求項1に記載の配管パイプ型微生物燃料電池。
【請求項5】
前記アノードは、前記パイプ本体の内面全周に設けられ、
前記カソードは、前記アノードとは異なる位置において、前記パイプ本体の内面全周に設けられている
請求項1に記載の配管パイプ型微生物燃料電池。
【請求項6】
前記カソードは、前記パイプ本体において、前記アノードよりも下流側に設けられている
請求項1に記載の配管パイプ型微生物燃料電池。
【請求項7】
前記1又は複数のアノード及び前記1又は複数のカソードは、それぞれ、複数のアノード及び複数のカソードであり、
前記アノード及び前記カソードは、液体の流れる方向において、交互に設けられている
請求項1に記載の配管パイプ型微生物燃料電池。
【請求項8】
センサを備える配管構造と、
前記センサの出力に基づいて、前記配管構造における液体の流れを制御するコントローラと、
を備え、
前記センサは、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の配管パイプ型微生物燃料電池における前記アノード及びカソードと、前記アノード及び前記カソードに接続されるセンサ回路と、を備える
配管システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、配管パイプ型微生物燃料電池及び配管システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、微生物燃料電池を開示している。微生物燃料電池は、微生物の代謝反応を利用して有機物である燃料を電気エネルギーに変換し、発電する装置である。微生物燃料電池は、電極として、アノード電極とカソード電極とを備えている。微生物燃料電池は、燃料としての有機物が微生物によって分解されるときに発生する電子をアノード電極にて回収し、アノード電極から外部回路を経由してカソード電極へ移動させる。また、アノード電極において発生したプロトンは、カソード電極へ移動した電子と酸素と反応して水を生じさせる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-117743号公報
【発明の概要】
【0004】
従来、配管パイプ内に微生物燃料電池を設置することは行われていなかった。廃液等の液体が流れる配管パイプ内に微生物燃料電池があれば、パイプ内の廃液等の液体を利用して発電することが可能になる。また、パイプ内の廃液等の浄化も可能となる。また、微生物燃料電池を、パイプ中の有機物の量を測定するセンサとして利用することも可能になる。
【0005】
したがって、上記メリットのうちの少なくとも一つのメリットを享受するため、配管パイプ型の微生物燃料電池が望まれる。
【0006】
本開示のある側面は、配管パイプ型微生物燃料電池である。開示の微生物燃料電池では、内部を液体が流れるパイプ本体と、前記パイプ本体の内面に設けられた1又は複数のアノードと、前記パイプ本体の内面に設けられた1又は複数のカソードと、を備える。
【0007】
本開示の他の側面は、配管システムである。開示のシステムは、センサを備える配管構造と、前記センサの出力に基づいて、前記配管構造における液体の流れを制御するコントローラと、を備え、前記センサは、前記配管パイプ型微生物燃料電池における前記アノード及びカソードと、前記アノード及び前記カソードに接続されるセンサ回路と、を備える。
【0008】
更なる詳細は、後述の実施形態として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、配管システムの構成図である。
図2図2は、配管パイプ型微生物燃料電池の断面図である。
図3図3は、配管パイプ型微生物燃料電池の組み立て図である。
図4図4は、図2のIV-IV線断面図である。
図5図5は、配管パイプ型微生物燃料電池の一部切り欠き斜視図である。
図6図6は、実験結果を示す図である。
図7図7は、実験結果を示す図である。
図8図8は、アノード及びカソードの配置のバリエーション図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<1.配管パイプ型微生物燃料電池及び配管システムの概要>
【0011】
(1)実施形態に係る微生物燃料電池は、配管パイプ型微生物燃料電池である。微生物燃料電池は、内部を液体が流れるパイプ本体と、前記パイプ本体の内面に設けられた1又は複数のアノードと、前記パイプ本体の内面に設けられた1又は複数のカソードと、を備え得る。
【0012】
(2)前記カソードは、酸化還元触媒作用及び抗菌作用を有するのが好ましい。
【0013】
(3)前記カソードは、抗菌作用を有する酸化還元触媒を有するのが好ましい。
【0014】
(4)前記カソードは、コバルト-マンガン系触媒を有するのが好ましい。
【0015】
(5)前記アノードは、前記パイプ本体の内面全周に設けられているのが好ましい。前記カソードは、前記アノードとは異なる位置において、前記パイプ本体の内面全周に設けられているのが好ましい。
【0016】
(6)前記カソードは、前記パイプ本体において、前記アノードよりも下流側に設けられているのが好ましい。
【0017】
(7)前記1又は複数のアノード及び前記1又は複数のカソードは、それぞれ、複数のアノード及び複数のカソードであり得る。前記アノード及び前記カソードは、液体の流れる方向において、交互に設けられているのが好ましい。
【0018】
(8)実施形態に係る配管システムは、センサを備える配管構造と、前記センサの出力に基づいて、前記配管構造における液体の流れを制御するコントローラと、を備え得る。前記センサは、前記(1)~(7)のいずれか1項に記載の配管パイプ型微生物燃料電池における前記アノード及びカソードと、前記アノード及び前記カソードに接続されるセンサ回路と、を備え得る。
【0019】
<2.配管パイプ型微生物燃料電池及び配管システムの例>
【0020】
図1は、実施形態に係る配管システム50を示している。配管システム50は、配管構造100とコントローラ200とを備える。配管構造100は、流路となる構造体であり、配管パイプなどを有して構成される。配管構造100は、有機物を含有し得る液体を流すために利用される。配管構造100を流れる液体は、一例として、廃液である。廃液は、有機物を含有し得る。なお、液体は、微生物を含有する。
【0021】
図1に示す配管構造100は、その一部に、配管パイプ型微生物燃料電池10を備える。配管パイプ型微生物燃料電池10は、配管パイプ形状を持ち、その内部を液体が流れる。配管パイプ型微生物燃料電池10は、内部の液体を利用して発電する。また、廃液などの液体が、微生物によって浄化される。
【0022】
図1に示す配管構造100は、一例として、微生物燃料電池10のほか、第1配管パイプ110、第2配管パイプ120、バルブ130、及び第3配管パイプ140を備える。第1配管パイプ110は、配管パイプ型微生物燃料電池10の上流側に接続される。第2配管パイプ120は、配管パイプ型微生物燃料電池10の下流側に接続される。バルブ130は、第2配管パイプ120の下流側に接続される。第3配管パイプ140は、バルブ130の下流側に接続される。バルブ130は、流路の開閉をする。バルブ130が開かれるとバルブ130の上流の液体が下流側へ流れる。バルブ130が閉じられると、液体の流れが止められる。
【0023】
バルブ130の開閉は、コントローラ200によって制御される。コントローラ200は、配管構造における液体の流れを制御する。コントローラ200は、例えば、微生物燃料電池10の出力に基づいて、バルブ130の開閉を制御する制御信号を出力することができる。コントローラ200は、一例として、配管パイプ型微生物燃料電池10内部の液体の有機物の量が基準値未満になったことを、配管パイプ型微生物燃料電池10の発電量に基づいて検出し、配管パイプ型微生物燃料電池10内部の液体の有機物の量が基準値未満になると、バルブ130を開き、液体を排出するよう制御することできる。
【0024】
なお、バルブ130は、配管パイプ型微生物燃料電池10上流側に設けられていてもよいし、配管パイプ型微生物燃料電池10の上流側及び下流側の両方に設けられていてもよい。
【0025】
配管パイプ型微生物燃料電池10は、パイプ本体20を備える。パイプ本体20は、通常の配管パイプと同様の材質及び形状で構成され得る。パイプ本体20は、その内部を液体が流れる。パイプ本体20は、他の第1配管パイプ110に接続される第1端22Aと、他の第2配管パイプ120に接続される第2端22Bと、を備える。パイプ本体20は、ストレート形状であってもよいし、L字状又はU字状などの屈曲形状であってもよい。
【0026】
ここで、パイプは、液体を流すための中空構造を有する構造体全般を指し、「チューブ」を含むものとする。パイプ本体20の材質は、屈曲しない硬質材料であってもよいし、屈曲し得る軟質材料であってもよい。パイプ本体20の流路径は特に限定されない。
【0027】
第1端22Aは、第1配管パイプ110に接続するための継手を一体的に備え、その継手を介して、第1配管パイプ110に接続される接続端である。あるいは、第1端22Aは、一体的な継手を備えておらず、別体の継手を介して、第1配管パイプ110に接続される接続端である。
【0028】
第2端22Bは、第2配管パイプ120に接続するための継手を一体的に備え、その継手を介して、第2配管パイプ120に接続される接続端である。あるいは、第2端22Bは、一体的な継手を備えておらず、別体の継手を介して、第2配管パイプ120に接続される接続端である。
【0029】
微生物燃料電池10は、アノード30A及びカソード30Bを備える。アノード30Aは、液中の微生物が有機物を分解することで発生する電子を回収する。アノード30Aにおいて発生したプロトン(H+)は、液中を、カソード30Bへ移動する。プロトンは、アノード30Aからカソード30Bへ移動した電子、及び、カソード30B付近の酸素と反応して、水になる。したがって、微生物燃料電池10を利用すると、液中の有機物を利用して発電できる。また、液中の有機物が分解されることにより、液が浄化される。
【0030】
実施形態の微生物燃料電池10のアノード30A及びカソード30Bは、一例として、発電量に応じたセンサ出力信号を発生するセンサのセンサ素子として利用され得る。
【0031】
微生物燃料電池10は、アノード30A及びカソード30Bに接続された負荷40を備える。負荷40は、発電された電力を消費する。負荷40は、一例として、センサ回路40である。センサ回路40は、発電量に応じたセンサ出力信号を出力する。液体中の有機物の量が多いほど微生物による発電量が増加するため、センサ出力信号は、パイプ型微生物燃料電池10内部の液体の有機物の量に応じた信号になり得る。センサ回路40は、有線通信又は無線通信によって、センサ出力信号をコントローラ200へ送信する通信回路を有し得る。
【0032】
図2から図5は、パイプ型微生物燃料電池10の構造の一例を示している。図示のパイプ型微生物燃料電池10は、パイプ本体20と、パイプ本体20内に設けられた電極装置30と、を備える。パイプ本体20は、一例として、円筒状である。電極装置30は、電極30A,30Bの支持体31と、支持体31に支持されたアノード30A及びカソード30Bと、を備える。すなわち、アノード30A及びカソード30Bは、支持体31を介して、パイプ本体20内面に沿って設けられている。アノード30A及びカソード30Bがパイプ本体20内面に沿って設けられていることで、アノード30A及びカソード30B、液体の流れを阻害することが少ない。また、アノード30A及びカソード30Bがパイプ本体20内面に沿って設けられていることで、アノード30A及びカソード30Bが液体に接する面積を大きくするのが容易である。
【0033】
支持体31は、パイプ本体20の内面に装着可能な形状を有する。例えば、パイプ本体20が円筒状である場合、支持体31も円筒状であり、その外周面が、パイプ本体20の内周面に接するように内嵌される。図2に示すように、電極装置30は、パイプ本体20の第1端22A(又は第2端22B)から、パイプ本体20内に挿入されて、パイプ本体20に取り付けられる。パイプ本体20と内周面と、支持体31の外周面とは、例えば、接着剤により接着される。
【0034】
電極装置30は、パイプ本体20から取り外し可能に、パイプ本体20に取り付けられてもよい。この場合、電極装置30の交換が可能になる。アノード30A及びカソード30Bは支持体31によって一体的な構造物として構成されているため、電極装置30全体をパイプ本体20から取り外すことで、アノード30A及びカソード30Bをパイプ本体20から容易に取り外すことができる。
【0035】
支持体31は、アノード30Aを支持するアノード支持体と、カソード30Bを支持するカソード支持体と、で構成されていてもよい。アノード支持体とカソード支持体とは別体として構成され得る。この場合、アノード30Aとカソード30Bとを別々に交換することが可能になる。
【0036】
支持体31は、両端33A,33Bが開口した筒状であり、内部空間32を有する。パイプ本体20の第1端22Aから流入した液体は、支持体第1端33Aの開口を通って支持体31の内部空間32を流れ、支持体第2端33B及びパイプ本体第2端22Bを通って流出する。なお、支持体31の内径(流路径)は、他の配管パイプ110,120の内径と同じ、又は他の配管パイプ110,120の内径よりも大きいのが好ましい。この場合、電極装置30によって液体の流れが阻害されるのが防止される。
【0037】
図4に示すように、電極装置30は、パイプ本体20の内面全周にわたって取り付けられている。また、アノード30Aは、支持体31の内面全周にわたって取り付けられている。したがって、アノード30Aは、パイプ本体20の内面全周に設けられている。カソード30Bも同様に、パイプ本体20の内面全周に設けられている。アノード30A及びカソード30Bそれぞれが、パイプ本体20の内面全周に設けられていることで、配管パイプ型微生物燃料電池10の設置時に、周方向のいずれの位置が下側になっても、内部の液体がアノード30A及びカソード30Bに接することができる。
【0038】
また、カソード30Bがパイプ本体の内面全周に設けられていることで、カソード30Bの周方向のいずれかの位置が上側に位置する。上側に位置するカソード30Bには、パイプ型微生物燃料電池10内において液体とともに存在する空気が接しやすく、カソード30Bへの酸素の供給に有利である。なお、周方向の一部にアノード30Aが設けられ、周方向の他の一部にカソード30Bが設けられていてもよい。
【0039】
図2に示すように、アノード30A及びカソード30Bは、支持体31の内面に形成された取付凹部31A,31Bに取り付けられている。アノード30Aの取付凹部31Aは、支持体31の上流側に形成されている。カソード30Bの取付凹部31Bは、取付凹部31Aから間隔をおいて、支持体31の下流側に形成されている。取付凹部31A,31Bは、支持体31の内面全周にわたる円環溝である。
【0040】
アノード30A及びカソード30Bそれぞれは、取付凹部31A,31Bに取り付けられるように円環状に形成されており、それらの内部空間30A-1,30B-1を液体が流れる。アノード30A及びカソード30Bは、それらの内面が、アノード30A及びカソード30Bが存在しない範囲の支持体31の内面と段差が生じないように配置される。したがって、アノード30A及びカソード30Bの内部空間30A-1,30B-1の内径と、アノード30A及びカソード30Bが存在しない範囲の支持体31の内径とは、ほぼ同一である。これらの内径がほぼ同一であることで、流体の流れがアノード30A及びカソード30Bによって阻害されるのを防止できる。
【0041】
図示のようにアノード30Aは、カソード30Bの上流側に設けられているのが好ましい。アノード30Aが上流側にあると、アノード30Aにおいて発生したプロトンが、液体の流れによって、カソード30Bに到達できる。したがって、液体の流れが、プロトンの移動を妨げない。
【0042】
図2に示すように、配管パイプ型微生物燃料電池10は、アノード30A及びカソード30Bそれぞれから延びる端子41,42を備える。端子41,42は、アノード30A及びカソード30Bを負荷40に対して電気的に接続する。端子41,42は、支持体に設けられた挿通孔34A,34B及びパイプ本体20に設けられた挿通孔24A,24Bを介して、パイプ本体20に外に延出している。したがって、パイプ本体20外に設けられた負荷40に、パイプ本体20内のアノード30A及びカソード30Bを接続することできる。挿通孔24A,24Bは、端子41,42の周囲において、パイプ本体20からの液体の流出を防止するようシール部26A,26Bによって密封される。なお、負荷40は、パイプ本体20に一体的に取り付けられていてもよいし、パイプ本体20とは別体として設けられていてもよい。
【0043】
カソード30Bは、カソード30Bにおける酸化還元反応の促進のため酸化還元触媒を有するのが好ましい。カソード30Bが酸化還元触媒を有することで、微生物燃料電池10の出力が向上する。カソード30Bが強い酸化還元作用を有することで、配管パイプ内のように酸素が乏しい環境においても出力低下を抑制できる。また、カソード30Bは、抗菌作用(殺菌作用)を有するのが好ましい。カソード30Bが抗菌作用を有していると、カソード30Bに微生物が付着(バイオフィルムが形成)するのを低減又は防止できる。カソード30Bにバイオフィルムが形成されると、出力が低下するが、カソード抗菌作用によって出力低下を抑制できる。
【0044】
カソード30Bに含まれる触媒は、酸化還元作用及び抗菌作用の両方を有するのが好ましい。カソード30Bは、酸化還元触媒となる物質(例えば、プラチナ)と、抗菌作用を有する物質(例えば、銅)と、をそれぞれ含有していてもよいが、触媒が、酸化還元作用だけでなく、抗菌作用も有しているのが好ましい。
【0045】
触媒は、コバルト-マンガン系触媒(コバルト-マンガン系化合物)であるのが好ましい。コバルト-マンガン系の化合物は、酸化還元作用及び抗菌作用(殺菌作用)を有する。コバルト-マンガン系触媒は、プラチナに比べて安価であり、有利である。コバルト-マンガン触媒は、例えば、コバルト-酸化マンガン触媒である。コバルト-酸化マンガン触媒は、例えば、コバルト-二酸化マンガン触媒である。
【0046】
触媒は、好ましくは、Co-δ-MnO2/C触媒である。Co-δ-MnO2/Cは、コバルト-二酸化マンガンであるCo-δ-MnO2と、炭素Cと、の混合物である。炭素Cも触媒作用を有する。炭素Cは、電極としても作用する。
【0047】
Co-δ-MnO2は、バーネサイト型MnO2(δ-MnO2)にコバルトCoをインターカレーションしたものである。
【0048】
Co-δ-MnO2/Cは、例えば、以下のようにして作製される。
(1)KMnO4 0.79gを脱イオン水50mlに加え、30分間撹拌(400rpm)する。
(2)前記(1)に0.1 mol/lのCo(NO3)2 6H2O水溶液67.8mlを滴下し、70℃で1時間攪拌(400rpm)する。
(3)前記(2)にカーボンブラック0.5gを加え、溶液が紫色から黒色になるまで攪拌(400rpm)する。
(4)生成物を遠心分離で取り出す。
(5)60℃で乾燥させる。
【0049】
以下、微生物燃料電池10におけるアノード30A及びカソードの30Bの作製方法の一例を説明する。アノード30A及びカソードの30Bは、ベース材300としてのウレタンフォームシート(図2参照)に電極材料を塗布し、乾燥させて構成し得る。ウレタンフォームは液体が進入可能であるとともに、多孔3次元構造を有するため、電極表面積を大きくできる。
【0050】
アノード30Aの電極材料は、カーボンファイバー(CF)2g、活性炭粒子(ACP)2g、カーボンナノチューブ(CNT)分散液10mlである。これらの電極材料を20分間混合し、得られた混合液を、5mmの厚さのウレタンフォームシートに塗布し、ウレタンフォームをコーティングした。その後、真空乾燥機で40℃・24時間乾燥した。以上の方法によって、アノード30Aが得られる。
【0051】
カソード30Bの電極材料は、Co-δ-MnO2/C触媒1gと、カーボンナノチューブ分散液10mlである。Co-δ-MnO2/C触媒は、前述の作製方法によって作成されたものを用い得る。これらの電極材料を20分間混合し、得られた混合液を、5mmの厚さのウレタンフォームシートに塗布し、ウレタンフォー ムをコーティングした。その後、真空乾燥機で40℃・24時間乾燥した。以上の方法によって、触媒を有するアノード30Aが得られる。
【0052】
<3.実験>
【0053】
上記のようにして作製されたアノード30A及びカソード30Bを用いて、図2図5に示す配管パイプ型微生物燃料電池10を製造した。製造された配管パイプ型微生物燃料電池10を用いて、発電の実験を行った。なお、実験においては、土壌中のバクテリアを発電に利用するため、アノード30Aには、5mlの泥水を付着させた。
【0054】
実験は、実験室で行うため、図1に示すような配管構造100は構築せず、閉じたバルブ130を模すためパイプ本体20の下流側端22Bを蓋で閉じた。また、パイプ本体20の上流側端22AにL字状継手を取り付けた。実験では、配管パイプ型微生物燃料電池10を水平に設置し、L字状継手の一方の開口が上向きになるようにした。L字状継手の一方の開口は、液体の注入口として利用した。
【0055】
実験においては、L字状継手の一方の開口から、LB培養液を配管パイプ型微生物燃料電池10内に注入した。LB培養液は、所定の化学的酸素要求量CODを有する廃液を模したものである。LB培養液は、10g/lグルコース、10g/lトリプトン、5g/l酵母エキス、10g/l塩化ナトリウム、及び水酸化ナトリウムを含有する溶液である。なお、水酸化ナトリウムは、LD培養液のpHを7.0に調整するためのものである。作製したLD培養液は、オートクレーブを用いて滅菌処理を施した。
【0056】
このLB培養液を精製水に添加し、濃度を1%、2%、3%、4%、5%に調製した。濃度1%のLB培養液は化学的酸素要求量CODが200mg/l、濃度2%のLB培養液は化学的酸素要求量CODが300mg/l、濃度3%のLB培養液は化学的酸素要求量CODが300mg/l、濃度4%のLB培養液は化学的酸素要求量CODが800mg/l、濃度5%のLB培養液は化学的酸素要求量CODが1000mg/lに相当する。
【0057】
実験では、最も酸素が少なくなる環境を再現するため、配管パイプ型微生物燃料電池10の内部を全て、LB培養液で満たし、配管パイプ型微生物燃料電池10内部に空気がたまっている部分がないようにした。具体的には、L字状継手の一方の上向き開口から、LB培養液があふれるまで、当該開口からLB培養液を、配管パイプ型微生物燃料電池10内に注入した。
【0058】
端子41,42には、10kΩ抵抗を負荷40として接続し、負荷の両端電圧(微生物燃料電池10の発電電圧)を測定した。実験時の温度は、25℃から26℃とした。
【0059】
図6及び図7は、実験結果を示す。図6は、微生物燃料電池10の発電電圧の変化を示す。図6において、横軸は、時間(日)であり、縦軸は、電圧である。実験では、初日(0日目)に、CODが1000mg/lに相当する5%LB培養液を配管パイプ型微生物燃料電池10内に満たし、放置した。図6に示すように、5日目まで発電量が徐々に増加している。これは、微生物の増加により、発電量が増加したものと考えられる。
【0060】
5日目に、CODが400mg/lに相当する2%LB培養液を、L字状継手の一方の上向き開口から継ぎ足した。LB培養液の継ぎ足しによって、元々、配管パイプ型微生物燃料電池10内にあったLB培養液がL字状継手の上向き開口からあふれ出るため、配管パイプ型微生物燃料電池10内にあったLB培養液を、2%LB培養液に置換することができる。2%LB培養液は、配管パイプ型微生物燃料電池10内にあったLB培養液が、2%LB培養液におおむね置換されるまで、注入した。
【0061】
5日目の2%LB培養液の注入によって、発電量が低下した。発電量の低下はその後も緩やかに続いた。したがって、CODの低下によって、発電量が低下することが確認できた。
【0062】
10日目に、再度、CODが400mg/lに相当する2%LB培養液を注入した。再度注入する2%LB培養液は、配管パイプ型微生物燃料電池10内にあったLB培養液が、再度注入する2%LB培養液におおむね置換されるまで、注入した。
【0063】
10日目の2%LB培養液の注入によって、さらに発電量が低下した。この発電量の低下は、LB培養液の置換による微生物の減少が原因であると考えられる。発電量の低下はその後も緩やかに続いた。
【0064】
17目に、CODが600mg/lに相当する3%LB培養液を注入した。注入する3%LB培養液は、配管パイプ型微生物燃料電池10内にあったLB培養液が、注入する3%LB培養液におおむね置換されるまで、注入した。
【0065】
3%LB培養液の注入によって、発電量の増加がみられた。したがって、CODの増加によって、発電量が、増加することが確認できた。
【0066】
20目に、CODが800mg/lに相当する4%LB培養液を注入した。注入する4%LB培養液は、配管パイプ型微生物燃料電池10内にあったLB培養液が、注入する4%LB培養液におおむね置換されるまで、注入した。
【0067】
4%LB培養液の注入によって、発電量の増加がみられた。したがって、CODの増加によって、発電量が、増加することが確認できた。
【0068】
24目に、CODが1000mg/lに相当する5%LB培養液を注入した。注入する5%LB培養液は、配管パイプ型微生物燃料電池10内にあったLB培養液が、注入する6%LB培養液におおむね置換されるまで、注入した。
【0069】
6%LB培養液の注入によって、発電量の増加がみられた。したがって、CODの増加によって、発電量が、増加することが確認できた。
【0070】
31目に、CODが5mg/lに相当する水道水を注入した。注入する水道水は、配管パイプ型微生物燃料電池10内にあったLB培養液が、注入する水道水におおむね置換されるまで、注入した。
【0071】
水道水の注入によって、発電量の低下がみられた。したがって、CODの低下によって、発電量が、低下することが確認できた。
【0072】
33目に、CODが200mg/lに相当する1%LB培養液を注入した。注入する1%LB培養液は、配管パイプ型微生物燃料電池10内にあった水道水が、注入する1%LB培養液におおむね置換されるまで、注入した。
【0073】
1%LB培養液の注入によって、発電量の増加がみられた。したがって、CODの増加によって、発電量が、増加することが確認できた。
【0074】
334に、CODが400mg/lに相当する2%LB培養液を注入した。注入する2%LB培養液は、配管パイプ型微生物燃料電池10内にあったLB培養液が、注入する2%LB培養液におおむね置換されるまで、注入した。
【0075】
2%LB培養液の注入によって、発電量の増加がみられた。したがって、CODの増加によって、発電量が、増加することが確認できた。
【0076】
図7は、微生物燃料電池10の発電電力(P)及び電力密度(PD)を示している。図7(A)において、横軸は電流を示し、縦軸は電力を示す。図7(B)において、横軸は電流密度を示し、縦軸は電力密度を示す。電力密度は、電力をアノードの面積で割ったものである。実験で用いた微生物燃料電池10は、図7に示す発電特性を有することがわかる。したがって、微生物燃料電池10によって、廃液から電力エネルギーを取り出すことができる。
【0077】
以上のように、配管パイプ型微生物燃料電池10内に、有機物を含む液体が存在することで、発電ができることが確認できた。実験では、配管パイプ型微生物燃料電池10内を液体で満たし、空気が存在しないようにしたが、液体に含まれる酸素を利用して、発電に成功した。カソード30Bは、酸素を得るため、空気に触れていた方がよいが、カソード30Bが、強い酸素還元作用を有する触媒を有していることで、液体中の酸素によって、発電が可能になることが確認できた。また、カソード30Bの触媒は、抗菌作用も有するため、バイオフィルム形成を防止でき、長期間の発電が可能であることも確認できた。
【0078】
なお、実験では、最も酸素が少なくなる環境を模擬するため、配管パイプ型微生物燃料電池10内を液体で満たしたが、実際の使用環境では、配管パイプ型微生物燃料電池10内に空気が存在することもある。空気が存在する場合には、より効率的に発電できる。なお、配管パイプ型微生物燃料電池10内の液体、又は、配管パイプ型微生物燃料電池10内よりも上流の配管パイプ110に空気を注入する注入装置を備えていてもよい。空気の積極的な注入によって、効率的に発電できる。
【0079】
さらに、実験では、配管パイプ型微生物燃料電池10内の液体のCODの増減によって、発電量が増減することが確認できた。したがって、配管パイプ型微生物燃料電池10は、センサとしての利用が可能である。
【0080】
<4.電極配置例>
【0081】
図8(A)(B)(C)それぞれは、配管パイプ型微生物燃料電池10におけるアノード30A及びカソード30Bの配置のバリエーションを示している。図8(A)に示す第1例では、アノード30A及びカソード30Bは、液体の流れる方向において、交互に設けられている。複数のアノード30Aは並列に負荷40に接続されている。複数のカソード30Bも並列に負荷40に接続されている。複数のアノード30A及びカソード30Bが交互に配置されていることで、液体の流れる方向を広範囲に利用して発電できる。
【0082】
図8(B)に示す第2例は、並列接続された複数のアノード30Aの下流に、並列接続された複数のカソード30Bが配置されている。第2例によれば、上流側の広い範囲をアノード30Aの領域として利用し、下流側の広い領域をカソード30Bの領域として利用できる。
【0083】
図8(C)に示す第3例でも、第1例と同様に、アノード30A及びカソード30Bは、液体の流れる方向において、交互に設けられている。第3例では、アノード30Aとカソード30Bとの第1の組が第1負荷40Aに接続されており、アノード30Aとカソード30Bとの第2の組が第2負荷40Bに接続されており、アノード30Aとカソード30Bとの第3の組が第3負荷40Cに接続されている。この場合、複数の負荷40A,40B,40Cに電力を供給できる。
【0084】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0085】
10 :配管パイプ型微生物燃料電池
20 :パイプ本体
22A :第1端
22B :第2端
24A :挿通孔
24B :挿通孔
26A :シール部
26B :シール部
30 :電極装置
30A :アノード
30A-1 :内部空間
30B :カソード
30B-1 :内部空間
31 :支持体
31A :取付凹部
31B :取付凹部
32 :内部空間
33A :支持体第1端
33B :支持体第2端
34A :挿通孔
34B :挿通孔
40 :負荷
40A :第1負荷
40B :第2負荷
40C :第3負荷
41 :端子
42 :端子
50 :配管システム
100 :配管構造
110 :第1配管パイプ
120 :第2配管パイプ
130 :バルブ
140 :第3配管パイプ
200 :コントローラ
300 :ベース材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8