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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180187
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
B60L15/20 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099677
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】川西 裕士
(72)【発明者】
【氏名】田端 淳
(72)【発明者】
【氏名】奥田 弘一
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125CA01
5H125EE41
(57)【要約】
【課題】アップレンジ操作時の応答感を改善することができる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】手動操作によってシフトポジションのハイ側への切換えが選択されたときには、切換え前と切換え後との駆動トルク特性における要求駆動トルクの差に基づいて、シフトポジションの切換え直後から一時的に要求駆動トルクを、切換え後の駆動トルク特性における要求駆動トルクの値よりも減少させる、アンダーシュート制御が実施される。これにより、シフトポジションの切換え直後の要求駆動トルクを切換え後の要求駆動トルクに対して一時的に落ち込ませることができ、アップレンジ操作に伴う実際の駆動トルク段差が適切に得られる。よって、アップレンジ操作時の応答感を改善することができる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と、前記電動機の動力を駆動輪へ伝達する動力伝達装置と、前記電動機と前記動力伝達装置とを含む駆動装置の複数のシフトポジションを択一的に切り換える為に手動操作されるシフト切換装置と、を備えた車両の、制御装置であって、
前記シフトポジション毎に予め定められた、車速とアクセル操作量とで要求駆動トルクが求められると共に前記車速及び前記アクセル操作量が同じときの前記要求駆動トルクは前記シフトポジションのロー側の方がハイ側の方に比べて増加させられている駆動トルク特性を記憶しており、
前記シフト切換装置によって選択された前記シフトポジションに合わせて前記駆動トルク特性を切り換えるものであり、
手動操作によって前記シフトポジションの前記ハイ側への切換えが選択されたときには、切換え前と切換え後との前記駆動トルク特性における前記要求駆動トルクの差に基づいて、前記シフトポジションの切換え直後から一時的に前記要求駆動トルクを、前記切換え後の前記駆動トルク特性における前記要求駆動トルクの値よりも減少させる、アンダーシュート制御を実施することを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機を備えた車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動機と、前記電動機の動力を駆動輪へ伝達する動力伝達装置と、前記電動機と前記動力伝達装置とを含む駆動装置の複数のシフトポジション(シフトレンジも同義)を択一的に切り換える為に手動操作されるシフト切換装置と、を備えた車両の制御装置が良く知られている。例えば、特許文献1に記載されたモータトルク制御装置がそれである。この特許文献1には、車速とアクセル操作量とで駆動トルクの目標値(要求値も同義)が求められる特性(マップ)がシフトレンジ毎に予め設定されていること、又、ローレンジのマップはドライブレンジ(ハイレンジ)のマップに対して車速及びアクセル操作量が同じであれば駆動トルクの目標値が大きな値となるように設定されていることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-77585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、シフト切換装置によってつまり手動操作によってシフトレンジの切換えを行う場合、マップの切換えに伴う駆動トルクの差である駆動トルク段差によっては、例えばシフトレンジをハイ側に切り換えるアップレンジ操作を行ったのに、駆動トルクの反応(変化、応答も同義)がないように(又は反応が少ないように)感じるおそれがある。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、アップレンジ操作時の応答感を改善することができる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明の要旨とするところは、(a)電動機と、前記電動機の動力を駆動輪へ伝達する動力伝達装置と、前記電動機と前記動力伝達装置とを含む駆動装置の複数のシフトポジションを択一的に切り換える為に手動操作されるシフト切換装置と、を備えた車両の、制御装置であって、(b)前記シフトポジション毎に予め定められた、車速とアクセル操作量とで要求駆動トルクが求められると共に前記車速及び前記アクセル操作量が同じときの前記要求駆動トルクは前記シフトポジションのロー側の方がハイ側の方に比べて増加させられている駆動トルク特性を記憶しており、(c)前記シフト切換装置によって選択された前記シフトポジションに合わせて前記駆動トルク特性を切り換えるものであり、(d)手動操作によって前記シフトポジションの前記ハイ側への切換えが選択されたときには、切換え前と切換え後との前記駆動トルク特性における前記要求駆動トルクの差に基づいて、前記シフトポジションの切換え直後から一時的に前記要求駆動トルクを、前記切換え後の前記駆動トルク特性における前記要求駆動トルクの値よりも減少させる、アンダーシュート制御を実施することにある。
【発明の効果】
【0007】
前記第1の発明によれば、手動操作によってシフトポジションのハイ側への切換えが選択されたときには、切換え前と切換え後との駆動トルク特性における要求駆動トルクの差に基づいて、シフトポジションの切換え直後から一時的に要求駆動トルクを、切換え後の駆動トルク特性における要求駆動トルクの値よりも減少させる、アンダーシュート制御が実施される。これにより、シフトポジションの切換え直後の要求駆動トルクを切換え後の要求駆動トルクに対して一時的に落ち込ませることができ、アップレンジ操作に伴う実際の駆動トルク段差が適切に得られる。よって、アップレンジ操作時の応答感を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図であると共に、車両における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
図2】シフト切換装置の一例を説明する図である。
図3】要求駆動トルクマップの一例を説明する図である。
図4】アンダーシュート制御の実施態様を設定する一例を説明する図である。
図5】電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、アップレンジ操作時の応答感を改善する為の制御作動を説明するフローチャートである。
図6図5のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例0010】
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、第1駆動装置12lと、第2駆動装置12rと、第1駆動輪14lと、第2駆動輪14rと、車体に取り付けられたケース16と、を備えている。第1駆動装置12lは車両10の前方に向かって左側つまり車幅方向の左側の駆動装置であり、第2駆動装置12rは車幅方向の右側の駆動装置である。第1駆動輪14lは車幅方向の左側の駆動輪であり、第2駆動輪14rは車幅方向の右側の駆動輪である。
【0011】
第1駆動装置12lは、第1電動機MG1と第1動力伝達装置18lとを備えている。第2駆動装置12rは、第2電動機MG2と第2動力伝達装置18rとを備えている。第1駆動装置12lと第2駆動装置12rとは、基本的には左右対称に構成されている。第1駆動装置12lと第2駆動装置12rとを特に区別しない場合には、駆動装置12と称する。第1駆動輪14lと第2駆動輪14rとを特に区別しない場合には、駆動輪14と称する。第1電動機MG1と第2電動機MG2とを特に区別しない場合には、電動機MGと称する。第1動力伝達装置18lと第2動力伝達装置18rとを特に区別しない場合には、動力伝達装置18と称する。
【0012】
電動機MGは、回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。電動機MGは、車両10に備えられたインバータ30を介して、車両10に備えられたバッテリ32に接続されている。バッテリ32は、電動機MGに対して電力を授受する蓄電装置である。電動機MGは、後述する電子制御装置80によってインバータ30が制御されることにより、電動機MGのトルクであるMGトルクTmgが制御される。電動機MGは、ケース16内に設けられている。車両10は、走行用の動力源として機能する電動機MGを備えた電動車両である。
【0013】
動力伝達装置18は、ケース16内に、平行軸歯車対であるカウンタギヤ20(第1カウンタギヤ20l、第2カウンタギヤ20r)と、ハイポイドギヤ22(第1ハイポイドギヤ22l、第2ハイポイドギヤ22r)と、を備えている。又、動力伝達装置18は、ドライブシャフト24(第1ドライブシャフト24l、第2ドライブシャフト24r)を備えている。
【0014】
カウンタギヤ20の一方のギヤの回転軸は、電動機MGのロータ軸に一体的に連結されている。カウンタギヤ20の他方のギヤの回転軸は、ハイポイドギヤ22の一方のギヤの回転軸に一体的に連結されている。ハイポイドギヤ22の他方のギヤの回転軸は、ドライブシャフト24に一体的に連結されている。動力伝達装置18は、電動機MGの動力を、カウンタギヤ20、ハイポイドギヤ22、ドライブシャフト24等を介して駆動輪14へ伝達する。カウンタギヤ20は、減速装置として機能する。ハイポイドギヤ22は、減速しながら駆動輪14に動力を伝える。尚、駆動輪14は前輪であっても良いし、後輪であっても良い。
【0015】
図2は、シフト切換装置の一例を説明する図である。車両10は、図2の(a)に示すように、複数の操作ポジションPOSopのうちの何れかへ運転者によって操作される不図示の操作部材を有するシフト装置50を備えている。シフト装置50は、駆動装置12の複数のシフトポジション(シフトレンジRshも同義)を択一的に切り換える為に手動操作されるシフト切換装置の一例である。操作ポジションPOSopは、シフトレンジRshの選択状態を表す信号であり、例えばP、R、D、+、-操作ポジション等を含んでいる。シフトレンジRshは、駆動装置12の動力伝達状態を表しており、例えばP、R、D、3、2、Lレンジ等を含んでいる。P(パーキング)操作ポジションは、駆動装置12がニュートラル状態とされ且つ駆動輪14と共に回転する回転部材が回転不能に機械的に固定された、駆動装置12のPレンジの選択状態を表す。R(後進走行)操作ポジションは、後進走行を可能とする駆動装置12のRレンジの選択状態を表す。D(前進走行)操作ポジションは、前進走行を可能とする駆動装置12のDレンジの選択状態を表す。+操作ポジションは、前進走行を可能とする駆動装置12のD、3、2、Lレンジつまり前進走行レンジにおいて、シフトレンジRshをハイ側(高車速側)つまりハイレンジ側へ切り換える選択状態を表す。ハイレンジ側への切換えは、例えばシフトレンジRshをLレンジから2レンジに切り換えたり、2レンジから3レンジに切り換えたりするアップレンジである。-操作ポジションは、前進走行レンジにおいて、シフトレンジRshをロー側(低車速側)つまりローレンジ側へ切り換える選択状態を表す。ローレンジ側への切換えは、例えばシフトレンジRshをDレンジから3レンジに切り換えたり、3レンジから2レンジに切り換えたりするダウンレンジである。Dレンジは前進走行レンジのうちの最高速側(最ハイ側)のシフトレンジRshであり、Lレンジは前進走行レンジのうちの最低速側(最ロー側)のシフトレンジRshである。3、2、Lレンジは、+、-操作ポジションへの手動操作によって選択されるマニュアルレンジである。
【0016】
車両10は、図2の(b)に示すように、ステアリング52にマニュアルレンジを選択するマニュアル操作装置54を備えていても良い。マニュアル操作装置54は、シフトレンジRsh特にはマニュアルレンジを択一的に切り換える為に手動操作されるシフト切換装置の一例である。マニュアル操作装置54は、ステアリング52の表つまり運転者側に-スイッチ56が左右に設けられている。マニュアル操作装置54は、ステアリング52の裏に+スイッチ58が左右に設けられている。-スイッチ56はシフト装置50の-操作ポジションと同等の機能を有しており、+スイッチ58はシフト装置50の+操作ポジションと同等の機能を有している。-スイッチ56や+スイッチ58の各操作は、例えばDレンジ中に有効とされ、その操作によってマニュアルレンジが切り換えられる。
【0017】
図1に戻り、車両10は、電動機MGなどの制御に関連する車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置80を備えている。電子制御装置80は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されている。電子制御装置80は、RAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従ってCPUが信号処理を行うことにより車両10の各種制御を行う。
【0018】
電子制御装置80には、車両10に備えられた各種センサ等(例えば-スイッチ56、+スイッチ58、車速センサ60、MG1回転速度センサ62、MG2回転速度センサ64、アクセル開度センサ66、ブレーキペダルセンサ68、操作ポジションセンサ70など)による検出値に基づく各種信号等(例えば-スイッチ(ダウンレンジ)信号Sdr、+スイッチ(アップレンジ)信号Sur、車速V、MG1回転速度Nmg1、MG2回転速度Nmg2、運転者によるアクセル操作量としてのアクセル開度θacc、ブレーキオン信号Bon、操作ポジションPOSopなど)が、それぞれ供給される。電子制御装置80からは、車両10に備えられた各装置(例えばインバータ30など)に各種指令信号(例えばMG制御指令信号Smgなど)が、それぞれ出力される。
【0019】
電子制御装置80は、車両10における各種制御を実現する為に、電動機制御部82を備えている。電動機制御部82は、例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで、運転者による車両10に対する駆動要求量を算出する。前記駆動要求量は、例えば車両10に対して要求される駆動トルクTrすなわち駆動輪14における要求駆動トルクTrdem[Nm]などである。電動機制御部82は、要求駆動トルクTrdemを実現するようにMG制御指令信号Smgを出力する。
【0020】
前記駆動要求量マップは、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された、すなわち予め定められた、前記駆動要求量を求める為の関係であって、例えば要求駆動トルクマップMAPtrである。電子制御装置80は、要求駆動トルクマップMAPtrを記憶している。要求駆動トルクマップMAPtrは、車速Vとアクセル開度θaccとで要求駆動トルクTrdemが求められる駆動トルク特性であって、シフトレンジRsh毎に異なる駆動トルク特性が設定されている。
【0021】
図3は、要求駆動トルクマップMAPtrの一例を説明する図である。図3の(a)は、例えばDレンジのときに用いられる要求駆動トルクマップMAPtrである。図3の(a)において、要求駆動トルクマップMAPtrは、横軸を車速Vとし、縦軸を要求駆動トルクTrdemとする二次元座標上に、車速Vとアクセル開度θaccとで変化させられる要求駆動トルクTrdemを求める為の予め定められた関係である。
【0022】
図3の(b)は、例えばアクセル開度θaccが50[%]の場合の、Dレンジ及びマニュアルレンジ(3、2、Lレンジ)のときに各々用いられる要求駆動トルクマップMAPtrである。図3の(b)において、太線で示すDレンジの場合が基準となる要求駆動トルクマップMAPtrである。マニュアルレンジでの要求駆動トルクマップMAPtrは、Dレンジでの要求駆動トルクマップMAPtrに対して、車速Vが同じであれば要求駆動トルクTrdemの設定が大きくされている。マニュアルレンジでの要求駆動トルクマップMAPtrでは、車速Vが同じであれば、ローレンジ側(Lレンジ側)ほど要求駆動トルクTrdemが順に大きな設定とされている。図示はしていないが、シフトレンジRsh毎の要求駆動トルクマップMAPtrの設定は、アクセル開度θaccが50[%]以外の場合も同様の傾向である。このように、要求駆動トルクマップMAPtrでは、車速V及びアクセル開度θaccが同じときの要求駆動トルクTrdemはローレンジ側の方がハイレンジ側の方に比べて増加させられている。
【0023】
電動機制御部82は、シフト装置50やマニュアル操作装置54によって選択されたシフトレンジRshに合わせて要求駆動トルクマップMAPtrを切り換える。例えば、Dレンジのときに、シフト装置50の-操作ポジションへの手動操作又はマニュアル操作装置54の-スイッチ56の手動操作、つまりダウンレンジ操作が1回行われると、3レンジの要求駆動トルクマップMAPtrが用いられ、更に、ダウンレンジ操作が1回行われると、2レンジの要求駆動トルクマップMAPtrが用いられる。又、2レンジのときに、シフト装置50の+操作ポジションへの手動操作又はマニュアル操作装置54の+スイッチ58の手動操作、つまりアップレンジ操作が1回行われると、3レンジの要求駆動トルクマップMAPtrが用いられる。
【0024】
ところで、アップレンジ操作が行われたときに、要求駆動トルクマップMAPtrの切換えに伴う駆動トルク段差ΔTrdemによっては、アップレンジ操作を行ったのに反応がないように感じる可能性があった。駆動トルク段差ΔTrdemは、元のシフトレンジRsh(切換え前のシフトレンジRsh)での要求駆動トルクマップMAPtrにおける要求駆動トルクTrdemと、切換え後のシフトレンジRshでの要求駆動トルクマップMAPtrにおける要求駆動トルクTrdemと、の差である。シフトレンジRshの切換え時の応答感の改善が望まれる。
【0025】
そこで、電動機制御部82は、手動操作によってアップレンジが選択されたときには、つまりアップレンジ操作が行われたときには、駆動トルク段差ΔTrdemに基づいて、駆動トルクTrのアンダーシュート制御CNusを実施する。アンダーシュート制御CNusは、シフトレンジRshの切換え直後から一時的に要求駆動トルクTrdemを、切換え後のシフトレンジRshでの要求駆動トルクマップMAPtrにおける要求駆動トルクTrdemの値よりも減少させる制御である。シフトレンジRshの切換え直後に駆動トルクTrを一時的に減少させることによって、応答感を改善することができる。
【0026】
電動機制御部82は、アンダーシュート制御CNusが必要であるか否かを判定する。電動機制御部82は、駆動トルク段差ΔTrdemが、シフトレンジRshの切換え時の応答感が十分に得られる程の駆動トルク段差ΔTrdem以上である場合は、アンダーシュート制御CNusが必要でないと判定する。又、電動機制御部82は、駆動トルク段差ΔTrdemが、元々アップレンジ感がそれほど期待されないような所定の運転状態となる程の駆動トルク段差ΔTrdem以下である場合は、アンダーシュート制御CNusが必要でないと判定する。
【0027】
電動機制御部82は、アンダーシュート制御CNusの終了後、要求駆動トルクTrdemを、切換え後のシフトレンジRshでの要求駆動トルクマップMAPtrにおける要求駆動トルクTrdemの値に戻す。これにより、アップレンジ後の本来の駆動トルクTrが得られ易くされる。尚、要求駆動トルクマップMAPtrにおける要求駆動トルクTrdemは、前述の通り、車速Vなどによって決められる。
【0028】
図4は、アンダーシュート制御CNusの実施態様を設定する一例を説明する図である。図4の(a)は、アンダーシュート制御CNusにおけるアンダーシュートトルクTusを求める為の予め定められたアンダーシュートトルク率マップである。アンダーシュートトルクTusは、シフトレンジRshの切換え後の要求駆動トルクTrdemよりも一時的に減少させたトルクの最大値である(後述の図6参照)。アンダーシュートトルク率マップは、横軸を駆動トルク段差ΔTrdemとし、縦軸をアンダーシュートトルク率Rtusとする二次元座標上に、駆動トルク段差ΔTrdemで変化させられるアンダーシュートトルク率Rtusを求める為の予め定められた関係である。アンダーシュートトルク率Rtusは、「アンダーシュートトルクTus/シフトレンジRshの切換え後の要求駆動トルクTrdem」である。駆動トルク段差ΔTrdemが大きければ、アンダーシュート制御CNusの必要性は低くされる。アンダーシュートトルク率マップでは、駆動トルク段差ΔTrdemが大きい程、アンダーシュートトルク率Rtusは小さな値に設定されている。電動機制御部82は、駆動トルク段差ΔTrdemに基づいて、アンダーシュートトルク率Rtusを変化させる。
【0029】
図4の(b)は、アンダーシュート制御CNusにおけるアンダーシュート時間TMusを求める為の予め定められたアンダーシュート時間マップである。アンダーシュート時間TMusは、アンダーシュート制御CNusを実施する時間である(後述の図6参照)。アンダーシュート時間マップは、横軸を駆動トルク段差ΔTrdemとし、縦軸をアンダーシュート時間TMusとする二次元座標上に、駆動トルク段差ΔTrdemで変化させられるアンダーシュート時間TMusを求める為の予め定められた関係である。駆動トルク段差ΔTrdemが大きければ、アンダーシュート制御CNusの必要性は低くされる。アンダーシュート時間マップでは、駆動トルク段差ΔTrdemが大きい程、アンダーシュート時間TMusは短い値に設定されている。電動機制御部82は、駆動トルク段差ΔTrdemに基づいて、アンダーシュート時間TMusを変化させる。
【0030】
図5は、電子制御装置80の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、アップレンジ操作時の応答感を改善する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば繰り返し実行される。
【0031】
図5において、フローチャートの各ステップは電動機制御部82の機能に対応している。先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)S10において、アップレンジ操作が行われたか否かが判定される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS10の判断が肯定される場合はS20において、元のシフトレンジRsh(現在のシフトレンジRsh)、切換え後のシフトレンジRsh、車速V、アクセル開度θaccが読み込まれる。次いで、S30において、駆動トルク段差ΔTrdemが算出され、アンダーシュートトルク率Rtus及びアンダーシュート時間TMusが演算される。次いで、S40において、アンダーシュート制御CNusが必要であるか否かが判定される。駆動トルク段差ΔTrdemが十分大きい時はアンダーシュート制御CNusが実施されない。又、駆動トルク段差ΔTrdemが小さくても実施されない。このS40の判断が肯定される場合はS50において、アンダーシュート制御CNusが実施される。上記S40の判断が否定される場合はS60において、アンダーシュート制御CNusが実施されない。
【0032】
図6は、図5のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図である。図6において、横軸は時間、縦軸は過渡の要求駆動トルクTrdemの変化を示している。図6は、2レンジからマニュアル操作(アップレンジ操作)で3レンジに切り換えられた場合の一例である。要求駆動トルクTrdemは、車速Vやアクセル開度θaccで変化させられる。2レンジにてアップレンジ操作(マニュアルアップ)が行われると(t1時点参照)、3レンジへの切換えが行われる(t2時点参照)。この3レンジへの切換え時に、つまり要求駆動トルクTrdemの切換え時に、駆動トルク段差ΔTrdemを用いて算出されたアンダーシュートトルク率Rtus(つまりアンダーシュートトルクTus)及びアンダーシュート時間TMusにて、アンダーシュート制御CNusが実施される(t2時点-t3時点参照)。
【0033】
上述のように、本実施例によれば、アップレンジ操作が行われたときには、駆動トルク段差ΔTrdemに基づいて、駆動トルクTrのアンダーシュート制御CNusが実施される。これにより、シフトレンジRshの切換え直後の要求駆動トルクTrdemを切換え後の要求駆動トルクTrdemに対して一時的に落ち込ませることができ、アップレンジ操作に伴う実際の駆動トルク段差ΔTrdemが適切に得られる。よって、アップレンジ操作時の応答感を改善することができる。
【0034】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0035】
例えば、前述の実施例では、車両10は電気自動車であったが、この態様に限らない。例えば、動力源としてエンジン及び電動機を備えた、ハイブリッド方式の電動車両であっても、本発明を適用することができる。
【0036】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0037】
10:車両 12:駆動装置 14:駆動輪 18:動力伝達装置 50:シフト装置(シフト切換装置) 54:マニュアル操作装置(シフト切換装置) 80:電子制御装置(制御装置) MG:電動機
図1
図2
図3
図4
図5
図6