(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180194
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】医療システムおよび液体循環システム
(51)【国際特許分類】
A61M 1/18 20060101AFI20241219BHJP
A61M 1/36 20060101ALI20241219BHJP
A61M 25/00 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
A61M1/18 525
A61M1/36
A61M25/00 530
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099692
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098796
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 全
(74)【代理人】
【識別番号】100121647
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 和孝
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【弁理士】
【氏名又は名称】芳野 理之
(72)【発明者】
【氏名】北岡 孝史
【テーマコード(参考)】
4C077
4C267
【Fターム(参考)】
4C077AA03
4C077AA16
4C077BB06
4C077DD10
4C077DD19
4C077DD21
4C077EE04
4C077EE10
4C077FF02
4C077LL05
4C267AA04
4C267BB02
4C267BB10
4C267BB12
4C267CC12
4C267CC27
(57)【要約】
【課題】頭蓋内圧の変動を抑えつつ脳の治療領域に液体を効率的に送達できる医療システムおよび液体循環システムを提供すること。
【解決手段】医療システムは、体腔内に液体を注入しながら脳脊髄液を体腔内から排出する第1期間211と、体腔内に液体を注入せず、かつ、脳脊髄液を体腔内から排出しない第2期間212と、を設定し、第1期間211と第2期間212とを交互に繰り返す制御を実行する制御部を備える。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の脳脊髄液が存在する体腔内に液体を注入し、前記体腔内に存在する前記脳脊髄液を前記体腔内から排出する医療システムであって、
前記体腔内に前記液体を注入しながら前記脳脊髄液を前記体腔内から排出する第1期間と、
前記体腔内に前記液体を注入せず、かつ、前記脳脊髄液を前記体腔内から排出しない第2期間と、
を設定し、前記第1期間と前記第2期間とを交互に繰り返す制御を実行する制御部を備えたことを特徴とする医療システム。
【請求項2】
前記第1期間における前記液体の注入量は、前記第1期間における前記脳脊髄液の排出量と実質的に同じであることを特徴とする請求項1に記載の医療システム。
【請求項3】
前記第1期間の開始から前記第2期間の終了までの周期が、実質的に一定であることを特徴とする請求項1に記載の医療システム。
【請求項4】
前記第2期間の時間が、15秒以上であることを特徴とする請求項1に記載の医療システム。
【請求項5】
前記制御は、第1制御であり、
前記制御部は、
前記体腔内に前記液体を注入し、かつ、前記脳脊髄液を前記体腔内から排出しない第3期間と、
前記体腔内に前記液体を注入せず、かつ、前記脳脊髄液を前記体腔内から排出する第4期間と、
を設定し、前記第3期間と前記第4期間とを交互に繰り返し、前記第3期間における前記液体の注入量を前記第4期間における前記脳脊髄液の排出量と実質的に同じに設定する第2制御をさらに実行可能であり、前記第1制御および前記第2制御のいずれか一方を選択し実行することを特徴とする請求項1に記載の医療システム。
【請求項6】
前記体腔内に前記液体を注入する注入カテーテルと、
前記脳脊髄液を前記体腔内から排出する排出カテーテルと、
をさらに備え、
前記注入カテーテルの先端と、前記排出カテーテルの先端と、の間の距離は、前記制御の実行開始時において30センチメートル以下であることを特徴とする請求項1に記載の医療システム。
【請求項7】
液体を身体内に注入し、前記身体外に排出することで前記液体を循環させる液体循環システムであって、
前記液体を前記身体内に注入する注入カテーテルと、
前記液体を前記身体内から前記身体外に排出する排出カテーテルと、
前記注入カテーテルおよび前記排出カテーテルに接続されたシステム回路部と、
前記システム回路部から供給され前記身体内に注入する前記液体を貯留する注入液貯留部と、
前記身体内から前記身体外に排出された前記液体を貯留する排出液貯留部と、
前記注入液貯留部および前記注入カテーテルに接続され、前記注入液貯留部に前記液体を供給するとともに前記注入液貯留部に貯留された前記液体を前記注入カテーテルに供給する第1送液部と、
前記排出液貯留部および前記排出カテーテルに接続され、前記排出液貯留部に前記液体を供給するとともに前記排出液貯留部に貯留された前記液体を前記システム回路部に供給する第2送液部と、
前記注入液貯留部の下流側に設けられ、前記システム回路部が前記注入液貯留部に接続される流路と、前記注入液貯留部が前記注入カテーテルに接続される流路と、を切り替え可能な第1流路切替部と、
前記排出液貯留部の上流側に設けられ、前記排出カテーテルが前記排出液貯留部に接続される流路と、前記排出液貯留部が前記システム回路部に接続される流路と、を切り替え可能な第2流路切替部と、
を備えたことを特徴とする液体循環システム。
【請求項8】
前記第1送液部と前記第2送液部とが互いに連動して動作をすることで、前記身体内に注入される前記液体の容量は、前記身体外に排出される前記液体の容量に常に等しいことを特徴とする請求項7に記載の液体循環システム。
【請求項9】
ピストン駆動部をさらに備え、
前記注入液貯留部は、前記液体を貯留する第1シリンジであり、
前記排出液貯留部は、前記液体を貯留する第2シリンジであり、
前記第1送液部は、前記第1シリンジ内を摺動し往復移動可能な第1ピストンであり、
前記第2送液部は、前記第2シリンジ内を摺動し往復移動可能な第2ピストンであり、
前記第1ピストンおよび前記第2ピストンは、互いに連結されており、互いに連結された状態で前記ピストン駆動部により往復移動することを特徴とする請求項7に記載の液体循環システム。
【請求項10】
前記第1シリンジと前記第2シリンジとが互いに同じ形状および容量で形成されることで、前記身体内に注入される前記液体の容量は、前記身体外に排出される前記液体の容量に常に等しいことを特徴とする請求項9に記載の液体循環システム。
【請求項11】
前記システム回路部は、前記身体外に排出された前記液体に酸素を付加する酸素付加装置を有することを特徴とする請求項7に記載の液体循環システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳疾患の治療に用いられる医療システムおよび液体循環システムに関する。
【背景技術】
【0002】
脳疾患として例えば脳梗塞が発症すると、脳細胞に酸素を供給する血流が遮断され、脳細胞にダメージが発生するおそれがある。したがって、脳梗塞が発症した場合には、血流の早期再灌流が必要である。脳梗塞の治療の1つとして、酸素化した脳脊髄液などの高酸素化溶液を患者の脳脊髄液が存在する体腔内に注入し、酸素が欠乏している脳細胞に酸素を直接供給することが提案されている。
【0003】
特許文献1には、1つのルーメンで液体の生体への注入及び生体からの吸引を行うことのできるカテーテルシステムが開示されている。特許文献1に記載されたカテーテルシステムは、カテーテルと、管本体のルーメンを介して注入口に流体を供給する注入駆動部と、吸引口から管本体のルーメンを介して流体を吸引する吸引駆動部と、頭蓋内圧の状態を検出する検出部と、注入駆動部及び吸引駆動部を制御する制御部と、を有する。カテーテルの吸引口は、カテーテルの注入口が開状態の際に閉状態である。また、カテーテルの注入口は、カテーテルの吸引口が開状態の際に閉状態である。そして、制御部は、検出部で検出された頭蓋内圧の状態が一定の範囲となるように、注入駆動部と吸引駆動部とを交互に動作させる。
【0004】
ここで、脳疾患の治療を目的として高酸素化溶液などの液体が体腔内に注入される場合、頭蓋内圧を一定範囲に保つ必要がある。頭蓋内圧の正常な範囲は、5mmHg以上、15mmHg以下程度である。頭蓋内から脊髄腔内までの圧力が変動すると、脳に障害を与えるおそれがある。例えば、頭蓋内圧が20mmHg以上に上昇すると、頭蓋内圧亢進症(すなわち脳組織が負荷を受けることで発症する様々な症状)が発生するおそれがある。一方で、頭蓋内圧が5mmHg以下に低下すると、低髄液圧症候群(すなわち脳組織の位置を保てなくなることで発症する様々な症状)が発生するおそれがある。
【0005】
脳脊髄液が存在する体腔(例えばクモ膜下腔および脳室)は、ほぼ閉鎖空間である。そのため、頭蓋内圧を一定範囲に保つためには、体腔内の脳脊髄液の量を一定範囲に保つ必要がある。体腔内の脳脊髄液の量を一定範囲に保つためには、体腔内に注入した液体の量と同じ量の脳脊髄液を速やかに排出することが求められる。
【0006】
しかし、例えば腰椎付近からクモ膜下腔に挿入された注入用カテーテルおよび排出用カテーテルを介してポンプにより液体を循環させて液体を体腔内に注入する場合、注入のタイミングおよび排出のタイミングによっては、注入用カテーテルの注入口から体腔内に注入された液体が排出用カテーテルの排出口に向かう流れ(すなわち局所定常流)が形成される。これにより、注入用カテーテルの注入口から脳の治療領域に向かう液体の流れがわずかとなり、脳の治療領域に液体を効率的に送達できないという問題がある。
【0007】
この問題を解決するために、注入用カテーテルの注入口を脳の付近に配置し、排出用カテーテルの排出口を腰椎付近に配置することで、注入口と排出口との間の距離を十分に取り、局所定常流の影響を極力抑えることが考えられる。しかしながら、脳の付近までカテーテルを挿入しようとした場合、周囲に脊髄のような神経組織が走行しているとともに湾曲しているクモ膜下腔にカテーテルを長距離に渡って挿入することとなる。このようなカテーテルのクモ膜下腔深部への挿入には神経組織へダメージを与えるリスクが伴うため、カテーテルの挿入長は可能な限り短くすることが望ましい。
【0008】
また、液体の循環回路は、感染防止のために閉鎖系であることが望ましい。しかし、液体の循環回路が閉鎖系である場合、キャビテーション現象により気泡が循環回路内で発生することにより液体の全体容量が治療初期の容量よりも増加したり、脳脊髄液を酸素化する過程において水分が蒸発により失われることにより液体の全体容量が治療初期の容量よりも減少したりするおそれがある。閉鎖系の循環回路において液体の全体容量が増加したり減少したりすると、頭蓋内圧を一定範囲に保つことができないおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、頭蓋内圧の変動を抑えつつ脳の治療領域に液体を効率的に送達できる医療システムおよび液体循環システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、(1)対象者の脳脊髄液が存在する体腔内に液体を注入し、前記体腔内に存在する前記脳脊髄液を前記体腔内から排出する医療システムであって、前記体腔内に前記液体を注入しながら前記脳脊髄液を前記体腔内から排出する第1期間と、前記体腔内に前記液体を注入せず、かつ、前記脳脊髄液を前記体腔内から排出しない第2期間と、を設定し、前記第1期間と前記第2期間とを交互に繰り返す制御を実行する制御部を備えたことを特徴とする医療システムである。
【0012】
上記(1)の医療システムによれば、制御部は、第1期間において、対象者の脳脊髄液が存在する体腔内に液体を注入しながら脳脊髄液を体腔内から排出する制御を実行する。また、制御部は、第2期間において、体腔内に液体を注入せず、かつ、脳脊髄液を体腔内から排出しない制御を実行する。そして、制御部は、第1期間と第2期間とを交互に繰り返す制御を実行する。これにより、液体の注入および脳脊髄液の排出が同時かつ間欠的に繰り返される。そのため、注入口から体腔内に注入された液体が排出口に向かう局所定常流が無くなる期間が発生し、液体に含まれる酸素等の濃度差による拡散が、局所定常流が無くなった期間に進行する。これにより、脳の治療領域に液体を効率的に送達できる。また、液体の注入および脳脊髄液の排出が同時に実行されるため、体腔内の脳脊髄液の量を一定範囲に保つことができる。これにより、頭蓋内圧の変動を抑えることができる。
【0013】
(2)上記(1)の医療システムにおいて、前記第1期間における前記液体の注入量は、前記第1期間における前記脳脊髄液の排出量と実質的に同じであることが好ましい。
上記(2)の医療システムによれば、液体の注入量が脳脊髄液の排出量と実質的に同じであるため、体腔内の脳脊髄液の量をより一層確実に一定範囲に保つことができる。これにより、頭蓋内圧の変動をより一層確実に抑えることができる。
【0014】
(3)上記(1)または(2)の医療システムにおいて、前記第1期間の開始から前記第2期間の終了までの周期が、実質的に一定であることが好ましい。
上記(3)の医療システムによれば、液体の移動や液体に含まれる酸素等の濃度差による拡散が、安定的に進行する。これにより、脳の治療領域に液体を効率的に送達できる。また、体腔内の脳脊髄液の量を一定範囲に安定的に保つことができる。これにより、頭蓋内圧の変動を抑えることができる。
【0015】
(4)上記(1)~(3)のいずれかの医療システムにおいて、前記第2期間の時間が、15秒以上であることが好ましい。
上記(4)の医療システムによれば、液体の移動や液体に含まれる酸素等の濃度差による拡散が進行する時間を十分に確保でき、かつ惰性で残った局所定常流も停止する。これにより、脳の治療領域に液体を効率的に送達できる。
【0016】
(5)上記(1)~(4)のいずれかの医療システムにおいて、前記制御は、第1制御であり、前記制御部は、前記体腔内に前記液体を注入し、かつ、前記脳脊髄液を前記体腔内から排出しない第3期間と、前記体腔内に前記液体を注入せず、かつ、前記脳脊髄液を前記体腔内から排出する第4期間と、を設定し、前記第3期間と前記第4期間とを交互に繰り返し、前記第3期間における前記液体の注入量を前記第4期間における前記脳脊髄液の排出量と実質的に同じに設定する第2制御をさらに実行可能であり、前記第1制御および前記第2制御のいずれか一方を選択し実行することが好ましい。
【0017】
上記(5)の医療システムによれば、制御部は、第3期間において、体腔内に液体を注入し、かつ、脳脊髄液を体腔内から排出しない。また、制御部は、第4期間において、体腔内に液体を注入せず、かつ、脳脊髄液を体腔内から排出する。そして、制御部は、第3期間と第4期間とを交互に繰り返し、液体の注入量を脳脊髄液の排出量と実質的に同じにする。これにより、頭蓋内圧の許容変動範囲を超えない限りにおいて、液体の注入および脳脊髄液の排出が、第2制御において同量で交互に繰り返される。そのため、液体の注入期間および脳脊髄液の排出期間が時間をずらして行われるため、両期間が重複して行われることが無く、注入口から体腔内に注入された液体が排出口に向かう局所定常流の発生を抑えることができる。さらに、制御部は、上記(1)の制御(すなわち第1制御)と、上記(2)の制御(すなわち第2制御)と、のいずれか一方を選択し実行できる。これにより、上記(5)の医療システムは、対象者の頭蓋内圧および脳脊髄液の量などの種々の状況に応じて柔軟に対応することができ、脳の治療領域に液体を効率的に送達できる。
【0018】
(6)上記(1)の医療システムは、前記体腔内に前記液体を注入する注入カテーテルと、前記脳脊髄液を前記体腔内から排出する排出カテーテルと、をさらに備え、前記注入カテーテルの先端と、前記排出カテーテルの先端と、の間の距離は、前記制御の実行開始時において30センチメートル以下であることが好ましい。
上記(6)の医療システムによれば、液体の注入および脳脊髄液の排出が同時かつ間欠的に繰り返されるため、注入カテーテルの先端と、排出カテーテルの先端と、の間の距離が制御の実行開始時において30センチメートル以下であっても、注入カテーテルの注入口から体腔内に注入された液体が排出カテーテルの排出口に向かう局所定常流が無くなる期間を確保できる。これにより、液体に含まれる酸素等の濃度差による拡散が、局所定常流が無くなった期間に進行する。これにより、注入カテーテルを生体内に深く挿入することなく、脳の治療領域に液体を効率的に送達できる。
【0019】
本発明は、(7)液体を身体内に注入し、前記身体外に排出することで前記液体を循環させる液体循環システムであって、前記液体を前記身体内に注入する注入カテーテルと、前記液体を前記身体内から前記身体外に排出する排出カテーテルと、前記注入カテーテルおよび前記排出カテーテルに接続されたシステム回路部と、前記システム回路部から供給され前記身体内に注入する前記液体を貯留する注入液貯留部と、前記身体内から前記身体外に排出された前記液体を貯留する排出液貯留部と、前記注入液貯留部および前記注入カテーテルに接続され、前記注入液貯留部に前記液体を供給するとともに前記注入液貯留部に貯留された前記液体を前記注入カテーテルに供給する第1送液部と、前記排出液貯留部および前記排出カテーテルに接続され、前記排出液貯留部に前記液体を供給するとともに前記排出液貯留部に貯留された前記液体を前記システム回路部に供給する第2送液部と、前記注入液貯留部の下流側に設けられ、前記システム回路部が前記注入液貯留部に接続される流路と、前記注入液貯留部が前記注入カテーテルに接続される流路と、を切り替え可能な第1流路切替部と、前記排出液貯留部の上流側に設けられ、前記排出カテーテルが前記排出液貯留部に接続される流路と、前記排出液貯留部が前記システム回路部に接続される流路と、を切り替え可能な第2流路切替部と、を備えたことを特徴とする液体循環システムである。
【0020】
上記(7)の液体循環システムによれば、液体を循環させる回路が、注入カテーテルおよび排出カテーテルを含む回路(すなわち生体回路部)と、注入カテーテルおよび排出カテーテルに接続されたシステム回路部と、に分割されている。また、液体を注入カテーテルに供給する第1送液部と、液体をシステム回路部に供給する第2送液部と、が生体回路部およびシステム回路部において共有の送液部として機能する。また、第1流路切替部および第2流路切替部は、液体の流れる流路を切り替えることができる。液体循環システムがこのような構成を有することにより、システム回路部が、生体側の状況を維持しつつ、キャビテーション現象により生ずる液体の全体容量の増加および蒸発により生ずる液体の全体容量の減少に対応することができ、液体の全体容量の増減を抑えることができる。これにより、頭蓋内圧の変動を抑えることができる。
【0021】
(8)上記(7)の液体循環システムにおいて、前記第1送液部と前記第2送液部とが互いに連動して動作をすることで、前記身体内に注入される前記液体の容量は、前記身体外に排出される前記液体の容量に常に等しいことが好ましい。
上記(8)の液体循環システムによれば、第1送液部および第2送液部は、互いに連動して動作し、生体回路部およびシステム回路部において共有の1つの送液部として機能する。そして、身体内に注入される液体の容量は、身体外に排出される液体の容量に常に等しい。そのため、身体内の脳脊髄液の量をより一層確実に一定範囲に保つことができる。これにより、頭蓋内圧の変動をより一層確実に抑えることができる。
【0022】
(9)上記(7)の液体循環システムは、ピストン駆動部をさらに備え、前記注入液貯留部は、前記液体を貯留する第1シリンジであり、前記排出液貯留部は、前記液体を貯留する第2シリンジであり、前記第1送液部は、前記第1シリンジ内を摺動し往復移動可能な第1ピストンであり、前記第2送液部は、前記第2シリンジ内を摺動し往復移動可能な第2ピストンであり、前記第1ピストンおよび前記第2ピストンは、互いに連結されており、互いに連結された状態で前記ピストン駆動部により往復移動することが好ましい。
【0023】
上記(9)の液体循環システムによれば、第1シリンジ内を摺動し往復移動可能な第1ピストンと、第2シリンジ内を摺動し往復移動可能な第2ピストンと、が互いに連結された状態でピストン駆動部により往復移動する。これにより、第1送液部および第2送液部は、生体回路部およびシステム回路部において一体化された共有の1つの送液部として機能する。そのため、身体内に注入される液体の容量は、身体外に排出される液体の容量に等しくなる。そのため、身体内の脳脊髄液の量を一定範囲に保つことができる。これにより、頭蓋内圧の変動を抑えることができる。
【0024】
(10)上記(9)の液体循環システムにおいて、前記第1シリンジと前記第2シリンジとが互いに同じ形状および容量で形成されることで、前記身体内に注入される前記液体の容量は、前記身体外に排出される前記液体の容量に常に等しいことが好ましい。
上記(10)の液体循環システムによれば、このような定容量型のポンプは、一周期で注入・排出する液量が変動することがなく、可変容量型のポンプに比して注入量と排出量を確実に同一のものとすることが出来る。そのため、身体内の脳脊髄液の量をより一層確実に一定範囲に保つことができる。これにより、頭蓋内圧の変動をより一層確実に抑えることができる。
【0025】
(11)上記(7)の液体循環システムにおいて、前記システム回路部は、前記身体外に排出された前記液体に酸素を付加する酸素付加装置を有することが好ましい。
上記(11)の液体循環システムによれば、頭蓋内圧の変動を抑えつつ脳の治療領域に高酸素化溶液を効率的に送達できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、頭蓋内圧の変動を抑えつつ脳の治療領域に液体を効率的に送達できる医療システムおよび液体循環システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施形態に係る医療システムの概要を表す模式図である。
【
図2】本実施形態の注入カテーテルの注入口近傍を表す平面図である。
【
図3】本実施形態の排出カテーテルの排出口近傍を表す平面図である。
【
図4】
図3に表した切断面B-Bにおける断面図である。
【
図5】液体循環の開始直後に体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
【
図6】液体循環中に体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
【
図7】液体循環の停止後に体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
【
図8】本実施形態の制御による注入量と排出量と体腔内液量との関係を表すグラフである。
【
図9】本実施形態の制御において体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
【
図10】本実施形態の他の制御による注入量と排出量と体腔内液量との関係を表すグラフである。
【
図11】本実施形態の他の制御の注入において体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
【
図12】本実施形態の他の制御の停止中において体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
【
図13】本実施形態の他の制御の排出において体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
【
図14】本発明者が実施した実験の概要を説明する模式図である。
【
図15】本発明者が実施した実験の結果の一例を例示する表である。
【
図16】本発明者が実施した実験の様子を表す写真である。
【
図17】本実施形態に係る液体循環システムの概要を表す模式図である。
【
図18】本実施形態に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
【
図19】本実施形態に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
【
図20】本実施形態に係る液体循環システムの他の動作を説明する模式図である。
【
図21】本実施形態に係る液体循環システムの他の動作を説明する模式図である。
【
図22】本実施形態に係る液体循環システムの他の動作を説明する模式図である。
【
図23】本実施形態に係る液体循環システムの他の動作を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略する。
【0029】
図1は、本発明の実施形態に係る医療システムの概要を表す模式図である。
本実施形態に係る医療システム2は、対象者の脳脊髄液(CSF:Cerebrospinal Fluid)が存在する体腔内に液体を注入し、体腔内に存在する液体を体腔内から排出する。脳脊髄液は、主にクモ膜下腔および脳室に存在する。すなわち、脳脊髄液が存在する体腔には、クモ膜下腔および脳室が含まれる。
【0030】
図1に表したように、医療システム2は、制御部21と、ポンプ22と、医療デバイス5と、を備える。制御部21は、ポンプ22に接続され、制御信号をポンプ22に送信しポンプ22の動作を制御する。ポンプ22は、制御部21から送信された制御信号に基づいて稼動し、
図1に表した矢印A1のように、医療デバイス5を介して対象者の体腔内から脳脊髄液を吸引して排出する。ポンプ22により体腔外に排出された脳脊髄液は、例えば、酸素化機構(図示しない)などにより通常の脳脊髄液の酸素濃度よりも高い酸素濃度の液体(すなわち高酸素化溶液)に生成される。そして、
図1に表した矢印A2のように、ポンプ22は、医療デバイス5を介して体腔内に液体を注入する。
【0031】
なお、体腔内に注入される液体は、高酸素化溶液に限定されるわけではない。例えば、体腔内に注入される液体は、体外循環中の脳脊髄液に薬剤が付加された薬剤を含む液体であってもよく、体外循環中に好ましくない物質を除去するようフィルターで濾過した脳脊髄液であってもよい。その他、体腔内に注入される液体は、エネルギーを照射したり、加熱したりするなど、何らかの処理を脳脊髄液に施して体腔内に戻すものであってもよい。以下の説明では、説明の便宜上、体腔内に注入される液体が高酸素化溶液である例を挙げることがある。また、治療の初期段階において、生体内に注入する液体は、脳脊髄液の代替液として、乳酸リンゲル液を使用することが出来る。本実施形態においては、脳脊髄液や乳酸リンゲル液等の人工脳脊髄液、脳脊髄液と乳酸リンゲル液の混合液などを総じて液体と表記することがある。
【0032】
図1に表したように、医療デバイス5は、排出カテーテル51と、注入カテーテル52と、を有し、側臥位の状態にした腰椎付近からクモ膜下腔に挿入されて配置される。注入カテーテル52の配置される先端位置は、挿入時の安全性を配慮して、T6と呼ばれる上から6番目の胸椎付近からL1と呼ばれる上から1番目の腰椎の位置の間とすることが望ましい。例えば
図1に表した矢印A11のように、排出カテーテル51は、体腔内に存在する脳脊髄液を排出口511から吸引し体腔外に排出する。例えば
図1に表した矢印A13のように、注入カテーテル52は、脳脊髄液が存在するクモ膜下腔等の体腔内に注入口521から液体を注入する。
【0033】
図2は、本実施形態の注入カテーテルの注入口近傍を表す平面図である。
図3は、本実施形態の排出カテーテルの排出口近傍を表す平面図である。
図4は、
図3に表した切断面B-Bにおける断面図である。
【0034】
図3に表したように、排出カテーテル51の先端部は、排出口511として開口しており、腰椎付近のクモ膜下腔に配置される。例えば
図3に表した矢印A11および矢印A12のように、排出カテーテル51は、対象者のクモ膜下腔に挿入され、腰椎付近のクモ膜下腔に存在する脳脊髄液を排出口511を通して排出カテーテル51の内腔513と注入カテーテル52の外表面との間の空間53(
図4参照)に吸引する。なお、
図1に関して前述したように、脳脊髄液を吸引する力は、ポンプ22により与えられる。そして、
図1に表した矢印A1のように、排出カテーテル51は、脳脊髄液を空間53を通して対象者体腔外に排出する。
【0035】
注入カテーテル52の外径は、排出カテーテル51の内径よりも小さい。注入カテーテル52は、排出カテーテル51の内腔513に配置可能である。また、注入カテーテル52は、排出カテーテル51と結合されておらず、排出カテーテル51の長手方向D1(
図3参照)に沿って排出カテーテル51の内腔513を移動可能である。排出カテーテル51の先端部が排出口511として開口しているため、
図3に表したように、注入カテーテル52の先端部は、排出カテーテル51の排出口511を通過可能である。
【0036】
これにより、注入カテーテル52の先端部は、排出カテーテル51の長手方向D1において排出カテーテル51の排出口511から露出可能とされている。排出カテーテル51の先端部と、排出カテーテル51の排出口511から露出した注入カテーテル52の先端部と、の間の長手方向D1の距離は、所定距離に調整可能である。本願明細書における「所定距離」としては、例えば0cm以上、30cm以下程度が挙げられる。これにより、患者のクモ膜下腔へカテーテルを深く挿入する際に生じるリスクを避けることができる。
【0037】
図2に表したように、注入カテーテル52の先端部は、注入口521として開口しており、排出カテーテル51の排出口511を通過してクモ膜下腔内に配置される。例えば
図2に表した矢印A13のように、注入カテーテル52は、患者のクモ膜下腔に挿入され、注入カテーテル52の内腔523(
図4参照)を通してクモ膜下腔に存在する脳脊髄液に液体を注入する。なお、
図1に関して前述したように、脳脊髄液に液体を注入する力は、ポンプ22により与えられる。
【0038】
長手方向D1に対して垂直方向の切断面B-B(
図4参照)において、注入カテーテル52の外側と排出カテーテル51の内側との間の空間53の断面積は、頭蓋内圧(ICP:Intracranial Pressure)をある範囲内に一定に保つために、注入カテーテル52の内腔523の断面積に対して所定比率の範囲内に設定されている。頭蓋内圧が限界範囲を超えて高くなる、あるいは低くなることは好ましくないため、内腔523の断面積に対する空間53の断面積の比率は、1倍を中心に一定範囲に設定することが好ましい。本願明細書における「所定比率」としては、例えば0.5倍以上、2倍以下程度とすることが好ましい。但し、本願明細書における「所定比率」は、0.5倍以上、2倍以下に限定されるわけではない。
【0039】
次に、液体循環において体腔内で生ずる液体の流れを、図面を参照して説明する。
図5は、液体循環の開始直後に体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
図6は、液体循環中に体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
図7は、液体循環の停止後に体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
【0040】
図5に表したように、液体循環の開始直後において、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91は、
図6に関して後述するように脳脊髄液が排出カテーテル51の排出口511から排出されるときの吸引の流れが注入口521に届くまでは、例えば
図5に表した矢印A13のように前方(すなわち脳が存在する方向)に向かって流れる。前方に向かって流れる液体91の流量は、
図6に関して後述する場合と比較してやや多い。また、液体循環の開始直後の短時間では、液体に含まれる酸素および薬剤など(以下、説明の便宜上「酸素等」と称する。)の濃度差による拡散は、ほとんど生じない。
【0041】
続いて、
図6に表したように、液体循環中すなわち液体の連続循環の最中では、脳脊髄液が排出カテーテル51の排出口511から排出されるときの吸引の流れが、注入カテーテル52の注入口521に届いて影響を及ぼす。そうすると、注入カテーテル52の注入口521から排出カテーテル51の排出口511に向かう流れが定常化する。すなわち、例えば
図6に表した矢印A14および矢印A15のように、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91が排出カテーテル51の排出口511に向かう局所定常流が生ずる。これにより、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91は、ほとんど前方(すなわち脳が存在する方向)に流れなくなる。
【0042】
また、局所定常流の影響により、液体91に含まれる酸素等の脳側への拡散は、液体循環の開始直後と比較して減速する。局所定常流の影響により、液体91に含まれる酸素等の濃度差によって腰椎側へ拡散した液体91は、排出カテーテル51の排出口511から体腔外へ排出される。
【0043】
図7に表したように、液体循環の停止後では、液体循環中に生じていた局所定常流が無くなる。そのため、例えば
図7に表した矢印A16および矢印A17のように、液体91に含まれる酸素等の拡散が、脳側および腰椎側に向かって生ずる。
【0044】
図6に関して説明したように、液体の連続循環が実行されると、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91が排出カテーテル51の排出口511に向かう局所定常流が生ずる。これにより、注入カテーテル52の注入口521から脳の治療領域に向かう液体91の流れがわずかとなり、脳の治療領域に液体91を効率的に送達することが困難になる。
【0045】
そこで、本実施形態に係る医療システム2の制御部21は、体腔内に液体91を注入しながら脳脊髄液を体腔内から排出する第1期間と、体腔内に液体91を注入せず、かつ、脳脊髄液を体腔内から排出しない第2期間と、を設定し、第1期間と第2期間とを交互に繰り返す制御を実行する。以下、本実施形態に係る医療システム2の制御の詳細を、図面を参照して説明する。
【0046】
図8は、本実施形態の制御による注入量と排出量と体腔内液量との関係を表すグラフである。
図9は、本実施形態の制御において体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
【0047】
図8に表したグラフの横軸は、時間を示している。
図8に表したグラフの縦軸は、液量の推移を表している。具体的には、
図8に表した「注入量」は、制御の実行開始時から体腔内に注入された液体91の積算量を表している。
図8に表した「排出量」は、制御の実行開始時から体腔外に排出された脳脊髄液の積算量を表している。
図8に表した「体腔内液量」は、制御の実行開始時において体腔内に存在していた脳脊髄液の変化量を表している。
【0048】
図8に表したように、本実施形態の制御部21は、体腔内に液体91を注入しながら脳脊髄液を体腔内から排出する第1期間211と、体腔内に液体91を注入せず、かつ、脳脊髄液を体腔内から排出しない第2期間212と、を設定する。つまり、第1期間211では、体腔内への液体91の注入と、体腔内からの液体91の排出と、が同時に実行される。一方で、第2期間212では、体腔内への液体91の注入と、体腔内からの液体91の排出と、が同時に停止される。
【0049】
そして、
図8に表したように、制御部21は、第1期間211と第2期間212とを交互に繰り返す。これにより、液体91の注入および脳脊髄液の排出が同時かつ間欠的に繰り返される。
図8に表したグラフに関する制御は、本発明の「第1制御」の一例である。
【0050】
本実施形態に係る医療システム2の第1制御では、
図5に関して前述した液体循環の開始直後の状態と、
図7に関して前述した液体循環の停止後の状態と、が周期的に存在する。そのため、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91が排出カテーテル51の排出口511に向かう局所定常流が無くなる期間が発生する。これにより、
図9に表したように、注入カテーテル52の注入口521から脳側に供給される液体91の量は、周期に応じて増加する。また、
図9に表した矢印A18、矢印A19および矢印A20のように、液体91に含まれる酸素等の濃度差による拡散が、局所定常流の無い期間に進行する。これにより、脳の治療領域に液体91を効率的に送達できる。
【0051】
また、
図8に表したように、液体91の注入および脳脊髄液の排出が同時に実行されるため、制御の実行開始時において体腔内に存在していた液体の量が、一定範囲に保たれる。これにより、頭蓋内圧の変動を抑えることができる。
【0052】
図8に表したグラフにおいて、第1期間211における液体91の注入量は、第1期間211における脳脊髄液の排出量と実質的に同じである。これによれば、制御の実行開始時において体腔内に存在していた液体の量は、時間経過によってはほとんど変化せず、より確実に一定範囲に保たれる。これにより、頭蓋内圧の変動をより一層確実に抑えることができる。
【0053】
第1期間211の開始から第2期間212の終了までの周期は、制御の実行中において実質的に一定である。そのため、液体91の移動や液体91に含まれる酸素等の濃度差による拡散が、安定的に進行する。これにより、脳の治療領域に治療物質(酸素等)を効率的に送達できる。また、制御の実行開始時において体腔内に存在していた液体の量が、一定範囲に安定的に保たれる。これにより、頭蓋内圧の変動を抑えることができる。第2期間212の時間は、15秒以上であることが好ましい。これによれば、液体91の移動や液体91に含まれる酸素等の濃度差による拡散が進行する時間を十分に確保でき、かつ惰性で残った局所定常流も停止する。これにより、脳の治療領域に液体91を効率的に送達できる。
【0054】
次に、本実施形態に係る医療システムの他の制御を、図面を参照して説明する。
図10は、本実施形態の他の制御による注入量と排出量と体腔内液量との関係を表すグラフである。
図11は、本実施形態の他の制御の注入において体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
図12は、本実施形態の他の制御の停止中において体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
図13は、本実施形態の他の制御の排出において体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
【0055】
図10に表したグラフの横軸および縦軸、ならびに
図10に表した「注入量」、「排出量」および「体腔内液量」は、
図8に関して前述した通りである。
【0056】
図10に表したように、本実施形態の他の制御において、制御部21は、体腔内に液体91を注入し、かつ、脳脊髄液を体腔内から排出しない第3期間213と、体腔内に液体91を注入せず、かつ、脳脊髄液を体腔内から排出する第4期間214と、を設定する。つまり、第3期間213では、体腔内への液体91の注入のみが実行される。一方で、第4期間214では、体腔内からの液体91の排出のみが実行される。
【0057】
そして、
図10に表したように、制御部21は、第3期間213と第4期間214とを交互に繰り返す。第3期間213における液体91の注入量は、第4期間214における脳脊髄液の排出量と実質的に同じである。これにより、頭蓋内圧の許容変動範囲を超えない限りにおいて、液体91の注入および脳脊髄液の排出が同量で交互に繰り返される。
図10に表したグラフに関する制御は、本発明の「第2制御」の一例である。
【0058】
本実施形態に係る医療システム2の第2制御では、液体91の注入期間および脳脊髄液の排出期間が時間をずらして行われるため、両期間が重複して行われることが無く、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91が排出カテーテル51の排出口511に向かう局所定常流の発生を抑えることができる。
【0059】
図11に表したように、第3期間213では、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91が、注入方向および注入流速に従い脳側に向かって流れる。また、例えば
図11に表した矢印A21のように、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91と体腔内の脳脊髄液との間の抵抗により生ずる乱流により、液体91および脳脊髄液が撹拌される。さらに、例えば
図11に表した矢印A22および矢印A23のように、液体91に含まれる酸素等の濃度差による拡散が進行する。これにより、脳の治療領域に酸素等を効率的に送達できる。また、第3期間213における液体91の注入量が第4期間214における脳脊髄液の排出量と実質的に同じであるため、体腔内の脳脊髄液の量が一定範囲に保たれる。これにより、頭蓋内圧の変動を抑えることができる。
【0060】
例えば
図13に表した矢印A26のように、第4期間214では、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91の量と同じ量の液体91が排出カテーテル51の排出口511に向かって流れ、排出カテーテル51の排出口511に吸引される。また、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91は、排出カテーテル51の排出口511に向かって全体的に引き戻される一方で、例えば
図13に表した矢印A27のように、注入方向に拡がった液体91や酸素等が体腔内に残る。
【0061】
図10に表したように、制御部21は、体腔内に液体91を注入せず、かつ、脳脊髄液を体腔内から排出しない第2期間212(
図8も参照)を、第3期間213と第4期間214との間および第4期間214と第3期間213との間にさらに設定する。つまり、
図8に関して前述したように、第2期間212では、体腔内への液体91の注入と、体腔内からの液体91の排出と、が同時に停止される。制御部21は、第3期間213と、第2期間212と、第4期間214と、第2期間212と、をこの順に繰り返す。第2期間では、例えば
図12に表した矢印A24および矢印A25に表したように、液体91に含まれる酸素等の濃度差による拡散が、脳側および腰椎側に向かって第2期間212の時間(すなわち停止時間)に応じて進行する。
【0062】
さらに、制御部21は、
図8~
図9に関して前述した第1制御と、
図10~
図13に関して前述した第2制御と、のいずれか一方を選択し実行する。これによれば、本実施形態に係る医療システム2は、対象者の頭蓋内圧および脳脊髄液の量などの種々の状況に応じて柔軟に対応することができ、脳の治療領域に液体91を効率的に送達できる。
【0063】
次に、本発明者が実施した実験の一例を、図面を参照して説明する。
図14は、本発明者が実施した実験の概要を説明する模式図である。
図15は、本発明者が実施した実験の結果の一例を例示する表である。
図16は、本発明者が実施した実験の様子を表す写真である。
図16(a)は、本実験の開始時の様子を表す写真である。
図16(b)は、本実験の途中の様子、すなわち着色水911がチューブ55の中間位置に到達した様子を表す写真である。
図16(c)は、着色水911がゴール位置に到達した様子を表す写真である。なお、説明の便宜上、
図16(b)および
図16(c)の写真では、着色水911に斜線を施している。
【0064】
本発明者は、
図16(a)~
図16(c)に表したようなクモ膜下腔の脊髄部分を模したモデルを用いて注入カテーテル52の注入口521から着色水911をチューブ55に注入し、着色水911がチューブ55に注入されてからゴールに設定した位置に到達するまでに要した時間を比較した。
図16(a)~
図16(c)に表したモデルにおいて、チューブ55の内腔は、クモ膜下腔を模した部分である。タンク56の内腔は、頭蓋内を模した部分である。ゴール位置は、チューブ55とタンク56との接続部の近傍の位置であってチューブ55を通過した着色水911がタンク56に流入した直後の位置である。ゴール位置は、大槽を模した部分である。
【0065】
図14に表したように、排出カテーテル51の先端部(すなわち排出口511)と、排出カテーテル51の排出口511から露出した注入カテーテル52の先端部(すなわち注入口521)と、の間の長手方向D1(
図3参照)の距離は、20cmである。また、注入カテーテル52の注入口521と、ゴール位置(すなわち大槽を模した部分)と、の間の長手方向D1の距離は、20cmである。
【0066】
図15を用いて、本実験における注入および排出の方法を説明する。
図15に表した表のうち「連続循環」は、着色水911を連続的に注入および排出する方法であり、比較例としての方法である。すなわち、
図15に表した表の通り、「連続循環」において、制御部21は、20mL/minの流速で着色水911を連続的に注入および排出する期間を設定する。
【0067】
図15に表した表のうち「間欠循環」は、
図8~
図9に関して前述した第1制御が実行されたときの注入および排出の方法である。すなわち、
図15に表した表の通り、「間欠循環」において、制御部21は、20mL/minの流速で着色水911をチューブ55に注入しながら20mL/minの流速で着色水911をチューブ55から排出する第1期間211と、着色水911をチューブ55に注入せず、かつ、着色水911をチューブ55から排出しない第2期間212と、を設定する。第1期間211の時間は、15秒間である。第1期間211では、20mL/minの流速の着色水911が15秒間にわたってチューブ55に注入されるため、着色水911の注入量は、5mLである。また、チューブ55から排出される量も、同様に5mLである。第2期間212の時間は、45秒間である。そして、制御部21は、第1期間211と第2期間212とを交互に繰り返す。
【0068】
図15に表した表のうち「等量出納」は、
図10~
図13に関して前述した第2制御が実行されたときの注入および排出の方法である。すなわち、
図15に表した表の通り、「等量出納」において、制御部21は、着色水911をチューブ55に注入し、かつ、着色水911をチューブ55から排出しない第3期間213と、着色水911をチューブ55に注入せず、かつ、着色水911をチューブ55から排出する第4期間214と、を設定する。第3期間213の時間は、3秒間である。第3期間213では、20mL/minの流速の着色水911が3秒間にわたってチューブ55に注入されるため、着色水911の注入量は、1mLである。第4期間214の時間は、3秒間である。第4期間214では、20mL/minの流速の着色水911が3秒間にわたってチューブ55から排出されるため、着色水911の排出量は、1mLである。そして、制御部21は、第3期間213と第4期間214とを交互に繰り返す。さらに、「等量出納」において、制御部21は、着色水911をチューブ55に注入せず、かつ、着色水911をチューブ55から排出しない第2期間212を第3期間213と第4期間214との間および第4期間214と第3期間213との間に設定する。第2期間212の時間は、12秒間である。このように、「等量出納」において、制御部21は、第3期間213と、第2期間212と、第4期間214と、第2期間212と、をこの順に繰り返す。
【0069】
本実験の結果の一例は、
図15の表に表した通りである。すなわち、着色水911は、「連続循環」、「間欠循環」および「等量出納」のすべてにおいてゴール位置に到達できた。着色水911がチューブ55に注入されてからゴール位置に到達するまでに要した時間は、「連続循環」において60分間であり、「間欠循環」において20分間であり、「等量出納」において0.75分間である。着色水911がチューブ55に注入されてからゴール位置に到達するまでに注入した着色水911の量は、「連続循環」において1200mLであり、「間欠循環」において100mLであり、「等量出納」において2mLである。本実験の結果により、「間欠循環」および「等量出納」は、「連続循環」と比較して、着色水911をゴール位置に効率的に送達できることが分かる。
【0070】
次に、本実施形態に係る液体循環システムを、図面を参照して説明する。
なお、液体循環システム3の構成要素が、
図1~
図16に関して前述した医療システム2の構成要素と同様である場合には、重複する説明は適宜省略し、以下、相違点を中心に説明する。
【0071】
図17は、本実施形態に係る液体循環システムの概要を表す模式図である。
本実施形態に係る液体循環システム3は、液体を身体内に注入し、身体外に排出することで液体を循環させる。身体内としては、例えば、対象者の脳脊髄液が存在する体腔内が挙げられる。本実施形態に係る液体循環システム3の説明では、身体内に注入する液体が高酸素化溶液である場合を例に挙げる。
【0072】
図17に表したように、液体循環システム3は、システム回路部31と、生体回路部32と、ポンプ部33と、を備える。
【0073】
システム回路部31は、高酸素化溶液の生成および温度調整を行うとともに、循環回路における液体の全体容量の調整を行う部分であり、制御部21と、リザーバ311と、酸素化機構312と、酸素供給源313と、を有する。本実施形態の酸素化機構312は、本発明の「酸素付加装置」の一例である。
【0074】
システム回路部31は、第1駆動部23と、第2駆動部24と、第3駆動部25と、をさらに有する。本実施形態の第1駆動部23は、本発明の「ピストン駆動部」の一例である。第1駆動部23と、第2駆動部24と、第3駆動部25と、のそれぞれは、制御部21に接続されており、制御部21から送信された制御信号に基づいて稼動する。第1駆動部23、第2駆動部24および第3駆動部25としては、例えばモータなどのアクチュエータが挙げられる。なお、第1駆動部23、第2駆動部24および第3駆動部25は、ポンプ部33に設けられていてもよい。
【0075】
生体回路部32は、液体を身体内に注入するとともに液体を身体外に排出する部分であり、排出カテーテル51と、注入カテーテル52と、を有する。排出カテーテル51および注入カテーテル52は、ポンプ部33を介してシステム回路部31に接続されている。排出カテーテル51および注入カテーテル52は、
図1~
図16に関して前述した通りである。
【0076】
ポンプ部33は、システム回路部31および生体回路部32において共有の送液部として機能する。ポンプ部33は、第1シリンジ331と、第1ピストン332と、第1流路切替部333と、第2シリンジ334と、第2ピストン335と、第2流路切替部336と、を有する。前述したように、ポンプ部33は、第1駆動部23と、第2駆動部24と、第3駆動部25と、を有していてもよい。
【0077】
本実施形態の第1シリンジ331は、本発明の「注入液貯留部」の一例である。本実施形態の第1ピストン332は、本発明の「第1送液部」の一例である。本実施形態の第2シリンジ334は、本発明の「排出液貯留部」の一例である。本実施形態の第2ピストン335は、本発明の「第2送液部」の一例である。
【0078】
図17に表したように、酸素化機構312は、第1管41を介して第1流路切替部333に接続されている。また、酸素化機構312は、第7管47を介してリザーバ311と接続されている。さらに、酸素化機構312は、第8管48を介して酸素供給源313と接続されている。酸素化機構312は、リザーバ311から第7管47を通して供給された脳脊髄液もしくは乳酸リンゲル液等の人工脳脊髄液もしくはそれらの混合液に、酸素供給源313から第8管を通して供給された酸素を混合して酸素化された脳脊髄液を生成する。また、酸素化機構312は、酸素化された脳脊髄液の温度調整を行う熱交換器を有する。そして、酸素化機構312は、酸素化された脳脊髄液を高酸素化溶液として第1管41を通して第1流路切替部333に供給する。本実施形態における酸素化機構312としては、血液に酸素を付加するための中空糸型人工肺を使用することが出来る。
【0079】
第1流路切替部333は、第1管41と第2管42と第3管43との接続部に設けられ、第1管41と第2管42とが接続される流路と、第2管42と第3管43とが接続される流路と、を切り替え可能である。具体的には、第2駆動部24が、制御部21から送信された制御信号に基づいて第1流路切替部333の動作を制御し、第1管41と第2管42とが接続される流路と、第2管42と第3管43とが接続される流路と、を切り替える。
【0080】
第1流路切替部333は、第2管42を介して第1シリンジ331に接続されている。第1ピストン332は、第1シリンジ331内を摺動し往復移動可能である。具体的には、第1駆動部23が、制御部21から送信された制御信号に基づいて第1ピストン332の動作を制御し、第1ピストン332を第1シリンジ331内で往復移動させる。第1流路切替部333が第1管41と第2管42とを接続している状態において、第1ピストン332が第1シリンジ331から抜去される方向に移動すると、第1シリンジ331は、酸素化機構312から第1管41および第2管42を通して供給された液体を貯留する。一方で、第1流路切替部333が、第2管42と第3管43とを接続している状態において、第1ピストン332が第1シリンジ331に挿入される方向に移動すると、第1ピストン332は、第1シリンジ331に貯留された液体を第2管42と第3管43とを通して注入カテーテル52に供給する。
【0081】
このように、第1シリンジ331は、身体内に注入される液体を一時的に貯留する。また、第1ピストン332は、第1シリンジ331に接続されるとともに、第2管42および第3管43を介して注入カテーテル52に接続されており、第1シリンジ331に液体を供給するとともに第1シリンジ331に貯留された液体を注入カテーテル52に供給する。
【0082】
図17に表したように、リザーバ311は、第6管46を介して第2流路切替部336に接続されている。また、リザーバ311は、第7管47を介して酸素化機構312に接続されている。リザーバ311は、第6管46を通して供給された脳脊髄液を一時的に貯留する。そして、リザーバ311は、貯留された脳脊髄液を第7管47を通して酸素化機構312に供給する。リザーバ311は、内部と外部とが互いに連通した構造を有し、貯留された脳脊髄液に含まれる気体を外部に抜くことができる。つまり、リザーバ311は、エアトラップとしての機能を有する。
【0083】
第2流路切替部336は、第4管44と第5管45と第6管46との接続部に設けられ、第4管44と第5管45とが接続される流路と、第5管45と第6管46とが接続される流路と、を切り替え可能である。具体的には、第3駆動部25が、制御部21から送信された制御信号に基づいて第2流路切替部336の動作を制御し、第4管44と第5管45とが接続される流路と、第5管45と第6管46とが接続される流路と、を切り替える。
【0084】
第2流路切替部336は、第5管45を介して第2シリンジ334に接続されている。第2ピストン335は、第2シリンジ334内を摺動し往復移動可能である。具体的には、第1駆動部23が、制御部21から送信された制御信号に基づいて第2ピストン335の動作を制御し、第2ピストン335を第2シリンジ334内で往復移動させる。つまり、
図17に表したように、第1ピストン332および第2ピストン335は、互いに連結されており、互いに連結された状態で第1駆動部23の駆動力を受けて往復移動する。第2流路切替部336が第4管44と第5管45とを接続している状態において、第2ピストン335が第2シリンジ334から抜去される方向に移動すると、第2シリンジ334は、第4管44および第5管45を通して身体内から身体外に排出された液体(すなわち脳脊髄液)を貯留する。一方で、第2流路切替部336が第5管45と第6管46とを接続している状態において、第2ピストン335が第2シリンジ334に挿入される方向に移動すると、第2ピストン335は、第2シリンジ334に貯留された液体を第5管45と第6管46とを通してリザーバ311に供給する。
【0085】
このように、第2ピストン335は、第2シリンジ334に接続されるとともに、第4管44および第5管45を介して排出カテーテル51に接続されており、第2シリンジ334に液体を供給するとともに第2シリンジ334に貯留された液体をリザーバ311に供給する。
【0086】
第1シリンジ331および第2シリンジ334は、互いに同じ形状および容量で形成されている。また、前述したように、第1ピストン332および第2ピストン335は、互いに連結されており、互いに連結された状態で第1駆動部23の駆動力を受けて往復移動する。これにより、身体内に注入される液体の容量は、身体外に排出される液体の容量に常に等しい。
【0087】
図18および
図19は、本実施形態に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
図18および
図19に関して説明する液体循環システム3の動作は、
図8および
図9に関して前述した第1制御に基づく動作である。
なお、説明の便宜上、
図18および
図19では、制御部21、第1駆動部23、第2駆動部24および第3駆動部25を省略している。また、以下に示す動作では、予め回路内のチューブやリザーバ、各ポンプ(シリンジ)、酸素化機構が、乳酸リンゲル液等の人工脳脊髄液で満たされたプライミング済みとなっている状態から開始するものとして説明する。
【0088】
まず、
図18に表したように、第1ステップとして、制御部21は、第2駆動部24に制御信号を送信して第1流路切替部333の動作を制御し、第1管41と第2管42とを接続する。また、制御部21は、第3駆動部25に制御信号を送信して第2流路切替部336の動作を制御し、第5管45と第6管46とを接続する。この状態において、制御部21は、第1駆動部23に制御信号を送信し、
図18に表した矢印A31のように、第1シリンジ331の抜去方向に第1ピストン332を移動させるとともに、第2シリンジ334の挿入方向に第2ピストン335を移動させる。
【0089】
そうすると、
図18に表した矢印A32のように、酸素化機構312において生成された液体91(すなわち高酸素化溶液)が、第1管41および第2管42を通して第1シリンジ331に供給され貯留される。また、
図18に表した矢印A33のように、第2シリンジ334に貯留されていた脳脊髄液92(
図19参照)が第5管45および第6管46を通してリザーバ311に供給され貯留される。さらに、
図18に表した矢印A34のように、リザーバ311に貯留されていた脳脊髄液92が、第7管47を通して酸素化機構312に供給される。
【0090】
続いて、
図19に表したように、第2ステップとして、制御部21は、第2駆動部24に制御信号を送信して第1流路切替部333の動作を制御し、第2管42と第3管43とを接続する。また、制御部21は、第3駆動部25に制御信号を送信して第2流路切替部336の動作を制御し、第4管44と第5管45とを接続する。この状態において、制御部21は、第1駆動部23に制御信号を送信し、
図19に表した矢印A35のように、第1シリンジ331の挿入方向に第1ピストン332を移動させるとともに、第2シリンジ334の抜去方向に第2ピストン335を移動させる。
【0091】
そうすると、
図19に表した矢印A36のように、第1シリンジ331に貯留されていた液体91(すなわち高酸素化溶液)が、第2管42と第3管43とを通して注入カテーテル52に供給される。そして、例えば
図19に表した矢印A13のように、液体91が、注入カテーテル52の注入口521から身体内に注入される。一方で、例えば
図19に表した矢印A11のように、身体内の脳脊髄液92が排出カテーテル51の排出口511に吸引される。そして、
図19に表した矢印A37のように、脳脊髄液92が、第4管44および第5管45を通して第2シリンジ334に吸引され貯留される。
【0092】
図20~
図23は、本実施形態に係る液体循環システムの他の動作を説明する模式図である。
図20~
図23に関して説明する液体循環システム3の動作は、
図10~
図13に関して前述した第2制御に基づく動作である。
なお、説明の便宜上、
図20~
図23では、制御部21、第1駆動部23、第2駆動部24および第3駆動部25を省略している。
【0093】
まず、
図20に表したように、第1ステップとして、制御部21は、第2駆動部24に制御信号を送信して第1流路切替部333の動作を制御し、第1管41と第2管42とを接続する。また、制御部21は、第3駆動部25に制御信号を送信して第2流路切替部336の動作を制御し、第4管44と第5管45とを接続する。この状態において、制御部21は、第1駆動部23に制御信号を送信し、
図20に表した矢印A41のように、第1シリンジ331の挿入方向に第1ピストン332を移動させるとともに、第2シリンジ334の抜去方向に第2ピストン335を移動させる。
【0094】
そうすると、
図20に表した矢印A42のように、第1シリンジ331に貯留されていた液体91(すなわち高酸素化溶液)が、第1管41と第2管42とを通して酸素化機構312に戻される。一方で、例えば
図20に表した矢印A11のように、身体内の脳脊髄液92が排出カテーテル51の排出口511に吸引される。そして、
図20に表した矢印A43のように、脳脊髄液92が、第4管44および第5管45を通して第2シリンジ334に吸引され貯留される。
【0095】
続いて、
図21に表したように、第2ステップとして、制御部21は、第2駆動部24に制御信号を送信して第1流路切替部333の動作を制御し、第1管41と第2管42とを接続する(すなわち、接続状態を維持する)。また、制御部21は、第3駆動部25に制御信号を送信して第2流路切替部336の動作を制御し、第5管45と第6管46とを接続する。この状態において、制御部21は、第1駆動部23に制御信号を送信し、
図21に表した矢印A44のように、第1シリンジ331の抜去方向に第1ピストン332を移動させるとともに、第2シリンジ334の挿入方向に第2ピストン335を移動させる。
【0096】
そうすると、
図21に表した矢印A45のように、酸素化機構312において生成された液体91(すなわち高酸素化溶液)が、第1管41および第2管42を通して第1シリンジ331に供給され貯留される。また、
図21に表した矢印A46のように、第2シリンジ334に貯留されていた脳脊髄液92が第5管45および第6管46を通してリザーバ311に供給され貯留される。さらに、
図21に表した矢印A47のように、リザーバ311に貯留されていた脳脊髄液92が、第7管47を通して酸素化機構312に供給される。
【0097】
続いて、
図22に表したように、第3ステップとして、制御部21は、第2駆動部24に制御信号を送信して第1流路切替部333の動作を制御し、第2管42と第3管43とを接続する。また、制御部21は、第3駆動部25に制御信号を送信して第2流路切替部336の動作を制御し、第5管45と第6管46とを接続する(すなわち、接続状態を維持する)。この状態において、制御部21は、第1駆動部23に制御信号を送信し、
図22に表した矢印A48のように、第1シリンジ331の挿入方向に第1ピストン332を移動させるとともに、第2シリンジ334の抜去方向に第2ピストン335を移動させる。
【0098】
そうすると、
図22に表した矢印A49のように、第1シリンジ331に貯留されていた液体91(すなわち高酸素化溶液)が、第2管42と第3管43とを通して注入カテーテル52に供給される。そして、例えば
図22に表した矢印A13のように、液体91が、注入カテーテル52の注入口521から身体内に注入される。一方で、
図22に表した矢印A51のように、リザーバ311に貯留されていた脳脊髄液92が、第5管45と第6管46とを通して第2シリンジ334に戻される。
【0099】
続いて、
図23に表したように、第4ステップとして、制御部21は、第2駆動部24に制御信号を送信して第1流路切替部333の動作を制御し、第1管41と第2管42とを接続する。また、制御部21は、第3駆動部25に制御信号を送信して第2流路切替部336の動作を制御し、第5管45と第6管46とを接続する(すなわち、接続状態を維持する)。この状態において、制御部21は、第1駆動部23に制御信号を送信し、
図23に表した矢印A52のように、第1シリンジ331の抜去方向に第1ピストン332を移動させるとともに、第2シリンジ334の挿入方向に第2ピストン335を移動させる。
【0100】
そうすると、
図23に表した矢印A53のように、酸素化機構312において生成された液体91(すなわち高酸素化溶液)が、第1管41および第2管42を通して第1シリンジ331に供給され貯留される。また、
図23に表した矢印A54のように、第2シリンジ334に貯留されていた脳脊髄液92が第5管45および第6管46を通してリザーバ311に供給され貯留される。さらに、
図23に表した矢印A55のように、リザーバ311に貯留されていた脳脊髄液92が、第7管47を通して酸素化機構312に供給される。
【0101】
本実施形態に係る液体循環システム3によれば、液体を循環させる回路が、注入カテーテル52および排出カテーテル51を含む回路(すなわち生体回路部32)と、注入カテーテル52および排出カテーテル51に接続されたシステム回路部31と、に分割されている。また、液体を注入カテーテル52に供給する第1ピストン332と、液体をシステム回路部31に供給する第2ピストン335と、が生体回路部32およびシステム回路部31において共有の送液部として機能する。また、第1流路切替部333および第2流路切替部336は、液体の流れる流路を切り替えることができる。液体循環システム3がこのような構成を有することにより、システム回路部31が、生体側の状況を維持しつつ、キャビテーション現象により生ずる液体の全体容量の増加および蒸発により生ずる液体の全体容量の減少に対応することができ、液体の全体容量の増減を抑えることができる。これにより、頭蓋内圧の変動を抑えることができる。
【0102】
また、第1ピストン332および第2ピストン335は、互いに連動して動作し、生体回路部32およびシステム回路部31において共有の1つの送液部として機能する。第1シリンジ331および第2シリンジ334は、互いに同じ形状および容量で形成されている。そのため、身体内に注入される液体の容量は、身体外に排出される液体の容量に常に等しい。このような定容量型のポンプは、一周期で注入・排出する液量が変動することがなく、可変容量型のポンプに比して注入量と排出量を確実に同一のものとすることが出来る。そのため、身体内の脳脊髄液の量をより一層確実に一定範囲に保つことができる。これにより、頭蓋内圧の変動をより一層確実に抑えることができる。
【0103】
さらに、身体内に注入する液体が高酸素化溶液である場合には、頭蓋内圧の変動を抑えつつ脳の治療領域に高酸素化溶液を効率的に送達できる。
【0104】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。上記実施形態の構成は、その一部を省略したり、上記とは異なるように任意に組み合わせたりすることができる。
【符号の説明】
【0105】
2:医療システム、 3:液体循環システム、 5:医療デバイス、 21:制御部、 22:ポンプ、 23:第1駆動部、 24:第2駆動部、 25:第3駆動部、 31:システム回路部、 32:生体回路部、 33:ポンプ部、 41:第1管、 42:第2管、 43:第3管、 44:第4管、 45:第5管、 46:第6管、 47:第7管、 48:第8管、 51:排出カテーテル、 52:注入カテーテル、 53:空間、 55:チューブ、 56:タンク、 91:液体、 92:脳脊髄液、 211:第1期間、 212:第2期間、 213:第3期間、 214:第4期間、 311:リザーバ、 312:酸素化機構、 313:酸素供給源、 331:第1シリンジ、 332:第1ピストン、 333:第1流路切替部、 334:第2シリンジ、 335:第2ピストン、 336:第2流路切替部、 511:排出口、 513:内腔、 521:注入口、 523:内腔、 911:着色水