(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180195
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】医療システムおよび液体循環システム
(51)【国際特許分類】
A61M 1/18 20060101AFI20241219BHJP
A61M 1/36 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
A61M1/18 525
A61M1/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099693
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098796
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 全
(74)【代理人】
【識別番号】100121647
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 和孝
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【弁理士】
【氏名又は名称】芳野 理之
(72)【発明者】
【氏名】北岡 孝史
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA03
4C077AA16
4C077BB06
4C077DD07
4C077DD19
4C077DD21
4C077EE04
4C077EE10
4C077FF02
4C077LL05
(57)【要約】
【課題】頭蓋内圧の変動を抑えつつ脳の治療領域に液体を効率的に送達できる医療システムおよび液体循環システムを提供すること。
【解決手段】医療システムは、体腔内に液体を注入し、かつ、液体を体腔内から排出しない第1期間211と、体腔内に液体を注入せず、かつ、液体を体腔内から排出する第2期間212と、を設定し、第1期間211と第2期間212とを交互に繰り返し、第1期間211における液体の注入量を第2期間212における液体の排出量と実質的に同じに設定する制御を実行する制御部を備える。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の脳脊髄液が存在する体腔内に液体を注入し、前記体腔内に存在する前記液体を前記体腔内から排出する医療システムであって、
前記体腔内に前記液体を注入し、かつ、前記液体を前記体腔内から排出しない第1期間と、
前記体腔内に前記液体を注入せず、かつ、前記液体を前記体腔内から排出する第2期間と、
を設定し、前記第1期間と前記第2期間とを交互に繰り返し、前記第1期間における前記液体の注入量を前記第2期間における前記液体の排出量と実質的に同じに設定する制御を実行する制御部を備えたことを特徴とする医療システム。
【請求項2】
前記第1期間の開始から前記第2期間の終了までの周期が、実質的に一定であることを特徴とする請求項1記載の医療システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記体腔内に前記液体を注入せず、かつ、前記液体を前記体腔内から排出しない第3期間を、前記第1期間と前記第2期間との間にさらに設定することを特徴とする請求項1に記載の医療システム。
【請求項4】
前記第3期間の時間が、前記第1期間の時間よりも長いことを特徴とする請求項3に記載の医療システム。
【請求項5】
前記第3期間の時間が、1秒以上であることを特徴とする請求項3に記載の医療システム。
【請求項6】
前記制御部は、前記第3期間を前記第2期間と前記第1期間との間にさらに設定し、
前記第1期間と前記第2期間との間に設定された前記第3期間の第1時間が、前記第2期間と前記第1期間との間に設定された前記第3期間の第2時間よりも長いことを特徴とする請求項3に記載の医療システム。
【請求項7】
前記第2期間における前記液体の排出速度は、前記第1期間における前記液体の注入速度よりも遅いことを特徴とする請求項1に記載の医療システム。
【請求項8】
前記制御部は、前記第1期間における前記注入量および前記第2期間における前記排出量よりも少ない量の前記液体を注入または排出する第0期間を初回に設定し、
前記第1期間および前記第2期間のうち前記第0期間とは前記液体の移動方向が異なる期間を前記第0期間の次に開始することを特徴とする請求項1に記載の医療システム。
【請求項9】
前記第0期間における注入量が、前記第1期間における前記注入量の実質的に半分であり、前記第0期間における排出量が、前記第2期間における前記排出量の実質的に半分であることを特徴とする請求項8に記載の医療システム。
【請求項10】
前記制御部は、前記制御の終了時に、前記体腔内に前記液体を注入することにより前記制御の実行開始時において前記体腔内に存在していた前記脳脊髄液の量に近づける、または、前記液体を前記体腔内から排出することにより前記制御の実行開始時において前記体腔内に存在していた前記脳脊髄液の量に近づける制御を実行することを特徴とする請求項1に記載の医療システム。
【請求項11】
前記体腔内に前記液体を注入する注入カテーテルと、
前記液体を前記体腔内から排出する排出カテーテルと、
をさらに備え、
前記注入カテーテルの先端と、前記排出カテーテルの先端と、の間の距離は、前記制御の実行開始時において30センチメートル以下であることを特徴とする請求項1に記載の医療システム。
【請求項12】
液体を脳脊髄液が存在する体腔内に注入し、前記体腔外に排出することで前記液体を循環させる液体循環システムであって、
前記液体を前記体腔内に注入する注入カテーテルと、
前記液体を前記体腔内から前記体腔外に排出する排出カテーテルと、
前記体腔内に注入する前記液体および前記体腔内から排出された前記液体の少なくともいずれかを貯留する液体貯留部と、
前記液体貯留部および前記注入カテーテルに接続された送液ラインと、
前記液体貯留部および前記排出カテーテルに接続された排液ラインと、
前記送液ライン上に設けられ、前記液体を移動させる第1ポンプと、
前記排液ライン上に設けられ、前記液体を移動させる第2ポンプと、
前記送液ライン内の前記液体貯留部と前記第1ポンプとの間に設けられ、前記液体を処理する液体処理装置と、
前記第1ポンプと前記第2ポンプとを制御する単一の制御部と、
を備えたことを特徴とする液体循環システム。
【請求項13】
前記液体処理装置は、前記体腔外に排出された前記液体に酸素を付加する酸素付加装置であることを特徴とする請求項12に記載の液体循環システム。
【請求項14】
前記制御部は、前記第1ポンプと前記第2ポンプを交互に繰り返し駆動することを特徴とする請求項12に記載の液体循環システム。
【請求項15】
前記制御部は、前記第1ポンプが前記第2ポンプの起動を挟まずに連続もしくは間欠で起動している間に駆出した前記液体の注入量と、前記第2ポンプが前記第1ポンプの起動を挟まずに連続もしくは間欠で起動している間に駆出した前記液体の排出量と、の初回起動時からの総和を一定範囲に制御することを特徴とする請求項12に記載の液体循環システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳疾患の治療に用いられる医療システムおよび液体循環システムに関する。
【背景技術】
【0002】
脳疾患として例えば脳梗塞が発症すると、脳細胞に酸素を供給する血流が遮断され、脳細胞にダメージが発生するおそれがある。したがって、脳梗塞が発症した場合には、血流の早期再灌流が必要である。脳梗塞の治療の1つとして、酸素化した脳脊髄液などの高酸素化溶液を患者の脳脊髄液が存在する体腔内に注入し、酸素が欠乏している脳細胞に酸素を直接供給することが提案されている。
【0003】
特許文献1には、1つのルーメンで液体の生体への注入及び生体からの吸引を行うことのできるカテーテルシステムが開示されている。特許文献1に記載されたカテーテルシステムは、カテーテルと、管本体のルーメンを介して注入口に流体を供給する注入駆動部と、吸引口から管本体のルーメンを介して流体を吸引する吸引駆動部と、頭蓋内圧の状態を検出する検出部と、注入駆動部及び吸引駆動部を制御する制御部と、を有する。カテーテルの吸引口は、カテーテルの注入口が開状態の際に閉状態である。また、カテーテルの注入口は、カテーテルの吸引口が開状態の際に閉状態である。そして、制御部は、検出部で検出された頭蓋内圧の状態が一定の範囲となるように、注入駆動部と吸引駆動部とを交互に動作させる。
【0004】
ここで、脳疾患の治療を目的として高酸素化溶液などの液体が体腔内に注入される場合、頭蓋内圧を一定範囲に保つ必要がある。頭蓋内圧の正常な範囲は、5mmHg以上、15mmHg以下程度である。頭蓋内から脊髄腔内までの圧力が変動すると、脳に障害を与えるおそれがある。例えば、頭蓋内圧が20mmHg以上に上昇すると、頭蓋内圧亢進症(すなわち脳組織が負荷を受けることで発症する様々な症状)が発生するおそれがある。一方で、頭蓋内圧が5mmHg以下に低下すると、低髄液圧症候群(すなわち脳組織の位置を保てなくなることで発症する様々な症状)が発生するおそれがある。
【0005】
脳脊髄液が存在する体腔(例えばクモ膜下腔および脳室)は、ほぼ閉鎖空間である。そのため、頭蓋内圧を一定範囲に保つためには、体腔内の脳脊髄液の量を一定範囲に保つ必要がある。体腔内の脳脊髄液の量を一定範囲に保つためには、体腔内に注入した液体の量と同じ量の脳脊髄液を速やかに排出することが求められる。
【0006】
しかし、例えば腰椎付近からクモ膜下腔に挿入された注入用カテーテルおよび排出用カテーテルを介してポンプにより液体を循環させて液体を体腔内に注入する場合、注入のタイミングおよび排出のタイミングによっては、注入用カテーテルの注入口から体腔内に注入された液体が排出用カテーテルの排出口に向かう流れ(すなわち局所定常流)が形成される。これにより、注入用カテーテルの注入口から脳の治療領域に向かう液体の流れがわずかとなり、脳の治療領域に液体を効率的に送達できないという問題がある。
【0007】
この問題を解決するために、注入用カテーテルの注入口を脳の付近に配置し、排出用カテーテルの排出口を腰椎付近に配置することで、注入口と排出口との間の距離を十分に取り、局所定常流の影響を極力抑えることが考えられる。しかしながら、脳の付近までカテーテルを挿入しようとした場合、周囲に脊髄のような神経組織が走行しているとともに湾曲しているクモ膜下腔にカテーテルを長距離に渡って挿入することとなる。このようなカテーテルのクモ膜下腔深部への挿入には神経組織へダメージを与えるリスクが伴うため、カテーテルの挿入長は可能な限り短くすることが望ましい。
【0008】
また、例えば腰椎付近からクモ膜下腔に挿入された注入用カテーテルおよび排出用カテーテルを介してポンプにより液体を循環させて液体を体腔内に注入する場合、体腔内の脳脊髄液の量を一定範囲に保つためには、注入用カテーテルおよび排出用カテーテルのそれぞれの内腔の断面積、内腔の表面性状による流体抵抗、および長さなどのパラメータをコントロールし、注入量および排出量を一定にする必要がある。しかし、カテーテルの製造時のばらつき、および使用時のカテーテルの内腔の断面形状の変形などにより、前述したパラメータにばらつきが生ずる。そのため、注入量および排出量を一定にすることは困難である。
【0009】
また、液体の循環回路は、感染防止のために閉鎖系であることが望ましい。しかし、液体の循環回路が閉鎖系である場合、キャビテーション現象により気泡が循環回路内で発生することにより液体の全体容量が治療初期の容量よりも増加したり、脳脊髄液を酸素化する過程において水分が蒸発により失われることにより液体の全体容量が治療初期の容量よりも減少したりするおそれがある。閉鎖系の循環回路において液体の全体容量が増加したり減少したりすると、頭蓋内圧を一定範囲に保つことができないおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、頭蓋内圧の変動を抑えつつ脳の治療領域に液体を効率的に送達できる医療システムおよび液体循環システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、(1)対象者の脳脊髄液が存在する体腔内に液体を注入し、前記体腔内に存在する前記液体を前記体腔内から排出する医療システムであって、前記体腔内に前記液体を注入し、かつ、前記液体を前記体腔内から排出しない第1期間と、前記体腔内に前記液体を注入せず、かつ、前記液体を前記体腔内から排出する第2期間と、を設定し、前記第1期間と前記第2期間とを交互に繰り返し、前記第1期間における前記液体の注入量を前記第2期間における前記液体の排出量と実質的に同じに設定する制御を実行する制御部を備えたことを特徴とする医療システムである。
【0013】
上記(1)の医療システムによれば、制御部は、第1期間において、体腔内に液体を注入し、かつ、液体を体腔内から排出しない。また、制御部は、第2期間において、体腔内に液体を注入せず、かつ、液体を体腔内から排出する。そして、制御部は、第1期間と第2期間とを交互に繰り返し、液体の注入量を液体の排出量を実質的に同じにする。これにより、頭蓋内圧の許容変動範囲を超えない限りにおいて、液体の注入および液体の排出が同量で交互に繰り返される。そのため、液体の注入および液体の排出が同時に行われることはなく、注入口から体腔内に注入された液体が排出口に向かう局所定常流の発生を抑えることができる。そのため、体腔内に注入された液体は、注入方向および注入流速に従い脳の治療領域に向かって流れる。また、体腔内に注入された液体と体腔内の脳脊髄液との間の抵抗により生ずる乱流により、液体および脳脊髄液が撹拌される。さらに、液体に含まれる酸素等の濃度差による拡散が進行する。これにより、脳の治療領域に液体を効率的に送達できる。また、液体の注入量が液体の排出量と実質的に同じであるため、体腔内の脳脊髄液の量を一定範囲に保つことができる。これにより、頭蓋内圧の大幅な変動を抑えることができる。
【0014】
(2)上記(1)の医療システムにおいて、前記第1期間の開始から前記第2期間の終了までの周期が、実質的に一定であることが好ましい。
上記(2)の医療システムによれば、液体および脳脊髄液の撹拌と、液体に含まれる酸素等の濃度差による拡散と、の少なくともいずれかが、安定的に進行する。これにより、脳の治療領域に液体を効率的に送達できる。また、体腔内の脳脊髄液の量を一定範囲に安定的に保つことができる。これにより、頭蓋内圧の変動を抑えることができる。
【0015】
(3)上記(1)または(2)の医療システムにおいて、前記制御部は、前記体腔内に前記液体を注入せず、かつ、前記液体を前記体腔内から排出しない第3期間を、前記第1期間と前記第2期間との間にさらに設定することが好ましい。
上記(3)の医療システムによれば、液体に含まれる酸素等の濃度差による拡散が、第3期間の長さに応じてより一層進行する。これにより、脳の治療領域に液体をより一層効率的に送達できる。
【0016】
(4)上記(3)の医療システムにおいて、前記第3期間の時間が、前記第1期間の時間よりも長いことが好ましい。
上記(4)の医療システムによれば、液体に含まれる酸素等の濃度差による拡散が進行する時間が、液体の注入時間よりも長い。これにより、脳の治療領域に液体をより一層効率的に送達できる。
【0017】
(5)上記(3)または(4)の医療システムにおいて、前記第3期間の時間が、1秒以上であることが好ましい。
上記(5)の医療システムによれば、液体に含まれる酸素等の濃度差による拡散が進行する時間を確保できる。これにより、脳の治療領域に液体を効率的に送達できる。
【0018】
(6)上記(3)~(6)のいずれかの医療システムにおいて、前記制御部は、前記第3期間を前記第2期間と前記第1期間との間にさらに設定し、前記第1期間と前記第2期間との間に設定された前記第3期間の第1時間が、前記第2期間と前記第1期間との間に設定された前記第3期間の第2時間よりも長いことが好ましい。
【0019】
上記(6)の医療システムによれば、液体の注入と液体の排出との間に設けられた停止期間(すなわち第3期間)の第1時間が、液体の排出と液体の注入との間に設けられた停止期間(すなわち第3期間)の第2時間よりも長い。そのため、注入口から体腔内に注入された液体が排出口に向かう局所定常流の発生をより確実に抑え、液体に含まれる酸素等の濃度差による拡散が進行する時間を確実に確保できる。これにより、脳の治療領域に液体をより一層効率的に送達できる。
【0020】
(7)上記(1)~(6)のいずれかの医療システムにおいて、前記第2期間における前記液体の排出速度は、前記第1期間における前記液体の注入速度よりも遅いことが好ましい。
上記(7)の医療システムによれば、第2期間における液体の排出速度が第1期間における液体の注入速度よりも遅いため、注入口から体腔内に注入された液体が排出口側に向かう速度を抑えることができ、注入口から体腔内に注入された直後の液体が脳の方向に拡散する時間を確保することが可能となる。これにより、脳の治療領域に液体を効率的に送達できる。
【0021】
(8)上記(1)~(7)のいずれかの医療システムにおいて、前記制御部は、前記第1期間における前記注入量および前記第2期間における前記排出量よりも少ない量の前記液体を注入または排出する第0期間を初回に設定し、前記第1期間および前記第2期間のうち前記第0期間とは前記液体の移動方向が異なる期間を前記第0期間の次に開始することが好ましい。
上記(8)の医療システムによれば、初回の第0期間におけるクモ膜下腔内の容量変化を少なくすることで、第0期間以降の第1期間および第2期間におけるクモ膜下腔内の容量変化は、元の容量を挟んだ範囲で変動する。そのため、許容変動範囲を超えることを抑えることができる。これにより、頭蓋内圧の変動を許容変動範囲内に抑えることができる。
【0022】
(9)上記(8)の医療システムにおいて、前記第0期間における注入量が、前記第1期間における前記注入量の実質的に半分であり、前記第0期間における排出量が、前記第2期間における前記排出量の実質的に半分であることが好ましい。
上記(9)の医療システムによれば、頭蓋内圧が初回の第1期間における液体の注入により許容変動範囲を超えることをより確実に抑えることができる。これにより、頭蓋内圧の変動をより確実に許容変動範囲内に抑えることができる。
【0023】
(10)上記(1)~(9)のいずれかの医療システムにおいて、前記制御部は、前記制御の終了時に、前記体腔内に前記液体を注入することにより前記制御の実行開始時において前記体腔内に存在していた前記脳脊髄液の量に近づける、または、前記液体を前記体腔内から排出することにより前記制御の実行開始時において前記体腔内に存在していた前記脳脊髄液の量に近づける制御を実行することが好ましい。
【0024】
上記(10)の医療システムによれば、医療システムの制御の終了時における脳脊髄液の量を、医療システムの制御の実行開始時において体腔内に存在していた脳脊髄液の量と実質的に同じに設定することができる。そのため、医療システムの制御の終了時における頭蓋内圧を、医療システムの制御の実行開始時における頭蓋内圧と実質的に同じに設定することができる。これにより、医療システムの制御の終了時と医療システムの制御の実行開始時との間において、頭蓋内圧の変動を抑えることができる。
【0025】
(11)上記(1)~(10)のいずれかの医療システムは、前記体腔内に前記液体を注入する注入カテーテルと、前記液体を前記体腔内から排出する排出カテーテルと、をさらに備え、前記注入カテーテルの先端と、前記排出カテーテルの先端と、の間の距離は、前記制御の実行開始時において30センチメートル以下であることが好ましい。
【0026】
上記(11)の医療システムによれば、液体の注入および液体の排出が同量で交互に繰り返されるため、注入カテーテルの先端と、排出カテーテルの先端と、の間の距離が制御の実行開始時において30センチメートル以下であっても、注入口から体腔内に注入された液体が排出口に向かう局所定常流の発生を抑えることができる。これにより、注入カテーテルを生体内に深く挿入することなく、脳の治療領域に液体を効率的に送達できる。
【0027】
本発明は、(12)液体を脳脊髄液が存在する体腔内に注入し、前記体腔外に排出することで前記液体を循環させる液体循環システムであって、前記液体を前記体腔内に注入する注入カテーテルと、前記液体を前記体腔内から前記体腔外に排出する排出カテーテルと、前記体腔内に注入する前記液体および前記体腔内から排出された前記液体の少なくともいずれかを貯留する液体貯留部と、前記液体貯留部および前記注入カテーテルに接続された送液ラインと、前記液体貯留部および前記排出カテーテルに接続された排液ラインと、前記送液ライン上に設けられ、前記液体を移動させる第1ポンプと、前記排液ライン上に設けられ、前記液体を移動させる第2ポンプと、前記送液ライン内の前記液体貯留部と前記第1ポンプとの間に設けられ、前記液体を処理する液体処理装置と、前記第1ポンプと前記第2ポンプとを制御する単一の制御部と、を備えたことを特徴とする液体循環システムである。
【0028】
上記(12)の液体循環システムによれば、注入カテーテルおよび排出カテーテルを含む回路(すなわち生体回路部)と、注入カテーテルに接続された送液ラインおよび排出カテーテルに接続された排液ラインを含む回路(すなわちシステム回路部)と、に分割されている。また、送液ライン上に設けられ液体を移動させる第1ポンプと、排液ライン上に設けられ液体を移動させる第2ポンプと、が生体回路部およびシステム回路部において共有のポンプとして機能する。液体循環システムがこのような構成を有することにより、システム回路部が、生体側の状況を維持しつつ、キャビテーション現象により生ずる液体の全体容量の増加および蒸発により生ずる液体の全体容量の減少に対応することができ、生体回路内の液体の増減を極小化することができる。これにより、頭蓋内圧の変動を抑えることができる。
【0029】
(13)上記(12)の液体循環システムにおいて、前記液体処理装置は、前記体腔外に排出された前記液体に酸素を付加する酸素付加装置であることが好ましい。
上記(13)の液体循環システムによれば、頭蓋内圧の変動を抑えつつ脳の治療領域に高酸素化溶液を効率的に送達できる。
【0030】
(14)上記(12)または(13)の液体循環システムにおいて、前記制御部は、前記第1ポンプと前記第2ポンプを交互に繰り返し駆動することが好ましい。
【0031】
上記(14)の液体循環システムによれば、頭蓋内圧の許容変動範囲を超えない限りにおいて、液体の注入および液体の排出が同量で交互に繰り返される。そのため、液体の注入および液体の排出が同時に行われることはなく、液体の注入および液体の排出が同時に行われたときに発生する局所定常流すなわち注入口から体腔内に注入された液体が排出口に向かう局所定常流の発生を抑えることができる。そのため、体腔内に注入された液体は、注入方向および注入流速に従い脳の治療領域に向かって流れる。また、体腔内に注入された液体と体腔内の脳脊髄液との間の抵抗により生ずる乱流により、液体および脳脊髄液が撹拌される。さらに、液体に含まれる酸素等の濃度差による拡散が進行する。これにより、脳の治療領域に液体を効率的に送達できる。
【0032】
(15)上記(12)~(14)のいずれかの液体循環システムにおいて、前記制御部は、前記第1ポンプが前記第2ポンプの起動を挟まずに連続もしくは間欠で起動している間に駆出した前記液体の注入量と、前記第2ポンプが前記第1ポンプの起動を挟まずに連続もしくは間欠で起動している間に駆出した前記液体の排出量と、の初回起動時からの総和を一定範囲に制御することが好ましい。
【0033】
上記(15)の液体循環システムによれば、第1ポンプおよび第2ポンプの初回起動時からの脳脊髄液の量の変動を一定範囲に抑えることができる。そのため、頭蓋内圧が許容変動範囲を超えることをより確実に抑えることができる。これにより、頭蓋内圧の変動をより確実に許容変動範囲内に抑えることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、頭蓋内圧の変動を抑えつつ脳の治療領域に液体を効率的に送達できる医療システムおよび液体循環システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の実施形態に係る医療システムの概要を表す模式図である。
【
図2】本実施形態の注入カテーテルの注入口近傍を表す平面図である。
【
図3】本実施形態の排出カテーテルの排出口近傍を表す平面図である。
【
図4】
図3に表した切断面B-Bにおける断面図である。
【
図5】液体循環の開始直後に体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
【
図6】液体循環中に体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
【
図7】液体循環の停止後に体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
【
図8】本実施形態の制御による注入量と排出量と体腔内液量との関係を表すグラフである。
【
図9】本実施形態の制御の注入において体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
【
図10】本実施形態の制御の停止中において体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
【
図11】本実施形態の制御の排出において体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
【
図12】本実施形態の制御の第1変形例による注入量と排出量と体腔内液量との関係を表すグラフである。
【
図13】本実施形態の制御の第2変形例による注入量と排出量と体腔内液量との関係を表すグラフである。
【
図14】本実施形態の制御の第3変形例による注入量と排出量と体腔内液量との関係を表すグラフである。
【
図15】本発明者が実施した実験の概要を説明する模式図である。
【
図16】本発明者が実施した実験の結果の一例を例示する表である。
【
図17】本発明者が実施した実験の様子を表す写真である。
【
図18】本実施形態に係る液体循環システムの概要を表す模式図である。
【
図19】本実施形態に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
【
図20】本実施形態に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
【
図21】本実施形態に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
【
図22】本実施形態に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
【
図23】本変形例に係る液体循環システムの概要を表す模式図である。
【
図24】本変形例に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
【
図25】本変形例に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略する。
【0037】
図1は、本発明の実施形態に係る医療システムの概要を表す模式図である。
本実施形態に係る医療システム2は、対象者の脳脊髄液(CSF:Cerebrospinal Fluid)が存在する体腔内に液体を注入し、体腔内に存在する液体を体腔内から排出する。脳脊髄液は、主にクモ膜下腔および脳室に存在する。すなわち、脳脊髄液が存在する体腔には、クモ膜下腔および脳室が含まれる。
【0038】
図1に表したように、医療システム2は、制御部21と、ポンプ22と、医療デバイス5と、を備える。制御部21は、ポンプ22に接続され、制御信号をポンプ22に送信しポンプ22の動作を制御する。ポンプ22は、制御部21から送信された制御信号に基づいて稼動し、
図1に表した矢印A1のように、医療デバイス5を介して対象者の体腔内から脳脊髄液を吸引して排出する。ポンプ22により体腔外に排出された脳脊髄液は、例えば、酸素化機構(図示しない)などにより通常の脳脊髄液の酸素濃度よりも高い酸素濃度の液体(すなわち高酸素化溶液)に生成される。そして、
図1に表した矢印A2のように、ポンプ22は、医療デバイス5を介して体腔内に液体を注入する。
【0039】
なお、体腔内に注入される液体は、高酸素化溶液に限定されるわけではない。例えば、体腔内に注入される液体は、体外循環中の脳脊髄液に薬剤が付加された薬剤を含む液体であってもよく、体外循環中に好ましくない物質を除去するようフィルターで濾過した脳脊髄液であってもよい。その他、体腔内に注入される液体は、エネルギーを照射したり、加熱したりするなど、何らかの処理を脳脊髄液に施して体腔内に戻すものであってもよい。以下の説明では、説明の便宜上、体腔内に注入される液体が高酸素化溶液である例を挙げることがある。また、治療の初期段階において、生体内に注入する液体は、脳脊髄液の代替液として、乳酸リンゲル液を使用することが出来る。本実施形態においては、脳脊髄液や乳酸リンゲル液等の人工脳脊髄液、脳脊髄液と乳酸リンゲル液の混合液などを総じて液体と表記することがある。
【0040】
図1に表したように、医療デバイス5は、排出カテーテル51と、注入カテーテル52と、を有し、側臥位の状態にした腰椎付近からクモ膜下腔に挿入されて配置される。注入カテーテル52の配置される先端位置は、挿入時の安全性を配慮して、T6と呼ばれる上から6番目の胸椎付近からL1と呼ばれる上から1番目の腰椎の位置の間とすることが望ましい。例えば
図1に表した矢印A11のように、排出カテーテル51は、体腔内に存在する脳脊髄液を排出口511から吸引し体腔外に排出する。例えば
図1に表した矢印A13のように、注入カテーテル52は、脳脊髄液が存在するクモ膜下腔等の体腔内に注入口521から液体を注入する。
【0041】
図2は、本実施形態の注入カテーテルの注入口近傍を表す平面図である。
図3は、本実施形態の排出カテーテルの排出口近傍を表す平面図である。
図4は、
図3に表した切断面B-Bにおける断面図である。
【0042】
図3に表したように、排出カテーテル51の先端部は、排出口511として開口しており、腰椎付近のクモ膜下腔に配置される。例えば
図3に表した矢印A11および矢印A12のように、排出カテーテル51は、対象者のクモ膜下腔に挿入され、腰椎付近のクモ膜下腔に存在する脳脊髄液を排出口511を通して排出カテーテル51の内腔513と注入カテーテル52の外表面との間の空間53(
図4参照)に吸引する。なお、
図1に関して前述したように、脳脊髄液を吸引する力は、ポンプ22により与えられる。そして、
図1に表した矢印A1のように、排出カテーテル51は、脳脊髄液を空間53を通して対象者体腔外に排出する。
【0043】
注入カテーテル52の外径は、排出カテーテル51の内径よりも小さい。注入カテーテル52は、排出カテーテル51の内腔513に配置可能である。また、注入カテーテル52は、排出カテーテル51と結合されておらず、排出カテーテル51の長手方向D1(
図3参照)に沿って排出カテーテル51の内腔513を移動可能である。排出カテーテル51の先端部が排出口511として開口しているため、
図3に表したように、注入カテーテル52の先端部は、排出カテーテル51の排出口511を通過可能である。
【0044】
これにより、注入カテーテル52の先端部は、排出カテーテル51の長手方向D1において排出カテーテル51の排出口511から露出可能とされている。排出カテーテル51の先端部と、排出カテーテル51の排出口511から露出した注入カテーテル52の先端部と、の間の長手方向D1の距離は、所定距離に調整可能である。本願明細書における「所定距離」としては、例えば0cm以上、30cm以下程度が挙げられる。これにより、患者のクモ膜下腔へカテーテルを深く挿入する際に生じるリスクを避けることができる。
【0045】
図2に表したように、注入カテーテル52の先端部は、注入口521として開口しており、排出カテーテル51の排出口511を通過してクモ膜下腔内に配置される。例えば
図2に表した矢印A13のように、注入カテーテル52は、患者のクモ膜下腔に挿入され、注入カテーテル52の内腔523(
図4参照)を通してクモ膜下腔に存在する脳脊髄液に液体を注入する。なお、
図1に関して前述したように、脳脊髄液に液体を注入する力は、ポンプ22により与えられる。
【0046】
次に、液体循環において体腔内で生ずる液体の流れを、図面を参照して説明する。
図5は、液体循環の開始直後に体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
図6は、液体循環中に体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
図7は、液体循環の停止後に体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
【0047】
図5に表したように、液体循環の開始直後において、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91は、
図6に関して後述するように脳脊髄液が排出カテーテル51の排出口511から排出されるときの吸引の流れが注入口521に届くまでは、例えば
図5に表した矢印A13のように前方(すなわち脳が存在する方向)に向かって流れる。前方に向かって流れる液体91の流量は、
図6に関して後述する場合と比較してやや多い。また、液体循環の開始直後の短時間では、液体に含まれる酸素および薬剤など(以下、説明の便宜上「酸素等」と称する。)の濃度差による拡散は、ほとんど生じない。
【0048】
続いて、
図6に表したように、液体循環中すなわち液体の連続循環の最中では、脳脊髄液が排出カテーテル51の排出口511から排出されるときの吸引の流れが、注入カテーテル52の注入口521に届いて影響を及ぼす。そうすると、注入カテーテル52の注入口521から排出カテーテル51の排出口511に向かう流れが定常化する。すなわち、例えば
図6に表した矢印A14および矢印A15のように、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91が排出カテーテル51の排出口511に向かう局所定常流が生ずる。これにより、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91は、ほとんど前方(すなわち脳が存在する方向)に流れなくなる。
【0049】
また、局所定常流の影響により、液体91に含まれる酸素等の脳側への拡散は、液体循環の開始直後と比較して減速する。局所定常流の影響により、液体91に含まれる酸素等の濃度差によって腰椎側へ拡散した液体91は、排出カテーテル51の排出口511から体腔外へ排出される。
【0050】
図7に表したように、液体循環の停止後では、液体循環中に生じていた局所定常流が無くなる。そのため、例えば
図7に表した矢印A16および矢印A17のように、液体91に含まれる酸素等の拡散が、脳側および腰椎側に向かって生ずる。
【0051】
図6に関して説明したように、液体の連続循環が実行されると、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91が排出カテーテル51の排出口511に向かう局所定常流が生ずる。これにより、注入カテーテル52の注入口521から脳の治療領域に向かう液体91の流れがわずかとなり、脳の治療領域に液体91を効率的に送達することが困難になる。
【0052】
そこで、本実施形態に係る医療システム2の制御部21は、体腔内に液体91を注入し、かつ、液体91を体腔内から排出しない第1期間と、体腔内に液体91を注入せず、かつ、液体91を体腔内から排出する第2期間と、を設定し、第1期間と第2期間とを交互に繰り返すことで、上記局所定常流を発生させずに液体91を効率よく脳側に送達させることを可能とした。また、制御部21は、第1期間における液体91の注入量を第2期間における液体91の排出量と実質的に同じに設定することで、元々体腔内にあった脳脊髄液量の増減を抑制し、体腔内の圧力を許容範囲内に抑制することを可能とした。以下、本実施形態に係る医療システム2の制御の詳細を、図面を参照して説明する。
【0053】
図8は、本実施形態の制御による注入量と排出量と体腔内液量との関係を表すグラフである。
図9は、本実施形態の制御の注入において体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
図10は、本実施形態の制御の停止中において体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
図11は、本実施形態の制御の排出において体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
【0054】
図8に表したグラフの横軸は、時間を示している。
図8に表したグラフの縦軸は、液量の推移を表している。具体的には、
図8に表した「注入量」は、制御の実行開始時から体腔内に注入された液体91の積算量を表している。
図8に表した「排出量」は、制御の実行開始時から体腔外に排出された脳脊髄液の積算量を表している。
図8に表した「体腔内液量」は、制御の実行開始時において体腔内に存在していた脳脊髄液の変化量を表している。
【0055】
図8に表したように、本実施形態の制御において、制御部21は、体腔内に液体91を注入し、かつ、液体91を体腔内から排出しない第1期間211と、体腔内に液体91を注入せず、かつ、液体91を体腔内から排出する第2期間212と、を設定する。つまり、第1期間211では、体腔内への液体91の注入のみが実行される。一方で、第2期間212では、体腔内からの液体91の排出のみが実行される。
【0056】
そして、
図8に表したように、制御部21は、第1期間211と第2期間212とを交互に繰り返す。また、制御部21は、第1期間211における液体91の注入量を第2期間212における液体91の排出量と実質的に同じに設定する。これにより、頭蓋内圧の許容変動範囲を超えない限りにおいて、液体91の注入および液体91の排出が同量で交互に繰り返される。
【0057】
本実施形態に係る医療システム2の制御では、液体91の注入および排出が同時に行われることはなく、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91が排出カテーテル51の排出口511に向かう局所定常流の発生を抑えることができる。
【0058】
図9に表したように、第1期間211では、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91が、注入方向および注入流速に従い脳側に向かって流れる。また、例えば
図9に表した矢印A21のように、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91と体腔内の脳脊髄液との間の抵抗により生ずる乱流により、液体91および脳脊髄液が撹拌される。さらに、例えば
図9に表した矢印A22および矢印A23のように、液体91に含まれる酸素等の濃度差による拡散が進行する。これにより、脳の治療領域に液体を効率的に送達できる。また、第1期間211における液体91の注入量が第2期間212における液体91の排出量と実質的に同じであるため、体腔内に存在する液体の量が一定範囲に保たれる。これにより、頭蓋内圧の変動を許容範囲内に抑えることができる。
【0059】
例えば
図11に表した矢印A26のように、第2期間212では、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91の量と同じ量の液体91が排出カテーテル51の排出口511に向かって流れ、排出カテーテル51の排出口511に吸引される。また、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91は、排出カテーテル51の排出口511に向かって全体的に引き戻される一方で、例えば
図11に表した矢印A27のように、注入方向に拡がった液体91が体腔内に残る。
【0060】
図8に表したように、制御部21は、体腔内に液体91を注入せず、かつ、液体91を体腔内から排出しない第3期間213を、第1期間211と第2期間212との間および第2期間212と第1期間211との間にさらに設定する。つまり、第3期間213では、体腔内への液体91の注入と、体腔内からの液体91の排出と、が同時に停止される。制御部21は、第1期間211と、第3期間213と、第2期間212と、第3期間213と、をこの順に繰り返す。第3期間では、例えば
図10に表した矢印A24および矢印A25に表したように、液体91に含まれる酸素等の濃度差による拡散が、脳側および腰椎側に向かって第3期間213の時間(すなわち停止時間)に応じて進行する。第3期間213の時間は、直前の注入、または排出で生じた流れが無くなるまでであることが好ましく、具体的には1秒以上が好ましい。
【0061】
このように、本実施形態に係る医療システム2の制御では、液体91の注入および排出が同時に行われることはなく、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91が排出カテーテル51の排出口511に向かう局所定常流の発生を抑えることができる。そのため、体腔内に注入された液体91は、注入方向および注入流速に従い脳の治療領域に向かって流れる。また、体腔内に注入された液体と体腔内の脳脊髄液との間の抵抗により生ずる乱流により、液体および脳脊髄液が撹拌される。さらに、液体91に含まれる酸素等の濃度差による拡散が進行する。これにより、脳の治療領域に液体を効率的に送達できる。また、液体91の注入量が液体91の排出量と実質的に同じであるため、体腔内に存在する液体の量を一定範囲に保つことができる。これにより、頭蓋内圧の変動を許容範囲内に抑えることができる。
【0062】
第1期間211の開始から第2期間212の終了までの周期は、制御の実行中において実質的に一定である。そのため、液体91および脳脊髄液の撹拌と、液体91に含まれる酸素等の濃度差による拡散と、の少なくともいずれかが、安定的に進行する。これにより、脳の治療領域に治療物質(酸素等)を効率的に送達できる。また、体腔内に存在する液体の量を一定範囲に安定的に保つことができる。これにより、頭蓋内圧の変動を許容範囲内に抑えることができる。
【0063】
また、前述したように、制御部21は、体腔内に液体91を注入せず、かつ、液体91を体腔内から排出しない第3期間213を、第1期間211と第2期間212との間および第2期間212と第1期間211との間にさらに設定する。そのため、液体91に含まれる酸素等の拡散が、第3期間の長さに応じてより一層進行する。これにより、脳の治療領域に液体をより一層効率的に送達できる。
【0064】
第2期間212における液体91の排出速度は、第1期間211における液体91の注入速度よりも遅くともよい。この場合には、第2期間212における排出速度が第1期間211における注入速度よりも遅いため、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された直後の液体91が排出カテーテル51の排出口511から体腔外に排出されることを抑えることができる。これにより、脳の治療領域に治療物質(酸素等)を効率的に送達できる。
【0065】
図8に表したように、制御部21は、制御の終了時あるいは終了間際に第2期間212を設定し、液体を体腔内から排出することにより制御の実行開始時において体腔内に存在していた脳脊髄液の量に近づける制御を実行する。これによれば、制御部21は、医療システム2の制御の終了時において体腔内に存在する液体の量を、医療システム2の制御の実行開始時において体腔内に存在していた脳脊髄液の量と実質的に同じに設定することができる。そのため、医療システム2の制御の終了時における頭蓋内圧を、医療システム2の制御の実行開始時における頭蓋内圧と実質的に同じに設定することができる。これにより、医療システム2の制御の終了時と医療システム2の制御の実行開始時との間において、頭蓋内圧の変動を抑えることができる。
【0066】
なお、制御部21は、第1期間211と第2期間212との順番を互いに変えて第2期間212(すなわち、液体91の排出)から始めるように制御してもよい。この場合、制御の終了時あるいは終了間際に第1期間211が設定され、体腔内に液体を注入することにより制御の実行開始時において体腔内に存在していた脳脊髄液の量に近づける制御を実行する。この場合であっても、制御部21が制御の終了時あるいは終了間際に第2期間212を設定する場合と同様の効果が得られる。
【0067】
次に、本実施形態に係る医療システムの制御の変形例を、図面を参照して説明する。
図12は、本実施形態の制御の第1変形例による注入量と排出量と体腔内液量との関係を表すグラフである。
図12に表したグラフの横軸および縦軸、ならびに
図12に表した「注入量」、「排出量」および「体腔内液量」は、
図8に関して前述した通りである。
【0068】
図12に表したように、本実施形態の制御の第1変形例において、制御部21は、第1期間211と、第3期間213と、第2期間212と、第3期間213と、をこの順に繰り返す。
図12に表したように、第1期間211と第2期間212との間に設定された第3期間213の時間は、第1期間211の時間よりも長い。これによれば、液体91に含まれる酸素等の濃度差による拡散が進行する時間が、液体91の注入時間よりも長い。これにより、脳の治療領域に液体をより一層効率的に送達できる。
【0069】
また、
図12に表したように、第1期間211と第2期間212との間に設定された第3期間213の時間(第1時間)は、第2期間212と第1期間211との間に設定された第3期間213の時間(第2時間)よりも長い。これによれば、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91の流れが停止する前に排出カテーテル51による排出が開始されることをより確実に抑え、液体91に含まれる酸素等の濃度差による拡散が進行する時間を確実に確保できる。これにより、脳の治療領域に液体をより一層効率的に送達できる。また、第2期間212と第1期間211との間に設定された第3期間213の時間(第2時間)を短くすることで、続けて治療物質である酸素等を含む液体91を注入するタイミングを早めることが出来るので、治療効果を高めることが期待される。
【0070】
図13は、本実施形態の制御の第2変形例による注入量と排出量と体腔内液量との関係を表すグラフである。
図13に表したグラフの横軸および縦軸、ならびに
図13に表した「注入量」、「排出量」および「体腔内液量」は、
図8に関して前述した通りである。
【0071】
図13に表したように、本実施形態の制御の第2変形例において、制御部21は、第1期間211における注入量よりも少ない量の液体91を注入する第0期間211aを初回に設定し、次いで第3期間213と、第2期間212と、第3期間213と、第1期間211と、をこの順に繰り返す。
図13に表したように、初回の第0期間211aにおける液体91の注入量は、第2回以降の第1期間211における液体91の注入量よりも少ない。例えば、初回の第0期間211aにおける液体91の注入量は、第2回以降の第1期間211における液体91の注入量の実質的に半分である。
【0072】
図13に表したように、制御部21は、初回の第0期間211aにおける液体91の注入時間を第2回以降の第1期間211における液体91の注入時間よりも短い時間に設定することにより、初回の第0期間211aにおける液体91の注入量を第2回以降の第1期間211における液体91の注入量よりも少ない量に設定する。あるいは、制御部21は、初回の第0期間211aにおける液体91の注入速度を第2回以降の第1期間211における液体91の注入速度よりも遅い速度に設定することにより、初回の第0期間211aにおける液体91の注入量を第2回以降の第1期間211における液体91の注入量よりも少ない量に設定してもよい。また、制御の終了時あるいは終了間際には、第0期間211aと同量の液体を排出して終了することで、最終的な体腔内の圧力を制御の実行開始時における圧力と実質的に同じにして終了することができる。
【0073】
本変形例によれば、体腔内における脳脊髄液量は元の量を挟んで上下に変動することになるので、制御の実行開始時の頭蓋内圧からの変動の変位を上述した実施形態のものより小さくすることができる。もしくは、二回目以降において、一度に注入する治療物質を含む液体91の量を上述した実施形態のものより多くすることができる。これにより、頭蓋内圧の変動を許容変動範囲内に抑え、より高い治療効果を得ることができる。なお、本変形例においても
図12で示した変形例と同様に、注入と排出との間の停止期間(第3期間)の時間(第1時間)を、排出と注入との間の停止期間(第3期間)の時間(第2時間)より長く設定しても良い。
【0074】
図14は、本実施形態の制御の第3変形例による注入量と排出量と体腔内液量との関係を表すグラフである。
図14に表したグラフの横軸および縦軸、ならびに
図14に表した「注入量」、「排出量」および「体腔内液量」は、
図8に関して前述した通りである。
【0075】
図14に表したように、本実施形態の制御の第3変形例において、制御部21は、第2期間212における排出量よりも少ない量の液体91を排出する第0期間212aを初回に設定し、次いで第3期間213と、第1期間211と、第3期間213と、第2期間212と、をこの順に繰り返す。
図14に表したように、初回の第0期間212aにおける液体91の排出量は、第2回以降の第2期間212における液体91の排出量よりも少ない。例えば、初回の第0期間212aにおける液体91の排出量は、第2回以降の第2期間212における液体91の排出量の実質的に半分である。
【0076】
図14に表したように、制御部21は、初回の第0期間212aにおける液体91の排出時間を第2回以降の第2期間212における液体91の排出時間よりも短い時間に設定することにより、初回の第0期間212aにおける液体91の排出量を第2回以降の第2期間212における液体91の排出量よりも少ない量に設定する。あるいは、制御部21は、初回の第0期間212aにおける液体91の排出速度を第2回以降の第2期間212における液体91の排出速度よりも遅い速度に設定することにより、初回の第0期間212aにおける液体91の排出量を第2回以降の第2期間212における液体91の排出量よりも少ない量に設定してもよい。また、制御の終了時あるいは終了間際には、第0期間212aと同量の液体を注入して終了することで、最終的な体腔内の圧力を制御の実行開始時における圧力と実質的に同じにして終了することができる。
【0077】
本変形例によれば、体腔内における脳脊髄液量は元の量を挟んで上下に変動することになるので、制御の実行開始時の頭蓋内圧からの変動の変位を上述した実施形態のものより小さくすることができる。もしくは、一度に注入する治療物質を含む液体91の量を上述した実施形態のものより多くすることができる。これにより、頭蓋内圧の変動を許容変動範囲内に抑え、より高い治療効果を得ることができる。なお、本変形例においても
図12で示した変形例と同様に、注入と排出との間の停止期間(第3期間)の時間(第1時間)を、排出と注入との間の停止期間(第3期間)の時間(第2時間)より長く設定しても良い。
【0078】
次に、本発明者が実施した実験の一例を、図面を参照して説明する。
図15は、本発明者が実施した実験の概要を説明する模式図である。
図16は、本発明者が実施した実験の結果の一例を例示する表である。
図17は、本発明者が実施した実験の様子を表す写真である。
図17(a)は、本実験の開始時の様子を表す写真である。
図17(b)は、本実験の途中の様子、すなわち着色水911がチューブ55の中間位置に到達した様子を表す写真である。
図17(c)は、着色水911がゴール位置に到達した様子を表す写真である。なお、説明の便宜上、
図17(b)および
図17(c)の写真では、着色水911に斜線を施している。
【0079】
本発明者は、
図17(a)~
図17(c)に表したようなクモ膜下腔の脊髄部分を模したモデルを用いて注入カテーテル52の注入口521から着色水911をチューブ55に注入し、着色水911がチューブ55に注入されてからゴールに設定した位置に到達するまでに要した時間を比較した。
図17(a)~
図17(c)に表したモデルにおいて、チューブ55の内腔は、クモ膜下腔を模した部分である。タンク56の内腔は、頭蓋内を模した部分である。ゴール位置は、チューブ55とタンク56との接続部の近傍の位置であってチューブ55を通過した着色水911がタンク56に流入した直後の位置である。ゴール位置は、大槽を模した部分である。
【0080】
図15に表したように、排出カテーテル51の先端部(すなわち排出口511)と、排出カテーテル51の排出口511から露出した注入カテーテル52の先端部(すなわち注入口521)と、の間の長手方向D1(
図3参照)の距離は、20cmである。また、注入カテーテル52の注入口521と、ゴール位置(すなわち大槽を模した部分)と、の間の長手方向D1の距離は、20cmである。
【0081】
図16を用いて、本実験における注入および排出の方法を説明する。
図16に表した表のうち「連続循環」は、着色水911を連続的に注入および排出する方法であり、比較例としての方法である。すなわち、
図16に表した表の通り、「連続循環」において、制御部21は、20mL/minの流速で着色水911を連続的に注入および排出する期間を設定する。
【0082】
図16に表した表のうち「等量出納」は、
図8~
図11に関して前述した制御が実行されたときの注入および排出の方法である。すなわち、
図16に表した表の通り、「等量出納」において、制御部21は、着色水911をチューブ55に注入し、かつ、着色水911をチューブ55から排出しない第1期間211と、着色水911をチューブ55に注入せず、かつ、着色水911をチューブ55から排出する第2期間212と、を設定する。第1期間211の時間は、3秒間である。第1期間211では、20mL/minの流速の着色水911が3秒間にわたってチューブ55に注入されるため、着色水911の注入量は、1mLである。第2期間212の時間は、3秒間である。第2期間212では、20mL/minの流速の着色水911が3秒間にわたってチューブ55から排出されるため、着色水911の排出量は、1mLである。そして、制御部21は、第1期間211と第2期間212とを交互に繰り返す。さらに、「等量出納」において、制御部21は、着色水911をチューブ55に注入せず、かつ、着色水911をチューブ55から排出しない第3期間213を第1期間211と第2期間212との間および第2期間212と第1期間211との間に設定する。第3期間213の時間は、12秒間である。このように、「等量出納」において、制御部21は、第1期間211と、第3期間213と、第2期間212と、第3期間213と、をこの順に繰り返す。
【0083】
本実験の結果の一例は、
図16の表に表した通りである。すなわち、着色水911は、「連続循環」および「等量出納」の両方においてゴール位置に到達できた。着色水911がチューブ55に注入されてからゴール位置に到達するまでに要した時間は、「連続循環」において60分間であり、「等量出納」において0.75分間である。着色水911がチューブ55に注入されてからゴール位置に到達するまでに注入した着色水911の量は、「連続循環」において1200mLであり、「等量出納」において2mLである。本実験の結果により、「等量出納」は、「連続循環」と比較して、着色水911をゴール位置に効率的に送達できることが分かる。
【0084】
次に、本実施形態に係る液体循環システムを、図面を参照して説明する。
なお、液体循環システム3の構成要素が、
図1~
図17に関して前述した医療システム2の構成要素と同様である場合には、重複する説明は適宜省略し、以下、相違点を中心に説明する。
【0085】
図18は、本実施形態に係る液体循環システムの概要を表す模式図である。
本実施形態に係る液体循環システム3は、液体を体腔内に注入し、体腔外に排出することで液体を循環させる。体腔内としては、例えば、対象者の脳脊髄液が存在する体腔内が挙げられる。本実施形態に係る液体循環システム3の説明では、体腔内に注入する液体が高酸素化溶液である場合を例に挙げる。
【0086】
図18に表したように、液体循環システム3は、システム回路部31と、生体回路部32と、ポンプ部33と、を備える。
【0087】
システム回路部31は、高酸素化溶液の生成および温度調整を行うとともに、循環回路における液体の全体容量の調整を行う部分であり、制御部21と、リザーバ311と、酸素化機構312と、酸素供給源313と、を有する。本実施形態の酸素化機構312は、本発明の「液体処理装置」および「酸素付加装置」の一例である。
【0088】
システム回路部31は、第1駆動部23と、第2駆動部24と、をさらに有する。第1駆動部23と、第2駆動部24と、のそれぞれは、制御部21に接続されており、制御部21から送信された制御信号に基づいて稼動する。第1駆動部23および第2駆動部24としては、例えばモータなどのアクチュエータが挙げられる。なお、第1駆動部23および第2駆動部24は、ポンプ部33に設けられていてもよい。
【0089】
生体回路部32は、液体を体腔内に注入するとともに液体を体腔外に排出する部分であり、排出カテーテル51と、注入カテーテル52と、を有する。排出カテーテル51および注入カテーテル52は、ポンプ部33を介してシステム回路部31に接続されている。排出カテーテル51および注入カテーテル52は、
図1~
図17に関して前述した通りである。
【0090】
ポンプ部33は、システム回路部31および生体回路部32において共有の送液部として機能する。ポンプ部33は、第1液体貯留部331と、第1ポンプ332と、第1流路切替部333と、第2液体貯留部334と、第2ポンプ335と、第2流路切替部336と、を有する。前述したように、ポンプ部33は、第1駆動部23と、第2駆動部24と、を有していてもよい。
【0091】
図18に表したように、酸素化機構312は、第1管41を介して第1流路切替部333に接続されている。また、酸素化機構312は、第7管47を介してリザーバ311と接続されている。さらに、酸素化機構312は、第8管48を介して酸素供給源313と接続されている。酸素化機構312は、リザーバ311から第7管47を通して供給された脳脊髄液もしくは乳酸リンゲル液等の人工脳脊髄液もしくはそれらの混合液に、酸素供給源313から第8管を通して供給された酸素を混合して酸素化された脳脊髄液を生成する。また、酸素化機構312は、酸素化された脳脊髄液の温度調整を行う熱交換器を有する。そして、酸素化機構312は、酸素化された脳脊髄液を高酸素化溶液として第1管41を通して第1流路切替部333に供給する。本実施形態における酸素化機構312としては、血液に酸素を付加するための中空糸型人工肺を使用することが出来る。
【0092】
第1流路切替部333は、第1管41と第2管42と第3管43との接続部に設けられ、第1管41と第2管42とが接続される流路と、第2管42と第3管43とが接続される流路と、を切り替え可能である。具体的には、第1駆動部23が、制御部21から送信された制御信号に基づいて第1流路切替部333の動作を制御し、第1管41と第2管42とが接続される流路と、第2管42と第3管43とが接続される流路と、を切り替える。第1管41と第2管42と第3管43とは、本発明の「送液ライン」の一例であり、第1液体貯留部331および注入カテーテル52に接続されている。
【0093】
第1流路切替部333は、第2管42を介して第1液体貯留部331に接続されている。第1ポンプ332は、第2管42に設けられている。第1ポンプ332としては、例えばローラポンプおよびシリンジポンプなどが挙げられる。第1ポンプ332は、制御部21から送信された制御信に基づいて稼動し、第1液体貯留部331に向かって液体を移動させたり、第1流路切替部333に向かって液体を移動させたりする。
【0094】
第1流路切替部333が第1管41と第2管42とを接続している状態において、第1ポンプ332が第1方向に駆動すると、第1ポンプ332は、酸素化機構312において生成された液体(すなわち高酸素化溶液)を第1管41および第2管42を通して第1液体貯留部331に供給する。これにより、第1液体貯留部331は、酸素化機構312から第1管41および第2管42を通して供給された液体を貯留する。なお、第1流路切替部333が第1管41と第2管42とを接続している状態において、第1ポンプ332が第2方向に駆動すると、第1ポンプ332は、第1液体貯留部331に貯留された液体を第1管41および第2管42を通して酸素化機構312に供給することとなる。
【0095】
一方で、第1流路切替部333が、第2管42と第3管43とを接続している状態において、第1ポンプ332が第2方向に駆動すると、第1ポンプ332は、第1液体貯留部331に貯留された液体を第2管42と第3管43とを通して注入カテーテル52に供給する。
【0096】
図18に表したように、リザーバ311は、第6管46を介して第2流路切替部336に接続されている。また、リザーバ311は、第7管47を介して酸素化機構312に接続されている。リザーバ311は、第6管46を通して供給された脳脊髄液を一時的に貯留する。そして、リザーバ311は、貯留された脳脊髄液を第7管47を通して酸素化機構312に供給する。リザーバ311は、内部と外部とが互いに連通した構造を有し、貯留された脳脊髄液に含まれる気体を外部に抜くことができる。つまり、リザーバ311は、エアトラップとしての機能を有する。
【0097】
第2流路切替部336は、第4管44と第5管45と第6管46との接続部に設けられ、第4管44と第5管45とが接続される流路と、第5管45と第6管46とが接続される流路と、を切り替え可能である。具体的には、第2駆動部24が、制御部21から送信された制御信号に基づいて第2流路切替部336の動作を制御し、第4管44と第5管45とが接続される流路と、第5管45と第6管46とが接続される流路と、を切り替える。第4管44と第5管45と第6管46とは、本発明の「排液ライン」の一例であり、第2液体貯留部334および排出カテーテル51に接続されている。
【0098】
第2流路切替部336は、第5管45を介して第2液体貯留部334に接続されている。第2ポンプ335は、第5管45に設けられている。第2ポンプ335としては、例えばローラポンプおよびシリンジポンプなどが挙げられる。第2ポンプ335は、制御部21から送信された制御信に基づいて稼動し、第2液体貯留部334に向かって液体を移動させたり、第2流路切替部336に向かって液体を移動させたりする。
【0099】
第2流路切替部336が第4管44と第5管45とを接続している状態において、第2ポンプ335が第1方向に駆動すると、第2ポンプ335は、第4管44および第5管45を通して体腔内から体腔外に排出された液体(すなわち脳脊髄液)を第2液体貯留部334に供給する。これにより、第2液体貯留部334は、第4管44および第5管45を通して体腔内から体腔外に排出された液体(すなわち脳脊髄液)を貯留する。
【0100】
一方で、第2流路切替部336が第5管45と第6管46とを接続している状態において、第2ポンプ335が第1方向に駆動すると、第2ポンプ335は、リザーバ311に貯留された脳脊髄液を第5管45と第6管46とを介して第2液体貯留部334に供給する。これにより、第2液体貯留部334は、第5管45および第6管46を通してリザーバ311から供給された液体(すなわち脳脊髄液)を貯留する。第2流路切替部336が第5管45と第6管46とを接続している状態において、第2ポンプ335が第2方向に駆動すると、第2ポンプ335は、第2液体貯留部334に貯留された液体(すなわち脳脊髄液)を第5管45と第6管46とを通してリザーバ311に供給する。
【0101】
図19~
図22は、本実施形態に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
図19~
図22に関して説明する液体循環システム3の動作は、
図8~
図11に関して前述した制御に基づく動作である。
なお、説明の便宜上、
図19~
図22では、制御部21、第1駆動部23および第2駆動部24を省略している。また、以下に示す動作では、予め回路内のチューブやリザーバ、酸素化機構が、乳酸リンゲル液等の人工脳脊髄液により満たされたプライミング済みとなっている状態から動作を開始するものとして説明する。
【0102】
まず、
図19に表したように、第1ステップとして、制御部21は、第1駆動部23に制御信号を送信して第1流路切替部333の動作を制御し、第1管41と第2管42とを接続する。また、制御部21は、第2駆動部24に制御信号を送信して第2流路切替部336の動作を制御し、第4管44と第5管45とを接続する。この状態において、制御部21は、第1ポンプ332に制御信号を送信して第1ポンプ332を第2方向に駆動させるとともに、第2ポンプ335に制御信号を送信して第2ポンプ335を第1方向に駆動させる。
【0103】
そうすると、
図19に表した矢印A41のように、第1液体貯留部331に貯留されていた液体91(
図20参照)が、第1管41と第2管42とを通して酸素化機構312に戻される。一方で、例えば
図19に表した矢印A11のように、体腔内の脳脊髄液92が排出カテーテル51の排出口511に吸引される。そして、
図19に表した矢印A42のように、脳脊髄液92が、第4管44および第5管45を通して第2液体貯留部334に供給され貯留される。
【0104】
続いて、
図20に表したように、第2ステップとして、制御部21は、第1駆動部23に制御信号を送信して第1流路切替部333の動作を制御し、第1管41と第2管42とを接続する。また、制御部21は、第2駆動部24に制御信号を送信して第2流路切替部336の動作を制御し、第5管45と第6管46とを接続する。この状態において、制御部21は、第1ポンプ332に制御信号を送信して第1ポンプ332を第1方向に駆動させるとともに、第2ポンプ335に制御信号を送信して第2ポンプ335を第2方向に駆動させる。
【0105】
そうすると、
図20に表した矢印A43のように、酸素化機構312において生成された液体91(すなわち高酸素化溶液)が、第1管41および第2管42を通して第1液体貯留部331に供給され貯留される。また、
図20に表した矢印A44のように、第2液体貯留部334に貯留されていた脳脊髄液92が第5管45および第6管46を通してリザーバ311に供給され貯留される。さらに、
図20に表した矢印A45のように、リザーバ311に貯留されていた脳脊髄液92が、第7管47を通して酸素化機構312に供給される。
【0106】
続いて、
図21に表したように、第3ステップとして、制御部21は、第1駆動部23に制御信号を送信して第1流路切替部333の動作を制御し、第2管42と第3管43とを接続する。また、制御部21は、第2駆動部24に制御信号を送信して第2流路切替部336の動作を制御し、第5管45と第6管46とを接続する。この状態において、制御部21は、第1ポンプ332に制御信号を送信して第1ポンプ332を第2方向に駆動させるとともに、第2ポンプ335に制御信号を送信して第2ポンプ335を第1方向に駆動させる。
【0107】
そうすると、
図21に表した矢印A46のように、第1液体貯留部331に貯留されていた液体91(すなわち高酸素化溶液)が、第2管42と第3管43とを通して注入カテーテル52に供給される。そして、例えば
図21に表した矢印A13のように、液体91が、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入される。一方で、
図21に表した矢印A47のように、リザーバ311に貯留されていた脳脊髄液92が、第5管45と第6管46とを通して第2液体貯留部334に戻される。
【0108】
続いて、
図22に表したように、第4ステップとして、制御部21は、第1駆動部23に制御信号を送信して第1流路切替部333の動作を制御し、第1管41と第2管42とを接続する。また、制御部21は、第2駆動部24に制御信号を送信して第2流路切替部336の動作を制御し、第5管45と第6管46とを接続する。この状態において、制御部21は、第1ポンプ332に制御信号を送信して第1ポンプ332を第1方向に駆動させるとともに、第2ポンプ335に制御信号を送信して第2ポンプ335を第2方向に駆動させる。
【0109】
そうすると、
図22に表した矢印A48のように、酸素化機構312において生成された液体91(すなわち高酸素化溶液)が、第1管41および第2管42を通して第1液体貯留部331に供給され貯留される。また、
図22に表した矢印A49のように、第2液体貯留部334に貯留されていた脳脊髄液92が第5管45および第6管46を通してリザーバ311に供給され貯留される。さらに、
図22に表した矢印A51のように、リザーバ311に貯留されていた脳脊髄液92が、第7管47を通して酸素化機構312に供給される。
【0110】
本実施形態に係る液体循環システム3によれば、液体を循環させる回路が、注入カテーテル52および排出カテーテル51を含む回路(すなわち生体回路部32)と、注入カテーテル52に接続された送液ライン(すなわち第1管41、第2管42、第3管43)および排出カテーテル51に接続された排液ライン(すなわち第4管44、第5管45、第6管46)を含む回路(すなわちシステム回路部31)と、に分割されている。また、送液ライン上に設けられ液体を移動させる第1ポンプ332と、排液ライン上に設けられ液体を移動させる第2ポンプ335と、が生体回路部32およびシステム回路部31において共有のポンプとして機能する。液体循環システム3がこのような構成を有することにより、システム回路部31が、生体側の状況を維持しつつ、キャビテーション現象により生ずる液体の全体容量の増加および蒸発により生ずる液体の全体容量の減少に対応することができ、生体回路内の液体の量の増減を抑えることができる。これにより、頭蓋内圧の変動を抑えることができる。
【0111】
また、制御部21は、第1ポンプ332と第2ポンプ335と第1流路切替部333と第2流路切替部336とを繰り返し駆動し、
図19~
図22のような動作となるように液体の流れの方向を切り替える。これにより、頭蓋内圧の許容変動範囲を超えない限りにおいて、液体91の注入および脳脊髄液92の排出が同量で交互に繰り返される。制御部21は、第1流路切替部333が第2管42と第3管43とを接続すると同時に、第2流路切替部336が第4管44と第5管45とを接続する制御を行なわないため、液体91の注入および脳脊髄液92の排出が同時に行われることはなく、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91が排出カテーテル51の排出口511に向かう局所定常流の発生を抑えることができる。そのため、体腔内に注入された液体91は、注入方向および注入流速に従い脳の治療領域に向かって流れる。また、体腔内に注入された液体91と体腔内の脳脊髄液92との間の抵抗により生ずる乱流により、液体91および脳脊髄液92が撹拌される。さらに、液体91に含まれる酸素等の濃度差による拡散が進行する。これにより、脳の治療領域に液体を効率的に送達できる。
【0112】
また、制御部21は、第3ステップにおいて第1ポンプ332が連続もしくは間欠で起動している間に生体回路部32に向けて駆出した液体の注入量と、第1ステップにおいて第2ポンプ335が連続もしくは間欠で起動している間に生体回路部32から駆出した液体の排出量と、の初回起動時からの総和を一定範囲に制御する。これによれば、第1ポンプ332および第2ポンプ335の初回起動時からの脳脊髄液の量の変動を一定範囲に抑えることができる。そのため、頭蓋内圧が許容変動範囲を超えることをより確実に抑えることができる。これにより、頭蓋内圧の変動をより確実に許容変動範囲内に抑えることができる。
【0113】
さらに、身体内への注入先がクモ膜下腔で、そこに注入する液体が高酸素化溶液である場合には、頭蓋内圧の変動を抑えつつ脳の治療領域に高酸素化溶液を効率的に送達できる。
【0114】
次に、本実施形態の変形例に係る液体循環システムを、
図23~
図25を参照して説明する。
なお、本変形例に係る液体循環システム3Aの構成要素が、
図18~
図22に関して前述した液体循環システム3の構成要素と同様である場合には、重複する説明は適宜省略し、以下、相違点を中心に説明する。
【0115】
図23は、本変形例に係る液体循環システムの概要を表す模式図である。
本変形例に係る液体循環システム3Aは、液体を体腔内に注入し、体腔外に排出することで液体を循環させる。体腔内としては、例えば、対象者の脳脊髄液が存在する体腔内が挙げられる。本変形例に係る液体循環システム3Aの説明では、体腔内に注入する液体が高酸素化溶液である場合を例に挙げる。
【0116】
図23に表したように、液体循環システム3Aは、システム回路部31Aと、生体回路部32Aと、ポンプ部33Aと、を備える。
【0117】
システム回路部31Aは、高酸素化溶液の生成および温度調整を行うとともに、循環回路における液体の全体容量の調整を行う部分であり、制御部21と、リザーバ311と、酸素化機構312と、酸素供給源313と、を有する。本変形例の酸素化機構312は、本発明の「液体処理装置」および「酸素付加装置」の一例である。
【0118】
生体回路部32Aは、液体を体腔内に注入するとともに液体を体腔外に排出する部分であり、排出カテーテル51と、注入カテーテル52と、を有する。排出カテーテル51および注入カテーテル52は、ポンプ部33Aと、リザーバ311および酸素化機構312を含むシステム回路部31Aと、に接続されている。排出カテーテル51および注入カテーテル52は、
図1~
図17に関して前述した通りである。
【0119】
ポンプ部33Aは、システム回路部31Aおよび生体回路部32Aにおいて共有の送液部として機能する。ポンプ部33Aは、第1ポンプ332と、第2ポンプ335と、を有する。第1ポンプ332および第2ポンプ335は、ローラーで送液用チューブをしごくことによりチューブ内の液体を送液するローラポンプや複数のフィンガーで送液用チューブをしごくことによりチューブ内の液体を送液する蠕動ポンプを用いることができる。
【0120】
図23に表したように、酸素化機構312は、第1管41を介して注入カテーテル52に接続されている。また、酸素化機構312は、第3管43を介してリザーバ311と接続されている。さらに、酸素化機構312は、第4管44を介して酸素供給源313と接続されている。酸素化機構312は、リザーバ311から第3管43を通して供給された脳脊髄液もしくは乳酸リンゲル液もしくはそれらの混合液に、酸素供給源313から第4管44を通して供給された酸素を混合して酸素化された脳脊髄液を生成する。また、酸素化機構312は、酸素化された脳脊髄液の温度調整を行う熱交換器を有する。そして、酸素化機構312は、酸素化された脳脊髄液を高酸素化溶液として第1管41を通して注入カテーテル52に供給する。本変形例における酸素化機構312としては、血液に酸素を付加するための中空糸型人工肺を使用することが出来る。
【0121】
第1ポンプ332は、第1管41の経路上に設けられている。第1ポンプ332は、制御部21から送信された制御信号に基づいて稼動し、酸素化機構312から注入カテーテル52に向かって液体を移動させる。
【0122】
第1ポンプ332が駆動すると、第1ポンプ332は、酸素化機構312において生成された液体(すなわち高酸素化溶液)を第1管41を通して注入カテーテル52に供給し、最終的には体腔内に注入する。
【0123】
図23に表したように、リザーバ311は、第2管42を介して排出カテーテル51に接続されている。また、リザーバ311は、第3管43を介して酸素化機構312に接続されている。リザーバ311は、第2管42を通して供給された脳脊髄液を一時的に貯留する。そして、リザーバ311は、貯留された脳脊髄液を第3管43を通して酸素化機構312に供給する。リザーバ311は、内部と外部とが互いに連通した構造を有し、貯留された脳脊髄液に含まれる気体を外部に抜くことができる。つまり、リザーバ311は、エアトラップとしての機能を有する。
【0124】
第2ポンプ335は、第2管42上に設けられている。第2ポンプ335は、制御部21から送信された制御信号に基づいて稼動し、排出カテーテル51からリザーバ311に向かって液体を移動させる。
【0125】
第2ポンプ335が駆動すると、第2ポンプ335は、排出カテーテル51を通して体腔内から体腔外に排出された液体(すなわち脳脊髄液)をリザーバ311に供給する。これにより、リザーバ311は、排出カテーテル51を通して体腔内から体腔外に排出された液体(すなわち脳脊髄液)を貯留する。
【0126】
図24~
図25は、本変形例に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
図24~
図25に関して説明する液体循環システム3Aの動作は、
図8~
図11に関して前述した制御に基づく動作である。
なお、説明の便宜上、
図24~
図25では、制御部21を省略している。また、以下に示す動作では、予め回路内のチューブやリザーバ、酸素化機構が、乳酸リンゲル液等の人工脳脊髄液で満たされたプライミング済みとなっている状態から動作を開始するものとして説明する。
【0127】
まず、
図24に表したように、第1ステップとして、制御部21は、第1ポンプ332に制御信号を送信して第1ポンプ332を駆動させる。その際、制御部21は、第2ポンプ335を静止状態にする。
【0128】
そうすると、
図24に表した矢印A52および矢印A53のように、酸素化機構312において生成された液体91(すなわち高酸素化溶液)が、第1管41を通して注入カテーテル52に供給される。そして、
図24に表した矢印A13のように、液体91が、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入される。さらに、
図24に表した矢印A54のように、リザーバ311に貯留されていた脳脊髄液92が、第3管43を通して酸素化機構312に供給される。
【0129】
続いて、
図25に表したように、第2ステップとして、制御部21は、第2ポンプ335に制御信号を送信して第2ポンプ335を駆動させる。その際、制御部21は、第1ポンプ332を静止状態にする。
【0130】
そうすると、
図25に表した矢印A11のように、体腔内の脳脊髄液92が排出カテーテル51の排出口511に吸引される。そして、
図25に表した矢印A55および矢印A56のように、脳脊髄液92が、第2管42を通してリザーバ311に供給され貯留される。
【0131】
本変形例に係る液体循環システム3Aにおいては、液体を循環させる回路を、注入カテーテル52および排出カテーテル51を含む回路(すなわち生体回路部32A)と、注入カテーテル52に接続された送液ライン(すなわち第1管41)および排出カテーテル51に接続された排液ライン(すなわち第2管42)を含む回路(すなわちシステム回路部31A)と、に分割して定義する。また、送液ライン上に設けられ液体を移動させる第1ポンプ332と、排液ライン上に設けられ液体を移動させる第2ポンプ335と、が生体回路部32Aおよびシステム回路部31Aにおいて共有のポンプとして機能する。液体循環システム3Aがこのような構成を有することにより、システム回路部31Aが、生体側の状況を維持しつつ、キャビテーション現象により生ずる液体の全体容量の増加および蒸発により生ずる液体の全体容量の減少に対応することができ、生体回路内の液体量の増減を抑えることができる。これにより、頭蓋内圧の変動を抑えることができる。
【0132】
また、制御部21は、第1ポンプ332と第2ポンプ335とを交互に繰り返し駆動する。そのため、頭蓋内圧の許容変動範囲を超えない限りにおいて、液体91の注入および脳脊髄液92の排出が同量で交互に繰り返される。そのため、液体91の注入および脳脊髄液92の排出が同時に行われることはなく、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91が排出カテーテル51の排出口511に向かう局所定常流の発生を抑えることができる。そのため、体腔内に注入された液体91は、注入方向および注入流速に従い脳の治療領域に向かって流れる。また、体腔内に注入された液体91と体腔内の脳脊髄液92との間の抵抗により生ずる乱流により、液体91および脳脊髄液92が撹拌される。さらに、液体91に含まれる酸素等の濃度差による拡散が進行する。これにより、脳の治療領域に液体を効率的に送達できる。
【0133】
また、制御部21は、第1ポンプ332が第2ポンプ335の起動を挟まずに連続もしくは間欠で起動している間に駆出した液体の注入量と、第2ポンプ335が第1ポンプ332の起動を挟まずに連続もしくは間欠で起動している間に駆出した液体の排出量と、の初回起動時からの総和を一定範囲に制御する。これによれば、第1ポンプ332および第2ポンプ335の初回起動時からの脳脊髄液の量の変動を一定範囲に抑えることができる。そのため、頭蓋内圧が許容変動範囲を超えることをより確実に抑えることができる。これにより、頭蓋内圧の変動をより確実に許容変動範囲内に抑えることができる。
【0134】
さらに、身体内への注入先がクモ膜下腔で、そこに注入する液体が高酸素化溶液である場合には、頭蓋内圧の変動を抑えつつ脳の治療領域に高酸素化溶液を効率的に送達できる。
【0135】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。上記実施形態の構成は、その一部を省略したり、上記とは異なるように任意に組み合わせたりすることができる。
【符号の説明】
【0136】
2:医療システム、 3:液体循環システム、 3A:液体循環システム、 5:医療デバイス、 21:制御部、 22:ポンプ、 23:第1駆動部、 24:第2駆動部、 31:システム回路部、 31A:システム回路部、 32:生体回路部、 32A: 生体回路部、 33:ポンプ部、 33A:ポンプ部、 41:第1管、 42:第2管、 43:第3管、 44:第4管、 45:第5管、 46:第6管、 47:第7管、 48:第8管、 51:排出カテーテル、 52:注入カテーテル、 53:空間、 55:チューブ、 56:タンク、 91:液体、 92:脳脊髄液、 211:第1期間、 211a:第1期間、 212:第2期間、 212a:第2期間、 213:第3期間、 311:リザーバ、 312:酸素化機構、 313:酸素供給源、 331:第1液体貯留部、 332:第1ポンプ、 333:第1流路切替部、 334:第2液体貯留部、 335:第2ポンプ、 336:第2流路切替部、 511:排出口、 513:内腔、 521:注入口、 523:内腔、 911:着色水