(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180211
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】車両のブレーキ時の慣性力を次の発進時の補助動力として回生する装置
(51)【国際特許分類】
B60T 1/10 20060101AFI20241219BHJP
F16H 1/28 20060101ALI20241219BHJP
F16D 41/06 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
B60T1/10
F16H1/28
F16D41/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023109662
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】518092366
【氏名又は名称】磯川 廣喜
(72)【発明者】
【氏名】磯川 廣喜
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FB14
3J027GC22
3J027GD04
3J027GD07
3J027GD13
(57)【要約】
【課題】車両のブレーキ時に於ける慣性力でばねを巻き込み、ブレーキ解放時にばねが戻る際のトルクを発進時の補助力として回生する装置を提供する。
【解決手段】入出力支軸1上で対向する原動側ディスク2と従動側ディスク3及び摩擦パッド10で摩擦クラッチを構成し、入出力支軸1と原動側ディスク2をスター型遊星歯車機構で連結し、遊星歯車5の回転軸が固着されて入出力支軸1の軸端の一方を保持するキャリアボス7をその軸心方向にのみ可動としてブレーキに連動させ、外装ケースに一方の端が固着される円筒コイルばね12の自由端を固着した従動側ディスク3と入出力支軸1の連結に一方向クラッチ14を用いて解決手段とするもので、ブレーキにより摩擦クラッチが効くとばねは入出力支軸の回転とは逆の方向に巻き込まれ、ブレーキ開放によりばねが戻る方向と力はブレーキ時の入出力支軸1の回転方向に同じ向きとなって返される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入出力支軸(1)を軸に回転自在で互いに向き合う原動側ディスク(2)と従動側ディスク(3)に於いて、摩擦パッド(10)が固着される原動側ディスク(2)に内歯車(4)を形成してこれに噛み合う遊星歯車(5)と、入出力支軸(1)とその軸心方向にのみ摺動自在に嵌合する太陽歯車(8)を該遊星歯車(5)に噛み合わせて原動側ディスク(2)を入出力支軸(1)に連結し、遊星歯車(5)の回転軸である支軸(6)が固着され、更に入出力支軸(1)の軸端を回転自在に保持するキャリアボス(7)の動きを入出力支軸(1)の軸心方向にのみ可動として、両ディスク(2)(3)間に置かれる押しばね(21)によりキャリアボス(7)と原動側ディスク(2)でスラスト軸受(20)を挟持し、底カバー(18)にねじ止めされるばねボス(11)にその一端が固着された円筒コイルばね(12)の自由端を固着した従動側ディスク(3)は、一方向クラッチ(14)を介して入出力支軸(1)と連結し、押しばね(21)及び円筒コイルばね(12)によりスラスト軸受(19)を挟みつつ下カバー(16)に押圧して入出力支軸(1)に対する軸心方向の位置を固定し、キャリアボス(7)及び原動側ディスク(2)の移動を車両のブレーキ操作に連動させた、車両のブレーキ時の慣性力を次の発進時の補助動力として回生する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車輪及びブレーキに連動させて、ねじりコイルばねやうずまきばね等のばね部材を、制動時に於ける車輪の回転に準じた方向とは逆の回転方向に巻き込んでエネルギーを蓄え、次の発進時またはブレーキの解放時に、該ばねの復帰トルクをそのまま車輪に戻してやることで補助動力となす装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の制動時の慣性力でゼンマイばね等を巻き込んで、これを次の発進時に補助動力として利用する発想自体は誰もが考える。しかし車輪の正方向回転に従動させて補助動力の発生部材であるばねに角度変位を与え、該部材が自然復帰する際のトルクを車輪に戻す時、回転方向を逆にして戻さなくてはならないが、この切換えを、車輪とばね部材間の機械的連結を瞬時でも切ることなく行える構成でなくてはならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
回転方向を逆にするには、アイドル歯車を噛ませればよいが、その切換え操作時にどうしても機械的連結が切れるため、ばね部材は瞬時に空転しトルクは消滅する。つまり機械的連結を切らずに回転方向を変える必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、同軸上で対向する一対のディスクとこの間に配置される摩擦材とで摩擦クラッチを構成して該クラッチのオンオフをブレーキ操作と連動させ、回転方向の変換にはスター型遊星歯車機構を用いて課題を解決するものであり、車輪の回転と直接連結する側を原動側ディスク、もう一方を従動側ディスクとすると、原動側ディスクに内歯車を形成してこれと噛合う複数の遊星歯車と該遊星歯車に噛合う太陽歯車とにより、該太陽歯車の回転軸である入出力支軸に原動側ディスクを連結し、遊星歯車の回転軸であり外装カバーに設ける穴と嵌合してその軸心方向にのみ可動となす支軸を固着したキャリアボスの移動をブレーキ操作に連動させ、且つスラスト軸受を介して該移動が原動側ディスクに伝動する構成となし、従動側ディスクは、外装カバー等にその一端を固着した円筒コイルバネの自由端が入出力支軸と同心円状に固着されて、一方向クラッチを介して入出力支軸と連結される。この時の一方向クラッチの組み込み方向は、該円筒コイルバネの角変位が復帰する時に従動側ディスクと入出力支軸がロック状態となる向きとする。これにより車輪から伝動される入出力支軸の回転方向に対し原動側ディスクの回転は逆向きとなり、ブレーキ操作でキャリアボスが押されると摩擦クラッチの作用で円筒コイルバネは入出力支軸の回転方向とは逆の方向に巻き込まれる。この時の一方向クラッチと入出力支軸の関係は空転状態である。次にブレーキの開放又は緩みにより従動側ディスクが自由になると、円筒コイルバネの復帰トルクはロック状態にある一方向クラッチにより入出力支軸に回転トルクとして伝達される。この時の回転方向は原動側ディスクのそれとは逆つまり制動時の車輪の回転方向に従動したものとなる。
【発明の効果】
【0005】
これにより、一時停止等でブレーキをかけるとばね部材が巻き込まれ、ブレーキを開放すれば巻き込まれたばねの復帰力が進行方向の力として車輪にそのまま返されることになる。補助力として働く長さは車輪の数回転分ではあるが、発進時により多くのエネルギーが必要とされる車両の省エネを考えた時その効果は充分であり、排気ガスの削減にも寄与するものと考える。
【0006】
また、自転車においては補助力の分、速度が増すため発進時の速度不足に起因するふらつきが減少して安定性が増しその分安全性も増すものと考える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】 本発明を自転車において実施するための一形態の後輪周りの左側面図である。
【
図2】
図1中の枠Aの拡大図であり、部分切り欠きを含む。
【
図8】 本発明をトレーラーにおいて実施するための一形態の最後部車輪周りの左側面図である。
【
図12】
図8中のG-G線断面図であり、ハッチングを省略した図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
【実施例0009】
図1から
図7は自転車における一実施形態であり、
図3に於いて、摩擦パッド10を固着した原動側ディスク2には内歯車4が圧入固着されて入出力支軸1に回転自在に組み込まれ、内歯車4に噛み合う3個の遊星歯車5はキャリアボス7に圧入固着された支軸6に回転自在に装着され、遊星歯車5と噛み合う太陽歯車8は平行キー9によりスラスト方向の滑動を自在に入出力支軸1に装着される。一方の座巻部をばねボス11に巻着及び溶着した円筒コイルばね12のもう一方の座巻部を巻着及び溶着する従動側ディスク3は、その中心部に形成した凸部13の内径部に圧入固着する一方向クラッチ14を介して入出力支軸1に連結させ、スラスト軸受19を下カバー16とで挟持して、ばねボス11に形成する回り止め用の角穴を底カバー18に嵌合させてねじ止め・装着される。ほぼ密着状に巻かれる円筒コイルばね12の巻方向は、巻き込んだ時にその内径が縮小する方向にとり、ばねの自由長よりも伸ばして組み込むことで素線間の隙間を確保し且つ従動側ディスク3とスラスト軸受19を下カバー16に押し付けて動的安定を図る。ブレーキ解放時の摩擦パッド10と従動側ディスク3の隙間は押しばね21によって確保される。入出力支軸1の軸受けを固着したキャリアボス7は、上カバー15に設ける穴と支軸6を嵌合させてスラスト方向にのみ可動として、ボスアーム22・ブレーキアーム23・引きばね24によりブレーキワイヤー25と連結し、軸受押さえ27及びスラスト軸受20により原動側ディスク2にその動きを伝える。引きばね24の強さは円筒コイルバネ12の最大許容応力と摩擦パッド10の消耗速度を考慮して決定される。防塵リング28は摩擦パッド10のカスが内部に入るのを防止するスポンジの類である。
【0010】
図4・5・6を基に作動を説明する。ハブ歯車30に噛合う入出力歯車29と入出力支軸1の車両前進時の回転方向は
図4に於ける矢印Xに示すごとく時計回りであり、摩擦パッド10と従動側ディスク3が離れている無制動時の凸部13は無回転であって、一方向クラッチ14のローラーは入出力支軸1との摩擦でローラーの外径よりも広い間隙方向に押されるためくさび作用は働かず入出力支軸1は空転する。
【0011】
図5は制動時に於けるもので、遊星歯車5によって減速・逆転されて反時計回りに回転する原動側ディスク2がブレーキと連動するキャリアボス7で押されるとこれに圧椄する従動側ディスク3は円筒コイルバネ12を矢印Yの方向に巻き込む。この時も入出力支軸1と凸部13の回転方向は共にローラーを広い空間に押し出す向きであり空転状態である。
【0012】
図6は円筒コイルばね12に復帰トルクが蓄積された時のもので、凸部13の回転方向は矢印Zに示す向きであり、ローラーは入出力支軸1の外周面と一方向クラッチ14の外装ケース内周のカム面の両面に圧接して転がるためより狭い間隙に入り込んでロック状態となり、該ばね12の復帰トルクは進行方向の補助動力として入出力歯車29に噛合うハブ歯車30に返される。
【0013】
図4に於いて矢印Xが逆向きの場合つまり後輪を無理に逆転させた場合、入出力支軸1と一方向クラッチ14はロック状態であり該クラッチ14及び円筒コイルばね12の破損が生じる。この対策の実施の一例として、入出力歯車29と歯車ボス31で摩擦リング32を挟み皿ばね33で押圧して、あるトルク以上の伝動を逃がすことで破損を防止する。
本体のトレーラーへの装着は、上下カバー15・16で挟持する軸受46に差し込まれる保持軸47を、トレーラーシャーシのサイドフレーム42・43に溶着する吊り板44で保持し、該保持軸47を軸に上下カバー15・16が回動自在となるよう装着する。48はブレーキ操作に連動する油圧シリンダーである。
本発明の実施に際し講じなければならない付加対策は、一方向クラッチ14及び円筒コイルばね12の破損防止のため、車両の後進時に入出力支軸1まで回転を伝えないことであり、この実施の一例としてアイドルシャフト54と連結傘歯車57間を電磁ツースクラッチで繋ぐもので、アイドルシャフト54とスプラインで軸方向の滑動を自在に連結する励磁側ツースディスク63と連結傘歯車57とラジアル方向の滑りを防止して直結する固定側ツースディスク64の噛合いを切ることで破損を防止する。又、高速走行中の回転が入出力支軸1に伝わることでも不具合が予想されるため、ある運転速度以下でのみの伝動に限定するものでもある。