(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180263
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】マルチプルシュートの製造方法、クローン苗の製造方法
(51)【国際特許分類】
A01H 4/00 20060101AFI20241219BHJP
C12N 5/04 20060101ALI20241219BHJP
A01G 24/22 20180101ALI20241219BHJP
A01G 13/00 20060101ALI20241219BHJP
A01G 22/00 20180101ALI20241219BHJP
【FI】
A01H4/00
C12N5/04
A01G24/22
A01G13/00 301Z
A01G22/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024005227
(22)【出願日】2024-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2023098468
(32)【優先日】2023-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】岡田 明里
(72)【発明者】
【氏名】東野 薫
【テーマコード(参考)】
2B022
2B024
2B030
4B065
【Fターム(参考)】
2B022AB20
2B022BA11
2B022BA12
2B022BA21
2B022BB02
2B024DB10
2B030AA03
2B030AB03
2B030AD20
2B030CA28
2B030CB02
2B030CD02
2B030CD13
2B030CD15
4B065AA89X
4B065AC20
4B065BA30
4B065BB16
4B065BB20
4B065BB35
4B065BB40
4B065BC26
4B065BD33
4B065BD36
4B065BD43
4B065BD50
4B065CA53
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】 マルチプルシュートの製造方法を提供する。
【解決手段】 頂芽、腋芽、及び休眠芽からなる群より選択される少なくとも1種の芽を有する、パラゴムノキから採取された1.0cm~5.0cmの組織を、サイトカイニン系植物ホルモンを含むMB基本培地又はその改変培地の液体培地で振とう培養する振とう培養工程を含む、マルチプルシュートの製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
頂芽、腋芽、及び休眠芽からなる群より選択される少なくとも1種の芽を有する、パラゴムノキから採取された1.0cm~5.0cmの組織を、サイトカイニン系植物ホルモンを含むMB基本培地又はその改変培地の液体培地で振とう培養する振とう培養工程を含む、マルチプルシュートの製造方法。
【請求項2】
前記振とう培養における振とう速度が50rpm~200rpmである請求項1記載のマルチプルシュートの製造方法。
【請求項3】
前記液体培地が、スクロースを3.0~10質量%含む請求項1又は2記載のマルチプルシュートの製造方法。
【請求項4】
前記液体培地が、アミノ酸類、及びビタミン類からなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項1又は2記載のマルチプルシュートの製造方法。
【請求項5】
前記振とう培養工程を1週間以上行う請求項1又は2記載のマルチプルシュートの製造方法。
【請求項6】
前記組織が、頂芽を有する組織である請求項1又は2記載のマルチプルシュートの製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2記載のマルチプルシュートの製造方法によりマルチプルシュートを製造する工程、製造されたマルチプルシュートから切断されたシュートを発根させる発根工程を含む、クローン苗の製造方法。
【請求項8】
前記発根工程が、
製造されたマルチプルシュートから切断されたシュートを、オーキシン系植物ホルモンを含む発根誘導処理溶液に浸漬する発根誘導処理工程と、
前記発根誘導処理工程により処理されたシュートを、発根誘導培地で培養する発根誘導培養工程とを含む請求項7記載のクローン苗の製造方法。
【請求項9】
前記発根誘導処理溶液中のオーキシン系植物ホルモンの濃度が、15~20mg/Lである請求項8記載のクローン苗の製造方法。
【請求項10】
前記オーキシン系植物ホルモンが、インドール-3-酢酸である請求項8記載のクローン苗の製造方法。
【請求項11】
前記発根誘導処理溶液が、サイトカイニン系植物ホルモンを含む請求項8記載のクローン苗の製造方法。
【請求項12】
前記サイトカイニン系植物ホルモンが、ゼアチンである請求項11記載のクローン苗の製造方法。
【請求項13】
前記発根誘導処理工程と、前記発根誘導培養工程とを行った後、更に、前記発根誘導処理工程を行う請求項8記載のクローン苗の製造方法。
【請求項14】
複数回行われる前記発根誘導処理工程において、使用される発根誘導処理溶液の組成が異なる請求項13記載のクローン苗の製造方法。
【請求項15】
前記発根誘導処理工程において、前記シュートの端部が発根誘導処理溶液に浸かる状態で浸漬されている請求項8記載のクローン苗の製造方法。
【請求項16】
前記発根誘導処理工程において、前記シュートの体積100%中30~70%が発根誘導処理溶液に浸かる状態で前記シュートが浸漬されている請求項8記載のクローン苗の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチプルシュートの製造方法、及びクローン苗の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、工業用ゴム製品に用いられている天然ゴム(ポリイソプレノイドの1種)は、トウダイグサ科のパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)や桑科植物のインドゴムノキ(Ficus elastica)などのゴム産生植物を栽培し、その植物体が有する乳管細胞で天然ゴムを生合成させ、該天然ゴムを植物から手作業により採取することにより得られる。
【0003】
現状、工業用天然ゴムは、パラゴムノキをほぼ唯一の採取源としている。またゴム製品の主原料として、様々な用途において幅広くかつ大量に用いられている。しかしながら、パラゴムノキは東南アジアや南米などの限られた地域でのみ生育可能な植物である。更に、パラゴムノキは、植樹からゴムの採取が可能な成木になるまでに7年程度を要し、また、採取できる季節が限られる場合がある。また、成木から天然ゴムを採取できる期間は20~30年に限られる。
【0004】
今後、開発途上国を中心に天然ゴムの需要の増大が見込まれており、天然ゴム資源の枯渇が懸念されていることから、安定的な天然ゴムの供給源が望まれている。
【0005】
このような状況下において、パラゴムノキによる天然ゴムの増産を図る動きが見られる。パラゴムノキは、播種により実生苗を育成させ成長させた後台木とし、クローン苗から得た芽を台木に接ぎ木することで苗を増殖させる。
【0006】
また従来のクローン苗から得たクローン増殖技術である接ぎ芽は、元の木がもつ病気を一緒に継いでしまう可能性があり、罹病した苗を増殖させる可能性がある。
【0007】
更に接ぎ穂は、台木の影響を受ける場合があるため、真のクローン苗とはならない。
【0008】
一方、組織培養を利用したクローン苗を増殖させる方法としてマイクロプロパゲーションがある。例えば、特許文献1では、ゴムノキの節、腋芽又は頂芽を含む組織を、植物生長ホルモン及び炭素源を含む誘導培地で培養してシュートを形成させ、このシュートを用いてゴムノキのクローン苗を取得している。また、シュートを用いることで真のクローン苗を作出することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らが鋭意検討した結果、特許文献1に記載の方法では、ゴムノキの節、腋芽又は頂芽を含む組織を、植物生長ホルモン及び炭素源を含む固体の誘導培地で培養してシュートを形成させており、この方法では、1個の組織から1個のシュートが誘導されるのみで、複数のシュートが形成されたマルチプルシュートを製造することができないことが新たに判明した。
【0011】
本発明は、本発明者らが新たに見出した前記課題を解決し、マルチプルシュートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討した結果、頂芽、腋芽、及び休眠芽からなる群より選択される少なくとも1種の芽を有する、パラゴムノキから採取された1.0cm~5.0cmの組織を、サイトカイニン系植物ホルモンを含むMB基本培地又はその改変培地の液体培地で振とう培養することにより、マルチプルシュートの製造が可能となることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、頂芽、腋芽、及び休眠芽からなる群より選択される少なくとも1種の芽を有する、パラゴムノキから採取された1.0cm~5.0cmの組織を、サイトカイニン系植物ホルモンを含むMB基本培地又はその改変培地の液体培地で振とう培養する振とう培養工程を含む、マルチプルシュートの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のマルチプルシュートの製造方法は、頂芽、腋芽、及び休眠芽からなる群より選択される少なくとも1種の芽を有する、パラゴムノキから採取された1.0cm~5.0cmの組織を、サイトカイニン系植物ホルモンを含むMB基本培地又はその改変培地の液体培地で振とう培養する振とう培養工程を含むため、マルチプルシュートの製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、マルチプルシュートの一例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のマルチプルシュートの製造方法は、頂芽、腋芽、及び休眠芽からなる群より選択される少なくとも1種の芽を有する、パラゴムノキから採取された1.0cm~5.0cmの組織を、サイトカイニン系植物ホルモンを含むMB基本培地又はその改変培地の液体培地で振とう培養する振とう培養工程を含む。これにより、1個の組織から、複数(例えば、2~6個)のシュートが形成されたマルチプルシュートの製造が可能となる。マルチプルシュートから各シュートをそれぞれ切断することにより、1個の組織から複数のシュートが得られることとなり、この複数のシュートを用いて、それぞれパラゴムノキのクローン苗を製造することにより、パラゴムノキを効率よく大量に増殖できる。
なお、本発明の製造方法は、前記工程を含む限りその他の工程を含んでいてもよく、前記工程は1回行ってもよいし、植え継ぐなどして複数回行ってもよい。
【0017】
本発明において、前記効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推測される。
パラゴムノキは頂芽優勢が比較的強いため、固体培養の場合、1個の組織から1個のシュートが誘導されるのみで、複数のシュートが形成されたマルチプルシュートを製造することができない。このように、固体培養の場合、組織の中に存在していた複数のシュートの原基(例えば、頂芽と腋芽)を同時に活性化させることは困難であり、1個のシュートの原基(頂芽)のみが活性される結果、1個のシュートが誘導されるのみで、シュート数を増やし、マルチプルシュートを製造することは困難であった。なお、頂芽を有さず、複数の腋芽を有するパラゴムノキの組織を用いても、固体培養の場合には同様に、1個の組織から1個のシュートが誘導されるのみで、複数のシュートが形成されたマルチプルシュートを製造することができない。以上の通り、パラゴムノキの組織を固体培養する場合、1個の組織から1個のシュートが誘導されるのみで、複数のシュートが形成されたマルチプルシュートを製造することができない。
【0018】
一方、組織からマルチプルシュートを製造する方法として、茎頂培養という茎の先端部分の細胞分裂が旺盛な部分を切り出して、当該組織を培養する方法が有効とされている。この茎頂培養をパラゴムノキに適用したものの、マルチプルシュートを製造することができなかった。この理由について、本発明者らが鋭意検討した結果、パラゴムノキはラテックスの産生量が非常に多い植物であるため、茎頂を培養する際に、茎頂が、自らが分泌するラテックスの影響を受けていることが判明した。このような茎頂を培養する際にラテックスの影響を受け、マルチプルシュートを製造できないという問題はパラゴムノキに特有の問題であり、本発明者らが新たに見出した問題である。
【0019】
本発明者らが新たに見出したパラゴムノキに特有の前記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、以下の点が判明した。
【0020】
(1)頂芽、腋芽、及び休眠芽からなる群より選択される少なくとも1種の芽を有するパラゴムノキから採取された組織を液体培地で振とう培養することで、組織が液体培地に浸漬するため、効率よく培地中の養分を組織に吸収させることが可能となり、パラゴムノキの組織に存在する複数のシュートの原基(例えば、頂芽、腋芽、休眠芽)を同時に活性化し、複数のシュートの発生が活性化される。これは、培養液中で組織が振とうされることで、頂芽優勢が比較的強いパラゴムノキの組織においても、活性化が1点の芽に集中せず、複数の芽に分散されることで、複数のシュートが発生し、複数のシュートが形成されたマルチプルシュートの製造が可能となると推測される。
【0021】
(2)ラテックスの産生量が非常に多い植物であるパラゴムノキの組織を用いる場合に、前記(1)の作用を十分に発揮させるためには、適切な大きさの組織を培養することが必要となる。この点は、パラゴムノキに特有の事象である。液体培養に用いるパラゴムノキの組織を茎頂のような小さいサイズではなく、ラテックスの影響を受けにくいサイズまで大きくする必要がある一方で、大きくしすぎると、組織培養で重要になる滅菌工程で滅菌効率が低下し、コンタミのリスクを増大させてしまうことがあり、また、大きくしすぎると、液体培地中でうまく振とうされず組織への酸素供給が低下したり、栄養供給面で非効率になったりして、培養効率が低下し、前記(1)の作用が十分に発揮されないと推測される。
【0022】
(3)液体培地として、サイトカイニン系植物ホルモンを含むMB基本培地又はその改変培地の液体培地を使用することにより、前記(1)、(2)の作用を十分に発揮させることが可能となると推測される。
【0023】
前記(1)~(3)の相乗作用により、1個のパラゴムノキの組織から、複数(例えば、2~6個)のシュートが形成されたマルチプルシュートの製造が可能となると推測される。
【0024】
また、振とう培養工程では、パラゴムノキの組織を液体培地で振とう培養するため、1個の液体培地中で複数の組織を同時に培養することが可能となり、この点からもマルチプルシュートの効率的な製造が可能となる。
【0025】
本発明の製造方法により得られたマルチプルシュートのシュートを伸長させた際、シュートのツヤが良く、生育状態が良好であり、発根率が高い傾向にある。一方、固体培地を用いた従来のシュートは黄変しやすい傾向にある。
【0026】
本発明のマルチプルシュートの製造方法は、頂芽、腋芽、及び休眠芽からなる群より選択される少なくとも1種の芽を有する、パラゴムノキから採取された1.0cm~5.0cmの組織を、サイトカイニン系植物ホルモンを含むMB基本培地又はその改変培地の液体培地で振とう培養する振とう培養工程を含む。
【0027】
本明細書においてシュートとは、芽が伸長した状態のものを意味する。本明細書において、マルチプルシュートとは、複数のシュートが形成された組織を意味する。
【0028】
本発明に用いられる組織は、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)から採取された組織であって、頂芽、腋芽、及び休眠芽からなる群より選択される少なくとも1種の芽を有する。前記組織の大きさは、1.0cm~5.0cmであるため、頂芽、腋芽、及び休眠芽からなる群より選択される少なくとも1種の芽を有する場合、必ず、複数のシュートの原基(例えば、芽)を有する。
【0029】
前記組織は、頂芽、及び腋芽からなる群より選択される少なくとも1種の芽を有することが好ましく、前記組織は頂芽を有することがより好ましい。
【0030】
前記組織が有する芽の数は、好ましくは2個以上、より好ましくは3個以上、更に好ましくは4個以上、特に好ましくは6個以上であり、芽が多いほどシュートの数を増やせるため上限は特に限定されない。なお、組織が有する芽は、1種類であってもよく、複数種類であってもよい。すなわち、組織が腋芽のみを有してもよく、頂芽と腋芽を有してもよい。
【0031】
前記組織の大きさは、1.0cm~5.0cmである。下限は、好ましくは1.5cm以上、より好ましくは2.0cm以上であり、上限は、好ましくは4.5cm以下、より好ましくは3.5cm以下である。
本明細書において、組織の大きさは、複数個の組織について、組織を様々な角度から平面視し、平面視した平面上の組織の外縁上に位置する任意の2点を結ぶ直線の長さのうち、最大の長さを測定し、当該測定値を測定した組織の数で除した数平均値を意味する。
【0032】
前記組織としては、具体的には、パラゴムノキの成木、幼木、苗木、クローン苗、又は試験管内で実生苗から生育させた無菌苗(無菌実生苗)由来の組織を使用できる。
【0033】
成木、幼木、苗木、又はクローン苗由来の前記組織を使用する場合には、前記大きさに切断した後、表面を殺菌又は滅菌することで使用することができるが、試験管内で実生苗から生育させた無菌苗(無菌実生苗)由来の前記組織を使用する場合には、前記大きさに切断した後に使用することが可能である。
【0034】
成木、幼木、苗木、又はクローン苗由来の前記組織を用いる場合、後述する液体培地で培養する前にまず、組織の表面を洗浄する。例えば、磨き粉で洗浄したり、柔らかいスポンジで洗浄したりしても良いが、流水で洗浄するのが好ましい。当該洗浄用の水は、界面活性剤を約0.1質量%含むものであってもよい。
【0035】
次に、組織を殺菌又は滅菌する。殺菌又は滅菌は、周知の殺菌剤、滅菌剤を用いて行うことができるが、エタノール、塩化ベンザルコニウム、次亜塩素酸ナトリウム水溶液が好ましい。なお、殺菌又は滅菌処理の後、更に滅菌水で洗浄してもよい。
【0036】
前記洗浄、殺菌又は滅菌処理を行う具体例として例えば以下の手順が挙げられる。流水で組織の表面を洗浄した後、エタノールで洗浄。次いで次亜塩素酸ナトリウム水溶液で必要に応じて撹拌しながら滅菌。その後、滅菌水を用いて洗浄。
【0037】
(振とう培養工程(誘導工程))
振とう培養工程では、前記組織を、サイトカイニン系植物ホルモンを含むMB基本培地又はその改変培地の液体培地で振とう培養することにより、複数のシュートを誘導、形成させ、マルチプルシュートを製造する。なお、殺菌又は滅菌処理を行った組織を用いる場合には、殺菌剤、滅菌剤の影響を除くため切り口を切除して培養に用いるのが好ましい。
【0038】
振とう培養工程では、液体培地が用いられる。液体培地は、サイトカイニン系植物ホルモンを含むMB基本培地(Biotechnology in Agriculture and Forestry volum5(TreesII)p222-245に記載)又はその改変培地であれば特に限定されない。以下において、MB基本培地、MB基本培地の改変培地、両者をまとめてベースとなる培地とも記載する。
【0039】
本明細書において、MB基本培地の改変培地とは、MB基本培地の組成に変更を加えた培地を意味し、具体的には、MB基本培地に含まれる各成分を含む培地を意味し、より具体的には、MB基本培地に含まれる各成分を含み、その含有量が基本培地における含有量を1としたときに、0.1~10(好ましくは0.4~5.0、より好ましくは0.5~2.0)に収まる培地を意味する。他の培地の改変培地も同様である。
【0040】
前記液体培地は、ベースとなる培地に植物生長ホルモンであるサイトカイニン系植物ホルモンを加えたものを使用すればよい。
【0041】
サイトカイニン系植物ホルモンとしては、ベンジルアデニン、カイネチン、ゼアチン、ベンジルアミノプリン、イソペンテニルアミノプリン、チジアズロン、イソペンテニルアデニン、ゼアチンリボシド、ジヒドロゼアチン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、ベンジルアデニン、カイネチン、ゼアチンが好ましく、ベンジルアデニン、カイネチンがより好ましく、ベンジルアデニンが更に好ましい。
【0042】
前記液体培地中のサイトカイニン系植物ホルモンの濃度としては、好ましくは0.01mg/L以上、より好ましくは0.1mg/L以上、更に好ましくは0.5mg/L以上、特に好ましくは0.8mg/L以上、最も好ましくは3.0mg/L以上である。該サイトカイニン系植物ホルモンの濃度は、好ましくは8.0mg/L以下、より好ましくは7.0mg/L以下、更に好ましくは6.0mg/L以下である。
特に、前記サイトカイニン系植物ホルモンとしてベンジルアデニンを使用する場合の、該ベンジルアデニンの濃度は、4.0~6.0mg/Lであることが好ましく、最も好ましくは、5.0mg/Lである。他方、前記サイトカイニン系植物ホルモンとしてカイネチンを使用する場合の、該カイネチンの濃度は、0.8~1.2mg/Lであることが好ましく、最も好ましくは、1.0mg/Lである。
【0043】
前記液体培地は、サイトカイニン系植物ホルモン以外の植物生長ホルモンを含んでもよい。サイトカイニン系植物ホルモン以外の植物生長ホルモンとしては、例えば、オーキシン系植物ホルモンが挙げられる。
【0044】
オーキシン系植物ホルモンとしては、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、1-ナフタレン酢酸、インドール-3-酪酸、インドール-3-酢酸、インドールプロピオン酸、クロロフェノキシ酢酸、ナフトキシ酢酸、フェニル酢酸、2,4,5-トリクロロフェノキシ酢酸、パラクロロフェノキシ酢酸、2-メチル-4-クロロフェノキシ酢酸、4-フルオロフェノキシ酢酸、2-メトキシ-3,6-ジクロロ安息香酸、2-フェニル酸、ピクロラム、ピコリン酸等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、1-ナフタレン酢酸、インドール-3-酪酸が好ましく、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、1-ナフタレン酢酸がより好ましい。
【0045】
前記液体培地にオーキシン系植物ホルモンを実質的に加えないことが好ましく、前記液体培地中のオーキシン系植物ホルモンの濃度としては、具体的には、好ましくは1.0mg/L以下、より好ましくは0.1mg/L以下、更に好ましくは0.05mg/L以下、特に好ましくは0.01mg/L以下である。
【0046】
前記液体培地は、炭素源を含むことが好ましい。
【0047】
炭素源としては、特に限定されず、スクロース、グルコース、トレハロース、フルクトース、ラクトース、ガラクトース、キシロース、アロース、タロース、グロース、アルトロース、マンノース、イドース、アラビノース、アピオース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、マルトース等の糖類が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スクロースが好ましい。
【0048】
前記液体培地中の炭素源(好ましくはスクロース)の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、更に好ましくは3.0質量%以上である。該炭素源の濃度は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは9.0質量%以下、更に好ましくは5.0質量%以下である。なお、本明細書において、炭素源の濃度とは、糖類の濃度を意味する。
【0049】
前記液体培地は、アミノ酸類、及びビタミン類からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
アミノ酸類としては、アミノ基とカルボキシル基の両方の官能基を持つ有機化合物であれば特に限定されず、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン、バリン、ロイシン、イソロイシン、アルギニン、リジン、フェニルアラニン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、グルタミンが好ましい。
なお、アミノ酸は、L型であってもD型であってもよいが、天然における存在量が多く、バイオマス資源として使用しやすいという理由から、L型が好ましい。
【0051】
前記液体培地中のアミノ酸類の濃度は、好ましくは20mg/l以上、より好ましくは80mg/l以上、更に好ましくは100mg/l以上である。該アミノ酸類の濃度は、好ましくは1000mg/l以下、より好ましくは800mg/l以下、更に好ましくは400mg/l以下である。
【0052】
ビタミン類としては、特に限定されず、ビオチン、チアミン(ビタミンB1)、ピリドキシン(ビタミンB4)、ピリドキサール、ピリドキサミン、パントテン酸カルシウム、イノシトール、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、及びリボフラビン(ビタミンB2)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、チアミンが好ましい。
【0053】
前記液体培地中のビタミン類の濃度は、好ましくは1mg/l以上、より好ましくは4mg/l以上、更に好ましくは8mg/l以上である。該ビタミン類の濃度は、好ましくは100mg/l以下、より好ましくは80mg/l以下、更に好ましくは40mg/l以下である。
【0054】
前記液体培地は、前記組織への成長阻害物質の蓄積を防止するために、更に活性炭を含んでもよい。また、シュートの形成を促進するために、更に硝酸銀を含むことが好ましい。更には、シュートの形成を促進するために、ココナッツウォーター(ココナッツミルク)を含んでもよい。
【0055】
前記液体培地中の硝酸銀の濃度は、好ましくは0.1mg/L以上、より好ましくは0.3mg/L以上、更に好ましくは0.5mg/L以上である。該硝酸銀の濃度は、好ましくは5.0mg/L以下、より好ましくは3.0mg/L以下である。
【0056】
前記液体培地のpHは、4.0~10.0が好ましく、5.0~6.5がより好ましく、5.5~6.0が更に好ましい。
【0057】
振とう培養工程では、前記液体培地で前記組織を振とう培養する。振とう培養における振とう速度は、好ましくは50rpm以上、より好ましくは65rpm以上、更に好ましくは80rpm以上であり、好ましくは200rpm以下、より好ましくは170rpm以下、更に好ましくは140rpm以下である。
【0058】
振とう培養工程は、通常、温度、照明時間等の培養条件の管理された制御環境下で行われる。培養条件は適宜設定することができるが、例えば、培養温度は、0~40℃が好ましく、20~40℃がより好ましく、25~35℃が更に好ましい。培養は、暗所で行っても明所で行ってもよいが、光条件としては、例えば、12.5μmol/m2/sの照明の下、14~16時間の明時間という条件などが挙げられる。培養時間は、特に限定されないが、1~8週間培養することが好ましく、2~4週間がより好ましい。
【0059】
上述の条件のなかでも、植物生長ホルモンがベンジルアデニンで、その濃度が3.0~8.0mg/Lであり、培養温度が25~35℃であることが特に好ましい。
【0060】
以上のように、前記液体培地で前記組織を振とう培養することにより、1個の組織から、複数のシュートを誘導、形成することが可能となり、1個の組織から、複数(例えば、2~6個)のシュートが形成されたマルチプルシュートの製造が可能となる。
【0061】
(シュート培養工程)
本発明では、必要に応じて、前記振とう培養工程により得られたマルチプルシュートをシュート培養培地で培養するシュート培養工程を行う。これにより、マルチプルシュートが有する各シュートを伸長させることが可能である。
【0062】
シュート培養工程では、振とう培養工程により形成させたマルチプルシュートを、シュート培養培地(好ましくは植物生長ホルモン及び炭素源を含むシュート培養培地)で培養することにより、マルチプルシュートを培養する。具体的には、振とう培養工程により形成させたマルチプルシュートをシュート培養培地に差し込んで移植し、培養することで、マルチプルシュートが有する各シュートが伸長し、また新たな芽を取得することも可能となる。そして、マルチプルシュートが有する各シュートの伸長が見られれば、伸長した各シュートをマルチプルシュートから切断し、各シュートをそれぞれシュート培養工程に供すればよい。これにより、各シュートが更に伸長する。このように、1個のパラゴムノキの組織から複数のシュートが得られる。この複数のシュートを発根させることにより、パラゴムノキのクローン苗を製造でき、パラゴムノキを効率よく大量に増殖できる。
【0063】
なお、もちろん、振とう培養工程を継続することによっても、マルチプルシュートが有する各シュートを伸長させることが可能であり、伸長した各シュートをマルチプルシュートから切断し、各シュートを発根させることにより、パラゴムノキのクローン苗を製造でき、パラゴムノキを効率よく大量に増殖できる。ここで、もちろん、切断した各シュートをそれぞれシュート培養工程に供してから、各シュートの発根を行ってもよい。
【0064】
シュート培養工程は、公知の方法に従って行えばよく、例えば、特開2020-036545号公報に記載の方法により行えばよい。
【0065】
シュート培養培地は、液体であっても固体であってもよいが、培地にシュートを差し込んで培養することでシュートが伸長しやすくなるため、固体培養が好ましい。また、シュート培養培地が液体培地である場合には、静置培養を行ってもよく、振とう培養を行ってもよい。
【0066】
シュート培養培地は、植物生長ホルモン及び炭素源を含むことが好ましい。該植物生長ホルモンとしては、例えば、オーキシン系植物ホルモン及び/又はサイトカイニン系植物ホルモンが挙げられる。中でも、サイトカイニン系植物ホルモンを使用することが好ましい。
【0067】
オーキシン系植物ホルモンとしては、前記液体培地に用いられるオーキシン系植物ホルモンと同様のものを用いることができる。
【0068】
サイトカイニン系植物ホルモンとしては、前記液体培地に用いられるサイトカイニン系植物ホルモンと同様のものを用いることができるが、なかでも、ベンジルアデニン、カイネチン、ゼアチンが好ましく、ベンジルアデニン、カイネチンがより好ましく、ベンジルアデニンが更に好ましい。
【0069】
シュート培養培地に用いられる炭素源としては、特に限定されず、前記液体培地に用いられる炭素源と同様のものを用いることができるが、なかでも、スクロースが好ましい。
【0070】
シュート培養培地は、前記液体培地同様、更に、活性炭、硝酸銀を含むことが好ましい。
【0071】
シュート培養培地としては、Whiteの培地(植物細胞工学入門(学会出版センター)p20~p36に記載)、Hellerの培地(Heller R, Bot.Biol.Veg.Paris 14 1-223(1953))、SH培地(SchenkとHildebrandtの培地)、MS培地(MurashigeとSkoogの培地)(植物細胞工学入門(学会出版センター)p20~p36に記載)、LS培地(LinsmaierとSkoogの培地)(植物細胞工学入門(学会出版センター)p20~p36に記載)、Gamborg培地、B5培地(植物細胞工学入門(学会出版センター)p20~p36に記載)、MB培地(Biotechnology in Agriculture and Forestry volum5(TreesII)p222-245に記載)、WP培地(Woody Plant:木本類用)等の基本培地や、該基本培地の組成に変更を加えた改変基本培地等のベースとなる培地に植物生長ホルモンを加えたものを使用すればよい。なかでも、MS培地、B5培地、WP培地、MB培地に植物生長ホルモンを加えたものが好ましく、MS培地、その組成に変更を加えたMS改変培地、MB培地又はその組成に変更を加えたMB改変培地に植物生長ホルモンを加えたものがより好ましく、MB培地又はその組成に変更を加えたMB改変培地に植物生長ホルモンを加えたものが更に好ましい。
【0072】
シュート培養培地を固体培地とする場合、固形化剤を使用して培地を固体にすればよい。固形化剤としては、特に限定されず、寒天、ゲランガム、アガロース、ゲルライト、アガー、フィタゲル等が挙げられる。
【0073】
好適なシュート培養培地の組成及び培養条件は、通常は以下の通りである。
【0074】
シュート培養培地中の炭素源(好ましくはスクロース)の濃度は、好ましくは3.0質量%以上、より好ましくは5.0質量%以上である。該炭素源(好ましくはスクロース)の濃度は、好ましくは9.0質量%以下、より好ましくは7.0質量%以下である。
【0075】
シュート培養培地中のオーキシン系植物ホルモンの濃度としては、好ましくは2.0mg/L以下、より好ましくは1.0mg/L以下、更に好ましくは0.1mg/L以下、特に好ましくは0.08mg/L以下、最も好ましくは0mg/Lである。
【0076】
シュート培養培地にサイトカイニン系植物ホルモンを加える場合の、シュート培養培地中のサイトカイニン系植物ホルモンの濃度としては、好ましくは1.0mg/L以上、より好ましくは3.0mg/L以上、更に好ましくは3.5mg/L以上、特に好ましくは4.0mg/L以上である。該サイトカイニン系植物ホルモンの濃度は、好ましくは10mg/L以下、より好ましくは8.0mg/L以下、更に好ましくは6.0mg/L以下である。
【0077】
シュート培養培地中の活性炭の濃度は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上である。該活性炭の濃度は、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。
【0078】
シュート培養培地中の硝酸銀の濃度は、好ましくは0.1mg/L以上、より好ましくは0.3mg/L以上、更に好ましくは0.5mg/L以上である。該硝酸銀の濃度は、好ましくは5.0mg/L以下、より好ましくは3.0mg/L以下である。
【0079】
シュート培養培地のpHは、4.0~10.0が好ましく、5.0~6.5がより好ましく、5.5~6.0が更に好ましい。
【0080】
シュート培養工程は、通常、温度、照明時間等の培養条件の管理された制御環境下で行われる。培養条件は適宜設定することができるが、例えば、培養温度は、0~40℃が好ましく、20~40℃がより好ましく、25~35℃が更に好ましい。培養は、暗所で行っても明所で行ってもよいが、光条件としては、例えば、5~20μmol/m2/sの照明の下、14~16時間の明時間という条件などが挙げられる。
【0081】
固体培地の場合、シュート培養培地中の固形化剤の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上である。該固形化剤の濃度は、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.1質量%以下、更に好ましくは0.8質量%以下である。
【0082】
上述の条件のなかでも、シュート培養培地が、MB培地又はその組成に変更を加えたMB改変培地であることが好ましく、MB培地又はその組成に変更を加えたMB改変培地に植物生長ホルモンを加えた培地であることがより好ましく、MB培地又はその組成に変更を加えたMB改変培地にサイトカイニン系植物ホルモンを加えた培地であることが更に好ましい。
【0083】
以上のように、シュート培養工程により、シュートを伸長させることができる。このシュート培養工程により伸長させたシュートは、安定して成長したシュートであるため、好適に発根工程に供することが可能である。
【0084】
(発根工程)
発根工程では、マルチプルシュートから切断されたシュートを発根誘導培地で培養することにより発根させる。ここで、マルチプルシュートから切断されたシュートは、前記シュート培養工程を経たものであってもよく、経たものでなくてもよい。
発根方法は特に限定されないが、発根工程の一例について説明する。
【0085】
発根工程では、例えば、マルチプルシュートから切断されたシュートを発根誘導培地で培養して発根させる。なお、発根誘導培地は、液体であっても固体であってもよいが、培地にシュートを差し込んで培養することで発根させやすくなるため、固体培養が好ましい。また、発根誘導培地が液体培地である場合には、静置培養を行ってもよく、振とう培養を行ってもよい。
【0086】
発根誘導培地は、通常、植物生長ホルモン及び炭素源を含むものであるが、該植物生長ホルモンとしては、例えば、オーキシン系植物ホルモン及び/又はサイトカイニン系植物ホルモンが挙げられる。中でも、オーキシン系植物ホルモンを用いることが好ましい。
【0087】
オーキシン系植物ホルモンとしては、前記液体培地に用いられるオーキシン系植物ホルモンと同様のものを用いることができるが、なかでも、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、1-ナフタレン酢酸、インドール-3-酪酸、インドール-3-酢酸が好ましく、インドール-3-酪酸がより好ましい。
【0088】
サイトカイニン系植物ホルモンとしては、前記液体培地に用いられるサイトカイニン系植物ホルモンと同様のものを用いることができるが、なかでも、ベンジルアデニン、カイネチン、ゼアチンが好ましく、ベンジルアデニン、カイネチンがより好ましい。
【0089】
発根誘導培地に用いられる炭素源としては、特に限定されず、前記液体培地に用いられる炭素源と同様のものを用いることができるが、なかでもスクロースが好ましい。
【0090】
発根誘導培地は、前記液体培地同様、更に、活性炭、硝酸銀を含むことが好ましい。
【0091】
発根誘導培地は、グルタチオンを含むことが好ましい。これにより、より良好な発根率が得られる。
グルタチオンは、グルタミン酸、システイン及びグリシンを構成アミノ酸とするトリペプチドで、還元型グルタチオン、酸化型グルタチオン(グルタチオンジスルフィド)、及びこれらの混合物のいずれでもよいが、還元型グルタチオンが好ましい。
【0092】
発根誘導培地としては、前記シュート培養培地として用いられる基本培地や、該基本培地の組成に変更を加えた改変基本培地等のベースとなる培地に植物生長ホルモンを加えた同様のものを用いることができるが、なかでも、MS培地、B5培地、WP培地に植物生長ホルモンを加えたものが好ましく、MS培地又はその組成に変更を加えたMS改変培地に植物生長ホルモンを加えたものがより好ましい。また、MB培地又はその組成に変更を加えたMB改変培地も好ましく、MB培地又はその組成に変更を加えたMB改変培地に炭素源及び/又はグルタチオンを加えたものもより好ましい。
【0093】
発根誘導培地を固体培地とする場合、固形化剤を使用して培地を固体にすればよい。固形化剤としては、特に限定されず、寒天、ゲランガム、アガロース、ゲルライト、アガー、フィタゲル等が挙げられる。
【0094】
好適な発根誘導培地の組成及び培養条件は、通常は以下の通りである。
【0095】
発根誘導培地中の炭素源の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上である。該炭素源の濃度は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5.0質量%以下である。
【0096】
発根誘導培地にオーキシン系植物ホルモンを加える場合の、発根誘導培地中のオーキシン系植物ホルモンの濃度としては、好ましくは0.5mg/L以上、より好ましくは1.0mg/L以上、更に好ましくは3.0mg/L以上である。該オーキシン系植物ホルモンの濃度は、好ましくは10mg/L以下、より好ましくは6.0mg/L以下、更に好ましくは5.0mg/L以下である。
【0097】
発根誘導培地にサイトカイニン系植物ホルモンを実質的に加えないことが好ましく、具体的には、好ましくは1.0mg/L以下、より好ましくは0.1mg/L以下、更に好ましくは0.05mg/L以下、特に好ましくは0.01mg/L以下である。
【0098】
発根誘導培地中の活性炭の濃度は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上である。該活性炭の濃度は、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。
【0099】
発根誘導培地中の硝酸銀の濃度は、好ましくは0.1mg/L以上、より好ましくは0.3mg/L以上、更に好ましくは0.5mg/L以上である。該硝酸銀の濃度は、好ましくは5.0mg/L以下、より好ましくは3.0mg/L以下である。
【0100】
発根誘導培地中のグルタチオンの濃度は、好ましくは10μmol/L以上、より好ましくは30μmol/L以上、更に好ましくは40μmol/L以上、特に好ましくは60μmol/L以上、最も好ましくは80μmol/L以上であり、好ましくは500μmol/L以下、より好ましくは400μmol/L以下、更に好ましくは300μmol/L以下、特に好ましくは200μmol/L以下、最も好ましくは150μmol/L以下である。これにより、より良好な発根率が得られる。
【0101】
発根誘導培地のpHは、4.0~10.0が好ましく、5.0~6.5がより好ましく、5.5~6.0が更に好ましい。
【0102】
発根工程は、通常、温度、照明時間等の培養条件の管理された制御環境下で行われる。培養条件は適宜設定することができるが、例えば、培養温度は、0~40℃が好ましく、20~40℃がより好ましく、25~35℃が更に好ましい。培養は、暗所で行っても明所で行ってもよいが、光条件としては、例えば、12.5μmol/m2/sの照明の下、14~16時間の明時間という条件などが挙げられる。培養時間は、特に限定されないが、1~10週間培養することが好ましく、4~8週間がより好ましい。
【0103】
固体培地の場合、発根誘導培地中の固形化剤の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上である。該固形化剤の濃度は、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.1質量%以下、更に好ましくは0.8質量%以下である。
【0104】
上述の条件のなかでも、植物生長ホルモンがオーキシン系植物ホルモン(特に、インドール-3-酪酸)で、その濃度が3.0~6.0mg/Lであり、培養温度が25~35℃であることが特に好ましい。
【0105】
以上のように、シュートを前記発根誘導培地で培養することにより、発根させることが可能であり、発根させたシュート(本明細書において、発根したシュートを「幼植物」とも称する。)が得られ、完全な植物体であるクローン苗が形成される。この幼植物は、直接土壌に移植してもよいが、馴化させてから土壌に移植してもよい。馴化させる方法は特に限定されない。
なお、前記形成されたクローン苗を用いて、振とう培養工程、発根工程を、又は振とう培養工程、シュート培養工程、発根工程を繰り返し実施することにより、優良品種のクローン苗を大量に安定的に生産することも可能である。
【0106】
以上のように、シュートを前記発根誘導培地で培養することにより、発根させることが可能であるが、発根工程が、
製造されたマルチプルシュートから切断されたシュートを、オーキシン系植物ホルモンを含む発根誘導処理溶液に浸漬する発根誘導処理工程と、
前記発根誘導処理工程により処理されたシュートを、発根誘導培地で培養する発根誘導培養工程とを含むことが好ましい。これにより、より好適にシュートの発根を行うことができ、より良好な発根率が得られる。
【0107】
<発根誘導処理工程>
発根誘導処理工程では、製造されたマルチプルシュートから切断されたシュート(シュートの切片)を、オーキシン系植物ホルモンを含む発根誘導処理溶液に浸漬する。これにより、シュートの発根をより好適に促すことが可能となる。
【0108】
シュートを発根誘導処理溶液に浸漬する際、シュートの切片の端部、すなわち、シュートの切り口が発根誘導処理溶液に浸かる状態で浸漬することも好ましいが、シュートの切り口が発根誘導処理溶液に浸からない状態で浸漬してもよい。
また、シュートを発根誘導処理溶液に浸漬する際、シュートを静置して行ってもよく、シュートを振とうして行ってもよい。複数のシュートがあるとシュート同士が絡んだり、生長点が傷んだりするのを防止するために、静置で行うことが好ましい。
【0109】
シュートを発根誘導処理溶液に浸漬する際、シュートの体積100%中30~70%が発根誘導処理溶液に浸かる状態で前記シュートが浸漬されていることが好ましく、シュートの切片の端部、すなわち、シュートの切り口が発根誘導処理溶液に浸かる状態、かつ、シュートの体積100%中30~70%が発根誘導処理溶液に浸かる状態で前記シュートが浸漬されていることがより好ましい。
【0110】
シュートの体積100%中30~70%が発根誘導処理溶液に浸かる状態とすることにより、基部のみではなく、シュート全体のオーキシン活性を高めることが可能となり、シュートの発根をより好適に促すことが可能となる傾向がある。シュートは、シュートの体積100%中40%以上が発根誘導処理溶液に浸かる状態であることがより好ましく、シュートの体積100%中60%以下が発根誘導処理溶液に浸かる状態であることがより好ましい。
【0111】
上記発根誘導処理工程を行う時間は、好ましくは12時間以上、より好ましくは20時間以上、更に好ましくは24時間以上であり、好ましくは96時間以下、より好ましくは84時間以下、更に好ましくは72時間以下である。これにより、より良好な発根率が得られる。
【0112】
発根誘導処理工程は、温度、照明時間等が管理された制御環境下で行われることが好ましい。例えば、発根誘導処理工程を行う温度は、0~40℃が好ましく、20~40℃がより好ましく、25~35℃が更に好ましい。発根誘導処理工程は、暗所で行っても明所で行ってもよいが、光条件としては、例えば、5~20μmol/m2/sの照明の下、14~16時間の明時間という条件などが挙げられる。
【0113】
発根誘導処理工程に供されるシュート(シュートの切片)の長さは、好ましくは10mm以上、より好ましくは15mm以上、更に好ましくは20mm以上であり、好ましくは100mm以下、より好ましくは80mm以下、更に好ましくは50mm以下である。これにより、より良好な発根率が得られる。
【0114】
オーキシン系植物ホルモンとしては、前記液体培地に用いられるオーキシン系植物ホルモンと同様のものを用いることができるが、なかでも、インドール-3-酢酸が好ましい。インドール-3-酢酸を用いることにより、発根誘導処理工程を行ってもシュート全体が弱ることなく、シュート全体のオーキシン活性を高めることが可能となり、シュートの発根をより好適に促すことが可能となる傾向がある。また、インドール-3-酢酸と共に、1-ナフタレン酢酸、インドール-3-酪酸を使用することも好ましい。
【0115】
発根誘導処理溶液中のオーキシン系植物ホルモンの濃度は、15~20mg/Lであることが好ましい。発根誘導処理溶液中のオーキシン系植物ホルモンの濃度は比較的高いため、シュート全体のオーキシン活性を高めることが可能となり、シュートの発根をより好適に促すことが可能となる傾向がある。特に、インドール-3-酢酸を含有するオーキシン系植物ホルモンの濃度が、発根誘導処理溶液中15~20mg/Lであることが好ましい。これにより、シュートの発根をより好適に促すことが可能となる傾向がある。
ここで、複数のオーキシン系植物ホルモンを使用する場合、オーキシン系植物ホルモンの濃度とは、オーキシン系植物ホルモンの合計濃度を意味する。他の同様の記載も同様である。
【0116】
発根誘導処理溶液は、サイトカイニン系植物ホルモンを含むことが好ましい。これにより、シュートの発根をより好適に促すことが可能となる傾向がある。
【0117】
サイトカイニン系植物ホルモンとしては、前記液体培地に用いられるサイトカイニン系植物ホルモンと同様のものを用いることができるが、なかでも、ゼアチンが好ましい。
【0118】
発根誘導処理溶液にサイトカイニン系植物ホルモンを加える場合の、発根誘導処理溶液中のサイトカイニン系植物ホルモンの濃度としては、好ましくは0.01mg/L以上、より好ましくは0.05mg/L以上である。該サイトカイニン系植物ホルモンの濃度は、好ましくは1mg/L以下、より好ましくは0.5mg/L以下、更に好ましくは0.2mg/L以下である。
【0119】
発根誘導処理溶液中のオーキシン系植物ホルモンの濃度は、15~20mg/Lであることが好ましいが、オーキシン系植物ホルモンの濃度が上記数値範囲を満たしつつ更に、下記(1)~(3)のいずれかを満たすことが好ましく、下記(2)~(3)のいずれかを満たすことがより好ましく、下記(3)を満たすことが更に好ましい。
(1)発根誘導処理溶液中のインドール-3-酢酸の濃度は、3~7mg/L、発根誘導処理溶液中の1-ナフタレン酢酸の濃度は、3~7mg/L、発根誘導処理溶液中のインドール-3-酪酸の濃度は、3~7mg/L
(2)発根誘導処理溶液中のインドール-3-酢酸の濃度は、15~20mg/L
(3)発根誘導処理溶液中のインドール-3-酢酸の濃度は、15~20mg/Lで、発根誘導処理溶液中のゼアチンの濃度が0.01~1mg/L
【0120】
発根誘導処理溶液に配合できる他の成分は特に限定されないが、グルタチオンが好ましい。これにより、より良好な発根率が得られる。
グルタチオンは、グルタミン酸、システイン及びグリシンを構成アミノ酸とするトリペプチドで、還元型グルタチオン、酸化型グルタチオン(グルタチオンジスルフィド)、及びこれらの混合物のいずれでもよいが、還元型グルタチオンが好ましい。
【0121】
発根誘導処理溶液中のグルタチオンの濃度は、好ましくは10μmol/L以上、より好ましくは30μmol/L以上、更に好ましくは40μmol/L以上、特に好ましくは60μmol/L以上、最も好ましくは80μmol/L以上であり、好ましくは500μmol/L以下、より好ましくは400μmol/L以下、更に好ましくは300μmol/L以下、特に好ましくは200μmol/L以下、最も好ましくは150μmol/L以下である。これにより、より良好な発根率が得られる。
【0122】
発根誘導処理溶液は、オーキシン系植物ホルモンを含有していればよく、オーキシン系植物ホルモンを溶解させる分散媒としては、特に限定されないが、水、等張液、緩衝液、組織培養用培地などが挙げられる。等張液としては、例えばKCl、NaCl、CaCl2、MgCl2などの無機塩を添加して0.01~7M、好ましくは、0.5~2Mにした液体が挙げられる。緩衝液としては、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、MES緩衝液などが挙げられる。組織培養用培地としては、上述の培地などが挙げられる。なかでも、効果がより好適に得られるという理由から、組織培養用培地が好ましい。すなわち、発根誘導処理溶液が、オーキシン系植物ホルモンを組織培養用培地に溶解させた水溶液であることが好ましい。
【0123】
組織培養用培地としては、前記シュート培養培地と同様のものを用いることができるが、なかでも、MS培地、その組成に変更を加えたMS改変培地が好ましい。
【0124】
<発根誘導培養工程>
発根誘導培養工程では、前記発根誘導処理工程により処理されたシュートを、発根誘導培地で培養する。これにより、シュートが発根する。
なお、発根誘導培地は、液体であっても固体であってもよいが、培地にシュートを差し込んで培養することで発根させやすくなるため、固体培養が好ましい。また、発根誘導培地が液体培地である場合には、静置培養を行ってもよく、振とう培養を行ってもよい。
【0125】
発根誘導培地は、炭素源を含むものであり、基本的には上述の発根誘導培地と同様であり、発根誘導培養工程の培養条件も上述の発根工程の場合と同様である。
発根誘導処理工程を行う本実施形態では、発根誘導培地中の植物ホルモンの濃度は、好ましくは2.0mg/L以下、より好ましくは1.0mg/L以下、更に好ましくは0.1mg/L以下、特に好ましくは0.08mg/L以下、最も好ましくは0mg/Lである。これにより、より良好な発根率が得られる。
【0126】
上述の条件のなかでも、植物ホルモンの濃度が低いこと(実質的に含有しないこと)が好ましい。
【0127】
また、発根誘導培地として、培地成分を含有する固形培地を使用してもよい。これにより、より良好なシュートの発根率が得られる傾向がある。
【0128】
固形培地としては、水に不溶な培地であれば特に限定されず、例えば、公知の培養土、具体的には、砂、ピートモス、活性炭、ドロマイト、イソライト、ベントナイト、ゼオライト、パーライト、バーミキュライト、セラミック、ココヤシ繊維、樹皮培地、もみ殻、ロックウール又はその他の各種土壌改良資材等から選ばれた少なくとも1種以上を適宜混合した培養土等を用いることができる。
【0129】
固形培地としては、前記培養土の他、粒状、フォーム状若しくはスポンジ状の樹脂などの樹脂培地;固形化剤を使用して液体培地(例えば、上述の基本培地)を固体にした培地等も使用できる。
固形培地は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、固形培地は、無圧縮で用いてもよく適当な圧縮倍率に圧縮して用いてもよい。
【0130】
前記樹脂としては、特に限定されず、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。
前記固形化剤としては、特に限定されず、寒天、ゲランガム、アガロース、ゲルライト、ゼラチン、シリカゲル等が挙げられる。
【0131】
固形培地としては、培養土が好ましく、バーミキュライト、ピートモス、ロックウールがより好ましく、バーミキュライトが更に好ましい。
【0132】
培地成分を含有する固形培地の湿潤密度は、好ましくは0.4g/cm3以上、より好ましくは0.5g/cm3以上、更に好ましくは0.6g/cm3以上であり、好ましくは1.0g/cm3以下、より好ましくは0.9g/cm3以下、更に好ましくは0.8g/cm3以下である。これにより、適度に根への刺激を与えることができると共に、固形培地中に酸素も存在するため、効果がより好適に得られる傾向がある。
本明細書において、培地成分を含有する固形培地の湿潤密度は、固形培地全体の単位体積当たりの質量を意味し、具体的には、JIS A 1225(2020) に準拠し、ノギス法により測定される。
【0133】
培地成分を含有する固形培地の平均粒径は、好ましくは0.25mm以上、より好ましくは0.5mm以上、更に好ましくは1.0mm以上であり、好ましくは8.0mm以下、より好ましくは6.0mm以下、更に好ましくは4.0mm以下である。これにより、適度に根への刺激を与えることができ、効果がより好適に得られる傾向がある。
本明細書において、培地成分を含有する固形培地の平均粒径は、JIS Z 8815(1994)に準拠して測定される粒度分布から算出された質量基準の平均粒径である。
【0134】
培地成分を含有する固形培地が含有する培地成分としては、特に限定されず、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、これら以外の微量元素、ビタミン類、炭素源、アミノ酸、植物ホルモン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。なかでも、培地成分が、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、これら以外の微量元素、ビタミン類、炭素源、アミノ酸、及び植物ホルモンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、炭素源、リン、カリウム、カルシウム、アミノ酸からなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、炭素源、リン、カリウム、カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種が更に好ましく、炭素源が特に好ましい。ここで、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム以外の微量元素としては、特に限定されず、例えば、銅、マンガン、コバルト、亜鉛、ホウ素、鉄等が挙げられる。
【0135】
炭素源としては、特に限定されず、スクロース(ショ糖)、グルコース、トレハロース、フルクトース、ラクトース、ガラクトース、キシロース、アロース、タロース、グロース、アルトロース、マンノース、イドース、アラビノース、アピオース、マルトース等の糖類が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スクロースが好ましい。
【0136】
ビタミン類としては、特に限定されず、ビオチン、チアミン(ビタミンB1)、ピリドキシン(ビタミンB4)、ピリドキサール、ピリドキサミン、パントテン酸カルシウム、イノシトール、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、及びリボフラビン(ビタミンB2)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0137】
植物ホルモンとしては、特に限定されず、前記液体培地に用いられるオーキシン系植物ホルモンと同様のものを用いることができる。
【0138】
培地成分を含有する固形培地中の炭素源の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上である。該炭素源の濃度は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8.0質量%以下、更に好ましくは6.0質量%以下である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。なお、本明細書において、炭素源の濃度とは、糖類の濃度を意味する。
【0139】
培地成分を含有する固形培地中の植物ホルモンの濃度は、好ましくは2.0mg/L以下、より好ましくは1.0mg/L以下、更に好ましくは0.1mg/L以下、特に好ましくは0.08mg/L以下、最も好ましくは0mg/Lである。これにより、より良好な発根率が得られる。
【0140】
培地成分を含有する固形培地中のグルタチオンの濃度は、好ましくは10μmol/L以上、より好ましくは30μmol/L以上、更に好ましくは40μmol/L以上、特に好ましくは60μmol/L以上、最も好ましくは80μmol/L以上であり、好ましくは500μmol/L以下、より好ましくは400μmol/L以下、更に好ましくは300μmol/L以下、特に好ましくは200μmol/L以下、最も好ましくは150μmol/L以下である。これにより、より良好な発根率が得られる。
【0141】
培地成分を含有する固形培地としては、前記固形培地に液体培地を添加した培地を使用することが好ましい。
液体培地としては、前記シュート培養培地と同様のものを用いることができる。なかでも、植物の生育に必要な栄養素が含まれており、効果がより好適に得られるという理由から、液体培地としては、基本培地、改変基本培地が好ましく、改変基本培地がより好ましく、基本培地に炭素源が添加された培地が更に好ましく、MB培地に炭素源が添加された培地が特に好ましい。
【0142】
液体培地には、炭素源が添加されていることが好ましい。
液体培地中の炭素源の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、更に好ましくは2.0質量%以上である。該炭素源の濃度は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7.5質量%以下である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。なお、本明細書において、炭素源の濃度とは、糖類の濃度を意味する。
【0143】
固形培地への液体培地の添加量は、特に限定されないが、固形培地100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは30質量部以上であり、好ましくは95質量部以下、より好ましくは90質量部以下、更に好ましくは85質量部以下である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0144】
前記発根誘導処理工程と、前記発根誘導培養工程とを行った後、更に、前記発根誘導処理工程を行うことが好ましく、前記発根誘導処理工程と、前記発根誘導培養工程とを行った後、更に、前記発根誘導処理工程と、前記発根誘導培養工程とをこの順に行う(すなわち、2セット行う)ことがより好ましい。これにより、根原基形成までしか誘導されていないシュートの発根もより好適に誘導することが可能となり、より良好なシュートの発根率が得られる傾向がある。
【0145】
複数回行われる前記発根誘導処理工程において、使用される発根誘導処理溶液の組成が異なることが好ましい。これにより、より良好なシュートの発根率が得られる傾向がある。より具体的には、1回目の発根誘導処理工程における発根誘導処理溶液は、インドール3酢酸を含むオーキシンの混合液もしくは、インドール3酢酸以外のオーキシンホルモンを含まない溶液であることが好ましく、2回目の発根誘導処理工程における発根誘導処理溶液は、インドール3酢酸以外のオーキシンホルンを含まないもしくは、インドール3酢酸を含むオーキシン混合液であることが好ましい。1回目と2回目の処理液をかえてもよい。
【0146】
以上のように、製造されたマルチプルシュートから切断されたシュートを、オーキシン系植物ホルモンを含む発根誘導処理溶液に浸漬する発根誘導処理工程と、前記発根誘導処理工程により処理されたシュートを、発根誘導培地で培養する発根誘導培養工程とを行うことにより、より好適に発根させることが可能である。
【実施例0147】
以下では、実施をする際に好ましいと考えられる例(実施例)を示すが、本開示の範囲は実施例に限られない。
【0148】
(実施例、比較例3、4)
パラゴムノキの苗木から茎頂部又は腋芽を含む組織を採取する。更に、組織の大きさが表1、2に示す大きさとなるように組織を切断する。次に、切断した組織を流水で洗浄し、更に70質量%エタノールで洗浄した後、約5~10体積%に希釈した次亜塩素酸ナトリウム水溶液で滅菌し、滅菌水で洗浄する。
【0149】
実験に用いた各組織は、頂芽、腋芽、及び休眠芽からなる群より選択される少なくとも1種の芽を複数個有している。具体的には、茎頂部を含む組織には、頂芽、腋芽が含まれており、腋芽を含む組織には、腋芽、休眠芽が含まれている。
【0150】
次に、滅菌した組織をフラスコ内の液体培地に入れ、振とう培養を行なう(振とう培養工程)。液体培地は、MB基本培地(Biotechnology in Agriculture and Forestry volum5(TreesII)p222-245に記載)に、ベンジルアデニン5.0mg/L、グルタミン192mg/L、チアミン10mg/L、スクロース3.0質量%となるように添加し、培地のpHを5.7に調整した後、オートクレーブ(121℃、20分)で滅菌し、硝酸銀を1.0mg/Lとなるように添加し、クリーンベンチ内で冷却することにより調製する。
【0151】
振とう培養工程は、振とう速度120rpm、培養温度28℃、12.5μmol/m2/sの照明の下、16時間の明時間という条件で4週間培養する。
【0152】
(比較例1、5)
表1、2に示す大きさの組織を使用し、振とう速度0rpm、すなわち振とうを行わない点以外は、実施例と同様に培養を行なう。
【0153】
(比較例2、6)
表1、2に示す大きさの組織を使用し、前記液体培地に代えて、前記液体培地のpHを5.7に調整した後、ゲル化剤を0.275質量%となるように添加して、オートクレーブ(121℃、20分)で滅菌し、クリーンベンチ内で冷却することにより調製した固体培地を使用する点以外は、実施例と同様に培養を行なう。なお、表中の組織の大きさは、上述の数平均値を意味し、本実施例、比較例では15個の組織に基づいて算出した数平均値である。
【0154】
〔シュート誘導率〕
培養期間4週間目に、各培養組織においてシュートが誘導されているか否かを確認し、シュートが誘導されている培養組織の割合を算出する。
【0155】
〔マルチプルシュートの形成率〕
培養期間4週間目に、各培養組織において、1個の組織から、複数(例えば、2~6個)のシュートが形成されたマルチプルシュートが製造されているか否かを確認し、シュートが誘導されている培養組織のうち、マルチプルシュートが誘導されている培養組織の割合を算出する。
【0156】
【0157】
【0158】
表1、2より、頂芽、腋芽、及び休眠芽からなる群より選択される少なくとも1種の芽を有する、パラゴムノキから採取された1.0cm~5.0cmの組織を、サイトカイニン系植物ホルモンを含むMB基本培地又はその改変培地の液体培地で振とう培養する振とう培養工程を行う実施例は、組織に存在していた複数のシュート原基が伸長誘導され、マルチプルシュートの製造が可能となることが分かる。
【0159】
(実施例2-1~2-4)
実施例2、5のいずれかにより得られたマルチプルシュートを用いて以下の実験を行う。
培養容器にMS培地の成分を半減した1/2MS培地にホルモンを表3に記載の通りになるように調製した処理液を作製した後、マルチプルシュートから得られたシュート(長さ約15mm)を半分程度浸かるまで浸す(シュートの体積100%中40~60%が発根誘導処理溶液に浸かる状態で前記シュートを静置状態で浸漬する(28℃、12.5μmol/m2/sの照明の下、16時間の明時間))。
浸漬する時間はシュートにより変更することが出きるが、おおよそ20~72時間、静置する。
処理後、MB培地に3%スクロースと100μMGSH(還元型グルタチオン)を添加した固形培地(植物ホルモンの濃度0mg/L)に差し込み、約2週間、培養温度28℃、明条件16時間、暗条件8時間の条件下で培養を行なう。
培養の後、更に上記シュートを1/2MS培地にホルモンを表3に記載の通りになるように調製した処理液に浸漬させて、20-72時間静置する。この際に、シュートの体積100%中40~60%が発根誘導処理溶液に浸かる状態で前記シュートを静置状態で浸漬する(28℃、12.5μmol/m2/sの照明の下、16時間の明時間)。
処理後、培養ポット内にバーミキュライトを満たし、オートクレーブで滅菌処理したのち、MB培地に3質量%スクロースと100μMGSH(還元型グルタチオン)を加えた液体培地をバーミキュライト100質量部に対して80質量部添加した培地成分を含有する固形培地(植物ホルモンの濃度0mg/L、湿潤密度0.74g/cm3、平均粒径0.25-8.0mm)の表面に、シュートを差し込み培養する。培養温度28度、明条件16時間、暗条件8時間の条件下で培養する。
培養の結果、2~8週間経過時に、発根していることが確認でき、バラゴムノキのシュートから発根した苗が得られる。
【0160】
【0161】
表3より、製造されたマルチプルシュートから切断されたシュートを、オーキシン系植物ホルモンを含む発根誘導処理溶液に浸漬する発根誘導処理工程と、前記発根誘導処理工程により処理されたシュートを、発根誘導培地で培養する発根誘導培養工程とを行うことにより、好適にシュートの発根ができることが分かる。
【0162】
本発明(1)は、頂芽、腋芽、及び休眠芽からなる群より選択される少なくとも1種の芽を有する、パラゴムノキから採取された1.0cm~5.0cmの組織を、サイトカイニン系植物ホルモンを含むMB基本培地又はその改変培地の液体培地で振とう培養する振とう培養工程を含む、マルチプルシュートの製造方法である。
【0163】
本発明(2)は、前記振とう培養における振とう速度が50rpm~200rpmである本発明(1)記載のマルチプルシュートの製造方法である。
【0164】
本発明(3)は、前記液体培地が、スクロースを3.0~10質量%含む本発明(1)又は(2)記載のマルチプルシュートの製造方法である。
【0165】
本発明(4)は、前記液体培地が、アミノ酸類、及びビタミン類からなる群より選択される少なくとも1種を含む本発明(1)~(3)のいずれかに記載のマルチプルシュートの製造方法である。
【0166】
本発明(5)は、前記振とう培養工程を1週間以上行う本発明(1)~(4)のいずれかに記載のマルチプルシュートの製造方法である。
【0167】
本発明(6)は、前記組織が、頂芽を有する組織である本発明(1)~(5)のいずれかに記載のマルチプルシュートの製造方法である。
【0168】
本発明(7)は、本発明(1)~(6)のいずれかに記載のマルチプルシュートの製造方法によりマルチプルシュートを製造する工程、製造されたマルチプルシュートから切断されたシュートを発根させる発根工程を含む、クローン苗の製造方法である。
【0169】
本発明(8)は、前記発根工程が、
製造されたマルチプルシュートから切断されたシュートを、オーキシン系植物ホルモンを含む発根誘導処理溶液に浸漬する発根誘導処理工程と、
前記発根誘導処理工程により処理されたシュートを、発根誘導培地で培養する発根誘導培養工程とを含む本発明(7)記載のクローン苗の製造方法である。
【0170】
本発明(9)は、前記発根誘導処理溶液中のオーキシン系植物ホルモンの濃度が、15~20mg/Lである本発明(8)記載のクローン苗の製造方法である。
【0171】
本発明(10)は、前記オーキシン系植物ホルモンが、インドール-3-酢酸である本発明(8)又は(9)記載のクローン苗の製造方法である。
【0172】
本発明(11)は、前記発根誘導処理溶液が、サイトカイニン系植物ホルモンを含む本発明(8)~(10)のいずれかに記載のクローン苗の製造方法である。
【0173】
本発明(12)は、前記サイトカイニン系植物ホルモンが、ゼアチンである本発明(11)記載のクローン苗の製造方法である。
【0174】
本発明(13)は、前記発根誘導処理工程と、前記発根誘導培養工程とを行った後、更に、前記発根誘導処理工程を行う本発明(8)~(12)のいずれかに記載のクローン苗の製造方法である。
【0175】
本発明(14)は、複数回行われる前記発根誘導処理工程において、使用される発根誘導処理溶液の組成が異なる本発明(13)記載のクローン苗の製造方法である。
【0176】
本発明(15)は、前記発根誘導処理工程において、前記シュートの端部が発根誘導処理溶液に浸かる状態で浸漬されている本発明(8)~(14)のいずれかに記載のクローン苗の製造方法である。
【0177】
本発明(16)は、前記発根誘導処理工程において、前記シュートの体積100%中30~70%が発根誘導処理溶液に浸かる状態で前記シュートが浸漬されている本発明(8)~(15)のいずれかに記載のクローン苗の製造方法である。