(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180276
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】フィルム、部材、転写装置、定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20241219BHJP
G03G 15/16 20060101ALI20241219BHJP
G03G 15/00 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
G03G15/20 515
G03G15/16
G03G15/00 552
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024058852
(22)【出願日】2024-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2023098054
(32)【優先日】2023-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 伊織
(72)【発明者】
【氏名】小野 雅人
(72)【発明者】
【氏名】瀬古 真路
(72)【発明者】
【氏名】木村 潤
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏晃
(72)【発明者】
【氏名】大森 健司
【テーマコード(参考)】
2H033
2H171
2H200
【Fターム(参考)】
2H033AA09
2H033BA11
2H033BA12
2H033BA26
2H033BB06
2H033BB14
2H033BB17
2H033BB29
2H033BE00
2H033BE03
2H033BE06
2H171FA10
2H171FA19
2H171FA26
2H171FA30
2H171JA03
2H171JA12
2H171UA03
2H171UA10
2H171UA11
2H171UA15
2H171XA03
2H200GA12
2H200GA23
2H200GB26
2H200JC03
2H200JC13
2H200JC15
2H200JC17
2H200MA04
2H200MA17
2H200MA20
2H200MC03
2H200MC08
(57)【要約】
【課題】高温環境下でも高撥油性なフィルムの提供。
【解決手段】式:[RSiO1.5]nの構造A(ただし、式中、Rは有機基、nは2以上の整数を示す。)を有し、かつ構造A中の少なくとも一つのRがアルキル基を有するシロキサン化合物を含むフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:[RSiO1.5]nの構造A(ただし、式中、Rは有機基、nは2以上の整数を示す。)を有し、かつ構造A中の少なくとも一つのRがアルキル基を含む基を有するシロキサン化合物を含み、表面自由エネルギーが40mJ/m2以下のフィルム。
【請求項2】
前記フィルムに対する前記シロキサン化合物の含有量は、3体積%以上である請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記フィルムに対する前記シロキサン化合物の含有量は、6体積%以上である請求項2に記載のフィルム。
【請求項4】
前記フィルムの表面の、140℃の剥離力が24kPa以下である請求項1に記載のフィルム。
【請求項5】
外面を構成する層として、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のフィルムを有する部材。
【請求項6】
第1回転体と、前記第1回転体の外面に接して配置される第2回転体と、を備え、
前記第1回転体及び前記第2回転体の少なくとも一方が、請求項5に記載の部材で構成された定着装置。
【請求項7】
像保持体と、
前記像保持体の表面を帯電する帯電装置と、
帯電した前記像保持体の表面に静電潜像を形成する静電潜像形成装置と、
トナーを含む現像剤を収容し、前記現像剤により、前記像保持体の表面に形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する現像装置と、
前記トナー像を記録媒体の表面に転写する転写装置と、
前記トナー像を記録媒体の表面に定着する、請求項6に記載の定着装置と、
を備える画像形成装置。
【請求項8】
請求項5に記載の部材で構成され、外周面にトナー像が転写される中間転写体と、
像保持体の表面に形成されたトナー像を前記中間転写体の表面に一次転写する一次転写装置と、
前記中間転写体の表面に転写された前記トナー像を記録媒体の表面に二次転写する二次転写装置と、
を備える転写装置。
【請求項9】
像保持体と、
前記像保持体の表面を帯電する帯電装置と、
帯電した前記像保持体の表面に静電潜像を形成する静電潜像形成装置と、
トナーを含む現像剤を収容し、前記現像剤により、前記像保持体の表面に形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する現像装置と、
前記トナー像を記録媒体の表面に転写する、請求項8に記載の転写装置と、
前記トナー像を記録媒体の表面に定着する定着装置と、
を備える画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム、部材、転写装置、定着装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を用いた画像形成装置(複写機、ファクシミリ、プリンタ等)では、像保持体の表面に形成されたトナー像を記録媒体の表面に転写し、記録媒体上に定着して画像が形成される。
【0003】
例えば、特許文献1には、「シリコン原子に結合する側鎖基R1にフッ素原子を有さないシリコーン(T2m+6(m≧1)構造のオルガノシルセスキオキサンを除く)を含む樹脂層と、該樹脂層上に積層され、シリコン原子に結合する炭化水素基R2を有するT2m+6(m≧1)構造のオルガノシルセスキオキサンを含み、該オルガノシルセスキオキサンの少なくとも一部が表面に露出している撥水撥油層とを備え、該シリコーンのハンセン溶解度パラメータは、分散項δDが10MPa1/2以上かつ15MPa1/2以下であり、分極項δPが0MPa1/2以上かつ5MPa1/2以下であり、水素結合項δHが0MPa1/2以上かつ5MPa1/2以下であり、該オルガノシルセスキオキサンは、オクタメチルシルセスキオキサンである撥水撥油膜。」が開示されている。
【0004】
特許文献2には、「基体と表面層とを有する電子写真用部材であって、該表面層は、アクリル骨格を有する結着樹脂と、一分子中にポリエーテル基と水酸基を有する変性シリコーン化合物とを含み、該表面層は、その表面のn-ヘキサデカン接触角が30°以上であることを特徴とする電子写真用部材。」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許6801474号
【特許文献2】特許6305220号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、樹脂とジメチルシリコーンとを含むフィルムに比べ、高温環境下でも高撥油性なフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は、以下の態様が含まれる。
<1>
式:[RSiO1.5]nの構造A(ただし、式中、Rは有機基、nは2以上の整数を示す。)を有し、かつ構造A中の少なくとも一つのRがアルキル基を含む基を有するシロキサン化合物を含み、表面自由エネルギーが40mJ/m2以下のフィルム。
<2>
前記フィルムに対する前記シロキサン化合物の含有量は、3体積%以上である<1>に記載のフィルム。
<3>
前記フィルムに対する前記シロキサン化合物の含有量は、6体積%以上である<2>に記載のフィルム。
<4>
前記フィルムの表面の、140℃の剥離力が24kPa以下である<1>~<3>のい
ずれか1項に記載のフィルム。
<5>
外面を構成する層として、<1>~<4>のいずれか1項に記載のフィルムを有する部材。
<6>
第1回転体と、前記第1回転体の外面に接して配置される第2回転体と、を備え、
前記第1回転体及び前記第2回転体の少なくとも一方が、<5>に記載の部材で構成された定着装置。
<7>
像保持体と、
前記像保持体の表面を帯電する帯電装置と、
帯電した前記像保持体の表面に静電潜像を形成する静電潜像形成装置と、
トナーを含む現像剤を収容し、前記現像剤により、前記像保持体の表面に形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する現像装置と、
前記トナー像を記録媒体の表面に転写する転写装置と、
前記トナー像を記録媒体の表面に定着する、<6>に記載の定着装置と、
を備える画像形成装置。
<8>
<5>に記載の部材で構成され、外周面にトナー像が転写される中間転写体と、
像保持体の表面に形成されたトナー像を前記中間転写体の表面に一次転写する一次転写装置と、
前記中間転写体の表面に転写された前記トナー像を記録媒体の表面に二次転写する二次転写装置と、
を備える転写装置。
<9>
像保持体と、
前記像保持体の表面を帯電する帯電装置と、
帯電した前記像保持体の表面に静電潜像を形成する静電潜像形成装置と、
トナーを含む現像剤を収容し、前記現像剤により、前記像保持体の表面に形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する現像装置と、
前記トナー像を記録媒体の表面に転写する、<8>に記載の転写装置と、
前記トナー像を記録媒体の表面に定着する定着装置と、
を備える画像形成装置。
【発明の効果】
【0008】
<1>に係る発明によれば、樹脂とジメチルシリコーンとを含むフィルムに比べ、高温環境下でも高撥油性なフィルムが提供される。
【0009】
<2>に係る発明によれば、フィルムに対するシロキサン化合物の含有量が3体積%未満である場合に比べ、高温環境下でも高撥油性なフィルムが提供される。
<3>に係る発明によれば、フィルムに対するシロキサン化合物の含有量が6体積%未満である場合に比べ、高温環境下でも高撥油性なフィルムが提供される。
<4>に係る発明によれば、フィルムの表面の、140℃の剥離力が24kPa未満である場合に比べ、高温環境下でも高撥油性なフィルムが提供される。
【0010】
<5>、<6>、<7>、<8>、及び<9>に係る発明によれば、樹脂とジメチルシリコーンとを含むフィルムを有する場合に比べ、高温環境下でも高撥油性な部材、当該部材で構成された中間転写体を備える転写装置及び画像形成装置、並びに、当該部材で構成された回転体を備える定着装置及び画像形成装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係る定着装置の第1実施形態の一例を示す概略構成図である。
【
図2】本実施形態に係る定着装置の第2実施形態の一例を示す概略構成図である。
【
図3】本実施形態に係る定着装置の第3実施形態の一例を示す概略構成図である。
【
図4】本実施形態に係る画像形成装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の一例である本実施形態について説明する。これらの説明及び実施例は実施形態を例示するものであり、実施形態の範囲を制限するものではない。
【0013】
本実施形態中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本実施形態中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本実施形態において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本実施形態において実施形態を図面を参照して説明する場合、当該実施形態の構成は図面に示された構成に限定されない。また、各図における部材の大きさは概念的なものであり、部材間の大きさの相対的な関係はこれに限定されない。
本実施形態において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。本実施形態において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0014】
<フィルム>
本実施形態に係るフィルムは、式:[RSiO1.5]nの構造A(ただし、式中、Rは有機基、nは2以上の整数を示す。)を有し、かつ構造A中の少なくとも一つのRがアルキル基を含む基を有するシロキサン化合物(以下、「シロキサン化合物SQ」とも称する)を含むフィルムである。
ここで、「フィルム」とは、膜厚1mm以下の厚みを有する薄膜体を指す。
【0015】
本実施形態に係るフィルムは、上記構成により、高温環境下でも高撥油性なフィルムとなる。その理由は、次の通り推測される。
【0016】
ジメチルシリコーンは、高撥油性の化合物であり、フッ素化合物に比べ、高誘電率の化合物である。そのため、フッ素化合物を使用する場合に比べ、ジメチルシリコーンを使用するのが、フィルムに対して、高撥油性の付与に加えて、強度安定性の点で有利である。
ここで、ジメチルシリコーンは、フィルム中に添加されると、フィルム表面にメチル基が配向して、高撥油性を付与する。
しかし、ジメチルシリコーンを含むフィルムは、分子運動が激しくなる高熱に曝されると、ジメチルシリコーンの主鎖が回転し、メチル基が動いて樹脂中に潜り、撥油性が低下することがある。
【0017】
それに対して、シロキサン化合物SQにおける[RSiO1.5]nの構造Aは、骨格強度の高い、多次元構造である。そのため、シロキサン化合物SQは、耐熱性が高く、高温環境下でも、分子運動が低減され、構造A中の少なくとも一つのRが有する、撥油性を付与するアルキル基が動き難い。それにより、フィルム表面でアルキル基の配向が維持され易く、高撥油性が低下し難い。充分な高撥油性を付与するためには、表面自由エネルギーが40mJ/m2以下である。
【0018】
そのため、本実施形態に係るフィルムは、高温環境下でも高撥油性なフィルムになると推測される。
【0019】
以下、本実施形態に係るフィルムについて、詳細に説明する。
【0020】
本実施形態に係るフィルムは、シロキサン化合物SQを含み、表面の表面自由エネルギーが40mJ/m2以下である。
【0021】
本実施形態に係るフィルムは、主成分としてシロキサン化合物SQを含むフィルムであってもよいし、主成分として結着樹脂、添加剤としてシロキサン化合物SQを含むフィルムであってもよい。
ここで、主成分とは、フィルムを構成する成分のうち、最も多い成分を示す。
【0022】
本実施形態に係るフィルムの表面の表面自由エネルギーは、高撥油性の観点から35mJ/m2以下が好ましく、30mJ/m2以下がより好ましい。
フィルムの表面の表面自由エネルギーは、以下の方法により測定される。
OWRK(Owens-Wendt-Rabel-Kaelble)法に基づき、表面自由エネルギーが既知である水、ジヨードメタン及びN-ドデカンを用い、フィルムに水を滴下して水の接触角、フィルムにジヨードメタンを滴下してジヨードメタンの接触角、及び、フィルムにN-ドデカンを滴下してN-ドデカンの接触角をそれぞれ測定し、表面自由エネルギー(mJ/m2)を算出する。
ただし、各接触角は、水、ジヨードメタン又はN-ドデカンをフィルムに滴下後、5秒経過したときに測定した値とする。
【0023】
(シロキサン化合物SQ)
シロキサン化合物SQは、式:[RSiO1.5]nの構造A(ただし、式中、Rは有機基、nは2以上の整数を示す。)を有し、かつ構造A中の少なくとも一つのRがアルキル基を含む基を有する化合物である。
【0024】
構造Aにおいて、式中のRが表す有機基は、例えば、水酸基、シロキシ基、炭化水素基、一つ又は複数のメチレン基がカルボニル基に置き換えられた炭化水素基、一つ又は複数の炭素原子がヘテロ原子(酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子)に置き換えられた炭化水素基、又はこれらを組み合わせた基を示す。
【0025】
Rが表す有機基で説明した、シロキシ基としては、モノアルキルシロキシ基、ジアルキルシロキシ基、トリアルキルシロキシ基等が挙げられ、ジアルキルシロキシ基およびトリアルキルシロキシ基が好ましく、トリアルキルシロキシ基がより好ましい。
【0026】
Rが表す有機基で説明した炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0027】
脂肪族炭化水素基としては、直鎖、分岐又は脂環式の飽和脂肪族炭化水素基、直鎖、分岐又は脂環式の不飽和脂肪族炭化水素基が挙げられる。
脂肪族炭化水素基としては、炭素1以上20以下の炭化水素基が好ましく、炭素数1以上15以下の炭化水素基が好ましい。
脂肪族炭化水素基には、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、アリール基等の置換基が置換されていてもよい。
【0028】
芳香族炭化水素基は、炭素数6以上18以下(好ましくは炭素数6以上14以下)の炭化水素基が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基は、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、アルキル基、アルコキシ基等
の置換基が置換されていてもよい。
【0029】
Rが表す有機基には、反応性基を有していてもよい。反応性基としては、ビニル基、アリル基、スチリル基、マレイミド基、エポキシ基、オキセタニル基、(メタ)アクリロイル基等が挙げられる。つまり、シロキサン化合物は、上記反応性基が反応した硬化物であってもよい。
【0030】
構造A中に複数存在するRは、同じ有機基であってもよいし、異なる有機基であってもよい。
ただし、構造A中に複数存在するRの少なくとも一つは、アルキル基を含む基である。
ここで、高撥油性の観点から、アルキル基を含む基としては、アルキル基自体、又はアルキル基を含むシロキシ基が好ましい。つまり、構造A中に複数存在するRの少なくとも一つは、アルキル基、又はアルキル基を含むシロキシ基が好ましい。
当該アルキル基は、炭素数1以上6以下のアルキル基が好ましく、炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数1のアルキル基(つまりメチル基)がより好ましい。表面自由エネルギーを40mJ/m2以下にするには、アルキル基の炭素数は、1以上4以下が好ましい。
【0031】
なお、シロキサン化合物SQは、種々の骨格構造を取るシルセスキオキサンと呼ばれる高分子化合物である。
シロキサン化合物SQは、カゴ型構造(完全カゴ型構造又はカゴ型構造)、ハシゴ型構造、及びランダム構造のいずいれの骨格構造であってもよい。
【0032】
構造Aにおいて、式中のnは、2以上の整数を示すが、高温撥油性の観点から、8以上の整数を示すことが好ましく、8以上10000以下の整数を示すことがより好ましい。
【0033】
(シロキサン化合物SQの含有量)
高温での撥油性向上の観点から、フィルムに対するシロキサン化合物の含有量は、3体積%以上が好ましく、6体積%以上がより好ましく、10体積%以上がさらに好ましい。
【0034】
(結着樹脂)
結着樹脂としては、例えば、ポリイミド樹脂(PI樹脂)、ポリアミドイミド樹脂(PAI樹脂)、ポリエーテルケトン樹脂(例えば、芳香族ポリエーテルエーテルケトン樹脂等)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)、ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂)、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0035】
また、結着樹脂は、フィルムの用途に合わせて選択することがよい。
例えば、フィルムを単層の中間転写ベルトに適用する場合、結着樹脂は、イミド系樹脂(つまり、イミド結合を有する構成単位を含む樹脂、好ましくは、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリカーボネート樹脂等が好ましい。
例えば、フィルムを定着ベルトの最外層に適用する場合、結着樹脂は、イミド系樹脂(つまり、イミド結合を有する構成単位を含む樹脂、好ましくは;ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリカーボネート樹脂等が好ましい。
なお、本実施形態に係るフィルムは、フッ素原子を含まないことが好ましい。具体的には、例えば、結着樹脂として、フッ素原子を含まない樹脂(具体的にはフッ素樹脂以外の樹脂)を適用することが好ましい。
【0036】
ここで、代表的な結着樹脂として、ポリイミドについて説明する。
ポリイミド樹脂としては、例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との重合体であるポリアミック酸(ポリイミド樹脂の前駆体)のイミド化物が挙げられる。
ポリイミド樹脂としては、例えば、下記一般式(I)で示される構成単位を有する樹脂が挙げられる。
【0037】
【0038】
一般式(I)中、R1は4価の有機基を表し、R2は2価の有機基を表す。
R1で表される4価の有機基としては、芳香族基、脂肪族基、環状脂肪族基、芳香族基と脂肪族基とを組み合わせた基、又はそれらが置換された基が挙げられる。4価の有機基として具体的には、例えば、後述するテトラカルボン酸二無水物の残基が挙げられる。
R2で表される2価の有機基としては、芳香族基、脂肪族基、環状脂肪族基、芳香族基と脂肪族基とを組み合わせた基、又はそれらが置換された基が挙げられる。2価の有機基として具体的には、例えば、後述するジアミン化合物の残基が挙げられる。
【0039】
ポリイミド樹脂の原料として用いるテトラカルボン酸二無水物として具体的には、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン酸二無水物、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0040】
ポリイミド樹脂の原料として用いるジアミン化合物の具体例としては、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジクロロベンジジン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、1,5-ジアミノナフタレン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、3,3’-ジメチル4,4’-ビフェニルジアミン、ベンジジン、3,3’-ジメチルベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、2,4-ビス(β-アミノ第三ブチル)トルエン、ビス(p-β-アミノ-第三ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノフェニル)ベンゼン、ビス-p-(1,1-ジメチル-5-アミノ-ペンチル)ベンゼン、1-イソプロピル-2,4-m-フェニレンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、ジ(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ジアミノプロピルテトラジアミン、3-メチルヘプタメチレンジアミン、4,4-ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,11-ジアミノドデカン、1,2-ビス-3-アミノプロポキシエタン、2
,2-ジメチルプロピレンジアミン、3-メトキシヘキサメチレンジアミン、2,5-ジメチルヘプタメチレンジアミン、3-メチルヘプタメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミン、2,17-ジアミノエイコサデカン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,10-ジアミノ-1,10-ジメチルデカン、12-ジアミノオクタデカン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、ピペラジン、H2N(CH2)3O(CH2)2O(CH2)NH2、H2N(CH2)3S(CH2)3NH2、H2N(CH2)3N(CH3)2(CH2)3NH2等が挙げられる。
【0041】
樹脂の含有量は、フィルムの主成分となる量とする。ここで、フィルムの主成分となる量とは、フィルムに含む成分のうち、最も多い成分の量を意味する。
【0042】
(その他添加剤)
その他添加剤としては、フィルムの用途に応じて、導電剤、補強剤、酸化防止剤、界面活性剤、耐熱老化防止剤等の周知の添加剤が挙げられる。
【0043】
ここで、代表的な添加剤として、導電剤について説明する。
導電剤としては、例えば、カーボンブラック、金属(例えばアルミニウムやニッケル等)、金属酸化物(例えば酸化イットリウム、酸化錫等)、イオン導電性物質(例えばチタン酸カリウム、LiCl等)などが挙げられ、これらの中でもカーボンブラックが好ましく挙げられる。
これら導電剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0044】
カーボンブラックとしては、例えば、ケッチェンブラック、オイルファーネスブラック、チャンネルブラック(すなわちガスブラック)、アセチレンブラック、等が挙げられる。カーボンブラックとしては、表面が処理されたカーボンブラック(以下、「表面処理カーボンブラック」ともいう)を用いてもよい。
表面処理カーボンブラックは、その表面に、例えば、カルボキシ基、キノン基、ラクトン基、ヒドロキシ基等を付与して得られる。表面処理の方法としては、例えば、高温雰囲気下で空気と接触して反応させる空気酸化法、常温(例えば、22℃)下で窒素酸化物又はオゾンと反応させる方法、高温雰囲気下での空気酸化後、低温でオゾンにより酸化する方法等が挙げられる。
【0045】
これらの中でも、導電剤としては、チャンネルブラックがよく、特に、pH5.0以下の酸性カーボンブラックがよい。
酸性カーボンブラックとしては、表面が酸化処理されたカーボンブラック、例えば、表面にカルボキシル基、キノン基、ラクトン基、水酸基等を付与して得られたカーボンブラックが挙げられる。
酸性カーボンブラックとしては、凹凸紙への転写性向上の観点から、pH4.5以下のカーボンブラックが好ましく、より好ましくはpH4.0以下の酸性カーボンブラック、さらに好ましくはpH3.0以下の酸性カーボンブラック、特に好ましくはpH2.0以上3.0以下の酸性カーボンブラック、極めて好ましくはpH2.0以上2.8以下の酸性カーボンブラックである。
なお、酸性カーボンブラックのpHは、JIS Z8802(2011)規定のpH測定方法によって測定される値である。
【0046】
フィルムに対する導電剤の含有量は、10質量%以上50質量%以下であることが好ましく、12質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、14質量%以上30質量%以下であることが更に好ましく、15質量%以上20質量%以下であることが特に好
ましい。
【0047】
本実施形態に係るフィルムの表面の、140℃の剥離力は、28kPa以下が好ましく、23kPa以下がより好ましく、20kPa以下がさらに好ましい。
本実施形態に係るフィルムの表面の、140℃の剥離力が上記範囲であることで、高温環境でも高撥油性なフィルムとなる。
【0048】
ここで、フィルムの表面の、140℃の剥離力は、次の通り測定される。
まず、事前準備としてA4サイズのP紙(富士フイルムビジネスイノベーション社製)を用意し、富士フイルムビジネスイノベーション社製の複写機(ApeosPort-V
C3375)を使用して、黒色100%画像を全面出力した試験用紙を準備する。また、測定対象となるフィルムから、1cm×1cm四方の試料片を採取する。
次に、試料片の表面を140℃に加熱したタックテスター(TA-500、UBM製)のプローブに貼り付け、0.1mm/sの速度で試験用紙に接近し、試験用紙の画像面に押し付けた後、押しつけ荷重3900gfで10s保持し、引き上げ速度10mm/sで引き揚げたときの剥離力を測定する。
【0049】
<部材>
本実施形態に係る部材は、外周面を構成する層として、上記本実施形態に係るフィルムを有する。
本実施形態に係る部材は、上記本実施形態に係るフィルムの単層部材、基材上に、上記本実施形態に係るフィルムを設けた部材のいずれであってもよい。
【0050】
本実施形態に係る部材を、電子写真方式の画像形成装置用の中間転写体に適用する場合、当該部材は、上記本実施形態に係るフィルムの単層体、又は当該フィルムを最外層として有する積層体が適用できる。積層体において、フィルム以外の層(例えば、フィルムを設ける基材層、フィルムと基材層との間に設ける弾性層等)は、中間転写体に設ける周知の層が適用できる。
【0051】
本実施形態に係る部材を、電子写真方式の画像形成装置用の定着部材(加熱部材、加圧部材、摺動部材等)に適用する場合、当該部材は、基材と、基材上に設けられた弾性層、弾性層上に設けられ、上記本実施形態に係るフィルムで構成された離型層とを有する部材が適用できる、基材及び弾性層は、定着部材として設ける周知の基材及び弾性層が適用できる。また、定着部材は、基材と弾性層との間に、電磁誘導加熱用の周知の金属発熱層を有してもよい。
【0052】
本実施形態に係る部材は、中間転写体、定着部材以外に、電子写真方式の画像形成装置用の用紙搬送部材等が挙げられる。
【0053】
<転写装置>
本実施形態に係る転写装置は、
上記本実施形態に係る部材で構成され、外周面にトナー像が転写される中間転写体と、
像保持体の表面に形成されたトナー像を中間転写体の表面に一次転写する一次転写装置と、
中間転写体の表面に転写されたトナー像を記録媒体の表面に二次転写する二次転写装置と、
を備える。
【0054】
(一次転写装置)
一次転写装置において、一次転写部材は、中間転写ベルトを挟んで像保持体に対向して配置される。一次転写装置においては、上記一次転写部材により中間転写ベルトに対しトナーの帯電極性と逆極性の電圧を付与することで、トナー像が中間転写体の外周面に一次
転写される。
【0055】
(二次転写装置)
二次転写装置において、二次転写部材は、中間転写体のトナー像保持側に配置される。そして、二次転写装置は、例えば、二次転写部材と共に、中間転写体のトナー像保持側と反対側に配置される背面部材と、を備える。二次転写装置においては、中間転写体及び記録媒体を二次転写部材と背面部材とで挟み込み転写電界を形成することで、中間転写体上のトナー像が記録媒体に二次転写される。
二次転写部材は、二次転写ロールであってもよいし、二次転写ベルトであってもよい。なお、背面部材は、例えば、背面ロールが適用される。
【0056】
なお、本実施形態に係る転写装置は、複数の中間転写体を介して、トナー像を記録媒体の表面に転写する転写装置であってもよい。つまり、転写装置は、例えば、像保持体から第1中間転写体にトナー像を一次転写し、さらに、第1中間転写体から第2中間転写体にトナー像を二次転写した後、第二中間転写体から記録媒体にトナー像を三次転写する転写装置であってもよい。
転写装置が、複数の中間転写体の少なくとも一つに、上記本実施形態に係る部材で構成された中間転写体を適用する。
【0057】
<定着部材>
本実施形態に係る定着部材は、
第1回転体と、第1回転体の外面に接して配置される第2回転体と、を備え、
第1回転体及び第2回転体の少なくとも一方が、上記本実施形態に係る部材で構成されている。
【0058】
以下に、本実施形態に係る定着装置について、第1実施形態として、加熱ロールと加圧ベルトとを備えた定着装置、第2実施形態として、加熱ベルトと加熱ロールとを備えた定着装置、第3実施形態として、加熱ベルトと加熱ロールとを備えた電磁誘導加熱方式の定着装置を説明する。
なお、本実施形態に係る定着装置は、第1~第3の実施形態に限られず、加熱ロール又は加熱ベルトと加圧ベルトとを備えた定着装置であってよい。
そして、本実施形態に係る定着装置において、上記本実施形態に係る部材は、加圧ロール、加熱ベルト、加圧ロール、及び加圧ベルトのいずれにも適用してもよい。
【0059】
(定着装置の第1実施形態)
定着装置の第1実施形態について
図1を参照して説明する。
図1は、定着装置の第1実施形態の一例(即ち、定着装置60)を示す概略図である。
【0060】
図1に示すように、定着装置60は、例えば、回転駆動する加熱ロール61(第1回転体の一例)と、加圧ベルト62(第2回転体の一例)と、加圧ベルト62を介して加熱ロール61を押圧する押圧パッド64(押圧部材の一例)と、を備えて構成されている。
なお、押圧パッド64は、例えば、加圧ベルト62と加熱ロール61とが相対的に加圧されていればよい。従って、加圧ベルト62側が加熱ロール61に加圧されてもよく、加熱ロール61側が加圧ベルト62に加圧されてもよい。
【0061】
加熱ロール61の内部には、ハロゲンランプ66(加熱装置の一例)が配設されている。加熱装置としては、ハロゲンランプに限られず、発熱する他の発熱部材を用いてもよい。
【0062】
一方、加熱ロール61の表面には、例えば、感温素子69が接触して配置されている。
この感温素子69による温度計測値に基づいて、ハロゲンランプ66の点灯が制御され、加熱ロール61の表面温度が目的とする設定温度(例えば、150℃)に維持される。
【0063】
加圧ベルト62は、例えば、内部に配置された押圧パッド64とベルト走行ガイド63とによって回転自在に支持されている。そして、挟込領域N(ニップ部)において押圧パッド64により加熱ロール61に対して押圧されて配置されている。
【0064】
押圧パッド64は、例えば、加圧ベルト62の内側において、加圧ベルト62を介して加熱ロール61に加圧される状態で配置され、加熱ロール61との間で挟込領域Nを形成している。
押圧パッド64は、例えば、幅の広い挟込領域Nを確保するための前挟込部材64aを挟込領域Nの入口側に配置し、加熱ロール61に歪みを与えるための剥離挟込部材64bを挟込領域Nの出口側に配置している。
【0065】
加圧ベルト62の内周面と押圧パッド64との摺動抵抗を小さくするために、例えば、前挟込部材64a及び剥離挟込部材64bの加圧ベルト62と接する面にシート状の摺動部材68が設けられている。そして、押圧パッド64と摺動部材68とは、金属製の保持部材65に保持されている。
なお、摺動部材68は、例えば、その摺動面が加圧ベルト62の内周面と接するように設けられており、加圧ベルト62との間に存在するオイルの保持・供給に関与する。
【0066】
保持部材65には、例えば、ベルト走行ガイド63が取り付けられ、加圧ベルト62が回転する構成となっている。
【0067】
加熱ロール61は、例えば、図示しない駆動モータにより矢印S方向に回転し、この回転に従動して加圧ベルト62は、加熱ロール61の回転方向と反対の矢印R方向へ回転する。すなわち、例えば、加熱ロール61が
図1における時計方向へ回転するのに対して、加圧ベルト62は反時計方向へ回転する。
【0068】
そして、未定着トナー像を有する用紙K(記録媒体の一例)は、例えば、定着入口ガイド56によって導かれて、挟込領域Nに搬送される。そして、用紙Kが挟込領域Nを通過する際に、用紙K上の未定着トナー像は挟込領域Nに作用する圧力と熱とによって定着される。
【0069】
定着装置60では、例えば、加熱ロール61の外周面に倣う凹形状の前挟込部材64aにより、前挟込部材64aがない構成に比して、広い挟込領域Nを確保される。
【0070】
また、定着装置60では、例えば、加熱ロール61の外周面に対し突出させて剥離挟込部材64bを配置することにより、挟込領域Nの出口領域において加熱ロール61の歪みが局所的に大きくなるように構成されている。
【0071】
このように剥離挟込部材64bを配置すれば、例えば、定着後の用紙Kは、剥離挟込領域を通過する際に、局所的に大きく形成された歪みを通過することになるので、用紙Kが加熱ロール61から剥離しやすい。
【0072】
剥離の補助装置として、例えば、加熱ロール61の挟込領域Nの下流側に、剥離部材70を配設されている。剥離部材70は、例えば、剥離爪71が加熱ロール61の回転方向と対向する向き(カウンタ方向)に加熱ロール61と近接する状態で保持部材72によって保持されている。
【0073】
(定着装置の第2実施形態)
定着装置の第2実施形態について
図2を参照して説明する。
図2は、定着装置の第2実施形態の一例(即ち、定着装置80)を示す概略図である。
【0074】
図2に示すように、定着装置80は、例えば、加熱ベルト84(第1回転体の一例)を備える定着ベルトモジュール86と、加熱ベルト84(定着ベルトモジュール86)に押圧して配置された加圧ロール88(第2回転体の一例)とを含んで構成されている。そして、例えば、加熱ベルト84(定着ベルトモジュール86)と加圧ロール88との接触部には挟込領域N(ニップ部)が形成されている。挟込領域Nでは、用紙K(記録媒体の一例)が加圧及び加熱されトナー像が定着される。
【0075】
定着ベルトモジュール86は、例えば、無端状の加熱ベルト84と、加圧ロール88側で加熱ベルト84が巻き掛けられ、モータ(不図示)の回転力で回転駆動すると共に加熱ベルト84をその内周面から加圧ロール88側へ押し付ける加熱押圧ロール89と、加熱押圧ロール89と異なる位置で内側から加熱ベルト84を支持する支持ロール90と、を備えている。
定着ベルトモジュール86は、例えば、加熱ベルト84の外側に配置されてその周回経路を規定する支持ロール92と、加熱押圧ロール89から支持ロール90までの加熱ベルト84の姿勢を矯正する姿勢矯正ロール94と、加熱ベルト84と加圧ロール88とで形成された挟込領域Nの下流側において加熱ベルト84に内周面から張力を付与する支持ロール98と、が設けられている。
【0076】
そして、定着ベルトモジュール86は、例えば、加熱ベルト84と加熱押圧ロール89との間に、シート状の摺動部材82が介在するように設けられている。
摺動部材82は、例えば、その摺動面が加熱ベルト84の内周面と接するように設けられており、加熱ベルト84との間に存在するオイルの保持・供給に関与する。
ここで、摺動部材82は、例えば、その両端が支持部材96により支持された状態で設けられている。
【0077】
加熱押圧ロール89の内部には、例えば、ハロゲンヒータ89A(加熱装置の一例)が設けられている。
【0078】
支持ロール90は、例えば、アルミニウムで形成された円筒状ロールであり、内部にはハロゲンヒータ90A(加熱装置の一例)が配設されており、加熱ベルト84を内周面側から加熱するようになっている。
支持ロール90の両端部には、例えば、加熱ベルト84を外側に押圧するバネ部材(不図示)が配設されている。
【0079】
支持ロール92は、例えば、アルミニウムで形成された円筒状ロールであり、支持ロール92の表面には厚さ20μmのフッ素樹脂からなる離型層が形成されている。
支持ロール92の離型層は、例えば、加熱ベルト84の外周面からのトナーや紙粉が支持ロール92に堆積するのを防止するために形成されるものである。
支持ロール92の内部には、例えば、ハロゲンヒータ92A(加熱装置の一例)が配設されており、加熱ベルト84を外周面側から加熱するようになっている。
【0080】
つまり、例えば、加熱押圧ロール89と支持ロール90及び支持ロール92とによって、加熱ベルト84が加熱される構成となっている。
【0081】
姿勢矯正ロール94は、例えば、アルミニウムで形成された円柱状ロールであり、姿勢矯正ロール94の近傍には、加熱ベルト84の端部位置を測定する端部位置測定機構(不図示)が配置されている。
姿勢矯正ロール94には、例えば、端部位置測定機構の測定結果に応じて加熱ベルト84の軸方向における当り位置を変位させる軸変位機構(不図示)が配設され、加熱ベルト84の蛇行を制御するように構成されている。
【0082】
一方、加圧ロール88は、例えば、回転自在に支持されると共に、図示しないスプリング等の付勢装置によって加熱ベルト84が加熱押圧ロール89に巻き回された部位に押圧されて設けられている。これにより、定着ベルトモジュール86の加熱ベルト84(加熱押圧ロール89)が矢印S方向へ回転移動するのに伴って、加熱ベルト84(加熱押圧ロール89)に従動して加圧ロール88が矢印R方向に回転移動するようになっている。
【0083】
そして、未定着トナー像(不図示)を有する用紙Kは、矢印P方向に搬送され、定着装置80の挟込領域Nに導かれる。そして、用紙Kが挟込領域Nを通過する際に、用紙K上の未定着トナー像は、挟込領域Nに作用する圧力と熱とによって定着される。
【0084】
なお、定着装置80では、複数ある加熱装置の一例としてハロゲンヒータ(ハロゲンランプ)を適用した形態を説明したが、これに限られず、ハロゲンヒータ以外の輻射ランプ発熱体(放射線(赤外線等)を発する発熱体)、抵抗発熱体(抵抗に電流を流すことによりジュール熱を発生させる発熱体:例えばセラミック基板に抵抗を有する膜を形成して焼成させたもの等)を適用してもよい。
【0085】
(定着装置の第3実施形態)
定着装置の第3実施形態について
図3を参照して説明する。
図3は、定着装置の第3実施形態の一例(即ち、定着装置200)を示す概略図である。
【0086】
図3に示すように、定着装置200は、ベルト220が金属層を有する場合のベルト220を備える電磁誘導方式の定着装置である。
定着装置200において、ベルト220の一部を加圧するよう加圧ロール(加圧部材)211が配置され、効率的に定着を行う観点でベルト220と加圧ロール211との間に接触領域(ニップ)が形成され、ベルト220は加圧ロール211の周面に沿った形に湾曲している。また、記録媒体の剥離性を確保する観点で前記接触領域(ニップ)の末端においてベルトが屈曲する屈曲部が形成される。
【0087】
加圧ロール211は、基材211A上にシリコーンゴム等による弾性層211Bが形成され、更に弾性層211B上にフッ素系化合物による離型層211Cが形成されて構成されている。
【0088】
ベルト220の内側には、加圧ロール211と対向する位置に対向部材213が配置されている。対向部材213は、金属、耐熱樹脂、耐熱ゴム等からなり、ベルト220の内周面に接して局所的に圧力を高めるパッド213Bと、パッド213Bを支持する支持体213Aを有している。
【0089】
ベルト220を中心として加圧ロール211(加圧部材の一例)と対向する位置には、電磁誘導コイル(励磁コイル)212aを内蔵した電磁誘導発熱装置212が設けられている。電磁誘導発熱装置212は、電磁誘導コイルに交流電流を印加することにより、発生する磁場を励磁回路で変化させ、ベルト220の図示しない金属層(例えば、電磁誘導金属層)に渦電流を発生させる。この渦電流が図示しない金属層の電気抵抗によって熱(ジュール熱)に変換され、結果的にベルト220の表面が発熱する。
なお、電磁誘導発熱装置212の位置は
図3に示す位置に限定されず、例えば、ベルト220の接触領域に対して回転方向Bの上流側に設置されていてもよいし、ベルト220
の内側に設置されていてもよい。
【0090】
定着装置200では、ベルト220の端部に固定されたギアに駆動装置により駆動力が伝達されることで、ベルト220が矢印B方向に自己回転し、ベルト220の回転に伴って加圧ロール211は逆方向、すなわち矢印C方向に回転する。
未定着トナー像214が形成された記録媒体215は、矢印A方向に、定着装置200におけるベルト220と加圧ロール211との接触領域(ニップ)に通され、未定着トナー像214が溶融状態として圧力が加えられて記録媒体215に定着される。
【0091】
<画像形成装置>
次に、本実施形態に係る画像形成装置について説明する。
本実施形態に係る画像形成装置は、
像保持体と、像保持体の表面を帯電する帯電装置と、帯電した像保持体の表面に静電潜像を形成する静電潜像形成装置と、トナーを含む現像剤を収容し、現像剤により、像保持体の表面に形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する現像装置と、トナー像を記録媒体の表面に転写する転写装置と、トナー像を記録媒体の表面に定着する定着装置と、を備える。
そして、転写装置として、本実施形態に係る転写装置が適用される。
また、定着装置として、本実施形態に係る定着装置が適用される。
【0092】
ここで、本実施形態に係る画像形成装置において、転写装置及び定着装置は、各々、画像形成装置に着脱するようにカートリッジ化していてもよい。つまり、本実施形態に係る画像形成装置は、プロセスカートリッジの構成装置として、各々、本実施形態に係る転写装置及び本実施形態に係る定着装置を備えてもよい。
【0093】
以下、本実施形態に係る画像形成装置について図面を参照しつつ説明する。
図4は、本実施形態に係る画像形成装置の構成を示した概略構成図である。
【0094】
本実施形態に係る画像形成装置100は、
図4に示すように、例えば、一般にタンデム型と呼ばれる中間転写方式の画像形成装置であって、電子写真方式により各色成分のトナー像が形成される複数の画像形成ユニット1Y、1M、1C、1Kと、各画像形成ユニット1Y、1M、1C、1Kにより形成された各色成分トナー像を中間転写ベルト15に順次転写(一次転写)させる一次転写部10と、中間転写ベルト15上に転写された重畳トナー像を記録媒体である用紙Kに一括転写(二次転写)させる二次転写部20と、二次転写された画像を用紙K上に定着させる定着装置60と、を備えている。また、画像形成装置100は、各装置(各部)の動作を制御する制御部40を有している。
【0095】
画像形成装置100の各画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kは、表面に形成されるトナー像を保持する像保持体の一例として、矢印A方向に回転する感光体11を備えている。
【0096】
感光体11の周囲には、帯電装置の一例として、感光体11を帯電させる帯電器12が設けられ、静電潜像形成装置の一例として、感光体11上に静電潜像を書込むレーザ露光器13(図中露光ビームを符号Bmで示す)が設けられている。
【0097】
また、感光体11の周囲には、現像装置の一例として、各色成分トナーが収容されて感光体11上の静電潜像をトナーにより可視像化する現像器14が設けられ、感光体11上に形成された各色成分トナー像を一次転写部10にて中間転写ベルト15に転写する一次転写ロール16が設けられている。
【0098】
更に、感光体11の周囲には、感光体11上の残留トナーが除去される感光体クリーナ17が設けられ、帯電器12、レーザ露光器13、現像器14、一次転写ロール16及び感光体クリーナ17の電子写真用デバイスが感光体11の回転方向に沿って順次配設されている。これらの画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kは、中間転写ベルト15の上流側から、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の順に、略直線状に配置されている。
【0099】
中間転写体である中間転写ベルト15は、ポリイミド又はポリアミド等の樹脂をベース層としてカーボンブラック等の帯電防止剤を適当量含有させたフィルム状の加圧ベルトで構成されている。そして、その体積抵抗率は106Ωcm以上1014Ωcm以下となるように形成されており、その厚さは、例えば、0.1mm程度に構成されている。
【0100】
中間転写ベルト15は、各種ロールによって
図4に示す矢印B方向に目的に合わせた速度で循環駆動(回転)されている。この各種ロールとして、定速性に優れたモータ(不図示)により駆動されて中間転写ベルト15を回転させる駆動ロール31、各感光体11の配列方向に沿って略直線状に延びる中間転写ベルト15を支持する支持ロール32、中間転写ベルト15に対して張力を与えると共に中間転写ベルト15の蛇行を防止する補正ロールとして機能する張力付与ロール33、二次転写部20に設けられる背面ロール25、及び、中間転写ベルト15上の残留トナーを掻き取るクリーニング部に設けられるクリーニング背面ロール34を有している。
【0101】
一次転写部10は、中間転写ベルト15を挟んで感光体11に対向して配置される一次転写ロール16で構成されている。一次転写ロール16は、芯体と、芯体の周囲に固着された弾性層としてのスポンジ層と、で構成されている。芯体は、鉄、SUS等の金属で構成された円柱棒である。スポンジ層はカーボンブラック等の導電剤を配合したNBRとSBRとEPDMとのブレンドゴムで形成され、体積抵抗率が107.5Ωcm以上108.5Ωcm以下のスポンジ状の円筒ロールである。
【0102】
そして、一次転写ロール16は中間転写ベルト15を挟んで感光体11に圧接配置され、更に一次転写ロール16にはトナーの帯電極性(マイナス極性とする。以下同様。)と逆極性の電圧(一次転写バイアス)が印加されるようになっている。これにより、各々の感光体11上のトナー像が中間転写ベルト15に順次、静電吸引され、中間転写ベルト15上において重畳されたトナー像が形成されるようになっている。
【0103】
二次転写部20は、背面ロール25と、中間転写ベルト15のトナー像保持面側に配置される二次転写ロール22と、を備えて構成されている。
【0104】
背面ロール25は、表面がカーボンを分散したEPDMとNBRのブレンドゴムのチューブ、内部はEPDMゴムで構成されている。そして、その表面抵抗率が107Ω/□以上1010Ω/□以下となるように形成され、硬度は、例えば、70°(アスカーC:高分子計器社製、以下同様。)に設定される。この背面ロール25は、中間転写ベルト15の裏面側に配置されて二次転写ロール22の対向電極を構成し、二次転写バイアスが安定的に印加される金属製の給電ロール26が接触配置されている。
【0105】
一方、二次転写ロール22は、芯体と、芯体の周囲に固着された弾性層としてのスポンジ層と、で構成されている。芯体は鉄、SUS等の金属で構成された円柱棒である。スポンジ層はカーボンブラック等の導電剤を配合したNBRとSBRとEPDMとのブレンドゴムで形成され、体積抵抗率が107.5Ωcm以上108.5Ωcm以下のスポンジ状の円筒ロールである。
【0106】
そして、二次転写ロール22は中間転写ベルト15を挟んで背面ロール25に圧接配置され、更に、二次転写ロール22は接地されて背面ロール25との間に二次転写バイアスが形成され、二次転写部20に搬送される用紙K上にトナー像を二次転写する。
【0107】
また、中間転写ベルト15の二次転写部20の下流側には、二次転写後の中間転写ベルト15上の残留トナーや紙粉を除去し、中間転写ベルト15の表面をクリーニングする中間転写ベルトクリーナ35が、中間転写ベルト15に対し接離自在に設けられている。
【0108】
なお、中間転写ベルト15、一次転写部10(一次転写ロール16)、及び二次転写部20(二次転写ロール22)が、転写装置の一例に該当する。
【0109】
一方、イエローの画像形成ユニット1Yの上流側には、各画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kにおける画像形成タイミングをとるための基準となる基準信号を発生する基準センサ(ホームポジションセンサ)42が配設されている。この基準センサ42は、中間転写ベルト15の裏側に設けられたマークを認識して基準信号を発生しており、この基準信号の認識に基づく制御部40からの指示により、各画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kは画像形成を開始するように構成されている。
また、黒の画像形成ユニット1Kの下流側には、画質調整を行うための画像濃度センサ43が配設されている。
【0110】
更に、本実施形態に係る画像形成装置では、用紙Kを搬送する搬送装置として、用紙Kを収容する用紙収容部50、この用紙収容部50に集積された用紙Kを予め定められたタイミングで取り出して搬送する給紙ロール51、給紙ロール51により繰り出された用紙Kを搬送する搬送ロール52、搬送ロール52により搬送された用紙Kを二次転写部20へと送り込む搬送ガイド53、二次転写ロール22により二次転写された後に搬送される用紙Kを定着装置60へと搬送する搬送ベルト55、及び、用紙Kを定着装置60に導く定着入口ガイド56を備えている。
【0111】
次に、本実施形態に係る画像形成装置の基本的な作像プロセスについて説明する。
本実施形態に係る画像形成装置では、図示しない画像読取装置や図示しないパーソナルコンピュータ(PC)等から出力される画像データは、図示しない画像処理装置により画像処理が施された後、画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kによって作像作業が実行される。
【0112】
画像処理装置では、入力された画像データに対して、シェーディング補正、位置ズレ補正、明度/色空間変換、ガンマ補正、枠消しや色編集、移動編集等の各種画像編集等の画像処理が施される。画像処理が施された画像データは、Y、M、C、Kの4色の色材階調データに変換され、レーザ露光器13に出力される。
【0113】
レーザ露光器13では、入力された色材階調データに応じて、例えば半導体レーザから出射された露光ビームBmを画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kの各々の感光体11に照射している。画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kの各感光体11では、帯電器12によって表面が帯電された後、このレーザ露光器13によって表面が走査露光され、静電潜像が形成される。形成された静電潜像は、各々の画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kによって、Y、M、C、Kの各色のトナー像として現像される。
【0114】
画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kの感光体11上に形成されたトナー像は、各感光体11と中間転写ベルト15とが接触する一次転写部10において、中間転写ベルト15上に転写される。より具体的には、一次転写部10において、一次転写ロール16により中間転写ベルト15の基材に対しトナーの帯電極性(マイナス極性)と逆極性の電圧
(一次転写バイアス)が付加され、トナー像を中間転写ベルト15の表面に順次重ね合わせて一次転写が行われる。
【0115】
トナー像が中間転写ベルト15の表面に順次一次転写された後、中間転写ベルト15は移動してトナー像が二次転写部20に搬送される。トナー像が二次転写部20に搬送されると、搬送装置では、トナー像が二次転写部20に搬送されるタイミングに合わせて給紙ロール51が回転し、用紙収容部50から目的とするサイズの用紙Kが供給される。給紙ロール51により供給された用紙Kは、搬送ロール52により搬送され、搬送ガイド53を経て二次転写部20に到達する。この二次転写部20に到達する前に、用紙Kは一旦停止され、トナー像が保持された中間転写ベルト15の移動タイミングに合わせて位置合わせロール(不図示)が回転することで、用紙Kの位置とトナー像の位置との位置合わせがなされる。
【0116】
二次転写部20では、中間転写ベルト15を介して、二次転写ロール22が背面ロール25に加圧される。このとき、タイミングを合わせて搬送された用紙Kは、中間転写ベルト15と二次転写ロール22との間に挟み込まれる。その際に、給電ロール26からトナーの帯電極性(マイナス極性)と同極性の電圧(二次転写バイアス)が印加されると、二次転写ロール22と背面ロール25との間に転写電界が形成される。そして、中間転写ベルト15上に保持された未定着トナー像は、二次転写ロール22と背面ロール25とによって加圧される二次転写部20において、用紙K上に一括して静電転写される。
【0117】
その後、トナー像が静電転写された用紙Kは、二次転写ロール22によって中間転写ベルト15から剥離された状態でそのまま搬送され、二次転写ロール22の用紙搬送方向下流側に設けられた搬送ベルト55へと搬送される。搬送ベルト55は、定着装置60における最適な搬送速度に合わせて、用紙Kを定着装置60まで搬送する。定着装置60に搬送された用紙K上の未定着トナー像は、定着装置60によって熱及び圧力で定着処理を受けることで用紙K上に定着される。そして定着画像が形成された用紙Kは、画像形成装置の排出部に設けられた排紙収容部(不図示)に搬送される。
【0118】
一方、用紙Kへの転写が終了した後、中間転写ベルト15上に残った残留トナーは、中間転写ベルト15の回転に伴ってクリーニング部まで搬送され、クリーニング背面ロール34及び中間転写ベルトクリーナ35によって中間転写ベルト15上から除去される。
【0119】
以上、本実施形態について説明したが、上記実施の形態に限定的に解釈されるものではなく、種々の変形、変更、改良が可能である。
【実施例0120】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0121】
<実施例A1~A6>
表1に示す種類のシロキサン化合物を、最終的なフィルム中の添加量が表1となるように秤量し、溶媒であるテトラヒドロフラン(THF、富士フイルム和光純薬(株))に、スターラーチップ攪拌を実施することで分散させ、シロキサン化合物分散液を得た。この時、後述の樹脂とシロキサン化合物とTHFとの混合物の固形分が15質量%となるようにTHFを秤量した。その後、シロキサン化合物分散液に対して、樹脂であるポリカーボネート(TEIJIN、TS-2040)を添加剤が表1の含有量になるように添加し、スターラーチップ攪拌を実施し、塗布液を得た。その後、塗布液を金属板上に塗布し、自然乾燥後、真空乾燥することで、表1に示す膜厚のフィルムを得た。
なお、金属板上に塗布する布液の量は、表1に示す膜厚のフィルムが得られるように調整した。
【0122】
<実施例B1:シロキサン化合物SQが主成分であるフィルム>
UV硬化剤含有のSQモノマー(東亜合成(株)、OX-SQ)に対し、紫外線を照射させることで、フィルムを得た。
【0123】
<比較例A1~A5>
シロキサン化合物に代えて、表1に示す添加剤を使用した以外は、実施例A1と同様にして、フィルムを得た。ただし、表1に示す添加剤の配合量は、得られるフィルム中の量が表1となるようにして添加した。
【0124】
<実施例A101~A106>
(カーボンブラック分散ポリアミド酸溶液の作製)
3,3‘,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)とp-フェニ レンジアミン(PDA)とからなるポリアミック酸のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液(宇部興産製ユーワニスS)に、乾燥した酸化処理カーボンブラック(「SPEDIAL BLACK 4」Degussa社製)を添加して、混合物を得た。カーボンブランクの添加量は、得られる無端ベルトのポリイミド樹脂に対するカーボンブラック量(CB量)が表2に示す量とした。
得られた混合物を、衝突型分散機(ジーナス製GeanusPY)により、圧力200MPaで最小面積が1.4mm2で2分割後衝突させ、再度、2分割する経路を5回通過させて、混合して粘度150ポイズのカーボンブラック分散ポリアミック酸溶液を得た。
【0125】
(塗布液の作製)
表2に示す種類のシロキサン化合物を、最終的なベルト中の添加量が表2となるように秤量し、溶媒であるNMPに、スターラーチップ攪拌を実施することで分散させ、シロキサン化合物分散液を得た。この時、後述の樹脂及びカーボンブラックとシロキサン化合物とNMPとの混合物の固形分が15質量%となるようにTHFを秤量した。
その後、シロキサン化合物分散液とカーボンブラック分散ポリアミック酸溶液と、攪拌装置にて撹拌し、シロキサン化合物/カーボンブラック分散ポリアミック酸溶液からなる塗布液を得た。
【0126】
(無端ベルトの作製)
金型としてのアルミニウム製円筒体を100rpmで回転させ、外周面にディスペンサーとスクレイパーを速度150min/minで移動させながら、塗布液を塗布した。その後、円筒体を5rpmで回転させながら、120℃で30分間、塗膜を加熱し、常温(25℃)に冷却後、320℃まで2時間加熱することにより、溶媒除去とともにイミド転化を行って、管状フィルムを得た。
最後に、常温(25℃)まで冷却してから、エア挿入により管状フィルムを円筒体から分離(脱型)し、表2に示す膜厚の管状フィルムからなる無端ベルトを得た。
【0127】
<実施例B101>
(基材層の形成)
3,3‘,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)とp-フェニ レンジアミン(PDA)とからなるポリアミック酸のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液(宇部興産製ユーワニスSに乾燥した酸化処理カーボンブラック(SPECIAL BLACK 4)Degussa社製)をポリイミド樹脂固形分100質量部に対して、17質量部になるように添加して、混合液を得た。
得られた混合液を、衝突型分散機(ジーナス製GeanusPY)を用い、圧力200MPaで最小面積が1.4mm2で2分割後衝突させ、再度2分割する経路を5回通過させて、混合して粘度150ポイズのカーボンブラック分散ポリアミック酸溶液からなる塗布液を得た。
金型としてのアルミニウム製円筒体を100rpmで回転させ、外周面にディスペンサーとスクレイパーを速度150min/minで移動させながら、厚み0.5mmで塗布液を塗布した。その後、円筒体を5rpmで回転させながら、120℃で30分間加熱し、常温(25℃)に冷却後、320℃まで2時間加熱することにより、溶媒除去とともにイミド転化を行って、表3に示す膜厚の管状フィルムからなる基材層を得た。
【0128】
(表面層の形成)
UV硬化剤含有のSQモノマー(東亜合成(株)、OX-SQ)に、乾燥した酸化処理カーボンブラック(SPECIAL BLACK 4)Degussa社製)をSQモノマーの硬化物100質量部に対して、2質量部になるように添加して、塗布液を得た。
次に、円筒体上に形成された基材層表面に、基材層の形成と同様にして、塗布液を塗布した。その後、塗膜に紫外線を照射することで、表3に示す膜厚の管状フィルムからなる表面層を形成した。
【0129】
最後に、常温(25℃)まで冷却してから、エア挿入により、基材層及び表面層の積層管状フィルムを円筒体から分離(脱型)し、積層管状フィルムからなる無端ベルトを得た。
【0130】
<実施例C101>
(基材層の形成)
実施例B2と同様にして、表2に示す膜厚の管状フィルムからなる基材層を得た。ただし、ポリアミド酸のNMP溶液に対するカーボンブラックの添加量は、ポリイミド樹脂固形分100質量部に対して、20質量部になる量とした。
【0131】
(表面層の形成)
表1に示す種類のシロキサン化合物を、最終的なフィルム中の添加量が表1となるように秤量し、溶媒であるテトラヒドロフラン(THF、富士フイルム和光純薬(株))に、スターラーチップ攪拌を実施することで分散させ、シロキサン化合物分散液を得た。この時、後述の樹脂とカーボンブラックとシロキサン化合物とTHFとの塗布液の固形分が15質量%となるようにTHFを秤量した。その後、シロキサン化合物分散液に対して、樹脂であるポリカーボネート(TEIJIN、TS-2040)、及び乾燥した酸化処理カーボンブラック(SPECIAL BLACK 4)Degussa社製)を添加し、塗布液を得た。
次に、円筒体上に形成された基材層表面に、基材層の形成と同様にして、塗布液を塗布した。その後、塗膜を、自然乾燥後、真空乾燥することで、表3に示す膜厚の管状フィルムからなる表面層を形成した。
【0132】
最後に、常温(25℃)まで冷却してから、エア挿入により、基材層及び表面層の積層管状フィルムを円筒体から分離(脱型)し、積層管状フィルムからなる無端ベルトを得た。
【0133】
<比較例B101>
実施例B1において、表面層を形成せず、単層の管状フィルムからなる無端ベルトを得た。
【0134】
<評価>
(表面自由エネルギー)
既述の方法に従って、各例のフィルムの表面及び無端ベルト外周面の、表面自由エネルギー(表中「表面自由E」と表記)140℃の剥離力を測定した。
【0135】
(剥離力)
既述の方法に従って、各例のフィルムの表面及び無端ベルト外周面の140℃の剥離力を測定した。
【0136】
(画質評価)
各例のうち、実施例A101~A106、B101、C101、比較例B101の無端ベルトを、評価用画像形成装置(富士フイルムビジネスイノベーション(株)製DocuPrintC2250」の改造機)に、中間転写ベルトとして装着した。
評価用画像形成装置により、温度10℃湿度15%RH環境において、画像濃度30%の黒色ハーフトーン画像をA4縦用紙に1500000枚まで印刷した。この印刷の途中、印刷枚数100000枚毎に、画像濃度30%の黒色ハーフトーンの画像をA3縦用紙に1枚印刷した。そして、目視により、画像濃度ムラが発生するまでのA4縦用紙への印刷枚数を調べた。
なお、表中「PV」はプリントボリューム、つまり印刷枚数を示す。
【0137】
(クリーニング性評価)
各例のうち、実施例A101~A106、B101、C101、比較例B101の無端ベルトを、評価用画像形成装置(富士フイルムビジネスイノベーション(株)製「DocuPrintC2250」の改造機)に、中間転写ベルトとして装着した。
評価用画像形成装置により、温度10℃湿度15%RH環境において、A4縦用紙に、ブラック/細線格子模様チャートを連続して1500000枚まで印刷した。この印刷の途中で、印刷枚数100000枚毎に、中間転写ベルト外周面を目視観察した。
そして、目視により、中間転写ベルト外周面に固着物が生じる印刷枚数を調べた。
【0138】
なお、表1中に示す略称は、次の通りである。
【0139】
PC:ポリカーボネート(TEIJIN、TS-2040)
PI:ポリアミック酸のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液(宇部興産製ユーワニスS)から形成されるポリイミド樹脂
CB:酸化処理カーボンブラック(「SPEDIAL BLACK 4」Degussa社製)
【0140】
・SQ1:[RSiO1.5]nの構造A中、Rがジメチルシリルオキシ基であるシロキサン化合物SQ1(PSS-Octakis(dimethylsilyloxy) substituted)
【0141】
・SQ2:[RSiO1.5]nの構造A中、Rがトリメチルシロキシ基であるシロキサン化合物SQ2(Octakis(trimethylsiloxy)silsesquioxane)
【0142】
・SQ3:[RSiO1.5]nの構造Aを有する、オキセタニル系のシルセスキオキサンSQ3(東亜合成(株)、OX-SQ)
【0143】
・KP-126:ポリエーテル変性ジメチルポリシロキサン、信越化学工業(株)製、KP-126
・SQ4:[RSiO1.5]nの構造A中、Rがクロロプロピル基であるシロキサン化合物SQ4
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
上記結果から、本実施例のフィルムは、比較例のフィルムに比べ、高温環境でも、高撥油性なフィルムであることがわかる。
そして、本実施例のフィルムは、比較例のフィルムに比べ、部材の外周面を構成する層として適用することで、部材の外周面に、高温環境でも、高撥油性な特性を付与できることがわかる。
また、本実施例の、環状フィルムからなる無端ベルトは、電子写真用の画像形成装置の中間転写ベルトと適用したとき、経時で画像濃度ムラが生じ難く、クリーニング性が良好であることもわかる。
【0148】
本実施形態は、下記態様を含む。
(((1)))
式:[RSiO1.5]nの構造A(ただし、式中、Rは有機基、nは2以上の整数を示す。)を有し、かつ構造A中の少なくとも一つのRがアルキル基を含む基を有するシロキサン化合物を含み、表面自由エネルギーが40mJ/m2以下のフィルム。
(((2)))
前記フィルムに対する前記シロキサン化合物の含有量は、3体積%以上である(((1)))に記載のフィルム。
(((3)))
前記フィルムに対する前記シロキサン化合物の含有量は、6体積%以上である(((2)))に記載のフィルム。
(((4)))
前記フィルムの表面の、140℃の剥離力が24kPa以下である(((1)))~(((3)))のいずれか1項に記載のフィルム。
(((5)))
外面を構成する層として、(((1)))~(((4)))のいずれか1項に記載のフィルムを有する部材。
(((6)))
第1回転体と、前記第1回転体の外面に接して配置される第2回転体と、を備え、
前記第1回転体及び前記第2回転体の少なくとも一方が、(((5)))に記載の部材で構成された定着装置。
(((7)))
像保持体と、
前記像保持体の表面を帯電する帯電装置と、
帯電した前記像保持体の表面に静電潜像を形成する静電潜像形成装置と、
トナーを含む現像剤を収容し、前記現像剤により、前記像保持体の表面に形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する現像装置と、
前記トナー像を記録媒体の表面に転写する転写装置と、
前記トナー像を記録媒体の表面に定着する、(((6)))に記載の定着装置と、
を備える画像形成装置。
(((8)))
(((5)))に記載の部材で構成され、外周面にトナー像が転写される中間転写体と、
像保持体の表面に形成されたトナー像を前記中間転写体の表面に一次転写する一次転写装置と、
前記中間転写体の表面に転写された前記トナー像を記録媒体の表面に二次転写する二次転写装置と、
を備える転写装置。
(((9)))
像保持体と、
前記像保持体の表面を帯電する帯電装置と、
帯電した前記像保持体の表面に静電潜像を形成する静電潜像形成装置と、
トナーを含む現像剤を収容し、前記現像剤により、前記像保持体の表面に形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する現像装置と、
前記トナー像を記録媒体の表面に転写する、(((8)))に記載の転写装置と、
前記トナー像を記録媒体の表面に定着する定着装置と、
を備える画像形成装置。
【0149】
上記態様の効果は、次の通りである。
(((1)))に係る発明によれば、樹脂とジメチルシリコーンとを含むフィルムに比べ、高温環境下でも高撥油性なフィルムが提供される。
【0150】
(((2)))に係る発明によれば、フィルムに対するシロキサン化合物の含有量が3体積%未満である場合に比べ、高温環境下でも高撥油性なフィルムが提供される。
(((3)))に係る発明によれば、フィルムに対するシロキサン化合物の含有量が6体積%未満である場合に比べ、高温環境下でも高撥油性なフィルムが提供される。
(((4)))に係る発明によれば、フィルムの表面の、140℃の剥離力が24kPa未満である場合に比べ、高温環境下でも高撥油性なフィルムが提供される。
【0151】
(((5)))、(((6)))、(((7)))、(((8)))、及び(((9)))に係る発明によれば、樹脂とジメチルシリコーンとを含むフィルムを有する場合に比べ、高温環境下でも高撥油性な部材、当該部材で構成された中間転写体を備える転写装置及び画像形成装置、並びに、当該部材で構成された回転体を備える定着装置及び画像形成装置が提供される。