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特開2024-180301画像生成方法、および多芯ケーブルの品質評価方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180301
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】画像生成方法、および多芯ケーブルの品質評価方法
(51)【国際特許分類】
   G06T 5/60 20240101AFI20241219BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20241219BHJP
   B21F 7/00 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
G06T5/60
G06T7/00 610C
G06T7/00 350C
B21F7/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024078572
(22)【出願日】2024-05-14
(31)【優先権主張番号】P 2023099060
(32)【優先日】2023-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星名 豊
(72)【発明者】
【氏名】田中 成幸
(72)【発明者】
【氏名】松村 友多佳
(72)【発明者】
【氏名】加藤 寛隆
(72)【発明者】
【氏名】市田 則夫
【テーマコード(参考)】
4E070
5B057
5L096
【Fターム(参考)】
4E070AA03
4E070AA04
4E070AB14
4E070AC01
4E070BD01
4E070BD06
5B057CA08
5B057CB08
5B057CC01
5B057DA03
5B057DC03
5L096BA03
5L096DA01
5L096DA02
5L096FA62
5L096GA06
5L096HA11
5L096KA04
(57)【要約】
【課題】丸棒状の素材を複数含む物体または丸棒状の中空を複数含む物体であって、当該物体の長手方向に垂直な横断面の断層画像から素材または中空の中心位置を適切に検出できるような画像を生成する画像生成方法および多芯ケーブルの品質評価方法を提供する。
【解決手段】本開示の画像生成方法は、丸棒状の素材を複数含む物体または丸棒状の中空を複数含む物体であって、当該物体の長手方向に垂直な横断面の断層画像から断層画像内の素材または中空の横断面の中心の画素が明るく、素材または中空の横断面の径方向に向かって画素が段階的に暗くなるような画像を生成する学習済みモデルを用いて、取得した断層画像から取得した断層画像内の素材または中空の横断面の中心の画素が明るく、素材または中空の横断面の径方向に向かって画素が段階的に暗くなるような画像を生成するステップを備える。
【選択図】図39
【特許請求の範囲】
【請求項1】
丸棒状の素材を複数含む物体または丸棒状の中空を複数含む物体であって、当該物体の長手方向に垂直な横断面の断層画像を取得するステップと、
前記断層画像から前記断層画像内の前記素材または前記中空の横断面の中心の画素が明るく、前記素材または前記中空の横断面の径方向に向かって画素が段階的に暗くなるような画像を生成する学習済みモデルを用いて、前記取得した断層画像から前記取得した断層画像内の前記素材または前記中空の横断面の中心の画素が明るく、前記素材または前記中空の横断面の径方向に向かって画素が段階的に暗くなるような画像を生成するステップとを備えた画像生成方法。
【請求項2】
前記学習済みモデルは、3段の畳み込み層を有する畳み込みニューラルネットワークによって構成される、請求項1記載の画像生成方法。
【請求項3】
第1段目の畳み込み層のフィルタの一辺のサイズは、前記素材または前記中空の前記横断面の径の0.88倍以上かつ2.64倍以下の大きさに相当する画素数である、請求項2記載の画像生成方法。
【請求項4】
第3段目の畳み込み層のフィルタの一辺のサイズは、前記素材または前記中空の前記横断面の径の0.59倍以上かつ1.47倍以下の大きさに相当する画素数である、請求項2記載の画像生成方法。
【請求項5】
多芯ケーブルの品質評価方法であって、
請求項1から4のいずれか1項に記載された断層画像を生成するステップおよび画像を生成するステップを備え、
前記断層画像を取得するステップは、複数の素線を含む多芯ケーブルの長手方向に垂直な横断面の断層画像を取得するステップを含み、
前記画像を生成するステップは、前記多芯ケーブルの複数の横断面の断層画像の各々について、前記断層画像内の前記素線の横断面の中心の画素が明るく、前記素線の横断面の径方向に向かって画素が段階的に暗くなるような画像を生成するステップを含み、
前記多芯ケーブルの品質評価方法は、さらに、
前記生成された画像から、前記素線の横断面の中心位置を検出するステップと、
前記複数の横断面における前記素線の横断面の中心位置を連結することによって、前記素線の軌跡を求めるステップと、
前記素線の軌跡に基づいて、前記素線の撚りピッチを表わす指標を算出し、または複数の前記素線の軌跡に基づいて、複数の前記素線が撚り合わされた集合体の撚りピッチを表わす指標を算出するステップと、を備える多芯ケーブルの品質評価方法。
【請求項6】
前記中心位置を検出するステップは、前記得られた画像を2値化するステップを含む、請求項5記載の多芯ケーブルの品質評価方法。
【請求項7】
前記撚りピッチを表わす指標の統計量を算出するステップを、さらに備える、請求項5記載の多芯ケーブルの品質評価方法。
【請求項8】
前記撚りピッチを表わす指標の統計量は、前記撚りピッチを表わす指標のヒストグラムから算出される頻度の半値幅である、請求項7記載の多芯ケーブルの品質評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、画像生成方法、多芯ケーブルの品質評価方法、および被覆導線に関する。本出願は、特願2023-099060号に基づく優先権を主張する。当該出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の素線を撚り合わせた導体と、導体を被覆する被覆部とを備える多芯ケーブルが知られている(たとえば、国際公開第2017/056278号公報参照)。複数の素線を撚り合わせた導体は、たとえば、ボビン固定方式の製造装置、あるいはボビン回転方式の製造装置(たとえば、特開2006-328603号公報および特開平4-075733号公報参照)を用いて製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/056278号
【特許文献2】特開2006-328603号公報
【特許文献3】特開平4-075733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された多芯ケーブルの品質を評価するためには、多芯ケーブルを構成する複数の素線の各々の形状を正確に測定することが重要である。多芯ケーブルの品質を評価するために、多芯ケーブルの断層画像を用いることが考えられる。
【0005】
しかしながら、複数の素線を含む多芯ケーブルの断層画像などのような丸棒状の素材を複数含む物体または丸棒状の中空を複数含む物体であって、物体の長手方向に垂直な横断面の断層画像から、素材または中空の中心位置を適切に検出する方法が知られていない。
【0006】
それゆえに、本開示の目的は、丸棒状の素材を複数含む物体または丸棒状の中空を複数含む物体であって、当該物体の長手方向に垂直な横断面の断層画像から素材または中空の中心位置を適切に検出できるような画像を生成する画像生成方法、およびそのような画像生成方法を用いて多芯ケーブルの品質を適切に評価することができる多芯ケーブルの品質評価方法、および、そのような多芯ケーブルの品質評価方法を用いて製造可能な被覆導線を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の画像生成方法は、丸棒状の素材を複数含む物体または丸棒状の中空を複数含む物体であって、当該物体の長手方向に垂直な横断面の断層画像を取得するステップと、断層画像から断層画像内の素材または中空の横断面の中心の画素が明るく、素材または中空の横断面の径方向に向かって画素が段階的に暗くなるような画像を生成する学習済みモデルを用いて、取得した断層画像から取得した断層画像内の素材または中空の横断面の中心の画素が明るく、素材または中空の横断面の径方向に向かって画素が段階的に暗くなるような画像を生成するステップとを備える。
【0008】
本開示の多芯ケーブルの品質評価方法は、上記に記載された断層画像を生成するステップおよび画像を生成するステップを備え、断層画像を取得するステップは、複数の素線を含む多芯ケーブルの長手方向に垂直な横断面の断層画像を取得するステップを含み、画像を生成するステップは、多芯ケーブルの複数の横断面の断層画像の各々について、断層画像内の素線の横断面の中心の画素が明るく、素線の横断面の径方向に向かって画素が段階的に暗くなるような画像を生成するステップを含む。多芯ケーブルの品質評価方法は、さらに、生成された画像から、素線の横断面の中心位置を検出するステップと、複数の横断面における素線の横断面の中心位置を連結することによって、素線の軌跡を求めるステップと、素線の軌跡に基づいて、素線の撚りピッチを表わす指標を算出し、または複数の素線の軌跡に基づいて、複数の素線が撚り合わされた集合体の撚りピッチを表わす指標を算出するステップと、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、丸棒状の素材を複数含む物体または丸棒状の中空を複数含む物体であって、当該物体の長手方向に垂直な横断面の断層画像から、個々の素材または中空の中心位置を適切に検出でき、多芯ケーブルの品質を適切に評価することができ、高品質の多芯ケーブルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本実施の形態に係る多芯ケーブルの断面図である。
図2図2は、本実施の形態に係る多芯ケーブルにおける被覆導線の断面図である。
図3図3は、本実施の形態に係る多芯ケーブルにおける被覆導線の断面図である。
図4図4は、本実施の形態に係る多芯ケーブルにおける導体部の断面図である。
図5図5は、素線の撚りピッチの算出法を説明する導体部の概略断面図である。
図6図6は、撚りピッチのヒストグラムを説明する概略分布図である。
図7A図7Aは、本実施の形態に係る多芯ケーブルの複数の素線を撚り合わせた導体を製造する装置を示す概略図である。
図7B図7Bは、本実施の形態に係る多芯ケーブルの製造装置を示す概略図である。
図8図8は、多芯ケーブルの品質評価システム40の構成を表わす図である。
図9図9は、学習装置60の構成を表わす図である。
図10図10は、本実施の形態の畳み込みニューラルネットワークの例を表わす図である。
図11図11は、加工画像生成装置50の構成を表わす図である。
図12A図12Aは、ニューラルネットワークに入力される断層画像を表わす図である。
図12B図12Bは、図12Aの矩形で表される領域を拡大した図である。
図13A図13Aは、フィルタサイズが{f1=5、f2=1、f3=5}の場合の加工画像を表わす図である。
図13B図13Bは、図13Aの矩形で表される領域を拡大した図である。
図14A図14Aは、フィルタサイズが{f1=10、f2=1、f3=5}の場合の加工画像を表わす図である。
図14B図14Bは、図14Aの矩形で表される領域を拡大した図である。
図15A図15Aは、フィルタサイズが{f1=15、f2=1、f3=5}の場合の加工画像を表わす図である。
図15B図15Bは、図15Aの矩形で表される領域を拡大した図である。
図16A図16Aは、フィルタサイズが{f1=25、f2=1、f3=5}の場合の加工画像を表わす図である。
図16B図16Bは、図16Aの矩形で表される領域を拡大した図である。
図17A図17Aは、フィルタサイズが{f1=35、f2=1、f3=5}の場合の加工画像を表わす図である。
図17B図17Bは、図17Aの矩形で表される領域を拡大した図である。
図18A図18Aは、フィルタサイズが{f1=45、f2=1、f3=5}の場合の加工画像を表わす図である。
図18B図18Bは、図18Aの矩形で表される領域を拡大した図である。
図19A図19Aは、フィルタサイズが{f1=55、f2=1、f3=5}の場合の加工画像を表わす図である。
図19B図19Bは、図19Aの矩形で表される領域を拡大した図である。
図20A図20Aは、フィルタサイズが{f1=35、f2=1、f3=15}の場合の加工画像を表わす図である。
図20B図20Bは、図20Aの矩形で表される領域を拡大した図である。
図21A図21Aは、フィルタサイズが{f1=35、f2=5、f3=15}の場合の加工画像を表わす図である。
図21B図21Bは、図21Aの矩形で表される領域を拡大した図である。
図22A図22Aは、フィルタサイズが{f1=35、f2=15、f3=15}の場合の加工画像を表わす図である。
図22B図22Bは、図22Aの矩形で表される領域を拡大した図である。
図23A図23Aは、フィルタサイズが{f1=35、f2=1、f3=5}の場合の加工画像を表わす図である。
図23B図23Bは、図23Aの矩形で表される領域を拡大した図である。
図24A図24Aは、フィルタサイズが{f1=35、f2=1、f3=10}の場合の加工画像を表わす図である。
図24B図24Bは、図24Aの矩形で表される領域を拡大した図である。
図25A図25Aは、フィルタサイズが{f1=35、f2=1、f3=15}の場合の加工画像を表わす図である。
図25B図25Bは、図25Aの矩形で表される領域を拡大した図である。
図26A図26Aは、フィルタサイズが{f1=35、f2=1、f3=25}の場合の加工画像を表わす図である。
図26B図26Bは、図26Aの矩形で表される領域を拡大した図である。
図27A図27Aは、フィルタサイズが{f1=35、f2=1、f3=45}の場合の加工画像を表わす図である。
図27B図27Bは、図27Aの矩形で表される領域を拡大した図である。
図28A図28Aは、フィルタサイズが{f1=35、f2=1、f3=55}の場合の加工画像を表わす図である。
図28B図28Bは、図28Aの矩形で表される領域を拡大した図である。
図29図29は、図10の畳み込みニューラルネットワークのフィルタの数およびフィルタのサイズの適切な値および最適な値を表わす図である。
図30図30は、中心位置検出装置70の構成を表わす図である。
図31図31は、指標算出装置80の構成を表わす図である。
図32図32は、素線の断面の中心位置の連結の例を表わす図である。
図33図33は、各素線の軌跡データの例を示す図である。
図34図34は、第1の撚りピッチを説明するための図である。
図35図35は、第2の撚りピッチを説明するための図である。
図36図36は、第3の撚りピッチを説明するための図である。
図37図37は、第1の撚りピッチを説明するための図である。
図38図38は、学習時の動作手順を表わすフローチャートである。
図39図39は、多芯ケーブルの品質評価手順を表わすフローチャートである。
図40図40は、ステップS202の中心位置の検出手順を表わすフローチャートである。
図41図41は、多芯ケーブルの品質評価システム40の機能をソフトウェアを用いて実現する場合の構成を示す図である。
図42図42は、サンプル9および10に係る多芯ケーブルの複数の素線を撚り合わせた導体を製造する装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0012】
(1)本開示の一態様に係る画像生成方法は、丸棒状の素材を複数含む物体または丸棒状の中空を複数含む物体であって、当該物体の長手方向に垂直な横断面の断層画像を取得するステップと、断層画像から断層画像内の素材または中空の横断面の中心の画素が明るく、素材または中空の横断面の径方向に向かって画素が段階的に暗くなるような画像を生成する学習済みモデルを用いて、取得した断層画像から取得した断層画像内の素材または中空の横断面の中心の画素が明るく、素材または中空の横断面の径方向に向かって画素が段階的に暗くなるような画像を生成するステップと、を備える。これによって、複数の素材または中空が接触している場合に、1つの素材または中空に分断しやすい画像を生成することができる。
【0013】
(2)上記(1)の画像生成方法において、学習済みモデルは、3段の畳み込み層を有する畳み込みニューラルネットワークによって構成される。学習能力が高く、かつ無駄のない3段の畳み込み層を有する畳み込みニューラルネットワークによって、学習済みモデルを生成することができる。
【0014】
(3)上記(2)の画像生成方法において、第1段目の畳み込み層のフィルタの一辺のサイズ(カーネルサイズ)は、素材または中空の横断面の径の0.88倍以上かつ2.64倍以下の大きさに相当する画素数である。これによって、第1段の畳込み層による処理能力を適切に設定することができる。
【0015】
(4)上記(2)の画像生成方法において、第3段目の畳み込み層のフィルタの一辺のサイズは、素材または中空の横断面の径の0.59倍以上かつ1.47倍以下の大きさに相当する画素数である。これによって、第3段の畳込み層による処理能力を適切に設定することができる。
【0016】
(5)本開示の一態様に係る多芯ケーブルの品質評価方法は、上記(1)から(4)のいずれか1項に記載された断層画像を生成するステップおよび画像を生成するステップを備え、断層画像を取得するステップは、複数の素線を含む多芯ケーブルの長手方向に垂直な横断面の断層画像を取得するステップを含み、画像を生成するステップは、多芯ケーブルの複数の横断面の断層画像の各々について、断層画像内の素線の横断面の中心の画素が明るく、素線の横断面の径方向に向かって画素が段階的に暗くなるような画像を生成するステップを含む。多芯ケーブルの品質評価方法は、さらに、生成された画像から、素線の横断面の中心位置を検出するステップと、複数の横断面における素線の横断面の中心位置を連結することによって、素線の軌跡を求めるステップと、素線の軌跡に基づいて、素線の撚りピッチを表わす指標を算出し、または複数の素線の軌跡に基づいて、複数の素線が撚り合わされた集合体の撚りピッチを表わす指標を算出するステップと、を備える。これによって、複数の素線が接触している場合に、1つの素線に分断しやすい画像を生成し、素線の中心位置を用いて、撚りピッチを精度よく算出することができる。
【0017】
(6)上記(5)の多芯ケーブルの品質評価方法において、中心位置を検出するステップは、得られた画像を2値化するステップを含む。これによって、1つの素線に分断しやすい画像から1つの素線に適切に分断することができる。
【0018】
(7)上記(5)の多芯ケーブルの品質評価方法は、撚りピッチを表わす指標の統計量を算出するステップを、さらに備える。撚りピッチを表わす統計量を用いて、多芯ケーブルの品質を評価することができる。
【0019】
(8)上記(7)の多芯ケーブルの品質評価方法において、撚りピッチを表わす指標の統計量は、撚りピッチを表わす指標のヒストグラムから算出される頻度の半値幅である。指標の統計量として、撚りピッチのばらつきが多いかどうかに応じて、多芯ケーブルの品質を評価することができる。
【0020】
(9)本開示の一態様に係る被覆導線は、導体部と被覆部とを備える。被覆部は導体部を被覆する。導体部は、複数の素線を撚り合わせて構成されている。導体部は導体を含む。導体は被覆部に隣接している。導体部が延在する方向をZ方向とする。導体において、半値幅が15.5mm以下である。半値幅は、導体のZ方向における撚りピッチのヒストグラムから算出される。
【0021】
(10)上記(9)の被覆導線において、Z方向に対して垂直であり、Z方向に互いに離れた2つの断面を考えた場合に、相対座標系において、2つの断面間における素線の相対位置の変位量に基づいて撚りピッチは算出されてもよい。相対座標形系は、断面における導体の重心を原点としてもよい。
【0022】
(11)上記(10)の被覆導線において、2つの断面間の距離は1mmであってもよい。
【0023】
(12)上記(10)または(11)の被覆導線において、ヒストグラムは、複数の素線のそれぞれにおける相対位置の変位量から作成されてもよい。
【0024】
(13)上記(9)から(12)の被覆導線において、ヒストグラムは、導体においてZ方向における長さが50mmである部分を対象として作成されてもよい。
【0025】
(14)上記(9)から(13)の被覆導線において、導体は、第1外周側導体と第2外周側導体とを含んでもよい。ヒストグラムは、第1外周側導体および第2外周側導体のそれぞれにおける撚りピッチから作成されてもよい。
【0026】
(15)上記(9)から(14)の被覆導線において、導体部は内側導体を含んでもよい。内側導体は被覆部から離れて配置されてもよい。
【0027】
(16)本開示の一態様に係る多芯ケーブルは、上記(9)から(15)のいずれか1項に記載の被覆導線を備えてもよい。
【0028】
[本開示の実施形態の詳細]
<多芯ケーブルの構成>
図1は、本実施の形態に係る多芯ケーブル1の断面図である。図1に示されるように、本開示の形態に係る多芯ケーブル1は、たとえば、車両のABSに用いられるセンサ、あるいは電動パーキングブレーキに接続される多芯ケーブル1であって、主に、複数の被覆導線2と、シース層30を備える。被覆導線2はシース層30によって囲まれている。複数の被覆導線2は、2つの被覆導線2aと、2つの被覆導線2bとから構成される。被覆導線2の数は特に限定されない。多芯ケーブル1は、被覆導線2aおよび被覆導線2bの少なくともいずれかを備えていればよい。被覆導線2aの数は、3以上であってもよく、1でもよい。被覆導線2bの数は、3以上であってもよく、1でもよい。被覆導線2bの数は、0でもよい。
【0029】
ここで、多芯ケーブル1が伸びる方向をZ方向(図1に示されるZ方向)とする。Z方向に対して垂直な方向をX方向とY方向とする。X方向はY方向に対して垂直な方向である。図1に示される断面は、Z方向に対して垂直な面である。
【0030】
<シース層>
シース層30は、2層構造であってもよい。具体的には、シース層30は、外側シース層31と、内側シース層32とを含む。2つの被覆導線2aおよび2つの被覆導線2bは、外側シース層31によって囲まれている。内側シース層32は、外側シース層31の内側に配置されている。具体的には、内側シース層32は、外側シース層31と被覆導線2との間の空間を充填するように、2つの被覆導線2aおよび2つの被覆導線2aの各々の外周を覆っている。
【0031】
内側シース層32の主成分としては、柔軟性を有する合成樹脂であればよい。内側シース層32を構成する材料は、例えばポリエチレンあるいはEVA(Ethylen-Vinyl Acetate)等のポリオレフィン、ポリウレタンエラストマー、およびポリエステルエラストマーであってもよい。
【0032】
外側シース層31の主成分としては、難燃性および耐摩耗性に優れた合成樹脂であればよい。外側シース層31を構成する材料は、例えばポリウレタンであってもよい。
【0033】
図1に示されるように、Z方向における多芯ケーブル1の断面において、外側シース層31の形状は円環状である。外側シース層31の内周面に内側シース層32が接続されている。つまり、内側シース層32の外周32aの形状は、円形である。
【0034】
内側シース層32の外周32aから被覆導線2までの最短距離の下限は、0.3mmが好ましく、0.4mmがより好ましい。一方、内側シース層32の外周32aから被覆導線2までの最短距離の上限は、0.9mmが好ましく、0.8mmがより好ましい。また、内側シース層32の外径の下限としては、6.0mmが好ましく、7.3mmがより好ましい。一方、内側シース層32の外径の上限としては、10mmが好ましく、9.3mmがより好ましい。
【0035】
外側シース層31の厚みは、0.3mm以上0.7mm以下が好ましい。なお、シース層30と被覆導線2aとの間に抑巻部材として、紙等のテープ部材を巻き付けてもよい。
【0036】
<被覆導線>
図2は、本実施の形態に係る多芯ケーブル1における被覆導線2aの断面図である。図3は、本実施の形態に係る多芯ケーブル1における被覆導線2bの断面図である。
【0037】
図2に示されるように、被覆導線2aは、導体部4と被覆部22とを含む。被覆部22は、導体部4を被覆する。導体部4は、複数の素線5を撚り合わせて構成されている。導体部4は、被覆部22に隣接している導体21を含んでいればよく、任意の構成を採用し得る。
【0038】
具体的には、図2に示されるように、導体部4は、外周側導体21aと内側導体21bとを含む。外周側導体21aは、被覆部22に隣接している。内側導体21bは、被覆部22に隣接していない。つまり、内側導体21bは被覆部22から離れて配置されている。
【0039】
外周側導体21aは、第1外周側導体21a1、第2外周側導体21a2、第3外周側導体21a3、第4外周側導体21a4、第5外周側導体21a5、および第6外周側導体21a6を含む。外周側導体21aは内側導体21bを中心に、当該内側導体21bの外周側に配置されている。つまり、第1外周側導体21a1、第2外周側導体21a2、第3外周側導体21a3、第4外周側導体21a4、第5外周側導体21a5、第6外周側導体21a6は、内側導体21bを囲むように、配列の形状が円形となるように配置されている。このように、被覆導線2aは、複数の外周側導体21aおよび内側導体21bを含んでもよい。一方、図3に示されるように、被覆導線2bにおいて、導体部4は、1つの導体21のみから構成されてもよい。
【0040】
被覆部22は、導体部4の外周に積層されることで導体部4を被覆する。図2および図3に示されるように、被覆部22の断面形状は円環状である。被覆部22の厚みとしては、特に限定されないが、例えば0.1mm以上5mm以下である。
【0041】
被覆部22は、絶縁性を有する材料で構成されてればよい。そのため、被覆部22は、合成樹脂を主成分とする組成物により形成されてもよい。絶縁性を有するものであれば特に限定されないが、被覆部22の主成分は、耐屈曲性の観点から、エチレンとαオレフィンとの共重合体が好ましい。被覆部22は、難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤、反射付与剤、隠蔽剤、加工安定剤、および可塑剤等の添加剤を含有していてもよい。また、被覆部22は、上記主成分樹脂以外のその他の樹脂を含有してもよい。
【0042】
被覆部22の25℃から-35℃までの線膨張係数Cと、-35℃での弾性率Eとの積C×E(単位:MPa/Kで)の下限としては、0.01MPa/Kである。一方、積C×Eの上限としては、0.9MPa/Kである。積C×Eの上限としては、0.7MPa/Kが好ましく、0.6MPa/Kがより好ましい。上記積C×Eが上記下限より小さいと、被覆部22の強度等の機械的特性が不十分となるおそれがある。一方、上記積C×Eが上記上限を超えると、低温で被覆部22が変形し難くなる。そのため、当該被覆導線2の低温での耐屈曲性が低下するおそれがある。なお、積C×Eは、αオレフィンの含有量、主成分樹脂の含有割合等により調整することができる。
【0043】
被覆部22の25℃から-35℃までの線膨張係数C(単位:/K)の下限としては、1×10-5/Kが好ましく、1×10-4/Kがより好ましい。一方、被覆部22の線膨張係数Cの上限としては、2.5×10-4/Kが好ましく、2×10-4/Kがより好ましい。被覆部22の線膨張係数Cが上記下限より小さいと、被覆部22の強度等の機械的特性が不十分となるおそれがある。一方、被覆部22の線膨張係数Cが上記上限を超えると、低温で被覆部22が変形し難くなる。そのため、当該被覆導線2aの低温での耐屈曲性が低下するおそれがある。
【0044】
被覆部22の-35℃での弾性率E(単位:MPa)の下限としては、1000MPaが好ましく、2000MPaがより好ましい。一方、被覆部22の弾性率Eの上限としては、3500MPaが好ましく、3000MPaがより好ましい。被覆部22の弾性率Eが上記下限より小さいと、被覆部22の強度等の機械的特性が不十分となるおそれがある。一方、被覆部22の弾性率Eが上記上限を超えると、低温で被覆部22が変形し難くなるため、当該被覆導線2aの低温での耐屈曲性が低下するおそれがある。
【0045】
線膨張係数Cは、JIS-K7244-4(1999)に記載の動的機械特性の試験方法に準拠して測定される線膨張率である。線膨張係数Cは、粘弾性測定装置(例えばアイティー計測制御社製「DVA-220」)を用いて、温度変化に対する薄板の寸法変化から算出される値である。弾性率Eは、JIS-K7244-4(1999)に記載の動的機械特性の試験方法に準拠して測定される値である。弾性率Eは、粘弾性測定装置(例えばアイティー計測制御社製「DVA-220」)を用いて、測定した貯蔵弾性率の値である。
【0046】
図4は、本実施の形態に係る多芯ケーブル1における導体部4の断面図である。図4に示されるように、導体部4は、複数の素線5を一定のピッチ(撚りピッチP)で撚り合せて構成される。素線5は、導電性を有すればよい。そのため、素線5を構成する材料は、特に限定されないが、例えば銅線、銅合金線、アルミニウム線、アルミニウム合金線のいずれかであってもよい。
【0047】
本実施の形態に係る1つの導体部4に含まれる素線5の数は72本である。被覆導線2aは6つの外周側導体21aおよび1つの内側導体21bを含む。そのため、被覆導線2aは504本の素線5を含む。素線5の数は多芯ケーブル1の用途や素線5の径などにあわせて適宜変更されてもよい。1つの被覆導線2に含まれる素線5の数は、下限として、196本が好ましく、294本がより好ましい。一方、1つの被覆導線2に含まれる素線5の数は、上限として、2450本が好ましく、2000本がより好ましい。
【0048】
素線5の径は、下限として、40μmが好ましく、50μmがより好ましく、60μmがさらに好ましい。一方、素線5の径の上限として、100μmが好ましく、90μmがより好ましい。
【0049】
Z方向に垂直な方向における導体部4の断面において、複数の素線5間の空隙領域の占有面積率の下限としては、5%であり、6%がより好ましく、8%がさらに好ましい。一方、上記空隙領域の占有面積率の上限としては、20%であり、19%がより好ましく、18%がさらに好ましい。上記空隙領域の占有面積率が上記下限より小さいと、多芯ケーブル1の屈曲時に素線5に大きな曲げ応力が局所的に加わり易くなる。そのため、多芯ケーブル1の耐屈曲性が低下するおそれがある。一方、上記空隙領域の占有面積率が上記上限を超えると、被覆部22の押出成形性が低下する。その結果、当該被覆導線2の真円度および被覆部22と導体部4との密着力が低下するおそれがある。つまり、被覆導線2の端末において導体部4を露出させた際、導体部4が被覆部22に対し動き易くなる。その結果、端末加工性が低下するおそれがある。また、当該被覆導線2が変形し易くなるおそれ、および水が浸入し易くなるおそれがある。
【0050】
なお、素線5間の空隙領域の占有面積は、導体部4と、当該導体部4を被覆する被覆部22とを含む被覆導線2の断面の写真を用い、被覆部22で囲まれる部分の面積(被覆部22および導体部4間の隙間と、素線5間の空隙とを含む導体部4の断面積)から、素線5の断面積の総和を減算した値である。具体的な手順としては、例えば横断面の写真の濃淡を素線部分と空隙部分とで二値化し、空隙部分の面積を求める画像処理により空隙領域の占有面積を求めることができる。この画像処理は、例えば「Paint shop pro」等のソフトウェアにより画像の2階調化を行い、素線5境界が正しく区別されるよう目視確認で閾値を設定し、ヒストグラムで二値化した領域それぞれの面積割合を求めることで行える。
【0051】
ここで、撚りピッチPの算出方法について説明する。
図5は、素線5の撚りピッチPの算出法を説明する導体部の概略断面図である。ここでは、導体部4に含まれる任意の素線5の撚りピッチPの算出法について説明する。まず、後述する多芯ケーブル1の品質評価システム40によって、Z方向において任意の位置における断面Aでの、複数の素線5のそれぞれに関して中心位置O01A~072Aを特定する。断面Aでの素線5の中心位置O01A~072Aの座標は、断面Aでの、導体部4の中心位置OAを原点とした相対座標系VAにおける相対位置として表現される。導体部4の中心位置OAは、当該導体部4に含まれる複数の素線5の各々の中心位置O01A~O72Aから決定される。具体的には、複数の素線5の各々の中心位置O01A~O72Aを、断面Aにおける複数の素線5の各々の重心位置とみなす。複数の素線5それぞれが等しい断面積を有していると仮定し、複数の素線5の重心位置に基づいて複数の素線5全体での重心位置を、導体部4の重心位置として求める。この断面Aにおける導体部4の重心位置を、断面Aにおける導体部4の中心位置OAとみなす。このように特定された導体部4の中心位置0Aを原点とした相対座標系VAを用いて、複数の素線5の各々の中心位置の座標を特定する。このようにして、Z方向において任意の位置における断面での、複数の素線5の各々の中心位置の座標を特定する。
【0052】
次に、断面Aでの素線5の中心位置の特定の方法と同様の方法で、断面Bでの、複数の素線5の中心位置O01B~072Bを特定する。断面Bは、Z方向において断面Aと隣接する(つまり断面Aと異なる)位置に配置された断面である。断面Bでの素線5の中心位置O01B~072Bの座標は、断面Bでの、導体部4の中心位置OBを原点とした相対座標系VBにおける相対位置として表現される。導体部4の中心位置OBは、断面Aの場合と同様に、当該導体部4に含まれる複数の素線5の各々の中心位置O01B~O72Bから決定される。
【0053】
図5では、相対座標系VBの原点(中心位置OB)が相対座標系VAの原点(中心位置OA)に一致するように、相対座標系VBが平行移動したと仮定して、断面Aにおける1つの素線5の中心位置001Aと、断面Bにおける1つの素線5の中心位置001Bとが表示されている。つまり、図5では、断面Aにおける素線5の中心位置O01Aと断面Bにおける素線5の中心位置O01Bとを仮想的に同一平面上に示している。
【0054】
図5に示されるように、導体部4の中心位置OA(OB)を中心として、素線5の周方向の変位量dθ1が特定される。素線5の撚りピッチPは、P=l×360/dθで算出される。lは、Z方向における断面Aと断面Bとの間の距離である。このようにして、Z方向に互いに離れた2つの断面を考えた場合に、断面における導体部4の重心を原点とした相対座標系において、2つの断面間における素線5の相対位置の変位量dθ1に基づいて、当該2つの断面間に位置する素線5の部分に関する撚りピッチPは算出される。つまり、1本の素線5について、Z方向において短い間隔で複数の断面を設定することで、当該複数の断面の内隣接する2つの断面間に位置する素線5の部分それぞれについての撚りピッチP(局所的な撚りピッチP)を特定できる。
【0055】
次に、Z方向における撚りピッチPのヒストグラムについて説明する。
図6は、導体部4の撚りピッチPのヒストグラムを説明する概略分布図である。図6において、横軸が、上述した撚りピッチP(単位:mm)を示し、縦軸が度数(単位:個)を示す。撚りピッチPの級数範囲は、たとえば、1mm間隔に設定されてもよい。また、撚りピッチPの級数範囲の下限値を当該撚りピッチPの階級値としてもよい。具体的には、0mm以上1mm未満における撚りピッチPの級数範囲において、当該撚りピッチPの階級値を0mmとしてもよい。1mm以上2mm未満における撚りピッチPの級数範囲において、当該撚りピッチPの階級値を1mmとしてもよい。2mm以上3mm未満における撚りピッチPの級数範囲において、当該ピッチPの階級値を2mmとしてもよい。なお、度数は後述する算出された撚りピッチPのデータ点数に依存する。図6に示されるように、F1は撚りピッチPの最頻値における度数を示す。F2は、度数F1の半分の値に相当する度数である。隣合う2つの撚りピッチPの階級値における度数を内挿することで、度数F2に対応する撚りピッチPは算出されてもよい。たとえば、度数F2が50個に相当し、階級値が1mmにおける度数が40個であり、階級値が2mmにおける度数が70個である場合、度数F2が50個に対応する撚りピッチPは、(小数点第2位を四捨五入して)1.3mmと算出される。このようにして算出される度数F2に対応する撚りピッチPは2点ある。半値幅Wは、この2点の撚りピッチPの差である。このようにして、半値幅Wが算出される。
【0056】
撚りピッチPのヒストグラムを作成するためのデータ点数は、2つの断面間の距離と、測定対象とする導体21のZ方向における長さとに基づいて決定される。
【0057】
2つの断面間の距離lが1mmである時、ヒストグラムは、たとえば、導体部4においてZ方向における長さが50mmである部分を対象として算出されてもよい。この時、1つの素線5における撚りピッチPのデータ点数は、50個である。Z方向における素線5の計測対象領域を広げたい時、対象とするZ方向における導体部4の長さを増加してもよい。ヒストグラムは、導体部4においてZ方向における長さが100mmである部分を対象として算出されてもよい。この時、1つの素線5における撚りピッチPのデータ点数は、100個である。このように、データ点数を増加すれば、Z方向における撚りピッチPのばらつき具合をより正確に反映したヒストグラムを作成することができる。
【0058】
2つの断面間の距離lを小さくしてもよい。たとえば、対象とするZ方向における導体部4の長さが50mmである時、2つの断面間の距離lは0.1mmであってもよい。この場合、1つの素線5における撚りピッチPのデータ点数は、500個である。このように、データ点数を増加させれば、撚りピッチPのZ方向における局所的なばらつきをより高い精度で反映したヒストグラムを作成することができる。つまり、Z方向においてより細かい導体部4の部分の撚りピッチPがヒストグラムに反映される。このようにして、2つの断面間の距離lおよびZ方向における導体部4の長さを調整して、任意のデータ点数を設定してもよい。
【0059】
Z方向におけるばらつきだけでなく、複数の素線5間の撚りピッチPのばらつきがヒストグラムに反映されてもよい。具体的には、ヒストグラムは、複数の素線5のそれぞれにおける相対位置の変位量dθ1~dθ72から算出されてもよい。1つの導体部4には、複数の素線5が含まれている。そのため、複数の素線5の各々について、局所的な撚りピッチPを算出してもよい。データ点数に複数の素線5の各々の撚りピッチPを含めれば、ヒストグラムは1つの導体部4に含まれる複数の素線5間の撚りピッチPのばらつきを反映することができる。
【0060】
被覆導線2aに複数の導体部4が含まれている場合に、複数の導体部4のそれぞれに含まれる素線5の撚りピッチPのばらつきがヒストグラムに反映されてもよい。具体的には、第1外周側導体21a1、第2外周側導体21a2、第3外周側導体21a3、第4外周側導体21a4、第5外周側導体21a5、および第6外周側導体21a6の各々には、複数の素線5が含まれている。そのため、各々の導体部4に含まれている素線5の撚りピッチPを各々算出してもよい。データ点数に各々の導体部4に含まれる素線5の撚りピッチPを含めれば、ヒストグラムは複数の導体部4に含まれる素線5の撚りピッチPのばらつきを反映することができる。このようにすれば、複数の導体部4間における素線5の撚りピッチPのばらつきも反映したヒストグラムを作成できる。
【0061】
ここで、本実施の形態1に係る被覆導線2の特徴は、導体21における素線5の撚りピッチPのヒストグラムから算出された半値幅Wが、15.5mm以下である点である。被覆導線2において、局所的に撚りピッチPが大きい領域の発生頻度が少ないほど、当該被覆導線2の耐屈曲性が改善する。特に、撚りピッチPの半値幅Wが小さいということは、撚りピッチPのばらつきが小さいことを意味する。つまり、素線5の撚りピッチPの半値幅Wが小さければ、素線5の撚りピッチPが局所的に大きくなっている領域の発生頻度が少なくなる。
【0062】
また、当該多芯ケーブル1が屈曲した際に、内側導体21bよりも外周側導体21aに大きな曲げ応力が加わる。そのため、内側導体21bにおける素線5の撚りピッチPの半値幅Wよりも、外周側導体21aにおける素線5の撚りピッチPの半値幅Wの方が、多芯ケーブル1の耐屈曲性に対する影響が大きい。
【0063】
(多芯ケーブルの製造方法)
図7Aは、本実施の形態に係る多芯ケーブル1の複数の素線5を撚り合わせた導体21を製造する装置を示す概略図である。複数の素線5を撚り合わせた導体21は、図7Aに示されるボビン固定方式の製造装置を用いて製造することができる。図7Aに示されるように、導体21を製造する装置は、複数のローラ100~105と、複数のサプライリール200と、目板300と、ダイス400と、アーム600と、巻き取り部700とを主に備える。複数のサプライリール200は、床に固定されるように設置されている。
【0064】
サプライリール200は、素線5が巻き付けられたボビンである。床に固定されたサプライリール200が自転することで、素線5が供給される。図7Aに示されるように、サプライリール200に巻き付けられた複数の素線5は、ローラ100~105を介して目板300に供給される。目板300の平面形状は、たとえば、円形である。目板300は、複数のガイド孔(図示せず)を有する。ガイド孔は、撚り合わせ対象となる複数の素線5の数に合った数が形成されている。複数のガイド孔は、目板300の中心周りに、好ましくは均等間隔で、分散するように形成されている。そして、複数の素線5が、各ガイド孔を通ることで目板300の中心周りに分散した状態で、ダイス400に向けて送給されるようになっている。
【0065】
その後、目板300により分散された素線5はダイス400に集合される。ダイス400に集合した複数の素線5は、撚り付与ローラ500によって撚り合わされる。撚り合わされた素線5は、アーム600に沿って巻き取り部700に供給される。アーム600は、回転方向R(図7Aに図示)に回転駆動する。その後、撚り合わされた素線5は巻き取り部700に巻回収容される。このようにして、複数の素線5が撚り合わされた導体21が製造される。
【0066】
撚りピッチPの半値幅Wは、パスライン比Lによって変更され得る。撚り付与ローラ500から、複数のサプライリール200内最も近いサプライリール201までの距離をパスラインL1とする。撚り付与ローラ500から、複数のサプライリール200の内、最も遠いサプライリール203までの距離をパスラインL2とする。パスライン比Lは、L2/L1によって算出される。パスラインL1およびパスラインL2は、サプライリール201、203から撚り付与ローラ500までの素線5の移送経路に沿った素線5の長さに相当する。撚り付与ローラ500(撚り点)の位置を変更することで、パスライン比は調整可能である。撚り付与ローラ500に対する複数のサプライリール200の相対的な位置およびローラ101~105の配置を調整することで、パスライン比を小さくしてもよい。その結果、後述するように素線5の撚りピッチPの半値幅Wを小さくすることができる。
【0067】
図7Bは、本実施の形態に係る多芯ケーブル1の製造装置を示す概略図である。多芯ケーブル1は、図7Bに示される多芯ケーブル1の製造装置を用いて製造することができる。多芯ケーブル1の製造装置は、複数の導体サプライリール801と、撚り合わせ部802と、内側シース層被覆部803と、貯留部803aと、外側シース層被覆部804と、貯留部804aと、冷却部805と、巻き取り部806とを主に備える。
【0068】
導体サプライリール801は、たとえば導体21が巻き付けられたボビンである。当該導体サプライリール801は、図7Aで示された巻き取り部700であってもよい。複数の導体サプライリール801の各々に巻き付けられた導体21が、撚り合わせ部802に供給される。撚り合わせ部802で複数の導体21を撚り合せることで、導体部4が形成される。
【0069】
導体部4は、内側シース層被覆部803に供給される。内側シース層被覆部803は、貯留部803aに貯留されている樹脂を導体部4の外側に押し出す。このようにして、導体部4の外側に内側シース層32が形成される。
【0070】
内側シース層32が形成された導体部4は、外側シース層被覆部804に供給される。外側シース層被覆部804は、貯留部804aに貯留されている樹脂を内側シース層32の外側に押し出す。このようにして、内側シース層32の外側に外側シース層31が形成される。
【0071】
外側シース層32が形成された導体部4は、冷却部805に供給される。供給された導体部4が冷却部805にて冷却されることで、内側シース層32および外側シース層31から形成されるシース層30が硬化する。このようにして、多芯ケーブル1が製造される。当該多芯ケーブル1は、巻き取り部806に供給されて、巻き取り部806に巻回収容される。
【0072】
<作用効果>
本開示に従った被覆導線2は、導体部4と被覆部22とを備える。被覆部22は導体部4を被覆する。導体部4は、複数の素線5を撚り合わせて構成されている。導体部4は導体21を含む。導体21は被覆部22に隣接している。導体部4が延在する方向をZ方向とする。導体21において、半値幅Wが15.5mm以下である。半値幅Wは、導体のZ方向における撚りピッチPのヒストグラムから算出される。
【0073】
このようにすれば、素線5において撚りピッチPが局所的に大きい領域の発生頻度を少なくできる。そのため、耐屈曲性が改善された被覆導線2が得られる。当該被覆導線2を備えた多芯ケーブル1も同様に、耐屈曲性が改善され得る。
【0074】
上記被覆導線2において、Z方向に対して垂直であり、Z方向に互いに離れた2つの断面を考えた場合に、相対座標系において、2つの断面間における素線5の相対位置の変位量に基づいて撚りピッチPは算出されてもよい。相対座標形系は、断面における導体の重心(導体部4の中心位置OA、OB)を原点としてもよい。このようにすれば、被覆導線2に含まれる素線5の局所的な撚りピッチPを算出することができる。
【0075】
上記被覆導線2において、2つの断面間の距離lは1mmであってもよい。このようにすれば、十分なデータ点数に基づいて撚りピッチPのヒストグラムを作成することができる。また、Z方向においてより細かい導体21の部分の撚りピッチPがヒストグラムに反映される。
【0076】
上記被覆導線2において、ヒストグラムは、導体21においてZ方向における長さが50mmである部分を対象として作成されてもよい。このようにすれば、十分なデータ点数に基づいて撚りピッチPのヒストグラムを作成することができる。
【0077】
上記被覆導線2において、ヒストグラムは、複数の素線5のそれぞれにおける相対位置の変位量dθから作成されてもよい。このようにすれば、1本の素線5でのZ方向における撚りピッチPのばらつきだけでなく、1つの導体21に含まれる複数の素線5間の撚りピッチPのばらつきを、ヒストグラムに反映することができる。
【0078】
上記被覆導線2aにおいて、導体21は、第1外周側導体21a1と第2外周側導体21a2とを含んでもよい。ヒストグラムは、第1外周側導体21a1および第2外周側導体21a2のそれぞれにおける撚りピッチPから作成されてもよい。このようにすれば、複数の導体21間における素線5の撚りピッチPのばらつきを含めたヒストグラムを作成することができる。
【0079】
上記被覆導線2aにおいて、導体部4は内側導体21bを含んでもよい。内側導体21bは被覆部22から離れて配置されてもよい。このようにすれば、外周側導体21aにおける素線5の撚りピッチPと、内側導体21bにおける素線5の撚りピッチPとをヒストグラムに反映させることができる。
【0080】
本開示に従った多芯ケーブル1は、上記被覆導線2のいずれかの被覆導線2を備えてもよい。このようにすれば、耐屈曲性が改善された多芯ケーブル1を得ることができる。
【0081】
上記のような本実施の形態に係る被覆導線2aの効果を検証するために以下のような試験を実施した。具体的には、図1に示した構成の多芯ケーブルのサンプルについて、半値幅Wと、引抜力、耐屈曲性、およびスパーク異常点頻度との相関を評価した。
【0082】
<試験対象>
表1は、サンプル1からサンプル10までの被覆導線2aを含んだ多芯ケーブル1の構成、および各サンプルについての引抜力、耐屈曲性、およびスパーク異常点頻度を示す。サンプル1からサンプル10の多芯ケーブル1の具体的な構成について説明する。サンプル1からサンプル8の多芯ケーブル1は、2つの被覆導線2a、2つの被覆導線2b、およびシース層30から構成される。2つの被覆導線2aと2つの被覆導線2bとを撚り合わせて芯線を形成する。芯線の周囲にシース層30を押出により被覆する。シース層30は、外側シース層31と、内側シース層32とを含む。内側シース層32の主成分を構成する材料は、架橋ポリオレフィンである。内側シース層32の最小厚さは0.45mmである。内側シース層32の外径は7.4mmである。外側シース層31の主成分を構成する材料は、難燃性の架橋ポリウレタンである。外側シース層31の厚さは0.5mmである。外側シース層31の外径は8.4mmである。なお、シース層30の樹脂成分の架橋は、180kGyの電子線照射により行った。被覆導線2aは、導体部4と被覆部22とを有する。導体部4は6本の外周側導体21a、および1本の内側導体21bを撚り合わせて構成されている。導体部4の外径は2.4mmである。被覆部22は、導体部4の外周に絶縁層形成組織物を押出して形成される。被覆部22の外径は3mmである。なお、被覆部22に60kGyで電子線照射を行い、樹脂成分を架橋させた。導体部4は、6本の外周側導体21a、および1本の内側導体21bの各々は、72本の素線5を撚り合わせて構成されている。素線5の径は、80μmである。被覆導線2bは、導体21と被覆部22とから構成されている。導体21の外径は0.72mmである。被覆部22は、導体21の外周に架橋難燃ポリオレフィンを押出して形成される。被覆部22の外径は1.45mmである。導体21は、60本の素線5を撚り合わせて構成されている。素線5の径は、80μmである。なお、サンプル1からサンプル8の多芯ケーブル1は、図7Aに示されたボビン固定方式の製造装置を用いて製造された導体21から形成された多芯ケーブル1である。サンプル9およびサンプル10の多芯ケーブル1は、図42に示されたボビン回転方式の製造装置を用いて製造された導体21から形成された多芯ケーブル1である。
【0083】
図42は、サンプル9および10に係る多芯ケーブル1の複数の素線5を撚り合わせた導体21を製造する装置を示す概略図である。サンプル9およびサンプル10の多芯ケーブル1は、図42に示されるボビン回転方式の製造装置を用いて製造された導体21から形成することができる。図42に示されるように、サンプル9およびサンプル10の多芯ケーブル1の複数の素線5を撚り合わせた導体21を製造する装置は、複数のサプライリール210と、目板310と、ダイス410と、クレードル211とを主に備える。図42に示されているように、複数のサプライリール210は、中心軸A1の円周上に配置されるようにクレードル211に固定されている。
【0084】
サプライリール210は、素線5が巻き付けられたボビンである。クレードル211は、回転軸A1を中心として自転する。クレードル211に固定されたサプライリール210が中心軸A1を中心として公転することで、素線5が供給される。図42に示されるように、サプライリール210に巻き付けられた複数の素線5は、目板310を介して、ダイス410に向けて供給される。目板300は、クレードル211と同期して回転する。複数の素線5はダイス410に集合されて撚り合わされる。
【0085】
図42に示されているように、ボビン回転方式の製造装置においてパスラインはサプライリール210からダイス410までの距離L10である。複数のサプライリール210は、中心軸A1の円周上に配置されている。そのため、複数のサプライリール210の各々からダイス410までの距離L10は、互いに等しい。そのため、パスライン比Lは1となる。なお、サンプル9は、特開2006-328603号公報にて開示された方式と実質的に同様の方式で製造された多芯ケーブル1である。サンプル10は、特開平4-075733号公報にて開示された方式と実質的に同様の方式で製造された多芯ケーブル1である。
【0086】
【表1】
【0087】
表1に示されるように、試験対象は、サンプル1からサンプル10までの10種類の各々の被覆導線2aを含んだ多芯ケーブル1である。サンプル1,2,3,4,9,10は比較例である。サンプル5からサンプル8は実施例である。サンプル1,2,3,4,9,10の被覆導線2aにおける外周側導体21aの撚りピッチPの半値幅Wは、16mm以上である。特に、ボビン回転方式の製造装置で製造されたサンプル9およびサンプル10の被覆導線2aにおける外周側導体21aの撚りピッチPの半値幅Wは、18mm以上である。一方、サンプル5からサンプル8までに係る被覆導線2aにおける外周側導体21aの撚りピッチPの半値幅Wは、15.5mm以下である。
【0088】
図42に示されているようなボビン回転方式の製造装置で多芯ケーブル1の複数の素線5を撚り合わせた導体21を製造する際、パスライン比Lが1であっても公転するボビンの動きに伴い、素線5に遠心力がかかり線振れが発生する。一方、図7Aに示されているようなボビン固定方式の製造装置で多芯ケーブル1の複数の素線5を撚り合わせた導体21を製造する際、ボビンは公転しないため、素線5に線振れが発生しない。そのため、ボビン固定方式の製造装置で製造されたサンプル1から4までの外周側導体21aの撚りピッチPの半値幅Wは、ボビン回転方式の製造装置で製造されたサンプル9および10の外周側導体21aの撚りピッチPの半値幅Wより小さくなる。
【0089】
表1に示されるように、サンプル1からサンプル10までの被覆導線2aにおける撚りピッチPの中央値は、26.0以上26.5以下である。つまり、サンプル1からサンプル10までの被覆導線2aにおける撚りピッチPの中央値において、それぞれ大きな差はない。なお、撚りピッチPの中央値は、ヒストグラムを算出するときのデータ点数の中で、データを小さい順に並べた時にちょうど真ん中に来る撚りピッチPの値を示す。なお、データ点数が偶数の時は、中央値は中央順位の2点の値の平均値となる。
【0090】
サンプル1からサンプル10までにおける被覆導線2aにおいて、被覆部22の線膨張係数Cは、2.0×10-4/Kである。サンプル1からサンプル10までにおける被覆導線2aにおいて、被覆部22の弾性率Eは、2800MPaである。つまり、サンプル1からサンプル10までにおける被覆導線2aにおいて、積C×Eはそれぞれ0.56MPa/Kである。
【0091】
<試験方法>
被覆部22の引抜力の測定方法について説明する。サンプル1からサンプル10までにおける被覆導線2aにおいて、被覆部22をZ方向に50mm残して除去し導体部4を露出した。次に、内径が導体部4の径より大きく、被覆部22の外径よりも小さい穴の開いた金属板(厚さ5mm)を準備した。当該金属板の穴に導体部4を通し、金属板を固定して導体21を200mm/分の速度で引き上げた。このとき、被覆部22は金属板に引っかかって引き上げられず、導体21のみが被覆部22から引き抜かれる。50mmの長さの被覆部22から50mmの長さの導体21を引き抜く時の力を測定し、その最大値を引抜力とした。その結果を表1に示す。なお、引抜力については、20N以上であることが好ましい。
【0092】
次に、多芯ケーブル1の屈曲回数の測定方法について説明する。多芯ケーブル1の耐屈曲性は屈曲回数によって評価する。具体的には、水平かつ互いに平行に配置された直径60mmの2本のマンドレルを準備した。その後、2本のマンドレル間にサンプル1からサンプル8までの多芯ケーブル1を鉛直方向に通す。多芯ケーブル1の上端側の部分が一方のマンドレルの上側に当接するよう、多芯ケーブル1を水平方向に90°屈曲させる。その後、他方のマンドレルの上側に多芯ケーブル1の上端側の部分が当接するよう、多芯ケーブル1を逆向きに90°屈曲させる。このような動作を繰り返した。なお、試験条件としては、多芯ケーブル1の下端に下向きに2kgの荷重を加え、温度を-30℃、屈曲回数速度を60回/分とした。この試験において、多芯ケーブル1が断線する(通電できなくなった状態になる)までの屈曲回数を計測した。その結果を表1に示す。なお、屈曲回数は、27000回以上であることが好ましい。
【0093】
次に、スパークテストによるスパーク異常点頻度の測定方法について説明する。導体部4の外周に被覆部22を形成する押出工程時に、スパークテストは実施される。スパーク異常点頻度は、被覆導線2aの1Mm(メガメートル)あたりに発生するピンホールおよび導体露出部の検出回数である。スパークテストは、Clinton社製のスパークテスター(HB15F)を用いた。スパークテスターの設定電圧は、5kVである。なお、スパーク異常点頻度は、0.1回/Mm以下であることが好ましい。
【0094】
<評価>
空隙率が4%であるサンプル1,3,5,7,9,10において、被覆部22の引抜力は、70Nである。空隙率が20%であるサンプル2,4,6,8において、被覆部22の引抜力は、20Nである。つまり、空隙率が小さいほど、被覆部22の引抜力が小さいことがわかる。つまり、前述の通り、空隙率が大きいと被覆部22と導体部4との密着力が低下していることがわかる。なお、サンプル1からサンプル10における被覆部22の引抜力は、いずれも20N以上である。
【0095】
表1に示されるように、サンプル2における屈曲回数は、サンプル1における屈曲回数よりも大きい。サンプル2における半値幅Wはサンプル1における半値幅Wと同じである。一方、サンプル2における空隙率はサンプル1における空隙率より大きい。この結果より、導電部の空隙率が小さければ、屈曲回数が大きいことが分かる。これは、半値幅Wが同じで、空隙率が異なるサンプル同士を比較したときに、上記の結果になることが表1より分かる。たとえば、サンプル3とサンプル4との比較、サンプル5とサンプル6との比較、およびサンプル7とサンプル8との比較により、上記の結果が示されている。
【0096】
同様の観点から、サンプル2におけるスパーク異常点頻度は、サンプル1におけるスパーク異常点頻度よりもわずかに大きい。これは、半値幅Wが同じで、空隙率が異なるサンプル同士を比較したときに、上記の結果になることが表1より分かる。
【0097】
表1に示されるように、サンプル5における屈曲回数は、サンプル1における屈曲回数よりも大きい。サンプル5における空隙率はサンプル1における空隙率と同じである。一方、サンプル5における半値幅Wはサンプル1における半値幅Wより小さい。この結果より、半値幅Wが小さければ、屈曲回数が大きいことが分かる。つまり、空隙率が同じで、半値幅Wが異なるサンプルを比較したときに、上記の結果になることが表1より分かる。たとえば、サンプル2とサンプル6との比較、サンプル3とサンプル7との比較、およびサンプル4とサンプル8との比較により上記の結果が示されている。特に、実施例であるサンプル5からサンプル8における屈曲回数は、いずれも27000回以上である。なお、ボビン回転方式の製造装置で製造されたサンプル9およびサンプル10における屈曲回数は、いずれも5000回以下である。これは、ボビン回転方式の製造装置で製造されたサンプル9および10における半値幅Wが大きいためである。
【0098】
表1に示されるように、サンプル5におけるスパーク異常点頻度は、サンプル1におけるスパーク異常点頻度よりも小さい。サンプル5における空隙率はサンプル1における空隙率と同じである。一方、サンプル5における半値幅Wはサンプル1における半値幅Wより小さい。この結果より、半値幅Wが小さければ、スパーク異常点頻度が小さいことが分かる。つまり、空隙率が同じで、半値幅Wが異なるサンプルを比較したときに、上記の結果になることが表1より分かる。たとえば、サンプル2とサンプル6との比較、サンプル3とサンプル7との比較、およびサンプル4とサンプル8との比較により、上記の結果が示されている。特に、実施例であるサンプル5からサンプル8におけるスパーク異常点頻度は、いずれも0.1回/Mm以下である。一方、比較例であるサンプル1,2,3,4,9,10におけるスパーク異常点頻度は、いずれも0.1回/Mm超である。特に、ボビン回転方式の製造装置で製造されたサンプル9およびサンプル10におけるスパーク異常点頻度は、いずれも1.0回/Mm超えである。これは、ボビン回転方式の製造装置で製造されたサンプル9および10における半値幅Wが大きいためである。
【0099】
以上の結果より、ボビン回転方式の製造装置で製造された導体21から形成される多芯ケーブル1よりも、ボビン固定方式の製造装置で製造された導体21から形成される多芯ケーブル1の方が、外周側導体21aの撚りピッチPの半値幅Wが小さくなる。
【0100】
また、半値幅Wが小さい程、屈曲回数は小さくなり、特に、半値幅Wが15.5mm以下であれば、屈曲回数は27000回以上となる。つまり、半値幅Wが小さいと、耐屈曲性が改善される。
【0101】
また、半値幅Wが小さい程、スパーク異常点頻度は小さくなり、特に、半値幅Wが15.5mm以下であれば、スパーク異常点頻度は0.1回/Mm以下となる。つまり、半値幅Wが小さいと、被覆導線2aにおいて被覆部22のピンホールの発生が抑制される。
【0102】
また、空隙率が小さい程、屈曲回数は大きくなる。つまり、空隙率が小さいと、耐屈曲性が改善される。同様に、空隙率が小さい程、スパーク異常点頻度は小さくなる。つまり、空隙率が小さいと、被覆導線2aにおいて被覆部22のピンホールの発生が抑制される。
【0103】
図8を参照して、多芯ケーブルの品質評価システム40の構成を説明する。
多芯ケーブルの品質評価システム40は、加工画像生成装置50と、学習装置60と、学習済みモデル記憶装置41と、中心位置検出装置70と、指標算出装置80とを備える。
【0104】
学習装置60は、複数の素線を含む多芯ケーブルの長手方向に垂直な横断面の断層画像から断層画像の加工画像を生成する学習済みモデルを生成する。断層画像の加工画像は、断層画像内の素線の中心の画素が明るく、素線の横断面の径方向に向かって画素が段階的に暗くなるような画像である。
【0105】
加工画像生成装置50は、学習済みモデルを用いて、取得した断層画像から加工画像を生成する。
学習済みモデル記憶装置41は、学習済みモデルを記憶する。
中心位置検出装置70は、加工画像に含まれる素線の中心位置を検出する。
指標算出装置80は、複数の加工画像の素線の中心位置から得られる素線の軌跡に基づいて、素線の撚りピッチを表わす指標を算出する。
【0106】
図9を参照して、学習装置60の構成を説明する。
学習装置60は、データ取得部61と、学習用データ生成部62と、モデル生成部63とを備える。
データ取得部61は、複数の素線を含む多芯ケーブルの長手方向に垂直な横断面の断層画像を取得する。
学習用データ生成部62は、ユーザの操作に基づいて、断層画像から断層画像内の各素線の中心の画素が明るく、各素線の横断面の径方向に向かって画素が段階的に暗くなるような加工画像を生成する。学習用データ生成部62は、1つの断層画像を入力データとし、その断層画像から生成した加工画像を教師データとする学習用データを生成する。学習用データ生成部62は、複数の断層画像あるいは断層画像の一部を用いることによって、複数の学習用データを生成する。具体的には、ユーザは、断層画像を見ながら、断層画像の内の各素線の位置に一定の直径の円を配置する。学習用データ生成部62は、配置された各円について、円の中心が最も明るく(画素値が最も高く)、素線の径方向に沿って、段階的に暗くなり、円周上で最も暗く(画素値が0)なるような加工画像を生成する。加工画像の画素値は、円の画素値のみからなり、元の断層画像の画素値は含まれない。
【0107】
本実施の形態のような加工画像でなく、円の全ての領域で一定の画素値となる画像を教師データとすると、後述の2値化処理で、接触した2つの素線を切断できないことがある。一方、素線の中心の1点だけが一定の画素値となる画像を教師データとすると、学習が困難となる。なぜなら、教師データとの誤差が小さい、すべての画素値が0となるような画像を生成するように学習が行われる可能性があるからである。
【0108】
モデル生成部63は、複数個の学習用データを用いて、断層画像から断層画像内の素線の横断面の中心の画素が明るく、素線の横断面の径方向に向かって画素が段階的に暗くなるような加工画像を生成する学習済みモデルを生成する。具体的には、モデル生成部63は、図10のニューラルネットワークの第1段の畳込み層CV1に入力データを入力し、第3段の畳込み層CV3から出力されるデータと教師データとの誤差の2乗和が小さくなるように、フィルタFL1,FL2,FL3の係数を学習する。モデル生成部63は、生成した学習済みモデルを学習済みモデル記憶装置41に記憶する。
【0109】
図11を参照して、加工画像生成装置50の構成を説明する。
加工画像生成装置50は、データ取得部51と、画像生成部52とを備える。
データ取得部51は、複数の素線を含む多芯ケーブルの長手方向に垂直な横断面の断層画像を取得する。
画像生成部52は、学習済みモデル記憶装置41に記憶されている学習済みモデルを用いて、取得した断層画像から、断層画像内の各素線の横断面の中心の画素が明るく、各素線の横断面の径方向に向かって画素が段階的に暗くなるような加工画像を生成する。具体的には、画像生成部52は、学習済みの図10のニューラルネットワークの第1段の畳込み層CV1に断層画像を入力し、第3段の畳込み層CV3から出力されるデータを加工画像として出力する。
【0110】
次に、ニューラルネットワークのフィルタサイズを変化させたときの実験結果を示す。
図12Aは、ニューラルネットワークに入力される断層画像を表わす図である。図12Bは、図12Aの矩形で表される領域を拡大した図である。
図13A図19Aは、第1段の畳込み層CV1のフィルタサイズf1を変化させたときの加工画像を表わす図である。
図13Aは、フィルタサイズが{f1=5、f2=1、f3=5}の場合にニューラルネットワークから出力される加工画像を表わす。図13Bは、図13Aの矩形で表される領域を拡大した図である。図14Aは、フィルタサイズが{f1=10、f2=1、f3=5}の場合にニューラルネットワークから出力される加工画像を表わす。図14Bは、図14Aの矩形で表される領域を拡大した図である。図15Aは、フィルタサイズが{f1=15、f2=1、f3=5}の場合にニューラルネットワークから出力される加工画像を表わす。図15Bは、図15Aの矩形で表される領域を拡大した図である。図16Aは、フィルタサイズが{f1=25、f2=1、f3=5}の場合にニューラルネットワークから出力される加工画像を表わす。図16Bは、図16Aの矩形で表される領域を拡大した図である。図17Aは、フィルタサイズが{f1=35、f2=1、f3=5}の場合にニューラルネットワークから出力される加工画像を表わす。図17Bは、図17Aの矩形で表される領域を拡大した図である。図18Aは、フィルタサイズが{f1=45、f2=1、f3=5}の場合にニューラルネットワークから出力される加工画像を表わす。図18Bは、図18Aの矩形で表される領域を拡大した図である。図19Aは、フィルタサイズが{f1=55、f2=1、f3=5}の場合にニューラルネットワークから出力される加工画像を表わす。図19Bは、図19Aの矩形で表される領域を拡大した図である。
【0111】
図20A図22Aは、第2段の畳込み層CV2のフィルタサイズf2を変化させたときの加工画像を表わす図である。
図20Aは、フィルタサイズが{f1=35、f2=1、f3=15}の場合にニューラルネットワークから出力される加工画像を表わす。図20Bは、図20Aの矩形で表される領域を拡大した図である。図21Aは、フィルタサイズが{f1=35、f2=5、f3=15}の場合にニューラルネットワークから出力される加工画像を表わす。図21Bは、図21Aの矩形で表される領域を拡大した図である。図22Aは、フィルタサイズが{f1=35、f2=15、f3=15}の場合にニューラルネットワークから出力される加工画像を表わす。図22Bは、図22Aの矩形で表される領域を拡大した図である。
【0112】
図23A図28Aは、第3段の畳込み層CV3のフィルタサイズf3を変化させたときの加工画像を表わす図である。
図23Aは、フィルタサイズが{f1=35、f2=1、f3=5}の場合にニューラルネットワークから出力される加工画像を表わす。図23Bは、図23Aの矩形で表される領域を拡大した図である。図24Aは、フィルタサイズが{f1=35、f2=1、f3=10}の場合にニューラルネットワークから出力される加工画像を表わす。図24Bは、図24Aの矩形で表される領域を拡大した図である。図25Aは、フィルタサイズが{f1=35、f2=1、f3=15}の場合にニューラルネットワークから出力される加工画像を表わす。図25Bは、図25Aの矩形で表される領域を拡大した図である。図26Aは、フィルタサイズが{f1=35、f2=1、f3=25}の場合にニューラルネットワークから出力される加工画像を表わす。図26Bは、図26Aの矩形で表される領域を拡大した図である。図27Aは、フィルタサイズが{f1=35、f2=1、f3=45}の場合にニューラルネットワークから出力される加工画像を表わす。図27Bは、図27Aの矩形で表される領域を拡大した図である。図28Aは、フィルタサイズが{f1=35、f2=1、f3=55}の場合にニューラルネットワークから出力される加工画像を表わす。図28Bは、図28Aの矩形で表される領域を拡大した図である。
【0113】
以上の結果に基づいて、図29を参照して、図10の畳み込みニューラルネットワークのフィルタの数およびフィルタのサイズの適切な値および最適な値を説明する。
【0114】
第1段の畳込み層CV1のフィルタFL1の数(チャンネル数)n1を128とする。第1段の畳込み層CV1のフィルタFL1の一辺のサイズf1を15~45画素とする。さらに、一辺のサイズf1を35画素としてもよい。第2段の畳込み層CV2のフィルタFL2の数(チャンネル数)n2を64画素とする。第2段の畳込み層CV2のフィルタFL2の一辺のサイズf2を1、5、または15画素とする。第3段の畳込み層CV3のフィルタFL3の一辺のサイズf3を10~25画素とする。さらに、一辺のサイズf3を15画素としてもよい。
【0115】
断層画像内の素線の直径dは、図12Aに示す元画像において、17画素で表される。直径dを基準とした上記の適切値および最適値は、以下のようになる。
【0116】
FL1の一辺のサイズ15~45画素は、素線の直径dの0.88倍~2.64倍に相当する。FL1の一辺のサイズ35画素は、素線の直径dの2.06倍に相当する。第1段のフィルタは元の画像における局所的な特徴を抽出する役割を担っている。一般に、画像のある箇所に素線が存在するかを判断するためにはその箇所を中心として、素線1本から数本分の領域を見渡して判断する必要がある。上記の素線2本分程度のフィルタが最適である、という事実はこの事実を裏付けている。一方でフィルタを大きくしすぎると、素線が存在するかを判断するのに不必要なほど広い領域の情報を取り込むことになり、変換の精度は上がらないかむしろ下がる傾向にある。
【0117】
FL2の一辺のサイズ1、5、15画素は、素線の直径dの0.06、0.29、0.88倍に相当する。第2段のフィルタは第1段のフィルタが抽出した画像の特徴量マップについて、複数のマップの相互関係を把握する役割を担う。第1段のフィルタが抽出した画像の特徴量が十分優れていれば、フィルタサイズが1、つまり面内方向の情報を取り込まなくても精度は高い。場合によっては、第1段のフィルタが抽出した画像の特徴量をまとめる際、少し面内方向にずれた位置の特徴量を束ねるほうが変換の精度が高くなることもある。
【0118】
FL3の一辺のサイズ10~25画素は、素線の直径dの0.59倍~1.47倍に相当する。FL3の一辺のサイズ15画素は、素線の直径dの0.88倍に相当する。第3段のフィルタは第2段のフィルタがまとめあげた画像の特徴量をもとに、素線同士が接触していない画像を生成する役割を担う。理想的には素線サイズ程度の大きさの、中心が明るく素線の端部に向け徐々に暗くなるような図形を多数生成する必要がある。このため、特徴量を参照する際、その点から素線サイズ程度の領域の情報を総合的に取り込むことで、その箇所が素線の中心なのか、素線中心から離れているのかをより高精度に判断可能となる。これよりf3のサイズは素線の直径か、少なくとも素線の半径程度のサイズとすることが理にかなっているといえる。
【0119】
図30を参照して、中心位置検出装置70の構成を説明する。
中心位置検出装置70は、2値化部71と、セグメンテーション部72と、距離変換部73と、素線領域検出部74と、中心検出部75とを備える。
2値化部71は、加工画像を2値化する。
セグメンテーション部72は、2値化された画像から同じ画素値が連続する複数の領域を検出する。
距離変換部73は、各領域について、距離変換画像を生成する。
【0120】
素線領域検出部74は、各領域の距離変換画像を適応的な閾値で2値化することによって、部分領域を生成する。素線領域検出部74は、部分領域の数に基づいて、適切な閾値を選択する。具体的には、素線領域検出部74は、各領域について、2値化距離変換画像に含まれる第1の画素値を有する画素が連続している部分領域の数をカウント値として求める。素線領域検出部74は、各領域について、閾値THを初期値からカウント値が減少に変化するまで順次増加させることによって、複数のカウント値を取得する。素線領域検出部74は、複数のカウント値のうち最大のカウント値となるときの閾値THの割合Rが基準値以上の場合に、カウント値が最大のカウント値となるときの複数の閾値THのいずれかによって生成された2値化距離変換画像に含まれる部分領域の数を素線の数と判断する。
中心検出部75は、部分領域におけるいずれかの画素の位置(たとえば、画素値が最も高い画素の位置)を素線の中心位置として検出する。
【0121】
図31を参照して、指標算出装置80の構成を説明する。
指標算出装置80は、軌跡データ生成部81と、撚りピッチ算出部82と、ヒストグラム作成部83と、統計量算出部84とを備える。
加工画像生成装置50によって、N個の断層画像X(i)からN個の加工画像RI(i)が生成されたものとする。i=1~Nである。
【0122】
軌跡データ生成部81は、図32に示すように、加工画像RI(i)に含まれる各素線の断面の中心位置を、加工画像RI(i+1)に含まれる複数の素線の断面の中心位置のうち最も近い位置に連結することによって、図33に示すように、各素線の軌跡データを求める。
本明細書において、素線の軌跡を求めることは、素線の実際の軌跡そのものを求めるのではなく、素線の実際の軌跡を近似する連続する複数の線分の各々の両端の座標を求めることを意味する。
【0123】
ここで、L(i=1~LN)は、多芯ケーブルの長手方向の位置を表わす。(X、Y)は素線の断面の中心位置を表わす。
素線の軌跡は、Lにおける中心位置(X、Y)とLi+1における中心位置(X、Y)とを結ぶ線分で近似される。i=1~LN-1である。LとLi+1の間隔は、たとえば、10~100μmとすることができる。LNは、たとえば、3,000~5,000とすることができる。
【0124】
撚りピッチ算出部82は、以下に示すように、第1の撚りピッチ、第2の撚りピッチ、第3の撚りピッチ、および第4の撚りピッチを算出する。第3の撚りピッチおよび第4の撚りピッチは、素線の撚りピッチである。第1の撚りピッチおよび第2の撚りピッチは、複数の素線が撚り合わされた集合体の撚りピッチである。
【0125】
撚りピッチ算出部82は、長手方向の位置L(i=1~LN-1)をK個ごとに選択する。選択された長手方向の位置をZ(i=1~N-1)とする。Z=LK×iである。ただし、N=LN/Kである。ZとZi+1の間隔は、たとえば、1mmとすることができる。Nは、たとえば、51とすることができる。
【0126】
図34は、第1の撚りピッチを説明するための図である。
の断面において、一方の被覆導線2aに含まれる全ての素線の中心位置の重心位置をO(1)、他方の被覆導線2aに含まれる全ての素線の中心位置の重心位置をO(2)とする。2つの被覆導線2aに含まれる全ての素線の中心位置の重心位置をOとする。
【0127】
の断面において、OとO(j)(j=1~2)とを結ぶ線分とX軸とのなす角度をθ(j)とする。Zi+1の断面において、Oi+1とOi+1(j)(j=1~2)とを結ぶ線分とX軸とのなす角度をθi+1(j)とする。撚りピッチ算出部82は、以下の値を算出する。
【0128】
dθ(j)=θi+1(j)-θ(j)
PT(j)=360/dθ(j)
i=1~N-1、j=1~2について、PT(j)が、第1の指標である。第1の指標のサンプル数は、(N-1)×2である。
【0129】
図35は、第2の撚りピッチを説明するための図である。
の断面において、一方の被覆導線2aに含まれる外周側導体について、以下のように定める。外周側導体21a1に含まれる全ての素線の重心位置をP(1,1)、外周側導体21a2に含まれる全ての素線の重心位置をP(1,2)、外周側導体21a3に含まれる全ての素線の重心位置をP(1,3)、外周側導体21a4に含まれる全ての素線の重心位置をP(1,4)、外周側導体21a5に含まれる全ての素線の重心位置をP(1,5)、外周側導体21a6に含まれる全ての素線の重心位置をP(1,6)とする。外周側導体21a1、21a2、21a3、21a4、21a5、および21a6に含まれる全ての素線の中心位置の重心位置をP(1)とする。
【0130】
Ziの断面において、他方の被覆導線2aに含まれる外周側導体について、以下のように定める。外周側導体21a1に含まれる全ての素線の重心位置をP(2,1)、外周側導体21a2に含まれる全ての素線の重心位置をP(2,2)、外周側導体21a3に含まれる全ての素線の重心位置をP(2,3)、外周側導体21a4に含まれる全ての素線の重心位置をP(2,4)、外周側導体21a5に含まれる全ての素線の重心位置をP(2,5)、外周側導体21a6に含まれる全ての素線の重心位置をP(2,6)とする。外周側導体21a1、21a2、21a3、21a4、21a5、および21a6に含まれる全ての素線の中心位置の重心位置をP(2)とする。
【0131】
の断面において、P(j)とP(j,k)(j=1~2、k=1~6)とを結ぶ線分とX軸とのなす角度をθ(j,k)とする。Zi+1の断面において、Pi+1(j)とPi+1(j,k)(j=1~2、k=1~6)とを結ぶ線分とX軸とのなす角度をθi+1(j,k)とする。撚りピッチ算出部82は、以下の値を算出する。
【0132】
dθ(j,k)=θi+1(j,k)-θ(j,k)
PT(j,k)=360/dθ(j,k)
i=1~N-1、j=1~2、k=1~6について、PT(j,k)が、第2の指標である。第2の指標のサンプル数は、(N-1)×2×6である。
【0133】
図36は、第3の撚りピッチを説明するための図である。
の断面において、一方の被覆導線2aに含まれる外周側導体について、以下のように定める。外周側導体21al(k=1~6)に含まれるM個の素線の重心位置をP(1,k)、外周側導体21al(k=1~6)に含まれる各素線の中心位置をP(1,k、m)(m=1~M)とする。
【0134】
Ziの断面において、他方の被覆導線2aに含まれる外周側導体について、以下のように定める。外周側導体21al(k=1~6)に含まれるM個の素線の重心位置をP(2,k)、外周側導体21al(k=1~6)に含まれる各素線の中心位置をP(2,k、m)(m=1~M)とする。
【0135】
の断面において、P(j,k)とP(j,k,m)(j=1~2、k=1~6、m=1~M)とを結ぶ線分とX軸とのなす角度をθ(j,k,m)とする。Zi+1の断面において、Pi+1(j,l)とPi+1(j,k,m)(j=1~2、k=1~6、m=1~M)とを結ぶ線分とX軸とのなす角度をθi+1(j,k,m)とする。撚りピッチ算出部82は、以下の値を算出する。
【0136】
dθ(j,k,m)=θi+1(j,k,m)-θ(j,k,m)
PT(j,k,m)=360/dθ(j,k,m)
i=1~N-1、j=1~2、k=1~6,m=1~Mについて、PT(j,k,m)が、第3の指標である。第3の指標のサンプル数は、(N-1)×2×6×Mである。
【0137】
図37は、第4の撚りピッチを説明するための図である。
の断面において、一方の被覆導線2aに含まれる内側導体21bについて、以下のように定める。内側導体21bに含まれるM個の素線の重心位置をS(1)、内側導体21bに含まれる各素線の中心位置をS(1,m)(m=1~M)とする。
【0138】
の断面において、他方の被覆導線2aに含まれる内側導体21bについて、以下のように定める。内側導体21bに含まれるM個の素線の重心位置をS(2)、内側導体21bに含まれる各素線の中心位置をS(2,m)(m=1~M)とする。
【0139】
の断面において、S(j)とS(j,m)(j=1~2、m=1~M)とを結ぶ線分とX軸とのなす角度をθ(j,m)とする。Zi+1の断面において、Si+1(j)とSi+1(j,m)(j=1~2、m=1~M)とを結ぶ線分とX軸とのなす角度をθi+1(j,m)とする。撚りピッチ算出部82は、以下の値を算出する。
【0140】
dθ(j,m)=θi+1(j,m)-θ(j,m)
PT(j,m)=360/dθ(j,m)
i=1~N-1、j=1~2、m=1~Mについて、PT(j,m)が、第4の指標である。第4の指標のサンプル数は、(N-1)×2×Mである。
【0141】
統計量算出部84は、算出された指標のヒストグラムを利用して、指標の統計量を算出する。統計量は、たとえば、指標の平均値、中央値、分散、標準偏差、または十分位数などである。統計量は、指標のヒストグラムから算出される頻度の半値幅でもよい。
【0142】
図38を参照して、学習時の動作手順を説明する。
ステップS101において、データ取得部61は、複数の素線を含む多芯ケーブルの長手方向に垂直な横断面の断層画像を取得する。
【0143】
ステップS102において、学習用データ生成部62は、ユーザの操作に基づいて、断層画像から断層画像内の素線の中心の画素が明るく、素線の横断面の径方向に向かって画素が段階的に暗くなるような加工画像を生成する。学習用データ生成部62は、1つの断層画像を入力データとし、その断層画像から生成した加工画像を教師データとする学習用データを複数個生成する。
【0144】
ステップS103において、モデル生成部63は、複数個の学習用データを用いて、断層画像から断層画像内の素線の横断面の中心の画素が明るく、素線の横断面の径方向に向かって画素が段階的に暗くなるような加工画像を生成する学習済みモデルを生成する。モデル生成部63は、生成した学習済みモデルを学習済みモデル記憶装置41に記憶する。
【0145】
図39を参照して、多芯ケーブルの品質評価手順を説明する。
ステップS201において、加工画像生成装置50のデータ取得部51は、複数の素線を含む多芯ケーブルの横断面の断層画像を取得する。
【0146】
ステップS202において、加工画像生成装置50の画像生成部52は、学習済みモデル記憶装置41に記憶されている学習済みモデルを用いて、ステップS201で取得した断層画像から、断層画像内の各素線の横断面の中心の画素が明るく、各素線の横断面の径方向に向かって画素が段階的に暗くなるような加工画像を生成する。
【0147】
ステップS203において、中心位置検出装置70は、加工画像から、各素線の中心位置を検出する。
【0148】
ステップS204において、指標算出装置80の軌跡データ生成部81は、複数の加工画像における各素線の中心位置を連結することによって、各素線の軌跡データを生成する。
【0149】
ステップS205において、指標算出装置80の撚りピッチ算出部82は、各素線の軌跡データに基づいて、各素線の撚りピッチを表わす指標、または複数の素線が撚り合わされた集合体の撚りピッチを表わす指標を算出する。具体的には、撚りピッチ算出部82は、第1の指標、第2の指標、第3の指標、および第4の指標のうちの少なくとも1つを算出する。
【0150】
ステップS206において、指標算出装置80のヒストグラム作成部83は、算出された指標のヒストグラムを作成する。
【0151】
ステップS207において、指標算出装置80の統計量算出部84は、ヒストグラムを用いて、算出された指標の統計量を算出する。
【0152】
図40を参照して、ステップS202の中心位置の検出手順を説明する。
ステップS301において、2値化部71は、加工画像を2値化して、第1の画素値(たとえば1)または第2の画素値(たとえば0)の複数の画素からなる第1の2値化画像を生成する。
【0153】
ステップS302において、セグメンテーション部72は、第1の2値化画像の第1の画素値の画素が連続している各領域を検出する。
【0154】
ステップS303において、距離変換部73は、各領域の第1の画素値(素線が存在する候補領域に相当)の画素について、第2の画素値(素線が存在しない候補領域に相当)を有する画素までの最短距離を算出する。
【0155】
ステップS304において、距離変換部73は、各領域について、最短距離を画素値とする距離変換画像を生成する。
【0156】
ステップS305において、素線領域検出部74は、各領域について、閾値THを初期値に設定する。
【0157】
ステップS306において、素線領域検出部74は、各領域について、距離変換画像を閾値THに基づいて2値化して、第1の画素値(1)または第2の画素値(0)の複数の画素からなる2値化距離変換画像を生成する。
【0158】
ステップS307において、素線領域検出部74は、各領域について、2値化距離変換画像に含まれる第1の画素値(1)を有する画素が連続している部分領域の数をカウント値として求める。
【0159】
ステップS308において、カウント値が減少に変化した場合に、処理がステップS310に進み、カウント値が減少に変化しない場合に、処理がステップS309に進む。
【0160】
ステップS309において、素線領域検出部74は、閾値THを刻み幅ΔdTHだけ増加させる。その後、処理がステップS305に戻る。
【0161】
ステップS310において、素線領域検出部74は、各領域について、複数のカウント値のうち最大のカウント値となるときの閾値THの個数の設定した全ての閾値THの個数に対する割合Rを算出する。
【0162】
ステップS311において、各領域について、割合Rが基準値以上のときに、処理がステップS312に進む。
【0163】
ステップS312において、素線領域検出部74は、各領域について、カウント値が最大となるときの複数の閾値のいずれか(たとえば、最大の閾値、最小の閾値、または両者の平均値など)によって生成された1個以上の部分領域の数を素線の数と判断する。
【0164】
ステップS313において、中心検出部75は、1個以上の部分領域における画素のうち、いずれかの画素の位置の素線の中心位置として検出する。たとえば、中心検出部75は、部分領域における画素のうち、距離変換画像における画素値が最大となる画素の位置、または部分領域の重心の画素の位置を素線の中心位置として検出してもよい。
【0165】
以上の実施形態では、多芯ケーブルの品質評価システム40は、複数の素線を含む多芯ケーブルの長手方向に垂直な横断面の断層画像から、断層画像内の素線の中心の画素が明るく、素線の横断面の径方向に向かって画素が段階的に暗くなるような加工画像を生成して、加工画像を用いて、多芯ケーブルの品質を評価するが、品質を評価できる対象は、多芯ケーブルに限定されない。より厳密にいうと、元の横断面の断層画像において、輝度の何らかの変化によってその存在が認知可能な物体であれば、上記に示した方法はそのまま適用可能である。この品質評価システム40は、丸棒状の素材を複数含む物体の長手方向に垂直な横断面の断層画像または丸棒状の中空を複数含む物体の長手方向に垂直な横断面の断層画像から、断層画像内の素材または中空の横断面の中心の画素が明るく、素材または中空の横断面の径方向に向かって画素が段階的に暗くなるような加工画像を生成し、加工画像を用いて、物体の品質を評価するものとしてもよい。
【0166】
図41を参照して、多芯ケーブルの品質評価システム40の機能をソフトウェアを用いて実現する場合の構成を説明する。多芯ケーブルの品質評価システム40は、バス503に接続されたプロセッサ502およびメモリ501を備える。メモリ501に記憶されたプログラムをプロセッサ502が実行することに、上記の実施形態で説明した機能が実行される。
【0167】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0168】
1 多芯ケーブル、2,2a,2b 被覆導線、4 導体部、5 素線、21 導体、21a 外周側導体、21a1 第1外周側導体、21a2 第2外周側導体、21a3 第3外周側導体、21a4 第4外周側導体、21a5 第5外周側導体、21a6 第6外周側導体、21b 内側導体、22 被覆部、30 シース層、31 外側シース層、32 内側シース層、32a 外周、100,101,102,103,104,105 ローラ、200,201,202,203,210 サプライリール、211 クレードル、300,310 目板、400,410 ダイス、500 付与ローラ、600 アーム、700 巻き取り部、801 導体サプライリール、802 撚り合わせ部、803 内側シース層被覆部、804 外側シース層被覆部、803a,804a 貯留部、805 冷却部、806 巻き取り部、A,B 断面、C 線膨張係数、E 弾性率、C×E 積、F1,F2 度数、L パスライン比、L1,L2,L10 パスライン、O01A,O01B,O72A,O72B,OA,OB 重心位置、P 撚りピッチ、A1 中心軸、VA,VB 相対座標系、W 半値幅、dθ 変位量、l 断面間の距離、40 品質評価システム、41 学習済みモデル記憶装置、50 加工画像生成装置、51,61 データ取得部、52 画像生成部、60 学習装置、62 学習用データ生成部、63 モデル生成部、70 中心位置検出装置、71 2値化部、72 セグメンテーション部、73 距離変換部、74 素線領域検出部、75 中心検出部、80 指標算出装置、81 軌跡データ生成部、82 ピッチ算出部、83 ヒストグラム作成部、84 統計量算出部、501 メモリ、502 プロセッサ、503 バス、CV1,CV2,CV3 畳込み層、FL1,FL2,FL3 フィルタ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13A
図13B
図14A
図14B
図15A
図15B
図16A
図16B
図17A
図17B
図18A
図18B
図19A
図19B
図20A
図20B
図21A
図21B
図22A
図22B
図23A
図23B
図24A
図24B
図25A
図25B
図26A
図26B
図27A
図27B
図28A
図28B
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40
図41
図42