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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180304
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/18 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
B41J2/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024082897
(22)【出願日】2024-05-21
(31)【優先権主張番号】P 2023099541
(32)【優先日】2023-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平 寛史
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 武史
(72)【発明者】
【氏名】茂木 紗衣
(72)【発明者】
【氏名】寒河 裕人
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EB30
2C056EB38
2C056EB47
2C056EC21
2C056EC29
2C056FA10
2C056KB16
(57)【要約】
【課題】液体吐出装置による記録の一層の高品質化を比較的簡便に実現可能とする。
【解決手段】本発明に係る液体吐出装置は、液体を吐出可能な液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドに供給される液体を循環させる循環機構と、前記循環機構により循環される液体についての温調を行う加熱素子と、前記循環機構により循環される液体についての温度を検出する温度センサと、を備え、前記循環機構は、前記温度センサの検出結果に基づいて液体を循環させる。
【選択図】図24
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出可能なノズルを有する液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドに供給される液体を循環させる循環機構と、
前記循環機構により循環される液体についての温調を行う加熱素子と、
前記循環機構により循環される液体についての温度を検出する温度センサと、
前記液体吐出ヘッドにおける液体を吐出するノズルをキャッピング可能なキャップと、を備え、
前記循環機構は、前記ノズルが前記キャップによりキャッピングされた状態の下で前記温度センサの検出結果に基づいて液体を循環させる
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記循環機構は、前記加熱素子により液体が加熱されて目標温度に達した後に該液体を循環させる
ことを特徴とする請求項1記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記循環機構は、前回の液体の循環からの経過時間が基準を満たす場合に液体を循環させる
ことを特徴とする請求項2記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記キャップは、前記経過時間が前記基準を満たすか否かに基づいて前記ノズルをキャッピングする
ことを特徴とする請求項3記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記加熱素子は、前記経過時間が前記基準を満たすか否かに基づいて、前記循環機構による液体の循環の前または後に該液体を加熱する
ことを特徴とする請求項4記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記液体吐出ヘッドは、前記循環機構による液体の循環の後に該液体を吐出する
ことを特徴とする請求項5記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記循環機構による液体の循環の時間は、該液体の温度及び/又は該液体の含有成分に基づいて調整される
ことを特徴とする請求項1から請求項6の何れか1項記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記加熱素子により加熱される液体の目標温度は、該液体の温度及び/又は該液体の含有成分に基づいて調整される
ことを特徴とする請求項1から請求項6の何れか1項記載の液体吐出装置。
【請求項9】
画像の記録を開始する際に、前回の液体の循環からの経過時間が所定の時間経過していた場合には、前記循環機構は前記ノズルが前記キャップによりキャッピングされた状態で液体を循環させ、
画像の記録を開始する際に、前回の液体の循環からの経過時間が所定の時間経過していない場合には、前記循環機構は前記ノズルが前記キャップによるキャッピングを開けた状態で液体を循環させる
ことを特徴とする請求項1から請求項8の何れか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項10】
画像の記録を開始する際に、前回の液体の循環からの経過時間が所定の時間経過していた場合には、前記加熱素子による温調を開始した後に前記循環機構による液体の循環を行い、
画像の記録を開始する際に、前回の液体の循環からの経過時間が所定の時間経過していない場合には、前記循環機構による液体の循環を開始した後に前記加熱素子による温調を行う
ことを特徴とする請求項1から請求項9の何れか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項11】
ブラックインクを吐出可能なノズルと、
白インクを吐出可能なノズルと、を有し、
画像の記録を開始する際に、
白インクについては前記加熱素子による温調を開始した後に前記循環機構による液体の循環を行い、
ブラックインクについては前記循環機構による液体の循環を開始した後に前記加熱素子による温調を行う
ことを特徴とする請求項1から請求項10の何れか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項12】
カラーインクを吐出可能なノズルを有し、
画像の記録を開始する際に、カラーインクについては前記循環機構による液体の循環を開始した後に前記加熱素子による温調を行う
ことを特徴とする請求項11に記載の液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタ等に代表される液体吐出装置のなかには、液体吐出ヘッドに供給させる液体を循環させるための循環機構を備え、それにより液体の品質を維持しながら該液体を適切に吐出可能とするものがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-169224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液体吐出ヘッドに供給させる液体の品質を更に適切に維持可能とし、該液体を一層適切に吐出可能とするための技術が一般に求められうる。
【0005】
本発明は、液体吐出装置による記録の一層の高品質化を比較的簡便に実現可能とすることを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの側面は液体吐出装置にかかり、前記液体吐出装置は、
液体を吐出可能なノズルを有する液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドに供給される液体を循環させる循環機構と、
前記循環機構により循環される液体についての温調を行う加熱素子と、
前記循環機構により循環される液体についての温度を検出する温度センサと、
前記液体吐出ヘッドにおける液体を吐出するノズルをキャッピング可能なキャップと、を備え、
前記循環機構は、前記ノズルが前記キャップによりキャッピングされた状態の下で前記温度センサの検出結果に基づいて液体を循環させる
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、液体吐出装置による記録を高品質化可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】液体吐出装置の構成例を示す図である。
図2】液体吐出装置の構成例を示す図である。
図3】回復ユニットの構成例を示す図である。
図4】液体吐出ヘッドの分解斜視図である。
図5】液体吐出ヘッドの構造の例を示す断面模式図である。
図6】液体吐出ヘッドの構成例を示す図である。
図7】循環ユニットの外観模式図である。
図8】循環経路の例を示す断面模式図である。
図9】インクの循環経路を示すブロック図である。
図10】圧力調整ユニットの例を示す模式図である。
図11】循環ポンプの外観斜視図である。
図12】循環ポンプの断面模式図である。
図13】循環ポンプの分解斜視図である。
図14】循環ポンプの透視図である。
図15】液体吐出ヘッド内のインクの流れを説明するための模式図である。
図16】吐出ユニットにおける循環経路を示す模式図である。
図17】開口プレートを示す図である。
図18】吐出素子基板を示す図である。
図19】吐出ユニットのインクの流れを示す断面模式図である。
図20】吐出口の近傍の構造の一例を示す断面模式図である。
図21】吐出口の近傍の構造の比較例を示す断面模式図である。
図22】吐出素子基板の比較例を示す図である。
図23】他の色のインクの流れを示す断面模式図である。
図24】循環ポンプを駆動するための制御のフローチャートである。
図25】吐出モジュールにおける堆積物の解消の様子を示す模式図。
図26】循環ポンプを駆動するための制御のフローチャートである。
図27】吐出モジュールにおける堆積物の解消の様子を示す模式図。
図28】循環ポンプを駆動するための制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
以下の実施形態では、サーマル方式の液体吐出装置が例示され、液体を吐出させるための吐出素子として、熱エネルギーにより気泡を発生させることにより液体を吐出させる電熱変換素子(ヒータ)が例示されるが、液体の吐出方式は本例に限られない。例えば、液体吐出装置の液体吐出ヘッドには、圧電素子を用いて液体を吐出させる方式等、他の公知の吐出方式が採用されてもよく、即ち、液体の吐出に用いられる吐出エネルギーは他の態様であってもよい。また、以下で例示される個々のユニット(例えば、ポンプのような圧力調整ユニット等)にはその趣旨を逸脱しない範囲で変更が加えられてもよい。
【0011】
≪第1実施形態≫
<液体吐出装置>
図1は、本実施形態に係る液体吐出装置50の斜視図である。図2(a)は、液体吐出装置50の内部構成の一部を示す斜視図である。図2(b)は、液体吐出装置50のシステム構成を示すブロック図である。
図1及び2(a)においては、説明の容易化のため、装置50の左右方向ないし幅方向に対応するX方向、装置50の前後方向ないし奥行方向に対応するY方向、及び、装置50の上下方向ないし高さ方向に対応するZ方向が示される。
【0012】
ここで、X、Y及びZ方向は、後述の他の構造図においても示され、以下の説明における上、下、左、右等の表現は、要素間の相対的な位置関係を示すためのものとする。よって、例えば、上面(又は下面)は一方面と表現されてもよいし、下面(又は上面)は他方面と表現されてもよい。
【0013】
液体吐出装置50は、液体吐出ヘッド1を備えており、液体吐出ヘッド1を所定方向に走査させながら、それに配列されたノズルの個々から液体(典型的にはインクであり、以下の説明にて「インク」として説明される場合がある。)を吐出することにより記録媒体Pへの記録を実行する。
このような液体吐出ヘッド1は、シリアルヘッドと称されるが、記録媒体Pの幅方向全域を一度の記録可能なラインヘッドが用いられてもよい。シリアルヘッドの場合、液体を吐出させるための駆動信号、ヘッド1の温調を行うための制御振動等を供給するための配線にはフレキシブル配線基板が用いられ、該フレキシブル配線基板にはヘッド1の駆動制御を行うためのコントローラが電気接続されうる。
【0014】
ここでいう記録は、記録媒体Pに液体を吐出することにより画像を形成することを指し、画像の概念には、文字、記号、図形、写真等が典型的に含まれうる。この観点で、液体吐出装置50は、記録装置等とも表現され、液体としてインクが用いられる本実施形態においてはインクジェットプリンタとも表現されうる。同様に、液体吐出ヘッド1は、記録ヘッド等とも表現されうる。記録媒体Pには、典型的には紙材が用いられうるが、シート状の他の媒体が用いられてもよい。
【0015】
図1及び2(a)に示されるように、液体吐出装置50は、キャリッジ60、ガイドシャフト38、プラテン57、インク供給チューブ59、スプール106、及び、エンコーダ107を更に備える。
図2(b)に示されるように、液体吐出装置50は、CPU(中央演算装置)100、ROM(Read Only Memory)101、及び、RAM(Random Access Memory)102を更に備える。液体吐出装置50は、ヘッドドライバ1A、外部ポンプ21、ポンプドライバ21A、循環ポンプ500、ポンプドライバ500A、キャリッジモータ103、モータドライバ103A、搬送モータ104、及び、モータドライバ104Aを更に備える。また、液体吐出装置50は、回復ユニットモータ22、モータドライバ22A、タイマー35、温湿度センサ36、及び、ヘッド温度センサ37を更に備える。
【0016】
スプール106は、記録媒体Pを保持し、搬送モータ104の駆動により回転する搬送ローラに基づいて記録媒体PをY方向に搬送する。キャリッジ60は、液体吐出ヘッド1を着脱可能に搭載すると共に、X方向に延びるガイドシャフト38に沿って移動可能となっており、キャリッジモータ103の駆動により液体吐出ヘッド1をX方向に往復移動させ走査させる。該走査は、インクドットが600dpi(dоt per inch)となるタイミングで秒速40インチの速度で行われるものとする。
【0017】
記録媒体Pは、給紙ローラとピンチローラとに挟持されながら、プラテン57上における液体吐出ヘッド1の走査領域に対応する位置、即ち液体吐出ヘッド1による記録位置まで搬送される。非記録動作時(実際に記録動作が行われていない休止状態)では、通常、液体吐出ヘッド1のノズル面は、図3に示される回復ユニット23のキャップ411によりキャッピングされる。そのため、記録動作時には、その開始に先立ってキャップ411によるキャッピングが解除され、それから、液体吐出ヘッド1がキャリッジ60により走査される。
【0018】
キャリッジ60による液体吐出ヘッド1の走査の間、液体吐出ヘッド1は、エンコーダ107から得られる位置信号に応じたタイミングにて、各ノズルから液体を吐出させる吐出動作を行う。このような1回分の走査により、記録媒体Pには、ノズルの配列範囲に対応する幅(バンド幅)の記録が行われる。このような1回分の走査と、記録媒体Pの搬送とが交互に繰り返されることにより、1枚分の記録媒体Pに対する記録が完了することとなる。必要に応じて、次の記録媒体Pに対する記録が同様の手順で行われうる。
【0019】
他の実施形態として、バンド幅分の記録は、複数回の走査により行われてもよく、ヘッド1の往路および復路の双方で行われてもよいし、2以上の往路および2以上の復路による記録(いわゆるマルチパス記録)により行われてもよい。
【0020】
尚、キャリッジモータ205の動力は、キャリッジベルトを介してキャリッジ60に伝達されうるが、キャリッジモータ205に連結されたリードスクリュと、その溝に係合可能なスライダとを備えた構造等、公知の動力伝達機構が採用されてもよい。
【0021】
液体吐出ヘッド1には、装置50に取り付けられるインクタンク2(図9参照)から、キャリッジ60に接続されたインク供給チューブ59を介してインクが供給される。インクの供給は、付随的に加圧ユニット等により行われてもよいし、回復ユニット23のキャップ411が液体吐出ヘッド1のノズル面をキャッピングしている間に吸引ポンプの負圧により行われてもよい。
【0022】
液体吐出装置50はカラー印刷対応のプリンタとし、液体吐出ヘッド1は、複数色のインクを吐出可能とするが、単色のインクを吐出可能であってもよい。液体吐出ヘッド1が複数色のインクを吐出可能な場合には、それらをそれぞれ吐出可能な複数のヘッド1がまとめてキャリッジ60に搭載されてもよいし、個別にキャリッジ60に搭載されてもよい。
【0023】
図3に示されるように、液体吐出ヘッド1は、吐出ユニット3および循環ユニット54を備える。詳細については後述とするが、吐出ユニット3には、複数の吐出口(ノズル孔)と、各吐出口から液体を吐出するための吐出エネルギーを発する吐出素子と、が設けられる。
また、詳細については後述とするが、循環ユニット54はインクを循環させるのに用いられる。循環ユニット54には、インクタンク2に貯留されたインクが、外部ポンプ21によりインク供給チューブ59を介して供給される。循環ユニット54は、液体の種類(インクの色)毎に設けられうるが、同種の液体に対して複数の循環ユニット54が設けられてもよい。
【0024】
図2(b)を参照して、CPU100は、ROM101に格納されたプログラムに基づいて液体吐出装置50の各要素の駆動制御を行う。ROM101は、処理における中間生成物として得られる多値階調データ、マルチパスマスク等を格納することもできる。RAM102は、CPU100が処理を実行する際のワークエリアとして機能しうる。
【0025】
例えば、CPU100は、外部のホスト装置400から画像データを受信してヘッドドライバ1Aを制御し、液体吐出ヘッド1の駆動制御を行う。
また、CPU100は、液体吐出装置50が備える個々のアクチュエータにおけるドライバの駆動制御を更に行う。例えば、CPU100は、キャリッジ60を移動させるためのキャリッジモータ103のモータドライバ103Aの駆動制御、及び、記録媒体Pを搬送させるための搬送モータ104のモータドライバ104Aの駆動制御を行うことができる。
同様に、CPU100は、循環ポンプ500を駆動するためのポンプドライバ21Aの駆動制御、外部ポンプ21のポンプドライバ21Aの駆動制御、回復ユニットモータ22のモータドライバ22Aの駆動制御等を更に行う。回復ユニットモータ22は、回復ユニット23に搭載され、カムシャフトにより駆動対象を切り替えて後述のワイパガイド423や吸引ポンプ413を動作させる(図3参照)。
【0026】
CPU100は、ROM101およびRAM102と共に液体吐出装置50のシステム全体を制御するシステム制御部、或いは単に制御部として機能しうる。
【0027】
詳細については後述とするが、タイマー35は時間を計測する。温湿度センサ36は液体吐出装置50本体の使用環境における温度および湿度を検知する。また、ヘッド温度センサ37は、液体吐出ヘッド1の温度を検知する。
【0028】
<回復ユニット>
図3は、回復ユニット23の構成例を示す模式図である。キャップ411は、不図示の昇降機構によって昇降可能に支持される(上昇したときの位置を上昇位置とし、下降したときの位置を下降位置とする。)。上昇位置においては、キャップ411は、液体吐出ヘッド1と当接して液体吐出ヘッド1のノズル面を覆ってキャッピングする。
【0029】
非記録動作時には、キャップ411は液体吐出ヘッド1のノズル面をキャッピングする。それにより、液体吐出ヘッド1のノズル内のインクの乾燥ないし蒸発を抑制することができ、また、吸引ポンプ413を駆動することによりノズルからインクを吸引することもできる。
記録動作時には、キャップ411は、下降位置に位置し、それによりキャリッジ60と共に移動する液体吐出ヘッド1との干渉を回避可能となる。キャップ411が下降位置に移動した状態において、液体吐出ヘッド1は、キャップ411と対向した位置に移動した際にはキャップ411に対して予備吐出(記録が適切に実現されるように該記録の実行に先立って液体を予備的に吐出する動作)を行うことができる。
【0030】
図3に示されるように、回復ユニット23上方面には、ノズル面における2つのチップをそれぞれワイピングするための2つのワイパ421と、ノズル面全体(ノズル列の全域)をワイピングするためのワイパ422と、が設けられうる。ワイパ421及び422は、ワイパブレードとも表現されうる。
【0031】
ワイパ421及び422は、ワイパホルダ420に固定されうる。ワイパホルダ420は、ワイパガイド423に沿ってW方向(ノズルの配列方向。Y方向と実質的に平行な方向。)に移動可能である。液体吐出ヘッド1が待機位置に位置したとき、ワイパ421及び422がノズル面と当接しながらワイパホルダ420がW方向に移動することによりワイピング動作が行われる。ワイピング動作が終了すると、キャリッジ60を退避させた後に、ワイパホルダ420を移動させることによりワイパ421及び422は元の位置(ワイピング動作前の位置。初期位置。)に戻ることとなる。
【0032】
ワイパ421及び422は、ゴム等の弾性部材で構成されうるが、インクを吸収可能な多孔質材料で構成されてもよいし、ノズル面を吸引可能なバキュームワイパで構成されてもよい。また、ワイピング動作は、ワイパ421及び422が一方向に移動する間に行われるものとするが、双方向に移動する間に行われてもよい。また、ワイピング方向は、ノズルの配列方向とするが、これと交差(実質的に直交)する方向であってもよい。
ワイピング動作は、ワイパ421及び422とノズル面とが相対的に移動することにより行われればよいため、ワイパ421及び422が固定され、ノズル面がワイパ421及び422に対して相対移動することにより行われてもよい。
尚、ワイパ421及び422、或いは他の幾つかのワイピング部材は、複数の回復ユニット23に分けて配されてもよいし、それらのワイピングの方向が互いに異なるように構成されてもよい。
【0033】
吸引ポンプ413は、回復ユニット23内に設けられ、キャップ411が液体吐出ヘッド1のノズル面をキャッピングしてノズル内を実質的に密閉した状態で駆動され、ノズル内に負圧を発生させることによりノズル内からインクを吸引する吸引動作を行う。吸引動作は、インクタンク2から液体吐出ヘッド1にインクを充填するとき(初期充填のとき)、及び/又は、ノズル内の塵埃、固着物、気泡等の異物を吸引除去するとき(吸引回復のとき)に行われうる。
【0034】
吸引ポンプ413にはチューブポンプが用いられうる(以下、チューブポンプ413と表現されうる。)。チューブポンプ413は、チューブ412(の少なくとも一部)を沿わせて保持する曲面保持部と、該保持されたチューブ412を押圧可能なローラと、該ローラを回転可能に支持するローラ支持部とを備える。チューブポンプ413は、ローラ支持部を所定方向に回転させ、チューブ412を押圧しながらローラを回転させ、それにより、キャップ411内に負圧を発生させ、吸引動作を行う。それにより吸引されたインクは、チューブ412を介して不図示の廃インク吸収体に排出される。
液体吐出ヘッド1がキャップ411に対して予備吐出を行う場合、吸引動作は、該予備吐出によりキャップ411に受容されたインクを排出するのにも行われうる。即ち、予備吐出によりキャップ411に保持されたインクが所定量に達したとき、吸引ポンプ413を駆動することにより該キャップ411に保持されたインクは、チューブ412を介して廃インク吸収体に排出可能である。
【0035】
尚、ワイパ421及び422によるワイピング動作は、ワイピング回復動作と表現されてもよいし、また、吸引ポンプ413による吸引動作は、吸引回復動作と表現されてもよい。ワイピング動作および吸引動作は、まとめて回復動作と表現されてもよい。
【0036】
図4は、液体吐出ヘッド1の分解斜視図である。図5(a)~5(b)は、液体吐出ヘッド1の構造についての断面図である。図5(a)は、液体吐出ヘッド1全体の断面図であり、図5(b)は、そのうち吐出モジュールについての拡大断面図である。
【0037】
前述のとおり、液体吐出ヘッド1は、循環ユニット54と、循環ユニット54から供給されたインクを記録媒体Pに吐出するための吐出ユニット3とを備える。本実施形態においては、液体吐出ヘッド1は、キャリッジ60に設けられうる位置決め部により位置決めされ、電気接続部によりキャリッジ60に接続されて固定されうる。このようにして、液体吐出ヘッド1は、キャリッジ60の移動によりX方向に走査しながら記録媒体Pに対してインクを吐出して記録を行う。
【0038】
外部ポンプ21には、インク供給チューブ59が接続される(図1参照)。インク供給チューブ59の先端には、不図示の液体コネクタが設けられうる。液体吐出装置50に液体吐出ヘッド1が搭載された場合、液体コネクタが、液体吐出ヘッド1の筐体53に設けられた不図示の液体コネクタ挿入口に挿入され接続されうる。これにより、インクタンク2から外部ポンプ21を介して液体吐出ヘッド1に至るまでのインク供給路が形成されることとなる。
【0039】
本実施形態では、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、Bk(黒)及びW(白)の5種類のインクが用いられる。本実施形態では、C、M、Y及びBkインクを吐出する吐出ヘッド1と、Wインクを吐出する吐出ヘッド1とに分かれている。以降はC、M、Y及びBkインクを吐出する吐出ヘッド1について説明するが、Wインクを吐出する吐出ヘッド1についても同様の構成である。そのため、インクタンク2、外部ポンプ21、インク供給チューブ59および循環ユニット54が、それら4種類のインクに対応して4組設けられており、各インクに対応した4つのインク供給路が互いに独立して形成される。このように、本実施形態の液体吐出装置50には、液体吐出ヘッド1外のインクタンク2からインクが供給されるインク供給系が設けられる。本実施形態では2つの吐出ヘッドを持つ構成としたが、C、M、Y、Bk及びWインクを1つの吐出ヘッドから吐出できるような構成でも良い。
尚、本実施形態においては、液体吐出装置50には、液体吐出ヘッド1内のインクをインクタンク2に回収するインク回収系は設けられていないものとする。
【0040】
図5(a)において、Bk色インクに対応するものを循環ユニット54Bとし、同様に、C、M及びY色インクに対応するものをそれぞれ循環ユニット54C、54M及び54Yとする。これら循環ユニット54B、54C、54M及び54Yは、互いに略同様の構成を有し、以下の説明において特に其れらを区別しない場合には単に循環ユニット54と示す。
【0041】
図4及び図5(a)に示されるように、吐出ユニット3は、2つの吐出モジュール300、第1支持部材4、第2支持部材7、電気配線部材(電気配線テープ)5、及び、電気コンタクト基板6を備える。吐出モジュール300は、図5(b)に示されるように、厚さ0.5~1.0mm程度のシリコン基板310と、シリコン基板310の下面に設けられた複数の吐出素子15とを備える。吐出素子15は、前述のとおり電気熱変換素子(ヒータ)とし、それらには、シリコン基板310に公知の半導体プロセスを用いて形成された電気配線を介して電力が供給されうる。
【0042】
シリコン基板310の下面には、吐出口形成部材320が配される。吐出口形成部材320には、複数の吐出素子15に対応する複数の圧力室12と、インクを吐出する複数の吐出口13とがフォトリソグラフィ技術によりそれぞれ形成されうる。
また、シリコン基板310には、各圧力室12に連通する個別供給流路18および個別回収流路19が形成される。本実施形態では、単一の吐出モジュール300は、2種類のインクの吐出可能に構成される。例えば、図5(a)に示される2つの吐出モジュール300のうち、左側に図示された一方の吐出モジュール300は、Bk色インク及びC色インクの吐出を行い、右側に図示された他方の吐出モジュール300は、M色インクとY色インクの吐出を行う。
さらに、本例では、1色のインクに対して、Y方向に延在する2つの吐出口列が形成され、各列を形成する複数の吐出口13の其々に対して、圧力室12、個別供給流路18及び個別回収流路19が形成される。
【0043】
シリコン基板310の上面には、後述のインク供給口311及びインク回収口312(図16等参照)が形成される。インク供給口311は、インク供給流路48から複数の個別供給流路18にインクを供給する。インク回収口312は、複数の個別回収流路19からインク回収流路49にインクを回収する。
ここでいうインク供給口311及びインク回収口312は、それぞれ、順方向のインク循環の際にインクの供給および回収を行う開口をいう。即ち、順方向のインク循環の際には、インク供給口311から個別供給流路18にインクが供給され、それと共に、個別回収流路19からインク回収口312にインクが回収される。また、順方向とは逆方向にインクを流すインク循環の際には、インク回収口312から個別回収流路19にインクが供給され、それと共に、個別供給流路18からインク供給口311にインクが回収されることとなる。
【0044】
このような吐出モジュール300は、図5(a)に示されるように、上面において、第1支持部材4下面に接着により固定されうる。第1支持部材4には、上面から下面に亘って貫通するインク供給流路48及びインク回収流路49が形成されうる。インク供給流路48(の下方側の開口)はインク供給口311(図16等参照)に連通し、同様に、インク回収流路49はインク回収口312に連通する。尚、インク供給流路48及びインク回収流路49は、インクの種類毎に互いに独立して設けられる。
【0045】
第1支持部材4の上面には、図4に示されるように、吐出モジュール300を挿通させる開口7aを有する第2支持部材7が接着により固定されうる。第2支持部材7には、吐出モジュール300に電気接続される電気配線部材5が保持される。電気配線部材5は、インクを吐出するための電気信号を吐出モジュール300に供給する。尚、吐出モジュール300と電気配線部材5との電気接続を実現する部分は、所定の封止材により封止され、インクによる腐食や外的衝撃から保護されうる。
【0046】
電気配線部材5の端部5aには、図4に示されるように、液体吐出装置50から電気信号を受け取るための外部信号入力端子を有する電気コンタクト基板6が熱圧着され、電気配線部材5と電気コンタクト基板6とは互いに電気接続されうる。この電気接続は、不図示の異方性導電フィルムを介して行われうる。
【0047】
第1支持部材4と循環ユニット54との間には、図5(a)に示されるように、ジョイント部材8が設けられうる。ジョイント部材8には、供給口88及び回収口89がインクの種類毎に形成される。供給口88は、インク供給流路48を循環ユニット54の流路に連通させ、回収口89は、インク回収流路49を循環ユニット54の流路に連通させる。図中において、Bk色インクに対応する供給口88及び回収口89は、それぞれ供給口88B及び回収口89Bと示される。同様に、C、M及びY色インクに対応する供給口88及び回収口89は、それぞれ、供給口88C及び回収口89C、供給口88M及び回収口89M、並びに、供給口88Y及び回収口89Yと示される。
【0048】
ここで、インク供給流路48のインク供給口311側の開口は、インク供給口311の開口に略一致するように設定され、同様に、インク回収流路49のインク回収口312側の開口は、インク回収口312の開口に略一致するように設定されうる。また、インク供給流路48の供給口88側の開口は、供給口88の開口に略一致するように設定され、同様に、インク回収流路49の回収口89側の開口は、回収口89に略一致するように設定されうる。このような構成によれば、インクの流路抵抗を小さくすることができる。
【0049】
このような液体吐出ヘッド1において、循環ユニット54に供給されたインクは、ジョイント部材8の供給口88および第1支持部材4の供給流路48を介して、吐出モジュール300のインク供給口311から個別供給流路18に流入する。該インクは、個別供給流路18から圧力室12に流入し、該インクの一部は、圧力室12において吐出素子15の駆動により吐出口13から吐出される。該インクの他の一部(即ち、吐出されずに残ったインク)は、圧力室12から個別回収流路19を介してインク回収口312から第1支持部材4の回収流路49に流入する。その後、回収流路49に流入したインクは、ジョイント部材8の回収口89を介して循環ユニット54へと流入して回収される。このようにしてインクの循環が行われる。
【0050】
<液体吐出ヘッドの温度センサ>
図6は、液体吐出ヘッド1における吐出モジュール300についての平面模式図である。吐出モジュール300には、ヘッド温度センサ37として又はその一部として、吐出口13近傍のインク温度を検出するための温度センサS1~S9が配される。温度センサS1~S9には、ダイオードセンサが典型的に用いられうる。
また、吐出モジュール300には、記録の実行に先立って吐出口13内のインクを加熱するための加熱素子としてサブヒータ14が配される。サブヒータ14は、各色のインクに対応する吐出口13を取り囲むように、吐出モジュール300の外縁に沿って延設されうる。サブヒータ14は、温度センサS1~S9により検出された温度に基づいて駆動ないし制御されうる。
【0051】
<循環ユニットの構成要素>
図7は、或る1種類(1色分)のインクに対応する循環ユニット54の外観模式図である。循環ユニット54は、フィルタ110、第1圧力調整ユニット120、第2圧力調整ユニット150および循環ポンプ500を備える。これらは、詳細については後述とするが、図8~9に示されるように各流路により接続され、吐出モジュール300に対してインクの供給及び回収を行うための循環経路が液体吐出ヘッド1内に形成される。
【0052】
<液体吐出ヘッド内の循環経路>
図8は、或る1種類のインクについての循環経路を示す液体吐出ヘッド1の断面模式図である。図9は、図8の循環経路の構成例を示すブロック図である。
図8~9に示されるように、第1圧力調整ユニット120は、第1バルブ室121及び第1圧力制御室122を備え、第2圧力調整ユニット150は、第2バルブ室151及び第2圧力制御室152を備える。本実施形態では、これら2つの圧力調整ユニット120及び150を用いることにより所定の圧力範囲にてインクの循環を実現可能とする。第1圧力調整ユニット120は、第2圧力調整ユニット150よりも相対的に制御圧力が高くなるように構成され、それらの圧力差に応じた流量で圧力室12(ないし吐出素子15)近傍でインクが流れる。
【0053】
尚、図中の矢印はインクの流れる方向を示す。以下の説明において、インクが流れる方向の側は下流側と表現され、その反対側は上流側と表現されうる。
【0054】
外部ポンプ21は、前述のとおりインク供給チューブ59(図1参照)に接続されており、図9に示されるように、インクタンク2から液体吐出ヘッド1にインクを圧送して循環ユニット54に送る。フィルタ110は、循環ユニット54上流側のインク流路に設けられる。フィルタ110下流側のインク供給路は、第1圧力調整ユニット120の第1バルブ室121に接続される。
【0055】
第1バルブ室121は、図8に示されるように、バルブ190Aにより開閉する連通口191Aを介して第1圧力制御室122に連通する。第1圧力制御室122は、供給流路130と、バイパス流路160と、循環ポンプ500のポンプ出口流路180とに接続される。供給流路130は、吐出モジュール300に設けられた前述のインク供給口311を介して個別供給流路18に接続される。また、バイパス流路160は、第2圧力調整ユニット150の第2バルブ室151に接続される。
【0056】
第2バルブ室151は、図8に示されるように、バルブ190Bにより開閉する連通口191Bを介して第2圧力制御室152に連通する。第2圧力制御室152は、回収流路140に接続される。回収流路140は、吐出モジュール300に設けられた前述のインク回収口312を介して個別回収流路19に接続される。また、第2圧力制御室152は、ポンプ入口流路170を介して循環ポンプ500に接続される。尚、図8中の要素170aは、ポンプ入口流路170の流入口を示す。
【0057】
外部ポンプ21により加圧されて正圧のインク流として液体吐出ヘッド1の循環ユニット54に供給されたインクは、フィルタ110を通過することにより異物が除去された後に、第1圧力調整ユニット120の第1バルブ室121に流入する。その際、インクは減圧されて正圧から負圧になる。該減圧されたインクは、循環ポンプ500により上流側のポンプ入口流路170から吸引され下流側のポンプ出口流路180に圧送されたインクと共に、第1圧力制御室122に供給され、供給流路130及びバイパス流路160に流入する。
【0058】
詳細については後述とするが、本実施形態では、ダイヤフラムに貼り付けられた圧電素子を駆動源とする圧電ダイヤフラムポンプが循環ポンプ500として用いられうる。圧電ダイヤフラムポンプは、圧電素子に駆動電圧が加わることによりポンプ室内の容積を変化させ、圧力変動により2つの逆止弁を交互に動作させることにより液体の圧送を行う。
【0059】
供給流路130に流入したインクは、吐出モジュール300における前述のインク供給口311から個別供給流路18を介して圧力室12に流入し、該インクの一部は吐出素子15の駆動により吐出口13から吐出される。また、該インクの他の一部(即ち、吐出されずに残ったインク)は、個別回収流路19を介して回収流路140に流入する。回収流路140に流入したインクは、第2圧力調整ユニット150の第2圧力制御室152に流入する。
【0060】
一方、バイパス流路160に流入したインクは、第2バルブ室151に流入した後、連通口191Bを介して第2圧力制御室152に流入する。
【0061】
第2圧力制御室152に流入したインクは、回収流路140から回収されたインクと共に、循環ポンプ500の駆動によりポンプ入口流路170を介して循環ポンプ500内に吸引される。循環ポンプ500内に吸引されたインクは、ポンプ出口流路180へと送られ、第1圧力制御室122に再び流入する。
【0062】
以降、同様にして、第1圧力制御室122から供給流路130を介して吐出モジュール300に供給された後に第2圧力制御室152に流入したインクと、バイパス流路160を介して第2圧力制御室152に流入したインクとは、循環ポンプ500に流入する。そして、該インクは、循環ポンプ500から第1圧力制御室122に送られる。このようにしてインクの循環が行われることとなる。
【0063】
本構造によれば、液体吐出ヘッド1内に設けられた循環ポンプ500により、吐出モジュール300と共に形成される循環経路にてインクを循環させることができる。インクの循環により、吐出モジュール300内におけるインクの増粘や沈降成分の堆積を抑制可能となり、吐出モジュール300におけるインクの流動性および吐出口13での吐出特性を向上可能となる。また、インクの循環は液体吐出ヘッド1外で実行される必要もなく、比較的小型の循環ポンプ500が用いられることによりヘッド1及び装置50の小サイズ化にも有利となる。
【0064】
インクは、上述の圧力調整ユニット120及び150により実質的に一方向に流れて循環し、第2圧力制御室152のインクは循環ポンプ500を介して第1圧力制御室122に流れる。第1圧力制御室122および第2圧力制御室152による圧力差が基準に達するまでの所要時間が大きい場合、循環流量が基準に達することができないため記録の開始が困難となる。
第2圧力制御室152内のインクが循環ポンプ500に取り込まれる際には、吐出モジュール300からもインクが流入することとなるが、基準以上の負圧がノズルに加わった場合に気泡が吐出口13内に取り込まれてしまう。そのため、第2圧力制御室152内の負圧が基準以上になった場合には、第1圧力制御室122同様に弁が開いて、吐出モジュール300からではなく、第1圧力制御室122から連通口191Bを介して第2圧力制御室152にインクを流入させる。第2圧力制御室152にインクが流入すると圧力差が解消され、連通口191Bが閉じる。
【0065】
記録の際にノズルから循環流路内に気泡が侵入したり、インクに含有されるガスが循環流路内にて発生した気泡がノズルに到達したりすると、インクが適切に吐出されなくなる原因となりうる。そのため、吐出モジュール300と循環ユニット54との間には、気泡がノズル側に流れないように、個別供給流路18及び個別回収流路19に対応する比較的大容量の部屋が泡貯め室として形成されてもよい。尚、インクは、非脱気インクでも脱気インクでもよい。
【0066】
<圧力調整ユニット>
図10(a)~10(c)は、圧力調整ユニット120の構成例を示す模式図である。尚、圧力調整ユニット150は、圧力調整ユニット120同様に構成され、図中においては対応の参照番号が併記される。例えば、第2圧力調整ユニット150の場合、第1バルブ室121は第2バルブ室151と読み替えられ、第1圧力制御室122は第2圧力制御室152と読み替えられる。
【0067】
第1バルブ室121および第1圧力制御室122は、第1圧力調整ユニット120の円筒状の筐体125内に形成される。第1バルブ室121および第1圧力制御室122は、隔壁123によって画定され隔てられると共に、隔壁123に形成された連通口191を介して連通する。第1バルブ室121には、第1バルブ室121と第1圧力制御室122との連通および該連通の遮断を切り替えるバルブ190が設けられる。バルブ190は、バルブばね200により連通口191に対向する位置に保持される。バルブ190は、バルブばね200の付勢力により隔壁123に近接して当接可能であり、隔壁123に当接することにより連通口191におけるインクの流通を遮断する。尚、バルブ190および隔壁123が適切に当接可能となるように、バルブ190が隔壁123と接触する部分は弾性部材により構成されうる。
【0068】
また、バルブ190の中央部には連通口191に挿通されるバルブシャフト190aが突設される。バルブシャフト190aをバルブばね200の付勢力に抗して押圧することにより、バルブ190が隔壁123から離間し、連通口191におけるインクの流通が可能となる。
【0069】
以下の説明において、連通口191におけるインクの流通が遮断された状態を「閉状態」と表現し、該流通が可能な状態を「開状態」と表現する場合がある。図10(a)は、閉状態を示し、図10(b)は開状態を示し、また、図10(c)は、閉状態における他の説明を示す。
【0070】
円筒状の筐体125の開口部は、圧力板210および可撓性部材230により閉塞される。即ち、第1圧力制御室122は、圧力板210、可撓性部材230、隔壁123および筐体125の周壁により形成される。圧力板210は、可撓性部材230により変位可能とする。圧力板210及び可撓性部材230の構成材料は本例に限られないが、圧力板210は樹脂成形部品で構成され、可撓性部材230は樹脂フィルムで構成されるものとし、その場合それらは熱溶着により固定可能である。
【0071】
圧力板210と隔壁123との間には圧力調整ばね220が設けられる。圧力板210及び可撓性部材230は、圧力調整ばね220の付勢力により第1圧力制御室122の内容積を広げるように付勢される。
【0072】
第1圧力制御室122内の圧力が減少すると、圧力板210及び可撓性部材230は、圧力調整ばね220の付勢力とは反対向きに変位し、即ち第1圧力制御室122の内容積が減少する方向に変位する。第1圧力制御室122の内容積が基準まで減少すると、圧力板210がバルブ190のバルブシャフト190aに当接する。その後、第1圧力制御室122の内容積が更に減少すると、バルブ190はバルブシャフト190aと共にバルブばね200の付勢力とは反対向きに移動して隔壁123から離間し、それにより、連通口191が開状態となる(図10(b)参照)。
【0073】
本実施形態では、連通口191が開状態となったとき、第1バルブ室121の圧力は第1圧力制御室122の圧力よりも高く、連通口191が開状態となったことに応じて第1バルブ室121から第1圧力制御室122へとインクが流入する。これに伴い、第1圧力制御室122の内容積が増加する方向へ可撓性部材230及び圧力板210が変位する。その結果、圧力板210がバルブ190のバルブシャフト190aから離間し、連通口191はバルブばね200の付勢力により隔壁123に当接し、連通口191が閉状態となる(図10(a)又は10(c)参照)。
【0074】
このように、第1圧力調整ユニット120では、第1圧力制御室122内の圧力が基準以下まで減少すると(例えば比較的大きい負圧が加わると)、第1バルブ室121から連通口191を介してインクが流入する。これにより、第1圧力制御室122の圧力が更に減少しないように構成されている。よって、第1圧力制御室122内が基準範囲内の圧力となるように制御されることとなる。
【0075】
ここで、前述のように第1圧力制御室122の圧力に応じて可撓性部材230及び圧力板210が変位し、圧力板210がバルブシャフト190aに当接して連通口191が開状態となった状態(図10(b)の状態)を考える。このとき、圧力板210に作用する力の関係は、
P2×S2+F2+(P1-P2)×S1+F1=0 ・・・(式1)
P1:第1バルブ室121の圧力(ゲージ圧)
P2:第1圧力制御室122の圧力(ゲージ圧)
F1:バルブばね200のばね力
F2:圧力調整ばね220のばね力
S1:バルブ190の受圧面積
S2:圧力板210の受圧面積
と表せる。更に、上記(式1)をP2について整理すると、
P2=-(F1+F2+P1×S1)/(S2-S1) ・・・(式2)
となる。
ここで、バルブばね200のばね力F1および圧力調整ばね220のばね力F2は、それぞれ、バルブ190及び圧力板210を押す方向を正(図10(b)等において右方向)とする。また、第1バルブ室121の圧力P1および第1圧力制御室122の圧力P2は、P1≧P2が成立するように設定される。
【0076】
連通口191が開状態となるときの第1圧力制御室122の圧力P2は、上記(式2)により決定され、連通口191が開状態となると、P1≧P2により、第1バルブ室121から第1圧力制御室122へインクが流入する。その結果、第1圧力制御室122の圧力P2は更には減少せず、圧力P2は基準範囲内に維持される。
【0077】
一方、図10(c)に示されるように、圧力板210がバルブシャフト190aと非当接状態となって連通口191が閉状態となったとき、圧力板210に作用する力の関係は、
P3×S3+F3=0 ・・・(式3)
F3:連通口191が閉状態のときの圧力調整ばね220のばね力
P3:連通口191が閉状態のときの第1圧力制御室122の圧力(ゲージ圧)
S3:連通口191が閉状態のときの圧力板210の受圧面積
と表せる。圧力P3は、上記(式3)により、
P3=-F3/S3 ・・・(式4)
と表せる。
【0078】
ここで、図10(c)は、圧力板210及び可撓性部材230が変位可能な限界の位置(図中の右方向への変位量が最大となる位置)まで変位した状態を表す。圧力板210及び可撓性部材230が図10(c)の状態まで変位する間の変位量に応じて、第1圧力制御室122の圧力P3、圧力調整ばね220のばね力F3、及び、圧力板210の受圧面積S3は変化する。具体的には、圧力板210及び可撓性部材230が図10(c)の状態よりも左側に位置する場合、圧力板210の受圧面積S3は小さくなり、圧力調整ばね220のばね力F3は大きくなる。その結果、第1圧力制御室122の圧力P3は、上記(式4)により小さくなる。よって、上記(式2)及び(式4)により、図10(b)の状態(連通口191の開状態)から図10(c)の状態(連通口191の閉状態)になるまでの間に、第1圧力制御室122の圧力は徐々に上昇し、負圧が弱くなって正圧側に近づく。
【0079】
<循環ポンプ>
図11(a)は循環ポンプ500の正面側の外観斜視図である。図11(b)は循環ポンプ500の背面側の外観斜視図である。図12は、図11(a)にて線IX‐IXを切断線とする循環ポンプ500の断面模式図である。循環ポンプ500の外装は、ポンプ筐体505と、ポンプ筐体505に固定されたカバー507とにより形成されうる。
【0080】
ポンプ筐体505は、筐体部本体505aと、その外面に接着により固定された流路接続部材505bとにより形成されうる。筐体部本体505aおよび流路接続部材505bの其々には、それらを相互に連通させる一対の貫通孔が互いに異なる2つの位置に設けられる。一方の貫通孔はポンプ供給孔501を形成し、他方の貫通孔はポンプ排出孔502を形成する。ポンプ供給孔501は、第2圧力制御室152に接続されたポンプ入口流路170に接続される。ポンプ排出孔502は、第1圧力制御室122に接続されたポンプ出口流路180に接続される。ポンプ供給孔501から供給されたインクは、図12に示されるように、ポンプ室503を介してポンプ排出孔502から排出される。
【0081】
ポンプ筐体505の内壁にはダイヤフラム506が接合されており、ポンプ筐体505の内壁に形成された凹部とダイヤフラム506との間にポンプ室503が形成される。ポンプ室503は、ポンプ供給孔501及びポンプ排出孔502に連通する。また、ポンプ供給孔501の中間部分には逆止弁504aが設けられ、ポンプ排出孔502の中間部分には逆止弁504bが設けられる。逆止弁504aは、ポンプ供給孔501の中間部分に形成された空間512aにおいて逆止弁504aの一部が図中の左側に移動可能に配置される。逆止弁504bは、ポンプ排出孔502の中間部分に形成された空間512bにおいて逆止弁504bの一部が図中の右側に移動可能に配置される。
【0082】
ダイヤフラム506が変位してポンプ室503の容積が増加することによりポンプ室503が減圧された場合、逆止弁504aは空間512a内のポンプ供給孔501の開口から離間(図中の左側に移動)する。弁504aがポンプ供給孔501の開口から離間することにより、ポンプ供給孔501におけるインクの流通が可能な開状態となる。また、ダイヤフラム506が変位してポンプ室503の容積が減少することによりポンプ室503が加圧された場合、逆止弁504aはポンプ供給孔501の開口の周囲の壁面に当接して、ポンプ供給孔501におけるインクの流通を遮断する閉状態となる。
【0083】
一方、逆止弁504bは、ポンプ室503が減圧された場合、ポンプ筐体505の開口の周囲の壁面に当接して、ポンプ排出孔502におけるインクの流通を遮断する閉状態となる。また、ポンプ室503が加圧されると、逆止弁504bは、ポンプ筐体505の開口から離間して空間512b側(図中の右側)に移動し、ポンプ排出孔502におけるインクの流通を可能とする。
【0084】
尚、逆止弁504a及び504bは、ポンプ室503内の圧力に応じて変形可能な材料で構成されればよく、例えば、EPDMやエラストマ等の弾性部材、ポリプロピレン等のフィルムないし薄板で構成可能であるが、それらに限定されるものではない。
【0085】
前述のとおり、ポンプ室503はポンプ筐体505とダイヤフラム506との接合により形成される。よって、ダイヤフラム506が変形することによりポンプ室503の圧力は変化する。
例えば、ダイヤフラム506がポンプ筐体505側(図中の右側)に変位してポンプ室503の容積が減少した場合、ポンプ室503内の圧力は上昇する。これによりポンプ排出孔502に対向して配置された逆止弁504bは開状態となり、ポンプ室503のインクが排出される。このとき、ポンプ供給孔501に対向して配置された逆止弁504aは、ポンプ供給孔501の周囲の壁面に当接し、ポンプ室503からポンプ供給孔501へのインクの逆流が抑制される。
ポンプ室503が広がる方向にダイヤフラム506が変位した場合にはポンプ室503の圧力は減少する。これによりポンプ供給孔501に対向して配置された逆止弁504aは開状態となり、ポンプ室503にインクが供給される。このとき、ポンプ排出孔502に配置された逆止弁504bは、ポンプ筐体505に形成された開口の周囲の壁面に当接して該開口を閉塞するため、ポンプ排出孔502からポンプ室503へのインクの逆流は抑制される。
【0086】
このように、循環ポンプ500ではダイヤフラム506が変形してポンプ室503内の圧力が変化することによりインクの吸引および排出が行われる。このとき、ポンプ室503内に気泡が混入した場合、ダイヤフラム506が変位しても気泡の膨張・収縮によりポンプ室503内の圧力変化が小さくなるため、送液量が低下してしまう。そこで、ポンプ室503を上下方向に延びるように配置してポンプ室503に混入した気泡がポンプ室503上方に集まり易くなるようにすると共に、ポンプ排出孔502をポンプ室503の中心より上方に配置する。これにより、ポンプ室503内の気泡を適切に排出可能となり、流量を安定化させることができる。
【0087】
図13(a)~13(b)は、循環ポンプ500の分解斜視図であり、図13(a)は、一方側から見た場合の様子を示し、図13(b)は、他方側から見た場合の様子を示す。
【0088】
図14は、循環ポンプ500が備える要素の位置関係を示すための透視図を示す。
【0089】
循環ポンプ500は、ポンプ筐体505、ダイヤフラム506およびカバー507を備える他、振動板509、駆動回路基板513および電気接続ケーブル518を更に備える。振動板509には、圧電セラミック510が接着により固定されており、振動板509は接着剤508を介してダイヤフラム506に固定される。ダイヤフラム506には、変性PPE(ポリフェニレンエーテル)+PS(ポリスチレン)、ポリプロピレン等、射出成形可能な材料が用いられうるが、フィルム、樹脂板等を打ち抜きにより形成されたものが用いられてもよく、本例に限られない。振動板509には、黄銅、ステンレス、鉄‐ニッケル合金等が用いられうるが、本例に限られない。
【0090】
駆動回路基板513は、電気コンタクト基板6における電気接続端子であって循環ポンプ500を駆動するための電気接続端子にケーブル等により電気接続される。また、駆動回路基板513は、圧電セラミック510と対向するように配され、電気接続ケーブル518を介して圧電セラミック510および振動板509に電気接続される。駆動回路基板513は、液体吐出装置50本体から受け取った電力基づいて、圧電セラミック510及び振動板509に電圧を加えることにより循環ポンプ500を駆動することができる。
【0091】
電気接続ケーブル518と駆動回路基板513とは、はんだ521により固定されて電気接続され、電気接続ケーブル518と圧電セラミック510及び振動板509とは、はんだ520により固定されて電気接続されうる。
【0092】
ここで、振動板509は、電気接続ケーブル518を介して駆動回路基板513の接地線(GND配線)に接続され、圧電セラミック510は、電気接続ケーブル518を介して駆動回路基板513の交流電圧出力部に接続される。即ち、振動板509が接地された状態で圧電セラミック510に交流電圧を加えることにより圧電セラミック510を伸縮させ、それによりダイヤフラム506を変形させる。このようにして、循環ポンプ500による前述のインクの吸引および排出が実現される。
【0093】
<液体吐出ヘッド内のインクの流れ>
図15(a)~15(e)は、液体吐出ヘッド1内のインクの流れを説明するための模式図である。
【0094】
図15(a)は、記録動作の実行中のインクの流れを示す。図中の矢印はインクの流れを示す。記録動作の実行の際には外部ポンプ21及び循環ポンプ500の双方が駆動を開始する。尚、記録動作に関わらず、外部ポンプ21及び循環ポンプ500が駆動していてもよいし、それらの駆動は連動して行われずに別個に/独立して駆動されてもよい。
【0095】
記録動作の実行中においては、循環ポンプ500は駆動状態となっており、第1圧力制御室122から流出したインクは供給流路130及びバイパス流路160に流入する。供給流路130に流入したインクは、吐出モジュール300を通過した後、回収流路140に流入し、それから第2圧力制御室152に供給される。
【0096】
一方、第1圧力制御室122からバイパス流路160に流入したインクは、第2バルブ室151を介して第2圧力制御室152に流入する。第2圧力制御室152に流入したインクは、ポンプ入口流路170、循環ポンプ500およびポンプ出口流路180を通過した後、再び第1圧力制御室122に流入する。ここで、第1バルブ室121による制御圧力は、上記(式2)により、第1圧力制御室122の制御圧力より高く設定される。よって、第1圧力制御室122内のインクは、第1バルブ室121に流れずに再度供給流路130を介して吐出モジュール300に供給される。吐出モジュール300に流入したインクは、回収流路140、第2圧力制御室152、ポンプ入口流路170、循環ポンプ500およびポンプ出口流路180を介して、再び第1圧力制御室122に流入する。
このようにしてインク循環は液体吐出ヘッド1内で完結する。
【0097】
インク循環において、吐出モジュール300内のインクの流量ないし循環量は、第1圧力制御室122および第2圧力制御室152による圧力差(制御圧力の差)により決定される。そして、この圧力差は、吐出モジュール300内の吐出口13近傍のインクの増粘を抑制可能な流量となるように設定される。
【0098】
また、インクは、記録により消費された量だけ、インクタンク2からフィルタ110および第1バルブ室121を介して第1圧力制御室122に供給される。記録により循環経路内のインクが消費されることにより第1圧力制御室122内のインクが減少し、それに伴い第1圧力制御室122の内容積が減少する。これにより、連通口191Aが開状態となり、第1バルブ室121から第1圧力制御室122にインクが供給される。該供給されたインクには、第1バルブ室121から連通口191Aを通過する際に圧力損失が発生し、正圧状態のインクは、第1圧力制御室122に流入することにより負圧状態となる。そして、第1バルブ室121から第1圧力制御室122にインクが流入することにより、第1圧力制御室の内容積が増加し、連通口191Aが閉状態となる。
このように、インクの消費に応じて連通口191Aは、開状態と閉状態とを繰り返す。また、インクが消費されない場合には、連通口191Aは閉状態に維持される。
【0099】
図15(b)は、記録動作が終了し、循環ポンプ500が停止状態となった後におけるインクの流れを示す。循環ポンプ500が停止状態となった時点では、第1圧力制御室122および第2圧力制御室152の圧力は何れも記録動作中の制御圧力のままである。このため、第1圧力制御室122および第2圧力制御室152の圧力差に応じて、図15(b)に示されようにインクの移動が生じる。即ち、インクの流れは、第1圧力制御室122から供給流路130を介して吐出モジュール300に供給され、それから回収流路140を介して第2圧力制御室152に向かうように継続する。また、第1圧力制御室122からバイパス流路160および第2バルブ室151を介して第2圧力制御室152に向かうインクの流れも継続する。
【0100】
このようにして第1圧力制御室122から第2圧力制御室152に移動した量のインクが、インクタンク2からフィルタ110および第1バルブ室121を介して第1圧力制御室122に供給される。そのため、第1圧力制御室122内の内容量は維持される。上記(式2)により、第1圧力制御室122の内容量が一定の場合、バルブばね200のばね力F1、圧力調整ばね220のばね力F2、バルブ190の受圧面積S1、及び、圧力板210の受圧面積S2は一定に維持される。第1バルブ室121の圧力(ゲージ圧)P1の変化に応じて第1圧力制御室122の圧力P2が決定されるため、圧力P1の変化がない場合には圧力P2は記録動作中の制御圧力と同じ圧力に維持される。
【0101】
一方、第2圧力制御室152の圧力は、第1圧力制御室122からのインクの流入に伴う内容量の変化により経時的に変化する。即ち、図15(b)の状態から、連通口191が閉状態となって第2バルブ室151と第2圧力制御室152とが非連通となる状態(図15(c)の状態)になるまでの間は、上記(式2)に従って第2圧力制御室152の圧力は変化する。その後、圧力板210とバルブシャフト190aとが非当接状態となって連通口191が閉状態となる。そして、図15(d)に示されるように、回収流路140から第2圧力制御室152へインクが流入する。これにより圧力板210及び可撓性部材230が変位し、第2圧力制御室152の内容積が最大となるまでの間、上記(式4)に従って第2圧力制御室152の圧力が変化し、上昇する。
【0102】
図15(c)の状態になった場合には、第1圧力制御室122からバイパス流路160及び第2バルブ室151を介して第2圧力制御室152に向かうインクの流れは発生しない。よって、第1圧力制御室122内のインクが供給流路130を介して吐出モジュール300に供給された後に回収流路140を介して第2圧力制御室152に向かう流れのみが実質的に生じうる。前述のとおり、第1圧力制御室122から第2圧力制御室152へのインクの移動は、第1圧力制御室122および第2圧力制御室152の圧力差に応じて生じる。このため、第2圧力制御室152内の圧力が第1圧力制御室122内の圧力と等しくなるとインクの移動は停止する。
【0103】
第2圧力制御室152内の圧力が第1圧力制御室122内の圧力と等しくなる状態においては、第2圧力制御室152が、図15(d)に示される状態まで拡張する。第2圧力制御室152が拡張した場合、第2圧力制御室152には、インクを貯留可能な貯留部が形成される。尚、循環ポンプ500の停止から図15(d)の状態に移行するまでの時間は、流路の形状およびサイズ、並びに、インクの性質により異なりうるが、概ね1~2分程度である。
第2圧力制御室152に貯留部が形成されインクが貯留可能となる図15(d)の状態から循環ポンプ500を駆動すると、該貯留部のインクは循環ポンプ500により第1圧力制御室122に供給される。これにより、図15(e)に示されるように第1圧力制御室122のインク量が増加し、可撓性部材230及び圧力板210は拡張方向へと変位する。そして、循環ポンプ500の駆動が継続することにより、図12(a)に示されるように循環経路内の状態が変化することとなる。
【0104】
以上においては、図15(a)は、記録動作の実行中の一態様として例示されたが、前述のとおり、記録動作を伴わずにインクの循環が行われてもよい。この場合においても、循環ポンプ500の駆動及び停止に応じて、図15(a)~15(e)に示されるようにインクが流れる。
【0105】
本実施形態では、第2圧力調整ユニット150における連通口191Bは、循環ポンプ500の駆動によりインクの循環が行われる場合に開状態になり、該インクの循環が停止された場合に閉状態になる態様が例示されたが、これに限られない。例えば、循環ポンプ500の駆動によりインクの循環が行われている場合においても第2圧力調整ユニット150における連通口191Bが閉状態となるように、制御圧力が設定されてもよい。
【0106】
圧力調整ユニット120及び150を接続するバイパス流路160は、例えば循環経路内に生じる負圧が通常より/基準以上に強くなった場合に、そのことが吐出モジュール300に実質的に影響しないように設けられうる。例えば、温度等の環境の変化によりインクの特性(粘度等)が変化した場合には循環経路内の圧力損失も変化し、例えばインクの粘性が下がった場合、循環経路内の圧力損失が減少することにより循環経路内の負圧が通常より強くなりうる。それに伴い、吐出口13から外気が循環経路内に引き込まれて吐出口13のメニスカスが破壊されてしまい、吐出が適切に行われなくなる可能性がある。このため、本実施形態では循環経路内にバイパス流路160が設けられる。
【0107】
このようなバイパス流路160により、負圧が通常より強くなる場合にはバイパス流路160にもインクが流れるため、吐出モジュール300の圧力を維持可能となる。例えば、第2圧力調整ユニット150における連通口191は、循環ポンプ500の駆動中であっても閉状態を維持可能な制御圧力となるように構成されうる。また、負圧が強くなる場合には連通口191が開状態となるように第2圧力調整ユニットの制御圧力が設定されてもよい。
【0108】
また、吐出素子15による吐出動作に起因して圧力室にはインクを引き込む力が生じるため、循環経路内の圧力変動は吐出動作の際にも生じうる。よって、例えば、循環ポンプ500の駆動中に第2圧力調整ユニット150における連通口191が閉状態となるように構成されている場合であっても、吐出動作の際に連通口191が開状態となることがある。例えば、デューティ比の比較的高い記録が継続される場合には圧力室の負圧が強くなることがある。それに伴い、インクが回収流路140側からも圧力室(吐出口13)に移動し、即ちインクの逆流が発生する(尚、この逆流は、バイパス流路160が設けられていることにより生じうる。)。これにより、第2圧力制御室152のインクが減少して第2圧力制御室152が縮小し、その結果、第2圧力調整ユニット150における連通口191が開状態となりうる。この場合、圧力室には、供給流路130のインクおよび回収流路140のインクが充填されて吐出されることとなる。
【0109】
上述の説明においては、インクの逆流に応じて第2圧力調整ユニット150における連通口191が開状態となる態様が示されたが、インクの逆流は、第2圧力調整ユニット150における連通口191が開状態となっている場合に生じることもある。また、インクの逆流は、第2圧力調整ユニット150が設けられていない構成においてもバイパス流路160が設けられることにより発生しうる。
【0110】
<吐出ユニットの構成>
図16(a)は、或る1種類のインクについての循環経路を説明するための吐出ユニット3を第1支持部材4側から見た分解斜視図であり、図16(b)は、吐出ユニット3を吐出モジュール300側から見た分解斜視図である。尚、図16(a)における第1支持部材4については、図5において線XI-XIを切断線とする断面構造を示す。図中においてIN/OUTと共に示される矢印はインクの流れの向き(流入/流出)を示し、他の種類(他の色)についても同様とする。ここでは図を見易くするため、第2支持部材7および電気配線部材5を省略とする。
【0111】
吐出モジュール300は、吐出素子基板340および開口プレート330を備える。図17は、開口プレート330の平面模式図であり、図18は、吐出素子基板340の平面模式図である。
吐出モジュール300は、吐出素子基板340および開口プレート330が各インクの流路を連通するように重なって接合されることにより形成され、第1支持部材4に支持され、これにより吐出ユニット3が形成される。吐出ユニット3には、循環ユニット54からジョイント部材8(図5(a)参照)を介してインクが供給される。
【0112】
吐出素子基板340は、図16(a)、16(b)及び18に示されるように、吐出口形成部材320を備える。吐出口形成部材320には、複数の吐出口13が配列されて成る複数の吐出口列が形成され、吐出モジュール300のインク流路を介して供給されたインクの一部を吐出口13から吐出可能とする。尚、吐出されなかった他の一部のインクは、前述のとおり、吐出モジュール300のインク流路を介して回収される。開口プレート330には、図16(a)、16(b)及び17に示されるように、複数のインク供給口311が配列されると共に、複数のインク回収口312が配列される。
【0113】
吐出素子基板340には、図18に示されるように、また、図19(a)~19(c)に更に示されるように、複数の供給接続流路323が配列され、複数の回収接続流路324が配列される。複数の供給接続流路323は個別供給流路18と連通し、複数の回収接続流路324は個別回収流路19と連通する。吐出ユニット3内のインク流路は、第1支持部材4に設けられたインク供給流路48およびインク回収流路49(図5(a)参照)、並びに、吐出モジュール300に設けられた流路が連通することにより形成される。
第1支持部材4には、インク供給流路48の断面開口として複数の支持部材供給口211が配列され、インク回収流路49の断面開口として複数の支持部材回収口212が配列される。
【0114】
吐出ユニット3に供給されるインクは、循環ユニット54から吐出モジュール300に向かって、第1支持部材4のインク供給流路48に供給される(図4、5(a)及び9参照)。該インクは、開口プレート330のインク供給口311を介して吐出素子基板340の個別供給流路18に供給され供給接続流路323に流入する。ここまでの経路が供給側流路に対応する。
その後、インクは、吐出口形成部材320の圧力室12(図5(b)参照)を介して回収側流路の回収接続流路324へと流れる。尚、圧力室12におけるインクの流れの詳細については後述する。回収接続流路324に流入したインクは、個別回収流路19に流れた後、開口プレート330のインク回収口312を介して第1支持部材4のインク回収流路49に流れ、支持部材回収口212を介して循環ユニット54に回収される。
【0115】
尚、開口プレート330においてインク供給口311およびインク回収口312が形成されていない領域は、第1支持部材4において支持部材供給口211および支持部材回収口212を仕切るための部位に対応する。該領域に対応するように第1支持部材4においても開口が設けられておらず、それらの領域は、吐出モジュール300と第1支持部材4とを接着する際の接着に用いられうる。
【0116】
開口プレート330には、図17に示されるように、X方向に配列された複数の開口を1列として、それらはY方向に沿って複数列設けられる。複数列の開口の列は、供給用の開口(IN)と回収用の開口(OUT)とがX方向にて例えば配列ピッチの半分だけシフトするように千鳥状に配列される。
【0117】
吐出素子基板340には、図18に示されるように、Y方向に配列された複数の供給接続流路323と連通する個別供給流路18と、Y方向に配列された複数の回収接続流路324と連通する個別回収流路19と、がX方向に交互に配列される。個別供給流路18および個別回収流路19はインクの種類毎に分かれており、各色の吐出口列の数に応じて個別供給流路18および個別回収流路19の配置数が決められる。同様に、供給接続流路323および回収接続流路324も吐出口13に対応した数だけ配置される。尚、これらの数は、必ずしも1対1で対応していなくてもよく、2以上の吐出口13に対して一つの供給接続流路323および回収接続流路324が対応してもよい。
【0118】
このような開口プレート330と吐出素子基板340とが各インクの流路が連通するように重なって接合されることにより吐出モジュール300が形成され、第1支持部材4に支持されて上述の供給流路および回収流路のインク流路が形成される。
【0119】
図19(a)~19(c)は、吐出ユニット3の互いに異なる部位におけるインクの流れを示す断面模式図である。
【0120】
図19(a)は、インク供給流路48とインク供給口311とが連通した部位の断面図を示す。インクの供給流路においては、図19(a)に示されるように、第1支持部材4のインク供給流路48と開口プレート330のインク供給口311とが重なって連通した部分からインクが供給される。
【0121】
図19(b)は、インク回収流路49とインク回収口312とが連通した部位の断面図を示す。インクの回収流路においては、図19(b)に示されるように、第1支持部材4のインク回収流路49と開口プレート330のインク回収口312とが重なって連通した部分からインクが回収される。
【0122】
図19(c)は、インク供給口311とインク回収口312とが第1支持部材4の流路と連通していない部位の断面図を示す。図19(c)に示されるように、開口プレート330には開口が設けられていない領域もある。そのような領域では、インクの供給や回収は行われず、即ち、インクの供給は、インク供給口311が設けられた領域にて行われ(図19(a)参照)、インクの回収は、インク回収口312が設けられた領域にて行われる(図19(b)参照)。
【0123】
尚、本実施形態では、開口プレート330が用いられた構成が例示されたが、開口プレート330が用いられない態様であってもよい。例えば、インク供給流路48およびインク回収流路49に対応する流路は第1支持部材4に形成され、そのような第1支持部材4に吐出素子基板340が接合された構成が採用されてもよい。
【0124】
図20(a)~20(b)は、吐出モジュール300における吐出口13の近傍についての断面模式図である。図中における個別供給流路18および個別回収流路19内に示された太い矢印は、シリアルヘッドである液体吐出ヘッド1を備える液体吐出装置50におけるインクの揺動の向きを示す。
【0125】
個別供給流路18および供給接続流路323を介して圧力室12に供給されたインクは、吐出素子15の駆動により吐出口13から吐出される。吐出素子15が駆動されない場合、インクは、圧力室12から回収流路である回収接続流路324を介して個別回収流路19へと回収される。このように循環するインクを吐出する際、該吐出は、液体吐出ヘッド1の走査により、インク流路内のインクが揺動しうる。このことは、インクの吐出量が変動したり、インクの吐出方向が変動したりする原因となりうる。
【0126】
図21は、個別供給流路18および個別回収流路19をX方向に広げた比較例の断面模式図を示す。個別供給流路18および個別回収流路19が、図21に示されるように、液体吐出ヘッド1の走査方向であるX方向に幅広の断面形状を備える場合、個別供給流路18および個別回収流路19内のインクは、走査方向の慣性により比較的大きく揺動しうる。このことは、吐出口13からのインクの吐出に影響を与えうる。また、このような構成は、ノズルの高ピッチ化を妨げることともなり、印刷効率の低下の原因ともなりうる。
【0127】
本実施形態においては、個別供給流路18および個別回収流路19は、図20(a)~20(b)に示されるように、走査方向であるX方向より、それと交差するY方向およびZ方向に延在して形成される。このような構成によれば、液体吐出ヘッド1の走査中における個別供給流路18および個別回収流路19内のインクの揺動を抑制可能となる。これにより、インクの揺動に起因するインクの吐出に対する影響を抑制可能となる。また、個別供給流路18および個別回収流路19がZ方向に延在することにより、其れらの断面積を大きくして圧力損失を低減可能とする。
【0128】
更に、本実施形態においては、上記低減されたインクの揺動の影響が複数種類のインク間においても(他の色のインクとも)等しくなるように、個別供給流路18および個別回収流路19はX方向に対して互いに重なる位置に配置されうる。これにより、それらのインクは何れの種類も互いに同様の態様で吐出されうる。
供給接続流路323および回収接続流路324は、吐出口13に対応して設けられ、吐出口13を挟むようにX方向に並んで位置する。個別供給流路18および個別回収流路19がX方向において重ならないと、供給接続流路323および回収接続流路324の上記位置関係が満たされなくなる。このことは、圧力室12におけるX方向へのインクの流れ、該インクの吐出等に影響を与えうる。追加的に上記インクの揺動が発生することは、吐出口13毎のインクの吐出態様に更に影響を与えうる。
そのため、個別供給流路18および個別回収流路19をX方向に対して重なる位置に配置することにより、Y方向に配列される吐出口13の何れにおいても走査中における個別供給流路18および個別回収流路19でのインクの揺動が実質的に同様となる。これにより、圧力室12内で生じうる個別供給流路18側と個別回収流路19側との圧力差のばらつきが抑制され、インクの吐出を安定化させることが可能となる。
【0129】
尚、個別供給流路18と個別回収流路19とがX方向において近接して配置されることにより、インクの揺動による上記影響が更に抑制可能となり、例えば、それらの距離は75μm~100μmで設定されてもよい。
【0130】
このようなインク循環型の液体吐出ヘッド1のなかには、液体吐出ヘッド1へインクを供給する流路と回収する流路とが同じ流路で構成されているものもあるが、本実施形態においては個別供給流路18と個別回収流路19とが独立して形成される。そして、供給接続流路323と圧力室12とが連通し、圧力室12と回収接続流路324とが連通し、供給接続流路323と回収接続流路324とを接続する圧力室12が吐出口13を備え、吐出口13からインクが吐出される。そのため、圧力室12には供給接続流路323側から回収接続流路324側へのインクの流れが発生しており、圧力室12内のインクが循環される。一般に、圧力室12内のインクは吐出口13における蒸発等の影響を受けうるが、圧力室12内のインクが適切に循環されることにより、このような影響が抑制され、圧力室12のインクの品質を維持可能となる。
【0131】
また、個別供給流路18および個別回収流路19の2つの流路が圧力室12と連通していることにより、インクの流量を比較的大きくして吐出を行う場合には、両方の流路からインクを供給することも可能とする。即ち、本構成は、インク循環を実現可能とするだけでなく、比較的大流量でのインクの吐出にも対応可能である。
【0132】
図22は、比較例としての吐出素子基板340の平面模式図である。尚、図中においては供給接続流路323および回収接続流路324を省略する。
個別回収流路19には、圧力室12にて吐出素子15による熱エネルギーを受けたインクが流れ込むため、個別供給流路18内のインクより高温となったインクが流れる。このとき、比較例である図22の例によれば、一点鎖線で示されるα部のように、吐出素子基板340のX方向における一部において、個別供給流路18および個別回収流路19のうち実質的に個別回収流路19のみが存在する。このような構成においては、この部分で局所的に温度が高くなり、吐出モジュール300内に温度ムラを生じさせ、インクの吐出に影響を与えてしまう。
個別供給流路18には、個別回収流路19内のインクより低温のインクが流れる。そのため、個別供給流路18と個別回収流路19とが隣接していると、その近傍では、個別供給流路18および個別回収流路19間での熱交換により温度上昇が抑制可能となる。よって、個別供給流路18と個別回収流路19とは略同じ長さでX方向において互いに重なり合う位置に存在し且つ隣接しているとよい。
【0133】
図23(a)~23(b)は、液体吐出ヘッド1におけるC、M及びYの3色のインクについての流路を示す。液体吐出ヘッド1においては、図23(a)に示されるようにインクの種類毎に循環流路が設けられる。圧力室12は、液体吐出ヘッド1の走査方向であるX方向に沿って設けられる。また、個別供給流路18と個別回収流路19とは、図23(b)に示されるように、吐出口13が配列された吐出口列に沿って設けられ、個別供給流路18と個別回収流路19とで吐出口列を挟むようにY方向に延設される。
【0134】
ところで、インク循環が行われずに比較的長時間が経過した場合に、インクの流路内にインクの固形成分が沈降して堆積してしまう。このことは、流路内におけるインクの流れを妨げたり、吐出口13からのインクの適切な吐出を妨げたりする原因となりうる。
【0135】
図24は、このような回復動作の一つとして循環ポンプ500を駆動するため制御のフローチャートである。本フローチャートは、主にCPU100により実行されうる。本処理は沈降しやすいインク(本実施形態ではWインク(白インク))について行う。
ステップS101(以下、単に「S101」とする。後述の他のステップについても同様とする。)では、前回のインク循環からの経過時間が基準(本例では1時間)を満たしたか否かを判定する。経過時間は、タイマー35により取得可能である。前回のインク循環からの経過時間が基準を満たす場合にはS102に進み、そうでない場合には本フローチャートを終了とする。
【0136】
S102では、キャップ411が液体吐出ヘッド1のノズル面をキャッピングした閉状態か否かを判定する。キャップ411が閉状態の場合にはS104に進み、そうでない場合(キャップ411が開状態の場合)にはS103に進む。S103では、キャップ411を閉状態にする。これによりインクの蒸発を防止可能とする。
ここで、タイマー35による経過時間の計測は常時(例えば、液体吐出装置50のスリープ状態や電源オフの状態の間も)行われており、S102に進む際、タイマー35による計測値はリセットされて再計測が開始されうる。
【0137】
S104では、サブヒータ14を駆動してインクを加熱する。
【0138】
S105では、インク温度が目標温度(本例では40℃)に達したか否かを判定する。インク温度が目標温度に達している場合にはS106に進み、そうでない場合にはS104に戻る。インク温度は、温度センサS1~S9の検出結果に基づいて取得可能である。
S104~S105の動作は、インク温度を目標温度まで昇温するための昇温動作と謂え、この間の動作モードは昇温モードと謂える。
【0139】
S106では、動作モードを昇温モードから保温モードにし、インク温度を目標温度(本例では40℃)に維持する。保温モードは、温度センサS1~S9による検出結果に基づいて実現されればよく、即ち、インク温度が40℃未満の場合にはサブヒータ14が駆動され、インク温度が40℃以上の場合には該駆動が抑制されうる。
S106の動作は、S104~S105の動作と共に、インク温度を目標温度にするための温調動作と謂える。
【0140】
S107では、循環ポンプ500を駆動することによりインク循環を開始する。
【0141】
S108では、インク循環が開始されてから所定時間(本例では30秒)が経過するまで待機する。
【0142】
S109では、循環ポンプ500を停止してインク循環を終了させる。
【0143】
S110では、サブヒータ14の駆動を停止してインクの温調を停止し、本フローチャートを終了とする。
【0144】
図25(a1)~25(b3)は、インク内に沈降して堆積した固形成分の堆積物Dを循環ポンプ500のインク循環により解消する様子であって、上記フローチャートのステップに対応する様子を示す吐出モジュール300の模式図である。図25(a1)~25(a3)は、S104~S106の温調動作が行われない場合におけるインク循環の様子を示し、図25(b1)~25(b3)は、該温調動作が行われる場合におけるインク循環の様子を示す。
【0145】
図25(a1)は、前回のインク循環が停止されてから基準時間(本例では1時間)経過した後の状態であって循環ポンプ500が停止している状態を示す。インク循環が停止されてから放置状態が継続するとインクの固形成分が沈降し、それにより主に流路内の平坦部に堆積物(沈降物)Dが現れうる。
図25(a2)は、循環ポンプ500の駆動によりインク循環が行われている状態を示す。図中の矢印は、インク循環によりインクが流れる向きを示す。本例では温調動作が行われず、その環境温度は25℃とし、即ち、液体吐出ヘッド1の温度およびインク温度は何れも25℃とする。インクが流れることにより堆積物Dは徐々に溶けて小さくなる。
図25(a3)は、堆積物Dの全部が解消された様子を示す。温調動作を行わずにインク循環を行う本例の場合、堆積物Dを解消するのに要する時間は約1分である。
【0146】
図25(b1)は、図25(a1)同様、前回のインク循環が停止されてから基準時間が経過した後の状態であって循環ポンプ500が停止している状態を示す。
図25(b2)は、循環ポンプ500の駆動によりインク循環が行われている状態を示す。本例では、インク温度が目標温度(本例では40℃)となってインクの粘度が下がった状態でインク循環が開始される。そのため、図中において太い矢印で示されるように、インクの流量(循環量)が大きくなってインク循環が容易となっている。
図25(a3)は、堆積物Dの全部が解消された様子を示す。温調動作を行ってインク循環を行う本例の場合、インクの流量が大きくなることにより堆積物Dを解消するのに要する時間が短縮されて約30秒である。
【0147】
また、白インク以外のインクについて、インク循環が行われずに比較的長時間が経過した場合にも、循環を行ってもよい。
例えば、放置後のインクの増粘の影響が少ないインクの場合には、所定時間経過後(例えば1時間経過後)にキャップを閉めた状態で、昇温は行わず、循環を行うようにしても良い。もしくは、キャップを閉めた状態で循環を開始し、その後昇温を開始するようにしてもよい。
また、放置後のインクの増粘の影響があるインクの場合には、キャップを閉めた状態で昇温を開始し、その後循環を開始するようにしても良い。
また、これらを組み合わせて制御を行っても良い。例えば、キャップが開いた状態で所定時間経過した場合は、放置後のインクの増粘の影響があるとして、キャップを閉めた状態で昇温を開始し、その後循環を開始し、キャップを閉めた状態で所定時間経過した場合にはされていた場合にはキャップを閉めた状態で、昇温は行わず、循環を行うようにしても良い。また、装置が置かれている環境の温度が高ければ放置後のインクの増粘の影響があるとし、低ければインクの増粘の影響が少ないとして制御を変えても良い。
【0148】
以上のとおり、インク循環が行われずに比較的長時間が経過した場合に流路内に堆積しうる堆積物Dは、循環ポンプ500を用いたインク循環により解消し、回復動作を実行可能である。インク循環の間においては、キャップ411が閉状態であるため、インクの蒸発が抑制可能である。また、インク循環に際して、インクの温調によりインクの粘性を下げてインクの流量を大きくするため、堆積物Dが解消されるまでの時間を短縮可能となり、循環ポンプ500を無用に長時間に亘って駆動する必要もない。
よって、本実施形態によれば、液体吐出装置50による記録の高品質化に有利である他、循環ポンプ500の長寿命化にも有利となる。
【0149】
≪第2実施形態≫
図26は、第2実施形態に係る、堆積物Dを解消するための回復動作についてのフローチャートである。本フローチャートは、主にCPU100により実行されうる。
S201では、S101同様、前回のインク循環からの経過時間が基準(本例では1時間)を満たしたか否かを判定する。経過時間は、タイマー35により取得可能である。前回のインク循環からの経過時間が基準を満たす場合にはS202に進み、そうでない場合にはS211に進む。
【0150】
S202~S208は、それぞれS102~S108同様とする。
S209では、キャップ411を開状態にし、その後、S210にて記録を開始し、本フローチャートを終了とする。
【0151】
S211では、キャップ411が開状態か否かを判定する。キャップ411が開状態の場合にはS213に進み、そうでない場合(キャップ411が閉状態の場合)にはS212に進む。S212では、キャップ411を開状態にし、後のインク循環の完了後に速やかに記録を開始可能にする。
【0152】
S213では、循環ポンプ500を駆動することによりインク循環を開始する。
【0153】
S214~S216は、それぞれS204~S206(或いはS104~S106)同様とする。
【0154】
S217では、記録を開始し、本フローチャートを終了とする。
【0155】
図27(a1)~27(b3)は、堆積物Dを循環ポンプ500のインク循環により解消する様子であって、上記フローチャートのステップに対応する様子を示す吐出モジュール300の模式図である。図27(a1)~27(a3)は、前回のインク循環からの経過時間が基準(本例では1時間)を満たす場合であるS202~S210の様子を示し、図27(b1)~27(b3)は、該経過時間が基準を満たさない場合であるS211~S217の様子を示す。
【0156】
図27(a1)~27(a2)に示されるように、図25(b1)~25(b2)同様、インク温度が目標温度(本例では40℃)となってインクの粘度が下がった状態でインク循環が行われ、インクの流量(循環量)が大きくなる。これにより、堆積物Dが比較的短時間(例えば約30秒)で解消されうる。
図27(a3)に示されるように、堆積物Dの全部が解消された後、キャップ411を開状態にして記録を開始し、これにより、速やかに記録動作に移行すると共にインクの無用な蒸発を防止することが可能となる。また、温調動作によりインク温度が目標温度となっているため、このときのインクの粘性は充分に下げられており、記録は適切に実現可能である。
【0157】
一般に、記録動作は速やかに開始可能であることが求められうる。前回のインク循環からの経過時間が基準(本例では1時間)を満たさない場合には、図27(b1)に示されるように、堆積物Dは比較的小さい。このような場合には、該比較的小さい堆積物Dの解消よりも記録動作を一層速やかに開始可能となるように制御することができる。
そして、図27(b2)に示されるように、温調動作を行わずに(即ち、昇温によりインクの流量を大きくすることなく)インク循環を行うことにより該比較的小さい堆積物Dを解消可能であり、また、キャップ411が開状態であってもインクの蒸発が抑制されうる。
その後、図27(b3)に示されるように、記録を開始する際には上記比較的小さい堆積物Dは解消されており、温調動作によりインクが適切に吐出可能となっており、速やかに記録を開始可能である。
【0158】
白インク以外のインクについて、記録前は図28の処理を行う。本処理では、ノズル乾燥固着防止のため、循環、温調の順で実施する。記録を開始するまでの時間を短縮するため、キャップ開状態で循環を行う。本フローチャートは、主にCPU100により実行されうる。
S301では、キャップ411を開状態にし、後のインク循環の完了後に速やかに記録を開始可能にする。
S302では、循環ポンプ500を駆動することによりインク循環を開始する。
S303では、サブヒータ14を駆動してインクを加熱する。
S304にて記録を開始し、本フローチャートを終了とする。
【0159】
本実施形態によれば、前述の第1実施形態同様の効果が得られる他、前回のインク循環からの経過時間に基づいてインク循環と温調動作との実行順序を変更する。それにより、記録の開始前に要する準備時間と、それに伴うインクの吐出態様とを考慮した形で、液体吐出装置50による記録の高品質化を実現可能となる。
【0160】
≪他の実施形態≫
前述の実施形態によれば、前回のインク循環からの経過時間によりインクの循環経路(主に流路内の平坦部)に形成されうる堆積物Dを、温調により比較的低粘度となったインクを比較的大流量で循環させることにより解消容易とする。実施形態には、その趣旨を逸脱しない範囲で多様な変更を追加可能である。
例えば、実施形態では、液体吐出ヘッド1がシリアルヘッドの場合について例示したが、実施形態の内容は、記録媒体Pの幅方向全域を一度の記録可能なラインヘッドの場合にも適用可能である。ラインヘッドの採用によりインク循環を実現するための循環機構ないし循環システムが大型化する場合には、循環ポンプ500は液体吐出ヘッド1とは別体で設けられてもよい。即ち、多様な液体吐出装置50において実施形態に係るインク循環を実現可能である。循環ポンプ500は、圧電ダイヤフラムポンプでなくてもよく、チューブポンプ等、他の公知のポンプ構成が採用されてもよい。
同様に、上記にて例示されたインク循環を実現するための循環機構は、本例に限られるものではなく、循環経路、循環ユニット54の一部/全部、或いは、それ/それらに関連する機構の一部/全部は、その/それらの趣旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0161】
また、インクを目標温度にするための温調動作の実行時間は、環境温度に応じて調整されてもよく、例えば、環境温度が高い場合には短縮され、環境温度が低い場合には延長されてもよい。温調動作の実行時間は、インクの含有成分に応じて調整されてもよく、例えば、含有成分として比較的小さな粒子の顔料を含む場合には温調動作の実行時間が短縮されてもよいし、比較的大きな粒子の顔料を含む場合には温調動作の実行時間が延長されてもよい。
同様の趣旨で、目標温度が調整されてもよく、温調動作の実行時間の短縮に代替ないし付随して目標温度が低く設定されてもよいし、温調動作の実行時間の延長に代替ないし付随して目標温度が高く設定されてもよい。その際、高温となることによりインクの品質が変わってしまうことを防止するため、目標温度は、インクの含有成分に基づいて目標温度が変更されてもよい。尚、目標温度には、キャップ411等の周辺機器に加熱に伴う影響が実質的にない値が設定されればよい。
【0162】
≪その他≫
実施形態においては、個々の要素をその主機能に基づく表現で命名したが、実施形態で述べられた機能は副機能であってもよく、その表現に厳密に限定されるものではない。また、その表現は同様の表現に置換え可能とする。同様の趣旨で、「部(unit、pоrtiоn)」という表現は、「手段(means)」、「ツール(tооl)」、「部品(cоmpоnent)」、「部材(member)」、「構造体(structure)」、「組立体(assembly)」等に置換え可能である。或いは、其れらは省略されてもよいし付されてもよい。
【0163】
≪実施形態のまとめ≫
実施形態にて例示された幾つかの特徴は次のとおり纏められる:
[1]
液体を吐出可能なノズルを有する液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドに供給される液体を循環させる循環機構と、
前記循環機構により循環される液体についての温調を行う加熱素子と、
前記循環機構により循環される液体についての温度を検出する温度センサと、
前記液体吐出ヘッドにおける液体を吐出するノズルをキャッピング可能なキャップと、を備え、
前記循環機構は、前記ノズルが前記キャップによりキャッピングされた状態の下で前記温度センサの検出結果に基づいて液体を循環させる
ことを特徴とする液体吐出装置。
[2]
前記循環機構は、前記加熱素子により液体が加熱されて目標温度に達した後に該液体を循環させる
ことを特徴とする[1]記載の液体吐出装置。
[3]
前記循環機構は、前回の液体の循環からの経過時間が基準を満たす場合に液体を循環させる
ことを特徴とする[2]記載の液体吐出装置。
[4]
前記キャップは、前記経過時間が前記基準を満たすか否かに基づいて前記ノズルをキャッピングする
ことを特徴とする[3]記載の液体吐出装置。
[5]
前記加熱素子は、前記経過時間が前記基準を満たすか否かに基づいて、前記循環機構による液体の循環の前または後に該液体を加熱する
ことを特徴とする[4]記載の液体吐出装置。
[6]
前記液体吐出ヘッドは、前記循環機構による液体の循環の後に該液体を吐出する
ことを特徴とする[5]記載の液体吐出装置。
[7]
前記循環機構による液体の循環の時間は、該液体の温度及び/又は該液体の含有成分に基づいて調整される
ことを特徴とする[1]~[6]の何れか1項記載の液体吐出装置。
[8]
前記加熱素子により加熱される液体の目標温度は、該液体の温度及び/又は該液体の含有成分に基づいて調整される
ことを特徴とする[1]~[7]の何れか1項記載の液体吐出装置。
[9]
画像の記録を開始する際に、前回の液体の循環からの経過時間が所定の時間経過していた場合には、前記循環機構は前記ノズルが前記キャップによりキャッピングされた状態で液体を循環させ、
画像の記録を開始する際に、前回の液体の循環からの経過時間が所定の時間経過していない場合には、前記循環機構は前記ノズルが前記キャップによるキャッピングを開けた状態で液体を循環させる
ことを特徴とする[1]~[8]の何れか1項に記載の液体吐出装置。
[10]
画像の記録を開始する際に、前回の液体の循環からの経過時間が所定の時間経過していた場合には、前記加熱素子による温調を開始した後に前記循環機構による液体の循環を行い、
画像の記録を開始する際に、前回の液体の循環からの経過時間が所定の時間経過していない場合には、前記循環機構による液体の循環を開始した後に前記加熱素子による温調を行う
ことを特徴とする[1]~[9]の何れか1項に記載の液体吐出装置。
[11]
ブラックインクを吐出可能なノズルと、
白インクを吐出可能なノズルと、を有し、
画像の記録を開始する際に、
白インクについては前記加熱素子による温調を開始した後に前記循環機構による液体の循環を行い、
ブラックインクについては前記循環機構による液体の循環を開始した後に前記加熱素子による温調を行う
ことを特徴とする[1]~[10]の何れか1項に記載の液体吐出装置。
[12]
カラーインクを吐出可能なノズルを有し、
画像の記録を開始する際に、カラーインクについては前記循環機構による液体の循環を開始した後に前記加熱素子による温調を行う
ことを特徴とする[11]に記載の液体吐出装置。
【0164】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0165】
50:液体吐出装置、1:液体吐出ヘッド、500:循環ポンプ、14:サブヒータ、S1~S9:温度センサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図14
図15
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