(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180305
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/454 20210101AFI20241219BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20241219BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20241219BHJP
H01M 50/44 20210101ALI20241219BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20241219BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241219BHJP
【FI】
H01M50/454
H01M50/417
H01M50/414
H01M50/44
H01M10/0566
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024084549
(22)【出願日】2024-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2023098949
(32)【優先日】2023-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】村杉 英昭
(72)【発明者】
【氏名】竹下 将太
(72)【発明者】
【氏名】二ノ宮 有希
(72)【発明者】
【氏名】尾形 大輔
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
【Fターム(参考)】
5H021CC02
5H021CC04
5H021EE02
5H021EE04
5H021HH00
5H021HH03
5H029AJ12
5H029AK03
5H029AK05
5H029AK16
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL16
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029DJ04
5H029EJ12
5H029HJ00
5H029HJ04
5H029HJ10
(57)【要約】
【課題】電池が発熱する時に生じるセパレータの熱収縮を低減することによって、正-負極間の短絡を抑制することを課題とする。
【解決手段】電極体を含む二次電池であって、前記電極体が正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極とがセパレータを介して重ねられた構造を有しており、前記セパレータがポリオレフィン微多孔膜と、その少なくとも一方の面にポリアリーレンスルフィドペーパーが配置されており、前記ポリアリーレンスルフィドペーパーが160℃で20分加熱した時の収縮率をフィルム面方向に測定した際、最も収縮率が高い方向の収縮率が5%以下である、二次電池。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極体を含む二次電池であって、前記電極体は正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極とがセパレータを介して重ねられた構造を有しており、前記セパレータがポリオレフィン微多孔膜と、その少なくとも一方の面にポリアリーレンスルフィドペーパーが配置されており、前記ポリアリーレンスルフィドペーパーが160℃で20分加熱した時の収縮率をフィルム面方向に測定した際、最も収縮率が高い方向の収縮率が5%以下である、二次電池。
【請求項2】
前記ポリアリーレンスルフィドペーパーの結晶化度が10~50%である、請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記ポリアリーレンスルフィドペーパーの目付が5~40g/m2である、請求項1または2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記二次電池が非水系電解液を有しており、前記非水系電解液中の塩濃度が1.1~2.5Mである、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記ポリオレフィン微多孔膜の膜厚が5μm以下である、請求項1または2に記載の二次電池。
【請求項6】
前記ポリオレフィン微多孔膜および前記ポリアリーレンスルフィドペーパーが、正極/ポリオレフィン微多孔膜/ポリアリーレンスルフィドペーパー/負極の順に配置されてなる、請求項1または2に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微多孔膜は、ろ過膜、透析膜などのフィルター、電池用セパレータや電解コンデンサー用のセパレータなどの種々の分野に用いられる。これらの中でも、ポリオレフィンを樹脂材料とする微多孔膜は、絶縁性、イオン透過性、耐薬品性などに優れるため、近年、二次電池用セパレータとして広く用いられる。
二次電池は、高容量、高エネルギー密度が達成できるといった特性から、今後も民生用途(携帯端末、電動工具など)、輸送用と(自動車、バスなど)、蓄電用途(スマートグリッドなど)での使用拡大が期待される。これらの電池は、正・負極の電極間に電気絶縁性の多孔質のフィルムからなるセパレータを介在させ、フィルムの空隙内にリチウム塩を溶解した電解液を含侵し、それらの正・負極とセパレータを積層したり、または渦巻式に捲き付けたりした構造が主である。一方で、二次電池は、電池内外で生じうる短絡に対して種々の安全策を講じる必要があり、セパレータに様々な工夫を加える試みがなされている。
【0003】
例えば、特許文献1では、ポリオレフィン微多孔膜基材の表面に耐熱性多孔質層を形成する技術が開示されている。また、特許文献2では、ポリオレフィン微多孔膜にガラス繊維の織布または不織布を積層する技術が開示されている。また、特許文献3では、ポリオレフィン微多孔膜にポリアリーレンスルフィド製不織布を配置する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2008/149895号
【特許文献2】特開平10-12211号公報
【特許文献3】特開2000-108249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、必ずしも膜全体としての耐熱収縮性が十分ではなく、セパレータの熱収縮に伴う正-負極の電極間での短絡を抑制することが出来なかった。また、特許文献2に記載の技術では、ガラス繊維は塩濃度が1.1M以上であるような電解液に対する耐薬品性が不十分であり、このような電解液を用いた場合にはガラスが侵食され、形状を保つことが出来なくなるために絶縁を維持することが不可能であった。また、特許文献3に記載のポリアリーレンスルフィド不織布はメルトブロー法で作製された未延伸のポリアリーレンスルフィド糸が用いられているため、結晶化度が小さいものとなる。このような糸は、耐熱収縮性が十分でなく、セパレータの熱収縮に伴う正-負極間での短絡を抑制することが不可能であった。
【0006】
本発明は、セパレータに求められる絶縁性やイオン透過性、耐薬品性といった特性を犠牲にすることなく、耐熱収縮性に優れたセパレータを用いることで、電池の発熱時における正-負極間の短絡を抑制する二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため本発明は、以下の構成を有する。
[I]電極体を含む二次電池であって、前記電極体は正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極がセパレータを介して重ねられた構造を有しており、前記セパレータがポリオレフィン微多孔膜と、その少なくとも一方の面にポリアリーレンスルフィドペーパーが配置されており、前記ポリアリーレンスルフィドペーパーが160℃で20分加熱した時の収縮率をフィルム面方向に測定した際、最も収縮率が高い方向の収縮率が5%以下である、二次電池。
[II]前記ポリアリーレンスルフィドペーパーの結晶化度が10~50%である、[I]に記載の二次電池。
[III]前記ポリアリーレンスルフィドペーパーの目付が5~40g/m2である、[I]または[II]に記載の二次電池。
[IV]前記二次電池が非水系電解液を有しており、前記非水系電解液中の塩濃度が1.1~2.5Mである、[I]~[III]のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
[V]前記ポリオレフィン微多孔膜の膜厚が5μm以下である、[I]~[IV]のいずれかに記載の二次電池。
[VI]前記ポリオレフィン微多孔膜および前記ポリアリーレンスルフィドペーパーが、正極/ポリオレフィン微多孔膜/ポリアリーレンスルフィドペーパー/負極の順に配置されてなる、[I]~[V]のいずれかに記載の二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明の二次電池は、セパレータの熱収縮に伴う正-負極間の短絡発生を抑制することができる。そのため、電池としての安全性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の二次電池は、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極との間に、セパレータが配置された構成をとる。ここで、セパレータは、ポリオレフィン微多孔膜とその少なくとも一方の面にポリアリーレンスルフィドペーパーを配置することによって得られる。まず、ポリオレフィン微多孔膜について説明する。
【0010】
本発明におけるポリオレフィン微多孔膜は、ポリオレフィン樹脂を主成分とする。ここで、主成分とするとは、全質量を100質量%とした際に、50質量%を超えて100質量%以下含有することを意味する。
ここで、本発明の実施形態にかかるポリオレフィン樹脂としては、各種ポリエチレン樹脂や各種ポリプロピレン樹脂などが挙げられる。本発明の実施形態で用いるポリエチレン樹脂とは、ポリエチレン樹脂の重合体の全質量を100質量%とした際に、エチレン由来成分の合計含有量が50質量%を超えて100質量%以下である様態の重合体を意味する。
【0011】
また、本発明の実施形態で用いるポリプロピレン樹脂とは、ポリプロピレン樹脂の重合体の全質量を100質量%とした際に、プロピレン由来成分の合計含有量が50質量%を超えて100質量%以下である様態の重合体を意味する。
本発明の実施形態で用いるポリエチレン樹脂は、エチレンのみからなるホモポリマー、またはプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-へキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-へキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-へキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等などの鎖状オレフィン(α-オレフィン)が共重合されたコポリマーなどが挙げられる。
【0012】
本発明の実施形態で用いるポリプロピレン樹脂は、プロピレンのみからなるホモポリマー、またはエチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体などが挙げられる。ポリプロピレン系樹脂の添加量はポリオレフィン微多孔膜全質量に対し、5質量%未満であることがより好ましく、3質量%以下であることが更に好ましい。上記範囲とすることで、耐異物性に優れたポリオレフィン微多孔膜となる。
【0013】
また、本発明の実施形態で用いるポリオレフィン樹脂は、単一物、または2種類以上の異なるポリオレフィン樹脂の混合物のいずれであってもよい。これらの各種ポリオレフィン樹脂のなかでも、優れた孔閉塞性能の観点からポリエチレン樹脂が特に好ましい。ポリエチレン樹脂の融点(軟化点)は微多孔膜の孔閉塞性能の観点から70~150℃が好ましい。
【0014】
以下、本発明の実施形態で用いるポリオレフィン樹脂としてポリエチレン樹脂を例に詳述する。本発明での実施形態に用いられるポリエチレン樹脂の種類としては、密度が0.94g/cm3を越えるような高密度ポリエチレン、密度が0.93~0.94g/cm3の範囲の中密度ポリエチレン、密度が0.93g/cm3より低い低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、特定の分子量を有する超高分子量ポリエチレン等が挙げられるが、後述するポリオレフィン微多孔膜の内部の孔構造を所望の範囲に制御する観点からは、微多孔膜の全質量を100質量%とした際に、超高分子量ポリエチレンを主成分とする構成が好ましい。本発明の実施形態に用いられる超高分子量ポリエチレンは、重量平均分子量が1.0×106以上、1.0×107以下が好ましい。重量平均分子量が1.0×106以上の超高分子量ポリエチレンを用いることで、分子鎖の絡み合いが増加し、ポリオレフィン樹脂シートを延伸して微多孔膜を作製する際にシートに均一に応力が負荷される。そのため、開孔促進により透過性を向上させたり、微多孔膜を構成するフィブリルの配向促進により突刺強度を向上させたりすることができる。そのため、超高分子量ポリエチレンの重量平均分子量は、好ましくは1.0×106以上であり、より好ましくは1.5×106以上であり、さらに好ましくは2.0×106以上であり、特に好ましくは3.0×106以上である。また、重量平均分子量(Mw)の上限としては、ポリオレフィン樹脂の原料を押出機から押し出す際の安定性の観点から、好ましくは4.0×106以下であり、より好ましくは1.8×106以下である。
【0015】
超高分子量ポリエチレンは、ポリオレフィン樹脂全体100質量%に対して、例えば0質量%以上70質量%以下含むことができる。例えば、超高分子量ポリエチレンの含有量が10質量%以上60質量%以下である場合、得られるポリオレフィン微多孔膜のMwを後述する特定の範囲に容易に制御しやすく、かつ押出し混練性などの生産性に優れる傾向がある。また、超高分子量ポリエチレンを含有した場合、ポリオレフィン微多孔膜を薄膜化した際にも高い機械的強度を得ることができる。
【0016】
ポリオレフィン微多孔膜は、ポリプロピレン樹脂を含んでもよい。ポリプロピレンの種類は、特に限定されず、上述したポリプロピレン樹脂が挙げられる。単独で用いても良く、混合して用いても良いが、機械的強度及び貫通孔径の微小化等の観点から、プロピレンの単独重合体を用いることが好ましい。ポリオレフィン樹脂全体ポリプロピレンの含有量は、例えば0質量%以上15質量%以下であり、耐熱性の観点から、好ましくは2.5質量%以上15質量%以下である。
【0017】
また、ポリオレフィン微多孔膜は、必要に応じて、ポリエチレン及びポリプロピレン以外のその他の樹脂成分を含むことができる。その他の樹脂成分としては、例えば、耐熱性樹脂等を用いることができる。また、ポリオレフィン微多孔膜は、本発明の効果を損なわない範囲において、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、ブロッキング防止剤や充填剤、結晶造核剤、結晶化遅延剤等の各種添加剤を含有させてもよい。
【0018】
本発明に用いるポリオレフィン微多孔膜の膜厚は、特に限定されないが、1~5μm以下であると好ましく、より好ましくは1~4μm、さらに好ましくは1~3μmである。ポリオレフィン微多孔膜の膜厚が1μm以上であれば、電極に対する接着性が確保され、ポリオレフィン微多孔膜が融点以上で溶融収縮することを防ぎ、絶縁性を確保することが出来る。膜厚が5μm以下であれば、電池内部でポリオレフィン微多孔膜が占める容積が小さくなり、今後進むであろう電池の高容量化に適している。
【0019】
次いで、ポリアリーレンスルフィドペーパーについて説明する。本発明で用いられるポリアリーレンスルフィドペーパーは、ポリアリーレンスルフィド樹脂を主成分とする。ここで、ポリアリーレンスルフィド樹脂とは、繰返し単位として-(Ar-S)-(但しArはアリーレン基)で主として構成されたものである。アリーレン基としては、例えば、p-フェニレン基、m-フェニレン基、o-フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’-ジフェニレンスルフォン基、p,p’-ビフェニレン基、p,p’-ジフェニレンエーテル基、p,p’-ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基などが使用できる。
【0020】
また、前記のアリーレン基から構成されるアリーレンスルフィド基の中で、同一の繰返し単位を用いたポリマー、即ちホモポリマーの他に、組成物の加工性という点から、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物も使用することができるが、耐熱収縮性や耐薬品性、イオン透過性といったフィルム物性の観点から、特にポリフェニレンスルフィドを繰返し単位として用いたホモポリマーが好ましく用いられる。
【0021】
本発明のポリアリーレンスルフィドペーパーに用いるポリアリーレンスルフィド繊維は、主要構成単位としてポリフェニレンスルフィド単位を75モル%以上含有することが好ましく、より好ましくは、85モル%以上含むものである。この範囲であると、耐熱性、耐薬品性、成形性、機械的特性等が向上するため好ましい。本発明にポリフェニレンスルフィド繊維を用いる場合、紡出されたポリフェニレンスルフィド繊維をそのまま巻き取ることで得られる未延伸のポリフェニレンスルフィド繊維と、紡出に続いて熱延伸して配向させることで得られる延伸ポリフェニレンスルフィド繊維を併用することが好ましい。ポリフェニレンスルフィド繊維の一部に未延伸のポリフェニレンスルフィド繊維を含み、未延伸のポリフェニレンスルフィド繊維を用いて加熱することで、ポリフェニレンスルフィドペーパーを構成する未延伸のポリフェニレンスルフィド繊維と延伸ポリフェニレンスルフィド繊維とを強固に接着させることが可能となり、耐熱性・耐薬品性の向上、ならびに引張破断強度を向上することが出来る。ポリフェニレンスルフィド繊維は、長繊維不織布であっても、短繊維不織布であってもよい。
【0022】
ポリアリーレンスルフィドペーパーは、目付が5~40g/m2であることが好ましい。目付が低いほど気体透気度は高く、目付が高いほど気体透気度は低くなるが、目付が5g/m2以下であると、気体透気度が高すぎるためにリチウム析出によるデンドライト、および金属不純物の溶解析出による正-負極間の短絡防止が十分に出来なくなる場合がある。目付が80g/m2を超えると、イオン透過性が低下するために電池としての出力特性が悪くなる場合がある。ポリアリーレンスルフィドペーパーの目付が15~40g/m2であると、これらの効果が高まるためより好ましい。
【0023】
ポリアリーレンスルフィドペーパーは、厚みは特に限られるものでは無いが、5~100μmのものが好適に用いられる。厚みが5μm以上であると、十分な強度を発揮することができる。厚みが100μm以下であると、電池内部でポリアリーレンスルフィドペーパーが占める容積を小さくすることができる。
【0024】
本発明で好ましく用いられるポリアリーレンスルフィドペーパーは、160℃で20分加熱した時の収縮率をフィルム面方向に測定した際、最も収縮率が高い方向の収縮率が5%以下であることが好ましく、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下である。この範囲であると、熱収縮に伴う正-負極間の短絡を十分に抑制することができる。
【0025】
ポリアリーレンスルフィドペーパーの結晶化度は、10~50%であることが好ましく、より好ましくは20~40%である。結晶化度が10%以上とすることで、耐熱収縮性が良好となり、熱収縮に伴う正-負極間の短絡を抑制する効果が得られやすくなる。また、結晶化度が50%以下とすることで、ポリアリーレンスルフィドペーパーが脆化しやすくなるのを抑制することができる。結晶化度が20~40%であると、耐熱収縮性と耐脆化性の効果がより高まるので好ましい。
【0026】
本発明の電極体を含む二次電池において、上記ポリアリーレンスルフィドペーパーは、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一方の面に配置されれば良いが、両面に配置しても良い。例えば、正極/ポリアリーレンスルフィドペーパー/ポリオレフィン微多孔膜/負極という構成の他、正極/ポリオレフィン微多孔膜/ポリアリーレンスルフィドペーパー/負極という構成や、正極/ポリアリーレンスルフィドペーパー/ポリオレフィン微多孔膜/ポリアリーレンスルフィドペーパー/負極とすることもできる。いずれの配置方法でもCレートに依らず放電負荷特性に差は見られないが、正極/ポリオレフィン微多孔膜/ポリアリーレンスルフィドペーパー/負極の積層順であると、HotBox試験における電池の発熱をより抑制できるため好ましい。ここで、HotBox試験とは電池をフル充電または過充電させた後に、これを熱風オーブンに置いて5℃/minの速度で160℃まで昇温してからこの温度を維持し、その時の電池の発熱挙動を確認するものである。
【0027】
次いで、正極および負極について説明する。正極および負極は、正極または負極の活物質、結着剤、導電材からなり、溶剤とともにスラリーとして集電体上に塗布した後、乾燥、プレス等の工程を経て形成され、所定の長さ、幅にスリットすることで得られる。ここで、本発明で使用される正極、負極は特に限定されるものではなく、通常公知の正極および負極を用いることができる。例えば、負極活物質は、炭素体が好適に用いられることが多い。本発明に用いられる炭素体としては、特に限定されるものではなく、一般に有機物を焼成したものや黒鉛などが用いられる。炭素体の形態としては、粉末状または繊維状の炭素体を粉末化したものが好ましく用いられる。粉末状の炭素としては、破砕状、鱗片状、球状等の天然黒鉛、人造黒鉛、フリュードコークスなどのコークス、メソカーボンマイクロビーズ、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリビニルアルコール、リグニン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリイミド、フェノール樹脂、フルフリルアルコール樹脂、またはこれらの共重合体などの樹脂焼成体、石炭もしくは石油などのピッチ、セルロースの焼成体などが挙げられる。繊維状の炭素体としては、PANまたはその共重合体から得られるPAN系炭素繊維、石炭もしくは石油などのピッチから得られるピッチ系炭素繊維、セルロースから得られるセルロース系炭素繊維、低分子量有機物の気体から得られる気相成長炭素繊維などが挙げられるが、その他に、上述のポリビニルアルコール、リグニン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリイミド、フェノール樹脂、フルフリルアルコール樹脂などを焼成して得られる炭素繊維でも構わない。また、炭素体以外にも、例えば特開平7-235293号公報に示されるような金属酸化物やポリアセンなどの化合物、金属リチウムおよびその合金なども負極活物質として用いることもできる。
【0028】
正極活物質としては、アルカリ金属を含む遷移金属酸化物や遷移金属カルコゲンなどの無機化合物、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどの共役系高分子、ジスルフィド結合を有する高分子など、通常の二次電池において用いられる正極活物質を挙げることができる。
【0029】
本発明の実施形態にかかる二次電池は、電気自動車等の高エネルギー密度化、高容量化、および高出力化を必要とする二次電池として好ましく用いることができる。本発明の二次電池に用いられる電解液の種類は、特に限定されないが、種々の非水系電解液を用いることもできる。例えば、エチレンカーボネートやジメチルカーボネート等のカーボネート類、エチルメチルエーテル、ジプロピルエーテル等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、酢酸メチル等のエステル類、トリエチルアミン等のアミン類、メタノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、含フッ素アルカン等が挙げられる。これらのうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
上記非水系電解液は、非プロトン性有機溶媒であることが好ましく、そのような例として、上記アセトニトリルの他に、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、及びスルホランが挙げられる。これらに加えて、その他の非水系電解液を含む混合溶媒とすることも可能である。
【0030】
上記非水系電解液に対して支持電解質として用いられる塩は、特に限定はされないが、アルカリ金属塩を用いることが好ましい。ここで、電解液中の塩濃度は1.1M~2.5Mであることが好ましい。塩濃度が1.1M以上であると、イオン伝導度が高くなるため二次電池の出力特性が向上する。塩濃度が2.5M以下であると、溶媒の粘度が低下してイオンの拡散性を向上することができる。電解液中の塩濃度が1.5M~2.0Mであると、これらの効果が高まるのでより好ましい。
【実施例0031】
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において、様々な変形や修正が可能である。本発明の実施形態にかかる特性の測定方法を以下に示す。
【0032】
[単繊維繊度と繊維長]
単繊維繊度は、JIS L 1015(2010年)8.5A法に準じて測定する。また繊維長はJIS L 1015(2010年)8.4.1C法(直接法)に準じて測定する。なお、試料の繊維長が前記JIS L 1015(2010年)8.4.1C法(直接法)に規定される長さに満たない場合、繊維を伸長せずにまっすぐに伸ばして暫定長にカットし、長さ(mm)×本数=9000±900となる本数を一組とし、その質量と一組分の総長から見掛け繊度を求める。
【0033】
JIS L 1015(2010年)8.12.1に示される方法を基に捲縮数(個/
25mm)を測定した。試料原綿を、紙片上に、捲縮試験機のつかみ間の距離(空間距離
)に対して25±5%の緩みをもたせて両端を接着剤で貼り付けて固着させた。この試料
を1本ずつ、捲縮試験機のつかみに取り付け、紙片を切断した後、試料に初荷重1.8m
g×繊度(dtex)をかけたときの、つかみ間の距離(空間距離)(mm)を読み、そ
のときの捲縮数を数え、25mm間当たりの捲縮数を求め20回の平均値を算出した。基
材を構成する繊維を測定する際は、破断しないよう繊維を基材から抜き、同様に測定する
。なお、繊維長が上記JIS L 1015(2010年)8.12.1に規定する範囲
に満たない場合、1本の繊維中に少なくとも捲縮一つ分(例えば一つの山頂から隣の山頂
まで)、または、捲縮1/2分(すなわち一つの山頂から隣の谷底まで)を含む繊維を測
定に供するものとし、25mmあたりの捲縮数に換算するものとする。測定数は前者(1
本の繊維中に少なくとも捲縮一つ分を含む繊維)の場合、20回とし、後者(1本の繊維
中に捲縮1/2分を含む繊維)の場合、40回とした。
【0034】
[目付]
JIS L 1913(2010年)6.2に準じて、25cm×25cmの試験片を3枚採取し、標準状態(20℃、65%相対湿度)におけるそれぞれの重量(g)を量り、1m2当たりの質量(g/m2)で表した。
【0035】
[160℃熱収縮率]
ポリアリーレンスルフィドペーパーを直径100mmの円形に切り出し、160℃のオーブンに20分間投入する。オーブン投入後のポリアリーレンスルフィドペーパーにおいて、最も寸法が短くなっている箇所の直径をL(mm)とした時、160℃熱収縮率ΔL(%)は以下の式で表される。
ΔL = L/100×100
[結晶化度]
ポリアリーレンスルフィドペーパーの結晶化度は、示差走査熱量分析(DSC)法により測定した。アルミパンに5.0mgの試料を封入し、DSC-60Aを用いて、N2ガス雰囲気化にて30℃で1分間保持した後、30℃から350℃まで20℃/minで昇温した。この時に得られる融解熱量をA[J/g]、ポリアリーレンスルフィドペーパーの結晶融解吸熱ピーク熱量をB[J/g]とする時、結晶化度D(%)は以下の式で表されれる。
D = A/B×100
[膜厚]
ポリオレフィン微多孔膜の50mm×50mmの範囲内における任意の無作為に抽出した5カ所の膜厚を接触厚み計(株式会社ミツトヨ製ライトマチックVL-50(10.5mmΦ超硬球面測定子、測定荷重0.01N)により測定し、5カ所の平均値を厚み(μm)とした。
【0036】
[短絡抑制能]
短絡抑制能を下記手順にて試験を行い、開回路電圧にて評価した。
実施例および比較例で作製した二次電池を0.5Cの定電流で4.2Vまで充電した後、160℃のオーブンで20分間電池を加熱した。その後、電池の開回路電圧を測定し、3.0V未満であるものを×、3.0V以上の場合を〇とした。なお、開回路電圧は日置電機社製のバッテリーハイテスターBT3561にて測定した。
【0037】
[放電負荷特性]
放電負荷特性を下記手順にて試験を行い、放電容量維持率にて評価した。
実施例および比較例で作製した二次電池を用いて、25℃下、0.5Cで放電したときの放電容量と、1C、3C、5Cで放電したときの放電容量とを測定し、(各Cレートでの放電容量)/(0.5Cでの放電容量)×100で放電容量維持率を算出した。ここで、充電条件は0.5C、4.3Vの定電流充電とし、放電条件は2.7Vの定電流放電とした。二次電池は5個作製し、放電容量維持率が最大、最小となる結果を除去した3個の測定結果の平均を容量維持率とした。
1Cでの試験においては、放電容量維持率が75%未満を×、75%以上85%未満を△、85%以上95%未満を○、95%以上の場合を◎とした。
3Cでの試験においては、放電容量維持率が65%未満を×、65%以上75%未満を△、75%以上85%未満を○、85%以上の場合を◎とした。
5Cでの試験においては、放電容量維持率が35%未満を×、35%以上55%未満を△、55%以上65%未満を○、65%以上の場合を◎とした。
【0038】
[実施例1]
下記の通りセパレータおよび二次電池を作製した。表1にセパレータ物性と二次電池の特性を示した。
【0039】
<ポリオレフィン微多孔膜の製造方法>
ポリオレフィン微多孔膜の製造方法は、上記の特性を有するポリオレフィン微多孔膜が得られれば、特に限定されず、公知のポリオレフィン微多孔膜の製造方法を用いることができる。本実施例では、日本国特許第4460028号に記載された方法を参考にしてポリオレフィン微多孔膜を作製した。
【0040】
<ポリフェニレンスルフィドペーパーの製造方法>
延伸ポリフェニレンスルフィド繊維として、メルトフローレート値が165g/10
分の粉粒体状のペレットを溶融紡糸して巻き取り、未延伸糸を得た後、この未延伸糸を温
度95℃の温水浴中を通過させて延伸し、捲縮を施して単繊維繊度1.0dtex(直径
10μm)、カット長6mm、捲縮数6山/25mmの原綿を得た。また、紡糸、巻き取
り後、温水浴を通過させて延伸する工程は行わず、捲縮を施した未延伸ポリフェニレンスルフィド繊維として、単繊維繊度3.0dtex(直径17μm)、カット長6mm、
捲縮数6山/25mmのものを得た。
【0041】
延伸ポリフェニレンスルフィド繊維と未延伸ポリフェニレンスルフィド繊維とを、重量比で、延伸ポリフェニレンスルフィド繊維対未延伸ポリフェニレンスルフィド繊維=60対40となるように水に分散させて抄紙分散液とし、底に140メッシュの手漉き抄紙網を設置した大きさ25cm×25cm、高さ40cmの小型抄紙機(熊谷理機工業社製)に仕上がりの目付が40g/m2となるように投入し、さらに水を追加して抄紙分散液の総量を20リットルとし、攪拌器で十分に攪拌した。次に、小型抄紙機の水を抜き、抄紙網に残った湿紙を濾紙に転写した。上記湿紙を濾紙ごとロータリー式乾燥機(熊谷理機工業製ROTARY DRYER DR-200)に投入し、温度100℃、工程通過速度0.5m/min、工程長1.25m(処理時間2.5min)にて乾燥する処理を1回行って、ポリフェニレンスルフィド繊維湿式ペーパーを得た。
【0042】
スチールロールとペーパーロールとからなる油圧式3本ロールカレンダー加工機(由利ロール製、型式IH式H3RCM)を使用して、スチールロール温度200℃、線圧490N/cm、ロール回転速度5m/分で上記ポリフェニレンスルフィド繊維湿式ペーパーを加熱・加圧し、片面圧着ペーパーを得た。
【0043】
<正極の作製>
ドライ雰囲気中で正極活物質であるLi(Ni0.8Co0.1Mn0.1)O2100質量部と、導電助剤であるアセチレンブラック2質量部と、導電助剤である黒鉛2質量部と、バインダであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)4質量部〔N-メチルピロリドン(NMP)溶液として固形分量を供給〕と、添加剤である無水マレイン酸とを、溶媒であるNMPに均一になるように混合して正極合剤含有ペーストを調製した。次に、得られた正極合剤含有ペーストを、アルミニウム箔上に塗布、乾燥、圧延して正極を作製した。得られた正極は長さ504mm、幅56mmになるように切断した。このうち、一辺56mm×10mmはタブを接続するための未塗布部であって、この未塗布部にタブを溶接してリード部を形成した。
【0044】
<負極の作製>
負極活物質として天然黒鉛100質量部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースを1質量部、負極結着剤としてスチレン-ブタジエン共重合体1質量部を、プラネタリーミキサーを用いて水中に分散させた負極スラリーを、銅箔上に塗布、乾燥、圧延して作製した。得られた負極は長さ460mm、幅58mmになるように切断した。このうち、一辺58mm×10mmはタブを接続するための未塗布部であって、この未塗布部にタブを溶接してリード部を形成した。
【0045】
<非水電解液の調整>
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との体積比1:1の混合溶媒1Lに、1.5molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を溶解して電解液中の塩濃度が1.5Mとなる混合液を作製し、その混合液100質量部に、更にビニレンカーボネート(VC)を2質量部加えて、非水電解液を調製した。
【0046】
<電池の組み立て>
ドライ雰囲気中で、前記正極と前記負極とを、セパレータを介して重ね、渦巻状に巻回することで電極体を作製した。ここで、前記セパレータは、<ポリオレフィン微多孔膜の製造方法>に記載の通り製造されたポリオレフィン微多孔膜、および<ポリフェニレンスルフィドペーパーの製造方法>に記載の通り製造されたポリフェニレンスルフィドペーパーを有しており、本実施例では電極体の層構成が正極/ポリフェニレンスルフィドペーパー/ポリオレフィン微多孔膜/負極となるようにした。また、ポリオレフィン微多孔膜の膜厚は4.1(μm)であるものを用いた。この巻回電極体をアルミニウムラミネートフィルムからなる外装材内に収納し、上記非水電解液を注入した後に封止を行い、二次電池を作製した。
【0047】
実施例1で用いたポリフェニレンスルフィドペーパーの結晶化度D(%)および160℃熱収縮率ΔL(%)の値は表に記載のとおりであり、十分な耐熱収縮性能を備えていることが分かった。また、実施例1の二次電池の短絡抑制能や放電負荷特性評価の値は表に記載のとおりであった。
【0048】
<実施例2~7>
電極体の層構成、ポリオレフィン微多孔膜やポリフェニレンスルフィドペーパーの物性を表に記載のとおりとした以外は実施例1と同様にして、二次電池を作製した。二次電池の短絡抑制能や放電負荷特性評価の値は表に記載のとおりであった。
【0049】
<比較例1>
電極体の層構成を表に記載のとおりとした以外は実施例1と同様にして、二次電池を作製した。ここで、前記ポリフェニレンスルフィド不織布は、メルトブロー法で作製された未延伸のポリフェニレンスルフィド糸を用いたものであり、特許文献3の実施例1を参考にして作製した。この時、ポリフェニレンスルフィド不織布の結晶化度D(%)および160℃熱収縮率ΔLの値は表に記載のとおりであった。また、二次電池の短絡抑制能や放電負荷特性評価の値は表に記載のとおりであった。ポリフェニレンスルフィド不織布が十分な耐熱収縮性能を有さなかったため、短絡抑制能の評価は×であった。
【0050】
<比較例2>
層構成にポリフェニレンスルフィドペーパーを含まないこと以外は実施例1と同様にして、二次電池を作製した。この時、ポリオレフィン微多孔膜の160℃熱収縮率ΔLの値は表に記載のとおりであった。また、二次電池の短絡抑制能や放電負荷特性評価の値は表に記載のとおりであった。ポリオレフィン微多孔膜のみでは十分な耐熱収縮性能を得ることができなかったため、短絡抑制能の評価は×であった。
【0051】
<比較例3>
層構成にポリオレフィン微多孔膜を含まないこと以外は実施例1と同様にして、二次電池を作製した。ポリフェニレンスルフィドペーパーの結晶化度D(%)および160℃熱収縮率ΔL(%)の値は表に記載のとおりであった。また、二次電池の短絡抑制能や放電負荷特性評価の値は表に記載のとおりであった。比較例3の二次電池は充放電をする際にデンドライトが析出してしまい、短絡抑制能および放電負荷特性の評価をすることが出来なかった。
【0052】
<比較例4>
層構成を表に記載のとおりとした以外は実施例1と同様にして、二次電池を作製した。ここで、比較例4で用いたガラス繊維不織布は、特許文献2の実施例1を参考に作製した。この時、ガラス繊維不織布は電解液に溶け出してしまい、二次電池として機能しなかった。
【0053】