(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180317
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】ビール様飲料の静菌性を増強する方法
(51)【国際特許分類】
C12H 1/16 20060101AFI20241219BHJP
C12H 1/14 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C12H1/16
C12H1/14
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024091974
(22)【出願日】2024-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2023097692
(32)【優先日】2023-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】下川 正貴
(72)【発明者】
【氏名】中川路 伸吾
【テーマコード(参考)】
4B128
【Fターム(参考)】
4B128AC10
4B128AG09
4B128AP25
4B128AS01
(57)【要約】
【課題】pHを低下させる必要がなく、ホップの使用量又はアルコール濃度を高く維持する必要もない、ビール様飲料の静菌性を増強する方法を提供すること。
【解決手段】20℃における炭酸ガス圧を0.23MPa以上に調節することを含む、ビール様飲料の静菌性を増強する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
20℃における炭酸ガス圧を0.23MPa以上に調節することを含む、ビール様飲料の静菌性を増強する方法。
【請求項2】
静菌される微生物は、ビール様飲料に増殖可能な細菌である、請求項1に記載のビール様飲料の静菌性を増強する方法。
【請求項3】
前記細菌は、乳酸菌又は偏性嫌気性菌を含む、請求項2に記載のビール様飲料の静菌性を増強する方法。
【請求項4】
前記乳酸菌は、Levilactobacillus属菌、及びFurfurilactobacillus属菌を含み、前記偏性嫌気性菌は、Pectinatus属菌、及びMegasphaera属菌を含む、請求項3に記載のビール様飲料の静菌性を増強する方法。
【請求項5】
前記細菌は、Levilactobacillus brevis、Pectinatus haikarae、Furfurilactobacillus curtus、Pectinatus sottacetonis、Pectinatus cerevisiiphilus、Pectinatus frisingensis、Megasphaera sueciensis、Megasphaera paucivorans、及びMegasphaera cerevisiaeから成る群から選択される少なくとも一種を含む、請求項2に記載のビール様飲料の静菌性を増強する方法。
【請求項6】
前記20℃における炭酸ガス圧は、0.23~0.27MPaである、請求項1に記載のビール様飲料の静菌性を増強する方法。
【請求項7】
前記ビール様飲料は、4v/v%以下のアルコール濃度を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のビール様飲料の静菌性を増強する方法。
【請求項8】
前記ビール様飲料は、4.1~5.0のpHを有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のビール様飲料の静菌性を増強する方法。
【請求項9】
20℃における炭酸ガス圧を0.23MPa以上に調節すること、
pHを4.1~5.0に調整すること、及び
アルコール濃度を4v/v%以下に調節すること、
を含む、ビール様飲料の製造方法。
【請求項10】
0.23MPa以上の20℃における炭酸ガス圧、4.1~5.0のpH、及び4v/v%以下のアルコール濃度を有する、ビール様飲料。
【請求項11】
麦汁発酵液を含む、請求項10に記載のビール様飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビール様飲料の静菌性を増強する方法に関し、特に低アルコールビール様飲料の静菌性を増強する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールは独特の苦味や香味を有している。ビールとは、麦芽、ホップ、及び水を原料として、これらを、酵母を用いて発酵させて得られる飲料をいう。ビール様飲料は、味及び香りがビールを想起させる程度に同様になるように設計された飲料をいう。ビール様飲料の具体例には、ビール、発泡酒、雑酒、リキュール類、スピリッツ類、低アルコール飲料などであって、ビールを想起させる風味を有するものが含まれる。
【0003】
深酔いしにくく、健康に与える影響が小さいという理由から、アルコール濃度が低いビール様飲料が注目されている。そのような低アルコールビール様飲料は、一般に、アルコール濃度が約4v/v%以下である。
【0004】
特許文献1には、低温及び短時間の加熱によって、容器詰め炭酸アルコール飲料を十分に殺菌するための、アルコール濃度と炭酸ガス圧との関係が記載されている。殺菌される飲料については、レモン及びグレープフルーツ等の果肉又は果汁を含む容器詰め炭酸アルコール飲料が例示されている。殺菌条件の具体例として、殺菌温度65℃未満、殺菌時間10分以上20分以下、アルコール濃度5容量%以上、ガス圧2.3ガスボリューム以上に調節することが記載されている。
【0005】
特許文献1の殺菌方法では、殺菌効果が確認されている微生物が、酵母に限定されている。また、2.3ガスボリュームという炭酸ガス圧は、20℃において0.17MPaに相当する大きさである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ビール様飲料は、変敗防止の観点から、市場に流通させる製品として十分な静菌性を有する必要がある。ホップによる抗菌作用は、機能しない菌種があり、また、ビール様飲料のホップの使用量が少ない場合に不十分になる。また、アルコールによる抗菌作用は、ビール様飲料のアルコール濃度が低い場合に不十分になる。ビール様飲料の静菌性は、酸等のpH調整剤を添加することで増強することができる。しかしながら、pHを十分に低下させたビール様飲料は酸味が強く、酸味と甘味のバランスが悪く、嗜好性に劣ったものになる。
【0008】
本発明は、前記課題を解決するものであり、その目的とするところは、pHを低下させる必要がなく、ホップの使用量又はアルコール濃度を高く維持する必要もない、ビール様飲料の静菌性を増強する方法を提供することにある。尚、本明細書において、静菌とは、微生物の増殖を阻害する作用をいう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の態様を提供する。
[1]
20℃における炭酸ガス圧を0.23MPa以上に調節することを含む、ビール様飲料の静菌性を増強する方法。
【0010】
[2]
静菌される微生物は、ビール様飲料に増殖可能な細菌である、態様1のビール様飲料の静菌性を増強する方法。
【0011】
[3]
前記細菌は、乳酸菌又は偏性嫌気性菌を含む、態様2のビール様飲料の静菌性を増強する方法。
【0012】
[4]
前記乳酸菌は、Levilactobacillus属菌、及びFurfurilactobacillus属菌を含み、前記偏性嫌気性菌は、Pectinatus属菌、及びMegasphaera属菌を含む、態様3のビール様飲料の静菌性を増強する方法。
【0013】
[5]
前記細菌は、Levilactobacillus brevis、Pectinatus haikarae、Furfurilactobacillus curtus、Pectinatus sottacetonis、Pectinatus cerevisiiphilus、Pectinatus frisingensis、Megasphaera sueciensis、Megasphaera paucivorans、及びMegasphaera cerevisiaeから成る群から選択される少なくとも一種を含む、態様2のビール様飲料の静菌性を増強する方法。
【0014】
[6]
前記20℃における炭酸ガス圧は、0.23~0.30MPa、より好ましくは0.23~0.27MPa、更に好ましくは0.24~0.27MPaである、態様1~5のいずれかのビール様飲料の静菌性を増強する方法。
【0015】
[7]
前記ビール様飲料は、4v/v%以下、好ましくは1~4v/v%、より好ましくは2~4v/v%、更に好ましくは3~4v/v%のアルコール濃度を有する、態様1~6のいずれかのビール様飲料の静菌性を増強する方法。
【0016】
[8]
前記ビール様飲料は、4.1~5.0、好ましくは4.2を超えて4.8以下、更に好ましくは4.3~4.7のpHを有する、態様1~7のいずれかのビール様飲料の静菌性を増強する方法。
【0017】
[9]
20℃における炭酸ガス圧を0.23MPa以上、好ましくは0.23~0.30MPa、より好ましくは0.23~0.27MPa、更に好ましくは0.24~0.27MPaに調節すること、
pHを4.1~5.0、好ましくは4.2を超えて4.8以下、更に好ましくは4.3~4.7に調整すること、及び
アルコール濃度を4v/v%以下、好ましくは1~4v/v%、より好ましくは2~4v/v%、更に好ましくは3~4v/v%に調節すること、
を含む、ビール様飲料の製造方法。
【0018】
[10]
0.23MPa以上、好ましくは0.23~0.30MPa、より好ましくは0.23~0.27MPa、更に好ましくは0.24~0.27MPaの20℃における炭酸ガス圧、4.1~5.0、好ましくは4.2を超えて4.8以下、更に好ましくは4.3~4.7のpH、及び4v/v%以下、好ましくは1~4v/v%、より好ましくは2~4v/v%、更に好ましくは3~4v/v%のアルコール濃度を有する、ビール様飲料。
【0019】
[11]
麦汁発酵液を含む、態様10のビール様飲料。
[12]
前記20℃における炭酸ガス圧は、0.24~0.29MPa、好ましくは0.25~0.28MPa、より好ましくは0.26~0.27MPaである、態様1~5、7及び8のいずれかのビール様飲料の静菌性を増強する方法、態様9のビール様飲料の製造方法、又は態様10又は11のビール様飲料。
[13]
50U以上、好ましくは100~1000U、より好ましくは300~700Uのインベルターゼ活性を有する態様10~12のいずれかのビール様飲料。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、pHを低下させる必要がなく、ホップの使用量又はアルコール濃度を高く維持する必要もない、ビール様飲料の静菌性を増強する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。さらに本明細書の数値範囲の上限、及び下限は当該数値を任意に選択して、組み合わせることが可能である。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、ビール様飲料及びその製造方法を例示するものであって、本発明は、以下に示すビール様飲料及びその製造方法に限定されない。
【0022】
<ビール様飲料の静菌性を増強する方法>
本発明のビール様飲料の静菌性を増強する方法は、ビール様飲料の20℃における炭酸ガス圧を0.23MPa以上に調節することを含む。そうすることで、ビール様飲料の微生物に対する耐久性が向上して、市場に流通させる製品に静菌性を付与することができる。また、ビール様飲料の加熱処理を回避することが可能になり、劣化の進行が抑制される。前記炭酸ガス圧は、好ましくは0.23~0.30MPa、より好ましくは0.23~0.27MPa、更に好ましくは0.24~0.27MPaである。また、ある一形態において、前記炭酸ガス圧は0.24~0.29MPa、好ましくは0.25~0.28MPa、より好ましくは0.26~0.27MPaである。ここで、ビール様飲料の炭酸ガス圧は、製造された製品の炭酸ガス圧である。
【0023】
ビール様飲料の20℃における炭酸ガス圧は当業者に通常知られる方法を用いて測定することができ、調節することができる。
【0024】
<微生物>
本発明のビール様飲料の静菌性を増強する方法によって静菌される微生物は、ビール様飲料に増殖可能な微生物である。ビール様飲料に増殖可能な微生物であっても、酵母のように直径が比較的大きい微生物はビール様飲料製造工程でのフィルター除去など、工程での除菌が一般的であり、前記方法が有効である必要がない。
【0025】
本発明の前記静菌方法によって静菌される微生物は細菌を含む。前記静菌方法によって静菌される細菌として、具体的には、乳酸菌又は偏性嫌気性菌が挙げられる。これら菌種の一部は、ビールに増殖可能な菌種として知られている。また、これらは、低アルコールビール中に増殖しやすいことが知られている。前記乳酸菌は、例えば、Levilactobacillus属菌、及びFurfurilactobacillus属菌を含み、前記偏性嫌気性菌は、例えば、Pectinatus属菌、及びMegasphaera属菌を含むものである。具体的に、以下の菌は、本発明の方法によって静菌されると考えられる。
【0026】
【0027】
<ビール様飲料>
ビールとは、麦芽、ホップ、及び水を原料として、これらを、酵母を用いて発酵させて得られる飲料をいう。ビール様飲料は、味及び香りがビールを想起させる程度に同様になるように設計された飲料をいう。ビール様飲料の具体例には、ビール、発泡酒、雑酒、リキュール類、スピリッツ類、低アルコール飲料などであって、ビールを想起させる風味を有するものが含まれる。ビール様飲料は、ビール様アルコール飲料であってよく、ビール様ノンアルコール飲料であってもよい。
【0028】
ビール様飲料は、一形態として、低アルコールビール様飲料を含む。「低アルコールビール様飲料」とは、アルコール濃度が通常のビール様飲料よりも低いビール様飲料をいう。
【0029】
低アルコールビール様飲料は、4v/v%以下、好ましくは1~4v/v%、より好ましくは2~4v/v%、更に好ましくは3~4v/v%のアルコール濃度を有する。また、「アルコール」という文言はエタノールを意味する。かかる場合は、アルコールによるビール様飲料の静菌作用が不十分になり、本発明の方法の利用価値が向上する。
【0030】
ビール様飲料は、ホップ又はホップ由来成分を含有しないか、その含有量が低いものであってもよい。かかる場合は、ホップによるビール様飲料の静菌作用が不十分になり、本発明の方法の利用価値が向上する。ホップ由来成分の具体例としては、イソα酸が挙げられる。
【0031】
ビール様飲料は、イソα酸を含有しなくてもよいが、好ましくは苦味価として5BU以上、より好ましくは10BU以上、更に好ましくは15BU以上のイソα酸濃度を有する。苦味価が10BU未満であると、ビール様飲料の微生物に対する耐久性が不十分になることがある。イソα酸濃度の上限は通常のビールと同様に50BU以下、好ましくは40BU以下であってよい。しかしながら、イソα酸濃度を、苦味価として例えば15BU以下、典型的には10BU以下に低下させた場合に、ビール様飲料の静菌作用が不十分になり易い。
【0032】
ビール様飲料の苦味価は、改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集2013年増補改訂)の「8.15 苦味価」に記載のイソオクタン抽出-吸光度分析法により測定された値を意味する。
【0033】
ビール様飲料は、例えば3.8~4.8、好ましくは4.1~5.0のpHを有する。ビール様飲料のpHが5.0を超えると、微生物に対する耐久性が不十分になる。一方、pHが低すぎると、得られるビール様飲料の酸味が強く、酸味と甘味のバランスが悪くなり、嗜好性が低下する。本発明のビール様飲料のpHは、より好ましくは4.2を超えて4.8以下、更に好ましくは4.3~4.7である。ここで、ビール様飲料のpHは、最終製品としてのpHである。
【0034】
ビール様飲料は、好ましくは、麦汁発酵液を含むものである。ビール様飲料が麦汁発酵液を含むことで、ビール様飲料にビールらしい複雑味、ボディ感及び飲み応えが付与される。麦汁発酵液とは、麦汁をビール酵母で発酵させて得られる液体をいう。本発明でいう麦汁は、通常のビールを製造する際に使用される麦汁を意味し、これには麦芽、及び必要に応じてホップが含まれる。ビール様飲料は、麦汁発酵液から成るものであってもよい。
【0035】
<麦汁発酵液>
麦汁発酵液は、例えば、以下の方法によって製造することができる。まず、麦芽の破砕物、大麦等の副原料、及び温水を仕込槽に加えて混合してマイシェを調製する。マイシェの調製は、常法により行うことができ、例えば、はじめに35~60℃で20~90分間保持することにより原料に由来するタンパク質をアミノ酸等へ分解し、糖化工程へ移行する。その際、必要に応じて、主原料と副原料以外に、トランスグルコシダーゼ等の酵素、並びにスパイス及びハーブ類等の香味成分等が添加される。
【0036】
その後、該マイシェを徐々に昇温して所定の温度で一定期間保持することにより、麦芽由来の酵素やマイシェに添加した酵素を利用して、澱粉質を糖化させる。糖化処理時の温度や時間は、用いる酵素の種類やマイシェの量、目的とする麦汁発酵液の品質等を考慮して、適宜決定することができ、例えば、60~72℃にて30~90分間保持することにより行うことができる。糖化処理後、76~78℃で10分間程度保持した後、マイシェを麦汁濾過槽にて濾過することにより、透明な糖液を得る。また、糖化処理を行う際に、酵素を必要な範囲で適当量添加してもよい。
【0037】
糖化に供される原料、即ち澱粉質原料は麦芽を含む。糖化に供される原料中の麦芽の含有量は、ビールらしい香味を低減させない観点から、50%以上、好ましくは67%以上、より好ましくは70%以上である。糖化に供される原料は麦芽使用比率100%であってもよい。麦芽使用比率とは、水とホップを除く全原料に対する麦芽の割合(重量%)である。麦芽使用比率が高いほど、得られるビール様飲料の麦芽由来の旨味やコク感が強くなる。また、麦芽使用比率が高いほど得られる麦汁中の窒素化合物の含有量が多くなり、麦汁が発酵に供される場合に発酵不順が発生しにくくなり、ビール様飲料に不快臭が発生し難くなる。
【0038】
副原料とは、麦芽とホップ以外の原料を意味する。該副原料として、例えば、大麦、小麦、コーンスターチ、コーングリッツ、米、こうりゃん等の澱粉質原料や、液糖や砂糖等の糖質原料がある。ここで、液糖とは、澱粉質を酸又は糖化酵素により分解、糖化して製造されたものであり、主にグルコース、マルトース、マルトトリオース等が含まれている。その他、香味を付与又は改善することを目的として用いられるスパイス類、ハーブ類、及び果物等も、副原料に含まれる。
【0039】
糖化酵素とは、澱粉質を分解して糖を生成する酵素を意味する。該糖化酵素として、例えば、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルナラーゼ等がある。
【0040】
麦汁煮沸の操作は、ビールを製造する際に通常行われる方法及び条件に従って行えばよい。例えば、pHを調整した糖液を煮沸釜に移し、煮沸する。糖液の煮沸開始時から、ワールプール静置の間に、ホップを添加する。ホップとして、ホップエキス又はホップから抽出した成分を使用してもよい。糖液は次いでワールプールと呼ばれる沈殿槽に移し、煮沸により生じたホップ粕や凝固したタンパク質等を除去した後、プレートクーラーにより適切な温度まで冷却する。
【0041】
上記麦汁煮沸までの操作により、麦汁が得られる。得られた麦汁を酵母により発酵させて、麦汁発酵液が得られる。麦汁の発酵は常法に従って行えばよい。例えば、冷却した麦汁にビール酵母を接種して、発酵タンクに移し、アルコール発酵を行うことができる。
【0042】
麦汁発酵液の外観最終発酵度は、ビールらしい香味を低減させない観点から、90%以上、好ましくは90~110%、より好ましくは100%~110%に調節する。一方で、外観最終発酵度が低すぎる場合には、アルコール濃度の低減に伴う火薬臭、薬品臭及び飲用後べたつき感が発生することがある。
【0043】
発酵度とは、発酵後のビールにおいて、どれだけ発酵が進んだか、発酵の進み方を示す重要な指標である。そして、さらに最終発酵度とは、原麦汁エキスに対して、ビール酵母が資化可能なエキスの割合を意味する。ここで、ビール酵母が資化可能なエキスとは、原麦汁エキスから、製品ビールに含まれるエキス(即ち、ビール酵母が利用可能なエキスをすべて発酵させた後に残存するエキス(最終エキスという))を差し引いたものである。外観最終発酵度とは、最終エキスの値に、外観エキス、即ち、アルコールを含んだままのビールの比重から求めたエキス濃度(w/w%)、を使用して計算した最終発酵度をいう。
【0044】
尚、「エキス」とは、麦汁の蒸発残留固形分をいう。エキスは、主として糖分からなる。エキスの含有量は、原料である麦芽や各種澱粉、糖類の仕込み量を変えることにより調整することができる。ビール様飲料の真正エキス濃度は、例えばEBC法(ビール酒造組合編集:BCOJビール分析法、7.2(2004))により測定することができる。エキスという文言は、文脈に応じて、不揮発性固形分そのもの、不揮発性固形分の量、又は不揮発性固形分の濃度(w/w%)を意味する。
【0045】
麦汁発酵液の外観最終発酵度Vendは、例えば下記式(1)により、求めることができる。
【0046】
Vend(%)={(P-Eend)/P}×100 (1)
[式中、Pは原麦汁エキスであり、Eendは、外観最終エキスである。]
【0047】
原麦汁エキスPは、製品ビールのアルコール濃度とエキスの値から、Ballingの式に従い、理論上アルコール発酵前の麦汁エキスの値を逆算するものである。具体的には、Analytica-EBC(9.4)(2007)に示される方法により、求めることができる。また、外観最終エキスEendはビールをフラスコに採取し、新鮮な圧搾酵母を多量に添加し、25℃で攪拌しながら、エキスの値がこれ以上低下しなくなるまで発酵させて(24時間)、残存ビール中の外観エキスの値を測定することにより、求めることができる。
【0048】
外観最終エキスEendは、最終エキスのアルコールを含んだ比重から計算されるため、マイナスの値を示すことがある。その結果、外観最終発酵度は100%を超える場合がある。
【0049】
麦汁発酵液の外観最終発酵度は、例えば、原料を糖化させる際の酵素の使用有無、及び、原材料の種類や配合量等の糖化条件を調整することにより、制御することができる。例えば、原料の糖化時間を長くすれば、酵母が使用する事ができる糖濃度を高めることができ、麦汁発酵液の外観最終発酵度を高めることができる。
【0050】
麦汁発酵液は、麦汁上面発酵液であってよく、麦汁下面発酵液であってもよいが、後味をすっきりさせる観点から麦汁下面発酵液であることが好ましい。麦汁上面発酵液とは、麦汁に上面発酵酵母を接種し、通常の発酵条件、例えば15~25℃で数日間発酵させた麦汁発酵液をいう。麦汁下面発酵液とは、麦汁に下面発酵酵母を接種し、通常の発酵条件、例えば10℃前後でおよそ1週間発酵させた麦汁発酵液をいう。
【0051】
ビール様飲料に含まれる麦汁発酵液の量及び濃度は、所望のアルコール濃度又はビール様の香味が提供されるように、適宜調節することができる。
【0052】
<原麦汁エキス濃度>
ビール様飲料は、好ましくは12.2質量%未満の原麦汁エキス濃度を有する。そのことで、アルコール度数を下げることができ、かつ軽快な味感を得られるという利点がある。本発明のビール様飲料の原麦汁エキス濃度は、より好ましくは5.0~10.0質量%であり、更に好ましくは6.0~8.0質量%である。
【0053】
ビール様飲料の原麦汁エキス濃度は、例えば、改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集2013年増補改訂)の8.3.6.アルコライザー法でエタノールを、8.4.3.アルコライザー法で真正エキスを測定し、8.5エキス関係計算法で、原麦汁エキス濃度を算出することができる。
【0054】
<ビール様飲料の製造方法>
本発明のビール様飲料の製造方法は、ビール様飲料の20℃における炭酸ガス圧を0.23MPa以上に調節することを含む。ビール様飲料の20℃における炭酸ガス圧は当業者に通常知られる方法を用いて調節することができる。
【0055】
本発明のビール様飲料の製造方法は、ビール様飲料のpHを4.1~5.0に調節することを含む。
【0056】
ビール様飲料のpHは、製造工程のいずれかの時点において、pH調整剤を含有させることで調節することができる。pH調整剤は、例えば、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸及び酢酸からなる群より選択される少なくとも一種であってよい。中でも好ましいpH調整剤は、リン酸又は乳酸である。
【0057】
本発明のビール様飲料の製造方法は、ビール様飲料のアルコール濃度を4v/v%以下に調節することを含む。ビール様飲料のアルコール濃度は、例えば、麦汁等の処理対象液を希釈して調節することができる。希釈は、例えば、処理対象液に水を添加して行うことができる。
【0058】
ビール様飲料の製造方法において、処理対象液の希釈は、例えば、麦汁煮沸後の冷却工程、発酵工程、熟成工程又はろ過等任意の工程で行うことができる。
【0059】
また、発酵工程前の麦汁中の非発酵性糖質の割合を高めることで発酵工程におけるアルコール発酵を抑制することができる。このようにして発酵により生成されるアルコール量を低減させることで、ビール様飲料のアルコール濃度を低減してもよい。
【0060】
本発明のビール様飲料の製造方法は、好ましくは、麦汁発酵液をビール様飲料に含有させることを含む。この場合、麦汁発酵液をビール様飲料のベース液として使用してもよい。
【0061】
本発明のビール様飲料の製造方法は、好ましくは、特定範囲のイソα酸濃度を有するようにホップ又はホップ由来成分の使用量を調節することを含む。ビール様飲料のイソα酸濃度は、麦汁の調製過程において、麦汁へのホップの添加量および添加時期を調節することなどによって調節することができる。
【0062】
本発明のビール様飲料の製造方法は、好ましくは、ビール様飲料の原麦汁エキス濃度を特定範囲に調節することを含む。原麦汁エキス濃度の調整は、例えば、発酵前工程における原料の麦芽等と仕込み水の割合(仕込み配合)を変化させたり、煮沸で水分を蒸発させ濃縮したり、煮沸後エキス分の調製のために加える温水量を変化させたり、液糖やモルトエキスを使用したりすることなどによって行うことができる。
【0063】
ビール様飲料の製造方法は、公知の装置等を用いた、カラメル色素等を添加する工程、煮沸工程、pH調整工程、ろ過工程、香味調節工程、炭酸ガスを溶解させる工程等をさらに含んでもよい。
【0064】
ビール様飲料の製造方法は、必要に応じて、食物繊維、大豆ペプチド、炭酸、エキス類、香料、酸味料、甘味料、苦味料、着色料、酸化防止剤、pH調整剤、各種栄養成分等を添加する工程をさらに含んでもよい。
【0065】
本発明のビール様飲料は、発酵工程後に加熱処理を経ずに製造された飲料(非加熱の発酵飲料)であることが好ましい。そのことで、高疎水性香気成分の揮発及び熱劣化が防止されて、酸化臭及び老化味を抑制する機能が強化される。
【0066】
発酵工程後に加熱処理を行わない場合、固液分離処理により酵母を除去した場合でも、酵母由来の各種酵素の一部が活性を維持した状態で含有されている。このため、非加熱の発酵飲料では、インベルターゼ活性やプロテアーゼ活性が検出される。すなわち、本発明に係るビール様飲料としては、インベルターゼ活性やプロテアーゼ活性を有するものが好ましい。
【0067】
ある一形態において、本発明のビール様飲料は50U以上、好ましくは100~1000U、より好ましくは300~700Uのインベルターゼ活性を有する。なお、インベルターゼ活性やプロテアーゼ活性は、常法により測定することができる。
【実施例0068】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0069】
<実施例1>
麦芽30kgと副原料としてコーンスターチ13kgを糖化し、その後76℃で酵素失活を行った。得られた液(麦汁)を濾過した後、煮沸釜に入れ、230Lになるように水を加えた後、ホップを適量添加した。ホップ添加後の麦汁を80分間煮沸し、その後、湯を加え230Lになるように液量を再調整した後、ワールプール(旋回分離槽)でホップを適量添加したのち、固液分離した。固液分離後、熱交換器によって麦汁を冷却し原麦汁エキス13.0質量%の麦汁を得た。
【0070】
冷却後の麦汁に酵母を添加し、発酵させた。発酵後の発酵液は、濾過にて清澄化した後、原麦汁エキス11.3質量%になるように水を加え、容器に充填し、アルコール濃度が5.0v/v%であるビールを得た。その後、ガス付け機にて適宜二酸化炭素を加え、ガス圧の異なるビールを得た。なお、pHはNaOH溶液を添加して4.6に調整した。
【0071】
次いで、各ビールに、表2に示す供試菌を1~3×103cells/mLとなる量で接種し、25℃にて暗所に保存した。毎日定時に目視で試料を確認して、混濁が認められるまでの日数を測定した。結果を表2に示す。
【0072】
【0073】
供試菌のうち、Levilactobacillus brevis、及びPectinatus frisingensisについて、ビールのガス圧に比例して混濁が認められるまでの日数は増加し、ガス圧を増大させることでビールの静菌性が向上した。さらに、Furfurilactobacillus curtusはガス圧を増大させると、混濁しなかった。ゆえにFurfurilactobacillus curtusについても静菌性が向上したといえる。
【0074】
<実施例2>
原麦汁エキス7.5質量%になるように水を加えること以外は実施例1と同様にして、ガス圧が相違する、アルコール濃度3%、pH4.6のビールを2種類調製した。また、対照試料として、実施例1で得られたアルコール濃度5%、pH4.6のビール1を準備した。各ビールのガス圧を測定した。次いで、各ビールに、表3に示す供試菌を1~3×103cells/mLとなる量で接種し、25℃にて暗所に保存した。毎日定時に目視で試料を確認して、混濁が認められるまでの日数を測定した。結果を表3に示す。
【0075】
【0076】
供試菌について、ビールのガス圧に比例して混濁が認められるまでの日数は増加し、アルコール濃度3%のビールの静菌性を、アルコール濃度5%のビールと同等にまで高めることができた。
【0077】
<実施例3>
原麦汁エキス7.5質量%になるように水を加えること以外は実施例1と同様にして、ガス圧が相違する、アルコール濃度3%、pH4.6のビールを4種類、準備した。各ビールのガス圧を測定した。次いで、各ビールに、表4に示す供試菌を1~3×103cells/mLとなる量で接種し、25℃にて暗所に保存した。毎日定時に目視で試料を確認して、混濁が認められるまでの日数を測定した。結果を表4に示す。
【0078】
供試菌について、ビールのガス圧に比例して混濁が認められるまでの日数は増加した。
【0079】
前記乳酸菌は、Levilactobacillus属菌、及びFurfurilactobacillus属菌を含み、前記偏性嫌気性菌は、Pectinatus属菌、及びMegasphaera属菌を含む、請求項2に記載のビール様飲料の静菌性を増強する方法。
前記細菌は、Levilactobacillus brevis、Pectinatus haikarae、Furfurilactobacillus curtus、Pectinatus sottacetonis、Pectinatus cerevisiiphilus、Pectinatus frisingensis、Megasphaera sueciensis、Megasphaera paucivorans、及びMegasphaera cerevisiaeから成る群から選択される少なくとも一種を含む、請求項1に記載のビール様飲料の静菌性を増強する方法。