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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180334
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】二酸化炭素吸着剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/12 20060101AFI20241219BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20241219BHJP
   C04B 14/16 20060101ALI20241219BHJP
   C04B 14/20 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
B01J20/12 B
B01J20/30
C04B14/16
C04B14/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024095006
(22)【出願日】2024-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2023099575
(32)【優先日】2023-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】519318786
【氏名又は名称】高千穂シラス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】新留 昌泰
(72)【発明者】
【氏名】梅垣 哲士
(72)【発明者】
【氏名】野口 大輔
【テーマコード(参考)】
4G066
【Fターム(参考)】
4G066AA20B
4G066AA22B
4G066AA52D
4G066AA66B
4G066BA09
4G066BA20
4G066BA23
4G066BA25
4G066BA26
4G066BA36
4G066CA35
4G066DA03
4G066FA11
4G066FA21
4G066FA33
4G066FA37
(57)【要約】
【課題】安価な材料で調製でき、さらに効率的に二酸化炭素を吸着することが可能な二酸化炭素吸着剤、及び当該二酸化炭素吸着剤の製造方法を提供する。
【解決手段】二酸化炭素吸着剤は、酸化ケイ素と酸化アルミニウムとを主成分とするシラス及びシラスバルーンの少なくとも一方を備え、シラス及びシラスバルーンの表面におけるケイ素/アルミニウムの組成比が1~2.5である。二酸化炭素吸着剤の製造方法は、酸化ケイ素と酸化アルミニウムとを主成分とするシラス原料に、アンモニア処理を施すアンモニア処理工程を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ケイ素と酸化アルミニウムとを主成分とするシラス及びシラスバルーンの少なくとも一方を備え、
前記シラス及び前記シラスバルーンの表面におけるケイ素/アルミニウムの組成比が1~2.5である、二酸化炭素吸着剤。
【請求項2】
前記シラス及び前記シラスバルーンは、平均粒子径が2μm~3μmの粒子を含んでいる、請求項1に記載の二酸化炭素吸着剤。
【請求項3】
前記シラス及び前記シラスバルーンの少なくとも一方は、水と接触している、請求項1又は2に記載の二酸化炭素吸着剤。
【請求項4】
酸化ケイ素と酸化アルミニウムとを主成分とするシラス原料に、アンモニア処理を施すアンモニア処理工程を有する、二酸化炭素吸着剤の製造方法。
【請求項5】
前記アンモニア処理工程の前に、前記シラス原料を加熱する加熱工程をさらに有する、請求項4に記載の二酸化炭素吸着剤の製造方法。
【請求項6】
前記シラス原料は、平均粒子径が2μm~3μmの粒子を含んでいる、請求項4又は5に記載の二酸化炭素吸着剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素吸着剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の原因の一つとして、大気中に排出される二酸化炭素、メタン、フロン類などの温室効果ガスがある。このような温室効果ガスの中でも二酸化炭素の影響が大きいため、大気中や排出ガスから二酸化炭素を除去する技術が検討されている。二酸化炭素を除去する方法としては、化学吸収法、物理吸着法、膜分離法、吸着分離法、深冷分離法等があり、この中でも二酸化炭素吸着剤を用いて二酸化炭素を分離及び回収する方法が注目されている。
【0003】
非特許文献1では、二酸化炭素吸着剤として、物理吸着剤として作用するゼオライトや、アミンを含浸したメソポーラス吸着剤が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Yu et al., 「A Review of CO2 Capture by Absorption and Adsorption」, Aerosol and Air Quality Research, 12, 745-769, 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のゼオライト吸着剤やアミン含浸メソポーラス吸着剤は、製造プロセスが複雑であるため、得られる吸着剤が高価になるという問題があった。さらに、二酸化炭素の分離及び回収を効率的に行うためには、吸着剤における二酸化炭素の吸着性能の向上が求められている。
【0006】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。そして本発明の目的は、安価な材料で調製でき、さらに効率的に二酸化炭素を吸着することが可能な二酸化炭素吸着剤、及び当該二酸化炭素吸着剤の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の態様に係る二酸化炭素吸着剤は、酸化ケイ素と酸化アルミニウムとを主成分とするシラス及びシラスバルーンの少なくとも一方を備え、前記シラス及び前記シラスバルーンの表面におけるケイ素/アルミニウムの組成比が1~2.5である。
【0008】
本発明の第二の態様に係る二酸化炭素吸着剤は、第一の態様に係る吸着剤において、前記シラス及び前記シラスバルーンは、平均粒子径が2μm~3μmの粒子を含んでいる。
【0009】
本発明の第三の態様に係る二酸化炭素吸着剤は、第一又は第二の態様に係る吸着剤において、前記シラス及び前記シラスバルーンの少なくとも一方は、水と接触している。
【0010】
本発明の第四の態様に係る二酸化炭素吸着剤の製造方法は、酸化ケイ素と酸化アルミニウムとを主成分とするシラス原料に、アンモニア処理を施すアンモニア処理工程を有する。
【0011】
本発明の第五の態様に係る二酸化炭素吸着剤の製造方法は、第四の態様に係る製造方法において、前記アンモニア処理工程の前に、前記シラス原料を加熱する加熱工程をさらに有する。
【0012】
本発明の第六の態様に係る二酸化炭素吸着剤の製造方法は、第四又は第五の態様に係る製造方法において、前記シラス原料は、平均粒子径が2μm~3μmの粒子を含んでいる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、安価な材料で調製でき、さらに効率的に二酸化炭素を吸着することが可能な二酸化炭素吸着剤、及び当該二酸化炭素吸着剤の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】シラス原料及びサンプル1~3の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
図2】(a)は、シラス原料及びサンプル1~3について、エネルギー分散型X線分析の結果から算出した組成と、滴定法により算出した酸点量とを示す表である。(b)は、シラス原料及びサンプル1~3について、窒素吸脱着測定の結果から算出した各種物性を示す表である。(c)は、シラス原料及びサンプル1~3について、XPS測定の結果より算出したシラス原料表面及び各サンプル表面のSi及びAlの組成、並びにSi/Al比を示す表である。
図3】二酸化炭素吸着試験を行ったシラス原料並びにサンプル1及び2に対する赤外分光分析のスペクトル結果を示す図である。
図4】水を接触させた状態で二酸化炭素吸着試験を行ったシラス原料並びにサンプル2及び3に対する赤外分光分析のスペクトル結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本実施形態に係る二酸化炭素吸着剤、及び当該二酸化炭素吸着剤の製造方法について詳細に説明する。なお、本明細書において、「二酸化炭素吸着剤」を「吸着剤」ともいう。
【0016】
[二酸化炭素吸着剤]
本実施形態に係る二酸化炭素吸着剤は、酸化ケイ素と酸化アルミニウムとを合計で50重量%以上含むシラス及びシラスバルーンの少なくとも一方を備えている。そして、二酸化炭素吸着剤では、シラス及びシラスバルーンの表面におけるケイ素(Si)/アルミニウム(Al)の組成比(表面におけるケイ素のモル数/アルミニウムのモル数の値)が1~2.5になっている。
【0017】
シラスとは、俗称白色砂質堆積物であって、南九州に広く分布する白色粗鬆な火山噴出物及びそれに由来する二次堆積物の総称である。シラスは、高温のマグマの冷却により結晶分化作用が起こり、マグマ中の主成分であるSiO、Al、Fe、MgO、CaO、NaO、KO等が互いに集まって成るものである。また、シラスは、鉱物として晶出して間もなく爆発的に噴出して形成されたものであり、約3割の結晶鉱物と残り約7割の非晶質火山ガラスから成っている。
【0018】
結晶鉱物は斜長石が最も多く、他に紫蘇輝石、石英、普通輝石、磁鉄鉱等が多少含まれている。また、この非晶質火山ガラスは、マグマ中の揮発性成分が急激に放出された結果、多孔質の軽石状を成している。そして、非晶質火山ガラスは、SiOが65~73重量%、Alが12~16重量%、CaOが2~4重量%、NaOが3~4重量%、KOが2~4重量%含まれ、さらに鉄分が1~3重量%含まれている。
【0019】
そして、シラスは、シラス台地を形成しているものである。シラス台地は、日本国の鹿児島県から宮崎県南部にかけて最大150mの厚さになっている。
【0020】
シラスは、大量の火砕流として一気に堆積したものであるので、他の土と混ざることなく厚い地層になってシラス台地を形成している。一般的な土は、岩石が細かく粉砕された粉末に、植物や微生物などがもたらす作用によって、様々な有機物が混ざっている。
【0021】
これに対して、シラスは、マグマが岩石になる前に粉末になったものであるので、養分(有機物)を殆ど含んでおらず、マグマの状態から超高温で焼成された高純度の無機質セラミック物質となっている。すなわち、シラスは火山ガラスを主成分としケイ酸分を60%~80%含む多孔質の鉱物である。
【0022】
ここで、高千穂シラス(高千穂シラス株式会社のシラス)を分析すると、各成分の含有量は重量%で次の通りである。強熱減量が2.7%、SiOが67.8%、Alが15.1%、NaOが3.7%、CaOが2.2%、Feが2.5%、KOが2.2%、TiOが0.27%、MnOが0.06%、MgOが0.58%、Pが0.03%、SOが0.20%、Clが0.001%未満になっている。強熱減量は、三酸化硫黄(SO)によるもので、JIS R5202により測定した。酸化ケイ素(IV)(SiO)は、凝集重量吸光光度併用法により測定した。酸化アルミニウム(Al)、酸化鉄(III)(Fe)、酸化チタン(IV)(TiO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)、酸化マンガン(MnO)、五酸化リン(P)は、フッ化水素酸、硝酸、過塩素酸分解-ICP発光分析法により測定した。塩化物イオン(Cl)は環境庁告示第13号に準じた溶出を行い、検液をイオンクロマトグラフ法で測定した。
【0023】
なお、高千穂シラス以外のシラス(例えば鹿児島産のシラス)や、高千穂シラスと同様の組成になっているものを、高千穂シラスの代わりに採用してもよい。
【0024】
上述のように、シラス及びシラスバルーンは、酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを合計で50重量%以上含んでいる。また、シラス及びシラスバルーンは、酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを合計で60重量%以上含んでいてもよく、70重量%以上含んでいてもよく、80重量%以上含んでいてもよい。シラス及びシラスバルーンは、酸化ケイ素を50重量%以上含んでいてもよく、60重量%以上含んでいてもよい。シラス及びシラスバルーンは、酸化アルミニウムを10重量%以上含んでいてもよく、15重量%以上含んでいてもよい。さらに、シラス及びシラスバルーンは、斜長石や石英、酸化チタン等も含まれる。また、シラスの粒子内には、微小な気泡が多数存在している。なお、粉状のシラスは、水持ちが悪いので水田に向かず、豪雨の際に土砂崩れを引き起こしやすいなど、やっかいもの扱いされている。
【0025】
なお、シラスバルーンは、シラスを1000℃程度の高温で焼成及び発泡させた微細な風船状のもの(微粒の中空体)である。
【0026】
ここで、本実施形態に係る吸着剤は、シラス及びシラスバルーンの少なくとも一方を備えており、さらに当該シラス及びシラスバルーンの表面におけるケイ素(Si)/アルミニウム(Al)の組成比(表面におけるケイ素のモル数/アルミニウムのモル数の値)が1~2.5になっている。通常のシラスは、表面におけるケイ素(Si)/アルミニウム(Al)の組成比が5程度となっているが、本実施形態の吸着剤におけるシラスは、Si/Al組成比が2.5以下となっている。これにより、シラス中の酸点が増加するため、二酸化炭素吸着能が高まると推測される。なお、吸着剤としてのシラス及びシラスバルーンの表面におけるケイ素(Si)/アルミニウム(Al)の組成比は、1~2.2であることが好ましく、1~2.0であることがより好ましく、1~1.8であることがさらに好ましく、1~1.5であることが特に好ましい。
【0027】
本実施形態に係るシラスは、吸着剤としての活性を高めるために、平均粒子径が2μm~3μmの粒子を含んでいることが好ましい。また、本実施形態に係るシラスバルーンも、吸着剤としての活性を高めるために、平均粒子径が2μm~3μmの粒子を含んでいることが好ましい。さらに、吸着剤としてのシラス及びシラスバルーンの大部分が、平均粒子径が2μm~3μmの粒子となっていることが好ましい。なお、シラス及びシラスバルーンの平均粒子径は、レーザー回折散乱法により測定することができる。このような微粒子を含んでいることにより、吸着剤の比表面積が増加するため、二酸化炭素の吸着点が増え、効率的に二酸化炭素を吸着することが可能となる。
【0028】
本実施形態の吸着剤は、乾燥状態でも二酸化炭素吸着能を発揮することができる。ただ、当該吸着剤におけるシラス及びシラスバルーンは、水と接触していることにより、二酸化炭素吸着能をより向上させることが可能となる。シラス及びシラスバルーンが水と接触することにより、二酸化炭素吸着能が高まるメカニズムは不明であるが、後述する実施例のように、シラス及びシラスバルーンと液水とが接触することにより、接触してない状態と比べて二酸化炭素を多く吸着することが可能となる。なお、シラス及びシラスバルーンと接触させる水の量は特に限定されないが、シラス及びシラスバルーンの酸点が二酸化炭素の吸着に寄与している可能性があることから、全ての酸点を覆わない程度の水分量であることが好ましい。また、水自体が二酸化炭素吸着能の向上に寄与することから、シラス及びシラスバルーンに接触させる水分は液体に限定されず、気体や固体でも良いと考えられる。
【0029】
本実施形態の吸着剤は、接触させる二酸化炭素ガスの圧力が高まるほど、二酸化炭素の吸着量を向上させることができる。そのため、本実施形態の吸着剤の吸着量を向上させるためには、接触させるガスの圧力を高めることが好ましく、さらに接触させるガス中の二酸化炭素濃度を高めることも好ましい。
【0030】
このように、本実施形態に係る二酸化炭素吸着剤は、酸化ケイ素と酸化アルミニウムとを合計で50重量%以上含むシラス及びシラスバルーンの少なくとも一方を備え、当該シラス及びシラスバルーンの表面におけるケイ素/アルミニウムの組成比が1~2.5である。当該シラス及びシラスバルーンの表面におけるSi/Al組成比がこの範囲内であることにより、酸点量が増加する傾向にあるため、シラス及びシラスバルーンが活性化され、二酸化炭素吸着量が増加するものと考えられる。つまり、シラス及びシラスバルーンの表面におけるSi/Al組成比が1に近づくにつれて、当該表面のアルミニウムの組成が増加しており、アルミニウムが酸化ケイ素のネットワークに入り込む。その結果、酸点の数が増えるため、シラス原料が活性化され、二酸化炭素吸着量が増加するものと考えられる。
【0031】
また、当該吸着剤では、シラス及びシラスバルーンは、平均粒子径が2μm~3μmの粒子を含んでいることが好ましい。これにより、吸着剤の表面積が増加するため、二酸化炭素の吸着をより一層促進することが可能となる。
【0032】
さらに、当該吸着剤では、シラス及びシラスバルーンの少なくとも一方は、水と接触していることが好ましい。二酸化炭素吸着能が向上するメカニズムは不明であるが、上記Si/Al組成比を有するシラス及びシラスバルーンに水が接触することにより、接触してない状態と比べて二酸化炭素を多く吸着することが可能となる。
【0033】
[二酸化炭素吸着剤の製造方法]
次に、本実施形態に係る二酸化炭素吸着剤の製造方法について説明する。本実施形態の製造方法は、酸化ケイ素と酸化アルミニウムとを合計で50重量%以上含むシラス原料に、アンモニア処理を施すアンモニア処理工程を有する。
【0034】
シラス原料は、シラス及びシラスバルーンの少なくとも一方を含む材料である。つまり、シラス原料は、シラスのみ、シラスバルーンのみ、又は、シラスとシラスバルーンとの混合物のみからなる材料である。シラス原料であるシラスは、平均粒子径が50μm~70μmの粗大な粒子と、平均粒子径が2μm~3μmの小粒子とで構成されている。平均粒子径が50μm~70μmの粗大な粒子に対する平均粒子径が2μm~3μmの小粒子の質量比([小粒子の質量]/[粗大な粒子の質量])は、0.1~10である。また、シラス原料であるシラスバルーンでは、略全てが平均粒子径が2μm~3μmの小粒子で構成されている。なお、後述する加熱工程及びアンモニア処理工程を経ても、シラス原料における粒子径の変化は殆ど無い。
【0035】
本実施形態の製造方法におけるアンモニア処理は、アンモニア濃度が所定値になっているアンモニア水に、室温下でシラス原料を懸濁させて懸濁液を調製した後、所定時間攪拌する処理である。なお、シラス及びシラスバルーンの表面におけるSi/Al比が1~2.5となるならば、アンモニア水におけるアンモニアの濃度は特に限定されず、さらに懸濁液の攪拌時間も特に限定されない。アンモニア水におけるアンモニア濃度は、例えば20~35%とすることができ、25~30%とすることもできる。また、懸濁液の攪拌時間は、例えば1~8時間とすることができ、3~6時間とすることもできる。
【0036】
そして、アンモニア処理の後に、室温下でアンモニア処理されたシラス原料を濾過し、この後、乾燥することにより、本実施形態の吸着剤を得ることができる。つまり、このようなアンモニア処理を施すことにより、シラス及びシラスバルーンの表面におけるケイ素とアルミニウムとの組成比を1~2.5とすることができる。
【0037】
なお、本実施形態に係る吸着剤の製造方法において、アンモニア処理をする前に、シラス原料を加熱する加熱処理(加熱工程)を行ってもよい。加熱処理は、シラス原料に含まれている有機物等の不純物をシラス原料から取り除くために行われるものである。
【0038】
加熱処理の条件は特に限定されず、不純物を除去できる条件で行うことができる。具体的には、加熱処理の温度は、例えば350℃~700℃とすることが好ましく、400℃~500℃とすることがより好ましい。また、加熱処理の時間は、例えば1~5時間とすることが好ましい。さらに、加熱雰囲気は、空気中であってもよく、不活性雰囲気下であってもよい。なお、加熱処理は、例えば室温の状態で開始され、この後、次第に温度を上昇させてもよい。このときの温度の上昇率は、2℃/min~50℃/minとすることができ、5℃/min~20℃/minとすることもできる。
【0039】
また、本実施形態に係る吸着剤の製造方法において、シラス原料に対してアンモニア処理を施した後、アンモニア処理済のシラス及びシラスバルーンに対して、焼成処理を施してもよい。焼成処理の温度は、350℃~700℃とすることが好ましく、400℃~500℃とすることがより好ましく、450℃程度とすることが好ましい。また、焼成処理は、例えば室温の状態で開始され、この後、次第に温度を上昇させてもよい。このときの温度の上昇率は、2℃/min~50℃/minとすることができ、5℃/min~20℃/minとすることもできる。
【0040】
このように、本実施形態に係る二酸化炭素吸着剤の製造方法は、酸化ケイ素と酸化アルミニウムとを合計で50重量%以上含むシラス原料に、アンモニア処理を施すアンモニア処理工程を有する。このようなアンモニア処理を施すことにより、シラス及びシラスバルーンの表面におけるケイ素/アルミニウムの組成比を1~2.5とすることができるため、二酸化炭素を吸着することが可能となる。さらに、本実施形態の製造方法によれば、原料としてシラス及び/又はシラスバルーンを使用するため、非特許文献1のようにゼオライトやメソポーラスシリカを使用する場合と比べて、安価に吸着剤を得ることができる。
【0041】
また、当該製造方法では、アンモニア処理工程の前に、シラス原料を加熱する加熱工程をさらに有することが好ましい。これにより、シラス原料に有機物等の不純物が含まれていても、この不純物がアンモニア処理前に除去される。そのため、シラス及びシラスバルーンの表面におけるケイ素/アルミニウムの組成比が1に近づき、酸点が増加するため、二酸化炭素吸着能をより高めることが可能となる。
【0042】
さらに、当該製造方法において、シラス原料は、平均粒子径が2μm~3μmの粒子を含んでいることが好ましい。上述のように、シラス原料に対してアンモニア処理及び加熱処理を施しても、シラス原料の大きさは大きく変化しない。そのため、シラス原料が2μm~3μmの粒子を含んでいることにより、得られる吸着剤もこれらの大きさの粒子を含むことになる。その結果、吸着剤の表面積が増加するため、二酸化炭素の吸着をより一層促進することが可能となる。
【実施例0043】
以下、本実施形態を実施例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
[サンプル調製]
シラス原料としてシラス及びシラスバルーンを用い、次のようにして、実施例1~3のアンモニア処理シラス及びアンモニア処理シラスバルーンを調製した。
【0045】
(実施例1)
まず、シラス原料として、シラスを準備した。当該シラスは、比表面積が8.8m/gであり、さらに平均粒子径が50μm~70μmの粗大粒子と平均粒子径が2μm~3μmの小粒子とで構成されていた。
【0046】
次に、シラス原料0.8gを28%のアンモニア水20mLに懸濁し、室温にて4~5時間攪拌した。次いで、当該懸濁液を濾過した後、デシケーター中で乾燥させることにより、本例のサンプル1を得た。なお、本明細書において、このサンプル1を「サンプル1 SSM NH」ともいう。
【0047】
(実施例2)
まず、シラス原料として実施例1と同じシラスを準備した後、当該シラスを空気中、450℃で2時間焼成することにより、焼成シラスを得た。なお、焼成工程は、50℃/minの温度上昇率で室温から450℃に昇温した後に、当該温度を2時間保持することにより行った。
【0048】
次に、焼成シラス0.8gを28%のアンモニア水20mLに懸濁し、室温にて4~5時間攪拌した。次いで、当該懸濁液を濾過した後、デシケーター中で乾燥させることにより、本例のサンプル2を得た。このサンプル2を「サンプル2 SSM cal NH」ともいう。
【0049】
(実施例3)
まず、シラス原料として、シラスバルーンを準備した。当該シラスバルーンは比表面積が3.2m/gであり、平均粒子径が2μm~3μmの小粒子で構成されていた。なお、シラスバルーンは、シラスを1000℃程度の高温で焼成及び発泡させた中空体であるため、シラスを焼成した原料に相当する。
【0050】
次に、シラス原料0.8gを28%のアンモニア水20mLに懸濁し、室温にて4~5時間攪拌した。次いで、当該懸濁液を濾過した後、デシケーター中で乾燥させることにより、本例のサンプル3を得た。なお、本明細書において、このサンプル3を「サンプル3 A3NN NH」ともいう。
【0051】
[評価]
各例のサンプルに対して、次のようにして、顕微鏡観察、組成分析、比表面積測定、細孔容積測定、平均細孔径測定、表面組成分析、及び二酸化炭素吸着試験を行った。
【0052】
(顕微鏡観察)
サンプル1~3を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した。各サンプルの観察結果を図1に示す。なお、図1には、シラス原料であるシラス及びシラスバルーンの観察結果も合わせて示す。
【0053】
図1に示すように、シラス原料であるシラスと、サンプル1及びサンプル2とを比較してもアンモニア処理及び加熱処理の前後で、粒子の大きさ及び形状に大きな違いが確認できなかった。つまり、シラス原料であるシラス並びにサンプル1及びサンプル2は、いずれも50μm~70μm程度の粗大な粒子と2μm~3μm程度の小粒子とで構成されていた。
【0054】
同様に、シラス原料であるシラスバルーンとサンプル3とを比較してもアンモニア処理及び加熱処理の前後で、粒子の大きさ及び形状に大きな違いが確認できなかった。つまり、シラス原料であるシラスバルーン及びサンプル3は、いずれも2μm~3μm程度の小粒子で構成されていた。
【0055】
(組成分析)
サンプル1~3及びシラス原料であるシラス及びシラスバルーンについて、エネルギー分散型X線分析(EDX)を行い、その結果から、各サンプルの組成を算出した。さらに、サンプル1~3及びシラス原料について、メチルレッドを使用した滴定法により、各サンプルの酸点量(Acid sites)を算出した。具体的には、メチルレッドを指示薬とし、n-ブチルアミンを滴下することで、サンプル1~3及びシラス原料の酸点量を算出した。各サンプルの組成及び酸点量の算出結果を図2の(a)に示す。
【0056】
図2(a)より、シラス及びシラスバルーンに対してアンモニア処理を行うことにより、いずれもアルミニウムの比率が減少することが分かる。さらに、加熱処理後にアンモニア処理したサンプル2は、加熱処理をしないサンプル1と比較して、アルミニウムの減少が小さくなっていることが確認された。これらの結果より、処理条件によって酸化アルミニウムの溶出量が異なることが示唆された。また、アンモニア処理を行うことにより酸点量が増加し、さらに加熱処理後にアンモニア処理を行うことにより酸点量がさらに増加することが分かる。
【0057】
(比表面積測定、細孔容積測定、平均細孔径測定)
サンプル1~3並びにシラス原料であるシラス及びシラスバルーンについて、窒素ガス吸着法により、比表面積、細孔容積及び平均細孔径を測定した。測定結果を図2の(b)に示す。
【0058】
図2(b)より、シラスを原料としたサンプル1及びサンプル2は、シラスバルーンを原料としたサンプル3よりも、比表面積及び細孔容積が大きくなっていた。ただ、シラス、サンプル1及びサンプル2のように、同じ原料で比較した場合、加熱処理及びアンモニア処理の影響は小さく、比表面積及び細孔容積は大きく減少しないことが確認された。同様に、シラスバルーン及びサンプル3のように、同じ原料で比較した場合、アンモニア処理の影響は小さいことが確認された。
【0059】
(表面組成分析)
サンプル1~3並びにシラス原料であるシラスについて、表面状態を解析するためにXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)測定を行った。その結果、全てのサンプルについて、主にSi(ケイ素)、Al(アルミニウム)、O(酸素)のピークが確認された。この結果より、いずれのサンプルも、表面は主に酸化ケイ素及び酸化アルミニウムで構成されていることが示唆された。
【0060】
さらに、図2(c)では、XPS測定の結果より算出した各種サンプルの表面のケイ素及びアルミニウムの組成を示す。この結果より、シラス原料に対して加熱処理及びアンモニア処理を行うことで、表面のアルミニウムが増加する傾向にあることが確認された。特に、加熱処理後にアンモニア処理したサンプル2は、シラス及びサンプル1に対してアルミニウムが増加していることが確認された。そして、シラス自体の表面におけるケイ素/アルミニウムの組成比(Si/Al比)は5.00であるのに対して、アンモニア処理したサンプル1は2.17であり、加熱処理後にアンモニア処理したサンプル2は、1.14であった。
【0061】
このように、アンモニア処理を施すことにより、シラス表面のSi/Al比は2.5以下となり、さらに加熱処理後にアンモニア処理を施すことにより、Si/Al比がより低下して1に近づくことが分かる。なお、図2(c)より、シラスバルーンについても、アンモニア処理を施すことにより、表面のSi/Al比は2.5以下となることが分かる。
【0062】
(二酸化炭素吸着試験)
サンプル1及び2並びに未処理のシラス(シラス原料)に対して、二酸化炭素吸着試験を行った。具体的には、まず、各サンプルを0.1gずつ秤取った後、耐圧容器に入れた。次に、各サンプルに対して、純COガスを室温下、1MPaの圧力で1時間接触させた。次いで、各サンプルを耐圧容器から取り出した後、熱重量分析(TG)により、各サンプルの二酸化炭素吸着量を算出した。算出した各サンプルの二酸化炭素吸着量を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示すように、加熱処理及びアンモニア処理を行っていないシラスは、二酸化炭素吸着量が略ゼロであったのに対して、アンモニア処理を行ったサンプル1は二酸化炭素を吸着することが分かる。さらに、加熱処理及びアンモニア処理を行ったサンプル2は、サンプル1よりも二酸化炭素吸着量が増加することが分かる。
【0065】
次に、上述のように二酸化炭素に接触させたサンプル1及び2並びにシラス原料に対して、赤外分光分析を行った。各サンプルの赤外分光分析のスペクトル結果を図3に示す。なお、図3には、二酸化炭素に接触させていないサンプル1及び2並びにシラス原料に対する赤外分光分析のスペクトル結果も合わせて示す。図3中のスペクトルの符号(a)~(f)と各サンプルとの対応関係を表1に示す。
【0066】
図3及び表1より、二酸化炭素吸着性を示したサンプル1及びサンプル2は、CO由来のピークが観測された。なお、図3の符号(b)のスペクトルでは、二酸化炭素に接触させたシラスにもCO由来のピークが観測されているが、表1のように熱重量分析ではCO吸着が観測されなかったことから、シラス自体には二酸化炭素を吸着して保持する機能は殆ど無いと推測される。
【0067】
このように、シラスの表面におけるケイ素/アルミニウムの組成比が1~2.5であることにより、二酸化炭素吸着能を示すことが分かる。さらに、シラスの表面におけるケイ素/アルミニウムの組成比が1に近づくことにより、二酸化炭素吸着能がさらに高まることが分かる。なお、シラスバルーンはシラスを1000℃程度の高温で焼成させた中空体であるため、アンモニア処理を行うことにより、焼成及びアンモニア処理を行ったシラスと同様の吸着性能を示すと推測される。
【0068】
次に、サンプル2及び3並びに未処理のシラス(シラス原料)に水分を接触させた状態で、二酸化炭素吸着試験を行った。具体的には、まず、各サンプルを0.1gずつ秤取った後、耐圧容器に入れた。次に、各サンプルに表2に示す量の水滴を接触させた。次いで、各サンプルに対して、純COガスを室温下、表2に示す圧力で1時間接触させた。そして、各サンプルを耐圧容器から取り出した後、熱重量分析(TG)により、各サンプルの二酸化炭素吸着量を算出した。算出した各サンプルの二酸化炭素吸着量を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
表2に示すように、未処理のシラスは、水分を添加しても二酸化炭素吸着量が0.0041mmol/gとごく僅かであった。これに対して、加熱処理及びアンモニア処理を行ったサンプル2は、水分を添加しても二酸化炭素を効率的に吸着することが分かる。さらに、表1及び表2より、CO圧力が1MPaの場合、サンプル2の二酸化炭素吸着量は、水を添加しない場合には0.1350mmol/gであるのに対して、水を添加した場合には0.2279mmol/gと大きく増えることが分かる。
【0071】
また、表2より、サンプル2に接触させた二酸化炭素の圧力が0.1MPaの場合には二酸化炭素吸着量が0.1418mmol/gであり、0.5MPaの場合には二酸化炭素吸着量が0.1938mmol/gであり、1MPaの場合には二酸化炭素吸着量が0.2279mmol/gであった。つまり、接触させる二酸化炭素の圧力が高まるにつれて、サンプル2の二酸化炭素吸着量も増えることが分かる。
【0072】
さらに、表2より、シラスバルーンを原料としたサンプル3も、水を添加することにより、二酸化炭素吸着性能を発揮できることが分かる。
【0073】
次に、上述のように、水を添加した状態で二酸化炭素に接触させたサンプル2及び3並びにシラス原料に対して、赤外分光分析を行った。各サンプルの赤外分光分析のスペクトル結果を図4に示す。なお、図4には、水を添加したのみのサンプル2及び3並びにシラス原料に対する赤外分光分析のスペクトル結果も合わせて示す。図4中のスペクトルの符号(a)~(h)と各サンプルとの対応関係を表2に示す。
【0074】
図4及び表2より、二酸化炭素吸着性を示したサンプル2及びサンプル3は、CO由来のピークが観測された。
【0075】
このように、シラスの表面におけるケイ素/アルミニウムの組成比が1~2.5であり、さらに当該シラスに水分を添加することにより、二酸化炭素吸着能がさらに高まることが分かる。なお、当該シラスに水分を添加することで、二酸化炭素吸着能が向上するメカニズムは不明であるが、水自体が二酸化炭素吸着能を高めていることから、シラスに接触する水分は液水に限らす、水蒸気でも良いと考えられる。
【0076】
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
図1
図2
図3
図4