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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180335
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】抗ウイルスフィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20241219BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20241219BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20241219BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20241219BHJP
   A01N 25/18 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
B32B27/18 F
B32B27/30 A
A01P1/00
A01N59/16 A
A01N25/18 102B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024095030
(22)【出願日】2024-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2023099373
(32)【優先日】2023-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 誠也
(72)【発明者】
【氏名】村井 絵美子
(72)【発明者】
【氏名】田中 雅幸
【テーマコード(参考)】
4F100
4H011
【Fターム(参考)】
4F100AB24B
4F100AK01B
4F100AK01C
4F100AK25B
4F100AK25C
4F100AK42A
4F100AK51B
4F100AK51C
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100CA02B
4F100CA02C
4F100CA12B
4F100EH46
4F100EJ38A
4F100EJ42
4F100EJ86
4F100GB41
4F100JB07C
4F100JB13B
4F100JB13C
4F100JB14B
4F100JB14C
4F100JN01
4H011AA04
4H011BA01
4H011BB18
4H011BC19
4H011DA08
4H011DH02
(57)【要約】
【課題】水との接触後にも抗ウイルス効果を発揮可能な耐水性の高い抗ウイルスフィルムを提供する。
【解決手段】抗ウイルスフィルム10は、基材20と、抗ウイルス層21と、被覆層22とを備える。抗ウイルスフィルム10の表面を純水に18時間密着させる耐水試験の実施後において、上記表面を純水に24時間密着させたときに、上記表面の単位面積あたりに溶出するAgイオンの量であるAg溶出量が23ng/cm以上であり、耐水試験前の抗ウイルスフィルム10におけるAg含有量に対するAg溶出量の比が、0.046以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材に支持された抗ウイルス層と、
前記抗ウイルス層に対して前記基材とは反対側で前記抗ウイルス層を覆う被覆層と、を備える抗ウイルスフィルムであって、
前記抗ウイルス層は、樹脂成分および銀系抗ウイルス剤を含み、
前記被覆層は、樹脂成分を含み、
前記被覆層における前記抗ウイルス層とは反対側の面が前記抗ウイルスフィルムの表面であって、前記表面を純水に18時間密着させる耐水試験の実施後において、前記表面を純水に24時間密着させたときに、前記表面の単位面積あたりに溶出するAgイオンの量であるAg溶出量が23ng/cm以上であり、
前記耐水試験前の前記抗ウイルスフィルムにおけるAg含有量に対する前記Ag溶出量の比が、0.046以上である
抗ウイルスフィルム。
【請求項2】
前記耐水試験前の前記抗ウイルスフィルムにおけるAg含有量に対する前記Ag溶出量の比が、0.058以上である
請求項1に記載の抗ウイルスフィルム。
【請求項3】
前記抗ウイルス層の樹脂成分は、アクリル樹脂を含む
請求項1に記載の抗ウイルスフィルム。
【請求項4】
前記被覆層の樹脂成分は、アクリル樹脂を含む
請求項1に記載の抗ウイルスフィルム。
【請求項5】
前記被覆層の樹脂成分は、熱硬化性樹脂または紫外線硬化性樹脂を含む
請求項1に記載の抗ウイルスフィルム。
【請求項6】
前記抗ウイルス層の前記樹脂成分と、前記被覆層の前記樹脂成分とは、同一種類の樹脂を含む
請求項1に記載の抗ウイルスフィルム。
【請求項7】
前記被覆層は、銀系抗ウイルス剤を含まない
請求項1に記載の抗ウイルスフィルム。
【請求項8】
前記抗ウイルスフィルムのヘイズは、5%以下である
請求項1の記載の抗ウイルスフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抗ウイルスフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
抗ウイルスフィルムは、抗ウイルス成分として、銀、銅、亜鉛等の金属粒子を含有している。金属粒子を含む抗ウイルス層は、例えば、金属粒子と樹脂成分とを含む塗液を基材に塗布することにより形成される。こうした製造方法によれば、所望の基材に抗ウイルス機能を付与することができる。それゆえ、基材と塗布形成された抗ウイルス層とを備える抗ウイルスフィルムは、抗ウイルス製品に広く用いられている。
【0003】
抗ウイルスフィルムにおいては、十分な抗ウイルス活性を得るため、フィルムの最表層が抗ウイルス層である構造(例えば、特許文献1参照)や、金属粒子をフィルムの最表面に露出させた構造(例えば、特許文献2参照)が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2022/270148号
【特許文献2】特開2021-175734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、抗ウイルスフィルムが長時間にわたって水と接触した場合に、抗ウイルス成分の溶出が大きいと、抗ウイルス効果が低下してしまう。特に、フィルムの表面近傍に抗ウイルス成分を保持している抗ウイルスフィルムにおいては、抗ウイルス成分の溶出が大きくなりやすい。抗ウイルスフィルムの使用機会の拡大のためには、水との接触後にも抗ウイルス効果を発揮可能な耐水性の高い抗ウイルスフィルムが求められている。また、特に抗ウイルス成分が銀を含む場合には、抗ウイルス成分が高価であるため、抗ウイルスフィルムにおいて抗ウイルス成分の使用量の増大を抑えることも望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための抗ウイルスフィルムの各態様を記載する。
[態様1]基材と、前記基材に支持された抗ウイルス層と、前記抗ウイルス層に対して前記基材とは反対側で前記抗ウイルス層を覆う被覆層と、を備える抗ウイルスフィルムであって、前記抗ウイルス層は、樹脂成分および銀系抗ウイルス剤を含み、前記被覆層は、樹脂成分を含み、前記被覆層における前記抗ウイルス層とは反対側の面が前記抗ウイルスフィルムの表面であって、前記表面を純水に18時間密着させる耐水試験の実施後において、前記表面を純水に24時間密着させたときに、前記表面の単位面積あたりに溶出するAgイオンの量であるAg溶出量が23ng/cm以上であり、前記耐水試験前の前記抗ウイルスフィルムにおけるAg含有量に対する前記Ag溶出量の比が、0.046以上である、抗ウイルスフィルム。
【0007】
上記構成によれば、抗ウイルス層が被覆層に覆われていることにより、Agイオンの溶出が抑えられる。一方で、Ag溶出量が23ng/cm以上であることから、被覆層を備えていても、水に接触した後の抗ウイルスフィルムにて高い抗ウイルス効果が得られる。そして、Ag含有量に対するAg溶出量の比が0.046以上であることから、被覆層によるAgイオンの溶出の抑制の程度が好適であり、銀系抗ウイルス剤の使用量を抑えつつ、良好な耐水性が得られる。
【0008】
[態様2]前記耐水試験前の前記抗ウイルスフィルムにおけるAg含有量に対する前記Ag溶出量の比が、0.058以上である、[態様1]に記載の抗ウイルスフィルム。
上記構成によれば、銀系抗ウイルス剤の使用量をより抑えつつ、高い耐水性が得られる。
【0009】
[態様3]前記抗ウイルス層の樹脂成分は、アクリル樹脂を含む、[態様1]または[態様2]に記載の抗ウイルスフィルム。
上記構成によれば、抗ウイルス層の形成や材料の入手が容易である。
【0010】
[態様4]前記被覆層の樹脂成分は、アクリル樹脂を含む、[態様1]~[態様3]のいずれか1つに記載の抗ウイルスフィルム。
上記構成によれば、被覆層の形成や材料の入手が容易である。
【0011】
[態様5]前記被覆層の樹脂成分は、熱硬化性樹脂または紫外線硬化性樹脂を含む、[態様1]~[態様4]のいずれか1つに記載の抗ウイルスフィルム。
上記構成によれば、抗ウイルスフィルムの表面における耐摩耗性等の所望の特性に応じて、被覆層の材料を選択することができる。
【0012】
[態様6]前記抗ウイルス層の前記樹脂成分と、前記被覆層の前記樹脂成分とは、同一種類の樹脂を含む、[態様1]~[態様5]のいずれか1つに記載の抗ウイルスフィルム。
上記構成によれば、抗ウイルス層と被覆層との間の密着性が高められる。
【0013】
[態様7]前記被覆層は、銀系抗ウイルス剤を含まない、[態様1]~[態様6]のいずれか1つに記載の抗ウイルスフィルム。
上記構成によれば、被覆層からの抗ウイルス剤の流出が抑えられ、Agイオンの溶出の抑制という被覆層の機能が的確に発揮される。
【0014】
[態様8]前記抗ウイルスフィルムのヘイズは、5%以下である、[態様1]~[態様7]のいずれか1つに記載の抗ウイルスフィルム。
【0015】
上記抗ウイルスフィルムでは、抗ウイルス層の上面の凹凸が被覆層によって均されるため、ヘイズの低減が可能である。上記構成のように、抗ウイルスフィルムのヘイズが5%以下であれば、高い透明性が得られる。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、抗ウイルスフィルムの耐水性を高め、水との接触後にも抗ウイルス効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、一実施形態の抗ウイルスフィルムにおける層構造を示す断面図である。
図2図2は、参考例の抗ウイルスフィルムにおける一部を拡大して示す断面図である。
図3図3は、一実施形態の抗ウイルスフィルムの一部を拡大して示す断面図である。
図4図4は、試験例のAg溶出量と抗ウイルス活性値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面を参照して、抗ウイルスフィルムの一実施形態を説明する。本実施形態の抗ウイルスフィルムは、食品包装用、日用雑貨用、建材用、電子機器用、車両用部材用等の種々の用途に用いられる。
【0019】
[抗ウイルスフィルムの層構成]
図1に示すように、抗ウイルスフィルム10は、基材20と、抗ウイルス層21と、被覆層22とを備える。抗ウイルス層21は、抗ウイルス成分と樹脂成分とを含む。被覆層22は、樹脂成分を含み、かつ、抗ウイルス成分を含まない。
【0020】
基材20は、抗ウイルス層21を支持している。被覆層22は、抗ウイルス層21に対して基材20とは反対側に位置し、抗ウイルス層21を覆っている。すなわち、抗ウイルス層21の下面は基材20に接しており、抗ウイルス層21の上面は被覆層22に接している。
【0021】
被覆層22における抗ウイルス層21に接する下面とは反対側の上面が、抗ウイルスフィルム10の表面である。抗ウイルスフィルム10の表面は、抗ウイルス作用を発現する作用面である。
【0022】
以下、各層の材料を詳細に説明する。
<基材>
基材20の材料は、基材20に抗ウイルス層21を塗布形成できる材料であればよい。基材20は、例えば、樹脂フィルムである。樹脂フィルムの材料例は、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン、ポリカーボネート、ポリアクリルニトリル、ポリイミド等である。基材20は、単層構造体であってもよいし、多層構造体であってもよい。
【0023】
基材20の厚さは、基材20に抗ウイルス層21を塗布形成できる厚さであればよい。基材20の厚さは、基材20の搬送性や、抗ウイルス層21および被覆層22の形成の際の塗液の塗工性を高める観点から、4μm以上であることが好ましく、12μm以上であることがより好ましい。
【0024】
<抗ウイルス層>
抗ウイルス層21が含む樹脂成分は、熱硬化性樹脂であってもよいし、紫外線硬化性樹脂であってもよい。熱硬化性樹脂の例は、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等である。紫外線硬化性樹脂は、光重合性化合物の硬化体である。光重合性化合物の例は、単官能、2官能、または、3官能以上の(メタ)アクリレート化合物や、ウレタン(メタ)アクリレート化合物である。なお、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートの総称である。抗ウイルス層21が含む樹脂成分は、抗ウイルス成分を含有しながらも均一な硬化が得られやすい観点から、熱硬化性樹脂であることが好ましい。
【0025】
抗ウイルス層21に含まれる抗ウイルス成分は、銀系抗ウイルス剤である。銀系抗ウイルス剤は、銀担持担体であってもよいし、銀粒子であってもよいし、銀化合物粒子であってもよい。銀系抗ウイルス剤の安定性を高めることが要求される場合、銀系抗ウイルス剤は、担体と、担体に担持された銀とからなる銀担持担体であることが好ましい。
【0026】
銀担持担体を構成する担体の材料例は、リン酸亜鉛カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸ジルコニウム、リン酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、活性炭、アルミナ、シリカゲル、ゼオライト、ヒドロキシアパタイト、リン酸チタン、チタン酸カリウム、含水酸化ビスマス、含水酸化ジルコニウム、ハイドロタルサイト等の多孔性担持体や、マグネシウム・アルミニウム・リン酸ガラス、マグネシウム・カルシウム・リン酸・硼酸ガラス、亜鉛・マグネシウム・アルミニウム・カルシウム・ナトリウム・硼酸・リン酸ガラス、マグネシウム・ナトリウム・リン酸ガラス、マグネシウム・亜鉛・アルミニウム・カルシウム・ナトリウム・硼酸・リン酸ガラス等のガラス系材料である。粒度分布の安定性、銀系抗ウイルス剤の分散性、抗ウイルス活性の安定性を高める観点では、担体の材料は、リン酸亜鉛カルシウム、リン酸カルシウム、ゼオライトからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0027】
銀担持担体の平均粒子径は、体積基準のメジアン径(D50)である。抗ウイルス活性や分散性を高める観点では、銀担持担体の平均粒子径は、0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、0.5μm以上5μm以下であることがより好ましく、1μm以上3μm以下であることがさらに好ましい。銀担持担体の平均粒子径は、抗ウイルス層21の厚さよりも大きくてもよいし、抗ウイルス層21の厚さよりも小さくてもよいし、抗ウイルス層21の厚さと等しくてもよい。銀担持担体の平均粒子径は、被覆層22の厚さよりも大きくてもよいし、被覆層22の厚さよりも小さくてもよいし、被覆層22の厚さと等しくてもよい。
【0028】
抗ウイルス層21の総質量に対する銀系抗ウイルス剤の質量の割合は、抗ウイルス活性を高める観点では、3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。抗ウイルス層21の総質量に対する銀系抗ウイルス剤の質量の割合は、銀系抗ウイルス剤の分散性を高める観点では、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0029】
抗ウイルス層21の厚さは、抗ウイルス層21の厚さの均一性、抗ウイルス層21の形成のための塗液の塗工性、抗ウイルス層21の機械的な耐久性、および、抗ウイルス活性を高める観点では、0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましい。抗ウイルス層21の厚さは、抗ウイルス層21の基材20に対する密着性を高め、また、抗ウイルス層21の硬化に要する負荷を軽減する観点では、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。
【0030】
なお、抗ウイルス層21の厚さは、抗ウイルス層21のなかで、厚さ方向において銀系抗ウイルス剤を含まない部分の膜厚である。抗ウイルスフィルム10、および、抗ウイルスフィルム10を構成する各層の厚さは、測定対象の断面における厚さの標本値の平均値である。厚さの標本値は、測定対象の断面において1mm以上の間隔を空けた10点での厚さの測定値のうち、これら測定値の平均値との差が平均値の50%以内である測定値である。
【0031】
抗ウイルス層21は、基材20の上面に、抗ウイルス層21を形成するための塗液である抗ウイルス層塗液を塗布し、これにより形成された膜を硬化することによって形成される。抗ウイルス層塗液は、抗ウイルス層21の樹脂成分を形成するための主剤や硬化剤、銀系抗ウイルス剤、分散助剤や安定化剤等の必要に応じた助剤を含む。
【0032】
抗ウイルス層塗液は、二液硬化型であってもよいし、一液硬化型であってもよい。二液硬化型の塗液の一例は、主剤であるポリオール成分と、硬化剤であるイソシアネート成分とを含有する。ポリオール成分は、例えば、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、エポキシポリオール等である。イソシアネート成分は、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メタキシレンジイソシアネート等である。
【0033】
抗ウイルス層塗液の塗布方法には、バーコート法、スピンコート法、オフセットコーティング法、グラビアコーティング法、ロールコーティング法、ダイコーティング法等の公知の方法を用いることができる。塗工後の膜の硬化方法は、樹脂成分の硬化型に応じた方法であればよく、加熱乾燥や紫外線照射が用いられる。
【0034】
<被覆層>
被覆層22が含む樹脂成分は、熱硬化性樹脂であってもよいし、紫外線硬化性樹脂であってもよい。熱硬化性樹脂および紫外線硬化性樹脂としては、例えば、抗ウイルス層21の材料として例示した樹脂が用いられる。被覆層22が含む樹脂成分は、抗ウイルス層21が含む樹脂成分と同一であってもよいし、異なっていてもよい。被覆層22が含む樹脂成分が熱硬化性樹脂であると、抗ウイルス層21の表面に対する追従性が得られやすい。また、被覆層22が含む樹脂成分が紫外線硬化性樹脂であると、抗ウイルスフィルム10の表面の耐摩耗性が高められる。
【0035】
被覆層22の厚さは、被覆層22の厚さの均一性、被覆層22の形成のための塗液の塗工性、および、被覆層22の機械的な耐久性を高める観点では、0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがさらに好ましい。被覆層22の厚さは、被覆層22の抗ウイルス層21に対する密着性および抗ウイルス活性を高め、また、被覆層22の硬化に要する負荷を軽減する観点では、20μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。
【0036】
被覆層22の厚さは、抗ウイルス層21の厚さよりも小さくてもよいし、抗ウイルス層21の厚さよりも大きくてもよいし、抗ウイルス層21の厚さと等しくてもよい。より高い耐水性が要求される場合、被覆層22の厚さは、抗ウイルス層21の厚さよりも大きいことが好ましい。この際、銀系抗ウイルス剤の平均粒子径は、抗ウイルス層21の厚さよりも大きく、抗ウイルス層21の厚さと被覆層22の厚さとの合計よりも小さいことが好ましい。
なお、被覆層22の厚さは、抗ウイルスフィルム10のなかで厚さ方向にて銀系抗ウイルス剤を含まない部分での被覆層22の膜厚である。
【0037】
被覆層22は、被覆層22を形成するための塗液である被覆層塗液を抗ウイルス層21の上面に塗布し、これにより形成された膜を硬化することによって形成される。被覆層塗液は、被覆層22の樹脂成分を形成するための主剤や硬化剤、必要に応じた助剤を含む。
【0038】
被覆層塗液の塗布方法には、バーコート法、スピンコート法、オフセットコーティング法、グラビアコーティング法、ロールコーティング法、ダイコーティング法等の公知の方法を用いることができる。塗工された膜の硬化方法は、樹脂成分の硬化型に応じた方法であればよく、加熱乾燥や紫外線照射が用いられる。
【0039】
[抗ウイルスフィルムの特性]
抗ウイルスフィルム10におけるAg溶出量Evについて説明する。Ag溶出量Evは、耐水試験後の抗ウイルスフィルム10の表面を純水に24時間密着させたときに、当該表面の単位面積あたりにおいて溶出するAgイオンの量である。抗ウイルスフィルム10の表面は、被覆層22の上面である。耐水試験では、抗ウイルスフィルム10の表面が純水に18時間密着させられる。
【0040】
詳細には、Ag溶出量Evは、下記(a)~(e)の手順で測定される。
(a)抗ウイルスフィルム10を1辺が5cmの正方形状に成形した試験片を用意し、耐水試験として、50mLの純水を入れたシャーレに、試験片の表面が水面に接するように試験片を浮かべ、当該シャーレを25℃の恒温槽で18時間にわたり保管する。耐水試験後、試験片を水面から離して、水面に接していた試験片の表面の水分を拭き取り、当該表面をエタノールで清浄化する。
【0041】
(b)上記(a)の処理後の試験片の表面に、0.4mLの純水を滴下する。そして、純水の滴下後の試験片の表面に、1辺が4cmの正方形状のポリエチレンフィルムを密着させる。これにより、試験片の表面のうち、ポリエチレンフィルムに覆われている領域が、純水で均一に濡れるため、均一に溶出成分を抽出することができる。Ag溶出量Evの測定対象面積は、ポリエチレンフィルムに覆われている領域に対応する16cmである。
【0042】
(c)上記(b)の処理後の試験片をシャーレに静置し、このシャーレを、温度:25±1℃、湿度:90%RH以上の環境下に置いて、溶出成分を24時間抽出する。
(d)上記(c)の処理後、試験片表面に付着している抽出液を回収する。具体的には、試験片の表面に洗い出しのための純水を所定量加えた後、抽出液と洗い出し用純水との混合液を全て回収する。そして、回収した混合液である回収液を希硝酸で希釈して、Ag溶出量Evの測定のための測定液とする。
【0043】
(e)上記(d)の処理により得た測定液に対し、原子吸光光度法を用いて、Agイオン量を測定する。測定結果に基づき、下記(式1)を用いて、単位面積あたりのAgイオンの溶出量を算出し、Ag溶出量Evとする。
Ag溶出量Ev(ng/cm)=測定液中のAgイオン定量結果(ng/mL)×回収液の量(mL)×回収液の希釈倍率/測定対象面積(cm) ・・・(式1)
【0044】
本実施形態の抗ウイルスフィルム10においては、Ag溶出量Evが23ng/cm以上である。さらに、耐水試験前の抗ウイルスフィルム10における単位面積あたりのAg元素の含有量がAg含有量Cv(ng/cm)であり、Ag含有量Cvに対するAg溶出量Evの比であるAg比(Ev/Cv)は、0.046以上である。Ag含有量Cvは、耐水試験前の抗ウイルスフィルム10を濃硝酸で湿式分解させた溶液中のAgイオン量を測定することにより求められる。Agイオン量の測定には、原子吸光光度法が用いられる。
【0045】
これらのAg溶出量EvおよびAg比(Ev/Cv)に基づく抗ウイルスフィルム10の作用について、図2および図3を参照して説明する。
図2は、被覆層22を備えていない参考例の抗ウイルスフィルムにおける銀系抗ウイルス剤の含有状態を模式的に示す。参考例の抗ウイルスフィルムでは、抗ウイルスフィルムの最表面に、銀系抗ウイルス剤の粒子である抗ウイルス粒子Pmを含む抗ウイルス層21が配置される。抗ウイルス粒子Pmは、抗ウイルスフィルムの表面に露出しているか、露出していると見做せる程度に、抗ウイルス層21を構成する樹脂の極薄い膜によって覆われている。
【0046】
こうした構成では、抗ウイルスフィルムの表面が水に曝されるまでは、抗ウイルスフィルムの抗ウイルス効果が得られやすい。一方、抗ウイルスフィルムの表面が水に接触すると、抗ウイルス粒子Pmが有効成分であるAgイオンとして直ちに溶出する。結果として、水に接触した後の抗ウイルスフィルムにおいては、抗ウイルス効果が失われてしまう。
【0047】
図3は、本実施形態の抗ウイルスフィルム10における銀系抗ウイルス剤の含有状態の一例を模式的に示す。本実施形態の抗ウイルスフィルム10では、抗ウイルス層21を被覆層22が覆うため、抗ウイルス粒子Pmが抗ウイルスフィルム10の表面に露出しておらず、抗ウイルス粒子Pmは被覆層22によって覆われている。したがって、抗ウイルスフィルム10が水に接触した場合でも、Agイオンの溶出が抑えられる。
【0048】
抗ウイルス活性は、フィルムから溶出したAgイオンがウイルスに作用することで発現するため、従来は、抗ウイルス粒子Pmが抗ウイルスフィルム10の表面に露出していないと、抗ウイルスフィルム10の抗ウイルス効果が得られないと考えられていた。実際に、被覆層22によるAgイオンの溶出の抑制が過剰であると、耐水試験後にもAgイオンの溶出が抑えられすぎて十分な抗ウイルス効果が得られない。これに対し、本願の発明者による鋭意研究の結果、Ag溶出量Evが23ng/cm以上であれば、抗ウイルス粒子Pmが被覆層22に覆われる抗ウイルスフィルム10であっても、十分な抗ウイルス効果が得られることが確認された。
【0049】
すなわち、本実施形態の抗ウイルスフィルム10によれば、被覆層22によってAgイオンの溶出が適切に制御され、耐水試験後にも23ng/cm以上のAg溶出量Evが得られる。それゆえ、水に接触した後の抗ウイルスフィルムにおいても、高い抗ウイルス効果が得られる。
【0050】
ここで、Ag比(Ev/Cv)が大きいことは、初期の銀系抗ウイルス剤の含有量に対して耐水試験後のフィルムにおけるAgイオンの溶出量が大きいことを意味し、言い換えれば、耐水試験でのAgイオンの溶出が抑えられていることを意味する。
【0051】
詳細には、耐水試験が未実施である抗ウイルスフィルム10におけるAgイオンの溶出率をRE1とし、耐水試験後の抗ウイルスフィルム10におけるAgイオンの溶出率をRE2とし、耐水試験後の抗ウイルスフィルム10におけるAg残存量をCrとすると、Cr=Cv×(1-RE1)であることから、下記(式2)および下記(式3)が導出される。溶出率RE1,RE2は、Agの含有量に対する溶出量の比であって、溶出率RE1は、すなわち耐水試験での溶出率である。
Ev=Cr×RE2
={Cv×(1-RE1)}×RE2
=Cv(RE2-RE1×RE2) ・・・(式2)
Ev/Cv=RE2-RE1×RE2 ・・・(式3)
【0052】
上記(式3)に示すように、溶出率RE1が小さいと、Ev/Cvは大きくなる。本実施形態の抗ウイルスフィルム10では、抗ウイルス層21を被覆層22が覆うため、溶出率RE1が小さくなり、その結果、Ev/Cvが大きくなる。
【0053】
このように、Ag比(Ev/Cv)は、溶出率RE1の小ささ、すなわち抗ウイルスフィルム10の耐水性の指標であり、被覆層22の積層による耐水性の付与の程度を示すと言える。Ag比(Ev/Cv)が0.046以上であれば、良好な耐水性が得られる。さらに、Ag比(Ev/Cv)が0.058以上であれば、十分な耐水性が得られるとともに、23ng/cm以上のAg溶出量Evが得られやすくなる。
【0054】
Ag含有量Cvが極端に大きければ、Ag比(Ev/Cv)が小さい場合、すなわち溶出率RE1が大きい場合でも、耐水試験後のAg溶出量Evが23ng/cm以上となり、耐水試験後の抗ウイルス効果自体は得られる可能性はある。しかしながら、この場合、抗ウイルス層の材料として単価の高い銀を含む抗ウイルス剤を多量に用いることになるため、抗ウイルスフィルムの製造コストが増加する。また、溶出率RE1が大きいことは、抗ウイルスフィルムと水との接触に起因してウイルスの減少に寄与せずに失われる抗ウイルス成分が多いことを意味し、銀系抗ウイルス剤の無駄な消費も大きくなる。
【0055】
これに対し、本実施形態の抗ウイルスフィルム10であれば、Ag比(Ev/Cv)が0.046以上であり、かつ、Ag溶出量Evが23ng/cm以上であることから、銀系抗ウイルス剤の使用量を抑えつつ、高い耐水性が得られる。そして、抗ウイルスフィルム10が長時間にわたり水に曝された場合でも、十分な抗ウイルス効果が得られる。
【0056】
また、被覆層22におけるAgイオンの溶出の抑制の程度は、被覆層22の平均自由体積によっても評価できる。自由体積とは、分子に占有されていない空間の体積のことを示し、平均自由体積が大きいことは、高分子鎖間の空隙が大きく、被覆層22を気体やイオンが透過しやすいことを意味すると捉えられる。被覆層22は、耐水性の向上の他に、抗ウイルスフィルム10の表面状態が関わる機械特性や光学特性の向上にも作用することから、被覆層22を備える抗ウイルスフィルム10においては、耐水試験が未実施である初期の状態にて十分な抗ウイルス効果が得られれば、耐水性の有無は重要視されない場合もある。被覆層22の平均自由体積は、こうした初期のAgイオンの溶出量の指標として用いることも可能であり、被覆層22の平均自由体積の大きさが適当であれば、被覆層22を備える抗ウイルスフィルム10において、初期のAgイオンの溶出量が良好に得られる。その結果、初期の状態にて十分な抗ウイルス効果が得られる。
【0057】
被覆層22の平均自由体積は、抗ウイルスフィルム10の表面付近における陽電子寿命を測定することに基づき、陽電子の平均寿命から求められる平均自由体積半径を用いた球形近似により算出することができる。
【0058】
被覆層22の平均自由体積は、被覆層22の樹脂成分の材料の調整によって、被覆層22を構成する高分子化合物が有する官能基の極性、高分子化合物における側鎖の長さ、高分子化合物の架橋の程度等を調整することにより制御することができる。
【0059】
また、抗ウイルスフィルム10のヘイズは、5%以下であることが好ましい。ヘイズは、JIS K 7136に準拠して測定される。
抗ウイルスフィルム10において、抗ウイルス効果を高めるために銀系抗ウイルス剤の含有量を増やすと、銀系抗ウイルス剤の粒子に起因して抗ウイルス層21の表面の凹凸が大きくなる。それゆえ、抗ウイルス層21の上面が抗ウイルスフィルムの表面であると、表面散乱によってヘイズが増加しやすい。これに対し、本実施形態の抗ウイルスフィルム10では、被覆層22によって、抗ウイルス層21の上面における凹凸が均される。言い換えれば、抗ウイルス層21の上面よりも被覆層22の上面の方が、表面粗さが小さくなる。そのため、被覆層22を備えないフィルムと比較して、抗ウイルスフィルム10の表面での光の散乱が抑えられるため、ヘイズの低減が可能である。
【0060】
特に、抗ウイルスフィルム10のヘイズが5%以下であれば、高い透明性が得られる。こうした抗ウイルスフィルム10は、電子機器の表示面に貼られる光学フィルムとして好適に用いられる。抗ウイルスフィルム10が光学フィルムとして用いられることで、耐水性の高い抗ウイルス効果が付与された光学フィルムが実現される。
【0061】
[実施例]
<Ag溶出量Evと抗ウイルス効果との関係の解析>
Ag溶出量Evが異なる試験例1~10の抗ウイルスフィルムを作製して、Ag溶出量Evと抗ウイルス効果との関係を解析した。
【0062】
(試験例の抗ウイルスフィルムの作製)
・抗ウイルス層塗液の調製
アクリル化合物を含む主剤(UCクリアー:DIC社製)と、イソシアネートを含むウレタン硬化剤(W-325N:DIC社製)とを用い、主剤と硬化剤との乾燥重量の比が、主剤:硬化剤=10.0:1.7となるように、主剤と硬化剤とを混合した。この混合液に、銀系抗ウイルス剤(PTC-NT ANV 添加剤 ST:大日精化工業社製、銀担持量:3質量%、平均粒子径:3μm(体積基準メジアン径))を添加した。この際、溶媒として酢酸エチル(関東化学製、鹿1級)を用い、塗液中の固形分濃度が0.14質量%となるように溶媒を添加し、マグネチックスターラーを用いて十分に混合することにより、抗ウイルス層塗液を生成した。
【0063】
・被覆層塗液の調製
アクリル化合物を含む主剤(UCクリアー:DIC社製)と、イソシアネートを含むウレタン硬化剤(W-325N:DIC社製)とを用い、主剤と硬化剤との乾燥重量の比が、主剤:硬化剤=10.0:1.7となるように、主剤と硬化剤とを混合した。この際、溶媒として酢酸エチル(関東化学製、鹿1級)を用い、塗液中の固形分濃度が0.14質量%となるように溶媒を添加し、マグネチックスターラーを用いて十分に混合することにより、被覆層塗液を生成した。
【0064】
・抗ウイルス層および被覆層の形成
基材として、A4サイズに切り出したポリエチレンテレフタラート製の二軸延伸フィルム(コスモシャインA4260:東洋紡社製、厚さ:50μm)を用いた。基材に1mL~2mLの抗ウイルス層塗液をスポイトで滴下し、当該抗ウイルス層塗液を、ワイヤレスバーコーター(A-Bar:三井電気精機社製)を用いて基材に塗工した。塗工後の膜を、80℃に加熱した大気オーブンで1分間乾燥することにより、抗ウイルス層を形成した。
【0065】
抗ウイルス層が十分に乾燥した後、抗ウイルス層の上面に1mL~2mLの被覆層塗液をスポイトで滴下し、当該被覆層塗液を、ワイヤレスバーコーター(A-Bar:三井電気精機社製)を用いて抗ウイルス層に塗工した。塗工後の膜を、80℃に加熱した大気オーブンで1分間乾燥することにより、被覆層を形成した。
【0066】
基材、抗ウイルス層、および、被覆層からなる積層体を、温度:40℃,湿度:20%RHの恒温槽内に96時間静置して、塗布膜のエージングを行った。これにより、試験例の抗ウイルスフィルムを得た。
【0067】
上記工程において、抗ウイルス層塗液中の固形分における銀系抗ウイルス剤の割合を、5質量%以上20質量%以下の範囲で変更し、また、被覆層の厚さを0μm以上5μm以下の範囲で変更することによって、Ag溶出量Evが異なる試験例1~10の抗ウイルスフィルムを得た。なお、被覆層の厚さが0μmである試験例は、被覆層を形成していない試験例である。
【0068】
試験例1~10のすべてについて、抗ウイルス層の厚さは1μmである。抗ウイルス層および被覆層の厚さは、ミクロトーム(ウルトラミクロトーム UC7:ライカマイクロシステムズ社製)を用いてブロック切削法により得たフィルム断面を、光学顕微鏡(BX51:オリンパス社製)で観察することにより得た。厚さの測定では、1視野につき5つの測定点での厚さの測定を2視野について実施し、合計で10の測定点の厚さの平均値を、測定対象の層の厚さとした。
【0069】
(Ag溶出量Evの算出)
試験例1~10の各抗ウイルスフィルムについて、上記実施形態に記載の方法で、Ag溶出量Evを算出した。Agイオン量の測定には、ファーネス型原子吸光光度計(ZA3700:日立ハイテクサイエンス社製)を用いた。
【0070】
(抗ウイルス試験)
試験例1~10の各抗ウイルスフィルムについて、ISO21702(プラスチック及びその他の非多孔質表面の抗ウイルス活性の測定)に準拠した抗ウイルス試験を実施した。試験条件は下記の通りである。
・ウイルス種:A型インフルエンザウイルス(H3N2);ATCC VR-1679
・宿主細胞:MDCK細胞(犬腎臓細胞由来);ATCC CCL-34
・成長培地:イーグル最小必須培地(EMEM)
・ウイルス液接種量:0.4mL
・未加工試験片:各試験例から抗ウイルス剤の添加を割愛したフィルム。サイズは5cm×5cmとした。
・カバーフィルム:無添加ポリエチレンフィルム
・抗ウイルス活性値Rの計算:下記(式4)により、抗ウイルス活性値Rを求めた。下記(式4)において、未加工試験片の感染価Utは、未加工試験片の24時間後のプラーク数の常用対数値の平均値、加工試験片の感染価Atは、抗ウイルス加工試験片(試験例の抗ウイルスフィルム)の24時間後のプラーク数の常用対数値の平均値を示す。
抗ウイルス活性値R=Ut-At ・・・(式4)
【0071】
(評価結果)
表1は、試験例1~10の抗ウイルスフィルムについて、Ag溶出量Ev、および、抗ウイルス試験によって得られた抗ウイルス活性値Rを示す。図4は、試験例1~10について、Ag溶出量Evと抗ウイルス活性値Rとの関係を示すグラフである。
【0072】
なお、試験例1,4,6,9の抗ウイルスフィルムは、被覆層を備えておらず、試験例2,3,5,7,8,10の抗ウイルスフィルムは、被覆層を備えている。
【0073】
【表1】
【0074】
抗ウイルスフィルムとして抗ウイルス効果を得るためには、抗ウイルス活性値Rが2.0以上であることが必要であり、抗ウイルス活性値Rが3.0以上であることが好ましい。抗ウイルス活性値Rが2.0未満である場合には、抗ウイルス効果がないと判断され、抗ウイルスフィルムとしての性能が不十分である。
【0075】
表1および図4に示すように、Ag溶出量Evが23ng/cm以上であれば、被覆層を有する抗ウイルスフィルムであっても、2.0以上の抗ウイルス活性値Rが得られていることから、安定した抗ウイルス効果が得られることが確認された。
【0076】
<抗ウイルスフィルムの耐水性の解析>
実施例1~11および比較例1~2の抗ウイルスフィルムを作製して、抗ウイルスフィルムの耐水性について解析した。
【0077】
(実施例1)
・抗ウイルス層塗液の調製
アクリル化合物を含む主剤(UCクリアー:DIC社製)と、イソシアネートを含むウレタン硬化剤(W-325N:DIC社製)とを用い、主剤と硬化剤との乾燥重量の比が、主剤:硬化剤=10.0:1.7となるように、主剤と硬化剤とを混合した。この混合液に、銀系抗ウイルス剤(PTC-NT ANV 添加剤 ST:大日精化工業社製、銀担持量:3質量%、平均粒子径:3μm(体積基準メジアン径))を、塗液中の固形分における銀系抗ウイルス剤の割合が7.5質量%となるように添加した。この際、溶媒として酢酸エチル(関東化学社製、鹿1級)を用い、塗液中の固形分濃度が0.14質量%となるように溶媒を添加し、マグネチックスターラーを用いて十分に混合することにより、抗ウイルス層塗液を生成した。
【0078】
・被覆層塗液の調製
アクリル化合物を含む主剤(UCクリアー:DIC社製)と、イソシアネートを含むウレタン硬化剤(W-325N:DIC社製)とを用い、主剤と硬化剤との乾燥重量の比が、主剤:硬化剤=10.0:1.7となるように、主剤と硬化剤とを混合した。この際、溶媒として酢酸エチル(関東化学社製、鹿1級)を用い、塗液中の固形分濃度が0.14質量%となるように溶媒を添加し、マグネチックスターラーを用いて十分に混合することにより、被覆層塗液を生成した。
【0079】
・抗ウイルス層および被覆層の形成
基材として、A4サイズに切り出したポリエチレンテレフタラート製の二軸延伸フィルム(コスモシャインA4260:東洋紡社製、厚さ:50μm)を用いた。基材に1mL~2mLの抗ウイルス層塗液をスポイトで滴下し、当該抗ウイルス層塗液を、ワイヤレスバーコーター(A-Bar:三井電気精機社製)を用いて基材に塗工した。塗工後の膜を、80℃に加熱した大気オーブンで1分間乾燥することにより、抗ウイルス層を形成した。
【0080】
抗ウイルス層が十分に乾燥した後、抗ウイルス層の上面に1mL~2mLの被覆層塗液をスポイトで滴下し、当該被覆層塗液を、ワイヤレスバーコーター(A-Bar:三井電気精機社製)を用いて抗ウイルス層に塗工した。塗工後の膜を、80℃に加熱した大気オーブンで1分間乾燥することにより、被覆層を形成した。
【0081】
基材、抗ウイルス層、および、被覆層からなる積層体を、温度:40℃,湿度:20%RHの恒温槽内に96時間静置して、塗布膜のエージングを行った。これにより、実施例1の抗ウイルスフィルムを得た。実施例1において、抗ウイルス層の厚さは1μmであり、被覆層の厚さは5μmであり、抗ウイルス層における銀系抗ウイルス剤の含有割合は、7.5質量%である。
【0082】
(実施例2)
抗ウイルス層塗液における銀系抗ウイルス剤の添加量を変更したこと以外は、実施例1と同様の材料および工程によって、実施例2の抗ウイルスフィルムを得た。実施例2において、抗ウイルス層の厚さは1μmであり、被覆層の厚さは5μmであり、抗ウイルス層における銀系抗ウイルス剤の含有割合は、20.0質量%である。
【0083】
(実施例3)
抗ウイルス層塗液における銀系抗ウイルス剤の添加量を変更したこと、および、被覆層の厚さを変更したこと以外は、実施例1と同様の材料および工程によって、実施例3の抗ウイルスフィルムを得た。実施例3において、抗ウイルス層の厚さは1μmであり、被覆層の厚さは1μmであり、抗ウイルス層における銀系抗ウイルス剤の含有割合は、5.0質量%である。
【0084】
(実施例4)
抗ウイルス層塗液における銀系抗ウイルス剤の添加量を変更したこと、および、被覆層の厚さを変更したこと以外は、実施例1と同様の材料および工程によって、実施例4の抗ウイルスフィルムを得た。実施例4において、抗ウイルス層の厚さは1μmであり、被覆層の厚さは1μmであり、抗ウイルス層における銀系抗ウイルス剤の含有割合は、20.0質量%である。
【0085】
(実施例5)
・抗ウイルス層塗液の調製
アクリル化合物を含む主剤(6AN-6000:大成ファインケミカル社製)と、イソシアネートを含むウレタン硬化剤(TPA-100:旭化成社製)とを用い、主剤と硬化剤との乾燥重量の比が、主剤:硬化剤=8.85:1.15となるように、主剤と硬化剤とを混合した。この混合液に、銀系抗ウイルス剤(PTC-NT ANV 添加剤 ST:大日精化工業社製、銀担持量:3質量%、平均粒子径:3μm(体積基準メジアン径))を、塗液中の固形分における銀系抗ウイルス剤の割合が20.0質量%となるように添加した。この際、溶媒として酢酸エチル(関東化学社製、鹿1級)を用い、塗液中の固形分濃度が0.2質量%となるように溶媒を添加し、マグネチックスターラーを用いて十分に混合することにより、抗ウイルス層塗液を生成した。
【0086】
・被覆層塗液の調製
光重合性化合物としてアクリレートを含む第1モノマー(PE-3A:共栄社化学社製)を用い、重合開始剤としてアルキルフェノン系開始剤(Irgacure 184:IGM RESINS製)を用い、光重合性化合物と重合開始剤との乾燥重量の比が、光重合性化合物:重合開始剤=20.0:1.0となるように、これらを混合した。この際、溶媒として2-プロパノール(関東化学社製)を用い、塗液中の固形分濃度が0.41質量%となるように溶媒を添加し、マグネチックスターラーを用いて十分に混合することにより、被覆層塗液を生成した。
【0087】
・抗ウイルス層および被覆層の形成
基材として、A4サイズに切り出したポリエチレンテレフタラート製の二軸延伸フィルム(コスモシャインA4260:東洋紡社製、厚さ:50μm)を用いた。基材に1mL~2mLの抗ウイルス層塗液をスポイトで滴下し、当該抗ウイルス層塗液を、ワイヤレスバーコーター(A-Bar:三井電気精機社製)を用いて基材に塗工した。塗工後の膜を、80℃に加熱した大気オーブンで1分間乾燥した後、温度:40℃、湿度:20%RHの恒温槽内に96時間静置して、エージングを行った。
【0088】
抗ウイルス層のエージング後、抗ウイルス層の上面に1mL~2mLの被覆層塗液をスポイトで滴下し、当該被覆層塗液を、ワイヤレスバーコーター(A-Bar:三井電気精機社製)を用いて抗ウイルス層に塗工した。塗工後の膜を、大気オーブンを用いて50℃で1分間乾燥した後、窒素雰囲気中(酸素濃度500ppm以下)で高圧水銀UV装置を用いて積算露光量が100mJ/cmとなるように紫外線を照射することにより硬化して、被覆層を形成した。
【0089】
これにより、実施例5の抗ウイルスフィルムを得た。実施例5において、抗ウイルス層の厚さは1μmであり、被覆層の厚さは4μmであり、抗ウイルス層における銀系抗ウイルス剤の含有割合は、20.0質量%である。
【0090】
(実施例6)
被覆層塗液において、光重合性化合物を、水と親和性が高い官能基を有するアクリレートを含む第2モノマー(M-920:東亞合成社製)に変更したこと以外は、実施例5と同様の材料および工程によって、実施例6の抗ウイルスフィルムを得た。実施例6において、抗ウイルス層の厚さは1μmであり、被覆層の厚さは4μmであり、抗ウイルス層における銀系抗ウイルス剤の含有割合は、20.0質量%である。
【0091】
(実施例7)
被覆層塗液において、光重合性化合物を、水と親和性が高い官能基を有するアクリレートを含む第3モノマー(A-GLY-9E:新中村化学工業社製)に変更したこと以外は、実施例5と同様の材料および工程によって、実施例7の抗ウイルスフィルムを得た。実施例7において、抗ウイルス層の厚さは1μmであり、被覆層の厚さは4μmであり、抗ウイルス層における銀系抗ウイルス剤の含有割合は、20.0質量%である。
【0092】
なお、実施例5で用いた第1モノマーと、実施例6で用いた第2モノマーと、実施例7で用いた第3モノマーとにおける水との親和性は、第3モノマーが最も高く、第1モノマーが最も低い。
【0093】
(実施例8)
被覆層塗液において、光重合性化合物として、上記第1モノマー(PE-3A:共栄社化学社製)と、上記第2モノマー(M-920:東亞合成社製)とを、これらの重量比が第1モノマー:第2モノマー=25:75となるように混合して用いたこと以外は、実施例5と同様の材料および工程によって、実施例8の抗ウイルスフィルムを得た。実施例8において、抗ウイルス層の厚さは1μmであり、被覆層の厚さは4μmであり、抗ウイルス層における銀系抗ウイルス剤の含有割合は、20.0質量%である。
【0094】
(実施例9)
被覆層塗液において、光重合性化合物として、上記第1モノマー(PE-3A:共栄社化学社製)と、上記第2モノマー(M-920:東亞合成社製)とを、これらの重量比が第1モノマー:第2モノマー=75:25となるように混合して用いたこと以外は、実施例5と同様の材料および工程によって、実施例9の抗ウイルスフィルムを得た。実施例9において、抗ウイルス層の厚さは1μmであり、被覆層の厚さは4μmであり、抗ウイルス層における銀系抗ウイルス剤の含有割合は、20.0質量%である。
【0095】
(実施例10)
被覆層塗液において、光重合性化合物として、上記第1モノマー(PE-3A:共栄社化学社製)と、上記第3モノマー(A-GLY-9E:新中村化学工業社製)とを、これらの重量比が第1モノマー:第3モノマー=25:75となるように混合して用いたこと以外は、実施例5と同様の材料および工程によって、実施例10の抗ウイルスフィルムを得た。実施例10において、抗ウイルス層の厚さは1μmであり、被覆層の厚さは4μmであり、抗ウイルス層における銀系抗ウイルス剤の含有割合は、20.0質量%である。
【0096】
(実施例11)
被覆層塗液において、光重合性化合物として、上記第1モノマー(PE-3A:共栄社化学社製)と、上記第3モノマー(A-GLY-9E:新中村化学工業社製)とを、これらの重量比が第1モノマー:第3モノマー=75:25となるように混合して用いたこと以外は、実施例5と同様の材料および工程によって、実施例11の抗ウイルスフィルムを得た。実施例11において、抗ウイルス層の厚さは1μmであり、被覆層の厚さは4μmであり、抗ウイルス層における銀系抗ウイルス剤の含有割合は、20.0質量%である。
【0097】
(比較例1)
抗ウイルス層塗液における銀系抗ウイルス剤の添加量を変更したこと以外は、実施例1と同様の材料および工程によって、比較例1の抗ウイルスフィルムを得た。比較例1において、抗ウイルス層の厚さは1μmであり、被覆層の厚さは5μmであり、抗ウイルス層における銀系抗ウイルス剤の含有割合は、5.0質量%である。
【0098】
(比較例2)
抗ウイルス層塗液における銀系抗ウイルス剤の添加量を変更したこと、および、被覆層の形成を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の材料および工程によって、比較例2の抗ウイルスフィルムを得た。すなわち、比較例2の抗ウイルスフィルムは被覆層を備えていない。比較例2において、抗ウイルス層の厚さは1μmであり、抗ウイルス層における銀系抗ウイルス剤の含有割合は、5.0質量%である。
【0099】
(Ag含有量Cvの算出)
各実施例および各比較例の抗ウイルスフィルムについて、抗ウイルスフィルムを濃硝酸で湿式分解させた溶液中のAgイオン量を測定することにより、Ag含有量Cvを算出した。Agイオン量の測定には、ファーネス型原子吸光光度計(ZA3700:日立ハイテクサイエンス社製)を用いた。
【0100】
(Ag溶出量Evの算出)
各実施例および各比較例の抗ウイルスフィルムについて、上記実施形態に記載の方法で、Ag溶出量Evを算出した。Agイオン量の測定には、ファーネス型原子吸光光度計(ZA3700:日立ハイテクサイエンス社製)を用いた。
【0101】
(抗ウイルス試験)
各実施例および各比較例の抗ウイルスフィルムについて、ISO21702(プラスチック及びその他の非多孔質表面の抗ウイルス活性の測定)に準拠した抗ウイルス試験を実施した。抗ウイルス試験は、耐水試験前の抗ウイルスフィルムと、耐水試験後の抗ウイルスフィルムとのそれぞれに対して実施した。抗ウイルス試験の試験条件は下記の通りである。
・ウイルス種:A型インフルエンザウイルス(H3N2);ATCC VR-1679
・宿主細胞:MDCK細胞(犬腎臓細胞由来);ATCC CCL-34
・成長培地:イーグル最小必須培地(EMEM)
・ウイルス液接種量:0.4mL
・未加工試験片:各実施例・各比較例から抗ウイルス剤の添加を割愛したフィルム。サイズは5cm×5cmとした。
・カバーフィルム:無添加ポリエチレンフィルム
・抗ウイルス活性値Rの計算:下記(式5)により、抗ウイルス活性値Rを求めた。下記(式5)において、未加工試験片の感染価Utは、未加工試験片の24時間後のプラーク数の常用対数値の平均値、加工試験片の感染価Atは、抗ウイルス加工試験片(各実施例・各比較例の抗ウイルスフィルム)の24時間後のプラーク数の常用対数値の平均値を示す。
抗ウイルス活性値R=Ut-At ・・・(式5)
【0102】
耐水試験では、各実施例および各比較例の抗ウイルスフィルムを1辺が5cmの正方形状に成形した試験片を用意し、50mLの純水を入れたシャーレに、試験片の表面が水面に接するように試験片を浮かべて、当該シャーレを25℃の恒温槽で18時間にわたり保管した。その後、試験片を水面から離して、水面に接していた試験片の表面の水分を拭き取り、当該表面をエタノールで清浄化することにより、抗ウイルス試験に用いる試験片を得た。
【0103】
(ヘイズの測定)
各実施例および各比較例の抗ウイルスフィルムについて、JIS K 7136に準拠してヘイズを測定した。ヘイズの測定は、ヘイズメーター(NDH7000SP:日本電色工業社製)を用い、基材と反対側の表面を抗ウイルスフィルムの表面として実施した。
【0104】
(接触角の測定)
実施例5~11の抗ウイルスフィルムについて、純水の接触角を測定した。接触角とは、フィルム表面に滴下された液滴に対するフィルム表面からの接線とフィルム表面とのなす角である。接触角の測定は、ポータブル接触角計(PCA-1:協和界面科学社製)を用い、両面テープでガラス板に貼り付けた抗ウイルスフィルムの試験片に対して実施した。測定時間間隔を1000ms、1回の測定における連続測定数を5、測定回数を3回とし、全15データの平均値を、接触角の測定結果とした。
【0105】
(水蒸気透過度の測定)
実施例5~11の被覆層について、JIS Z0208(防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法))に準拠して、水蒸気透過度を求めた。水蒸気透過度とは、単位面積あたりを透過する水蒸気量である。水蒸気透過度の測定に用いる試験片は、トリアセチルセルロースフィルム(TJ40UL:富士フイルム社製、厚さ:40μm)に、各実施例の被覆層に相当する層のみを5μmの厚さに形成することにより作製した。この試験片の水蒸気透過度とトリアセチルセルロースフィルムのみの水蒸気透過度とを測定することにより、被覆層のみの水蒸気透過度を算出した。水蒸気透過度の測定条件は、アルミカップ体積:2.26E-04m、温度:40℃、湿度:90%RH、試験時間:24時間である。
【0106】
(平均自由体積の算出)
実施例5,7の抗ウイルスフィルムについて、表面付近、すなわち被覆層の平均自由体積を求めた。平均自由体積は、小型陽電子ビーム発生装置(PALS-200A:フジ・インバック社製)を用いて、陽電子ビーム法により陽電子の寿命を測定することに基づき求めた。測定対象は、抗ウイルスフィルムを15mm×15mmのサイズのSiウェハに貼り付けたサンプルであり、測定条件は、温度:室温、測定雰囲気:真空、測定深さ:0~1.5μm付近(推定)である。測定によって得られた陽電子の平均寿命τ(ns)から、平均自由体積半径R(nm)を計算し、平均自由体積(nm)として、平均自由体積半径Rを用いて4πR /3の計算式により球形近似した1つの自由体積の大きさを求めた。
【0107】
(評価結果)
表2は、各実施例および各比較例の抗ウイルスフィルムについて、抗ウイルス層における銀系抗ウイルス剤の含有割合、被覆層の厚さ、Ag含有量Cv、Ag溶出量Ev、Ag比(Ev/Cv)、耐水試験前後の抗ウイルス活性値R、および、ヘイズを示す。また、表3は、実施例5~11の抗ウイルスフィルムについて、接触角および被覆層の水蒸気透過度の測定結果を示す。
【0108】
【表2】
【0109】
【表3】
【0110】
表2に示すように、Ag比(Ev/Cv)が0.046以上であり、かつ、Ag溶出量Evが23ng/cm以上である実施例1~11では、耐水試験前と同様に、耐水試験後にも高い抗ウイルス活性が得られている。したがって、耐水試験後にも安定した抗ウイルス効果が得られることが確認された。
【0111】
比較例1では、Ag比(Ev/Cv)は0.046以上であるものの、Ag溶出量Evが23ng/cm未満であり、耐水試験前および耐水試験後のいずれでも抗ウイルス活性が低い。比較例1では、Agイオンの溶出の抑制が過剰であって、耐水試験中に加えて耐水試験後にもAgイオンの溶出が抑えられているために抗ウイルス効果が十分に得られていないことが示唆される。
【0112】
比較例2では、Ag比(Ev/Cv)が0.046未満、かつ、Ag溶出量Evが23ng/cm未満であり、耐水試験前に対して耐水試験後の抗ウイルス活性が大きく低下している。比較例2は被覆層を備えておらず、耐水試験中のAgイオンの溶出が大きい結果、耐水試験後のAg溶出量Evが小さくなって抗ウイルス効果が十分に得られていないことが示唆される。
【0113】
銀系抗ウイルス剤の含有割合が同じである実施例3,比較例1,2、また、被覆層の厚さが同じである実施例1,2,比較例1を参照すると、Ag比(Ev/Cv)が0.058以上であれば、耐水試験後に好適な抗ウイルス効果を得るための耐水性、言い換えればAgイオンの溶出の抑制の程度が、より好適に得られると言える。
【0114】
また、被覆層および抗ウイルス層の各々について材料が共通している実施例1~4を参照すると、被覆層が厚いほど、ヘイズが低くなっている。これは、被覆層が厚いほど、抗ウイルス層上面での凹凸が被覆層によって均され、抗ウイルスフィルム表面の表面粗さが小さくなるためであると考えられる。また、銀系抗ウイルス剤の含有割合が小さいほど、ヘイズが低くなっている。これは、銀系抗ウイルス剤の含有割合が小さいほど、抗ウイルス層上面の表面粗さが小さくなり、その結果、抗ウイルスフィルム表面の表面粗さが小さくなるためであると考えられる。
【0115】
表3に示すように、接触角が小さいほど、被覆層の水蒸気透過度は大きくなる傾向が確認された。接触角は、純水と抗ウイルスフィルム表面との濡れ性の程度を示す指標であり、水に対する抗ウイルスフィルム表面の親和性が高いほど、接触角は小さくなる。水蒸気透過度は、水に対する被覆層の樹脂成分の親和性が高いほど、大きくなる。実施例5~11においては、被覆層の材料のモノマーにおける水との親和性が高いほど、また、水と親和性を有するモノマーの配合割合が多いほど、接触角が小さくなり、水蒸気透過度が大きくなっている。したがって、被覆層の樹脂成分は、モノマーに応じた水との親和性を有していることが示唆される。
【0116】
被覆層の平均自由体積について、実施例5では0.0845nmであり、実施例7では0.0885nmであった。実施例5~7について、初期のAg溶出量、すなわち耐水試験前のAg溶出量を測定したところ、実施例5では40.0ng/cmであり、実施例6では73.5ng/cmであり、実施例7では297.0ng/cmであった。初期のAg溶出量は、上記実施形態に記載のAg溶出量Evの測定方法において(a)を実施せずに(b)~(e)を順に実施することにより求められる。初期のAg溶出量は、被覆層の水蒸気透過度が大きいほど大きくなっており、初期のAg溶出量と被覆層の水蒸気透過度とには正の相関があることが示唆される。これは、被覆層を水分が透過しやすいほど、Agイオンが溶出しやすくなるためと考えられる。
【0117】
そして、平均自由体積が大きいほど気体やイオンが被覆層を透過しやすくなることから、平均自由体積と水蒸気透過度とには正の相関があり、平均自由体積と初期のAg溶出量とにも正の相関があると考えられる。実施例5,7についての平均自由体積の結果も、平均自由体積と初期のAg溶出量との正の相関を示唆している。すなわち、平均自由体積が大きいほど、初期のAg溶出量が大きくなる。実施例5,7から、平均自由体積が0.0845nm以上0.0885nm以下であれば、被覆層を備える構成であっても、初期において十分な抗ウイルス活性が得られる程度に、Ag溶出量が得られると言える。
【0118】
以上、上記実施形態および実施例によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)抗ウイルス層21が被覆層22に覆われていることにより、Agイオンの溶出が抑えられる。一方で、Ag溶出量Evが23ng/cm以上であることから、被覆層22を備えていても、水に接触した後の抗ウイルスフィルム10にて高い抗ウイルス効果が得られる。そして、Ag比(Ev/Cv)が0.046以上であることから、被覆層22によるAgイオンの溶出の抑制の程度が好適であり、銀系抗ウイルス剤の使用量を抑えつつ、良好な耐水性が得られる。さらに、Ag比(Ev/Cv)が0.058以上であれば、銀系抗ウイルス剤の使用量をより抑えつつ、高い耐水性が得られる。
【0119】
(2)銀系抗ウイルス剤が分散した塗液から製造される抗ウイルス層21では、銀系抗ウイルス剤が水に溶出しやすい。このため、抗ウイルスフィルム10が、塗布膜である抗ウイルス層21に銀系抗ウイルス剤を含む場合、上記(1)の効果の有益性が高い。
【0120】
(3)抗ウイルス層21の樹脂成分と被覆層22の樹脂成分とが、同一種類の樹脂を含む場合、抗ウイルス層21と被覆層22との間の密着性が高められる。また、抗ウイルス層21および被覆層22の樹脂成分がアクリル樹脂であれば、各層の形成や材料の入手が容易である。また、被覆層22の樹脂成分が、熱硬化性樹脂または紫外線硬化性樹脂を含んでいれば、抗ウイルスフィルム10の表面における耐摩耗性等の所望の特性に応じて、被覆層22の材料を選択することができる。
【0121】
(4)抗ウイルス層21の厚さが被覆層22の厚さよりも薄く、かつ、銀系抗ウイルス剤の平均粒子径が抗ウイルス層21の厚さと被覆層22の厚さとの合計よりも小さい場合、被覆層22が水に直接接触することによって抗ウイルス効果が低下してしまうことが抑えられる。このため、抗ウイルスフィルム10が有する本来の抗ウイルス効果について低下が抑えられる。
【0122】
(5)抗ウイルスフィルム10では、抗ウイルス層21の上面の凹凸が被覆層22によって均されるため、ヘイズの低減が可能である。特に、抗ウイルスフィルム10のヘイズが5%以下であれば、高い透明性が得られる。
【0123】
[変形例]
上記実施形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・Ag比(Ev/Cv)が0.046以上、かつ、Ag溶出量Evが23ng/cm以上であれば、被覆層22が銀系抗ウイルス剤を含んでいてもよい。この場合、Ag含有量Cvは、抗ウイルス層21および被覆層22が含有するAg元素の量であって、すなわち、抗ウイルスフィルム10が含有するAg元素の量である。被覆層22が銀系抗ウイルス剤を含んでいると、抗ウイルスフィルム10における銀系抗ウイルス剤の含有量の増大が可能であることから、抗ウイルス効果を高めることができる。一方で、被覆層22が銀系抗ウイルス剤を含んでいなければ、抗ウイルスフィルム10が水と接触したときの抗ウイルス剤の無駄な流出が好適に抑えられ、Agイオンの溶出の抑制、言い換えればAgイオンの徐放という被覆層22の機能が的確に発揮される。
【0124】
・上記実施形態では、抗ウイルス層21および被覆層22が塗布膜であったが、これらの層の製造方法は限定されない。例えば、抗ウイルス層21は、銀系抗ウイルス剤を練り込んだ樹脂成分の溶融押出によって形成されてもよいし、被覆層22は、樹脂成分の溶融押出によって形成されてもよい。
【符号の説明】
【0125】
Pm…抗ウイルス粒子
10…抗ウイルスフィルム
20…基材
21…抗ウイルス層
22…被覆層
図1
図2
図3
図4