(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180339
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】セパレータ
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20241219BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20241219BHJP
B32B 7/06 20190101ALI20241219BHJP
B32B 27/10 20060101ALI20241219BHJP
B32B 29/00 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
B32B27/00 L
B32B27/30 102
B32B7/06
B32B27/00 101
B32B27/10
B32B29/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024095336
(22)【出願日】2024-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2023098867
(32)【優先日】2023-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000205306
【氏名又は名称】大阪シーリング印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】藤谷 純也
(72)【発明者】
【氏名】浅田 詩織
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK04A
4F100AK07A
4F100AK21B
4F100AK22A
4F100AK41A
4F100AK45A
4F100AK46A
4F100AK49A
4F100AK52C
4F100AK57A
4F100AL07B
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10C
4F100DG10A
4F100EJ65B
4F100JL14C
(57)【要約】
【課題】リサイクルする際に基材から離型層を容易に分離できるセパレータを提供する。
【解決手段】基材とプライマー層と離型層とをこの順に備え、前記プライマー層は、カルボニル基変性ポリビニルアルコール、及び、スルホン酸基変性ポリビニルアルコールの少なくとも一方を含む、セパレータ。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材とプライマー層と離型層とをこの順に備え、
前記プライマー層は、カルボニル基変性ポリビニルアルコール、及び、スルホン酸基変性ポリビニルアルコールの少なくとも一方を含む、
セパレータ。
【請求項2】
前記カルボニル基変性ポリビニルアルコールは架橋されていない、請求項1に記載のセパレータ。
【請求項3】
前記スルホン酸基変性ポリビニルアルコールは架橋されていない、請求項1に記載のセパレータ。
【請求項4】
前記離型層は、シリコーン系樹脂を含む、請求項1又は請求項2に記載のセパレータ。
【請求項5】
前記基材は、紙、樹脂、又は、紙と樹脂との複合材である、請求項1又は請求項2に記載のセパレータ。
【請求項6】
前記基材は、紙であり、
前記紙は、上質紙、再生紙、片艶紙、耐油紙、コート紙、アート紙、クラフト紙、グラシン紙、又は、キャスコート紙である、請求項5に記載のセパレータ。
【請求項7】
前記基材は、樹脂であり、
前記樹脂は、ポリエステル、ポリイミド、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセテート、ポリエチレン、又は、ポリフェニレンスルフィドである、請求項5に記載のセパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
「剥離紙」とも称されるセパレータは、紙等の基材上に離型層を備える。離型層を形成する離型剤は、高価なシリコーン等である。離型剤が基材中に浸透すると、離型剤の使用量が増加しコストアップになる。離型層は剥離層とも称される。離型剤は剥離剤とも称される。
【0003】
特許文献1は、紙の基材上に目止め層と剥離層とをこの順に積層してなる剥離紙を開示する。特許文献1に記載の目止め層は、剥離剤が基材中に浸透することを抑制する機能を有する。目止め層は、ポリビニルアルコール等の水溶性樹脂から形成されている。剥離層は、シリコーン樹脂から形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
環境保護や省資源の観点からセパレータの基材をリサイクルすることが望まれている。このリサイクルの際、基材から目止め層及び離型層を脱離させることが求められる。その理由は次のとおりである。例えば紙基材から再生紙を製造する際、紙基材から目止め層及び離型層が適切に脱離されずに離型剤が紙基材に残存していると、離型剤が含まれた再生紙が製造される。その再生紙に印刷した際に塗料のハジキが生じ得る。塗料のハジキとは、再生紙において、離型剤が存在する領域に塗料が付着せず、塗膜が局所的に薄くなる領域、又は、塗膜が形成されない領域である。
【0006】
上記目止め層の溶解性が十分でない場合、基材から目止め層とともに離型層が脱離し難い。
【0007】
本発明の目的の1つは、リサイクルする際に基材から離型層が脱離し易いセパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では次のように構成している。
【0009】
(1)本発明に係るセパレータは、基材とプライマー層と離型層とをこの順に備える。前記プライマー層は、カルボニル基変性ポリビニルアルコール、及び、スルホン酸基変性ポリビニルアルコールの少なくとも一方を含む。
【0010】
カルボニル基変性ポリビニルアルコール、及び、スルホン酸基変性ポリビニルアルコールは、けん化度の高い未変性のポリビニルアルコールに比べて、水に溶解し易い。また、変性ポリビニルアルコールの中でも、カルボニル基変性ポリビニルアルコール、及び、スルホン酸基変性ポリビニルアルコールは、水に対する溶解性が高い。本発明に係るセパレータは、プライマー層が水に溶解し易いため、リサイクルする際に基材からプライマー層及び離型層が脱離し易い。よって、本発明に係るセパレータは、使用済みセパレータから基材を回収し易い。基材をリサイクルする工程において、異物が混入するリスク、特に、離型層に含まれる離型剤が再生材に混入するリスクを低減できる。本発明に係るセパレータは、例えば、回収した紙基材を原料にして、離型剤の含有量が少ない再生紙を製造できる。
【0011】
(2)上記(1)のセパレータにおいて、前記カルボニル基変性ポリビニルアルコールは、架橋されていなくてもよい。
【0012】
架橋していないカルボニル基変性ポリビニルアルコールは、架橋しているカルボニル基変性ポリビニルアルコールに比べて水に溶解し易い。上記(2)のセパレータは、リサイクルする際に基材からプライマー層及び離型層が脱離し易い。
【0013】
(3)上記(1)のセパレータにおいて、前記スルホン酸基変性ポリビニルアルコールは、架橋されていなくてもよい。
【0014】
架橋していないスルホン酸基変性ポリビニルアルコールは、架橋しているスルホン酸基変性ポリビニルアルコールに比べて水に溶解し易い。上記(3)のセパレータは、リサイクルする際に基材からプライマー層及び離型層が脱離し易い。
【0015】
(4)上記(1)から(3)のいずれかのセパレータにおいて、前記離型層は、シリコーン系樹脂を含んでいてもよい。
【0016】
上記(4)のセパレータは、リサイクルする際に基材から離型層が脱離し易いため、シリコーン系樹脂を含んでいる離型層とすることができる。
【0017】
(5)上記(1)から(4)のいずれかのセパレータにおいて、前記基材は、紙、樹脂、又は、紙と樹脂との複合材であってもよい。
【0018】
紙、樹脂、又は、複合材は、基材に好適である。
【0019】
(6)上記(5)のセパレータにおいて、前記基材は、紙であってもよい。前記紙は、上質紙、再生紙、片艶紙、耐油紙、コート紙、アート紙、クラフト紙、グラシン紙、又は、キャスコート紙である。
【0020】
上記紙は、基材に好適である。
【0021】
(7)上記(5)のセパレータにおいて、前記基材は、樹脂であってもよい。前記樹脂は、ポリエステル、ポリイミド、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセテート、ポリエチレン、又は、ポリフェニレンスルフィドである。
【0022】
上記樹脂は、基材に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態に係るセパレータの模式的な概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面が示す部材の大きさは、説明を明確にする目的で表現されており、必ずしも実際の寸法及び割合を表すものではない。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0025】
[実施形態]
<セパレータ>
図1を参照して、実施形態のセパレータ1を説明する。セパレータ1は、基材2とプライマー層3と離型層4とをこの順に備える。基材2とプライマー層3と離型層4とをこの順に備えるとは、基材2とプライマー層3と離型層4とが順に積層されていて、基材2とプライマー層3との間、およびプライマー層3と離型層4との間の各々に、別の層が配置されていないことである。セパレータ1の特徴の1つは、プライマー層3がカルボニル基変性ポリビニルアルコール、及び、スルホン酸基変性ポリビニルアルコールの少なくとも一方を含む点にある。
【0026】
≪基材≫
基材2は、シート状に形成されている。基材2は、第1面21及び第2面22を有する。第1面21と第2面22とは、基材2の厚さに沿った方向において互いに反対の方向を向く面である。基材2は、紙、樹脂、又は、紙と樹脂との複合材から形成されている。紙の種類は特に限定されない。紙は公知の紙が利用できる。紙は、例えば、上質紙、再生紙、片艶紙、耐油紙、コート紙、アート紙、クラフト紙、グラシン紙、又は、キャスコート紙である。樹脂の種類は特に限定されない。樹脂は公知の樹脂が利用できる。樹脂は、例えば、ポリエステル、ポリイミド、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセテート、ポリエチレン、又は、ポリフェニレンスルフィドである。ポリエステルの一例は、ポリエチレンテレフタレート(PET)である。複合材を形成する紙は上述した紙であり、複合材を形成する樹脂は上述した樹脂である。基材2の厚さは特に限定されない。
【0027】
≪プライマー層≫
プライマー層3は、基材2の第1面21に設けられている。プライマー層3が基材2の第1面21に設けられているとは、プライマー層3が第1面21に直接接触している状態である。即ち、セパレータ1は、基材2とプライマー層3との間に、基材2とプライマー層3とは別の層が設けられていない。プライマー層3は、第1面21の全面に設けられている。プライマー層3は、第1面31及び第2面32を有する。第1面31と第2面32とは、プライマー層3の厚さに沿った方向において互いに反対の方向を向く面である。第1面31は、基材2に向く面とは反対の方向に向く面である。第2面32は、基材2に向く面であって、基材2に直接接している面である。プライマー層3は単層構造である。
【0028】
プライマー層3は、基材2から離型層4を脱離させ易くする機能を有する。また、基材2が紙である場合、プライマー層3は、離型層4を形成する材料が基材2の内部へ浸透することを防ぐ目止め層としても機能する。プライマー層3は、水に対する溶解性が高い変性ポリビニルアルコール、即ち、水酸基及び酢酸基以外の官能基が導入されたポリビニルアルコール(PVA)を含んでいる。
【0029】
本発明では、プライマー層3の水に対する溶解性を高めることによって、リサイクルの際に基材2から離型層4の脱離を容易にする。プライマー層3は、カルボニル基を有するカルボニル基変性PVA、及び、スルホン酸基を有するスルホン酸基変性PVAの少なくとも一方の変性PVAを含むことで、水に溶解し易い。プライマー層3が水に溶解し易いため、基材2からプライマー層3とともに離型層4が脱離し易い。よって、セパレータ1は、リサイクルする際に基材2から離型層4が脱離し易いため、基材2に離型層4が残留し難い。このようなセパレータ1は、後述する離型層4を形成する離型剤の含有量が少ない再生紙、又は、離型剤が含まれていない再生紙の製造に好適である。
【0030】
変性PVAのうち、カルボニル基変性PVA、及び、スルホン酸基変性PVA以外の変性PVA、例えば、カルボキシル基変性PVA、エチレンオキサイド基変性PVA、アセトアセチル基変性PVAは、後述する離型層の脱離試験の結果に示すように、水に対する溶解性が低い。このような変性PVAから形成されたプライマー層は、セパレータのリサイクルの際に基材からプライマー層とともに離型層を脱離することが困難である。
【0031】
カルボニル基変性ポリビニルアルコールは架橋されていなくてもよい。架橋していないカルボニル基変性ポリビニルアルコールは、架橋しているカルボニル基変性ポリビニルアルコールに比べて、水に溶解し易い。スルホン酸基変性ポリビニルアルコールは架橋されていなくてもよい。架橋していないスルホン酸基変性ポリビニルアルコールは、架橋しているスルホン酸基変性ポリビニルアルコールに比べて、水に溶解し易い。
【0032】
プライマー層3の塗工量は、基材2が紙であるか樹脂であるかによって、適宜選択できる。以下の説明では、紙から形成された基材を「紙基材」と呼び、樹脂から形成された基材を「樹脂基材」と呼ぶ場合がある。樹脂基材の表面は、紙基材の表面に比較して平滑である。そのため、樹脂基材は紙基材に比較して、プライマー層3の塗工量を少なくすることができる。基材2が紙である場合、プライマー層3の塗工量は、例えば0.3g/m2以上である。この場合、プライマー層3をムラなく塗工することができる。これにより、プライマー層3の第1面31は、凹凸が低減された状態となる。よって、後述する離型層4をプライマー層3の第1面31上に塗工した際、離型層4を形成する材料がプライマー層3の凹凸を介して基材2に浸透することを抑制できる。基材2が紙である場合、プライマー層3の塗工量は0.5g/m2以上でもよい。プライマー層3の塗工量が0.5g/m2以上であれば、プライマー層3の厚さを十分に確保しつつ、第1面31にムラが生じないように塗工できる。基材2が樹脂である場合、プライマー層3の塗工量は、例えば0.1g/m2以上である。基材2が樹脂である場合、プライマー層3の塗工量は0.3g/m2以上でもよい。紙基材及び樹脂基材において、プライマー層3の塗工量が上記範囲を満たすことで、リサイクルの際に基材2からプライマー層3とともに離型層4が脱離し易い。即ち、基材2に離型層4が残留し難い。
【0033】
プライマー層3は、実質的にカルボニル基変性PVA又はスルホン酸基変性PVAのみから形成されていてもよい。実質的にカルボニル基変性PVA又はスルホン酸基変性PVAのみから形成されているとは、不純物を除いて意図的にカルボニル基変性PVA又はスルホン酸基変性PVA以外の添加剤を含んでいないことである。プライマー層3は、必要に応じて、添加剤を含んでいてもよい。添加剤は、例えば、でんぷんを含む水溶性の樹脂、消泡剤、防腐剤、充填剤、架橋剤、又は、帯電防止剤である。架橋剤は、例えば、ジヒドラジド系架橋剤、アミノ系架橋剤、又は、炭酸ジルコニウムである。充填剤は、例えば、コロイダルシリカ、炭酸カルシウム、炭酸ジルコニウム、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、又は、ポリスチレン(PS)である。プライマー層3が添加剤を含んでいる場合、プライマー層3に含まれる添加剤の含有割合は、例えば1.0質量%以下であってもよく、0.5質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよい。言い換えると、プライマー層3に含まれるカルボニル基変性PVA又はスルホン酸基変性PVAの含有割合は、例えば99.0質量%以上であってもよく、99.5質量%以上であってもよく、99.9質量%以上であってもよい。添加剤の含有割合、並びに、カルボニル基変性PVA又はスルホン酸基変性PVAの含有割合は、プライマー層3の質量を100質量%とした割合である。
【0034】
≪離型層≫
離型層4は、プライマー層3の第1面31に設けられている。離型層4がプライマー層3の第1面31に設けられているとは、離型層4が第1面31に直接接触している状態である。即ち、セパレータ1は、プライマー層3と離型層4との間に、プライマー層3と離型層4とは別の層が設けられていない。離型層4は、第1面31の全面に設けられている。
【0035】
離型層4を形成する材料は、特に限定されず、公知の離型剤が利用できる。離型剤は、例えば、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、アルキッド樹脂、長鎖アルキル系樹脂、又は、各種ワックス類である。離型層4がこれらの離型剤で形成されていれば、図示しない被着体からセパレータ1を剥離し易い。被着体は、粘着シートに備わる粘着層である。特に、セパレータ1の剥離性の点から、離型層4を形成する離型剤はシリコーン系樹脂が好ましい。
【0036】
基材2が紙である場合、離型層4は有機溶剤を実質的に含んでいない。有機溶剤は、例えば、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、又は、ブタノールである。離型層4が有機溶剤を実質的に含んでいないとは、離型層4に含まれる有機溶剤の含有割合が極少量である、又は、0(ゼロ)質量%である。有機溶剤の含有割合は、離型層4の質量を100質量%とした割合である。離型層4が有機溶剤を実質的に含んでいないということは、セパレータ1の製造工程において離型層4を形成する際、塗工液の流動性を高めるための有機溶剤が塗工液に実質液に含まれていない。塗工液に有機溶剤が実質的に含まれていないため、セパレータ1の製造時の作業環境が良好であり、また、作業者の健康に影響を及ぼし難い。離型層4が有機溶剤を全く含んでいない場合、製造過程で有機溶剤が基材2に浸透することをプライマー層3によって防ぐ必要がない。基材2が樹脂である場合、離型層4は、有機溶剤を含んでいないことが多いが、極少量の有機溶剤を含むことがある。基材2が樹脂である場合、離型層4は有機溶剤を用いて塗工されることがある。有機溶剤は揮発してなくなってしまうが、極少量の有機溶剤が離型層4に残留する場合がある。この場合であっても、有機溶剤の残留量が極少量であるため、作業者や環境に影響を及ぼすことはほぼない。
【0037】
[試験例1:紙基材]
試験例1では、官能基が導入された変性PVAと官能基が導入されていない未変性PVAとから形成されたそれぞれのプライマー層について、離型層の脱離のし易さを調べた。試験例1では、官能基が異なる5種類の変性PVAを使用した。
【0038】
基材上にプライマー層及び離型層をこの順に形成して、セパレータのサンプルを作製した。試験例1では、5種類の変性PVAと未変性PVAとを用いてプライマー層をそれぞれ形成し、5種類の変性PVAのいずれか、又は未変性PVAを含むプライマー層を備えた複数のサンプルを作製した。各サンプルのプライマー層は、各変性PVA又は未変性PVAをそれぞれ基材の第1面に塗工することで形成した。各サンプルについて、プライマー層の塗工量を、0.7g/m2、1.0g/m2、1.4g/m2、及び、2.5g/m2とした4つのサンプルをそれぞれ作製した。プライマー層に含まれる各変性PVA又は未変性PVAの含有割合は、実質的に100質量%である。各変性PVA又は未変性PVAの含有割合は、プライマー層の質量を100質量%とした割合である。各変性PVA又は未変性PVAの含有割合が実質的に100質量%とは、不純物を除いて意図的に各変性PVA又は未変性PVA以外の添加剤を含んでいないことである。つまり、各サンプルのプライマー層は、実質的に各変性PVA又は未変性PVAのみから形成されている。
【0039】
変性PVAは、カルボニル基変性PVA、スルホン酸基変性PVA、カルボキシル基変性PVA、エチレンオキサイド基変性PVA、及び、アセトアセチル基変性PVAの5種類であった。
【0040】
具体的な変性PVAは次のとおりである。カルボニル基変性PVAはDF-05(日本酢ビ・ポバール株式会社製)である。スルホン酸基変性PVAはCSK-50(三菱ケミカル株式会社製)である。カルボキシル基変性PVAはAP-10(日本酢ビ・ポバール株式会社製)である。エチレンオキサイド基変性PVAはWO-320N(三菱ケミカル株式会社製)である。アセトアセチル基変性PVAはZ-100(三菱ケミカル株式会社製)である。
【0041】
また、未変性PVAには、日本酢ビ・ポバール株式会社製の完全けん化型のポリビニルアルコールのシリーズを使用した。
【0042】
プライマー層を形成する各変性PVA及び未変性PVAは、いずれも架橋されていない。つまり、プライマー層は架橋剤を含んでいない。
【0043】
サンプルNo.1のプライマー層はカルボニル基変性PVAにより形成した。サンプルNo.2のプライマー層はスルホン酸基変性PVAにより形成した。サンプルNo.3のプライマー層はカルボキシル基変性PVAにより形成した。サンプルNo.4のプライマー層はエチレンオキサイド基変性PVAにより形成した。サンプルNo.5のプライマー層はアセトアセチル基変性PVAにより形成した。サンプルNo.6のプライマー層は未変性PVAにより形成した。
【0044】
各サンプルの基材は紙基材である。紙基材には、汎用されているグラシン紙を用いた。
【0045】
各サンプルの離型層には、シリコーン系樹脂の離型剤を使用した。離型層は、シリコーン系樹脂を主成分とする塗工液をプライマー層の第1面に塗工することで形成した。塗工液には、有機溶剤が含まれていなかった。離型層の塗工量は、0.9g/m2以上1.5g/m2以下の範囲から選択した。各サンプルの離型層の塗工量は同程度である。具体的な離型層の塗工量は、表2の上段に示す値であった。表2には、サンプルNo.1、サンプルNo.2、及びサンプルNo.6のそれぞれの離型層の塗工量を代表して示した。離型層には、有機溶剤は含まれていなかった。
【0046】
<脱離試験>
各サンプルにおける離型層の脱離のし易さは、脱離試験を行うことで評価した。脱離試験は次の手順で行った。各サンプルの離型層の表面にテープを貼り付けた。テープには、シリコーン粘着剤テープ(マクセル株式会社製スリオンテック(登録商標)No.626050)を用いた。テープが貼り付けられた各サンプルを常温(25℃)の水の中に浸漬させて5分間静置した。その後、各サンプルを水の中から取り出してテープを剥がした。基材から離型層が脱離しているか否かを確認した。
【0047】
脱離試験の結果を表1に示す。「A」は、離型層がテープに付着されたことで、基材から剥がれて脱離されたことを意味する。「B」は、テープが剥がれなかった、又は、テープが剥がれたが離型層の少なくとも一部が基材に付着したままで、離型層を基材から脱離できなかったことを意味する。「A」の場合、離型層が脱離し易いといえる。
【0048】
【0049】
表1に示すように、サンプルNo.1及びサンプルNo.2の各サンプルは、プライマー層の塗工量がいずれの場合であっても、離型層が基材から脱離した。上述したように、離型層は離型剤であるシリコーン系樹脂から形成されている。このため、セパレータにおいて、離型層が基材から脱離したということは、シリコーン系樹脂が基材から脱離したことと同義である。
【0050】
これに対して、サンプルNo.3、サンプルNo.4、サンプルNo.5、及びサンプルNo.6の各サンプルは、プライマー層の塗工量がいずれの場合であっても、離型層が基材から脱離しなかった。
【0051】
このように、変性PVAのうち、カルボニル基変性PVA及びスルホン酸基変性PVAは、他の変性PVAである、カルボキシル基変性PVA、エチレンオキサイド基変性PVA、アセトアセチル基変性PVA、及び、未変性PVAに比べて、水に対する溶解性が高い。そのため、カルボニル基変性PVA又はスルホン酸基変性PVAから形成されたプライマー層は、水に溶解して、離型剤を基材から脱離させることができる。
【0052】
<離型層の残留量>
上記脱離試験によって離型層を基材から脱離させることができたサンプルNo.1及びサンプルNo.2の各サンプルについては、脱離試験後に離型層の残留量を測定した。離型層の残留量は、脱離試験後のサンプルを乾燥させた後、蛍光X線分析法によって測定した。測定した離型層の残留量は、乾燥後のサンプルにおけるシリコーン系樹脂の残留量である。測定結果を表2に示す。離型層の残留量は、表2中、下段に示されている。表2中、上段は、脱離試験前における離型層の塗工量を示している。
【0053】
【0054】
表2に示すように、サンプルNo.1及びサンプルNo.2では、離型層の残留量が0.100g/m2未満であった。
【0055】
サンプルNo.1及びサンプルNo.2のいずれにおいても、プライマー層の塗工量が増えるにつれて、離型層の残留量が少なくなっていた。
【0056】
紙基材の場合、離型層の塗工量が、通常、1.0g/m2程度あることを考慮すると、サンプルNo.1及びサンプルNo.2における離型層の残留量は、いずれも小数点第一位が「0」であり、無視できる程度である。
【0057】
脱離試験前における離型層の塗工量に対する脱離試験後における離型層の残留量の割合を求めた。この割合は、(残留量/塗工量)×100により算出した。サンプルNo.1及びサンプルNo.2では、離型剤の塗工量に対する離型剤の残留量の割合が10%以下であった。サンプルNo.1及びサンプルNo.2のいずれにおいても、プライマー層の塗工量が1.0g/m2以上の場合、上記割合が3%以下であった。
【0058】
上記のように、カルボニル基変性PVA又はスルホン酸基変性PVAを含むプライマー層は、水に対する溶解性が高い。これにより、セパレータをリサイクルする際に、基材からプライマー層及び離型層が容易に脱離する。よって、使用済みセパレータから基材を回収し易い。例えば、紙基材から再生紙を製造するリサイクル工程において、離解処理の際に、紙基材からプライマー層及び離型層が容易に脱離する。そのため、紙基材に離型層が残留し難く、再生紙に離型剤が混入するリスクを低減できる。その結果、塗料のハジキが生じ難い再生紙を得ることができる。
【0059】
[試験例2:樹脂基材]
試験例2では、試験例1と同様にして、樹脂基材上にプライマー層及び離型層を形成したセパレータのサンプルを作製した。樹脂基材はPETフィルムである。プライマー層には、2種類の変性PVAを使用した。変性PVAは、カルボニル基変性PVA及びスルホン酸基変性PVAの2種類であった。サンプルNo.21のプライマー層はカルボニル基変性PVAにより形成した。サンプルNo.22のプライマー層はスルホン酸基変性PVAにより形成した。プライマー層の塗工量は0.3g/m2とした。
【0060】
離型層には、シリコーン系樹脂の離型剤を使用した。離型層の塗工量は、サンプルNo.21では0.414g/m2、サンプルNo.22では0.460g/m2とした。
【0061】
<脱離試験>
各サンプルについて、試験例1と同様、脱離試験を行うことで、離型層の脱離のし易さを評価した。但し、試験例2の脱離試験では、試験例1と異なり、離型層にテープを貼り付けない。試験例2の脱離試験では、各サンプルの離型層にテープを貼り付けずに、各サンプルを常温の水の中に浸漬させて5分間静置した。その後、各サンプルを水の中から取り出して、基材から離型層が脱離しているか否かを確認した。脱離試験の結果を表3に示す。試験例1と同様、離型層が基材から脱離したものを「A」、離型剤が基材から脱離しなかったものを「B」とする。「A」は、水の中で離型層が基材から自然に脱離したこと、又は、水の中からサンプルを取り出しただけで離型層が基材から自然に脱離したことを意味する。「B」は、離型層の少なくとも一部が基材に付着したままで、離型層が基材から脱離しなかったことを意味する。
【0062】
【0063】
<離型層の残留量>
サンプルNo.21及びサンプルNo.22の各サンプルについて、試験例1と同様、上記脱離試験後に離型層の残留量を測定した。測定結果を表4に示す。
【0064】
【0065】
表3に示すように、サンプルNo.21及びサンプルNo.22の各サンプルは、離型剤が基材から脱離した。
【0066】
表4に示すように、サンプルNo.21及びサンプルNo.22では、離型剤の残留量が0.010g/m2以下、更に0.005g/m2以下である。また、試験例1と同様、離型剤の塗工量に対する離型剤の残留量の割合を求めた。サンプルNo.21及びサンプルNo.22では、上記割合が1.00%以下、更に0.50%以下である。
【符号の説明】
【0067】
1 セパレータ
2 基材
21 第1面
22 第2面
3 プライマー層
31 第1面
32 第2面
4 離型層