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2024-180348加工用木材及びその製造方法、木材成形品及びその製造方法並びに複合体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180348
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】加工用木材及びその製造方法、木材成形品及びその製造方法並びに複合体
(51)【国際特許分類】
   B27K 5/00 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
B27K5/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024095854
(22)【出願日】2024-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2023097783
(32)【優先日】2023-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】511027334
【氏名又は名称】チヨダ工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501186173
【氏名又は名称】国立研究開発法人森林研究・整備機構
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(72)【発明者】
【氏名】山田 満雄
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】塚本 勝信
(72)【発明者】
【氏名】三好 由華
(72)【発明者】
【氏名】藤本 清彦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 依里
(72)【発明者】
【氏名】眞柄 謙吾
【テーマコード(参考)】
2B230
【Fターム(参考)】
2B230AA16
2B230AA23
2B230BA03
2B230CC04
2B230CC21
2B230DA02
2B230EA05
2B230EA07
2B230EA09
2B230EA17
2B230EB02
2B230EC01
(57)【要約】
【課題】圧縮加工又は曲げ加工により、割れ、裂け等の不具合が抑制されて木目及び色調の外観性に優れる木材成形品を与える加工用木材及びそれを用いた木材成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の加工用木材は、針葉樹又は広葉樹からなり、木材成形品の製造原料として用いる加工用木材であって、該加工用木材を硫酸により加水分解させ、次いで、得られた処理液から該硫酸を除去して回収された液を液体クロマトグラフィーに供した場合に、糖成分の全量に対して、ヘミセルロース由来の糖成分の合計量の割合が、針葉樹では14~21質量%であり、広葉樹では13~20質量%であることを特徴とする。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
針葉樹又は広葉樹からなり、木材成形品の製造原料として用いる加工用木材であって、
前記加工用木材を硫酸により加水分解させ、次いで、得られた処理液から該硫酸を除去して回収された液を液体クロマトグラフィーに供した場合に、糖成分の全量に対して、ヘミセルロース由来の糖成分の合計量の割合が、針葉樹では14~21質量%であり、広葉樹では13~20質量%であることを特徴とする加工用木材。
【請求項2】
請求項1に記載の加工用木材を製造する方法であって、針葉樹又は広葉樹からなる原料木材を、塩基性液体に接触させる工程を備えることを特徴とする加工用木材の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の加工用木材を圧縮加工又は曲げ加工に供する賦形工程を備えることを特徴とする、木材成形品の製造方法。
【請求項4】
前記賦形工程の前に、前記加工用木材の含水率を10質量%以上に調整する水分調整工程を備える請求項3に記載の木材成形品の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の方法により得られたことを特徴とする木材成形品。
【請求項6】
曲面部を有する請求項5に記載の木材成形品。
【請求項7】
表面の少なくとも一部に皮膜を備える請求項5に記載の木材成形品。
【請求項8】
請求項に記載の木材成形品と、他の物品とが一体化されてなることを特徴とする複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外観性に優れた木材成形品及びそれを与える加工用木材、これらの製造方法並びに複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地球温暖化を抑制するための二酸化炭素排出削減策として、バイオマス資源の有効利用がはかられており、例えば、木材の切断加工等により発生した廃材、端材、木粉等を原料資材として、各種木材成形品の製造が試みられている。
【0003】
木材成形品には、通常、反り等のない寸法安定性や耐久性が要求されるため、例えば、アセチル化、ホルマール化等の前処理が施された加工用木材を原料資材として用い、木材成形品を製造することがあった。この方法は、製造コストの観点から、採用されることが少なかった。
【0004】
木材の前処理である改質処理方法として、特許文献1には、木材を、5~25kgf/cmの水蒸気雰囲気内に置いて軟化させた後、高圧条件下で圧縮成形し、かつ、その変形を固定する方法、並びに、木材を、5~25kgf/cmの水蒸気雰囲気内に置いて軟化させた後、常圧下で木材を圧縮成形し、その状態で再び水蒸気雰囲気内に置いて変形を固定する方法が開示されている。また、特許文献2には、セルロースの分解温度以下の加熱で木材中のヘミセルロースを低分子化する第1の加熱処理工程、低分子化した木材中のヘミセルロースを除去する除去処理工程、及び、セルロースの分解温度以下の加熱で木材中に疎水化構造を形成する第2の加熱処理を含むことを特徴とする木材の改質処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3-231802号公報
【特許文献2】特開2010-30081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ヘミセルロースを除去した後の木材を、圧縮加工又は曲げ加工に供すると、割れ、裂け等の不具合が発生し、外観性の良好な木材成形品が得られなかった。
本発明の目的は、圧縮加工又は曲げ加工により、割れ、裂け等の不具合が抑制されて木目及び色調の外観性に優れる木材成形品を与える加工用木材及びその製造方法、木材成形品及びその製造方法、並びに木材成形品を含む複合体を提供することである。尚、本明細書において、「圧縮加工又は曲げ加工」の記載は、圧縮加工及び曲げ加工の両方がなされることをも含む。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、針葉樹又は広葉樹を原木として、圧縮加工又は曲げ加工により木材成形品を製造するに際して、糖成分の全量に対する、ヘミセルロース由来の糖成分(アラビノース、ラムノース、ガラクトース、キシロース及びマンノース)の合計量の割合を特定の範囲とした加工用木材を用いると、割れ、裂け等の不具合が抑制されて、木目及び色調の外観性に優れた木材成形品が得られるという知見を得た。
【0008】
本発明は、以下の通りである。
(1)針葉樹又は広葉樹からなり、木材成形品の製造原料として用いる加工用木材であって、
上記加工用木材を硫酸により加水分解させ、次いで、得られた処理液から該硫酸を除去して回収された液を液体クロマトグラフィーに供した場合に、糖成分の全量に対して、ヘミセルロース由来の糖成分の合計量の割合が、針葉樹では14~21質量%であり、広葉樹では13~20質量%であることを特徴とする加工用木材。
(2)上記(1)に記載の加工用木材を製造する方法であって、針葉樹又は広葉樹からなる原料木材を、塩基性液体に接触させる工程を備えることを特徴とする加工用木材の製造方法。
(3)上記(1)に記載の加工用木材を圧縮加工又は曲げ加工に供する賦形工程を備えることを特徴とする、木材成形品の製造方法。
(4)上記賦形工程の前に、上記加工用木材の含水率を10質量%以上に調整する水分調整工程を備える上記(3)に記載の木材成形品の製造方法。
(5)上記(3)に記載の方法により得られたことを特徴とする木材成形品。
(6)曲面部を有する上記(5)に記載の木材成形品。
(7)表面の少なくとも一部に皮膜を備える上記(5)に記載の木材成形品。
(8)上記(5)に記載の木材成形品と、他の物品とが一体化されてなることを特徴とする複合体。
【発明の効果】
【0009】
本発明の加工用木材は、圧縮加工又は曲げ加工により、割れ、裂け等の不具合が抑制されて木目及び色調の外観性に優れた木材成形品を与える製造資材として好適である。本発明の加工用木材は、曲面部を有する木材成形品を製造する場合に、有用である。
本発明の木材成形品の製造方法によれば、汎用の金型等を用いて圧縮加工又は曲げ加工を適用すればよく、接着剤を併用しなくても容易に賦形することができ、製造コストの低減効果を得ることができる。また、賦形工程で用いる加工用木材の数は、1つ(1枚)でも2つ(2枚)以上でもよく、一体性及び形状安定性に優れる木材成形品を製造することができる。
本発明の木材成形品は、形状によらず、外観性に優れるため、食器、カトラリー、トレイ等の日用品として、あるいは、置物、装飾品、家具、楽器、音響機器、電気製品、車両内装品、住宅設備品、洗面・バス用品、ペット用品、化粧用具等を構成する部品等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】圧縮加工の1例(実施例3-1及び3-2で用いた木製スプーンの製造方法)を示す概略断面図である。
図2図1及び図3の製造方法における木製スプーン用のキャビティを示す概略断面図である。
図3】圧縮加工の他の例(実施例3-3で用いた木製スプーンの製造方法)を示す概略断面図である。
図4】実施例2-1で得られた針葉樹製曲げ板の凸部側表面画像である。
図5】比較例2-1で得られた針葉樹製曲げ板の凸部側表面画像である。
図6】実施例2-2で得られた広葉樹製曲げ板の凸部側表面画像である。
図7】比較例2-3で得られた広葉樹製曲げ板の凸部側表面画像である。
図8】比較例2-4で得られた広葉樹製曲げ板の凸部側表面画像である。
図9】比較例2-5で得られた広葉樹製曲げ板の凸部側表面画像である。
図10】実施例3-1で得られた針葉樹製木製スプーンのオモテ面の斜視画像である。
図11】実施例3-1で得られた針葉樹製木製スプーンのウラ面の斜視画像である。
図12】実施例3-2で得られた広葉樹製木製スプーンのオモテ面の斜視画像である。
図13】実施例3-2で得られた広葉樹製木製スプーンのウラ面の斜視画像である。
図14】実施例3-3で得られた広葉樹製木製スプーンのオモテ面の斜視画像である。
図15】実施例3-3で得られた広葉樹製木製スプーンのウラ面の斜視画像である。
図16】実施例4-1で得られた針葉樹製曲線材の斜視画像である。
図17】実施例4-2で得られた針葉樹製曲線材の斜視画像である。
図18】比較例4-1で得られた針葉樹製曲線材の斜視画像である。
図19】実施例4-3で得られた広葉樹製曲線材の斜視画像である。
図20】実施例4-4で得られた広葉樹製曲線材の斜視画像である。
図21】実施例5-1及び5-2で用いた木製コースターの製造方法を示す概略断面図である。
図22図21の製造方法における木製コースター用のキャビティを示す概略断面図である。
図23】実施例5-1で得られた針葉樹製コースターの平面画像である。
図24】実施例5-2で得られた広葉樹製コースターの平面画像である。
図25】実施例6-1で用いた木製サラダボウルの製造方法を示す概略断面図である。
図26図25の製造方法における木製サラダボウル用のキャビティを示す概略断面図である。
図27】実施例6-1で得られた広葉樹製サラダボウルのオモテ面の斜視画像である。
図28】実施例6-1で得られた広葉樹製サラダボウルのウラ面の斜視画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の加工用木材は、針葉樹又は広葉樹を原木とした加工品であり、圧縮加工又は曲げ加工により木材成形品を製造する原料(製造資材)として用いるものである。本発明の加工用木材を硫酸により加水分解させ、次いで、得られた処理液から該硫酸を除去して回収された液を液体クロマトグラフィーに供し、検出されたグルコース、アラビノース、ラムノース、ガラクトース、キシロース及びマンノースを定量すると、これらの中性糖の合計量、即ち、糖成分の全量に対して、ヘミセルロース由来の糖成分(アラビノース、ラムノース、ガラクトース、キシロース及びマンノース)の合計量の割合(以下、「ヘミセルロース含有率」という)が特定の範囲にある。即ち、原木が針葉樹の場合、本発明の加工用木材におけるヘミセルロース含有率は14~21質量%、好ましくは15~20質量%であり、原木が広葉樹の場合、本発明の加工用木材におけるヘミセルロース含有率は13~20質量%、好ましくは14~19質量%である。
【0012】
本発明の加工用木材は、ヘミセルロース含有率が原木におけるそれより低いため、「ヘミセルロース部分脱離木材」であるといえる。本発明者らは、ヘミセルロース含有率が上記の各範囲にある加工用木材は、3次元網目構造を有するリグニンの含有割合が原木におけるそれと大きく違わないものの、原木において、セルロースの周りに、水素結合によりセルロースと結合していたヘミセルロースの一部が脱離した構造を有すると考えており、例えば、板状材の表面では、年輪の線がわずかに蛇行することがあるものの、ヘミセルロースの脱離部が形成されたことで、リグニンが動きやすくなり、このような加工用木材を圧縮加工に供した場合には、リグニンによる木材成形品の形状保持性が向上し、鮮明な木目を有する木材成形品を得ることができたと考えている。また、圧縮加工及び曲げ加工のいずれにおいても、割れ、裂け等の不具合が抑制される。尚、ヘミセルロース含有率が上限値を上回ると、圧縮加工又は曲げ加工により、割れ、裂け等が発生しやすくなる。また、下限値を下回る加工用木材は、年輪の線が大きく蛇行している又はつぶれていることがあり、圧縮加工又は曲げ加工により木材成形品を得ることはできるが、木目が鮮明な木材成形品が得られない。
【0013】
ヘミセルロース含有率の測定方法は、以下に示される。加工用木材を、好ましくは粉砕した後、粉末試料を、60~85質量%硫酸水溶液に接触させて一次加水分解を行う。次いで、上記硫酸水溶液に水を加えて硫酸の濃度を2~10質量%に希釈して二次加水分解を行い、その後、加工用木材を除去し、硫酸を含む処理液を回収する。そして、この処理液を陰イオン交換樹脂に接触させて、硫酸を除去し、流出液を回収する。その後、流出液を、糖分析用の液体クロマトグラフィーに供する。陰イオン交換樹脂としては、硫酸イオンを吸着する、酢酸型の陰イオン交換樹脂が好ましく用いられる。
【0014】
上記のように、本発明の加工用木材は、針葉樹又は広葉樹を原木とするものである。針葉樹としては、スギ、ヒノキ、マツ、カラマツ、エゾマツ、トドマツ、ツガ、モミ、イチョウ、カヤ等を用いることができる。また、広葉樹としては、ホオノキ、ブナ、ナラ、サクラ、キリ、ケヤキ、カエデ、クリ等を用いることができる。
【0015】
本発明の加工用木材の形状は特に限定されない。加工用木材の形状は、塊状、板状、線状(棒状)又はこれらの変形形状(不定形状)とすることができる。加工用木材が塊状の場合、多面体、錐体、球体等とすることができる。加工用木材が変形形状体の場合、多面体又は球体に貫通穴を有するものや、筒体、有底筒状体等とすることができる。尚、圧縮加工により木材成形品を製造する場合の加工用木材の表面は、平滑面及び粗面のいずれでもよい。
【0016】
本発明の加工用木材のサイズも特に限定されないが、圧縮加工及び曲げ加工による成形加工性及び得られる木材成形品の形状安定性の観点から、木材成形品製造時の圧縮方向の厚さの最大値は、好ましくは100mm、より好ましくは30mm、更に好ましくは15mm、特に好ましくは7mmである。
【0017】
本発明の加工用木材は、板状材又は線状材であることが好ましい。板状材の場合、一端側から他端側まで均一な断面形状及び厚さを有する板、厚さが均一でない部分を有する板(表面に1つ又は複数の曲面部を有する板等)等とすることができる。
【0018】
本発明の加工用木材は、絶乾物及び含水物のいずれでもよい。
【0019】
本発明の加工用木材を製造する方法(以下、「本発明の加工用木材製造方法」という)は、針葉樹又は広葉樹からなる原料木材を、塩基性液体に接触させる工程(以下、「塩基性液体接触工程」という)を備える。本発明の加工用木材製造方法は、塩基性液体接触工程の後に、必要に応じて、更に、加工用木材に付着している塩基性液体を除去する工程(以下、「塩基性液体除去工程」という)、加工用木材を乾燥する工程(以下、「乾燥工程」という)等を備えることができる。
【0020】
原料木材は、上記例示した針葉樹又は広葉樹からなり、その形状は特に限定されないが、板目及び柾目の木目が認識できる形状物であることが好ましい。原料木材の形状は、塊状、板状、線状(棒状)又はこれらの変形形状(不定形状)とすることができる。また、原料木材が塊状の場合、多面体、錐体、球体等とすることができる。原料木材が変形形状体の場合、切込みを有するもの、貫通穴を有するもの、筒体、有底筒状体等とすることができる。尚、本発明における原料木材は、製材工場等からの端材であってもよい。
【0021】
原料木材のサイズも特に限定されないが、圧縮加工及び曲げ加工に好適な加工用木材が効率よく得られることから、例えば、圧縮加工で薄肉化させる加工用木材を得る場合の原料木材の厚さの最大値は、好ましくは110mm、より好ましくは50mm、更に好ましくは25mmである。
【0022】
本発明に係る塩基性液体接触工程で用いる塩基性液体は、媒体に溶解して塩基性を呈する、無機材料及び有機材料から選ばれた少なくとも1種の塩基性化合物、又は、塩基性の液体有機化合物を含むものとすることができる。尚、塩基性液体のpHは特に限定されないが、本発明においては、媒体としての水に塩基性化合物が溶解されてなる塩基性水溶液であることが好ましい。この場合、媒体は、必要に応じて、水溶性の有機溶剤を含んでもよい。
【0023】
本発明に係る塩基性液体は、水に無機材料が溶解されてなる塩基性水溶液であることが好ましい。この無機材料としては、金属水酸化物、金属炭酸水素塩、金属炭酸塩等が挙げられる。塩基性液体に含まれる無機材料は、1種のみ又は2種以上とすることができる。
【0024】
金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物等が挙げられる。
金属炭酸水素塩としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩;炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム等のアルカリ土類金属炭酸水素塩等が挙げられる。
金属炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム等のアルカリ土類金属炭酸塩等が挙げられる。
【0025】
塩基性液体接触工程では、好ましくは、後述の穏和な条件で、原料木材を塩基性液体に接触させる。即ち、原料木材からリグニンが除去され過ぎず、水素結合によりセルロースと結合するヘミセルロースの一部を脱離させるために、例えば、塩基性液体における塩基性化合物の濃度、原料木材と接触させる塩基性液体の温度、及び、原料木材と塩基性液体との接触時間を調整することで、穏和な条件を構成させ、原料木材の圧縮加工又は曲げ加工により外観性に優れた木材成形品を製造可能な加工用木材、即ち、ヘミセルロース部分脱離木材を得ることができる。
【0026】
塩基性液体における塩基性化合物の濃度は、好ましくは0.04~6.5mol/L、より好ましくは0.5~2.0mol/L、更に好ましくは0.7~1.2mol/Lである。
原料木材に接触させる塩基性液体の温度は、好ましくは20℃~170℃、より好ましくは50℃~160℃、更に好ましくは80℃~150℃である。
従って、原料木材と塩基性液体との接触時間は、好ましくは0.5~48時間である。
【0027】
塩基性液体接触工程において、原料木材と塩基性液体とを接触させる方法は、特に限定されない。例えば、容器の中で原料木材と塩基性液体とを接触させる方法、所定位置に載置(固定)した原料木材に塩基性液体を連続的に当てる方法等とすることができる。
【0028】
本発明の加工用木材製造方法は、上記のように、塩基性液体接触工程の後に、更に、塩基性液体除去工程、乾燥工程等を備えることができる。塩基性液体接触工程により、塩基性液体に濡れた加工用木材(ヘミセルロース部分脱離木材)が得られるため、清浄な加工用木材とするために、加工用木材に付着している塩基性液体を除去する塩基性液体除去工程を備えることが好ましい。
【0029】
塩基性液体除去工程において、中性液体、酸性液体等により洗浄する方法を適用することができる。中性液体としては、水等が挙げられ、酸性液体としては、クエン酸水溶液等が挙げられる。この塩基性液体除去工程は、1種の中性液体(好ましくは水)を用いた工程であってよいし、2種以上の中性液体を用いた多段階工程であってもよい。多段階工程の場合、最後には水を用いることが好ましい。塩基性液体除去工程においては、超音波を用いた振動を利用してもよい。また、用いる中性液体及び酸性液体は加熱されていてもよい。
【0030】
塩基性液体除去工程において、水を用いた場合には、含水状態のヘミセルロース部分脱離木材を得ることができる。上記のように、本発明の加工用木材は、含水物であってもよいので、水を用いた塩基性液体除去工程により、加工用木材の製造を終了することができる。
【0031】
含水率の低い加工用木材、又は、絶乾状態の加工用木材を製造する場合には、塩基性液体除去工程の後、乾燥工程を行うことが好ましい。この乾燥工程では、加熱乾燥、減圧乾燥、風乾等を適用することができる。
【0032】
本発明の木材成形品の製造方法(以下、「本発明の木材成形品製造方法」という)は、加工用木材を圧縮加工又は曲げ加工に供する賦形工程を備える。本発明の木材成形品製造方法は、賦形工程の後に、必要に応じて、更に、木材成形品の研磨等を行う形状調整工程、木材成形品の表面に保護膜等を形成する皮膜形成工程等を備えることができる。
【0033】
本発明に係る賦形工程では、通常、加工用木材の板目面又は木口面に対して、圧縮加工及び曲げ加工の少なくとも1つが行われ、単純な薄肉化及び曲げだけでなく、ねじれ等の変形を生じさせるものであってもよい。この賦形工程で用いる加工用木材は、1つ(1枚)でも2つ(2枚)以上でもよい。複数の加工用木材を組み合わせた状態で圧縮加工を行っても、外観性及び形状安定性に優れた一体化木材成形品を製造することができる。本発明においては、接着剤を用いなくても、このような木材成形品を得ることができる。
【0034】
圧縮加工を行う場合、製造しようとする木材成形品の形状又はそれより若干大きな形状を有するキャビティを備える金型が好ましく用いられる。図1及び図2は、上型13及び下型15を備える金型を用いて、1枚の加工用木材11を圧縮加工に供して、図2のキャビティ17の形状を有する木材成形品(木製スプーン)を製造する方法の1例を示す断面図である。図3は、上型13及び下型15を備える金型を用いて、複数枚の加工用木材11Xを圧縮加工に供して、図2のキャビティ17の形状を有する木材成形品(木製スプーン)を製造する方法の1例を示す断面図である。本発明においては、スプーンのような曲面を有するものであっても、割れ、裂け等の不具合が抑制されて木目及び色調の外観性に優れる木材成形品を効率よく製造することもできる。
【0035】
圧縮加工の場合、製造しようとする木材成形品の形状や、その製造に用いる加工用木材の形状により、圧縮加工時にせん断が起こり得る。例えば、凹部を有する木材成形品を製造するために、塊状の加工用木材の中央部、又は、板状の加工用木材を複数枚重ねた状態のその中央部にパンチ加工を行って、パンチの先端形状を反映する凹部を形成させる場合、パンチ加工において、加工用木材に食い込むパンチの先端の周縁の側周面がすべりせん断変形を引き起こすことがある。本発明においては、このようなせん断が発生しても、外観性に優れた木材成形品を製造することができる。
【0036】
曲げ加工の場合、加工用木材の周縁部等の少なくとも2箇所を固定しながら行うことが好ましい。圧縮加工で用いる金型を用いてもよい。
【0037】
賦形工程では、加工用木材が変質しない限りにおいて、圧縮加工又は曲げ加工を加熱しながら行ってもよい。加熱温度の上限は、好ましくは180℃、より好ましくは150℃である。金型を用いて賦形する場合、60℃以上で成形することが好ましい。
【0038】
賦形工程に供する加工用木材は、成形性の観点から、好ましくは含水物である。この場合、加工用木材の含水率の下限は、好ましくは10質量%、より好ましくは15質量%、更に好ましくは20質量%である。尚、賦形工程に供する加工用木材が絶乾物である等、含水率が低すぎる加工用木材の場合、賦形工程の前に、加工用木材の含水率を10質量%以上に調整する水分調整工程を備えることが好ましい。このような含水率とするために、水、又は、水及び有機溶剤の混合液を用いることができる。加工用木材に水等を接触させる方法としては、容器の中で加工用木材と水又は上記混合液とを接触させる方法、加工用木材に水又は上記混合液を吹き付ける方法、水蒸気を含む雰囲気に曝す方法等が挙げられる。
【0039】
本発明に係る賦形工程は、圧縮加工又は曲げ加工を一度のみ行う工程であってよいし、製造しようとする木材成形品の形状に応じて、圧縮加工又は曲げ加工を多段階で行う工程であってもよい。後者の場合、2回目及びそれ以降の加工を行う前には、加工用木材に水又は上記混合液を接触させることが好ましい。
【0040】
本発明の木材成形品製造方法は、上記のように、賦形工程の後に、更に、形状調整工程、塗装工程等を備えることができる。本発明により得られる木材成形品は、単独で用いることができ、また、他の物品と組み合わせて一体化した複合体の構成部材として用いることもできるので、研磨、穴あけ等を行う形状調整工程を備えることが好ましい。
また、皮膜形成工程では、木材成形品の表面の少なくとも一部に、塗料等の塗布及び乾燥を行い、必要に応じて、更に、放射線(紫外線等)の照射、又は、加熱を行うことができる。皮膜が透明性を有する場合には、塗布前の木材成形品が呈する鮮明な木目を、好適に視認することができる。
【0041】
本発明の木材成形品は、上記のように、曲面部を有する構造物、及び、表面の少なくとも一部に皮膜を有する構造物だけでなく、稜線が明確な構造物、板厚の変化を有する構造物等とすることができる。
【0042】
本発明の複合体は、外観性に優れた木材成形品と、他の物品とが一体化されたものである。この一体化は、接着剤によるもの、接合部材によるもの、又は、嵌合によるものとすることができる。他の物品の構成材料は特に限定されない。
【実施例0043】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
1.加工用木材の製造
原木として、スギ(針葉樹)及びホオノキ(広葉樹)を、それぞれ、裁断加工して板目又は柾目のある針葉樹板状材及び広葉樹板状材とし、次いで、各板状材を水酸化ナトリウム水溶液又は炭酸ナトリウム水溶液に浸漬して、針葉樹製加工用木材及び広葉樹製加工用木材を得た。その後、以下の方法で、各加工用木材に含まれるヘミセルロース含有率を高速液体クロマトグラフィーにより定量した。尚、原木に対しても、ヘミセルロース含有率を測定した。
【0045】
<ヘミセルロース含有率測定方法>
分析対象物(原木又は加工用木材)を気乾状態まで乾燥し、次いで、この乾燥試料を粉砕して、40メッシュスクリーンを通過した粉末を測定試料とした。その後、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.42に準ずる方法により、0.35gの試料に、72質量%硫酸3ミリリットルを加え、加水分解(30℃、1時間)を行った。そして、この反応液に純水84ミリリットルを加え、滅菌用オートクレーブに入れて、更に、加水分解(121℃、103±7kPa、1時間)を行った。
次に、加水分解液を冷却して室温とし、濾過して濾液を回収した。そして、濾液をメスフラスコに入れ、更に、純水を加えて、合計200ミリリットル(以下、「糖成分含有液」という)とした。その後、この糖成分含有液2ミリリットルを、陰イオン交換樹脂「アンバーライト IRA400」(商品名)の酢酸型調製物20ミリリットルが充填されたカラムに通して硫酸イオンを除き、更に、5質量%酢酸水溶液10ミリリットル及び純水100ミリリットル以上を用いて上記イオン交換樹脂を洗浄して糖成分の溶液を得た。そして、この溶液を蒸発乾固し、乾固物を純水2ミリリットルに溶解させて、この水溶液を以下の液体クロマトグラフィーに供した。これにより、グルコース、アラビノース、ラムノース、ガラクトース、キシロース及びマンノースが検出されるので、得られたクロマトグラムを解析し、無水糖換算を行わないヘミセルロース由来の糖成分(アラビノース、ラムノース、ガラクトース、キシロース及びマンノース)の合計量を、同じく無水糖換算を行わないグルコース、アラビノース、ラムノース、ガラクトース、キシロース及びマンノースの合計量で除した後、百分率を算出して、これを「ヘミセルロース含有率」とした。
カラム:Thermo Scientific (Dionex) 「CarbPacTM PA1」(サイズ:φ4mm×250mm)
溶離液:水(流速:毎分0.6ミリリットル)、ポストカラムで0.6M-水酸化ナトリウム水溶液を毎分0.3ミリリットル添加
検出器:金作用電極を用いたパルスドエレクトロケミカル検出器
【0046】
実施例1-1(針葉樹製加工用木材の製造)
サイズが90mm(繊維の長さ方向)×60mm(繊維直交方向)×6mm(厚さ)の板状材(針葉樹板状材)の複数枚、又は、サイズが180mm(繊維の長さ方向)×50mm(繊維直交方向)×10mm(厚さ)の板状材(針葉樹板状材)の複数枚を、1M-NaOH水溶液の入った反応容器の中に入れ、130℃で2時間浸漬させた後、取り出して水洗した。そして、アルカリ処理木材を2枚の金網に挟んで30℃で乾燥させ、ヘミセルロース含有率がそれぞれ、19.6質量%の針葉樹製加工用木材を得た。
【0047】
実施例1-2(針葉樹製加工用木材の製造)
サイズが90mm(繊維の長さ方向)×60mm(繊維直交方向)×6mm(厚さ)の板状材(針葉樹板状材)の複数枚を用い、1M-NaOH水溶液の温度を150℃とした以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、ヘミセルロース含有率が19.1質量%の針葉樹製加工用木材を得た。
【0048】
実施例1-3(針葉樹製加工用木材の製造)
サイズが90mm(繊維の長さ方向)×60mm(繊維直交方向)×6mm(厚さ)の板状材(針葉樹板状材)の複数枚を用い、1M-NaOH水溶液の温度を140℃、浸漬時間を4時間とした以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、ヘミセルロース含有率が18.1質量%の針葉樹製加工用木材を得た。
【0049】
実施例1-4(針葉樹製加工用木材の製造)
サイズが105mm(繊維の長さ方向)×105mm(繊維直交方向)×12mm(厚さ)の板状材(針葉樹板状材)を用い、1M-NaOH水溶液の温度を150℃とした以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、ヘミセルロース含有率が20.1質量%の針葉樹製加工用木材を得た。
【0050】
比較例1-1(針葉樹製加工用木材の製造)
サイズが90mm(繊維の長さ方向)×60mm(繊維直交方向)×6mm(厚さ)の板状材(針葉樹板状材)の複数枚を用い、130℃の1M-NaOH水溶液に代えて、140℃の0.5M-NaCO水溶液を用いた以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、ヘミセルロース含有率が22.4質量%の針葉樹製加工用木材を得た。
【0051】
比較例1-2(針葉樹製加工用木材の製造)
サイズが90mm(繊維の長さ方向)×60mm(繊維直交方向)×6mm(厚さ)の板状材(針葉樹板状材)の複数枚を用い、1M-NaOH水溶液の温度を160℃、浸漬時間を4時間とした以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、ヘミセルロース含有率が13.4質量%の針葉樹製加工用木材を得た。
【0052】
実施例1-5(広葉樹製加工用木材の製造)
サイズが90mm(繊維の長さ方向)×60mm(繊維直交方向)×6mm(厚さ)の板状材(広葉樹板状材)の複数枚、又は、サイズが180mm(繊維の長さ方向)×50mm(繊維直交方向)×10mm(厚さ)の板状材(針葉樹板状材)の複数枚を用い、1M-NaOH水溶液の温度を140℃とした以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、ヘミセルロース含有率が17.8質量%の広葉樹製加工用木材を得た。
【0053】
実施例1-6(広葉樹製加工用木材の製造)
サイズが90mm(繊維の長さ方向)×60mm(繊維直交方向)×6mm(厚さ)の板状材(広葉樹板状材)の複数枚を用い、1M-NaOH水溶液の温度を150℃とした以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、ヘミセルロース含有率が16.1質量%の広葉樹製加工用木材を得た。
【0054】
実施例1-7(広葉樹製加工用木材の製造)
サイズが90mm(繊維の長さ方向)×60mm(繊維直交方向)×6mm(厚さ)の板状材(広葉樹板状材)の複数枚を用い、1M-NaOH水溶液の温度を130℃とし、浸漬時間を4時間とした以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、ヘミセルロース含有率が19.3質量%の広葉樹製加工用木材を得た。
【0055】
実施例1-8(広葉樹製加工用木材の製造)
サイズが90mm(繊維の長さ方向)×60mm(繊維直交方向)×6mm(厚さ)の板状材(広葉樹板状材)の複数枚と、2.68M-NaOH水溶液とを用い、このNaOH水溶液の温度を80℃とし、浸漬時間を4時間とした以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、ヘミセルロース含有率が20.0質量%の広葉樹製加工用木材を得た。
【0056】
実施例1-9(広葉樹製加工用木材の製造)
サイズが180mm(繊維の長さ方向)×50mm(繊維直交方向)×3mm(厚さ)の板状材(広葉樹板状材)の複数枚と、1M-NaOH水溶液とを用い、このNaOH水溶液の温度を100℃とし、浸漬時間を4時間とした以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、ヘミセルロース含有率が17.0質量%の広葉樹製加工用木材を得た。
【0057】
実施例1-10(広葉樹製加工用木材の製造)
サイズが105mm(繊維の長さ方向)×105mm(繊維直交方向)×12mm(厚さ)の板状材(広葉樹板状材)を用い、1M-NaOH水溶液の温度を150℃とした以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、ヘミセルロース含有率が17.1質量%の広葉樹製加工用木材を得た。
【0058】
実施例1-11(広葉樹製加工用木材の製造)
サイズが90mm(繊維の長さ方向)×60mm(繊維直交方向)×6mm(厚さ)の板状材(広葉樹板状材)と、1M-NaOH水溶液とを用い、このNaOH水溶液の温度を130℃とし、浸漬時間を4時間とした以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、ヘミセルロース含有率が15.6質量%の広葉樹製加工用木材を得た。
【0059】
比較例1-3(広葉樹製加工用木材の製造)
サイズが90mm(繊維の長さ方向)×60mm(繊維直交方向)×6mm(厚さ)の板状材(広葉樹板状材)の複数枚を用い、1M-NaOH水溶液の温度を160℃とし、浸漬時間を4時間とした以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、ヘミセルロース含有率が11.9質量%の広葉樹製加工用木材を得た。
【0060】
比較例1-4(広葉樹製加工用木材の製造)
サイズが90mm(繊維の長さ方向)×60mm(繊維直交方向)×6mm(厚さ)の板状材(広葉樹板状材)の複数枚を用い、1M-NaCO水溶液の温度を130℃とし、浸漬時間を2時間とした以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、ヘミセルロース含有率が20.7質量%の広葉樹製加工用木材を得た。
【0061】
比較例1-5(広葉樹製加工用木材の製造)
サイズが90mm(繊維の長さ方向)×60mm(繊維直交方向)×6mm(厚さ)の板状材(広葉樹板状材)の複数枚を用い、0.05M-NaOH水溶液の温度を120℃とし、浸漬時間を3時間とした以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、ヘミセルロース含有率が22.0質量%の広葉樹製加工用木材を得た。
【0062】
尚、上記の針葉樹及び広葉樹からなる原木に対してヘミセルロース含有率を測定したところ、それぞれ、28.3質量%及び25.1質量%であった。
【0063】
2.木材成形品の製造及び評価
実施例1-1~1-11及び比較例1-1~1-5で得られた針葉樹製又は広葉樹製の加工用木材を圧縮加工又は曲げ加工に供して、木材成形品を製造し、目視により外観性を評価した。
【0064】
実施例2-1
実施例1-1で作製した針葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:19.6質量%)を裁断加工して円板(直径:53mm、厚さ:6mm)とし、次いで、この円板を、恒温恒湿機に入れ、温度40℃及び湿度90%の条件下、静置し、48時間後取り出して、含水率30%の針葉樹加工用原料を得た。
その後、この針葉樹加工用原料を、曲率半径40mmの半球状のキャビティを形成する金型(設定温度:90℃)の中に載置し、上型を毎秒30mmの速度で降下させて針葉樹加工用原料を圧縮した。そして、荷重が2トンとなったところで上型を保持し、その1分後に、金型の温度を約30℃に冷却した。5分経過後、脱型して曲げ板を得た(図4参照)。図4から明らかなように、得られた曲げ板には割れ及び裂けがなく、木目及び色調に優れていた。
【0065】
比較例2-1
針葉樹製加工用木材に代えて、実施例1-1で針葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:19.6質量%)の製造に用いた針葉樹板状材(未処理材)からなる円板(直径:53mm、厚さ:6mm)を用いた以外は、実施例2-1と同様の操作を行って、曲げ板を得た(図5参照)。図5から明らかなように、表面に裂けが確認された。
【0066】
実施例2-2
針葉樹製加工用木材に代えて、実施例1-5で作製した広葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:17.8質量%)からなる円板(直径:53mm、厚さ:6mm)を用いた以外は、実施例2-1と同様の操作を行って、広葉樹加工用原料を作製し、その後、曲げ板を得た(図6参照)。図6から明らかなように、得られた曲げ板には割れ及び裂けがなく、木目及び色調に優れていた。
【0067】
比較例2-2
針葉樹製加工用木材に代えて、実施例1-5で広葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:17.8質量%)の製造に用いた広葉樹板状材(未処理材)からなる円板(直径:53mm、厚さ:6mm)を用いた以外は、実施例2-1と同様の操作を行って、曲げ板を得た(図7参照)。図7から明らかなように、表面に裂けが確認された。
【0068】
比較例2-3
針葉樹製加工用木材に代えて、比較例1-4で作製した広葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:20.7質量%)からなる円板(直径:53mm、厚さ:6mm)を用いた以外は、実施例2-1と同様の操作を行って、広葉樹加工用原料を作製し、その後、曲げ板を得た(図8参照)。図8から明らかなように、表面に裂けが確認された。
【0069】
比較例2-4
針葉樹製加工用木材に代えて、比較例1-5で作製した広葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:22.0質量%)からなる円板(直径:53mm、厚さ:6mm)を用いた以外は、実施例2-1と同様の操作を行って、広葉樹加工用原料を作製し、その後、曲げ板を得た(図9参照)。図9から明らかなように、表面に裂けが確認された。
【0070】
実施例3-1
実施例1-1で作製した針葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:19.6質量%)を裁断加工して長方形の板(縦:180mm、横:50mm、厚さ:10mm)とし、次いで、この板を、恒温恒湿機に入れ、温度40℃及び湿度90%の条件下、静置し、48時間後取り出して、含水率30%の針葉樹加工用原料を得た。
その後、図1に示す要領で、上型13及び下型15を備えるスプーン製造用金型を用いて、この針葉樹加工用原料(加工用素材11)を圧縮加工に供し、図2のキャビティ形状を反映する木製スプーンを製造した。製造方法は次の通りである。スプーン製造用金型を、予め、120℃とした後、加工用素材11を下型15の上の所定位置に載置し、上型を毎秒5mmの速度で降下させて加工用素材11を圧縮した。型締を15分間行い、その後、金型の温度を約30℃に冷却し、脱型して針葉樹由来の木製スプーンを得た(図10及び図11参照)。木製スプーンのオモテ面を示す図10及び木製スプーンのウラ面を示す図11から明らかなように、得られた木製スプーンには割れ及び裂けがなく、木目及び色調に優れていた。
【0071】
実施例3-2
針葉樹製加工用木材に代えて、実施例1-3で作製した広葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:17.8質量%)を、実施例3-1と同様の操作に供し、加工用素材11を作製し、その後、広葉樹由来の木製スプーンを得た(図12及び図13参照)。木製スプーンのオモテ面を示す図12及び木製スプーンのウラ面を示す図13から明らかなように、得られた木製スプーンには割れ及び裂けがなく、木目及び色調に優れていた。
【0072】
実施例3-3
実施例1-9で作製した広葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:17.0質量%)を裁断加工して長方形の板(縦:180mm、横:50mm、厚さ:3mm)とし、次いで、この板を、恒温恒湿機に入れ、温度40℃及び湿度90%の条件下、静置し、48時間後取り出して、含水率30%の広葉樹加工用原料(加工用素材11X)を得た。
その後、図3に示す要領で、上型13及び下型15を備えるスプーン製造用金型を用いて、4枚の加工用素材11Xを重ねた状態で圧縮加工に供し、図2のキャビティ形状を反映する木製スプーンを製造した。具体的な製造方法は次の通りである。
スプーン製造用金型を、予め、90℃とした後、4枚の加工用素材11Xを重ねた状態で下型15の上の所定位置に載置し、上型を毎秒5mmの速度で降下させて圧縮加工を行った。型締を15分間行い、その後、金型の温度を約30℃に冷却し、脱型して広葉樹由来の木製スプーンを得た(図14及び図15参照)。木製スプーンのオモテ面を示す図14及び木製スプーンのウラ面を示す図15から明らかなように、得られた木製スプーンには割れ及び裂けがなく、木目及び色調に優れていた。また、原料資材である4枚の加工用素材11Xの結着状態も良好であり、接着界面が剥離する不具合はなかった。
【0073】
実施例4-1
実施例1-2で作製した針葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:19.1質量%)を裁断加工して線状材(縦:50mm、横:10mm、厚さ:6mm)とし、次いで、この線状材を、実施例2-1におけると同様の含水化処理を行い、含水率30%の針葉樹製加工用線状材を得た。
その後、この針葉樹製加工用線状材を、曲率半径40mmの半球状のキャビティを形成する金型(設定温度:120℃)の中に載置し、上型を毎秒30mmの速度で降下させて針葉樹製加工用線状材の曲げ加工を行った。そして、クリアランスが6mmとなったところで上型を保持し、その1分後に、金型の温度を約30℃に冷却した。5分経過後、脱型して曲線材を得た(図16参照)。図16から明らかなように、得られた曲線材には割れ及び裂けがなく、木目及び色調に優れていた。
【0074】
実施例4-2
針葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:19.1質量%)に代えて、実施例1-1で作製した針葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:19.6質量%)を、実施例4-1と同様の操作に供し、含水率30%の針葉樹製加工用線状材を作製した。その後、曲げ加工を行い、曲線材を得た(図17参照)。図17から明らかなように、得られた曲線材には割れ及び裂けがなく、木目及び色調に優れていた。
【0075】
実施例4-3
実施例1-2で作製した針葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:19.1質量%)を裁断加工して線状材(縦:50mm、横:10mm、厚さ:6mm)とし、次いで、この線状材を、恒温恒湿機に入れ、温度22℃及び湿度60%の条件下、静置し、48時間後取り出して、含水率10%の針葉樹加工用線状材を得た。その後、実施例4-1と同様にして、この針葉樹加工用線状材の曲げ加工を行い、曲線材を得た。得られた曲線材には割れ及び裂けがなく、木目及び色調に優れていた(図示せず)。
【0076】
実施例4-4
針葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:19.1質量%)に代えて、実施例1-3で作製した針葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:18.1質量%)を、実施例4-1と同様の操作に供し、含水率30%の針葉樹製加工用線状材を作製した。その後、曲げ加工を行い、曲線材を得た。得られた曲線材には割れ及び裂けがなく、木目及び色調に優れていた(図示せず)。
【0077】
比較例4-1
針葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:19.1質量%)に代えて、比較例1-1で作製した針葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:22.4質量%)を、実施例4-1と同様の操作に供し、含水率30%の針葉樹製加工用線状材を作製した。その後、曲げ加工を行ったところ、割れが生じ、針葉樹製曲線材は得られなかった(図18参照)。
【0078】
比較例4-2
針葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:19.1質量%)に代えて、比較例1-2で作製した針葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:13.4質量%)を、実施例4-1と同様の操作に供し、針葉樹製加工用線状材を作製した。その後、曲げ加工を行ったところ、割れが生じ、針葉樹製曲線材は得られなかった(図示せず)。
【0079】
実施例4-5
針葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:19.1質量%)に代えて、実施例1-6で作製した広葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:16.1質量%)を、実施例4-1と同様の操作に供し、含水率30%の広葉樹製加工用線状材を作製した。その後、曲げ加工を行い、広葉樹製曲線材を得た(図19参照)。図19から明らかなように、得られた曲線材には割れ及び裂けがなく、木目及び色調に優れていた。
【0080】
実施例4-6
針葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:19.1質量%)に代えて、実施例1-6で作製した広葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:16.1質量%)を、実施例4-3と同様の操作に供し、含水率10%の広葉樹製加工用線状材を作製した。その後、曲げ加工を行って、広葉樹製曲線材を得た。得られた曲線材には割れ及び裂けがなく、木目及び色調に優れていた(図示せず)。
【0081】
実施例4-7
針葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:19.1質量%)に代えて、実施例1-5で作製した広葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:17.8質量%)を、実施例4-1と同様の操作に供し、含水率30%の広葉樹製加工用線状材を作製した。その後、曲げ加工を行い、広葉樹製曲線材を得た(図20参照)。図20から明らかなように、得られた曲線材には割れ及び裂けがなく、木目及び色調に優れていた。
【0082】
実施例4-8
針葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:19.1質量%)に代えて、実施例1-7で作製した広葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:19.3質量%)を、実施例4-1と同様の操作に供し、含水率30%の広葉樹製加工用線状材を作製した。その後、曲げ加工を行って、広葉樹製曲線材を得た。得られた曲線材には割れ及び裂けがなく、木目及び色調に優れていた(図示せず)。
【0083】
実施例4-9
針葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:19.1質量%)に代えて、実施例1-8で作製した広葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:20.0質量%)を、実施例4-3と同様の操作に供し、含水率10%の広葉樹製加工用線状材を作製した。その後、曲げ加工を行って、広葉樹製曲線材を得た。得られた曲線材には割れ及び裂けがなく、木目及び色調に優れていた(図示せず)。
【0084】
比較例4-3
針葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:19.1質量%)に代えて、比較例1-3で作製した広葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:11.9質量%)を、実施例4-1と同様の操作に供し、含水率30%の広葉樹製加工用線状材を作製した。その後、曲げ加工を行ったところ、割れが生じ、広葉樹製曲線材は得られなかった(図示せず)。
【0085】
実施例5-1
実施例1-4で作製した針葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:20.1質量%)を裁断加工して正方形の板(縦:150mm、横:150mm、厚さ:12mm)とし、次いで、この板を、恒温恒湿機に入れ、温度40℃及び湿度90%の条件下、静置し、48時間後取り出して、含水率30%の針葉樹加工用原料を得た。
その後、図21に示す要領で、上型13及び下型15を備えるコースター製造用金型を用いて、この針葉樹加工用原料(加工用素材11)を圧縮加工に供し、図22のキャビティ形状17を反映する木製コースターを製造した。製造方法は次の通りである。コースター製造用金型を、予め、120℃とした後、加工用素材11を下型15の上の所定位置に載置し、上型を毎秒5mmの速度で降下させて加工用素材11を圧縮した。型締を1分間行い、その後、金型の温度を約30℃に冷却し、脱型して針葉樹由来の木製コースターを得た(図23参照)。図23から明らかなように、得られた木製コースターには割れ及び裂けがなく、木目及び色調に優れていた。
【0086】
実施例5-2
針葉樹加工用原料に代えて、実施例1-10で作製した広葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:17.1質量%)を裁断加工して得られた正方形の板(縦:150mm、横:150mm、厚さ:12mm)を用いた以外は、実施例5-1と同様の操作を行い、広葉樹由来の木製コースターを得た(図24参照)。図24から明らかなように、得られた木製コースターには割れ及び裂けがなく、木目及び色調に優れていた。
【0087】
実施例6-1
実施例1-11で作製した広葉樹製加工用木材(ヘミセルロース含有率:15.6質量%)を裁断加工して円形の板(直径:200mm、厚さ:6mm)とし、次いで、この板を、恒温恒湿機に入れ、温度40℃及び湿度90%の条件下、静置し、48時間後取り出して、含水率30%の広葉樹加工用原料を得た。
その後、図25に示す要領で、上型13及び下型15を備えるサラダボウル製造用金型を用いて、この広葉樹加工用原料(加工用素材11)を圧縮加工に供し、図26のキャビティ形状17を反映する木製サラダボウルを製造した。製造方法は次の通りである。サラダボウル製造用金型を、予め、90℃とした後、加工用素材11を下型15の上の所定位置に載置し、上型を毎秒1mmの速度で降下させて加工用素材11を圧縮した。型締を20分間行い、その後、金型の温度を約30℃に冷却し、脱型して広葉樹由来の木製サラダボウルを得た(図27及び図28参照)。木製サラダボウルのオモテ面を示す図27及び木製サラダボウルのウラ面を示す図28から明らかなように、得られた木製サラダボウルには割れ及び裂けがなく、木目及び色調に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の加工用木材は、木目及び色調の外観性に優れる木材成形品の製造資材として好適である。
本発明の木材成形品、及び、この木材成形品と他の物品とを一体化させてなる複合体は、日用品(食器、カトラリー、トレイ等)、置物、装飾品、家具、楽器、音響機器、電気製品、車両内装品、住宅設備品、洗面・バス用品、ペット用品、化粧用具等として有用である。
【符号の説明】
【0089】
11:加工用素材
13:上型
15:下型
17:スプーン形状、コースター形状又はサラダボウル形状のキャビティ
図1
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図28
【手続補正書】
【提出日】2024-09-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
針葉樹又は広葉樹からなり、木材成形品の製造原料として用いる加工用木材であって、
前記加工用木材を硫酸により加水分解させ、次いで、得られた処理液から該硫酸を除去して回収された液を液体クロマトグラフィーに供した場合に、糖成分の全量に対して、ヘミセルロース由来の糖成分の合計量の割合が、針葉樹では14~21質量%であり、広葉樹では13~20質量%であることを特徴とする加工用木材。
【請求項2】
請求項1に記載の加工用木材を製造する方法であって、針葉樹又は広葉樹からなる原料木材を、塩基性液体に接触させる工程を備えることを特徴とする加工用木材の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の加工用木材を圧縮加工又は曲げ加工に供する賦形工程を備えることを特徴とする、木材成形品の製造方法。
【請求項4】
前記賦形工程の前に、前記加工用木材の含水率を10質量%以上に調整する水分調整工程を備える請求項3に記載の木材成形品の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の方法により得られたことを特徴とする木材成形品。
【請求項6】
曲面部を有する請求項5に記載の木材成形品。
【請求項7】
表面の少なくとも一部に皮膜を備える請求項5に記載の木材成形品。
【請求項8】
請求項に記載の木材成形品と、他の物品とが一体化されてなることを特徴とする複合体。