(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180361
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】有無機複合高分子電解質及びこれを含む全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20241219BHJP
H01M 10/056 20100101ALI20241219BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241219BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20241219BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/056
H01M10/052
H01M10/0565
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024096488
(22)【出願日】2024-06-14
(31)【優先権主張番号】10-2023-0076836
(32)【優先日】2023-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2024-0076304
(32)【優先日】2024-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】522151617
【氏名又は名称】エスケー オン カンパニー リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】パク ミュン ス
(72)【発明者】
【氏名】イ スン ファン
(72)【発明者】
【氏名】イ ハン ソル
(72)【発明者】
【氏名】ゴ ヒョン ジン
(72)【発明者】
【氏名】キム ミョン レ
(72)【発明者】
【氏名】イ ホン ウォン
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE01
5H029AJ05
5H029AJ12
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM07
5H029AM16
5H029HJ00
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ05
5H029HJ10
5H029HJ12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】リチウム二次電池の安全性及び寿命特性を改善することができる有無機複合高分子電解質、及びこれを含む全固体電池を提供する。
【解決手段】難燃性高分子及びせん断弾性率(shear modulus)が7~60GPaの難燃性無機塩を含む有無機複合高分子電解質、及び上記有無機複合高分子電解質を含む全固体電池が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
難燃性高分子及びせん断弾性率(shear modulus)が7~60GPaの難燃性無機塩を含む、有無機複合高分子電解質。
【請求項2】
前記難燃性高分子は、ホスホラス(phosphorus)系高分子、ホスファゼン(phosphazene)系高分子、フルオロ化(fluorinated)高分子及びイオン性高分子からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載の有無機複合高分子電解質。
【請求項3】
前記ホスホラス系高分子は、ホスフェート、ホスホネート及びホスフィネートからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項2に記載の有無機複合高分子電解質。
【請求項4】
前記ホスホラス系高分子は、下記化学式1で表される化合物から誘導された構造単位を含む、請求項2に記載の有無機複合高分子電解質:
【化1】
前記化学式1において、
L
1~L
3はそれぞれ独立して直接結合;または置換または非置換のC
1~C
20アルキルであり、
R
1~R
3は互いに独立して、少なくとも1つが炭素間に二重結合を有する官能基であり、残りは互いに独立して水素、置換または非置換のヒドロカルビル基である。
【請求項5】
前記R1~R3は互いに独立して、少なくとも1つがアクリレート基、メタクリレート基、シアノアクリレート基、ビニルアクリレート基、ビニル基、アリル基及びビニルエーテル基から選択される官能基である、請求項4に記載の有無機複合高分子電解質。
【請求項6】
前記ヒドロカルビル基は、置換または非置換のC1~C20アルキル、置換または非置換のC2~C20アルケニル及び置換または非置換のC6~C20アリールから選択される、請求項4に記載の有無機複合高分子電解質。
【請求項7】
前記ホスファゼン系高分子は、線状ホスファゼン及び環状ホスファゼンからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項2に記載の有無機複合高分子電解質。
【請求項8】
前記難燃性高分子は、2以上の反応性官能基を有するネットワーク型高分子構造誘導化合物から誘導された構造単位をさらに含む、請求項1に記載の有無機複合高分子電解質。
【請求項9】
前記ネットワーク型高分子構造誘導化合物は、下記化学式2で表される化合物を含む、請求項8に記載の有無機複合高分子電解質:
【化2】
前記化学式2において、
R
4~R
6は、それぞれ独立して水素、アクリレート基、メタクリレート基、シアノアクリレート基、ビニルアクリレート基、ビニル基、アリル基及びビニルエーテル基からなる群から選択され、R
4~R
6の少なくとも2以上は、アクリレート基、メタクリレート基、シアノアクリレート基、ビニルアクリレート基、ビニル基及びビニルエーテルからなる群から選択され、
前記R
7は、水素、置換または非置換のC
1~C
20アルキル、置換または非置換のC
2~C
20アルケニル及び置換または非置換のC
6~C
20アリールから選択される。
【請求項10】
前記難燃性高分子は、有無機複合高分子電解質の総重量の50重量%以下含まれる、請求項1に記載の有無機複合高分子電解質。
【請求項11】
難燃性無機塩は、熱分解によってFラジカルまたはCO2を生成する、請求項1に記載の有無機複合高分子電解質。
【請求項12】
難燃性無機塩は、水に対する溶解度が1.5g/100mL以下である、請求項1に記載の有無機複合高分子電解質。
【請求項13】
難燃性無機塩の粒径は5nm~50μmである、請求項1に記載の有無機複合高分子電解質。
【請求項14】
前記難燃性無機塩は、金属のフッ化物及びカーボネート化合物からなる群から選択される、請求項1に記載の有無機複合高分子電解質。
【請求項15】
前記難燃性無機塩は、LiまたはNaのフッ化物または炭酸化物を含む、請求項1に記載の有無機複合高分子電解質。
【請求項16】
難燃性無機塩は、有無機複合高分子電解質の総重量の10重量%以下である、請求項1に記載の有無機複合高分子電解質。
【請求項17】
非水系溶媒及びリチウム塩をさらに含む、請求項1から16のいずれか一項に記載の有無機複合高分子電解質。
【請求項18】
負極、正極、及び前記負極と正極との間に請求項1から16のいずれか一項に記載の有無機複合高分子電解質を含む、全固体電池。
【請求項19】
前記有無機複合高分子電解質は、難燃性無機塩の濃度勾配を有する、請求項18に記載の全固体電池。
【請求項20】
前記難燃性無機塩は、重量基準の前記有無機複合高分子電解質の厚さ方向において中心よりも表面にさらに多く存在する、請求項18に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有無機複合高分子電解質及び上記有無機複合高分子電解質を含む全固体電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、一般的に、リチウムイオンを挿入/放出することができる電極活物質を含む正極と負極、及びリチウムイオンの伝達媒体である電解質を用いて製造されることができる。上記電解質としては、液体状態の電解質、特に非水系電解質溶媒に塩を溶解したイオン伝導性有機液体電解質が主に用いられてきた。
【0003】
しかしながら、このような液体状態の電解質は、電解液が漏液するおそれがあり、非水系電解質溶媒の高い引火性により、発火、爆発などのような素子の安全性問題が生じることがある。
【0004】
そこで、漏液の心配のない高分子電解質を用いる二次電池が提示された。上記高分子電解質は、一般的に、重合性モノマー及び重合開始剤を重合させて形成された高分子マトリックスに電解質塩及び有機溶媒を含む電解液を含浸させて製造される。
【0005】
このような高分子電解質を含む二次電池は、電池の安全性を改善する効果をもたらすが、依然として高分子電解質に非水系電解質溶媒を含んでおり、発火の問題から完全に自由になれないという限界がある。
【0006】
一方、高分子電解質は一般的に難燃性を有する高分子を含まず、電解質は機能性無機塩を含まないことが一般的である。
【0007】
部分的に無機物と高分子を含む有無機高分子電解質技術が多数報告されているが、これらの技術に含まれる無機物は、高分子電解質の物性向上を目的とするものであり、電解質の難燃性を確保する目的は有さない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、リチウム二次電池の安全性及び寿命特性を改善することができる有無機複合高分子電解質を提供することである。
【0009】
具体的には、本開示は一実施例として、高分子電解質の難燃性を向上させ、電解質の物性を強化して電池短絡防止及びリチウムデンドライト成長を抑制することができる電解質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、一実施例として有無機複合高分子電解質を提供し、上記有無機複合高分子電解質は、難燃性高分子及びせん断弾性率(shear modulus)が7~60GPaである難燃性無機塩を含むことができる。
【0011】
上記難燃性高分子は、ホスホラス(phosphorus)系高分子、ホスファゼン(phosphazene)系高分子、フルオロ化(fluorinated)高分子及びイオン性高分子からなる群から選択される少なくとも1つを含むことができる。
【0012】
上記ホスホラス系高分子は、ホスフェート、ホスホネート及びホスフィネートからなる群から選択される少なくとも1つを含むことができる。
【0013】
上記ホスホラス系高分子は、下記化学式1で表される化合物から誘導された構造単位を含むことができる:
【化1】
上記化学式1において、L
1~L
3はそれぞれ独立して直接結合;または置換または非置換のC
1~C
20アルキルであり、R
1~R
3は互いに独立して、少なくとも1つが炭素間に二重結合を有する官能基であり、残りは互いに独立して水素、置換または非置換のヒドロカルビル基である。
【0014】
上記化学式1において、R1~R3は互いに独立して、少なくとも1つがアクリレート基、メタクリレート基、シアノアクリレート基、ビニルアクリレート基、ビニル基、アリル基、ビニルエーテル基から選択される官能基であることができる。
【0015】
上記ヒドロカルビル基は、置換または非置換のC1~C20アルキル、置換または非置換のC2~C20アルケニル及び置換または非置換のC6~C20アリールから選択されることができる。
【0016】
上記ホスファゼン系高分子は、線状ホスファゼン及び環状ホスファゼンからなる群から選択される少なくとも1つを含むことができる。
【0017】
上記難燃性高分子は、2以上の反応性官能基を有するネットワーク型高分子構造誘導化合物から誘導された構造単位をさらに含むことができる。
【0018】
上記ネットワーク型高分子構造誘導化合物は、下記化学式2で表される化合物を含むことができる:
【化2】
上記化学式2において、R
4~R
6はそれぞれ独立して水素、アクリレート基、メタクリレート基、シアノアクリレート基、ビニルアクリレート基、ビニル基、アリル基及びビニルエーテル基からなる群から選択され、R
4~R
6の少なくとも2以上は、アクリレート基、メタクリレート基、シアノアクリレート基、ビニルアクリレート基、ビニル基及びビニルエーテルからなる群から選択され、上記R
7は水素、置換または非置換のC
1~C
20アルキル、置換または非置換のC
2~C
20アルケニル及び置換または非置換のC
6~C
20アリールから選択されることができる。
【0019】
上記難燃性高分子は、有無機複合高分子電解質の総重量の50重量%以下であることができる。
【0020】
上記難燃性無機塩は、熱分解によってFラジカルまたはCO2を生成することができる。
【0021】
上記難燃性無機塩は、水に対する溶解度が1.5g/100mL以下であることができる。
【0022】
上記難燃性無機塩は、粒径が5nm~50μmであることができる。
【0023】
上記難燃性無機塩は、金属のフッ化物及びカーボネート化合物からなる群から選択されるものであることができる。
【0024】
上記難燃性無機塩は、LiまたはNaのフッ化物または炭酸化物を含むことができる。
【0025】
上記難燃性無機塩は、有無機複合高分子電解質の総重量の10重量%以下であることができる。
【0026】
本開示は、他の実施例として、負極、正極、及び上記負極と正極との間に上記のような有無機複合高分子電解質のいずれか一つを含む全固体電池を提供する。
【0027】
上記有無機複合高分子電解質は、難燃性無機塩の濃度勾配を有することができる。
【0028】
上記難燃性無機塩は、重量基準の上記有無機複合高分子電解質の厚さ方向において中心よりも表面にさらに多く存在することができる。
【発明の効果】
【0029】
本開示によると、非水電解液を含むにも関わらず電解質の難燃性を改善することができ、これにより高分子電解質固体バッテリーの内部過熱時にも発火及び熱暴走を抑制及び防止することができる。
【0030】
また、本開示の有無機複合高分子電解質は、リチウムデンドライトの成長を抑制することができ、これにより、バッテリーの短絡防止及びバッテリー安全性をさらに向上させることができ、バッテリーの寿命を改善することができる。
【0031】
本開示の有無機複合高分子電解質は、電気自動車、バッテリー充電所、その他のバッテリーを利用する太陽光発電、風力発電などのグリーン技術分野で広く適用されることができる。また、本開始の有無機複合高分子電解質は、大気汚染及び温室ガス放出を抑制して気候変化を防止するためのエコフレンドリー(eco-friendly)電気自動車(Electric Vehicle)、ハイブリッド自動車(hybrid vehicle)などに用いられることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】実施例1、2及び比較例2、3で製造された有無機複合高分子電解質の流動性の有無を見せるために撮影された写真であり、(a)は、有無機複合高分子電解質が担持された透明容器が正常に置かれたものを撮影した写真であり、(b)は、上記透明容器をひっくり返して上の部分を撮影した写真である。
【
図2】実施例1、2及び比較例1~4の電解質をそれぞれ適用したリチウム対称コインセルを1.5mA/cm
2及び2時間の条件で駆動したときの時間によるリチウムの電着及び脱着挙動による電圧変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
一実施例は、難燃性高分子及び難燃性無機塩を含み、上記難燃性無機塩のせん断弾性率(shear modulus)が7~60GPaである、有無機複合高分子電解質を提供する。本開示による有無機複合高分子電解質は、難燃性高分子マトリックス内に難燃性無機塩、電解質塩及び非水系溶媒を含む有無機複合高分子電解質であることができる。
【0034】
本開示において、難燃性は、試料が炎(発火源)に接触しているときには燃えるが、炎を除去すると自ら炎を出しながら燃焼することを防止または抑制する性能を示し、上記難燃性はトーチを用いて試料に一定の熱量の炎を1秒以上供給して点火した後、上記トーチを除去したとき、消火までにかかる時間から評価することができ、消火にかかる時間が短いほど難燃性に優れると評価することができる。
【0035】
具体的には、上記難燃性高分子は、19mm径のガラス繊維含浸型あるいは自立型フィルム状に製造し、これにトーチを用いて一定の熱量の炎を1秒以上供給して点火した後、上記トーチを除去したとき、2秒以内、具体的には1秒以内、より具体的には0.5秒以内に消火する高分子であることができる。また、上記難燃性無機塩は、0.1g以上のパウダーに上記のように点火したとき、2秒以内、具体的には1秒以内、さらに具体的には0.5秒以内に消火する無機塩であることができる。このような難燃性高分子及び難燃性無機塩を有無機複合高分子電解質に添加して電解質の難燃性を向上することができる。
【0036】
上記難燃性高分子は、難燃性モノマーが重合して固形化し、高分子マトリックスとして提供されることができる。したがって、上記高分子マトリックスは電解質内で流動性が少ないことができ、電解質溶媒を含む場合にも電解質内のリチウムイオンの移動を阻害しないことができる。
【0037】
本開示において、上記難燃性高分子は、ラジカルを捕捉して燃焼を中断させることができる官能基を有する高分子を用いることができる。上記難燃性高分子は、少なくとも1つの二重結合を有するモノマーの重合体であることができ、これに限定されないが、例えば、ホスフェート、ホスホネート及びホスフィネートを含むホスホラス(phosphorus)系高分子;線状ホスファゼン及び環状ホスファゼンを含むホスファゼン(phosphazene)系高分子;フルオロ化(C1~C20)アルキル、フルオロ化エーテル、フルオロ化エステル及びフルオロ化カーボネートを含むフルオロ化(fluorinated)高分子;及びイミダゾリウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、ピリジニウム、アンモニウム及びホスホニウムを含むイオン性ポリマーからなる群から選択される少なくとも1つを含むことができる。
【0038】
具体的には、上記難燃性高分子は、少なくとも1つの二重結合を有するモノマーから誘導された構造単位を含むことができ、上記少なくとも1つの二重結合を有するモノマーは、二重結合を有するモノマーであれば特に限定しないが、具体的には、二重結合が重合性基として含まれることができ、例えば、末端に炭素間に二重結合を有する官能基が重合性基として含まれることができ、具体的にはアクリレート基、メタクリレート基、シアノアクリレート基、ビニルアクリレート基、ビニル基、アリル基及びビニルエーテル基からなる群から選択される少なくとも1つを重合性基として含むことができる。
【0039】
上記少なくとも1つの二重結合を有するモノマーは、1~3個の重合性基を含むことができ、具体的には1個または2個の重合性基を有することができる。
【0040】
例えば、上記少なくとも1つの二重結合を有するモノマーはリン(P)元素を含むことができ、例えば、ホスホラス基を含むことができる。
【0041】
具体的には、上記少なくとも1つの二重結合を有するモノマーは、下記化学式1で表されることができ、このようなモノマーの重合によりホスホラス系の難燃性高分子が生成されることができる。
【化3】
【0042】
上記化学式1において、L1~L3はそれぞれ独立して直接結合;または置換または非置換のC1~C20アルキルであることができる。
【0043】
また、上記化学式1において、R1~R3は互いに独立して、R1~R3の少なくとも1つは炭素間に二重結合を有する官能基であることができ、残りは互いに独立して水素、置換または非置換のヒドロカルビル基であることができる。
【0044】
具体的には、上記化学式1においてR1~R3は互いに独立して、R1~R3の少なくとも1つは炭素間に二重結合を有する官能基であり、例えば、アクリレート基、メタクリレート基、シアノアクリレート基、ビニルアクリレート基、ビニル基、アリル基、ビニルエーテル基、またはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0045】
一方、上記置換または非置換のヒドロカルビル基はこれに限定されるものではないが、置換または非置換のC1~C20アルキル、置換または非置換のC2~C20アルケニル及び置換または非置換のC6~C20アリールであることができる。
【0046】
二次電池に含まれる非水系溶媒は、一般的に電池の温度が上昇するにつれて熱分解されて、下記の連鎖燃焼反応によりOH・及びH・などの反応活性の高いラジカルを生成しながら燃焼し、また、このようなラジカル生成反応は発熱反応であるため、非水系溶媒の燃焼反応が連鎖的に起こり、電池の爆発及び発火を引き起こすことがある。
RH→R・+H・
H・+O2→HO・+O・
HO・+H2→H・+H2O
O・+H2→HO・+H・
【0047】
しかし、上記のような難燃性高分子を含む場合には、上記難燃性高分子からラジカルを放出し、上記放出されたラジカルは、非水系溶媒の燃焼中に発生した高活性を有するH・ラジカルまたはOH・ラジカルを捕捉して燃焼を中断させることができる。
【0048】
具体的には、上記難燃性高分子がホスホラス系高分子である場合、非水系溶媒の燃焼時に上記ホスホラス系高分子を構成するリン系単量体からPラジカルを放出し、上記放出されたPラジカルが非水系溶媒の燃焼中に発生されたHラジカルまたはOHラジカルを捕捉し、これによってさらなる燃焼を抑制または中断させることができる。
【0049】
本開示において、上記難燃性高分子は高分子電解質層にマトリックスを形成することができ、上記難燃性高分子はネットワーク型高分子構造誘導化合物から誘導された構造単位をさらに含むことができる。
【0050】
上記難燃性高分子が上記ネットワーク型高分子構造誘導化合物から誘導された構造単位をさらに含むことにより、さらに容易に非流動性のある有無機複合高分子電解質を製造することができる。
【0051】
上記ネットワーク型高分子構造誘導化合物は、上記少なくとも1つの二重結合を有するモノマーとは異なり、2以上の反応性官能基を有する化合物であることができ、具体的には、2つ~4つの反応性官能基を有する化合物であることができ、より具体的には、3つの反応性官能基を有する化合物であることができる。
【0052】
具体的には、上記ネットワーク型高分子構造誘導化合物は、一例として、下記化学式2のような構造を有する化合物であることができる。
【化4】
【0053】
上記化学式2において、R4~R6はそれぞれ独立して水素、アクリレート基、メタクリレート基、シアノアクリレート基、ビニルアクリレート基、ビニル基、アリル基及びビニルエーテル基からなる群から選択され、R4~R6の少なくとも2以上は、アクリレート基、メタクリレート基、シアノアクリレート基、ビニルアクリレート基、ビニル基、アリル基及びビニルエーテルからなる群から選択されることができる。より具体的には、上記R4~R6は互いに同一であるかまたは異なることができ、2以上は炭素間に二重結合を有する官能基であることができ、例えば、R4~R6はいずれも炭素間に二重結合を有する官能基であることができる。
【0054】
上記化学式2において、上記R7は水素、置換または非置換のヒドロカルビルであることができ、上記ヒドロカルビルは置換または非置換のC1~C20アルキル、置換または非置換のC2~C20アルケニル及び置換または非置換のC6~C20アリールから選択されることができ、具体的にはC1~C10アルキルであることができる。
【0055】
上記難燃性高分子がネットワーク型高分子構造誘導化合物から誘導された構造単位を含むことにより、上記少なくとも1つの二重結合を有するモノマー(具体的に上記化学式1で表される化合物)から誘導された構造単位と高分子ネットワークを形成して、有無機複合高分子電解質の流動をより容易に抑制することができる。
【0056】
これにより限定するものではないが、上述した重合性基が少なく含まれた少なくとも1つの二重結合を有するモノマー(具体的には1個の重合性基を含むモノマー、より具体的には上記化学式1で表される化合物)を適用する場合、上記難燃性高分子がネットワーク型高分子構造誘導化合物から誘導された構造単位をさらに含むことで、有無機複合高分子電解質の流動性をより効果的に制御することができる。
【0057】
例えば、上述した少なくとも1つの二重結合を有する難燃性モノマー(具体的には上記化学式1で表される難燃性モノマー)から誘導された構造単位を全体有無機複合高分子電解質重量を基準として10重量%以下、8重量%以下、6重量%以下、5重量%以下、または3重量%以下と少ない場合には、上記ネットワーク型高分子構造誘導化合物から誘導された構造単位をさらに含むことで、有無機複合高分子電解質の非流動性を確保することができる。
【0058】
上記ネットワーク型高分子構造誘導化合物から誘導された構造単位は、全体有無機複合高分子電解質重量を基準として20重量%以下、例えば、1~20重量%の含有量で含まれることができる。上記ネットワーク型高分子構造誘導化合物から誘導された構造単位が上述した範囲で含まれることにより、有無機複合高分子電解質の非流動性とイオン伝導度を同時に確保することができる。
【0059】
上記難燃性高分子は、有無機複合高分子電解質の全体重量に対して50重量%以下、例えば、2.5~50重量%含まれることができる。上記難燃性高分子を上述した範囲で含むことにより、電解質内に高分子ネットワークを適切なレベルで形成することができ、これにより、有無機複合高分子電解質が過度に硬くならず、適切な非流動性を確保することができ、優れたイオン伝導度及び電池高率特性を有することができる。
【0060】
上記難燃性高分子は、有無機複合高分子電解質の全体重量に対して、例えば、2.5重量%以上、3重量%以上、5重量%以上、7重量%以上、10重量%以上、15重量%以上、又は20重量%以上含まれることができ、50重量%以下、45重量%以下、40重量%以下、35重量%以下、または30重量%以下含まれることができる。
【0061】
本開示の有無機複合高分子電解質は、上述のように難燃性無機塩を含む。上記有無機複合高分子電解質が上記難燃性無機塩を含むことにより、上記非水系溶媒の燃焼によって生成されるHラジカルを捕捉したり、酸素を遮断して火炎を消火することができる。
【0062】
例えば、上記難燃性無機塩は、熱分解によってフッ素ラジカルを生成してHラジカルを捕捉することができるフッ化物であることができる。具体的には、フッ化物は燃焼時に熱分解してFラジカルを生成し、上記Fラジカルは上記非水系溶媒の燃焼によって生成されたHラジカルを捕集して燃焼を抑制する作用を提供することができる。これを反応式で表すと以下の通りである。
[F]・+H・→[F]H
【0063】
上記のようなフッ化物としては、これに限定されないが、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属または金属のフッ化物であることができ、具体的には、Li、Na、K、Rb、Cs、Frなどの上記アルカリ金属;Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Raなどのアルカリ土類金属;3族から12族の遷移金属;13族金属のフッ化物であることができる。より具体的には、アルカリ金属のフッ化物であることができ、リチウムまたはナトリウムのフッ化物であることができる。例えば、上記フッ化物は、LiF、NaF、KFなどが挙げられ、より具体的にはLiFまたはNaFであることができる。
【0064】
また、上記難燃性無機塩は、熱分解によって二酸化炭素を生成する無機塩であることができる。熱分解によって生成された二酸化炭素は、酸素を遮断することにより火炎を消火することができ、このような上記難燃性無機塩としてはカーボネート化合物が挙げられる。上記カーボネート化合物は、燃焼時に下記の反応式のように熱分解してCO2気体を生成する。
MCO3→MO+CO2
【0065】
これにより生成されたCO2気体は、火炎付近の酸素を遮断して火炎を消火する作用を提供することができる。
【0066】
上記カーボネート化合物は、上記フッ化物のように、アルカリ金属、アルカリ土類金属、3族~12族の遷移金属;13族金属のカーボネート化合物が挙げられ、より具体的には、LiまたはNaの炭酸化物であることができる。例えば、上記カーボネート化合物は、Li、Na、K、Rb、Cs、Frなどの上記アルカリ金属とCO3の化合物であり、具体的にはLi2CO3、Na2CO3、K2CO3、CaCO3等が挙げられ、より具体的にはLi2CO3、Na2CO3であることができる。
【0067】
また、上記難燃性無機塩は、水に対する溶解度が1.5g/100ml以下であることができる。上記難燃性無機塩の水に対する溶解度が1.5g/100mlを超過する場合には、無機塩が電解質内で溶解してアニオン/カチオンに分離されることで物性向上効果を確保することが難しい場合がある。
【0068】
本開示による有無機複合高分子電解質は、上記のような難燃性無機塩を含むことにより非水系溶媒の燃焼を抑制する役割を提供することはもちろん、これらを含むことでLiデンドライトの成長を抑制することにも寄与することができる。
【0069】
無機物のせん断弾性率が6GPa以上であると、上記のようにLiデンドライトの成長を有効に抑制することができる。本開示において、有無機複合高分子電解質の難燃性を確保しながら、Liデンドライトの成長を抑制するために、7GPa以上のせん断弾性率を有する難燃性無機塩を用いることができる。
【0070】
例えば、本開示において、上記有無機複合高分子電解質内にせん断弾性率(shear modulus)が7GPa以上の値を有する難燃性無機塩を所定の含有量で含むことにより、上記有無機複合高分子電解質の難燃性を向上させながら、また物理的特性を向上させて有無機複合高分子電解質のリチウムデンドライト生成を効果的に抑制することができる。
【0071】
具体的には、上記有無機複合高分子電解質は、せん断弾性率が7GPa以上150GPa以下の無機塩を含むことができ、より具体的には7GPa以上60GPa以下のせん断弾性率を有する無機塩を含むことができる。上記せん断弾性率はASTM E143による方法で求めることができる。
【0072】
上記難燃性無機塩は、有無機複合高分子電解質の全体重量に対して10重量%以下含まれることができる。
【0073】
上記難燃性無機塩はこれに限定されないが、5nm以上50μm以下の粒子サイズを有することができる。上記難燃性無機塩の粒子サイズが上記範囲を満たすことにより、5nm未満であると無機塩の体積が大きくなり、硬化前の高分子電解質溶液の粘度を高めて、均一な分散を確保することが難しくなり、50μmを超過すると無機塩粒子が沈んで均一な分散を確保し難いことがある。
【0074】
上記難燃性無機塩は粒子形状を特に限定せず、球状、円筒状、またはチューブ状など様々な形状を有することができる。
【0075】
本開示による有無機複合高分子電解質は、難燃性高分子マトリックス内に難燃性無機塩を含むものであり、上記難燃性無機塩は有無機複合高分子電解質の表面で厚さ方向に濃度勾配を有することができる。具体的には、難燃性無機塩の含有量は、上記有無機複合高分子電解質の表面から厚さ方向に進むほど含有量が減少することができる。より具体的には、難燃性無機塩は、上記有無機複合高分子電解質の表面に局部的に存在することができ、例えば、上記難燃性無機塩は、有無機複合高分子電解質の全体厚さに対して10%以内の領域に集中されることができる。
【0076】
本開示で提供される難燃性高分子及び難燃性無機塩を含む有無機複合高分子電解質は、上述したように、難燃性高分子のマトリックス内に物性を強化する機能を提供する難燃性無機塩を含み、さらに、非水系溶媒及び電解質塩としてリチウム塩を含む電解液が含浸される。
【0077】
上記有無機複合高分子電解質は、上記少なくとも1つの二重結合を含むモノマー、必要に応じて添加されることができる上記ネットワーク型高分子構造誘導化合物、上記難燃性無機塩、上記非水系溶媒及び電解質塩を混合した組成物から上記モノマーを重合することにより、難燃性高分子マトリックス内に難燃性無機塩と非水系液体電解質が分散した形態の有無機複合高分子電解質を製造することができる。
【0078】
一方、上記少なくとも1つの二重結合を含むモノマー及び必要に応じてネットワーク型高分子構造誘導化合物を含む組成物をまず重合して難燃性高分子マトリックスを製造した後に、上記難燃性高分子マトリックスに電解質塩及び非水系溶媒を含む電解液を含浸してゲル化することにより、有無機複合高分子電解質を製造することもできる。
【0079】
上記重合のために必要に応じて重合開始剤を含むことができる。上記重合開始剤は、通常的に、高分子電解質の製造に用いられる重合開始剤であれば、特に限定なく用いることができる。例えば、上記重合開始剤としては、ペルオキシド系重合開始剤が挙げられ、例えば、tert-ブチルペルオキシネオデカノエート(tert-butyl peroxyneodecanoate、TBND);tert-ブチルペルオキシピバレート(tert-butylperoxypivalate、TBPP)、tert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート(tert-butyl peroxy-2-ethylhexanoate、TBPO)、tert-ブチルペルオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート(tert-butyl peroxy-3,5,5-trimethylhexanoate、TBPIN)、アゾビスイソブチロニトリル(Azobisisobutyronitrile、AIBN)などが挙げられる。
【0080】
上記組成物はさらに架橋剤も含むことができる。上記架橋剤は、通常的に高分子電解質の製造に用いられる架橋剤であれば特に限定されるものではないが、例えば、ビスフェノールAエトキシレートジアクリレート(bisphenol A ethoxylate diacrylate)、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート(trimethylolpropane ethoxylate triacrylate、TMPETA)、トリメチロールプロパントリアクリレート(trimethylolpropane triacrylate、TMPTA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(trimethylolpropane trimethacrylate、TMPTMA)、ジ-トリメチロールプロパンテトラアクリレート(di-trimethylolpropane tetraacrylate、DTMPTA)を含むことができる。
【0081】
上記難燃性高分子を重合する方法は、特に限定されず、熱重合によって進行することができる。このとき、重合時間は約30分以上、24時間以下であることができ、熱重合温度は40~100℃であることができる。
【0082】
上記電解質塩は、通常的なリチウム二次電池の電解質塩として用いているものであれば特に制限することなく、本開示にも適用することができる。上記電解質塩としては、これに限定されるものではないが、例えば、(i)Li+、Na+、K+からなる群から選択されたカチオンと(ii)PF6
-、BF4
-、Cl-、Br-、I-、ClO4
-、AsF6
-、CH3CO2
-、CF3SO3
-、N(CF3SO2)2
-、C(CF2SO2)3
-からなる群から選択されたアニオンの組み合わせからなることができるが、これに限定されない。これらの電解質塩は単独または混合して用いることができる。
【0083】
上記非水系溶媒は、通常非水電解液用有機溶媒として用いることができるものであれば、特に制限なく用いることができ、環状カーボネート、線状カーボネート、ラクトン、エーテル、エステル、スルホキシド、アセトニトリル、ラクタム、ケトン等を用いることができる。
【0084】
上記環状カーボネートの例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)などがあり、上記線状カーボネートの例としては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、及びメチルプロピルカーボネート(MPC)などが挙げられる。
【0085】
また、上記ラクトンの例としては、ガンマブチロラクトン(GBL)が挙げられ、上記エーテルの例としては、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン等が挙げられ、上記エステルの例としては、メチルホルメート、エチルホルメート、プロピルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート、プロピルアセテート、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、ブチルプロピオネート、メチルピバレートなどが挙げられる。
【0086】
また、上記スルホキシドとしては、ジメチルスルホキシド等が挙げられ、上記ラクタムとしてはN-メチル-2-ピロリドン(NMP)などが挙げられ、上記ケトンとしてはポリメチルビニルケトンが挙げられる。
【0087】
また、上記有機溶媒のハロゲン誘導体を用いることもでき、これらの有機溶媒のいずれか一つを単独で用いることができ、2種以上を混合して用いることができる。
【0088】
本開示に係る有無機複合高分子電解質は、難燃性高分子マトリックス内に難燃性無機塩を含み、電解質塩及び非水系溶媒を含む電解液が含浸され、上記有無機複合高分子電解質を含むポリマー電解質全固体電池を提供することができる。具体的には、上記全固体電池は、正極、負極、及び上記正極と負極との間に、上記有無機複合高分子電解質が位置することができる。
【0089】
本開示において、上記正極は、通常的に二次電池に用いられるものであれば特に制限されず、例示的には、正極集電体;及び上記正極集電体の少なくとも一面上に形成された正極合剤層を含むことができる。
【0090】
上記正極集電体の成分は特に限定されず、インジウム(In)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、ステンレススチール、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、リチウム(Li)またはこれらの合金からなる板状体(plate)またはフォイル(foil)などを用いることができる。
【0091】
上記正極合剤層が含む正極活物質は特に限定されない。例示的に、上記正極合剤層は、正極活物質としてリチウム-遷移金属酸化物を含むことができ、例えば、リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)、リチウムマンガン酸化物(LiMn2O4)またはリチウムニッケル酸化物(LiNiO2)などのリチウム-遷移金属酸化物、またはこれらの遷移金属の一部が異なる遷移金属で置換されたリチウム-遷移金属複合高分子酸化物を含むことができる。具体的には、上記正極活物質は、下記化学式3で表されるNCM系正極活物質;または下記化学式4で表されるLLO(Li rich layered oxides、Over Lithiated Oxides、Over-lithiated layered oxide、OLO、LLOs)系正極活物質であることができる。
[化学式3]
LiaNibM1-bO2
【0092】
上記化学式3において、0.9≦a≦1.2、b≧0.5であり、MはNa、Mg、Ca、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Co、Fe、Cu、Ag、Zn、B、Al、Ga、C、Si、Sn、Ba及びZrの少なくとも一つである。
【0093】
具体的には、上記化学式3において、0.95≦a≦1.08であることができ、bは、0.6以上、0.8以上、0.8超過、0.9以上、または0.98以上であることができる。
【0094】
具体的には、上記化学式3においてMはCo、MnまたはAlを含むことができ、さらに具体的には、MはCo及びMnを含み、選択に応じてAlをさらに含むことができる。
[化学式4]
Li1+xM1-xO2
【0095】
上記化学式4において、0≦x≦0.4であり、MはNa、Mg、Ca、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Ni、Mn、Co、Fe、Cu、Ag、Zn、B、Al、Ga、C、Si、Sn、Ba及びZrの少なくとも一つである。
【0096】
具体的には、上記化学式4において、MはNi、Co、Mn、またはAlを含むことができ、より具体的には、Ni、Co及びMnを含み、選択に応じてAlをさらに含むことができる。
【0097】
また、上記正極活物質は、LiFePO4の化学式で表されるリチウムリン酸鉄(LFP)系正極活物質であることもできる。
【0098】
また、上記リチウム-遷移金属酸化物は、複数の1次粒子が組み立てまたは凝集して実質的に1個の粒子から形成された2次粒子であることもでき、単一粒子形態であることもできる。上記単一粒子形態は、例えば、複数の1次粒子(例えば、10個超過)が組み立てまたは凝集して実質的に1個の粒子から形成された2次粒子を排除する意味であることができる。但し、上記単一粒子形態は、2~10個の範囲の単一粒子が互いに付着または密着して単一体形態を有することを排除するものではない。一部実施例において、上記正極活物質は、2次粒子形態と単一粒子形態の全て含むこともできる。
【0099】
上記正極合剤層は、バインダーをさらに含むことができる。上記バインダーは、例示的に、ポリビニリデンフルオリド(Polyvinylidenefluoride)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(Polytetrafluoroethylene)、ビニリデンフルオリド/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリアクリロニトリル、及びポリメチルメタクリレートなどを1種または2種以上含むことができる。
【0100】
上記正極合剤層は導電材をさらに含むことができる。上記導電材は、例示的に、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サマーブラック、炭素繊維、炭素ナノチューブ(CNT)などの炭素系物質;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;またはポリフェニレン誘導体などの導電性高分子などを1種または2種以上含むことができる。
【0101】
上記負極は、通常的に二次電池に用いられるものであれば、特に制限されず、例示的には、負極集電体;及び上記負極集電体の少なくとも一面上に形成された負極合剤層を含むことができる。
【0102】
上記負極集電体の成分は特に限定されず、インジウム(In)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、ステンレススチール、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、リチウム(Li)またはこれらの合金からなる板状体(plate)またはフォイル(foil)などを用いることができる。
【0103】
上記負極合剤層は、負極活物質として人造黒鉛又は天然黒鉛の黒鉛などの炭素系活物質、シリコン又はシリコン酸化物(SiOx;0<x<2)、Si-C複合体等のケイ素系活物質、リチウムメタル等の金属を含むことができる。
【0104】
上記負極合剤層は、バインダーをさらに含むことができる。上記バインダーは、例示的に、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ビニリデンフルオリド/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレートなどを1種または2種以上含むことができる。
【0105】
上記負極合剤層は導電材をさらに含むことができる。上記導電材は、例示的に、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サマーブラック、炭素繊維、炭素ナノチューブ(CNT)などの炭素系物質;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;またはポリフェニレン誘導体などの導電性高分子などを1種または2種以上含むことができる。
【0106】
本開示において、上記有無機複合高分子電解質を含む全固体電池は、上記有無機複合高分子電解質が難燃性無機塩の濃度勾配を有し、特に、負極と接する表面において上記難燃性無機塩がさらに多く存在することができる。
【0107】
上記難燃性無機塩は、上記有無機複合高分子電解質の厚さに対して表面から中心部に向かって濃度が減少する濃度勾配を有することができる。すなわち、難燃性無機塩の含有量は電解質の表面においてさらに高いことができ、有無機複合高分子電解質を厚さ方向から見たとき、中心よりも表面にさらに多く存在することができる。
【0108】
一方、一般的に、負極表面には電解質との反応によるSEI(solid electrolyte interface)層が形成されるが、このような負極表面に形成されるSEI層は、本開示の電解質から誘導されたものとみることができるため、電解質の一部を構成するものと見ることができる。
【0109】
実施例
以下、本開示を実施例を挙げてより具体的に説明する。以下の実施例は、本開示を具体的な例によって説明するものであり、これにより本発明を限定するものではない。
【0110】
実施例1
-有無機複合高分子電解質組成物-
下記表1に示されたように、化学式1-1で表されるホスホラス系高分子化合物、化学式2-1で表される化合物(TMPETA、数平均分子量428g/mol)、電解液及びASTM E143によるせん断弾性率が55.1GPaである球状のLiFを表1のような含有量で含む有無機複合高分子電解質組成物を製造した。表1において、各含有量は、全体有無機複合高分子電解質組成物の重量に対する重量%である。
【化5】
【化6】
【0111】
上記化学式2-1において、nは1である。
【0112】
上記電解液は、エチルカーボネート(EC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)が3:7の体積比で混合された混合溶媒に電解質塩としてLiPF6を1M含み、ここにフルオロエチレンカーボネート(FEC)を全体電解液重量の10重量%の含有量で投入して製造した。
【0113】
-有無機複合高分子電解質-
上記製造された有無機複合高分子電解質組成物を70℃で1時間熱硬化して有無機複合高分子電解質を製造した。
【0114】
上記有無機複合高分子電解質の流動性の有無を観察するために、上記有無機複合高分子電解質が担持された透明容器を正常に置いた後、上記透明容器を裏返して電解質の流動の有無を観察し、それぞれを撮影して
図1に示した。このとき、上記正常に置かれた容器を撮影したものが(a)であり、ひっくり返した容器をそれぞれ撮影したものが(b)である。
【0115】
上記有無機複合高分子電解質の難燃性評価のために、上記製造された有無機複合高分子電解質にトーチを用いて1秒間点火した。続いて、点火後に消火されるまでの時間を測定し、その結果を残存する有無機複合高分子電解質について時間/電解質重量(sec/g)を計算して、自己消火時間(sec/g)として表2に示した。
【0116】
以後、比較例1の自己消火時間を基準に対比したときの実施例1と2の自己消火時間の短縮割合を基準に対する減少割合として表2に併せて示した。
【0117】
-有無機複合高分子電解質含有コインセル-
100μm厚さのLi電極を1.6cm径の円形に裁断し、20μm厚さのポリエチレン分離膜を1.8cm径の円形に裁断した。
【0118】
上記製造された有無機複合高分子電解質組成物を分離膜の両面にそれぞれ20μLずつ(合計40μL)投入した後、Li/電解質溶液+ポリエチレン分離膜/Liの構造で積層してリチウム対称コインセルを製造した。
【0119】
また、70℃で1時間熱硬化してリチウム対称コインセル構造の全固体電池を製造した。
【0120】
上記製造された全固体電池について1.5mA/cm2及び2時間の条件でセルを駆動して、リチウム対称構造の全固体電池に対する時間によるリチウムの電着及び脱着挙動を分析した。
【0121】
リチウムの電着及び脱着によるコインセルの時間による電圧変化を観察し、その結果を
図2のグラフで示した。
【0122】
実施例2
実施例1で用いられたせん断弾性率が55.1GPaであるLiFの代わりにせん断弾性率が8.0GPaである球状のLi2CO3を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法により有無機複合高分子電解質を製造した。
【0123】
上記製造された有無機複合高分子電解質に対する評価を実施例1と同様に行って流動性写真を
図1に示し、自己消火時間及び基準に対する減少割合を表2に示した。
【0124】
さらに、実施例1と同様の方法でリチウム対称コインセル構造の全固体電池を製造し、時間によるリチウムの電着及び脱着挙動を分析した。その結果を
図2に示した。
【0125】
実施例3
実施例1で化学式1-1で表される化合物に代えて化学式1-2で表されるフルオロ化高分子化合物を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法により有無機複合高分子電解質を製造した。
【化7】
【0126】
上記製造された有無機複合高分子電解質に対する評価を実施例1と同様に行い、自己消火時間及び基準に対する減少割合を分析した。その結果を表2に示した。
【0127】
実施例4
実施例3で用いられたせん断弾性率が55.1GPaであるLiFの代わりにせん断弾性率が8.0GPaである球状のLi2CO3を用いたことを除いては、実施例3と同様の方法により有無機複合高分子電解質を製造した。
【0128】
上記製造された高分子電解質に対する評価を実施例1と同様に行い、自己消火時間及び基準に対する減少割合を表2に示した。
【0129】
比較例1
実施例1と同様の方法により、Li電極及びPE分離膜を用いてLi/電解液+PE分離膜/Li構造のリチウム対称コインセルを製造した。
【0130】
このとき、上記電解液が上記化学式1-1及び2-1で表される化合物を含まず、1M LIPF6-EC/EMC(3/7、v/v)+10wt%FEC組成を有し、コインセル製造後に熱硬化過程を行っていないことを除いては、実施例1と同様の方法でリチウム対称コインセルを製造した。
【0131】
上記製造された電解液電池について、1.5mA/cm
2及び2時間の条件でセルを駆動して時間によるリチウムの電着及び脱着挙動を分析し、分析結果を
図2に示した。
【0132】
比較例2
実施例1で用いられたLiFを投入していないことを除いては、実施例1と同様の方法により有無機複合高分子電解質を製造した。
【0133】
上記製造された有無機複合高分子電解質に対する評価を実施例1と同様に行って流動性写真を
図1に示し、自己消火時間及び基準に対する減少割合を表2に示した。
【0134】
さらに、実施例1と同様の方法でリチウム対称コインセル構造の全固体電池を製造し、時間によるリチウムの電着及び脱着挙動を分析して、その結果を
図2に示した。
【0135】
比較例3
実施例1で用いられたせん断弾性率が55.1GPaであるLiFの代わりに、せん断弾性率が152.0GPaである球状の無機物Al2O3を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法により有無機複合高分子電解質を製造した。
【0136】
上記製造された有無機複合高分子電解質に対する評価を実施例1と同様に行って流動性写真を
図1に示し、自己消火時間及び基準に対する減少割合を表2に示した。
【0137】
さらに、実施例1と同様の方法でリチウム対称コインセル構造の全固体電池を製造し、時間によるリチウムの電着及び脱着挙動を分析して、その結果を
図2に示した。
【0138】
比較例4
実施例1で用いられたせん断弾性率が55.1GPaであるLiFの代わりに、せん断弾性率が76.0GPaである球状の無機物Ga2O3を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法により有無機複合高分子電解質を製造した。
【0139】
上記製造された有無機複合高分子電解質に対する評価を実施例1と同様に行い、自己消火時間及び基準に対する減少割合を表2に示した。
【0140】
さらに、実施例1と同じ方法で、リチウム対称コインセルの全固体電池を製造し、時間によるリチウムの電着及び脱着挙動を分析して、その結果を
図2に示した。
【0141】
【0142】
【0143】
-電解質流動性評価-
図1から分かるように、実施例1、2及び比較例2、3で製造された有無機複合高分子電解質は、全て電解質溶液を含んでいるにも関わらず、流動しないことを示すため、各電池に含まれた電解質は、すべてゲルまたは固体状態で製造されたことを確認することができる。
【0144】
-消火性評価-
比較例2は、難燃性高分子のみを適用して製造された電解質であり、比較例1の電解液に比べて約18%程度の自己消火時間が短縮した結果を示すことが分かった。
【0145】
一方、比較例3及び4は、比較例2に比べてさらにアルミナ無機粒子及びガリウム酸化物の無機粒子をそれぞれさらに含む有無機複合高分子電解質であり、追加の無機物を含むにも関わらず、自己消火時間の短縮効果が大きくない結果を示した。これらの結果から、アルミナ(Al2O3)及びガリウム酸化物は、難燃性の向上効果がないことが分かった。一方、比較例では示されていないが、シリカを含んでいてもアルミナと同様に難燃性の向上効果を提供することができないことが分かる。
【0146】
一方、実施例1及び2の有無機複合高分子電解質は、上記化学式1-1の難燃性高分子を含むものであり、それぞれ48.5sec/g及び49.7sec/gの大幅に短縮された自己消火時間を有し、基準に対する自己消火時間が40%以上減少する優れた結果を提供した。
【0147】
また、実施例3及び4の有無機複合高分子電解質は、上記化学式1-2の難燃性高分子を含むものであり、それぞれ45.1sec/g及び45.3sec/gの自己消火時間を有し、基準に対する自己消火時間が40%以上減少する優れた結果を提供した。
【0148】
特定理論に拘束されるものではないが、有無機複合高分子電解質内に含まれた無機塩であるLiFが熱によって分解されて生成されたFラジカルが非水系溶媒の熱分解により生成されたHラジカルまたはOHラジカルを捕集し、またLi2CO3が熱によって分解されて生成されたCO2が酸素との反応を遮断することにより消火作用を提供したためであることが分かる。
【0149】
このことから、難燃性高分子と共に熱分解によりFラジカルまたはCO2を放出することができる無機塩を含む場合に、優れた難燃性を提供することができることが分かった。
【0150】
-リチウム電着/脱着評価-
実施例1、2及び比較例1~4のそれぞれの電解質を適用した場合において、リチウム金属の電着及び脱着挙動を評価した結果を
図2に示した。
図2から分かるように、Li対称セルでの過電圧増加順序を見ると、液体電解質が適用された比較例1の電池で100時間に達する前に過電圧が増加し、無機粒子を含まない高分子電解質が適用された比較例2の電池では、比較例1と類似した時期に電圧の増加現象が示されたが、過電圧の程度が緩和された結果を示した。
【0151】
一方、無機粒子としてアルミナを含む有無機複合高分子電解質が適用された比較例3と、無機粒子としてLiFを含む有無機複合高分子電解質が適用された実施例1の電池で同様に過電圧が増加し、Li2CO3無機塩を含む有無機複合高分子電解質が適用された実施例2の電池において最も遅く過電圧の増加を示した。
【0152】
このような過電圧の増加はリチウムデンドライトが形成されて現れるものであり、上記の結果から無機塩、例えば、実施例で用いられたLiF及びLi2CO3のようなせん断弾性率が8~55.1GPaの無機塩を添加することで、Liデンドライト成長を抑制することができることが分かり、またリチウムの電着/脱着効率がより向上することが分かった。
【0153】
このような結果から、本開示で提案するアルカリ金属フッ化物またはアルカリ金属カーボネート化合物を添加する場合には、有無機複合高分子電解質の燃焼を抑制しながら、リチウムデンドライトの生成を抑制することができることが分かる。