(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180374
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】フィルター
(51)【国際特許分類】
G02B 5/22 20060101AFI20241219BHJP
G02B 1/113 20150101ALI20241219BHJP
G02B 1/14 20150101ALI20241219BHJP
【FI】
G02B5/22
G02B1/113
G02B1/14
【審査請求】有
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024096975
(22)【出願日】2024-06-14
(31)【優先権主張番号】112122734
(32)【優先日】2023-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】516210676
【氏名又は名称】白金科技股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】成 詩宋
(72)【発明者】
【氏名】朱 柏勳
(72)【発明者】
【氏名】張 家誠
(72)【発明者】
【氏名】陳 冠諭
(72)【発明者】
【氏名】段 宏翰
(72)【発明者】
【氏名】張 仕琳
(72)【発明者】
【氏名】朱 伯恩
【テーマコード(参考)】
2H148
2K009
【Fターム(参考)】
2H148CA04
2H148CA05
2H148CA12
2H148CA13
2H148CA23
2H148CA24
2H148CA27
2K009AA04
2K009AA15
2K009CC03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】フィルターに特定の近赤外線吸収層を設置することにより、近赤外線を効率よく吸収させ、可視光線透過率に優れており、後加工の負担を軽減することができるフィルターの提供。
【解決手段】基材層20と前記基材層20の上にある近赤外線吸収層10と含むフィルター1であって、前記近赤外線吸収層10は、銅錯体を含み、前記銅錯体は、銅イオンを供給するために用いられる銅化合物、下記式1で示されるホスホン酸、及び少なくとも1種の式2~式4で示されるリン含有化合物により形成され、前記フィルター1の入射光波長930nm~950nmに対するOD値は4超である。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、前記基材層の上にある近赤外線吸収層とを含む、フィルターであって、
前記近赤外線吸収層は銅錯体を含み、前記銅錯体は、銅イオンを供給するために用いられる銅化合物、下記式1で示されるホスホン酸、及び少なくとも1種の式2~式4で示されるリン含有化合物により形成され、
(式中、R、R
1、R
2、R
3は、それぞれ独立して、置換若しくは無置換のC
1~C
12アルキル又は置換若しくは無置換のC
6~C
12アリールである。)
前記フィルターの入射光波長930nm~950nmに対するOD値は4超である、フィルター。
【請求項2】
前記置換若しくは無置換のC1~C12アルキルは、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、及びtert-ブチルからなる群より選択され、前記置換若しくは無置換の之C6~C12アリールは、フェニル、ナフチル、及びクロロフェニルからなる群より選択される、請求項1に記載のフィルター。
【請求項3】
前記近赤外線吸収層のヘイズは0.4%以下である、請求項1に記載のフィルター。
【請求項4】
前記近赤外線吸収層のX線光電子スペクトルは、結合エネルギーが930電子ボルト(eV)~940電子ボルトである場合、少なくとも1つのメインピークを有する、請求項1に記載のフィルター。
【請求項5】
前記少なくとも1つのメインピークの1秒あたりのカウント数の値は4500以上である、請求項4に記載のフィルター。
【請求項6】
入射光波長940nmに対するOD値は4.5超である、請求項1に記載のフィルター。
【請求項7】
前記近赤外線吸収層の厚さが25μm~150μmである、請求項1に記載のフィルター。
【請求項8】
前記基材層の材料はガラスであり、前記基材層の厚さは200μm~500μmである、請求項1に記載のフィルター。
【請求項9】
前記基材層の前記近赤外線吸収層とは反対側にあるフィルター層をさらに含む、請求項1に記載のフィルター。
【請求項10】
前記フィルター層は第1の吸収染料層及び/又は第2の吸収染料層をさらに含み、前記第1の吸収染料層は近赤外線吸収染料を含み、前記第2の吸収染料層は紫外線染料を含む、請求項9に記載のフィルター。
【請求項11】
前記近赤外線吸収染料は、アゾ化合物、ジイミン化合物、ジチオフェン金属錯体、スクアライン類化合物、シアニン類化合物、及びフタロシアニン(類化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項10に記載のフィルター。
【請求項12】
前記紫外線吸収染料は、アゾメチン類化合物、インドール類化合物、ケトン類化合物、ベンゾイミダゾール類化合物、及びトリアジン類化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項10に記載のフィルター。
【請求項13】
前記第1の吸収染料層及び前記第2の吸収染料層の厚さはそれぞれ、0.5μm至~10μmであり、前記フィルター層の総厚さは0.5μm至~10μmである、請求項10に記載のフィルター。
【請求項14】
前記フィルターの最外側にある少なくとも1つの反射防止層をさらに含む、請求項1に記載のフィルター。
【請求項15】
前記少なくとも1つの反射防止層の材料は、TiO2、SiO2、Y2O3、MgF2、A12O3、Nb2O5、AlF3、Bi2O3、Gd2O3、LaF3、PbTe、Sb2O3、SiO、SiN、Ta2Os、ZnS、ZnSe、ZrO2及びNa3AlF6から選択される少なくとも1種であり、厚さは0.5μm至~10μmである、請求項14に記載のフィルター。
【請求項16】
光学樹脂を材料とする保護層をさらに含む、請求項14に記載のフィルター。
【請求項17】
前記保護層の厚さは10μm~30μmであり、前記保護層は、前記近赤外線吸収層と前記反射防止層との間にある、請求項16に記載のフィルター。
【請求項18】
総厚さは225μm~800μmである、請求項1に記載のフィルター。
【請求項19】
ヘイズは0.5%以下となる、請求項1に記載のフィルター。
【請求項20】
入射光波長範囲930nm~950nmに対する最大透過率は0.01%以下である、請求項1に記載のフィルター。
【請求項21】
入射光波長範囲930nm~950nmに対する最大透過率は0.005%以下である、請求項20に記載のフィルター。
【請求項22】
入射光波長範囲460nm~560nmに対する最小透過率は80%以上である、請求項1に記載のフィルター。
【請求項23】
入射光波長範囲460nm~560nmに対する最小透過率は85%以上である、請求項23に記載のフィルター。
【請求項24】
350nm~850nmの波長範囲と重なる通過帯域を有し、前記通過帯域の中心波長は350nm~850nmの波長範囲内にある、請求項1に記載のフィルター。
【請求項25】
入射光がそれぞれ0度及び30度の入射角で前記フィルターに入射されると、前記通過帯域の中心波長がシフトし、そのシフト量は1.4nm以下である、請求項24に記載のフィルター。
【請求項26】
入射光がそれぞれ0度及び35度の入射角で前記フィルターに入射されると、前記通過帯域の中心波長がシフトし、そのシフト量は1.9nm以下である、請求項25に記載のフィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フィルターに関し、特に、銅錯体を含有する近赤外線吸収層を含むフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
近赤外線吸収フィルターは、イメージセンサーなどの光学装置中に広く使用されているが、画像解像度とパターンの光学品質に対する要求が日々高まるにつれ、現在の近赤外線吸収フィルターは、新しい要求に対応できなくなった。したがって、現在、基準が高くなる厳しい要求に応えるために、可視光領域で良好な透過率を有し、かつ近赤外線領域で良好な遮蔽性(すなわち、現在の8~15%の透過率よりも低い)を有する近赤外線吸収剤の開発が必要となった。
【0003】
一方、現在広く使用されている光学識別素子は、一般的には、近赤外線、特に波長が940nmの近赤外線を識別光源としているため、光学識別素子及びイメージセンサーを備える裝置には、イメージセンサーのフィルターで前記識別光源を効果的に遮断する必要がある。
【0004】
吸収型フィルターのフィルター効果は、材料の厚さと依存し、薄いほど光透過率が良くなり、厚いほど光のフィルター効果が大きくなる。公知の技術において、フィルターの上にあるブルーガラスや染料吸収層などの近赤外線遮断能を有する材料の厚さを増やすか、又は反射防止膜などの光学コーティングの枚数及び膜厚を厚くすることで、フィルター効果を向上させる技術的手段が報告されている。しかしながら、携帯性(例えば、軽い、薄い、短い、小さい)がより重視されるようになるため、材料又はコーティングの厚さを増やすことで光学性能を改善する技術的手段は、既に要求を満たしていない。
【0005】
加えて、コーティングの厚さを増やすことでフィルター効果を高めることができるが、コーティングの厚さ及び複雑さが増加するにつれて、材料の加工性及びプロセスの難しさが劣り、かつ損失率も増加する。その結果、コストが増加し、産業上の利用性の減少を招く。コーティングの厚膜化も画質劣化の低減を引き起こし、高解像度の追求という傾向を満たしていない。
【発明の概要】
【0006】
前述した課題に対して、本開示は、基材層と、前記基材層の上にある近赤外線吸収層とを含むフィルターであって、
前記近赤外線吸収層は銅錯体を含み、前記銅錯体は、銅イオンを供給するために用いられる銅化合物、下記式1で示されるホスホン酸、及び少なくとも1種の式2~式4で示されるリン含有化合物により形成され、
(式中、R、R
1、R
2、R
3は、それぞれ独立して、置換若しくは無置換のC
1~C
12アルキル又は置換若しくは無置換のC
6~C
12アリールである。)
前記フィルターの入射光波長930nm~950nmに対するOD値は4超である、フィルター、を提供する。
【0007】
一実施形態において、置換若しくは無置換のC1~C12アルキルは、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、及びtert-ブチルからなる群より選択され、置換若しくは無置換のC6~C12アリールは、フェニル、ナフチル、及びクロロフェニルからなる群より選択される。
【0008】
一実施形態において、近赤外線吸収層のヘイズは0.4%以下となる。
【0009】
一実施形態において、近赤外線吸収層のX線光電子スペクトルは、結合エネルギー(binding energy)が930電子ボルト(eV)~940電子ボルトである場合、少なくとも1つのメインピークを有する。他の実施形態において、X線光電子スペクトルにおける少なくとも1つのメインピークの1秒あたりのカウント数(counts per second)値は4500以上である。
【0010】
一実施形態において、近赤外線吸収層の厚さは25μm~150μmである。
【0011】
一実施形態において、フィルターの入射光波長940nmに対するOD値は4.5超である。
【0012】
一実施形態において、近赤外線吸収層復は光学樹脂をさらに含み、光学樹脂中に銅錯体が分散される。一実施形態において、光学樹脂は、熱可塑性樹脂及び/又は光硬化樹脂である。一実施形態において、光学樹脂は、ポリカーボネート類、ポリエステル類、ポリシクロオレフィン類、ポリアクリル酸類、シロキサン樹脂、及びポリイミド類から選択される。
【0013】
一実施形態において、フィルターは、基材層の近赤外線吸収層とは反対側にあるフィルター層をさらに含む。
【0014】
一実施形態において、フィルターは、基材層の近赤外線吸収層とは反対側にあるフィルター層をさらに含む。
【0015】
一実施形態において、フィルター層は第1の吸収染料層及び/又は第2の吸収染料層をさらに含み、第1の吸収染料層は近赤外線吸収染料を含み、第2の吸収染料層は紫外線染料を含む。
【0016】
一実施形態において、近赤外線吸収染料は、アゾ化合物、ジイミン化合物、ジチオフェン金属錯体、スクアライン(squaraine)類化合物、シアニン(cyanine)類化合物、及びフタロシアニン(phthalocyanine)類化合物からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0017】
一実施形態において、紫外線吸収染料は、アゾメチン類化合物、インドール類化合物、ケトン類化合物、ベンゾイミダゾール類化合物、及びトリアジン類化合物からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0018】
一実施形態において、第1の吸収染料層及び前記第2の吸収染料層の厚さはそれぞれ、0.5μm至~10μmであり、前記フィルター層の総厚さは0.5μm至~10μmである。
【0019】
一実施形態において、フィルターは、フィルターの最外側にある少なくとも1つの反射防止層をさらに含む。
【0020】
一実施形態において、少なくとも1つの反射防止層の材料は、TiO2、SiO2、Y2O3、MgF2、A12O3、Nb2O5、AlF3、Bi2O3、Gd2O3、LaF3、PbTe、Sb2O3、SiO、SiN、Ta2Os、ZnS、ZnSe、ZrO2及びNa3AlF6から選択される少なくとも1種であり、厚さは0.5μm至~10μmである。
【0021】
一実施形態において、フィルターは保護層をさらに含み、保護層の材料は光学樹脂である。
【0022】
一実施形態において、保護層の厚さは10μm~30μmであり、保護層は、近赤外線吸収層と反射防止層との間にある。
【0023】
一実施形態において、フィルターの総厚さは、225μm~800μmである。
【0024】
一実施形態において、フィルターは350nm~850nmの波長範囲と重なる通過帯域を有し、通過帯域の中心波長は350nm~850nmの波長範囲内にある。
【0025】
一実施形態において、フィルターのヘイズは0.5%以下である。
【0026】
一実施形態において、フィルターは、入射光波長範囲930nm~950nmに対する最大透過率は0.01%以下であり、入射光波長範囲930nm~950nmに対する最大透過率は0.005%以下、入射光波長範囲460nm~560nmに対する最小透過率は80%以上であり、入射光波長範囲460nm~560nmに対する最小透過率は85%以上である。
【0027】
一実施形態において、入射光がそれぞれ0度及び30度の入射角でフィルターに入射されると、フィルターの通過帯域の中心波長がシフトし、そのシフト量は1.4nm以下である。入射光がそれぞれ0度及び35度の入射角でフィルターに入射されると、フィルターの通過帯域の中心波長がシフトし、そのシフト量は1.9nm以下である。
【0028】
本開示のフィルターは、それに特定の近赤外線吸収層を設置することにより、波長800nm~1100nmの入射光を効率よく吸収することができ、特に、波長940nmの入射光を良好に吸収するとともに、可視光に対して高透過率を示す。したがって、本開示は、製品の厚さ、コーティングの厚さ及び複雑さを増やすことなく、優れた近赤外線遮断効果を実現するとともに、高い可視光線透過率を維持する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1A】
図1Aは、本開示のフィルターの構造の概略図である。
【
図1B】
図1Bは、本開示のフィルターの構造の概略図である。
【
図1C】
図1Cは、本開示のフィルターの構造の概略図である。
【
図2】
図2は、本開示のフィルターの構造の概略図である。
【
図3】
図3は、本開示のフィルターの構造の概略図である。
【
図4】
図4は、本開示のフィルターの構造の概略図である。
【
図5】
図5は、製造例1における近赤外線吸収層のX線光電子スペクトルである。
【
図6】
図6は、製造例1における第一のフィルター層及び第二フィルター層の透過率グラフである。
【
図7】
図7は、AF32ガラスの透過率グラフ、並びに製造例1におけるフィルター層及び近赤外線吸収層の透過率グラフである。
【
図8】
図8は、製造例1における基材層、基材層+フィルター層及び基材層+近赤外線吸収層+フィルター層等の3つの形態の透過率グラフである。
【
図9】
図9は、実施例1と比較例1のフィルターの透過率グラフである。
【
図10】
図10は、実施例2と比較例1のフィルターの透過率グラフである。
【
図11】
図11は、実施例3と比較例1のフィルターの透過率グラフである。
【
図12】
図12は、実施例4と比較例1のフィルターの透過率グラフである。
【
図13】
図13は、実施例1~4のフィルターの入射光波長930nm~950nmに対するOD値グラフである。
【
図14】
図14は、それぞれ0度、30度、35度の入射角度で実施例1のフィルターを入射する場合の透過率グラフである。
【
図15】
図15は、それぞれ0度、30度、35度の入射角度で実施例3のフィルターを入射する場合の透過率グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、特定の具体的な実施例により、本開示の実施形態を説明する。当業者であれば、本明細書に記載の内容に基づき本開示の範囲及び効果を容易に理解することができる。
【0031】
ただし、本明細書に添付された図面に示される構造、比率、サイズ等は、明細書の記載内容に合わせて、当業者に理解や閲覧させるためのものであり、本開示の実施可能の条件を限定するものではないため、技術上の実質的な意義を有せず、あらゆる構造的修飾、比率の変更、又はサイズの調整は、本開示によって得られる効果及び達成できる目的に影響を与えないに限り、いずれも、本開示で開示する技術内容の範囲内に含まれているとすべきである。同時に、本明細書において使用される「上」、「第1の」、「第2の」等の用語は、説明の便宜上のみに用いられるものであり、本開示の範囲を限定するものではないため、技術内容に実質的な変更がない限り、それらの相対関係の変更や調整も、本開示が実施できる範囲内にあるものとみなすべきである。
【0032】
本明細書において、特定の要件を「含む」、「包含する」又は「有する」と記載されている場合、他に記載がない限り、他の部品、成分、構造、エリア、部位、装置、システム、工程又は接続関係などの要件を含んでもよく、かかる他の要件を排除するものではない。
【0033】
本明細書において他に明確な記載がない限り、本明細書における前記の単数の形式の「一つ」及び「当該」は、複数の形式も含み、また、本明細書における前記の「又は」及び「及び/又は」は、交換可能に使用されている。
【0034】
本明細書に記載の数値範囲は、包含的にかつ合併できるものである。本明細書に記載の範囲内に含まれる任意の数値は、すべて最小値または最大値としてさらなる範囲を導き出すことができる。例えば、「25~200」の数値範囲は、端点である25と端点である200との間の任意のさらなる範囲(例えば、25~150、30~200、30~150…等のさらなる範囲)を包含すると理解すべきである。なお、ある数値が本明細書に記載の各範囲内(例えば、最大値と最小値との間)にある場合、本開示の範囲に含まれるものとみなすべきである。
【0035】
本開示は、主にフィルターを提供する。具体的には、本開示のフィルターは、基材層と前記基材層の上にある近赤外線吸収層とを含む。
【0036】
本開示の近赤外線吸収層は、近赤外線組成物から調製され得る。前記近赤外線組成物は、銅化合物、ホスホン酸及びリン含有化合物を含み得る。
【0037】
前記銅化合物は、主に銅イオンの供給源として用いられ、公知の二価銅イオン(Cu2+)を供給できる銅化合物、例えば、銅塩を使用することができる。例としては、酢酸銅又は酢酸銅の水和物が挙げられ、また、塩化銅、ギ酸銅、ステアリン酸銅、安息香酸銅、ピロリン酸銅、ナフテン酸銅、クエン酸銅の無水物又は水和物が挙げられる。一実施形態において、銅化合物は、酢酸銅である。
【0038】
前記ホスホン酸は、下記式1で示され、
式中、Rは、置換若しくは無置換のC
1~C
12アルキル又は置換若しくは無置換のC
6~C
12アリールである。
【0039】
前記アルキルは、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル等を含むが、これらに限られない。また、置換されたアルキルは、ハロアルキル、ヒドロキシアルキル、ニトロアルキル、アルコキシアルキル等を含むが、これらに限られない。前記アリールは、フェニル、ナフチル等を含むが、これらに限られない。また、置換されたアリールは、ハロアリール(例えば、クロロフェニル)、ニトロアリール、ヒドロキシアリール、アルコキシアリール、アルキルアリール、ハロアルキルアリール、ニトロアルキルアリール、ヒドロキシアルキルアリールを含むが、これらに限られない。一実施形態において、ホスホン酸は、ブチルホスホン酸である。
【0040】
前記リン含有化合物は、下記式2~式4で示され、
式中、R、R
1、R
2、R
3は、それぞれ独立して、置換若しくは無置換のC
1~C
12アルキル又はC
6~C
12アリールであり、それらの定義は、式1のRと同様である。
【0041】
リン含有化合物は、分散機能を有してもよく、組成物中の成分(形成された銅錯体)を互いに凝集せず均一に分散させる。この機能による効果の1つとして、組成物中の結晶子サイズが100nm以下、さらに5nm~80nmの間、又は20nm~60nmの間とにあり、例えば、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100nmとなり得る。結晶子サイズが5nm以上である場合、十分な近赤外線吸収特性を示す一方で、結晶子サイズが100nm以下である場合、凝集粒径の平均粒子数が小さく、近赤外線吸収組成物を用いて製造された製品のヘイズが低くなる。本開示において、近赤外線吸収組成物を調製するために、少なくとも1種の式2~式4で示されるリン含有化合物が使用される。
【0042】
近赤外線吸収組成物中の銅化合物、ホスホン酸及びリン含有化合物は、必要に応じてそれらの比調整することができる。例えば、近赤外線吸収組成物には、銅化合物の量は150質量部であってもよく、その例としては、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145又は150質量部が挙げられ、ホスホン酸の量は100質量部であってもよく、その例としては、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、又は100質量部が挙げられ、リン含有化合物の合計の量は1~90質量部であってもよく、その例としては、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85又は90質量部が挙げられる。
【0043】
一実施形態において、本開示の近赤外線吸収組成物は、式2~式4で示されるリン含有化合物を全て含み、必要に応じて、それらの比を調整することができる。例えば、近赤外線吸収組成物には、式2で示されるリン含有化合物の量は1~90質量部であってもよく、式3で示されるリン含有化合物の量は1~90質量部であってもよく、式4で示されるリン含有化合物の量は1~90質量部であってもよく、そのうち、式2~式4で示されるリン含有化合物のそれぞれの量としては、、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85又は90質量部が挙げられる。他の実施形態において、式2で示されるリン含有化合物:式3で示されるリン含有化合物:式4で示されるリン含有化合物は、20:20:50である。
【0044】
一実施形態において、本開示の近赤外線吸収組成物は、分散液形態であってもよく、すなわち、前記銅化合物、ホスホン酸及びリン含有化合物のほかにさらに溶媒を含む。調製の際に、銅化合物、ホスホン酸及びリン含有化合物を溶媒中に添加して混合することができ、これらの成分と溶媒との比は1:5~1:1であり、例えば、1:3であってもよいが、これらに限られない。
【0045】
前記溶媒は、公知の溶媒を選択してもよく、水、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン等を含むが、これらに限られない。具体的には、前記アルコール類は、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等である。前記エステル類は、例えば、ギ酸アルキル、酢酸アルキル、プロピオン酸アルキル、酪酸アルキル、乳酸アルキル、アルコキシ酢酸アルキル、プロピオン酸3-アルコキシアルキル、プロピオン酸2-アルコキシアルキル、2-アルコキシ-2-メチルプロピオン酸アルキル、ピルビン酸アルキル、アセト酢酸アルキル、2-オキソ酪酸アルキル等である。前記エーテル類は、例として、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート等が挙げられる。前記ケトン類は、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノン等である。前記芳香族炭化水素類は、例えば、トルエン、キシレン等である。
【0046】
前記混和とは、例えば、室温(例えば、25℃)下でよく攪拌し、例えば、4時間以上、6時間以上、8時間以上攪拌することであるが、これらに限られない。
【0047】
近赤外線吸収組成物中の各成分は、相互作用し、反応して、銅錯体を形成する。前記銅錯体は、化学式Cu2+Xで表され、式中、Cu2+は銅化合物から供給され、Xはホスホン酸及び/又はリン含有化合物から供給される。
【0048】
一実施形態において、近赤外線吸収組成物は、さらに塗布液形態であってもよい。具体的には、前記分散液形態の近赤外線吸収組成物と光学樹脂とを混合して塗布液を形成することができ、前記分散液と光学樹脂との比は、5:1~1:1又は3:1~1:1であり、例えば、0.65:0.35であってもよいが、これらに限られない。塗布液形態の近赤外線吸収組成物を使用するとき、これを基材の上に形成し、乾燥・硬化させて、近赤外線吸収層を形成する。
【0049】
前記光学樹脂は、熱可塑性樹脂及び/又は光硬化性樹脂であってもよい。一実施形態において、光学樹脂は、ポリカーボネート類、ポリエステル類、ポリシクロオレフィンポリマー類、ポリアクリル酸類、シロキサン樹脂及びポリイミド類から選択される。一実施形態において、光学樹脂は、シロキサン樹脂である。
【0050】
なお、硬化プロセスを行うために、硬化劑、例えば、光硬化劑をさらに添加することにより、光照射により硬化して膜を形成することができる。
【0051】
一実施形態において、本開示の近赤外線吸収層のヘイズは、0.4%以下、0.3%又は0.2%以下であり、例えば、0.4%、0.35%、0.3%、0.25%、0.2%、0.19%、0.18%、0.17%、0.16%、0.15%、0.14%、0.13%、0.12%、0.11%又は0.1%である。
【0052】
近赤外線吸収層の厚さも、近赤外線吸収特性に影響を与える。一般的には、近赤外線吸収層の厚さが増加すると、近赤外線遮断能も増加するが、それは薄型化の要求を満たさない。一方、近赤外線吸収層の厚さが低減すると、近赤外線遮断能も低減する。一実施形態において、本開示の近赤外線吸収層は、厚さが小さい場合であっても、優れた近赤外線遮断能を実現することができ、具体的には、近赤外線吸収層の厚さは、25μm~150μmの間、50μm~150μmの間、又は100μm~150μmの間にあり、例えば、25μm、30μm、35μm、40μm、45μm、50μm、60μm、70μm、80μm、90μm、100μm、110μm、120μm、125μm、130μm、135μm、140μm、145μm、146μm、147μm又は150μmである。
【0053】
一実施形態において、本開示の近赤外線吸収層のX線光電子スペクトルは、結合エネルギーが930電子ボルト~940電子ボルトである場合、少なくとも1つのメインピークを有する。一実施形態において、少なくとも1つのメインピークの1秒あたりのカウント数数は、4500以上、4600以上、4700以上、4800以上、4900以上又は5000以上である。
【0054】
一実施形態において、本開示の近赤外線吸収層の入射光波長範囲930nm~950nm(940nm入射光を含む)に対する最大透過率は、0.1%以下、0.1%未満、0.05%以下、0.05%未満、0.01%以下、0.01%未満、0.0005以下又は0.005%未満であり、例えば、0.1%、0.09%、0.08%、0.07%、0.06%、0.05%、0.04%、0.03%、0.02%、0.01%、0.009%、0.008%、0.007%、0.006%、0.005%、0.004%、0.003%、0.002%、0.001%である。一方、入射光波長930nm~950nm(940nmの入射光を含む)に対するOD値は、3以上、3超、3.5以上、3.5超、4以上、4超、4.5以上、又は4.5超であり、例えば、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9である。一実施形態において、本開示の近赤外線吸収層の入射光波長範囲460nm~560nmに対する最小透過率は、80%以上又は85%以上であり、例えば、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%又は90%である。
【0055】
一実施形態において、本開示の近赤外線吸収層は、350nm~850nm、350nm~800nm、又は350nm~750nmの波長範囲と重なる通過帯域を有し、当該通過帯域の中心波長は、350nm~850nm、350nm~800nm、350nm~750nm、400nm~700nm、450nm~650nm、500nm~600nm、又は500nm~550nmの波長範囲内にある。本明細書において、前記「通過帯域」とは、波長範囲内の入射光に対する透過率がいずれも50%以上のドメインを指し、前記「通過帯域の中心波長」とは、入射光に対する透過率が50%となる場合の2つの入射光の波長の平均値を指す。
【0056】
一実施形態において、基材層は、近赤外線吸収層を支持するために使用することができ、また、近赤外線吸収層のろ過効果を補助するために使用することができ、フィルターの光学性能をより向上させ、例えば、近赤外線や紫外線遮断効果をさらに向上させる。前記基材層はガラス、例えば、透明ガラス(AF32ガラスなど)又はブルーガラスであってもよく、ブルーガラスを選択すると、基材層は、近赤外線遮断効果を示すことができる。前記ブルーガラス、例えば、リン酸塩ガラスは、例えば、メタリン酸塩化合物、炭酸塩化合物、金属酸化物、及び金属フッ化物などの材料から形成されたブルーガラスである。ここで、当該メタリン酸塩化合物は、メタリン酸アルミニウム、メタリン酸マグネシウム、メタリン酸リチウム、メタリン酸亜鉛、及びメタリン酸カルシウムを含むが、これらに限られない。当該炭酸塩化合物は、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、及び炭酸ストロンチウムを含むが、これらに限られない。当該金属酸化物は、酸化銅、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、及び酸化マグネシウムを含むが、これらに限られない。当該金属フッ化物は、フッ化アルミニウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、及びフッ化亜鉛を含むが、これらに限られない。ガラス原料を均一に混合してるつぼに入れ、さらにつぼを大気雰囲気又は還元雰囲気の炉内に入れ、温度を700℃~1000℃の間にすることにより均質化したガラスを得ることができる。
【0057】
一実施形態において、基材層は、ブルーガラスであり、そのうち、リン/(アルミニウム+ランタン+ニオブ+イットリウム)のモル比は1.5~16であってもよく、フッ素/(フッ素+酸素)のモル比は0.01~0.2であってもよい。一実施形態において、ブルーガラス中のリン元素は35~55モル%、アルミニウム元素は3.5~15モル%、アルカリ金属元素は15~25モル%、アルカリ土類金属と二価金属は10~35モル%、銅元素は10~21モル%、ランタンとニオブとイットリウム元素の合計は0~7モル%を占め、かつ銅/リンのモル比は0.25~0.7であり、フッ素/(フッ素+酸素)のモル比は0.01~0.2である。
【0058】
一実施形態において、基材層の厚さは、200μm~500μmの間、200μm~400μmの間又は200μm~300μmの間にあり、例えば、200μm、225μm、250μm、275μm、300μm、325μm、350μm、375μm、400μm、425μm、450μm、475μm又は500μmである。
【0059】
本開示のフィルター中の各層の配置順は限定されず、例えば、
図1Aに示すように、フィルター1は、近赤外線吸収層10及び基材層20を含み、近赤外線吸収層10は、基材層20の上にある。
【0060】
一実施形態において、本開示のフィルターはフィルター層をさらに含む。一実施形態において、フィルター層がフィルター中にある位置は限定されず、例えば、
図1Aに示すように、フィルター層30は、基材層20の近赤外線吸収層10とは反対側にあり、すなわち、近赤外線吸収層10とフィルター層30は、それぞれ基材層20の両側にある。他の実施形態において、
図3に示すように、フィルター1”中のフィルター層30は、近赤外線吸収層10と基材層20との間にあってもよい。また、
図4に示すように、フィルター1”’中の近赤外線吸収層10は、フィルター層30と基材層20との間にあってもよい。
【0061】
前記フィルター層は、近赤外線吸収層が優れた光学性能を発揮するために使用され、例えば、近赤外線や紫外線遮断効果をさらに向上させる。一実施形態において、フィルター層は、第1の吸収染料層及び第2の吸収染料層を含むことができ、それぞれが近赤外線吸収染料及び紫外線吸収染料を含む。
図1B及び1Cに示すように、フィルター1中のフィルター層30は、具体的には、第1の吸収染料層31及び第2の吸収染料層32の二重層構造であり、また、
図1Bと1Cの相違点は、第1の吸収染料層31及び第2の吸収染料層32の配置順のみである。
【0062】
前記フィルター層は、透明の樹脂材料を含んでもよく、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリオレフィン、ポリカーボネート、多環オレフィン、及びポリビニルブチラールから選択されるものを含んでもよいが、これらに限られず、樹脂材料は、フィルター層塗布液のベースとしてもよい。
【0063】
前記近赤外線吸収染料、例えば、アゾ化合物、ジイミン化合物、ジチオフェン金属錯体、スクアライン(squaraine)類化合物、シアニン(cyanine)類化合物や、フタロシアニン(phthalocyanine)類化合物は、最大吸収波長を650~1100nm、又はより具体的には650~750nmの間に調整することができる。前記紫外線吸収染料は、例えば、アゾメチン類化合物、インドール類化合物、ケトン類化合物、ベンゾイミダゾール類化合物、及びトリアジン類化合物である。
【0064】
一実施形態において、フィルター層の厚さは、0.5μm~10μmであり、例えば、0.5μm、1μm、2μm、3μm、4μm、5μm、6μm、7μm、8μm、9μm又は10μmである。フィルター層が多層構造、例えば、第1の吸収染料層及び第2の吸収染料層の二重層構造である場合、各層の厚さは、それぞれ0.5μm~10μmであり、例えば、0.5μm、1μm、2μm、3μm、4μm、5μm、6μm、7μm、8μm、9μm又は10μmである。
【0065】
一実施形態において、本開示のフィルターは、フィルターの最外側にある少なくとも1つの反射防止層をさらに含む。
図2に示すように、反射防止層40は、フィルター1’の両面の最外側にある。
【0066】
一実施形態において、反射防止層は、TiO2、SiO2、Y2O3、MgF2、A12O3、Nb2O5、AlF3、Bi2O3、Gd2O3、LaF3、PbTe、Sb2O3、SiO、SiN、Ta2Os、ZnS、ZnSe、ZrO2及びNa3AlF6から選択される少なくとも1種の材質から形成されたコーティングである。一実施形態において、反射防止層は、TiO2層とSiO2層を交互に積層してなる。
【0067】
一実施形態において、反射防止層の厚さは、0.5μm~10μmであり、例えば、0.5μm、1μm、2μm、3μm、4μm、5μm、6μm、7μm、8μm、9μm又は10μmである。
【0068】
一実施形態において、本開示のフィルターは保護層をさらに含み、保護層の材料は光学樹脂である。ここでの光学樹脂は、前述した、塗布液形態となる近赤外線吸収組成物に使用される光学樹脂を参照ください。
【0069】
一実施形態において、保護層の厚さは、10μm~30μmであり、例えば、10μm、15μm、20μm、25μm又は30μmである。一実施形態において、保護層は、近赤外線吸収層の上にあるか、又は近赤外線吸収層とそれをカバーする層との間にある。
図2に示すように、保護層12は、近赤外線吸収層10と反射防止層40との間にある。保護層は、近赤外線吸収層を保護するために用いられ、なぜなら、近赤外線吸収層の材質が柔らかいため、その上に後加工を直接に施すと、近赤外線吸収層の表面に傷がつきやすく、ひいては近赤外線吸収層の剥離を引き起こすことがある。したがって、あらかじめ近赤外線吸収層の上に保護層を形成することにより、破損を防ぐことができる。
【0070】
一実施形態において、本開示のフィルターは、近赤外線吸収膜と基材層との間にある粘着層をさらに含む。
図2に示すように、粘着層11は、近赤外線吸収層10と基材層20との間にある。粘着層は、本技術分野において公知されている2つの隣接する層を粘着するための材料であってもよく、例えば、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)を使用してもよい。粘着層は、近赤外線吸収層がある条件下で基材層から剥離することを防ぐために使用され、それにより、フィルターの安定性を向上させる。
【0071】
一実施形態において、本開示のフィルターは、基材層、近赤外線吸収層、フィルター層、粘着層、保護層及び反射防止層を含む。
図2に示すように、本開示のフィルター1’は、基材層20、基材層20の一方の面にある近赤外線吸収層10、基材層20と近赤外線吸収層との間にある粘着層11、基材層20のもう一方の面にあるフィルター層30、近赤外線吸収層10の上にある保護層12、及びフィルターの両面の最外側にある反射防止層40を含む。
【0072】
一実施形態において、本開示のフィルターの総厚さは、約225μm~約800μm、約250μm~約500μm又は約300μm~約500μmであり、例えば、約225μm、約250μm、約275μm、約300μm、約325μm、約350μm、約375μm、約400μm、約425μm、約450μm、約475μm、約500μm、約550μm、約600μm、約650μm、約700μm、約750μm又は約800μmである。
【0073】
一実施形態において、本開示のフィルターのヘイズは、0.5%以下、0.4%又は0.3%以下であり、例えば、0.5%、0.45%、0.4%、0.35%、0.3%、0.25%、0.2%、0.19%、0.18%、0.17%、0.16%、0.15%、0.14%、0.13%、0.12%、0.11%又は0.1%である。
【0074】
一実施形態において、本開示のフィルターの入射光波長範囲930nm~950nm(940nmの入射光を含む)に対する最大透過率は、0.01%以下、0.01%未満、0.005%以下、又は0.005%未満であり、例えば、0.01%、0.009%、0.008%、0.007%、0.006%、0.005%、0.004%、0.003%、0.002%、0.001%であり;一方、入射光波長範囲930nm~950nm(940nmの入射光を含む)に対するOD値は、4以上、4超、4.5以上、4.5超、4.8以上、又は4.8超であり、例えば、4、4.01、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.51、4.6、4.7、4.8、4.81、4.9である。一実施形態において、本開示のフィルターの、入射光波長範囲460nm~560nmに対する最小透過率は、80%以上又は85%以上であり、例えば、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%である。
【0075】
一実施形態において、本開示のフィルターは、350nm~850nm、350nm~800nm、又は350nm~750nmの波長範囲と重なる通過帯域を有し、当該通過帯域の中心波長は、350nm~850nm、350nm~800nm、350nm~750nm、400nm~700nm、450nm~650nm、500nm~600nm、又は500nm~550nmの波長範囲内にある。
【0076】
一実施形態において、入射光がそれぞれ0度及び30度の入射角で本開示のフィルターに入射されると、通過帯域の中心波長がシフトし、そのシフト量は、1.4nm以下であり、例えば、1.4nm、1.3nm、1.2nm又は1.1nmである。一実施形態において、入射光がそれぞれ0度及び35度の入射角で本開示のフィルターに入射されると、通過帯域の中心波長がシフトし、そのシフト量は、1.9nm以下であり、例えば、1.9nm、1.8nm又は1.7nmである。
【0077】
本開示は、以下の具体的な実施例を参照して詳細をさらに説明するが、これらの具体的な実施例は、決本開示の範囲を制限することは意図していない。
【0078】
製造例1
近赤外線吸収層
150質量部の酢酸銅と15000質量部のエタノールと混合し、室温下で1.5時間攪拌し、第1の混合液を形成した。別途で20質量部の式2で示されるリン含有化合物(plysurf A242G、日本第一工業製薬株式会社から購入)、20質量部の式3で示されるリン含有化合物(plysurf W542C、日本第一工業製薬株式会社から購入)、及び50質量部の式4で示される含有化合物(plysurf A285C、日本第一工業製薬株式会社から購入)と、1500質量部のエタノールとを混合し、第2の混合液を形成した。前記の第1の混合液と前記の第2の混合液とを混合し、室温下で1時間攪拌し、続いて100質量部のブチルホスホン酸を添加し、室温下で3時間攪拌して反応させた。その後、85℃のオーブンに入れて12時間放置し、粉末を得た。粉末とキシレンを質量比1:3で混合して分散液を形成し、また、当該分散液と光学樹脂を質量比0.65:0.35で混合して塗布液を形成し、それを基材の上に塗布し、70℃の温度で30分間焼き、近赤外線吸収層を得た。近赤外線吸収層の透過率グラフは、
図7に示されている。
【0079】
前述した近赤外線吸収層に対してX線光電子分光法(ESCA/XPS)により解析を行った。そのX線光電子スペクトルは、
図5に示されている。結合エネルギーが930eV~940eVである場合、銅錯体に関連する特徴的なピーク(Cu(PO
x)
y、CuO、Cu
2O、Cu(OH)
2)が観察されている。なお、結合エネルギーが940eV以上である場合に現れるピークは、サテライトピーク(satellite peak)である。
【0080】
フィルター層
0.02gのスクアライン類化合物及びシアニン類化合物を赤外線吸収染料として5gのエポキシ樹脂に添加し、基材の上に塗布し、70℃の温度で30分間ベーキングし、第1の吸収染料層を得た。0.02gのトリアジン類化合物を紫外線吸収染料として5gのエポキシ樹脂に添加し、基材の上に塗布し、70℃の温度で30分間ベーキングし、第2の吸収染料層を得た。
【0081】
前述した第1の吸収染料層及び第2の吸収染料層の透過率グラフは、
図6に示されている。
【0082】
加えて、前述した基材の上に第1の吸収染料層を形成し、続いて第1の吸収染料層の上に第2の吸収染料層をさらに形成することにより、二重層構造を有するフィルター層を形成した。その透過率グラフは、
図7に示されている。
【0083】
製造例2
本明細書の記載に基づいて、ブルーガラスを基材層とする。次に、ブルーガラス基材層の一方の面に、製造例1に記載の方法に基づいてフィルター層を形成した。次に、ブルーガラス基材層のもう一方の面に、同じく製造例1に記載の方法に基づいて近赤外線吸収層を形成した。前述した基材層、基材層+フィルター層の二重層構造、及び基材層+近赤外線吸収層+フィルター層の三重層構造の透過率グラフは、
図8に示されている。結果を見てから、基材層+フィルター層の二重層構造を有するフィルターのみは、近赤外線入射光に対する遮断効果が足りないことが分かった。これに対して、基材層+近赤外線吸収層+フィルター層の三重層構造を有するフィルターは、近赤外線入射光、特に850nm以上の入射光に対して、優れた遮断効果を示すことができる。これにより、近赤外線吸収層により、本開示の基材層+近赤外線吸収層は、近赤外線遮断効果を大幅に改善し、かつ可視光域で高い透過率を維持することができる。
【0084】
実施例1
実施例1のフィルター中の各層の構造配置は、
図2に示すように、基材層は厚さ200μmのブルーガラスであり、粘着層は厚さ60μmのヘキサメチルジシラザンであり、近赤外線吸収層は、製造例1に記載の方法に基づいて調製され、厚さが145.44μmであり、保護層は厚さ20μmの光学樹脂であり、フィルター層は、製造例1に記載の方法に基づいて調製され、厚さが5μmであり、反射防止層は、TiO
2層とSiO
2層を交互に積層してなり、総厚さが1μmである。
【0085】
実施例2~4及び比較例1
実施例1の方法に基づいてフィルターを調製するが、近赤外線吸収層の厚さを146.22μm、147.44μm及び146.63μmに変更し、実施例2~4とする。また、実施例1の方法に基づいてフィルターを調製するが、近赤外線吸収層の厚さを165.11μmに変更し、比較例1とする。
【0086】
前述した実施例1~4及び比較例1の透過率グラフは、
図9~12に示されており、透過率データは下記表1に示されている。
【0087】
【0088】
これらの結果に基づいて、本開示のフィルターは、入射光波長930nm~950nmに対して極めて高い遮断能を有し、OD値4.5以上にも達する。本開示のフィルターの入射光波長930nm~950nmに対するOD値をさらに表すために、透過率グラフ及びそのデータに基づき
図13を作成し、それを実施例1~4のフィルターの波長930nm~950nmに対するOD値グラフとする。一方、本開示のフィルターは、可視光線に対して優れた透過性を有し、350nm~850nmの波長範囲と重なる通過帯域を有し、前記通過帯域の中心波長が350nm~850nmの波長範囲内にある。
【0089】
図14は、0度、30度、35度の異なる角度で入射光を実施例1のフィルターに入射する場合の透過率スペクトルであり、これより、シフト量を観察することができる。同様、
図15は、0度、30度、35度の異なる角度で入射光を実施例3のフィルターに入射する場合の透過率スペクトルである。結果は、異なる入射角でフィルターに入射することによって得られる透過率グラフが非常に似ていることを示す。実施例1及び実施例3の透過率データを例として(下記表2に示すように)、それぞれ0度及び30度で入射されると、通過帯域の中心波長のシフト量は、それぞれ1.1nm及び1.4nmであり、それぞれ0度及び35度で入射されると、通過帯域の中心波長のシフト量は、それぞれ1.7nm及び1.9nmである。これに対して、実施例1の方法に基づいて調製するが、近赤外線吸収層を設置していない比較例2フィルターは、それぞれ0度及び30度で入射されると、通過帯域の中心波長のシフト量は、9.6nmに達し、それぞれ0度及び30度で入射されると、通過帯域の中心波長のシフト量はさらに、10.1nmに達し、非常に大きいシフト量を示した。このようなシフト量が大きくなると、ギラつき及びゴーストの原因となることが知られている。一方、本開示のフィルターは、低いシフト量を示すため、ギラつき及びゴーストを顕著に減少し、画像品質を改善した。
【0090】
【0091】
前述した各実施形態及び具体的な実施例は本開示を限定するものではなく、挙げられた各技術的特徴やアプローチを互いに組み合わせることができる。本開示も、他の異なる実施形態により実行又は応用することができる。本明細書に記載の各詳細事項も、異なる観点及び応用に応じて、本開示から逸脱することなく、様々な変更や修正を加えることができる。
【符号の説明】
【0092】
1、1’、1”、1”’:フィルター
10:近赤外線吸収層
11:粘着層
12:保護層
20:基材層
30:フィルター層
31:第1の吸収染料層
32:第2の吸収染料層
40:反射防止層