(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180381
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】混練状態の評価方法および混練機
(51)【国際特許分類】
B29B 7/28 20060101AFI20241219BHJP
B29B 7/20 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
B29B7/28
B29B7/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024097767
(22)【出願日】2024-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2023099690
(32)【優先日】2023-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390040039
【氏名又は名称】鈴鹿エンヂニヤリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】矢田 龍生
【テーマコード(参考)】
4F201
【Fターム(参考)】
4F201AJ08
4F201AM23
4F201AR20
4F201BA01
4F201BC01
4F201BC02
4F201BC12
4F201BK01
4F201BK14
4F201BK26
4F201BK75
(57)【要約】
【課題】一対のロータの密閉型混練機において、混練材料の物性変化を把握することができる混練状態の評価方法、および混練機を提供する。
【解決手段】混練状態の評価方法は、一対のギアで連結され、電動機の駆動によって回転する一対のロータを備える密閉型混練機1における評価方法であって、混練材料の温度、混練機における加圧蓋の圧力、電動機に供給される交流電流の実効値、電動機に供給される直流電流値、電動機が消費する電力値、電動機の負荷率、電動機の出力トルク、ロータの1分間当たりの回転数、またはロータの角速度を繰り返しサンプリングして取得し、取得された入力値の、予め定めた任意の時間幅の移動平均、任意の時間幅の分散、任意の時間幅の標準偏差、入力値と任意の時間幅の移動平均の偏差、もしくはこれらを処理した値、またはこれらの組み合わせを評価指標に用いる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のギアで連結され、電動機の駆動によって回転する一対のロータを備える混練機における混練状態の評価方法であって、
前記評価方法は、混練材料の温度、前記混練機における加圧蓋の圧力、前記電動機に供給される交流電流の実効値、前記電動機に供給される直流電流値、前記電動機が消費する電力値、前記電動機の負荷率、前記電動機の出力トルク、前記ロータの1分間当たりの回転数、または前記ロータの角速度を繰り返しサンプリングして取得し、取得された入力値の、予め定めた任意の時間幅の移動平均、任意の時間幅の分散、任意の時間幅の標準偏差、前記入力値と任意の時間幅の移動平均の偏差、もしくはこれらを処理した値、またはこれらの組み合わせを評価指標に用いることを特徴とする混練状態の評価方法。
【請求項2】
前記混練機において、前記一対のロータは接線式ロータであり、前記ギアは、互いに異なる整数の歯数を有し、前記一対の接線式ロータが異なる速度で回転する構成であり、
前記評価方法は、前記任意の時間幅に、前記入力値の現在時刻の直近の、前記一対のロータが同位相に回復するまでの期間を用い、前記期間の移動平均、前記期間の分散、前記期間の標準偏差、前記入力値と前記期間の移動平均の偏差、またはこれらの組み合わせを評価指標に用いることを特徴とする請求項1記載の混練状態の評価方法。
【請求項3】
前記混練機において前記一対のロータの回転速度が途中で変化する場合において、回転速度の変化に伴い前記任意の時間幅を変更し、変更後の時間幅の移動平均、変更後の時間幅の分散、変更後の時間幅の標準偏差、前記入力値と変更後の時間幅の移動平均の偏差、またはこれらの組み合わせを算出することを特徴とする請求項1または請求項2記載の混練状態の評価方法。
【請求項4】
一対のギアで連結され、電動機の駆動によって回転する一対のロータを備える混練機における混練状態の評価方法であって、
前記評価方法は、混練材料の温度、前記混練機における加圧蓋の圧力、前記電動機に供給される交流電流の実効値、前記電動機に供給される直流電流値、前記電動機が消費する電力値、前記電動機の負荷率、前記電動機の出力トルク、前記ロータの1分間当たりの回転数、または前記ロータの角速度を繰り返しサンプリングして取得し、取得された入力値の、一方のロータの予め定めた任意の回転数分の移動平均、任意の回転数分の分散、任意の回転数分の標準偏差、前記入力値と任意の回転数分の移動平均の偏差、もしくはこれらを処理した値、またはこれらの組み合わせを評価指標に用いることを特徴とする混練状態の評価方法。
【請求項5】
前記分散、前記標準偏差、または前記偏差が判定閾値以下となることに基づいて、終了タイミングを判定することを特徴とする請求項1または請求項4記載の混練状態の評価方法。
【請求項6】
前記混練機は、非ニュートン流体を混練する混練機であることを特徴とする請求項1または請求項4記載の混練状態の評価方法。
【請求項7】
前記期間の移動平均および前記期間の標準偏差の組み合わせを評価指標に用い、前記標準偏差が判定閾値以下となることに基づいて、終了タイミングを判定することを特徴とする請求項1または請求項4記載の混練状態の評価方法。
【請求項8】
一対のギアで連結され、電動機の駆動によって回転する一対のロータを備える混練機であって、
前記混練機は、混練材料の温度、前記混練機における加圧蓋の圧力、前記電動機に供給される交流電流の実効値、前記電動機に供給される直流電流値、前記電動機が消費する電力値、前記電動機の負荷率、前記電動機の出力トルク、前記ロータの1分間当たりの回転数、または前記ロータの角速度を繰り返しサンプリングして取得する取得部と、前記取得部が取得した入力値の、予め定めた任意の時間幅の移動平均、任意の時間幅の分散、任意の時間幅の標準偏差、前記入力値と任意の時間幅の移動平均の偏差、もしくはこれらを処理した値、またはこれらの組み合わせを算出する算出部を有することを特徴とする混練機。
【請求項9】
前記混練機において、前記一対のロータは接線式ロータであり、前記ギアは、互いに異なる整数の歯数を有し、前記一対の接線式ロータが異なる速度で回転する構成であり、
前記算出部は、前記任意の時間幅に、前記入力値の現在時刻の直近の、前記一対のロータが同位相に回復するまでの期間を用い、前記期間の移動平均、前記期間の分散、前記期間の標準偏差、前記入力値と前記期間の移動平均の偏差、またはこれらの組み合わせを算出することを特徴とする請求項8記載の混練機。
【請求項10】
前記混練機において前記一対のロータの回転速度が途中で変化する場合において、前記算出部は、回転速度の変化に伴い前記任意の時間幅を変更し、変更後の時間幅の移動平均、変更後の時間幅の分散、変更後の時間幅の標準偏差、前記入力値と変更後の時間幅の移動平均の偏差、またはこれらの組み合わせを算出することを特徴とする請求項8または請求項9記載の混練機。
【請求項11】
一対のギアで連結され、電動機の駆動によって回転する一対のロータを備える混練機であって、
前記混練機は、混練材料の温度、前記混練機における加圧蓋の圧力、前記電動機に供給される交流電流の実効値、前記電動機に供給される直流電流値、前記電動機が消費する電力値、前記電動機の負荷率、前記電動機の出力トルク、前記ロータの1分間当たりの回転数、または前記ロータの角速度を繰り返しサンプリングして取得する取得部と、前記取得部が取得した入力値の、一方のロータの予め定めた任意の回転数分の移動平均、任意の回転数分の分散、任意の回転数分の標準偏差、前記入力値と任意の回転数分の移動平均の偏差、もしくはこれらを処理した値、またはこれらの組み合わせを算出する算出部を有することを特徴とする混練機。
【請求項12】
前記算出部が算出した前記分散、前記標準偏差、または前記偏差が判定閾値以下となることに基づいて、終了タイミングを判定する判定部を有することを特徴とする請求項8または請求項11記載の混練機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム、プラスチック、セラミックスなどの混練材料を、混練機によって例えばバッチ式で混練する際の混練状態の評価方法、および混練機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種混練材料を混練するための装置として密閉型混練機が知られている(例えば、特許文献1参照)。この密閉型混練機では、混練槽内に混練材料が投入された後、2本の混練ロータが回転することによって混練材料が混練される。一般に、密閉型混練機の混練ロータとしては、2本の混練ロータが噛み合うように回転する噛合式ロータと、接線式(非噛み合い式)ロータとが知られている。
【0003】
ここで、接線式ロータを備える密閉型混練機の一例を
図15に示す。
図15は、当該混練機の平面概略図である。
図15において、密閉型混練機21は、混練槽22と、該混練槽22内に並設された2本の混練ロータ23A、23Bと、混練ロータ23A、23Bのロータ軸25A、25Bを回転可能に支持する軸受26A、26Bと、一対のギア27A、27Bとを有している。混練ロータ23Aおよび23Bの外周には、螺旋状に形成されたブレード24a、24bがそれぞれ形成されている。
【0004】
図15において、ロータ軸25Aおよび25Bのうち、一方のロータ軸(例えば25A)は、モータなどの駆動手段に連結されており、他方のロータ軸(例えば25B)は、一方のロータ軸に対して一対のギア27A、27Bを介して連結されている。そして、駆動手段でロータ軸25Aを回転駆動することにより、混練ロータ23Aおよび23Bが回転し、混練材料の混練が行われる。この場合、駆動手段に連結された混練ロータ23Aが駆動ロータに相当し、混練ロータ23Bが従動ロータに相当する。
【0005】
図15に示すような接線式ロータの密閉型混練機では、一般に、一対のギアのギア比を異ならせることで、駆動ロータと従動ロータとの間に15%~25%程度の速度差を設ける場合が多い。これらの混練ロータを異なる速度で回転させることで、駆動ロータと従動ロータの位相が変化して、まんべんなく混練が行われるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9-313916号公報
【特許文献2】国際公開第2021/033390号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、接線式ロータの密閉型混練機において、混練の終了は、(1)混練時間、(2)混練材料の温度、(3)消費電力量、およびこれらの組み合わせ、を指標として行われている。例えば、混練材料の温度は、混練の進行に伴って上昇していく。この混練材料の温度を指標とする場合には、例えば、当該温度が所定の温度に到達したことをもって混練の終了タイミングと判断されている。しかしながら、従来用いられている上記指標は、主に混練時のエネルギー投入量を示すものであり、混練時の混練材料の物性変化を把握することは困難である。
【0008】
ところで、近年、撹拌対象物の状態を判定する判定システムとして、撹拌対象物を撹拌する機構部と、上記機構部を駆動する駆動装置とを有する撹拌器の上記駆動装置に供給される電流に関する波形を示す波形データを取得する取得部と、上記波形データから得られる、上記駆動装置にかかる力の特定方向の成分に起因する変化に基づいて上記撹拌対象物の状態を判定する判定部を備えるシステムが提案されている(特許文献2参照)。特許文献2において、駆動装置に供給される電流は基準周波数を有する交流電流であり、当該技術では、交流電流の波形データ、すなわち交流電流の瞬時値が用いられている。具体的には、正弦波である交流電流の瞬時値波形を入力し、出力された基準周波数の成分とそれ以外の成分に着目して撹拌対象物の状態を判定している。このように、混練時の混練材料の物性変化を把握する新たな手法が求められている。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、一対のロータの密閉型混練機において、混練材料の物性変化を把握することができる混練状態の評価方法、および混練機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の混練状態の評価方法は、1つの形態として、一対のギアで連結され、電動機の駆動によって回転する一対のロータを備える混練機における混練状態の評価方法であって、上記評価方法は、混練材料の温度、上記混練機における加圧蓋の圧力、上記電動機に供給される交流電流の実効値、上記電動機に供給される直流電流値、上記電動機が消費する電力値、上記電動機の負荷率、上記電動機の出力トルク、上記ロータの1分間当たりの回転数、または上記ロータの角速度を繰り返しサンプリングして取得し、取得された入力値の、予め定めた任意の時間幅の移動平均、任意の時間幅の分散、任意の時間幅の標準偏差、上記入力値と任意の時間幅の移動平均の偏差、もしくはこれらを処理した値、またはこれらの組み合わせを評価指標に用いることを特徴とする。
【0011】
ここで、上記の繰り返しサンプリングして取得した入力値をサンプリング時刻と共にサンプリング時刻順に記録した一連のデータを、時系列データと呼ぶ。特に、サンプリングして取得した入力値を直接記録したものを原系列時系列データと呼ぶ。上記評価方法には、蓄積されたデータを後から分析して評価する態様の他、混練機をリアルタイムで監視する態様も含まれる。なお、上記のとおり、「評価指標に用いる」とは、上述したものを直接評価指標に用いる場合に限らず、上述したものを処理した値(例えば、予め定めた任意の時間幅の移動平均を一次微分した値や、二次微分以上の高階微分した値、ローパスフィルタにより処理した値、およびこれらの組み合わせなど)を評価指標に用いる場合をも包含する概念である。上記の処理した値を含む時系列データを、派生時系列データと呼ぶ。
【0012】
上記混練機において、上記一対のロータは接線式ロータであり、上記ギアは、互いに異なる整数の歯数を有し、上記一対のロータが異なる速度で回転する構成であり、上記評価方法は、上記任意の時間幅に、上記入力値の現在時刻の直近の、上記一対のロータが同位相に回復するまでの期間を用い、上記期間の移動平均、上記期間の分散、上記期間の標準偏差、上記入力値と上記期間の移動平均の偏差、またはこれらの組み合わせを評価指標に用いることを特徴とする。
【0013】
上記混練機において上記一対のロータの回転速度が途中で変化する場合において、回転速度の変化に伴い上記任意の時間幅を変更し、変更後の時間幅の移動平均、変更後の時間幅の分散、変更後の時間幅の標準偏差、上記入力値と変更後の時間幅の移動平均の偏差、またはこれらの組み合わせを算出することを特徴とする。例えば、変更後の時間幅として、回転速度が変化した後において上記一対のロータの一方が一定回転数回転するまでの期間を用いてもよい。
【0014】
また、本発明の混練状態の評価方法は、他の形態として、一対のギアで連結され、電動機の駆動によって回転する一対のロータを備える混練機における混練状態の評価方法であって、上記評価方法は、混練材料の温度、上記混練機における加圧蓋の圧力、上記電動機に供給される交流電流の実効値、上記電動機に供給される直流電流値、上記電動機が消費する電力値、上記電動機の負荷率、上記電動機の出力トルク、上記ロータの1分間当たりの回転数、または上記ロータの角速度を繰り返しサンプリングして取得し、取得された入力値の、一方のロータ(例えば駆動側ロータ)の予め定めた任意の回転数分の移動平均、任意の回転数分の分散、任意の回転数分の標準偏差、上記入力値と任意の回転数分の移動平均の偏差、もしくはこれらを処理した値、またはこれらの組み合わせを評価指標に用いることを特徴とする。
【0015】
上記分散、上記標準偏差、または上記偏差が判定閾値以下となることに基づいて、終了タイミングを判定することを特徴とする。また、上記入力値の現在時刻の値が、上記移動平均の80%~120%の範囲内に所定時間収まることに基づいて、終了タイミングを判定してもよい。
【0016】
上記混練機は、非ニュートン流体を混練する混練機であることを特徴とする。非ニュートン流体として、具体的には、ゴム、プラスチック、セラミックス、シリコーン、チューインガム組成物などが挙げられる。
【0017】
本発明の混練機は、1つの形態として、一対のギアで連結され、電動機の駆動によって回転する一対のロータを備える混練機であって、上記混練機は、混練材料の温度、上記混練機における加圧蓋の圧力、上記電動機に供給される交流電流の実効値、上記電動機に供給される直流電流値、上記電動機が消費する電力値、上記電動機の負荷率、上記電動機の出力トルク、上記ロータの1分間当たりの回転数、または上記ロータの角速度を繰り返しサンプリングして取得する取得部と、上記取得部が取得した入力値の、予め定めた任意の時間幅の移動平均、任意の時間幅の分散、任意の時間幅の標準偏差、上記入力値と任意の時間幅の移動平均の偏差、もしくはこれらを処理した値、またはこれらの組み合わせを算出する算出部を有することを特徴とする。
【0018】
上記混練機において、上記一対のロータは接線式ロータであり、上記ギアは、互いに異なる整数の歯数を有し、上記一対の接線式ロータが異なる速度で回転する構成であり、上記算出部は、上記任意の時間幅に、上記入力値の現在時刻の直近の、上記一対のロータが同位相に回復するまでの期間を用い、上記期間の移動平均、上記期間の分散、上記期間の標準偏差、上記入力値と上記期間の移動平均の偏差、またはこれらの組み合わせを算出することを特徴とする。
【0019】
上記混練機において上記一対のロータの回転速度が途中で変化する場合において、上記算出部は、回転速度の変化に伴い上記任意の時間幅を変更し、変更後の時間幅の移動平均、変更後の時間幅の分散、変更後の時間幅の標準偏差、上記入力値と変更後の時間幅の移動平均の偏差、またはこれらの組み合わせを算出することを特徴とする。
【0020】
また、本発明の混練機は、他の形態として、一対のギアで連結され、電動機の駆動によって回転する一対のロータを備える混練機であって、上記混練機は、混練材料の温度、上記混練機における加圧蓋の圧力、上記電動機に供給される交流電流の実効値、上記電動機に供給される直流電流値、上記電動機が消費する電力値、上記電動機の負荷率、上記電動機の出力トルク、上記ロータの1分間当たりの回転数、または上記ロータの角速度を繰り返しサンプリングして取得する取得部と、上記取得部が取得した入力値の、一方のロータの予め定めた任意の回転数分の移動平均、任意の回転数分の分散、任意の回転数分の標準偏差、上記入力値と任意の回転数分の移動平均の偏差、もしくはこれらを処理した値、またはこれらの組み合わせを算出する算出部を有する。
【0021】
上記算出部が算出した上記分散、上記標準偏差、または上記偏差が判定閾値以下となることに基づいて、終了タイミングを判定する判定部を有することを特徴とする。また、上記入力値の現在時刻の値が、上記算出部が算出した上記移動平均の80%~120%の範囲内に所定時間収まることに基づいて、終了タイミングを判定する判定部を有してもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の1つの形態の混練状態の評価方法は、一対のギアで連結され、電動機の駆動によって回転する一対のロータを備える混練機における混練状態を評価する方法である。この評価方法において、混練材料の温度、混練機における加圧蓋の圧力、電動機に供給される交流電流の実効値、電動機に供給される直流電流値、電動機が消費する電力値、電動機の負荷率、電動機の出力トルク、上記ロータの1分間当たりの回転数、または上記ロータの角速度を繰り返しサンプリングして取得し、取得された入力値の、予め定めた任意の時間幅の移動平均、任意の時間幅の分散、任意の時間幅の標準偏差、入力値と任意の時間幅の移動平均の偏差、もしくはこれらを処理した値、またはこれらの組み合わせを評価指標に用いることで、混練時の混練材料の粘度、分散や均一性などの物性変化を良好に把握することができ、例えば、バッチプロセスにおける終了のタイミングを的確に把握することにより、バッチ間の物性の安定性の向上、時間当たり生産性の向上、過剰なエネルギー投入を防ぐことによるエネルギー消費の削減が効果として考えられる。
【0023】
特に、混練機において一対のロータは接線式ロータであり、一対の接線式ロータが異なる速度で回転する構成を有する場合において、入力値の現在時刻の直近の、一対のロータが同位相に回復するまでの期間の移動平均、期間の分散、期間の標準偏差、入力値と期間の移動平均の偏差、またはこれらの組み合わせを評価指標に用いることで、一対のロータが同位相に回復する、一サイクル毎の状態をより的確に把握しやすくなり、ひいては、混練時の混練材料の物性変化の良好な把握に繋がる。
【0024】
本発明の他の形態の混練状態の評価方法は、各パラメータを繰り返しサンプリングして取得し、取得された入力値の、一方のロータの予め定めた任意の回転数分の移動平均、任意の回転数分の分散、任意の回転数分の標準偏差、入力値と任意の回転数分の移動平均の偏差、もしくはこれらを処理した値、またはこれらの組み合わせを評価指標に用いることで、混練時の混練材料の粘度、分散や均一性などの物性変化を良好に把握することができ、回転分を軸(基準)にすることで、一対のロータが同位相に回復する、一サイクル毎の状態をより的確に把握しやすくなり、ひいては、混練時の混練材料の物性変化の良好な把握に繋がる。また、ロータの回転数の変化にも対処することができる。
【0025】
分散、標準偏差、または偏差が判定閾値以下となること、すなわち、入力値(温度や電力値など)のばらつきが小さくなることに基づいて、終了タイミングを判定するので、迅速かつ的確に混練の終了タイミングを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明に係る混練機の全体の概略構成を示す説明図である。
【
図2】
図1の混練機の混練ロータの駆動を説明するための図である。
【
図4】制御部が実行する処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図5】単純移動平均SMAの算出のイメージ図である。
【
図6】従来技術における各パラメータの時間的変動を示すグラフである。
【
図7】本発明における各パラメータの時間的変動を示すグラフである。
【
図8】本発明における各パラメータの時間的変動を示すグラフである。
【
図9】他の移動平均の処理後の電力値の時間的変動を示すグラフである。
【
図10】ローパスフィルタ処理後の電力値の時間的変動を示すグラフである。
【
図11】各平滑化処理を重ね合わせたグラフである。
【
図12】本発明と従来技術における各パラメータの時間的変動を示すグラフである。
【
図13】極値(極大値・極小値)の取得の一例を示すグラフである。
【
図15】従来の混練機の混練ロータの駆動を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の混練状態の評価方法に用いられる混練機は、ゴム、プラスチックなどを含む非ニュートン流体を混練するための密閉型混練機である。
図1は、本発明に係る混練機の全体の概略構成を示す説明図であり、主に、混練機の下端部に位置する混練槽の断面概略図を示している。
【0028】
図1に示すように、密閉型混練機1は、主に、混練槽2や電動機8(
図2参照)を含む混練機構と、混練槽内に投入された混練材料を加圧する加圧蓋9aを含む加圧機構と、混練材料の混練を制御する制御部12とを備える。本発明の評価方法および混練機では、特に、センサなどによって検出される混練パラメータを繰り返しサンプリングして取得し、取得された入力値に所定の演算処理を行い得られた算出値を評価指標に用いることを特徴としている。具体的には、入力値の予め定めた任意の時間幅や任意のロータ回転数分における、平均値や分散や標準偏差などのばらつきを示すパラメータを評価指標に用いている。
【0029】
混練槽2は、略C字形の部分円周面を2つ向かい合わせに連ねたような内周面形状を有しており、その内部に互いに隣接しかつ連通する2つのロータ室2A、2Bがある。混練槽2の内底部における両ロータ室2A、2Bの内周面の境界部分には、山形に立ち上がった陵壁部2Cが形成されている。各ロータ室2A、2Bの軸線方向の両端はそれぞれ槽端壁(図示省略)によって閉じられている。なお、ロータ室2A、2Bの断面形状はその軸線方向において一定である。
【0030】
密閉型混練機1は、混練時において混練槽内の温度を検出する温度センサ10を有する。温度センサ10は、陵壁部2Cの上面に検出端10aを突出させるように配置され、検出端10aに接触する混練材料の温度を検出可能になっている。温度センサ10には、周知の温度センサが用いられ、例えば、保護管に熱電対エレメントを収容して温度計測する熱電対温度検出器などが用いられる。この熱電対温度検出器としては、例えば、保護管の先端に熱電対エレメント先端を溶着して、混練材料の温度を保護管の外側面で感知する接地型のタイプや、熱電対エレメントを保護管と絶縁して保護管内部の温度を感知する非接地型のタイプを用いることができる。
【0031】
なお、密閉型混練機1に備えられる温度センサは、混練時において混練材料の温度を検出するものであればよく、
図1に示すセンサ構成や配置などに限定されるものではない。温度センサによって検出される混練材料の温度変化については後述する。
【0032】
図1に示すように、ロータ室2A、2B内には、混練材料を混練する混練ロータ3A、3Bが、それぞれロータ室2A、2Bの内周面との間に間隔をおいて回転可能に配設されている。混練ロータ3A、3Bは、それぞれ複数枚(
図1では2枚)のブレード4a、4bを備えている。ブレード4a、4bは、その起端部側から終端部側に向けて山形となる断面形状を有し、その頂部にランド部を有している。このランド部が、内周面との間で所定の間隔を保った状態で回転するようになっている。混練ロータ3A、3Bが回転することで、ロータ室2A、2Bにおける混練空間の形状が変化する。混練ロータ3A、3Bは、回転方向が互いに異なっており、両ロータ室2A、2Bが連通する側においてブレードが下向きに回転するように構成されている。
【0033】
また、混練槽2の上方には、混練材料を投入するための開口部が設けられている。加圧蓋9aは、シリンダ装置などによって上下動可能になっており、加圧蓋9aを上昇させた状態で開口部から混練材料が投入される。その後、ロッド9bにより加圧蓋9aを下降させ、混練材料を加圧しながら2本の混練ロータ3A、3Bを回転させる。この場合、螺旋状のブレード4a、4bによって混練材料がロータの回転方向だけでなく、軸方向も含む複雑な方向の流動により混練される。
【0034】
本発明に係る混練機は、
図1の構成に限らない。
図1の密閉型混練機1は、混練後、混練槽2を反転させて開口部から混練材料を取り出す形式であるが、例えば、混練機は、混練後、混練槽の下部から混練材料を取り出す形式であってもよい。また、
図1の密閉型混練機1は混練ロータ3A、3Bが回転する領域が重ならない接線式と呼ばれる形式であるが、混練ロータ3A、3Bが等速で回転しその回転する領域が重なる噛合式と呼ばれる形式であってもよい。
【0035】
図2には、密閉型混練機の平面概略図を示す。
図2に示すように、密閉型混練機1は、上述の混練槽2と、混練ロータ3A、3Bと、ロータ軸5A、5Bを回転可能に支持する軸受6A、6Bと、一対のギア7A、7Bとを有している。混練ロータ3A、3Bの外周には、螺旋状に形成されたブレード4a、4bが形成されている。例えば、混練ロータ3Aにおいて、ブレード4a、4bは、混練ロータ3Aの軸方向両端側における円周方向の位相が互いに180°異なる位置をそれぞれの起端部とし、この起端部から混練ロータ3Aの外周面を螺旋方向に延伸している。混練ロータにおけるブレードの構成はこれに限定されるものではない。
図2において、ブレード4a、4bの螺旋方向の長さは互いに異なっており、ブレード4aは長尺ブレード、ブレード4bは短尺ブレードとなっている。なお、ブレードの枚数は2枚に限定されず、3枚、4枚、6枚なども採用できる。その場合、例えばブレード間の起端部の位置(円周方向の位相)は、ブレードの枚数に応じて適宜設定される。
【0036】
密閉型混練機1において、2本の混練ロータ3A、3Bのロータ軸5A、5Bは、平行に配設されている。ロータ軸5Aは、カップリング17を介して電動機8の出力軸5A’に連結されている。なお、カップリング17を省略して、ロータ軸5Aと5A’を一体で構成してもよい。一方、ロータ軸5Bは、ロータ軸5Aに対して一対のギア7A、7Bを介して連結されている。電動機8は、回路部8aとモータ部8bとを有する。回路部8aは、制御信号に基づいて電力を生成し、生成した電力をモータ部8bに供給する。電動機8は、モータ部8bに供給される電力を検出する電力センサ11を有している。本発明において電動機は、交流電源で駆動する交流電動機でもよく、直流電源で駆動する直流電動機でもよい。
【0037】
なお、電動機8は減速機を備えていてもよく、駆動源から発生する回転力を減速して出力するようにしてもよい。また、一対のギア7A、7Bは、
図2に示すような、電動機8の外部に設けられたギアに限らず、電動機8や減速機に内蔵されたギアであってもよい。ギアの構成は、平歯車に限らず、ヘリカルギアなどであってもよい。また、混練機において、各混練ロータは、カップリングを介して各ギアに連結されていてもよい。
【0038】
図2の構成において、電動機8を駆動することにより、ロータ軸5Aおよび5Bが回転することで、混練ロータ3Aおよび3Bが回転し、混練が行われる。
図2において、密閉型混練機1は、一対の混練ロータ3A、3Bが異なる速度で回転する構成を有している。一対のギア7A、7Bの歯数は特に限定されないが、互いに素ではない異なる整数の歯数の組合せの方が同位相に回復するまでの時間が短いため、より効果的である(例えば
図3参照)。なお、
図2において、混練ロータ3Aが駆動ロータに相当し、混練ロータ3Bが従動ロータに相当する。
【0039】
また、一対の混練ロータ3A、3Bが異なる速度で回転する構成において、歯数の組合せは特に限定されないが、例えば、歯数が多い方のギアの歯数が、他方のギアの歯数に対して10%~50%多いことが好ましい。また、一対のギアの歯数は、高速側のロータ(駆動ロータ)が10回転以内に、高速側のロータと低速側のロータ(従動ロータ)が同じ位相に復帰するような関係である場合には、その期間を移動平均の時間として採用することにより、分散や標準偏差の収束をより明確に判定できる。
【0040】
図1に戻り、制御部12は、周知のCPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータを主体として構成されている。密閉型混練機1に備えられ、混練パラメータを検出する各センサ10、11は制御部12に接続されている。混練時において、混練材料の温度、混練機における加圧蓋の圧力、電動機に供給される交流電流の実効値、電動機に供給される直流電流値、電動機が消費する電力値、電動機の負荷率、または電動機の出力トルクの混練パラメータは、制御部12によって繰り返しサンプリングして取得され、記憶される構成となっている。また、制御部12は、各種演算機能も有している。
【0041】
例えば、混練材料の温度は、
図1に示すような温度センサ10によって検出され、その検出信号が制御部12に取得される。密閉型混練機1における加圧蓋9aの圧力は、混練槽2の上方からの混練材料の浮き上がりを抑える加圧蓋9aのウエイト圧による圧力負荷であり、任意のセンサによって検出され、その検出信号が制御部12に取得される。
【0042】
電動機が交流電動機の場合、電動機に供給される交流電流の実効値は、電流センサの検出信号に基づいて算出される。例えば、交流電流の実効値は、瞬時値の最大値に対して√2で除することで算出できる。また、電動機が直流電動機の場合、電動機に供給される直流電流値は、電流センサの検出信号に基づいて検出される。
【0043】
電動機が消費する電力値は、例えば
図2に示すような電動機8に備えられる電力センサ11によって検出され、その検出信号が制御部に取得される。例えば、電動機が交流電動機の場合、電動機が消費する電力値は有効電力Pであり、下記の式(1)で表される。
有効電力P=V・I・cosθ・・・(1)
上記式(1)中、電動機にかかる電圧の実効値がV、電動機に供給される交流電流の実効値がI、電圧と電流の位相差がθ、力率がcosθである。
また、電動機が直流電動機の場合、電動機が消費する電力値は、電動機にかかる電圧Vと電動機に供給される直流電流値Iとの積で表される。
【0044】
また、電動機の負荷率は、例えば、上述した電動機が消費する電力値と、電動機の定格値とに基づいて下記の式(2)で表される。
負荷率(%)=[電動機が消費する電力値(W)/電動機の定格値(W)]×100・・・(2)
【0045】
電動機の出力トルクは、例えば電動機に備えられるトルクセンサによって検出される。または、トルクセンサに依らない手段では、出力トルクは、例えば電動機が消費する電力値と電動機の回転数または角速度に基づいて算出される。上述した混練パラメータを取得するための各センサには周知のセンサを用いることができる。
【0046】
なお、
図1では、混練パラメータとして、混練材料の温度や電動機が消費する電力値を取得する構成を示しているが、これに限定されるものではない。
【0047】
図1に示すように、制御部12は、上述した混練パラメータの少なくとも1つを繰り返しサンプリングして取得する取得部13を有する。また、
図1において、制御部12は、取得部13が取得した入力値の、予め定めた任意の時間幅の移動平均、任意の時間幅の分散、任意の時間幅の標準偏差、入力値と任意の時間幅の移動平均の偏差、もしくはこれらを処理した値、またはこれらの組み合わせを評価指標として算出する算出部14を有する。例えば、算出部14は、入力値について、(A)現在時刻の直近の、予め定めた任意の時間幅の移動平均、(B)現在時刻の直近の、予め定めた任意の時間幅の分散、(C)現在時刻の直近の、予め定めた任意の時間幅の標準偏差、(D)入力値と、現在時刻の直近の、予め定めた任意の時間幅の移動平均の偏差、もしくは(A)~(D)を処理した値、または、(A)~(D)およびこれらを処理した値の組み合わせを算出する。
【0048】
また、混練機が一対の接線式ロータが異なる速度で回転する構成の場合、算出部14は、入力値について、(A1)現在時刻の直近の、混練ロータ3A、3Bが同位相に回復するまでの期間の移動平均、(B1)現在時刻の直近の、混練ロータ3A、3Bが同位相に回復するまでの期間の分散、(C1)現在時刻の直近の、混練ロータ3A、3Bが同位相に回復するまでの期間の標準偏差、(D1)入力値と、現在時刻の直近の、混練ロータ3A、3Bが同位相に回復するまでの期間の移動平均の偏差、もしくは(A1)~(D1)を処理した値、または、(A1)~(D1)およびこれらを処理した値の組み合わせを算出することが好ましい。後述の
図7に示すように、予め定めた任意の時間幅として、混練ロータ3A、3Bが同位相に回復するまでの期間を用いることで、混練ロータ3A、3Bが、ある位相から同位相に回復するまでの一サイクル毎の状態を的確に把握でき、結果として、混練材料の物性変化を一層把握しやすくなる。これにより、例えば、混練の終了タイミングの判定を的確なタイミングで行うことができる。
【0049】
移動平均は、単純移動平均(SMA:Simple Moving Average)、加重移動平均(WMA:Weighted Moving Average)、指数移動平均(EMA:Exponential Moving Average)、中心化移動平均(CMA:Centered Moving Average)などの公知の移動平均計算手法を用いて算出することができる。
【0050】
図3には、一例として、駆動ギアの歯数が25であり、従動ギアの歯数が30である一対のギアを示す。この場合、駆動ギアに連結される駆動ロータが6回転(従動ロータは5回転)することで、駆動ロータと従動ロータは同じ位相に復帰する。
図3は、一対のロータ軸をギア側から見た図を示し、一対のギアが噛み合った状態を示している。なお、
図3では、便宜上、駆動ギアの歯が噛み合う従動ギアの谷部の位置を丸数字で示している。
【0051】
図1において、制御部12は、算出部14が算出した評価指標に基づいて、混練状態の変化を評価できる構成となっている。具体的には、制御部12は、算出部が算出した評価指標に基づいて、終了タイミングを判定する判定部15と、判定部15によって混練の終了タイミングであると判定された場合に、その旨を報知する報知部16とを有する。
【0052】
判定部15は、算出部14が算出した移動平均、分散、標準偏差、偏差に基づいて、終了タイミングを判定する。この判定手法は特に限定されず、
図4で説明する手法などを用いることができる。
【0053】
報知部16は、混練の終了を報知する機能を有する。報知手段としては、特に限定されず、作業者に対して終了をモニタ表示する、音や音声で知らせる、外部に対して通信で知らせる、ランプ表示で知らせるなど、の手段を1種または組み合わせて採用できる。
【0054】
次に、
図4に、制御部が実行する混練時の処理手順の一例を示す。
図4のフローチャートにおいて、スタートからエンドに至るまでの処理は、所定時間毎に繰り返し実施される。なお、混練パラメータとしては、上述のものが適宜用いられるが、以下の説明では電力値を用いた例について説明する。
【0055】
まず、電力センサによって検出された電力値が、取得部によって例えば所定のサンプリング周期毎に(例えば0.1秒~1秒毎に)取得される(ステップS11)。取得された電力値は、取得される毎に記憶部に記憶される。
【0056】
ステップS12では、算出部は、取得された電力値に基づいて、例えば、現在時刻の直近のn秒分における電力値の移動平均を算出する。
図5には、その移動平均の一例として、単純移動平均(SMA)を算出するイメージ図を示す。
図5では、例えば0.2秒毎に電力値が取得される構成において、算出部は、現在時刻の直近の5秒分の単純移動平均(5秒単純移動平均)を算出する。なお、単純移動平均は現在時刻の入力値の値も含めた形で算出される。例えば、現在時刻1の時点ではSMA1が算出され、現在時刻2(現在時刻1から1秒後)の時点ではSMA2が算出され、現在時刻3(現在時刻2から1秒後)の時点ではSMA3が算出される。
【0057】
ステップS13では、算出部は、取得された電力値に基づいて、例えば、現在時刻の直近のn秒分における電力値の標準偏差SDを算出する。なお、ここでいう現在時刻の直近のn秒分の考え方については、
図5と同様である。
【0058】
ステップS14では、判定部において混練の終了タイミングを判定する。終了タイミングの判定は、例えば、算出された標準偏差SDに基づいて行われる。具体的には、標準偏差SDが判定閾値以下であるか否かを判定する。標準偏差SDが判定閾値以下でない場合、終了タイミングでないと判定し(ステップS14:No)、そのまま終了する。一方、標準偏差SDが判定閾値以下である場合、終了タイミングであると判定される(ステップS14:Yes)。ここで、判定閾値は、電力値のばらつきが収束したとみなせる値であり、実験などによって適宜設定される。また、判定閾値は、用いる混練パラメータによって異なる値を設定してもよい。
【0059】
ステップS14において終了タイミングであると判定されると、例えば、モータ部への駆動電力の供給が停止される。また、必要に応じて、報知部によって混練の終了が作業者に報知される(ステップS15)。
【0060】
このように
図4の処理手順は、移動平均と同じ期間の標準偏差とを組み合わせたものである。なお、終了タイミングの判定手法は、上記の手法に限定されるものではない。例えば、現在時刻の直近のn秒分における電力値の分散を用い、その分散と判定閾値を比較して、判定閾値以下である場合に終了タイミングであると判定してもよい。なお、分散は、標準偏差の2乗の値として算出される。また、移動平均MA自体を判定指標に用いて判定してもよい。この場合、入力値の現在時刻の値が、移動平均の80%~120%(好ましくは90%~110%)の範囲内に所定時間、連続して収まることに基づいて、終了タイミングであると判定してもよい。
【0061】
また、上記混練パラメータの水準に加え、算出された混練パラメータの移動平均MAの水準、移動平均MAの一次微分とその変化、移動平均MAの極大・極小、標準偏差SD、またはこれらの組み合わせに基づいて、上記判定を行ってもよい。
【0062】
次に、
図6~
図8の具体的なグラフを用いて、従来技術と本発明を対比して説明する。まず、
図6には従来技術を示す。
図6には、駆動ギアの歯数mが25、従動ギアの歯数nが30である一対のギアを有する接線式の密閉型混練機を用いて、混練材料としてゴム組成物を混練した際の各種パラメータの時間的変動を示す。この例では、駆動ロータの回転数が36rpm、従動ロータの回転数が30rpmで混練を行っており、駆動ロータと従動ロータは10秒毎に同じ位相に復帰することになる。ここで、図中の温度は、温度センサによって検出される混練材料の温度(連続値)を示し、電力は、電力センサによって検出される電動機が消費する電力値(具体的には交流電動機の有効電力)を示し、トルクは、トルクセンサによって検出される電動機のトルク(連続値)を示している。
【0063】
図6では、混練パラメータについて従来の方法によってモニターされており、各混練パラメータは離散的にジグザグに値が変動していることが分かる。特に、電力はジグザグに大きく変動している。このようなグラフでは、混練材料の状態の時間的変化を把握することは比較的困難である。
【0064】
これに対して、
図7および
図8には本発明の方法を適用したグラフを示している。具体的には、元の混練パラメータの時間的変動に加えて、算出された、所定の時間幅における電力値の単純移動平均(SMA)、および、同時間幅における電力値の標準偏差(2σ、-2σ)を可視化したグラフを示している。なお、
図7と
図8では、単純移動平均SMAなどを算出する時間幅の設定が異なっている。すなわち、
図7では、単純移動平均SMAおよび標準偏差の算出の対象となる時間幅を10秒に設定し、
図8では、17秒に設定している。
図7では、当該算出の対象となる時間幅が一対のロータが同位相に回復するまでの期間となっている。一方、
図8では任意に設定した時間幅となっている。
【0065】
図7において、電力値の単純移動平均W
SMAを、現在時刻の直近の10秒単純移動平均として算出した。直近の10秒分のサンプル数をnとした場合、下記の式(3)より算出した。
【0066】
また、現在時刻の直近の10秒分にn回サンプリングした電力値の標準偏差WSDを、下記の式(4)より算出した。
【0067】
【0068】
図7に示すように、電力の10秒単純移動平均線(電力(SMA))を中心として正側および負側に標準偏差(電力(SD;2δ)、電力(SD;-2δ))の推移を描くことができる。この
図7より、正側および負側の標準偏差のバンド幅が、「15:08」直前の時間帯を境にして大きく収束していることが分かる。これは、この時間帯より、電動機によって消費される電力のバラつきが大きく収束していることを意味しており、混練の進行によって混練材料全体の状態が、例えば混合分散が進み、混練材料全体が均一化したことを表している。この状態変化の時点を直接的に混練の終了のタイミングとする、もしくは、この状態変化の後で一定時間経過する、または一定のエネルギーを投入するなど、間接的に終了タイミングを判定するための指標として利用できる。そのため、標準偏差が判定閾値以下となる場合を判定することなどによって、
図7のようなバンド幅の収束を判定でき、ひいては終了タイミングを判定することなどに繋がる。
図7では、変動する電力値を単純移動平均で平滑化し、さらにばらつき(標準偏差)を可視化している。
【0069】
また、
図8では、単純移動平均SMAおよび標準偏差を算出する時間幅を17秒に設定している。
図8に示すように、混練の終盤に向けて標準偏差のバンド幅は収束しており、この場合においても、標準偏差を判定閾値と比較することなどで終了タイミングなどを判定することができる。なお、
図7に比べると、標準偏差の収束の挙動は緩やかである。
【0070】
図7および
図8の結果より、移動平均や標準偏差などを算出する時間幅として、一対のロータが同位相に回復するまでの期間の時間を設定する方が、より状態変化を把握しやすいといえる。このような異なる速度で回転する構成における特徴的なサイクルを演算処理に利用することで、混練材料の物性変化を把握しやすくなり、ひいては終了タイミングを的確に判断することができる。
【0071】
一方、従来の方法では、例えば混練の終了温度が所定温度(例えば120℃など)に設定されており、混練材料の温度がその温度に到達することをもって、混練が終了されている。原材料の熱容量と投入されたエネルギー量と除熱や放熱により失われたエネルギー量によって混練材料の温度は変化するため、温度の水準による終了判定は、混練開始からのエネルギー投入量の積分による判断基準であるといえる。これに対して、本発明に係る上記の方法は、電動機の電力値などの混練パラメータをリアルタイムで取得して、その移動平均や同期間の標準偏差を利用して、混練パラメータの変化の傾向、ばらつきの収束などを判定しながら混練を行うことで、混練の途中の混練材料の物性変化を把握する手段を提供するので、混練の終了を迅速かつ適切なタイミングで行うことができ、効率的な混練処理が可能となる。
【0072】
なお、
図7~
図8では、混練パラメータとして電動機が消費する電力値を用いた結果を示したが、その他の混練パラメータでも同様に混練材料の物性変化を把握することができる。例えば、電動機に供給される交流電流の実効値や、電動機に供給される直流電流値、電動機の負荷率、電動機の出力トルクは、電動機が消費する電力値に密接に関連したパラメータであり、同様の結果が得られる。
【0073】
また、上記では平滑化処理として、単純移動平均を用いたが、その他の移動平均手法によって算出される移動平均などを用いてもよい。以下には電力チャートを用いて各処理の結果を示す。
【0074】
まず
図9(a)の電力チャートは単純移動平均(SMA)を示しており、他の
図9(b)~(d)は単純移動平均と対比する形で示している。なお、
図9に示す各電力チャートでは、横軸が駆動ロータの回転数を表している。この場合、駆動ロータは6回転(従動ロータは5回転)することで、駆動ロータと従動ロータは同じ位相に復帰する。また、移動平均を算出する時間幅を一対のロータが同位相に回復するまでの期間としており、駆動ロータが6回転する時間で移動平均を算出している。
【0075】
図9(b)の加重移動平均(WMA)は、線形に重みを付ける手法であり、現在から過去にかけて重みを徐々に線形に減らし変動に反応しやすくする。
図9(b)に示すように、WMAはSMAに比べて、生の時系列データに対する追従性が向上している。なお、WMAは、下記の式(5)および式(6)により算出される。
【数2】
【0076】
図9(c)の指数移動平均(EMA)は、指数的に減少していく重みを付ける手法である。
図9(c)に示すように、EMAはSMAに比べて、生の時系列データに対する追従性が向上している。しかし、振幅は比較的大きくなっている。例えば、時刻tでの指数移動平均S
tは、下記の式(7)で算出される。初期値は、それ以前の生の時系列データの単純移動平均で求め、EMAを再帰的に求める。
【数3】
【0077】
図9(d)の中心化移動平均(CMA)は、現時点から過去のN/2個と現時点から未来のN/2個の平均をとる手法である。
図9(d)に示すように、CMAはSMAに比べて、生の時系列データに対する追従性が向上している。
【0078】
図10には、ローパスフィルタによる平滑化処理の例を示す。例えば、離散フーリエ変換をして高周波成分を除去する(
図10(a)参照)。
図10(b)に示すように、混練処理の中盤では追従性よく表されているが、混練処理の開始直後や終了直前ではフィッティングできていない。
【0079】
図11には、各平滑化処理の重ね合わせたチャートを示す。
図11に示すように、平滑化処理の手法によって変動への追従度に違いがあり、
図11では、EMA、WMA、SMA(CMA)の順に追従度が強い結果になった。これらの手法を平均二乗誤差で評価した結果を表1に示す。
【0080】
【0081】
表1に示すように、EMAは振動は残るものの、生の時系列データを追従性良く、フィッティングしている。また、振動を除去した最終トルク(電力)や最終温度、振幅の予測には、CMAが適していると考えられる。
【0082】
続いて、移動平均MAを利用した評価方法の別の形態について説明する。従来の混練状態の変化を判断する方法としては、例えば、電力チャートの変化の傾向を視覚的に評価する方法が知られている。例えば、カーボンブラックなどの配合剤を投入してから一体化するまでの時間は、Black Incorporation Time(BIT)として、ゴム分野においては広く認知され、重視されている。しかし、実際の電力カーブは、
図12(a)に示すように、離散的にジグザグした折れ線であり、図中の雲で示した範囲のどの点をピーク(極大や極小)とするかは人の主観に依存する。そのため、実際の電力カーブを従来技術で評価しようとすると、電力値の短時間変化が大きいため、ピークの位置や変化の傾向の把握が必ずしも明確ではない。
【0083】
本発明の新たな評価方法を提供することで、上記のような課題に対しても解決することができる。
図12(b)には、本発明を適用した一例として、移動平均MAを利用して極大を特定している。
【0084】
具体的な手順を、以下に示す。
(1)上述したように、直近の任意の時間幅の移動平均MAを算出する。
(2)移動平均MAの1次微分、移動平均MAの傾き、または移動平均MAに対する混練パラメータの分布により、傾向を把握する。
(3)移動平均MAの1次微分と2次微分、または連続する移動平均MAの値の相互の比較により、極大・極小を特定する。例えば、移動平均MAの1次微分が正から負に変化する点、または1次微分が0でかつ2次微分が負の点を元の混練パラメータの極大として特定することができる。また、移動平均MAの1次微分が負から正に変化する点、または1次微分が0でかつ2次微分が正の点を極小として特定することができる。移動平均MAを使用した極大・極小の特定手段は、1次微分や2次微分以上の高階微分を使用した方法の他に、現在および前後の値の分布や比較から特定する手段であってもよい。
【0085】
さらに、(4)移動平均MAを算出した対象期間に対して同期間の混練パラメータの分布から分散や標準偏差(SD)を求めて、その変化を観察してもよい。
図12(b)では、混練パラメータとともに移動平均MAおよび標準偏差SDを表示して可視化している。
【0086】
図13には、極値として、BITとBlack Wetting Time(BWT)を取得する具体的な手法を示す。BITは、カーボンがゴムの中に入りゴム同士が密着して、大きなゴム塊となっていき、一体化したときトルクが最大値を示す点であり、BWTは、細分化されたポリマーにカーボンブラックにまぶされて滑りやすくなりトルクが最小値を示す点である。
図13(a)には、EMAにローパスフィルタをかけた関数を微分して極値を取得する手法を示す。EMAを取ってから、ローパスフィルタをかけることで平滑化を良好にできる(表1参照)。また、ローパスフィルタは微分可能な関数として取得されるため、微分して極値を取得する手法に適している。
図13(b)には、CMAに、SciPyのfind_peaksの関数を適用して極値を取得する手法を示す。find_peaksでは、例えば極大値の取得については、両隣よりも高い点を極大値とする。
【0087】
図12および
図13に示すように、移動平均MAを利用して平滑化し、さらには他の処理を組み合わせるなどすることで、極大や極小を把握することができる。また、極大を特定することでBITの把握にも繋がり、極小を特定することでBWTの把握にも繋がると考えられる。また、混練開始から極大到達までの経過時間や、極大到達から標準偏差SDの収束までの経過時間なども評価することができる。
【0088】
また、移動平均MAを利用した評価方法の別の形態として、混練処理の終盤において混練パラメータの傾きが変わる点(変曲点)を把握することもできる。変曲点よりも後は、温度の影響でゴムが柔らかくなり、それ以上練っても効果的に練ることができないことから、変曲点を把握することでゴム練りの終了を判断できる。例えば、EMAにローパスフィルタをかけた関数を2階微分することで、変曲点を取ることができる。例えば、
図14であれば、グラフ上に図示した丸印のうち、特定の変曲点が終点を示すと判断することができる。
【0089】
図14には12個の変曲点が示されている。
図13(a)に示す極値(極大値および極小値)の間には、1個の場合を含み、必ず奇数個の変曲点が存在するが、
図13(a)に存在する3つ目の極大値の後の奇数番目の変曲点が終点の候補となる。いずれの極大値の後に注目するかは、混練する配合や混練パターンによって任意に設定する。この判定には、2階微分した値について0(ゼロ)近傍を判定する閾値を設定して、極大値の後の奇数番目の変曲点の後に2階微分した値が0(ゼロ)近傍の正側の閾値を超えたところで、その直前の変曲点が終点を示すと判断することができる。例えば、
図14では横軸の100回転辺りに示す変曲点が終点を示す、と判断できる。
【0090】
混練材料は、投入時から混練完了までの過程において、「粉砕・付着」、「一体化」、「混合・均一化」の各段階の状態を経て、最終的に均一化された混練材料が得られる。上記のように、例えば移動平均MAを利用して平滑化することで、極大や極小、変曲点などを把握することができ、各段階の状態を的確に把握することができる。その結果、異なるバッチや条件でも安定的に混練を行うことができると考えられる。
【0091】
本明細書では、技術の適用例として、母分散や母標準偏差を例示しているが、それに限るものではなく、標本分散、標本標準偏差、標本不偏分散、標本不偏標準偏差でもよい。
【0092】
上述した本発明によれば、例えば、以下のような効果が得られる。
・移動平均MAの傾きにより、混練パラメータの傾向が明確に捉えられる。
・混練パラメータの極大や極小が明確に捉えられる。人による主観が影響しない。
・移動平均MAに対する混練パラメータの分布を標準偏差SDとして捉え、変動幅の大きさが捉えられる。
・標準偏差SDの収束点や収束の傾向から、混練の状態変化を捉えられる。
・移動平均MAに対する混練パラメータの分布の偏りにより、今後の混練パラメータの変化の傾向が予測できる。例えば、
図12(b)において、収束点(
図7参照)を境として、それ以降は、電力をプロットした点が、移動平均MAよりも下側に集中しており、移動平均MAよりも上側にはほとんど分布していないことが分かる。そのため、そのような移動平均に対する分布の偏りを把握することで、移動平均MAは、それ以後は右肩下がりに下がり続ける、という移動平均の変化の傾向を予測できる。
【0093】
また、短期および長期の各移動平均を用いることで傾向判断を行うこともできる。各移動平均は、上述したような方法で算出することができ、例えば、長期移動平均は、短期移動平均を算出する対象区間の整数倍(例えば2倍~5倍)の区間を対象にして算出したものを用いる。そして、長期移動平均よりも短期移動平均の方が大きい場合はトレンド上昇中であると判断でき、短期移動平均よりも長期移動平均の方が大きい場合はトレンド下降中であると判断できる。
【0094】
本発明の評価方法および混練機の具体的な構成は、上述の図の構成に限らず、適宜変更することができる。
【0095】
上記各図で示した例では、駆動ロータの回転数が一定の場合を示したが、例えば、駆動ロータの回転数(=r)が途中で変化する(例えばr1→r2)場合でも、本発明は適用できる。この場合、回転数の変化に伴い、駆動ロータが1回転するのに要する時間も変化することになる。そのため、回転数が変化した後も、引き続き、駆動ロータが同一数回転する期間で移動平均などを算出できるよう、変化後の期間に対応して、算出の対象とする時間幅を変更し、移動平均などを算出するようにしてもよい。例えば、回転数の変化前は、10秒分(駆動ロータが6回転する期間)における移動平均などを算出していたところ、回転数を3分の2に減速した後は、15秒分(同じく駆動ロータが6回転する期間)における移動平均などを算出するようにして、算出の対象とする時間幅を変化させるようにしてもよい。これにより、一対のロータの回転速度が途中で変化する場合においても、継続して良好に混練状態を把握しやすくなる。
【0096】
また、回転数の変化に対応して、サンプリング時刻をインデックスとした時系列データを回転数または回転角ないし角距離をインデックスとした回転数系列データまたは回転角系列データに変換して利用することができる。サンプリングして取得した時系列データにはサンプリング時刻とロータの回転数(r/min)または角速度(rad/sまたは°/s)を含むため、サンプリング時刻tnとサンプリング時刻tn+1の間の変位角が算出できる。この変位角を積算すると、初期状態からロータが回転した各サンプリング時刻の回転数(rまたは回転)または回転角ないし角距離(radまたは°)を求めて新たなデータを派生し、時系列データに追加することができる。
【0097】
この派生時系列データから、サンプリング時刻に代えて回転数または回転角ないし角距離をインデックスとした回転数系列データまたは回転角系列データを利用することができる。ここで、インデックスとなっている系列を、インデックス系列と呼ぶこととする。
【0098】
例えば、回転数をインデックスとした回転数系列データを利用すると、駆動ロータが6回転する間など、任意の回転数の間のインデックス系列以外の系列の値の移動平均や標準偏差を求めることができる。このように、時系列データから回転数または回転角ないし角距離をインデックスとした回転数系列データまたは回転角系列データを派生することにより、回転数の変化から移動平均の算出の対象とする時間幅を変化させるのと同様の効果を得ることができる。
【0099】
時系列データにおいても、回転数や回転角をインデックスとした回転数系列データまたは回転角系列データにおいても、インデックス系列の値が任意の一定間隔となるように、元のデータをリサンプリングして利用することができる。例としてインデックスが回転数である回転数系列データの場合、1/6回転の一定間隔でリサンプリングすることができる。この時に、インデックス系列以外の系列については、元の回転数系列データから、線形補間ないし一次スプライン補間、二次スプライン補間または三次スプライン補間によって、インデックス系列に対応した値を取得し、新たな回転数系列データを派生することができる。
【0100】
インデックス系列の値を一定間隔とするリサンプリングは、いずれかのデータ系列の周期的な変動や信号のスペクトルを評価するために離散フーリエ変換を実行する前や、ローパスフィルタを適用する前に行われる。
【0101】
図13(a)では、回転数系列データへの変換後に、指数平滑移動平均(EMA)の計算を行い、インデックス系列である回転数の値を一定間隔とするリサンプリングを行った後で、ローパスフィルタを適用した例であり、横軸が回転数となっている。
【0102】
また上記では、混練をリアルタイムで評価する方法について説明したが、本発明は、蓄積されたデータを後から分析して評価してもよい。後から分析する手法としては、収集し記録した混練パラメータを元に、移動平均MA、標準偏差SDを計算し、混練パラメータと移動平均MA、標準偏差SDをグラフ上で重ね合わせることで収束タイミングを可視化して表示する手法(
図7~
図8参照)や、異なる2バッチについて同様の表示を行い比較する手法などを採用できる。
【0103】
これらの移動平均MA、標準偏差SDの計算や、回転数系列データまたは回転角系列データへの変換、リサンプリングやローパスフィルタの適用など、データ系列の変換や派生、データ系列を元とした処理は、一つないし複数のデータ系列と変換パラメータを入力し、一つないし複数の派生データ系列を出力する変換ルーチンで行われる。
【0104】
また、目的に応じて複数の変換ルーチンを予め定義した順に連鎖状に接続して実行し、目的のデータ系列を得る。この予め定義された複数の変換ルーチンの連鎖のことを、パイプラインと呼ぶ。
図13(a)の例では、パイプラインは以下のように構成される。
原系列時系列データのサンプリング時刻系列および回転数(r/min)系列から、初期状態からの回転数系列(単位:r)を派生する。
回転数系列をインデックスとして、電力系列の6回転の間の指数平滑移動平均(EMA)の計算を行い、電力のEMA系列を派生する。
回転数系列とEMA系列を入力として、ローパスフィルタを適用して曲線に平滑化する。
平滑化曲線の関数を入力として、極値を求める(
図13(a))。
平滑化曲線の関数を入力として、変曲点を求める(
図14)。
【0105】
1つのパイプラインでは複数の変換ルーチンが適用されるが、複数のパイプラインを併用することで、混練状態や物性変化の把握に利用できる。
図12(b)に適用したパイプラインでは、15:08以降に電力値の標準偏差が収束していることが分かる。
同じ期間で、前述の
図13(a)の例のように電力値EMAの平滑化曲線の関数が極大値を過ぎて1階微分が負の状態が継続しており、かつ
図14の例のように最後の極大値を過ぎて奇数番目の変曲点の後に処理後の関数の2階微分が0近傍の正側の閾値を超えて符号が転換した点をもって、当該ステップを完了と判断することができる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の混練状態の評価方法および混練機は、一対のロータの密閉型混練機において、様々な混練パラメータを用いて混練材料の物性変化を把握することができるので、ゴム、プラスチック、セラミックスなどの混練において、広く利用することができる。これにより、より高い精度で混練の終了点を把握することにより混練時間の短縮が図れるなど、生産性の向上や品質の安定化に寄与することが期待できる。
【符号の説明】
【0107】
1 密閉型混練機
2 混練槽
2A、2B ロータ室
2C 陵壁部
3A、3B 混練ロータ
4a、4b ブレード
5A、5B ロータ軸
6A、6B 軸受
7A、7B ギア
7a 取り付孔
7b キー溝
8 電動機
8a 回路部
8b モータ部
9a 加圧蓋
9b ロッド
10 温度センサ
10a 検出端
11 電力センサ
12 制御部
13 取得部
14 算出部
15 判定部
16 報知部
17 カップリング