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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018039
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】レンズ鏡筒及び調芯方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/02 20210101AFI20240201BHJP
【FI】
G02B7/02 C
G02B7/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121078
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000131326
【氏名又は名称】株式会社シグマ
(72)【発明者】
【氏名】家老 将太
(72)【発明者】
【氏名】田内 久真
【テーマコード(参考)】
2H044
【Fターム(参考)】
2H044AC01
2H044AJ04
(57)【要約】
【課題】分解が容易で、なおかつベース部材およびレンズ保持部材を再利用可能であり、レンズ保持部材を光軸に対して直交する平面内を平行に移動させる調整後に固定を確実に行うことが可能なレンズ鏡筒を提供する。
【解決手段】レンズを保持するレンズ保持部材と、固定部材によってレンズ保持部材と固定されるべース部材と、レンズ保持部材とベース部材との相対位置を調整する調整部材とを有するレンズ鏡筒であって、レンズ保持部材は、固定用孔を有し、固定部材は、固定用孔に固定された偏芯固定軸と偏芯固定軸が挿通される貫通孔を有する弾性部材と偏芯固定軸が挿通される貫通孔を有しベース部材に嵌合した偏芯固定カラーとを有し、弾性部材は、レンズ保持部材と偏芯固定カラーとに挟装され、偏芯固定軸と弾性部材と偏芯固定カラーとで形成される接着部に接着剤が充填されることでレンズ保持部材とベース部材とが固定されることを特徴とする構成とした。

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズを保持するレンズ保持部材と、
固定部材によって前記レンズ保持部材と固定されるべース部材と、
前記レンズ保持部材と前記ベース部材との相対位置を調整する調整部材とを有するレンズ鏡筒であって、
前記レンズ保持部材は、固定用孔を有し、
前記固定部材は、前記固定用孔に固定された偏芯固定軸と、前記偏芯固定軸が挿通される貫通孔を有する弾性部材と、前記偏芯固定軸が挿通される貫通孔を有し前記ベース部材に嵌合した偏芯固定カラーとを有し、
前記弾性部材は、前記レンズ保持部材と前記偏芯固定カラーとに挟装され、
前記偏芯固定軸と前記弾性部材と前記偏芯固定カラーとで形成される接着部に接着剤が充填されることで前記レンズ保持部材と前記ベース部材とが固定されることを特徴とするレンズ鏡筒。
【請求項2】
前記弾性部材は、前記配置用孔の内周面および前記偏芯固定軸の外周面に当接していることを特徴とする請求項1に記載のレンズ鏡筒。
【請求項3】
前記調整部材は偏芯コロであり、前記偏芯コロを回転させることにより前記レンズ保持部材の位置が調整されることを特徴とする請求項1に記載のレンズ鏡筒。
【請求項4】
前記調整は、光軸に対して直交する平面内を平行に移動させる調整であることを特徴とする請求項1に記載のレンズ鏡筒。
【請求項5】
前記偏芯固定軸は、フランジ部を備え、
前記弾性部材は、前記フランジ部と前記偏芯固定カラーとに挟装されることを特徴とする請求項1に記載のレンズ鏡筒。
【請求項6】
前記弾性部材は、ゴム材またはウレタン材であることを特徴とする請求項1に記載のレンズ鏡筒。
【請求項7】
固定用孔を有しレンズを保持するレンズ保持部材と、
配置孔を有し固定部材によって前記レンズ保持部材と固定されるベース部材と、
回転させることにより前記レンズ保持部材と前記ベース部材との位置を調整する偏芯コロとを有し、
前記固定部材は、前記固定用孔に固定された偏芯固定軸と、前記偏芯固定軸が挿通される貫通孔を有する弾性部材と、前記偏芯固定軸が挿通される貫通孔を有する偏芯固定カラーとを有し、
前記弾性部材は、前記レンズ保持部材と前記偏芯固定カラーとに挟装されたレンズ鏡筒の調芯方法であって、
前記偏芯固定カラーを前記配置孔に嵌合する工程と、
前記レンズ保持部材の外周上に設けられた前記偏芯コロを回転させることで前記レンズ保持部材を光軸に対して直交する平面内を平行に移動させる調整をする工程と、
前記調整後の所定の位置において前記レンズ保持部材と前記ベース部材とを固定するように前記偏芯固定軸と前記偏芯固定カラーと前記弾性部材とで形成される接着部に接着剤を充填する工程と、
によって前記レンズ保持部材が調芯されることを特徴とするレンズ鏡筒の調芯方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ鏡筒及び調芯方法に関する。特に、レンズを光軸に直交する平面内を平行に移動させる調整後に固定をする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、デジタルスチルカメラなどに使用されるレンズ鏡筒においては、光学性能の低下を抑制するため、製造工程において調芯作業が行われている。
【0003】
調芯作業は、調芯治具にレンズ鏡筒を取り付け、解像性能を検査しながらベース部材に保持されるレンズ保持部材の位置を調整することで行われる。この際、必要とされる性能を満たした相対位置において、ベース部材とレンズ保持部材とを固定する必要がある。
【0004】
特にレンズ保持部材の重量が大きいレンズ鏡筒は、衝撃や移動によって、調整後の相対位置から容易にずれてしまうことが考えられる。従ってレンズ保持部材の重量が大きいレンズ鏡筒においては、取り分け固定を強固にする必要がある。
【0005】
特許文献1では、偏芯調整後におけるレンズの固定精度を高めるとともに、再度の偏芯調整を行う場合のレンズ構成部品の分解及びその再組立を可能にした偏芯調整構造が開示されている。
【0006】
また、特許文献2では、分解が容易で、かつベース部材及びレンズ鏡室を再利用可能であり、レンズ鏡室の倒れ方向の調芯機構にも適用可能な構造を有するレンズ鏡筒が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6780243号公報
【特許文献2】特許第6753611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の偏芯調整機構においては、ピン固定穴に直接接着剤を注入しているため、分解調整時においてピン固定穴に接着剤が剥離しきれずゴミが残ってしまったり作業性が悪いという課題がある。また、レンズ枠及びベース筒の隙間に接着剤が流入してしまうおそれがあり、その場合は分解が困難になってしまう。
【0009】
特許文献2のレンズ鏡筒においては、レンズ鏡室の倒れ方向の調整では問題にならないが、光軸に直交する平面内を平行に移動させる調整を行う際に、偏芯固定カラーにおけるレンズ鏡筒内周部側の面と偏芯固定軸におけるフランジ部との隙間間隔が調整量によって変化する。そのため、隙間から接着剤が流入してしまい好ましくない。隙間の発生を解消するために、調整後に偏芯固定カラーをレンズ鏡筒の外径側から押し込む工程を加えることも考えられるが、偏芯固定カラーはレンズ保持部材に嵌合しているため、強い力を加えて押し込むと調整がずれてしまうおそれがある。また、光軸に直交する平面内を平行に移動させる調整についての開示がなされているが、取付方向が光軸と同方向の場合に適応可能な構成であり、工具による作業方向にレンズが配置されている構成では適応することが困難である。
【0010】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、分解が容易で、なおかつベース部材およびレンズ保持部材を再利用可能であり、レンズ保持部材を光軸に対して直交する平面内を平行に移動させる調整後に固定を確実に行うことが可能なレンズ鏡筒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のレンズ鏡筒は、レンズを保持するレンズ保持部材と、固定部材によってレンズ保持部材と固定されるべース部材と、レンズ保持部材とベース部材との相対位置を調整する調整部材とを有するレンズ鏡筒であって、レンズ保持部材は、固定用孔を有し、固定部材は、固定用孔に固定された偏芯固定軸と、偏芯固定軸が挿通される貫通孔を有する弾性部材と、偏芯固定軸が挿通される貫通孔を有しベース部材に嵌合した偏芯固定カラーとを有し、弾性部材は、レンズ保持部材と偏芯固定カラーとに挟装され、偏芯固定軸と弾性部材と偏芯固定カラーとで形成される接着部に接着剤が充填されることでレンズ保持部材とベース部材とが固定されることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の調芯方法は、固定用孔を有しレンズを保持するレンズ保持部材と、配置孔を有し固定部材によってレンズ保持部材と固定されるベース部材と、回転させることによりレンズ保持部材とベース部材との位置を調整する偏芯コロとを有し、固定部材は、固定用孔に固定された偏芯固定軸と、偏芯固定軸が挿通される貫通孔を有する弾性部材と、偏芯固定軸が挿通される貫通孔を有する偏芯固定カラーとを有し、弾性部材は、レンズ保持部材と偏芯固定カラーとに挟装されたレンズ鏡筒の調芯方法であって、偏芯固定カラーを配置孔に嵌合する工程と、レンズ保持部材の外周上に設けられた偏芯コロを回転させることでレンズ保持部材を光軸に対して直交する平面内を平行に移動させる調整をする工程と、調整後の所定の位置においてレンズ保持部材とベース部材とを固定するように偏芯固定軸と偏芯固定カラーと弾性部材とで形成される接着部に接着剤を充填する工程と、によってレンズ保持部材が調芯されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のレンズ鏡筒によれば、分解が容易で、なおかつベース部材およびレンズ保持部材を再利用可能であり、レンズ保持部材を光軸に対して直交する平面内を平行に移動させる調整後に固定を確実に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例に係るレンズ鏡筒10の要部斜視図
図2】本発明の実施例に係るレンズ鏡筒10の要部分解斜視図
図3】本発明の実施例に係る調整部材であるところのシフト調芯コロ41およびティルト調芯コロ42の斜視図
図4】本発明の実施例に係る固定部材50の斜視図
図5】偏芯固定軸70の斜視図
図6】弾性部材80の斜視図
図7】偏芯固定カラー90の斜視図
図8】本発明の実施例に係る固定部材50の断面図
図9図2における固定部材配置孔21の拡大図
図10】フランジ部74を有する偏芯固定軸70を説明する図
図11】フランジ部74を有する偏芯固定軸70を備えた固定部材50の斜視図
図12】フランジ部74を有する偏芯固定軸70を備えた固定部材50の断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付の図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態によって本発明が限定されるものではない。また、本出願においては簡単のためにネジ山の描写をしないものとする。
【0016】
図1は本発明の実施例に係るレンズ鏡筒10の要部斜視図であり、図2は本発明の実施例に係るレンズ鏡筒10の要部分解斜視図である。以下、図1および図2を用いてレンズ鏡筒10が備える各構成について説明する。なお、レンズ鏡筒10は撮像装置に対して取り付け交換可能であり、その中心に光軸を持つ。また、本発明においてはレンズ鏡筒10の光軸側をレンズ鏡筒の内周部側、その反対側をレンズ鏡筒の外周部側と呼称することとする。
【0017】
レンズ鏡筒10は、べース部材であるところの固定枠20と、レンズ保持部材であるところのレンズ保持枠30と、固定枠20とレンズ保持枠30との相対位置を調整する調整部材であるところのシフト調芯コロ41およびティルト調芯コロ42と、固定枠20とレンズ保持枠30とを固定する固定部材50を有している。
【0018】
固定枠20は、レンズ鏡筒10における調芯レンズ群保持筒である。固定枠20には複数の被固定部24が存在し、ビス止めでレンズ鏡筒10と固定される。また固定枠20には固定部材50が有する偏芯固定カラー90が嵌合する固定部材配置孔21と、シフト調芯コロ41が嵌合するシフト調芯コロ配置孔22と、ティルト調芯コロ42が嵌合するティルト調芯コロ配置孔23が設けられている。
【0019】
レンズ保持枠30は、レンズ群35を保持している部材である。レンズ保持枠30を光軸方向に対して直交する平面内を平行に移動させる調整(以下、シフト調整という)またはレンズ保持枠30を光軸方向に対して倒れさせる調整(以下、ティルト調整という)をすることでレンズ鏡筒10の調芯は行われる。またレンズ保持枠30には、固定部材50が有する偏芯固定軸70の嵌合部71が嵌合する固定用孔31と、ネジ穴部f32と、シフト調芯コロ41を固定するネジ穴部s33と、ティルト調芯コロ42を固定するネジ穴部t34が設けられている。
【0020】
次に、図3を用いて調整部材であるところのシフト調芯コロ41およびティルト調芯コロ42について説明する。シフト調芯コロ41およびティルト調芯コロ42は、偏芯した円筒形状の部材であり、固定枠20に設けられたシフト調芯コロ配置孔22およびティルト調芯コロ配置孔23にそれぞれ嵌合している。シフト調芯コロ41およびティルト調芯コロ42は、取り付けビス44によってレンズ保持枠30のネジ穴部s33およびネジ穴部t34に固定される。固定枠20とレンズ保持枠30との相対位置は、シフト調芯コロ41およびティルト調芯コロ42を回転させることで、それぞれに設定された偏芯量に応じてシフト調整およびティルト調整される。またシフト調芯コロ41およびティルト調芯コロ42には、回転させる際に器具を係合させるための切り欠き部43が設けられている。
【0021】
次に、図4図5図6図7および図8を用いて固定部材について説明する。図4は本発明の実施例に係る固定部材50の斜視図であり、図5は固定部材50が有する偏芯固定軸70の斜視図であり、図6は固定部材50が有する弾性部材80の斜視図であり、図7は固定部材50が有する偏芯固定カラー90の斜視図であり、図8は本発明の実施例に係る固定部材50の断面図である。
【0022】
固定部材50は、嵌合部71を有する偏芯固定軸70と、弾性部材80と、偏芯固定カラー90とを有している。固定枠20とレンズ保持枠30との固定は、シフト調芯コロ41およびティルト調芯コロ42と各取り付けビス44によって行われている。しかしながら各調芯コロは調整のために回転可能な構成になっていることから、例えば強い衝撃がかかった際にシフト調芯コロ41ないしティルト調芯コロ42の位置がずれてしまうおそれがある。そこで、固定部材50を設けることで各調芯コロ以外の箇所で調整後の位置を固定することにより、シフト調芯コロ41およびティルト調芯コロ42の位置ずれが発生しない構成としている。また固定部を複数設けることで、各箇所への負荷が分散され、衝撃による各部材の損傷も発生しにくくなる。本実施例においては、シフト調芯コロ41、ティルト調芯コロ42および固定部材50の組がレンズ鏡筒10の外周に等間隔に3箇所配置する構成としている。
【0023】
偏芯固定軸70は、円筒状の部材であり、嵌合部71とビス挿通部72を有している。弾性部材80は、ドーナツ状の形状をした部材であり、貫通穴e81を有している。また、弾性部材80はゴム材またはウレタン材によって形成されており弾性力を有する。偏芯固定カラー90は、ドーナツ状の形状をした部材であり、貫通穴c91を有している。貫通穴c91の開口部の径は、レンズ鏡筒10における内周部側とレンズ鏡筒10における外周部側で異なっており、レンズ鏡筒10の外周部側の方がレンズ鏡筒10の内周部側よりも広くなっている。
【0024】
嵌合部71はレンズ保持枠30の固定用孔31に嵌合し、さらにビス73によってネジ穴部f32にビス止めされることで偏芯固定軸70とレンズ保持枠30は固定されている。また偏芯固定カラー90は貫通穴c91に偏芯固定軸70が挿通され、固定枠20の固定部材配置孔21に嵌合している。弾性部材80は貫通穴e81に偏芯固定軸70が挿通され、レンズ保持枠30の固定用孔31を有する面と偏芯固定カラー90のレンズ鏡筒10における内周部側の面に挟まれるように配置されている。
【0025】
本実施例においては、偏芯固定軸70は嵌合部71とビス73によってレンズ保持枠30に固定される構成としているが、固定の方法はこれに限らない。例えば、偏芯固定軸70にネジ部を有する構成とし、ビスを用いずに偏芯固定軸70が有するネジ部を締め込むことでレンズ保持枠30に固定する構成とすることも可能である。
【0026】
以上が本発明の実施例に係るレンズ鏡筒10を構成する部材の説明である。続いて、実施例に記載のレンズ鏡筒10の調芯機構の組み立て手順、調芯方法および固定方法について説明する。
【0027】
初めに、固定枠20とレンズ保持枠30を係合する手順を説明する。まず、シフト調芯コロ41およびティルト調芯コロ42を、固定枠20のシフト調芯コロ配置孔22およびティルト調芯コロ配置孔23に嵌合させ、取り付けビス44によってレンズ保持枠30のネジ穴部s33およびネジ穴部t34にビス止めすることで固定する。
【0028】
次に、偏芯固定軸70の嵌合部71を、レンズ保持枠30の固定用孔31に嵌合し、ビス挿通部72にビス73を挿通しレンズ保持枠30のネジ穴部f32にビス73を締め込むことで固定する。続いて、弾性部材80の貫通穴e81に偏芯固定軸70を挿通する。最後に、偏芯固定カラー90の貫通穴c91に偏芯固定軸70を挿通し、偏芯固定カラー90を固定枠20の固定部材配置孔21に嵌合する。
【0029】
偏芯固定カラー90を固定部材配置孔21に嵌合する際は、その挿入量を適切に管理する。挿入量が過剰であると、偏芯固定カラー90が後述する調芯作業時にレンズ保持枠30の動きを阻害するおそれがある。逆に挿入量が足りないと、偏芯固定カラー90と弾性部材80との間に隙間が生まれ、後述するレンズ保持枠30と固定枠20との固定時にその隙間から接着剤が漏れてしまうおそれがある。挿入量の管理は、例えば、図9のように固定部材配置孔21の内径において、固定枠20における内径側につば形状Aを構成することで、偏芯固定カラー90を固定部材配置孔21に嵌合させた際につば形状によって挿入量を規定する方法がある。その他、偏芯固定カラー90を固定部材配置孔21に嵌合させる際の押し込み量を管理する治工具を用いることで挿入量を管理する手段をとってもよい。
【0030】
以上の手順で固定枠20とレンズ保持枠30は係合される。次に、係合した固定枠20とレンズ保持枠30について、調芯作業を行う。調芯作業では、MTF測定器等の調芯治具にレンズ鏡筒10を取り付け、解像性能を観察しながらレンズ保持枠30のシフト調整およびティルト調整を行う。より具体的には、調芯作業はシフト調芯コロ41およびティルト調芯コロ42の切り欠き部43にコロ回転用の器具を差し込み、シフト調芯コロ41およびティルト調芯コロ42を回転させることで行われる。
【0031】
ここで、調芯作業時の固定枠20とレンズ保持枠30との相対位置の変化について説明する。まず、シフト調整においては、シフト調芯コロ41を回転させると、レンズ保持枠30が光軸に対して直交する平面内を平行に移動する。
【0032】
レンズ保持枠30が光軸に対して直交する平面内を平行に移動することで、レンズ保持枠30と固定枠20に嵌合した偏芯固定カラー90とが作る隙間の幅が変化する。レンズ保持枠30と偏芯固定カラー90とに挟まれるように弾性部材80を配置することで、レンズ保持枠30と固定枠20に嵌合した偏芯固定カラー90との間に隙間を作らないように構成されている。
【0033】
また、弾性部材80は、シフト調整時にレンズ保持枠30と固定枠20に嵌合した偏芯固定カラー90とが作る隙間の幅が最大となる幅以上の厚みのものを用いる。これにより、シフト調整時にレンズ保持枠30と固定枠20に嵌合した偏芯固定カラー90とが作る隙間の幅が最大の場合においても弾性部材80が隙間なく配置される。弾性部材80は弾性力を有しているため、シフト調整時にレンズ保持枠30と固定枠20に嵌合した偏芯固定カラー90とが作る隙間の幅が最小となる場合においても弾性部材80が変形することで、調整時にレンズ保持枠30の移動を阻害しない。
【0034】
ティルト調整においては、ティルト調芯コロ42を回転させると、レンズ保持枠30が光軸方向に対して倒れる移動をする。ティルト調整およびシフト調整を行うと、レンズ保持枠30に固定された偏芯固定軸70が偏芯固定カラー90の内径部で移動をする。ティルト調整時にレンズ保持枠30が光軸方向に対して倒れる移動量およびシフト調整時にレンズ保持枠30が光軸に対して直交する平面内を平行に移動する量が同時に最大となる場合においても、偏芯固定軸70と偏芯固定カラー90の内周部が接触することがないように偏芯固定カラー90の内径が設定されている。
【0035】
調芯作業を行った後には、固定部材50によって固定枠20とレンズ保持枠30との固定を行う。図4および図8に示すように、固定部材50は接着部60を有している。接着部60は、偏芯固定軸70と偏芯固定カラー90と弾性部材80によって形成される接着剤が充填される部分である。
【0036】
偏芯固定軸70はレンズ保持枠30に固定されており、偏芯固定カラー90は固定枠20に嵌合していることから、接着部60に接着剤を充填することで固定枠20とレンズ保持枠30の固定が完了する。これにより、固定枠20およびレンズ保持枠30に直接接着剤を付着させずに固定枠20とレンズ保持枠30を固定できる構造になっている。
【0037】
好ましくは、弾性部材80は固定部材配置孔21の内周面および偏芯固定軸70の外周面に当接するように構成することで、使用する接着剤の粘性によって弾性部材80の内周面と偏芯固定軸70の外周面との間にできる隙間に接着剤が流れやすい場合においても、接着剤が固定枠20およびレンズ保持枠30に付着しないことを確実にすることが可能となる。
【0038】
以上が本実施例に記載のレンズ鏡筒10の調芯機構の組み立て手順、調芯方法及び固定方法についての説明である。次にレンズ保持枠30を固定枠20から取り外す解体方法について説明する。
【0039】
固定枠20からレンズ保持枠30を取り外す際には、全ての取り付けビス44およびビス73を取り外し、シフト調芯コロ41およびティルト調芯コロ42を取り外す。ここで、固定枠20とレンズ保持枠30は、偏芯固定軸70と偏芯固定カラー90と弾性部材80とが作る接着部60のみで固定された状態となる。偏芯固定軸70のビス挿通部72をピンセットやペンチ等の器具で掴み、レンズ保持枠30の固定用孔31から嵌合部71を引き抜くことで、偏芯固定軸70はレンズ保持枠30から外れる。この際、偏芯固定軸70、接着剤、偏芯固定カラー90、弾性部材80の一部または全部がレンズ保持枠30および固定枠20から外れる。一部が残る場合には、残りの部材についてピンセットやペンチ等の器具で取り外す。以上のようにして解体作業が行われる。
【0040】
また、レンズ鏡筒10の解体ではなく、固定枠20とレンズ保持枠30の相対位置のズレを修正するための再調整を行うことも可能である。その場合には、固定部材50のみを取り外し、新たな固定部材50と交換し、再調整を行う。そして、最後に接着部60に接着剤を充填し固定すればよい。
【0041】
また、本発明は、以下のような構成をとることもできる。
【0042】
偏芯固定軸70は、図10に示すようにフランジ部74を有する構成としても良い。偏芯固定軸70をフランジ部74を有する構成とした場合、図11および図12に示すように、弾性部材80はフランジ部74のレンズ鏡筒10における外周側の面と偏芯固定カラー90のレンズ鏡筒10における内周側の面に挟まれるように配置される。フランジ部74を有する構成とすることで、接着部60に接着剤を充填した際に、偏芯固定軸74の外周部と弾性部材80が有する貫通孔e81の内周面との間に隙間がある場合においても、接着剤が偏芯固定軸70を伝ってレンズ保持枠30に付着しない構造となる。
【0043】
また本実施例において、本発明の主要な部分についてのみ説明した。その他の部分については適宜レンズ鏡筒に関する周知技術を用いて構成することができる。
【0044】
以上のように、本発明においては固定枠20とレンズ保持枠30の固定に接着剤を使用しているが、固定枠20とレンズ保持枠30には接着剤を直接塗布しない構成となっている。接着剤は接着部60に塗布されているのみであり、さらに接着部60を有する固定部材50は容易に取り外すことが可能である。従って、レンズ鏡筒10の分解が容易であり、修理や再調整を行う際に固定枠20やレンズ保持枠30等の部材を再利用することが容易となる。
【0045】
なお、本発明に係るレンズ鏡筒は、本発明が適用される撮像装置に応じて適宜変形される。また、必要に応じて、装置の外寸法の変更による外観の変化、部材間の結合位置など、種々の変形や変更、組み合わせが可能であるが、いずれも本発明の均等の範囲内である。
【符号の説明】
【0046】
レンズ鏡筒 10
固定枠 20
固定部材配置孔 21
シフト調芯コロ配置孔 22
ティルト調芯コロ配置孔 23
被固定部 24
つば形状 A
レンズ保持枠 30
固定用孔 31
ネジ穴部f 32
ネジ穴部s 33
ネジ穴部t 34
レンズ群 35
シフト調芯コロ 41
ティルト調芯コロ 42
切り欠き部 43
取り付けビス 44
固定部材 50
接着部 60
偏芯固定軸 70
嵌合部 71
ビス挿通部 72
ビス 73
フランジ部 74
弾性部材 80
貫通穴e 81
偏芯固定カラー 90
貫通穴c 91
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12