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  • 特開-鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018043
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/08 20060101AFI20240201BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C04B28/08
C04B18/14 A
C04B18/14 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121086
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】神保 正人
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA29
4G112PD01
(57)【要約】
【課題】優れた膨張安定性が得られる鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法を提供する。
【解決手段】本実施形態の鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法は、MgO含有率が質量%で8.5%を超える電気炉スラグを準備する準備工程と、1mあたりで、1000~2000kgの製鋼スラグと、300~400kgの結合材と、150~250kgの水と、0~700kgの高炉スラグと、を練混ぜる練混ぜ工程とを含む。練混ぜ工程では、製鋼スラグにおいて、電気炉スラグの配合率を質量%で25超~100%とし、MgO含有率が質量%で8.5%以下の低Mg含有製鋼スラグの配合率を質量%で0~75%未満とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MgO含有率が質量%で8.5%を超える電気炉スラグを準備する準備工程と、
1mあたりで、
1000~2000kgの製鋼スラグと、
300~400kgの結合材と、
150~250kgの水と、
0~700kgの高炉スラグとを練混ぜる練混ぜ工程と、
を含み、
前記練混ぜ工程では、
前記製鋼スラグにおいて、前記電気炉スラグの配合率を質量%で25超~100%とし、MgO含有率が質量%で8.5%以下の製鋼スラグである低Mg含有製鋼スラグの配合率を質量%で0~75%未満とする、
鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法であって、
前記電気炉スラグ中のMgを含有する化合物は、主としてMgを含有する鉱物相であるMg含有鉱物相である、
鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法であって、
前記Mg含有鉱物相は、
オケルマナイト、ダイオプサイド、モンチセライト及びスピネルからなる群から選択される1種以上からなる、
鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法であって、
前記電気炉スラグ中のMgを含有する化合物のうち、前記Mg含有鉱物相の含有率は、質量%で50%以上である、
鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法であって、
前記電気炉スラグ中のMgを含有する化合物のうち、遊離MgOの含有率は質量%で5%以下である、
鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼の生産工程では、鉄鋼の生産の副産物として、鉄鋼スラグが生成する。鉄鋼産業における環境対策の一つとして、鉄鋼スラグをリサイクル材として、道路材、コンクリート材、建築材等に利用するための開発が行われている。
【0003】
鉄鋼スラグは、製銑工程で得られる高炉スラグ、製鋼工程で得られる製鋼スラグ、に分類される。高炉スラグはさらに、高炉徐冷スラグと、高炉水砕スラグと、高炉スラグ微粉末とに分類される。高炉スラグ微粉末は、高炉水砕スラグをさらに粉砕して形成される。
【0004】
製鋼スラグはさらに、主として、転炉スラグ、電気炉スラグ、還元炉スラグに分類される。転炉スラグは転炉を用いた精錬工程で生成するスラグである。転炉スラグには、溶銑予備処理スラグも含まれる。溶銑予備処理スラグは、溶銑予備処理で生成するスラグである。電気炉スラグは、電気炉を用いた精錬工程で生成するスラグである。還元炉スラグは、特殊鋼等の製造工程での還元炉での精錬工程で生成するスラグである。還元炉は例えば、AOD炉、VOD炉等である。
【0005】
鉄鋼スラグをリサイクル材として上述の用途に利用する場合、鉄鋼スラグを原材料とした鉄鋼スラグ水和固化体を製造する。鉄鋼スラグ水和固化体は、次の方法で製造される。鉄鋼スラグ水和固化体の原料として、製鋼スラグ、結合材及び水を準備する。製鋼スラグは骨材として使用される。これらの原料を練混ぜる。このとき、水和反応により練混ぜた原料が固化して、鉄鋼スラグ水和固化体が生成する。
【0006】
ところで、製鋼スラグの一部は、時間の経過に伴って膨張する場合がある。このような膨張する可能性のある製鋼スラグを鉄鋼スラグ水和固化体の骨材として使用した場合、時間の経過に伴い、鉄鋼スラグ水和固化体が変形して、亀裂が生じる可能性がある。そのため、鉄鋼スラグ水和固化体で亀裂を抑制するためには、骨材として用いる製鋼スラグに、時間が経過しても膨張しにくい特性が求められる。本明細書において、時間が経過しても膨張しにくい特性を「膨張安定性」と称する。
【0007】
鉄鋼スラグ水和固化体の時間の経過に伴う亀裂の発生を抑制する研究は従来から行われている。鉄鋼スラグの時間の経過に伴う亀裂は、次のメカニズムで発生すると考えられている。鉄鋼スラグ水和固化体の原料である製鋼スラグは、遊離MgO(free-MgO)を含有する場合がある。遊離MgOとは、製鋼スラグ内で他の化合物と水和反応せずに、単体で残存する酸化マグネシウム(MgO)である。
【0008】
遊離MgOを含有する製鋼スラグを原料として鉄鋼スラグ水和固化体を製造した場合、製造した鉄鋼スラグ水和固化体内に遊離MgOが残存する。鉄鋼スラグ水和固化体内の遊離MgOは、時間の経過とともに水と反応して(水和して)、Mg(OH)に変化する。遊離MgOがMg(OH)に変化すると、体積が膨張する。遊離MgOの水和反応速度は遅い。そのため、長期に亘って膨張が進行する。以上のメカニズムにより、鉄鋼スラグ水和固化体が膨張して変形し、亀裂が発生すると考えられる。
【0009】
上述のとおり、遊離MgOは、鉄鋼スラグ水和固化体の亀裂を発生させる要因の一つである。したがって、鉄鋼スラグ水和固化体の亀裂や変形を抑制するためには、鉄鋼スラグ水和固化体の原料に含まれる遊離MgOは少ない方が好ましい。そのため、「鉄鋼スラグ水和固化体技術マニュアル(改訂版)」の「附属書1 鉄鋼スラグ水和固化体用製鋼スラグ」(非特許文献1)では、JIS M 8205:2000に準拠して求められるMgO含有率が質量%で8.5%以下である製鋼スラグを、鉄鋼スラグ水和固化体の原料として使用することを推奨している。
【0010】
鉄鋼スラグ水和固化体の亀裂の発生を抑制する技術が、特開2001-323403号公報(特許文献1)、特開2002-308662号公報(特許文献2)に提案されている。特許文献1では、製鋼スラグのうちの溶銑予備処理スラグを用いて、鉄鋼スラグ水和固化体を製造する。特許文献2では、製鋼スラグのうちの転炉スラグを用いて、鉄鋼スラグ水和固化体を製造する。溶銑予備処理スラグ及び転炉スラグは、上述のJIS規格に準拠して求められるMgO含有率が8.5%以下である。特許文献1及び特許文献2では、MgO含有率の低い製鋼スラグを用いて、鉄鋼スラグ水和固化体の膨張を抑制し、変形に伴う亀裂の発生を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001-323403号公報
【特許文献2】特開2002-308662号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】一般財団法人沿岸技術研究センター編(平成20年2月)「鉄鋼スラグ水和固化体技術マニュアル(改訂版)」一般財団法人沿岸技術研究センター
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1及び特許文献2に開示された鉄鋼スラグ水和固化体では、変形に伴う亀裂の発生を抑制できる。しかしながら、特許文献1及び特許文献2で提案された手段以外の他の手段により、鉄鋼スラグ水和固化体において膨張を抑制し、変形に伴う亀裂の発生を抑制できてもよい。
【0014】
本開示の目的は、膨張を抑制し、変形に伴う亀裂の発生を抑制できる鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本開示による鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法は、MgO含有率が質量%で8.5%を超える電気炉スラグを準備する準備工程と、1mあたりで、1000~2000kgの製鋼スラグと、300~400kgの結合材と、150~250kgの水と、0~700kgの高炉スラグとを練混ぜる練混ぜ工程と、を含む。練混ぜ工程では、製鋼スラグにおいて、電気炉スラグの配合率を質量%で25超~100%とし、MgO含有率が質量%で8.5%以下の製鋼スラグである低Mg含有製鋼スラグの配合率を質量%で0~75%未満とする。
【発明の効果】
【0016】
本開示の鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法は、膨張を抑制し、変形に伴う亀裂の発生を抑制できる鉄鋼スラグ水和固化体を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、各製鋼スラグのMgO含有率と、水浸膨張試験で得られた経過日数に応じた膨張率とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者は、鉄鋼スラグ水和固化体において、膨張を抑制でき、変形に伴う亀裂の発生を抑制できる製造方法について検討を行った。その結果、次の知見を得た。
【0019】
上述のとおり、従来では、製鋼スラグのうち、MgO含有率が8.5%を超える製鋼スラグの膨張安定性は悪いと考えられていた。そのため、MgO含有率が8.5%を超える製鋼スラグを骨材として製造した鉄鋼スラグ水和固化体は、膨張しやすく、変形に伴う亀裂が発生しやすいと考えられていた。
【0020】
ところで、電気炉での精錬工程では、粗鋼生産速度を速くすることが求められている。粗鋼生産速度を速くすると、結果として、スラグ中のMgO含有率が高まる場合がある。この場合、電気炉スラグ中のMgO含有率が8.5%を超える。そのため、従来では、電気炉スラグの膨張安定性は悪いと考えられていた。その結果、上述の特許文献1及び特許文献2にも開示されているとおり、鉄鋼スラグ水和固化体の骨材としては通常、MgO含有率が8.5%以下である溶銑予備処理スラグや転炉スラグが採用されており、電気炉スラグの採用は避けられていた。
【0021】
しかしながら、本発明者は、膨張安定性が悪いと考えられていた電気炉スラグであっても、膨張安定性に優れる可能性があり得ると考えた。そこで、製鋼スラグのうち、転炉スラグ、電気炉スラグ、還元炉スラグの膨張安定性について、次の試験を実施して調査した。
【0022】
転炉スラグ、電気炉スラグ、還元炉スラグA、及び、還元炉スラグBを準備した。還元炉スラグAは、還元炉スラグBと異なる還元炉で生成したスラグであった。準備した各製鋼スラグに対して、JIS A 5015:2013の附属書Bに規定された水浸膨張試験方法に倣った、次の試験を実施した。
【0023】
各製鋼スラグを、内径150mm、高さ125mmのモールドに突き固めた。突き固めた製鋼スラグを内部に含むモールドを、80℃の温水に浸漬し、ダイヤルゲージを用いて膨張量を測定した。上述のJIS規格では、80℃の温水に6時間浸漬した後、放冷し、ダイヤルゲージで膨張量を測定する操作を1日1回、10日間繰り返す。しかしながら、本試験では、80℃の温水への浸漬を維持した状態で、ダイヤルゲージを用いて膨張量を測定した。得られた結果に基づいて、経過日数と膨張率との関係をグラフにした。
【0024】
さらに、各製鋼スラグに対して、JIS M 8205:2000に準拠して、MgO含有率を求めた。
【0025】
得られた結果を図1に示す。図1を参照して、転炉スラグでは、MgO含有率が質量%で5.0%であり、8.5%以下であった。一方、電気炉スラグ、還元炉スラグA及び還元炉スラグBでは、MgO含有率が質量%で8.5%を超えた。
【0026】
しかしながら、水浸膨張試験の結果では、従来の知見とは異なる結果が見られた。具体的には、図1中の経過日数と膨張率との関係を示すグラフを参照して、還元炉スラグA及び還元炉スラグBはいずれも、経過日数の増加に伴い膨張率が顕著に上昇し、膨張安定性が悪かった。一方、電気炉スラグでは、MgO含有率は8.5%を大きく超えたものの、還元炉スラグA及び還元炉スラグBと比較して、経過日数の増加に伴う膨張率の上昇は顕著に抑えられ、還元炉スラグよりも膨張安定性に優れた。電気炉スラグはさらに、転炉スラグと比較しても、膨張安定性が優れていた。
【0027】
以上の結果を踏まえて、本発明者は次のとおり考えた。JIS M 8205:2000に準拠して求められるMgO含有率は、製鋼スラグ中のMgが全てMgOとして存在していると仮定して、Mg定量値から換算して求めた値である。そのため、この方法で求めたMgO含有率は、実際に製鋼スラグ内に存在する遊離MgOの含有率とは異なる場合がある。図1の結果に基づいて、本発明者は、上記方法により求めたMgO含有率が8.5%を超える場合であっても、実際の電気炉スラグ中のMgは、遊離MgOとして必ずしも存在していないと考えた。
【0028】
そこで、本発明者は、電気炉スラグに対して、X線回折分析による化合物の解析を実施した。X線回折分析では、スラグ中の化合物の特定が可能である。X線回折分析の結果、電気炉スラグ中のMgを含有する化合物は、主として、Mgを含有する鉱物相(Mg含有鉱物相)であった。そして、X線回折分析では、遊離MgOがほとんど検出されないことが判明した。
【0029】
以上の知見に基づいて、本発明者は、従来から電気炉スラグは鉄鋼スラグ水和固化体の骨材としての使用が避けられていたが、実は、鉄鋼スラグ水和固化体の骨材としての使用に適しているのではないかと考えた。そこで、骨材として電気炉スラグを使用した鉄鋼スラグ水和固化体の膨張安定性について調査した。その結果、MgO含有率が8.5%を超える電気炉スラグを骨材に含む鉄鋼スラグ水和固化体では、時間が経過しても膨張しにくく、変形しにくいため、亀裂の発生が抑制されることが判明した。したがって、本発明者は、MgO含有率が8.5%を超える電気炉スラグは、鉄鋼スラグ水和固化体の骨材として適していることを初めて知見した。
【0030】
以上の知見に基づいて完成した本実施形態の鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法は、次の工程を含む。
【0031】
[1]
MgO含有率が質量%で8.5%を超える電気炉スラグを準備する準備工程と、
1mあたりで、
1000~2000kgの製鋼スラグと、
300~400kgの結合材と、
150~250kgの水と、
0~700kgの高炉スラグとを練混ぜる練混ぜ工程と、
を含み、
前記練混ぜ工程では、
前記製鋼スラグにおいて、前記電気炉スラグの配合率を質量%で25超~100%とし、MgO含有率が質量%で8.5%以下の製鋼スラグである低Mg含有製鋼スラグの配合率を質量%で0~75%未満とする、
鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法。
【0032】
[2]
[1]に記載の鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法であって、
前記電気炉スラグ中のMgを含有する化合物は、主としてMgを含有する鉱物相であるMg含有鉱物相である、
鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法。
【0033】
[3]
[2]に記載の鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法であって、
前記Mg含有鉱物相は、
オケルマナイト、ダイオプサイド、モンチセライト及びスピネルからなる群から選択される1種以上からなる、
鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法。
【0034】
[4]
[2]又は[3]に記載の鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法であって、
前記電気炉スラグ中のMgを含有する化合物のうち、前記Mg含有鉱物相の含有率は、質量%で50%以上である、
鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法。
【0035】
[5]
[4]に記載の鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法であって、
前記電気炉スラグ中のMgを含有する化合物のうち、遊離MgOの含有率は質量%で5%以下である、
鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法。
【0036】
以下、本実施形態の鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法について、詳細に説明する。本実施形態の鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法は、次の工程を含む。
(工程1)準備工程
(工程2)練混ぜ工程
以下、各工程について説明する。
【0037】
[(工程1)準備工程]
初めに、MgO含有率が質量%で8.5%を超える電気炉スラグを準備する。ここで、本明細書において、「MgO含有率」とは、製鋼スラグ中のMgが全てMgOとして存在していると仮定して、Mg定量値から換算して求めた値である。
【0038】
[電気炉スラグについて]
電気炉スラグは、電気炉で鋼を溶製するときに生成するスラグである。上述のとおり、電気炉での精錬では、粗鋼生産速度を速くすると、結果的に、スラグ中のMgO含有率が高まる場合がある。そのため、電気炉スラグのMgO含有率が質量%で8.5%を超える場合がある。
【0039】
しかしながら、上述のとおり、電気炉スラグ中のMgのほとんどは、遊離MgOとして存在するのではなく、鉱物相に含まれている。つまり、電気炉スラグでは、遊離MgOはほとんど含有されていない。その結果、従来の知見とは異なり、図1で示すとおり、電気炉スラグは膨張安定性に優れる。したがって、MgO含有率が8.5%を超える電気炉スラグは、鉄鋼スラグ水和固化体の骨材の原料として適切である。
【0040】
[MgO含有率の求め方]
電気炉スラグ中のMgO含有率(質量%)は次の方法で求める。電気炉スラグから試料を採取する。採取した試料に対して、JIS M 8205:2000「鉄鉱石-蛍光X線分析法」に準拠した蛍光X線分析を実施して、試料中のMg量を定量する。得られたMgの定量値に基づいて、試料中のMgが全てMgOとして存在していると仮定して、MgOに換算した含有率を、質量%でのMgO含有率(%)とする。
【0041】
[電気炉スラグ中のMg化合物中のMg含有鉱物相について]
本明細書において、Mgを含有する化合物を「Mg化合物」と称する。電気炉スラグ中のMg化合物は、主としてMgを含有する鉱物相であるMg含有鉱物相である。
【0042】
Mg含有鉱物相は、例えば、オケルマナイト(Akermanite:Ca(Mg,Al)(Si,Al))、ダイオプサイド(Diopside:Ca(Mg,Al)(Si,Al))、モンチセライト(Monticellite:CaMgSiO)、及び、スピネル(Spinel:Mg(Al,Cr))からなる群から選択される1種以上からなる。
【0043】
好ましくは、電気炉スラグ中のMg化合物のうち、Mg含有鉱物相の含有率は質量%で50%以上である。つまり、電気炉スラグ中のMg化合物の総質量を100%としたときの、Mg含有鉱物相の含有率が50%以上である。Mg含有鉱物相の含有率のさらに好ましい下限は55%であり、さらに好ましくは60%であり、さらに好ましくは70%である。
【0044】
[Mg含有鉱物相の含有率の求め方について]
電気炉スラグ中のMg含有鉱物相の質量%での含有率は、X線回折分析法(XRD:X-ray Diffraction)を用いて、次の方法で求める。電気炉スラグから試料を採取する。採取された試料を用いて、X線回折分析法(XRD)により回折プロファイルを得る。XRD回折分析では、管球をCu、管電圧を40kV、管電流を200mA、回折角(2θ)を5~90°、ステップを0.02°、スキャンスピードを4°/分、発散・散乱スリットを1/2deg、受光スリットを0.3mmとする。得られた回折プロファイルにおける回折角とピーク強度とに基づいて、Mg化合物、及び、Mg含有鉱物相とを特定する。
【0045】
特定されたMg化合物のうちのMg含有鉱物相の質量%での含有率を次の方法で求める。得られた回折プロファイルにおいて、特定された各Mg化合物のピーク面積を求める。全てのMg化合物のピーク面積の合計に対する、全てのMg含有鉱物相のピーク面積の合計の比率を、Mg含有鉱物相の含有率(質量%)と定義する。
【0046】
[電気炉スラグ中のMg化合物中の遊離MgOについて]
上述のとおり、電気炉スラグ中のMg化合物は主としてMg含有鉱物相であり、遊離MgOはほとんど存在しない。電気炉スラグ中のMg化合物のうち、遊離MgOの含有率は質量%で5%以下である。
【0047】
[(工程2)練混ぜ工程]
練混ぜ工程では、次の原料1~原料3を以下に示す配合量で練混ぜる。
(原料1)製鋼スラグ:1mあたりで1000~2000kg
(原料2)結合材:1mあたりで300~400kg
(原料3)水:1mあたりで150~250kg
以下、各原料について説明する。
【0048】
[(原料1)製鋼スラグ:1m当たりで1000~2000kg]
電気炉での酸化処理(溶製)により生成する電気炉スラグは、鉄鋼スラグ水和固化体の骨材として利用される。製鋼スラグは1m当たりで1000~2000kg配合する。
【0049】
本実施形態では、製鋼スラグにおいて、電気炉スラグの配合率を質量%で25超~100%とする。また、MgO含有率が質量%で8.5%以下の低Mg含有製鋼スラグの配合率を質量%で0~75%未満とする。ここで、低Mg含有製鋼スラグとは、製鋼スラグのうち、JIS M 8205:2000に準拠して求めたMgO含有率が8.5%以下の製鋼スラグである。低Mg含有製鋼スラグは、任意の原料である。低Mg含有製鋼スラグは例えば、転炉スラグである。
【0050】
電気炉スラグの粒径は特に限定されず、周知の粒度でよい。電気炉スラグの粒度は例えば、40mm以下である。粒径が40mm以下であれば、後述のエージング処理工程において、電気炉スラグのエージング処理効率が高まる。電気炉スラグの好ましい粒度は25mm以下である。
【0051】
製鋼スラグ中の電気炉スラグの配合率の好ましい下限は30%であり、さらに好ましくは35%であり、さらに好ましくは40%である。低Mg含有製鋼スラグの配合率の好ましい上限は70%であり、さらに好ましくは65%であり、さらに好ましくは60%である。製鋼スラグの1m当たりの量の好ましい下限は1100kgであり、さらに好ましくは1150kgである。製鋼スラグの1m当たりの量の好ましい上限は1900kgであり、さらに好ましくは1800kgである。
【0052】
[(原料2)結合材:1mあたりで300~400kg]
本実施形態において、結合材は1mあたりで300~400kg配合する。結合材は周知の結合材を用いればよい。結合材はシリカ含有物質及びポラゾン反応性を有する材料である。結合材は例えば、高炉スラグ微粉末、高炉セメント、及び、ポルトランドセメントからなる群から選択される1種以上からなる。結合材の1m当たりの量の好ましい下限は310kgであり、さらに好ましくは320kgである。結合材の1m当たりの量の好ましい上限は380kgであり、さらに好ましくは360kgであり、さらに好ましくは350kgである。
【0053】
高炉スラグ微粉末は、高炉水砕スラグを粉砕加工した粉末である。高炉スラグ微粉末は、JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)に規定される通り、粉末度に応じて4000、6000、8000の3種類が存在する。本実施形態では、3種類の粉末度の高炉スラグ微粉末のいずれか1種以上を結合材として用いてもよい。
【0054】
[(原料3)水:1mあたりで150~250kg]
本実施形態において、水は1mあたりで150~250kg配合する。原料として利用する水は、例えば、通常の工業用水である。水の1m当たりの量の好ましい下限は155kgであり、さらに好ましくは160kgである。水の1m当たりの量の好ましい上限は245kgであり、さらに好ましくは240kgである。
【0055】
[練混ぜについて]
練混ぜ工程では、上述の原料1~原料3を上述の配合として練混ぜる。このとき、水和反応が生じ、原料1~原料3の混合物が固化する。以上の工程により、本実施形態の鉄鋼スラグ水和固化体が製造される。本実施形態の水和固化体の製造方法では、電気炉スラグを骨材として利用して、鉄鋼スラグ水和固化体を製造する。製造された水和固化体は、時間が経過しても膨張しにくい。そのため、変形に伴う亀裂の発生が抑制される。
【0056】
[原料1~原料3以外の任意の原料について]
原料1~原料3だけでなく、任意の原料として、次の原料4を原料1~原料3とともに配合して練り混ぜてもよい。
(原料4)高炉スラグ:1mあたりで0~700kg
【0057】
高炉スラグは任意の原料である。つまり、高炉スラグは配合しなくてもよい。配合する場合、高炉スラグは1mあたりで700kg以下配合する。高炉スラグは1mあたりで100kg以上配合するのが好ましく、さらに好ましくは300kg以上配合する。高炉スラグの1mあたりの好ましい上限は680kgであり、さらに好ましくは660kgである。
【0058】
高炉スラグは例えば、高炉水砕スラグである。好ましくは、高炉水砕スラグは、JIS A 5011-1「コンクリート用スラグ骨材-第1部:高炉スラグ骨材」に適合する。高炉水砕スラグの粒度は、公称目開きが5mmのふるいを通過する質量百分率が100%である。高炉水砕スラグは細骨材として利用してもよい。
【0059】
[原料4以外の任意の原料について]
本実施形態の鉄鋼スラグ水和固化体の原料として、上述の原料1~原料4以外の他の原料を含んでもよい。原料1~原料4以外の他の原料は例えば、JIS A 6201:2015に準拠した周知のフライアッシュ、周知のアルカリ刺激材、JIS A 6204:2011に準拠した周知のAE剤、AE減水剤、高機能AE減水剤、樹脂繊維等である。
【0060】
[任意の製造工程について:エージング処理工程]
上述のとおり、本実施形態の鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法は、任意の工程として、準備工程後であって練混ぜ工程前に、エージング処理工程を実施してもよい。つまり、エージング処理工程は、任意の工程である。
【0061】
エージング処理とは、製鋼スラグの水和反応を進行させる処理である。エージング処理工程を実施する場合、準備した電気炉スラグに対して、大気圧以上で5日以上、水蒸気を供給する。つまり、大気圧以上の湿潤雰囲気下で5日以上電気炉スラグを保持する。
【0062】
エージング処理を実施する期間の上限は特に限定されない。エージング処理は例えば、大気圧以上で5日以上20日以下実施すればよい。
【0063】
電気炉スラグへの水蒸気の供給方法として、電気炉スラグの表面に水蒸気を供給してもよい。また、特開2009-280445号公報に記載されているように、電気炉スラグを容器に入れ、容器内の製鋼スラグの内部に蒸気配管を通して、水蒸気を供給してもよい。この場合、電気炉スラグが収納される容器を耐圧容器とし、大気圧よりも高い圧力で水蒸気を供給してもよい。この場合は、エージング処理を例えば、1時間以上24時間以下で実施すればよい。
【実施例0064】
以下、実施例により本実施形態の鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法の効果をさらに具体的に説明する。以下の実施例での条件は、本実施形態の鉄鋼スラグ水和固化体の製造方法の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例である。したがって、本実施形態の製造方法はこの一条件例に限定されない。
【0065】
表1に示す原料番号の製鋼スラグを準備した。各原料番号の製鋼スラグに対して、JIS M 8205:2000「鉄鉱石-蛍光X線分析法」に準拠して、MgO含有率(質量%)を求めた。
【0066】
【表1】
【0067】
[エージング処理工程]
表1に示す製鋼スラグのうち、転炉A及び転炉Bの製鋼スラグに対して、次のエージング処理を実施した。転炉A及び転炉Bの製鋼スラグを屋外に載置した。各製鋼スラグに対して、水蒸気を吹き付けながら、製鋼スラグの温度が100℃になるまで昇温した。昇温後、製鋼スラグを100℃で5日間保持した。5日間保持した後、1日かけて常温まで降温した。
【0068】
また、表1に示す製鋼スラグのうち、電気炉及び還元炉の製鋼スラグに対して、次のエージング処理を実施した。電気炉及び還元炉の製鋼スラグを屋外に載置した。各製鋼スラグに対して、水蒸気を吹き付けながら、製鋼スラグの温度が100℃になるまで昇温した。昇温後、製鋼スラグを100℃で12日間保持した。12日間保持した後、1日かけて常温まで降温した。
【0069】
[練混ぜ工程]
練混ぜ工程では、次の原料を準備した。
(原料1)製鋼スラグ
製鋼スラグとして、表1に示す製鋼スラグを準備した。
(原料2)結合材
結合材として、市販の太平洋セメント株式会社製の高炉セメントB種を準備した。
(原料3)水
水として、工業用水を準備した。
(原料4)高炉スラグ
高炉スラグとして、高炉水砕スラグを準備した。高炉水砕スラグの粒度は5mm以下であった。
なお、上記以外の原料として、竹本油脂株式会社製の高機能AE減水剤(商品名:チューポールEX60)と、萩原工業株式会社製のポリプロピレン繊維(商品名:バルリンク)とを準備した。
【0070】
上述の原料を、表2に示す配合(kg/m)で練混ぜて、型枠に入れて鉄鋼スラグ水和固化体(以下、供試体という)を製造した。なお、表2中の「配合率(%)」は、低Mg含有製鋼スラグ(転炉A及び転炉B)及び電気炉スラグの合計質量に対する電気炉スラグの質量の比率(質量%)を示す。
【0071】
【表2】
【0072】
具体的には、JIS A 1132:2020に準拠して、各試験番号の供試体を製造した。型枠の取り外しは、打ち込み48時間後とした。以上の製造工程により、表2に示す各試験番号の供試体を製造した。
【0073】
[評価試験]
製造した供試体(鉄鋼スラグ水和固化体)に対して、次の評価試験を実施した。
(試験1)圧縮強度評価試験
(試験2)膨張安定性評価試験
以下、各試験について説明する。
【0074】
[(試験1)圧縮強度評価試験]
供試体の養生温度を20±3℃とし、型枠を取り外した後7日間、28日間とそれぞれ湿潤養生をおこなった。これらの供試体に対してJIS A 1108:2018に準拠して圧縮強度(N/mm)を求めた。得られた圧縮強度を表3に示す。表3に示すとおり、試験番号8では、製鋼スラグが還元炉スラグであったため、圧縮強度が低かった。これに対して、試験番号1~7及び9では、十分な圧縮強度が得られた。
【0075】
【表3】
【0076】
[(試験2)膨張安定性評価試験]
各試験番号の10個の供試体に対して、JIS A 5015:2013の附属書Bに規定された水浸膨張試験方法に倣った、次の膨張安定性評価試験を実施した。
【0077】
打ち込み48時間後に型枠を取り外した各供試体を、水を貯留する養生装置に浸漬した。このとき、養生装置の水面は、供試体の上面から15mm以上高くなるようにした。各供試体を養生装置の水に浸漬した後、養生装置内の水を80℃に昇温した。80±3℃となった時点から水温を保持した。表4に示す日程毎に供試体を養生装置から取出し、常温まで放冷した。その後、供試体の外観を目視観察して、割れの有無を確認した。割れは、次のとおり評価した。
○:割れが確認されない
×:クラック幅0.3mm以上でクラック深さ4mm以上のヒビ割れが確認できる
80±3℃に水温を保持してから5日目、10日目、15日目の供試体の外観を目視観察した。なお、目視観察が完了した供試体は、80±3℃の水温に保たれた養生装置に再び浸漬した。試験結果を表4に示す。
【0078】
【表4】
【0079】
表1~表4を参照して、試験番号1~5の供試体では、製鋼スラグとして電気炉スラグを配合し、かつ、配合率が25%超であった。そのため、これらの試験番号の供試体では、試験番号6、7及び9と同様に、15日目までにクラック幅0.3mm以上でクラック深さ4mm以上のヒビ割れは確認されなかった(上記評価で「○」に相当)。つまり、本発明例の鉄鋼スラグ水和固化体は、電気炉スラグを多く含有しているにもかかわらず、従来の鉄鋼スラグ水和固化体と同等レベルで膨張に伴う割れを抑制できた。
【0080】
一方、還元炉スラグを製鋼スラグとして用いた試験番号8では、10日目までにクラック幅0.3mm以上でクラック深さ4mm以上のヒビ割れ(上記評価で「×」に相当)が確認された。
【0081】
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
図1