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特開2024-180431液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180431
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物
(51)【国際特許分類】
   A24B 15/167 20200101AFI20241219BHJP
   A24F 40/20 20200101ALI20241219BHJP
【FI】
A24B15/167
A24F40/20
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024176344
(22)【出願日】2024-10-08
(62)【分割の表示】P 2020018073の分割
【原出願日】2020-02-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004569
【氏名又は名称】日本たばこ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】香島 貴純
(72)【発明者】
【氏名】阿部 由寛
(57)【要約】
【課題】本発明は、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物に関する。
【解決手段】本発明の液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物は、
(1)プロピレングリコールおよびグリセリン、
(2)ニコチン、
(3)安息香酸、並びに、
(4)安息香酸以外の有機酸、
を含む。
本発明の液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物は、また、
(1)プロピレングリコールおよびグリセリン、
(2)ニコチン、並びに、
(4)安息香酸以外の有機酸、
を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物であって、
(1)プロピレングリコールおよびグリセリン、
(2)ニコチン、
(3)安息香酸、
(4)乳酸、並びに
(5)乳酸および安息香酸以外の有機酸、
を含み、
(4)乳酸と、(5)前記有機酸とのモル比が、5:1~1:1である、
前記液体組成物。
【請求項2】
(2)ニコチンと、(3)安息香酸と(4)乳酸、とのモル比が、1:0.85~1:1.15の範囲である、請求項1に記載の液体組成物。
【請求項3】
(5)前記有機酸として、酒石酸、フマル酸、レブリン酸、マロン酸、酢酸、アジピン酸、クエン酸、リンゴ酸、ピルビン酸、ソルビン酸およびこれらの混合物、から選択されるいずれかを含む、請求項1に記載の液体組成物。
【請求項4】
(5)前記有機酸として、酒石酸、フマル酸、レブリン酸、マロン酸およびこれらの混合物、から選択されるいずれかを含む、請求項1に記載の液体組成物。
【請求項5】
(5)前記有機酸として酒石酸を含む、請求項1に記載の液体組成物。
【請求項6】
(2)ニコチンと、(3)安息香酸とのモル比が、1:0.7~1:0.15の範囲である、請求項1-5のいずれか1項に記載の液体組成物。
【請求項7】
(2)ニコチンと、(4)乳酸および(5)前記有機酸の合計とのモル比が、1:0.9~1:0.3の範囲である、請求項1-6のいずれか1項に記載の液体組成物。
【請求項8】
(4)乳酸および(5)前記有機酸のグリセリンへの溶解度が重量モル濃度で0.32mol/kg以上である、請求項1-7のいずれか1項に記載の液体組成物。
【請求項9】
実質的に水分を含まない、請求項1-8のいずれか1項に記載の液体組成物。
【請求項10】
さらに、香料を含む、請求項1-9のいずれか1項に記載の液体組成物。
【請求項11】
(i)プロピレングリコールに、ニコチンおよび安息香酸を溶解して調製液(A)を調製する;
(ii)グリセリンに、乳酸を溶解して調製液(B)を調製する;
(iii)プロピレングリコールまたはグリセリンに、1以上の安息香酸および乳酸以外の有機酸、を溶解して調製液(C)を調製する;そして、
(iv)調製液(A)と調製液(B)と調製液(C)を混合する、
工程を含む、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物の調製方法。
【請求項12】
(i)プロピレングリコールに、ニコチンおよび安息香酸を溶解して調製液(A)を調製する;
(v)調製液(A)に、グリセリン、乳酸、および1以上の安息香酸および乳酸以外の有機酸、を溶解する、
工程を含む、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物の調製方法。
【請求項13】
さらに、香料を、工程(i)より後の工程において添加する、ことを含む、請求項11または12に記載の調製方法。
【請求項14】
請求項1-10のいずれか1項に記載の液体組成物を含む、液体加熱式の加熱型香味吸引器。
【請求項15】
加熱型香味吸引器用の液体組成物における安息香酸の火薬様の臭気を低減する方法であって、
前記加熱型香味吸引器用の液体組成物は、(1)プロピレングリコールおよびグリセリン、(2)ニコチンおよび(3)安息香酸を含み、
前記加熱型香味吸引器用の液体組成物にさらに(4)乳酸および(5)乳酸と安息香酸以外の有機酸を含ませる、
ことを含み、
(4)乳酸と、(5)前記有機酸とのモル比が、5:1~1:1である、
前記方法。
【請求項16】
(5)前記有機酸として、酒石酸、フマル酸、レブリン酸、マロン酸、酢酸、アジピン酸、クエン酸、リンゴ酸、ピルビン酸、ソルビン酸およびこれらの混合物、から選択されるいずれかを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物であって、
(1)プロピレングリコールおよびグリセリン、
(2)ニコチン、
(4)乳酸、並びに
(5)乳酸および安息香酸以外の有機酸、
を含み、
(4)乳酸と、(5)前記有機酸とのモル比が、5:1~1:1である、
前記液体組成物。
【請求項18】
(2)ニコチンと(4)乳酸および(5)前記有機酸の合計とのモル比が、1:0.85~1:1.15の範囲である、請求項17に記載の液体組成物。
【請求項19】
(5)前記有機酸として、酒石酸、フマル酸、レブリン酸、マロン酸、酢酸、アジピン酸、クエン酸、リンゴ酸、ピルビン酸、ソルビン酸およびこれらの混合物、から選択されるいずれかを含む、請求項17に記載の液体組成物。
【請求項20】
(4)乳酸および(5)前記有機酸の、グリセリンへの溶解度が重量モル濃度で0.32mol/kg以上である、請求項17-19のいずれか1項に記載の液体組成物。
【請求項21】
(i')グリセリンに、乳酸を溶解して調製液(B)を調製する;
(ii')プロピレングリコールまたはグリセリンに、1以上の安息香酸および乳酸以外の有機酸、を溶解して調製液(C)を調製する;そして、
(iii')ニコチンと調製液(B)と調製液(C)を混合する、
工程を含む、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物の調製方法。
【請求項22】
さらに、香料を添加する、ことを含む、請求項21に記載の調製方法。
【請求項23】
請求項17-20のいずれか1項に記載の液体組成物を含む、液体加熱式の加熱型香味吸引器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物およびその調製方法に関する。本発明はまた、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物を含む、液体加熱式の加熱型香味吸引器に関する。本発明はさらに、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物における安息香酸の火薬様の臭気を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体加熱式の加熱型香味吸引器は、電気的熱源または化学反応による熱源で直接的または間接的に液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物を加熱してエアロゾルを発生させ、吸口部材を通じて口腔中にデリバリーする香味吸引器である。一般的な、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物(電子たばこ用リキッド(通称e-liquidやe-juiceと呼ばれる))は、プロピレングリコール(PG)、グリセリン(GL)、ニコチン、および香料から構成される。
【0003】
特表2018-532377は、eベイピング装置の液剤を記載している。当該文献の液剤は、プロピレングリコールを含み、実質的にグリセロールを含まないものである。
特表2016-520061は、エアロゾル装置用のニコチン塩製剤とその方法について、記載している。当該文献は、ニコチン塩製剤のニコチン塩を形成するための酸を、蒸気圧、融点、沸点等で特定している。
【0004】
e-liquid中のニコチンの役割は、吸入時の吸いごたえを付与すると言われている。一方で、e-liquid中のニコチン濃度が高くなるほど吸入時の口腔や喉への刺激(本明細書において、「香喫味阻害感」と呼称する場合がある)を伴い、ユーザーがエアロゾル吸引時に吸いにくさを感じるということもしばしば起きる。このような問題を解決する方法として、e-liquid中に安息香酸(Benzoic acid、BA)を含有する製品が近年広く普及するようになった。塩基性物質であるニコチンが酸性物質である安息香酸によって中和され、加熱時のニコチンの気液平衡に作用してニコチンによる香喫味阻害感を低減するというメカニズムである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2018-532377
【特許文献2】特表2016-520061
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
e-liquid中にニコチンによる香喫味阻害感(ニコチンインパクト)の低減のために安息香酸を含む製品の場合、加熱時に安息香酸特有の香気(火薬様、本明細書において、「火薬様の臭気」または「安息香酸臭」と呼称する場合がある)を発現し、その安息香酸臭によってe-liquid中の香料の発現が阻害されてしまい香喫味を損なってしまうという問題があることを発明者らは見出した。また、安息香酸はPGやGLへの溶解性が低く、e-liquid製造時に安息香酸を溶解させるため長時間の攪拌工程や加熱工程などが必要となるため、内容成分の揮発/変質などの製品品質面での悪影響、ならびに製造効率面での影響も懸念される。
【0007】
本発明者らは、安息香酸のみを配合したe-liquidには、このような、官能特性、製品品質、製造効率などの様々な問題点が存在する、ということに気づき、問題解決の
ための研究を行った。そして、以下の観点で開発を実施することにより、本発明を想到した。
【0008】
-安息香酸の量を低減して安息香酸臭を低減させる;
-低減した分の安息香酸の代わりに他の有機酸を代用するが、ニコチンにより引き起こされる香喫味阻害感低減効果や官能特性は安息香酸単品使用品と同等レベルを担保する;
-開発した組成の有機酸を含むe-liquidを効率的に配合するための配合手順を確立する。
【0009】
本発明者らは、また、ニコチンを含む加熱型香味吸引器用の液体組成物において、安息香酸を用いず、有機酸でのみを用いる場合であっても、ニコチンによる香喫味阻害感(ニコチンインパクト)が低減されることを見出し、安息香酸を含まない液体組成物に関する本発明を想到した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
限定されるわけではないが、本発明は、以下の態様を含む。
[態様1]
液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物であって、
(1)プロピレングリコールおよびグリセリン、
(2)ニコチン、
(3)安息香酸、並びに、
(4)安息香酸以外の有機酸、
を含む、前記液体組成物。
[態様2]
(2)ニコチンと、(3)安息香酸と(4)安息香酸以外の有機酸との合計、とのモル比が、1:0.85~1:1.15の範囲である、態様1に記載の液体組成物。
[態様3]
(4)安息香酸以外の有機酸として、乳酸を含む、態様1または2に記載の液体組成物。
[態様4]
(4)安息香酸以外の有機酸として、乳酸に加えて、酒石酸、フマル酸、レブリン酸、マロン酸、酢酸、アジピン酸、クエン酸、リンゴ酸、ピルビン酸、ソルビン酸およびこれらの混合物、から選択されるいずれかを含む、態様3に記載の液体組成物。
[態様5]
(4)安息香酸以外の有機酸として、乳酸に加えて、酒石酸、フマル酸、レブリン酸、マロン酸およびこれらの混合物、から選択されるいずれかを含む、態様3項に記載の液体組成物。
[態様6]
(4)安息香酸以外の有機酸として、乳酸に加えて、酒石酸を含む、態様3に記載の液体組成物。
[態様7]
(2)ニコチンと、(3)安息香酸とのモル比が、1:0.7~1:0.15の範囲である、態様1-6のいずれか1項に記載の液体組成物。
[態様8]
(2)ニコチンと、(4)安息香酸以外の有機酸とのモル比が、1:0.9~1:0.3の範囲である、態様1-7のいずれか1項に記載の液体組成物。
[態様9]
(4)安息香酸以外の有機酸が、グリセリンへの溶解度が重量モル濃度で0.32mol/kg以上である、態様1-8のいずれか1項に記載の液体組成物。
[態様10]
実質的に水分を含まない、態様1-9のいずれか1項に記載の液体組成物。
[態様11]
さらに、香料を含む、態様1-10のいずれか1項に記載の組成物。
[態様12]
(i)プロピレングリコールに、ニコチンおよび安息香酸を溶解して調製液(A)を調製する;
(ii)グリセリンに、乳酸を溶解して調製液(B)を調製する;
(iii)プロピレングリコールまたはグリセリンに、所望により1以上の安息香酸および乳酸以外の有機酸、を溶解して調製液(C)を調製する;そして、
(iv)調製液(A)と調製液(B)と調製液(C)を混合する、
工程を含む、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物の調製方法。
[態様13]
(i)プロピレングリコールに、ニコチンおよび安息香酸を溶解して調製液(A)を調製する;
(v)調製液(A)に、グリセリン、乳酸、および所望により1以上の安息香酸および乳酸以外の有機酸、を溶解する、
工程を含む、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物の調製方法。
[態様14]
さらに、香料を、工程(i)より後の工程において添加する、ことを含む、態様12または13に記載の調製方法。
[態様15]
態様1-14のいずれか1項に記載の液体組成物を含む、液体加熱式の加熱型香味吸引器。
[態様16]
加熱型香味吸引器用の液体組成物における安息香酸の火薬様の臭気を低減する方法であって、
前記加熱型香味吸引器用の液体組成物は、(1)プロピレングリコールおよびグリセリン、(2)ニコチンおよび(3)安息香酸を含み、
前記加熱型香味吸引器用の液体組成物にさらに(4)安息香酸以外の有機酸を含ませる、
ことを含む、前記方法。
[態様17]
(4)安息香酸以外の有機酸として、乳酸を含む、態様16に記載の方法。
[態様18]
(4)安息香酸以外の有機酸として、乳酸に加えて、酒石酸、フマル酸、レブリン酸、マロン酸、酢酸、アジピン酸、クエン酸、リンゴ酸、ピルビン酸、ソルビン酸およびこれらの混合物、から選択されるいずれかを含む、態様17に記載の方法。
[態様19]
液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物であって、
(1)プロピレングリコールおよびグリセリン、
(2)ニコチン、並びに
(4)安息香酸以外の有機酸、
を含む、前記液体組成物。
[態様20]
(2)ニコチンと(4)安息香酸以外の有機酸とのモル比が、1:0.85~1:1.15の範囲である、態様19に記載の液体組成物。
[態様21]
(4)安息香酸以外の有機酸として、乳酸を含む、態様19または20に記載の液体組成物。
[態様22]
(4)安息香酸以外の有機酸として、乳酸に加えて、酒石酸、フマル酸、レブリン酸、マロン酸、酢酸、アジピン酸、クエン酸、リンゴ酸、ピルビン酸、ソルビン酸およびこれらの混合物、から選択されるいずれかを含む、態様21に記載の液体組成物。
[態様23]
(4)安息香酸以外の有機酸が、グリセリンへの溶解度が重量モル濃度で0.32mol/kg以上である、態様19-22のいずれか1項に記載の液体組成物。
[態様24]
(i')グリセリンに、乳酸を溶解して調製液(B)を調製する;
(ii')プロピレングリコールまたはグリセリンに、所望により1以上の安息香酸お
よび乳酸以外の有機酸、を溶解して調製液(C)を調製する;そして、
(iii')ニコチンと調製液(B)と調製液(C)を混合する、
工程を含む、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物の調製方法。
[態様25]
さらに、香料を添加する、ことを含む、態様24に記載の調製方法。
[態様26]
態様19-25のいずれか1項に記載の液体組成物を含む、液体加熱式の加熱型香味吸引器。
【発明の効果】
【0011】
本発明の液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物(I)は、安息香酸とその他の有機酸との混合物によりニコチンの香喫味阻害感が緩和され、かつ、加熱時に生じる安息香酸の火薬様の臭気も緩和されている、という優れた特徴を有する。
【0012】
また、上記液体組成物の調製方法は、安息香酸をニコチン共存下で、先ずプロピレングリコールに溶解させてから、グリセリンと混合することにより、加熱処理することなく効率良く短時間で、グリセリンに溶解しにくい安息香酸を含む液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物を効率良く調製することを可能にしたものである。
【0013】
本発明の液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物(II)は、また、安息香酸を使用することなく、安息香酸以外の有機酸のみでニコチンの香喫味阻害感が緩和される、という効果を有する。当該液体組成物は安息香酸を使用しないので、その調製方法は、安息香酸をニコチン共存下で、先ずプロピレングリコールに溶解させる、という工程を必要としない。ニコチンは適宜、例えば、使用する有機酸をプロピレングリコールまたはグリセリンに溶解させた後に、混合するすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
非限定的に、本発明は、以下の態様を含む。
1.液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物(I)
本発明は、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物に関する。
【0015】
一態様において、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物は、
(1)プロピレングリコールおよびグリセリン、
(2)ニコチン、
(3)安息香酸、並びに、
(4)安息香酸以外の有機酸、
を含む。
【0016】
非燃焼型香味吸引器は、燃焼を伴わずに香味を吸引することを可能とする香味吸引器である。非燃焼型香味吸引器は、電気的熱源または化学反応による熱源を伴う、加熱型香味吸引器と、熱源を伴わない非加熱型香味吸引器とを含む。
【0017】
非燃焼型香味吸引器の一形態である「液体加熱式の加熱型香味吸引器」は、ニコチンを含む液体組成物(エアロゾル源)を含むカートリッジを有し、電気的熱源または化学反応による熱源でエアロゾル源(液体)を直接的または間接的に加熱し、ニコチンやフレーバーを含んだエアロゾルを発生させ、吸口部材を通じて口腔中にデリバリーする香味吸引器である。
【0018】
液体加熱式の加熱型香味吸引器は、一態様において、グリセリン、プロピレングリコール等の液体、またはそれらの混合溶液であるエアロゾル源を含浸させた多孔質または繊維質の物体を、電気加熱して発生させた蒸気と粒子状物質が混合した気体が、香味吸引器を通して引き込まれた空気中に混入される。通常、消費者は、香味吸引器の端(口側の端またはフィルター端、マウスピース端)で引き込むことによって、当該混合気体を吸引する。
【0019】
一態様において、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物は、溶媒であるプロピレングリコール、グリセリン中に、(2)ニコチン、(3)安息香酸および(4)安息香酸以外の有機酸が溶解している。本明細書において、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物を「e-liquid」と呼称する場合がある。非限定的に、安息香酸はニコチンによる香喫味阻害感を緩和し、有機酸以外の有機酸は安息香酸による火薬様の臭気を軽減する。
【0020】
一態様において、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物において、(2)ニコチンと、(3)安息香酸と(4)安息香酸以外の有機酸との合計、とのモル比は、3:0.1~0.1:3、2:0.5~0.5:2、1:0.85~1:1.15の範囲である。好ましい態様において、(2)ニコチンと、(3)安息香酸と(4)安息香酸以外の有機酸との合計、とのモル比は、1:0.85~1:1.15の範囲である。
【0021】
一態様において、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物は、(4)安息香酸以外の有機酸を含む。「有機酸」は、有機化合物の酸の総称である。大半の有機酸はカルボキシル基を有するカルボン酸またはスルホ基を有するスルホン酸である。本発明の液体組成物に使用される(4)安息香酸以外の有機酸の種類は特に限定されない。(4)安息香酸以外の有機酸の種類の数も特に限定されず、2種類以上の(4)安息香酸以外の有機酸を含んでも良い。非限定的に、一態様において、(4)安息香酸以外の有機酸は、乳酸を含む。
【0022】
さらに、一態様において、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物は、(4)安息香酸以外の有機酸として、乳酸に加えて、酒石酸、フマル酸、レブリン酸、マロン酸、酢酸、アジピン酸、クエン酸、、リンゴ酸、ピルビン酸、ソルビン酸およびこれらの混合物、から選択されるいずれかを含んでもよい。非限定的に、(4)安息香酸以外の有機酸として、乳酸に加えて、酒石酸、フマル酸、レブリン酸、マロン酸およびこれらの混合物、から選択されるいずれかを含んでもよい。非限定的に、(4)安息香酸以外の有機酸として、乳酸に加えて、酒石酸を含んでもよい。液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物に含まれる有機酸は、食品添加物として認められているような、生物に対する安全性が認められているような有機酸が好ましい。
【0023】
液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物において、(4)安息香酸以外の有機酸として、乳酸と乳酸以外の有機酸のモル比は特にモル比は特に限定されない。一態様において、乳酸と乳酸以外の有機酸のモル比は、10:1~1:2、5:1~1:1、4:1:~2:1である。一態様において、乳酸と乳酸以外の有機酸のモル比は、約3:1である。
【0024】
液体組成物として調製するために、「安息香酸以外の有機酸」は、グリセリンおよび/またはプロピレングリコ-ルに溶解可能な有機酸であることが好ましい。非限定的に、一態様において、安息香酸以外の有機酸は、グリセリンへの溶解度が重量モル濃度で0.32mol/kg以上である。乳酸は、安息香酸やその他の有機酸と比較してグリセリンおよびプロプレングリコールへの溶解性が比較的良い、という性質を有する。他の有機酸には、例えば、酒石酸やリンゴ酸のようにグリセリンよりもプロピレングリコールの方が高い溶解速度を示すものが存在する(実施例8)。
【0025】
一態様において、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物において、(2)ニコチンと(3)安息香酸とのモル比が、1:0.9~1:0.1、1:0.7~1:0.15の範囲である。好ましい態様において、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物において、(2)ニコチンに対する(3)安息香酸のモル比は、60%以下である。
【0026】
一態様において、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物において、(2)ニコチンと(4)安息香酸以外の有機酸とのモル比が、2:1~1:0.1、1:0.9~1:0.3の範囲である。一態様において、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物において、(2)ニコチンと(4)安息香酸以外の有機酸とのモル比が、1:0.9~1:0.3の範囲である。
【0027】
非限定的に、プロピレングリコールとグリセリンの比は、1:1~1:3、より好ましくは1:1~1:2.5、より好ましくは、1:約2.4である。
一態様において、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物中の水分量は、10重量%以下、5重量%以下、3重量%以下、1.5重量%以下である。一態様において、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物は、実質的に水分を含まない。「実質的に水分を含まない」とは、液体組成物を調製する工程において「水」を添加していないことを意味する。
【0028】
液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物は、(1)-(4)の成分の他に、さらに、液体加熱式の加熱型香味吸引器のエアロゾル源を構成するための成分を含んでもよい、一態様において、液体組成物は、香料を含む。
【0029】
2.液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物の調製方法(I)
本発明は、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物の調製方法に関する。
一態様において、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物の調製方法は、
(i)プロピレングリコールに、ニコチンおよび安息香酸を溶解して調製液(A)を調製する;
(ii)グリセリンに、乳酸を溶解して調製液(B)を調製する;
(iii)プロピレングリコールまたはグリセリンに、所望により1以上の安息香酸および乳酸以外の有機酸、を溶解して調製液(C)を調製する;そして、
(iv)調製液(A)と調製液(B)と調製液(C)を混合する、
工程を含む。
【0030】
液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物に関する事項は、「1.液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物」に記載した通りである。
安息香酸はグリセリンに溶解しにくい、という性質を有する。乳酸は、安息香酸やその他の有機酸と比較してグリセリンおよびプロプレングリコールへの溶解性が比較的良い、という性質を有する。他の有機酸には、例えば、酒石酸やリンゴ酸、はグリセリンよりもプロピレングリコールの方が高い溶解速度を示すものが存在する。本発明の調製方法において、先ず、プロピレングリコールにニコチンと安息香酸を溶解し(調製液(A))(工
程(i))、それとは別に、グリセリンに乳酸を溶解し(調製液(B))(工程(ii))、さらに、プロピレングリコールまたはグリセリンに、所望により1以上の安息香酸および乳酸以外の有機酸、を溶解し(調製液(C))(工程(iii))、それぞれ各有機酸が溶解した後に、調製液(A)と調製液(B)と調製液(C)を混合する。これにより、グリセリンに溶解しにくい安息香酸を含む液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物も、短時間で効率よく調製することが可能になる。
【0031】
一態様において、安息香酸以外の有機酸が、グリセリン、プロピレングリコールに溶解しやすい酸、例えば、乳酸、のみの場合、調製液(B)を調製液(A)と別個に調製することなく、調製液(A)の調製後、グリセリン、有機酸を調製液に直接添加してもよい。一態様において、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物の調製方法は、
(i)プロピレングリコールに、ニコチンおよび安息香酸を溶解して調製液(A)を調製する;
(v)調製液(A)に、グリセリン、乳酸、および所望により1以上の安息香酸および乳酸以外の有機酸、を溶解する、
工程を含む。
【0032】
非限定的に、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物の調製方法は、さらに、香料を、工程(i)より後の工程において添加する、ことを含む。工程(i)でプロピレングリコールに、ニコチンおよび安息香酸を溶解して調製液(A)を調製した後に香料を添加することにより、香料が配合された後の攪拌時間が短縮され、香料の成分の損失を防止する、あるいは、減少させることができる。香料等の成分の添加は、工程(i)の後であれば、調製液(A)と調製液(B)と調製液(C)を混合する工程(iv)、あるいは、調製液(A)にグリセリン、乳酸等を溶解する工程(v)の前、同時、あるいは、後のいずれであってもよい。
【0033】
3.液体加熱式の加熱型香味吸引器(I)
本発明は、液体加熱式の加熱型香味吸引器に関する。液体加熱式の加熱型香味吸引器は、本発明の液体加熱式の加熱型香味吸引器用液体組成物を含むものである。
【0034】
液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物、液体加熱式の加熱型香味吸引器に関する事項は、「1.液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物」に記載した通りである。
【0035】
4.液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物における安息香酸の火薬様の臭気を低減する方法
本発明は、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物における安息香酸の火薬様の臭気を低減する方法に関する。
【0036】
液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物における安息香酸の火薬様の臭気を低減する方法は、
前記液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物は、(1)プロピレングリコールおよびグリセリン、(2)ニコチンおよび(3)安息香酸を含み、
前記液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物にさらに(4)安息香酸以外の有機酸を含ませる、
ことを含む。
【0037】
(4)安息香酸以外の有機酸として、乳酸を含んでもよい。
一態様において、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物における安息香酸の火薬様の臭気を低減する方法は、
液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物、加熱型香味吸引器に関する事項は、「1.液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物」に記載した通りである。
【0038】
液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物における安息香酸の火薬様の臭気を低減する方法において、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物に(4)安息香酸以外の有機酸を含ませることが重要であり、(1)プロピレングリコールおよびグリセリン、(2)ニコチンおよび(3)安息香酸、(4)安息香酸以外の有機酸を加熱型香味吸引器用の液体組成物に含ませる順序は特に限定されない。
【0039】
一態様において、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物の調製は、「2.液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物の調製方法」に記載の方法に従って行ってもよい。、一態様において、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物の調製方法は、
(i)プロピレングリコールに、ニコチンおよび安息香酸を溶解して調製液(A)を調製する;
(ii)グリセリンに、乳酸を溶解して調製液(B)を調製する;
(iii)プロピレングリコールまたはグリセリンに、所望により1以上の安息香酸および乳酸以外の有機酸、を溶解して調製液(C)を調製する;そして、
(iv)調製液(A)と調製液(B)と調製液(C)を混合する、
工程を含む。
【0040】
一態様において、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物の調製方法は、
(i)プロピレングリコールに、ニコチンおよび安息香酸を溶解して調製液(A)を調製する;
(v)調製液(A)に、グリセリン、乳酸、および所望により1以上の安息香酸および乳酸以外の有機酸、を溶解する、
工程を含む。
【0041】
「安息香酸の火薬様の臭気を低減する」とは、(4)安息香酸及の有機酸を含ませない場合と比較して、安息香酸の火薬様の臭気が弱いと感じられることを意味する。一態様において、非限定的に、例えば、χ検定(ピアソンのχ検定)や二項検定における有意水準1%または有意水準5%で、安息香酸臭が「弱い」と判断される場合に、安息香酸の火薬様の臭気を低減される、ことを意味する。
【0042】
5.液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物(II)
本発明は、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物に関する。
一態様において、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物は、
(1)プロピレングリコールおよびグリセリン、
(2)ニコチン、並びに、
(4)安息香酸以外の有機酸、
を含む。
【0043】
「非燃焼型香味吸引器」に関する事項は、「1.液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物(I)」に記載した通りである。
本明細書の実施例6で示したように、複数の有機酸が、ニコチンによる香喫味阻害感(ニコチンインパクト)の低減効果に関し、安息香酸と同程度の低減効果を示すことが見いだされた。本実施例で試験した有機酸の中で、特に、乳酸は強い効果が得られた。よって、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物(II)は、安息香酸を含まず、有機酸として、安息香酸以外の有機酸(のみ)を含む態様である。
【0044】
一態様において、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物は、溶媒であるプロピ
レングリコール、グリセリン中に、(2)ニコチン、および(4)安息香酸以外の有機酸が溶解している。
【0045】
一態様において、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物において、(2)ニコチンと、(4)安息香酸以外の有機酸とのモル比は、3:0.1~0.1:3、2:0.5~0.5:2、1:0.85~1:1.15の範囲である。好ましい態様において、(2)ニコチンと、(4)安息香酸以外の有機酸とのモル比は、1:0.85~1:1.15の範囲である。
【0046】
一態様において、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物は、(4)安息香酸以外の有機酸を含む。「有機酸」は、有機化合物の酸の総称である。大半の有機酸はカルボキシル基を有するカルボン酸またはスルホ基を有するスルホン酸である。本発明の液体組成物に使用される(4)安息香酸以外の有機酸の種類は特に限定されない。(4)安息香酸以外の有機酸の種類の数も特に限定されず、2種類以上の(4)安息香酸以外の有機酸を含んでも良い。非限定的に、一態様において、(4)安息香酸以外の有機酸は、乳酸を含む。
【0047】
(4)安息香酸以外の有機酸として、乳酸に加えて、他の有機酸も加えることにより、乳酸による官能上若干の負の要素(若干の酸臭、若干の油っぽさ)が低減されうる。非限定的に、一態様において、(4)安息香酸以外の有機酸として、乳酸に加えて、酒石酸、フマル酸、レブリン酸、マロン酸、酢酸、アジピン酸、クエン酸、リンゴ酸、ピルビン酸、ソルビン酸およびこれらの混合物、から選択されるいずれかを含んでもよい。
【0048】
非限定的に、一態様において、安息香酸以外の有機酸が、グリセリンへの溶解度が重量モル濃度で0.32mol/kg以上である。
「(4)安息香酸以外の有機酸」関する事項は、本項において特に言及する以外は、「1.液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物」に記載した通りである。
【0049】
非限定的に、プロピレングリコールとグリセリンの比は、1:1~1:3、より好ましくは1:1~1:2.5、より好ましくは、1:約2.4である。
一態様において、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物中の水分量は、10重量%以下、5重量%以下、3重量%以下、1.5重量%以下である。一態様において、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物は、実質的に水分を含まない。「実質的に水分を含まない」とは、液体組成物を調製する工程において「水」を添加していないことを意味する。
【0050】
液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物は、(1)、(2)及び(4)の成分の他に、さらに、液体加熱式の加熱型香味吸引器のエアロゾル源を構成するための成分を含んでもよい、一態様において、液体組成物は、香料を含む。
【0051】
6.液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物の調製方法(II)
本発明は、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物の調製方法に関する。
一態様において、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物の調製方法は、
(i')グリセリンに、乳酸を溶解して調製液(B)を調製する;
(ii')プロピレングリコールまたはグリセリンに、所望により1以上の安息香酸お
よび乳酸以外の有機酸、を溶解して調製液(C)を調製する;そして、
(iii')ニコチンと調製液(B)と調製液(C)を混合する、
工程を含む。
【0052】
液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物に関する事項は、「5.液体加熱式の加
熱型香味吸引器用の液体組成物(II)」に記載した通りである。
乳酸は、安息香酸やその他の有機酸と比較してグリセリンおよびプロプレングリコールへの溶解性が比較的良い、という性質を有する。他の有機酸には、例えば、酒石酸やリンゴ酸、はグリセリンよりもプロピレングリコールの方が高い溶解速度を示すものが存在する。本発明の調製方法において、先ず、グリセリンに乳酸を溶解し(調製液(B))(工程(i’))、さらに、プロピレングリコールまたはグリセリンに、所望により1以上の安息香酸および乳酸以外の有機酸、を溶解し(調製液(C))(工程(ii’))、それぞれ各有機酸が溶解した後に、ニコチンと調製液(B)と調製液(C)を混合する。液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物(II)は安息香酸を使用しないので、その調製方法は、安息香酸をニコチン共存下で、先ずプロピレングリコールに溶解させる、という工程を必要としない。ニコチンは、適宜、例えば、使用する有機酸をプロピレングリコールまたはグリセリンに溶解させた後に、混合するすることができる。
【0053】
非限定的に、液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物の調製方法は、さらに、香料を添加することを含む。調製方法(II)は、比較的時間を要するプロピレングリコールに安息香酸を溶解させる工程を含まない、よって、香料を添加する時期は、特に限定されず、工程(i’)、工程(ii’)、あるいは工程(iii’)の前、同時、あるいは、後のいずれであってもよい。
【0054】
7.液体加熱式の加熱型香味吸引器(II)
本発明は、液体加熱式の加熱型香味吸引器に関する。液体加熱式の加熱型香味吸引器は、本発明の液体加熱式の加熱型香味吸引器用液体組成物を含むものである。
【0055】
液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物、液体加熱式の加熱型香味吸引器に関する事項は、「1.液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物(I)」、「5.液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物(II)」に記載した通りである。
【実施例0056】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【0057】
実施例1 安息香酸臭低減のための検討
1-1 実験の概要
本実施例では、安息香酸臭を低減させるためのアプローチとして、安息香酸の使用量を減らす検討を行った。具体的には、1)単純に安息香酸の使用量を減らす(ニコチンと等モルではなくなる)、または2)安息香酸を減らした分、単一の他の有機酸で置換して酸の不足分を補完する、2つのアプローチを検証することとした。また、安息香酸の本来の機能として期待されるニコチンにより引き起こされる香喫味阻害感の低減機能は、安息香酸をニコチンと等モル配合したものと同等レベルを担保することを開発の前提条件とした。
【0058】
なお、2)の安息香酸以外の有機酸を選定する際には、以下の2点を考慮した。
(i)食品添加物として広く認められており、好ましくは食品中に広く含有されている普遍的な酸であり、健康に対する懸念が非常に少ないものであること;および
(ii)PGやGLへの溶解性が良好であること
このような条件を満たす酸として、酢酸(Acetic acid,AA)、クエン酸(Citric acid,CA)の2種類の酸を検討に用いることとした。なお、クエン酸は無水物ではなく、食品添加物としてより一般的なクエン酸一水和物(CA・HO)を使用して実験を実施した。
【0059】
1-2 実験手順
表1の組成でe-liquid(液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物)を作成し、200℃から300℃で加熱する液体加熱式の加熱型香味吸引器用のカプセルに1.5mLずつ充填し、200℃から300℃で加熱する液体加熱式の加熱型香味吸引器用のデバイスを用いて7名のエキスパートパネル(日常的に香料開発業務に従事しており、高い官能評価能力を有するパネル)で官能評価を実施した。
【0060】
比較例として、酸として安息香酸のみをニコチンと等モル含有したe-liquidを用いた。表1に官能評価に供した各サンプルのe-liquidの組成を示す。
表1 e-liquid組成
【0061】
【表1】
【0062】
得られた官能評価コメントを表2に示す。
表2 官能評価コメント
【0063】
【表2】
【0064】
1-3 結果と考察
表2に示した結果の通り、単純に安息香酸の量を減らしただけのLot1-1では、明らかにニコチンにより引き起こされる香喫味阻害感の低減効果が弱く、開発の前提条件を満たさないため不適である。
【0065】
クエン酸を使用したLot1-3では安息香酸臭の低減効果が弱く、目的の安息香酸臭を低減する機能が十分に発揮されていないと判断した。
酢酸を使用したLot1-2では、安息香酸臭、ニコチンにより引き起こされる香喫味阻害感のいずれについても強いというコメントは出ていないため、当初の目的と開発の前提条件を満たす可能性がある。酢酸臭や酸味といったコメントが複数名出ているものの、逆に酢酸臭のような検出されやすい香り質が安息香酸と共存することによって、安息香酸由来の火薬臭をマスキングできるという可能性も考えられる。
【0066】
ここで、酢酸の物理的/化学的特性をクエン酸等の他の有機酸と比較すると以下のよう
なメリットがある。
-酸性度の指標であるpKaが安息香酸と近い(安息香酸:4.21、酢酸:4.76)ため、ニコチンとの中和反応の面において安息香酸と近い挙動を示す可能性がある;
-PGやGLへの溶解度が極めて高く(任意の割合で溶解する)、製造上有利である;および
-分子量が小さく、重量換算すると比較的少量の使用量で済む。
【0067】
以上のことを総合的に勘案して、安息香酸を置換する有機酸の最も有力な候補として酢酸(AA)を選定し、以降の検討に使用した。
実施例2 酢酸による安息香酸臭低減機能が発揮される範囲の検討
2-1 実験の概要
本実施例では、酢酸による安息香酸臭低減効果が発現される組成を検討した。具体的には、酢酸を安息香酸と併用した組成のe-liquidを作成して、官能評価によって効果を確認した。
【0068】
2-2 実験手順
表3の組成のe-liquidを作成し200℃から300℃で加熱する液体加熱式の加熱型香味吸引器用のカプセルに1.5mLずつ充填し、200℃から300℃で加熱する液体加熱式の加熱型香味吸引器用のデバイスを用いて14名のエキスパートパネルで官能評価を実施した。比較例として、酸として安息香酸のみをニコチンと等モル含有したe-liquidを用いた。
【0069】
表3 安息香酸量低減検討用e-liquid組成
【0070】
【表3】
【0071】
表4に記載の各評価項目の定義に従って、比較例と比較した各Lotにおける各官能評価項目の強弱を評価し、「強い」、「同じ」、「弱い」の判定を行った。
表4 官能評価項目と各項目の定義一覧
【0072】
【表4】
【0073】
2-3 結果と考察
比較例との差異が見られない場合、即ち、酢酸による安息香酸臭低減機能が発揮されない場合、官能評価は、「同じ」に得票が一極化するか、あるいは「強い」、「同じ」、「弱い」への3群の得票数がN数/3=4.67に分布すると期待される。
【0074】
本実施例において、酢酸の使用により、比較例との差があるか確認するため、期待値に対する実際の得票数に有意な違いがあるのか、一般的に用いられているχ検定(ピアソンのχ検定)(参考文献:統計解析ハンドブック,1996年10月1日第2刷、武藤眞介、株式会社朝倉書店)を使用した。χ検定において算出した確率の値が設定した統計学的有意水準を超えない場合、パネルが「強い」「同じ」「弱い」の項目に漫然と分散している、即ち、有意差がない、と判断する。これは、評価によってパネルが「強い」「同じ」「弱い」の差を判断しにくいのではなく、意識的にその項目を選択したためその項目に人数が集まっていることを示す。本実施例では一般的に用いられている統計学的有意水準α=0.05(有意水準5%)を設定した。パネルの分布結果の出現確率を算出した値pが、0.05以下を示す場合に、統計学的有意水準を上回る、即ち有意である、と判断する。
【0075】
各Lotの得票分布は期待値と比較して有意に偏っているのかを示す結果を表5、7、9、11および13(解析結果A)に示す。解析結果Aにおいて、「安息香酸臭」「酢酸臭」「酸味」の各評価項目の「強い」、「同じ」、「弱い」の数値は、各評価を選択した人数を示す(合計14名)。期待値は、「強い」、「同じ」、「弱い」への3群の得票数がN数/3=4.67に均等に分布した場合の期待値を示す。確率(p)は、「安息香酸臭」「酢酸臭」「酸味」の各評価項目について、このような偏り方になる確率を示す。偏りの程度が大きいほど確率(p)は小さくなる。確率(p)が0.05以下を示す場合には、特にパネルの人数分布がその項目に偏っている、即ち、偏りが有意であることを意味する。
【0076】
さらに、解析結果Aにて有意的に偏った分布であることが示された場合、「強い」、「同じ」、「弱い」の中で得票数が期待値より有意に偏っているのかχ検定に供して得られた確率を表6、8、10、12および14(解析結果B)に示す。これらの表中の各数値は、「安息香酸臭」「酢酸臭」「酸味」の各評価について、「強い」、「同じ」、「弱い」の各人数になりうる確率を意味する。例えば、表6の「酢酸臭」「強い」の数値「0.001」は、14名のパネルのうち11名が「強い」を選択した(表5より)ことについての、χ検定における確率を示す。確率が0.05以下を示す場合には、特にパネルの人数分布がその項目に偏っている、即ち、選択が有意であることを意味する。表6の「酢酸臭」「強い」の数値「0.001」は、0.05以下であり、14名のパネルのうち11名が行ったこの選択は有意である、ことを意味する。
【0077】
表5 Lot2-1解析結果A
【0078】
【表5】
【0079】
表6 Lot2-1解析結果B
【0080】
【表6】
【0081】
表7 Lot2-2解析結果A
【0082】
【表7】
【0083】
表8 Lot2-2解析結果B
【0084】
【表8】
【0085】
表9 Lot2-3解析結果A
【0086】
【表9】
【0087】
表10 Lot2-3解析結果B
【0088】
【表10】
【0089】
表11 Lot2-4解析結果A
【0090】
【表11】
【0091】
表12 Lot2-4解析結果B
【0092】
【表12】
【0093】
表13 Lot2-5解析結果A
【0094】
【表13】
【0095】
表14 Lot2-5解析結果B
【0096】
【表14】
【0097】
表5-14の結果から、Lot2-3、2-4、2-5、即ち酢酸と安息香酸のモル比率が3:7~5:5(即ち、1:1)の範囲において、比較例と比較して有意水準5%で安息香酸臭が「弱い」といえる。このことから、安息香酸の一部を酢酸で置換することによる安息香酸臭低減効果が確認され、その効果は、ニコチンと等モルの安息香酸のうち3割以上を酢酸に置換した場合に発現すると結論づけられる。
【0098】
一方、比較例には酢酸が配合されていないため当然の結果ではあるが、全Lotにおいて、比較例より有意水準5%で酢酸臭と酸味が「強い」という結果となった。
実施例3 酢酸臭/酸味低減の検討
3-1 実験の概要
実施例2において、安息香酸の一部を酢酸で置換することによる安息香酸臭低減効果が確認された。しかしながら、強すぎる酢酸臭や酸味は、香料を含有するe-liquidにおいて香料の発現を阻害する可能性があり、また酢酸臭や酸味自体がoff-noteやoff-tasteと認識され、e-liquid自体の受容度/嗜好度が損なわれる可能性がある。本実施例では、安息香酸の火薬臭を低減させる機能は保持しつつ、酢酸臭や酸味を可能な限り低減する、ことについて検討を行った。
【0099】
具体的には、どの程度まで酢酸量を低減させれば酢酸臭/酸味低減効果が発現されるか、を検討するため、酢酸と安息香酸に加えてクエン酸を併用した組成のe-liquidを作成して、官能評価によって効果を確認した。なお、本実施例のe-liquidは、液体加熱式の加熱型香味吸引器に実際に使用する態様に近い状態を再現するため香料を添加した。しかしながら、香料由来の香りで酢酸臭や安息香酸臭自体がマスキングされるのを防ぐため、経験的にそのような効果が出にくいと考えられるたばこタイプの香料を使用した。よって、本実施例における酢酸臭、安息香酸臭、酸味に関する官能評価は、香料による影響は受けていない。
【0100】
3-2 実験手順
表15の組成のe-liquidを作成した。このとき、クエン酸一水和物(CA・HO)はGLに事前溶解しておき、C液とした。また、香料はA液とB液とを混合後、最後に添加した。
【0101】
評価サンプル作成と官能評価方法は、実施例2の「2-2 実験手順」と同様であり、16名のエキスパートパネルで官能評価を実施した。比較例として、実施例2で安息香酸臭低減効果が確認されたLot2-3と同じ有機酸配合、即ち酢酸と安息香酸のモル比率が3:7のものを用いた。
【0102】
表15 酢酸臭/酸味低減検討用e-liquid組成
【0103】
【表15】
【0104】
3-3 結果と考察
実施例2の「 2-3 結果と考察」と同様のχ検定による統計手法を用いて、解析を行った。
【0105】
解析結果A:各Lotの得票分布が期待値と比較して有意に偏っているのかの解析(偏りの有意性の解析)、
解析結果B:各項目の各評価(得票数)の有意性の解析
解析結果Aを表16、18、20、22および24に、解析結果Bを17、19、21、23および25に示す。
【0106】
表16 Lot3-1解析結果A
【0107】
【表16】
【0108】
表17 Lot3-1解析結果B
【0109】
【表17】
【0110】
表18 Lot3-2解析結果A
【0111】
【表18】
【0112】
表19 Lot3-2解析結果B
【0113】
【表19】
【0114】
表20 Lot3-3解析結果A
【0115】
【表20】
【0116】
表21 Lot3-3解析結果B
【0117】
【表21】
【0118】
表22 Lot3-4解析結果A
【0119】
【表22】
【0120】
表23 Lot3-4解析結果B
【0121】
【表23】
【0122】
表24 Lot3-5解析結果A
【0123】
【表24】
【0124】
表25 Lot3-5解析結果B
【0125】
【表25】
【0126】
まず、全Lotにおいて安息香酸臭の強度に関して比較例との有意差は認められなかった。このことから、酢酸の一部を等モルのクエン酸一水和物に置換しても、安息香酸臭を低減させるという機能は担保できているといえる。
【0127】
次に、Lot3-1と3-2の結果より、酢酸と安息香酸とクエン酸のモル比率が0.05:0.70:0.25~0.10:0.70:0.20の範囲において、比較例と比較して有意水準5%で酢酸臭および酸味が「弱い」といえる。このことから、酢酸の一部をクエン酸で置換することによって、酢酸臭および酸味低減効果が確認された。そして、その効果は、酢酸のモル比が一定以下の範囲、例えば、ニコチンに対する酢酸のモル比が1割以下の範囲、安息香酸に対する酢酸のモル比が1/7以下の範囲、で発現する、と結論づけられる。
【0128】
実施例4 e-liquidの調製方法における配合手順の検討
4-1 実験の概要
安息香酸は水への溶解度が低い比較的疎水性の物質である。e-liquidの主な溶媒はPGとGLであるが、両者への安息香酸の溶解度もそれほど高くなく、安息香酸単品をこれらの溶媒に溶解させるためには長時間の攪拌や加熱を必要とすることが多い。
【0129】
本発明者らは、上記問題解決のため、より効率のよいe-liquidの調製方法を考案するため、安息香酸をニコチンで中和したニコチン安息香酸塩の状態だと親水性が向上すること、並びに、PGとGLの構造を比較すると、PGには親水性のヒドロキシ基が2つ、GLには3つ存在することから、両者を比較するとPGの方がGLよりは疎水性物質を溶解させるのに適した溶媒であると考えられること、に着目した。本実施例では、具体的には、上記考察に基づき、効率的に安息香酸を溶解させるための条件は、(a)安息香酸をニコチン共存下で溶媒に溶解させる、(b)PG単品に溶解させる、の2点であるという仮説を立て、e-liquidの調製方法における配合手順を検討した。
【0130】
4-2 実験手順
表26の組成のe-liquidを、以下のI.とII.の二通りの配合手順で作成し、安息香酸が完全に溶解するまでの所要時間を比較した。
【0131】
表26 配合試験用のe-liquid組成
【0132】
【表26】
【0133】
I. PG、GL、ニコチン、安息香酸を最初に全て投入し、室温下で攪拌混合する手順
II. PG、ニコチン、安息香酸のみを投入後に室温下で攪拌混合し安息香酸の完溶を確認後(A液)、GL(B液)を添加して再度室温下で攪拌混合する手順
秤量した各素材をビーカーに投入し、ビーカーに撹拌子を入れてマグネティックスターラーを用い、1000rpmで攪拌し、攪拌終了後に溶け残りの有無を目視検査によって確認した。
【0134】
4-3 結果と考察
I.の手順の場合、6時間以上攪拌しても安息香酸の粉末が確認され、完溶しなかった。
【0135】
一方II.の手順の場合、PG、ニコチン、安息香酸のみでの最初の攪拌開始後30分時点で安息香酸の粉末が消失し、完溶を確認した。その後GLを添加して再度攪拌し、10分後に均一な液体になっていることが確認された。
【0136】
以上の結果から、PG、ニコチン、安息香酸のみで一旦安息香酸を完溶させてからGLを添加するII.の配合手順であれば、室温条件下でも短時間で安息香酸を溶解させることができることを確認した。
【0137】
実施例5 酢酸、安息香酸以外の酸の使用に関する検討
5-1 実験の概要
安息香酸および酢酸以外の有機酸(第3の有機酸)(実施例3ではクエン酸)を用いるe-liquidを作成する際は、ニコチン、安息香酸とともにPG(A液)に投入してしまうと、安息香酸とニコチンの中和反応に拮抗して安息香酸の溶解性を阻害すると考えられる。よって、安息香酸および酢酸以外の有機酸は、A液とは別にGL溶媒で事前溶解する方が適切であると想定される。あるいは、酢酸のように液体の有機酸でPGとGLへの溶解性が高い場合は、GLでの事前溶解を経ずに直接系(A液)内に投入しても良い、と想定される。
【0138】
実施例3では、安息香酸および酢酸以外の有機酸(第3の有機酸)としてクエン酸を用いたが、必要量をGLに完溶させることのできる酸であれば、クエン酸のかわりに用いても良い。本発明の範囲内で、GL中に第3の有機酸を事前溶解する際に、第3の有機酸が最も高濃度になるケースの一態様を想定すると、以下の条件となる。
【0139】
-ニコチンの配合量は5重量%
-香料配合量は5重量%
-溶媒のPG:GL重量比率が50:50
-第3の有機酸は1種類
-ニコチン:酢酸:安息香酸:第3の有機酸のモル比が1.00:0.05:0.50:0.45
第3の有機酸として使用できるものは、実施例1-1に挙げたように食品添加物として認められた有機酸のうち、ある程度PGやGLへの溶解性が期待できるもの(=分子内の極性官能基が占める割合が大きいもの)が候補となるであろう。例えばステアリン酸やパルミチン酸といった長鎖脂肪酸などは明らかに疎水性が高く、PGやGLへの溶解性が低いため不適であると考えられる。一方で炭素鎖が短い、あるいは極性官能基を複数持つ有機酸などはPGやGLへの溶解性が期待できるため、候補物質となり得るであろう。この例として、アジピン酸、クエン酸、フマル酸、乳酸、リンゴ酸、マロン酸、ピルビン酸、ソルビン酸、コハク酸、酒石酸などが挙げられる。本実施例では、これらの第3の有機酸の候補となる有機酸を上記の条件で使用可能かどうか、検討を行った。
【0140】
5-2 実験手順
上記の条件でのe-liquid組成をシミュレートし、さらにその組成で第3の有機酸を処方量のGLのみに事前溶解すると想定した際の、第3の有機酸の重量モル濃度を計算した。結果を表27に示す。
【0141】
表27 第3の有機酸候補e-liquid組成シミュレート結果
【0142】
【表27】
【0143】
表27示した配合のシミュレーションから理解されるように、「GLに対する溶解度が重量モル濃度で0.32mol/kg以上」というのが、本発明の範囲内で想定されるe-liquid組成のならびに配合方法を実現できる第3の有機酸を選定する際の一つの目安となり得る。
【0144】
次に、実際にこの組成が本発明の配合方法で実現可能か検証するために、GLに対する溶解性試験を実施した。表28に示す量のGLと酸をビーカーに秤量し、ビーカーに撹拌子を入れ、マグネティックスターラーを用いて500 rpm、12時間、室温下で攪拌した。攪拌終了後に溶け残りの有無を目視検査によって確認し、固体の残存が確認されたものを溶解していないと判断した。
【0145】
表28 第3の有機酸候補のGLに対する溶解性確認水準および結果
【0146】
【表28】
【0147】
5-3 結果と考察
クエン酸、乳酸、リンゴ酸、マロン酸、ピルビン酸、酒石酸の6種類の有機酸は0.32mol/kg以上のGLへの溶解度を示した。即ち、本発明の範囲内で想定される、第3の有機酸を最も高濃度で使用する態様であっても、本発明のe-liquidへの使用できることが判明した。
【0148】
実施例6 ニコチンにより引き起こされる香喫味阻害感に対する各単独有機酸による低減効果
本実施例では、ニコチンにより引き起こされる香喫味阻害感(ニコチンインパクト)に対する各単独有機酸による低減効果を調べた。
【0149】
表29の組成でe-liquid(液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物)を作成し、200℃から300℃で加熱する液体加熱式の加熱型香味吸引器用のカプセルに1.5mLずつ充填し、200℃から300℃で加熱する液体加熱式の加熱型香味吸引器用のデバイスを用いて8名のエキスパートパネル(日常的に香料開発業務に従事しており、高い官能評価能力を有するパネル)で官能評価を実施した。
【0150】
負の比較例として、ニコチンのみを含有し有機酸を含まないe-liquidを用いた。正の比較例として、有機酸として安息香酸をニコチンと等モル含有したe-liquidを用いた。表29に官能評価に供した各サンプルのe-liquidの組成、および官能評価の結果を示す。
【0151】
表29 ニコチンにより引き起こされる香喫味阻害感に対する各単独有機酸による低減効果(官能評価)
【0152】
【表29】
【0153】
官能評価項目は、下記の通りである。
表30 官能評価項目
【0154】
【表30】
【0155】
表29に示されるように、ニコチンによる香喫味阻害感(ニコチンインパクト)の低減効果に関し、安息香酸と同程度の低減効果を示す有機酸が複数見いだされた。本実施例で試験した有機酸の中で、特に、乳酸は強い効果が得られた。乳酸は液体でありPGやGLへの溶解性も良好であるため、製造上のハンドリングが容易という大きな利点が存在する。ただし、乳酸は、官能上若干の負の要素(若干の酸臭、若干の油っぽさ)が認められた。よって、他の有機酸も組み合わせることがより望ましいと考えられる。
【0156】
実施例7 安息香酸、乳酸、その他の有機酸を含む液体組成物の検討
本実施例では、安息香酸、乳酸、その他の有機酸を含む液体組成物の組成を検討した。
ニコチンに対する安息香酸の比は0.6以下となるようにした。
【0157】
乳酸と組み合わせる候補として、実施例6において強いニコチンインパクトの低減効果を示し、かつ、強い負の要素がない、酒石酸、フマル酸、レブリン酸、マロン酸を検討した。乳酸と、安息香酸および乳酸以外の有機酸との比は3:1とした。比較例として、安息香酸のみを含み乳酸もその他の有機酸も含まない組成のe-liquidを用いた。
【0158】
表31に、官能評価に供した各サンプルのe-liquidの組成、および官能評価(14名のエキスパートパネル)の結果を示す。
表31 安息香酸、乳酸、その他の有機酸の組み合わせによる低減効果(官能評価)
【0159】
【表31】
【0160】
表31の官能評価を二項検定で分析した結果を示す。
表32 安息香酸、乳酸、その他の有機酸の組み合わせによる低減効果(官能評価)の二項検定で分析結果
【0161】
【表32】
【0162】
二項検定に関し、「強」または「弱」選択数のp値とは、全体のn数に対して「強」が
選択された回数が発生する統計的確率を意味する。例えば、フマル0.10のサンプルの火薬臭(安息香酸臭)を例に挙げる。n=14のうち「弱」が選択された回数は11であり、この時のp値は0.006、即ち0.6%である。これは、「強」と「弱」が50%ずつの確率でランダムに14回選択された場合、偶然「弱」が11回選択されるパターンとなる統計的確率が0.6%であることを意味している。この0.6%という値は一般的な優位水準として用いられる1%より小さいためこの14回中「弱」が11回選択されたという偏りは、有意水準1%で意味がある偏りであると結論付けられる。
【0163】
乳酸を、フマル酸、レブリン酸、マロン酸または酒石酸と種々の割合で組み合わせた全ロットにおいて、ニコチンインパクトは比較例(Ref)と同等または弱いという結果であった。よって、ニコチンインパクト低減効果は安息香酸の一部を乳酸と他の有機酸の組み合わせに置換しても効果が担保されていることが確認された。火薬臭は比較例より弱いという結果であった(有意差が付かなかったロットも「弱」選択数の方が多い)。安息香酸の一部を乳酸と他の有機酸の組み合わせに置換することにより、有機酸として安息香酸のみを含む組成より火薬臭を低減できることが確認された。
【0164】
実施例8 リンゴ酸及び酒石酸のプロピレングリコール及びグリセリンに対する溶解性
本実施例では、リンゴ酸及び酒石酸のプロピレングリコール及びグリセリンに対する溶解速度を調べた。(1)ガラス製のスクリュー管に有機酸、PGまたはGLを秤量し;(2)マグネティックスターラーを用いて500rpmの攪拌速度で室温下で攪拌を継続し、そして、(3)有機酸が完全に溶解したかどうか目視にて確認した。結果を表33に示す。
【0165】
表33 リンゴ酸及び酒石酸のプロピレングリコール及びグリセリンに対する溶解速度試験結果
【0166】
【表33】
【0167】
表33において、OKは、個体物が消失して完溶が確認できたもの、NGは、個体物残っており、まだ溶けていないと判断されたもの、である。リンゴ酸及び酒石酸のいずれも、グリセリンよりもプロピレングリコールへの溶解速度が速かった。
【手続補正書】
【提出日】2024-11-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物であって、
(1)プロピレングリコールおよびグリセリン、
(2)ニコチン、
(3)安息香酸、
(4)乳酸、並びに
(5)乳酸および安息香酸以外の有機酸、
を含み、
(2)ニコチンと、(4)乳酸および(5)前記有機酸の合計とのモル比が、1:0.9~1:0.3の範囲であり、
前記有機酸として、酒石酸、フマル酸、レブリン酸、マロン酸およびこれらの混合物、から選択されるいずれかを含む、
前記液体組成物。
【請求項2】
(2)ニコチンと、(3)安息香酸と(4)乳酸と(5)前記有機酸の合計、とのモル比が、1:0.85~1:1.15の範囲である、請求項1に記載の液体組成物。
【請求項3】
(5)前記有機酸として酒石酸を含む、請求項1に記載の液体組成物。
【請求項4】
(2)ニコチンと、(3)安息香酸とのモル比が、1:0.7~1:0.15の範囲である、請求項1-のいずれか1項に記載の液体組成物。
【請求項5】
(4)乳酸および(5)前記有機酸のグリセリンへの溶解度が重量モル濃度で0.32mol/kg以上である、請求項1-のいずれか1項に記載の液体組成物。
【請求項6】
実質的に水分を含まない、請求項1-のいずれか1項に記載の液体組成物。
【請求項7】
さらに、香料を含む、請求項1-のいずれか1項に記載の液体組成物。
【請求項8】
請求項1-のいずれか1項に記載の液体組成物を含む、液体加熱式の加熱型香味吸引器。
【請求項9】
液体加熱式の加熱型香味吸引器用の液体組成物であって、
(1)プロピレングリコールおよびグリセリン、
(2)ニコチン、
(4)乳酸、並びに
(5)乳酸および安息香酸以外の有機酸、
を含み、
(2)ニコチンと、(4)乳酸と(5)前記有機酸の合計とのモル比が、1:0.9~1:0.3の範囲であり、
前記有機酸として、酒石酸、フマル酸、レブリン酸、マロン酸およびこれらの混合物、から選択されるいずれかを含む、
前記液体組成物。
【請求項10】
(2)ニコチンと(4)乳酸および(5)前記有機酸の合計とのモル比が、1:0.85~1:1.15の範囲である、請求項に記載の液体組成物。
【請求項11】
(4)乳酸および(5)前記有機酸の、グリセリンへの溶解度が重量モル濃度で0.32mol/kg以上である、請求項9または10に記載の液体組成物。
【請求項12】
請求項9-11のいずれか1項に記載の液体組成物を含む、液体加熱式の加熱型香味吸引器。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0146
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0146】
【表28】
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0159
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0159】
【表31】