(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180445
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】吸着材
(51)【国際特許分類】
B01J 20/20 20060101AFI20241219BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20241219BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20241219BHJP
【FI】
B01J20/20 D
B01J20/28 Z
C01B32/05
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024176665
(22)【出願日】2024-10-08
(62)【分割の表示】P 2020076715の分割
【原出願日】2020-04-23
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】横山 茂輝
(72)【発明者】
【氏名】袋 昭太
(72)【発明者】
【氏名】松澤 大起
(72)【発明者】
【氏名】倉澤 響
(57)【要約】
【課題】優れた吸着特性を有し、鉄の溶出が低減された吸着材を提供すること。
【解決手段】吸着材は、多孔質の炭化物と、鉄と、を含み、炭化物における有機炭素の含有率が30%以上85%以下である。また、吸着材は、多孔質の炭化物と、鉄と、を含み、比表面積が100m
2/g以上500m
2/g以下である。吸着材は、多孔質の炭化物と、鉄と、を含み、全細孔容積が1000mm
3/g以上3000mm
3/g以下である。吸着材は、多孔質の炭化物と、鉄と、を含み、鉄の含有率が5%以上35%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の炭化物と、鉄と、を含み、
前記炭化物における有機炭素の含有率が30%以上85%以下であり、
比表面積が100m2/g以上500m2/g以下であり、
全細孔容積が1000mm3/g超3000mm3/g以下である吸着材。
【請求項2】
前記鉄の含有率が5%以上35%以下である請求項1に記載の吸着材。
【請求項3】
前記炭化物における前記有機炭素の含有率が50%以上85%以下である請求項1または請求項2に記載の吸着材。
【請求項4】
略円柱状のペレットである請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の吸着材。
【請求項5】
リンの吸着量が5mg-P/g以上である請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の吸着材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸着材に関する。特に、本発明はリンを吸着する吸着材に関する。
【背景技術】
【0002】
大気中の二酸化炭素の量を削減するために、二酸化炭素を人為的に回収し地中に貯留する技術が知られている。例えば、木質や農作物等のバイオマスを利用して大気中の二酸化炭素を吸収させ、当該二酸化炭素を有機炭素として固定することができる。しかし、これらバイオマスは有機物であることから、そのまま地中に貯留しても、腐敗や分解が起きるだけで、大気中に二酸化炭素を再放出することになる。一方、バイオマスは、酸素を遮断した状態で加熱すると、酸素原子や水素原子が脱離し、炭素分と灰分からなる炭化物を生成することができる。この炭化物は、微生物に分解される糖鎖やアミノ酸を含まない炭素の塊であることから、環境中(地中)では非常に安定であり、ほとんど分解されることはない。炭化させたバイオマスは、古くから農地で利用されており、地力増進法でも土壌改良材に認められているため、農地等に施肥することで、結果として二酸化炭素を地中に隔離貯留することができる。つまり、バイオマスの炭化物を農業利用することは、大気中の二酸化炭素量の削減に繋がる。しかしながら、炭化物の製造にかかるコストおよび現状のカーボンプライシングを考慮すると、単に炭化物を土壌の土質改善のためだけに利用することは、その製造コストに見合わない。
【0003】
他方、炭化物は多孔質であるため、表面積が非常に大きいことが知られている。この表面積の大きさを利用して、炭化物は多様な物質の吸着材として用いられている。例えば、特許文献1では、カルシウムを担持した炭化物を用いたリン回収材が記載されている。このようなリン回収材を用いてリンを吸着させることで、リンが自然水域に排出されることによる水質汚染を抑制することができる。さらに、リンを吸着したリン回収材を農地に埋めると、農作物が根から放出する有機酸により当該リン回収材に吸着したリンが溶解される。このリンは農作物の肥料として機能するため、リン回収材が埋められた農地の収量を向上させる、または良質な農作物を成長させることができる。
【0004】
このように、単に土壌の土質改善のためだけではなく、例えば、ある物質を吸着させることで、環境汚染を抑制することができる炭化物、またはその有害物質を他の用途に適用することができる炭化物の需要が増加してきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-75706号公報
【特許文献2】特開2020-11211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のリン回収材では、籾殻または珪藻土等のようにケイ素を多く含む材料を用いる必要がある。ケイ素を多く含む材料を用いる場合、リン回収材の製造量に限界がある。また、リンなどの物質を吸着することができる許容量に限界がある。
【0007】
また、特許文献2には、鉄を含む炭化物からなる吸着材が記載されている。炭化物は導電性が高く、炭化物に設けられた細孔内に付着した鉄との間では、速やかに電子交換が行われる。したがって、鉄を含む炭化物からなる吸着材を水の中に入れると、鉄がイオン化し、オキシ水酸化鉄(FeOOH)などの水酸化物を生成し、水中に存在するリン酸イオンと反応し、リン酸鉄を形成して炭化物に吸着固定することができる。すなわち、鉄を含む炭化物からなる吸着材は、上記メカニズムにより、効率よくリンを吸着することができる。
【0008】
一方で、吸着材から鉄が溶出してしまうと、吸着したリンを放出することになるため、吸着材からの鉄の溶出を低減することが求められていた。
【0009】
本発明の一実施形態は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、優れた吸着特性を有し、鉄の溶出が低減された吸着材を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態に係る吸着材は、鉄を含む炭化物からなり、炭化物における有機炭素の含有率が30%以上85%以下である。
【0011】
本発明の一実施形態に係る吸着材は、多孔質の炭化物と、鉄と、を含み、比表面積が100m2/g以上500m2/g以下である。
【0012】
本発明の一実施形態に係る吸着材は、多孔質の炭化物と、鉄と、を含み、全細孔容積が1000mm3/g以上3000mm3/g以下である。
【0013】
鉄の含有率が5%以上35%以下であってもよい。
【0014】
炭化物における有機炭素の含有率が50%以上85%以下であってもよい。
【0015】
有機炭素の少なくとも一部は、糖蜜、廃糖蜜、澱粉、デキストリン、コーンスターチ、米糠、ポリビニルアルコール、パルプ廃液、リグニンスルホン酸塩、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、フェノール樹脂、およびタールピッチから選ばれる少なくとも1種を焼成することによって生成されてもよい。
【0016】
吸着材は、略円柱状のペレットであってもよい。
【0017】
吸着材は、リンの吸着量が5mg-P/g以上であってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一実施形態に係る吸着材は、鉄の溶出が低減され、優れた吸着特性を有する。また、特別な製造装置を必要とすることなく、吸着材を製造することができるため、吸着材の製造コストを抑えることができ、安価な吸着材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る吸着材の模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る吸着材の製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の一実施形態に係る吸着材の製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態における吸着材および吸着材の製造方法について説明する。ただし、本発明の一実施形態における吸着材および吸着材の製造方法は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す例の記載内容に限定して解釈されない。なお、本実施形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号または同一の符号の後にアルファベットを付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0021】
[1.吸着材10の構成]
図1を参照して、吸着材10の構成について説明する。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係る吸着材10の模式図である。
図1に示すように、吸着材10は、第1炭化物100、鉄110、および第2炭化物120を含む。吸着材10において、第1炭化物100と第2炭化物120とは、同じ炭化物であってもよく、異なる炭化物であってもよい。詳細は後述するが、第1炭化物100と第2炭化物120とは、原材料が異なる。そのため、以下では、便宜上、原材料の違いに基づき、第1炭化物100と第2炭化物120とを区別して説明する。
【0023】
吸着材10は、いわゆるペレットである。詳細は後述するが、吸着材10は、造粒されてペレットに成形されている。吸着材10の形状は、例えば、略円柱状、略楕円柱状、または略多角柱状などであるが、これらに限られない。
【0024】
略円柱状は、真円柱状であることが好ましいが、これに限られない。略円柱状における円の長径と短径との比(長径/短径)は、1以上5以下である。一方、長径と短径との比(長径/短径)が5より大きいものは、略楕円柱状とする。また、略円柱状の向かい合う面は、同じ大きさでなくてもよい。なお、本明細書における略円柱状には、一部が欠損している略円柱状も含まれる。
【0025】
略多角柱状は、例えば、三角柱状、四角柱状、五角柱状、または六角柱状などを含む。略多角柱状の向かい合う面は、同じ大きさでなくてもよい。なお、本明細書における略多角柱状には、一部が欠損している略多角柱状も含まれる。
【0026】
吸着材10の形状は、後述する造粒物20の形状によって概ね決定されるが、吸着材10の高さH(
図1参照)は、1mm以上20mm以下であり、好ましくは3mm以上15mm以下であり、さらに好ましくは6mm以上12mm以下である。また、吸着材10の長径D(高さに対して垂直方向の最大径、
図1参照)は、1mm以上20mm以下であり、好ましくは2mm以上10mm以下であり、さらに好ましくは3mm以上8mm以下である。吸着材10の大きさは、吸着材10の製造工程において制御することが可能である。したがって、吸着材10の大きさは、使用しやすく、吸着効果の高い上記範囲内であることが好ましい。
【0027】
吸着材10は、多孔質であってもよい。すなわち、第1炭化物100および第2炭化物120は多孔質であってもよい。吸着材10においては、第1炭化物100および第2炭化物120の多孔質中に鉄110を含んでいてもよい。
【0028】
[2.吸着材10の製造方法]
図2および
図3を参照して、本発明の一実施形態に係る吸着材10の製造方法について説明する。
【0029】
図2は、本発明の一実施形態に係る吸着材10の製造方法を示すフローチャートである。また、
図3は、本発明の一実施形態に係る吸着材10の製造方法を説明する図である。
【0030】
図2に示すように、吸着材10の製造方法は、混合工程(S110)、混練工程(S120)、造粒工程(S130)、および焼成工程(S140)を含む。以下、各工程について説明する。
【0031】
[2-1.混合工程(S110)]
混合工程(S110)では、
図3(A)に示すように、炭化物200と鉄化合物210とを混合する。
【0032】
炭化物200は、例えば、木炭、竹炭、白炭、黒炭、オガ炭、ヤシ殻炭、もみ殻炭、または粉炭などである。炭化物200は、生立木(広葉樹、針葉樹、竹などの間伐材、林地廃材を含む)、製材工場または木材加工工場の廃材(鋸屑、樹皮屑、チップ屑、端切材を含む)、植物性の殻、建築解体材、もしくは家具材の木質系廃材などの有機物を炭化させることで生成することができる。
【0033】
有機物の炭化は、窒素ガスまたはアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気、無酸素雰囲気、低酸素雰囲気、還元雰囲気、もしくは減圧雰囲気の下で、有機物を加熱することによって行われる。有機物の炭化を減圧雰囲気で行う場合、102Pa以上105Pa以下の低真空状態、10-1Pa以上102Pa以下の中真空状態、10-5Pa以上10-1Pa以下の高真空状態、または10-5Pa以下の超高真空状態で行うことができる。また、有機物の炭化を低酸素雰囲気で行う場合、酸素濃度は0.01%以上3%以下、好ましくは0.1%以上2%以下で行うことができる。有機物の炭化における加熱温度は、400℃以上1200℃以下であり、好ましくは500℃以上1100℃以下であり、さらに好ましくは600℃以上1000℃以下であり、特に好ましくは600℃以上900℃以下である。また、加熱時間は、10分以上10日以下であり、好ましくは10分以上5時間以下である。
【0034】
有機物の炭化は、内燃式または外熱式で、バッチ式の開放型または密閉型の炭窯炉、連続式のロータリーキルンまたは揺動式炭化炉、スクリュー炉、加熱チャンバ、もしくは蓋がされた耐熱容器(坩堝)を用いて行うことができる。内熱式とは、炭化に必要な熱を材料から確保する炭化炉であり、材料を燃焼させるために必要な酸素を供給して有機物の炭化を行うことができる。外熱式とは、炭化に必要な熱を外部から供給する炭化炉であり、酸素を遮断して有機物の炭化を行うことができる。
【0035】
有機物を還元条件下で加熱すると、昇温途中(例えば、約280℃)で有機物の組成分解が始まり、有機物内の酸素または水素が、二酸化炭素、一酸化炭素、水素、または炭化水素などのガスとして揮発し、有機物は炭素成分の多い無定形炭素へと変化する。さらに高温で加熱し続けることで、有機物内の酸素または水素がさらに減少し、純度の高い固定炭素および灰分から構成される炭化物200が生成される。有機物内の水分または構成成分が揮発性ガス等として脱離するため、有機物の炭化によって生成される炭化物200は、多数かつ大小様々な連続多孔が形成された多孔質となる。また、加熱温度の上昇に伴い炭素化が進行して生成される炭化物200は、耐熱性(耐火性)、吸着性、または導電性の性質を有するようになる。したがって、炭化物200は、多孔質であってもよく、耐熱性(耐火性)、吸着性、または導電性の性質を有していてもよい。
【0036】
鉄化合物210は、2価の鉄化合物であってもよく、3価の鉄化合物であってもよく、2価と3価の鉄が混在していてもよい。鉄化合物210としては、酸化鉄、塩化鉄、硝酸鉄、硫酸鉄、酢酸鉄、またはシュウ酸鉄などを用いることができる。なかでも、鉄化合物210としては、性質が安定し、安価な酸化鉄が好ましい。酸化鉄は、例えば、FeO(ウスタイト)、Fe2O3(ヘマタイトまたはマグへマイト)、またはFe3O4(マグネタイト)などである。鉄化合物210は、1種類の化合物であってもよく、複数の化合物を含んでいてもよい。
【0037】
また、鉄化合物210の代わりに、鉄以外の金属化合物を用いることもできる。鉄以外の金属としては、例えば、アルミニウム、バナジウム、ニッケル、コバルト、マンガン、マグネシウム、カルシウムまたはこれらの合金などを用いることができる。
【0038】
炭化物200は水を含有していることが多く、炭化物200の種類によって水の含有量が異なる。そのため、炭化物200と鉄化合物210との混合比の算出においては、炭化物200の固形成分の量を基準とする。例えば、100gの炭化物200に5%の水が含有されている場合、炭化物200の固形成分の量は、100×0.95=95(g)として計算することができる。
【0039】
炭化物200の固形成分の量(α)と鉄化合物の量(β)の混合比は、α:β=100:1~80であり、好ましくはα:β=100:10~50であり、さらに好ましくはα:β=100:20~40である。混合比が上記範囲であると、炭化物200および鉄化合物210が凝集することなく、炭化物200および鉄化合物210が均一に混合される。
【0040】
炭化物200と鉄化合物210とを混合するにあたり、炭化物200および鉄化合物210の各々の粒径を調整してもよい。炭化物200および鉄化合物210の各々の粒径を調整することで、炭化物200と鉄化合物210とを均一に混合することができるようになる。炭化物200および鉄化合物210の各々の粒径の調整は、炭化物200または鉄化合物210を破砕することによって行うことができる。特に、炭化物200の粒径は、鉄化合物210の粒径よりも大きい場合が多いため、炭化物200を破砕し、炭化物200の粒径を鉄化合物210の粒径に合わせてもよい。
【0041】
なお、後述する混練工程(S120)においても、炭化物200および鉄化合物210を破砕することができるが、混練工程(S120)では粒径の微調整が難しい。そのため、炭化物200および鉄化合物210の粒径を調整する場合は、混合工程(S110)において、炭化物200および鉄化合物210の各々の粒径を予め調整しておくことが好ましい。
【0042】
炭化物200および鉄化合物210の大きさは特に限定されないが、好ましくは炭化物200の平均粒子径が1μm以上50mm以下、酸化鉄の平均粒子径が1μm以上10mm以下の粒径であり、好ましくは炭化物200の平均粒子径が5μm以上2mm以下、酸化鉄の平均粒子径が1μm以上1mm以下の粒径である。炭化物200および鉄化合物210の大きさが上記範囲であると、炭化物200および鉄化合物210とが均一に混合されるだけでなく、後述する混練工程において、炭化物200と鉄化合物210とのそれぞれに表面に有機バインダー220が付着し、一体化させることができる。
【0043】
炭化物200と鉄化合物210との混合においては、一定量の水を添加してもよい。水を添加することで、混合工程(S110)における粉塵の発生を防止することができるとともに、後述する混練工程(S120)において、炭化物200と鉄化合物210とを均一に混練することができる。
【0044】
以上の混合工程(S110)によって、炭化物200と鉄化合物210の混合物が生成される。
【0045】
[2-2.混練工程(S120)]
混練工程(S120)では、
図3(B)に示すように、混合物(炭化物200および鉄化合物210)に有機系バインダー220を加えて混練し、ペーストを生成する。
【0046】
有機系バインダー220としては、例えば、糖蜜、廃糖蜜、澱粉、デキストリン、コーンスターチ、米糠、ポリビニルアルコール、パルプ廃液、リグニンスルホン酸塩、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、フェノール樹脂、またはタールピッチなどを用いることができる。なお、有機系バインダー220は、1種の材料を含んでいてもよく、複数種の材料を含んでいてもよい。特に、有機系バインダー220としては、糖蜜または廃糖蜜が好ましい。糖蜜は、固形成分が多いため、ペーストを固めやすい。また、糖蜜は、炭素成分を多く含むため、後述する焼成工程(S140)で、効率よく造粒物を還元することができる。さらに、糖蜜は、安価で有害成分が少ないことから、吸着材の製造コストを抑制することができ、また、製造された吸着材は、安全な肥料として利用することができる。
【0047】
有機系バインダー220の粘度は、必要に応じて調整することができる。例えば、有機系バインダー220に水または有機溶媒を添加し、有機系バインダー220の粘度を調整することができる。有機系バインダー220の粘度が大きすぎると、混練しにくくなる。また、有機系バインダー220の粘度が小さすぎると、後述する造粒工程(S130)の前にペーストの粘度を調整しなければならない。ペーストの粘度の調整は、添加した水または有機溶媒を蒸発させることによって行われるが、水または有機溶媒の蒸発させる工程が必要となるだけでなく、水または有機溶媒の蒸発によって炭化物200および鉄化合物210の凝集化が生じ、有機系バインダー220中における炭化物200および鉄化合物210分散性が低下する。そのため、有機系バインダー220の粘度は、混合物と混練する前に調整されていることが好ましい。
【0048】
有機系バインダー220の添加量においても、炭化物200の固形成分の量を基準とする。炭化物200の固形成分の量(α)と有機系バインダー220の固形成分の量(γ)の比は、α:γ=100:10~1000であり、好ましくはα:γ=100:100~500であり、さらに好ましくはα:γ=100:100~300である。
【0049】
混練工程(S120)において、有機系バインダー220中の炭化物200および鉄化合物210の分散性を決定するパラメータは、混合物と有機系バインダー220との混合比だけではない。混合工程(S110)における分散性は、例えば混練機の混錬する温度、または混錬する時間などのパラメータによっても制御することができる。そこで、以下では、混練機について説明する。
【0050】
混合物と有機系バインダー220との混練においては、混練機を用いることができる。混練機としては、例えば、単軸スクリュー混練機、二軸スクリュー混練機、ミキシングロール、ニーダ、またはバンバリーミキサなどを用いることができる。
【0051】
なお、混合の機能を有する混練機であってもよい。その場合、混合工程(S110)と混練工程(S120)とを連続して行うことができる。例えば、混練機に、炭化物200および鉄化合物210を投入して混合する。続いて、混練機に、有機系バインダー220を投入して混合物と混練する。混練機に、炭化物200、鉄化合物210、および有機系バインダー220を一括して投入し、混合および混練することもできるが、炭化物200および鉄化合物210が凝集しやすく、また、気泡が発生しやすい。そのため、混合工程(S110)と混練工程(S120)とは別々に行われることが好ましい。また、混練工程(S120)において、混練機を用いることにより、一定の速度で一定の量の有機系バインダー220を混合物に添加することができる。
【0052】
また、混練する温度は、任意に設定することができるが、0℃以上50℃以下であり、好ましくは10℃以上40℃以下である。また、混練する時間は、好ましくは1秒以上1時間以下であり、好ましくは1分以上30分以下であり、さらに好ましくは1分以上15分以下である。混練工程(S120)のパラメータを上記範囲とすることで、有機系バインダー220中における炭化物200および鉄化合物210の分散性を最適化することができる。
【0053】
以上の混練工程(S120)によって、有機系バインダー220中に、炭化物200と鉄化合物210とが分散されたペーストが生成される。
【0054】
[2-3.造粒工程(S130)]
造粒工程(S130)では、
図3(C)に示すように、ペーストを造粒して、炭化物200、鉄化合物210、および有機系バインダー220を含む造粒物20を生成する。
【0055】
造粒物20の生成は、造粒機を用いて行うことができる。造粒機としては、例えば、圧縮型造粒機、押出型造粒機、ロール型造粒機、ブレード型造粒機、溶融型造粒機、または噴霧型造粒機などを用いることができる。略円柱状の造粒物20の生成においては、押出型造粒機を用いることが好ましい。ここでは、押出型造粒機を用いた造粒物20の生成について説明する。
【0056】
押出型造粒機は、装着されたダイスから所定の形状に成形されたペーストが押し出される。押し出されたペーストは、所定の長さで切断され、押出方向が高さ方向となるペレット形状の造粒物20が生成される。押出型造粒機の切断速度(回転切断方式であれば、回転速度)を調整することで、造粒物20の長さ(ペレット形状の高さ)を調整することができる。また、ダイスの開口径を調整することで、造粒物20の径(断面形状が円形の場合は直径)を調整することができる。そのため、押出型造粒機を用いることにより、大きさが制御されたペレット形状(例えば、略円柱状)を有する造粒物20を生成することができる。
【0057】
造粒物20の長さは、1mm以上20mm以下であり、好ましくは3mm以上15mm以下であり、さらに好ましくは6mm以上12mm以下である。また、造粒物20の直径は、1mm以上20mm以下であり、好ましくは2mm以上10mm以下であり、さらに好ましくは3mm以上8mm以下である。造粒物20の大きさが上記範囲であると、後述する焼成工程(S140)において鉄化合物210を十分に還元することができるため、吸着材10の吸着効果を高めることができる。
【0058】
造粒物20の断面形状は、円形に限られない。ダイスの開口形状を変えることで、造粒物の断面形状も変えることができる。造粒物の断面形状は、例えば、楕円形または多角形などであってもよい。すなわち、造粒物20は、円柱だけでなく、楕円柱または多角柱のペレット形状であってもよい。
【0059】
造粒工程(S130)においては、造粒物20のペレット形状が安定するように、補助剤を添加してもよい。補助剤としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、またはウレタン樹脂などの有機樹脂を用いることができる。なお、後述する焼成工程(S140)で、これら有機樹脂は炭化され、その炭化物も吸着材として機能することができる。
【0060】
以上の造粒工程(S130)によって、炭化物200、鉄化合物210、および有機系バインダー220を含む造粒物20が生成される。
【0061】
[2-4.焼成工程(S140)]
焼成工程(S140)では、造粒物20を焼成して吸着材10を生成する。
【0062】
造粒物20の焼成は、還元雰囲気の下で造粒物20を加熱することによって行われる。造粒物20には有機系バインダー220が含まれている。有機系バインダー220を加熱すると、一酸化炭素ガス、水素ガス、硫化水素ガス、二酸化硫黄ガス、または炭化水素ガスなどの還元性ガスが発生する。そのため、別途還元性ガスを導入することなく、造粒物20から発生した還元性ガスを用いて、還元性雰囲気を形成することができる。すなわち、造粒物20から発生した還元性ガスを用いて、鉄化合物210を還元することができる。しかも、造粒物20の内部で還元性ガスを発生することができるため、造粒物20の内部の鉄化合物210を十分に還元することができる。また、鉄化合物210の周囲の有機系バインダー220からの還元性ガスによって鉄化合物210が鉄110に還元されることにより、焼成後の吸着材10の鉄110は、第2炭化物120の多孔質の中に含まれた構造を有する。そのため、吸着材10の吸着量を高めることができる。
【0063】
なお、還元ガスは爆発性や可燃性の観点から取り扱いが難しいガスも多い。そのため、発生した還元性ガスを希釈して排気するため、造粒物20の焼成において不活性ガスを含むことができる。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガスまたはアルゴンガスなどを用いることができる。不活性ガスを用いる場合、例えば、焼成炉内の一酸化炭素の濃度が1%~20%になるように、窒素ガスを流すことができる。
【0064】
また、有機系バインダー220から発生する還元性ガスだけでなく、さらに、一酸化炭素ガス、水素ガス、硫化水素ガス、二酸化硫黄ガス、炭化水素ガス、またはこれらの混合ガスなどの還元性ガスを用いて還元性雰囲気を形成することもできる。ただし、この場合においても、従来の吸着材の製造方法と比較して、還元性ガスの量を削減することができる。
【0065】
造粒物20の焼成における加熱温度は、400℃以上1200℃以下であり、好ましくは400℃以上900℃以下であり、さらに好ましくは600℃以上900℃以下である。また、加熱時間は、1分以上10時間以下であり、好ましくは10分以上5時間以下である。本実施形態に係る吸着材10の製造方法では、有機系バインダー220から発生する還元性ガスを用いて鉄化合物210を還元することができるため、通常の吸着材の製造方法と比較して、加熱温度を低くし、または加熱時間を短縮することが可能である。
【0066】
造粒物20を焼成することによって、炭化物200は第1炭化物100に、鉄化合物210は鉄110に、有機系バインダー220は第2炭化物120に変化する。
【0067】
以上の焼成工程(S140)によって、鉄110を含む吸着材10が生成される。
【0068】
なお、上述したように、説明の便宜上、原材料の違いに基づき、生成された吸着材10に含まれる第1炭化物100と第2炭化物120とを区別したが、第1炭化物100および第2炭化物120はいずれも炭化物(性質的には炭化物200とは異なる)であり、吸着材10においては明確に区別されなくてもよい。言い換えると、吸着材10は、鉄を含む炭化物であるということができる。ただし、吸着材10は、従来の鉄を含む炭化物とは製造方法が異なっており、メカニズムは明らかでないものの、従来の鉄を含む炭化物とは異なる性質を有する。
【0069】
[2-5.吸着材10の評価]
上述した製造方法によって製造された本発明に係る吸着材10は、鉄の溶出を低減し、吸着特性が優れた吸着材となる。吸着材10の吸着特性は、例えば、次のような測定によって評価することができる。
【0070】
[2-5-1.リンの吸着量]
本実施形態に係る吸着材10は、リン、ヒ素、または鉛などを吸着することができる。なかでも、吸着材10は、リンの吸着性に優れている。吸着材10におけるリンの吸着性の評価は、バッチ試験により行うことができる。バッチ試験は、添加したリン溶液の濃度と反応後の上澄みの濃度差からリンの吸着量を算出する方法である。リン溶液は、リン酸二水素カリウム(KH2PO4)を水に溶解することによって得られる。なお、以下の実施例では、リン溶液の濃度の記載として、水1Lに対するPの量を用いる。すなわち、1Lの水に200mgのPを溶解させたリン溶液の濃度は、200mg/Lと記載する。また、吸着材10におけるリンの吸着量は、吸着材1gあたりに吸着したリンの量(吸着したリンの量(mg-P)/吸着材1g)を記載する。
【0071】
[2-5-2.比表面積]
比表面積は、単位量あたりの表面積であり、多孔質における重要なパラメータの1つである。比表面積は、吸着材10の表面構造に関連し、吸着特性を決定するパラメータの1つであるといえる。吸着材10の比表面積は、例えば、BET式に基づくガス吸着法(BET法)を用いて測定することができる。
【0072】
BET法では、ガスの吸着の測定から試料の比表面積(試料1g当たりの表面積)を算出することができる。具体的には、BET法では、吸着等温線から比表面積を求める。すなわち、BET式に基づいて吸着ガスの吸着量を求め、吸着ガスの分子1個が表面で占める面積を乗ずることによって比表面積を求めることができる。吸着ガスとして、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、クリプトンガス、一酸化炭素ガス、または二酸化炭素ガスを用いることができ、吸着量は、被吸着ガスの圧力、または容積の変化から測定することができる。BET法による具体的な測定は、例えば、前処理として120℃の温度で真空脱気を行い、吸着ガスとして窒素ガスを吸着させ、BET式から比表面積を算出する。
【0073】
なお、本明細書に記載する比表面積は、典型的には、吸着ガスとして窒素ガスを用い、BET法で測定された比表面積であるが、BET法以外の方法によって測定された比表面積であってもよい。
【0074】
吸着材10の比表面積は、100m2/g以上500m2/g以下であり、好ましくは100m2/g以上400m2/g以下であり、さらに好ましくは150m2/g以上400m2/g以下である。吸着材10の比表面積が小さすぎると、十分な吸着量を確保することができなくなるため、吸着材10の吸着特性が低下する。一方、吸着材10の比表面積が大きすぎると、密度が低下するため、吸着材10の強度が低下する。すなわち、吸着材10は、一定の形状を維持することができなくなり、脆くなる。したがって、吸着材10の比表面積は、上記範囲内であることが好ましい。
【0075】
[2-5-3.全細孔容積]
全細孔容積は、比表面積とともに、多孔質における重要なパラメータの1つである。全細孔容積は、吸着材10の吸着量に関連し、吸着材10の吸着特性を決定するパラメータの1つであるといえる。吸着材10の全細孔容積は、吸着材10の細孔径と細孔容積を示す細孔容積分布から算出された細孔容積の総和である。
【0076】
細孔は、例えば、細孔径dによって、マクロ孔(d>50nm)、メソ孔(2nm≦d≦50nm)、またはミクロ孔(d<2nm)などに分類することができる。また、典型的には、マクロ孔はWashburn式に基づく水銀圧入法で、メソ孔はBJH式に基づくガス吸着法(BJH法)で、およびミクロ孔はHK式に基づくガス吸着法(HK法)で、それぞれの細孔径dを測定することができるが、これに限られない。
【0077】
水銀圧入法では、Washburn式を基に、試料に注入する水銀の圧力から細孔径dを算出することができる。また、ガス吸着法では、BJH式またはHK式などを基に、試料に注入するガスの圧力から細孔径dを算出することができる。そのため、注入する水銀またはガスの圧力を変化させて試料の吸着量を測定することで、細孔径dに対する細孔容積を示す細孔容積分布が得られる。
【0078】
なお、本明細書では、細孔径dの範囲が7.5nm以上110000nm以下である細孔容積の積算を全細孔容積として記載する。
【0079】
吸着材10の全細孔容積は、1000mm3/g以上3000mm3/g以下であり、好ましくは1000mm3/g以上2700mm3/g以下であり、さらに好ましくは1000mm3/g以上2500mm3/g以下である。吸着材10の全細孔容積が小さすぎると、十分な吸着量を確保することができなくなるため、吸着材10の吸着特性が低下する。一方、吸着材10の全細孔容積が大きくなりすぎると、比表面積が減少することになるため、吸着材10の吸着特性が低下する。したがって、吸着材10の全細孔容積は、上記範囲内であることが好ましい。
【0080】
[2-5-4.鉄の含有率]
吸着材10は、炭化物に鉄110を含むことにより、従来の活性炭と比べて吸着量が大きく増加する。そのため、吸着材10の鉄110の含有率は、吸着量と関連し、吸着材10の吸着特性を決定するパラメータの1つであるといえる。吸着材10に含まれる鉄110の量は、例えば、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)を用いて測定することができる。
【0081】
ICP-MSは、アルゴンプラズマをイオン源として用い、試料に含まれる元素をイオン化し、イオンを質量電荷比に基づいて分離し検出する方法である。検出されたイオンの質量電荷比から元素を特定することができるとともに、検出されたイオンをカウントすることにより元素の量を測定することができる。
【0082】
吸着材10の鉄110の含有率は、吸着材10の量に対する鉄110の量の占める割合である。吸着材10の鉄110の含有率は、上述したICP-MSで測定された鉄110の量と、測定に用いた吸着材10の量とから算出することができる。
【0083】
吸着材10の鉄110の含有率は、5%以上35%以下であり、好ましくは5%以上30%以下であり、さらに好ましくは5%以上25%以下である。吸着材10の鉄の含有率が小さすぎると、鉄の効果が現れないため、吸着材10の吸着特性が低下する。一方、吸着材10の鉄の含有率が高すぎると、リンを吸着させる際に、鉄が溶出してしまう。したがって、吸着材10の鉄の含有率は、上記範囲内であることが好ましい。
【0084】
[2-5-5.有機炭素の含有率]
上述した吸着材10の製造方法において、有機系バインダー220を混錬することによってペレット形状の造粒物20を安定して生成することができる。また、造粒物20の有機系バインダー20から発生した還元性ガスによって鉄化合物210を鉄110に十分に還元することができる。そのため、吸着材10の製造において、有機系バインダー220は非常に重要な材料であるといえる。有機系バインダー220は、焼成工程(S140)によって第2炭化物120に変化するため、吸着材10の測定によって有機系バインダー220を直接定量化することは難しい。しかしながら、本発明者らは、吸着材10の炭化物に含まれる有機炭素の含有率が、吸着材10の吸着特性と関連性があることを見出した。この関連性のメカニズムは必ずしも明らかではないが、吸着材10の炭化物に含まれる有機炭素は、第2炭化物120に起因するものと推測される。したがって、吸着材10の炭化物に含まれる有機炭素の含有率を測定することで、吸着材10の炭化物に含まれる第2炭化物120の含有率を求めることができるとともに、吸着材10が有機バインダー220を用いて製造されたものであることを特定することができる。この点において、吸着材10の炭化物に含まれる有機炭素の含有率は、吸着材10の吸着特性を決定するパラメータの1つであるといえる。
【0085】
吸着材10の炭化物に含まれる有機炭素の含有量は、全炭素の含有量から無機炭素の含有量を差し引くことで算出することができる。全炭素の含有量は、例えば、試料を燃焼し、発生する二酸化炭素の量を基に算出することができる。また、無機炭素の含有量は、例えば、試料を酸性にして加熱し、炭酸塩などから遊離した二酸化炭素の量を基に算出することができる。全炭素の含有量を測定するときの燃焼温度は、焼成工程(S140)の焼成温度よりも高いことが好ましい。例えば、焼成工程(S140)の焼成温度が850℃であれば、全炭素の含有量を測定するときの燃焼温度は、900℃とすることができる。また、無機炭素の含有量を測定するときの加熱温度は、焼成工程(S140)の焼成温度よりも低いことが好ましい。無機炭素の含有量を測定するときの加熱温度は、例えば、200℃である。なお、全有機炭素計を用いることにより、全炭素の含有量および無機炭素の含有量を測定し、有機炭素の含有量を算出することができる。
【0086】
吸着材10の炭化物における有機炭素の含有率は、吸着材10の炭化物の量に対して有機炭素の量の占める割合である。吸着材10の炭化物における有機炭素の含有率は、算出された有機炭素の含有量と、測定された全炭素の含有量とから算出することができる。
【0087】
吸着材10の炭化物における有機炭素の含有率は、30%以上85%以下であり、好ましくは30%以上75%以下であり、さらに好ましくは35%以上70%以下である。
【0088】
以上、本発明の実施形態に係る吸着材10は、特殊な製造設備を使用することないため、製造コストを抑制することができる。また、吸着材10は、従来の吸着材と比較して、異なるパラメータを有し、吸着特性に優れている。なかでも、上述したパラメータの範囲内にある吸着材10、例えば、炭化物における有機炭素の含有率が30%以上85%以下であり、比表面積が100m2/g以上500m2/g以下であり、全細孔容積が1000mm3/g以上3000mm3/g以下である吸着材10は、特に優れた吸着特性を有する。そこで、吸着材10の具体的なパラメータおよび吸着特性について、実施例を参照して説明する。
【実施例0089】
以下に実施例をあげて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0090】
<実施例1>
炭化物として不定形上の木炭300gと酸化鉄83gとを3分間混合し、混合物を得た。なお、木炭の水分量は7.5%であり、木炭の固形成分は、300×92.5%=277.5gであった。そのため、木炭の固形成分の量と酸化鉄の量の比は、277.5:83=100:30であった。
【0091】
次に、混合物を混練機(株式会社ダルトン製、型式:KDRJ-10)に投入し、常温で2分間かけて廃糖蜜500gを添加し、30分間混練してペーストを得た。なお、廃糖蜜の水分量は30%であり、廃糖蜜の固形成分は、500×70.0%=350.0gであった。木炭の固形成分の量と廃糖蜜の固形成分の量の比は、277.5:350=100:126.1であった。
【0092】
次に、ペーストを造粒機(株式会社ダルトン製、型式:F-5)に投入し、回転速度112rpmの条件の下、6mm径で高さが9mmのペレット形状の造粒物を得た。
【0093】
次に、石英管を備えた2連式3ゾーン式管状炉ユニット(株式会社アサヒ理化製作所製)を用いて、窒素雰囲気下で、得られた造粒物のうちの50gの造粒物を750℃で3時間焼成して、25gの吸着材Aを得た。
【0094】
バッチ法を用いて、吸着材Aのリンの吸着量を評価した。200mg/Lのリン溶液50mlに0.1gの吸着材Aを加え、23℃、100rpmの条件で平衡濃度に達するまで水平に振盪した後、ろ過した。ろ液のリン濃度をモリブデン青吸光光度法で分析して算出した吸着材Aのリンの吸着量は、27.2(mg-P/g)であった。また、リンの吸着量の評価を行った後、吸着材Aの崩壊はみられず、水中における強度が高いことがわかった。さらに、鉄の溶出量は、9.4ppmであり、吸着材Aからの鉄の溶出が低減されていることが分かった。
【0095】
<実施例2>
焼成温度を800℃とした以外は実施例1と同様の条件とし、24gの吸着材Bを得た。
【0096】
実施例1と同様の条件で、吸着材Bのリンの吸着量を評価した。吸着材Bのリンの吸着量は、37.9(mg-P/g)であった。また、リンの吸着量の評価を行った後、吸着材Bの崩壊はみられず、水中における強度が高いことがわかった。さらに、鉄の溶出量は、10.4ppmであり、吸着材Bからの鉄の溶出が低減されていることが分かった。
【0097】
<実施例3>
焼成温度を850℃とした以外は実施例1と同様の条件とし、22gの吸着材Cを得た。
【0098】
実施例1と同様の条件で、吸着材Cのリンの吸着量を評価した。吸着材Cのリンの吸着量は、39.2(mg-P/g)であった。また、リンの吸着量の評価を行った後、吸着材Cの崩壊はみられず、水中における強度が高いことがわかった。さらに、鉄の溶出量は、9.8ppmであり、吸着材Cからの鉄の溶出が低減されていることが分かった。
【0099】
<比較例>
本実施形態に係る吸着材10の効果を確認するため、従来の吸着材の一例として市販の活性炭を用いて、実施例1~実施例3と同様の評価を行った。具体的には、バッチ法を用いて、活性炭のリンの吸着量を評価した。活性炭(大阪ガスケミカル株式会社製、粒状白鷺WH2x)は0.5g、リン溶液は、200mg/Lの溶液を250ml用いた。活性炭のリンの吸着量は、3.5(mg-P/g)であった。
【0100】
以上より、実施例1~実施例3で得られた吸着材A~Cと、比較例の活性炭とを比較し、本実施形態に係る吸着材10は、リンの吸着量が大幅に向上することがわかった。
【0101】
また、実施例1~実施例3で得られた吸着材A~Cと、比較例の活性炭との性質の違いを比較するため、吸着材A~Cおよび活性炭のそれぞれにおいて、比表面積、全細孔容積、鉄の含有率、および有機炭素の含有率を評価した。
【0102】
比表面積の測定は、株式会社マウンテック製全自動比表面積測定装置(型式:HM model-1201)を用いた。
【0103】
細孔径分布の測定は、Quantachrome社製全自動細孔径分布測定装置(型式:PoreMaster 33P)を用いた。また、全細孔径容積は、測定された細孔径分布において、細孔径が7.5nm以上110000nm以下の範囲内の細孔径容積を積算して算出した。
【0104】
鉄の含有量の測定は、吸着材を100℃の10%の塩酸溶液で、100℃、15分間加熱処理し、ICP-MSにより吸着材の鉄の含有量を測定した。また、測定に用いた吸着材の量と、測定された鉄の含有量から、吸着材における鉄の含有率を算出した。
【0105】
有機炭素の含有量の測定は、株式会社島津製作所製全有機炭素計を用いた。また、吸着材の炭化物に対する有機炭素の含有率は、測定された有機炭素の含有量および全炭素の含有量を基に算出した。
【0106】
表1に、吸着材A~Cおよび活性炭の評価結果を示す。
【0107】
【0108】
表1より、活性炭と比較して、吸着材A~Cは、比表面積が小さく、全細孔容積が大きいことがわかった。また、活性炭と比較して、吸着材A~Cは、吸着材の炭化物における有機炭素の含有率が小さいことがわかった。吸着材A~Cは、このような性質を有していることにより、リンの吸着量が大幅に向上していると推測される。
10:吸着材、 20:造粒物、 100:第1炭化物、 110:鉄、 120:第2炭化物、 200:炭化物、 210:鉄化合物、 220:有機系バインダー