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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018045
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】伝熱板
(51)【国際特許分類】
   F28F 3/12 20060101AFI20240201BHJP
   B23K 20/00 20060101ALN20240201BHJP
【FI】
F28F3/12 C
F28F3/12 D
B23K20/00 340
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121090
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】515214693
【氏名又は名称】株式会社UACJ鋳鍛
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼田 英憲
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA06
4E167BB04
4E167DB01
(57)【要約】
【課題】接合強度を向上可能な伝熱板を提供する。
【解決手段】第1溝部10と第1溝部10から窪んだ第2溝部20とを有し、金属からなる基材1と、第1溝部10に嵌合し、金属からなる嵌合部材3と、を備え、第1溝部10は、基材1の表面から立ち下がり、互いに対向する一対の第1側面11,11を備え、第2溝部20は、当該第2溝部20の底を構成する第2底面22と、第2底面22から立ち上がり、互いに対向する一対の第2側面21,21と、を備え、一対の第2側面21,21間の距離は、一対の第1側面11,11間の距離よりも小さく、一対の第2側面21,21は、一方の第2側面が、他方の第2側面側に向かって膨出しており、嵌合部材3において第2底面22に対向する対向面31は、第2底面22側に向かって膨出している、伝熱板100。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1溝部と前記第1溝部から窪んだ第2溝部とを有し、金属からなる基材と、
前記第1溝部に嵌合し、金属からなる嵌合部材と、を備え、
前記第1溝部は、前記基材の表面から立ち下がり、互いに対向する一対の第1側面を備え、
前記第2溝部は、
当該第2溝部の底を構成する底面と、
前記底面から立ち上がり、互いに対向する一対の第2側面と、を備え、
前記一対の第2側面間の距離は、前記一対の第1側面間の距離よりも小さく、
前記一対の第2側面は、一方の前記第2側面が、他方の前記第2側面側に向かって膨出しており、
前記嵌合部材において前記底面に対向する対向面は、前記底面側に向かって膨出している、伝熱板。
【請求項2】
前記対向面は、
第2側面側の端部である対向端部と、
前記底面に最も近接した対向近接部と、を備え、
前記対向端部と前記底面との間の距離をAとし、前記対向近接部と前記底面との間の距離をAとした場合に、下記式(1)を満たす第1膨出率R(%)が0.3%以上である、請求項1に記載の伝熱板。
(%)={(A-A)/2A}×100・・・式(1)
【請求項3】
前記一対の第2側面は、
前記底面側又は前記対向面側の端部である一対の側面端部と、
互いに最も近接した一対の側面近接部と、を備え、
前記一対の側面端部間の距離をBとし、前記一対の側面近接部間の距離をBとした場合に、下記式(2)を満たす第2膨出率R(%)が0.5%以上である、請求項1または請求項2に記載の伝熱板。
(%)={(B-B)/2B}×100・・・式(2)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、伝熱板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、伝熱板として、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1に記載の伝熱板は、アルミニウム又はアルミニウム合金基部材(金属基部材)に伝熱媒体が流通する伝熱媒体流路を備え、その上から接合用アルミニウム又はアルミニウム合金部材(接合用金属部材)を、鍛圧圧接して密封した構造を持つ。この伝熱板は、液晶製造装置等の各種薄型ディスプレー(FPD)製造装置や半導体製造装置の伝熱板として使用可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6948832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の伝熱板について、金属基部材と接合用金属部材との接合強度を高め、内部空間の気密性をより向上することが望ましい。また、伝熱板の伝熱性をより向上することが望ましい。
【0005】
本開示は上記のような事情に基づいて完成された技術であって、接合強度を向上可能な伝熱板を提供することを目的の一つとする。また、伝熱性を向上可能な伝熱板を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、第1溝部と前記第1溝部から窪んだ第2溝部とを有し、金属からなる基材と、前記第1溝部に嵌合し、金属からなる嵌合部材と、を備え、前記第1溝部は、前記基材の表面から立ち下がり、互いに対向する一対の第1側面を備え、前記第2溝部は、当該第2溝部の底を構成する底面と、前記底面から立ち上がり、互いに対向する一対の第2側面と、を備え、前記一対の第2側面間の距離は、前記一対の第1側面間の距離よりも小さく、前記一対の第2側面は、一方の前記第2側面が、他方の前記第2側面側に向かって膨出しており、前記嵌合部材において前記底面に対向する対向面は、前記底面側に向かって膨出している、伝熱板である。
【0007】
このような伝熱板によると、対向面、一対の第2側面、及び底面によって囲まれた内部空間(伝熱媒体が流れる流路)の表面積を、第2側面や対向面が膨出していない場合のものに比して大きくすることができる。これにより、伝熱媒体との接触面積を大きくして伝熱板の伝熱性を向上することができる。また、第2側面や対向面が膨出する程、嵌合部材が第1溝部に対し加圧されて嵌合すれば、嵌合部材と第1溝部との当接部分において摩擦により酸化被膜を剥がし、金属の融点以下の温度であっても当該当接部分を金属結合させて接合強度を高めることができる。これにより、伝熱板の内部空間の気密性を向上することができる。
【0008】
上記構成において、前記対向面は、第2側面側の端部である対向端部と、前記底面に最も近接した対向近接部と、を備え、前記対向端部と前記底面との間の距離をAとし、前記対向近接部と前記底面との間の距離をAとした場合に、下記式(1)を満たす第1膨出率R(%)が0.3%以上であってもよい。
(%)={(A-A)/2A}×100・・・式(1)
【0009】
また、上記構成において、前記一対の第2側面は、前記底面側又は前記対向面側の端部である一対の側面端部と、互いに最も近接した一対の側面近接部と、を備え、前記一対の側面端部間の距離をBとし、前記一対の側面近接部間の距離をBとした場合に、下記式(2)を満たす第2膨出率R(%)が0.5%以上であってもよい。
(%)={(B-B)/2B}×100・・・式(2)
【0010】
このような構成によると、伝熱板の内部空間の気密性を好適に保つことが可能な程度に嵌合部材と第1溝部とが接合した伝熱板とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、接合強度を向上できる伝熱板を提供することが可能となる。また、伝熱性を向上できる伝熱板を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態1に係る伝熱板を表面側から視た図
図2】伝熱板の断面図(図1のII-II線断面)
図3】基材の溝部に嵌合部材を挿入する態様を示す断面図
図4】実施形態2に係る伝熱板の断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態1>
本開示の実施形態1を図1から図3によって説明する。本実施形態では、液晶パネルディスプレイ(LCD)や有機ELディスプレイ(OLED)を製造する際に、基板ガラスに電極膜やコーティング膜等の各種薄膜を成膜する工程において、基板ガラスの温度を制御するために用いられる伝熱板100について説明する。このような伝熱板100は、基板ガラスの温度均一性を確保する観点から、基材1の表面1Aの広さが基板ガラスに合わせたサイズとなっている。
【0014】
図1及び図2に示すように、伝熱板100は、表面1A側において所定形状をなして設けられた溝部2を有する板状の基材1と、溝部2に対し基材1の表面1A側から嵌合した嵌合部材3と、を備える。基材1及び嵌合部材3の材料としては、金属が用いられる。この金属としては、伝熱性向上の観点から、アルミニウム合金が好ましく、JIS1050,1100,3003,3004,5052,5005,6061,6063,7003,7N01等のアルミニウム合金がより好ましい。
【0015】
図1に示すように、溝部2は、一端2Aと他端2Bとの間で、表面1Aの面方向において直線状に延伸した部分や曲線状に曲がった部分が複数繋がり、全体として1つの流路を形成している。図2に示すように、溝部2は、基材1の表面1Aから裏面1B側に(基材1の厚さ方向に)窪んだ第1溝部10と、第1溝部10から基材1の厚さ方向に窪んだ第2溝部20と、を備える。嵌合部材3は、表面1Aの面方向において溝部2に沿った外形をなして第1溝部10に嵌合している。
【0016】
第1溝部10は、基材1の表面1Aから厚さ方向に立ち下がり、互いに対向する一対の第1側面11,11と、一対の第1側面11,11から基材1の板面方向に立ち上がって延び、第1溝部10の底を構成する一対の第1底面12,12と、を備える。第2溝部20は、当該第2溝部20の底を構成する第2底面22と、第2底面22から第1溝部10側に立ち上がり、一対の第1底面12,12に至るまで延び、互いに対向する一対の第2側面21,21と、を備える。一対の第2側面21,21間の距離B(又はB2もしくはB3)は、一対の第1側面11,11間の距離Lよりも小さい。
【0017】
一対の第1側面11,11及び一対の第1底面12,12は、溝部2に嵌合した嵌合部材3に当接している。嵌合部材3は、断面視長方形状をなしており、その厚さが、第1溝部10の深さ(第1側面11の厚さ方向における長さ)に略等しく、その板面方向における長さが、一対の第1側面11,11間の距離Lに略等しい。
【0018】
第2底面22と、一対の第2側面21,21と、嵌合部材3において第2底面22に対向する対向面31と、により囲まれる空間を、内部空間Sとする。内部空間Sは、油等の伝熱媒体が通る流路とされる。図1に示すように、伝熱媒体は、溝部2の一端2Aから内部空間Sを通り溝部2の他端2Bに流れる。本実施形態における伝熱板100は、上記したLCD等の製膜工程において真空装置内の高真空環境下で使用されるため、図2に示す内部空間Sから基材1と嵌合部材3とが当接した部分を通じて気体や液体が漏れないような気密性が要求される。そして、基材1と嵌合部材3とが当接した部分は、例えば、後述する鍛接工程を経ることにより接合されている。
【0019】
嵌合部材3の対向面31は、第2底面22側に向かって膨出している。第2底面22は、対向面31側に膨出しておらず、水平面とされる(又は、対向面31よりも膨出していない)。対向面31は、一対の第2側面21,21側の端部である対向端部31A1,31A3と、当該対向面31の板面方向における中央部分であって第2底面22に最も近接した部分である対向近接部31A2と、を備える。左側の対向端部31A1と第2底面22との間の距離をAとし、対向近接部31A2と第2底面22との間の距離をAとした場合に、下記式(1)を満たす第1膨出率R(%)は、0.3%以上とされる。
(%)={(A-A)/2A}×100・・・式(1)
尚、第1膨出率Rは、右側の対向端部31A3と第2底面22との間の距離をAとした場合に、上記式(1)のAをAに読み替えて得られる値としてもよい。
【0020】
第1膨出率Rは、0.4%以上としてもよく、0.5%以上としてもよく、25%以下としてもよく、10%以下としてもよく、5%以下としてもよく、1%以下としてもよく、0.8%以下としてもよい。このような範囲によると、基材1と嵌合部材3とが好適に接合された伝熱板100となり、また、伝熱性を向上させつつ伝熱媒体を内部空間Sに上手く流すことができる伝熱板100となる。
【0021】
一対の第2側面21,21は、図中、左側(一方)の第2側面21が、右側(他方)の第2側面21側に向かって膨出している。同様に、一対の第2側面21,21は、図中、右側の第2側面21が、左側の第2側面21側に向かって膨出している。一対の第2側面21,21は、対向面31側の端部である一対の側面端部21B1,21B1と、当該一対の第2側面21,21の厚さ方向における中央部分であって互いに最も近接した部分である一対の側面近接部21B2,21B2と、第2底面22側の端部である一対の側面端部21B3,21B3と、を備える。上側の一対の側面端部21B1,21B1間の距離をBとし、一対の側面近接部21B2,21B2間の距離をBとした場合に、下記式(2)を満たす第2膨出率R(%)は、0.5%以上である。
(%)={(B-B)/2B}×100・・・式(2)
尚、第2膨出率Rは、下側の一対の側面端部21B3,21B3間の距離をBとした場合に、上記式(2)のBをBに読み替えて得られる値としてもよい。
【0022】
第2膨出率Rは、0.55%以上としてもよく、0.6%以上としてもよく、0.65%以上としてもよく、25%以下としてもよく、10%以下としてもよく、5%以下としてもよく、1%以下としてもよく、0.7%以下としてもよい。このような範囲によると、基材1と嵌合部材3とが好適に接合された伝熱板100となり、また、伝熱性を向上させつつ伝熱媒体を内部空間Sに上手く流すことができる伝熱板100となる。
【0023】
続いて、伝熱板100の製造方法について説明する。伝熱板100の製造方法は、基材1に溝部2を切削等により形成する溝部形成工程と、基材1及び嵌合部材3を所定温度で加熱し所定圧力で加圧して接合する鍛接工程と、を含む。
【0024】
図3に示すように、鍛接工程では、第1溝部10に嵌合部材3を挿入する。このとき、嵌合部材3の対向面31及び第2溝部20における一対の第2側面21,21は、膨出しておらず、例えば対向面31は水平面に沿っており、一対の第2側面21,21は鉛直面に沿っている。
【0025】
そして、一対の第1側面11,11(又は一対の第1側面11,11及び一対の第1底面12,12)が嵌合部材3に当接した状態で、基材1及び嵌合部材3を加熱し、その後(又は加熱と同時に)、嵌合部材3を基材1に対し押し込むようにして加圧する(これを鍛接と呼ぶ)。このときの加熱温度は、基材1及び嵌合部材3を構成する金属の融点以下としてもよく、250度以上500度以下でもよく、300度以上450度以下でもよく、350度以上420度以下でもよい。また、嵌合部材3を押し込む圧力は、嵌合部材3が第1溝部10において塑性変形を起こすことが可能な程度の圧力(熱間変形抵抗以上の圧力)とする。このような範囲によると、基材1と嵌合部材3との当接部分の表面において摩擦により酸化被膜が破壊され、当該表面にアルミニウム新生面が露出することで、当接部分を金属接合させることができる。
【0026】
鍛接工程が完了すると、図2に示すように、嵌合部材3が第1溝部10に嵌合し、対向面31及び一対の第2側面21,21が膨出した、伝熱板100を得ることができる。尚、このような伝熱板100の製造工程を行い、対向面31及び一対の第2側面21,21が膨出する割合(第1膨出率R及び第2膨出率R)を算出し、別途、溝部形成工程にて、その膨出する割合分、対向面と一対の第2側面とを予め凹形状に切削した(膨出する割合分差し引いてなる形状とした)基材及び嵌合部材を用いて、鍛接工程を行うことにより、対向面及び一対の第2側面が膨出していないものの、嵌合部材と基材とが金属接合して、方形状の内部空間を有する別の伝熱板を得ることができる。
【0027】
続いて、本実施形態の効果について説明する。本実施形態では、第1溝部10と第1溝部10から窪んだ第2溝部20とを有し、金属からなる基材1と、第1溝部10に嵌合し、金属からなる嵌合部材3と、を備え、第1溝部10は、基材1の表面から立ち下がり、互いに対向する一対の第1側面11,11を備え、第2溝部20は、当該第2溝部20の底を構成する第2底面22と、第2底面22から立ち上がり、互いに対向する一対の第2側面21,21と、を備え、一対の第2側面21,21間の距離は、一対の第1側面11,11間の距離よりも小さく、一対の第2側面21,21は、一方の第2側面が、他方の第2側面側に向かって膨出しており、嵌合部材3において第2底面22に対向する対向面31は、第2底面22側に向かって膨出している、伝熱板100を示した。
【0028】
このような伝熱板100によると、対向面31、一対の第2側面21,21、及び第2底面22によって囲まれた内部空間S(伝熱媒体が流れる流路)の表面積を、第2側面や対向面31が膨出していない場合のものに比して大きくすることができる。これにより、伝熱媒体との接触面積を大きくして伝熱板100の伝熱性を向上することができる。また、第2側面や対向面31が膨出する程、嵌合部材3が第1溝部10に対し加圧されて嵌合すれば、嵌合部材3と第1溝部10との当接部分において摩擦により酸化被膜を剥がし、金属の融点以下の温度であっても当該当接部分を金属結合させて接合強度を高めることができる。これにより、伝熱板100の内部空間の気密性を向上することができる。
【0029】
上記構成において、対向面31は、第2側面側の端部である対向端部31A1と、第2底面22に最も近接した対向近接部31A2と、を備え、対向端部31A1と第2底面22との間の距離をAとし、対向近接部31A2と第2底面22との間の距離をAとした場合に、下記式(1)を満たす第1膨出率R(%)が0.3%以上であってもよい。
(%)={(A-A)/2A}×100・・・式(1)
【0030】
また、上記構成において、一対の第2側面21,21は、第2底面22側又は対向面31側の端部である一対の側面端部21B1と、互いに最も近接した一対の側面近接部21B2と、を備え、一対の側面端部21B1間の距離をBとし、一対の側面近接部21B2間の距離をBとした場合に、下記式(2)を満たす第2膨出率R(%)が0.5%以上であってもよい。
(%)={(B-B)/2B}×100・・・式(2)
【0031】
このような構成によると、伝熱板100の内部空間の気密性を好適に保つことが可能な程度に嵌合部材3と第1溝部10とが接合した伝熱板100とすることができる。
【0032】
<実施形態2>
次に、本開示の実施形態2を図4によって説明する。本実施形態では、上記実施形態と構造、作用及び効果について重複する説明は省略する。
【0033】
伝熱板200は、表面201A側において所定形状をなして設けられた溝部202を有する基材201と、溝部202に対し基材201の表面201A側から嵌合した嵌合部材203と、を備える。溝部202は、基材201の表面201Aから基材201の厚さ方向に窪んだ第1溝部210と、第1溝部210から基材201の厚さ方向に窪んだ第2溝部220と、を備える。
【0034】
第1溝部210は、基材201の表面201Aから厚さ方向に立ち下がり、互いに対向し、下方に向かうほど互いに近接するように傾斜した一対の第1側面211,211を備えており、断面視テーパ状をなしている。第1溝部210は、上記実施形態1において示した一対の第1底面12,12を備えていない。第2溝部220は、当該第2溝部220の底を構成する第2底面222と、第2底面222から第1溝部210側に立ち上がり、一対の第1側面211,211に至るまで延び、互いに対向する一対の第2側面221,221と、を備える。嵌合部材203は、断面視逆台形状(テーパ状)をなしている。第2底面222と、一対の第2側面221,221と、嵌合部材203において第2底面222に対向する対向面231と、により囲まれる空間を、内部空間Sとする。
【0035】
嵌合部材203の対向面231は、第2底面222側に向かって膨出している。一対の第2側面221,221は、図中、左側の第2側面221が、右側の第2側面221側に向かって膨出している。同様に、一対の第2側面221,221は、図中、右側の第2側面221が、左側の第2側面221側に向かって膨出している。
【実施例0036】
以下、実施例に基づいて本技術を詳細に説明する。なお、本技術はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0037】
[伝熱板の製造]
アルミニウム合金からなる基材に第1溝部及び第2溝部を切削により形成し、図3に示すように、アルミニウム合金からなる嵌合部材を第1溝部に挿入した。このとき、一対の第2側面の厚み方向(上下方向)における長さは、それぞれ20mmであり、対向面及び底面の板面方向(左右方向)における長さは、それぞれ20mmであり、内部空間の断面積は、400mmであった(内部空間は、一辺が20mmの正方形をなしていた)。続いて、基材及び嵌合部材を400度に加熱しつつ、嵌合部材を荷重5000トンで加圧して、嵌合部材を第1溝部に接合(鍛接)することで、一対の第2側面と対向面とが膨出した伝熱板を製造した。
【0038】
[各距離の測定及び膨出率の算出]
得られた伝熱板について、図2に示すように、対向端部と第2底面との間の距離A,A、対向近接部と第2底面との間の距離A、一対の側面端部間の距離B,B、及び一対の側面近接部間の距離Bを、それぞれ4回測定した。4回の測定結果を、表1の実施例1-1から実施例1-4にそれぞれ示す。また、各距離の測定結果と上記実施形態1に記載した式(1),式(2)を用いて、各実施例について第1膨出率R及び第2膨出率Rを算出した。結果を表1に示す。
【0039】
尚、測定されたAまたはAのうち値が大きい方を、上記式(1)におけるAとみなしてRを算出し、測定されたBまたはBのうち値が大きい方を、上記式(2)におけるBとみなしてRを算出している。例えば、4回目の測定結果である実施例1-4では、Aを上記式(1)におけるAとみなしてRを算出し、Bを上記式(2)におけるBとみなしてRを算出している。また、参考例1には、各距離について4回分の測定結果の平均値と当該平均値に基づいて算出された膨出率R,Rを示している。
【0040】
[断面観察]
基材と嵌合部材とにより形成される内部空間が延びる方向(伝熱媒体が流れる方向)に直交する断面(図2に示す断面)を露出させるように伝熱板を部分的に切断し、当該断面を目視にて観察した。基材と嵌合部材との当接部分において隙間のない状態を「〇」とし、一部隙間のある状態を「×」とした。結果を表1に示す。
【0041】
[リークテスト]
伝熱板において伝熱媒体が通る流路(内部空間)の一端(図1の2A)を塞ぎ、他端(図1の2B)をヘリウムリークディテクタに接続した後、内部空間を真空にして、伝熱板の表面にヘリウムを吹き付け、ヘリウムの漏れの有無を評価した(真空吹付法)。ヘリウムの漏れが無い場合を「〇」とし、ヘリウムの漏れがあった場合を「×」とした。結果を表1に示す。
【0042】
<比較例1>
上記実施例と同様の製造方法により、対向面及び一対の第2側面が目視にて殆ど膨出していない伝熱板を製造した。この伝熱板について、対向端部と第2底面との間の距離A,A、対向近接部と第2底面との間の距離A、一対の側面端部間の距離B,B、及び一対の側面近接部間の距離Bを測定し、上記実施形態1に記載した式(1),式(2)を用いて、第1膨出率R及び第2膨出率Rを算出した。さらに、上記実施例と同様の断面観察及びリークテストを行った。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
実施例1-1から実施例1-4では、比較例1に比して第1膨出率R及び第2膨出率Rが高く、断面観察及びリークテストでも不具合は見られなかった。参考例1に示すように、各距離の4回の測定の結果、第1膨出率Rの平均値は0.5%であり、第2膨出率Rの平均値は0.5%であった。このような膨出率となる伝熱板では、基材と嵌合部材とが好適に鍛接されていると考えられる。各距離の4回の測定結果について、第1膨出率Rは、第2膨出率Rよりもばらつきがある(各実施例のうち、第1膨出率Rの最小値は0.3%であり最大値は0.8%であるのに対して、第2膨出率Rの最小値は0.5%であり最大値は0.7%である)。比較例1では、断面観察の結果、対向面及び一対の第2側面が目視にて殆ど膨出しておらず、嵌合部材と第1底面との間に隙間が見られた。
【0045】
<他の実施形態>
本開示は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されず、例えば次のような実施形態も本開示の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0046】
(1)上記実施形態以外にも、溝部や嵌合部材の形状は適宜変更可能である。基材の表面に形成された溝部のパターン(伝熱媒体が通る流路の平面形状)については特に限定されない。また、溝部の寸法や断面形状も特に限定されない。更に、嵌合部材の厚さは、特に限定されず、内部空間を通る伝熱媒体の圧力等を考慮し、耐圧性・気密性が確保されるような厚さであればよい。
【0047】
(2)上記実施形態では、一対の第2側面について、いずれも膨出した形をなしていることとしたが、これに限定されない。例えば、一対の第2側面のうち一方だけが膨出した形をなしていてもよい。
【0048】
(3)距離Aは、距離Aと距離Aの両方に対し、第1膨出率Rが0.3%以上となる構成であってもよい。また、距離Bは、距離Bと距離Bの両方に対し、第2膨出率Rが0.5%以上となる構成であってもよい。
【符号の説明】
【0049】
1,201…基材、1A,201A…表面、3,203…嵌合部材、10,210…第1溝部、11,211…第1側面、20,220…第2溝部、21,221…第2側面、21B1,21B3…側面端部、21B2…側面近接部、22,222…第2底面、31,231…対向面、31A1,31A3…対向端部、31A2…対向近接部、100…伝熱板
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2024-01-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1溝部と前記第1溝部から窪んだ第2溝部とを有し、金属からなる基材と、
前記第1溝部に嵌合し、金属からなる嵌合部材と、を備え、
前記第1溝部は、前記基材の表面から立ち下がり、互いに対向する一対の第1側面を備え、
前記第2溝部は、
当該第2溝部の底を構成する底面と、
前記底面から立ち上がり、互いに対向する一対の第2側面と、を備え、
前記一対の第2側面間の距離は、前記一対の第1側面間の距離よりも小さく、
前記一対の第2側面は、一方の前記第2側面が、他方の前記第2側面側に向かって膨出すると共に、前記他方の第2側面が、前記一方の第2側面に向かって膨出しており、
前記嵌合部材において前記底面に対向する対向面は、前記底面側に向かって膨出しており、
前記基材の前記第1溝部と前記嵌合部材との当接部分は金属結合している、伝熱板。
【請求項2】
前記対向面は、
第2側面側の端部である対向端部と、
前記底面に最も近接した対向近接部と、を備え、
前記対向端部と前記底面との間の距離をAとし、前記対向近接部と前記底面との間の距離をAとした場合に、下記式(1)を満たす第1膨出率R(%)が0.3%以上である、請求項1に記載の伝熱板。
(%)={(A-A)/2A}×100・・・式(1)
【請求項3】
前記一対の第2側面は、
前記底面側又は前記対向面側の端部である一対の側面端部と、
互いに最も近接した一対の側面近接部と、を備え、
前記一対の側面端部間の距離をBとし、前記一対の側面近接部間の距離をBとした場合に、下記式(2)を満たす第2膨出率R(%)が0.5%以上である、請求項1または請求項2に記載の伝熱板。
(%)={(B-B)/2B}×100・・・式(2)