(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180517
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】極低温冷凍機、極低温冷凍機の診断装置および診断方法
(51)【国際特許分類】
F25B 9/14 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
F25B9/14 530Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024177983
(22)【出願日】2024-10-10
(62)【分割の表示】P 2021552309の分割
【原出願日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】P 2019188402
(32)【優先日】2019-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】森江 孝明
(57)【要約】
【課題】極低温冷凍機の運動変換機構の摩耗を検出する診断技術を提供する。
【解決手段】極低温冷凍機10は、モータ42が出力する回転運動をディスプレーサの直線往復運動に変換する運動変換機構43と、モータ42の消費電力またはモータ42に流れる電流を示す時系列データを出力するようにモータ42に接続された計測器50と、時系列データのうち吸気開始タイミングまたは排気開始タイミングを含む区間データに基づいて、運動変換機構43の第1部品と第2部品の摺動面の摩耗を検出する処理部100と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
ディスプレーサと、
前記ディスプレーサの直線往復運動をガイドするとともに、前記ディスプレーサとの間に作動ガスの膨張室を形成するシリンダと、
前記膨張室への作動ガスの吸気開始タイミングおよび前記膨張室からの作動ガスの排気開始タイミングを定める圧力切替バルブと、
前記モータが出力する回転運動を前記ディスプレーサの直線往復運動に変換する運動変換機構であって、互いに摺動可能に連結された第1部品と第2部品を備える運動変換機構と、
前記モータの消費電力または前記モータに流れる電流を示す時系列データを出力するように前記モータに接続された計測器と、
前記時系列データのうち前記吸気開始タイミングまたは前記排気開始タイミングを含む区間データに基づいて、前記運動変換機構の前記第1部品と前記第2部品の摺動面の摩耗を検出する処理部と、を備えることを特徴とする極低温冷凍機。
【請求項2】
前記処理部は、前記時系列データのうち前記ディスプレーサの直線往復運動の少なくとも一周期にわたる区間データに基づいて、前記運動変換機構の前記摺動面の摩耗を検出することを特徴とする請求項1に記載の極低温冷凍機。
【請求項3】
前記第1部品は、前記モータの出力軸に偏心して接続された連結軸を備え、前記第2部品は、軸孔が形成された転動体を備え、前記連結軸と前記転動体は、前記軸孔で前記摺動面を介して互いに摺動可能に連結されていることを特徴とする請求項1または2に記載の極低温冷凍機。
【請求項4】
前記処理部は、前記区間データに基づいて摺動面摩耗パラメータを演算し、前記摺動面摩耗パラメータとパラメータしきい値との比較に基づいて前記摺動面の摩耗を検出することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の極低温冷凍機。
【請求項5】
前記計測器は、前記モータの消費電力を示す時系列データを前記処理部に出力し、
前記処理部は、前記区間データに平滑化処理と時間微分を施すことによって、前記摺動面摩耗パラメータを演算することを特徴とする請求項4に記載の極低温冷凍機。
【請求項6】
前記計測器は、前記モータに流れる電流を示す時系列データを前記処理部に出力し、
前記処理部は、前記区間データに平滑化処理を施すことによって、前記摺動面摩耗パラメータを演算することを特徴とする請求項4に記載の極低温冷凍機。
【請求項7】
前記平滑化処理は、前記モータの電源周波数の周期に基づく時間枠で、前記区間データの移動平均をとる処理を含むことを特徴とする請求項5または6に記載の極低温冷凍機。
【請求項8】
前記モータの回転数を制御するインバータをさらに備え、
前記計測器は、前記モータに流れる電流を示す時系列データを前記処理部に出力し、
前記処理部は、前記区間データに平滑化処理を施すことによって、前記摺動面摩耗パラメータを演算し、
前記平滑化処理は、前記インバータの出力周波数の周期に基づく時間枠で、前記区間データの移動平均をとる処理を含むことを特徴とする請求項4に記載の極低温冷凍機。
【請求項9】
極低温冷凍機の診断装置であって、前記極低温冷凍機は、モータが出力する回転運動をディスプレーサの直線往復運動に変換する運動変換機構であって、互いに摺動可能に連結された第1部品と第2部品を備える運動変換機構を備え、前記診断装置は、
前記モータの消費電力または前記モータに流れる電流を示す時系列データを出力するように前記モータに接続された計測器と、
前記時系列データのうち前記極低温冷凍機の膨張室への吸気開始タイミングまたは前記膨張室からの排気開始タイミングを含む区間データに基づいて、前記運動変換機構の前記第1部品と前記第2部品の摺動面の摩耗を検出する処理部と、を備えることを特徴とする診断装置。
【請求項10】
極低温冷凍機の診断方法であって、前記極低温冷凍機は、モータが出力する回転運動をディスプレーサの直線往復運動に変換する運動変換機構であって、互いに摺動可能に連結された第1部品と第2部品を備える運動変換機構を備え、前記方法は、
前記モータの消費電力または前記モータに流れる電流を示す時系列データを取得することと、
前記時系列データのうち前記極低温冷凍機の膨張室への吸気開始タイミングまたは前記膨張室からの排気開始タイミングを含む区間データに基づいて、前記運動変換機構の前記第1部品と前記第2部品の摺動面の摩耗を検出することと、を備えることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低温冷凍機、極低温冷凍機の診断装置および診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、膨張ピストンが、駆動モータとクランク機構を介して接続され、膨張シリンダ内で往復運動可能とされたギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、たとえばGM冷凍機のように運動変換機構を内蔵した極低温冷凍機について検討したところ、以下の課題を認識するに至った。そうした極低温冷凍機においては、長期にわたり運転を続けるにつれて運動変換機構の可動構成部品の摩耗が進み、部品間の隙間が徐々に拡大しうる。これにより、冷凍機の運転中、運動変換機構から異音が発生しうる。この異音は、部品間のガタつきに起因して発生する部品どうしの衝突音である。摩耗が進むほど部品間の隙間も大きくなり、異音も顕著となりうる。これは冷凍機のユーザーにとってしばしば不快な騒音と感じられるので、望ましくない。摩耗がさらに進行すれば、最終的にはその部品を交換する必要がある。
【0005】
極低温冷凍機の累積の運転時間は、摩耗の程度を示す1つの指標となるかもしれない。たとえば、一定の運転時間が経過したら摩耗が発生したとみなされる。しかし、現実には、摩耗の進み具合は、冷凍機ごとの個体差、個々のユーザーによる冷凍機の使い方など、個別の事情に大きく影響される。そのため、運転時間の長さと摩耗の程度を直ちに対応づけられず、運動変換機構の部品の摩耗の進み具合を累積の運転時間から正確に把握することは困難である。
【0006】
結局のところ、極低温冷凍機に内蔵された運動変換機構の摩耗を自動的に検出する有効な手立ては、これまで無かった。
【0007】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、極低温冷凍機の運動変換機構の摩耗を検出する診断技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様によると、極低温冷凍機は、モータと、ディスプレーサと、ディスプレーサの直線往復運動をガイドするとともに、ディスプレーサとの間に作動ガスの膨張室を形成するシリンダと、膨張室への作動ガスの吸気開始タイミングおよび膨張室からの作動ガスの排気開始タイミングを定める圧力切替バルブと、モータが出力する回転運動をディスプレーサの直線往復運動に変換する運動変換機構であって、互いに摺動可能に連結された第1部品と第2部品を備える運動変換機構と、モータの消費電力またはモータに流れる電流を示す時系列データを出力するようにモータに接続された計測器と、時系列データのうち吸気開始タイミングまたは排気開始タイミングを含む区間データに基づいて、運動変換機構の第1部品と第2部品の摺動面の摩耗を検出する処理部と、を備える。
【0009】
本発明のある態様によると、極低温冷凍機の診断装置が提供される。極低温冷凍機は、モータが出力する回転運動をディスプレーサの直線往復運動に変換する運動変換機構であって、互いに摺動可能に連結された第1部品と第2部品を備える運動変換機構を備える。診断装置は、モータの消費電力またはモータに流れる電流を示す時系列データを出力するようにモータに接続された計測器と、時系列データのうち極低温冷凍機の膨張室への吸気開始タイミングまたは膨張室からの排気開始タイミングを含む区間データに基づいて、運動変換機構の第1部品と第2部品の摺動面の摩耗を検出する処理部と、を備える。
【0010】
本発明のある態様によると、極低温冷凍機の診断方法が提供される。極低温冷凍機は、モータが出力する回転運動をディスプレーサの直線往復運動に変換する運動変換機構であって、互いに摺動可能に連結された第1部品と第2部品を備える運動変換機構を備える。この方法は、モータの消費電力またはモータに流れる電流を示す時系列データを取得することと、時系列データのうち極低温冷凍機の膨張室への吸気開始タイミングまたは膨張室からの排気開始タイミングを含む区間データに基づいて、運動変換機構の第1部品と第2部品の摺動面の摩耗を検出することと、を備える。
【0011】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、極低温冷凍機の運動変換機構の摩耗を検出する診断技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態に係る極低温冷凍機を概略的に示す図である。
【
図2】実施の形態に係る極低温冷凍機を概略的に示す図である。
【
図3】実施の形態に係る極低温冷凍機に用いられる例示的なバルブタイミングを示す図である。
【
図4】
図4(a)は、例示的な運動変換機構を示す概略斜視図であり、
図4(b)は、
図4(a)の運動変換機構を概略的に示す分解斜視図である。
【
図5】
図5(a)および
図5(b)は、転動ブッシュを例示する概略図である。
【
図6】
図6(a)および
図6(b)は、極低温冷凍機における運動変換機構の動作を示す概略図である。
【
図7】実施の形態に係る診断装置のブロック図である。
【
図8】実施の形態に係る極低温冷凍機の診断方法を示すフローチャートである。
【
図9】
図9(a)から
図9(f)は、実施の形態に係り、モータの消費電力を示す時系列データが処理部に入力されるとき得られる波形データを示す図である。
【
図10】実施の形態に係り、モータに流れる電流を示す時系列データが処理部に入力されるとき得られる波形データを示す図である。
【
図11】実施の形態に係り、モータに流れる電流を示す時系列データが処理部に入力されるとき得られる波形データを示す図である。
【
図12】実施の形態に係る診断装置のブロック図である。
【
図13】実施の形態に係り、モータに流れる電流を示す時系列データが処理部に入力されるとき得られる波形データを示す図である。
【
図14】実施の形態に係り、モータに流れる電流を示す時系列データが処理部に入力されるとき得られる波形データを示す図である。
【
図15】実施の形態に係り、モータに流れる電流を示す時系列データが処理部に入力されるとき得られる波形データを示す図である。
【
図16】例1から例4のそれぞれについて、摺動面摩耗パラメータD4の最大値をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0015】
図1および
図2は、実施の形態に係る極低温冷凍機10を概略的に示す図である。
図3は、実施の形態に係る極低温冷凍機10に用いられる例示的なバルブタイミングを示す図である。
図1には、極低温冷凍機10の外観を示し、
図2には、極低温冷凍機10の内部構造を示す。極低温冷凍機10は、一例として、二段式のギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機である。
【0016】
極低温冷凍機10は、圧縮機12と、膨張機14とを備える。圧縮機12は、計測器50と、処理部100とを備える。膨張機14は、モータ42と、運動変換機構43とを備える。詳細は後述するが、モータ42、計測器50、処理部100により、運動変換機構43の診断装置が構成される。
【0017】
圧縮機12は、極低温冷凍機10の作動ガスを膨張機14から回収し、回収した作動ガスを昇圧して、再び作動ガスを膨張機14に供給するよう構成されている。作動ガスは、冷媒ガスとも称され、通例はヘリウムガスであるが、適切な他のガスが用いられてもよい。
【0018】
なお、一般に、圧縮機12から膨張機14に供給される作動ガスの圧力と、膨張機14から圧縮機12に回収される作動ガスの圧力は、ともに大気圧よりかなり高く、それぞれ第1高圧及び第2高圧と呼ぶことができる。説明の便宜上、第1高圧及び第2高圧はそれぞれ単に高圧及び低圧とも呼ばれる。典型的には、高圧は例えば2~3MPaである。低圧は例えば0.5~1.5MPaであり、例えば約0.8MPaである。理解のために、作動ガスの流れる方向を矢印で示す。
【0019】
圧縮機12は、圧縮機本体22と、圧縮機本体22を収容する圧縮機筐体23とを備える。圧縮機12は、圧縮機ユニットとも称される。
【0020】
圧縮機本体22は、その吸入口から吸入される作動ガスを内部で圧縮して吐出口から吐出するよう構成されている。圧縮機本体22は、例えば、スクロール方式、ロータリ式、または作動ガスを昇圧するそのほかのポンプであってもよい。圧縮機本体22は、固定された一定の作動ガス流量を吐出するよう構成されていてもよい。あるいは、圧縮機本体22は、吐出する作動ガス流量を可変とするよう構成されていてもよい。圧縮機本体22は、圧縮カプセルと称されることもある。
【0021】
圧縮機12は、圧縮機12を制御する圧縮機コントローラ24を備えてもよい。圧縮機コントローラ24は、圧縮機12のみを制御するだけでなく、極低温冷凍機10を統合的に制御してもよく、たとえば、膨張機14(たとえばモータ42)も制御してもよい。圧縮機コントローラ24は、圧縮機12に取り付けられていてもよく、例えば、圧縮機筐体23の外表面に設置され、圧縮機筐体23に収容されていてもよい。あるいは、圧縮機コントローラ24は、圧縮機12から離れて配置され、たとえば制御信号線により、圧縮機12と接続されていてもよい。
【0022】
膨張機14は、冷凍機シリンダ16と、ディスプレーサ組立体18とを備える。冷凍機シリンダ16は、ディスプレーサ組立体18の直線往復運動をガイドするとともに、ディスプレーサ組立体18との間に作動ガスの膨張室(32、34)を形成する。また、膨張機14は、膨張室への作動ガスの吸気開始タイミングおよび膨張室からの作動ガスの排気開始タイミングを定める圧力切替バルブ40を備える。
【0023】
本書では、極低温冷凍機10の構成要素間の位置関係を説明するために、便宜上、ディスプレーサの軸方向往復動の上死点に近い側を「上」、下死点に近い側を「下」と表記することとする。上死点は膨張空間の容積が最大となるディスプレーサの位置であり、下死点は膨張空間の容積が最小となるディスプレーサの位置である。極低温冷凍機10の運転時には軸方向上方から下方へと温度が下がる温度勾配が生じるので、上側を高温側、下側を低温側と呼ぶこともできる。
【0024】
冷凍機シリンダ16は、第1シリンダ16a、第2シリンダ16bを有する。第1シリンダ16aと第2シリンダ16bは、一例として、円筒形状を有する部材であり、第2シリンダ16bが第1シリンダ16aよりも小径である。第1シリンダ16aと第2シリンダ16bは同軸に配置され、第1シリンダ16aの下端が第2シリンダ16bの上端に剛に連結されている。
【0025】
ディスプレーサ組立体18は、互いに連結された第1ディスプレーサ18aと第2ディスプレーサ18bを備え、これらは一体に移動する。第1ディスプレーサ18aと第2ディスプレーサ18bは、一例として、円筒形状を有する部材であり、第2ディスプレーサ18bが第1ディスプレーサ18aよりも小径である。第1ディスプレーサ18aと第2ディスプレーサ18bは同軸に配置されている。
【0026】
第1ディスプレーサ18aは、第1シリンダ16aに収容され、第2ディスプレーサ18bは、第2シリンダ16bに収容されている。第1ディスプレーサ18aは、第1シリンダ16aに沿って軸方向に往復移動可能であり、第2ディスプレーサ18bは、第2シリンダ16bに沿って軸方向に往復移動可能である。
【0027】
図2に示されるように、第1ディスプレーサ18aは、第1蓄冷器26を収容する。第1蓄冷器26は、第1ディスプレーサ18aの筒状の本体部の中に、例えば銅などの金網またはその他適宜の第1蓄冷材を充填することによって形成されている。第1ディスプレーサ18aの上蓋部および下蓋部は第1ディスプレーサ18aの本体部とは別の部材として提供されてもよく、第1ディスプレーサ18aの上蓋部および下蓋部は、締結、溶接など適宜の手段で本体に固定され、それにより第1蓄冷材が第1ディスプレーサ18aに収容されてもよい。
【0028】
同様に、第2ディスプレーサ18bは、第2蓄冷器28を収容する。第2蓄冷器28は、第2ディスプレーサ18bの筒状の本体部の中に、例えばビスマスなどの非磁性蓄冷材、HoCu2などの磁性蓄冷材、またはその他適宜の第2蓄冷材を充填することによって形成されている。第2蓄冷材は粒状に成形されていてもよい。第2ディスプレーサ18bの上蓋部および下蓋部は第2ディスプレーサ18bの本体部とは別の部材として提供されてもよく、第2ディスプレーサ18bの上蓋部の下蓋部は、締結、溶接など適宜の手段で本体に固定され、それにより第2蓄冷材が第2ディスプレーサ18bに収容されてもよい。
【0029】
ディスプレーサ組立体18は、室温室30、第1膨張室32、第2膨張室34を冷凍機シリンダ16の内部に形成する。極低温冷凍機10によって冷却すべき所望の物体または媒体との熱交換のために、膨張機14は、第1冷却ステージ33と第2冷却ステージ35を備える。室温室30は、第1ディスプレーサ18aの上蓋部と第1シリンダ16aの上部との間に形成される。第1膨張室32は、第1ディスプレーサ18aの下蓋部と第1冷却ステージ33との間に形成される。第2膨張室34は、第2ディスプレーサ18bの下蓋部と第2冷却ステージ35との間に形成される。第1冷却ステージ33は、第1膨張室32を取り囲むように第1シリンダ16aの下部に固着され、第2冷却ステージ35は、第2膨張室34を取り囲むように第2シリンダ16bの下部に固着されている。
【0030】
第1蓄冷器26は、第1ディスプレーサ18aの上蓋部に形成された作動ガス流路36aを通じて室温室30に接続され、第1ディスプレーサ18aの下蓋部に形成された作動ガス流路36bを通じて第1膨張室32に接続されている。第2蓄冷器28は、第1ディスプレーサ18aの下蓋部から第2ディスプレーサ18bの上蓋部へと形成された作動ガス流路36cを通じて第1蓄冷器26に接続されている。また、第2蓄冷器28は、第2ディスプレーサ18bの下蓋部に形成された作動ガス流路36dを通じて第2膨張室34に接続されている。
【0031】
第1膨張室32、第2膨張室34と室温室30との間の作動ガス流れが、冷凍機シリンダ16とディスプレーサ組立体18との間のクリアランスではなく、第1蓄冷器26、第2蓄冷器28に導かれるようにするために、第1シール38a、第2シール38bが設けられていてもよい。第1シール38aは、第1ディスプレーサ18aと第1シリンダ16aとの間に配置されるように第1ディスプレーサ18aの上蓋部に装着されてもよい。第2シール38bは、第2ディスプレーサ18bと第2シリンダ16bとの間に配置されるように第2ディスプレーサ18bの上蓋部に装着されてもよい。
【0032】
図1に示されるように、膨張機14は、圧力切替バルブ40を収容する冷凍機ハウジング20を備える。冷凍機ハウジング20は、冷凍機シリンダ16と結合され、それにより、圧力切替バルブ40およびディスプレーサ組立体18を収容する気密容器が構成される。
【0033】
圧力切替バルブ40は、
図2に示されるように、高圧バルブ40aと低圧バルブ40bを備え、冷凍機シリンダ16内に周期的圧力変動を発生させるように構成されている。圧縮機12の作動ガス吐出口が高圧バルブ40aを介して室温室30に接続され、圧縮機12の作動ガス吸入口が低圧バルブ40bを介して室温室30に接続されている。高圧バルブ40aと低圧バルブ40bは、選択的かつ交互に開閉するように(すなわち、一方が開いているとき他方が閉じるように)構成されている。
【0034】
図3には、圧力切替バルブ40のバルブタイミングが例示されている。圧力切替バルブ40の一回転すなわち極低温冷凍機10の一周期の冷凍サイクルは、吸気工程A1と排気工程A2を含む。一周期の冷凍サイクルを360度に対応づけて図示しているので、0度は周期の開始時点にあたり、360度は周期の終了時点にあたる。90度、180度、270度はそれぞれ、1/4周期、半周期、3/4周期にあたる。ここでは便宜上、限定しない例として、吸気工程A1の開始を0度、排気工程A2の開始を180度とする。
【0035】
高圧バルブ40aが吸気開始タイミングT1を定める。すなわち、高圧バルブ40aが開くことによって吸気工程A1が始まる。吸気工程A1においては低圧バルブ40bは閉じている。高圧の作動ガスが圧縮機12から高圧バルブ40aを通じて室温室30に流入し、第1蓄冷器26を通じて第1膨張室32に供給され、第2蓄冷器28を通じて第2膨張室34に供給される。吸気開始タイミングT1とともに第1膨張室32、第2膨張室34の圧力は急速に高まる。高圧バルブ40aが閉じると吸気工程A1は終了する。第1膨張室32、第2膨張室34は高圧に保たれる。
【0036】
低圧バルブ40bが排気開始タイミングT2を定める。すなわち、低圧バルブ40bが開くことによって排気工程A2が始まる。排気工程A2においては高圧バルブ40aは閉じている。排気開始タイミングT2とともに高圧の第1膨張室32、第2膨張室34が圧縮機12の低圧の作動ガス吸入口に開放されるので、作動ガスが第1膨張室32、第2膨張室34で膨張し、その結果低圧となった作動ガスが第1膨張室32、第2膨張室34から第1蓄冷器26、第2蓄冷器28を通じて室温室30へと排出される。排気開始タイミングT2とともに第1膨張室32、第2膨張室34の圧力は急速に低下する。作動ガスは膨張機14から低圧バルブ40bを通じて圧縮機12に回収される。低圧バルブ40bが閉じると排気工程A2は終了する。第1膨張室32、第2膨張室34は低圧に保たれる。
【0037】
図示されるように、吸気工程A1が終わってから排気工程A2が始まるまで、高圧バルブ40a、低圧バルブ40bの両方が閉じている期間があってもよい。排気工程A2が終わってから吸気工程A1が始まるまで、高圧バルブ40a、低圧バルブ40bの両方が閉じている期間があってもよい。
【0038】
圧力切替バルブ40は、ロータリーバルブの形式をとってもよい。すなわち、圧力切替バルブ40は、静止したバルブ本体に対するバルブディスクの回転摺動によって高圧バルブ40aと低圧バルブ40bが交互に開閉されるように構成されていてもよい。その場合、モータ42が圧力切替バルブ40のバルブディスクを回転させるように圧力切替バルブ40に連結されていてもよい。たとえば、圧力切替バルブ40は、バルブ回転軸がモータ42の回転軸と同軸となるように配置される。
【0039】
あるいは、高圧バルブ40aと低圧バルブ40bはそれぞれ個別に制御可能なバルブであってもよく、その場合、圧力切替バルブ40は、モータ42に連結されていなくてもよい。
【0040】
再び
図1および
図2を参照する。モータ42は、冷凍機ハウジング20に取り付けられている。運動変換機構43は、圧力切替バルブ40と同様に、冷凍機ハウジング20に収容されている。
【0041】
モータ42は、たとえばスコッチヨーク機構などの運動変換機構43を介してディスプレーサ駆動軸44に連結されている。運動変換機構43は、モータ42が出力する回転運動をディスプレーサ駆動軸44の直線往復運動に変換する。ディスプレーサ駆動軸44は、運動変換機構43から室温室30の中へと延び、第1ディスプレーサ18aの上蓋部に固定されている。モータ42の回転は運動変換機構43によってディスプレーサ駆動軸44の軸方向往復動に変換され、ディスプレーサ組立体18は冷凍機シリンダ16内を軸方向に直線的に往復する。
【0042】
ところで、極低温冷凍機10は、商用電源(三相交流電源)などの電源46から給電される。電源46は給電配線48により圧縮機12およびモータ42に接続される。モータ42は、圧縮機12を介して電源46に接続されているから、圧縮機12をモータ42の電源とみなすこともできる。なお、圧縮機12とモータ42はそれぞれ個別の電源に接続されてもよい。
【0043】
モータ42は、たとえば三相モータである。モータ42は、電源46の周波数に基づく一定の回転数で動作する。
【0044】
計測器50は、モータ42の消費電力またはモータ42に流れる電流を示す時系列データD1を出力するようにモータ42に接続されている。よって、時系列データD1は、極低温冷凍機10の運転中におけるモータ42の消費電力またはモータ42に流れる電流の時間変化を示す。計測器50は、時系列データD1を取得すべく、給電配線48に設置されている。
【0045】
例示的な構成として、計測器50は、たとえば、二電力計法に基づく三相電力計を採用することができ、または、モータ42の消費電力を計測するその他の形式の電力センサであってもよい。あるいは、計測器50は、モータ42に流れる三相電流を個別に同時に計測する三相電流計であってもよく、または、モータ42に流れる電流を計測するその他の形式の電流センサであってもよい。
【0046】
計測器50は、時系列データD1を処理部100に出力する。計測器50は、有線または無線により処理部100に通信可能に接続されている。図示される例では、計測器50は、圧縮機12に内蔵されているが、その限りでない。計測器50は、モータ42に搭載される等、膨張機14に設けられてもよく、または、給電配線48上のその他の場所に設けられてもよい。
【0047】
処理部100は、計測器50から時系列データD1を受け、時系列データD1に基づいて運動変換機構43を診断するように構成されている。処理部100は、圧縮機12に搭載され、圧縮機コントローラ24の一部を構成するが、その限りでない。処理部100は、圧縮機12から離れて配置されてもよく、その場合、計測器50と信号配線により接続されてもよい。処理部100は、膨張機14に搭載されてもよい。ただし、処理部100は、冷凍機ハウジング20など室温環境に配置される。処理部100の詳細は後述する。
【0048】
極低温冷凍機10は、圧縮機12およびモータ42が運転されるとき、第1膨張室32および第2膨張室34において周期的な容積変動とこれに同期した作動ガスの圧力変動を発生させる。典型的には、吸気工程A1においてディスプレーサ組立体18が下死点から上死点へと上動され第1膨張室32と第2膨張室34の容積が増加され、排気工程A2においてディスプレーサ組立体18が上死点から下死点へと下動され第1膨張室32と第2膨張室34の容積が減少される。
【0049】
このようにして、たとえばGMサイクルなどの冷凍サイクルが構成され、第1冷却ステージ33および第2冷却ステージ35が所望の極低温に冷却される。第1冷却ステージ33は、例えば約20K~約40Kの範囲にある第1冷却温度に冷却されることができる。第2冷却ステージ35は、第1冷却温度より低い第2冷却温度(例えば、約1K~約4K)に冷却されることができる。
【0050】
図4(a)は、例示的な運動変換機構43を示す概略斜視図である。
図4(b)は、
図4(a)の運動変換機構43を概略的に示す分解斜視図である。図示される運動変換機構43は、スコッチヨーク機構として構成される。運動変換機構43は、クランク60と、スコッチヨーク70とを含む。クランク60は、モータ42の回転軸42aに固定される。スコッチヨーク70は、クランク60に対してモータ42の回転軸42aとは反対側に配置される。クランク60は、回転軸42aから偏心して接続された連結軸62を有する。連結軸62は、クランク60からスコッチヨーク70に向けて、回転軸42aに平行に延びている。回転軸42aと連結軸62は、軸線Xに沿って延びている。
【0051】
スコッチヨーク70は、ヨーク板72と、転動体(以下、転動ブッシュともいう)74とを含み、軸線Xに直交する軸方向(矢印Zで示す)に移動可能である。ヨーク板72には上部軸45とディスプレーサ駆動軸44が固定されている。上部軸45はヨーク板72の上枠中央から上方に延出し、ディスプレーサ駆動軸44はヨーク板72の下枠中央から下方に延出する。上部軸45とディスプレーサ駆動軸44はそれぞれ、軸方向に摺動可能に冷凍機ハウジング20(
図1参照)に支持される。
【0052】
ヨーク板72は、軸線Xおよび軸方向Zに直交する横方向(矢印Yで示す)に細長いヨーク窓72aを有する。ヨーク窓72a内には転動ブッシュ74が配置される。転動ブッシュ74は中心に軸孔74aを有し、連結軸62が軸孔74aを貫通する。連結軸62は軸孔74aで転動ブッシュ74とすべり接触をしており、連結軸62と転動ブッシュ74は、軸孔74aで互いに摺動可能に連結されている。転動ブッシュ74は、連結軸62を支持する無潤滑のすべり軸受として働く。また、転動ブッシュ74はヨーク窓72aでヨーク板72と転がり接触をしており、転動ブッシュ74は、ヨーク窓72aでヨーク板72に転がり摺動可能に連結されている。
【0053】
モータ42の駆動により回転軸42aが回転すると、回転軸42aとともにクランク60が回転し、連結軸62およびこれに連結された転動ブッシュ74が回転軸42aを中心として円を描くように回転する。このとき、連結軸62は、軸孔74aで転動ブッシュ74に対して回転しながら摺動する。転動ブッシュ74は、ヨーク窓72a内を転がりながら横方向Yに往復し、かつヨーク板72とともに軸方向Zに往復する。ヨーク板72の軸方向往復動により、ディスプレーサ駆動軸44およびディスプレーサ組立体18が軸方向に往復する。このようにして、モータ42が出力する回転運動がディスプレーサの直線往復運動に変換される。
【0054】
連結軸62は、軸孔74aを貫通してさらに延びていてもよい。圧力切替バルブ40がロータリーバルブとして構成される場合には、連結軸62の先端62aが圧力切替バルブ40のバルブディスク41aに連結され、クランク60の回転とともにバルブディスク41aが静止したバルブ本体41bに対して回転される。よって、圧力切替バルブ40は運動変換機構43と同期して回転することができる。
【0055】
図5(a)および
図5(b)は、転動ブッシュ74を例示する概略図である。
図5(a)に示されるように、転動ブッシュ74は、円形の軸孔74aを有する円板状の部材である。上述のように、軸孔74aは連結軸62が摺動する摺動面となるので、転動ブッシュ74は、たとえばフッ素樹脂などの耐摩耗性に優れる樹脂材料で形成される。この場合、ヨーク板72に対する転がり摺動面となる転動ブッシュ74の外周面74bも、耐摩耗材料で形成される。摩耗に強い転動ブッシュ74を提供することができる。
【0056】
転動ブッシュ74は、
図5(b)に示されるように、円形の軸孔74aを有するブッシュ内輪76と、外周面74bを有するブッシュ外輪78とを備えてもよい。ブッシュ内輪76とブッシュ外輪78は同軸に配置され、ブッシュ内輪76はブッシュ外輪78に固定されている。ブッシュ内輪76は、たとえばフッ素樹脂などの耐摩耗性に優れる樹脂材料で形成される。ブッシュ外輪78は、たとえば汎用樹脂材料など、ブッシュ内輪76とは異なる材料で形成される。耐摩耗材料は比較的高価であるので、転動ブッシュ74の一部のみを耐摩耗材料とすることにより、転動ブッシュ74を安価にすることができる。
【0057】
図6(a)および
図6(b)は、極低温冷凍機10における運動変換機構43の動作を示す概略図である。新たに製造されたばかりの極低温冷凍機10においては、運動変換機構43の構成部品どうしは設計上の公差を有して互いに組み合わされており、部品間に不要なガタつきは無い。しかし、極低温冷凍機10が長期にわたって運転されるにつれて、運動変換機構43の可動構成部品の摩耗が進む。摩耗が生じやすいのは部品間の摺動面であり、従って、たとえば転動ブッシュ74の軸孔74aが徐々に拡大し、転動ブッシュ74と連結軸62の間に隙間80が生まれる。
【0058】
図6(a)には、排気工程A2の終盤でスコッチヨーク70が下死点に近づいている様子が示されている。連結軸62は回転しながら転動ブッシュ74およびヨーク板72を下方に押しているので、隙間80は軸孔74aにおいて連結軸62の上側にある。このとき、膨張機14の第1膨張室32、第2膨張室34は低圧の作動ガスで満たされている。
【0059】
この直後に吸気開始タイミングT1が到来し、吸気工程A1が始まったとすると、上述のように、高圧バルブ40aから室温室30に高圧の作動ガスが流入する。流入するガスが第1膨張室32、第2膨張室34へと流れ込むまでは、室温室30とこれら膨張室との差圧がディスプレーサ組立体18に下向きに働くことになる。スコッチヨーク70はディスプレーサ組立体18に固定されている。
【0060】
そのため、吸気開始タイミングT1においては、
図6(b)に示されるように、スコッチヨーク70に過渡的に下向きの力82が働く。これにより、隙間80の分だけスコッチヨーク70が連結軸62に対して動かされる。軸孔74aにおいて連結軸62が転動ブッシュ74とぶつかり、異音が発生しうる。
【0061】
力の向きは上下逆転するが、同様の現象は、排気開始タイミングT2においても起こりうる。排気工程A2が始まるとき、膨張機14内でディスプレーサ組立体18に過渡的な差圧が作用し、この力がスコッチヨーク70に上向きに働き、隙間80の分だけスコッチヨーク70が連結軸62に対して動かされうる。軸孔74aにおいて連結軸62が転動ブッシュ74とぶつかり、異音が発生するかもしれない。
【0062】
ただし、極低温冷凍機10は通例、低温側を下向きとして設置されるので、スコッチヨーク70に働く上向きの力の影響は、ディスプレーサ組立体18に働く重力(すなわち下向きの力)によって緩和される。したがって、排気開始タイミングT2に比べて、吸気開始タイミングT1において、異音は大きくなるかもしれない。
【0063】
このようにして、極低温冷凍機10の運転中、とくに作動ガスの吸気と排気の切り替え時に、運動変換機構43に働くガス圧力の方向が反転することに伴って、運動変換機構43から異音が発生しうる。運動変換機構43の運動方向が反転するときにも異音が発生するかもしれない。摩耗が進むほど隙間80も大きくなり、異音も顕著となりうる。典型的な極低温冷凍機10の運転では、吸気開始タイミングT1は毎秒一回程度と高頻度である。このように頻繁に異音が発生すると、冷凍機のユーザーは不快に感じるかもしれない。また、極低温冷凍機10が無人の環境で運転されるとしても、こうした部品どうしの衝突の頻発は、運動変換機構43の寿命に悪影響を及ぼしうる。
【0064】
極低温冷凍機10の累積の運転時間に基づいて摩耗の進行を推測する方法は、本書の冒頭で述べたように、摩耗の進み具合が個々の冷凍機によって異なるため、あまり実用的でない。
【0065】
また、典型的な極低温冷凍機には、モータに異常に大きな負荷が作用したときに起こりうるモータ電流の異常な増加を検知するために、モータ電流を計測する電流計が備わっていることがある。しかしながら、摩耗による隙間80の拡大はモータ42の負荷を増加させるものではないので、この方法でも運動変換機構43の摩耗を効果的に検知することはできない。
【0066】
図7は、実施の形態に係る診断装置のブロック図である。運動変換機構43の診断装置は、モータ42、計測器50、処理部100を備える。処理部100は、メモリ102、パラメータ演算部104、比較部110を備える。診断装置は、診断結果を示す情報を視覚的に通知する通知手段120を備えてもよく、通知手段120はたとえばディスプレイ122を含みうる。通知手段120は、スピーカーなど音声により診断結果を通知するものであってもよい。通知手段120は、インターネットなどネットワークを介して遠隔の機器に診断結果を送信してもよい。
【0067】
処理部100は、時系列データD1のうち吸気開始タイミングT1または排気開始タイミングT2を含む区間データD2に基づいて、運動変換機構43の第1部品と第2部品の摺動面の摩耗を検出する。この実施の形態においては、処理部100は、時系列データD1のうちディスプレーサの直線往復運動の少なくとも一周期にわたる区間データD2に基づいて、運動変換機構43の摺動面の摩耗を検出する。第1部品と第2部品は、たとえば、連結軸62と転動ブッシュ74である。処理部100は、区間データD2に基づいて摺動面摩耗パラメータD4を演算し、摺動面摩耗パラメータD4とパラメータしきい値との比較に基づいて摺動面の摩耗を検出する。
【0068】
計測器50は、モータ42の消費電力またはモータ42に流れる電流を示す時系列データD1をメモリ102に出力する。メモリ102は、時系列データD1を格納する。メモリ102は、時系列データD1のほかに、処理部100が中間的または最終的に生成または出力する様々な出力データ、または極低温冷凍機10に関連するデータを保存しまたは予め保持してもよい。
【0069】
パラメータ演算部104は、メモリ102から区間データD2を読み出し、区間データD2に基づいて摺動面摩耗パラメータD4を演算する。上述のように、区間データD2は、時系列データD1のうち、例えば、ディスプレーサの直線往復運動(すなわち冷凍サイクル)の一周期分の時間(典型的には例えば1秒程度)に計測されたデータにあたる。時系列データD1において吸気開始タイミングT1(または排気開始タイミングT2)を特定できる場合には、時系列データD1のうち吸気開始タイミングT1(または排気開始タイミングT2)を含む所定時間に計測されたデータが区間データD2として使用されてもよい。
【0070】
時系列データD1がモータ42の消費電力を示す場合には、パラメータ演算部104は、区間データD2に平滑化処理と時間微分を施すことによって、摺動面摩耗パラメータD4を演算してもよい。そこで、パラメータ演算部104は、平滑化部106と、微分演算部108とを備えてもよい。平滑化部106は、区間データD2に平滑化処理を施し、平滑化された区間データD3を生成する。微分演算部108は、平滑化された区間データD3に時間微分(例えば一次微分)を施し、摺動面摩耗パラメータD4を演算する。
【0071】
平滑化処理は、モータ42の電源周波数(例えば50Hzまたは60Hz)の周期に基づく時間枠で、区間データD2の移動平均をとる処理を含んでもよい。したがって、平滑化部106は、モータ42の電源周波数の例えば1周期(またはその整数倍)の時間長さで区間データD2の移動平均をとり、平滑化された区間データD3を生成する。このようにすれば、区間データD2に含まれるモータ42の電源周波数に応じたリップルを効果的に除去することができる。平滑化部106は、ノイズを除去するその他の適切な平滑化フィルタを備えてもよい。
【0072】
また、時間微分とは、微分演算部108に入力される波形データを、時間で、または時間に相当する変数で、微分する処理をいう。時間に相当する変数は、例えば、極低温冷凍機10の運転角度であってもよい。運転角度は時間と完全に対応づけられる。例えば、
図3を参照して述べたように、極低温冷凍機10の一周期の冷凍サイクルは360度の運転角度に対応づけられる。
【0073】
時系列データD1、すなわち区間データD2は、離散的なデータであることが多い。その場合、微分演算部108は、平滑化された区間データD3に差分処理を施し、摺動面摩耗パラメータD4を演算する。例えば、モータ42の消費電力の移動平均Paveの時間微分ΔPave/Δtは、計測時刻tでの消費電力の計測値をPave(t)、次の計測時刻t’での消費電力の計測値をPave(t’)とするとき、
ΔPave/Δt=(Pave(t)-Pave(t’))/(t-t’)
により計算される。こうして得られた時間微分ΔPave/Δtの値が摺動面摩耗パラメータD4として使用される。時間微分の絶対値|ΔPave/Δt|を摺動面摩耗パラメータD4として使用してもよい。
【0074】
また、時系列データD1がモータ42に流れる電流を示す場合には、パラメータ演算部104は、区間データD2に平滑化処理を施すことによって、摺動面摩耗パラメータD4を演算してもよい。平滑化部106は、区間データD2に平滑化処理を施し、平滑化された区間データD3を摺動面摩耗パラメータD4として出力する。処理部100は、微分演算部108を備えなくてもよい。
【0075】
この場合、区間データD2として、計測された三相電流のうち一相のみが使用されてもよい。または、区間データD2として、二相または三相の電流が使用されてもよい。平滑化部106は、二相または三相の電流それぞれに平滑化処理を施し、平滑化された二相または三相の電流のいずれか一つ、または、それらの最大値または平均値を摺動面摩耗パラメータD4として出力してもよい。
【0076】
比較部110は、摺動面摩耗パラメータD4とパラメータしきい値との比較に基づいて摩耗診断データD5を生成する。摩耗診断データD5は、運動変換機構43の第1部品と第2部品の摺動面に摩耗が検知されるか否かを示す。パラメータしきい値は、予め設定され、メモリ102に保存されている。パラメータしきい値は、設計者の経験的知見または設計者による実験やシミュレーション等に基づき適宜設定することが可能である。
【0077】
摩耗診断データD5は、通知手段120に送られ、診断結果は、たとえばディスプレイ122に表示することによって、ユーザーに通知される。摩耗が検知される場合、通知手段120は、アラーム音でユーザーに通知してもよい。このように直ちに通知する代わりに(または、通知するとともに)、摩耗診断データD5は、必要に応じてユーザーに提示することができるように、メモリ102に蓄積されてもよい。
【0078】
処理部100の内部構成は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現されるが、図では適宜、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0079】
たとえば、処理部100は、CPU(Central Processing Unit)、マイコンなどのプロセッサ(ハードウェア)と、プロセッサ(ハードウェア)が実行するソフトウェアプログラムの組み合わせで実装することができる。そうしたハードウェアプロセッサは、たとえば、FPGA(Field Programmable Gate Array)などのプログラマブルロジックデバイスで構成してもよいし、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)のような制御回路であってもよい。ソフトウェアプログラムは、極低温冷凍機10の診断を処理部100に実行させるためのコンピュータプログラムであってもよい。
【0080】
図8は、実施の形態に係る極低温冷凍機10の診断方法を示すフローチャートである。まず、
図8に示されるように、極低温冷凍機10の運転中に、モータ42の消費電力またはモータに流れる電流を示す時系列データD1が取得される(S10)。そして、区間データD2に基づいて運動変換機構43の第1部品と第2部品の摺動面の摩耗が検出される(S20)。
【0081】
S20においては、区間データD2に基づいて摺動面摩耗パラメータD4が演算される(S21)。演算された摺動面摩耗パラメータD4がパラメータしきい値Mと比較される(S22)。摺動面摩耗パラメータD4がパラメータしきい値Mを超える場合(S22のY)、比較部110は、摺動面に摩耗が生じていると判定し(S23)、その旨を示す摩耗診断データD5を出力する。摺動面摩耗パラメータD4がパラメータしきい値M以下の場合(S22のN)、比較部110は、摺動面に摩耗が生じていないと判定し(S24)、それを示す摩耗診断データD5を出力する。こうして、診断処理は終了する。
【0082】
処理部100は、このような診断処理を定期的に繰り返し実行する。運動変換機構43の摺動面の摩耗は長いスパンで徐々に進む長期的な現象であるから、診断方法は、極低温冷凍機10の運転中にときどき行われれば実用上十分である。あるいは、診断方法は、極低温冷凍機10の運転中に常時行われてもよい。
【0083】
ノイズによる誤診断を避けるために、比較部110は、摺動面摩耗パラメータD4がパラメータしきい値Mをある一定期間連続して超える場合に、摺動面に摩耗が生じていると判定し、そうではない場合、摺動面に摩耗が生じていないと判定してもよい。比較部110は、複数(例えば10以上または100以上)の区間データD2について摺動面摩耗パラメータD4の最大値を演算し、それらの値がすべてしきい値を超える場合に、摺動面に摩耗が生じていると判定してもよい。複数の区間データD2は、それぞれが異なるタイミングで取得され、例えば、連続する複数回のディスプレーサ往復運動の間に取得されてもよい。各区間データD2は、吸気開始タイミングT1(または排気開始タイミングT2)を含む。
【0084】
図9(a)から
図9(f)は、実施の形態に係り、モータ42の消費電力を示す時系列データD1が処理部100に入力されるとき得られる波形データを示す図である。各図に示す信号波形は、計測器50によって計測された一周期(すなわち360度)分のモータ42の消費電力に基づく。吸気開始タイミングT1が約300度に設定され、排気開始タイミングT2が約120度に設定されている。
【0085】
図9(a)、
図9(b)、
図9(c)はそれぞれ、区間データD2、平滑化された区間データD3、摺動面摩耗パラメータD4を示す。これらの信号波形は、正常に動作する(すなわち、運動変換機構43には摩耗が無く、連結軸62と転動ブッシュ74の間に余計なガタつきも無い)極低温冷凍機10について診断処理を行って得られたものである。
【0086】
時系列データD1から極低温冷凍機10の冷凍サイクル一周期分の区間データD2が取得される。
図9(a)に示されるように、区間データD2は、電源周波数に応じたリップルがのっているので、細かく振動している。リップルは平滑化処理によって除去され、
図9(b)に示されるように、平滑化された区間データD3が得られる。区間データD3は、モータ42の電源周波数の1周期の時間長さで区間データD2の移動平均をとることによって平滑化されている。平滑化された区間データD3は、モータ42の負荷など動作状態に応じた消費電力の変動を示している。平滑化された区間データD3に時間微分を施すことによって、
図9(c)に示される摺動面摩耗パラメータD4が得られる。
【0087】
摺動面摩耗パラメータD4は、正常な(摩耗の程度が十分に小さい)極低温冷凍機10では、ゼロ付近でほぼ一定値をとることがわかる。この場合、摺動面摩耗パラメータD4は、パラメータしきい値Mを超えない。
【0088】
図9(d)、
図9(e)、
図9(f)はそれぞれ、区間データD2、平滑化された区間データD3、摺動面摩耗パラメータD4を示す。ただし、これらは、運動変換機構43の摺動面の摩耗が既に進行している極低温冷凍機10について診断処理を行って得られたものである。この極低温冷凍機10では、運転中に連結軸62と転動ブッシュ74の間のガタつきによりある程度の異音が発生している。
【0089】
正常な極低温冷凍機10と同様に、
図9(d)に示される区間データD2は振動的であり、これに平滑化処理を施すことによって、
図9(e)に示される平滑化された区間データD3が得られる。平滑化された区間データD3に時間微分を施すことによって、
図9(f)に示される摺動面摩耗パラメータD4が得られる。
【0090】
図9(f)に示されるように、吸気開始タイミングT1を除く期間では、正常な場合と同様に、摺動面摩耗パラメータD4は、ゼロ付近でほぼ一定値となっている。ところが、摺動面摩耗パラメータD4は、吸気開始タイミングT1で顕著に変動し、パラメータしきい値Mを超えている。この大きな変動は、極低温冷凍機10での作動ガスの吸排気の切り替えと運動変換機構43の部品間のガタつきに起因すると考えられる。したがって、吸気開始タイミングT1での摺動面摩耗パラメータD4に基づいて運動変換機構43の摺動面の摩耗を検出することができる。
【0091】
図10および
図11は、実施の形態に係り、モータ42に流れる電流を示す時系列データD1が処理部に入力されるとき得られる波形データを示す図である。
図10は、正常な極低温冷凍機10について摺動面摩耗パラメータD4を示し、
図11は、摩耗が進行した極低温冷凍機10について摺動面摩耗パラメータD4を示す。
【0092】
計測器50によって計測されたモータ42の三相電流(U相、V相、W相)の時系列データD1から、極低温冷凍機10の冷凍サイクル一周期分の区間データD2が取得される。区間データD2は、例えばモータ42の電源周波数の1周期の時間長さで移動平均をとることによって平滑化される。平滑化された区間データD3は、摺動面摩耗パラメータD4として使用される。
【0093】
図10に示されるように、摺動面摩耗パラメータD4は、正常な極低温冷凍機10では、ゼロ付近にある。摺動面摩耗パラメータD4は、パラメータしきい値Mを超えない。
【0094】
一方、
図11に示されるように、運動変換機構43の摺動面に摩耗が生じている場合、摺動面摩耗パラメータD4は、吸気開始タイミングT1で顕著に変動し、パラメータしきい値Mを超える。吸気開始タイミングT1を除く期間では、摺動面摩耗パラメータD4は、正常な場合と同様に、ゼロ付近にとどまる。したがって、吸気開始タイミングT1での摺動面摩耗パラメータD4に基づいて運動変換機構43の摺動面の摩耗を検出することができる。
【0095】
以上説明したように、実施の形態によると、極低温冷凍機10は、吸気開始タイミングT1においてモータ42の消費電力またはモータ42に流れる電流を計測し、その計測結果に基づいて運動変換機構43の摩耗を検出することができる。
【0096】
また、上述のように、排気開始タイミングT2においても作動ガスの圧力が運動変換機構43に存在する部品間のガタつきに作用しうる。したがって、極低温冷凍機10の仕様や運転条件によっては、排気開始タイミングT2での計測結果に基づいて運動変換機構43の摩耗を検出することもできる。
【0097】
摺動部品の摩耗の進行を放置すれば最終的には極低温冷凍機10は故障する可能性がある。もし故障すれば、極低温冷凍機の修理または新品との交換などメンテナンスが完了するまで、極低温冷凍機10を利用する極低温システム(たとえば超伝導機器、またはMRIシステムなど)の稼動は停止せざるを得ない。突然の故障の場合、復旧までにかかる時間は比較的長くなりがちである。
【0098】
しかし、実施の形態によると、極低温冷凍機10の摺動部品を診断し、極低温冷凍機10のユーザー、または、極低温冷凍機10のメンテナンスを行うサービスマンに診断結果を知らせることができる。診断結果に基づいて、極低温システムの稼働への影響を最小にするように対処することが可能となる。
【0099】
図9(f)、
図11に示す摺動面摩耗パラメータD4は、現実に異音が発生した極低温冷凍機10についての実験結果を示す。しかし、異音が発生する前であっても、摺動面摩耗パラメータD4は、摩耗が進行するにつれて同様の変動をするようになると想定される。したがって、実施の形態によると、異音が発生する前に摩耗を検出することもできると期待される。その時点で極低温冷凍機10のメンテナンスをすることにより、異音を未然に防ぐことができる。
【0100】
なお、実施の形態は、モータ42それ自体の故障診断を意図するものではない。実施の形態によると、モータ42およびモータ42の動作をモニタする計測器50を利用して、モータ42ではなく、運動変換機構43の構成部品を診断することができる。
【0101】
極低温冷凍機10のモータ42には、計測器50のように、モータ42の消費電力またはモータ42に流れる電流を計測するセンサが備わっていることが多い。したがって、実施の形態は、新たなセンサを極低温冷凍機10に追加することなく、運動変換機構43を診断することができる点でも有利である。
【0102】
実施の形態によると、時系列データD1のうちディスプレーサの直線往復運動の少なくとも一周期にわたる区間データD2に基づいて、診断処理が行われる。このようにすれば、計測器50による計測を行うとき(または、区間データD2を生成するとき)、吸気開始タイミングT1(または排気開始タイミングT2)を特定する必要がない。これら吸排気の切り替えタイミング(T1、T2)を検出するためには、例えば冷凍機シリンダ16内の作動ガス圧力センサなどのタイミング検出センサが必要とされうるが、そうしたタイミング検出センサを極低温冷凍機10に新たに設けなくてもよい点で、実施の形態は、有利である。なお、極低温冷凍機10には、タイミング検出センサが設けられていてもよい。
【0103】
上述の実施の形態では、モータ42の回転数が一定に保持されるものとして説明しているが、モータ42の回転数は可変であってもよい。モータ回転数が変化すると、モータ42の消費電力または電流も変わりうるから、その影響により摺動面摩耗パラメータD4も変動しうる。これは、運動変換機構43の摩耗を検出するうえで誤差となりうる。そこで、そうした誤差を低減するために、処理部100は、モータ42の回転数をモニタしてもよい。例えば、処理部100は、モータ42の回転数が一定に保たれているときに、上述の診断処理を開始してもよい。あるいは、処理部100は、診断処理の実行中、モータ42の回転数が一定に保たれている場合(例えば回転数の変動がしきい値より小さい場合)、診断処理を継続し、モータ42の回転数が変動した場合(例えば回転数の変動がしきい値より大きい場合)、診断処理を中止してもよい。
【0104】
図12は、実施の形態に係る診断装置のブロック図である。この実施の形態では、極低温冷凍機10が膨張機14のモータ42の回転数を制御するインバータ90を備える点で、
図1から
図11を参照して述べた上述の実施の形態の極低温冷凍機10と異なる。インバータ90は、モータ42の電源としての圧縮機12をモータ42に接続する給電配線48上に設置されている。モータ42は、インバータ90の出力周波数(極低温冷凍機10の運転周波数とも呼ばれる)に応じた回転数で動作することができる。
【0105】
図12に示される診断装置200は、上述の実施の形態と同様に、運動変換機構43の診断装置として構成され、モータ42と診断ユニット202とを備える。診断ユニット202は、インバータ90とともに、計測器50および処理部100を備える。処理部100の内部構成は、例えば、
図7に示される処理部100と同様の構成を有してもよい。また、診断ユニット202は、診断結果を示す情報を(例えば視覚的に)通知する通知手段120を備えてもよい。
【0106】
計測器50は、インバータ90とモータ42の間で給電配線48上に設置され、モータ42に流れる電流を示す時系列データD1を処理部100に出力するように構成されている。例えば、計測器50は、インバータ90からモータ42に出力される三相電流を個別に同時に計測し、時系列データD1として例えば、計測された三相の電流それぞれの大きさを示す電圧信号を処理部100に出力するように構成されてもよい。
【0107】
また、インバータ90は、インバータ90の出力周波数を示す出力周波数情報D6を処理部100に出力するように構成されている。なお、一例として、インバータ90の出力周波数は、30Hzから100Hzの範囲で変化しうる。
【0108】
あるいは、処理部100がインバータ90から出力周波数情報D6を受け取ることに代えて、処理部100は、計測器50から入力される時系列データD1から出力周波数情報D6を演算してもよい。例えば、処理部100は、モータ42に流れる電流の波形から単位時間あたりの電流ピークの数をカウントすることによって、インバータ90の出力周波数を演算してもよい。
【0109】
なお、インバータ90が発生させうる高周波ノイズによるモータ42への悪影響を軽減または防止するために、給電配線48上(例えばインバータ90と計測器50との間)に、例えばフェライトコアなどのノイズ対策部品が設けられてもよい。また、インバータ90が発生させうる高周波ノイズによる計測器50への悪影響を軽減または防止するために、インバータ90を少なくとも部分的に包囲する導電遮蔽板が診断ユニット202に設けられてもよい。
【0110】
図13および
図14を参照して、
図12に示される診断装置200の動作を説明する。
図13および
図14は、実施の形態に係り、モータ42に流れる電流を示す時系列データD1が処理部100に入力されるとき得られる波形データを示す図である。
図13および
図14はそれぞれ、区間データD2、平滑化された区間データD3を示す。
【0111】
ただし、これらのデータは、運動変換機構43の摺動面の摩耗が既に進行している極低温冷凍機10について診断処理を行って得られたものである。この極低温冷凍機10では、運動変換機構43の第1部品と第2部品(例えば、
図4及び
図6に示される連結軸62と転動ブッシュ74)の間のガタつきにより、ある程度の異音が運転中に発生している。
【0112】
計測器50によって計測されたモータ42の三相電流(U相、V相、W相)の時系列データD1から、極低温冷凍機10の冷凍サイクル一周期分の区間データD2が取得される。
図13に示されるように、区間データD2は、正常な極低温冷凍機10と同様に、振動的である。一例として、
図13には、インバータ90の出力周波数が60Hzであるときの1秒間分の三相実電流が示されている。
【0113】
ここで、処理部100は、区間データD2の長さを出力周波数情報D6に基づいて決定してもよい。知られているように、インバータ90の出力周波数はモータ42の回転数に換算することができ、モータ42の一回転が極低温冷凍機10の冷凍サイクルの一周期に相当するから、処理部100は、冷凍サイクルの一周期分の時間を出力周波数情報D6から決定し、この時間に計測された区間データD2を時系列データD1から切り出してもよい。このようにすれば、モータ42の回転数が変動する場合であっても、区間データD2に吸気開始タイミングT1または排気開始タイミングT2を含むことが保証される。
【0114】
あるいは、代案として、インバータ90の最低出力周波数(すなわち、モータ42の取りうる最低の回転数)から、冷凍サイクルの一周期に要する最長の時間を予め求めることができるので、処理部100は、この最長時間またはそれより長い時間に計測された区間データD2を時系列データD1から切り出し、この区間データD2を摺動面摩耗パラメータD4の演算に使用してもよい。この場合、区間データD2の長さはインバータ90の出力周波数によらず固定される。
【0115】
次に、処理部100は、インバータ90の出力周波数の例えば1周期(またはその整数倍)の時間長さで区間データD2の移動平均をとり、平滑化された区間データD3を生成する。平滑化された区間データD3は、摺動面摩耗パラメータD4として使用される。平滑化された区間データD3の絶対値が、摺動面摩耗パラメータD4として使用されてもよい。また、処理部100は、ノイズを除去するその他の適切な平滑化フィルタ(例えばローパスフィルタ)を備えてもよい。
【0116】
図14に示されるように、運動変換機構43の摺動面に摩耗が生じている場合、摺動面摩耗パラメータD4は、吸気開始タイミングT1で顕著に変動し、パラメータしきい値Mを超える。吸気開始タイミングT1を除く期間では、摺動面摩耗パラメータD4は、パラメータしきい値Mを超えない。なお、
図14では縦軸の数値が
図13に比べて1/10となっていることを踏まえると、摺動面摩耗パラメータD4は、吸気開始タイミングT1を除く期間では事実上一定であるとみなされうる。これは、正常な極低温冷凍機10での摺動面摩耗パラメータD4の挙動と同様である。パラメータしきい値Mは、上述の実施の形態と同様に、設計者の経験的知見または設計者による実験やシミュレーション等に基づき適宜設定することが可能である。したがって、吸気開始タイミングT1での摺動面摩耗パラメータD4に基づいて運動変換機構43の摺動面の摩耗を検出することができる。
【0117】
このようにして、上述の実施の形態と同様に、処理部100は、時系列データD1のうち吸気開始タイミングT1または排気開始タイミングT2を含む区間データD2に基づいて、摺動面摩耗パラメータD4を演算する。このとき、処理部100は、区間データD2に平滑化処理を施すことによって、摺動面摩耗パラメータD4を演算する。平滑化処理は、インバータ90の出力周波数の周期に基づく時間枠で、区間データD2の移動平均をとる処理を含む。処理部100は、摺動面摩耗パラメータD4とパラメータしきい値Mとの比較に基づいて摺動面の摩耗を検出する。こうして、運動変換機構43の第1部品と第2部品(例えば、
図4及び
図6に示される連結軸62と転動ブッシュ74)の摺動面の摩耗を検出することができる。
【0118】
なお、
図14に示される摺動面摩耗パラメータD4は、定常偏差Xを有しうることがわかる(例えばU相)。定常偏差Xの大きさは必ずしも事前に知ることができるとは限らないので、これは、パラメータしきい値Mの適切な設定を難しくする一因となりうる。そこで、摺動面摩耗パラメータD4のこの定常偏差Xを低減または除去するために、摺動面摩耗パラメータD4は、上述の区間データD2の移動平均から、区間データD2の単純平均を減算することによって取得されてもよい。ここで、区間データD2の単純平均は、インバータ90の出力周波数の例えば1周期の時間長さに比べて十分に長い時間(例えば冷凍サイクルの一周期に相当する時間)での区間データD2の平均値をいう。区間データD2の移動平均と区間データD2の単純平均との差の絶対値が、摺動面摩耗パラメータD4として使用されてもよい。
【0119】
図15には、区間データD2の移動平均と区間データD2の単純平均との差により得られた摺動面摩耗パラメータD4が例示される。摺動面摩耗パラメータD4は、吸気開始タイミングT1を除く期間では、正常な場合と同様に、ゼロ付近でほぼ一定値となり、パラメータしきい値Mを超えていない。一方、摺動面摩耗パラメータD4は、吸気開始タイミングT1では顕著に変動し、パラメータしきい値Mを超えている。図示されるように、摺動面摩耗パラメータD4の定常偏差が除去されているので、パラメータしきい値Mをより小さい値に設定することができ、より良好な精度で摩耗を検出することが可能となる。
【0120】
図16は、例1から例4のそれぞれについて、摺動面摩耗パラメータD4の最大値をプロットしたグラフである。例1のグラフは、正常な極低温冷凍機(すなわち、運動変換機構43には摩耗が無いか十分に小さく、連結軸62と転動ブッシュ74の間に余計なガタつきが無い)について診断処理を行って得られたものである。例2から例4は、運動変換機構43の摺動面の摩耗が既に進行している極低温冷凍機について診断処理を行って得られたものである。例2から例4の極低温冷凍機では、運転中に連結軸62と転動ブッシュ74の間のガタつきによりある程度の異音が発生している。例2、例3、例4の順に摩耗が進行しており、例3の極低温冷凍機におけるガタ(例えば
図6に示される隙間80)の大きさを1とするとき、例2と例4ではそれぞれガタの大きさが0.75、1.2である。
【0121】
これらの例では、摺動面摩耗パラメータD4は、
図12から
図15を参照して説明したように、インバータ90の出力周波数の周期に基づく時間枠で、モータ42に流れる電流の移動平均をとることによって取得されたものである。
図16には、そのようにして得られた電流の移動平均の絶対値のピーク値が、異なる複数の出力周波数についてプロットされている。
【0122】
摩耗の無い正常な極低温冷凍機である例1では、摺動面摩耗パラメータD4の最大値は、インバータ90の出力周波数によらずほぼ一定であり、最もゼロに近い。摩耗が進行している例2から例4では、摺動面摩耗パラメータD4の最大値は、インバータ90の出力周波数が増加するにつれて大きくなっている。
【0123】
図16において、丸で囲んだプロットは、異音をはっきりと聞き取ることができた運転モードを表す。例えば、例2については、70Hzのとき摺動面摩耗パラメータD4の最大値が約50mAを超え、このとき異音が聴取された。また、例2に比べて摩耗が進行している例3では、60Hzと70Hzのときの両方で異音が聴取された。さらに摩耗が進行している例4では、50Hz、60Hz、70Hzで異音が聴取された。このように、摩耗が進行するにつれて、より低い周波数から異音が聴取されるようになるとともに、摺動面摩耗パラメータD4の最大値も増加していく。
図16に示される例においては、摺動面摩耗パラメータD4の最大値が約25mAを超えると、異音が聴取されていることがわかる。
【0124】
図16に示される結果によれば、摺動面摩耗パラメータD4の最大値が例えば約10~25mAの範囲にあるときには、極低温冷凍機の運転中、はっきりとした異音は聴取されないが、例1の正常な極低温冷凍機に比べて運動変換機構43の摩耗がいくらか生じていると考えられる。したがって、パラメータしきい値Mをこの範囲内に設定することによって、現実に異音が発生する前に摩耗を検出することができる。このとき極低温冷凍機10のメンテナンスをすることにより、異音を未然に防ぐことができる。
【0125】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。ある実施の形態に関連して説明した種々の特徴は、他の実施の形態にも適用可能である。組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態それぞれの効果をあわせもつ。
【0126】
ある実施の形態においては、極低温冷凍機10は、単段式のGM冷凍機であってもよく、または、スコッチヨーク機構などの運動変換機構を備えるその他の形式の極低温冷凍機であってもよい。
【0127】
上述の実施の形態では、連結軸62と転動ブッシュ74が互いに摺動可能に連結されているが、連結軸62は転動ブッシュ74に固定されていてもよい。その場合、運動変換機構43は、転動ブッシュ74とヨーク板72との間に摺動面を有するから、処理部100は、同様の診断処理により、転動ブッシュ74とヨーク板72の摺動面の摩耗を検出してもよい。
【0128】
ある実施の形態においては、処理部100は、極低温冷凍機10の一部を構成するのではなく、極低温冷凍機10を搭載した極低温システム(例えば超伝導機器、またはMRIシステム)の一部であってもよい。
【0129】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明は、極低温冷凍機、極低温冷凍機の診断装置および診断方法の分野における利用が可能である。
【符号の説明】
【0131】
10 極低温冷凍機、 16 冷凍機シリンダ、 18 ディスプレーサ組立体、 40 圧力切替バルブ、 42 モータ、 43 運動変換機構、 46 電源、 50 計測器、 62 連結軸、 74a 軸孔、 100 処理部、 T1 吸気開始タイミング、 T2 排気開始タイミング、 D1 時系列データ、 D2 区間データ、 D4 摺動面摩耗パラメータ。