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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180550
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】センサコントローラ及び方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/041 20060101AFI20241219BHJP
   G06F 3/03 20060101ALI20241219BHJP
   G06F 3/044 20060101ALI20241219BHJP
   G06F 3/0354 20130101ALI20241219BHJP
【FI】
G06F3/041 512
G06F3/03 400Z
G06F3/044 B
G06F3/03 400A
G06F3/0354 453
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024179646
(22)【出願日】2024-10-15
(62)【分割の表示】P 2020195590の分割
【原出願日】2020-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000139403
【氏名又は名称】株式会社ワコム
(74)【代理人】
【識別番号】110004277
【氏名又は名称】弁理士法人そらおと
(72)【発明者】
【氏名】門脇 淳
(72)【発明者】
【氏名】謝 政良
(72)【発明者】
【氏名】郎 崇年
(57)【要約】
【課題】パネル面に接触している電極の座標検出精度の向上と、パネル面に接触していない電極の座標検出精度の向上とを両立する。
【解決手段】本発明によるセンサコントローラは、近距離無線通信を経由してペンから受信したデータに基づいて、前記ペンがコンタクトしているか否かを判定し、前記ペンがコンタクトしていると判定したときは、等間隔で配置された複数の基準位置の中から等間隔で配置された複数の第1の基準位置を選択し、選択した前記複数の第1の基準位置のそれぞれにおける位置信号の信号レベルを検出する第1のスキャンを実行し、前記ペンがコンタクトしていないと判定したときは、前記複数の基準位置のうち前記複数の第1の基準位置よりも広い間隔で等間隔に配置された複数の第2の基準位置を選択し、選択した前記複数の第2の基準位置のそれぞれにおける位置信号の信号レベルを検出する第2のスキャンを実行する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
近距離無線通信を経由してペンから受信したデータに基づいて、前記ペンがコンタクトしているか否かを判定し、
前記ペンがコンタクトしていると判定したときは、等間隔で配置された複数の基準位置の中から等間隔で配置された複数の第1の基準位置を選択し、選択した前記複数の第1の基準位置のそれぞれにおける位置信号の信号レベルを検出する第1のスキャンを実行し、
前記ペンがコンタクトしていないと判定したときは、前記複数の基準位置のうち前記複数の第1の基準位置よりも広い間隔で等間隔に配置された複数の第2の基準位置を選択し、選択した前記複数の第2の基準位置のそれぞれにおける位置信号の信号レベルを検出する第2のスキャンを実行する、
センサコントローラ。
【請求項2】
前記複数の第1の基準位置は、前記複数の基準位置のうち連続的に配置されたものである、
請求項1に記載のセンサコントローラ。
【請求項3】
前記第1のスキャン又は前記第2のスキャンにより得られた前記信号レベルに基づいて、前記ペンの位置を示す座標を導出する、
請求項1に記載のセンサコントローラ。
【請求項4】
前回導出した座標に基づいて、前記複数の第1の基準位置又は前記複数の第2の基準位置を選択する、
請求項3に記載のセンサコントローラ。
【請求項5】
前記データは、前記ペンの先端に加わる筆圧の値である、
請求項1に記載のセンサコントローラ。
【請求項6】
一定のピッチで並置される複数のセンサ電極のそれぞれに接続され、
前記複数の基準位置はそれぞれ1以上の所定数の前記センサ電極に対応し、
前記基準位置における位置信号の信号レベルは、該基準位置に対応する前記所定数のセンサ電極における位置信号の信号レベルに基づいて検出される、
請求項1に記載のセンサコントローラ。
【請求項7】
近距離無線通信を経由してペンから受信したデータに基づいて、前記ペンがコンタクトしているか否かを判定するステップと、
前記ペンがコンタクトしていると判定したことに応じ、等間隔で配置された複数の基準位置の中から等間隔で配置された複数の第1の基準位置を選択し、選択した前記複数の第1の基準位置のそれぞれにおける位置信号の信号レベルを検出する第1のスキャンを実行するステップと、
前記ペンがコンタクトしていないと判定したことに応じ、前記複数の基準位置のうち前記複数の第1の基準位置よりも広い間隔で等間隔に配置された複数の第2の基準位置を選択し、選択した前記複数の第2の基準位置のそれぞれにおける位置信号の信号レベルを検出する第2のスキャンを実行するステップと、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号を送信する電極を含むペンの座標を検出するセンサコントローラにより実行される方法と、該センサコントローラと、該センサコントローラを含む電子機器とに関する。
【背景技術】
【0002】
ノート型パーソナルコンピュータなどに設けられているタッチパッドは、画面上での位置を指定するために用いられるポインティングデバイスの一種である。ユーザは、タッチパッドのパネル面上で指を摺動させることにより、マウスポインタの操作を行うことができる。
【0003】
従前、タッチパッドはもっぱら指による入力のために用いられてきたが、近年では、タッチパッドをペン入力にも利用することが検討されている。特許文献1には、タッチパッドをペン入力にも使用するノート型パーソナルコンピュータの例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-154482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、タッチパッドでペン入力を行う場合、パネル面を画面の全体に対応付ける必要があり、そうすると、パネル面上で行ったペン入力の結果は画面上に拡大表示されることになる。そこで、タッチパッド上でのペン入力において画面上でのペン入力と同等の座標検出精度を得るべく、ペンからの位置信号を検出するためにパネル面の下に配置するセンサ電極の間隔を、画面の下に配置する場合に比べて密にすることが検討されている。こうすることで、ペンに設けられる電極のうち少なくともパネル面に接触している電極(パネル面にコンタクト中のペン先電極など)の座標検出については、その精度を向上する効果が得られる。
【0006】
しかしながら、本願の発明者が研究を重ねた結果、センサ電極の配置間隔を密にしてタッチパッドを構成すると、座標検出精度がむしろ悪化してしまう場合があることが判明した。具体的には、パネル面に接触していない電極(ホバー中のペン先電極、傾き検出のための第2電極など)の座標について、その検出精度が悪化してしまう場合があることが判明した。これは、ペンの送信する位置信号がパネル面上で広がってしまい、明確なピークが得られなくなってしまうことによるものだと考えられる。
【0007】
したがって、本発明の目的の一つは、パネル面に接触している電極の座標検出精度の向上と、パネル面に接触していない電極の座標検出精度の向上とを両立できる方法、センサコントローラ、及び電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による方法は、信号を送信する1以上の電極を含むペンの座標を検出するセンサコントローラにより実行される方法であって、前記1以上の電極のうちパネル面に接触している電極から送信された信号を検出する動作を、並置される複数の基準位置のうち第1の範囲に含まれるセンサ電極群において検出される前記信号から信号レベルを検出し得る3以上の第1の基準位置のそれぞれにおいて実行する第1のスキャンステップと、前記1以上の電極のうちパネル面に接触していない電極から送信された信号を検出する動作を、前記複数の基準位置のうち前記第1の範囲より広い第2の範囲に含まれるセンサ電極群において検出される前記信号から信号レベルを検出し得る3以上の第2の基準位置のそれぞれにおいて実行する第2のスキャンステップと、前記第1のスキャンステップにおいて検出された前記信号の前記3以上の第1の基準位置それぞれにおける信号レベルに基づいて座標を導出する第1の導出ステップと、前記第2のスキャンステップにおいて検出された前記信号の前記3以上の第2の基準位置それぞれにおける信号レベルに基づいて座標を導出する第2の導出ステップと、を含む方法である。
【0009】
本発明によるセンサコントローラは、信号を送信する1以上の電極を含むペンの座標を検出するセンサコントローラであって、前記1以上の電極のうちパネル面に接触している電極から送信された信号を検出する動作を、並置される複数の基準位置のうち第1の範囲に含まれるセンサ電極群において検出される前記信号から信号レベルを検出し得る3以上の第1の基準位置のそれぞれにおいて実行する第1のスキャンステップと、前記1以上の電極のうちパネル面に接触していない電極から送信された信号を検出する動作を、前記複数の基準位置のうち前記第1の範囲より広い第2の範囲に含まれるセンサ電極群において検出される前記信号から信号レベルを検出し得る3以上の第2の基準位置のそれぞれにおいて実行する第2のスキャンステップと、前記第1のスキャンステップにおいて検出された前記信号の前記3以上の第1の基準位置それぞれにおける信号レベルに基づいて座標を導出する第1の導出ステップと、前記第2のスキャンステップにおいて検出された前記信号の前記3以上の第2の基準位置それぞれにおける信号レベルに基づいて座標を導出する第2の導出ステップと、を実行するセンサコントローラである。
【0010】
本発明による電子機器は、ペンと、前記ペンの座標を検出するセンサコントローラと、を含む電子機器であって、前記ペンは、それぞれ信号を送信する1以上の電極を含み、前記センサコントローラは、前記1以上の電極のうちパネル面に接触している電極から送信された信号を検出する動作を、並置される複数の基準位置のうち第1の範囲に含まれるセンサ電極群において検出される前記信号から信号レベルを検出し得る3以上の第1の基準位置のそれぞれにおいて実行する第1のスキャンステップと、前記1以上の電極のうちパネル面に接触していない電極から送信された信号を検出する動作を、前記複数の基準位置のうち前記第1の範囲より広い第2の範囲に含まれるセンサ電極群において検出される前記信号から信号レベルを検出し得る3以上の第2の基準位置のそれぞれにおいて実行する第2のスキャンステップと、前記第1のスキャンステップにおいて検出された前記信号の前記3以上の第1の基準位置それぞれにおける信号レベルに基づいて座標を導出する第1の導出ステップと、前記第2のスキャンステップにおいて検出された前記信号の前記3以上の第2の基準位置それぞれにおける信号レベルに基づいて座標を導出する第2の導出ステップと、を実行する、電子機器である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、パネル面に接触していない電極からの信号をより広い範囲で捉えることが可能になるので、パネル面に接触している電極の座標検出精度の向上と、パネル面に接触していない電極の座標検出精度の向上とを両立することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態による電子機器1の使用状態を示す図である。
図2】ペン2及びコンピュータ3それぞれの内部構成を示す図である。
図3】センサコントローラ31がローカルスキャン時に実行するダウンリンク信号DSの受信処理を示す処理フロー図である。
図4】(a)は、図3のステップS3で実行される第1のスキャンの詳細を示す処理フロー図であり、(b)は、図3のステップS6で実行される第2のスキャンの詳細を示す処理フロー図である。
図5】(a)は、基準位置とセンサ電極30Xの対応関係の一例を説明する図であり、(b)は、基準位置とセンサ電極30Xの対応関係が(a)に示したものである場合に図4(b)のステップS17において選択される基準位置の第1の例を示す図であり、(c)は、基準位置とセンサ電極30Xの対応関係が(a)に示したものである場合に図4(b)のステップS17において選択される基準位置の第2の例を示す図である。
図6】(a)は、基準位置とセンサ電極30Xの対応関係の他の一例を説明する図であり、(b)は、基準位置とセンサ電極30Xの対応関係が(a)に示したものである場合に図4(b)のステップS17において選択される基準位置の第1の例を示す図であり、(c)は、基準位置とセンサ電極30Xの対応関係が(a)に示したものである場合に図4(b)のステップS17において選択される基準位置の第2の例を示す図である。
図7】(a)は、基準位置とセンサ電極30Xの対応関係のさらに他の一例を説明する図であり、(b)は、基準位置とセンサ電極30Xの対応関係が(a)に示したものである場合に図4(b)のステップS17において選択される基準位置の第1の例を示す図であり、(c)は、基準位置とセンサ電極30Xの対応関係が(a)に示したものである場合に図4(b)のステップS17において選択される基準位置の第2の例を示す図である。
図8図3に示した受信処理をより具体的な例により示す処理フロー図である。
図9】ペン2の傾きθ=0°の場合について、後端電極22から送信される位置信号の信号レベルのX方向の各基準位置における測定結果を示す図である。
図10】ペン2の傾きθ=0°の場合について、後端電極22から送信される位置信号の信号レベルのY方向の各基準位置における測定結果を示す図である。
図11】ペン2の傾きθ=30°の場合について、後端電極22から送信される位置信号の信号レベルのY方向の各基準位置における測定結果を示す図である。
図12】(a)は、本発明を適用しない比較例において、パネル面12a上でθ=0°を維持しつつペン2の先端を摺動させた場合における後端電極22の位置の軌跡を示す図であり、(b)は、本発明を適用した実施例において、パネル面12a上でθ=0°を維持しつつペン2の先端を摺動させた場合における後端電極22の位置の軌跡を示す図である。
図13】本発明の実施の形態の変形例によるセンサコントローラ31がローカルスキャン時に実行するダウンリンク信号DSの受信処理を示す処理フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態による電子機器1の使用状態を示す図である。同図に示すように、電子機器1は、ペン2及びコンピュータ3を有して構成される。
【0015】
ペン2は、コンピュータ3に位置情報を入力する位置指示器であり、タッチパッド12のパネル面12a上における位置をユーザが指示するために用いられる。ペン2によって指示された位置は、コンピュータ3に対する入力となる。
【0016】
コンピュータ3はノート型のパーソナルコンピュータであり、ディスプレイ10と、キーボード11と、タッチパッド12とを有して構成される。ディスプレイ10は、例えば液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示画面を有する表示装置であり、文字や図形を視覚的に出力する役割を果たす。
【0017】
キーボード11及びタッチパッド12はそれぞれ、ユーザがコンピュータ3への入力を行うための入力装置である。このうちタッチパッド12は、パネル面12a上における指やペン2の位置を検出し、後述するホストプロセッサ32(図2を参照)に出力することにより、入力装置として機能する。以下の説明では、ユーザから見てパネル面12aの横方向をX方向と称し、奥行き方向をY方向と称し、X方向及びY方向に直交する方向をZ方向と称する。
【0018】
タッチパッド12による指の位置の検出は、例えば静電容量方式によって実行される。また、ペン2の検出は、例えばアクティブ静電方式によって実行される。以下、このアクティブ静電方式を前提として説明を続けるが、例えば電磁誘導方式などの他の方式によってペン2の検出を実行する場合にも本発明は適用可能である。
【0019】
アクティブ静電方式に対応するペン2は、内蔵する電極(後述する図2に示す先端電極21及び後端電極22)を通じて、タッチパッド12との間で双方向に信号を送受信可能に構成される。以下では、タッチパッド12からペン2に向けて送信される信号をアップリンク信号USと称し、ペン2からタッチパッド12に向けて送信される信号をダウンリンク信号DSと称する。
【0020】
タッチパッド12は、クリック操作を検出する機能も有している。具体的には、タッチ面のタップ操作を図示しない圧力センサによって検出することでクリック操作を検出することとしてもよいし(プレッシャーパッド)、パネル面12aの下側に押しボタンスイッチを配置しておき、パネル面12a自体がユーザの押下に応じて下向きに変位して押しボタンスイッチを押下することで、クリック操作を検出することとしてもよい(クリックパッド)。或いは、パネル面12aの近傍にクリック用のボタンを別に設け、そのボタンの押下によりクリック操作を検出することとしてもよい。
【0021】
図2は、ペン2及びコンピュータ3それぞれの内部構成を示す図である。ただし、コンピュータ3の内部構成については、ペン2の位置検出に関連する部分のみを示している。
【0022】
初めにペン2に着目すると、ペン2は、図2に示すように、芯20、先端電極21、後端電極22、筆圧検出センサ23、回路部24、及び電源25を有して構成される。電源25としては、例えば円筒型のAAAA電池が用いられる。
【0023】
芯20は、その長手方向がペン2のペン軸方向と一致するように配置される棒状の部材である。芯20の先端部の表面には導電性材料が塗布され、先端電極21(ペン先電極)を構成している。なお、必ずしも芯20の最先端部の表面に先端電極21が配置されていなくてもよく、そうすると、芯20の最先端部がパネル面12aに接触しているが先端電極21はパネル面12aに接触していない、という状態が生じ得るが、本実施の形態でいう「コンタクト中の先端電極21」には、そのような状態の先端電極21が含まれる。
【0024】
芯20の後端部は、筆圧検出センサ23に当接している。筆圧検出センサ23は、芯20の先端に加わる圧力(筆圧)を検出する役割を果たす。芯20の後端部(先端電極21よりもペン2の後端側の位置)には、後端電極22(傾き検出のための第2電極)が設けられる。後端電極22はリング状(ドーナツ形)の導電体であり、芯20が後端電極22中央の穴を通過することとなるように配置される。
【0025】
回路部24は、タッチパッド12のパネル面12aから送信されるアップリンク信号USを先端電極21を介して受信する機能と、タッチパッド12のパネル面12aに向け、先端電極21又は後端電極22を介してダウンリンク信号DSを送信する機能とを有する。これらの信号については、後ほど詳細に説明する。
【0026】
次にコンピュータ3に着目すると、コンピュータ3は、図2に示すセンサ30、センサコントローラ31、及びホストプロセッサ32を有して構成される。このうちセンサ30及びセンサコントローラ31はタッチパッド12の構成要素であり、ホストプロセッサ32はコンピュータ3の中央処理装置である。
【0027】
センサ30は、パネル面12aの下に埋め込まれたタッチセンサであり、先端電極21及び後端電極22のそれぞれと容量結合する各複数のセンサ電極30X,30Yを含んで構成される。このうち複数のセンサ電極30XはそれぞれY方向に延在し、X方向に一定のピッチPで並置される。また、複数のセンサ電極30YはそれぞれX方向に延在し、Y方向に一定のピッチPで並置される。複数のセンサ電極30Xと複数のセンサ電極30Yとは、図2に示すように、Z方向に重畳して配置される。なお、図2ではセンサ電極30X,30Yを板状の導電体により示しているが、実際のセンサ電極30X,30Yは、例えばメッシュ導体のような他の形状の導電体であってよい。
【0028】
ピッチPは、画面上でのペン入力に対応するタブレット端末等において画面の下に埋め込まれるセンサ電極のピッチ(以下「従来ピッチ」という)に比べて小さい値に設定される。典型的な例では、ピッチPは従来ピッチの約1/3である。これによりタッチパッド12においては、従来ピッチでセンサ電極30X,30Yを配置する場合に比べ、パネル面12aにコンタクト中の先端電極21の座標検出を高い精度で行うことが可能となっている。
【0029】
センサコントローラ31は、内蔵メモリに記憶されるプログラムを読み出して実行することにより後述する各種の処理を行う集積回路であり、ペン2が送信するダウンリンク信号DSをセンサ30を介して受信する機能と、ペン2に向け、センサ30を介してアップリンク信号USを送信する機能とを有して構成される。センサコントローラ31は、図2に示すように、各複数のセンサ電極30X,30Yのそれぞれと個別に接続される。
【0030】
アップリンク信号USは、ペン2に対する命令(コマンド)を含む他、信号送受信プロトコルにより定められるスケジュールの始期をペン2に対して通知する役割を有する信号である。センサコントローラ31は、複数のセンサ電極30X及び複数のセンサ電極30Yの少なくとも一方を用いてアップリンク信号USを送信するよう構成され、ペン2は、先端電極21を用いてアップリンク信号USを受信するよう構成される。アップリンク信号USを受信したペン2は、その中に含まれるコマンドに従う動作を行う。
【0031】
アップリンク信号USによって送信されるコマンドには、ペン2との間の信号送受信に用いる信号送受信プロトコルを指定するコマンド、ペン2がセンサコントローラ31に対して送信すべきデータ(以下「ペンデータ」という)を指定するコマンドなどが含まれる。ペンデータには、筆圧検出センサ23によって検出された筆圧を示す値が含まれる。信号送受信プロトコルを指定するコマンドを受信したペン2はその後、指定された信号送受信プロトコルにより定められたスケジュールと、アップリンク信号USにより通知されたスケジュールの始期とに従って、アップリンク信号USの受信及びダウンリンク信号DSの送信を行う。
【0032】
ダウンリンク信号DSには、先端電極21から送信されるダウンリンク信号DSと、後端電極22から送信されるダウンリンク信号DSとが含まれる。前者のダウンリンク信号DSは、センサコントローラ31に先端電極21の位置を検出させるための位置信号と、ペンデータを送信するためのデータ信号とを含んで構成される。位置信号は、例えば無変調の搬送波信号(バースト信号)であり、データ信号は、送信対象のペンデータによって変調された搬送波信号である。後者のダウンリンク信号DSは、センサコントローラ31に後端電極22の位置を検出させるための位置信号を含んで構成される。この位置信号も、例えば無変調の搬送波信号(バースト信号)である。
【0033】
先端電極21から送信されるダウンリンク信号DSと、後端電極22から送信されるダウンリンク信号DSとは、センサコントローラ31がこれらを区別して受信できるよう、多重化して送信される。多重化の方法としては、時分割多重、周波数分割多重、符号分割多重など各種のものを使用できるが、以下では時分割多重を用いるものとして説明を続ける。
【0034】
センサコントローラ31は、先端電極21から送信されるダウンリンク信号DSを受信するタイミングでは、位置信号を受信することによってパネル面12a内における先端電極21の位置を示す座標を検出するとともに、データ信号を受信することによってペン2が送信したペンデータを取得するよう構成される。一方、後端電極22から送信されるダウンリンク信号DSを受信するタイミングでは、位置信号を受信することによってパネル面12a内における後端電極22の位置を示す座標を検出した後、先に検出していた先端電極21の位置を示す座標との距離を導出し、その結果に基づいてペン2の傾きを導出するよう構成される。センサコントローラ31は、こうして検出した各座標、取得したペンデータ、及び導出した傾きを、都度、ホストプロセッサ32に供給するよう構成される。
【0035】
センサコントローラ31がアップリンク信号US及びダウンリンク信号DSを用いて行う処理の具体的な内容は、センサコントローラ31がペン2とペアリング済みであるか否かに応じて異なる。ペン2とペアリング済みでない場合にセンサコントローラ31が実行する処理を以下では「グローバルスキャン」と称し、ペン2とペアリング済みである場合にセンサコントローラ31が実行する処理を以下では「ローカルスキャン」と称する。以下、それぞれの概要について説明する。
【0036】
グローバルスキャンを行う場合、センサコントローラ31は、未ペアリングのペン2を宛先として、先端電極21から位置信号のみを送信するよう指示するコマンドを含むアップリンク信号USを送信する。このアップリンク信号USの送信後、センサコントローラ31は、センサ30を構成するすべてのセンサ電極30X,30Yを順にスキャンすることによって位置信号の検出を行う。こうして位置信号を検出したセンサコントローラ31は、検出した位置信号に基づいて先端電極21の座標を導出し、ペン2とペアリング済みの状態になる。
【0037】
ローカルスキャンを行う場合、センサコントローラ31は、ペアリング済みのペン2を宛先として、先端電極21から位置信号及びデータ信号を順に送信し、続いて後端電極22から位置信号を送信するよう指示するコマンドを含むアップリンク信号USを送信する。その後、センサコントローラ31は、複数のセンサ電極30X,30Yの中から前回導出した先端電極21の位置の近傍に位置するそれぞれ所定本数のセンサ電極30X,30Yを選択し、選択したセンサ電極30X,30Yを順にスキャンすることによって、まず先端電極21から送信された位置信号を検出する。こうして位置信号を検出したセンサコントローラ31は、検出した位置信号に基づいて先端電極21の座標を導出し、ペン2の座標としてホストプロセッサ32に出力する。
【0038】
次にセンサコントローラ31は、複数のセンサ電極30X,30Yの中から前回又は今回導出した先端電極21の位置に最も近い1本のセンサ電極30X又はセンサ電極30Yを選択し、選択したセンサ電極30X又はセンサ電極30Yをスキャンすることによって、先端電極21から送信されたデータ信号を検出する。こうしてデータ信号を検出したセンサコントローラ31は、検出したデータ信号を復調することにより、ペン2が送信したペンデータを取得する。
【0039】
最後にセンサコントローラ31は、複数のセンサ電極30X,30Yの中から前回導出した後端電極22の位置(又は、前回又は今回導出した先端電極21の位置)の近傍に位置するそれぞれ所定本数のセンサ電極30X,30Yを選択し、選択したセンサ電極30X,30Yを順にスキャンすることによって、後端電極22から送信された位置信号を検出する。こうして位置信号を検出したセンサコントローラ31は、検出した位置信号に基づいて後端電極22の座標を導出する。そして、導出していた先端電極21の座標と、新たに導出した後端電極22の座標とに基づいてペン2の傾きを導出し、ホストプロセッサ32に出力する。
【0040】
ホストプロセッサ32は、図示しない記憶装置に格納されるプログラムを読み出して実行することにより、コンピュータ3のオペレーションシステムや各種のアプリケーションを実行する処理装置である。ホストプロセッサ32により実行されるアプリケーションには描画アプリケーションが含まれる。描画アプリケーションは、センサコントローラ31から供給される座標、ペンデータ(筆圧を示す値を含む)、傾きに従ってストロークデータを生成し、レンダリングして図1に示したディスプレイ10に表示する役割を果たす。また、描画アプリケーションは、生成したストロークデータを含むデジタルインクデータを生成し、図示しない記憶装置に格納するとともに、他のコンピュータに対して送信する処理も行う。
【0041】
以上、ペン2及びコンピュータ3の基本的な構成と、ペン2及びセンサコントローラ31が行う基本的な処理について説明した。次に、パネル面に接触している電極の座標検出精度の向上と、パネル面に接触していない電極の座標検出精度の向上との両立を実現するためにセンサコントローラ31が実行する処理について、詳細に説明する。
【0042】
図3は、センサコントローラ31がローカルスキャン時に実行するダウンリンク信号DSの受信処理を示す処理フロー図である。同図に示すように、センサコントローラ31は、パネル面12aに接触している電極の受信タイミングと、パネル面12aに接触していない電極の受信タイミングとで異なる処理を行う。ここでいう「パネル面12aに接触している電極」は例えばコンタクト中の先端電極21であり、「パネル面12aに接触していない電極」は例えば後端電極22又はホバー中の先端電極21である。これらの具体例に関する処理については、後掲する図8にて詳しく説明する。
【0043】
図3に示すように、センサコントローラ31はまず、パネル面12aに接触している電極の受信タイミングが到来したか否かを判定する(ステップS1)。そして、到来したと判定した場合には第1のスキャンを実行する(ステップS3)一方、到来していないと判定した場合には、パネル面12aに接触していない電極の受信タイミングが到来したか否かをさらに判定する(ステップS2)。ステップS2で到来したと判定したセンサコントローラ31は第2のスキャンを実行し(ステップS6)、到来していないと判定したセンサコントローラ31は、ステップS1に戻って処理を続ける。
【0044】
図4(a)は、ステップS3で実行される第1のスキャンの詳細を示す処理フロー図である。同図に示すように、第1のスキャンを開始したセンサコントローラ31は、X方向とY方向のそれぞれについて、ステップS11,S12の処理を行う(ステップS10)。以下、X方向の処理に着目してステップS11,S12の処理を具体的に説明するが、Y方向の処理についても同様である。
【0045】
センサコントローラ31はまず、前回導出した座標から所定の範囲(以下「第1の範囲」という)に含まれる所定本数のセンサ電極30Xを選択する(ステップS11)。続いてセンサコントローラ31は、選択されたセンサ電極30Xにおいて検出される位置信号から信号レベルを検出し得る少なくとも3以上の基準位置(第1の基準位置)を選択し、選択した各基準位置における位置信号の信号レベルを検出する(ステップS12)。
【0046】
ここで、基準位置は、位置信号の信号レベルの検出対象となる位置であり、X軸上(Y方向の処理においてはY軸上)に等間隔で並置される。ステップS12においてセンサコントローラ31は、前回導出した座標に応じて、このうち連続的に配置される3以上の基準位置を選択するよう構成される。より具体的には、前回導出した座標に近いものから順に3以上の基準位置を選択する。各基準位置はそれぞれ予め1以上のセンサ電極30Xに対応付けられており、ステップS12で検出される各基準位置における位置信号の信号レベルは、その基準位置に対応するセンサ電極30Xが1つである場合にはそのセンサ電極30Xにおける位置信号の信号レベルとなり、その基準位置に対応するセンサ電極30Xが2つ以上である場合にはそれらにおける位置信号の信号レベルを統計処理したものとなる。統計処理の具体的な内容は、例えば単純な平均であってもよいし、基準位置から各センサ電極30Xまでの距離に基づいて決定される重みを信号レベルに乗算することによって行う重み付き加算であってもよい。第1の範囲は、このようなステップS12の処理により各基準位置における位置信号の信号レベルを得るために必要となるすべてのセンサ電極30Xを含む範囲となる。
【0047】
図5(a)、図6(a)、及び図7(a)はそれぞれ、基準位置とセンサ電極30Xの対応関係の一例を説明する図である。これらの図において、X座標K-7~K+7はそれぞれ基準位置を表している。また、X座標Kは、前回導出されたX座標に最も近い基準位置を表している。さらに、対応するX座標を四角で囲んだ基準位置は、ステップS12において選択される基準位置を表している。また、X軸の上側に示す棒グラフは各基準位置における位置信号の信号レベルを表しており、棒グラフに付した右上がりのハッチングは、その信号レベルがステップS12において実際に検出されるものであることを表している。
【0048】
図5(a)には、各基準位置に対応するセンサ電極30Xが1つである場合の例を示している。この場合、各基準位置は、対応するセンサ電極30XのX方向の中心位置となる。また、各基準位置における位置信号の信号レベルとしては、対応するセンサ電極30Xにおける位置信号の信号レベルが用いられる。
【0049】
図6(a)には、各基準位置に対応するセンサ電極30Xが2つである場合の例を示している。この場合、各基準位置は、対応する2つのセンサ電極30XのX方向の中間位置となる。また、各基準位置における位置信号の信号レベルとしては、対応する2つのセンサ電極30Xにおける位置信号の信号レベルの平均値が用いられる。
【0050】
図7(a)には、各基準位置に対応するセンサ電極30Xが3つである場合の例を示している。この場合、各基準位置は、対応する3つのセンサ電極30Xのうち中央に位置するセンサ電極30XのX方向の中心位置となる。また、各基準位置における位置信号の信号レベルとしては、対応する3つのセンサ電極30Xにおける位置信号の信号レベルを統計処理してなる値が用いられる。
【0051】
図3に戻る。ステップS3を終了したセンサコントローラ31は、第1のスキャンにおいて検出された各基準位置における位置信号のレベルに基づき、パネル面12aに接触している電極の位置を示す座標を導出する(ステップS4)。この導出は、検出された信号レベルの近似曲線(2次関数)を最小二乗法により求め、その頂点の座標を導出することにより行えばよい。ステップS4の後、センサコントローラ31は、その他の処理を実行したうえで(ステップS5)、ステップS2に処理を移す。ステップS5で実行されるその他の処理の具体的な内容については、図8を参照して後述する。
【0052】
図4(b)は、ステップS6で実行される第2のスキャンの詳細を示す処理フロー図である。同図に示すように、第2のスキャンを開始したセンサコントローラ31は、X方向とY方向のそれぞれについて、ステップS16,S17の処理を行う(ステップS15)。以下、X方向の処理に着目してステップS16,S17の処理を具体的に説明するが、Y方向の処理についても同様である。
【0053】
センサコントローラ31はまず、前回導出した座標から所定の範囲(以下「第2の範囲」という)に含まれる所定本数のセンサ電極30Xを選択する(ステップS16)。第2の範囲は、第1のスキャン時よりも広い範囲に設定される。続いてセンサコントローラ31は、選択されたセンサ電極30Xにおいて検出される位置信号から信号レベルを検出し得る少なくとも3以上の基準位置(第2の基準位置)を選択し、選択した各基準位置における位置信号の信号レベルを検出する(ステップS17)。このときセンサコントローラ31は、前回導出した座標に応じて、並置される複数の基準位置のうち離散的に配置される3以上の基準位置を選択するよう構成される。より具体的に言えば、前回導出した座標に最も近い基準位置と、その基準位置から所定数ずつ間を開けて配置された2以上の基準位置とを選択するよう構成される。
【0054】
図5(b)、図6(b)、及び図7(b)は、基準位置とセンサ電極30Xの対応関係がそれぞれ図5(a)、図6(a)、及び図7(a)に示したものである場合にステップS17において選択される基準位置の第1の例を示す図である。この例によるセンサコントローラ31は1つおきに基準位置を選択するように構成され、その結果として第1の範囲より広い第2の範囲が必要となっている。また、この例によるセンサコントローラ31が選択する3以上の基準位置の幅(両端間の幅)は、対応する第1のスキャンにおいてセンサコントローラ31が選択する3以上の基準位置の幅(両端間の幅)より広くなっている。
【0055】
図5(c)、図6(c)、及び図7(c)は、基準位置とセンサ電極30Xの対応関係がそれぞれ図5(a)、図6(a)、及び図7(a)に示したものである場合にステップS17において選択される基準位置の第2の例を示す図である。この例によるセンサコントローラ31は2つおきに基準位置を選択するように構成され、その結果として第1の例による第2の範囲よりもさらに広い第2の範囲が必要となっている。また、この例によるセンサコントローラ31が選択する3以上の基準位置の幅(両端間の幅)は、第1の例においてセンサコントローラ31が選択する3以上の基準位置の幅(両端間の幅)よりもさらに広くなっている。
【0056】
図3に戻る。ステップS6を終了したセンサコントローラ31は、第2のスキャンにおいて検出された各基準位置における位置信号のレベルに基づき、パネル面12aに接触していない電極の位置を示す座標を導出する(ステップS7)。この導出は、ステップS4と同様、検出された信号レベルの近似曲線(2次関数)を最小二乗法により求め、その頂点の座標を導出することにより行えばよい。ステップS7の後、センサコントローラ31は、その他の処理を実行したうえで(ステップS8)、ステップS1に処理を移す。ステップS8で実行されるその他の処理の具体的な内容についても、図8を参照して後述する。
【0057】
図8は、図3に示した受信処理をより具体的な例により示す処理フロー図である。以下、同図を参照しながら、センサコントローラ31がローカルスキャン時に実行するダウンリンク信号DSの受信処理を、より具体的な例に沿って説明する。
【0058】
センサコントローラ31はまず、先端電極21の受信タイミングが到来したか否かを判定する(ステップS20)。そして、到来したと判定した場合、センサコントローラ31は次に、ペン2がホバー中であるか否かを判定する(ステップS21)。具体的には、前回のローカルスキャンにおいてペン2から受信したペンデータに含まれていた筆圧の値が0であった場合にはホバー中であると判定し、それ以外の場合にはホバー中でない(すなわち、コンタクト中である)と判定する。
【0059】
ここで、ペン2は、ホバー中か否かを示すコンタクト・ホバー情報をペンデータ内に配置することとしてもよく、その場合のセンサコントローラ31は、このコンタクト・ホバー情報に基づいてペン2がホバー中であるか否かを判定することとしてもよい。また、センサコントローラ31は、例えばブルートゥース(登録商標)などの近距離無線通信を経由してペン2から受信されるデータ(筆圧の値、又は、コンタクト・ホバー情報)に基づき、ペン2がホバー中であるか否かを判定することとしてもよい。
【0060】
ステップS21においてホバー中でないと判定したセンサコントローラ31は、ステップS22の処理を実行する。ステップS22は図3のステップS3に相当する処理であり、センサコントローラ31は第1のスキャンを実行し、その結果として各基準位置における位置信号の信号レベルを得る。一方、ステップS21においてホバー中であると判定したセンサコントローラ31は、ステップS23を実行する。ステップS23は図3のステップS6に相当する処理であり、センサコントローラ31は第2のスキャンを実行し、その結果として各基準位置における位置信号の信号レベルを得る。
【0061】
ステップS22又はステップS23を終了したセンサコントローラ31は、ステップS24~S26の処理を実行する。ステップS24は図3のステップS4又はステップS7に相当する処理であり、センサコントローラ31は、ステップS22又はステップS23で得た信号レベルに基づいて先端電極21の位置を示す座標を導出する。ステップS25,S26は図3のステップS5又はステップS8に相当する処理であり、センサコントローラ31は、上述したデータ信号を受信することによりペン2が送信したペンデータを受信し(ステップS25)、ステップS24で導出した座標とともにホストプロセッサ32に出力する(ステップS26)。
【0062】
ステップS20で到来していないと判定したセンサコントローラ31は、後端電極22の受信タイミングが到来したか否かを判定する(ステップS30)。ここで到来していないと判定したセンサコントローラ31は、ステップS20に戻って処理を続ける。一方、到来したと判定したセンサコントローラ31は、ペン2がホバー中であるか否かを判定する(ステップS31)。この判定の具体的な方法は、ステップS21と同様でよい。ステップS31においてホバー中であると判定したセンサコントローラ31は、ステップS20に戻って処理を続ける。
【0063】
一方、ステップS31においてホバー中でないと判定したセンサコントローラ31は、ステップS32~S35の処理を実行する。なお、ステップS31を行わないこととしてもよく、その場合のセンサコントローラ31は、ステップS30において到来していないと判定したことに応じて、常にステップS32~S35の処理を実行することとすればよい。
【0064】
ステップS32は図3のステップS6に相当する処理であり、センサコントローラ31は第2のスキャンを実行し、その結果として各基準位置における位置信号の信号レベルを得る。ステップS33は図3のステップS7に相当する処理であり、センサコントローラ31は、ステップS32で得た信号レベルに基づいて後端電極22の位置を示す座標を導出する。ステップS34,S35は図3のステップS8に相当する処理であり、センサコントローラ31は、ステップS24で導出した先端電極21の座標と、ステップS33で導出した後端電極22の座標とに基づいてペン2の傾きを導出し(ステップS34)、ホストプロセッサ32に出力する(ステップS35)。
【0065】
以上説明したように、本実施の形態によるタッチパッド12によれば、センサ電極30X,30YのピッチPを従来ピッチより小さくすることによってコンタクト中の先端電極21の座標検出を高い精度で行うことを実現しつつ、後端電極22又はホバー中の先端電極21から送信される位置信号について、コンタクト中の先端電極21から送信される位置信号に比べて広い範囲でスキャンすることができる。したがって、パネル面12a上で広がってしまいがちな後端電極22又はホバー中の先端電極21からの位置信号をより広い範囲で捉えることが可能になるので、コンタクト中の先端電極21の座標検出精度の向上と、後端電極22又はホバー中の先端電極21の座標検出精度の向上とを両立することが可能になる。
【0066】
以下、図9図12を参照しながら、本発明による奏される効果について詳しく説明する。
【0067】
図9(a)~図9(c)、図10(a)~図10(c)、及び図11(a)~図11(c)はそれぞれ、後端電極22から送信される位置信号の信号レベルの各基準位置における測定結果を示す図である。これらの図では、縦軸が信号レベルとなっている。また、図9(a)~図9(c)では、横軸がX方向の基準位置、図10(a)~図10(c)及び図11(a)~図11(c)では、横軸がY方向の基準位置となっている。また、図9(a)~図9(c)及び図10(a)~図10(c)にはペン2の傾きθ(ペン2のペン軸とパネル面12aの法線とがなす角度)が0°である場合(つまり、ペン2がパネル面12aに対して垂直に立っている場合)を示し、図11(a)~図11(c)にはθが30°である場合を示している。さらに、図9(a)、図10(a)、及び図11(a)にはすべての基準位置における信号レベルを示し、図9(b)、図10(b)、及び図11(b)には1つおきに選択された基準位置における信号レベルを示し、図9(c)、図10(c)、及び図11(c)には2つおきに選択された基準位置における信号レベルを示している。
【0068】
初めに図9(a)及び図10(a)を参照すると、θ=0°の場合においては、各基準位置の信号レベルにより表される曲線の上端がフラットになっているため、その中央から3つの基準位置を選択して最小二乗法により近似しても、後端電極22の座標を正しく導出できないことが理解される。図9(a)及び図10(a)のように曲線の上端がフラットになる原因としては、後端電極22がパネル面12aに接触していないことの他、後端電極22とパネル面12aの間に先端電極21が存在していることが挙げられる。
【0069】
次に図9(b)及び図10(b)を参照すると、基準位置を1/2に間引くことで、曲線上端のフラットな部分が少し小さくなることが理解される。しかし、この状態ではまだフラットな部分の縮小が十分ではなく、後端電極22の座標を正しく導出できるとは限らない。
【0070】
次に図9(c)及び図10(c)を参照すると、基準位置を1/3に間引くことで、曲線上端のフラットな部分がさらに小さくなることが理解される。この状態であればフラットな部分が十分に縮小されたといえ、後端電極22の座標を正しく導出できるようになる。したがって、θ=0°の場合においては、図5(c)、図6(c)、図7(c)に示した例のように、2つおきに基準位置を選択するようにセンサコントローラ31を構成することで、後端電極22の座標を正しく導出することが可能になると言える。
【0071】
一方、図11(a)~図11(c)を参照すると、θ=30°の場合においては、基準位置を間引かない図11(a)の状態でも、各基準位置の信号レベルにより表される曲線の上端が十分に上に凸になっているため、後端電極22の座標を正しく導出できることが理解される。また、図11(b)及び図11(c)から明らかなように、基準位置を間引いたとしても、変わらず後端電極22の座標を正しく導出できることが理解される。なお、図11(a)~図11(c)にはY方向の各基準位置における測定結果のみを示しているが、X方向の方向の各基準位置における測定結果についても同様である。
【0072】
図9(a)~図9(c)、図10(a)~図10(c)、及び図11(a)~図11(c)の測定結果から理解されるように、パネル面に接触していない電極の座標検出精度は、傾きθが小さいほど悪化する傾向にある。したがって、本発明による座標検出精度の向上効果は、傾きθが小さいときほど顕著に得られると言える。図示していないが、例えば上述したθ=0°とθ=30°の間に位置するθ=10°の場合においては、基準位置を1/2に間引くことで、後端電極22の座標を十分正しく導出することが可能になる。
【0073】
図12(a)及び図12(b)はそれぞれ、パネル面12a上でθ=0°を維持しつつペン2の先端を摺動させた場合における後端電極22の位置の軌跡を示す図である。図12(a)には、本発明を適用しない比較例を示し、図12(b)には、本発明を適用した実施例を示している。ただし、図12(b)の実施例においては、第2のスキャンにおいて2つおきに基準位置を選択するようにセンサコントローラ31を構成した。
【0074】
図12(a)から理解されるように、本発明を適用しない比較例においては、後端電極22の位置の軌跡に大きなジッターが現れてしまっている。これは、図9(a)に示した例のように各基準位置の信号レベルにより表される曲線の上端がフラットになり、最小二乗法により求める近似曲線(2次関数)の頂点の位置が不安定になったことを表している。
【0075】
これに対し、本発明を適用した実施例においては、図12(b)から理解されるように、ジッターがほとんど見られなくなっている。この結果から、本発明によれば、後端電極22のから送信される位置信号に基づいて検出される座標の検出精度を向上できることが理解される。
【0076】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明が、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施され得ることは勿論である。
【0077】
図13は、上記実施の形態の変形例によるセンサコントローラ31がローカルスキャン時に実行するダウンリンク信号DSの受信処理を示す処理フロー図である。本変形例によるセンサコントローラ31は、ペン2の電極ごとに、前回の信号レベルの検出結果に基づいて第1のスキャンと第2のスキャンのいずれを行うかを選択するように構成される。以下、図13を参照しながら詳しく説明する。
【0078】
本変形例によるセンサコントローラ31はまず、ペン2の電極ごとに設けられるブール型変数である移行フラグに偽(False)を設定する(ステップS40)。続いてセンサコントローラ31は、ペン2の電極ごとにステップS42~S51の処理を実行する(ステップS41)。
【0079】
具体的に説明すると、センサコントローラ31はまず、注目電極の受信タイミングが到来したか否かを判定する(ステップS42)。そして、到来していないと判定した場合には次の電極に処理を移す一方、到来したと判定した場合には、注目電極の移行フラグの値を判定する(ステップS43)。その結果、偽(False)であると判定した場合には第1のスキャンを実行し(ステップS44)、真(True)であると判定した場合には第2のスキャンを実行する(ステップS47)。第1のスキャン及び第2のスキャンの具体的な内容は、図4を参照して説明したとおりである。
【0080】
ステップS44において第1のスキャンを実行したセンサコントローラ31は、検出した信号レベルのうちの最大のもの(ピークレベル)と、他の信号レベルとの差が所定値以下であるか否かを判定する(ステップS45)。そして、所定値以下であると判定した場合にのみ注目電極の移行フラグに真(True)を設定したうえで、ステップS48に処理を移す。
【0081】
ステップS47において第2のスキャンを実行したセンサコントローラ31、又は、ステップS45,S46の処理を終了したセンサコントローラ31は、ステップS44又はステップS47で検出された信号レベルに基づき、注目電極の位置を示す座標を導出する(ステップS48)。この導出の具体的な方法は、図3のステップS4,S7等と同様でよい。ステップS48の後、センサコントローラ31は、その他の処理を実行する(ステップS49)。その他の処理の具体的な内容は注目電極の書類によって異なるが、例えば、図8に示したステップS25,S26又はステップS34,S35の処理である。
【0082】
次にセンサコントローラ31は、注目電極の移行フラグの値を再度判定する(ステップS50)。その結果、偽(False)であると判定した場合には次の電極に処理を移す一方、真(True)であると判定した場合には、注目電極の移行フラグを偽(False)に戻す要因が発生したか否かを判定する(ステップS51)。この要因は、例えば注目電極が先端電極21であれば、ペン2から受信される筆圧の値が0より大きい値になったこと(すなわち、先端電極21がコンタクト中になったこと)でよく、例えば注目電極が後端電極22であれば、導出されるペン2の傾きθが所定値以上になったことでよい。センサコントローラ31は、ステップS51で戻し要因が発生したと判定した場合にのみ注目電極の移行フラグに偽(False)を設定したうえで、次の電極に処理を移す。
【0083】
以上説明したように、本変形例によるタッチパッド12によれば、ピークレベルと他の信号レベルとの差が所定値以下となっている電極について、スキャン方法を第1のスキャンから第2のスキャンに変更することが可能になる。したがって、各基準位置の信号レベルにより表される曲線の上端がフラットになっている電極から送信される位置信号をより広い範囲で捉えることが可能になるので、本変形例によるタッチパッド12によっても、パネル面12aに接触している電極の座標検出精度の向上と、パネル面12aに接触していない電極の座標検出精度の向上とを両立することが可能になる。
【0084】
なお、上記変形例では、ピークレベルと他の信号レベルとの差が所定値以下となっている電極のスキャン方法を第1のスキャンから第2のスキャンに変更する例を説明したが、その他の方法により特定の電極のスキャン方法を第1のスキャンから第2のスキャンに変更することとしてもよい。例えば、前回検出された傾きθの値が所定値以下であった場合に、後端電極22のスキャン方法を第1のスキャンから第2のスキャンに変更することとしてもよい。
【符号の説明】
【0085】
1 電子機器
2 ペン
3 コンピュータ
10 ディスプレイ
11 キーボード
12 タッチパッド
12a パネル面
20 芯
21 先端電極
22 後端電極
23 筆圧検出センサ
24 回路部
25 電源
30 センサ
30X,30Y センサ電極
31 センサコントローラ
32 ホストプロセッサ
DS ダウンリンク信号
P ピッチ
US アップリンク信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13