(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180555
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】縫合針および縫合針付き縫合糸
(51)【国際特許分類】
A61B 17/06 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
A61B17/06 510
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024179789
(22)【出願日】2024-10-15
(62)【分割の表示】P 2020113799の分割
【原出願日】2020-07-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り [公開の事実] 1.発行日:令和2年1月7日 2.刊行物:第25回日本形成外科手術手技学会抄録集、第71頁、浜松医科大学形成外科 3.公開者:橋川和信、野村正、寺師浩人(神戸大学 形成外科) [公開の事実] 1.開催日:令和2年2月8日 2.集会名、開催場所:第25回日本形成外科手術手技学会 アクトシティ浜松(静岡県浜松町中区板屋町111-1) 3.公開者:橋川和信、野村正、寺師浩人(神戸大学 形成外科)
(71)【出願人】
【識別番号】594001775
【氏名又は名称】株式会社ベアーメディック
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100179132
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 知生
(72)【発明者】
【氏名】東 秀友
(57)【要約】
【課題】刺通性に優れる縫合針および縫合針付き縫合糸を提供する。
【解決手段】本発明に係る縫合針(10)は、少なくとも湾曲部を有し、湾曲部の形状がクロソイド曲線を含むことを特徴とする。縫合針は、クロソイド曲線が、基端から先端に向けて曲率を一定割合で増加してもよい。縫合針は、クロソイド曲線が、基端から先端に向けて曲率を一定割合で減少してもよい。縫合針は、クロソイド曲線が、基端から先端に向けて曲率を一定割合で増加するクロソイド曲線と、基端から先端に向けて曲率を一定割合で減少するクロソイド曲線とを含んでもよい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも湾曲部を有し、
前記湾曲部の形状がクロソイド曲線を含む縫合針。
【請求項2】
前記クロソイド曲線が、基端から先端に向けて曲率を一定割合で増加することを特徴とする請求項1に記載の縫合針。
【請求項3】
前記クロソイド曲線が、基端から先端に向けて曲率を一定割合で減少することを特徴とする請求項1に記載の縫合針。
【請求項4】
前記クロソイド曲線が、基端から先端に向けて曲率を一定割合で増加するクロソイド曲線と、前記基端から前記先端に向けて曲率を一定割合で減少するクロソイド曲線とを含むことを特徴とする請求項1に記載の縫合針。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の縫合針を縫合糸に取り付けた縫合針付き縫合糸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺通性に優れる縫合針および縫合針付き縫合糸に関する。
【背景技術】
【0002】
血管、臓器などの縫合に用いられる縫合針は、円の曲率で定まる湾曲形状を有する。血管、臓器などの縫合では、持針器で把持された縫合針を生体(血管、臓器など)に刺し込み、縫合針の湾曲形状に倣って縫合針を進め、縫合針が生体外に露出した後に、縫合針を持針器で把持して引き抜く。
【0003】
このとき、縫合針の湾曲形状に倣って縫合針を進めるためには、縫合針を刺し込んでから引き抜くまで、継続して縫合針の進行する角度を円の曲率に合わせて一定に維持、調整する必要がある。
【0004】
また、通常の術式において、医師(術者)は、右手に持針器、左手に鉗子を持ち、持針器で縫合針を把持して操作(回転)し、鉗子で縫合針を保持して持針器で縫合針を把持し直して、再度操作(回転)するという動作を繰り返す。
【0005】
このような縫合動作において、縫合針には生体を通過させる際の抵抗を軽減させ、刺通性を向上させることが求められている。また、医師(術者)の負担を軽減することが求められている。特許文献1では、刺通性を向上させるための縫合針の先端(針先部)の構造が開示されてる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、縫合針においては、針先部の構造だけでなく、縫合針全体の形状も縫合動作に影響を与えるので、刺通性を向上させる上で、縫合針全体の形状も重要な課題となっていた。
【0008】
詳細には、刺通性に優れる縫合動作を実現するには、医師は軌跡が円弧になるように持針器を回し続ける必要があり、縫合針を刺し込んでから引き抜くまで継続して円の曲率に倣って縫合針を操作する必要があった。
【0009】
そのためには、医師は持針器を頻繁に持ち替えるとともに手首を回転させる必要があり負担が大きく、高度な手技を必要としていた。
【0010】
また、縫合針の湾曲形状に倣って縫合針を進めることができない場合には、過剰な力が針にかかり針が破損する、又は、生体に損傷を与えるので問題となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述したような課題を解決するために、本発明に係る縫合針は、直線部と湾曲部を有し、前記直線部の長さが、先端から基端までの長さに対して1/4以上3/4以下であって、交角が90°以上180°以下であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る縫合針は、少なくとも湾曲部を有し、前記湾曲部の形状がクロソイド曲線を含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る縫合針は、前記クロソイド曲線が、基端から先端に向けて曲率を一定割合で増加することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る縫合針は、前記クロソイド曲線が、基端から先端に向けて曲率を一定割合で減少することを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る縫合針は、前記クロソイド曲線が、基端から先端に向けて曲率を一定割合で増加するクロソイド曲線と、前記基端から前記先端に向けて曲率を一定割合で減少するクロソイド曲線とを含むことを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る縫合針付き縫合糸は、前記縫合針を縫合糸に取り付けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、刺通性に優れる縫合針および縫合針付き縫合糸を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る縫合針の外観図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施の形態に係る縫合針の側面図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1の実施の形態に係る縫合針の中心軸の側面図である。
【
図4】
図4は、本発明の第1の実施の形態に係る縫合針による縫合動作を説明するための図である。
【
図5】
図5は、従来の縫合針による縫合動作を説明するための図である。
【
図6】
図6は、本発明の第1の実施の形態の変形例に係る縫合針の外観図である。
【
図7】
図7は、本発明の第2の実施の形態に係る縫合針の側面図である。
【
図8】
図8は、本発明の第2の実施の形態に係る縫合針の中心軸の側面図である。
【
図9】
図9は、本発明の第2の実施の形態に係る縫合針による縫合動作を説明するための図である。
【
図10】
図10は、本発明の第3の実施の形態に係る縫合針の側面図である。
【
図11】
図11は、本発明の第3の実施の形態に係る縫合針の中心軸の側面図である。
【
図12】
図12は、本発明の第3の実施の形態に係る縫合針による縫合動作を説明するための図である。
【
図13】
図13は、本発明の第4の実施の形態に係る縫合針の側面図である。
【
図14】
図14は、本発明の第4の実施の形態に係る縫合針の中心軸の側面図である。
【
図15】
図15は、本発明の第4の実施の形態に係る縫合針による縫合動作を説明するための図である。
【
図16】
図16は、本発明の第4の実施の形態の変形例に係る縫合針の中心軸の側面図である。
【
図17】
図17は、本発明の第5の実施の形態に係る縫合針の側面図である。
【
図18】
図18は、本発明の第6の実施の形態に係る縫合針付き縫合糸の外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態に係る縫合針10について
図1~
図6を参照して説明する。
【0020】
<縫合針の構成>
図1、
図2はそれぞれ、本実施の形態に係る縫合針10の斜視図と側面図である。側面図では、縫合針10の長手方向をX方向とし、縫合針10の先端部が反り上がっている方向を上方向(Z正方向)とする。
【0021】
本実施の形態に係る縫合針10は、本体11が湾曲しており、先端(針先)12が尖っており、基端13に縫合糸(図示せず)を装着する。
【0022】
本体11の断面形状について限定はなく、円形形状や三角形等の多角形形状等を適用することができる。また、当該断面形状は縫合針10の長手方向に変化する形状でもよい。
【0023】
縫合針10は、ステンレスを材料とする。材料は他に、例えば、ポリマー、合金または適切な剛性を有する材料であればよい。
【0024】
本体11は、先端12に向かって径が小さくなるテーパー形状を有しており、先端から1mm程度の範囲でテーパー形状を有する。
【0025】
基端13には、縫合糸(図示せず)を装着する部分であり、弾機孔(バネ孔)が設けられている。弾機孔は長細い穴の先端が先割れしており、縫合糸の側面を割れ目に押し付けて穴に通すことにより、縫合糸を縫合針10に装着する。基端13には、弾機孔(バネ孔)に限らず、ナミ孔(普通孔)を設けてもよい。または、基端13の端面に所定の深さを持つ止まり穴を形成して、この止まり穴に縫合糸を挿入して基端13周辺部をかしめることで、縫合糸を縫合針10に装着してもよい。
【0026】
図3に、本体11を側面から見たときの中心軸の概観図を示す。本体11は基端13から所定の長さの部分(図中P1-P2)と先端12から所定の長さの部分(図中P3-P4)とが直線形状の部分(以下、「直線部」という。)であり、湾曲する部分(図中P2-P3、以下、「湾曲部」という。)が一定の円の曲率を有する湾曲形状を有する。
【0027】
縫合針10の全長L0は5mmであり、直線部の長さL1は2.5mm程度、L2は1mm程度である。ここで、直線部の長さL1は、これに限らず、先端から基端までの長さに対して1/4以上3/4以下であることが望ましい。
【0028】
また、湾曲部の交角IAは90°である。ここで、湾曲部の交角IAは、これに限らず、90°以上180°以下であることが望ましい。
【0029】
<縫合針の作用効果>
本実施の形態に係る縫合針10を用いた縫合動作を、
図4を参照して説明する。比較のため、
図5に、従来の円の曲率で定まる湾曲形状を有する縫合針(以下、「従来針」という。)101を用いる場合を示す。
【0030】
図5に示すように、従来針101を用いる場合、まず、持針器で把持された従来針101を生体に刺し入れ、大きく持針器を回転させる(
図5A)。
【0031】
差し込み後は、円の曲率に倣って軌跡が円弧になるように持針器を回して針を進め、従来針101が生体外に露出した後も、円の曲率に倣って軌跡が円弧になるように持針器を回し続けて従来針101を進め、引き抜く(
図5B-D)。
【0032】
このとき、一方の手に持針器、他方の手に鉗子を持ち、持針器で縫合針を把持して操作(回転)し、鉗子で縫合針を保持して持針器で縫合針を把持し直して、再度操作(回転)するという動作を繰り返す。
【0033】
このように、軌跡が円弧になるように持針器を回し続ける必要があり、従来針101を刺し込んでから引き抜くまで継続して円の曲率に倣って従来針101を操作する必要がある。換言すれば、円の曲率に倣うように角度を一定に調整しながら従来針101を進める必要がある。
【0034】
そのためには、医師は持針器を頻繁に持ち替えるとともに手首を回転させる必要があり負担が大きく、高度な手技を必要とする。
【0035】
また、縫合針が湾曲形状のみからなる場合(直線形状を含まない場合)、縫合時とくに縫合針を刺し入れるときや引き抜くときに、縫合針の先端に力を伝達することが困難である。その結果、縫合針の刺し入れや引き抜きを試みる頻度が増加するため、刺し入れや引き抜きの位置を即決定することが困難になる。また、縫合針が湾曲形状のみからなる場合(直線形状を含まない場合)、医師が縫合針の刺し入れや引き抜きの位置を直感的に把握することが困難である。
【0036】
一方、本実施の形態に係る縫合針10を用いる場合には、
図4に示すように、縫合針10を生体内に差し込み後は、円の曲率に倣って針を進める(
図4A-C)。引き抜くときには直線的に引き抜けばよい(
図4D-E)。
【0037】
したがって、縫合針10を刺し込んでから引き抜くまで継続して円の曲率に倣って縫合針10を操作する必要はない。縫合針10を刺し込んでから円の曲率に倣って生体内に縫合針10を進めた後は、直線的に操作するだけで縫合針10を引き抜くことができる。
【0038】
また、縫合針を円の曲率に倣って針を進めるときには(
図4A-C)、鉗子で縫合針を保持して持針器で縫合針を把持し直して、再度操作(回転)する動作が必要であるが、縫合針を直線的に引き抜くときには(
図4D-E)、鉗子で縫合針を保持して引き抜くだけでよく、持針器に持ち直して操作(回転)する必要はない。
【0039】
このように、医師は持針器を頻繁に持ち替える必要はなく負担が低減され、高度な手技を要さずに精度の高い縫合ができる。
【0040】
また、縫合針10は直線形状を含むので、縫合針を刺し入れるときや引き抜くときに、容易に縫合針の先端に力を伝達することができる。その結果、速やかに縫合針の刺し入れや引き抜きを行えるため、刺し入れや引き抜きの位置を容易に決定できる。また、直線形状を含む縫合針10を用いれば、医師は縫合針の刺し入れや引き抜きの位置を直感的に把握できる。
【0041】
また、本実施の形態に係る縫合針では、基端側に直線部を有したが、
図6に示すように、先端側に直線部を有してもよい(縫合針14)。
【0042】
この場合、縫合針14を刺し込んでから直線的に操作した後に、円の曲率に倣って生体内に縫合針14を進めて縫合針14を引き抜く。その結果、縫合針14を刺し込んでから引き抜くまで継続して円の曲率に倣って縫合針14を操作する必要はない。
【0043】
また、縫合針14を直線的に操作するときには、鉗子で縫合針14を保持して操作するだけでよく、持針器に持ち直して操作(回転)する必要はない。このように、医師は持針器を頻繁に持ち替える必要はなく負担が低減され、高度な手技を要さずに精度の高い縫合ができる。
【0044】
また、縫合針14は直線形状を含むので、縫合針10と同様に、医師は縫合針の刺し入れや引き抜きの位置を容易に決定でき、直感的に把握できる。
【0045】
また、本実施の形態に係る縫合針14は、内頸静脈の端側吻合等の深い術野での縫合において有効である。内頸静脈の端側吻合等の深い術野での縫合で、縫合針を直線的に刺し入れる必要がある場合に、縫合針14は先端から直線部を有するので容易に深い術野に挿入できる。その結果、深い術野で容易に縫合できるので、従来針を用いる場合に比べて縫合時間を短縮でき、医師の負担を軽減することができる。
【0046】
本実施の形態では、湾曲形状に円形状を用いたが、2次関数曲線など他の湾曲形状を用いてもよい。
【0047】
<第2の実施の形態>
本発明の第2の実施の形態に係る縫合針20について
図7~
図9を参照して説明する。
【0048】
<縫合針の構成>
図7は、本実施の形態に係る縫合針20の側面図である。本実施の形態に係る縫合針20は、第1の実施の形態と略同様の構成を有し、本体21、先端22、基端23とを備えるが、本体21の湾曲形状が異なる。
【0049】
図8に、本体21を側面から見たときの中心軸の概観図を示す。基端23から所定の長さの部分(図中P1-P2)が直線部であり、湾曲部(図中P2-P3)が、基端23側から先端22側に向けて曲率が一定割合で増加するクロソイド曲線の湾曲形状を有する。ここで、基端側にのみ直線部を有したが、先端側にも直線部を有してもよい。
【0050】
縫合針20の全長L0は4.5mmであり、直線部の長さL1は1mm程度(全長L0に対して約22%)である。直線部の長さL1はこれに限らず、全長L0の長さの1/2以下であることが望ましい。
【0051】
縫合針20の針径は100μmである。針径は、先端22から1mm程度の範囲で、先端22に向けて小さくなり、先端22は尖っている。
【0052】
<縫合針の作用効果>
まず、クロソイド曲線について説明する。クロソイド曲線は、曲率を一定割合で変化させていった場合に描かれる軌跡である。曲率半径と始点からの曲線長をそれぞれRとLとしたとき、以下の式の通り、両者の積は一定となる。
【0053】
R・L=A2
【0054】
Aは、クロソイドパラメータと呼ばれる、長さの次元を持つ定数である。
【0055】
例えば、自動車の走行の場合、一定の速度で走る自動車が、ハンドルを一定の角速度で回転させながら進んだときに生じる走行軌跡がクロソイド曲線である。
【0056】
一定の速度で走る自動車が、一定の曲率を有する(円の一部で構成される)カーブを曲がる時は急ハンドルになり、大きな遠心力が生じ、安定した走行が困難になる。一方、クロソイド曲線が用いられるカーブを曲がる時は、ハンドルを一定の角速度で回転させながら走行できるので遠心力を抑制でき、安定した走行が可能になる。
【0057】
本実施の形態に係る縫合針20において、曲率半径Rが1.6、曲線長Lが5、クロソイドパラメータAが2.83である。また、交角IAは114°である。
【0058】
本実施の形態に係る縫合針20を用いた縫合動作を、
図9を参照して説明する。
【0059】
まず、持針器で把持された縫合針20を生体に刺し込む(
図9A)。
【0060】
差し込み後は、クロソイド曲線に倣って持針器の回転を漸減させ針を進める(
図9B-C)。縫合針20が生体外に露出した後、直線的に針を進め、引き抜く(
図9D-E)。
【0061】
このように、縫合針20を生体内に差し込み後は、クロソイド曲線に倣って持針器の回転を漸減させ針を進めるが、引き抜くときには直線的に引き抜けばよい。
【0062】
したがって、従来の縫合針のように縫合針20を刺し込んでから引き抜くまで継続して円の曲率に倣って縫合針20を操作する必要はない。縫合針20を刺し込んでからクロソイド曲線に倣って持針器の回転を漸減させ生体内に縫合針20を進めた後は、直線的に操作するだけで縫合針20を引き抜くことができる。
【0063】
従来針を用いて縫合を施すとき、従来針が一定の円の曲率を有し、半円の湾曲形状(1/2・R)を有する場合には、1回の回転動作が180°なので、1回の縫合に必要な回転動作(360°)に対して回転率は0.5である。
【0064】
一方、本実施の形態の縫合針20を用いる場合、1回の回転動作が114°なので、回転率は0.316である。回転率の値が低いほど、縫合動作における医師の手首の返し(動き)は少なく負担は小さいので、本実施の形態の縫合針20は従来針に比べて、縫合動作が安定化して医師の負担を軽減することがわかる。
【0065】
さらに、湾曲部にクロソイド曲線を用いているので、進行方向に曲げる操作から直線的な操作に切り替える時に、縫合針20の進行方向に対する角度を一定の角速度で変化させればよい。
【0066】
第1の実施の形態に係る縫合針10を用いた縫合動作では、湾曲部から直線部に移行するときに、上述の車の走行における一定の曲率を有するカーブを曲がる時の急ハンドルと同様の状況になるので、大きな遠心力が生じ、安定した縫合動作が困難になる。
【0067】
また、遠心力の増加に伴い、縫合針10と生体組織との摩擦抵抗が増加するので、縫合針の破損または生体の損傷が生じる場合がある。
【0068】
一方、本実施の形態に係る縫合針20を用いた縫合動作では、湾曲部から直線部に移行するときに、上述の車の走行におけるクロソイド曲線のカーブを曲がる時と同様に、縫合針20を一定の角速度で回転させながら縫合できるので遠心力を抑制でき、安定した縫合動作が可能になる。
【0069】
また、遠心力が抑制できるので、縫合針と生体組織との摩擦抵抗、すなわち人体等の組織に刺通する際の抵抗(刺通抵抗)を低減でき、刺通性が向上する。その結果、縫合針の破損または生体の損傷を回避することができる。
【0070】
このように、本実施の形態に係る縫合針20を用いた縫合動作では、急激に進行方向を曲げる必要がないので遠心力を抑制でき、刺通性が向上して、容易に安定して縫合できる。その結果、医師は持針器を頻繁に持ち替える必要はなく負担、疲労が軽減され、高度な手技を要さずに精度の高い縫合ができる。
【0071】
本実施の形態に係る縫合針20は、第1の実施の形態に係る縫合針10と同様に直線部と湾曲部を備える形状を有するので、当然、第1の実施の形態に係る縫合針10と同様の効果も奏する。
【0072】
<第3の実施の形態>
本発明の第3の実施の形態に係る縫合針30について
図10~
図12を参照して説明する。
【0073】
<縫合針の構成>
図10は、本実施の形態に係る縫合針30の側面図である。本実施の形態に係る縫合針30は、第1、第2の実施の形態と略同様の構成を有し、本体31と先端32と基端33とを備えるが、本体31の湾曲形状が異なる。
【0074】
図11に、本体31を側面から見たときの中心軸の概観図を示す。本体31は先端32から所定の長さの部分(図中P2-P3)が直線部であり、湾曲部(図中P1-P2)が、基端33側から先端32側に向けて曲率が一定割合で減少するクロソイド曲線の湾曲形状を有する。ここで、先端側にのみ直線部を有したが、基端側にも直線部を有してもよい。
【0075】
縫合針30の全長L0は4.5mmであり、直線部の長さL1は1mm程度(全長L0に対して約22%)である。直線部の長さL1はこれに限らず、全長L0の長さの1/2以下であることが望ましい。
【0076】
本実施の形態に係る縫合針30において、曲率半径Rが1.6、曲線長Lが5、クロソイドパラメータAが2.83である。また、交角IAは117°である。
【0077】
縫合針30の針径は100μmである。針径は、先端32から1mm程度の範囲で、先端32に向けて小さくなり、先端32は尖っている。
【0078】
<縫合針の作用効果>
この縫合針30を用いた縫合動作を、
図12を参照して説明する。
【0079】
まず、持針器で把持された縫合針30を生体に直線的に刺し入れる(
図12A-B)。このとき、直針を用いるときと同様に持針器の回転運動はない。
【0080】
差し込み後は、クロソイド曲線に倣って持針器の回転を漸増させ針を進めて引き抜く(
図12C-E)。
【0081】
このように、刺し入れ時に持針器の回転運動させる必要がなく、その後は持針器の回転を漸増させて引き抜く。
【0082】
したがって、従来の縫合針30のように縫合針30を刺し込んでから引き抜くまで継続して円の曲率に倣って縫合針30を操作する必要はない。縫合針30を直線的に刺し込んでからクロソイド曲線に倣って持針器の回転を漸増させて生体内に縫合針30を進めて引き抜くことができる。
【0083】
本実施の形態の縫合針30を用いる場合、1回の回転動作が117°なので、回転率は0.325である。回転率の値が低いほど、縫合動作における医師の手首の返し(動き)は少なく負担は小さいので、本実施の形態の縫合針20は従来針(回転率:0.5)に比べて、縫合動作が安定化して医師の負担を軽減することがわかる。
【0084】
さらに、湾曲部にクロソイド曲線を用いているので、直線的な操作から進行方向を曲げる操作に切り替える時に、縫合針30の進行方向に対する角度を一定の角速度で変化させればよい。
【0085】
このように、本実施の形態に係る縫合針30を用いた縫合動作では、第2の実施の形態と同様に、湾曲部から直線部に移行するときに、上述の車の走行におけるクロソイド曲線のカーブを曲がる時と同様に、縫合針30を一定の角速度で回転させながら縫合できるので遠心力を抑制でき、安定した縫合動作が可能になる。
【0086】
また、遠心力が抑制できるので、縫合針と生体組織との摩擦抵抗、すなわち人体等の組織に刺通する際の抵抗(刺通抵抗)を低減でき、刺通性が向上する。その結果、縫合針の破損または生体の損傷を回避することができる。
【0087】
このように、本実施の形態に係る縫合針30を用いた縫合動作では、急激に進行方向を曲げる必要がないので遠心力を抑制でき、刺通性が向上して、容易に安定して縫合できる。その結果、医師は持針器を頻繁に持ち替える必要はなく負担、疲労が軽減され、高度な手技を要さずに精度の高い縫合ができる。
【0088】
また、本実施の形態に係る縫合針30は、内頸静脈の端側吻合等の深い術野での縫合において有効である。内頸静脈の端側吻合等の深い術野での縫合で、縫合針を直線的に刺し入れる必要がある場合に、縫合針30は先端から直線部を有するので容易に深い術野に挿入できる。その結果、深い術野で容易に縫合できるので、従来針を用いる場合に比べて縫合時間を短縮でき、医師の負担を軽減することができる。
【0089】
本実施の形態に係る縫合針30は、第1の実施の形態に係る縫合針14と同様に直線部と湾曲部を備える形状を有するので、当然、第1の実施の形態に係る縫合針14と同様の効果も奏する。
【0090】
<第4の実施の形態>
本発明の第4の実施の形態に係る縫合針40について
図13~
図15を参照して説明する。
【0091】
<縫合針の構成>
図13は、本実施の形態に係る縫合針40の側面図である。本実施の形態に係る縫合針40は、第1~3の実施の形態と略同様の構成を有し、本体41と先端42と基端43とを備えるが、本体41の湾曲形状が異なる。
【0092】
図14に、本体41を側面から見たときの中心軸の概観図を示す。本体41は基端43から所定の長さの部分(図中P1-P2)と先端42から所定の長さの部分(図中P3-P4)とが直線部であり、湾曲部(図中P2-P3)に、曲率が先端42に向かって一定の割合で増加するクロソイド曲線と、曲率が先端42に向かって一定の割合で減少するクロソイド曲線と組み合わせて用いる。
【0093】
縫合針30の全長L0は4.5mmであり、直線部の長さL1は1.0mm、L2は1.0mm程度である。直線部の長さL1、L2はこれに限らず、直線部の合計の長さが全長L0の長さの1/2以下であることが望ましい。
【0094】
<縫合針の作用効果>
この縫合針40を用いた縫合動作を、
図15を参照して説明する。
【0095】
まず、持針器で把持された縫合針40を生体に直線的に刺し入れる(
図15A)。このとき、直針を用いるときと同様に持針器の回転運動はない。
【0096】
差し込み後は、クロソイド曲線に倣って持針器の回転を漸増させ針を進める(
図15B-C)。
【0097】
次に、クロソイド曲線に倣って持針器の回転を漸減させ針を進めて、直線的に引き抜けばよい(
図15D-E)。
【0098】
このように、刺し入れ時に持針器の回転運動させる必要がなく、その後は持針器の回転を漸増、漸減させた後、直線的に引き抜く。
【0099】
したがって、従来の縫合針40のように縫合針40を刺し込んでから引き抜くまで継続して円の曲率に倣って縫合針40を操作する必要はない。縫合針40を直線的に刺し込んでからクロソイド曲線に倣って持針器の回転を漸増、漸減させて生体内に縫合針40を進めて直線的に引き抜くことができる。
【0100】
さらに、湾曲部にクロソイド曲線を用いているので、直線的な操作から進行方向を曲げる操作、さらに直線的な操作に切り替える時に、縫合針40の進行方向に対する角度を一定の角速度で増減させればよい。
【0101】
このように、本実施の形態に係る縫合針40を用いた縫合動作では、第2~3の実施の形態と同様に、湾曲部から直線部に移行するときに、縫合針40を一定の角速度で回転させながら縫合できるので遠心力を抑制でき、安定した縫合動作が可能になる。
【0102】
また、遠心力が抑制できるので、縫合針40と生体組織との摩擦抵抗、すなわち人体等の組織に刺通する際の抵抗(刺通抵抗)を低減でき、刺通性が向上する。その結果、縫合針40の破損または生体の損傷を回避することができる。
【0103】
このように、本実施の形態に係る縫合針40を用いた縫合動作では、急激に進行方向を曲げる必要がないので遠心力を抑制でき、刺通性が向上して、容易に安定して縫合できる。その結果、医師は持針器を頻繁に持ち替える必要はなく負担、疲労が軽減され、高度な手技を要さずに精度の高い縫合ができる。
【0104】
本実施の形態に係る縫合針40は、第1の実施の形態に係る縫合針10、14と同様に直線部と湾曲部を備える形状を有するので、当然、第1の実施の形態に係る縫合針10、14と同様の効果も奏する。
【0105】
本実施の形態においては、湾曲部の構成を、基端側に曲率が先端に向かって一定の割合で増加するクロソイド曲線、先端側に曲率が先端に向かって一定の割合で減少するクロソイド曲線と組み合わせて用いたが、
図16に示すように、2つのクロソイド曲線の間に一定の曲率の曲線(円弧)を配していてもよい。
【0106】
<第5の実施の形態>
本発明の第5の実施の形態に係る縫合針50について
図17を参照して説明する。
【0107】
<縫合針の構成>
図17は、本実施の形態に係る縫合針50の側面図である。本実施の形態に係る縫合針40は、第1~4の実施の形態と略同様の構成を有し、本体51と先端52と基端53とを備えるが、直線部を有さず、本体51は湾曲部のみからなる。
【0108】
本体51の湾曲部は、第2、3の実施の形態と同様に、クロソイド曲線の湾曲形状を有する。クロソイド曲線は、基端53側から先端52側に向けて曲率が一定割合で増加する形状でも、基端53側から先端52側に向けて曲率が一定割合で減少する形状でもよい。
【0109】
ここで、本体51が湾曲形状の例を示したが、先端52から1mm程度の範囲は直線の形状でもよい。
【0110】
本実施の形態に係る縫合針50は、第2、3の実施の形態と同様にクロソイド曲線の湾曲形状を有するので、縫合針50を用いた縫合動作では、第2、3の実施の形態と同様に、縫合針30を一定の角速度で回転させながら縫合できるので遠心力を抑制でき、安定した縫合動作が可能になる。
【0111】
このように、医師は持針器を頻繁に持ち替える必要はなく負担、疲労が軽減され、高度な手技を要さずに精度の高い縫合ができる。
【0112】
また、遠心力が抑制できるので、縫合針と生体組織との摩擦抵抗、すなわち人体等の組織に刺通する際の抵抗(刺通抵抗)を低減でき、刺通性が向上する。その結果、縫合針の破損または生体の損傷を回避することができる。
【0113】
<第6の実施の形態>
本発明の第6の実施の形態に係る縫合針付き縫合糸60について
図18を参照して説明する。
【0114】
<縫合針の構成>
図18に、本実施の形態に係る縫合針付き縫合糸60の斜視図を示す。本実施の形態に係る縫合針付き縫合糸60は、第2の実施の形態に係る縫合針20と縫合糸61を備える。
【0115】
縫合針20は、本体21と先端22と基端23とを備える。縫合糸61は、基端23に設けられた止まり穴に挿入され、基端23周辺をかしめることで、縫合針20に取り付けられる。縫合糸61は、熱処理や接着剤などによって縫合針20に取り付けられてもよい。
【0116】
縫合糸61の素材はナイロンでモノフィラメント(単糸)であり、直径は0.05mmである。縫合糸51の素材はこれに限らずポリエステル、シルクでもよく、ブレード(編糸)でもよい。直径は0.001mm~0.8mmでもよい。
【0117】
本実施の形態に係る縫合針付き縫合糸60は、第2の実施の形態で述べた作用効果と同様の作用効果を奏し、縫合動作において急激に進行方向を曲げる必要がないので遠心力を抑制でき、刺通性が向上して、容易に安定して縫合できる。その結果、医師は持針器を頻繁に持ち替える必要はなく負担、疲労が軽減され、高度な手技を要さずに精度の高い縫合ができる。
【0118】
本実施の形態において、縫合針には、第3~5の実施の形態に係る縫合針30、40、50を用いても同様の効果を奏する。また、第1の実施の形態に係る縫合針10を用いてもよく、医師は持針器を頻繁に持ち替える必要はなく負担が低減され、精度が高い縫合ができる。
【0119】
本発明に係る実施の形態おける縫合針は、先端が円錐状になっている丸針、先端が三角錐状(彎曲の内側が尖っている)である角針先端が三角錐状(彎曲の外側が尖っている)である逆三角針、針の全体は円柱状で先端だけが三角錐状になっているテーパーカット針、又は先端をわずかに丸く鈍にした丸針である鈍針等でよい。また、先端は、断面が逆三角形である逆角針や、逆角針の先端(頂点)を除去したヘラ型でもよい。
【0120】
本発明に係る実施の形態おける縫合針の長さは4.5mm又は5mm、針径は100μmとしたが、これに限らない。縫合針の長さは1mm~100mm、針径は50μm~1.5mmの範囲で可能である。とくに、脳外科などのマイクロサージェリーには3mm~7mm、針径は50μm~250μmが望ましい。縫合針の長さは、血管縫合には9mm~24mm、外科用手術には10mm~70mm、形成手術には9mm~25mmが望ましい。
【0121】
本発明に係る実施の形態おける縫合針のクロソイド曲線の交角は114°~117°を示したが、これに限らず、110°以上134°以下が望ましい。また、湾曲部の交角としては、90°以上180°以下が望ましい。
【0122】
本発明に係る実施の形態おける縫合針の通常の製造方法で製造される。例えば、ステンレス材を所定の長さに切断した後、縫合糸用の穴を形成する。次に、先端、本体(胴部)を湾曲部の形成を含めて加工し、研磨処理後に滅菌処理を施す。
【0123】
本発明の実施の形態では、縫合針および縫合針付き縫合糸の構成、製造方法などにおいて、各構成部の構造、寸法、材料等の一例を示したが、これに限らない。縫合針および縫合針付き縫合糸の機能を発揮し効果を奏するものであればよい。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明は、脳外科、消化器外科などの外科手術や形成外科手術などに用いる医療機器として産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0125】
10、20、30、40、50 縫合針
11、21、31、41、51 本体
12、22、32、42、52 先端
13、23、33、43、53 基端
60 縫合針付き縫合糸
61 縫合糸
101 従来針(従来の縫合針)