(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180591
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】ズームレンズおよび撮像装置
(51)【国際特許分類】
G02B 15/20 20060101AFI20241219BHJP
G02B 13/18 20060101ALN20241219BHJP
【FI】
G02B15/20
G02B13/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024180713
(22)【出願日】2024-10-16
(62)【分割の表示】P 2022024542の分割
【原出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】下村 和也
(57)【要約】
【課題】例えば、広画角、高ズーム比、小型、全ズーム範囲にわたる高い光学性能の点で有利なズームレンズを提供する。
【解決手段】物体側から像側へ順に、ズームのためには移動しない正の屈折力の第1レンズ群と、広角端から望遠端へのズームにおいて像側へ移動する1以上の負の屈折力のレンズ群と、広角端から望遠端へのズームに際して、物体側に移動する2以上の正の屈折力のレンズ群とを有し、広角端から望遠端へのズームにおいて、前記1以上の負の屈折力のレンズ群の中で最も移動量の大きいレンズ群を第Nレンズ群とし、前記2以上の正の屈折力のレンズ群の中で最も移動量の大きいレンズ群を第Pレンズ群とし、第1レンズ群の焦点距離、広角端及び望遠端での焦点距離、広角端と望遠隊での第Nレンズ群から像面までの光軸上の距離の差、広角端と望遠端での前記第Pレンズ群から像面までの光軸上の距離の差を適切に設定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から像側へ順に、ズームのためには移動しない正の屈折力の第1レンズ群と、広角端から望遠端へのズームにおいて像側へ移動する少なくとも1つの負の屈折力のレンズ群と、広角端から望遠端へのズームにおいて物体側へ移動する少なくとも2つの正の屈折力のレンズ群とを有するズームレンズであって、
広角端から望遠端へのズームにおいて、前記少なくとも1つの負の屈折力のレンズ群の中で最も移動量の大きいレンズ群を第Nレンズ群とし、前記少なくとも2つの正の屈折力のレンズ群の中で最も移動量の大きいレンズ群を第Pレンズ群とし、
前記第1レンズ群の焦点距離をf1、広角端での前記ズームレンズの焦点距離をfw、望遠端での前記ズームレンズの焦点距離をft、広角端での前記第Nレンズ群から像面までの光軸上の距離と望遠端での前記第Nレンズ群から像面までの光軸上の距離との差をmn、広角端での前記第Pレンズ群から像面までの光軸上の距離と望遠端での前記第Pレンズ群から像面までの光軸上の距離との差をmpとしたとき、
4.35<ft/f1<6.00
1.0<|mn/mp|<2.0
0.02<fw/f1<0.05
なる条件式を満たすことを特徴とするズームレンズ。
【請求項2】
広角端から望遠端へのズームにおいて像側へ移動するレンズ群をVレンズ群とし、広角端での前記Vレンズ群の合成横倍率をβvw、望遠端での前記Vレンズ群の合成横倍率をβvtとしたとき、
2.0<(βvt/βvw)2×(fw/ft)<5.0
なる条件式を満たすことを特徴とする請求項1に記載のズームレンズ。
【請求項3】
前記Vレンズ群は、合成横倍率が-1倍となる状態を有し、
広角端から望遠端へのズームにおいて物体側へ移動するレンズ群をCレンズ群とし、前記Vレンズ群の合成横倍率が-1倍となる状態での前記Cレンズ群の合成横倍率をβcfzとしたとき、
-1.00<βcfz<-0.65
なる条件式を満たすことを特徴とする請求項2に記載のズームレンズ。
【請求項4】
前記Vレンズ群は、合成横倍率が-1倍となる状態を有し、
広角端から望遠端へのズームにおいて物体側へ移動するレンズ群をCレンズ群とし、前記Vレンズ群の合成横倍率が-1倍となる状態での前記Cレンズ群の合成横倍率が-1倍となることを特徴とする請求項2に記載のズームレンズ。
【請求項5】
前記Cレンズ群は、正の屈折力のP1レンズ群と正の屈折力のP2レンズ群とからなり、広角端での前記P1レンズ群および前記P2レンズ群の隣り合う面の光軸上の間隔をdw、望遠端での前記P1レンズ群および前記P2レンズ群の隣り合う面の光軸上の間隔をdtとしたとき、
0.1<dt/dw<2.0
なる条件式を満たすことを特徴とする請求項3に記載のズームレンズ。
【請求項6】
広角端から望遠端へのズームにおいて像側へ移動するレンズ群をVレンズ群とし、広角端での前記Vレンズ群の合成焦点距離をfvwとしたとき、
-15.0<f1/fvw<-8.0
なる条件式を満たすことを特徴とする請求項1から5までのいずれか一項に記載のズームレンズ。
【請求項7】
広角端から望遠端へのズームにおいて像側へ移動するレンズ群をVレンズ群、広角端から望遠端へのズームにおいて物体側へ移動するレンズ群をCレンズ群、広角端での前記Vレンズ群の合成焦点距離をfvw、広角端での前記Cレンズ群の合成焦点距離をfcwとしたとき、
-0.50<fvw/fcw<-0.15
なる条件式を満たすことを特徴とする請求項1から6までのいずれか一項に記載のズームレンズ。
【請求項8】
前記第1レンズ群における最も物体側のレンズは、両凹レンズであることを特徴とする請求項1から7までのいずれか一項に記載のズームレンズ。
【請求項9】
前記両凹レンズの焦点距離をf1n、前記両凹レンズのd線基準アッベ数をν1nとしたとき、
-1.65<f1n/f1<-1.10
37<ν1n<48
なる条件式を満たすことを特徴とする請求項8に記載のズームレンズ。
【請求項10】
前記第1レンズ群に含まれている正レンズのd線基準アッベ数の平均をνpaveとしたとき、
80<νpave<100
なる条件式を満たすことを特徴とする請求項1から9までのいずれか一項に記載のズームレンズ。
【請求項11】
125<ft/fw<200
なる条件式を満たすことを特徴とする請求項1から10までのいずれか一項に記載のズームレンズ。
【請求項12】
請求項1から11までのいずれか一項に記載のズームレンズと、前記ズームレンズによって形成された像を撮る撮像素子とを有することを特徴とする撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ズームレンズおよび撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
テレビカメラや映画用カメラ、写真用カメラ等の撮像装置には、広画角、高ズーム比、高い光学性能を有した小型のズームレンズが要望されている。また、ズームレンズには、プロフェッショナルユースのカメラにおける高解像度撮像デバイスの撮像領域の全体わたって高解像力が要求されている。
【0003】
そのような特許文献1、2のズームレンズは、物体側から像側へ順に、正の屈折力の第1レンズ群、負の屈折力の第2レンズ群、正の屈折力の第3レンズ群、正の屈折力の第4レンズ群、正の屈折力の第5レンズ群からなる。当該ズームレンズは、ズームにおいて第2ないし第4レンズ群が移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-47380号公報
【特許文献2】特開2014-81464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のようなズームレンズにおいて130を超えるようなズーム比を得るのに、望遠端での色収差補正が困難になる。
【0006】
本発明は、例えば、広画角、高ズーム比、小型、全ズーム範囲にわたる高い光学性能の点で有利なズームレンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のズームレンズは、物体側から像側へ順に、ズームのためには移動しない正の屈折力の第1レンズ群と、広角端から望遠端へのズームにおいて像側へ移動する負の屈折力の少なくとも1つのレンズ群と、広角端から望遠端へのズームにおいて物体側へ移動する正の屈折力の少なくとも2つのレンズ群とを有するズームレンズであって、広角端から望遠端のズームにおいて、前記少なくとも1つの負の屈折力のレンズ群の中で最も移動量の大きいレンズ群を第Nレンズ群とし、前記少なくとも2つの正の屈折力のレンズ群の中で最も移動量の大きいレンズ群を第Pレンズ群とし、前記第1レンズ群の焦点距離をf1、広角端での前記ズームレンズの焦点距離をfw、望遠端での前記ズームレンズの焦点距離をft、広角端での前記第Nレンズ群から像面までの光軸上の距離と望遠端での前記第Nレンズ群から像面までの光軸上の距離との差をmn、広角端での第Pレンズ群から像面までの光軸上の距離と望遠端での前記第Pレンズ群から像面までの光軸上の距離との差をmpとしたとき、
4.35<ft/f1<6.00
1.0<|mn/mp|<2.0
0.02<fw/f1≦0.035
を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、例えば、広画角、高ズーム比、小型、全ズーム範囲にわたる高い光学性能の点で有利なズームレンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】数値実施例1の広角端において無限遠合焦時のレンズ断面図
【
図2】数値実施例1の広角端(a)、f=220.03mm(b)、望遠端(c)で無限遠合焦時の収差図
【
図3】数値実施例2の広角端において無限遠合焦時のレンズ断面図
【
図4】数値実施例2の広角端(a)、f=208.08mm(b)、望遠端(c)で無限遠合焦時の収差図
【
図5】数値実施例3の広角端において無限遠合焦時のレンズ断面図
【
図6】数値実施例3の広角端(a)、f=260.97mm(b)、望遠端(c)で無限遠合焦時の収差図
【
図7】数値実施例4の広角端において無限遠合焦時のレンズ断面図
【
図8】数値実施例4の広角端(a)、f=210.60mm(b)、望遠端(c)で無限遠合焦時の収差図
【
図9】数値実施例5の広角端において無限遠合焦時のレンズ断面図
【
図10】数値実施例5の広角端(a)、f=221.43mm(b)、望遠端(c)で無限遠合焦時の収差図
【
図11】数値実施例6の広角端において無限遠合焦時のレンズ断面図
【
図12】数値実施例6の広角端(a)、f=251.82mm(b)、望遠端(c)で無限遠合焦時の収差図
【
図13】数値実施例7の広角端において無限遠合焦時のレンズ断面図
【
図14】数値実施例7の広角端(a)、219.95mm(b)、望遠端(c)で無限遠合焦時の収差図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を、添付の図面に基づいて詳細に説明する。
まず、本発明のズームレンズの特徴について、各条件式に沿って説明する。本発明のズームレンズは、広画角、高ズーム比、小型軽量で全ズーム範囲に渡り高い光学性能を達成するために、第1レンズ群の屈折力やズームに際して移動するレンズ群の移動量を規定している。
【0011】
本発明のズームレンズは、物体側から像側へ順に、ズームのためには移動しない正の屈折力の第1レンズ群と、広角端から望遠端へのズームに際して像側に移動する少なくとも1つの負の屈折力のレンズ群と、広角端から望遠端へのズームに際して物体側に移動する少なくとも2つの正の屈折力のレンズ群とを有する。第1レンズ群L1は、合焦時に移動しない第11レンズ群L11、無限遠側から至近側への合焦時に移動する正の屈折力の第12レンズ群L12から構成される。広角端から望遠端のズームに際して像側に移動する少なくとも1つの負の屈折力のレンズ群の中で、最も移動量の大きいレンズ群を第Nレンズ群とし、物体側に移動する少なくとも2つの正の屈折力のレンズ群の中で、最も移動量の大きいレンズ群を第Pレンズ群とし、第1レンズ群の焦点距離をf1、広角端の焦点距離をfw、望遠端の焦点距離をft、第Nレンズ群及び第Pレンズ群の広角端と望遠端における光軸上の像面からの位置の差をそれぞれmn、mpとしたとき、
4.35<ft/f1<6.00 ・・・(1)
1.0<|mn/mp|<2.0 ・・・(2)
0.02<fw/f1<0.05 ・・・(3)
なる条件式を満たしている。この構成により、本発明のズームレンズは、広角端の画角が60から70度程度、望遠端の画角が0.4度から0.7度程度で、ズーム比が130から160程度であり、小型軽量で、高い光学性能を実現することができる。
【0012】
(1)式は、望遠端の焦点距離と第1レンズ群の焦点距離の比を規定している。また、(2)式は、広角端から望遠端のズームに際して像側に移動する負の屈折力のレンズ群と物体側に移動する正の屈折力のレンズ群の移動量の比を規定している。(1)、(2)式は、高ズーム比化を達成しながら、ズームレンズの小型化と軸上色収差補正の両立のために規定している。(1)式の上限の条件が満たされないと、ズームレンズの小型化には有利であるが、第1レンズ群で発生する収差の拡大率が大きくなるため、望遠端の光学性能、特に軸上色収差を良好に補正することが困難となってくる。逆に(1)式の下限の条件が満たされないと、第1レンズ群の屈折力が弱くなるため、ズームレンズの高ズーム比化と小型化の両立が困難となってくる。
【0013】
(2)式の上限の条件が満たされないと、負の屈折力の第Nレンズ群の移動量が大きくなるため、望遠端における第Nレンズ群の横倍率が大きくなり、第Nレンズ群で発生する軸上色収差が大きくなる。そのため、望遠端の光学性能、特に軸上色収差を良好に補正することが困難となってくる。逆に(2)式の下限の条件が満たされないと、主のズーム群である第Nレンズ群の移動量が小さくなるため、第Nレンズ群と第Pレンズ群の移動量の総和が大きくなり、ズームレンズの小型化が困難となる。
【0014】
(3)式は、広角端の焦点距離と第1レンズ群の焦点距離の比を規定している。(3)式の上下限の条件は、ズームレンズの小型化と広角端の周辺性能を良好に補正するために規定している。(3)式の上限の条件が満たされないと、第1レンズ群の屈折力が強くなるため、広角端の像面湾曲や歪曲収差の補正が困難となる。逆に、(3)式の下限の条件が満たされないと、第1レンズ群の屈折力が弱くなるため、ズームレンズの高ズーム比化と小型化の両立が困難となってくる。
更に好ましくは、(1)、(2)、(3)式は次の如く設定するのが良い。
4.35<ft/f1<5.80 ・・・(1a)
1.40<|mn/mp|<1.98 ・・・(2a)
0.025<fw/f1<0.040 ・・・(3a)
【0015】
更なる本発明のズームレンズの態様として、広角端から望遠端のズームに際して像側に移動するレンズ群を第Vレンズ群とし、第Vレンズ群の広角端及び望遠端における合成横倍率をそれぞれβvw、βvtとしたとき、
【0016】
2.0<(βvt/βvw)2×(fw/ft)<5.0 ・・・(4)
なる条件式を満たしている。(4)式は、第Vレンズ群における広角端と望遠端の合成横倍率の比(ズーム分担)とそれ以外のレンズ群のズーム分担の比を規定しており、式(4)の範囲を満たすことで、高変倍比化を達成しながら、ズームレンズの小型化と軸上色収差補正を両立している。(4)式の上限の条件が満たされないと、望遠端における第Vレンズ群の合成横倍率が大きくなり、第Vレンズ群で発生する軸上色収差が大きくなる。そのため、望遠端の光学性能、特に軸上色収差を良好に補正することが困難となってくる。逆に、(4)式の下限の条件が満たされないと、第Vレンズ群のズーム分担が小さくなるため、第Vレンズ群以外のレンズ群の移動量が大きくなり、ズームレンズの高変倍比化と小型化の両立が困難となってくる。更に好ましくは、(4)式は次の如く設定するのが良い。
2.5<(βvt/βvw)2×(fw/ft)<4.2 ・・・(4a)
【0017】
更なる本発明のズームレンズの態様として、広角端から望遠端のズームに際して物体側に移動するレンズ群を第Cレンズ群とし、第Vレンズ群は広角端から望遠端へのズームに際して合成横倍率が-1倍となる点(状態)を通過し、第Vレンズ群の合成横倍率が-1倍となるズーム位置fzにおける第Cレンズ群の合成横倍率をβcfzとしたとき、
-1.00<βcfz<-0.65 ・・・(5)
なる条件式を満たしている。(5)式は、第Cレンズ群の小型化とズーム中間及び望遠端の光学性能を良好に補正するために規定している。(5)式の上限の条件が満たされないと、ズーム位置fzにおいて第Cレンズ群が物体側に位置することになるため、第Cレンズ群のレンズ径が大型化し、ズームレンズの小型化が困難となる。逆に、(5)式の下限の条件が満たされないと、ズーム位置fzから望遠端での第Cレンズ群の移動量が大きくなるため、ズーム中間から望遠端における球面収差の変動を良好に補正することが困難となる。更に好ましくは、(5)式は次の如く設定するのが良い。
-0.9<βcfz<-0.7 ・・・(5a)
【0018】
更なる本発明のズームレンズの態様として、広角端から望遠端のズームに際して物体側に移動するレンズ群を第Cレンズ群としたとき、第Vレンズ群は広角端から望遠端へのズームに際して合成横倍率が-1倍となる点を通過し、第Vレンズ群の合成横倍率が-1倍となるズーム位置fzにおける第Cレンズ群の合成横倍率が同時に-1倍となることを特徴としている。
【0019】
更なる本発明のズームレンズの態様として、第Cレンズ群は、物体側から像側へ順に、正の屈折力の第P1レンズ群と正の屈折力の第P2レンズ群から構成される。広角端及び望遠端における第P1レンズ群と第P2レンズ群の光軸上の隣接する光学面の間隔をそれぞれdw、dtとしたとき、
0.1<dt/dw<2.0 ・・・(6)
なる条件式を満たしている。ここで、広角端及び望遠端における第P1レンズ群と第P2レンズ群の間隔dw、dtはそれぞれ、広角端及び望遠端における第P1レンズ群の最も像側の面と第P2レンズ群の最も物体側の面の光軸上の距離である。(6)式は、高変倍比化を達成しながら、ズームレンズの小型化と軸上色収差補正の両立のために規定している。(6)式の上限の条件が満たされないと、望遠端での第P1レンズ群と第P2レンズ群の間隔が広がるため、第Vレンズ群のズーム分担が大きくなる。そのため、第Vレンズ群と第Cレンズ群の移動量の総和は小さくなるが、望遠端における第Nレンズ群の横倍率が大きくなり、第Nレンズ群で発生する軸上色収差が大きくなる。逆に、(6)式の下限の条件が満たされないと、広角端での第P1レンズ群と第P2レンズ群の間隔が広くなり、広角端からズーム中間における軸上色収差の変動を良好に補正することが困難となる。更に好ましくは、(6)式は次の如く設定するのが良い。
0.1<dt/dw<1.5 ・・・(6a)
【0020】
更なる本発明のズームレンズの態様として、広角端から望遠端のズームに際して像側に移動するレンズ群を第Vレンズ群とし、第Vレンズ群の広角端における合成焦点距離をfvwとしたとき、
-15.0<f1/fvw<-8.0 ・・・(7)
なる条件式を満たしている。(7)式は、ズームレンズの小型化とズーム全域の収差補正の両立のために規定している。(7)式の上限の条件が満たされないと、第Vレンズ群の屈折力が弱くなるため、ズームレンズの小型化が困難となる。逆に、(7)式の下限の条件が満たされないと、第Vレンズ群の屈折力が強くなるため、特にズーム中間から望遠端の収差を良好に補正することが困難となる。更に好ましくは、(7)式は次の如く設定するのが良い。
-13.0<f1/fvw<-9.5 ・・・(7a)
【0021】
更なる本発明のズームレンズの態様として、広角端から望遠端のズームに際して像側に移動するレンズ群を第Vレンズ群、物体側に移動するレンズ群を第Cレンズ群とし、第Vレンズ群及び第Cレンズ群の広角端における合成焦点距離をそれぞれfvw、fcwとしたとき、
-0.50<fvw/fcw<-0.15 ・・・(8)
なる条件式を満たしている。(8)式は、ズームレンズの小型化とズーム全域の収差補正の両立のために規定している。(8)式の上限の条件が満たされないと、第Cレンズ群の屈折力が弱くなるため、第Cレンズ群の移動量が大きくなり、ズームレンズの小型化が困難となる。逆に、(8)式の下限の条件が満たされないと、第Cレンズ群の屈折力が強くなるため、ズーム中間の収差を良好に補正することが困難となる。更に好ましくは、(8)式は次の如く設定するのが良い。
-0.4<fvw/fcw<-0.2 ・・・(8a)
【0022】
更なる本発明のズームレンズの態様として、第1レンズ群の最も物体側のレンズは、両凹レンズであることを特徴としている。第1レンズ群の最も物体側に両凹レンズを配置し、第1レンズ群の像側主点を像側に押し出すことが可能となる。そのため、広画角化に伴う第11レンズ群のレンズ径の増大を抑制し、ズームレンズの小型化に有利である。
【0023】
更なる本発明のズームレンズの態様として、第1レンズ群の最も物体側のレンズの焦点距離をf1n、d線基準アッベ数をν1nとしたとき、
-1.65<f1n/f1<-1.10 ・・・(9)
37<ν1n<48 ・・・(10)
なる条件式を満たしている。(9)式は、第1レンズ群の最も物体側のレンズである第1nレンズと第1レンズ群の焦点距離の比を規定している。(10)式は、第11レンズ群の最も物体側のレンズである第1nレンズのアッベ数を規定している。(9)、(10)式の条件は、ズームレンズの広画角化と高ズーム比化、小型化を達成しつつ、望遠端の色収差を良好に補正するために規定している。(9)式の上限が満たされないと、第1レンズ群に対して第1nレンズの屈折力が強くなるため、望遠端の球面収差の高次収差が増大し、良好な光学性能の達成が困難となる。逆に(9)式の下限の条件が満たされないと、第1レンズ群に対して第1nレンズの屈折力が弱くなるため、ズームレンズの小型化が困難となる。また、第1nレンズの屈折力が弱いと、第1レンズ群を構成する正レンズで発生する色収差の補正効果が弱くなり、望遠端の色収差補正が不足する。(10)式の上限が満たされないと、第1レンズ群を構成する正レンズと負レンズのアッベ数の差が小さくなり、第1レンズ群を構成する各レンズの屈折力が強くなる。その結果、望遠端の球面収差の高次収差が増大し、良好な光学性能の達成が困難となる。逆に(10)式の下限の条件が満たされないと、第1レンズ群を構成する正レンズと負レンズのアッベ数の差が大きくなり、第1nレンズの屈折力が弱くなる。そのため、第1レンズ群を構成する正レンズで発生する色収差の補正効果が弱くなり、望遠端の色収差補正が不足する。更に好ましくは、(9)式は次の如く設定するのが良い。
-1.63<f1n/f1<-1.15 ・・・(9a)
【0024】
更なる本発明のズームレンズの態様として、第1レンズ群を構成する正レンズのd線基準の平均アッベ数をνpaveとしたとき、
80<νpave<100 ・・・(11)
なる条件式を満たしている。(11)式の条件は、望遠端の軸上色収差の補正と高い光学性能を達成するために規定している。(11)式の上限が満たされないと、低分散の硝材を製造することが困難となる。逆に(11)式の下限の条件が満たされないと、第1レンズ群を構成する正レンズと負レンズのアッベ数の差が小さくなり、第1レンズ群を構成する各レンズの屈折力が強くなる。その結果、望遠端の球面収差の高次収差が増大し、良好な光学性能の達成が困難となる。更に好ましくは、(11)式は次の如く設定するのが良い。
87<νpave<97 ・・・(11a)
【0025】
更なる本発明のズームレンズの態様として、広角端の焦点距離をfw、望遠端の焦点距離をftとしたとき、
125<ft/fw<200 ・・・(12)
なる条件式を満たしている。
【0026】
更に、本発明の撮像装置は、各実施例のズームレンズとズームレンズによって形成された像を受光する所定の有効撮像範囲を有する固体撮像素子を有することを特徴とする。
【0027】
なお、本発明のズームレンズの物体側に、すなわち、第1レンズ群の物体側に、隣接して保護フィルタ及び保護フィルタ相当のレンズを装着することにより、本発明のズームレンズの最前面の光学面を保護するようにしても良い。なお、第1レンズ群の最も物体側に両凹レンズを配置して、第1レンズ群の像側主点を像側に押し出し、広画角化に伴う第11レンズ群のレンズ径増大を抑制してズームレンズの小型化を図っている。そのため、第1レンズ群の焦点距離をf1、第1レンズ群の最も物体側の第1nレンズの焦点距離をf1nとしたとき、
|f1/f1n|>0.05 ・・・(13)
なる条件式を満たしている。ズームレンズの物体側に隣接して装着された保護フィルタ及び保護フィルタ相当のレンズを第1レンズ群に含まれるものとみなして(13)式を評価した場合に、(13)式を満たさない場合は、該装着物は第1レンズ群、すなわち本発明のズームレンズには含めないものとする。
【0028】
以下に本発明のズームレンズの具体的な構成について、実施例1~7に対応する数値実施例1~7のレンズ構成の特徴から説明する。
【実施例0029】
図1は本発明の実施例1(数値実施例1)であるズームレンズにおいて、広角端で無限遠に合焦しているときのレンズ断面図である。
図2において、(a)は数値実施例1の広角端、(b)は数値実施例1の焦点距離220.03mm、(c)は数値実施例1の望遠端の縦収差図を示している。いずれの収差図も、無限遠に合焦しているときの縦収差図である。また、焦点距離の値は、後述する数値実施例をmm単位で表したときの値である。これは以下の数値実施例においても、全て同じである。
【0030】
図1において、物体側から像側へ順に、合焦用の正の屈折力の第1レンズ群L1を有している。更に、広角端から望遠端へのズームに際して、像側へ移動するズーム用の負の屈折力の第2レンズ群L2と、物体側へ移動する正の屈折力の第3レンズ群L3を有している。更に、第2レンズ群L2と第3レンズ群L3の移動に連動して光軸上を非直線的に移動し、ズームに伴う像面変動を補正する正の屈折力の第4レンズ群L4を有している。更に、ズームのためには移動しない結像作用を有する第5レンズ群L5を有している。本実施例では、第Nレンズ群は第2レンズ群L2、第Pレンズ群は第4レンズ群L4、第Vレンズ群は第2レンズ群L2、第Cレンズ群は第3レンズ群L3及び第4レンズ群L4に相当する。なお、焦点距離220.03mmは、第Vレンズ群の合成横倍率が-1倍となるズーム位置である。
【0031】
本実施例では、第2レンズ群L2、第3レンズ群L3、第4レンズ群L4で変倍系を構成している。SPは開口絞りであり、第4レンズ群L4と第5レンズ群L5の間に配置されている。また、開口絞りはズームに際して光軸方向に不動である。Pは色分解プリズムや光学フィルタを示すガラスブロックである。Iは像面であり、放送用テレビカメラ、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラの撮像光学系として使用する際には、ズームレンズで形成された像を受光し、光電変換する固体撮像素子(光電変換素子)等の撮像面に相当している。フィルム用カメラの撮像光学系として使用する際には、ズームレンズで形成された像が感光するフィルム面に相当する。
【0032】
縦収差図において、球面収差における実線、二点鎖線は各々e線、g線である。非点収差における点線と実線は各々メリディオナル像面、サジタル像面であり、倍率色収差における二点鎖線、一点鎖線、点線は各々g線、C線、F線である。ωは半画角、FnoはFナンバーである。縦収差図では、球面収差は0.4mm、非点収差は0.4mm、歪曲は10%、倍率色収差は0.1mmのスケールで描かれている。なお、以下の各実施例において広角端と望遠端は、ズーム用の第2レンズ群L2が機構に対して光軸上を移動可能な範囲の両端に位置したときのズーム位置を指す。
【0033】
第1レンズ群L1は第1面から第12面に対応する。第2レンズ群L2は、第13面から第19面、第3レンズ群L3は、第20面から第25面に、第4レンズ群L4は、第26面から第30面に対応している。第5レンズ群L5は、第31面から第53面に対応する。第1レンズ群L1は、合焦時に移動しない第11レンズ群L11、無限遠側から至近側への合焦時に移動する正の屈折力の第12レンズ群L12から構成される。第11レンズ群L11は第1面から第6面に、第12レンズ群L12は第7面から第12面に対応する。また、第1レンズ群L1は、物体側から順に両凹レンズ、両凸レンズ、両凸レンズ、両凸レンズ、像側に凹のメニスカス凸レンズ、像側に凹のメニスカス凸レンズの6枚のレンズで構成されている。
【0034】
上記実施例1に対応する数値実施例1について説明する。数値実施例1に限らず全数値実施例において、iは物体側からの面(光学面)の順序を示し、riは物体側より第i番目の面の曲率半径、diは物体側より第i番目の面と第i+1番目の面の間隔(光軸上)を示している。また、ndi、νdi、θgFiは、第i番目の面と第i+1番目の面との間の媒質(光学部材)の屈折率、アッベ数、部分分散比を、BFは空気換算のバックフォーカスを表している。非球面形状は光軸方向にX軸、光軸と垂直方向にH軸、光の進行方向を正とし、Rを近軸曲率半径、kを円錐常数、A3からA16をそれぞれ非球面係数としたとき、次式で表している。また、「e-Z」は「×10
-Z」を意味する。
【数1】
本実施例の各条件式対応値を表1に示す。なお、表1中の、第Nレンズ群と第Pレンズ群の広角端と望遠端における光軸上の像面からの位置の差であるmn、mpの符号については、広角端から望遠端へのズームにおける像側への変化を正、物体側への変化を負として示した。本実施例は(1)~(13)式を満足しており、第1レンズ群の屈折力やズームに際して移動するレンズ群の移動量を適切に設定することで、広画角、高ズーム比、小型軽量で全ズーム範囲に渡り高い光学性能を有したズームレンズを達成している。しかしながら、本発明のズームレンズは、(1)~(3)式を満足することは必須であるが、(4)~(13)式については満足していなくても構わない。但し、(4)~(13)式について少なくとも1つでも満足していれば更に良い効果を奏することができる。これは他の実施例についても同様である。
【0035】
図15は各実施例のズームレンズを撮影光学系として用いた撮像装置(テレビカメラシステム)の概略図である。
図15において101は実施例1~7のいずれかのズームレンズである。124はカメラである。ズームレンズ101はカメラ124に対して着脱可能となっている。125はカメラ124にズームレンズ101を装着することで構成される撮像装置である。ズームレンズ101は第1レンズ群F、ズーム部LZ、結像用の後群Rを有している。第1レンズ群Fは合焦用レンズ群が含まれている。ズーム部LZはズームに際して光軸上を移動する第2レンズ群、第3レンズ群、ズームに伴う像面変動を補正するために光軸上を移動する第4レンズ群が含まれている。SPは開口絞りである。114、115は各々第1レンズ群F、ズーム部LZを光軸方向に駆動するヘリコイドやカム等の駆動機構である。116~118は駆動機構114、115及び開口絞りSPを電動駆動するモータ(駆動手段)である。119~121は、第1レンズ群Fやズーム部LZの光軸上の位置や、開口絞りSPの絞り径を検出するためのエンコーダやポテンショメータ、あるいはフォトセンサ等の検出器である。カメラ124において、109はカメラ124内の光学フィルタや色分解光学系に相当するガラスブロック、110はズームレンズ101によって形成された被写体像を受光するCCDセンサやCMOSセンサ等の固体撮像素子(光電変換素子)である。また、111、122はカメラ124及びズームレンズ101の各種の駆動を制御するCPUである。
【0036】
このように、本発明のズームレンズをテレビカメラに適用することにより、高い光学性能を有する撮像装置を実現している。
本実施例では、第2レンズ群L2、第3レンズ群L3、第4レンズ群L4で変倍系を構成している。SPは開口絞りであり、第4レンズ群L4と第5レンズ群L5の間に配置されている。また、開口絞りSPはズームに際して光軸方向に不動である。
第1レンズ群L1は第1面から第12面に対応する。第2レンズ群L2は、第13面から第19面、第3レンズ群L3は、第20面から第25面に、第4レンズ群L4は、第26面から第30面に対応している。第5レンズ群L5は、第31面から第53面に対応する。第1レンズ群L1は、合焦時に移動しない第11レンズ群L11、無限遠側から至近側への合焦時に移動する正の屈折力の第12レンズ群L12から構成される。第11レンズ群L11は第1面から第6面に、第12レンズ群L12は第7面から第12面に対応する。また、第1レンズ群L1は、物体側から順に両凹レンズ、両凸レンズ、両凸レンズ、両凸レンズ、像側に凹のメニスカス凸レンズ、像側に凹のメニスカス凸レンズの6枚のレンズで構成されている。
本実施例の各条件式対応値を表1に示す。本実施例は(1)~(13)式を満足しており、第1レンズ群の屈折力やズームに際して移動するレンズ群の移動量を適切に設定することで、広画角、高ズーム比、小型軽量で全ズーム範囲に渡り高い光学性能を有したズームレンズを達成している。