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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180598
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】集積回路
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/03 20060101AFI20241219BHJP
   G06F 3/044 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
G06F3/03 400A
G06F3/044 120
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024180837
(22)【出願日】2024-10-16
(62)【分割の表示】P 2021002960の分割
【原出願日】2021-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000139403
【氏名又は名称】株式会社ワコム
(74)【代理人】
【識別番号】110004277
【氏名又は名称】弁理士法人そらおと
(72)【発明者】
【氏名】久野 晴彦
(57)【要約】
【課題】ストロークの書き出し部分の線幅や透明度がペアリングのために不自然になってしまうことを抑制する。
【解決手段】ペン先電極を介する双方向通信によりセンサコントローラとのペアリングを行うペンに用いられる集積回路であって、前記ペアリングのための処理が完了した後においては、前記ペン先電極を介し、Nビットの筆圧値を含む第1のダウンリンク信号を周期的に送信する一方、前記ペアリングのための処理が完了する前の期間においては、前記ペン先電極を介し、前記筆圧値の前記Nビットより短い上位Mビットの部分からなる短縮筆圧値を含む第2のダウンリンク信号を送信する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペン先電極を介する双方向通信によりセンサコントローラとのペアリングを行うペンに用いられる集積回路であって、
前記ペアリングのための処理が完了した後においては、前記ペン先電極を介し、Nビットの筆圧値を含む第1のダウンリンク信号を周期的に送信する一方、
前記ペアリングのための処理が完了する前の期間においては、前記ペン先電極を介し、前記筆圧値の前記Nビットより短い上位Mビットの部分からなる短縮筆圧値を含む第2のダウンリンク信号を送信する、
集積回路。
【請求項2】
前記第1のダウンリンク信号は、位置信号と、前記筆圧値を含む第1のデータ信号とを含み、
前記第2のダウンリンク信号は、位置信号と、前記短縮筆圧値を含む第2のデータ信号とを含む、
請求項1に記載の集積回路。
【請求項3】
前記第2のデータ信号は、前記ペアリングのために必要なデータを含む、
請求項2に記載の集積回路。
【請求項4】
前記ペアリングのために必要なデータは、前記ペンに予め書き込まれているペンIDの少なくとも一部である、
請求項3に記載の集積回路。
【請求項5】
未ペアリングのペンのために予め定められている時間スロットを用いて前記第2のダウンリンク信号を送信する、
請求項1に記載の集積回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペン及びセンサコントローラを含むシステム、ペン、及びセンサコントローラに関する。
【背景技術】
【0002】
ペンとセンサコントローラの間で双方向通信を行うことにより、タブレット端末などの電子機器に対するペン入力を実現するシステムが知られている。この種のシステムにおいては、センサコントローラはアップリンク信号を周期的に送信し、ペンはアップリンク信号に応じてダウンリンク信号を送信するよう構成される。
【0003】
アップリンク信号は、信号の送受信に用いるフレームの開始タイミングと、ペンを制御するためのコマンドとをペンに対して通知するための信号である。また、ダウンリンク信号は、無変調の搬送波信号である位置信号と、筆圧値等のデータによって変調されてなる搬送波信号であるデータ信号とを含む信号である。ダウンリンク信号を受信したセンサコントローラは、タッチ面内に配置された複数のセンサ電極のそれぞれにおける位置信号の受信強度に基づいてペンの位置を検出するとともに、データ信号を復調することによってペンが送信したデータを取得する。こうして取得されるデータのうち筆圧値は、検出した位置に基づいて描画されるストロークの線幅又は透明度を制御するために使用される。
【0004】
上記システムにおいて新たにペン入力を開始するときには、ペンとセンサコントローラの間で、ペンIDや各種通信パラメータを共有するための処理(以下「ペアリング」という)が実行される。特許文献1~3には、このペアリングの例が開示されている。このうち特許文献1の例におけるペアリングは、ペンからセンサコントローラに対してスタイラス識別子を含む構成データを送信し、センサコントローラからペンに対して周波数及び時間スロットを指定するチャネルデータを送信することによって実行される。また、特許文献2の例におけるペアリングは、ペンからセンサコントローラに対し、ペンごとに異なる52ビットの情報である固有IDを送信することによって実行される。
【0005】
特許文献3には、ペンとセンサコントローラの間の通信がフレーム単位で行われ、センサコントローラは各フレームの先頭でアップリンク信号を送信することが記載されている。特許文献3の例におけるペアリングは、アップリンク信号を受信したペンが同じフレーム内で応答信号(ACK)を送信し、この応答信号を受信したセンサコントローラが次のフレームのアップリンク信号を用いて、一時的に使用されるペンID(ローカルID)、時間スロット、及び周波数をペンに通知することによって実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2016/139861号公報
【特許文献2】国際公開第2018/029855号公報
【特許文献3】米国特許第9977519号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述したペアリングを実行する場合、ペンとセンサコントローラの間で共有すべきデータのサイズが大きいことや、ペンが筆圧値を送信可能な状態になるまでに時間がかかることなどのため、ペアリングの実行中、筆圧値を伴わずに位置信号が送信されてしまうケースが発生し得る。例えば、特許文献2の例のように、ペンがペアリングのために52ビットの固有IDを送信する必要がある場合、データ信号の空き容量が足りなくなるため、ペアリング中には筆圧値を送信することができない。
【0008】
こうして筆圧値を伴わない位置信号が送信されてしまうと、ストロークの書き出し部分において、ストロークの線幅や透明度が不自然になってしまう場合がある。すなわち、例えば筆圧値を受信するまでストロークの描画を行わないよう電子機器を構成したとすると、本来のストロークの先頭位置と実際に描画されたストロークの先頭位置との間に乖離が生じる可能性がある。また、例えば受信されなかった筆圧値を後に受信された筆圧値により補うように電子機器を構成することとすれば、本来の筆圧値とはかけ離れた筆圧値でストロークの描画が行われる可能性がある。
【0009】
したがって、本発明の目的の一つは、ストロークの書き出し部分の線幅や透明度がペアリングのために不自然になってしまうことを抑制できる、ペン及びセンサコントローラを含むシステム、ペン、及びセンサコントローラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるシステムは、双方向通信によりペアリングを行うペン及びセンサコントローラを含み、前記ペンは前記センサコントローラに対し周期的にNビットの筆圧値を送信するシステムであって、前記ペンは、前記ペアリングのための処理が完了した後においては前記筆圧値を周期的に送信する一方、前記ペアリングのための処理が完了する前の期間においては、前記筆圧値に代えて、前記筆圧値の前記Nビットより短い上位Mビットの部分からなる短縮筆圧値を送信する、システムである。
である。
【0011】
本発明によるペンは、双方向通信によりセンサコントローラとのペアリングを行うとともに、前記センサコントローラに対し周期的にNビットの筆圧値を送信するペンであって、前記ペアリングのための処理が完了した後においては前記筆圧値を周期的に送信する一方、前記ペアリングのための処理が完了する前の期間においては、前記筆圧値に代えて、前記筆圧値の前記Nビットより短い上位Mビットの部分からなる短縮筆圧値を送信する、ペンである。
【0012】
本発明によるセンサコントローラは、双方向通信によりペンとのペアリングを行い、前記ペンから周期的にNビットの筆圧値を受信するセンサコントローラであって、前記筆圧値の前記Nビットより短い上位Mビットの部分からなる短縮筆圧値を前記ペンから受信した場合に、下位N-Mビットを所定値で補完することによって前記筆圧値を取得するセンサコントローラである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ペンは、Nビットの筆圧値を送信できない場合であっても、筆圧値の上位Mビットの部分からなる短縮筆圧値を送信することができるので、ストロークの書き出し部分の線幅や透明度がペアリングのために不自然になってしまうことを抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態によるシステム1の構成を示す図である。
図2】ペン2及びタブレット端末3それぞれの内部構成を示す図である。
図3】アップリンク信号US及びダウンリンク信号DSを送受信するために用いられるフレームの構造を示す図である。
図4】(a)~(c)はそれぞれ、未ペアリングの状態からペン入力を開始した場合におけるストロークデータSa~Scを示している。
図5】ペン2の回路部23が行う処理を示すフロー図である。
図6】(a)は、図5のステップS6で回路部23が送信するダウンリンク信号DSを示す図であり、(b)は、図5のステップS7で回路部23が送信するダウンリンク信号DSを示す図である。
図7】(a)は、筆圧値PRDの構造の一例を示す図であり、(b)は、(a)に示した筆圧値PRDに対応する短縮筆圧値SPRDの構造を示す図であり、(c)は、短縮筆圧値SPRDが(b)に示したものである場合に、図8のステップS28で導出される筆圧値PRDを示す図である。
図8】センサコントローラ31が行う処理を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は、本実施の形態によるシステム1の構成を示す図である。同図に示すように、システム1は、ペン2及びタブレット端末3を含んで構成される。
【0017】
ペン2は、タブレット端末3に対してペン入力を行うための位置指示器であり、タブレット端末3のパネル面3a上における位置を指示するために用いられる。ユーザは、ペン2のペン先をパネル面3a上で摺動させることによって、図示したような各種の図形や文字の入力を行う。
【0018】
タブレット端末3は、例えば液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置を内蔵するコンピュータである。タブレット端末3に代え、ノート型又はデスクトップ型のパーソナルコンピュータ、若しくは、スマートフォンを用いることとしてもよい。タブレット端末3のパネル面3aは、表示装置の表示面と、ペン入力のためのタッチ面とを兼ねている。表示装置は、後述するホストプロセッサ32(図2を参照)の制御に従い、ペン2を用いてユーザが入力した図形や文字をパネル面3a上に視覚的に出力する役割を果たす。以下の説明では、ユーザから見てパネル面3aの横方向をX方向と称し、奥行き方向をY方向と称し、X方向及びY方向に直交する方向をZ方向と称する。
【0019】
タブレット端末3によるペン2の検出は、ペン2と後述するセンサコントローラ31(図2を参照)とが双方向通信を行う方式を用いて実行される。このような方式の具体的な例としては、アクティブ静電方式、電磁誘導方式などが挙げられる。以下では、このうちアクティブ静電方式を用いることを前提として、説明を続ける。タブレット端末3は、指による入力(タッチ入力)にも対応するものであってよく、その場合における指の検出は、例えば静電容量方式を用いて実行される。
【0020】
図2は、ペン2及びタブレット端末3それぞれの内部構成を示す図である。ただし、タブレット端末3の内部構成については、ペン2の位置検出に関連する部分のみを示している。
【0021】
初めにペン2に着目すると、ペン2は、図2に示すように、芯20、ペン先電極21、筆圧検出センサ22、回路部23、及び電源24を有して構成される。電源24としては、例えば円筒型のAAAA電池が用いられる。
【0022】
芯20は、その長手方向がペン2のペン軸方向と一致するように配置される棒状の部材である。芯20の先端部の表面には導電性材料が塗布され、ペン先電極21を構成している。芯20の後端部は、筆圧検出センサ22に当接している。筆圧検出センサ22は、芯20の先端に加わる圧力(筆圧)を検出する役割を果たす。
【0023】
回路部23は、内蔵メモリに記憶されるプログラムを読み出して実行することにより後述する各種の処理を行う集積回路であり、タブレット端末3のパネル面3aから送信されるアップリンク信号USをペン先電極21を介して受信する機能と、タブレット端末3のパネル面3aに向け、ペン先電極21を介してダウンリンク信号DSを送信する機能とを有して構成される。回路部23の内蔵メモリには、上記プログラムの他、ペン2に予め割り当てられたペンIDも書き込まれている。
【0024】
次にタブレット端末3に着目すると、タブレット端末3は、センサ30、センサコントローラ31、及びホストプロセッサ32を有して構成される。
【0025】
センサ30は、パネル面3aの下に埋め込まれたタッチセンサであり、ペン先電極21と容量結合する各複数のセンサ電極30X,30Yを含んで構成される。このうち複数のセンサ電極30XはそれぞれY方向に延在し、X方向に一定のピッチで並置される。また、複数のセンサ電極30YはそれぞれX方向に延在し、Y方向に一定のピッチで並置される。複数のセンサ電極30Xと複数のセンサ電極30Yとは、図2に示すように、Z方向に重畳して配置される。なお、図2ではセンサ電極30X,30Yを板状の導電体により示しているが、実際のセンサ電極30X,30Yは、例えばメッシュ導体のような他の形状の導電体であってよい。
【0026】
センサコントローラ31は、内蔵メモリに記憶されるプログラムを読み出して実行することにより後述する各種の処理を行う集積回路であり、ペン2が送信するダウンリンク信号DSをセンサ30を介して受信する機能と、ペン2に向け、センサ30を介してアップリンク信号USを送信する機能とを有して構成される。センサコントローラ31は、図2に示すように、各複数のセンサ電極30X,30Yのそれぞれと個別に接続される。
【0027】
ここで、アップリンク信号USは、センサコントローラ31からペン2に対し、信号の送受信に用いるフレームの開始タイミングと、ペン2を制御するためのコマンドとを通知するための信号である。コマンドには、フレーム内の時間スロット(後述)を指定するコマンド、ペン2が送信すべきデータを指定するコマンドなどが含まれる。アップリンク信号USを受信したペン2は、その中に含まれるコマンドに従ってアップリンク信号US及びダウンリンク信号DSの送受信スケジュールを取得するとともにダウンリンク信号DSの生成を行い、取得した送受信スケジュールに従って、生成したダウンリンク信号DSの送信と、次のアップリンク信号USの受信とを行う。
【0028】
また、ダウンリンク信号DSは、無変調の搬送波信号(バースト信号)である位置信号と、センサコントローラ31に対して送信するデータによって変調されてなる搬送波信号であるデータ信号とを含む信号である。データ信号により送信されるデータには、ペアリングのために必要な各種のデータ(例えば、上述したペンID。以下「ペアリング用データ」と称する)や、筆圧検出センサ22によって検出された筆圧の値を示す筆圧値などが含まれる。ダウンリンク信号DSを受信したセンサコントローラ31は、各センサ電極30X,30Yにおける位置信号の受信強度に基づいてパネル面3aにおけるペン2の位置を導出するとともに、データ信号を復調することによってペン2が送信したデータを取得する。こうして導出された位置及び取得されたデータは、センサコントローラ31からホストプロセッサ32に対し、逐次供給される。
【0029】
図3は、アップリンク信号US及びダウンリンク信号DSを送受信するために用いられるフレームの構造を示す図である。同図から理解されるように、本実施の形態におけるアップリンク信号US及びダウンリンク信号DSの送受信は時分割多重により行われ、各フレームFはn個の時間スロットTSに分割されている。なお、時分割多重に代え、又は、時分割多重とともに、周波数分割多重又は符号分割多重を用いても構わない。センサコントローラ31は、各フレームFの先頭の時間スロットTS1でアップリンク信号USの送信を行う。ペン2は、アップリンク信号USの受信によってフレームF及び各時間スロットTSの時間的位置を取得し、受信したアップリンク信号USと同一フレームF内の後続の複数の時間スロットTSのうちの一部又は全部を用いて、ダウンリンク信号DSの送信を行う。
【0030】
図3には、ペン2とセンサコントローラ31とが新たにペアリングを行う場合を示している。センサコントローラ31とペアリングしていないペン2は、継続的又は断続的にアップリンク信号USの受信動作(図2では「R」と記している)を行う。この受信動作の結果として、図示したフレームF1の先頭(時刻t)で送信されたアップリンク信号USを受信したペン2は、未ペアリングのペン2のために予め定められている時間スロットTS2を用いて、ダウンリンク信号DSを送信する。このときペン2は、ダウンリンク信号DSを構成するデータ信号の中にペアリング用データを配置する。また、ペン2は、フレームF2の開始タイミングである時刻tで、アップリンク信号USの受信動作を開始する。
【0031】
未ペアリングのペン2からペアリング用データを受信したセンサコントローラ31は、受信したペアリング用データを記憶するとともに、そのペン2に対して割り当てる1以上の時間スロットTSを決定する。そして、例えばフレームF2の先頭(時刻t)で送信するアップリンク信号USを用いて、決定した1以上の時間スロットTSをペン2に通知する。この通知を受けたペン2はペアリングが完了したと判定し、フレームF2以降、通知された1以上の時間スロットTSを用いてダウンリンク信号DSの送信を行う。センサコントローラ31は、こうして送信されたダウンリンク信号DSを受信したことにより、ペアリングが完了したと判定する。
【0032】
ここで、ペアリング用データは例えば50ビットを超える大容量のデータであることから、1つの時間スロットTS内では送信しきれない場合がある。その場合、ペン2は、複数のフレームF分の時間スロットTS2を用いて、ペアリング用データを含むダウンリンク信号DSの送信を行えばよい。この場合、センサコントローラ31は、ペアリング用データの全部を受信した後、ペアリング用データを送信してきたペン2に対して割り当てる1以上の時間スロットTSを決定し、アップリンク信号USを用いて通知することとすればよい。
【0033】
図2に戻る。ホストプロセッサ32はタブレット端末3の中央処理装置であり、図示しない記憶装置に格納されるプログラムを読み出して実行することにより、タブレット端末3のオペレーションシステムや各種のアプリケーションを実行する役割を果たす。
【0034】
ホストプロセッサ32により実行されるアプリケーションには、描画アプリケーションが含まれる。描画アプリケーションは、センサコントローラ31から逐次供給される位置及びデータ(筆圧値を含む)に従ってストロークデータを生成する役割を果たす。具体的には、一連の位置に基づいてベジエ曲線、キャットマル-ロム曲線などの曲線を生成し、生成した曲線の線幅又は透明度を筆圧値に応じて制御することにより、ストロークデータの生成を行う。描画アプリケーションは、生成したストロークデータをレンダリングして上述した表示装置に供給することにより、図1に示したパネル面3a上にストロークを描画する。また、描画アプリケーションは、生成したストロークデータを含むデジタルインクを生成し、図示しない記憶装置に格納するとともに、他のコンピュータに対して送信する処理も行う。
【0035】
以上、ペン2及びタブレット端末3の基本的な構成と、ペン2及びセンサコントローラ31が行う基本的な処理について説明した。次に、ストロークの書き出し部分の線幅や透明度がペアリングのために不自然になってしまうことを抑制するためにペン2及びセンサコントローラ31が行う処理について、詳細に説明する。
【0036】
初めに、本発明の課題について、図4を参照しながら改めて説明する。図4(a)~(c)はそれぞれ、未ペアリングの状態からペン入力を開始した場合におけるストロークデータSa~Scを示している。各図に示す位置P~Pは、ペン2から順次送信される位置信号に基づいてセンサコントローラ31が導出した位置を示している。また、位置P~Pのそれぞれに対応する円の大きさは、その時点における筆圧値(ペン2の筆圧検出センサ22によって検出された筆圧の値)の大きさを表している。ここでは、センサコントローラ31がこれらの円の包絡線を導出することによってストロークデータの線幅を制御する例を取り上げて説明するが、センサコントローラ31が筆圧値に基づいてストロークデータの透明度を制御する場合についても同様である。
【0037】
図4(a)は、すべてのダウンリンク信号DSに筆圧値が含まれる理想的なケースを示している。このケースによるセンサコントローラ31は、位置P~Pのそれぞれに対応する筆圧値を正常に取得することができる。ここで、図4(a)にも示すように、センサコントローラ31は、筆圧値を表す円の包絡線を導出することにより、ストロークデータの線幅を制御するよう構成される。したがって、すべての筆圧値が正常に取得されていれば、図4(a)に示したストロークデータSaのように、人間の動きに応じたストロークの自然な書き出しが表現されることになる。
【0038】
図4(b)は、位置P,Pに対応するダウンリンク信号DSに筆圧値が含まれていなかったケースを示している。上述したように、ペアリング実行中のペン2は、ダウンリンク信号DSを構成するデータ信号の中に大容量のペアリング用データを配置する必要があり、その結果として、ペン先がパネル面3aに接触しているにも関わらずデータ信号内に筆圧値を配置できなくなる場合がある。そうすると、センサコントローラ31は、図4(b)に例示するように、ストロークの書き出しに相当するいくつかの位置(図4(b)の例では位置P,P)に対応する筆圧値を取得できないことになる。
【0039】
このような場合において、筆圧値が取得可能になるまでホストプロセッサ32がストロークの描画を行わないこととすると、図4(b)に示すように、本来のストロークの先頭位置と、実際に描画されたストロークの先頭位置との間に乖離(図示した距離D分の乖離)が生じてしまう。つまり、ユーザは位置P,Pにも書き込んだつもりであるにも関わらず、位置Pからのみストロークが描画されることになるため、ユーザに違和感を与えてしまう。
【0040】
図4(c)は、図4(b)のケースの改善案として考えられる処理の1つを示している。この処理によるホストプロセッサ32は、位置P,Pの直後に導出される位置Pに対応する筆圧値を位置P,Pに対応する筆圧値とみなして、ストロークデータの生成を行う。これによれば、図4(c)に示すように位置P,Pにもストロークデータが描画されることになるため上記乖離の問題は緩和されるが、ストロークの書き出し部分において線幅が不自然になってしまう。
【0041】
本実施の形態によるペン2及びセンサコントローラ31は、ペアリングのための処理が完了した後においては、ペン2からセンサコントローラ31に対しNビットの筆圧値を周期的に送信する一方、ペアリングのための処理が完了する前の期間においては、ペン2からセンサコントローラ31に対し、筆圧値のうちNビットより短い上位Mビットの部分からなる短縮筆圧値を送信することにより、以上のような課題を解決するものである。以下、ペン2及びセンサコントローラ31それぞれの処理フローを参照しながら、詳細に説明する。
【0042】
図5は、ペン2の回路部23が行う処理を示すフロー図である。同図に示す処理の初期状態は、ペン2とセンサコントローラ31とがペアリングしていない状態である。同図に示すように、回路部23はまず、アップリンク信号USの受信動作を実行する(ステップS1)。そして、アップリンク信号USが受信されたか否かを判定し(ステップS2)、受信されていない場合には、ステップS1の処理を繰り返し実行することにより、アップリンク信号USの受信を待機する。
【0043】
一方、ステップS2で受信されたと判定した場合、回路部23は、アップリンク信号US内に含まれるコマンドに応じた動作を実行する(ステップS3)。例えば、コマンドがあるデータの送信を指示するものであれば、ステップS3で行う動作は、そのデータを含むダウンリンク信号DSを生成する動作となる。また、コマンドがローカルIDを通知するものであれば、ステップS3で行う動作は、そのローカルIDをメモリに格納する動作となる。さらに、コマンドが時間スロット(或いは周波数又は拡散符号)を指定するものであれば、ステップS3で行う動作は、アップリンク信号US及びダウンリンク信号DSの送受信スケジュールを決定し、決定した送受信スケジュールを示す情報と、ペアリング済みであることを示す情報とをメモリに格納する動作となる。
【0044】
回路部23はさらに、アップリンク信号USの受信タイミングに基づいて、フレームの開始タイミングを取得する(ステップS4)。回路部23は、ここで取得したタイミングとステップS3で決定した送受信スケジュールとに基づいて、以降のアップリンク信号USの受信とダウンリンク信号DSの送信とを行う。
【0045】
次に回路部23は、センサコントローラ31とペアリング済みであるか否かを判定する(ステップS5)。そして、ペアリング済みでないと判定した回路部23は、取得した送受信スケジュール及びフレームの開始タイミングに従い、短縮筆圧値及びペアリング用データを含むダウンリンク信号DSを送信する(ステップS6)。短縮筆圧値については、後ほど詳しく説明する。一方、ステップS5でペアリング済みであると判定した場合には、回路部23は、取得した送受信スケジュール及びフレームの開始タイミングに従い、筆圧値を含むダウンリンク信号DSを送信する(ステップS7)。
【0046】
ステップS6又はステップS7を終了した回路部23は、取得した送受信スケジュール及びフレームの開始タイミングに従ってアップリンク信号USの受信動作を実行し(ステップS8)、その結果を受けて、例えばアップリンク信号USが所定期間にわたって受信されないなどのペアリングの解除条件が満たされたか否かを判定する(ステップS9)。ここで満たされたと判定したセンサコントローラ31は、ペアリングを解除し(ステップS10)、ステップS1に戻って処理を続ける。一方、ステップS9で満たされていないと判定したセンサコントローラ31は、ステップS3に戻って処理を続ける。
【0047】
図6(a)は、ステップS6で回路部23が送信するダウンリンク信号DSを示す図であり、図6(b)は、ステップS7で回路部23が送信するダウンリンク信号DSを示す図である。これらの図に示すように、いずれのダウンリンク信号DSも位置信号PS及びデータ信号DATAを含んで構成される一方、データ信号DATAの内容がステップS6とステップS7とで異なっている。
【0048】
具体的に説明すると、ステップS6で送信されるデータ信号DATA(第2のデータ信号)は、短縮筆圧値SPRD及びペアリング用データPAIRDを含むのに対し、ステップS7で送信されるデータ信号DATA(第1のデータ信号)は、筆圧値PRD及びその他のデータを含んで構成される。なお、その他のデータには、ペン2の表面に設けられるスイッチのオンオフ状態を示すデータなどが含まれる。
【0049】
図7(a)は、筆圧値PRDの構造の一例を示す図であり、図7(b)は、図7(a)に示した筆圧値PRDに対応する短縮筆圧値SPRDの構造を示す図である。図7(a)に示すように、筆圧値PRDはNビットのデータ(Nは2以上の自然数)であり、この例ではN=11となっている。そして、短縮筆圧値SPRDは、図7(b)に示すように、筆圧値PRDのうちNビットより短い上位Mビットの部分(1≦M<N)により構成される。図7(b)には、M=5の例を示している。このように、短縮筆圧値SPRDは本来の筆圧値PRDから上位Mビット分のみを抜き出したものとなっており、その結果として、ペアリング用データPAIRDを送信しなければならない場合においても送信できる可能性が高くなっている。
【0050】
図8は、センサコントローラ31が行う処理を示すフロー図である。同図に示すように、センサコントローラ31はまず、フレームの先頭の時間スロットTSにおいてアップリンク信号USを送信し(ステップS20)、後続の各時間スロットにおいてダウンリンク信号DSの受信動作を実行する(ステップS21)。そして、ダウンリンク信号DSが所定期間にわたって受信されないなどのペアリングの解除条件に該当したペン2が存在するか否かを判定し(ステップS22)、存在すると判定した場合には、解除条件を満たしたペン2とのペアリングを解除する(ステップS23)。
【0051】
ステップS22でペアリングの解除条件に該当したペン2は存在しないと判定した場合、又は、ステップS23を終了した場合、センサコントローラ31は、ダウンリンク信号DSを受信した各ペン2について、ステップS25~S29の処理を実行する(ステップS24)。
【0052】
具体的に説明すると、センサコントローラ31はまず、各センサ電極30X,30Y(図2を参照)における位置信号PSの受信強度に基づき、処理対象のペン2の位置を導出する(ステップS25)。続いてセンサコントローラ31は、処理対象のペン2との間でペアリング済みか否かを判定する(ステップS26)。この判定の結果は、後述するステップS29においてペアリング済みであることを示す情報をメモリに格納した後、肯定となる。
【0053】
ステップS26においてペアリング済みであると判定したセンサコントローラ31は、データ信号DATAから筆圧値PRDを取り出すことによって筆圧値PRDを取得し(ステップS27)、ステップS29に処理を移す。一方、ステップS26においてペアリング済みでないと判定したセンサコントローラ31は、データ信号DATA内に含まれる短縮筆圧値SPRDに基づいて筆圧値PRDを導出する処理を行った後(ステップS28)、ステップS29に処理を移す。
【0054】
図7(c)は、短縮筆圧値SPRDが図7(b)に示したものである場合に、ステップS28で導出される筆圧値PRDを示す図である。同図に示すように、センサコントローラ31は、Nビットである筆圧値PRDの上位Mビットに短縮筆圧値SPRDを充当しつつ、下位N-Mビットを所定値で補完することによって、筆圧値PRDを導出するよう構成される。補完する所定値は、図示するように「0」とすることが好ましいが「1」であることとしてもよい。こうして導出された筆圧値PRDは誤差を含むものとなるが、上位Mビットは正しいものとなっていることから、図7(a)に示した正しい筆圧値PRD(=1238)と比べると理解されるように、正しい筆圧値PRDに近い値(=1216)となる。
【0055】
図8に戻る。ステップS29においてセンサコントローラ31は、ステップS25で導出した位置、ステップS27,S28で取得又は導出した筆圧値PRD、及び、データ信号内に含まれるその他のデータに応じた動作を実行する(ステップS29)。具体的な例を挙げると、センサコントローラ31は、導出した位置、及び、取得又は導出した筆圧値をホストプロセッサ32に供給する動作を行う。ホストプロセッサ32は、こうして供給された位置及び筆圧値に基づいて、ストロークデータの生成を行う。また、例えばペアリング実行中のペン2からペアリング用データを受信した場合、センサコントローラ31は、そのペアリング用データをメモリに格納する処理を行い、必要なペアリング用データの全部を受信した場合にはさらに、ペアリング済みであることを示す情報をメモリに格納するとともに、処理対象のペン2に割り当てる時間スロット(或いは周波数又は拡散符号)を決定し、決定した時間スロット(或いは周波数又は拡散符号)を示すデータを次に送信するアップリンク信号USに配置する処理を行う。ダウンリンク信号DSを受信したすべてのペン2についてステップS25~S29の処理を終了した場合、センサコントローラ31は、ステップS20に戻って処理を続ける。
【0056】
以上説明したように、本実施の形態によるシステム1によれば、ペン2は、Nビットの筆圧値PRDを送信できない場合であっても、筆圧値PRDの上位Mビットの部分からなる短縮筆圧値SPRDを送信することができる。したがって、ストロークの書き出し部分の線幅や透明度がペアリングのために不自然になってしまうことを抑制することが可能になる。
【0057】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明が、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施され得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0058】
1 システム
2 ペン
3 タブレット端末
3a パネル面
20 芯
21 ペン先電極
22 筆圧検出センサ
23 回路部
24 電源
30 センサ
30X センサ電極
30X,30Y センサ電極
31 センサコントローラ
32 ホストプロセッサ
DATA データ信号
DS ダウンリンク信号
F フレーム
~P 位置
PAIRD ペアリング用データ
PRD 筆圧値
PS 位置信号
Sa~Sc ストロークデータ
SPRD 短縮筆圧値
TS 時間スロット
US アップリンク信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8