(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180603
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/12 20060101AFI20241219BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20241219BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20241219BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
H01L29/78 652T
H01L29/78 655A
H01L29/78 652J
H01L29/78 652H
H01L29/78 658A
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024181248
(22)【出願日】2024-10-16
(62)【分割の表示】P 2023129287の分割
【原出願日】2019-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003889
【氏名又は名称】弁理士法人酒井総合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥村 啓樹
(57)【要約】
【課題】不良品を抑えることができる炭化珪素半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】第1導電型の第1半導体層2と、第1半導体層2の上に形成される第2導電型の第2半導体層6と、第2半導体層6を貫通して第1半導体層2に達するトレンチ16と、を有する半導体基体を備える炭化珪素半導体装置の製造方法である。第1のイオン注入により、第1半導体層2内に第2導電型のベース領域3,4を選択的に形成する工程と、第2のイオン注入により、第2半導体層6の表面層に選択的に第1導電型のソース領域7を形成する工程と、を含み、第1のイオン注入では、半導体基体の垂線に対し3度以上チルトさせる。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の第1半導体層と、前記第1半導体層の上に形成される第2導電型の第2半導体層と、前記第2半導体層を貫通して前記第1半導体層に達するトレンチと、を有する半導体基体を備える炭化珪素半導体装置の製造方法であって、
第1のイオン注入により、前記第1半導体層内に第2導電型のベース領域を選択的に形成する工程と、
第2のイオン注入により、前記第2半導体層の表面層に選択的に第1導電型のソース領域を形成する工程と、
を含み、
前記ベース領域の底面が前記トレンチよりも深くに位置する第1ベース領域を有し、該第1ベース領域への前記第1のイオン注入では、前記半導体基体の垂線に対し3度以上チルトさせることを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項2】
第1導電型の第1半導体層と、前記第1半導体層の上に形成される第2導電型の第2半導体層と、前記第2半導体層を貫通して前記第1半導体層に達するトレンチと、を有する半導体基体を備える炭化珪素半導体装置の製造方法であって、
第1のイオン注入により、前記第1半導体層内に第2導電型のベース領域を選択的に形成する工程と、
第2のイオン注入により、前記第2半導体層の表面層に選択的に第1導電型のソース領域を形成する工程と、
を含み、
前記ベース領域の底面が前記トレンチよりも深くに位置する第1ベース領域を有し、前記第1ベース領域を形成する工程では、前記第2のイオン注入に比べて3度以上チルトさせて前記第1のイオン注入を実施することを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記トレンチに絶縁膜を介してゲート電極を埋め込みゲートトレンチを形成する工程を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記ゲートトレンチをストライプ状に形成することを特徴とする請求項3に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記ベース領域は、上面視で2つの前記ゲートトレンチに挟まれていることを特徴とする請求項4に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記第1ベース領域を形成する工程では、前記第1のイオン注入を実施する際に、前記ゲートトレンチが形成される部分をマスクし、上面視で前記ゲートトレンチに挟まれる部分に開口部を設ける工程を有することを特徴とする請求項5に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記第1ベース領域を形成する工程では、下部第1ベース領域を形成する工程と、
前記下部第1ベース領域に重なるように上部第1べース領域を形成する工程と、
を有することを特徴とする請求項5または6に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記ベース領域を形成する工程では、少なくとも一部が前記トレンチの底部と接する第2ベース領域を形成する工程を有することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項9】
第3のイオン注入により、前記第1半導体層より高不純物濃度の第1導電型の半導体領域を前記第1半導体層内に形成する工程を含み、
前記ベース領域を形成する工程では、前記第2のイオン注入および前記第3のイオン注入に比べて3度以上チルトさせて前記第1のイオン注入を実施することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記半導体基体は、4度±0.5度のオフ角を有することを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記トレンチの側壁がm面であって、前記第1のイオン注入をオフ角の方向に3度以上傾けて実施することを特徴とする請求項10に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記トレンチの側壁がa面であって、前記第1のイオン注入をオフ角と異なる方向に7度以上傾けて実施することを特徴とする請求項10に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭化珪素半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高電圧や大電流を制御するパワー半導体装置の構成材料として、シリコン(Si)が用いられている。パワー半導体装置は、バイポーラトランジスタやIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:絶縁ゲート型電界効果トランジスタ)など複数種類あり、これらは用途に合わせて使い分けられている。
【0003】
例えば、バイポーラトランジスタやIGBTは、MOSFETに比べて電流密度は高く大電流化が可能であるが、高速にスイッチングさせることができない。具体的には、バイポーラトランジスタは数kHz程度のスイッチング周波数での使用が限界であり、IGBTは数十kHz程度のスイッチング周波数での使用が限界である。一方、パワーMOSFETは、バイポーラトランジスタやIGBTに比べて電流密度が低く大電流化が難しいが、数MHz程度までの高速スイッチング動作が可能である。
【0004】
しかしながら、市場では大電流と高速性とを兼ね備えたパワー半導体装置への要求が強く、IGBTやパワーMOSFETはその改良に力が注がれ、現在ではほぼ材料限界に近いところまで開発が進んでいる。パワー半導体装置の観点からシリコンに代わる半導体材料が検討されており、低オン電圧、高速特性、高温特性に優れた次世代のパワー半導体装置を作製(製造)可能な半導体材料として炭化珪素(SiC)が注目を集めている。
【0005】
その背景には、SiCは化学的に非常に安定な材料であり、バンドギャップが3eVと広く、高温でも半導体として極めて安定的に使用できる点が挙げられる。また、最大電界強度もシリコンより1桁以上大きいからである。SiCはシリコンにおける材料限界を超える可能性大であることからパワー半導体用途、特にMOSFETでは今後の伸長が大きく期待される。特にそのオン抵抗が小さいことが期待されている。高耐圧特性を維持したままより一層の低オン抵抗を有する縦型SiC-MOSFETが期待できる。
【0006】
従来の炭化珪素半導体装置の構造について、縦型MOSFETを例に説明する。
図23は、従来の炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
図23は、トレンチ型MOSFET150の例である。
図23に示すように、n
+型炭化珪素基板101のおもて面にn型バッファ層118が堆積され、n型バッファ層118のおもて面にn
-型炭化珪素エピタキシャル層102が堆積されている。
【0007】
n-型炭化珪素エピタキシャル層102の内部にn+型領域117、第1p+型ベース領域103、第2p+型ベース領域104、n型高濃度領域105、p型ベース層106が選択的に設けられる。また、p型ベース層106の表面にn++型ソース領域107、p++型コンタクト領域108が選択的に設けられる。
【0008】
また、n++型ソース領域107およびp型ベース層106を貫通して、n型高濃度領域105に達するトレンチ116が設けられ、トレンチ116の内壁に沿って、トレンチ116の底部および側壁にゲート絶縁膜109が設けられ、トレンチ116内のゲート絶縁膜109の内側にゲート電極110が設けられている。p++型コンタクト領域108およびn++型ソース領域107の表面に、ソース電極112が設けられ、ソース電極112上には、ソース電極パッド115が設けられている。また、炭化珪素半導体基体の第1主面側の全面に、トレンチ116に埋め込まれたゲート電極110を覆うように層間絶縁膜111が設けられている。ソース電極112と層間絶縁膜111との間に、バリアメタル114が設けられている。また、n+型炭化珪素基板101の裏面には、裏面電極113が設けられている。
【0009】
第1p+型ベース領域103および第2p+型ベース領域104を設けることで、トレンチ116の底部と深さ方向(ソース電極112から裏面電極113への方向)に近い位置に、第1p+型ベース領域103および第2p+型ベース領域104と、n-型炭化珪素エピタキシャル層102およびn+型領域117とのpn接合を形成することができる。このようなpn接合を形成することで、トレンチ116の底部のゲート絶縁膜109に高電界が印加されることを防止することができる。このため、ワイドバンドギャップ半導体を半導体材料として用いた場合においても高耐電圧化が可能となる。
【0010】
第1p+型ベース領域103および第2p+型ベース領域104は、n-型炭化珪素エピタキシャル層102のおもて面に、n型のエピタキシャル層を成長させた後に、アルミニウム(Al)等のp型のドーパントをイオン注入することにより形成している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図24は、炭化珪素半導体ウェハを示す上面図である。上述のトレンチ型MOSFET150は、炭化珪素半導体ウェハ上に形成される。ここでは、オリエンテーションフラット121と平行な方向をX軸方向、垂直な方向をY軸方向としている。炭化珪素半導体ウェハ160は、炭化珪素半導体ウェハ160上に半導体層をエピタキシャル成長させるため、4度のオフ角が設けられている。オフ角規格によりオフ角には±0.5度の誤差がある。
図25は、炭化珪素半導体ウェハのX軸方向の断面図である。
図25に示すように、X軸方向にオフ角が設けられている。
【0012】
炭化珪素半導体ウェハ160にオフ角が設けられているため、チャネリングは起こらないものとして、第1p+型ベース領域103および第2p+型ベース領域104(以下、p+型ベース領域と称する)をイオン注入で形成する際に、イオンビームにチルト(傾き)を設けずに、炭化珪素半導体ウェハ160の中心から0度の角度でイオン注入を従来、行っていた。ここで、結晶構造を持つ炭化珪素半導体ウェハ160は、結晶の方向により、原子が密に配列されている部分と、原子が疎となっている部分とがある。チャネリングとは、原子が疎となっている方向からイオン注入を行うと、注入されたイオンは結晶原子に衝突する確率が小さくなり、結晶の奥深くまで注入される確率が高くなることである。
【0013】
しかしながら、炭化珪素半導体ウェハ160の中心から0度の角度でイオン注入を行うと、スキャン方向が一方向のみのシングルスキャンのイオン注入装置(例えば、株式会社アルバック製のイオン注入装置:型番IH-860DSIC)で、6インチ径の炭化珪素半導体ウェハ160にイオン注入を行うと、最大1.6度の傾斜が発生する。
図26は、従来の炭化珪素半導体装置の製造方法のイオン注入をY軸方向から示す断面図である。このように、スキャン方向がY軸方向である場合、Y軸方向で最大1.6度の傾斜が発生する。
図27は、従来の炭化珪素半導体装置の製造方法のイオン注入をX軸方向から示す断面図である。このように、スキャン方向がX軸方向である場合、X軸方向で最大1.6度の傾斜が発生する。また、オフ角規格(±0.5度)を考慮すると、イオンビームと炭化珪素半導体ウェハ160のおもて面とに、2.4度(4-1.6)、最小1.9度(4-0.5-1.6)の傾斜が発生する。
【0014】
図28は、炭化珪素半導体ウェハに形成された炭化珪素半導体装置のVonを示す上面図である。
図28では、炭化珪素半導体装置のオン電圧(Von)を1.0Vから2.0Vまでの11段階に分類して、炭化珪素半導体ウェハ上のVonの分布を示している。
図28によると、炭化珪素半導体ウェハの右下の領域SにVonが高い炭化珪素半導体装置が密集している。
【0015】
図29は、炭化珪素半導体ウェハに形成された炭化珪素半導体装置のVonの正規確率分布プロットを示すグラフである。
図29において、横軸はVonを示し、単位はVであり、縦軸は標準偏差σを示す。炭化珪素半導体装置のVonの分布が正規分布になる場合、直線にプロットされるが、
図29では、Vonの高い部分が直線から外れている。これは、Vonが高い炭化珪素半導体装置が多いため、Vonの高い部分の標準偏差σが低くなっているためである。Vonの高い炭化珪素半導体装置は不良品となるため、不良品を出さない能力を示す工程能力指数Cpk(Process Capability Index Katayori)は、0.54と低くなっている。
【0016】
図30は、炭化珪素半導体ウェハの左側に形成された従来の炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。例えば、
図28の領域Slに形成された炭化珪素半導体装置の構造を示す。
図31は、炭化珪素半導体ウェハの中央部に形成された従来の炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。例えば、
図28の領域Scに形成された炭化珪素半導体装置の構造を示す。
図32は、炭化珪素半導体ウェハの右側に形成された従来の炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。例えば、
図28の領域Srに形成された炭化珪素半導体装置の構造を示す。
【0017】
図30~
図32の構造を比較すると、JFET(Junction Field Effect Transistor)幅、例えば、第1p
+型ベース領域103と第2p
+型ベース領域104との間に挟まれるn型高濃度領域105の幅は同程度の大きさである。しかしながら、
図32の構造では、第1p
+型ベース領域103および第2p
+型ベース領域104は、n
-型炭化珪素エピタキシャル層102内に深く侵入していることがわかる。これにより、n型高濃度領域105の幅の狭い部分が増加して、JFET抵抗が増加して、Vonが増加した。
【0018】
これは、炭化珪素半導体ウェハの右側には、2.4度、最小1.9度の傾斜が発生するために、チャネリングが起き、イオン注入により注入されたイオンがn-型炭化珪素エピタキシャル層102の深くまで注入されたためである。
【0019】
ここでは、6インチ径の炭化珪素半導体ウェハの場合について説明してきたが、8インチ径の炭化珪素半導体ウェハでは、最大2.1度の傾斜が発生する。これにより、イオンビームと炭化珪素半導体ウェハ160のおもて面とに、1.9度(4-2.1)、最小1.4度(4-0.5-2.1)の傾斜が発生する。このため、6インチ径の場合と同様に、チャネリングが起きる。
【0020】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、不良品を抑えることができる炭化珪素半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、第1導電型の第1半導体層と、前記第1半導体層の上に形成される第2導電型の第2半導体層と、前記第2半導体層を貫通して前記第1半導体層に達するトレンチと、を有する半導体基体を備える炭化珪素半導体装置の製造方法であって、第1のイオン注入により、前記第1半導体層内に第2導電型のベース領域を選択的に形成する工程と、第2のイオン注入により、前記第2半導体層の表面層に選択的に第1導電型のソース領域を形成する工程と、を含み、前記ベース領域の底面が前記トレンチよりも深くに位置する第1ベース領域を有し、該第1ベース領域への前記第1のイオン注入では、前記半導体基体の垂線に対し3度以上チルトさせる。
【発明の効果】
【0022】
本発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法によれば、不良品を抑えることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その1)。
【
図2】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その2)。
【
図3】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その3)。
【
図4】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その4)。
【
図5】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その5)。
【
図6】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その6)。
【
図7】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法のオフ角と異なる方向に傾きを設けたイオン注入を示す上面図である。
【
図8】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法のオフ角の方向に傾きを設けたイオン注入を示す他の方向の上面図である。
【
図9】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法の
図7および
図8のイオン注入をY軸方向から見た断面図である。
【
図10】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法の
図7および
図8のイオン注入をX軸方向から見た断面図である。
【
図11】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法のオフ角の方向に傾きを設けたイオン注入を示す上面図である。
【
図12】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法の
図11のイオン注入をY軸方向から見た断面図である。
【
図13】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置のVonを示すグラフである。
【
図14】炭化珪素半導体ウェハの右側に形成された実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置を示す断面図である。
【
図15】実施の形態および従来のイオン注入の条件を示す表である。
【
図16】
図15のイオン注入の条件でのVonを示すグラフである。
【
図17】
図15のイオン注入の条件での耐圧を示すグラフである。
【
図18】
図15のイオン注入の条件での酸化膜電界を示すグラフである。
【
図19】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法のイオン注入でのシャドーイングを示す断面図である。
【
図20】複数のチルト角でイオン注入を行った場合の第1p
+型ベース領域の不純物濃度を示すグラフである(リニア軸)。
【
図21】複数のチルト角でイオン注入を行った場合の第1p
+型ベース領域の不純物濃度を示すグラフである(対数軸)。
【
図22】複数のチルト角でイオン注入を行った場合のDS間のリーク電流を示すグラフである。
【
図23】従来の炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
【
図24】炭化珪素半導体ウェハを示す上面図である。
【
図25】炭化珪素半導体ウェハのX軸方向の断面図である。
【
図26】従来の炭化珪素半導体装置の製造方法のイオン注入をY軸方向から示す断面図である。
【
図27】従来の炭化珪素半導体装置の製造方法のイオン注入をX軸方向から示す断面図である。
【
図28】炭化珪素半導体ウェハに形成された炭化珪素半導体装置のVonを示す上面図である。
【
図29】炭化珪素半導体ウェハに形成された炭化珪素半導体装置のVonの正規確率分布プロットを示すグラフである。
【
図30】炭化珪素半導体ウェハの左側に形成された従来の炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
【
図31】炭化珪素半導体ウェハの中央部に形成された従来の炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
【
図32】炭化珪素半導体ウェハの右側に形成された従来の炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および-は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本明細書では、ミラー指数の表記において、“-”はその直後の指数につくバーを意味しており、指数の前に“-”を付けることで負の指数をあらわしている。そして、同じまたは同等との記載は製造におけるばらつきを考慮して5%以内まで含むとするのがよい。
【0025】
(実施の形態)
実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法で製造される炭化珪素半導体装置の構造は、従来の炭化珪素半導体装置の構造と同様のため、図示を省略する。以下に、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法について説明する。
図1~
図6は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である。
【0026】
まず、n型の炭化珪素でできたn+型炭化珪素基板(第1導電型の炭化珪素半導体基板)1を用意する。n+型炭化珪素基板1には、表面が特定の結晶面に対して所定の角度を有するよう製造されている。この所定の角度をオフ角と呼んでいる。そして、このn+型炭化珪素基板1の第1主面上に、n型の不純物、例えば窒素原子(N)をドーピングしながら炭化珪素でできたn+型炭化珪素基板1より低不純物濃度のn型低濃度バッファ層18aをエピタキシャル成長させる。次に、n型低濃度バッファ層18aの表面上に、n型の不純物、例えば窒素原子(N)をドーピングしながら炭化珪素でできたn+型炭化珪素基板1より高不純物濃度のn型高濃度バッファ層18bをエピタキシャル成長させる。n型低濃度バッファ層18aとn型高濃度バッファ層18bとをあわせてn型バッファ層18となる。
【0027】
次に、n型高濃度バッファ層18bの表面上に、n型の不純物、例えば窒素原子(N)をドーピングしながら炭化珪素でできた第1n
-型炭化珪素エピタキシャル層2aを、例えば30μm程度の厚さまでエピタキシャル成長させる。ここまでの状態が
図1に示されている。
【0028】
次に、第1n-型炭化珪素エピタキシャル層2aの表面上に、フォトリソグラフィ技術によって所望の開口部を有する図示しないマスクを、例えば酸化膜で形成する。そして、この酸化膜をマスクとしてイオン注入法によってn型の不純物、例えば窒素原子をイオン注入してもよい。これによって、第1n-型炭化珪素エピタキシャル層2aの内部に、n+型領域17が形成される。
【0029】
次に、n+型領域17を形成するためのイオン注入時に用いたマスクを除去する。次に、第1n-型炭化珪素エピタキシャル層2aの表面上に、フォトリソグラフィ技術によって所定の開口部を有するイオン注入用マスクを例えば酸化膜で形成する。そして、アルミニウム等のp型の不純物を、酸化膜の開口部に注入し、深さ0.5μm程度の下部第1p+型ベース領域3aを形成する。n+型領域17を形成した場合の、n+型領域17のn+型炭化珪素基板1と反対側の表面上に、下部第1p+型ベース領域3aをn+型領域17に重なるように形成する。下部第1p+型ベース領域3aと同時に、トレンチ16の底部となる第2p+型ベース領域(第2導電型のベース領域、第2ベース領域)4を形成してもよい。隣り合う下部第1p+型ベース領域3aと第2p+型ベース領域4との距離が1.5μm程度となるよう形成する。下部第1p+型ベース領域3aおよび第2p+型ベース領域4の不純物濃度を例えば5×1018/cm3程度に設定する。
【0030】
次に、イオン注入用マスクの一部を除去し、開口部に窒素等のn型の不純物をイオン注入し、第1n
-型炭化珪素エピタキシャル層2aの表面領域の一部に、例えば深さ0.5μm程度の下部n型高濃度領域5aを形成してもよい。下部n型高濃度領域5aの不純物濃度を例えば1×10
17/cm
3程度に設定する。ここまでの状態が
図2に示されている。
【0031】
次に、第1n-型炭化珪素エピタキシャル層2aの表面上に、窒素等のn型の不純物をドーピングした第2n-型炭化珪素エピタキシャル層2bを、0.5μm程度の厚さで形成する。第2n-型炭化珪素エピタキシャル層2bの不純物濃度が3×1015/cm3程度となるように設定する。以降、第1n-型炭化珪素エピタキシャル層2aと第2n-型炭化珪素エピタキシャル層2bを合わせてn-型炭化珪素エピタキシャル層(第1導電型の第1半導体層)2となる。
【0032】
次に、第2n-型炭化珪素エピタキシャル層2bの表面上に、フォトリソグラフィによって所定の開口部を有するイオン注入用マスクを例えば酸化膜で形成する。そして、アルミニウム等のp型の不純物を、酸化膜の開口部に注入し、深さ0.5μm程度の上部第1p+型ベース領域3bを、下部第1p+型ベース領域3aに重なるように形成する。下部第1p+型ベース領域3aと上部第1p+型ベース領域3bは連続した領域を形成し、第1p+型ベース領域(第2導電型のベース領域、第1ベース領域)3となる。上部第1p+型ベース領域3bの不純物濃度を例えば5×1018/cm3程度となるように設定する。
【0033】
次に、イオン注入用マスクの一部を除去し、開口部に窒素等のn型の不純物をイオン注入し、第2炭化珪素エピタキシャル層2bの表面領域の一部に、例えば深さ0.5μm程度の上部n型高濃度領域5bを形成してもよい。上部n型高濃度領域5bの不純物濃度を例えば1×10
17/cm
3程度に設定する。この上部n型高濃度領域5bと下部n型高濃度領域5aは少なくとも一部が接するように形成され、n型高濃度領域5を形成する。ただし、このn型高濃度領域5が基板全面に形成される場合と、形成されない場合がある。ここまでの状態が
図3に示されている。
【0034】
次にn-型炭化珪素エピタキシャル層2の表面上に、エピタキシャル成長によりp型ベース層(第2導電型の第2半導体層)6を1.3μm程度の厚さで形成する。p型ベース層6の不純物濃度は4×1017/cm3程度に設定する。p型ベース層6をエピタキシャル成長により形成した後、p型ベース層6にさらにアルミニウム等のp型の不純物を、イオン注入してもよい。また、p型ベース層6はn-型炭化珪素エピタキシャル層2の表面にアルミニウム等のp型の不純物をイオン注入することで形成してもよい。
【0035】
次に、p型ベース層6の表面上に、フォトリソグラフィによって所定の開口部を有するイオン注入用マスクを例えば酸化膜で形成する。この開口部にリン(P)等のn型の不純物をイオン注入し、p型ベース層6の表面の一部にn
++型ソース領域(第1導電型の第1半導体領域)7を形成する。n
++型ソース領域7の不純物濃度は、p型ベース層3の不純物濃度より高くなるように設定する。次に、n
++型ソース領域7の形成に用いたイオン注入用マスクを除去し、同様の方法で、所定の開口部を有するイオン注入用マスクを形成し、p型ベース層6の表面の一部にアルミニウム等のp型の不純物をイオン注入し、p
++型コンタクト領域8を形成してもよい。p
++型コンタクト領域8の不純物濃度は、p型ベース層3の不純物濃度より高くなるように設定する。ここまでの状態が
図4に示されている。
【0036】
次に、1700℃程度の不活性ガス雰囲気で熱処理(アニール)を行い、第1p+型ベース領域3、第2p+型ベース領域4、n++型ソース領域7、p++型コンタクト領域8およびn+型領域17の活性化処理を実施する。なお、上述したように1回の熱処理によって各イオン注入領域をまとめて活性化させてもよいし、イオン注入を行うたびに熱処理を行って活性化させてもよい。
【0037】
次に、p型ベース層6の表面上に、フォトリソグラフィによって所定の開口部を有するトレンチ形成用マスクを例えば酸化膜で形成する。次に、ドライエッチングによってp型ベース層6を貫通し、n型高濃度領域5(n型高濃度領域5を形成しない場合は、n
-型炭化珪素エピタキシャル層2、以下(2)と略する)に達するトレンチ16を形成する。トレンチ16の底部はn型高濃度領域6(2)に形成された第2p
+型ベース領域4に達してもよい。次に、トレンチ形成用マスクを除去する。ここまでの状態が
図5に示されている。
【0038】
次に、n++型ソース領域7の表面と、トレンチ16の底部および側壁と、に沿ってゲート絶縁膜9を形成する。このゲート絶縁膜9は、酸素雰囲気中において1000℃程度の温度の熱酸化によって形成してもよい。また、このゲート絶縁膜9は高温酸化(High Temperature Oxide:HTO)等のような化学反応によって堆積する方法で形成してもよい。
【0039】
次に、ゲート絶縁膜9上に、例えばリン原子がドーピングされた多結晶シリコン層を設ける。この多結晶シリコン層はトレンチ16内を埋めるように形成してもよい。この多結晶シリコン層をフォトリソグラフィによりパターニングし、トレンチ16内部に残すことによって、ゲート電極10を形成する。
【0040】
次に、ゲート絶縁膜9およびゲート電極10を覆うように、例えばリンガラスを1μm程度の厚さで成膜し、層間絶縁膜11を形成する。次に、層間絶縁膜11を覆うように、チタン(Ti)または窒化チタン(TiN)からなるバリアメタル(不図示)を形成してもよい。層間絶縁膜11およびゲート絶縁膜9をフォトリソグラフィによりパターニングしn
++型ソース領域7およびp
++型コンタクト領域8を露出させたコンタクトホールを形成する。その後、熱処理(リフロー)を行って層間絶縁膜11を平坦化する。ここまでの状態が
図6に示されている。
【0041】
層間絶縁膜11を選択的に除去して炭化珪素半導体基体の表面に、ニッケル(Ni)かTiの膜を成膜する。次に、表面を保護してn+型炭化珪素基板1の裏面側にNiかTiの膜を成膜する。次に1000℃程度の熱処理を行い炭化珪素半導体基体の表面側とn+型炭化珪素基板1の裏面の表面側にオーミック電極性を形成する。
【0042】
次に、上記コンタクトホール内に形成したオーミック電極部分に接触するように、および層間絶縁膜11上にソース電極(不図示)となる導電性の膜を設ける。この導電性の膜を選択的に除去してコンタクトホール内にのみソース電極を残し、n+型ソース領域7およびp++型コンタクト領域8とソース電極とを接触させる。次に、コンタクトホール以外のソース電極を選択的に除去する。
【0043】
次いで、n+型炭化珪素基板1の第2主面上に、例えばニッケル(Ni)膜でできた裏面電極(不図示)を形成する。その後、例えば970℃程度の温度で熱処理を行って、n+型炭化珪素基板1と裏面電極とをオーミック接合する。
【0044】
次に、例えばスパッタ法によって、炭化珪素半導体基体のおもて面のソース電極上および層間絶縁膜11の開口部に、ソース電極パッド(不図示)となる電極パッドを堆積する。電極パッドの層間絶縁膜11上の部分の厚さは、例えば5μmであってもよい。電極パッドは、例えば、1%の割合でシリコンを含んだアルミニウム(Al-Si)で形成してもよい。次に、ソース電極パッドを選択的に除去する。
【0045】
次に、ドレイン電極(不図示)の表面に、ドレイン電極パッド(不図示)として例えばチタン(Ti)、ニッケル(Ni)および金(Au)をこの順に成膜する。
【0046】
実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法では、下部第1p+型ベース領域3a、上部第1p+型ベース領域3bおよび第2p+型ベース領域4をイオン注入により形成する際には、イオン注入のイオンビームを、炭化珪素半導体ウェハの中心からの垂線と3度以上の傾き(チルト)をかけている。このため、実施の形態では、炭化珪素半導体ウェハのおもて面と一定以上の傾きを持ってイオンが注入されるため、チャネリングを防止できる。この傾きを設ける方向は、オフ角の方向およびオフ角と異なる方向のどちらでもよい。
【0047】
炭化珪素半導体ウェハには、炭化珪素半導体基板の結晶方向を示すために、例えば<11-20>方向にオリエンテーションフラットが設けられている。例えば、炭化珪素半導体基板のエッジを研磨加工して、円周の一部を直線状にすることにより形成されている(
図24参照)。オリエンテーションフラットと平行な方向をX軸、垂直な方向をY軸とすると、オフ角はX軸方向に設けられている(
図27参照)。この場合、オフ角の方向はX軸の正の方向であり、オフ角と異なる方向はY軸方向である。また、垂線とは、X軸方向およびY軸方向と直交するZ軸方向の直線のことである。
【0048】
まず、オフ角と異なる方向に傾きを設ける形態を説明する。
図7は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法のオフ角と異なる方向に傾きを設けたイオン注入を示す上面図である。
図8は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法のオフ角の方向に傾きを設けたイオン注入を示す他の方向の上面図である。
図9は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法の
図7および
図8のイオン注入をY軸方向から見た断面図である。
図10は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法の
図7および
図8のイオン注入をX軸方向から見た断面図である。
【0049】
図8および
図10に示す例では、炭化珪素半導体ウェハ60の中心Oに到達するイオンビームLと炭化珪素半導体ウェハ60の中心Oからの垂線Nとに、Y軸方向にチルト角θが設けられている。後述するように、このチルト角θは7度以上が好ましい。
【0050】
次に、オフ角の方向に傾きを設ける形態を説明する。
図11は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法のオフ角の方向に傾きを設けたイオン注入を示す上面図である。
図12は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法の
図11のイオン注入をY軸方向から見た断面図である。
【0051】
図11および
図12に示す例では、イオンビームの注入口をX軸の正の方向に矢印Aの分移動させることで、イオンビームLを傾けている。このため、X軸方向で、炭化珪素半導体ウェハ60の中心Oに到達するイオンビームLと炭化珪素半導体ウェハ60の中心Oからの垂線Nとにチルト角θが設けられている。後述するように、このチルト角θは3度以上が好ましい。オフ角と同じ方向で同じ向きに傾ける場合、オフ角は4度あるため、オフ角の分チルト角θが小さくなっている。
【0052】
また、下部第1p+型ベース領域3bおよび第2p+型ベース領域4をストライプ状に形成する場合、ストライプ状の長手方向に、炭化珪素半導体ウェハ60の中心Oに到達するイオンビームLと炭化珪素半導体ウェハ60の中心Oからの垂線Nとにチルト角θが設けられるようにしてもよい。ストライプ状の長手方向がオフ角と異なる方向である場合、チルト角θは7度以上が好ましく、ストライプ状の長手方向がオフ角の方向で同じ向きである場合、チルト角θは3度以上が好ましい。
【0053】
また、トレンチ16をストライプ状に形成する場合、トレンチ16のストライプ状の長手方向に、炭化珪素半導体ウェハ60の中心Oに到達するイオンビームLと炭化珪素半導体ウェハ60の中心Oからの垂線Nとにチルト角θが設けられるようにしてもよい。トレンチ16のストライプ状の長手方向がオフ角と異なる方向である場合、チルト角θは7度以上が好ましく、トレンチ16のストライプ状の長手方向がオフ角との方向で同じ向きである場合、チルト角θは3度以上が好ましい。
【0054】
また、トレンチ16を多角形セル状に形成する場合、オフ角と異なる方向に炭化珪素半導体ウェハ60の中心Oに到達するイオンビームLと炭化珪素半導体ウェハ60の中心Oからの垂線Nとにチルト角θが設けられるようにしてもよい。オフ角と異なる方向にイオン注入することによりチャネリングを防止することができる。
【0055】
図13は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置のVonを示すグラフである。
図13において、横軸は炭化珪素半導体ウェハにおける結晶面とチルト角0度のイオンビームとの角度(以降、傾斜角と称する)を示し、単位は度である。縦軸は炭化珪素半導体装置のVonを示し、単位はVである。
図13は、オフ角の方向に傾き(チルト角0度~7度)を設けてイオン注入を行い第1p
+型ベース領域3および第2p
+型ベース領域4を形成した炭化珪素半導体装置のVonである。
【0056】
図13において、炭化珪素半導体ウェハは4度のオフ角があるため、4度の部分が中心の部分である。また、6インチ径の炭化珪素半導体ウェハには、±1.6度の傾斜が発生し、オフ角規格(±0.5度)のため、傾斜角は最小1.9度から最大6.1度までとなる。
【0057】
図13によると、チルト角が0度以上1.5度以下の場合、傾斜角が6度に近くなると、Vonが大きく上昇していることがわかる。また、チルト角が2度以上2.5度以下の場合、傾斜角が6度に近くなると、Vonが上昇していることがわかる。一方、チルト角が3度以上7度以下の場合、傾斜角が6度に近くても、Vonが上昇していないことがわかる。このため、チルト角を3度以上にすることで、Vonの上昇を抑えることができる。また、オフ角と異なる方向に傾きを設けた場合は、オフ角の4度が無いため、チルト角を7度以上にすることで、Vonの上昇を抑えることができる。
【0058】
ここで、チルト角が大きいほど、炭化珪素半導体ウェハのおもて面とイオンビームとの角度(以降、入射角と称する)が大きくなり、イオンが半導体層の深くまで入らなくなる。このため、チルト角は小さい方がよい。つまり、チルト角はチャネリングを起こさない角度以上で、できるだけ小さい方が好ましい。
【0059】
また、
図13は6インチ径の炭化珪素半導体ウェハの結果である。8インチ径の炭化珪素半導体ウェハの場合は、±2.1度の傾斜が発生し、オフ角規格(±0.5度)のため、傾斜角は最小1.4度から最大6.6度までとなる。このため、8インチ径の炭化珪素半導体ウェハの場合、6インチ径の炭化珪素半導体ウェハの場合より0.5度程度チルト角を大きくすることが好ましい。例えば、オフ角方向に傾きを設ける場合は、チルト角を3.5度以上にすることで、Vonの上昇を抑えることができる。また、オフ角と異なる方向に傾きを設ける場合は、オフ角の4度が無いため、チルト角を7.5度以上にすることで、Vonの上昇を抑えることができる。
【0060】
また、炭化珪素半導体ウェハのオフ角が2度の場合、オフ角方向に傾きを設ける場合は、チルト角を2度大きくすることが好ましい。例えば、6インチ径の炭化珪素半導体ウェハの場合、チルト角を5度以上にすることで、Vonの上昇を抑えることができる。8インチ径の炭化珪素半導体ウェハの場合、チルト角を5.5度以上にすることで、Vonの上昇を抑えることができる。
【0061】
図14は、炭化珪素半導体ウェハの右側に形成された実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置を示す断面図である。
図14の構造は、チルト角が7度で第1p
+型ベース領域3および第2p
+型ベース領域4を形成し、傾斜角が5度程度の領域(
図13のB)における炭化珪素半導体装置の構造である。一方、チルト角が0度で第1p
+型ベース領域103および第2p
+型ベース領域104を形成し、傾斜角が6度程度の領域(
図13のA)における炭化珪素半導体装置の構造は、
図32の構造となる。
【0062】
図14と
図32を比べると、
図14では、第1p
+型ベース領域3および第2p
+型ベース領域4が、n
-型炭化珪素エピタキシャル層2に深く侵入していない。このため、JFET抵抗が増加することなく、Vonの上昇を抑えることができる。
【0063】
ここまでは、第1p
+型ベース領域3および第2p
+型ベース領域4を形成する際に、イオン注入のイオンビームをチルトさせていた。次に、他の領域を形成する際のイオンビームのチルトの効果を説明する。
図15は、実施の形態および従来のイオン注入の条件を示す表である。
図15において、p
+型ベース領域は、第1p
+型ベース領域3および第2p
+型ベース領域4を示している。以下の記載でも同様である。
【0064】
図15の条件1は、p
+型ベース領域、n
++型ソース領域107、n
+型領域117のいずれもチルトを行わない従来の炭化珪素半導体装置の製造方法の例である。また、
図15の条件2は、p
+型ベース領域のみにY軸方向(オフ角と異なる方向)に7度のチルト角を設けてイオン注入を行った実施の形態の例である。また、
図15の条件3は、p
+型ベース領域のみにX軸方向の正の向き(オフ角の方向)に3度のチルト角を設けてイオン注入を行った実施の形態の例である。
図15の条件4は、p
+型ベース領域、n
++型ソース領域7、n
+型領域17のすべてにY軸方向に7度のチルト角を設けてイオン注入を行った炭化珪素半導体装置の製造方法の例である。
図15の条件5は、p
+型ベース領域、n
++型ソース領域7、n
+型領域17のすべてにX軸方向の正の向きに3度のチルト角を設けてイオン注入を行った炭化珪素半導体装置の製造方法の例である。
【0065】
図15の条件1~条件5の結果を
図16~
図18に示す。
図16は、
図15のイオン注入の条件でのVonを示すグラフである。
図16において、縦軸はVonを示し、単位はVである。横軸は、入射角(ウェハからの角度)を示し、単位は度である。
図16に示すように、条件1の場合は、入射角が2.5度以下になるとチャネリングのためVonは高くなるが、条件2~条件5の場合は、Vonは低いままであった。なお、
図16で、条件2~条件5のデータは重なっているので、条件1以外に条件5だけ表示している。
【0066】
図17は、
図15のイオン注入の条件での耐圧を示すグラフである。
図17において、縦軸は耐圧(BV)を示し、単位はVである。横軸は、入射角(ウェハからの角度)を示し、単位は度である。
図17に示すように、条件1の場合は、入射角が3度以下になると耐圧は高くなるが、条件2~条件5の場合は、耐圧に大きな変化はなかった。
【0067】
図18は、
図15のイオン注入の条件での酸化膜電界を示すグラフである。
図18において、縦軸は酸化膜電界を示し、単位はVである。横軸は、入射角(ウェハからの角度)を示し、単位は度である。
図18に示すように、条件1~条件5のいずれの場合でも、酸化膜電界に大きな変化はなかった。
【0068】
以上のことより、n++型ソース領域7、n+型領域17にチルト角を設けてイオン注入を行わなくても、p+型ベース領域にチルト角を設けてイオン注入を行うことで、Vonが上昇することを防ぐことができる。X軸方向のチルトでも、Y軸方向のチルトでもVonの上昇防止には効果は同様であった。
【0069】
次に、オフ角の方向のチルトとオフ角と異なる方向のチルトとの効果の違いについて説明する。
図19は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法のイオン注入でのシャドーイングを示す断面図である。イオン注入は、半導体基体に、形成する領域部分が開口した高さt=1.45μm程度の酸化膜マスク19を用いて行われる。イオン注入でイオンビームAを傾けると酸化膜マスク19の影となり、酸化膜マスク19の開口部分に領域が形成されず、形成された領域がずれてしまう場合がある(シャドーイング)。
図19の例では、第1n
-型炭化珪素エピタキシャル層2a上に形成される第1p
+型ベース領域3が距離Lだけずれている。
【0070】
図20および
図21は、複数のチルト角でイオン注入を行った場合の第1p
+型ベース領域の不純物濃度を示すグラフである。
図20は、縦軸がリニア軸の場合であり、
図21は、縦軸が対数軸の場合である。
図20および
図21において、縦軸は不純物濃度を示し、単位はcm
-3である。横軸は、第1p
+型ベース領域3の表面からの深さを示し、単位はμmである。
図21に示すように、第1p
+型ベース領域3の表面から0.5nm以上深い領域では、イオン注入でのチルト角が大きくなるにつれて、不純物濃度が低くなっていることがわかる。
【0071】
また、
図22は、複数のチルト角でイオン注入を行った場合のDS間のリーク電流を示すグラフである。
図22において、横軸はドレイン電極とソース電極間(DS間)のリーク電流(IDSS)を示し、単位はAであり、縦軸は標準偏差σを示す。
図22は、ドレイン電極とソース電極との間に1200Vの電圧を印加した場合のリーク電流の分布を示し、グラフAはX軸方向に3度傾けた場合の結果であり、グラフBはY軸方向に7度傾けた場合の結果である。
図22に示すように、Y軸方向に7度傾けた場合シャドーイングの影響でDS間のリーク電流が増加している。
【0072】
このように、チルト角が大きい場合、シャドーイングの影響が出るため、トレンチ16の側壁をm面に形成する場合、オフ角と異なる方向に7度以上傾けてイオン注入するよりも、オフ角の方向に3度以上傾けてイオン注入するほうが好ましい(m面の場合はオフ角が4度であるので、3度以上傾けることで合計7度以上となる。)。一方、トレンチ16の側壁をa面に形成する場合、オフ角の方向に3度以上傾けてイオン注入するより、オフ角と異なる方向に7度以上傾けてイオン注入するほうが好ましい(a面の場合はオフ角と異なる方向に傾けているので7度以上傾ける。)。
【0073】
以上、説明したように、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法によれば、第1p+型ベース領域および第2p+型ベース領域をイオン注入により形成する際に、イオン注入のイオンビームを、炭化珪素半導体ウェハの中心からの垂線と3度以上の傾き(チルト)をかけている。これにより、実施の形態では、炭化珪素半導体ウェハのおもて面と一定以上の傾きを持ってイオンが注入されるため、チャネリングの影響を軽減できる。
【0074】
以上において本発明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であり、上述した各実施の形態において、例えば各部の寸法や不純物濃度等は要求される仕様等に応じて種々設定される。また、上述した各実施の形態では、ワイドバンドギャップ半導体として炭化珪素を用いた場合を例に説明しているが、炭化珪素以外の例えば窒化ガリウム(GaN)などのワイドバンドギャップ半導体にも適用可能である。また、各実施の形態では第1導電型をn型とし、第2導電型をp型としたが、本発明は第1導電型をp型とし、第2導電型をn型としても同様に成り立つ。
【産業上の利用可能性】
【0075】
以上のように、本発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法には、炭化珪素半導体装置にダイオードを逆並列に接続したインバータ回路で用いられる炭化珪素半導体装置に有用である。
【符号の説明】
【0076】
1、101 n+型炭化珪素基板
2、102 n-型炭化珪素エピタキシャル層
2a 第1n-型炭化珪素エピタキシャル層
2b 第2n-型炭化珪素エピタキシャル層
3、103 第1p+型ベース領域
3a 下部第1p+型ベース領域
3b 上部第1p+型ベース領域
4、104 第2p+型ベース領域
5、105 n型高濃度領域
5a 下部n型高濃度領域
5b 上部n型高濃度領域
6、106 p型ベース層
7、107 n++型ソース領域
8、108 p++型コンタクト領域
9、109 ゲート絶縁膜
10、110 ゲート電極
11、111 層間絶縁膜
112 ソース電極
113 裏面電極
114 バリアメタル
115 ソース電極パッド
16、116 トレンチ
17、117 n+型領域
18、118 n型バッファ層
18a n型低濃度バッファ層
18b n型高濃度バッファ層
19 酸化膜マスク
121 オリエンテーションフラット
150 トレンチ型MOSFET
60、160 炭化珪素半導体ウェハ